(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704997
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】超高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための方法、及び得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20200525BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20200525BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20200525BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20200525BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20200525BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20200525BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
C22C38/38
C23C2/06
C23C2/02
C23C2/28
C23C2/40
【請求項の数】18
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-534160(P2018-534160)
(86)(22)【出願日】2015年12月29日
(65)【公表番号】特表2019-505678(P2019-505678A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】IB2015060026
(87)【国際公開番号】WO2017115107
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2018年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジリナ,オルガ・エイ
(72)【発明者】
【氏名】パナヒ,デイモン
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−090475(JP,A)
【文献】
特開2011−184757(JP,A)
【文献】
特開2015−151576(JP,A)
【文献】
特表2015−533942(JP,A)
【文献】
特開2009−209450(JP,A)
【文献】
特開2002−302734(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/199922(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/120020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための方法であって、
−重量%で、
0.34%≦C≦0.45%
1.50%≦Mn≦2.30%
1.50≦Si≦2.40%
0%<Cr≦0.7%
0%≦Mo≦0.3%
0.10%≦Al≦0.7%、
0%≦Nb≦0.05%
を含み、残りはFe及び不可避の不純物である化学組成を有する鋼で作製された冷間圧延鋼板を提供するステップと、
−鋼のAc3変態点より高い焼鈍温度ATで冷間圧延鋼板を焼鈍するステップと、
−鋼のMs変態点より低く、150℃〜250℃の間に含まれる焼き入れ温度QTまで冷却することにより、焼鈍された鋼板を焼き入れするステップと、
−焼き入れされた鋼板を、350℃〜450℃の間の分配温度PTまで再加熱し、鋼板を、少なくとも80秒の分配時間Ptの間分配温度PTに維持するステップと、
−亜鉛浴中での溶融めっきにより鋼板をコーティングし、続いて、470℃〜520℃の間に含まれる合金化温度GATで合金化溶融亜鉛めっきを行うステップと
を連続して含み、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、50%〜70%のマルテンサイト、残留オーステナイト及びベイナイトからなる構造を有する、
方法。
【請求項2】
マルテンサイト及びオーステナイトからなる構造を有する焼き入れされた鋼板を得るために、焼き入れの間、焼鈍された鋼板が、冷却時のフェライト形成を回避するのに十分な冷却速度で焼き入れ温度QTまで冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却速度が、20℃/秒以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
焼き入れ温度が、200℃〜230℃の間である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
