特許第6704829号(P6704829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704829
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】調理器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   A47J27/00 109L
   A47J27/00 109M
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-201136(P2016-201136)
(22)【出願日】2016年10月12日
(65)【公開番号】特開2018-61664(P2018-61664A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002473
【氏名又は名称】象印マホービン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100138874
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】菅原 彩子
(72)【発明者】
【氏名】西川 尚志
(72)【発明者】
【氏名】中山 知哉
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/064307(WO,A1)
【文献】 特開2011−019604(JP,A)
【文献】 特開2003−157964(JP,A)
【文献】 特開昭54−107542(JP,A)
【文献】 特開2009−225701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理鍋と、
前記調理鍋を加熱する加熱手段と、
前記調理鍋の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段による検出温度に基づいて前記加熱手段を制御し、前記調理鍋内の調理物を調理する制御手段とを備え、
前記制御手段による調理は、本調理工程の前に、
前記加熱手段によって前記調理鍋を加熱しつつ、前記温度検出手段による検出温度が、肉の表面を硬化させるために必要な第1設定温度に達すると、前記加熱手段による前記調理鍋の加熱を停止する第1前調理工程と、
前記第1前調理工程の後に実行され、前記温度検出手段による検出温度が、前記第1設定温度よりも低く、野菜を硬化させるために必要な第2設定温度を維持するように、前記加熱手段によって前記調理鍋を加熱する第2前調理工程と
を含み、
前記第2前調理工程の実行時間は、前記第1前調理工程において前記温度検出手段による検出温度が前記第1設定温度に達するまでに要する時間よりも長い、調理器。
【請求項2】
前記制御手段による調理は、前記本調理工程の後に保温工程を含み、当該保温工程は、
前記温度検出手段による検出温度が、前記第1設定温度よりも低く、肉の内部が硬化し難い第3設定温度に維持するように、前記加熱手段によって前記調理鍋を加熱しつつ、定められた時間が経過すると、前記第3設定温度から発酵臭を抑制するために必要な第4設定温度まで昇温するように、前記加熱手段によって前記調理鍋を加熱する、請求項1に記載の調理器。
【請求項3】
前記制御手段による調理は、指定時刻に調理を完了させる予約調理であって、
前記制御手段は、前記予約調理の実行スイッチが操作されると、前記第1前調理工程を開始する、請求項1又は2に記載の調理器。
【請求項4】
前記制御手段による調理は、前記指定時刻になる前で前記保温工程の後に、前記加熱手段によって前記調理鍋を前記本調理工程の終了温度と同じ温度まで加熱する再加熱工程を含む、請求項を引用する請求項に記載の調理器。
【請求項5】
前記制御手段による調理は、指定時刻に調理を完了させる予約調理であって
記本調理工程の後に実行される保温工程と、
前記指定時刻になる前で前記保温工程の後に実行される再加熱工程とを含み
記保温工程は、前記温度検出手段による検出温度が、前記第1設定温度よりも低く、肉が硬化しない第3設定温度に維持するように、前記加熱手段によって前記調理鍋を加熱しつつ、定められた時間が経過すると、前記第3設定温度から発酵臭を抑制するために必要な第4設定温度まで昇温するように、前記加熱手段によって前記調理鍋を加熱するもので、
