(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カーボンブラックを含むコンポジット黒顔料の合計含有量が、水系コンポジット黒インク中2質量%以上20質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
水系コンポジット黒インクに含まれるコンポジット黒顔料を構成するそれぞれの顔料が、顔料をポリマーで分散させた顔料粒子を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
水系コンポジット黒インクが、カーボンブラックを0.08質量%以上1質量%以下、シアン顔料を0.1質量%以上2質量%以下、マゼンタ顔料を0.4質量%以上3質量%以下、イエロー顔料を0.4質量%以上2.5質量%以下含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
ラベル印刷基材の記録位置の上流側に、該印刷基材の表面温度を35℃以上65℃以下に加熱するプレヒ−タを備える、請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、黒インクを混合して水系コンポジット黒インクを得る工程を有する、請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、ラベル印刷基材(以下、「印刷基材」ともいう)に水系コンポジット黒インクを吐出して記録する手段、及び該基材の搬送方向下流側に乾燥手段を備えた装置を用いるインクジェット記録方法であって、該コンポジット黒インク中のカーボンブラックの含有量が、コンポジット黒顔料中25質量%以下であり、該乾燥手段が、該基材上に吐出された該コンポジット黒インクの温度を95℃以上125℃以下に加熱する赤外線ヒータである、インクジェット記録方法である。
本発明のインクジェット記録方法によれば、該コンポジット黒インクを用いることにより、赤外線ヒータを使用してもインク色間の赤外線吸収量差が極めて少なくなり、記録面の加熱で温度差が生じないため、色移りや印刷基材の熱変形を起こさずに速乾できると考えられる。
【0012】
<ラベル印刷基材>
本発明に用いられるラベル印刷基材は、代表的には支持体上に印刷適性を有する表面層を設けたものであるが、支持体に直接印刷するものであってもよい。具体的には、(表面層/支持体)の2層構成、(表面層/支持体/粘着剤層/剥離紙)の4層構成、(支持体/粘着層剤/剥離紙)の3層構成、(支持体)のみの単層構成が挙げられる。
印刷基材の支持体としては、紙又は樹脂フィルムが挙げられる。紙としては、化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプ等の木材パルプ、ケナフ、バガス等の非木材パルプ等を主成分とする紙が挙げられる。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。
印刷基材表面は、一般的な印刷に使用されるアートコート紙のように光沢発現層等の複数の層を形成したもの、又は更にその表面をカレンダーやキャスト処理等の光沢発現処理をしたものであってもよい。印刷適性を付与するために表面層にはインク受容層を有していてもよい。
粘着剤層は、アクリル系樹脂等を塗布する公知技術により形成することができ、剥離紙も公知の方法により設けることができる。また、インク受容層は、無機又は有機充填材を含む塗布液を、各種の塗工機を用いて、表面層又は支持体に塗布、乾燥することで形成できる。
なお、印刷後は、必要に応じて所定の大きさに切断加工され、ラベルとして商品に貼着使用される。
【0013】
<水系コンポジット黒インク>
本発明においては、色移りや印刷基材の熱変形を防止し、記録物の耐水性、耐候性を向上させる観点から、水系コンポジット黒インク(以下、単に「インク」ともいう)を用いる。
水系コンポジット黒インクは、コンポジット黒顔料(A)、水不溶性ポリマー(B)、有機溶媒(D)、及び水を含有する水系インクであることが好ましい。水系コンポジット黒インクは、必要に応じて、界面活性剤等の添加剤等を含有することができる。
なお、本明細書において、「水系」とは、インクに含有される媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。本発明にかかる水系インクは重合性開始剤を含まない。
【0014】
<コンポジット黒顔料(A)>
コンポジット黒顔料は、シアン顔料と、マゼンタ顔料と、イエロー顔料とを含むことが好ましい。シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料はそれぞれ異なる吸収波長を持つために、それらを混合することで広い範囲の光を吸収し、黒色を示す。コンポジット黒顔料には、コンポジット黒顔料中、カーボンブラックを25質量%以下含むことができる。
コンポジット黒インクは、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を所定量ずつ含有することで、カーボンブラックを含有する黒インク単独と同等の黒さを持つ。
コンポジット黒顔料において、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料の配合量のバランスが悪いと、特定の波長の光が吸収されずに反射するため、反射された光に近い色が視認される。そのため、水系コンポジット黒インクへの各顔料の割合は、色相変動の抑制の観点から、コンポジット黒顔料中、シアン顔料が、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7.5質量%以上であり、マゼンタ顔料が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、イエロー顔料が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。
【0015】
シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料の配合比はシアン顔料:マゼンタ顔料:イエロー顔料が、好ましくは0.025〜0.5:0.2〜0.75:0.1〜0.6、より好ましくは0.075〜0.4:0.3〜0.65:0.2〜0.5、更により好ましくは0.1〜0.35:0.35〜0.6:0.25〜0.45である。
水系コンポジット黒インクには、広範囲の光を吸収させて黒色度を高める目的でカーボンブラックを添加することが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
水系コンポジット黒インク中のカーボンブラックの含有量は、赤外線ヒータによる乾燥による印刷基材の熱変形を抑制する観点から、カーボンブラックを含むコンポジット黒顔料中25質量%以下であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは16質量%以下、更に好ましくは13質量%以下である。
【0016】
本発明において、カーボンブラックを含むコンポジット黒顔料の合計含有量は、色相の変動を抑制し、画像の光学濃度を向上させる観点から、水系コンポジット黒インク中、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である。
【0017】
コンポジット黒顔料(A)は、印刷基材に記録した記録物の定着性の観点から、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料、及び必要に応じて添加されるカーボンブラック(以下、これらを纏めて「顔料」ともいう)のそれぞれの顔料をポリマーで分散させた混合顔料であることが好ましく、コンポジット黒顔料(A)を構成するそれぞれの顔料の表面の少なくとも一部が水不溶性ポリマー(B)で被覆された粒子の形態であることがより好ましく、それぞれの顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)の混合物の形態であることが更に好ましい。
顔料含有ポリマー粒子の形態は、少なくともそれぞれの顔料と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該水不溶性ポリマーにそれぞれの顔料が内包された粒子形態、該水不溶性ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、該水不溶性ポリマー粒子の表面に顔料が露出された粒子形態、及びこれらの混合物の形態も含まれる。
また、水系コンポジット黒インクには、顔料含有ポリマー粒子とは別に、後述する「顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子(C)」を配合することもできる。
【0018】
本発明で用いられるシアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料の具体例を以下に示す。
