(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に、以下の(iv)を充足する、請求項1又は2に記載の鋳包み用シリンダライナ。(iv)前記突起は、以下で定義される突起面積率S(%)が5%以上20%以下である。
突起面積率S(%):突起の基底から300μmの位置における、単位面積当たりの突起の断面積の合計面積が、単位面積に占める割合
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、シリンダライナの外周面に突起を設け、更にその突起の形状を括れたものとすることで、シリンダライナ外周面とシリンダブロックとの間の接合強度を向上させる試みがされている。
一方で、シリンダブロックの製造の際には、シリンダライナを配置したシリンダブロックの鋳型内に鋳造材料を流し込んで、シリンダライナの外周を鋳造材料で鋳包む方法により製造される。この際に、鋳型内に流し込む鋳造材料が、シリンダライナ外周面の突起間領域に十分に行き渡らないことがあった。その結果、シリンダブロックのうち、シリンダライナ外周面との接合部分に空隙が生成することで、接合強度が十分に得られない場合があることに想到した。
本発明は、シリンダブロックに生じる空隙を抑制することで、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を向上し得る、鋳包み用シリンダライナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討したところ、シリンダライナ外周面に存在する突起に関し、複数の突起間の間隔を適切に調整することで、鋳型内に流し込む鋳造材料がシリンダライナ外周面の突起間にも行き渡り、シリンダブロックに生じる空隙を抑制することが可能となり、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、突起を外周面に複数有する鋳包み用シリンダライナであって、以下の(i)及び(ii)を充足する、鋳包み用シリンダライナを含む。
(i)前記突起の数が、前記外周面上の1cm
2当たりに5個以上50個以下である。
(ii)シリンダライナの外周面の任意の位置に、15.2mm×0.03mmのラインを2本、3.8mmの間隔をあけて平行に設定した際に、当該2本のラインに接触する突起数の合計が8個以下である。
【0009】
更に、以下の(iii)、(iv)及び/又は(v)を充足することが好ましい。
(iii)シリンダライナの外周面における任意の突起Aを選択し、当該選択された突起Aと、突起Aと隣り合う突起An(nは1〜7の整数)との距離が近いものから順に突起A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7とした際に、突起Aと突起Anとの距離Ln(mm)が、以下の式を満たす。
(L1+L2+L3+L4+L5+L6+L7)/7 ≧ 1.5
(iv)前記突起は、以下で定義される突起面積率S(%)が5%以上20%以下である。
突起面積率S(%):突起の基底から300μmの位置における、単位面積当たりの突起の断面積の合計面積が、単位面積に占める割合
(v)前記突起は、以下で定義される突起括れ率Pr(%)が50%以上である。
突起括れ率Pr(%):(1cm
2当たりの括れた突起数/1cm
2当たりの突起数)×100
【0010】
また、本発明は、シリンダブロックの製造方法であって、シリンダブロック用鋳型を準備する工程、及び準備したシリンダブロック用鋳型にシリンダライナを配置する工程、及びシリンダライナが配置されたシリンダブロック用鋳型内に鋳造材料を流し込み、シリンダブロックを形成する工程、を含み、前記シリンダライナが、以下の(i)及び(ii)を充足する、製造方法を含む。
(i)前記突起の数が、前記外周面上の1cm
2当たりに5個以上50個以下である。
