(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704798
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】資材、および、資材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 26/18 20060101AFI20200525BHJP
C04B 14/02 20060101ALI20200525BHJP
C08G 63/06 20060101ALI20200525BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20200525BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20200525BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
C04B26/18 A
C04B14/02 Z
C08G63/06
C08K3/00
C08L67/04
!C08L101/16ZBP
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-112233(P2016-112233)
(22)【出願日】2016年6月3日
(65)【公開番号】特開2017-218482(P2017-218482A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小林 史典
(72)【発明者】
【氏名】昆野 明寛
(72)【発明者】
【氏名】東山 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】海老原 康志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭介
(72)【発明者】
【氏名】下川原 敬
【審査官】
岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/057969(WO,A1)
【文献】
特表2011−517709(JP,A)
【文献】
特開2016−74802(JP,A)
【文献】
特表2014−523960(JP,A)
【文献】
特開2004−182901(JP,A)
【文献】
特開2015−86350(JP,A)
【文献】
特開2012−149205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
C08G
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築または土木における仮設用の資材であって、
上記資材は、骨材同士を結合するための結合剤によって、上記骨材同士を結合してなる崩壊性を有する資材であり、
上記骨材は、粗骨材、細骨材および人工骨材の少なくともいずれかであり、かつ、当該骨材同士の間に空隙が形成される形状を有しており、
上記結合剤は、脂肪族ポリエステルを含んでなり、
上記脂肪族ポリエステルは、ポリグリコール酸であり、
上記結合剤は、資材全体に対して25重量%以下の含有量であると共に、当該資材に連通する空隙が生じないように上記骨材同士の間に形成される空隙に充填されており、
上記脂肪族ポリエステルは、80℃のイオン交換水中に浸漬してから1時間後における重量平均分子量が、浸漬する前の重量平均分子量の0.5倍以上、0.95倍以下であることを特徴とする、資材。
【請求項2】
上記脂肪族ポリエステルは、加水分解して溶解するときの重量平均分子量が、加水分解する前における重量平均分子量の10%以上、70%以下であることを特徴とする請求項1に記載の資材。
【請求項3】
上記脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、70000以上、500000以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の資材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の資材の製造方法であって、
上記結合剤を介して、上記骨材を結合させる結合工程を包含していることを特徴とする資材の製造方法。
【請求項5】
上記結合工程は、上記骨材と、上記結合剤を生成するための原料とを混合する混合工程と、
上記混合工程後、当該原料を重合させる重合工程と、を包含し、
上記原料は、ヒドロキシカルボン酸、および環状エステルからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項4に記載の資材の製造方法。
【請求項6】
