特許第6705019号(P6705019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6705019直流整流子電動機の回転に関する情報を取得する装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705019
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】直流整流子電動機の回転に関する情報を取得する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/06 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   H02P7/06 G
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-558952(P2018-558952)
(86)(22)【出願日】2017年12月4日
(86)【国際出願番号】JP2017043477
(87)【国際公開番号】WO2018123453
(87)【国際公開日】20180705
【審査請求日】2019年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-256129(P2016-256129)
(32)【優先日】2016年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】都 軍安
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勤
【審査官】 上野 力
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−323488(JP,A)
【文献】 特開平11−187687(JP,A)
【文献】 特開2002−058274(JP,A)
【文献】 特開2014−007807(JP,A)
【文献】 特開平06−311773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
整流子を備えた電動機の回転に関する情報を取得する装置であって、
前記電動機の端子間電圧と前記電動機を流れる電流とに基づいて前記電動機の回転角度を算出する回転角度算出部と、
前記電動機を流れる電流に含まれるリップル成分に基づいて第1信号を生成する第1信号生成部と、
前記第1信号と前記回転角度とに基づいて前記電動機が所定角度だけ回転したことを表す第2信号を生成する第2信号生成部と、
前記第2信号生成部の出力に基づいて前記電動機の回転に関する情報を算出する回転情報算出部と、を含み、
前記第2信号生成部は、前記回転角度が前記所定角度に達したときに、前記回転角度をゼロにリセットする指令を前記回転角度算出部に出力するように構成されている
装置。
【請求項2】
前記回転角度算出部は、前記電動機の端子間電圧と前記電動機を流れる電流とに基づいて算出される前記電動機の回転角速度を積算して前記回転角度を算出するように構成され、
前記第2信号生成部は、前記回転角度が前記所定角度に達したときに、前記第2信号を生成するように構成されている、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記所定角度は、整流子片の円弧の中心角である、
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記第2信号生成部は、前記第1信号を受けたときに、前記回転角度が第1閾値以上であれば、前記第2信号を生成するように構成され、
前記第1閾値は、前記所定角度より小さい、
請求項1乃至の何れかに記載の装置。
【請求項5】
前記第2信号生成部は、前記第1信号を受けたときに、前記回転角度が前記第1閾値未満であれば、前記第2信号を生成しないように構成されている、
請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記第2信号生成部は、前記第1信号を受けたときに、前記回転角度が第2閾値より小さければ、前記回転角度をリセットする指令を前記回転角度算出部に出力するように構成され、
前記第2閾値は、前記第1閾値より小さい、
請求項又はに記載の装置。
【請求項7】
前記第2信号生成部は、前記第1信号を受けたときに、前記回転角度が前記第1閾値以上であれば、前記回転角度をリセットする指令を前記回転角度算出部に出力するように構成されている、
請求項4乃至6の何れかに記載の装置。
【請求項8】
整流子を備えた電動機の回転に関する情報を取得する方法であって、