(ii)シリンダライナの外周面の任意の位置に、15.2mm×0.03mmのラインを2本、3.8mmの間隔をあけて平行に設定した際に、当該2本のラインに接触する突起数の合計が8個以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るシリンダライナを用いることで、鋳型内に流し込む鋳造材料が突起間にも行き渡り、シリンダブロックに生じる空隙を抑制することが可能となり、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を改善できる。特に、鋳造材料が行き渡りにくいとされる重力鋳造法により製造されたシリンダブロックであっても、シリンダブロックに生じる空隙を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態は、突起を外周面に複数有する鋳包み用シリンダライナであって、以下の(i)及び(ii)を充足する、鋳包み用シリンダライナを含む。
(i)前記突起の数が、前記外周面上の1cm
2当たりに5個以上50個以下である。
(ii)シリンダライナの外周面の任意の位置に、15.2mm×0.03mmのラインを2本、3.8mmの間隔をあけて平行に設定した際に、当該2本のラインのどちらか一方に接触する突起数の合計が8個以下である。
【0014】
本実施形態では、シリンダライナの外周面に存在する突起が上記(i)及び(ii)を充足する、すなわち突起の数がある程度少なく、且つ、隣り合う突起が適度に間隔を有していることで、鋳型内に流し込む鋳造材料が突起間にも行き渡り、シリンダブロックに生じる空隙を抑制することが可能となり、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を改善できる。特に、鋳造材料が隅々まで行き渡り難いとされる重力鋳造法により製造されたシリンダブロックであっても、鋳造材料がシリンダライナ外周面の突起間にも行き渡る。
【0015】
シリンダライナの外周面が有する突起の数(以下、突起の数Pnとも称する)は、上記(i)で示したように1cm
2当たりに通常5個以上、好ましくは10個以上であり、また通常50個以下、好ましくは35個以下であり、25個以下であってよく、20個以下であってよく、19個以下であってよい。
上記(ii)の要件を考慮すると、突起の数Pnは、あまり多すぎないことが好ましく、通常50個以下となる。また、5個を下回ると、接合強度が不十分となる傾向にある。
【0016】
本実施形態においては、シリンダライナの外周面の任意の位置に、15.2mm×0.03mmのラインを2本、3.8mmの間隔をあけて平行に設定した際に、当該2本のラインに接触する突起数の合計が8個以下である。ラインに接触する突起数について、
図1を用いて説明する。
図1は、一実施形態に係るシリンダライナ10の模式図、及びその外周面11を拡大し、模式的に示した図である。シリンダライナ外周面11には、ランダムに突起12が複数存在する。ライン13及び13´は、長さ15.2mm、太さ0.03mmであり、シリンダライナ外周面の任意の位置に2本、3.8mmの間隔をあけて平行に設定され、ライン13及び13´のいずれか一方に接触する突起(図面中ハッチングで示した突起)をカウントする。カウントされた突起の数は、隣り合う突起の間隔が狭いほど多くなり、間隔が広いほど少なくなる。
【0017】
2本のラインに接触する突起の数が8個以下であることは、隣り合う突起が適度に間隔を有していることを意味し、このように隣り合う突起が適度に間隔を有することで、鋳型内に流し込む鋳造材料が突起間に十分に行き渡ることができ、シリンダブロックの空隙を抑制することができ、結果、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度を改善できる。
上記(ii)の要件におけるラインと接触する突起の数は7個以下であってよく、5個以下であってよい。下限は限定されないが、通常0より大きく、1以上であってよく、2以上であってよい。なお、(ii)の要件における突起の数は、同一シリンダライナにおいて、2か所以上で2本のラインに接触する突起数をカウントし、その平均値とすることが好ましい。
【0018】
本実施形態では、更に以下の(iii)を充足することが好ましい。
(iii)シリンダライナの外周面における任意の突起Aを選択し、当該選択された突起Aと、突起Aと隣り合う突起An(nは1〜7の整数)との距離が近いものから順に突起