上記環状エステルを重合させることを特徴とする請求項5に記載の資材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合剤、資材、および資材の製造方法に関する。より詳細には、骨材同士を結合するための結合剤、および、当該結合剤により結合してなる資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築資材として、砂利および砕石などの天然石粒同士をセメントにより結合させたコンクリートが用いられている。しかしながら、コンクリートは強度を有するものの、分解性がない。その結果、使用後の建築資材を廃棄した後、長期間にわたり元の状態で残ったままとなる。そのため、コンクリートのような建築資材は、廃棄により地球環境を汚染するという問題がある。
【0003】
地球環境の汚染を抑えるために、天然石粒同士を結合させるバインダー成分として、セメントの代わりに生分解性樹脂を用いる技術が開発されている。生分解性樹脂は生分解性を有するため、生分解性樹脂を用いた建築資材では、廃棄後、時間経過とともにバインダー成分が分解し、それにより建築資材の崩壊が進行する。
【0004】
例えば、特許文献1には、天然石粒を生分解性樹脂により結合した結合体であって、分解性樹脂が天然石粒同士間の間隙の全部を塞がず水が通過しうる連通路が形成されている結合体が記載されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、骨材と、骨材同士を結合させるセメント系結合剤とからなり、内部に連続した空隙を有する硬化体であって、水溶性材料、またはバクテリアによって生分解される生分解性材料を内部に含んでいる、連続した空隙を有する硬化体について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-182901(2004年7月2日公開)
【特許文献2】特開2003-212631(2003年7月30日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の結合体は、天然石粒同士を結合させる結合剤として生分解性樹脂が用いられている。したがって、使用済の結合体を廃棄した後、結合剤は生分解により消失し、天然石粒のみが残る。そのため、結合剤として生分解性樹脂を使用した結合体は、廃棄後の環境への負荷が小さい。しかしながら、一定の強度が求められる建築資材としての使用を考慮すると、分解性の高い樹脂を用いると使用中に樹脂の分解が進み、建築資材としての強度を維持できない恐れがある。したがって、建築資材において結合剤として生分解性樹脂を用いる場合、最終的には建築資材は崩壊し、環境への負荷は抑えられるものの、完全に崩壊するまでの時間が長くなってしまう。
【0008】
とりわけ、海上などの海洋での建築現場では、建築期間中に強度を保つためには、海水などによってもすぐには分解しない資材が求められるため、崩壊までの時間がより長くなることが想定される。
【0009】
また、特許文献2に記載の硬化体は、結合剤としてセメント系結合剤が用いられているため、特に崩壊までの時間が長くなることが予想される。
【0010】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い機械的強度を備え、時間の経過に伴い、好適に崩壊させることができる資材を形成することができる結合剤、およびその関連技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明に係る結合剤は、
崩壊性を有する資材における骨材同士を結合するための結合剤であって、
上記結合剤は、脂肪族ポリエステルを含んでなり、
上記脂肪族ポリエステルは、80℃のイオン交換水中に浸漬してから、1時間後における重量平均分子量が、浸漬する前の重量平均分子量の0.5倍以上、0.95倍以下である。
【0012】
また、本発明に係る結合剤では、上記脂肪族ポリエステルは、加水分解して溶解するときの重量平均分子量が、加水分解する前における重量平均分子量の10%以上、70%以下であることがより好ましい。
【0013】
また、本発明に係る結合剤は、上記脂肪族ポリエステルは、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、およびポリカプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0014】
また、本発明に係る結合剤は、上記脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、70000以上、500000以下であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明に係る資材は、本発明の一態様に係る結合剤によって、上記骨材同士を結合してなる。
【0016】
また、本発明に係る資材は、上記結合剤の含有量は、12.5重量%以上、25重量%以下であることがより好ましい。
【0017】
また、本発明に係る資材は、建築または土木における仮設用の資材であることがより好ましい。