前記再加熱工程は、前記加熱手段によって前記調理鍋を前記本調理工程の終了温度と同じ温度まで加熱するものであって、
前記制御手段は、
前記予約調理の実行スイッチが操作された時刻から前記指定時刻までの予約時間が、前記第1前調理工程、前記第2前調理工程、前記本調理工程、及び前記再加熱工程の実行に要する合計時間よりも短い場合に、前記予約時間と前記合計時間との差に応じて、
前記保温工程、前記再加熱工程、前記第2前調理工程、前記第1前調理工程の優先順位で、少なくとも1つの工程を省略することで前記指定時刻に調理を完了させる、請求項1に記載の調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、肉や野菜等の食材(調理物)を電力で加熱して調理する調理器が知られている。特許文献1の加熱調理器では、加熱コイルによって調理鍋を誘導加熱しつつ、温度センサによる検出温度に基づいて加熱コイルによる加熱量を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/63863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の加熱調理器は、加熱による調理物の硬化や軟化について、何も考慮されていないため、料理の仕上がりが悪くなる。
【0005】
本発明は、仕上がりが良好な料理を調理できる調理器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の調理器は、調理鍋と、調理鍋を加熱する加熱手段と、調理鍋の温度を検出する温度検出手段と、温度検出手段による検出温度に基づいて加熱手段を制御し、調理鍋内の調理物を調理する制御手段とを備える。制御手段による調理は、本調理工程の前に、加熱手段によって調理鍋を加熱しつつ、温度検出手段による検出温度が、肉の表面を硬化させるために必要な第1設定温度に達すると、加熱手段による調理鍋の加熱を停止する第1前調理工程を含む。
【0007】
この調理器によれば、本調理工程の前に実行する第1前調理工程により、調理物中に肉がある場合には、肉の内部までは硬化させることなく、肉の表面だけを硬化させることができる。よって、第1前調理工程の後で実行される本調理工程等で、第1設定温度よりも低い温度で加熱調理しても、形成された硬化層により、肉の内部からアクが放出されることを抑えることができる。その結果、料理の味や色が悪くなることを防止できるため、仕上がりが良好な料理を調理できる。
【0008】
制御手段による調理は、本調理工程の前で第1前調理工程の後に、温度検出手段による検出温度が、第1設定温度よりも低く、野菜を硬化させるために必要な第2設定温度を維持するように、加熱手段によって調理鍋を加熱する第2前調理工程を含むようにしてもよい。この態様によれば、本調理工程の前に実行する第2前調理工程により、調理物中の野菜を硬化させることができる。よって、第2前調理工程の後の本調理工程では、第2設定温度よりも高い温度で加熱調理しても、野菜が煮崩れすることを抑えることができる。その結果、料理の見た目が悪くなることや、食感が柔らかくなり過ぎることを防止できるため、仕上がりが良好な料理を調理できる。
【0009】
前記制御手段による調理は、本調理工程の後に保温工程を含むようにしてもよい。当該保温工程は、温度検出手段による検出温度が、第1設定温度よりも低く、肉の内部が硬化し難い第3設定温度に維持するように、加熱手段によって調理鍋を加熱しつつ、定められた時間が経過すると、第3設定温度から発酵臭を抑制するために必要な第4設定温度まで昇温するように、加熱手段によって調理鍋を加熱する。この態様によれば、本調理工程の後に、第3設定温度に維持する保温工程を実行するため、肉が内部まで硬くなることを抑えることができる。また、定められた時間が経過すると第4設定温度まで加熱するため、発酵臭を生じさせる原因菌の増殖を抑えることができる。よって、料理の食感や香りが悪くなることを防止できるため、仕上がりが良好な料理を調理できる。
【0010】