A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7とした際に、突起Aと突起Anとの距離Ln(mm)が、以下の式を満たす。
(L1+L2+L3+L4+L5+L6+L7)/7 ≧ 1.5
【0019】
上記(iii)の式について、
図2を用いて説明する。
図2は、一実施形態に係るシリンダライナ20の模式図、及びその外周面を拡大し、模式的に示した図である。シリンダライナ外周面21には、ランダムに複数の突起が存在する。このうちある突起を突起Aとした際に、距離Aからの距離が近い突起順に、A1〜A7とする。そして、AとAnとの距離をLnとし、それぞれの距離Lnの加重平均を算出する。
上記(iii)の式もまた、隣り合う突起が適度に間隔を有していることを意味し、上記突起間の距離Lnの加重平均が1.5以上であることが好ましく、1.8以上であってよく、2.0以上であってよい。上限は限定されないが、通常10以下であり、5以下であってよく4以下であってよい。
なお、(iii)の要件における突起間の距離Lnの加重平均は、同一シリンダライナにおいて、2か所以上で求め、更にその平均値とすることが好ましい。
【0020】
本実施形態では、更に以下の(iv)を充足することが好ましい。
(iv)前記突起は、以下で定義される突起面積率S(%)が5%以上20%以下である。
突起面積率S(%):突起の基底から300μmの位置における、単位面積当たりの突起の断面積の合計面積が、単位面積に占める割合
上記(iv)は突起の数及び/又は太さを示しており、突起面積率が大きいほど、突起数が多く、及び/又は突起が太いことを表しており、本実施形態では突起面積率Sを上記範囲とすることで、突起間の隙間が適度に形成され、鋳型内に流し込む鋳造材料が突起間にも行き渡る。
更に加えて、上記突起面積率S(%)を、上記(i)で定義される突起の数Pn(個)で除して得られる突起太さ(S/Pn)が0.45以上であってよく、0.5以上であってよく、0.55以上であってよく、0.6以上であってよく、また、0.8以下であってよく、0.75以下であってよく、0.7以下であってよい。上記S/Pnが大きいほど突起が太いことを表し、上記範囲を充足することで、シリンダライナとシリンダブロックとの接合強度が改善されるため好ましい。
【0021】
本実施形態では、更に以下の(v)を充足することが好ましい。
(v)前記突起は、以下で定義される突起括れ率Pr(%)が50%以上である。
突起括れ率Pr(%):(1cm
2当たりの括れた突起数/1cm
2当たりの突起数)×100
上記(v)は、突起のうち、括れた形状を有する突起がどの程度存在するかを表している。括れた形状を有する突起の割合が高いほど、シリンダライナとシリンダブロックとの接合強度が改善されるため、好ましい。突起括れ率Prは50%以上であることが好ましく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、75%以上であってよく、80%以上であってよい。
【0022】
図3は、括れた形状の突起の一例を示す拡大断面模式図である。また、
図4は、括れていない、その他形状の突起の一例を示す拡大断面模式図である。
【0023】
図3にあるように、括れた突起は外周面の基底面からの高さHを有し、典型的には規定面から高さ方向に向かって太さが漸減し、最小太さBを有する。その後高さ方向に向かって太さが漸増し、最大太さAを有する。このように、突起の基底面から高さ方向に向かって、最小太さB、最大太さAの順に有する突起を、本明細書では括れた突起とする。
【0024】
突起平均高さH(mm)は特段限定されないが、通常0.25mm以上であり、0.4mm以上であることが好ましく、また通常1.1mm以下であり、好ましくは0.8mm以下である。なお、突起平均高さH(mm)は、ダイヤルデプスゲージ(最小単位が0.01mm)により測定し、円筒部材の軸方向の両端側部分で直径方向に対向する2か所ずつ行い、これら4か所の平均を突起の平均高さH(mm)とする。
【0025】
上記(i)で表される1cm
