特許第6704847号(P6704847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704847アルミニウム−炭化珪素質複合体及びパワーモジュール用ベース板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704847
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】アルミニウム−炭化珪素質複合体及びパワーモジュール用ベース板
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20200525BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20200525BHJP
   B22D 18/02 20060101ALI20200525BHJP
   B22D 19/00 20060101ALI20200525BHJP
   B22D 19/14 20060101ALI20200525BHJP
   C04B 41/88 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   H01L23/36 D
   H01L23/36 M
   B22D18/02 L
   B22D19/00 E
   B22D19/14 C
   C04B41/88 Q
   C04B41/88 U
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-508767(P2016-508767)
(86)(22)【出願日】2015年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2015058068
(87)【国際公開番号】WO2015141729
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2017年12月5日
【審判番号】不服2019-5351(P2019-5351/J1)
【審判請求日】2019年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-54706(P2014-54706)
(32)【優先日】2014年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大助
(72)【発明者】
【氏名】広津留 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】岩元 豪
(72)【発明者】
【氏名】小柳 和則
【合議体】
【審判長】 五十嵐 努
【審判官】 佐々木 洋
【審判官】 山澤 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−277217(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/080701(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/125878(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/34-23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素の含有率が50〜80体積%の多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを含有する金属を含浸してなる板厚2〜6mmの平板状のアルミニウム−炭化珪素質複合体からなる第一相の両主面を除く外周に、平均繊維径が20μm以下、平均アスペクト比が100以上のセラミックスファイバーを体積率3〜20%の割合で含むアルミニウム−セラミックスファイバー複合体からなる第二相を有し、該第二相に含まれるアルミニウム−セラミックスファイバー複合体の存在割合が、前記第一相の外周面積の50面積%以上であることを特徴とするアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項2】
前記アルミニウム−セラミックスファイバー複合体の熱膨張係数が20×10−6/K未満であり、25℃での強度が200MPa以上であり、150℃での強度が150MPa以上である、請求項1に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項3】
両主面が、アルミニウム合金層またはアルミニウム−セラミックスファイバー層で覆われている、請求項1または2に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項4】
一主面が、アルミニウム合金層またはアルミニウム−セラミックスファイバー層で覆われている、請求項1または2に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項5】
前記第二相に含まれるアルミニウム−セラミックスファイバー複合体中のセラミックスファイバーの含有率が、アルミニウム−セラミックスファイバー複合体全体に対して3〜20体積%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項6】