前記電動機の端子間電圧と前記電動機を流れる電流とに基づいて前記電動機の回転角度を算出する工程と、
前記電動機を流れる電流に含まれるリップル成分に基づいて第1信号を生成する工程と、
前記第1信号と前記回転角度とに基づいて前記電動機が所定角度だけ回転したことを表す第2信号を生成する工程と、
前記第2信号に基づいて前記電動機の回転に関する情報を算出する工程と、を含み、
前記第2信号を生成する工程では、前記回転角度が前記所定角度に達したときに、前記回転角度をゼロにリセットする指令が出力される
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、直流整流子電動機の回転に関する情報を取得する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機を流れる電流に含まれるリップル成分に基づいて電動機の回転量を取得する装置が知られている(特許文献1参照。)。この装置は、リップル成分と同じ周波数を有するパルス信号を生成し、そのパルス信号の数をカウントして電動機の回転量を取得する。そのため、電動機が一定の回転角速度で回転している場合にはある程度の精度で回転量を取得できる。しかし、電源をオフした後の惰性回転中等、リップル成分が小さくなる場合にはその回転量を高精度に取得することができない。
【0003】
これに対し、リップル成分が小さい場合の回転量をより高精度に取得できるようにした装置が知られている(特許文献2参照。)。この装置は、電動機を流れる電流とその端子間電圧から算出される逆起電圧の積分値に基づいてパルス信号の数を補正することで電動機の回転量をより高精度に取得できるようにしている。
【0004】
具体的には、パルス信号が生成された時の実際の積分値が、リップル成分の1周期の間の平均的な積分値よりも著しく小さい場合にそのパルス信号を誤パルスとし、パルス信号の数をマイナス補正する。或いは、前回のパルス信号が生成されてから所定時間が経過した時の実際の積分値が、その平均的な積分値よりも著しく大きい場合にパルス信号の生成漏れが発生したとしてパルス信号の数をプラス補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−261134号公報
【特許文献2】特開2005−323488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の装置は、電動機が停止したと考えられる十分な時間が経過するまではパルス信号の数をプラス補正することができない。そのため、正確な回転量を適時に取得できず、信頼性の高い回転量を取得できないおそれがある。
【0007】
上述の点に鑑み、直流整流子電動機の回転に関する情報をより高い信頼性で取得できる装置を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施例に従った装置は、整流子を備えた電動機の回転に関する情報を取得する装置であって、前記電動機の端子間電圧と前記電動機を流れる電流とに基づいて前記電動機の回転角度を算出する回転角度算出部と、前記電動機を流れる電流に含まれるリップル成分に基づいて第1信号を生成する第1信号生成部と、前記第1信号と前記回転角度とに基づいて前記電動機が所定角度だけ回転したことを表す第2信号を生成する第2信号生成部と、前記第2信号生成部の出力に基づいて前記電動機の回転に関する情報を算出する回転情報算出部と、を含み、前記第2信号生成部は、前記回転角度が前記所定角度に達したときに、前記回転角度をゼロにリセットする指令を前記回転角度算出部に出力するように構成されている
【発明の効果】
【0009】
上述の手段により、直流整流子電動機の回転に関する情報をより高い信頼性で取得できる装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例に係る装置の構成例を示す概略図である。
図2】整流子の概略図である。
図3】第1信号生成部が第1パルス信号を生成するタイミングの一例を示す図である。
図4】第2信号生成部が第2パルス信号を生成するタイミングの一例を示す図である。
図5】回転量算出処理のフローチャートである。
図6】合成パルス信号及びホールパルス信号のそれぞれの推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照し、本発明の実施例に係る装置100について説明する。図1は、本発明の実施例に係る装置100の構成例を示す概略図である。
【0012】
装置100は、電動機10の回転に関する情報(以下、「回転情報」とする。)を取得する装置である。図1の例では、装置100は、電動機10の端子間の電圧Vと電動機10を流れる電流Imとに基づいて電動機10の回転情報を取得する。装置100は、例えば、ホールセンサ等の回転センサを用いずに、取得した回転情報に基づいて電動機10の回転軸の回転位置を制御してもよい。