前記制御手段による調理は、指定時刻に調理を完了させる予約調理であってもよい。ここで、予約調理の場合に、非加熱の調理物を常温で長時間おいておくと、調理物に食中毒の原因菌が増殖することがある。そこで、この態様の前記制御手段は、予約調理の実行スイッチが操作されると、直ぐに第1前調理工程を開始するようにしている。これにより、調理物に食中毒の原因菌が増殖することを防止できる。
【0011】
前記制御手段による調理は、前記指定時刻になる前で保温工程の後に、加熱手段によって調理鍋を本調理工程の終了温度と同じ温度まで加熱する再加熱工程を含むようにしてもよい。この態様によれば、指定時刻になった時の料理の温度が、本調理工程が終了した時の温度と同じになるため、出来たてと同様の料理を使用者に提供できる。
【0012】
前記制御手段は、実行スイッチが操作された時刻から前記指定時刻までの予約時間が、第1前調理工程、第2前調理工程、本調理工程、及び再加熱工程の実行に要する合計時間よりも短い場合に、予約時間と合計時間との差に応じて、保温工程、再加熱工程、第2前調理工程、第1前調理工程の優先順位で、少なくとも1つの工程を省略することで前記指定時刻に調理を完了させる。この態様によれば、指定時刻までの時間的な余裕に応じて、肉の内部からアクがでることを抑えたり、野菜が煮崩れすることを抑えたりすることができる。よって、料理の仕上がりを可能な限り向上できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の調理器では、本調理工程の前に実行する第1前調理工程により、調理物に肉がある場合に、肉の表面を硬化できるため、肉の内部からアクがでることを抑えることができる。よって、料理の味や色が悪くなることを防止できるため、仕上がりが良好な料理を調理できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の調理器の構成を示す概略図。
図2】調理器の操作パネルの正面図。
図3】制御手段による予約調理を示すタイムチャート。
図4】制御手段による予約調理を示すフローチャート。
図5図4の第1前調理工程を示すフローチャート。
図6図4の第2前調理工程を示すフローチャート。
図7図4の保温工程を示すフローチャート。
図8図4の再加熱工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る実施形態の調理器10を示す。この調理器10は、調理鍋12を有する調理器本体14と、調理器本体14に対して開閉可能に取り付けられている蓋体20とを備える。調理器10には、調理鍋12を加熱する加熱手段として、調理器本体14に誘導加熱コイル16が配設され、蓋体20に蓋ヒータ22が配設されている。本実施形態では、肉の内部からアクがでることと、野菜が煮崩れすることを抑えることで、仕上がりが良好な料理を調理できるようにする。
【0017】
誘導加熱コイル16は、調理鍋12を着脱可能に配置する収容部15の外面に配置されている。蓋ヒータ22は、調理鍋12の上端開口を塞ぐ内蓋21の上方に配置されている。また、収容部15には、調理鍋12の温度を検出する温度検出手段として、温度センサ17が配置されている。また、図1において左側に位置する調理器10の正面側には、使用者が調理器10を操作するための操作パネル25が設けられている。
【0018】
図2に示すように、操作パネル25には、中央に液晶パネル27が配置され、周囲に4種のスイッチ32〜35が配置されている。液晶パネル27には、現在時刻や予約時刻を表示するための時刻表示部28と、予約1表示部29と、予約2表示部30とが設けられている。スタートスイッチ32は、調理完了時刻を指定する予約調理を含む調理を開始するための実行スイッチである。時刻設定スイッチ33aは、現在時刻や予約時刻を分単位で増加させるもので、時刻設定スイッチ33bは、現在時刻や予約時刻を分単位で減少させるものである。予約スイッチ34は、第1の指定時刻に調理を完成させる予約調理(予約1表示部29)、及び第2指の定時刻に調理を完成させる予約調理(予約2表示部30)のうち、いずれかを選択するものである。とりけしスイッチ35は、実行中の調理や保温、そして選択中の操作を解除するものである。
【0019】
図1に示すように、調理器本体14には制御基板37が配置され、この制御基板37に制御手段としてマイコン38が実装されている。このマイコン38には、誘導加熱コイル16、蓋ヒータ22、温度センサ17、及び操作パネル25が電気的に接続されている。マイコン38は、調理プログラム等が記憶された記憶部39と、時刻や経過時間を計るための計時部40とを備えている。