セラミックスファイバーが、アルミナ、シリカ、窒化硼素、炭化珪素、及び窒化珪素から選ばれる一種または二種以上からなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体の表面に、めっきを施してなることを特徴とするパワーモジュール用ベース板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュール用ベース板として好適なアルミニウム−炭化珪素質複合体及びそれを用いたパワーモジュール用ベース板に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、半導体素子の高集積化、小型化に伴い、発熱量は増加の一途をたどっており、いかに効率よく放熱させるかが課題となっている。そして、高絶縁性・高熱伝導性を有する例えば窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板等のセラミックス基板の表面に、銅製又はアルミニウム製の金属回路を、また裏面に銅製又はアルミニウム製の金属放熱板が形成されてなる回路基板が、パワーモジュール用回路基板として使用されている。
【0003】
従来の回路基板の典型的な放熱構造は、回路基板の裏面(放熱面)の金属板、例えば銅板を介してベース板が半田付けされてなるものであり、ベース板としては銅が一般的であった。しかしながら、この構造においては、半導体装置に熱負荷がかかった場合、ベース板と回路基板の熱膨張係数差に起因するクラックが半田層に発生し、その結果放熱が不十分となって半導体素子を誤作動させたり、破損させたりするという課題があった。
【0004】
そこで、熱膨張係数を回路基板のそれに近づけたベース板として、アルミニウム−炭化珪素質複合体が提案されている。このベース板用のアルミニウム−炭化珪素質複合体の製法としては、炭化珪素の多孔体にアルミニウム合金の溶湯を加圧含浸する溶湯鍛造法(特許文献1)、炭化珪素の多孔体にアルミニウム合金の溶湯を非加圧で浸透させる非加圧含浸法(特許文献2)が実用化されている。
【0005】
しかしながら、アルミニウム−炭化珪素質複合体は、前記のような放熱部品などを作製する場合には、高精度な外形加工やネジ穴加工などが要求され、その加工をするためには炭化珪素が複合されている故に、被加工性に劣り、コストが高くなるという問題がある。
【0006】
そこで、上記問題解決を狙いに、予めアルミニウム−多孔質炭化珪素成形体の加工部分を被加工性に優れるアルミニウム合金としておき、公知の金属加工方法により外形加工やネジ穴加工を適用するのが通例となっている。
[特許文献1]特許3468358号
[特許文献2]特表平5−507030号公報
【発明の概要】
【0007】
パワーモジュールは、ベース板を介して放熱フィンと接合して用いることが多く、その接合部分の形状や反りもまた重要な特性として挙げられる。アルミニウム−炭化珪素質複合体をパワーモジュール用ベース板として用いる場合、繰り返し使用することでアルミニウム−炭化珪素質複合体の外周アルミニウム合金部とアルミニウム−炭化珪素質複合体の熱膨張係数差から熱応力が発生し、アルミニウム−炭化珪素質複合体にうねりや窪みが生じ、ベース板と放熱フィンの密着性が低下し、熱伝達性が著しく低下する場合があった。さらに、アルミニウム−炭化珪素質複合体の形状が歪むことで、アルミニウム−炭化珪素質複合体に負荷が掛かり、クラックが発生する場合があった。
【0008】
また、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウム合金を含浸し、冷却する際にアルミニウム−炭化珪素質複合体と外周アルミニウム合金部との熱膨張係数差から生じた熱応力が残留する。アルミニウム合金は強度が低いため、外周加工等の応力が起点となり、残留した応力が解放され、外周アルミニウム合金部およびアルミニウム−炭化珪素質複合体にクラックが生じる場合があった。
【0009】
本発明は、アルミニウム−炭化珪素質複合体と外周アルミニウム合金部の熱膨張係数差を低減し、より信頼性に富むアルミニウム−炭化珪素質複合体を提供することを課題とする。
【0010】
即ち、本発明は、炭化珪素の含有率が50〜80体積%の多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを含有する金属を含浸してなる板厚2〜6mmの平板状のアルミニウム−炭化珪素質複合体からなる第一相の両主面を除く外周に、平均繊維径が20μm以下、平均アスペクト比が100以上のセラミックスファイバーを体積率3〜20%の割合で含むアルミニウム−セラミックスファイバー複合体からなる第二相を有し、該第二相に含まれるアルミニウム−セラミックスファイバー複合体の存在割合が、前記第一相の外周面積の50面積%以上であることを特徴とするアルミニウム−炭化珪素質複合体である。
【0011】
本発明において、アルミニウム−セラミックスファイバー複合体の熱膨張係数が20×10−6/K未満、25℃での強度が200MPa以上、150℃での強度が150MPa以上であることが好ましい。
【0012】
本発明において、アルミニウム−炭化珪素質複合体の両主面または片主面が、アルミニウム合金層またはアルミニウム−セラミックスファイバー層で覆われているように構成することができる。
【0013】
本発明において、第二相に含まれるアルミニウム−セラミックスファイバー複合体中のセラミックスファイバーの含有率が、アルミニウム−セラミックスファイバー複合体全体に対して3〜20体積%であることが好ましい。また、セラミックスファイバーがアルミナ、シリカ、窒化硼素、炭化珪素、及び窒化珪素から選ばれる一種または二種以上からなることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記のアルミニウム−炭化珪素質複合体の表面にめっきを施してなることを特徴とするパワーモジュール用ベース板である。