【0013】
電動機10は、例えば、整流子を備えた直流整流子電動機である。電動機10は、例えば、自動車のウィンドウの昇降、ドアミラーの角度の調整、空調装置における送風量の調整、ヘッドライトの光軸の調整等で使用される。
【0014】
図2は整流子20の一例の概略図である。図2に示すように、整流子20は、スリット20sによって互いに隔てられた8つの整流子片20aで構成されている。各整流子片20aの円弧の中心角であるスリット間角度θcは約45度である。
【0015】
図1の例では、電動機10は、4つのスイッチSW1〜SW4を介して電源に接続されている。そして、スイッチSW1とスイッチSW3とが閉状態(導通状態)となったときに時計回りに順回転し、スイッチSW2とスイッチSW4とが閉状態(導通状態)となったときに反時計回りに逆回転するように構成されている。電源に接続されている図1の例では、順回転する電動機10を流れる電流が正値を有し、逆回転する電動機10を流れる電流が負値を有する。惰性回転中は、スイッチSW2とスイッチSW3とが閉状態(導通状態)となり、順回転する電動機10を流れる電流は負値を有し、逆回転する電動機10を流れる電流は正値を有する。
【0016】
電圧検出部10aは、電動機10の端子間の電圧Vを検出するように構成されている。電流検出部10bは、電動機10を流れる電流Imを検出するように構成されている。
【0017】
装置100は、主に、電圧フィルタ部30、回転角速度算出部31、回転角度算出部32、電流フィルタ部33、第1信号生成部34、第2信号生成部35、回転情報算出部36等の機能要素を含む。各機能要素は、電気回路で構成されていてもよく、ソフトウェアで構成されていてもよい。
【0018】
電圧フィルタ部30は、電圧検出部10aが出力する電圧Vを調整するように構成されている機能要素である。電圧フィルタ部30は、例えば、回転角速度算出部31が電動機10の回転角速度を適切に算出できるように電圧Vを調整する。図1の例では、電圧フィルタ部30は、ローパスフィルタであり、電圧検出部10aが出力する電圧Vの波形のうちの高周波成分をノイズとして除去するように構成されている。
【0019】
回転角速度算出部31は、電動機10の端子間の電圧Vと電動機10を流れる電流Imとに基づいて電動機10の回転角速度を算出するように構成されている機能要素である。図1の例では、回転角速度算出部31は、式(1)に基づいて回転角速度ωを算出する。
【0020】
【数1】
Keは逆起電圧定数であり、Rmは電動機10の内部抵抗であり、Lmは電動機10のインダクタンスであり、dIm/dtは電流Imの一回微分である。電流Imの一回微分は、例えば、前回の電流Imの値と今回の電流Imの値との差である。
【0021】
回転角速度算出部31は、例えば、所定の制御周期毎に電動機10の回転角速度ωを算出し、算出した回転角速度ωを回転角度算出部32に対して出力するように構成されていてもよい。
【0022】
回転角度算出部32は、電動機10の回転角度θを算出するように構成されている機能要素である。図1の例では、回転角度算出部32は、式(2)に基づいて回転角度θを算出する。
【0023】
【数2】
回転角度算出部32は、例えば、回転角速度算出部31が所定の制御周期毎に出力する回転角速度ωを積算して回転角度θを算出し、算出した回転角度θを第2信号生成部35に対して出力するように構成されていてもよい。
【0024】
また、回転角度算出部32は、第2信号生成部35からの同期指令に応じて回転角度θをゼロにリセットするように構成されていてもよい。
【0025】
電流フィルタ部33は、電流検出部10bが出力する電流Imを調整するように構成されている機能要素である。電流フィルタ部33は、例えば、第1信号生成部34が電流Imのリップル成分Irを適切に検出できるように電流Imを調整する。図1の例では、電流フィルタ部33は、バンドパスフィルタであり、電流検出部10bが出力する電流Imの波形のうちのリップル成分Ir以外の成分を除去するように構成されている。リップル成分Irは、電流Imに含まれる周期的な成分であり、主に、整流子片20aとブラシとの接触・分離に起因して生成される。そのため、典型的には、リップル成分Irの1周期の間に電動機10が回転する角度はスリット間角度θcに等しい。
【0026】
第1信号生成部34は、電動機10が所定角度だけ回転したことを表す信号を生成するように構成されている機能要素である。第1信号生成部34は、例えば、電流フィルタ部33が出力するリップル成分Irの波形に基づいてリップル検出信号(第1パルス信号Pa)を生成する。