シアン顔料としては、C.I.ピグメント・ブルー15、C.I.ピグメント・ブルー15:2、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16、C.I.ピグメント・ブルー60、C.I.ピグメント・グリーン7、及び米国特許4311775号明細書に記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。
これらの中でも、色移りや印刷基材の熱変形防止の観点、及び耐候性の観点から、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16から選ばれる1種以上が好ましく、C.I.ピグメント・ブルー15:3、及びC.I.ピグメント・ブルー15:4から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0019】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメント・レッド2、C.I.ピグメント・レッド3、C.I.ピグメント・レッド5、C.I.ピグメント・レッド6、C.I.ピグメント・レッド7、C.I.ピグメント・レッド15、C.I.ピグメント・レッド16、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド53:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド123、C.I.ピグメント・レッド139、C.I.ピグメント・レッド144、C.I.ピグメント・レッド149、C.I.ピグメント・レッド166、C.I.ピグメント・レッド177、C.I.ピグメント・レッド178、C.I.ピグメント・レッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
これらの中でも、色移りや印刷基材の熱変形防止の観点、及び耐候性の観点から、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド202、C.I.ピグメント・レッド209、C.I.ピグメント・バイオレット19から選ばれる1種以上が好ましく、C.I.ピグメント・レッド122、及びC.I.ピグメント・バイオレット19から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0020】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメント・オレンジ31、C.I.ピグメント・オレンジ43、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー13、C.I.ピグメント・イエロー14、C.I.ピグメント・イエロー15、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー93、C.I.ピグメント・イエロー94、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメント・イエロー128、C.I.ピグメント・イエロー138、C.I.ピグメント・イエロー150、C.I.ピグメント・イエロー151、C.I.ピグメント・イエロー154、C.I.ピグメント・イエロー155、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー185等が挙げられる。
これらの中でも、色移りや印刷基材の熱変形防止の観点、及び耐候性の観点から、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメント・イエロー155、及びC.I.ピグメント・イエロー185から選ばれる1種以上が好ましく、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメント・イエロー155、及びC.I.ピグメント・イエロー185から選ばれる1種以上がより好ましい。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
<水不溶性ポリマー(B)>
水不溶性ポリマーは、顔料を水系媒体中に分散させ、分散を安定に維持するための分散剤としての機能と、印刷基材に対する定着剤としての機能を有する。
ここで、水不溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、水に溶解させたときに、水に溶解せず沈降する、又は粒子径が検出されるポリマーをいい、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上の粒径が観測されるポリマーである。水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、その溶解性の判断は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した状態で行う。
用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、インクの保存安定性を向上させる観点から、ビニルモノマー(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
水不溶性ポリマーは、イオン性モノマー(a)由来の構成単位、芳香族環を有する疎水性モノマー(b)由来の構成単位、及び親水性ノニオン性モノマー(c)由来の構成単位から選ばれる1種以上を含有するビニル系ポリマーであることが好ましく、これらの構成単位の内の2種以上を含有することがより好ましく、前記3種を含有することが更に好ましい。
水不溶性ポリマーは、例えば、イオン性モノマー(a)、芳香族環を有する疎水性モノマー(b)、及び親水性ノニオン性モノマー(c)を、公知の方法により付加重合して得ることができる。
【0022】
〔イオン性モノマー(a)〕
イオン性モノマー(a)は、後述する「顔料含有ポリマー粒子の水分散体」(以下、「顔料水分散体」ともいう)の製造の際に、最終的に得られる水系コンポジット黒インクの保存安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられる。
イオン性モノマー(a)としては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられる。なお、イオン性モノマーには、酸、アミン化合物等の中性ではイオンではないモノマーであっても、酸性やアルカリ性の条件でイオンとなるモノマーも含まれる。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等から選ばれる1種以上が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
なお、(メタ)アクリレートとは、メタクリレート及びアクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下においても同様である。
【0023】
一方、カチオン性モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン等の不飽和3級アミン含有ビニルモノマー、不飽和アンモニウム塩含有ビニルモノマー等が挙げられる。
上記イオン性モノマー(a)の中では、得られるインクの保存安定性を向上させる観点から、アニオン性モノマーが好ましく、カルボン酸モノマーがより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸が更に好ましく、メタクリル酸がより更に好ましい。
【0024】
〔芳香族環を有する疎水性モノマー(b)〕
芳香族環を有する疎水性モノマー(b)は、得られるインクの保存安定性、吐出性を向上させる観点から用いられる。
芳香族環を有する疎水性モノマー(b)としては、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート、及びスチレン系マクロモノマーから選ばれる1種以上が挙げられる。
スチレン系モノマーとしては、上記と同様の観点から、スチレン、2−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、上記と同様の観点から、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0025】
スチレン系マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、上記と同様の観点から、数平均分子量は好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、更に好ましくは3,000以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは9,000以下、更に好ましくは8,000以下である。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される値である。
