特許第6705145号(P6705145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705145
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】複合体及び複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20200525BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20200525BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20200525BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20200525BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M10/0562
   H01M4/485
   H01M4/1391
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-199133(P2015-199133)
(22)【出願日】2015年10月7日
(65)【公開番号】特開2017-73265(P2017-73265A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年6月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 一雅
(72)【発明者】
【氏名】堀 茂雄
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−232284(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/140574(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103441257(CN,A)
【文献】 特開2013−105646(JP,A)
【文献】 特表2013−532361(JP,A)
【文献】 特開2009−206084(JP,A)
【文献】 特開2014−212022(JP,A)
【文献】 特開2003−346895(JP,A)
【文献】 特開2008−226666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/1391
H01M 4/485
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル構造のチタン酸リチウムを含む第1層と、
ペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む緻密層を含み前記第1層上を被覆した第2層と、を備え
前記第1層と前記第2層との界面には抵抗層が存在しない、
複合体。
【請求項2】
前記第2層は、前記緻密層の上に形成されたペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む多孔質層をさらに含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記第2層の緻密層は、厚さが0.05μm以上10μm以下の範囲で形成されている、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記第1層は、負極活物質層であり、
前記第2層の緻密層は、固体電解質層であり、
前記複合体は、負極/電解質複合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
チタン酸リチウムを含む成形体または焼結体である第1層上にチタン源及びランタン源としてチタン酸ランタンの板状粒子を少なくとも含みチタン酸ランタンの粉末及び酸化チタンの粉末を含んでもよい原料を形成した原料形成体を作製する原料形成工程と、
前記原料形成体を焼成し前記第1層に起因するリチウムをも原料として利用して前記第1層上にペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む緻密層を少なくとも形成させる第2層形成工程と、
を含む複合体の製造方法。
【請求項6】
前記原料形成工程では、前記チタン源及びランタン源を含む原料を含むテープ状前駆体を前記第1層上に貼り合わせることにより前記原料形成体を作製する、請求項5に記載の複合体の製造方法。
【請求項7】
前記第2層形成工程では、前記原料形成体を焼成することにより前記緻密層の上にペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む多孔質層を有する前記第2層を形成する、請求項6に記載の複合体の製造方法。
【請求項8】
前記原料形成工程では、前記緻密層の厚さが0.05μm以上10μm以下の範囲となる前記原料形成体を作製する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項9】
前記第1層は、負極活物質層であり、
前記第2層の緻密層は、固体電解質層であり、