【0027】
図3は、第1信号生成部34が第1パルス信号Paを生成するタイミングの一例を示す図である。第1信号生成部34は、例えば、リップル成分Irが基準電流値Ibを超える度に第1パルス信号Paを生成する。図3の例では、時刻t1、t2、t3、・・・、tn等で第1パルス信号Paを生成している。T1、T2、T3、・・・、Tn等は、リップル成分の周期を示し、θ1、θ2、θ3、・・・、θn等は、第1信号生成部34が第1パルス信号を生成したときの回転角度θを示す。回転角度θは、回転角度算出部32が算出した値である。このように、第1信号生成部34は、典型的には、回転角度θの大きさが所定角度(例えばスリット間角度θc)にほぼ等しくなったときに第1パルス信号Paを生成する。
【0028】
但し、第1信号生成部34は、例えば、電動機10の電源オフ後の惰性回転期間において電流Im及びそのリップル成分Irが小さくなった場合、リップル成分Irの波形に基づいて第1パルス信号Paを生成できないことがある。また、第1信号生成部34は、例えば、電動機10の電源オン直後に突入電流が発生した場合、その突入電流に応じて第1パルス信号Paを誤って生成してしまうことがある。このような第1パルス信号Paの生成漏れ又は誤生成は、装置100が出力する電動機10の回転情報の信頼性を低下させてしまう。
【0029】
そこで、装置100は、第2信号生成部35により、電動機10が所定角度だけ回転したことを表す信号をより高精度に生成できるようにしている。
【0030】
第2信号生成部35は、電動機10が所定角度だけ回転したことを表す信号を生成するように構成されている機能要素である。第2信号生成部35は、例えば、回転角度算出部32が出力する回転角度θと第1信号生成部34が出力する第1パルス信号Paとに基づいて疑似リップル信号(第2パルス信号Pb)を生成するように構成されていてもよい。
【0031】
図4は、第2信号生成部35が第2パルス信号Pbを生成するタイミングの一例を示す図である。
【0032】
第2信号生成部35は、例えば、回転角度θの大きさが所定角度に達したときに第2パルス信号Pbを生成する。所定角度は、例えば、スリット間角度θcである。図4の例では、時刻t3、t7、t9において回転角度θ3、θ7、θ9の絶対値がスリット間角度θcに達したときに第2パルス信号Pb3、Pb5、Pb6を生成している。第2パルス信号Pbを生成すると、第2信号生成部35は、回転角度算出部32に対して同期指令を出力する。回転角度算出部32は、同期指令を受けると回転角度θをゼロにリセットする。
【0033】
すなわち、第2信号生成部35は、例えば、時刻t2において、第2パルス信号Pb2を生成した後で第1パルス信号Paを受け取ることがない状態のまま、回転角度θ3の絶対値がスリット間角度θcに達したときに第2パルス信号Pb3を生成する。
【0034】
このように、第2信号生成部35は、何らかの理由で第1パルス信号Paが生成されなかった場合であっても、回転角度算出部32によって算出された回転角度θの絶対値がスリット間角度θcに達しさえすれば、第2パルス信号Pbを生成する。そのため、第1パルス信号Paの生成漏れを確実に防止できる。
【0035】
また、第2信号生成部35は、例えば、第1信号生成部34が第1パルス信号Paを生成したときの回転角度θが第1閾値θu以上で且つスリット間角度θc未満の場合に第2パルス信号Pbを生成する。第1閾値θuは、予め設定される値であってもよく、動的に設定される値であってもよい。図4の例では、第1信号生成部34が第1パルス信号Pa1、Pa2、Pa4を生成したときの回転角度θ1、θ2、θ5が第1閾値θu以上で且つスリット間角度θc未満である。すなわち、回転角度θ1、θ2、θ5のそれぞれがスリット間角度θcに達するまでの残りの角度が角度α未満である。この場合、第2信号生成部35は、時刻t1、t2、t5において第1信号生成部34が生成した第1パルス信号Pa1、Pa2、Pa5がノイズでないと判定できる。そのため、第2信号生成部35は、時刻t1、t2、t5において第2パルス信号Pb1、Pb2、Pb4を生成する。第2パルス信号Pbを生成すると、第2信号生成部35は、回転角度算出部32に対して同期指令を出力する。
【0036】