分配時間Ptが、100秒〜300秒の間に含まれる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
焼鈍温度ATが、870℃〜930℃の間に含まれる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
合金化温度GATが、480℃〜500℃の間に含まれる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
鋼板が、5秒〜15秒の間に含まれる時間GAtの間、合金化温度GATに維持される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
鋼の組成が、Al≦0.30%であるような組成である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
鋼の組成が、0.15%≦Alであるような組成である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
鋼の組成が、0.03%≦Nb≦0.05%であるような組成である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板が、少なくとも1450MPaの引張強度TS及び少なくとも17%の全伸びTEを示す、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
重量%で、
0.34%≦C≦0.45%
1.50%≦Mn≦2.30%
1.50≦Si≦2.40%
0%<Cr≦0.7%
0%≦Mo≦0.3%
0.10%≦Al≦0.7%、
0%≦Nb≦0.05%を含み、
残りはFe及び不可避の不純物である化学組成を有する鋼で作製された合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、鋼の構造は、50%〜70%のマルテンサイト、残留オーステナイト及びベイナイトからなる、合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項14】
鋼の組成が、Al≦0.30%であるような組成である、請求項13に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項15】
鋼の組成が、0.15%≦Alであるような組成である、請求項13又は14に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項16】
鋼の組成が、0.03%≦Nb≦0.05%であるような組成である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項17】
残留オーステナイトが、0.9%〜1.2%の間に含まれるC含量を有する、請求項13〜16のいずれか一項に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項18】
少なくとも1450MPaの引張強度TS及び少なくとも17%の全伸びTEを示す、請求項13〜17のいずれか一項に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された引張強度及び改善された全伸びを有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造、並びにこの方法により得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車両の本体構造部材及び本体パネルの部品等の様々な備品を製造するためには、現在、DP(二相)鋼、多層、複雑相又はマルテンサイト鋼で作製された板を使用することが通常である。
【0003】
例えば、高強度多層は、いくつかの残留オーステナイトを有する/有さないベイナイト−マルテンサイト構造を含んでもよく、また約0.2%のC、約2%のMn、約1.5%のSiを含有し、これにより約750MPaの降伏強度、約980MPaの引張強度及び約10%の全伸びがもたらされる。これらの板は、連続焼鈍ライン上で、Ac3変態点より高い焼鈍温度からMs変態点を超える過時効温度まで焼き入れし、板を所与の時間その温度に維持することにより製造される。任意選択で、板は、亜鉛めっき又は合金化溶融亜鉛めっきされる。
【0004】
地球環境保全の観点から燃料効率を改善するために自動車部品の重量を低減するには、改善された強度−延性バランスを有する板を有することが望ましい。しかしながら、そのような板はまた、良好な成形性も有さなければならない。
【0005】
さらに、合金化溶融亜鉛めっきは、スポット溶接及びスタンピング後に改善された溶接性及び高い耐腐食性を提供するため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することが望ましい。
【0006】