【0020】
マイコン38は、温度センサ17によって検出した調理鍋12の温度に基づいて、誘導加熱コイル16と蓋ヒータ22とを制御し、調理鍋12内の食材(調理物)を調理する。この調理には、指定時刻trに調理を完了させる予約調理と、調理完了の時刻を指定しない非予約調理とが含まれている。なお、指定時刻trの設定は、希望する調理完了時刻を入力してもよく、あるいは現在時刻から何時間後という時間(タイマー)を入力してもよい。以下では、予約調理の制御について、具体的に説明する。
【0021】
(予約調理の詳細)
図3及び図4に示すように、マイコン38による予約調理は、第1前調理工程、第2前調理工程、本調理工程、保温工程、及び再加熱工程を備え、これらが第1前調理工程から順番に実行される。
【0022】
ここで、従来の調理器には、予約調理の実行スイッチの操作後、非加熱の調理物を常温で置いておき、指定時刻trになる直前に調理(加熱)を行うものがある。常温で放置する時間が長くなると、調理物には食中毒の原因菌が増殖することがある。そこで、本実施形態では、使用者が予約スイッチ34によって第1予約調理又は第2予約調理を選択し、スタートスイッチ32を操作することで、直ぐに第1前調理工程を開始するようにしている。これにより、調理物に食中毒の原因菌が増殖することを防止している。
【0023】
(第1前調理工程の詳細)
第1前調理工程は、調理物に含まれている肉の下ごしらえであり、本調理工程の前に実行される。ここで、生肉は、低温加熱(例えば60度)されるとアクがでるため、料理の味や色が悪くなる。これを防止するために、第1前調理工程では、肉を高温加熱することで表面を硬化させ、肉の内部からアクがでることを抑えるようにしている。一方、所定時間以上、高温加熱し続けた肉は、中心まで硬化が進むため、食感が悪く(硬く)なる。そこで、第1前調理工程では、一時的に調理物を高温加熱した後、直ぐに加熱を停止して降温させるようにしている。なお、加熱の停止は、誘導加熱コイル16への通電を遮断してもよいし、あるいは調理鍋12の温度を下げるという目的を達成できる範囲であれば、所定デューティ比で誘導加熱コイル16に通電してもよい。
【0024】
詳しくは、図5に示すように、第1前調理工程でマイコン38は、誘導加熱コイル16によって調理鍋12を加熱しつつ(ステップS3−1)、温度センサ17による検出温度Tが予め定められた第1設定温度T1に達するまで待機する(ステップS3−2)。そして、第1設定温度T1に達すると、誘導加熱コイル16による調理鍋12の加熱を停止する(ステップS3−3)。図3に示すように、第1設定温度T1は、低すぎると肉の表面に硬化層を形成できないため、90℃以上とすることが好ましく、本実施形態では100℃としている。
【0025】
本実施形態の第1前調理工程は、誘導加熱コイル16による加熱を停止した後、第1設定温度T1よりも低い第2設定温度T2に降温するまでの降温時間を含んでいる(ステップS3−4)。この降温時間を含む第1調理工程の実行時間t1は、調理物の量によって異なるが、最大で30分程度である。なお、ステップS3−4の降温時間は、第2前調理工程に含まれるようにしてもよい。
【0026】
このように、本調理工程の前に第1前調理工程を実行することで、調理物中に肉がある場合には、内部までは肉を硬化させることなく、肉の表面だけを硬化させることができる。よって、後で実行される第2前調理工程や本調理工程等で、第1設定温度T1よりも低い温度で加熱調理しても、形成された硬化層により、肉の内部からアクが放出されることを抑えることができる。その結果、料理の味や色が悪くなることを防止できるため、仕上がりが良好な料理を調理できる。
【0027】
(第2前調理工程の詳細)
第2前調理工程は、調理物に含まれている野菜の下ごしらえであり、本調理工程の前で第1前調理工程の後に実行される。ここで、野菜は、高温(例えば80℃以上)で一定時間以上加熱されると、ペクチンが分解され、細胞同士の結合が弱まって軟化するため、煮崩れの原因になる。一方、野菜は、低温(例えば60℃〜70℃)で一定時間以上加熱されると、酸素反応によって組織強度が高まって硬化するため、煮崩れを予防できる。また、硬化した野菜は、後で高温加熱し続けても、軟化して煮崩れすることはない。そこで、第2前調理工程では、一定時間以上、調理物を低温加熱するようにしている。