【0018】
また、本発明に係る資材の製造方法は、崩壊性を有する資材の製造方法であって、
本発明の一態様に係る結合剤を介して、上記骨材同士を結合させる結合工程を包含している。
【0019】
また、本発明に係る資材の製造方法では、上記結合工程は、上記骨材と、結合剤を生成するための原料とを混合する混合工程と、上記混合工程後、当該原料を重合させる重合工程と、を包含し、上記原料は、ヒドロキシカルボン酸および環状エステルからなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0020】
また、本発明に係る資材の製造方法では、一態様において、上記環状エステルを重合させることがより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、高い機械的な強度を備え、時間の経過に伴い、好適に崩壊させることができる資材を形成することができる結合剤、およびその関連技術を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔結合剤〕
本発明に係る結合剤の一実施形態について以下に説明する。
【0023】
結合剤は、骨材同士を結合させるものである。本実施形態において、結合剤は脂肪族ポリエステルを含んでいる。結合剤は、脂肪族ポリエステルを含んでいることにより、分解性を備えることができる。なお、本実施形態において、結合剤により骨材同士を結合することで形成される結合体は、典型的には、建築用または土木用の資材である。
【0024】
本明細書において、「分解性」とは、外部からの要因により、骨材同士を結合させている結合剤の分解が生じる性質を意図している。具体的には、加水分解性、生分解性、光分解性および酸化分解性などが包含される。なかでも、加水分解性または生分解性であることが好ましい。
【0025】
このような加水分解性または生分解性を有している脂肪族ポリエステルとしては、ポリグリコール酸、グリコール酸またはグリコリドと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトン、およびカプロラクトンと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体が挙げられる。中でもポリグリコール酸、ポリ乳酸および、ポリカプロラクトンが好ましく、ポリグリコール酸がより好ましい。なお、脂肪族ポリエステルは、これら、脂肪族ポリエステルを生成するときにおける未反応物である低分子量体を含み得る。低分子量体とは、後述する、脂肪族ポリエステルの原料であるモノマーおよびそのオリゴマーなどであり得る。また、結合剤は、脂肪族ポリエステルの原料を重合させる触媒および分子量調節剤なども、その組成として含み得る。
【0026】
結合剤が脂肪族ポリエステルであると、加水分解および生分解などによる結合剤の分解が進行し、骨材同士を結合させる機能が果たせなくなるか、あるいは結合剤が消失する。その結果、骨材同士がばらばらとなり、資材が崩壊することとなる。その結果、骨材同士がばらばらとなり、資材が崩壊することとなる。
【0027】
資材の崩壊は、結合剤を構成する脂肪族ポリエステルが、加水分解によって低分子量化し、徐々に強度低下することや水中に溶解することにより生じる。よって、重量平均分子量の減少速度を特定することにより、結合剤によって形成された資材が崩壊するまでの速度について、ある程度予測することができる。ここで、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量の減少速度は、脂肪族ポリエステルが水中に溶解することができる分子量にまで加水分解される速度として規定することができる。なお、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量の減少速度は、一例として、80℃のイオン交換水に浸漬したときにおける重量平均分子量の減少速度を基準として求めるとよい。より具体的には、重量平均分子量の減少速度は、80℃のイオン交換水に1時間浸漬したときにおける脂肪族ポリエステルの重量平均分子量の変化の比率として特定することができ、当該比率が低い程、重量平均分子量の減少速度が速いと判定できる。すなわち、脂肪族ポリエステルを含んでなる結合剤を80℃のイオン交換水に浸漬したときから、1時間後において、当該結合剤の表面に存在する脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が、浸漬する前における重量平均分子量の0.5倍以上であることが好ましく、0.6倍以上であることがより好ましく、0.7倍以上であることが最も好ましい。また、結合剤を80℃のイオン交換水に浸漬したときから、1時間後において、当該結合剤の表面に存在する脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、浸漬する前における重量平均分子量の0.95倍以下であることが好ましい。