【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明は、プラズマ洗浄装置であって、
内部に洗浄対象物が配置されるプラズマ洗浄室と、
前記プラズマ洗浄室内に水を導入する水導入部と、
前記プラズマ洗浄室内に導入された水をプラズマ化して水プラズマを形成するプラズマ形成部と、
前記プラズマ洗浄室内に存在する所定の物質の量を測定する分析装置と、
前記分析装置から得られる測定データに基づいてプラズマ洗浄の終了タイミングを決定し、決定された前記終了タイミングでプラズマ洗浄を終了させる制御部と、
を備える。
【0010】
この構成においては、プラズマ洗浄室内に水プラズマを形成して洗浄対象物をプラズマ洗浄するときに、プラズマ洗浄室内に存在する所定の物質の量を分析装置で測定して、得られた測定データに基づいてプラズマ洗浄の終了タイミングを決定する。
ここでいう「所定の物質」は、例えば、下記(i)〜(iii)に例示される各種物質から選択された1以上の物質である。
(i)プラズマ洗浄室内に形成されているプラズマに由来する物質(プラズマ洗浄室内に水プラズマが形成される上記の構成においては、具体的には、原子状水素(H)、ヒドロキシルラジカル(OH)、原子状酸素(O)、等)
(ii)洗浄対象物に由来する物質(例えば、洗浄対象物が表面に銀を含むものである場合、銀(Ag)、あるいはその化合物)
(iii)洗浄対象物に付着している物質に由来する物質(具体的には、例えば、洗浄対象物に付着している有機物とプラズマに由来する物質とが反応することにより生成した、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO
2)、等)
プラズマ洗浄室内に存在する所定の物質の量を観察することで、プラズマ洗浄室内でどのような化学反応が進行しているかを把握することが可能となり、原子状水素が洗浄対象物に高抵抗膜の形成を開始する前のタイミングでプラズマ洗浄を終了させることができる。したがって、洗浄対象物の特性を変化させることなく、当該洗浄対象物を適切にプラズマ洗浄することができる。
【0011】
水プラズマを用いたプラズマ洗浄によると、例えば洗浄対象物の表面に銀が含まれている場合に、酸化銀をほとんど生成させずに洗浄対象物に付着している有機物汚れを除去することができる。また、水プラズマを用いたプラズマ洗浄によると、洗浄対象物の表面にはじめから(すなわち、プラズマ洗浄を施す前から)酸化銀が存在している場合に、有機物汚れを除去するだけでなく、表面の酸化銀を還元して銀に戻すことができる。本発明の発明者達は、その理由を次のように推測した。
すなわち、本発明の発明者達が、表面に銀を含む洗浄対象物を水プラズマでプラズマ洗浄するときにプラズマ洗浄室内に存在する物質の種類と量を分析装置を用いてモニタリングした結果、水プラズマが生成されたプラズマ洗浄室内には、ヒドロキシルラジカル、原子状水素、および、原子状酸素、が存在していることが確認された。そして発明者達は、プラズマ洗浄が進行するにつれて、これら各物質の量が時間と共にどのように変化するかを測定し、その測定結果に基づいて、プラズマ洗浄が進行する間プラズマ洗浄室では次の(1)〜(3)の化学反応が起こっていると推測することができた。
(1)原子状酸素とヒドロキシルラジカルが、洗浄対象物に付着している有機物汚れと結合する化学反応
この化学反応によって、洗浄対象物から有機物汚れが除去される。つまり、プラズマ洗浄室内にある原子状酸素とヒドロキシルラジカルは、洗浄対象物の有機物汚れの除去に寄与している。
(2)原子状酸素とヒドロキシルラジカルが、銀と結合する化学反応(所謂、酸化)
2Ag+O→Ag
2O
2Ag+2OH→Ag
2O+H
2O
2Ag+OH→Ag
2O+(1/2)H
2
