(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704785
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】光送信装置、光受信装置および光送信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/2575 20130101AFI20200525BHJP
【FI】
H04B10/2575
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-96110(P2016-96110)
(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公開番号】特開2017-204764(P2017-204764A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2018年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】田中 和樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 公佐
(72)【発明者】
【氏名】縣 亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 嵩
【審査官】
対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−115693(JP,A)
【文献】
特開2011−211516(JP,A)
【文献】
特開2014−233039(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02639977(EP,A1)
【文献】
特開2015−015659(JP,A)
【文献】
特開平09−191289(JP,A)
【文献】
HAN et al.,Linearity improvement of directly-modulated multi-IF-over-fibre LTE-A mobile fronthaul link using shunt diode predistorter,ECOC 2015,米国,IEEE,2015年 9月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00−10/90
H04J 14/00−14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ電気信号を光信号に変換し、光ファイバを用いた伝送を行うアナログRoF(Radio over Fiber)システムに適用される光送信装置であって、
RF(Radio Frequency)信号のレベル分布において、発生頻度の高いRF信号のレベルに対しては、E/OのRoFリンクにおける印加電圧と光出力との関係を示す伝達関数の傾きが大きい箇所を対応させる一方、発生頻度の低いRF信号のレベルに対しては前記伝達関数の傾きが小さい箇所を対応させて、入力されたデジタル電気信号をアナログ電気信号に変換する送信処理部と、
前記アナログ電気信号を光信号に変換して光ファイバに出力する送信部と、を備えることを特徴とする光送信装置。
【請求項2】
前記伝達関数は、アナログRoFシステムの送信側から受信側へ伝送されたトレーニングシーケンス波形を用いて予め生成され、前記RF信号のレベル分布と対応付けるために前記送信処理部で保持され、定期的に更新されることを特徴とする請求項1記載の光送信装置。
【請求項3】
アナログ電気信号を光信号に変換し、光ファイバを用いた伝送を行うアナログRoF(Radio over Fiber)システムに適用される光受信装置であって、
請求項1または請求項2記載の光送信装置が、RF(Radio Frequency)信号のレベル分布において、発生頻度の高いRF信号のレベルに対しては、E/OのRoFリンクにおける印加電圧と光出力との関係を示す伝達関数の傾きが大きい箇所を対応させる一方、発生頻度の低いRF信号のレベルに対しては前記伝達関数の傾きが小さい箇所を対応させて、入力されたデジタル電気信号からアナログ信号に変換し、前記アナログ信号から変換して送信した光信号を受信し、前記受信した光信号をアナログ電気信号に変換する受信部と、
前記アナログ電気信号に通常の線形量子化を行ってデジタル電気信号に変換し、前記光送信装置から定期的に送信されるトレーニングシーケンス波形に基づいて更新する前記伝達関数の逆関数をかける受信処理部と、を備え、
前記変換されたデジタル電気信号は、非線形量子化されたデジタル電気信号と等価であることを特徴とする光受信装置。
【請求項4】