商業的に入手しうるスチレン系マクロモノマーとしては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
芳香族環を有する疎水性モノマー(b)としては、上記と同様の観点から、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート、及びスチレン系マクロモノマーから選ばれる2種以上を併用することがより好ましく、スチレン又はベンジル(メタ)アクリレートと、スチレン系マクロモノマーとを併用することが更に好ましい。
【0026】
〔親水性ノニオン性モノマー(c)〕
親水性ノニオン性モノマー(c)は、得られるインクの保存安定性を向上させる観点、インク乾燥時の増粘を抑制して吐出性を向上させる観点から用いられる。
親水性ノニオン性モノマー(c)は、式(1)で表されるものが好ましい。
【0028】
式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、メチル基が好ましい。
R
2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は水素原子が炭素数1〜9のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示し、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
mは平均付加モル数を示し、2以上であり、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、そして、100以下であり、好ましく50以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。
【0029】
上記式(1)で表されるモノマー(c)としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等から選ばれる1種以上が挙げられるが、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートがより好ましい。
商業的に入手しうる式(1)で表されるモノマーの具体例としては、NKエステルM−20G、同M−23G、同M−40G、同M−60G、同M−90G、同M−230G、同M−450G、同M−900G(以上、新中村化学工業株式会社製)、ブレンマーPME−200(日油株式会社製)等が挙げられる。
前記モノマー(a)〜(c)は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
水不溶性ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、前記モノマー(a)〜(c)以外の他のモノマー由来の構成単位を含有することができる。
他のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びシリコーン系マクロモノマー等が挙げられる。
【0031】
水不溶性ポリマー製造時における、前記モノマー(a)〜(c)のモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)、又は水不溶性ポリマー中における前記モノマー(a)〜(c)成分に由来する構成単位の含有量は、得られるインクの保存安定性、吐出性を向上させる観点から、次のとおりである。
イオン性モノマー(a)を含有する場合、その含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
芳香族環を有する疎水性モノマー(b)を含有する場合、その含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは84質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは72質量%以下である。
また、モノマー(b)としてスチレン系マクロモノマーを含む場合、スチレン系マクロモノマーは、スチレン系モノマー及び/又は芳香族基含有(メタ)アクリレート等のモノマー(b)の他のモノマーと併用することが好ましい。スチレン系マクロモノマーの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0032】
親水性ノニオン性モノマー(c)を含有する場合、その含有量は、好ましくは13質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは18質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
また、モノマー(a)〜(c)を含有する場合、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の質量比は、得られるインクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.3以下である。
【0033】
(水不溶性ポリマーの製造)
水不溶性ポリマーは、前記モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる有機溶媒aに制限はないが、後述する顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトン、アルコール、エーテル及びエステルから選ばれる1種以上の化合物が好ましく、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトンが更に好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。重合開始剤としては、アゾ化合物がより好ましく、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノール等がより好ましい。
【0034】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50〜90℃が好ましく、重合時間は1〜20時間であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
水不溶性ポリマーは、顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、含有する有機溶媒aを後述する有機溶媒bとして用いるために、そのままポリマー溶液として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマー溶液の固形分濃度は、顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更により好ましくは45質量%以下である。
【0035】
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、得られるインクの保存安定性、吐出性を向上させる観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは30,000以上であり、そして、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下である。なお、水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0036】
〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕
顔料含有ポリマー粒子は、インクの生産性を向上させる観点から、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(顔料水分散体)として製造することが好ましい。
顔料水分散体は、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料、又はカーボンブラックを含有するそれぞれの顔料水分散体として、以下の工程(1)及び(2)を有する方法により得ることができる。
工程(1):水不溶性ポリマー、有機溶媒b、顔料、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、分散処理物を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散処理物から前記有機溶媒bを除去して、顔料水分散体を得る工程
【0037】
(工程(1))
工程(1)では、まず、水不溶性ポリマー、有機溶媒b、顔料、水、及び必要に応じて、中和剤、界面活性剤等を混合し、顔料混合物を得ることが好ましい。加える順序に制限はないが、水不溶性ポリマー、有機溶媒b、中和剤、水、及び顔料はこの順に加えることが好ましい。
【0038】
(有機溶媒b)