前記複合体は、負極/電解質複合体である、請求項5〜8のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体及び複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池に用いられる固体電解質としては、例えば、チタン酸ランタンで構成された平均粒径が50nm〜300nmの第1の粒子と、チタン酸リチウムで構成された平均粒径が10nm〜50nmである第2の粒子とを含む組成物からなるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この固体電解質では、比較的低温での焼結処理で効率よく固体電解質層を形成することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−105646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、固体電解質を用いる全固体型リチウムイオン二次電池では、固体電解質と活物質層との固体−固体界面に起因するインピーダンスの大きさが課題である。固体電解質としては、高いリチウムイオン伝導性を有するチタン酸リチウムランタンがあるが、他の全個体電池用の固体電解質と同じく、活物質と固体電解質との界面にリチウムイオン伝導が低いリチウム化合物(抵抗層)が生成しやすく、その抵抗層生成は界面インピーダンス増加に直接反映する。しかしながら、特許文献1の固体電解質では、固体電解質の単体の性能向上を図るものであって、固体電解質が組み込まれる電池の性能向上、例えば、固体電解質と活物質との間の接合性などについては検討されていなかった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、リチウムイオン伝導性を発揮しつつ、第1層と第2層とをより良好に接合することができる複合体及びその製造方法を提供することを主目的とする。また、より薄い第2層を形成することができる複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、負極活物質層に含まれるリチウムをリチウム源としてチタン酸リチウムランタンを合成したところ、リチウムイオン伝導性を発揮しつつ、負極活物質層と固体電解質層との界面をより良好なものとすることができ、さらに、固体電解質層をより薄く作製することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の複合体は、
スピネル構造のチタン酸リチウムを含む第1層と、
ペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む緻密層を含み前記第1層上を被覆した第2層と、を備えたものである。
【0008】
本発明の複合体の製造方法は、
チタン酸リチウムを含む成形体または焼結体である第1層上にチタン源及びランタン源を含む原料を形成した原料形成体を作製する原料形成工程と、
前記原料形成体を焼成し前記第1層に起因するリチウムをも原料として利用して前記第1層上にペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む緻密層を少なくとも形成させる第2層形成工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合体及び複合体の製造方法は、リチウムイオン伝導性を発揮しつつ、第1層と第2層とをより良好に接合することができる。この理由は、例えば、第1層である負極活物質のチタン酸リチウム上でそれ自身の一部が第2層である電解質合成のためのチタン源、リチウム源となり、層状ペロブスカイト構造のチタン酸ランタン前駆体とその他の原料と反応するためであると推察される。このため、負極活物質上を緻密なペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンで被覆し、固体電解質と活物質層との固体−固体界面が良好に接合した負極/電解質複合体となるものと推察される。また、本発明では、上述した反応により第2層が形成される際に、その厚みは従来よりもはるかに薄肉化されるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】全固体型のリチウムイオン二次電池20の構成の概略を示す説明図。
図2】第1層上に固相の第2層の原料を形成する説明図。
図3】第1層上に液相の第2層の原料を形成する説明図。
図4】実施例1の負極/電解質複合体の電解質側表面に対するXRD測定結果。
図5】実施例1の負極/電解質複合体の断面SEM写真。
図6】実施例2の負極/電解質複合体の電解質側表面に対するXRD測定結果。
図7】実施例2の負極/電解質複合体の断面SEM写真。
図8】実施例3の負極/電解質複合体の電解質側表面に対するXRD測定結果。
図9】実施例3の負極/電解質複合体の断面SEM写真。
図10】実施例4の負極/電解質複合体の電解質側表面に対するXRD測定結果。
図11】実施例4の負極/電解質複合体の断面SEM写真。
図12】実施例5の負極/電解質複合体のXRD測定結果。
図13】実施例5の負極/電解質複合体のSEM写真。