一方、第2信号生成部35は、例えば、第1信号生成部34が第1パルス信号Paを生成したときの回転角度θが第2閾値θd未満の場合、第2パルス信号Pbを生成しない。第2閾値θdは、予め設定される値であってもよく、動的に設定される値であってもよい。このような状況は、典型的には、回転角度θの大きさが所定角度に達したことで第2パルス信号Pbが生成された後に発生する。図4の例では、時刻t3で回転角度θ3の絶対値がスリット間角度θcに達したことで第2パルス信号Pb3が生成された後の時刻t4において、第1信号生成部34が第1パルス信号Pa3を生成している。このときの回転角度θ4は、第2閾値θd未満である。すなわち、時刻t3でリセットされた後に積算された回転角度θ4は未だ角度β未満である。この場合、第2信号生成部35は、時刻t4で第1信号生成部34が生成した第1パルス信号Pa3を、時刻t3で生成した第2パルス信号Pb3に統合可能と判定できる。具体的には、第2信号生成部35は、第1パルス信号Pa3が生成されたときに第2パルス信号Pb3を生成するはずであった。しかし、第1パルス信号Pa3が生成される前に回転角度θの絶対値がスリット間角度θcに達したために、パルス信号の生成漏れを確実に防止すべく、第1パルス信号Pa3が生成される前に第2パルス信号Pb3を生成した。そのため、第2信号生成部35は、第2パルス信号Pb3を生成した直後に生成された第1パルス信号Pa3を、第2パルス信号Pb3と同時に生成されるはずであった第1パルス信号Paと見なすことができる。この場合、第2信号生成部35は、時刻t4では第2パルス信号Pbを生成せずに、回転角度算出部32に対して同期指令を出力する。図4の「×」に向かう破線矢印は、第1パルス信号Pa3に基づいて第2パルス信号Pbが生成されなかったことを表す。他の「×」に向かう破線矢印についても同様である。
【0037】
また、第2信号生成部35は、第1信号生成部34が第1パルス信号Paを生成したときの回転角度θが第2閾値θd以上で且つ第1閾値θu未満の場合、第2パルス信号Pbを生成することはなく、回転角度算出部32に対して同期指令を出力することもない。図4の例では、時刻t6において第1信号生成部34が第1パルス信号Pa5を生成したときの回転角度θ6は、第2閾値θd以上で且つ第1閾値θu未満である。すなわち、回転角度θ6がスリット間角度θcに達するまでの残りの角度が角度αより大きく、時刻t5でリセットされた後に積算された回転角度θ6が角度β以上である。この場合、第2信号生成部35は、第1パルス信号Pa5がノイズに基づくものと判定できる。そのため、第2信号生成部35は、時刻t6では第2パルス信号Pbを生成することはなく、回転角度算出部32に対して同期指令を出力することもない。すなわち、ノイズに基づく第1パルス信号Pa5による影響を完全に排除できる。
【0038】
以上の構成により、第2信号生成部35は、例えば、電動機10の電源オフ後の惰性回転期間において電流Im及びそのリップル成分Irが小さくなり、第1信号生成部34がリップル成分Irの波形に基づいて第1パルス信号Paを生成できない場合であっても、第2パルス信号Pbを生成できる。
【0039】
また、第2信号生成部35は、例えば、電動機10の電源オン直後に突入電流が発生し、第1信号生成部34がその突入電流に応じて第1パルス信号Paを誤って生成してしまった場合であっても、その第1パルス信号Paに対応する第2パルス信号Pbを生成しない。すなわち、その第1パルス信号Paによる影響を完全に排除できる。
【0040】
そのため、装置100は、第1パルス信号Paではなく第2パルス信号Pbに基づいて電動機10の回転情報を算出することで、電動機10の回転情報の信頼性を向上させることができる。
【0041】
また、第2信号生成部35は、電動機10の回転方向を表す方向信号を出力するように構成されている。例えば、第2信号生成部35は、回転角度θが正値であれば順回転方向を表す信号を出力し、回転角度θが負値であれば逆回転方向を表す信号を出力するように構成されている。回転角度θは、電動機10を流れる電流が正値のときに正値を有し、電動機10を流れる電流が負値のときに負値を有する。但し、惰性回転中は、回転角度θは、電動機10を流れる電流が負値のときに正値を有し、電動機10を流れる電流が正値のときに負値を有する。
【0042】
回転情報算出部36は、電動機10の回転情報を算出するように構成されている機能要素である。電動機10の回転情報は、例えば、基準回転位置からの回転量(回転角度)、基準回転位置からの回転数等を含む。電動機10が自動車のウィンドウの昇降に使用される場合には、電動機10の回転情報は、基準位置に対するウィンドウの上縁の相対位置、ウィンドウの開き量等を含んでいてもよい。また、ある期間における回転角速度ωの平均値、最大値、最小値、中間値等の統計値を含んでいてもよい。図1の例では、回転情報算出部36は、第2信号生成部35の出力に基づいて電動機10の回転情報を算出する。例えば、電動機10の回転が開始した後に生成された第2パルス信号Pbの数にスリット間角度θcを乗ずることで、電動機10の回転が開始した後の回転量を算出する。その際、回転情報算出部36は、例えば、第2信号生成部35が第2パルス信号Pbと共に出力する方向信号に基づいて第2パルス信号Pbの数をインクリメントするかデクリメントするかを決定する。或いは、回転情報算出部36は、順回転方向を表す方向信号と共に受けた第2パルス信号Pbの数と、逆回転方向を表す方向信号と共に受けた第2パルス信号Pbの数とを別々に計数し、それらの差に基づいて電動機10の回転量を算出してもよい。