この点において、少なくとも1450MPaの引張強度TS及び少なくとも17%の全伸びTEを有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することが望ましい。これらの特性は、2009年10月に公開されたISO標準ISO 6892−1に従って測定される。測定方法の違いに起因して、特に使用される検体のサイズの違いに起因して、ISO標準に従う全伸びの値は、JIS Z 2201−05標準に従う全伸びの値とは非常に異なっており、特にそれよりも低い。さらに、堅牢である、すなわち方法パラメータの変動が、得られる機械的特性の重大な変動をもたらさないような製造方法により、合金化溶融亜鉛めっき板を製造することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、そのような板、及びそれを製造するための堅牢な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このために、本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための方法であって、
−重量%で、
0.34%≦C≦0.45%
1.50%≦Mn≦2.30%
1.50≦Si≦2.40%
0%<Cr≦0.7%
0%≦Mo≦0.3%
0.10%≦Al≦0.7%、
及び任意選択で0%≦Nb≦0.05%
を含み、残りはFe及び不可避の不純物である化学組成を有する鋼で作製された冷間圧延鋼板を提供するステップと、
−鋼のAc3変態点より高い焼鈍温度ATで冷間圧延鋼板を焼鈍するステップと、
−鋼のMs変態点より低く、150℃〜250℃の間に含まれる焼き入れ温度QTまで冷却することにより、焼鈍された鋼板を焼き入れするステップと、
−焼き入れされた鋼板を、350℃〜450℃の間の分配温度PTまで再加熱し、鋼板を、少なくとも80秒の分配時間Ptの間分配温度PTに維持するステップと、
−亜鉛浴中での溶融めっきにより鋼板をコーティングし、続いて、470℃〜520℃の間に含まれる合金化温度GATで合金化溶融亜鉛めっきを行うステップと
を連続して含む方法に関する。
【0009】
本発明の他の有利な態様によれば、方法は、単独で、又は任意の技術的に可能な組み合わせに従って考慮される以下の特徴の1つ以上をさらに含む:
−マルテンサイト及びオーステナイトからなる構造を有する焼き入れされた鋼板を得るために、焼き入れの間、焼鈍された鋼板は、冷却時のフェライト形成を回避するのに十分な冷却速度で焼き入れ温度QTまで冷却される、
−前記冷却速度は、20℃/秒以上である、
−焼き入れ温度は、200℃〜230℃の間である、
−分配時間Ptは、100秒〜300秒の間に含まれる、
−焼鈍温度ATは、870℃〜930℃の間に含まれる、
−合金化温度GATは、480℃〜500℃の間に含まれる、
−鋼板は、5秒〜15秒の間に含まれる時間GAtの間合金化温度GATに維持される、
−鋼の組成は、Al≦0.30%であるような組成である、
−鋼の組成は、0.15%≦Alであるような組成である、
−鋼の組成は、0.03%≦Nb≦0.05%であるような組成である、
−前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、少なくとも1450MPaの引張強度TS及び少なくとも17%の全伸びTEを示す。
【0010】
本発明はまた、重量%で、
0.34%≦C≦0.45%
1.50%≦Mn≦2.30%
1.50≦Si≦2.40%
0%<Cr≦0.7%
0%≦Mo≦0.3%
0.10%≦Al≦0.7%、
及び任意選択で0%≦Nb≦0.05%を含み、
残りはFe及び不可避の不純物である化学組成を有する鋼で作製された合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、鋼の構造は、50%〜70%のマルテンサイト、残留オーステナイト及びベイナイトからなる、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【0011】
本発明の他の有利な態様によれば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、単独で、又は任意の技術的に可能な組み合わせに従って考慮される以下の特徴の1つ以上を含む:
−鋼の組成は、Al≦0.30%であるような組成である、
−鋼の組成は、0.15%≦Alであるような組成である、
−鋼の組成は、0.03%≦Nb≦0.05%であるような組成である、
−残留オーステナイトは、0.9%〜1.2%の間に含まれるC含量を有する、
−前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、少なくとも1450MPaの引張強度TS及び少なくとも17%の全伸びTEを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本発明を詳細に説明するが、限定を導入することはない。
【0013】
本発明によれば、板は、重量%で以下を含む化学組成を有する鋼で作製された熱間圧延及び好ましくは冷間圧延鋼板を熱処理することにより得られる:
−満足のいく強度を確保し、また十分な伸びを得るために必要な残留オーステナイトの安定性を改善するための、0.34%〜0.45%の炭素。炭素含量が0.45%を超える場合、熱間圧延板は冷間圧延するには硬過ぎ、溶接性が不十分である。