【0015】
本発明は、アルミニウム−炭化珪素質複合体からなる第一相の外周部をアルミニウム−セラミックスファイバー複合体からなる第二相とすることにより、アルミニウム−炭化珪素質複合体と外周部の熱膨張係数差を低減することができ、繰り返し使用時の形状安定性が改善することができる。本発明は、セラミックス回路基板と半田付けを行った後の放熱性が良好となるため、特に高信頼性を要求されるパワーモジュールのベース板として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、多孔質炭化珪素成形体の外周部にセラミックスファイバーが隣接して設けられてなる成形体にアルミニウムを含有する金属を含浸してなる複合体である。本発明の複合体は、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウム合金が含浸されているアルミニウム−炭化珪素質複合体の外周部に、セラミックスファイバーにアルミニウム合金が含浸されているアルミニウム−セラミックスファイバー複合体が互いに隣接している構造を有する。したがって、アルミニウム−炭化珪素質複合体とアルミニウム−セラミックスファイバー複合体は互いに同一の金属により連続的につながっている。そのため、互いに隣接する多孔質炭化珪素成形体とセラミックスファイバーとが形成する界面で剥離等が起こるのを防止できる効果がある。本発明におけるアルミニウム−炭化珪素質複合体の構造例を図1、2に記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
本発明において、アルミニウム−炭化珪素質複合体(第一相)の外周部に設けるアルミニウム−セラミックスファイバー複合体(第二相)の存在割合は、アルミニウム−炭化珪素質複合体(第一相)の両主面を除く外周部の50面積%以上であることが好ましい。50面積%未満であると、外周アルミニウム合金部とアルミニウム−炭化珪素質複合体(第一相)との熱膨張係数差が低減できず、繰り返し使用時にうねりや窪みが生じたり、含浸及び冷却時にアルミニウム−炭化珪素質複合体と外周アルミニウム合金部との熱膨張係数差から生じた熱応力により、外周アルミニウム合金部およびアルミニウム−炭化珪素質複合体(第一相)にクラックが生じたりしてしまう可能性がある。なお、「主面」とは、表面又は裏面のことであり、「両主面」とは表裏両面のことを意味し、「一主面」又は「片主面」とは表面又は裏面のいずれか一方のことを意味する。
【0018】
本発明において、多孔質炭化珪素成形体とは、金属を含浸し得る気孔を有し、含浸操作等において変形、破壊等が生じがたい、例えば10MPa程度の機械的強さを有する成形体、例えば焼結体が挙げられる。また、本発明において、セラミックスファイバーとは、繊維状の無機化合物の集合体をいい、特に機械的な強さを必要とせず、ブランケット、マット等のいずれの状態であっても構わない。
【0019】
セラミックスファイバーとしては、アルミナ、シリカ、窒化硼素、炭化珪素、窒化珪素等を含有する市販のものを用いることができる。このうち、アルミナ、シリカを含有するものは、安価で入手し易いことから好ましい。また、炭化珪素を含有するものは、繊維方向での熱伝導率が高く、熱を放散しやすいことから好ましい。
【0020】
また、本発明は、アルミニウム−セラミックスファイバー複合体(第二相)の熱膨張係数が20×10−6/K未満、25℃での強度が200MPa以上、150℃での強度が150MPa以上であることが好ましい。熱膨張係数が20×10−6/K以上であると、アルミニウム−炭化珪素質複合体(第一相)とアルミニウム−セラミックスファイバー複合体(第二相)の熱膨張係数差が大きくなり、第一相及び第二相にクラックが生じ好ましくない。また、25℃での強度が200MPa未満、150℃での強度が150MPa未満であると外周加工等の機械加工の際に生じる応力により、アルミニウム−セラミックスファイバー複合体(第二相)にクラックが生じ好ましくない。
【0021】
本発明に用いるセラミックスファイバーの体積率は、3〜20体積%であることが好ましい。20体積%を超えると、セラミックスファイバーの含有率が高くなり過ぎ、アルミニウム−セラミックスファイバー複合体表面にセラミックスファイバーが大量に露出し、めっき密着性が低下する場合がある。一方、体積率が3体積%未満であると、アルミニウム−セラミックスファイバー複合体の熱膨張係数が高くなり、好ましくない。
【0022】
また、本発明に用いるセラミックスファイバーの平均繊維径は、20μm以下、平均アスペクト比100以上であることが好ましい。平均アスペクト比が100未満または、平均繊維径が20μmを超えた場合、アルミニウム−セラミックス複合体中に強度が低いガラス質の粗大粒子が多く存在することになり、外周加工等の機械加工による応力でガラス質粗大粒子を起点にクラックが生じるため、好ましくない。「平均繊維径」とは、走査型電子顕微鏡を利用して20本以上のセラミックスファイバーを観測し、各繊維の直径を画像解析にて計測して得られる値の平均値を意味する。「平均アスペクト比」とは、上記「平均直径」と同様に測定した「平均長さ」を、「平均直径」で除した値を意味する。
【0023】
アルミニウム−炭化珪素質複合体の製法は、大別すると含浸法と粉末冶金法の2種がある。このうち粉末冶金法は熱伝導率等の特性面で十分なものが得られておらず、実際に商品化されているのは、含浸法によるものである。含浸法にも種々の製法があり、常圧で行う方法と、高圧下で行う方法(高圧鍛造法)がある。高圧鍛造法には、溶湯鍛造法とダイキャスト法がある。