2当たりの突起の数Pnは、3次元レーザー測定器により突起の基底から300μmの位置における突起の等高線図を求め、1cm
2の範囲において閉じられている部分の個数をカウントすることで求められる。
また、上記突起面積率Sは、3次元レーザー測定器により突起の基底から300μmの位置における突起の等高線図を求め、1cm
2の範囲において閉じられている部分の突起面積の合計面積が、単位面積(1cm
2)中で占める割合を計算することで求められる。
また、ダイヤルデプスゲージにより、突起高さを求めることができ、マイクロスコープや電子顕微鏡を用いたシリンダライナ表面の観察により、上記(ii)及び(iii)で規定する数値を測定乃至は計算することができる。
【0026】
括れた形状の突起は、マイクロスコープによる観察により判断することができる。より具体的には、円筒部材の外周面を、円筒部材の中心点と外周面の測定点を通過して延伸する線に対し約45°の角度から突起を観察する。突起の観察により、突起の最大太さA、最小太さBなどを測定できる。なお、ここでいう突起の太さは、観察される突起の幅とも言い換えることができる。
図5により観察方法をより具体的に説明する。
ブロック台1上に評価用円筒部材2を配置した。評価用円筒部材2の斜め上方には、テレビモニタ(図示せず)に接続されたマイクロスコープ3を、マイクロスコープ3の光軸Mが鉛直方向と平行となるよう、配置した。マイクロスコープ3の光軸Mと測定する円筒部材2の外周面との交点は、円筒部材2の中心点と外周面の測定点を通過して延伸する線Oとの間で約45°の角度を形成するようにして、円筒部材2の表面に形成された突起が観察される。
【0027】
本実施形態のシリンダライナの製造方法の一例を以下に説明する。
シリンダライナの素材となる鋳鉄の組成は、特に限定されるものではなく、典型的には、耐摩耗性、耐焼き付き性および加工性を考慮したJIS FC250相当の片状黒鉛鋳鉄の組成として、以下に示す組成を例示できる。
C :3.0〜3.7質量%
Si:2.0〜2.8質量%
Mn:0.5〜1.0質量%
P :0.25質量%以下
S :0.15質量%以下
Cr:0.5質量%以下
残部:Feおよび不可避的不純物
【0028】
シリンダライナの製造方法は特段限定されないが、遠心鋳造法によることが好ましく、典型的には以下の工程A〜Eを含む。
<工程A:懸濁液調製工程>
工程Aは、耐火基材、粘結剤、及び水を所定の比率で配合して懸濁液を作成する工程である。
耐火基材としては、典型的には珪藻土が用いられるが、これに限られない。懸濁液中の珪藻土の含有量は、通常20質量%以上、35質量%以下であり、珪藻土の平均粒径は通常2μm以上、35μm以下である。
粘結剤としては、典型的にベントナイトが用いられるが、これに限られない。懸濁液中
のベントナイトの含有量は、通常3質量%以上、9質量%以下である。
また、懸濁液中の水の含有量は、通常62質量%以上、78質量%以下である。
【0029】
<工程B:塗型剤調製工程>
工程Bは、工程Aで調製した懸濁液に所定量の界面活性剤を添加して、塗型剤を作成する工程である。
界面活性剤の種類は特に限定されず、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等の既知の界面活性剤を1種、又は2種以上を組み合わせて用いられる。界面活性剤の配合量は懸濁液100質量部に対し、通常0.005質量部以上、0.04質量部以下である。
【0030】
<工程C:塗型剤塗布工程>
工程Cは、鋳型となる円筒状金型の内周面に塗型剤を塗布する工程である。塗布方法は特段限定されないが、典型的には噴霧塗布が用いられる。塗型剤の塗布時には、塗型剤の層が内周面全周にわたって略均一の厚さに形成されるように塗型剤が塗布されることが好ましい。また、塗型剤を塗布し、塗型剤層を形成する際に、円筒状金型を回転させることで、適度な遠心力を付与することが好ましい。
【0031】
ここでシリンダライナ表面に存在する突起の製造は、次のプロセスを経て形成されるものと、本発明者らは推測する。