【0014】
−コーティング性に有害となる板の表面における酸化ケイ素の形成を防止するための適切な手順により、オーステナイトを安定化し、固溶強化を提供し、分配の間炭化物の形成を遅延させるための、1.50%〜2.40%のケイ素。好ましくは、ケイ素含量は、1.80%以上である。好ましくは、ケイ素含量は、2.20%以下である。
【0015】
−1.50%〜2.30%のマンガン。最小含量は、少なくとも50%のマルテンサイトを含有する微細構造、及び少なくとも1450MPaの引張強度を得るために十分な硬化性を有するように定義される。最大値は、延性に有害である偏析問題が生じるのを回避するように定義される。
【0016】
−分配の間のオーステナイト分解を強力に低減するために、硬化性を増加させるため、及び残留オーステナイトを安定化するための0%〜0.3%のモリブデン及び0%〜0.7%のクロム。残留量に起因して、完全ゼロ値は除外される。実施形態によれば、組成は、0%〜0.5%のクロムを含む。好ましくは、モリブデン含量は0.07%〜0.20%の間に含まれ、クロム含量は、好ましくは0.25%〜0.45%の間に含まれる。
【0017】
−0.10%〜0.7%のアルミニウム。アルミニウムは、高レベルの伸び及び良好な強度−延性バランスを得るために、並びに製造方法の堅牢性を増加させるために、特に焼き入れ温度及び分配時間が変動する場合の得られる機械的特性の安定性を増加させるために添加される。焼鈍をより困難とする温度へのAc
3変態点の上昇を防止するために、0.7%の最大アルミニウム含量が定義される。好ましくは、アルミニウム含量は、0.15%以上及び/又は0.30%以下であり、これにより少なくとも17%の全伸びTE及び少なくとも16%の均一伸びUEを得ることができる。好ましくは、アルミニウムは、脱酸段階の後の後期段階で添加される。
【0018】
残りは、鉄及び残留元素又は製鋼から生じる不可避の不純物である。この点において、少なくともNi、Cu、V、Ti、B、S、P及びNが、不可避の不純物である残留元素として考慮される。したがって、一般に、それらの含量は、Niの場合0.05%未満、Cuの場合0.05未満、Vの場合0.007%未満、Bの場合0.001%未満、Sの場合0.005%未満、Pの場合0.02%未満及びNの場合0.010%未満である。
【0019】
所望の微細構造と、生成物特性、特に増加した引張強度との最適な組み合わせを得るために、0%〜0.05%のニオブ及び/又は0%〜0.1%のチタン等のマイクロ合金元素の添加が利用されてもよい。例えば、Nbは、0.03%〜0.05%の間に含まれる量で添加される。
【0020】
熱間圧延された板は、この鋼から既知の様式で製造され得る。
【0021】
例として、上記組成を有する板は、1200℃〜1280℃の間の温度、好ましくは約1250℃に加熱され、好ましくは850℃未満の仕上げ圧延温度で熱間圧延され、次いで好ましくは500℃〜730℃の間に含まれる温度で冷却及び巻回される。次いで、板は冷間圧延される。
【0022】
圧延後、板は酸洗又は洗浄され、次いで熱処理及び合金化溶融亜鉛めっきされる。
【0023】
好ましくは連続焼鈍及び溶融めっきライン上で行われる熱処理は、以下の連続したステップを含む。
【0024】
−完全にオーステナイトの構造を有する焼鈍された鋼板を得るために鋼のAc3変態点以上である、好ましくはAc3+15℃より高いが、オーステナイト粒を過度に粗大化させないために1000℃未満である焼鈍温度ATで、冷間圧延された板を焼鈍するステップ。一般に、870℃を超える温度が本発明による鋼に十分であり、この温度は930℃を超える必要はない。次いで、鋼板は、鋼内の温度を均一化するのに十分な時間、この温度に維持される、すなわちAT−5℃〜AT+10℃の間に維持される。好ましくは、この時間は、30秒超であるが、300秒超である必要はない。焼鈍温度まで加熱するために、冷間圧延鋼板は、例えばまず典型的には20℃/秒未満、例えば10℃/秒未満の加熱速度で約600℃の温度まで加熱され、次いで、典型的には10℃/秒未満、例えば2℃/秒未満の加熱速度で約800℃の温度まで再び加熱され、最終的に、5℃/秒未満、例えば1.5℃/秒未満の加熱速度で焼鈍温度まで加熱される。この場合、板は、40〜150秒の間の焼鈍時間Atの間、焼鈍温度ATに維持される。
【0025】
−Ms変態点より低く、150℃〜250℃の間に含まれる焼き入れ温度QTまで冷却することにより、焼鈍された板を焼き入れするステップ。焼鈍された板は、冷却時のフェライト形成の形成を回避するのに十分な冷却速度で焼き入れ温度QTまで冷却される。好ましくは、冷却速度は、20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれ、例えば、25℃/秒以上である。焼き入れの間の焼き入れ温度QT及び冷却速度は、マルテンサイト及びオーステナイトからなる構造を有する焼き入れされた板が得られるように選択される。焼き入れされた板内のマルテンサイト及びオーステナイト含量は、熱処理及び合金化溶融亜鉛めっきの後に、50%〜70%のマルテンサイト、残留オーステナイト及びベイナイトからなる最終構造を得ることができるように選択される。焼き入れ温度QTが150℃未満である場合、最終構造内の分配されたマルテンサイトの割合は、十分な量の残留オーステナイトを安定化するには高過ぎ、したがって全伸びは17%に達しない。さらに、焼き入れ温度QTが350℃より高い場合、分配されたマルテンサイトの割合は、所望の引張強度を得るには低過ぎる。好ましくは、焼き入れ温度QTは、200℃〜230℃の間に含まれる。