工程(1)で用いる有機溶媒bに特に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、炭素数4〜8のケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、顔料への濡れ性、水不溶性ポリマーの溶解性、及び水不溶性ポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、炭素数4〜8のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合は、重合で用いた溶媒をそのまま用いることもできる。
有機溶媒に対する水不溶性ポリマーの質量比[水不溶性ポリマー/有機溶媒]は、顔料への濡れ性、及び水不溶性ポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、0.1以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.2以上が更に好ましく、そして、0.7以下が好ましく、0.6以下がより好ましく、0.5以下が更に好ましい。
【0039】
(中和剤)
中和剤は、得られるインクの保存安定性を向上させる観点から用いられる。中和剤を用いる場合、顔料水分散体のpHが、好ましくは7以上、より好ましくは7.5以上、そして、11以下、より好ましくは9.5以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミン等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられるが、水酸化ナトリウムが好ましい。
中和剤は、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアが好ましく、それらを併用することがより好ましい。また、水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
水不溶性ポリマーの中和度は、得られるインクの保存安定性、粗大粒子の低減、インクの吐出性を向上させる観点から、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上が更に好ましく、そして、300モル%以下が好ましく、200モル%以下がより好ましく、150モル%以下が更に好ましい。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0040】
(顔料混合物中の各成分の含有量等)
顔料混合物中の各成分の含有量は、得られるインクの保存安定性、吐出性を向上させる観点、顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、以下のとおりである。
顔料の含有量は、顔料混合物中、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、14質量%以上が更に好ましく、そして、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
水不溶性ポリマーの含有量は、顔料混合物中、2.0質量%以上が好ましく、4.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上が更に好ましく、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8.0質量%以下が更に好ましい。
有機溶媒の含有量は、顔料混合物中、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、そして、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が更に好ましい。
水の含有量は、顔料混合物中、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましく、そして、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下が更に好ましい。
【0041】
水不溶性ポリマーに対する顔料の質量比〔顔料/水不溶性ポリマー〕は、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、インクの保存安定性、吐出性を向上させる観点から、0.4以上が好ましく、1以上がより好ましく、1.5以上が更に好ましく、そして、9以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましい。
【0042】
(顔料混合物の分散)
工程(1)において、顔料混合物を分散して分散処理物を得る方法に特に制限はない。本分散だけで顔料粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
予備分散における温度は、0℃以上が好ましく、そして、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下が更に好ましく、分散時間は0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、そして、30時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下が更に好ましい。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の混合撹拌装置を用いることができる。混合撹拌装置の中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0043】
本分散における温度は、0℃以上が好ましく、そして、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下が更に好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられ、これらを組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、60MPa以上が好ましく、100MPa以上がより好ましく、130MPa以上が更に好ましく、そして、200MPa以下が好ましく、180MPa以下がより好ましく、170MPa以下が更に好ましい。また、パス回数は、好ましくは3回以上、より好ましくは5回以上、更に好ましくは7以上であり、そして、好ましくは30回以下、より好ましくは25回以下、更に好ましくは15回以下である。
【0044】
(工程(2))
工程(2)は、工程(1)で得られた分散処理物から前記有機溶媒bを除去して、顔料水分散体を得る工程である。有機溶媒の除去は、公知の方法で行うことができる。
有機溶媒を除去する過程で凝集物が発生することを抑制するため、有機溶媒を除去する前に、予め分散処理物に水を添加して、水に対する有機溶媒bの質量比(有機溶媒b/水)を調整することが好ましい。
(有機溶媒b/水)の質量比は、好ましくは0.08以上、より好ましくは0.1以上であり、そして、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
また、質量比(有機溶媒b/水)を調整した後の顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、そして、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0045】
工程(2)における有機溶媒bの除去装置としては、効率性の観点から、ロータリーエバポレーター等の回転式減圧蒸留装置、撹拌槽薄膜式蒸発装置等が好ましい。
有機溶媒bを除去する際の分散処理物の温度は、用いる有機溶媒bの種類によって適宜選択できるが、減圧下、20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。このときの圧力は、0.01MPa以上が好ましく、0.02MPa以上がより好ましく、0.05MPa以上が更に好ましく、そして、0.5MPa以下が好ましく、0.2MPa以下がより好ましく、0.1MPa以下が更に好ましい。
有機溶媒bを除去するための時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、そして、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましい。
有機溶媒bの除去は、固形分濃度が、好ましく10質量%以上、より好ましくは20質量%以上になるまで行うことが好ましく、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下になるまで行うことが好ましい。
【0046】
得られた濃縮物は、好ましくは、遠心分離処理を行い、回収した液層部分から顔料水分散体を得ることができる。
得られた顔料水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下がより好ましい。
得られた顔料含有ポリマー粒子の顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及びインクの調製を容易にする観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、そして、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