アナログ電気信号を光信号に変換し、光ファイバを用いた伝送を行うアナログRoF(Radio over Fiber)システムに適用される光送信方法であって、
RF(Radio Frequency)信号のレベル分布において、発生頻度の高いRF信号のレベルに対しては、E/OのRoFリンクにおける印加電圧と光出力との関係を示す伝達関数の傾きが大きい箇所を対応させる一方、発生頻度の低いRF信号のレベルに対しては前記伝達関数の傾きが小さい箇所を対応させて、入力されたデジタル電気信号をアナログ電気信号に変換するステップと、
前記アナログ電気信号を光信号に変換して光ファイバに出力するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする光送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ電気信号を光信号に変換し、光ファイバを用いた伝送を行うアナログRoF(Radio over Fiber)システムに適用される技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気信号のアナログ波形をそのまま光信号に変換して伝送するRoF伝送技術が知られている。例えば、携帯電話システムの基地局からアンテナを張り出すDAS(Distribution Antenna System)や、通信事業者またはケーブルテレビ事業者の局舎から各家庭まで光ファイバを使って放送波を伝送するRF映像配信システムが商用化されている。
【0003】
また、これらのアナログRoFシステムに加えて、非特許文献2に記載されているように、アナログRoF伝送区間の前後にDSP(Digital Signal Processing)を配置し、単なるE/O(Electrical to Optical Converter)、およびO/E(Optical to Electrical Converter)機能以外の機能をも有するRoF伝送技術が提案されている(DSP-assisted Analog RoF)。
【0004】
従来の多くの携帯電話システムの基地局は、制御部のBBU(Baseband Unit)とRF(Radio Frequency)部のRRH(Remote Radio Head)を、同一サイトに設置したD‐RAN(Distributed Radio Access Network)と呼ばれる構成を採っている。一方、将来の基地局の構成として、基地局性能の向上のために、各基地局のBBUをまとめて設置し、それぞれを連携されるC‐RAN(Centralized Radio Access Network)と呼ばれる構成が検討されているが、C‐RANにするとD‐RANと比較して、BBUとRRH間の光伝送区間で必要となる容量が大きくなり、将来的に基地局の容量が増大した場合、経済的な回線提供が困難になる可能性がある。
【0005】
この様な課題への対策の一つとして、効率的な光伝送が可能なアナログRoF伝送技術が考えられる。非特許文献1では、アナログRoF伝送の課題として、RoF区間で発生する信号歪の影響とその対策についての検討が記されている。また、特許文献1では、C‐RAN構成の基地局をアナログRoFとする際の光区間での歪推定方法の提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−15659号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】We_4_4_4, ECOC2015(http://www.ecoc2015.org/modules.php?name=webstructure&idwebstructure=1)
【非特許文献2】ITU-T G.sup.55(G.RoF)(http://www.itu.int/ITU-T/recommendations/rec.aspx?id=12575&lang=en)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、RF(Radio Frequency)信号のアナログ波形を光ファイバで伝送させるアナログRoF(Radio over Fiber)伝送システムでは、E/O(Electrical to Optical Converter)等で発生する信号波形歪により、RF信号品質が劣化する。特に、将来の5G(第5世代移動通信)の基地局では、複数のアンテナで無線電波の送受信を行うMIMO(Multi Input Multi Output)の多重数も増えることから、複数のRF信号を1本の光ファイバでアナログ伝送する際の信号歪の影響が問題となる。
【0009】