【0043】
次に、図5を参照し、装置100が電動機10の回転量を算出する処理(以下、「回転量算出処理」とする。)の流れについて説明する。図5は、回転量算出処理のフローチャートである。装置100は、例えば、電動機10の駆動中にこの回転量算出処理を実行する。
【0044】
最初に、装置100は、電圧V及び電流Imを取得する(ステップST1)。図1の例では、装置100は、電圧検出部10aが出力する電圧V、及び、電流検出部10bが出力する電流Imを所定の制御周期毎に取得する。
【0045】
その後、装置100は、回転角速度ω及び回転角度θを算出する(ステップST2)。図1の例では、装置100の回転角速度算出部31は、電圧Vと電流Imを式(1)に代入して回転角速度ωを所定の制御周期毎に算出する。そして、装置100の回転角度算出部32は、制御周期毎に算出される回転角速度ωを積算して回転角度θを算出する。
【0046】
その後、装置100は、回転角度θが所定角度未満であるか否かを判定する(ステップST3)。図1の例では、装置100の第2信号生成部35は、回転角度θがスリット間角度θc未満であるか否かを判定する。
【0047】
回転角度θがスリット間角度θc以上であると判定した場合(ステップST3のNO)、第2信号生成部35は、所期のタイミングで第1パルス信号Paが生成されなかったと判定する。そして、第2パルス信号Pbを生成し(ステップST10)、且つ、回転角度θをリセットする(ステップST11)。これは、第1パルス信号Paが生成される前に回転角度θがスリット間角度θcに達した場合であり、図4の例において時刻t3、t7、t9で回転角度θの絶対値が回転角度θ3、θ7、θ9に達した場合に対応する。
【0048】
一方、回転角度θがスリット間角度θc未満であると判定した場合(ステップST3のYES)、第2信号生成部35は、第1パルス信号Paが生成されたか否かを判定する(ステップST4)。図1の例では、第1信号生成部34によって第1パルス信号Paが生成されたか否かを判定する。
【0049】
回転角度θがスリット間角度θc未満の段階で第1パルス信号Paが未だ生成されていないと判定した場合(ステップST4のNO)、第2信号生成部35は、第2パルス信号Pbを生成することはなく、回転角度θをリセットすることもない。そして、回転情報算出部36は、第2信号生成部35の出力に基づいて電動機10の回転量を算出する。この場合、算出される回転量に変化はない。これは、図4の例において時刻t0で回転角度θが回転角度θ0になっている場合に対応する。
【0050】
第1パルス信号Paが生成されたと判定した場合(ステップST4のYES)、第2信号生成部35は、回転角度θが第1閾値θu未満であるか否かを判定する(ステップST5)。
所期のタイミングより早期に生成された第1パルス信号Paがノイズに基づくものであるか否かを判定するためである。
【0051】
回転角度θが第1閾値θu以上であると判定した場合(ステップST5のNO)、第2信号生成部35は、あたかも所期のタイミングで第1パルス信号Paが生成されたときと同様に動作する。すなわち、第2パルス信号Pbを生成し(ステップST10)、且つ、回転角度θをリセットする(ステップST11)。所期のタイミングより早期に生成された第1パルス信号Paがノイズに基づくものではないと判定できるためである。これは、図4の例において時刻t1、t2、t5で第1パルス信号Pa1、Pa2、Pa4が生成された場合に対応する。
【0052】
回転角度θが第1閾値θu未満であると判定した場合(ステップST5のYES)、第2信号生成部35は、現時点では、第1パルス信号Paがノイズに基づくものでないとは判定できない。この第1パルス信号Paは、所期のタイミングより早期に生成されたものではなく、所期のタイミングより遅れて生成されたものである可能性があるためである。そこで、第2信号生成部35は、回転角度θが第2閾値θd未満であるか否かを判定する(ステップST6)。所期のタイミングより遅れて生成された第1パルス信号Paがノイズに基づくものであるか否かを判定するためである。
【0053】