【0024】
本発明に好適な方法は、高圧下で含浸を行う高圧鍛造法であり、溶湯鍛造法とダイキャスト法のどちらも使用できるが、溶湯鍛造法がより好ましい。高圧鍛造法は、高圧容器内に、多孔質炭化珪素成形体を装填し、これにアルミニウム合金の溶湯を高温、高圧下で含浸させて複合体を得る方法である。
【0025】
以下、本発明について、溶湯鍛造法による製法例を説明する。
原料である炭化珪素粉末(必要に応じて例えばシリカ等の結合材を添加する)を、成形、焼成して多孔質炭化珪素成形体を作製する。多孔質炭化珪素成形体の製造方法に関して特に制限はなく、公知の方法で製造することが可能である。例えば、炭化珪素粉末にシリカ或いはアルミナ等を結合材として添加して混合、成形し、800℃以上で焼成することによって得ることができる。成形方法についても特に制限は無く、プレス成形、押し出し成形、鋳込み成形等を用いることができ、必要に応じて保形用バインダーの併用が可能である。
【0026】
本発明においては、所定厚みの均一なアルミニウム層を形成させるために、多孔質炭化珪素成形体の面内の厚みバラツキが100μm以下、好ましくは30μm以下になる様に成形または焼成品を面加工することが好ましい。多孔質炭化珪素成形体の面内の厚みバラツキが100μmを超えると、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体の表面アルミニウム層の厚みのバラツキが大きくなり好ましくない。
【0027】
多孔質炭化珪素成形体の外周に、セラミックスファイバーを隣接して配置する。セラミックスファイバーは、多孔質炭化珪素成形体の外周に対して50面積%以上になるように配置する。その後、多孔質炭化珪素成形体を、離型剤を塗布した離型板で挟み積層して一つのブロックとする。この多孔質炭化珪素成形体を積層して一つのブロックとする際に、面方向の締め付けトルクが1〜20Nmとなるように離型板で挟み込んで積層する。積層方法は特に限定されないが、例えば、多孔質炭化珪素成形体を、離型剤を塗布したステンレス製の離型板で挟み積層した後、両側に鉄製の板を配置してボルトで連結して所定締め付けトルクで締め付けて一つのブロックとする方法が挙げられる。面方向の適正な締め付けトルクに関しては、使用する多孔質炭化珪素成形体の強度により異なるが、締め付けトルクが1Nm未満では、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体の表面アルミニウム層の厚みが厚くなったり、厚み差が大きくなり過ぎたりする場合がある。一方、締め付けトルクが20Nmを超えると、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体の表面アルミニウム層が局所的に薄くなり過ぎ、その後のめっき前処理等の表面処理時に部分的にアルミニウム−炭化珪素質複合体が露出し、その部分にめっき未着が発生したり、めっき密着性が低下したりする等の問題が発生する場合がある。
【0028】
また、多孔質炭化珪素成形体を積層する際に、多孔質炭化珪素成形体の両主面又は一主面にアルミナまたはシリカを含有するセラミックスファイバーを、離型板との間に挟み積層してもよい。セラミックスファイバーを隣接することで、アルミニウム−炭化珪素質複合体のアルミニウム合金層の厚みがより均一に制御できるため好ましい。
【0029】
次に、前記ブロックを500〜750℃程度で予備加熱後、高圧容器内に1個または2個以上配置し、ブロックの温度低下を防ぐために出来るだけ速やかにアルミニウム合金の溶湯を給湯して30MPa以上の圧力で加圧する。これにより、アルミニウム合金を、多孔質炭化珪素成形体の空隙中及びセラミックスファイバーの隙間に含浸させることで、外周にアルミニウム−セラミックスファイバー複合体を有し、両主面又は一主面にアルミニウム層を設けたアルミニウム−炭化珪素質複合体が得られる。また、多孔質炭化珪素成形体の両主面または一主面に、アルミナまたはシリカを含有するセラミックスファイバーを積層した場合は、アルミニウム−炭化珪素質複合体の両主面または一主面には、アルミニウム−セラミックスファイバー層が設けられる。なお、含浸時の歪み除去の目的で、含浸品のアニール処理を行うこともある。
【0030】
本発明に用いるアルミニウム合金については、格別の制限はなく、汎用のアルミニウム合金を用いることができる。鋳造のしやすさ、高熱伝導性の発現の点から、Si含有量が4〜10%のAC2A、AC2B、AC4A、AC4B、AC4C、AC8B、AC4D、AC8C、ADC10、ADC12等の鋳造用アルミニウム合金や、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系の展伸用アルミニウム合金が特に好ましい。
【0031】
アルミニウム−炭化珪素質複合体の特に重要な特性は、熱伝導率と熱膨張係数である。アルミニウム−炭化珪素質複合体中の炭化珪素含有率の高い方が、熱伝導率が高く、熱膨張係数が小さくなるため好ましいが、あまりにも含有率が高い場合にはアルミニウム合金の含浸操作が容易でなくなる。実用的には、多孔質炭化珪素成形体の相対密度が50〜80%の範囲にあるものが好ましい。また多孔質炭化珪素成形体の強度は、曲げ強度で3MPa以上あれば、取り扱い時や含浸中の割れの心配がなくなるため好ましい。
【0032】