【0028】
詳しくは、図6に示すように、第2前調理工程でマイコン38は、誘導加熱コイル16をオンオフ制御することで、温度センサ17による検出温度Tが第2設定温度T2を維持するように温調する(ステップS5−1)。そして、計時部40による計測時間tが予め定められた実行時間t2になるまで待機し(ステップS5−2)、実行時間t2が経過すると、誘導加熱コイル16による調理鍋12の加熱を停止(ステップS5−3)し、第2前調理工程を終了する。
【0029】
図3に示すように、第2設定温度T2は、野菜が軟化する温度よりも低い温度である50℃以上80℃未満とすることが好ましく、本実施形態では60℃としている。実行時間t2は、野菜を硬化させるために必要な30分以上が好ましく、本実施形態では60分としている。
【0030】
このように、本調理工程の前に第2前調理工程を実行することで、調理物中の野菜を硬化できるため、第2前調理工程の後の本調理工程では、第2設定温度T2よりも高い温度で加熱調理しても、野菜が軟化して煮崩れすることを抑えることができる。その結果、料理の見た目が悪くなることや、食感が柔らかくなり過ぎることを防止できるため、仕上がりが良好な料理を調理できる。
【0031】
(本調理工程の詳細)
本調理工程は、調理物に熱を加えて目的の料理を完成させるもので、肉と野菜の下ごしらえの後に実行される。図3に示すように、本調理工程では、誘導加熱コイル16によって調理鍋12を加熱しつつ、温度センサ17による検出温度Tが定められた調理温度CTになるように、調理鍋12を温調する。調理温度CTは、一定であってもよいし、定められた時間毎に異なるようにしてもよい。本調理工程は、計時部40による計測時間tが予め定められた調理時間t3になると、終了する。この調理時間t3は、調理物の量によって異なるが、概ね1時間程度である。
【0032】
(保温工程の詳細)
保温工程は、調理した肉の硬化と、発酵臭の原因菌の増殖とを防ぐための後処理であり、本調理工程の後に実行される。ここで、調理した肉は、保温温度が高すぎると中心部分まで硬化が進み、食感が硬くなる。一方、調理物は、肉の硬化を防ぐために保温温度を低くすると、発酵臭の原因菌が増殖し、料理の香りが悪くなる。しかも、保温温度を低くしすぎると、発酵臭の原因菌だけでなく、食中毒の原因菌が増殖する可能性がある。即ち、調理後の調理物の保温温度は、高すぎても、低すぎても好ましくない。そこで、保温工程では、肉の硬化を防ぐために調理物を低温で保温しつつ、定期的に高温に加熱することで発酵臭の原因菌の増殖を抑制している。
【0033】
詳しくは、図7に示すように、保温工程でマイコン38は、ステップS8−1からS8−2の実行時間t4の計測と、ステップS8−3からS8−8の加熱処理とを、並行処理する。即ち、計時部40による計測時間tが予め定めた実行時間t4になるまで待機し(ステップS8−1)、実行時間t4が経過すると、誘導加熱コイル16による調理鍋12の加熱を停止(ステップS8−2)し、保温工程を終了する。ステップS8−3からS8−8では、予め定めた第3設定温度T3を維持するように、調理鍋12を温調しつつ、定められた時間t4nが経過する度に、第4設定温度T4まで昇温するように、調理鍋12を加熱する。また、蓋ヒータ22によって、調理鍋12の上部を加熱し続ける。
【0034】
ステップS8−3からS8−8について更に詳しく説明すると、マイコン38は、まず、温度センサ17による検出温度Tが第3設定温度T3に降温するまで待機(ステップS8−3)する。そして、第3設定温度T3に降温すると、第3設定温度T3を維持するように、誘導加熱コイル16によって調理鍋12を温調しつつ(ステップS8−4)、設定時間t4nになるまで待機する(ステップS8−5)。設定時間t4nになると、誘導加熱コイル16をオンし続けることで調理鍋12を加熱しつつ(ステップS8−6)、温度センサ17による検出温度Tが第4設定温度T4に昇温するまで待機する(ステップS8−7)。そして、第4設定温度T4に昇温すると、誘導加熱コイル16による調理鍋12の加熱を停止し(ステップS8−8)、再び第3設定温度T3に降温するまで待機する(ステップS8−3)。