この化学反応によって洗浄対象物の表面に含まれる銀が酸化されて酸化銀が生成される。つまり、プラズマ洗浄室内にある原子状酸素とヒドロキシルラジカルは、有機物汚れの除去に寄与する一方で、銀の酸化を引き起こす要因ともなっている。
(3)原子状水素と酸化銀とが結合する化学反応(所謂、還元)
Ag
2O+H→2Ag+OH
Ag
2O+2H→2Ag+H
2O
この化学反応によって洗浄対象物の表面に生成された酸化銀が還元される。つまり、水プラズマに含まれる原子状酸素とヒドロキシルラジカルは、有機物汚れの除去に寄与する一方で、銀の酸化を引き起こしてしまうところ、生成された酸化銀は、水プラズマに含まれる原子状水素によって還元されて、銀に戻る。このために、結果的に、酸化銀をほとんど生成させずに洗浄対象物に付着している有機物汚れを除去することができると考えられる。また、洗浄対象物の表面に、はじめから酸化銀が存在している場合にも、当該酸化銀が水プラズマに含まれる原子状水素によって還元されて銀に戻るので、当該洗浄対象物の有機物汚れを除去しつつ、表面の酸化銀を銀に戻すことができると考えられる。
【0012】
また、好ましくは、前記プラズマ洗浄装置では、
前記制御部が、
前記プラズマ洗浄室内に存在する原子状酸素の単位時間あたりの消費量が、予め定められた値以下になったタイミングを、前記終了タイミングと決定する。
【0013】
ここで、「予め定められた値」は、十分小さな値(例えば、消費量がほぼゼロになったとみなせる程度に小さな値)であることが好ましい。
プラズマ洗浄が行われる間、プラズマ洗浄室内では、上記の通り、原子状酸素が洗浄対象物に付着している有機物汚れと結合する化学反応が起こっており、洗浄対象物に付着している有機物汚れがなくなると、原子状酸素の単位時間あたりの消費量がほぼゼロになると推測される。上記の構成によると、当該消費量が十分小さくなったタイミングでプラズマ洗浄を終了させるので、有機物汚れが十分に除去された時点でプラズマ洗浄を終了させることができる。したがって、プラズマ処理の時間が洗浄に必要な時間以上に長くなることにより洗浄対象物の特性が変化してしまうことを回避できる。またプラズマ処理の時間を必要最小限に抑えることによって、プラズマ洗浄装置のスループットを向上させることもできる。
【0014】
また、好ましくは、前記プラズマ洗浄装置では、
前記制御部が、
前記プラズマ洗浄室内に存在する一酸化炭素と二酸化炭素のうちの少なくとも一方の単位時間あたりの生成量が、予め定められた値以下になったタイミングを、前記終了タイミングと決定する。
【0015】
ここでも、「予め定められた値」は、十分小さな値(例えば、消費量がほぼゼロになったとみなせる程度に小さな値)であることが好ましい。
プラズマ洗浄が行われる間、プラズマ洗浄室内では、上記の通り、原子状酸素とヒドロキシルラジカルが洗浄対象物に付着している有機物汚れと結合する化学反応が起こっており、この化学反応によって一酸化炭素や二酸化炭素が生成されるため、洗浄対象物に付着している有機物汚れがなくなると、一酸化炭素、二酸化炭素、あるいは、それら両方の単位時間あたりの生成量がほぼゼロになると推測される。上記の構成によると、当該生成量が十分小さくなったタイミングでプラズマ洗浄を終了させるので、有機物汚れが十分に除去された時点でプラズマ洗浄を終了させることができる。したがって、プラズマ処理の時間が洗浄に必要な時間以上に長くなることにより洗浄対象物の特性が変化してしまうことを回避できる。またプラズマ処理の時間を必要最小限に抑えることによって、プラズマ洗浄装置のスループットを向上させることもできる。
【0016】
好ましくは、前記プラズマ洗浄装置では、
前記洗浄対象物の表面に銀が含まれており、
前記制御部が、
前記プラズマ洗浄室内に存在する原子状水素の単位時間あたりの消費量が、予め定められた値以下になったタイミングを、前記終了タイミングと決定する。