【0047】
得られた顔料含有ポリマー粒子の顔料水分散体は、顔料と水不溶性ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、得られるインクの保存安定性、吐出性を向上させる観点から、40nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましく、80nm以上が更に好ましく、そして、150nm以下が好ましく140nm以下がより更に好ましい。
なお、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、顔料含有ポリマー粒子を用いたインク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0048】
(顔料含有ポリマー粒子の含有量)
顔料として顔料含有ポリマー粒子を用いる場合、顔料含有ポリマー粒子のインク中の含有量は、印刷基材に記録した際の紙面上での乾燥性を早め、乾燥過程でのインクのドット径の縮小を抑制し、画像均一性を向上させる観点、及び光学濃度を向上させる観点から、好ましくは1.4質量%以上、より好ましくは2.8質量%以上、更に好ましくは4.2質量%以上であり、そして、好ましくは21質量%以下、より好ましくは14質量%以下、更に好ましくは8.4質量%以下である。
【0049】
(水不溶性ポリマーの含有量)
顔料含有ポリマー粒子を用いる場合、水不溶性ポリマーのインク中の含有量は、インクの保存安定性、吐出性、画像均一性を向上させる観点から、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上である。また、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、印刷基材に記録した際のドット径を大きくし、光学濃度を向上させる観点、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは6質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは2.4質量%以下である。
【0050】
<顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子(C)>
水系コンポジット黒インクは、印刷基材に記録した記録物の定着性の観点から、顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子を含有することが好ましい。
水不溶性ポリマー粒子は、(メタ)アクリル酸(c1)由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル(c2)由来の構成単位を含有することが好ましい。
(c1)成分のモノマーとしては、アクリル酸及びメタクリル酸が挙げられ、メタクリル酸が好ましい。(c2)成分のモノマーとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の芳香族基を含有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、メタクリル酸メチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましい。
【0051】
水不溶性ポリマー粒子の全構成単位中の(c1)成分由来の構成単位の含有量は、インクの保存安定性、定着性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5.8質量%以下、更に好ましくは5.5質量%以下である。また、(c2)成分由来の構成単位の含有量は、好ましくは94質量%以上、より好ましくは94.5質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0052】
水不溶性ポリマー粒子は、合成品を使用してもよく、市販品を使用してもよい。
水不溶性ポリマー粒子を合成する場合、(c1)成分及び(c2)成分の混合物を公知の乳化重合法等により共重合させることができる。ポリマー粒子(C)は、インクへの配合性の観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、水を分散媒とするポリマー分散体として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマー粒子の分散体の固形分濃度は、顔料含有ポリマー粒子と共にインクに配合する観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
水不溶性ポリマー粒子の重量平均分子量は、定着性の観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは20万以上、更に好ましくは50万以上である。
水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は、インクの保存安定性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
なお、水不溶性ポリマー粒子の重量平均分子量と平均粒径は、実施例記載の方法により測定される。
【0053】
市販の水不溶性ポリマー粒子の分散体としては、例えば、「Neocryl A1127」(DSM NeoResins社製、アニオン性自己架橋水系アクリル樹脂)、「ジョンクリル390」(BASFジャパン株式会社製)等のアクリル樹脂、「ジョンクリル7100」、「ジョンクリル734」、「ジョンクリル538」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のスチレン−アクリル樹脂及び「ビニブラン701」(日信化学工業株式会社製)等の塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。
水不溶性ポリマー粒子を含有する分散体中の水不溶性ポリマー粒子の含有量は、分散安定性、インク配合時の利便性の観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましく、そして、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下が更に好ましい。
水不溶性ポリマー粒子を用いる場合、インク中の水不溶性ポリマー粒子の含有量は、定着性及び画像均一性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.2質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0054】
<有機溶媒(D)>
有機溶媒は、水系コンポジット黒インクの保存安定性、インクドットの拡がりによる画像均一性を向上させる観点から用いられる。当該有機溶媒の好適例としては、多価アルコールが挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオール等が挙げられる。これらの中では、エチレングリコール(沸点197℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)及びジエチレングリコール(沸点244℃)がより好ましく、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールが更に好ましい。
【0055】
本発明に係る水系コンポジット黒インクには、必要に応じて、水系インクに通常用いられる界面活性剤、湿潤剤、浸透剤、保湿剤、粘度調整剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含有することができる。
界面活性剤は、表面張力等のインク特性を調整するために用いられ、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられるが、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤が好ましく、非イオン性界面活性剤がより好ましい。
非イオン性界面活性剤の中では、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物、アルコールのアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アルカノールアミド等が好ましい。
これらの界面活性剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
界面活性剤の含有量は特に制限はないが、インク中、0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜4質量%、より好ましくは0.5〜3質量%で用いることができる。