【0035】
図3に示すように、第3設定温度T3は、肉の硬化が進む第1設定温度T1よりも低く、食中毒の原因菌の発生を防ぐことが可能な温度である55℃以上65℃以下とすることが好ましく、本実施形態では60℃としている。また、第4設定温度T4は、第3設定温度T3よりも高く、第1設定温度T1よりも低い温度である75℃以上85℃以下とすることが好ましく、本実施形態では80℃としている。
【0036】
なお、肉の硬化と、発酵臭の原因菌の増殖とは、保温する設定温度T3だけでなく、第4設定温度T4に加熱する設定時間t4nにも関係がある。即ち、設定時間t4nを短くすると、肉の硬化が進む一方、設定時間t4nを長くすると、発酵臭の原因菌が増殖する可能性が高くなる。よって、設定時間t4nは、短すぎても、長すぎても好ましくない。そこで、設定時間t4nは、300分以上420分以下とすることが好ましく、本実施形態では360分(6時間)としている。なお、定められた時間t4nは、一定の時間間隔(実行周期)としてもよいし、上記範囲内であれば、2以上の異なる設定時間(例えば6時間→5時間→6時間→6時間・・・)であってもよい。
【0037】
このように、本調理工程の後に、第3設定温度T3に維持する保温工程を実行することで、肉が硬くなることを抑えることができる。また、定められた時間T4nが経過すると第4設定温度T4まで加熱するため、発酵臭を生じさせる原因菌の増殖を抑えることができる。よって、料理の食感や香りが悪くなることを防止できるため、仕上がりが良好な料理を維持できる。
【0038】
(再加熱工程の詳細)
再加熱工程は、本調理工程と同じ温度CTまで昇温させる後処理であり、指定時刻trになる前で保温工程の後に実行される。詳しくは、再加熱工程は、指定時刻trよりも予め定められた実行時間t5(例えば10分)前になると行われる。図8に示すように、再加熱工程でマイコン38は、誘導加熱コイル16によって調理鍋12を加熱しつつ(ステップS10−1)、温度センサ17による検出温度Tが調理温度CTに昇温するまで待機する(ステップS10−2)。調理温度CTに昇温すると、その調理温度CTを維持するように、誘導加熱コイル16によって調理鍋12を温調しつつ(ステップS10−3)、計時部40による計測時間tが定められた実行時間t5になるまで待機する(ステップS10−4)。そして、実行時間t5が経過すると、誘導加熱コイル16による調理鍋12の加熱を停止し(ステップS10−5)、再加熱工程を終了する。
【0039】
このように、指定時刻trになる直前に再加熱工程を実行することで、指定時刻trになった時の料理の温度を、本調理工程が終了した時と同じ温度にする。よって、出来たてと同様の料理を使用者に提供できる。
【0040】
(一部の工程の省略)
図3に示すように、予約調理を完了するまでの予約時間は、スタートスイッチ32が操作された入力時刻t0から指定時刻trまでの時間(tr−t0)である。一方、第1前調理工程、第2前調理工程、本調理工程、保温工程、及び再加熱工程のうち、保温工程の実行時間t4を除く工程の実行に要する実行時間t1〜t3,t5は、概ね定められている。
【0041】
マイコン38は、予約時間(tr−t0)が定められた実行時間t1〜t3,t5の合計時間よりも長い場合、いずれの工程も省略することなく、保温工程の実行時間t4を調整することで、指定時刻trに調理を完了させる。一方、マイコン38は、予約時間(tr−t0)が合計時間(t1〜t3,t5)よりも短い場合(つまり、間に合わない場合)、所定の工程を適宜省略することで、指定時刻trに調理を完了するように間に合わせる。
【0042】
省略する優先順位は、保温工程、再加熱工程、第2前調理工程、及び第1前調理工程である。即ち、指定時刻trに調理が間に合わない場合、保温工程を省略して所要時間を計算して間に合わせる。それでも間に合わない場合、再加熱工程を省略して所要時間を計算して間に合わせる。以下、同様にして上記優先順位で、指定時刻trに調理が間に合うこととなるまで、省略する工程を決定する。
【0043】
なお、保温工程を省略する場合、再加熱工程の実行時間t5を調整することで、指定時刻rtに調理を完了させる。
保温工程、及び再加熱工程を省略する場合、第2前調理工程の実行時間t2を調整することで、指定時刻rtに調理を完了させる。