回転角度θが第2閾値θd未満であると判定した場合(ステップST6のYES)、第2信号生成部35は、第2パルス信号Pbを生成することなく、回転角度θをゼロにリセットする(ステップST11)。所期のタイミングより遅れて生成された第1パルス信号Paがノイズに基づくものではないと判定できるためである。すなわち、所期のタイミングより遅れて生成された第1パルス信号Paが、直前に生成した第2パルス信号Pbに対応すると判定できるためである。これは、図4の例において時刻t4、t8で第1パルス信号Pa3、Pa6が生成された場合に対応する。すなわち、第2信号生成部35は、第1パルス信号Pa3、Pa6が第2パルス信号Pb3、Pb5に対応すると判定できる。
【0054】
回転角度θが第2閾値θd以上であると判定した場合(ステップST6のNO)、第2信号生成部35は、その第1パルス信号Paがノイズに基づくものであると判定する。この場合、第2信号生成部35は、第2パルス信号Pbを生成することはなく、回転角度θをリセットすることもない。そして、回転情報算出部36は、第2パルス信号Pbを生成しない第2信号生成部35の出力に基づいて電動機10の回転量を算出する。これは、図4の例において時刻t6で第1パルス信号Pa5が生成されたときに対応する。すなわち、第2信号生成部35は、第1パルス信号Pa5をノイズに基づくものと判定している。
【0055】
その後、装置100は、電動機10の回転量を算出する(ステップST7)。図1の例では、装置100の回転情報算出部36は、電動機10の回転が開始した後に生成された第2パルス信号Pbの数にスリット間角度θcを乗ずることで、電動機10の回転が開始した後の回転量を算出する。
【0056】
次に、図6を参照し、装置100が算出した電動機10の回転量の信頼性に関する実験結果について説明する。図6は、合成パルス信号及びホールパルス信号のそれぞれの推移を示す図である。
【0057】
合成パルス信号は、第2パルス信号Pbの複数パルスを1パルスに合成することで得られる信号である。図6の例では、スリット間角度θcは90度である。第1パルス信号Pa及び第2パルス信号Pbは、基本的に、電動機10の回転軸が90度回転する度に生成されている。そして、合成パルス信号は、第2パルス信号Pbの2パルスを1パルスに合成して生成されている。すなわち、装置100は、電動機10の回転軸が180度回転する度に合成パルス信号を1つ生成するように構成されている。
【0058】
ホールパルス信号は、ホールセンサが出力したパルス信号である。ホールセンサは、第2パルス信号Pbとホールパルス信号との比較のために電動機10の回転軸に取り付けられた磁石が作る磁束を検出する。図6の例では、装置100は、電動機10の回転軸が180度回転する度にホールパルス信号を1つ生成するように構成されている。
【0059】
図6の「×」に向かう破線矢印は、第1パルス信号Paに基づいて第2パルス信号Pbが生成されなかったことを表す。すなわち、第1パルス信号Paがノイズとして無視されたことを表す。また、図6の8つの実線矢印は、第1パルス信号Paの生成漏れの際に第2パルス信号Pbが追加されたことを表す。
【0060】
図6の例では、電動機10の順回転を開始させてからその順回転を停止させるまでの期間に生成された合成パルス信号及びホールパルス信号のそれぞれの数が等しいことが確認された。すなわち、第2パルス信号Pbに基づいて算出される電動機10の回転量が、ホールセンサによって検出される電動機10の回転量に等しいことが確認された。
【0061】
上述の通り、整流子20を備えた電動機10の回転情報を取得する装置100は、電圧Vと電流Imとに基づいて回転角度θを算出する回転角度算出部32と、電流Imに含まれるリップル成分Irに基づいて第1パルス信号Paを生成する第1信号生成部34と、第1パルス信号Paと回転角度θとに基づいて電動機10が所定角度だけ回転したことを表す第2パルス信号Pbを生成する第2信号生成部35と、第2信号生成部35の出力に基づいて回転情報を算出する回転情報算出部36とを含む。そのため、装置100は、電動機10の回転情報を従来よりも高い信頼性で取得できる。また、ホールセンサ等の回転センサは、省略され得る。これは、センサインタフェース回路、ハーネス等の回転センサを利用するために必要な部品が省略され得ることを意味する。そのため、装置100は、軽量化、低コスト化、小型化等を実現できる。
【0062】
また、装置100は、望ましくは、電流Imのリップル成分Irに基づいて生成される第1パルス信号Paと、電圧V及び電流Imに基づいて算出される回転角度θとを用いて第2パルス信号Pbを生成するように構成されている。すなわち、別々の方法で導き出される2つのパラメータである第1パルス信号Paと回転角度θとを用いて第2パルス信号Pbを生成するように構成されている。そのため、装置100は、一方のパラメータが適切に導出されなかった場合であっても他方のパラメータでその不具合を補うことができる。その結果、装置100は、電動機10の回転情報をより高い信頼性で取得できる。