80℃のイオン交換水に浸漬したときにおいて、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量の減少速度、つまり、1時間当たりの重量平均分子量の変化の比率が、0.5倍以上であれば、例えば、河川や海水などの水中に放置、または投入することで、時間の経過に伴い、好適に崩壊させることができる資材の結合剤として用いることができる。また、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量の1時間当たりの重量平均分子量の変化の比率が、0.95倍以下であれば、例えば、仮設用の建築または土木の資材を形成することができる結合剤を得ることができる。
【0028】
なお、別の観点から、重量平均分子量の減少速度は、例えば、ポリグリコール酸を結合剤として用いる場合、ポリグリコール酸の重量平均分子量が、加水分解によって50000よりも小さくなるまでの速度のことを指す。このことは、ポリグリコール酸は、重量平均分子量が概ね50000よりも小さくなると著しく強度低下するとともに分子量が500以下の低分子量成分が水中に溶解し、拡散し始めることによる。つまり、水中に浸漬された結合剤の表面のポリグリコール酸の重量平均分子量を測定し、その重量平均分子量が50000よりも小さければ、当該結合剤の表面において、ポリグリコール酸の低分子量体が溶解を開始していると判定することができる。よって、結合剤として、ポリグリコール酸を用いる場合、重量平均分子量の減少速度は、ポリグリコール酸の重量平均分子量が50000よりも小さくなるまでの速度として求めることができる。
【0029】
なお、ここで、脂肪族ポリエステルの分子量分布を示す多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は任意のものを用いることができるが、1〜4であることが好ましい。多分散度が4よりも高い場合、加水分解前における脂肪族ポリエステルに含まれている低分子量成分が多くなるため、脂肪族ポリエステルが加水分解する前から強度を低下してしまう可能性がある。
【0030】
また、重量平均分子量の減少速度とは別の観点から、結合剤に含まれる脂肪族ポリエステルの特性は、加水分解の前における重量平均分子量に対する、加水分解後の重量平均分子量の比率として特定することもできる。結合剤に含まれる脂肪族ポリエステルは、加水分解して溶解するときの重量平均分子量が、加水分解する前における重量平均分子量の10%以上、70%以下の範囲内であることが好ましく、10%以上、65%以下の範囲内であることがより好ましく、10%以上、60%以下の範囲内であることが最も好ましい。加水分解して溶解するときの重量平均分子量が、加水分解する前における重量平均分子量の10%以上、70%以下であれば、脂肪族ポリエステルは、使用時には高分子量で骨材同士を結合する結合剤として好適な機械的強度を得ることができ、使用後には、水中で容易に加水分解させ溶解させることができる。よって、環境負荷の少ない結合剤として用いることができる。
【0031】
上述の重量平均分子量の減少速度、および、加水分解の前後における重量平均分子量の比率の観点から、例えば、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、70000以上、500000以下の範囲内であることが好ましく、100000以上、300000以下の範囲内であることがより好ましい。骨材同士を結合した状態における重量平均分子量が、70000以上、500000以下であれば、脂肪族ポリエステルは、骨材同士を結合する結合剤として高い機械的強度を得ることができ、かつ、使用後、水中に投入することにより、加水分解させることができる環境負荷の少ない結合剤として用いることができる。
【0032】
また結合剤の脂肪族ポリエステルの結晶化度を制御することによっても脂肪族ポリエステルの加水分解速度を制御することもできる。
【0033】
〔骨材〕
骨材は、資材の主たる成分を構成するものである。骨材としては、建築資材または土木資材に一般的に用いられている粗骨材および細骨材を用いることができる。粗骨材としては、例えば、砕石、陸砂利および川砂利などが挙げられる。また、細骨材としては、例えば、川砂、海砂、山砂、砕砂および珪砂などが挙げられる。これらの骨材は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
また、上述のような天然の骨材に限らず、廃ガラス、ガラスビーズ、セラミックおよびプラスチックなどの人工骨材が含まれていてもよい。しかしながら建築資材崩壊後の環境への負荷を抑えるという観点からは、人工骨材を用いないことが好ましい。
【0035】
〔資材〕
本発明に係る資材の一実施形態について以下に説明する。
【0036】