保温工程、再加熱工程、及び第2前調理工程を省略する場合、第1前調理工程の実行時間t1(降温時間)を調整することで、指定時刻rtに調理を完了させる。
なお、予約時間(tr−t0)と本調理工程の実行時間t3とが概ね同一の場合、第1前調理工程、第2前調理工程、保温工程、及び再加熱工程を省略し、本調理工程だけを実行することになる。
また、予約時間(tr−t0)が本調理工程の実行時間t3よりも短い場合、その予約は無効である。
【0044】
このように一部の工程を省略可能とした予約調理のメインフローは図4の通りである。この図4に示すように、マイコン38は、予約スイッチ34とスタートスイッチ32の操作により予約調理が実行されると、ステップS1で、指定時刻trを読み込み、予約時間(tr−t0)に基づいて実行する工程を設定して、ステップS2に進む。
【0045】
ステップS2では、第1前調理工程を実行する設定か否かを読み込む。そして、実行する設定の場合にはステップS3に進み、前述した第1前調理工程を実行してステップS4に進む。また、第1前調理工程を実行しない設定の場合には、ステップS3からステップS5からをスキップしてステップS6に進む。
【0046】
ステップS4では、第2前調理工程を実行する設定か否かを読み込む。そして、実行する設定の場合にはステップS5に進み、前述した第2前調理工程を実行してステップS6に進む。また、第2前調理工程を実行しない設定の場合には、ステップS5をスキップしてステップS6に進む。
【0047】
ステップS6では、前述した本調理工程を実行した後、ステップS7に進む。
【0048】
ステップS7では、保温工程を実行する設定か否かを読み込む。そして、実行する設定の場合にはステップS8に進み、前述した保温工程を実行してステップS9に進む。また、保温工程を実行しない設定の場合には、ステップS8をスキップしてステップS9に進む。
【0049】
ステップS9では、再加熱工程を実行する設定か否かを読み込む。そして、実行する設定の場合にはステップS10に進み、前述した再加熱工程を実行して予約調理を完了する。また、再加熱工程を実行しない設定の場合には、ステップS10をスキップして予約調理を完了する。
【0050】
なお、図3に示すように、マイコン38は、予約調理が完了すると、引き続いて保温処理を実行する。この保温処理では、予約調理の保温工程と同様に、調理鍋12が第3設定温度T3を維持するように温調しつつ、定められた実行周期t4nで第4設定温度T4まで昇温させる。
【0051】
このように、本実施形態の調理器10では、調理完了までの時間に余裕がある予約調理時に、調理物の前調理(下ごしらえ)が自動で行われるため、肉の内部からアクがでることを抑えたり、野菜が煮崩れすることを抑えたりでき、仕上がりが良好な料理を調理できる。また、各工程の実行に要する合計時間と予約時間との差に応じて、実行する工程が選択されるため、料理の仕上がりを可能な限り向上できる。
【0052】
なお、本発明の調理器10は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、第1前調理工程と第2前調理工程とは、料理を完成させる時刻を指定しない非予約調理に含まれてもよい。但し、この場合、前述した予約調理における保温工程と再加熱工程とは含まれない。
【0054】
また、予約調理には、第2前調理工程が含まれないようにしてもよい。さらに、調理器10は、調理鍋12内を大気圧よりも高い圧力に昇圧可能な圧力調理器であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…調理器
12…調理鍋
14…調理器本体
15…収容部
16…誘導加熱コイル(加熱手段)
17…温度センサ(温度検出手段)
20…蓋体
21…内蓋
22…蓋ヒータ(加熱手段)
25…操作パネル
27…液晶パネル
28…時刻表示部
29…予約1表示部
30…予約2表示部
32…スタートスイッチ
33a,33b…時刻設定スイッチ
34…予約スイッチ
35…とりけしスイッチ
37…制御基板
38…マイコン(制御手段)
39…記憶部
40…計時部
図1
図2
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図8