ここで、従来のアナログRoF伝送システムとして、DASやRF映像配信システムがあるが、従来は、光区間で発生する信号歪による品質劣化を抑えるために、E/Oの「印加電圧/光出力特性」の線形性が高い領域でのみ、E/Oを使用していた。しかし、それによって伝送すべきRF信号数が増えると、各RF信号の光変調度が小さくなり、十分なSNR(Signal to Noise Ratio)が取れなくなるという問題がある。
【0010】
この点、非特許文献1では、歪による品質劣化を補償する手法が提案されているが、同手法をDSP−Assisted RoFに適用すると、補償のための機器を追加しなければならず、構成が複雑になってしまう。また、動作環境(温度等)の変化や各構成機器の経年劣化により品質が劣化する可能性がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、機器構成がシンプルで伝送品質が劣化し難いアナログRoF伝送システムを実現することができる光送信装置、光受信装置および光送信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の光送信装置は、アナログ電気信号を光信号に変換し、光ファイバを用いた伝送を行うアナログRoF(Radio over Fiber)システムに適用される光送信装置であって、RF(Radio Frequency)信号のレベル分布において、発生頻度の高いRF信号のレベルに対しては、RoFリンクにおける伝達関数の傾きが大きい箇所を対応させる一方、発生頻度の低いRF信号のレベルに対しては前記伝達関数の傾きが小さい箇所を対応させて、入力されたデジタル電気信号をアナログ電気信号に変換する送信処理部と、前記アナログ電気信号を光信号に変換して光ファイバに出力する送信部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
このように、RF信号のレベル分布において、発生頻度の高いRF信号のレベルに対しては、RoFリンクにおける伝達関数の傾きが大きい箇所を対応させる一方、発生頻度の低いRF信号のレベルに対しては伝達関数の傾きが小さい箇所を対応させて、入力されたデジタル電気信号をアナログ電気信号に変換する。これにより、光ファイバ伝送後の光受信装置でのアナログ電気信号のデジタル化の際に、線形量子化を用いてもRF信号のレベル分布において、発生頻度の高い箇所では量子化ビットが密になる一方、発生頻度の低い箇所では量子化ビットが疎となるため、受信側においては、アナログ電気信号に通常の線形量子化を行ってデジタル電気信号に変換し、線形量子化を実行しつつも非線形量子化の効果を得て、品質を向上させることが可能となる。さらに伝達関数の逆関数をかけることによって、品質を確保することが可能となる。その結果、伝送品質が確保され、多チャネル、広帯域な信号伝送が可能となる。
【0014】
(2)また、本発明の光送信装置において、前記伝達関数は、アナログRoFシステムの送信側から受信側へ伝送されたトレーニングシーケンス波形を用いて予め生成され、前記RF信号のレベル分布と対応付けるために前記送信処理部で保持され、定期的に更新されることを特徴とする。
【0015】
このように、伝達関数は、アナログRoFシステムの送信側から受信側へ伝送されたトレーニングシーケンス波形を用いて予め生成され、前記RF信号のレベル分布と対応付けるために送信処理部で保持され、定期的に更新されるので、常に適正な伝達関数を使用することが可能となる。これにより、伝達関数の経年変化、環境変化があっても信号品質を確保することが可能となる。
【0016】
(3)また、本発明の光受信装置は、アナログ電気信号を光信号に変換し、光ファイバを用いた伝送を行うアナログRoF(Radio over Fiber)システムに適用される光受信装置であって、上記(1)または(2)に記載の光送信装置から受信した光信号をアナログ電気信号に変換する受信部と、前記アナログ電気信号に通常の線形量子化を行ってデジタル電気信号に変換し、前記光送信装置から定期的に送信されるトレーニングシーケンス波形に基づいて更新する前記伝達関数の逆関数をかける受信処理部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
このように、上記(1)または(2)に記載の光送信装置から受信した光信号をアナログ電気信号に変換し、アナログ電気信号に通常の線形量子化を行ってデジタル電気信号に変換し、光送信装置から定期的に送信されるトレーニングシーケンス波形に基づいて更新する伝達関数の逆関数をかけるので、通常の線形量子化を行うにもかかわらず、非線形量子化されたデジタル電気信号と同等のデジタル電気信号へ変換することが可能となり、品質の向上を図ることが可能となる。これにより、伝送品質が確保され、多チャネル、広帯域な信号伝送が可能となる。また、伝達関数を光送信装置から定期的に送信されるトレーニングシーケンス波形に基づいて更新するので、伝達関数の経年変化、環境変化があっても信号品質を確保することが可能となる。