【0017】
ここでも、「予め定められた値」は、十分小さな値(例えば、消費量がほぼゼロになったとみなせる程度に小さな値)であることが好ましい。
表面に銀を含む洗浄対象物のプラズマ洗浄が行われる間、プラズマ洗浄室内では、上記の通り、原子状水素によって酸化銀が還元される化学反応が起こっており、酸化銀が全て還元されると、原子状水素の単位時間あたりの消費量がほぼゼロになると推測される。そして、酸化銀の還元が終了してからもプラズマ処理が継続されてしまうと、原子状水素が洗浄対象物に高抵抗膜を形成する化学反応が進行する可能性があると考えられる。上記の構成によると、当該消費量が十分小さくなったタイミングでプラズマ洗浄を終了させるので、酸化銀が全て還元され、かつ、洗浄対象物に高抵抗膜が形成される前のタイミングで、プラズマ処理を終了させることができる。
【0018】
好ましくは、前記プラズマ洗浄装置は、
前記プラズマ洗浄室内に水を導入する際に、併せて酸素ガスを導入する酸素ガス導入部、
をさらに備え、
前記プラズマ形成部が、水と酸素ガスとから成る混合ガスをプラズマ化する。
【0019】
この構成によると、プラズマ洗浄室内に存在する原子状酸素の量を増加させることによって、有機物汚れの洗浄効果を高めることができる。
本発明の発明者達は、水と酸素ガスの混合比が異なる各混合ガスをプラズマ化して、当該プラズマ内に存在する物質の種類と量を分析装置を用いて測定した。その結果、混合ガスにおける酸素ガスの濃度が高くなるにつれて、原子状酸素の量が増加するとともにヒドロキシルラジカルと原子状水素の量が減少することがわかった。そして、酸素ガスの濃度が80%を超えると、ヒドロキシルラジカルと原子状水素の減少率が急激に高まることもわかった。さらに、原子状酸素の量が増えると有機物汚れの洗浄効率が高まるが、その一方で、銀の酸化も促進されるところ、混合ガスにおける酸素ガスの濃度が80%以下であれば、十分な量の原子状水素がプラズマ内に存在しているため、生成された酸化銀を当該原子状水素で十分に還元することができることが確認された。したがって、上記の構成において、混合ガスにおける酸素ガスの濃度(体積比)は、80%以下であることが好ましい。
【0020】
好ましくは、前記プラズマ洗浄装置において、
前記分析装置が、発光分光分析装置、あるいは、質量分析装置である。
【0021】
発光分光分析装置、あるいは、質量分析装置で、プラズマ洗浄室内に存在する所定の物質の量を測定する構成によると、プラズマ洗浄室内で進行している化学反応をリアルタイムで把握することができる。したがって、プラズマ洗浄室内がプラズマ洗浄を終了させるべき状態になった時点から、有意なタイムラグを生じさせることなくプラズマ洗浄を適切に終了させることができる。例えば、特定の化学物質と反応して変色するインジケータ(例えば、特開2013-095765に開示のインジケータ)を用いてプラズマ洗浄室内で進行している化学反応を把握しようとした場合、当該特定の化学物質がプラズマ洗浄室に発生してからインジケータが変色するまでに一定の時間がかかってしまう。また、インジケータをプラズマ洗浄室から取り出して変色を確認する必要がある。このため、プラズマ洗浄の終了をイン・サイチュ(in situ)で評価できない可能性が高い。上記の構成ではそのような遅れが生じない。
【0022】
また、本発明は、プラズマ洗浄方法にも適用される。
当該プラズマ洗浄方法は、
洗浄対象物が配置されたプラズマ洗浄室内に水を導入してこれをプラズマ化して水プラズマを形成し、前記水プラズマで前記洗浄対象物をプラズマ洗浄する工程と、
前記プラズマ洗浄室内に存在する所定の物質の量を分析装置で測定し、得られた測定データに基づいてプラズマ洗浄の終了タイミングを決定する工程と、
決定された前記終了タイミングでプラズマ洗浄を終了させる工程と、
を含む。