すなわち、所定温度に加熱された鋳型の内周面に形成された塗型剤層は、塗型剤中の水分が急速に蒸発して気泡が発生する。そして相対的にサイズの大きい気泡に対して界面活性剤が作用したり、相対的にサイズの小さい気泡同士が結合したりすることで、塗型剤層の内周側に凹穴が形成される。塗型剤層は鋳型の内周面から徐々に乾燥し、凹穴を形成する塗型剤層が徐々に固形化する過程で、塗型剤層に凹穴が形成される。
塗型剤層の厚みは、突起の高さの1.1〜2.0倍の範囲内で選択することが好ましいが、これに限られない。塗型剤層をこの厚みとする場合には、鋳型の温度を300℃以下とすることが好ましい。
【0032】
<工程D:鋳鉄鋳込み工程>
工程Dは、乾燥した塗型剤層を有する回転状態にある鋳型内へ、鋳鉄を鋳込む工程である。この際に、前工程で説明した塗型剤層の括れた形状を有する凹穴に溶湯が充填されることで、シリンダライナの表面に括れた突起が形成される。なお、この際にも適度な遠心力を付与することが好ましい。
【0033】
<工程E:取り出し、仕上げ工程>
工程Eは、製造したシリンダライナを鋳型から取り出し、シリンダライナ表面の塗型剤層をブラスト処理によりシリンダライナから除去することで、シリンダライナが完成する。
【0034】
上記工程を経てシリンダライナが完成する。シリンダライナ表面の突起の数を少なくし、突起間隔を適度に広くするためには、工程Aにおける水の量、工程Bにおける界面活性剤の種類、界面活性剤の量、塗型剤層の厚み、塗型剤層形成の際のGno、鋳鉄鋳込みの際のGnoなどを適宜調整する必要がある。具体的には、
・工程Aにおける水の配合量:65質量%〜75質量%
・工程Bにおける界面活性剤の添加量:0.005質量%〜0.04質量%
・工程Bにおける界面活性剤の種類:2種以上を組み合わせる
・塗型剤層の厚み:0.5mm〜1.1mm
・Gno(ライニング):20G〜80G
・Gno(鋳込み):80G〜160G
などとすることで、シリンダライナ表面の突起を、所望の形態と易くなる。
なお、Gno(ライニング)は、上記工程Cにおいて塗型剤層を形成する際に円筒状金型を回転させた際のG(遠心力)を示し、Gno(鋳込み)は、上記工程Dにおいて鋳型を回転させた際のG(遠心力)を示す。
【0035】
本発明の別の実施形態は、シリンダブロックの製造方法であって、シリンダブロック用鋳型を準備する工程、及び準備したシリンダブロック用鋳型にシリンダライナを配置する工程、及びシリンダライナが配置されたシリンダブロック用鋳型内に鋳造材料を流し込み、シリンダブロックを形成する工程、を含む。そして、シリンダブロック用鋳型に配置されるシリンダライナは、上記説明した(i)及び(ii)を充足する。
【0036】
先に説明したように、シリンダブロックを製造する場合、特に重力鋳造法により製造する場合には、上記(i)及び(ii)を充足するシリンダライナを用いることで、シリンダブロックに生じる空隙を抑制でき、シリンダライナとシリンダブロックとの間の接合強度が改善される。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、以下の実施例により本発明の範囲が限定されないことはいうまでもない。
【0038】
本実施例で用いたシリンダライナの各種物性の測定方法は以下のとおりである。
<突起の平均高さH(mm)>
突起の平均高さH(mm)は、ダイヤルデプスゲージ(最小単位が0.01mm)により測定した。測定は、円筒部材の軸方向の両端部分で、直径方向に対向する2か所ずつ行い、これら4か所の平均を突起の平均高さH(mm)とした。
【0039】
<突起数Pn(個)>
突起数Pn(個)は、非接触式3次元レーザー測定器を用いて、円筒部材の外周面を測定して1cm×1cmの等高線図を得た後、この等高線図中の高さ300μmの等高線で囲まれた領域の数をカウントして求めた。突起の高さの測定と同様に、測定は、円筒部材の軸方向の両端側部分で、直径方向に対向する2か所ずつ行い、これら4か所の平均を1cm
2当たりの突起数Pnとした。
【0040】
<突起括れ率Pr(%)>
括れ率は、マイクロスコープ(株式会社ハイロックス製デジタルマイクロスコープKH−1300)を用い、突起を観察することで、当該突起が括れた突起であるか否かを観察し、1cm
2当たりの括れた突起数をPnで除して、100を乗じることで、括れ率Pr(%)とした。なお、突起括れ率は4か所測定した平均値とした。