本実施形態に係る資材は、一実施形態に係る結合剤によって骨材同士を結合させてなるものである。
【0037】
資材には、気泡または連通する空隙が存在してもよいが、連通する空隙が存在していないことが好ましく、これらを含んでいないものがより好ましい。なお、「気泡が存在しない」という場合、製造過程において意図せず発生してしまう微小な気泡が存在するものを排除するものではない。
【0038】
資材における結合剤の含有量は、特に制限はなく、建築資材の目的、用途、使用期間および使用環境、骨材の種類などに応じて適宜設定すればよい。例えば、資材における結合剤の含有比率は、資材全体に対して、12.5重量%以上、25重量%以下であることが好ましく、13重量%以上、23重量%以下であることがより好ましい。資材における結合剤の含有比率が、12.5重量%以上であれば、骨材同士の間に形成される空隙に結合剤を充填することができる。よって、資材の機械的な強度を好適に高めることができる。また、結合剤の含有比率が、25重量%以下であれば、脂肪族ポリエステルの加水分解に伴い、資材の崩壊速度を適度に速めることができる。また、骨材と結合剤が均一に分散しやすくなり、強度のバラツキを減らすことができる。
【0039】
本明細書において「崩壊速度」とは、結合剤が分解または溶解し、その結果結合体から骨材の一部が分離することによって結合体が崩れることにより、結合体の重量が減少する速度を意図している。崩壊速度が速ければ、結合体が完全に崩壊するまでの時間が短くなる。また、換言すれば、寸法も含めて同一形状の結合体において、資材が完全に崩壊するまでの時間が短ければ、崩壊速度が速いと言える。このような、資材の崩壊速度は、結合剤を構成する脂肪族ポリエステルの重量平均分子量、資材における結合剤の含有量、および資材に存在する空隙などによって変化し得る。
【0040】
資材は目的に応じて、成形可能な任意の形状の成型品とすることができる。建築資材の具体的な例としては、建築中の足場、シート状の壁材またはドアー用材料、道路の法面および河川の岸の法面工事の鉄筋コンクリート枠の枠内に取り付けられる平板状パネル、公園、宅地造成地などの法面工事に用いられるパネル、そのほか、植木鉢、河川水浄化用ブロックに用いることができる。また、ダムやトンネルなどの土木建設において、足場などを仮設するための資材として用いることができる。
【0041】
〔その他の成分〕
本実施形態に係る資材には、骨材および結合剤以外の成分が含まれていてもよい。含み得る成分としては、無機繊維、有機繊維などが挙げられる。
【0042】
〔資材の製造方法〕
本発明に係る資材の製造方法の一実施形態について説明する。
【0043】
本実施形態に係る資材の製造方法は、一実施形態に係る結合剤を介して、骨材を結合させる結合工程を包含しており、結合工程は、骨材と、結合剤を生成するための原料とを混合する混合工程と、混合工程後、当該原料を重合させる重合工程と、を包含している。
【0044】
混合工程において混合する骨材については、上述の通りである。混合工程においては、骨材は、乾燥することにより水分が除去されていることが好ましい。骨材が含有している水分を除去することにより、脂肪族ポリエステルが、水分によって加水分解することを防ぐことができ、所望の重量平均分子量の脂肪族ポリエステルを結合剤として得ることができる。
【0045】
脂肪族ポリエステルを生成するための原料は、ヒドロキシカルボン酸、および環状エステルからなる群から選択される少なくとも1つである。ここで、ヒドロキシカルボン酸には、例えば、乳酸、2−ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシプロパン酸、および、4−ヒドロキシブタン酸などを挙げることができる。また、環状エステルには、例えば、ラクチド類、およびラクトン類などを挙げることができる。ラクチド類としては、グリコリド、および、乳酸の二量体であるラクチドなどを挙げることができる。また、ラクトン類としては、例えば、γ−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトンなどを挙げることができる。これら原料のうち、環状エステルを原料として用いることがより好ましい。環状エステルは、高い流動性を有しているため、骨材同士の間に形成される空隙に好適に侵入させることができる。よって、重合工程では、原料として環状エステルを用いることにより、空隙の少ない資材を形成することができる。このため、形成される資材の機械的な強度をより高くすることができる。
【0046】
なお、原料には、その種類に応じて、触媒、分子量制御剤、および熱安定剤などを添加することが好ましい。ヒドロキシカルボン酸を縮重合させるためには、例えば、硫酸などの公知の酸触媒を用いるとよい。また、環状エステルを開環重合反応させるためには、例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫およびハロゲン化アンチモンなどを触媒として用いるとよく、これらの触媒にリン酸エステルなどの助触媒を併用するとよい。また、分子量調節剤を適宜用いることで、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量を調整することで、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量の減少速度を調整することがより好ましい。