【0018】
(4)また、本発明の光送信方法は、アナログ電気信号を光信号に変換し、光ファイバを用いた伝送を行うアナログRoF(Radio over Fiber)システムに適用される光送信方法であって、RF(Radio Frequency)信号のレベル分布において、発生頻度の高いRF信号のレベルに対しては、RoFリンクにおける伝達関数の傾きが大きい箇所を対応させる一方、発生頻度の低いRF信号のレベルに対しては前記伝達関数の傾きが小さい箇所を対応させて、入力されたデジタル電気信号をアナログ電気信号に変換するステップと、前記アナログ電気信号を光信号に変換して光ファイバに出力するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0019】
このように、RF信号のレベル分布において、発生頻度の高いRF信号のレベルに対しては、RoFリンクにおける伝達関数の傾きが大きい箇所を対応させる一方、発生頻度の低いRF信号のレベルに対しては伝達関数の傾きが小さい箇所を対応させて、入力されたデジタル電気信号をアナログ電気信号に変換する。これにより、光ファイバ伝送後の光受信装置でのアナログ電気信号のデジタル化の際に、線形量子化を用いてもRF信号のレベル分布において、発生頻度の高い箇所では量子化ビットが密になる一方、発生頻度の低い箇所では量子化ビットが疎となるため、受信側においては、アナログ電気信号に通常の線形量子化を行ってデジタル電気信号に変換し、線形量子化を実行しつつも非線形量子化の効果を得て、品質を向上させることが可能となる。さらに伝達関数の逆関数をかけることによって、品質を確保することが可能となる。その結果、伝送品質が確保され、多チャネル、広帯域な信号伝送が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、線形量子化を実行しつつ、非線形量子化の効果を得ることができ、伝送品質が確保され、多チャネル、広帯域な信号伝送が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係るアナログRoFシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】アナログRoFシステムの送信側の概略構成を示す図である。
【
図3】アナログRoFシステムの受信側の概略構成を示す図である。
【
図5】E/Oにおける印加電圧と光出力パワーとの関係を示す図である。
【
図7】O/Eの出力波形例とRFレベルの分布例を示す図である。
【
図8】O/Eの出力波形を量子化する概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、従来、光区間で発生する信号歪による品質劣化を抑えるため、E/Oの「印加電圧/光出力特性」の線形性が高い領域でのみ、E/Oが使用されていたが、それによって伝送すべきRF信号数が増えると、各RF信号の光変調度が小さくなり、十分なSNR(Signal to Noise Ratio)が取れなくなるという問題に着目し、線形性と非線形性の両方の特性を有するE/Oを、RF信号レベルの分布特性に適合させることによって、非線形量子化の効果を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0023】
すなわち、本発明の光送信装置は、アナログ電気信号を光信号に変換し、光ファイバを用いた伝送を行うアナログRoF(Radio over Fiber)システムに適用される光送信装置であって、RF(Radio Frequency)信号のレベル分布において、発生頻度の高いRF信号のレベルに対しては、RoFリンクにおける伝達関数の傾きが大きい箇所を対応させる一方、発生頻度の低いRF信号のレベルに対しては前記伝達関数の傾きが小さい箇所を対応させて、入力されたデジタル電気信号をアナログ電気信号に変換する送信処理部と、前記アナログ電気信号を光信号に変換して光ファイバに出力する送信部と、を備えることを特徴とする。
【0024】
これにより、本発明者らは、非線形量子化の効果を得ることを可能とし、伝送品質を確保し、多チャネル、広帯域な信号伝送を可能とした。以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係るアナログRoFシステムの概略構成を示す図である。アナログRoF伝送送信機1は、配下の複数のBBU(Baseband Unit)3−1〜3−nからデジタル電気信号を入力し、デジタル−アナログ変換をした後、光信号に変換して光ファイバ4に送出する。アナログRoF伝送受信機5は、光ファイバ4を介して受信した光信号を電気信号に変換し、アナログ−デジタル変換をし、配下のRRH(Remote Radio Head)7−1〜7−mにデジタル電気信号を送信する。各RRH7−1〜7−mは、ANT(Antenna)9−1〜9−mから無線信号を送信する。