図14】比較例2、3の負極/電解質複合体のXRD測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複合体は、スピネル構造のチタン酸リチウムを含む第1層と、ペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む緻密層を含み前記第1層上を被覆した第2層と、を備えたものである。ここで、第1層は、負極活物質層であり、第2層の緻密層は、固体電解質層であり、複合体は、負極/電解質複合体であるものとしてもよい。ここで、本明細書において、チタン酸リチウムをLiTOとも称し、チタン酸ランタンをLaTOとも称し、チタン酸リチウムランタンをLLTOとも称するものとする。
【0012】
第1層に含まれるチタン酸リチウムは、基本組成式がLi4Ti512であるものとしてもよく、Li/Ti比(モル比)が0.801〜0.83の範囲であることが好ましい。この第1層は、例えば第2層の支持体となるものとしてもよく、その厚さは、1μm以上100μm以下の範囲であることが好ましい。
【0013】
第2層に含まれる緻密層は、任意の寸法で第1層の上面の一部又は全部を被覆しており、第1層の上面に密着した構造を有する。第2層の緻密層は、厚さが0.05μm以上10μm以下の範囲で形成されていることが好ましい。第2層の厚さが0.05μm以上では、十分な層を形成することができ、好ましい。また、第2層の厚さが10μm以下では、第1層(例えば正極及び負極を含む)の厚さが相対的に厚くならず、エネルギー密度や出力密度をより良好にすることができる。この緻密層は、固体電解質として用いられる際は、負極と正極との短絡を防止できる厚さを有するものとすればより薄い方が好ましく、その厚さは、対象となる電池設計に因るが、8μm以下がより好ましく、5μm以下が更に好ましい。また、この緻密層の厚さは、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上が更に好ましい。ペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンは、組成式がLa2/3-xLi3xTiO3(式中、xは0.03以上0.17以下の数を示す。)で表わされる斜方晶あるいは正方晶の結晶性化合物であることが好ましい。この第2層は、緻密層の上に形成されたペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む多孔質層をさらに含むものとしてもよい。この多孔質層は、例えば、正極活物質が充填される層であるものとしてもよい。こうすれば、Liの伝導をより好適に行うことができる。あるいは、この多孔質層上に正極活物質層が形成されるものとしてもよい。多孔質層は、例えば、厚さが1μm以上100μm以下の範囲としてもよく、50μm以下の範囲としてもよい。あるいは、第2層は、多孔質層を含まず、緻密層上に正極活物質層が形成されるものとしてもよい。なお、「緻密層」とは、断面視したときの緻密層全体の面積に対する空孔の面積の割合が5%以下であるものをいうものとする。また、「多孔質層」とは、緻密層に対して空孔の面積割合が大きいものをいうものとし、例えば断面視したときの多孔質層全体の面積に対する空孔の面積の割合が20%以上であるものとしてもよい。
【0014】
第2層の緻密層は、チタン源、ランタン源の原料に加え第1層に含まれるリチウムをも原料としてチタン酸リチウムランタンが形成されているものとしてもよい。第2層は、その原料としてリチウム源が加えられているものとしても、加えられていないものとしてもよいが、その原料にリチウム源が加えられていないことがより好ましい。こうすれば、第1層に含まれるリチウムが第2層に拡散することにより、第1層と第2層との密着性をより向上することができる。なお、第2層の原料にリチウム源を加える場合においても、第2層の所望の厚さにより決定すればよく、チタン酸リチウムランタンの理論組成よりも少ない量のリチウムを加えるものとすればよい。
【0015】
本発明の複合体は、全固体型リチウムイオン二次電池に用いることができる。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する固体電解質と、を備えている。正極活物質は、例えば遷移金属とリチウムとを含む複合化合物としてもよい。この複合化合物としては、例えば、遷移金属とリチウムとを含む複合酸化物や、遷移金属とリチウムとを含むリン酸化合物などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)MnaNibCoc2(a+b+c=1)などとするリチウムマンガンニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。また、リン酸化合物としては、基本組成式をLiFePO4などとするリチウムリン酸鉄化合物が挙げられる。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0016】
このリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、このリチウムイオン二次電池を複数直列に接続して電気自動車用電源としてもよい。電気自動車としては、例えば、電池のみで駆動する電池電気自動車や内燃機関とモータ駆動とを組み合わせたハイブリッド電気自動車、燃料電池で発電する燃料電池自動車等が挙げられる。全固体型リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、例えば、図1に示す構造が挙げられる。図1は、全固体型のリチウムイオン二次電池20の構成の概略を示す説明図である。このリチウムイオン二次電池20は、ペロブスカイト構造チタン酸リチウムランタンを含む固体電解質層10(第2層)と、この固体電解質層10の片面に形成された正極12と、この固体電解質層10のもう片面に形成された負極14とを有する。このうち、正極12は、固体電解質層10に接する正極活物質層12a(正極活物質を含む層)とこの正極活物質層12aに接する集電体12bとにより構成されている。負極14は、固体電解質層10に接する負極活物質層14a(第1層)とこの負極活物質層14aに接する集電体14bとにより構成されている。更に、集電体12bの上に集電体12b、正極活物質層12a、固体電解質層10及び負極活物質層14aのユニットを積み上げ、積層構造にすることも容易である。
【0017】
次に、本発明の複合体の製造方法について説明する。この製造方法は、(1)原料形成工程と、(2)第2層形成工程とを含む。この製造方法は、上述した複合体を製造するものとしてもよく、第1層が負極活物質層であり、第2層の緻密層が固体電解質層であり、負極/電解質複合体である複合体を製造するものとしてもよい。
【0018】
(1)原料形成工程
この工程では、チタン酸リチウムを含む成形体または焼結体である第1層上にチタン源及びランタン源を含む第2層の原料を形成した原料形成体を作製する。原料の形成は、固相で行うものとしてもよいし、液相で行うものとしてもよい。固相により原料形成を行うと、第2層は、緻密層と多孔質層とを含むものとすることができる。一方、液相で原料形成を行うと、第2層は、緻密層のみを含むものとすることができる。チタン源としては、例えば、酸化チタン(TiO2)やチタン酸ランタン(La2Ti27)、チタン酸リチウム(Li4Ti512)などを用いることができる。ランタン源としては、例えば、酸化ランタン(La23)やチタン酸ランタンなどを用いることができる。第2層の原料には、リチウム源が加えられているものとしても、加えられていないものとしてもよいが、リチウム源が加えられていないことがより好ましい。こうすれば、第1層に含まれるリチウムが第2層に拡散することにより、第1層と第2層との密着性をより向上することができる。なお、第2層の原料にリチウム源を加える場合においても、チタン酸リチウムランタンの理論組成よりも少ない量のリチウムを加えるものとすればよい。
【0019】
この工程では、固相による原料形成において、チタン源及びランタン源を含む第2層の原料であるテープ状前駆体を第1層上に貼り合わせることにより原料形成体を作製するものとしてもよい。また、この工程では、テープ状前駆体を第1層上に圧着する圧着処理、含まれる有機物などを除去する脱脂処理、第1層と第2層の原料とを加圧固定するCIP処理などを含むものとしてもよい。図2は、第1層原料の成形体上に固相の第2層の原料を形成する説明図である。第1層は、チタン酸リチウムを含む成形体として、例えば、チタン酸リチウムの粉末を成形した成形体としてもよい。第1層の成形体は、CIP処理したCIP成形体や(図2(a)〜(d))、チタン酸リチウムの粉末により形成したテープを1枚以上積層した積層成形体としてもよい(図2(e))。第1層が未焼成の成形体であれば、第2層と共焼成することができ、焼成時のエネルギー消費をより抑制することができ好ましい。なお、CIP成形体は、表面を研磨したものとしてもよい。第2層の原料を含むテープ状前駆体は、例えば、チタン酸ランタンの板状粒子と酸化チタンの粉末とにより作製するものとしてもよい(図2(a))。また、テープ状前駆体は、チタン酸ランタンの板状粒子とこれを粉砕した粒子と酸化チタンの粉末とにより作製するものとしてもよい(図2(b))。また、テープ状前駆体は、仮焼したチタン酸リチウムランタン粉末を主成分とし、副成分としてチタン酸ランタン(板状粒子)、チタン酸リチウム及び酸化チタンを含む粉末により作製するものとしてもよい(図2(c))。また、テープ状前駆体は、チタン酸ランタンの板状粒子と、チタン酸ランタンの粉砕粒子とチタン酸リチウム及び酸化チタンを含む混合粉末により作製するものとしてもよい(図2(d))。テープ状前駆体は、チタン源及びランタン源に、溶媒や可塑剤、結着材などを加えて混合してスラリー又はペーストとし、ドクターブレードなどの周知の方法で作製することができる。また、テープ状前駆体は、ロールプレスなどにより加圧して厚さや密度が調整されるものとしてもよい。テープ状前駆体の厚さは、目的の緻密層の厚さに応じた厚さに形成すればよく、例えば、0.05μm〜10μmの範囲とすることが好ましい。脱脂処理は、テープ状前駆体を第1層上に載置し、前駆体の上におもりを載せた状態で行うものとしてもよいし、テープ状前駆体を第1層上に圧着させたのち行うものとしてもよい。また、脱脂処理は、窒素中、300℃〜600℃、0.5h〜5hの条件で行うものとしてもよい。CIP処理は、50MPa〜500MPaの範囲で行うことが好ましい。
【0020】
この工程では、液相による原料形成において、チタン源及びランタン源を含む原料溶液を第1層上に塗布する塗布処理と第1層上の原料溶液を乾燥し有機成分を分解する乾燥熱分解処理とを1回以上行うことにより原料形成体を作製するものとしてもよい。図3は、第1層原料の成形体上に液相の第2層の原料を形成する説明図である。原料溶液は、例えば、チタン源として、チタンイソプロポキシドを用いて作製したTiメトキシエトキシドなどが挙げられる。また、ランタン源としてランタンイソプロポキシドを用いて作製したLaメトキシエトキシドなどが挙げられる。塗布処理は、例えば、スピンコートなどで行うことができる。乾燥熱分解処理では、乾燥熱分解の温度を100℃〜500℃とすることができる。