【0041】
<突起面積率S(%)、突起太さ(S/Pn)>
突起面積率S(%)は、3次元レーザー測定器により突起の基底から300μmの位置における突起の等高線図を求め、1cm
2の範囲において閉じられている部分の突起面積の合計面積が、単位面積(1cm
2)中で占める割合を計算することで求められ、突起面積率S(%)を上記求めた突起数Pn(個)で除することで、突起太さ(S/Pn)を求めた。
【0042】
<ラインに接触する突起数、隣り合う突起間距離の加重平均>
マイクロスコープを用いたシリンダライナ表面の観察により画像を取得し、当該画像上に、15.2mm×0.03mmのラインを2本、3.8mmの間隔をあけて平行に設定し、当該ラインに接触する突起の数をカウントした。また同様に取得した画像において、
任意の突起Aを選択し、突起Aと隣り合う突起Anとの距離Ln(nは1〜7の整数)を測定し、その加重平均を求めた。なお、1本のシリンダライナから4か所を測定した。
【0043】
実験:
・塗型剤の調製
以下の表1に示す原料を用い、塗型剤1〜3を調製した。なお、表1中の界面活性剤について、塗型剤1及び塗型剤3では、炭化水素基と酸エステル基とを有するアニオン界面活性剤とエタノールアミド型ノニオン界面活性剤との組み合わせを用い、塗型剤2では、炭化水素基と酸エステル基とを有するアニオン界面活性剤とPOEアルキルエーテル型ノニオン界面活性剤との組み合わせを用いた。
【0044】
【表1】
【0045】
・シリンダライナの作製
以下の組成の溶湯を用いて遠心鋳造により各実施例および比較例のシリンダライナを作製した。鋳造されたシリンダライナの組成は、
C :3.4質量%、
Si:2.4質量%、
Mn:0.7質量%、
P :0.12質量%、
S :0.035質量%、
Cr:0.25質量%、
残部Fe及び不可避的不純物Z(JIS FC250相当)であった。
【0046】
表1に示す塗型剤を用い、実施例1及び2、並びに比較例1に係るシリンダライナを作製した。なお、いずれの実施例においても、工程Cにおける円筒状金型の温度は180℃〜300℃の範囲内に設定し、且つGno(ライニング)を55Gとして塗型剤層を形成した。但し、塗型剤層の厚みについては、各実施例で適宜変更することで、適宜突起の高さを変更させた。また、工程D以降については、Gno(鋳込み)を120Gとして鋳鉄の鋳込みを行った以外は、いずれの実施例においても同条件で実施した。その後得られた鋳鉄製円筒部材の内周面を切削加工して、肉厚を5.5mmに調整した。
このようにして得られた鋳鉄製円筒部材の寸法は、外径(突起の高さを含む外径)85mm、内径74mm(肉厚5.5mm)であり、軸方向の長さは130mmであった。作製したシリンダライナの突起の形状を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
・シリンダブロックの作成
実施例1及び2、並びに比較例1に係るシリンダライナを用いて、以下の条件でシリンダライナとシリンダブロックとの接合体を製造し、得られたシリンダブロックの空隙面積率と、シリンダライナとの接合強度を評価した。
鋳造方法:砂型重力鋳造
ライナ予熱:350℃1時間
アルミ材質AC4B
熱処理:500℃6時間、及び160℃6時間
得られたシリンダライナとシリンダブロックとの接合体は、以下の方法により、シリンダブロックの空隙率を測定した。
i)シリンダライナとブロックアルミとの界面を含む試料断面を研磨する。
ii)研磨後、上記界面を含む3枚の写真を撮影する。
iii)各写真毎の空隙面積率(撮影視野に対する界面の隙間の割合(%))を測定し、その平均を空隙面積率とした。
次に、以下の方法により、シリンダライナとシリンダブロックとの接合強度を測定した。
引張試験機(島津製作所製、万能試験機:AG−5000E)を用いて、円筒部材と外周部材との一方をクランプにより固定し、他方を両部材の接合面と直交する方向に引張強度を加えた。両部材が剥離した際の引張強度を接合強度とした。
結果を
図6及び7に示す。なお、結果は、同様の方法で製造したシリンダブロックを15回評価した結果である。