【0026】
図2は、アナログRoFシステムの送信側の概略構成を示す図である。アナログRoF伝送送信機1は、DSP1−aにおいて、BBU3−1〜3−nから入力したデジタル電気信号を多重し、DAC(Digital Analog Converter)1−bにおいて、アナログ電気信号に変換する。DSP1−aおよびDAC1−bは、送信処理部10を構成し、後述するように、伝達関数とRF信号のレベル分布に応じた非線形量子化を行う。駆動回路1−cは、このアナログ電気信号を適切なレベルに調整してE/O1−dに入力する。E/O1−dは、LD(Laser Diode)1−eから光信号を入力し、駆動回路1−cから入力されたアナログ波形で変調し、光ファイバ4に光信号を出力する。E/O1−dは、送信部を構成する。
【0027】
図3は、アナログRoFシステムの受信側の概略構成を示す図である。光ファイバ4で伝送された光信号は、アナログRoF伝送受信機5で受信される。アナログRoF伝送受信機5では、O/E5−aにおいて、光信号からアナログの電気信号に変換される。このアナログの電気信号はADC(Analog Digital Converter)5−bでデジタル電気信号に変換され、DSP5−cを介して、配下のRRH7−1〜7−mに送信される。ADC5−bおよびDSP5−cは、受信処理部6を構成し、デジタル電気信号に後述する伝達関数の逆関数をかけて歪の影響を補正する。RRH7−1〜7−mから出力された電気信号は、ANT9−1〜9−mから無線信号として送信される。なお、O/E5−aは、受信部を構成する。
【0028】
本実施形態に係るアナログRoFシステムは、伝送するRF信号レベルの分布特性に適合した非線形性の入出力特性を有するE/Oを用いることを特徴としている。すなわち、
図4に示すように、LTE(Long Term Evolution)等のOFDM信号のレベルはガウス分布を示す。このため、
図5に示すように、各RF信号レベルの発生頻度から、E/Oにおいて、発生頻度の高いレベルに対しては伝達関数の傾きが大きい箇所を対応させる一方、発生頻度の低いレベルに対しては伝達関数の傾きが小さい箇所を対応させる。
【0029】
図5に示すように、従来は、三角関数のうち、直線に近似できる傾きの大きいV
b部分のみを利用し、線形量子化をしていたが、本実施形態では、三角関数のうち、直線に近似できる傾きの大きい部分のみならず、傾きの小さい部分も広く利用する。そして、
図4に示したRFレベル分布を適用することによって、RF信号レベルの発生頻度が高いところでは量子化ビットが密になり、低いところでは粗となるため、線形量子化を行うDA変換器を用いて、非線形量子化の効果を得ることが可能となる。なお、E/Oとして「印加電圧/光出力関係」が三角関数で表される通常のLN(LiNbO
3:ニオブ酸リチウム)の強度変調器も有効である。
【0030】
また、従来のアナログRoF伝送システムでは、一般的にE/Oでの光変調度を30%以下としているが、本実施形態では、E/Oを駆動する際、変調度の高い領域(E/Oの印加電圧と光出力パワーの関係が非線形となっている領域)も利用する。ここで、本実施形態に係るE/Oの特性上、伝達関数の傾きが小さい範囲は、レベル発生頻度の低い領域であるため、全体として信号品質は一定以上に確保されることとなる。
【0031】
伝達関数については、RoF伝送区間前後のDSPに関して、送信側のDSPからトレーニングシーケンス波形を伝送し、受信側のDSPで解析し、伝達関数を特定しておく。その結果に基づいて、受信側のDSPで逆関数を掛けて元に戻す。
【0032】
さらに、より効果を得るために、次のような手段を講じても良い。
(a)信号品質をより向上させるため、E/O前、O/E後のDSP処理において、E/Oの「印加電圧/光出力特性(伝達関数特性)」に合わせて、データの順序を並び変えてRF信号レベルの発生頻度を調整するようにしても良い。
(b)信号品質をより向上させるため、E/O前、O/E後のDSP処理において、E/Oの「印加電圧/光出力特性(伝達関数特性)」に合わせて、信号レベルを別の信号レベルへ1対1でマッピングすることによって、RF信号レベルの発生頻度を調整するようにしても良い。
【0033】
さらに、個々のE/Oデバイスの「印加電圧/光出力特性」への対応、「印加電圧/光出力関係」の環境変動・経年劣化による品質劣化を防ぐため、送信側のDSPから受信側のDSPに対して、定期的に試験信号(トレーニングシーケンス波形)を送信し、受信側のDSPで伝達関数に関する情報を更新し、それに合わせてかけるべき逆関数を変更するようにしても良い。逆関数の変更の代わりに、確認した伝達関数情報を送信側のDSPに送信し、上記(a)または(b)の手段を実行して、品質劣化を防ぐようにしても良い。