アルミニウム−炭化珪素質複合体表面に設けられるアルミニウム合金からなるアルミニウム層の厚みは、平均厚みが0.05mm〜0.3mmであり、好ましくは0.05mm〜0.1mmである。アルミニウム層の厚みは、アルミニウム−炭化珪素質複合体表面を研削加工して所定厚みに調整することも可能である。アルミニウム層は、めっき処理を施す際のめっき密着性を確保するために必要である。平均厚みが0.05mm未満では、その後のめっき前処等の表面処理時に部分的にアルミニウム−炭化珪素質複合体が露出し、その部分にめっき未着が発生したり、めっき密着性が低下したりする等の問題が発生する場合がある。一方、平均厚みが0.3mmを超えると、得られるベース板自体の熱膨張率が大きくなり過ぎて、接合部の信頼性が低下する場合がある。更に、平均厚みが0.3mmを超えると、アルミニウム層の厚みの差が大きくなる場合もある。
【0033】
アルミニウム−炭化珪素質複合体をパワーモジュール用ベース板として用いる場合、両主面のアルミニウム層の平均厚みの差は、0.05mm以下である。パワーモジュール用ベース板は、アルミニウム−炭化珪素質複合体の両主面にアルミニウム層を具備してなる構造であり、アルミニウム−炭化珪素質複合体とアルミニウム層では、熱膨張率が異なる為、両主面のアルミニウム層の平均厚みの差が0.05mmを超えると、その後のパワーモジュール組み立て工程で熱サイクルを付加した際に、反りが変化する問題がある。
【0034】
次に、得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体の加工方法の例を説明する。本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、外周部及び穴部等をNC旋盤、マシニングセンター等の装置を用いて容易に機械加工することができる。
【0035】
形状加工を施されたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、所定の反り形状となるように10KPa以上の応力を掛けつつ、温度450〜550℃で30秒間以上加熱処理することで、アルミニウム−炭化珪素質複合体をクリープ変形させて反りを付与する。反り付け処理後のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、必要に応じて300℃〜400℃の温度でアニール処理を行い、反り付け時に発生した残留応力の除去を行う。本発明のパワーモジュール用ベース板は、表面のアルミニウム層の厚みを非常に薄くかつ均一に制御することにより、反り形状はうねりや窪みの少ない理想的な球面形状に近い反り形状となる。
【0036】
多孔質炭化珪素成形体を用いてアルミニウム−炭化珪素質複合体を作製した後、放熱面を平面研削加工し、アルミニウム−炭化珪素質複合体を露出させてもよい。放熱面を平面研削加工し、アルミニウム−炭化珪素質複合体を露出させた後、500℃〜560℃の温度で1分以上のアニール処理を行うことで、アルミニウム−炭化珪素質複合体の一主面のアルミニウム合金層とアルミニウム−炭化珪素質複合体の熱膨張差により理想的な球面形状に近い反りが発生する。
【0037】
更に、本発明のパワーモジュール用ベース板の板厚は、2mm〜6mmである。板厚が2mm未満では、パワーモジュール用ベース板として用いる場合、ベース板の面方向への放熱性が低下してしまい、パワーモジュールの放熱性が低下して好ましくない。一方、板厚が6mmを超えると、ベース板自体の熱抵抗が大きくなり、パワーモジュールの放熱性が低下して好ましくない。
【0038】
本発明に係るアルミニウム−炭化珪素質複合体は、パワーモジュール用ベース板として用いる場合、セラミックス回路基板と半田付けにより接合して用いられるのが一般的である。このため、アルミニウム−炭化珪素質複合体表面には、Niめっきを施すことが必要である。めっき処理方法は特に限定されず、無電解めっき処理、電気めっき処理法のいずれでもよい。Niめっきの厚みは1〜20μmであることが好ましい。めっき厚みが1μm未満では、部分的にめっきピンホールが発生し、半田付け時に半田ボイド(空隙)が発生し、回路基板からの放熱特性が低下する場合がある。一方、Niめっきの厚みが20μmを超えると、Niめっき膜と表面アルミニウム合金との熱膨張差によりめっき剥離が発生する場合がある。Niめっき膜の純度に関しては、半田濡れ性に支障をきたさないものであれば特に制約はなく、リン、硼素等を含有することができる。更に、Niめっき表面に金めっきを施すことも可能である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例、比較例に基づき、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製:NG−150、平均粒径:100μm)100g、炭化珪素粉末B(大平洋ランダム社製:NG−220、平均粒径:60μm)100g、炭化珪素粉末C(屋久島電工社製:GC−1000F、平均粒径:10μm)100g、及びシリカゾル(日産化学社製:スノーテックス)30gを秤取し、攪拌混合機で30分間混合した後、190mm×140mm×5.5mmの寸法の平板状に圧力10MPaでプレス成形した。
【0041】
得られた成形体を、温度120℃で2時間乾燥後、大気中、温度950℃で2時間焼成して、相対密度が65%の多孔質炭化珪素成形体を得た。得られた多孔質炭化珪素成形体は、平面研削盤でダイヤモンド製の砥石を用いて、4.8mmの厚みに面加工した後、マシニングセンターで外形寸法が183×133mmに外周部を加工した。得られた多孔質炭化珪素成形体の3点曲げ強度を測定した結果、10MPaであった。
【0042】