【0056】
<水系コンポジット黒インクの製造>
本発明に係る水系コンポジット黒インクは、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料、又は必要に応じて添加されるカーボンブラックと、水不溶性ポリマー(B)、有機溶媒(D)、水、及び必要に応じて、水不溶性ポリマー粒子(C)、界面活性剤等の添加剤等を混合して、それぞれの色のインクを製造し、それらを混合することによって得ることができる。
(水の含有量)
水の含有量は、インクの保存安定性、光学濃度、吐出性の観点から、インク中、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%以下である。
(インク物性)
インクの32℃の粘度は、インクの保存安定性及び吐出性の観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更により好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。
水系インクのpHは、インクの保存安定性、吐出性、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは7以上、より好ましくは8以上、更により好ましくは8.5以上であり、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更により好ましくは9.5以下である。
【0057】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、ラベル印刷基材に水系コンポジット黒インクを吐出して記録する手段、及び該基材の搬送方向下流側に乾燥手段を備えた装置を用いるインクジェット記録方法であって、該コンポジット黒インク中のカーボンブラックの含有量が、コンポジット黒顔料中25質量%以下であり、該乾燥手段が、該基材上に吐出された該コンポジット黒インクの温度を95℃以上125℃以下に加熱する赤外線ヒータである、インクジェット記録方法である。
【0058】
<インクジェット記録装置>
次に、
図1を参照して、本発明のインクジェット記録方法に使用するのに好適なインクジェット記録装置について説明する。
図1は、本発明に使用するインクジェット記録装置の内部構造の一実施形態を示す概略図であり、(a)はその正面図、(b)はその平面図である。
図1において、インクジェット記録装置1は、主に、給紙ロール10を保持する給紙部Aと、記録手段21を有する記録部Bと、記録物に赤外線を照射してインクを定着固化させる乾燥部Cと、記録物を巻き取る排紙ロール40を有する排紙部Dとからなる。印刷基材(ロール紙)11は、給紙ロール10から巻き解かれ、記録部B、乾燥部Cを経て、排紙ロール40に巻き取られる。
記録装置1は、印刷基材11の幅(例えば約30cm)程度で、搬送方向に沿って長い形状(例えば約3m)に構成されている。
記録装置1は、給紙ロール10から搬送される印刷基材11に対して所定位置を保持したまま記録を行う、ライン型の複数の記録ヘッド21aを備え、さらに、吐出されたインクを赤外線照射により短時間で定着固化させる乾燥部Cを備えることで、高速記録を可能としたものである。
【0059】
(給紙部A)
給紙ロール10から略水平に引き出された印刷基材11は、押さえローラ対12の間を通り、第1案内ローラ13によって下方側に案内され、自由回転可能でかつ上下方向に移動可能に構成されたダンサーロール14によって上方側に案内され、さらに第2案内ローラ15によって図示左上方向に案内される。
ダンサーロール14と第2案内ローラ15との間には、印刷基材11を予熱するためのプレヒータ16を備えることが好ましい。
【0060】
図1で、プレヒータ16は電気式の面状ヒータで、印刷基材11との接触面側に凸形状の湾曲面をなすように形成され、4本のフリーローラ17を用いて、印刷基材11の裏面側とプレヒータ16とを圧着させるように構成されている。
プレヒータ16の出力は、印刷基材11の材質や厚み、搬送速度等に応じて、記録手段21の直下で、印刷基材11の表面温度を好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上、そして、好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下となるように制御される。
プレヒータ16で印刷基材11を予熱することにより、記録部Bでインク液滴が印刷基材11に着弾する際のインク粘度を下げることができる。これにより、印刷基材11の紙質が変更されてインクドットの広がりが不足した場合でも、ドットサイズの差異をコントロールし、インクを変更することなく良好な記録が可能となる。
【0061】
(記録部B)
記録手段21は、水系コンポジット黒インクと有彩色インク、例えば、シアン、マゼンタ、イエローを吐出する複数の記録ヘッド21aを備えており、印刷基材11にインクジェット記録を行う。
図1においては、4色の記録ヘッドを使用する例を示したが、5色以上の記録ヘッドを使用することもできる。
水系コンポジット黒インクは、シアン顔料を含むシアンインク、マゼンタ顔料を含むマゼンタインク、イエロー顔料を含むイエローインク、及びカーボンブラックを含む黒インクを混合して得ることが好ましい。
記録手段21の下部には、負圧によって印刷基材11を下方に吸引して記録手段21と記録面との隙間を一定に保つためのサクションボックス22を設けることができる。
記録ヘッド21aの吐出方式は、サーマル方式でもピエゾ方式でもよいが、ピエゾ方式が好ましい。
【0062】
記録ヘッド21aの印加電圧は、高速記録の効率性等の観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは40V以下、より好ましくは35V以下、更に好ましくは30V以下である。
駆動周波数は、高速記録の効率性等の観点から、好ましくは1kHz以上、より好ましくは3kHz以上、更に好ましくは5kHz以上であり、そして、好ましくは80kHz以下、より好ましくは60kHz以下、更に好ましくは40kHz以下である。
インクの吐出液滴量は、インク液滴の着弾位置の精度を維持する観点及び画質向上の観点から、1滴あたり好ましくは0.5pL以上、より好ましくは1.0pL以上、更に好ましくは3pL以上であり、そして、好ましくは30pL以下、より好ましくは25pL以下、更に好ましくは20pL以下である。
記録ヘッド解像度は、好ましくは300dpi(ドット/インチ)以上、より好ましくは500dpi以上、更に好ましくは550dpi以上である。
【0063】
記録時の記録手段21内の温度は、インクの粘度を下げ、連続吐出性を向上させる観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、更に好ましくは30℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは38℃以下である。
印刷基材11の搬送速度は、生産性の観点から、6m/min以上であることが好ましく、15m/min以上がより好ましく、20m/min以上が更に好ましく、30m/min以上がより更に好ましく、40m/min以上がより更に好ましい。
その後、印刷基材11は、乾燥部Cに搬送される。
【0064】
(乾燥部C)
乾燥部Cには、印刷基材11上に吐出された水系コンポジット黒インクに赤外線を照射する赤外線ヒータ31が設けられており、温度を95℃以上125℃以下に加熱することにより吐出されたインクを乾燥させ、定着固化させる。
乾燥温度は、好ましくは98℃以上、より好ましくは100℃以上であり、そして、好ましくは123℃以下、更に好ましくは120℃以下である。
ここで、定着とは、印刷基材11上に着弾したインク液滴の紙内部への浸透と、表面からのインクの乾燥の両方を意味し、印刷基材11の表面に着弾したインクが液滴として存在しなくなることをいう。また、固化とは、印刷基材11に着弾したインク液滴が固化し、インクが印刷基材11の表面上に固定されることをいう。
【0065】
赤外線ヒータ31は、石英ガラス、セラミック等の表面にSi,Fe,Zr,Ti,Mn等を含有する複合酸化物皮膜を設けた発熱体である。
図1では、6本の赤外線ランプヒータが設けられている。赤外線ランプヒータの本数は、電力量等にもよるが、好ましくは3本以上、より好ましくは4本以上、更に好ましくは5本以上であり、そして、好ましくは10本以下、より好ましくは9本以下、更に好ましくは8本以下である。
赤外線ランプヒータとしては、生産性よく加熱乾燥させる観点から、中赤外線(波長:2.5〜8μm)ランプヒータが好ましく、上方に中赤外線反射板を設けることが好ましい。中赤外線ランプヒータは、例えばキセノンランプヒータとし、このキセノンランプヒータは石英ガラス管と、この石英ガラス管内に装着したタングステン発熱線と、石英ガラス管内に封入した発熱線劣化防止用のハロゲンガスとにより構成することができる。
【0066】