【0021】
(2)第2層形成工程
この工程では、原料形成体を焼成し第1層に起因するリチウムをも原料として利用して第1層上にペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む緻密層を少なくとも形成させる。焼成処理は、大気中で850℃以上1100℃未満の範囲で行うことが好ましく、1000℃以下で行うことがより好ましい。焼成温度は、より低い方がエネルギー消費の観点からみて好ましい。また、焼成処理は、原料成形体をチタン酸リチウムの粉末で覆う、パウダーベッドにより行うことが好ましい。こうすれば、加熱飛散しやすいLiの含有量の変化をより抑制することができる。この工程では、第1層の焼成も共に行うことが好ましい。また、この工程では、原料形成体を焼成することにより、緻密層の上にペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンを含む多孔質層をさらに形成するものとしてもよい。
【0022】
以上詳述した本実施形態の複合体及びその製造方法では、リチウムイオン伝導性を発揮しつつ、第1層と第2層とをより良好に接合することができる。また、より薄い第2層を形成することができる。すなわち、本発明によれば、固体電解質として高いイオン伝導率であるペロブスカイト構造チタン酸リチウムランタンを負極材料であるチタン酸リチウム上に薄く形成することができ、安全性が高く、かつ、内部抵抗が低い酸化物系の全固体型リチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。この理由は、例えば、第1層である負極活物質のチタン酸リチウム上でそれ自身の一部が第2層である電解質合成のためのチタン源、リチウム源となり、層状ペロブスカイト構造のチタン酸ランタン前駆体とその他の原料と反応するためであると推察される。このため、負極活物質上を緻密なペロブスカイト構造のチタン酸リチウムランタンで被覆し、固体電解質と活物質層との固体−固体界面が良好に接合した負極/電解質複合体となるものと推察される。また、本発明では、上述した反応により第2層が形成される際に、その厚みは従来よりもはるかに薄肉化されるものと推察される。このことは、電池全体が薄肉化され内部抵抗の観点で大いに利点になるだけでなく、電極が厚くなる際に必要となる導電助剤などのエネルギー密度を損なう部材を必要としないため、エネルギー密度の向上が図れ、さらに、部材及び製造工程の削減に伴う低コスト化が期待できる。
【0023】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0024】
以下には、本発明の複合体(負極/電解質複合体)を具体的に作製した例を実施例として説明する。下記実施例においては、負極活物質層(第1層)を負極支持体とも称し、固体電解質層(第2層)を電解質とも称する。なお、本発明は下記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0025】
(負極支持体(LiTO)の作製(CIP成形体A1、又は焼結体A2))
市販チタン酸リチウム(Li4Ti512;LiTO,エナマイトLT−106石原産業製)をポリエチレンポットに、ジルコニアボール、エタノールと共に入れ、60時間、ボールミル処理をした。ミル処理後の混合液からエタノールを蒸発させ、ペースト状の試料を回収した。そのペースト状の試料を110℃乾燥機中で一晩乾燥させたあと、アルミナ乳鉢で解砕しペレット用試料とした。ペレット金型に目標厚みとなる所定量の市販チタン酸リチウムを充填し、150kgf/cm2で1分間保持し、予備成形体を得た。予備成形体をポリエチレン袋に入れ二重に真空パックした後に、300MPaで1分間保持する条件で冷間等方圧加工処理(CIP)を行い、そのCIP処理したものを回収し負極支持体(CIP成形体A1)を得た。また、得られたCIP成形体を焼成して、負極支持体(焼結体)を作製した。上記負極支持体(CIP成形体)の全体を出発原料の市販チタン酸リチウムで覆い焼成を行った。これにより、焼成時における負極支持体(CIP成形体)からのリチウム蒸散を抑制することができる。焼成条件は、大気中、昇温速度200℃/h、1000℃で4時間保持後とし、冷却は炉冷とした。得られた焼成体表面を研磨し、厚みを整えて負極支持体(焼結体A2)を得た。
【0026】
(負極支持体(LiTO)の作製(テープ体B))
上記市販チタン酸リチウムをポリエチレンポットに、ジルコニアボール、エタノールと共に入れ、ボールミル粉砕を行った。ミル粉砕後の混合液からエタノールを蒸発させ、ペースト状の試料を回収した。そのペースト状試料を110℃乾燥機中で一晩乾燥させたあと、アルミナ乳鉢で解砕しテープ用粉砕粉末とした。このテープ用粉砕粉末に、150質量%の有機溶媒予混合液(トルエン+エタノール+ポリビニルブチラール(PVB))と可塑剤及び混合撹拌用ジルコニアボールを加え、ボールミル混合を行うことでテープ成形用のスラリーを得た。次に、ドクタープレード装置を用いて、得られたスラリーを厚さ70〜100μmのテープ状に成形し、乾燥させ、テープ成形体を得た。更に、得られたテープ成形体を切断し、10枚重ねて積層テープ成形体Bとした。