【0026】
−焼き入れされた板を、350℃〜450℃の間に含まれる分配温度PTまで再加熱するステップ。加熱速度は、好ましくは少なくとも30℃/秒である。
【0027】
−板を、少なくとも80秒、例えば80秒〜300秒の間に含まれる、好ましくは少なくとも100秒の分配時間Ptの間、分配温度PTに維持するステップ。分配ステップの間、炭素が分配され、すなわちマルテンサイトからオーステナイトに拡散し、したがってオーステナイトは炭素に富む。分配の度合いは、保持ステップの期間と共に増加する。したがって、保持期間Ptは、分配を可能な限り完全に提供するのに十分長くなるように選択される。しかしながら、長過ぎる期間は、オーステナイト分解及び過度のマルテンサイトの分配を、ひいては機械的特性の低減を引き起こし得る。したがって、分配時間は、フェライトの形成を可能な限り回避するように制限される。
【0028】
−亜鉛浴内で板を溶融めっきし、続いて合金化温度GATで合金化溶融亜鉛めっきするステップ。合金化温度への加熱は、好ましくは、少なくとも20℃/秒、好ましくは少なくとも30℃/秒の加熱速度で行われる。好ましくは、合金化温度GATは、470℃〜520℃の間に含まれる。さらに好ましくは、合金化温度は、500℃以下及び/又は480℃以上である。板は、例えば5秒〜20秒の間、好ましくは5秒〜15秒の間、例えば8秒〜12秒の間に含まれる時間GAtの間、合金化温度GATに維持される。
【0029】
−合金化溶融亜鉛めっき後に、合金化溶融亜鉛めっきされた板を室温まで冷却するステップ。室温までの冷却速度は、好ましくは、3〜20℃/秒の間である。
【0030】
この熱処理及び合金化溶融亜鉛めっきにより、すなわち分配、合金化溶融亜鉛めっき及び室温への冷却後に、50%〜70%の間に含まれる表面割合を有するマルテンサイト、残留オーステナイト及びベイナイトからなる最終構造を得ることができる。
【0031】
50%〜70%の間に含まれるマルテンサイトの割合により、少なくとも1450MPaの引張強度を得ることができる。
【0032】
さらに、この処理により、残留オーステナイト内で、少なくとも0.9%、好ましくは少なくとも1.0%、及び最大1.2%の増加したC含量を得ることができる。
【0033】
この熱処理により、少なくとも900MPaの降伏強度、少なくとも1450MPaの引張強度、少なくとも16%の均一伸び及び少なくとも17%の全伸びを有する板を得ることが可能である。
【0034】
例及び比較として、その重量%での組成、並びにAc3及びMs等の臨界温度が表Iに報告されている鋼でできた板を製造した。
【0036】
下線の値は、本発明によるものではない。
【0037】
いくつかの板を、80秒の時間t
Aの間温度T
Aで焼鈍し、25℃/秒の冷却速度で温度QTで焼き入れすることにより熱処理し、40℃/秒の再加熱速度で分配温度PTに再加熱し、分配時間Ptの間分配温度PTに維持し、次いで時間GAt又は10秒の間合金化温度GATで合金化溶融亜鉛めっきし、次いで5℃/秒の冷却速度で室温まで冷却した。
【0038】
圧延方向に対して横方向における機械的特性を測定した。当技術分野において周知であるように、延性レベルは、そのような高強度鋼の場合、横方向よりも圧延方向において若干より良好である。測定された特性は、降伏強度YS、引張応力TS、均一伸びUE及び全伸びTEである。
【0039】
処理の条件及び機械的特性は、表IIに報告されている。
【0040】
これらの表において、ATは焼鈍温度、QTは焼き入れ温度、PTは分配温度、Ptは分配時間、及びGATは合金化温度である。
【0042】
実施例1〜6は、本発明による組成を有する、特に0.17%のAlを含む鋼を用いて、215℃又は230℃の焼き入れ温度QT、及び400℃の分配温度PTにより、高レベルの伸び及び良好な強度−延性バランスを有する鋼板を得ることができることを示している。実際に、実施例1〜6の板は全て、少なくとも910MPaの降伏強度、少なくとも1450MPaの引張強度、少なくとも16.5%の均一伸びUE及び少なくとも17%、さらには21%の全伸びTEを有する。
【0043】
実施例1〜6の機械的特性の比較は、さらに、得られた所望の機械的特性が、215℃〜230℃の範囲の焼き入れ温度QTに対して、及び100秒〜300秒の間に含まれる場合分配時間Ptに対してほぼ非感受性であることを示している。したがって、得られた特性は、焼き入れ温度及び/又は分配時間の変動に対して非常に堅牢である。
【0044】
これと比較して、0.048%のAlを含有する鋼で作製された実施例7〜8の特性は、分配時間Ptの変動に対してより感受性である。