【0063】
回転角度算出部32は、例えば、電圧Vと電流Imとに基づいて算出される電動機10の回転角速度ωを積算して回転角度θを算出するように構成される。そのため、回転角度算出部32は、電動機10の起動直後の期間、惰性回転期間等を含めた全期間に亘って回転角度θを安定的且つ継続的に算出できる。そして、第2信号生成部35は、例えば、回転角度θが所定角度に達したときに、第2パルス信号Pbを即時に生成するように構成される。そのため、第2信号生成部35は、第1パルス信号Paの生成漏れが発生した場合であっても、安定的且つ継続的に算出される回転角度θに基づき、所定角度だけ回転したことを表す第2パルス信号Pbをリアルタイムに生成できる。そのため、装置100は、電動機10の回転情報を遅延なく算出できる。
【0064】
第2信号生成部35は、例えば、回転角度θが所定角度に達したときに、回転角度θをゼロにリセットする指令を回転角度算出部32に出力するように構成される。そのため、装置100は、回転角度算出部32が算出する回転角度θの累積誤差の最大値が所定角度を超えて増大してしまうのを回避できる。
【0065】
所定角度は、例えば、整流子片20aの円弧の中心角、すなわちスリット間角度θcである。そのため、装置100は、回転角度算出部32が算出する回転角度θの累積誤差の最大値をスリット間角度θcとすることができる。
【0066】
第2信号生成部35は、例えば、第1パルス信号Paを受けたときに、回転角度θが第1閾値θu以上であれば、第2パルス信号Pbを生成するように構成される。第1閾値θuは、例えば、所定角度(スリット間角度θc)より小さい値として予め設定されている。この構成により、第2信号生成部35は、所期のタイミングより早期に生成された第1パルス信号Paをノイズに基づくものではないと判定できる。そして、第1パルス信号Paの生成漏れの発生に先立って第2パルス信号Pbを生成できる。そのため、第1パルス信号Paの生成漏れによる回転情報の算出結果への影響を早期に且つ確実に排除できる。
【0067】
また、第2信号生成部35は、例えば、第1パルス信号Paを受けたときに、回転角度θが第1閾値θu未満であれば、第2パルス信号Pbを生成しないように構成される。この構成により、第2信号生成部35は、所期のタイミングからずれたタイミングで生成された第1パルス信号Paをノイズに基づくものであると判定できる。そして、ノイズに基づいて生成された第1パルス信号Paに対応する第2パルス信号Pbが生成されてしまうのを防止できる。そのため、ノイズに基づいて生成された第1パルス信号Paによる回転情報の算出結果への影響を早期に且つ確実に排除できる。
【0068】
また、第2信号生成部35は、例えば、第1パルス信号Paを受けたときに、回転角度θが第2閾値θdより小さければ、回転角度θをゼロにリセットする指令を回転角度算出部32に出力するように構成される。第2閾値θdは、例えば、第1閾値θuより小さい値として予め設定されている。この構成により、第2信号生成部35は、第1パルス信号Paの生成漏れの発生に先立って第2パルス信号Pbを生成した直後に第1パルス信号Paを受けた場合、その第1パルス信号Paをノイズに基づくものではないと判定できる。そして、その第1パルス信号Paを、直前に生成した第2パルス信号Pbに対応付けることができる。そのため、第1パルス信号Paの生成タイミングのずれによる回転情報の算出結果への影響を早期に且つ確実に排除できる。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態に制限されることはない。上述した実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなしに、種々の変形、置換等が適用され得る。また、別々に説明された特徴は、技術的な矛盾が生じない限り、組み合わせが可能である。
【0070】
本願は、2016年12月28日に出願した日本国特許出願2016−256129号に基づく優先権を主張するものであり、この日本国特許出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0071】
10・・・電動機 10a・・・電圧検出部 10b・・・電流検出部 20・・・整流子 20a・・・整流子片 20s・・・スリット 30・・・電圧フィルタ部 31・・・回転角速度算出部 32・・・回転角度算出部 33・・・電流フィルタ部 34・・・第1信号生成部 35・・・第2信号生成部 36・・・回転情報算出部 100・・・装置 SW1〜SW4・・・スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6