赤外線照射の条件は、定格電圧200Vで、出力が、好ましくは800W以上、より好ましくは900W以上、更に好ましくは1000W以上であり、そして、好ましくは1500W以下、より好ましくは1400W以下、更に好ましくは1300Wである。
赤外線の照射時間は、十分に乾燥させる観点から、好ましくは0.5秒間以上、より好ましくは1.0秒間以上、更に好ましくは1.5秒間以上であり、生産性の観点から、好ましくは10秒間以下、より好ましくは6秒間以下、更に好ましくは3秒間以下である。
赤外線ヒータ31と印刷基材11との距離は、印刷基材11の変形防止、及び省エネルギーの観点から、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、更に好ましくは50mm以上であり、そして、好ましくは90mm以下、より好ましくは80mm以下、更に好ましくは70mm以下である。
【0067】
水系コンポジット黒インクにおいて、乾燥部C出口におけるインク表面温度95℃以上125℃以下を達成するための乾燥条件は、印刷基材11の搬送速度が12.5〜50m/min、赤外線ヒータが3〜6本、単位時間当たりの赤外線ヒータ出力が550〜1,100Wの組合せで達成できる。
例えば、搬送速度25m/min、赤外線ヒータ6本、赤外線ヒータ出力1,100Wで、水系コンポジット黒インクの表面温度118℃が得られる。また、搬送速度12.5m/min、赤外線ヒータ6本、赤外線ヒータ出力800Wで、水系コンポジット黒インクの表面温度110℃が得られる。搬送速度12.5m/min、赤外線ヒータ3本、赤外線ヒータ出力1,100Wで、水系コンポジット黒インクの表面温度115℃が得られる。
【0068】
(排紙部D)
乾燥部Cを通過した印刷基材11は、ローラ32〜34を経て、必要に応じて乾燥バッファー部にてアフターヒートされ、排紙部Dに搬送される。
印刷基材11は、排紙ロール40に巻き取られる。
搬送速度は、例えば最大50m/minとし、400mを超える長さの印刷基材11が使用可能に構成できる。
【実施例】
【0069】
以下の合成例、製造例、及び調製例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、物性等の測定方法は、以下のとおりである。
【0070】
(1)水不溶性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として、予め分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて測定した。
【0071】
(2)顔料含有ポリマー粒子、及び水不溶性ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS−8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定濃度が5×10
−3質量%(固形分濃度換算)になるように水で希釈して行った。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、得られたキュムラント平均粒径を顔料含有ポリマー粒子の平均粒径とした。
【0072】
(3)顔料水分散体の固形分濃度の測定
30mlのポリプレピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0073】
合成例1(水不溶性ポリマー溶液の合成)
2つの滴下ロート1及び2を備えた反応容器内に、表1の「初期仕込みモノマー溶液」に示すモノマー、溶媒(メチルエチルケトン)、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
一方、表1の「滴下モノマー溶液1」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65)、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液1を得、滴下ロート1中に入れて、窒素ガス置換を行った。
また、表1の「滴下モノマー溶液2」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液2を得、滴下ロート2中に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら77℃に維持し、滴下ロート1中の滴下モノマー溶液1を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。次いで滴下ロート2中の滴下モノマー溶液2を2時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の混合溶液を77℃で0.5時間攪拌した。
次いで前記の重合開始剤(V−65)0.6部をメチルエチルケトン27.0部に溶解した重合開始剤溶液を調製し、該混合溶液に加え、77℃1時間攪拌することで熟成を行った。前記重合開始剤溶液の調製、添加及び熟成を更に5回行った。次いで反応容器内の反応溶液を80℃に1時間維持し、メチルエチルケトンを加えて水不溶性ポリマーの溶液(固形分濃度:40.8%)を得た。
得られた水不溶性ポリマーの重量平均分子量は52,700であった。また、得られた水不溶性ポリマーを105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、水に5×10
−3質量%(固形分濃度換算)で溶解させたときの、平均粒径は89nmであった。
【0074】
なお、表1中のモノマーの詳細は下記のとおりである。
スチレンマクロマー:東亜合成株式会社製「AS−6(S)」、(有効分濃度50質量%、数平均分子量6000)
M−40G:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、新中村化学工業株式会社製、NKエステルM−40G(エチレンオキシド平均付加モル数:4、末端:メトキシ基)
【0075】
【表1】
【0076】
製造例1(カーボンブラックを含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体の製造)
(1)合成例1で得られた水不溶性ポリマー溶液(固形分濃度40.8%)157.6gを、メチルエチルケトン(MEK)60.4gと混合し、水不溶性ポリマーのMEK溶液を得た。容積が2Lのディスパーに該水不溶性ポリマーのMEK溶液を投入し、1400rpmの条件で撹拌しながら、イオン交換水448.3g、5N水酸化ナトリウム水溶液19.5g、及び25%アンモニア水溶液1.5gを添加して、水酸化ナトリウムによる中和度が85%、アンモニアによる中和度が40%となるように調整し、0℃の水浴で冷却しながら、1400rpmで15分間撹拌した。次いでカーボンブラック(キャボット社製「Monarch717」)150gを加え、7000rpmで3時間撹拌した。得られた顔料混合物をマイクロフルイダイザー「M−110EH−30XP」(Microfluidics社製)を用いて150MPaの圧力で20パス分散処理し、得られた分散処理物を得た。固形分濃度は21質量%であった。
(2)前記工程で得られた分散処理物1000gを2Lナスフラスコに入れ、イオン交換水400gを加え(固形分濃度15質量%)、回転式蒸留装置「ロータリーエバポレーター N−1000S」(東京理化器械株式会社製)を用いて、回転数50rpmで、32℃に調整した温浴中、0.09MPaの圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を0.07MPaに下げて固形分濃度25質量%になるまで濃縮した。
(3)得られた濃縮物を500mlアングルローターに投入し、高速冷却遠心機「himac CR22G」(日立工機株式会社製、設定温度20℃)を用いて7000rpmで20分間遠心分離した後、液層部分を5μmのメンブランフィルター「Minisart」(Sartorius社製)で濾過した。
ろ液400g(カーボンブラック68.6g、水不溶性ポリマー29.4g)にイオン交換水44.56gを添加し、更にプロキセルLVS(アーチケミカルズジャパン株式会社製:防黴剤、有効分20%)0.89gを添加し、70℃で1時間攪拌した。25℃に冷却後、前記5μmフィルターでろ過し、更に固形分濃度は22質量%になるようにイオン交換水を加えて、顔料を含有する水不溶性ポリマーの水分散体を得た。
得られた水分散体中の顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は90nmであった。
【0077】
製造例2〜4(有彩色顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体の製造)
製造例1で使用したカーボンブラック(Monarch717)を、シアン顔料(大日精化工業株式会社製、商品名:Chromofine Blue 6338JC、C.I.ピグメント・ブルー15:3)、マゼンタ顔料(大日精化工業株式会社製、商品名:Chromofine Red 6114JC、C.I.ピグメント・レッド122)、イエロー顔料(山陽色素株式会社製、商品名: Fast Yellow 7414、C.I.ピグメント・イエロー74)に変更した以外は、製造例1と同様にして、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料をそれぞれ含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得た。