【0027】
(電解質テープ状前駆体用チタン酸ランタン(板状粒子C)の合成)
ポットに直径3mmのジルコニアボールとエタノール(和光純薬工業(株)製、特級99.5%)を入れ、化学量論比でLa2Ti27組成(La:Ti=1:1(モル))となるように、炭酸ランタン(La2(CO33)粉末及び酸化チタン(TiO2)粉末(平均粒径0.15μm)を加えて、ボールミリングを行い、混合スラリーを得た。次に、得られた混合スラリーを電気炉中で乾燥し、乾燥した混合粉末を解砕し、この混合粉末に対して、フラックスとして等量の塩化カリウム(KCl)を加えて白金るつぼに入れた。次に、白金るつぼを電気炉(粉体合成炉)で加熱し、短冊上の粒子(チタン酸ランタン粉末)を合成した。加熱処理の条件は、1200℃で8時間保持とした。冷却後に試料のKClを洗い流し、板状粒子C(LaTO)を得た。
【0028】
(電解質テープ状前駆体用チタン酸ランタン(粉砕粒子D)の合成)
ポットに直径3mmのジルコニアボールとエタノール(和光純薬工業(株)製、特級99.5%)を入れ、チタン酸ランタン(La2Ti27)を加えて、ボールミル粉砕を行った。ミル粉砕後の混合液からエタノールを蒸発させ、ペースト状の試料を回収した。ペースト状試料を110℃乾燥機中で一晩乾燥させたあと、アルミナ乳鉢で解砕しチタン酸ランタン粉砕粒子D(LaTO粉砕粒子)を得た。
【0029】
(板状粒子を含まないチタン酸リチウムランタン(仮焼粉末E)の合成)
ポットに直径3mmのジルコニアボールとエタノール(和光純薬工業(株)製、特級99.5%)を入れ、予めボールミルで粉砕したチタン酸リチウム(Li4Ti512)、酸化チタン(TiO2)及びチタン酸ランタン(La2Ti27)を配合し、ボールミル混合を行い混合スラリーを得た。混合スラリーよりエタノールを蒸発させたあと、大気中で1000℃、4時間(昇降温速度200℃/h)で仮焼して仮焼粉末Eを得た。
【0030】
(板状粒子を含まないチタン酸リチウムランタン用原料(混合粉末F)の調整)
ポットに直径3mmのジルコニアボールとエタノール(和光純薬工業(株)製、特級99.5%)を入れ、チタン酸リチウム(Li4Ti512)、酸化チタン(TiO2)及びチタン酸ランタン(La2Ti27)をLa0.62Li0.16TiO3となる比で配合し、ボールミル混合を行い混合スラリーを得た。混合スラリーよりエタノールを蒸発させたあと、アルミナ乳鉢で解砕しチタン酸リチウムランタン原料の混合粉末Fを得た。
【0031】
(電解質テープ状前駆体G:LaTO板状粒子と酸化チタン(TiO2)との混合体)
板状粒子C(LaTO)とTiO2粉末とを、これらが負極支持体LiTOと反応してLa0.62Li0.16TiO3となる比で混合したテープ成形用のスラリーを作製した。上記二種類の粉末に、150質量%の有機溶媒予混合液(トルエン+エタノール+PVB)と可塑剤及び混合撹拌用ジルコニアボールを加え、ボールミル混合を行うことでテープ状前駆体用のスラリーを得た。次に、ドクターブレード装置を用いて、得られたスラリーを厚さ70〜100μmのテープ状に成形し、乾燥させ、テープ成形体を得た。更に、得られたテープ成形体を切断し、ロールプレスで厚さT=30μmへ調厚した電解質テープ状前駆体Gを得た。なお、以後述べるテープ状前駆体に関してもその調厚値は電池設計の重要な設計パラメータであり、また、得ようとする緻密な電解質膜と多孔な電解質膜との比で任意に変更可能である。本実施例では、薄く緻密な電解質膜を有し、かつ、正極材料をその体積と同等以上の電解質多孔層に含浸する構造を選択したので、ロールプレス厚をT=30μmに設定した。
【0032】
(電解質テープ状前駆体H:LaTO板状粒子とLaTO粉砕粒子と酸化チタンTiO2との混合体)
板状粒子Cと粉砕粒子Dとの二種類のチタン酸ランタンを5:95(モル比)の割合で混合し、さらにTiO2粉末を、これらが負極支持体LiTOと反応してLa0.62Li0.16TiO3となる比で混合し、電解質テープ状前駆体用のスラリーを作製した。上記三種類の粉末に、150質量%の有機溶媒予混合液(トルエン+エタノール+PVB)と可塑剤及び混合撹拌用ジルコニアボールを加えボールミル混合を行うことでテープ状前駆体用のスラリーを得た。次に、ドクターブレード装置を用いて、得られたスラリーを厚さ70〜100μmのテープ状に成形し、乾燥させ、テープ成形体を得た。更に、得られたテープ成形体を切断し、ロールプレスで厚さT=15μmへ調厚した電解質テープ状前駆体Hを得た。
【0033】
(電解質テープ状前駆体I:チタン酸リチウムランタン(仮焼粉末E))
チタン酸リチウムランタン粉末(仮焼粉末E)95モル%に対して、反応すれば5モル%のチタン酸リチウムランタンとなる、板状粒子C(LaTO)、Li4Ti512粒子、TiO2粒子を加え、これに150質量%の有機溶媒予混合液(トルエン+エタノール+PVB)と可塑剤及び混合撹拌用ジルコニアボールを加えボールミル混合を行うことでテープ成形用のスラリーを得た。次に、ドクターブレード装置を用いて、得られたスラリーを厚さ70〜100μmのテープ状に成形し、乾燥させ、テープ成形体を得た。更に、得られたテープ成形体を切断し、ロールプレスで厚さT=50μmへ調厚した電解質テープ状前駆体Iを得た。
【0034】
(電解質テープ状前駆体J:チタン酸リチウムランタン用原料混合粉末)