【0034】
なお、以上の説明では、E/Oのみが非線形性を有しており、他は線形性を有しているとした説明を行ったが、RoFリンク(光区間)を一つの大きなE/Oと捉えて、上記の手段を講じることも可能である。さらに、DSPでは、電気信号の多重/分離、周波数変換、光ファイバ伝送で発生する波長分散補償を実施しても良い。
【0035】
次に、本実施形態に係るアナログRoFシステムの動作について説明する。
図1に示すように、BBU3−1〜3−nとRRH7−1〜7−m間の光伝送に本発明を用いたRoF伝送装置を利用する。BBU3−1〜3−n、RRH7−1〜7−mと同装置とのインターフェースは、CPRIやOBSAI等のD−RoF信号が考えられるが、それ以外のデジタル電気信号でも良い。
図6は、E/Oの入力波形例を示す図である。時間の増加と共に出力電圧が大きくなる線形性を示している。
図7は、O/Eの出力波形例とRFレベルの分布例を示す図である。t=(t
1+t
2)/2を中心として、これから離れるに従って歪が大きくなる。このため、最も発生頻度の高いレベルが、
図7に示すV
bレベルに相当するように、レベルを調整してE/Oを変調する。基地局をLTEとした時は、
図6および
図7に示したように、RF信号レベルがガウス分布を示し、E/Oとして、
図5に示したように、印加電圧と光パワー出力の関係が三角関数で表される一般的なLN強度変調器を利用する。
【0036】
一方、送信側DSP1−aから受信側DSP5−cへ、トレーニングシーケンス波形を伝送して、既知の入力波形と実際の出力波形との関係から、伝達関数について事前に解析し、その情報をメモリ等に保持しておく。
【0037】
次に、複数のBBU3−1〜3−nからのデジタル電気信号がDSP1−aで多重され、DAC1−bでアナログ電気信号に変換される。変換されたアナログ電気信号は駆動回路1−cで適切なレベルにしてE/O1−dに入力される。具体的には、
図4に示すRFレベル発生分布の高い発生頻度のレベルが、
図5のE/O特性の伝達関数の傾きの大きいV
bとなる様にする。LD1−eからの光信号がE/O1−dに入力され、駆動回路1−cから入力されたアナログ波形で変調される。
【0038】
次に、光ファイバ4を伝送された光信号がO/E5−aでアナログ電気信号に変換される。このアナログ電気信号をADC5−bで通常の等間隔量子化を用いてデジタル電気信号に変換する。
図8は、O/Eの出力波形を量子化する概念を示す図である。
図8に示すように、等間隔の量子化でも発生頻度の高いレベルは量子化が密に行われており、発生頻度の低いレベルは量子化が粗になっている。このため、O/E後のADC5−bにおいて等間隔で量子化しても、実際の入力信号に対しては非線形で量子化をしていることと等価となる。また、
図7において、RF信号レベルの発生頻度が低い領域では、実際の信号レベルとの誤差が大きくなるが、発生頻度が低いため、全体としては信号品質を維持することが可能となる。
【0039】
次に、デジタル化された信号をDSP5−cに入力し、アナログRoF伝送送信機1で確認した伝達関数から求められる逆関数を掛けて、歪影響を補正する。次に、DSP5−cで周波数変換、信号分離、波長分散補償等を実施し、RRH7−1〜7−mに電気信号を送信する。各RRH7−1〜7−mは、ANT9−1〜9−mを用いて無線信号を送信する。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、アナログRoFシステムで伝送するRF信号のレベル分布とRoFリンクの伝達関数との間に、発生頻度の高いレベルに対しては伝達関数の傾きを大きくする一方、発生頻度の小さいレベルに対しては伝達関数の傾きを小さくする関係を持たせることによって、RoFリンクの受信側のADC(Analog Digital Converter)において、一般的な等間隔の量子化を用いて線形量子化を実行しつつ、非線形量子化の効果が得られ、伝送品質の確保が可能となる。その結果、多チャネル、広帯域な信号伝送が求められる5G基地局のC‐RAN構成の光アクセス回線に適用することが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1 アナログRoF伝送送信機
3−1〜3−n BBU
4 光ファイバ
5 アナログRoF伝送受信機
6 受信処理部
7−1〜7−m RRH
9−1〜9−m ANT
10 送信処理部
1−a、5−c DSP
1−b DAC
1−c 駆動回路
1−d E/O
1−e LD
5−a O/E
5−b ADC