得られた多孔質炭化珪素成形体の外周の両長辺(外周部に占めるアルミニウム−セラミックスファイバー複合体の割合:58面積%)にムライト質のセラミックスファイバー(平均繊維径15μm、平均アスペクト比120、体積率5体積%)を隣接して配置し、両面をカーボンコートした210mm×160mm×0.8mmの寸法のステンレス板で挟んで、30枚を積層した後、両側に6mm厚みの鉄板を配置して、M10のボルト6本で連結して面方向の締め付けトルクが3Nmとなるようにトルクレンチで締め付けて一つのブロックとした。次に、一体としたブロックを電気炉で600℃に予備加熱した後、あらかじめ加熱しておいた内径400mmφのプレス型内に収め、シリコンを12質量%、マグネシウムを0.8質量%含有するアルミニウム合金の溶湯を注ぎ、100MPaの圧力で20分間加圧して炭化珪素質多孔体にアルミニウム合金を含浸させた。25℃まで冷却した後、湿式バンドソーにて離型板の形状に沿って切断し、挟んだステンレス板をはがした後、含浸時の歪み除去のために530℃の温度で3時間アニール処理を行い、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0043】
得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体の縁周部8カ所に直径7mmの貫通穴、4カ所にφ10−4mmの皿穴を加工し、外周のアルミニウム部およびアルミニウム−セラミックスファイバー複合体部をNC旋盤で加工して、187mm×137mm×5.0mmの形状とした。次に、このアルミニウム−炭化珪素質複合体に反りを付与するため、カーボン製で曲率半径が15000mmの球面を設けた凹凸型を準備した。この凹凸型を熱プレス機に装着し、加熱して型の表面温度を470℃とした。この凹凸型の間に前記複合体を配置し400KPaでプレスした。この際、当該複合体の側面に熱電対を接触させ測温した。複合体の温度が450℃になった時点から3分間保持後、加圧を解除し、50℃まで自然冷却した。次に、歪み除去のために、電気炉で350℃の温度で1時間アニール処理を行った。得られた複合体は、輪郭形状測定機(東京精密社製;コンターレコード1600D−22)を使用し、長さ10cm当たりの反り量を測定した結果、長さ10cm当たり80μmの反り量が付加されていた。
【0044】
得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体を圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化した後、無電解Ni―P及びNi−Bめっきを行った。複合体表面に8μm厚(Ni−P:6μm+Ni−B:2μm)のめっき層を形成した。
【0045】
得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により熱膨張係数測定用試験体(縦20mm、横4mm、厚み4mmの板状体)、熱伝導率測定用試験体(縦10mm、横10mm、厚み1mmの板状体)、強度測定用試験体(縦40mm、横4mm、厚み3mmの板状体)を作製した。それぞれの試験体を用いて、第一相について、25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)により測定し、25℃の熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;TC−7000)により測定し、25℃の3点曲げ強度を抗折強度計(今田製作所製;SV−301)により測定した。得られた結果を表1に示す。
【0046】
次いで、得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体の外周アルミニウム−セラミックスファイバー複合体部(第二相)より、研削加工により熱膨張係数測定用試験体(縦20mm、横4mm、厚み4mmの板状体)、強度測定用試験体(縦40mm、横4mm、厚み3mmの板状体)を作製した。それぞれの試験体を用いて、第二相について、25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)により測定し、25℃および150℃の3点曲げ強度を抗折強度計(今田製作所製;SV−301)により測定した。得られた結果を表1に示す。
【0047】
実施例1のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行った。実施例1のヒートサイクル試験後、アルミニウム−炭化珪素質複合体にうねりや窪み形状は確認されなかった。また、外周部を目視で確認したところ、クラックは存在せず、超音波探傷装置にて内部探傷検査を行ったが、アルミニウム−炭化珪素質複合体にクラックは存在しなかった。
【0048】
次いで、実施例1のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った後に、外観及び接合状態を超音波探傷により確認したところ、接合層である半田にクラックは確認されなかった。得られた結果を表2に示す。
【0049】
[実施例2]
炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製:NG−150、平均粒径:100μm)100g、炭化珪素粉末B(大平洋ランダム社製:NG−220、平均粒径:60μm)100g、炭化珪素粉末C(屋久島電工社製:GC−1000F、平均粒径:10μm)100g、及びシリカゾル(日産化学社製:スノーテックス)30gを秤取し、攪拌混合機で30分間混合した後、190mm×140mm×5.5mmの寸法の平板状に圧力10MPaでプレス成形した。
【0050】