板状粒子Cと粉砕粒子Dとの二種類のチタン酸ランタンを5:95(モル比)の割合になり、且つそれと反応してチタン酸リチウムランタンが合成される比のLi4Ti512粒子とTiO2粒子とから成るチタン酸リチウムランタン用粉末(混合粉末)に、150質量%の有機溶媒予混合液(トルエン+エタノール+PVB)と可塑剤及び混合撹拌用ジルコニアボールを加えボールミル混合を行うことでテープ成形用のスラリーを得た。次に、ドクターブレード装置を用いて、得られたスラリーを厚さ70〜100μmのテープ状に成形し、乾燥させ、テープ成形体を得た。更に、得られたテープ成形体を切断し、ロールプレスで厚さT=50μmへ調厚した電解質テープ状前駆体Jを得た。
【0035】
(固相による負極(LiTO)/電解質(LLTO)複合体(実施例1)の作製)
負極支持体(CIP成形体A1、第1層の原料)上に電解質テープ状前駆体G(第2層の原料)を載せて、窒素中500℃、1hで脱脂したあと、300MPaでCIP処理を行った。さらに、負極支持体の下側及び周囲に、市販チタン酸リチウム粉末を配置したあと、1000℃で4h焼成し、第1層を負極活物質層とし第2層を固体電解質層とする実施例1の負極/電解質複合体を得た(図2(a)参照)。
【0036】
(固相による負極/電解質複合体(実施例2)の作製)
負極支持体(CIP成形体A1の研磨品、第1層の原料)上に電解質テープ状前駆体Hを載せ、窒素中500℃、1hで脱脂したあと、250MPaでCIP処理を行った。さらに、負極支持体の下側及び周囲に市販チタン酸リチウム粉末を配置したあと、1000℃、4h焼成し、実施例2の負極/電解質複合体を得た(図2(b)参照)。
【0037】
(固相による負極/電解質複合体(実施例3)の作製)
負極支持体(CIP成形体A1の研磨品、第1層の原料)上に電解質テープ状前駆体Iを載せ、窒素中500℃、1hで脱脂したあと、250MPaでCIP処理を行った。さらに、負極支持体の下側及び周囲に市販チタン酸リチウム粉末を配置したあと、1000℃、4h焼成し、実施例3の負極/電解質複合体を得た(図2(c)参照)。
【0038】
(固相による負極/電解質複合体(実施例4)の作製)
負極支持体(CIP成形体A1の研磨品、第1層の原料)上に電解質テープ状前駆体Jを載せ、窒素中500℃、1hで脱脂したあと、250MPaでCIP処理を行った。さらに、負極支持体の下側及び周囲に市販チタン酸リチウム粉末を配置したあと、1000℃、4h焼成し、実施例4の負極/電解質複合体を得た(図2(d)参照)。また、負極支持体をテープ体Bとし、80℃、5MPaで圧着した試料も同様に、脱脂、CIP処理、焼成した(図2(e)参照)。
【0039】
(表面XRD分析)
作製した負極/電解質複合体(実施例1〜4)の表面をXRD測定した。XRD測定は、XRD測定器(リガク製、ULtima IV)を用いて、CuKα線を用い、印加電圧を40kV、電流40mAに設定し、2θ=10〜90°、10°/分の条件で測定した。
【0040】
(走査型電子顕微鏡(SEM)観察)
作製した負極/電解質複合体1〜4の断面をSEM観察した。SEM観察は、日立ハイテクノロジーズ社製S−3600N及びS−4300を用いて1000〜10000倍の条件で行った。
【0041】
(固相による負極/電解質複合体(実施例1〜4)の特性)
図4は、固相により作製した実施例1の負極/電解質複合体1の電解質側表面に対するXRD測定結果である。図5は、固相により作製した実施例1の負極/電解質複合体の断面SEM写真である。図6は、固相により作製した実施例2の負極/電解質複合体の電解質側表面に対するXRD測定結果である。図7は、固相により作製した実施例2の負極/電解質複合体の断面SEM写真である。図8は、固相により作製した実施例3の負極/電解質複合体の電解質側表面に対するXRD測定結果である。図9は、固相により作製した実施例3の負極/電解質複合体の断面SEM写真である。図10は、固相により作製した実施例4の負極/電解質複合体の電解質側表面に対するXRD測定結果である。図11は、固相により作製した実施例4の負極/電解質複合体の断面SEM写真である。各SEM写真には、反射電子像と二次電子像とを示し、任意位置の拡大写真も適宜示した。図4、6、8、10に示す様に、実施例1〜4では、チタン酸リチウムランタン(Li0.16La0.62TiO3)の電解質層が検出された。また、図5、7、9、11に示す様に、負極支持体(基材)であるチタン酸リチウム上には、チタン酸リチウムランタンの緻密層が被覆しており、この緻密層の上に多孔質層が形成されていることがわかった。実施例1、2においては、電解質層の原料にリチウム源はないことから、負極支持体のリチウムが第2層へ拡散したものと推察された。また、負極支持体と固体電解質との間の界面に抵抗層のような物質は確認されなかった。したがって、これらの複合体では、リチウム伝導性が好適であるものと推察された。実施例1〜4の作製方法によれば、負極/電解質複合体の接合性をより向上することができることがわかった。また、緻密層を固体電解質層とすれば、その厚さは1μm〜2μm程度であり、極薄の固体電解質層を形成することができることもわかった。また、負極支持体をCIP体(A1)からテープ成形体Bに変えても、結果は変わらなかった。
【0042】
次に、液相による負極/電解質複合体を作製した例について説明する。
【0043】
(塗布溶液の作製)