【0047】
また、重合工程では、骨材と原料との混合物を加熱することがより好ましい。重合工程における、加熱条件は、原料の種類に応じて適宜設計することができるが、100℃〜230℃の範囲内の温度であることが好ましく、当該温度条件に所定時間保持することで、原料を重合させる。これにより、高い分解性と高い機械的な強度とを備えた結合剤を生成しつつ、当該結合剤により、骨材同士を好適に結合させることができる。
【0048】
〔別の実施形態に係る資材の製造方法〕
本実施の形態に係る資材の製造方法は、上記の実施形態に限定されない。例えば、別の実施形態に係る資材の製造方法は、例えば、混合工程において、粉末状に粉砕した脂肪族ポリエステルと、骨材とを所定の比率で混合した後、骨材に脂肪族ポリエステルを融着させることにより、骨材同士を結合させる。当該構成によっても、脂肪族ポリエステルを結合剤とする資材を好適に製造することができる。また、さらに別の実施形態では、資材の製造方法は、混合工程において、脂肪族ポリエステルを溶剤に溶解し、骨材と混合した後、当該溶剤を除去する構成であってもよい。
【0049】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0050】
[崩壊速度の評価]
予め重量を計った資材サンプルを、80℃に加熱してある500mlのイオン交換水が入った容器に投入し、80℃のオーブン内に撹拌しない状態で所定時間保持した。所定時間経過後にオーブンから容器を取り出し、ピンセットで資材サンプルを摘み取り出した。室温で資材サンプルを数時間放置し、水分を除去した後、外観および崩壊していない残った資材サンプルの重量を測定した。予め計った資材サンプルの重量から、崩壊せずに残った資材サンプルの重量を減じて崩壊重量を計算し、上記所定の時間で除して崩壊速度を計算した。
【0051】
[重量平均分子量測定方法]
結合剤10mgをサンプルより削り出し、0.5mlのジメチルスルホキシド(DMSO)中に150℃にて加熱溶解し、室温まで冷却する。その溶液をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)で10mlにメスアップし測定を行った。
測定条件は以下に示す。
装置:shodexGPC-104(detector:RI, column:HFIP-606M×2)
溶媒:5mM CF
3COONa in HFIP
重量平均分子量の標準物質としてPMMAを用い、重量平均分子量を算出した。
【0052】
〔実施例1〕
まず、骨材として、珪砂(一般家庭用)40gと砕石(一般家庭用小粒)40gとを120℃で一晩乾燥させた。ついで、乾燥した骨材を120℃に保温した状態で、離型剤を塗布したガラス製容器内に入れて混合し、そこに100℃で融解させたグリコリド11.4g(触媒として2塩化スズをグリコリドに対して90ppm添加し溶解させたもの)を注ぎ入れ、目視で気泡が無く均一になるように練り込んだ。その後、170℃に温めたオーブン内にて、3時間加熱することでグリコリドを重合反応させ、その後、室温まで冷却し、ビーカから取り出すことで実施例1の資材サンプルを得た。得られた資材サンプルの重量は91.4gであり、寸法は46mmφ×25mmL(比重2.1g/cm3)であった。資材サンプルの崩壊性を評価した結果、9時間頃からサンプル表面が崩壊し始め、24時間後には完全に崩壊し形状を保っていなかった。また、資材サンプルにおいて、グリコリドを重合させることにより生成された、加水分解前の状態におけるPGAの重量平均分子量は200000であり、9時間の崩壊速度の評価後において資材サンプルの崩壊した部分に残存していたPGAの重量平均分子量は30000であった。
【0053】
〔実施例2〕
PGAペレット(株式会社クレハ製)を粉砕し、50%Dが250μmであるPGAパウダー10gを得た。当該PGAパウダー10gと砂40gと砕石40gとを、離型剤を塗布したガラス製容器に入れて混合し、250℃に温めたオーブン内に15分間静置し、PGAパウダーを溶融させた。その後、冷却させることにより、実施例2の資材サンプルを得た。実施例2の資材サンプルの重量は91.4gであり、寸法は46mmΦ×25mmLであった。当該資材サンプルの崩壊速度を評価した結果、9時間頃からサンプル表面が崩壊し始め、24時間後には完全に崩壊し形状を保っていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、建築および土木における仮設用の資材に利用することができる。