得られた成形体を、温度120℃で2時間乾燥後、大気中、温度950℃で2時間焼成して、相対密度が65%の多孔質炭化珪素成形体を得た。得られた多孔質炭化珪素成形体は、平面研削盤でダイヤモンド製の砥石を用いて、4.8mmの厚みに面加工した後、マシニングセンターで外形寸法が183×133mmに外周部を加工した。得られた多孔質炭化珪素成形体の3点曲げ強度を測定した結果、10MPaであった。
【0051】
多孔質炭化珪素成形体の外周の両長辺および両短辺(外周部に占めるアルミニウム−セラミックスファイバー複合体の割合:100面積%)にムライト質のセラミックスファイバー(平均繊維径15μm、平均アスペクト比120、体積率5体積%)を隣接して配置し、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0052】
実施例2のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行った。
【0053】
次いで、実施例2のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った。得られた結果を表2に示す。
【0054】
[実施例3]
セラミックスファイバーの体積率を20体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0055】
実施例3のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行った。
【0056】
次いで、実施例3のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った。得られた結果を表2に示す。
【0057】
[実施例4]
実施例1のアルミニウム−炭化珪素質複合体を平面研削盤にてダイヤモンド製の砥石を用いて1.0mm研削加工してアルミニウム−炭化珪素質複合体を露出させ、187×137×4mmの形状とした。次に、得られた加工体は、加工時の歪み除去のために、電気炉で530℃の温度で1時間アニール処理を行った。次いで、圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化した後、無電解Ni―P及びNi−Bめっきを行った。複合体表面に8μm厚(Ni−P:6μm+Ni−B:2μm)のめっき層を形成した。
【0058】
実施例4のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行った。
【0059】
次いで、実施例4のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った。得られた結果を表2に示す。
【0060】
[実施例5、6]
アルミニウム炭化珪素質複合体中の炭化珪素の含有率を50体積%、80体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0061】
実施例5、6のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行った。
【0062】
次いで、実施例5,6のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った。得られた結果を表2に示す。
【0063】
[実施例7、8]
多孔質炭化珪素質成形体を平面研削盤でダイヤモンド製の砥石を用いて、1.8mm、5.8mmの厚みに面加工し、アルミニウム−炭化珪素質複合体の厚みを2.0mm、6.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0064】
実施例7、8のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行った。
【0065】
次いで、実施例7,8のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った。得られた結果を表2に示す。
【0066】
[実施例9]
セラミックスファイバーの平均繊維径を20μm、平均アスペクト比を100、体積率を5体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0067】
実施例9のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行った。
【0068】
次いで、実施例9のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った。得られた結果を表2に示す。
【0069】
[比較例1]
炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製:NG−150、平均粒径:100μm)100g、炭化珪素粉末B(大平洋ランダム社製:NG−220、平均粒径:60μm)100g、炭化珪素粉末C(屋久島電工社製:GC−1000F、平均粒径:10μm)100g、及びシリカゾル(日産化学社製:スノーテックス)30gを秤取し、攪拌混合機で30分間混合した後、190mm×140mm×5.5mmの寸法の平板状に圧力10MPaでプレス成形した。
【0070】
得られた成形体を、温度120℃で2時間乾燥後、大気中、温度950℃で2時間焼成して、相対密度が65%の多孔質炭化珪素成形体を得た。得られた多孔質炭化珪素成形体は、平面研削盤でダイヤモンド製の砥石を用いて、4.8mmの厚みに面加工した後、マシニングセンターで外形寸法が183×133mmに外周部を加工した。得られた多孔質炭化珪素成形体の3点曲げ強度を測定した結果、10MPaであった。
【0071】