【0078】
合成例2(顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子の合成)
滴下ロートを備えた反応容器内に、メタクリル酸0.5g、メタクリル酸メチル14.5g、アクリル酸2−エチルヘキシル5.0g、ラテムルE−118B(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム11.1g、花王株式会社製、界面活性剤)、重合開始剤である過硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)0.2g、イオン交換水282.8gを入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。また、メタクリル酸9.5g、メタクリル酸メチル275.5g、アクリル酸2−エチルヘキシル95.0g、ラテムルE−118B 35.1g、過硫酸カリウム0.6g、イオン交換水183.0を混合して、滴下モノマー溶液を得、滴下ロート内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら室温から80℃に30分かけて昇温し、80℃に維持したまま、滴下ロート中のモノマーを3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の温度を維持したまま、1時間攪拌した。次いで200メッシュでろ過し、顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子(固形分濃度40質量%、平均粒径100nm)を得た。
【0079】
調製例1(水系インクC1の調製)
製造例1で得られたカーボンブラックを含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体、及び合成例2で得られた顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子を用いて、インク中に顔料4質量%、水不溶性ポリマー粒子が2質量%となるように以下の組成Aにて配合し、得られた混合液を前記5μmフィルターで濾過して水系インクC1(黒)を得た。
【0080】
〔組成A〕
カーボンブラックを含有する水分散体(固形分濃度22質量%) 26g
顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子(メタクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル/メタクリル酸の共重合体、固形分濃度40質量%、平均粒径100nm)5g
ジエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製) 20g
プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製) 10g
サーフィノール104PG−50(日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系活性剤のプロピレングリコール溶液、有効分50%) 2g
エマルゲン120(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)2g
1N水酸化ナトリウム水溶液 0.5g
合計量が100gとなるようイオン交換水 34.5gを添加した。
【0081】
調製例2〜4(水系インクC2〜C4の調製)
調製例1において使用したカーボンブラックを含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を、製造例2〜4で得られたシアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料をそれぞれ含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体に変更した以外は、調製例1と同様にして、水系インクC2(シアン)、C3(マゼンタ)、C4(イエロー)を得た。
【0082】
調製例5(水系コンポジット黒インクの調製)
調製例1〜4で得られた水系インクを用いて、水系インクC1(黒)10g、水系インクC2(シアン)30g、水系インクC3(マゼンタ)30g、水系インクC4(イエロー)30gを配合し、5μmフィルターで濾過して水系コンポジット黒インクを得た。
【0083】
実施例1〜3、及び比較例1〜3
温度25±5℃、相対湿度60±10%の環境下で、インクジェット記録用ラインヘッドを装備した印刷評価装置(岩崎通信機株式会社製、
図1参照)に、調製例5で得られた水系コンポジット黒インク、調製例2〜4で得られた水系インクC2(シアン)、C3(マゼンタ)、C4(イエロー)をインクセットに充填した。
ラベル印刷基材(リンテック株式会社製、品番:グロス PW 8K、表面:塗工紙)を、
図1の給紙ロール10にセットし、インクジェット記録を行い、それぞれの色についてウェット状態のベタ画像を作製した。その直後の赤外線ヒータ31から照射された中赤外線により水系インクを乾燥し、印刷基材に定着させ、排紙ロール40にて巻き取った。
【0084】
インクジェット記録条件等は以下のとおりである。
・記録ヘッドの吐出方式:ピエゾ方式
・記録ヘッド解像度:600dpi
・記録手段内の温度:35℃
・赤外線ランプヒ−タ:2〜6本
・赤外線照射条件:定格電圧200V、出力500〜1100W、照射時間1〜6秒間
・赤外線ランプヒ−タと印刷基材との距離:60mm
・搬送速度6〜25m/min
・インク表面温度:共立電気計器株式会社製の放射温度計KEW5515により測定
水系コンポジット黒インクで形成された最終印刷物の画像の色移り、印刷基材の変形を、下記基準で評価した結果を、乾燥部Cの出口におけるインク表面温度との関係で表2に示す。乾燥時のコンポジット黒インク表面温度が80〜130℃となるよう、赤外線ランプヒ−タの数、赤外線照射条件及び搬送速度を上記の範囲内で調整した乾燥条件a〜fで行った。
乾燥部出口でのコンポジット黒インク表面温度を設定する乾燥条件例を次に示す。
乾燥条件dの場合、例えば搬送速度12.5m/min、赤外線ランプヒータ6本、赤外線ランプヒータ出力800Wで、コンポジット黒インク表面温度110℃が得られる。
乾燥条件eの場合、例えば搬送速度25m/min、赤外線ランプヒータ6本、赤外線ランプヒータ出力1,100Wで、コンポジット黒インク表面温度120℃が得られる。
上記例のごとく、搬送速度と赤外線ランプヒータの本数と赤外線ランプヒータ出力との組合せで、所定の温度設定が可能となる。
なお、水系インクC2(シアン)、C3(マゼンタ)、C4(イエロー)のそれぞれのインクについては、画像の色移り、印刷基材の変形の評価に問題はなく、良好な印刷物が得られた。
【0085】
(印刷物の色移り評価)
A:得られた印刷物表面を指で擦った際に指への色移りがなく、巻取り後の裏面への裏写りもない。
B:得られた印刷物表面を指で擦った際に指への色移りがないが、巻取り後の裏面への裏写りが僅かにある。しかし、裏面への裏写りは問題とされるレベルではない。
C:得られた印刷物表面を指で擦った際に指への色移りが僅かにあり、問題とされる場合があるレベルである。
D:得られた印刷物表面を指で擦った際に指への色移りが多く、印刷物表面が湿っていて印字面への転写があり、実用上問題である。
【0086】
(印刷基材の変形の評価)
A:目視で、得られた印刷物に歪み等の変形が全く認識できない。
B:目視で、得られた印刷物に歪み等の変形が見られる場合があるが、巻取り後の形状は問題とされるレベルではない。
C:目視で、得られた印刷物に僅かに歪み等の変形が見られる。
D:目視で、得られた印刷物に大きな歪み等の変形が見られ、実用上問題である。
【0087】
【表2】
【0088】
比較例4〜7
実施例1〜3、及び比較例3において、水系コンポジット黒インクの代りに、調製例1で得られたカーボンブラックのみを含む水系黒インクC1を用いて、実施例1〜3、及び比較例3の乾燥条件c〜fにて同様に評価した結果を表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
表2から、水系コンポジット黒インクを用いた本発明のインクジェット記録方法において、乾燥部Cの出口におけるインク表面温度が95〜125℃において、色移りや印刷基材の変形がない良好な印刷物が得られることが分かる。
一方、表3から、カーボンブラックのみを含む黒インクC1を用いたインクジェット記録方法においては、良好な印刷物が得られた実施例1〜3と同じ乾燥条件において色移りはしないものの、印刷基材の変形が発生し、良好な印刷物を得ることができなかった。