得られた多孔質炭化珪素成形体の外周の片長辺(外周部に占めるアルミニウム−セラミックスファイバー複合体の割合:29面積%)にムライト質のセラミックスファイバー(平均繊維径15μm、平均アスペクト比120、体積率5体積%)を隣接して配置し、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0072】
得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体を圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化した後、無電解Ni―P及びNi−Bめっきを行った。複合体表面に8μm厚(Ni−P:6μm+Ni−B:2μm)のめっき層を形成した。
【0073】
比較例1のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行ったところ、試験後にうねり形状が確認された。
【0074】
次いで、比較例1のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った後に、外観及び接合状態を超音波探傷により確認したところ、接合層である半田にクラックは確認されなかった。得られた結果を表2に示す。
【0075】
[比較例2]
アルミニウム炭化珪素質複合体中の炭化珪素の含有率を45体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0076】
比較例2のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行った。
【0077】
次いで、比較例2のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った後に、外観及び接合状態を超音波探傷により確認したところ、接合層である半田にクラックが確認された。
【0078】
[比較例3]
アルミニウム炭化珪素質複合体中の炭化珪素の含有率を85体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体を超音波探傷装置にて内部探傷検査を行ったところ、アルミニウム−炭化珪素質複合体にクラックが確認された。
【0079】
[比較例4]
多孔質炭化珪素質成形体を平面研削盤でダイヤモンド製の砥石を用いて、1.3mmの厚みに面加工し、アルミニウム−炭化珪素質複合体の厚みを1.5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体を超音波探傷装置により、内部探傷検査を行ったところ、アルミニウム−炭化珪素質複合体にクラックが確認された。
【0080】
[比較例5]
多孔質炭化珪素質成形体を平面研削盤でダイヤモンド製の砥石を用いて、6.3mmの厚みに面加工し、アルミニウム−炭化珪素質複合体の厚みを6.5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0081】
比較例5のめっき品を用いて、温度350℃に加熱したホットプレートに当該めっき品を載せ、物温が350℃に達した後、10分間保持した後、25℃まで自然冷却するヒートサイクル試験を10回行った。
【0082】
次いで、比較例5のめっき品にAl回路基板を鉛フリーはんだで接合した後、−40℃と125℃の恒温槽に30分間保持するヒートサイクル試験(500回)を行った後に、外観及び接合状態を超音波探傷により確認したところ、接合層である半田にクラックが確認された。
【0083】
[比較例6]
セラミックスファイバーの平均繊維径を25μm、平均アスペクト比を90、体積率を5体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体の外周を目視で確認したところ、外周アルミニウム−セラミックスファイバー複合体部にクラックが確認された。
【0084】
[比較例7]
セラミックスファイバーの平均繊維径を15μm、平均アスペクト比を120、体積率を25体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0085】
得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体を圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化した後、無電解Ni―P及びNi−Bめっきを行った。複合体表面に8μm厚(Ni−P:6μm+Ni−B:2μm)のめっき層を形成した。
【0086】
比較例7のめっき品の外周を目視で確認したところ、外周アルミニウム−セラミックスファイバー複合体部に多数のめっき未着部が確認された。
【0087】
実施例、比較例の主要条件と結果を表1、2に示す。なお、実施例2〜9、比較例1〜7については、実施例1と同様にして、第一相の熱膨張係数、熱伝導率及び3点曲げ強度を測定した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0090】
図1】本発明で使用される、アルミニウム−炭化珪素質複合体の一実施の形態を示す説明図である。
図2】本発明で使用される、アルミニウム−炭化珪素質複合体の一実施の形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0091】
a)アルミニウム−炭化珪素質複合体
b)アルミニウム−セラミックスファイバー複合体を含む外周部
c)φ7mmの貫通穴
d)φ10−4mmの皿穴
e)表面アルミニウム合金層
図1
図2