窒素雰囲気中にてチタンイソプロポキシドとランタンイソプロポキシドをモル比がおよそ1:1.305となるように、それぞれ3.724g、3.17gをメトキシエタノール10mLに溶解させて混合溶液を作製した。上記の溶液を118℃で3h攪拌還流したあと、120〜123℃で溶媒を3h減圧蒸発させた。その後、メトキシエタノール10mLを加えて上記の操作を繰り返し、配位子を置換した。得られたLaメトキシエトキシド(La(OEM)3)、Tiメトキシエトキシド(Ti(OEM)4)の混合溶液を希釈して0.1MのLa(OEM)3、0.1305MのTi(OEM)4の塗布溶液を作製した。
【0044】
(液相による負極/電解質複合体(実施例5)の作製)
CIP成形体A1(チタン酸リチウム成形体)に上記の塗布溶液をスピンコートにて塗布した。チタン酸リチウム成形体を2000rpm−20sで回転させながら2mLの注射器を用いて塗布溶液10滴を滴下してLa(OEM)3、Ti(OEM)4を塗布した。塗布後にチタン酸リチウム成形体の温度を300℃、450℃の順に各1分加熱してLa(OEM)3、Ti(OEM)4を熱分解させ、300℃、室温の順にそれぞれ1分、2分静置して冷却した。上記の操作を20回繰り返して前駆体薄膜をチタン酸リチウム成形体上に作製した。得られたチタン酸リチウムランタン前駆体薄膜/チタン酸リチウム成形体を空気中950℃、1h焼成して実施例5の負極/電解質接合体(LLTO/LiTO構造体)を得た。なお、チタン酸リチウムランタンの膜厚に関しては固相式と同様、電池設計の重要な設計パラメータであり、主にスピンコートの繰り返し回数で当然任意に制御可能である。本実施例では、1μmのチタン酸リチウムランタン薄膜をチタン酸リチウム成形体上に形成するものとし、スピンコート繰り返し回数は20回とした。
【0045】
(固相による負極/電解質接合体の作製:比較例1〜3)
電解質テープ状前駆体用に調整した板状粒子を含まないチタン酸リチウムランタン(仮焼粉末E)を、目標厚みとする所定量充填し、150kgf/cm2で1分間保持し、予備成形体を得た。予備成形体をポリエチレン袋に入れ二重に真空パックした後に、300MPaで1分間保持する条件でCIP処理したものをCIP処理済み焼成前電解質試料とした。負極支持体(CIP成形体A1)上に上記CIP処理済み焼成前電解質試料を載せ、負極支持体の下側及び周囲に市販チタン酸リチウム粉末を配置したあと、1000℃、6h焼成し、比較例1の負極/電解質接合体を得た。また、焼成温度を1100℃とした以外は、比較例1と同様の工程を経て得られた負極/電解質接合体を比較例2とした。また、焼成温度を1200℃とした以外は、比較例1と同様の工程を経て得られた負極/電解質接合体を比較例3とした。
【0046】
(負極/電解質複合体(実施例5、比較例1〜3)の特性)
図12は、液相により作製した実施例5の負極/電解質複合体のXRD測定結果である。図13は、液相により作製した実施例5の負極/電解質複合体のSEM写真である。図14は、固相により作製した比較例2、3の負極/電解質複合体のXRD測定結果である。図12、13に示す様に、液相で第2層(電解質層)を形成した実施例5においても、固相で第2層を形成した実施例1〜4と同様に、チタン酸リチウムランタンの緻密層が形成されていることがわかった。電解質層の原料にリチウム源はないことから、負極支持体のリチウムが第2層へ拡散したものと推察された。比較例1〜3では、いずれの条件でも、チタン酸リチウムランタン(LLTO)は負極支持体(LiTO)と部分的には接合しているものの、全体が密着した緻密な界面は得られなかった。また、図14に示す様に、第2層と接していない第1層表面のXRD測定結果から、比較例2、3に示すように、1000℃を超える高温では、TiO2やLi2Ti37などが検出されており、負極支持体の分解が進むことがわかった。
【0047】
(電解質LLTOの焼結密度を検討する試料の作製:比較例4〜6)
ポットに直径3mmのジルコニアボールとエタノール(和光純薬工業(株)製、特級99.5%)を入れ、電解質テープ状前駆体Hに用いた粉末(LaTOとして板状粒子Cと粉砕粒子Dとを5:95(モル比)の割合で混合し、さらにTiO2粉末をこれらが負極支持体LiTOと反応してLa0.62Li0.16TiO3となる比で混合した粉末)を加え、ボールミル混合を行い混合スラリーを得た。混合スラリーよりエタノールを蒸発させたあと、アルミナ乳鉢で解砕しチタン酸リチウムランタン原料の混合粉末Kを得た。この混合粉末Kをペレット金型に目標厚みとする所定量充填し、150kgf/cm2で1分間保持し、予備成形体を得た。この予備成形体をポリエチレン袋に入れ、二重に真空パックしたのちに、300MPaで1分間保持する条件でCIP処理することによりCIP体を得た。このCIP体の下側及び周囲(上側以外)に市販チタン酸リチウム粉末を配置したのち、1100℃、6時間で焼成し、得られたものを比較例4の電解質焼結体とした。また、焼成温度を1200℃とした以外、比較例4と同様の工程を経て得られたものを比較例5とした。また、焼成温度を1350℃とした以外、比較例4と同様の工程を経て得られたものを比較例6とした。
【0048】
比較例4〜6の電解質焼結体の相対密度を測定したところ、それぞれ78.0体積%、94.0体積%、98.1体積%であった。この結果より、1100℃、1200℃の焼成条件であっても、相対密度が低い焼結体しか得られないことがわかった。このため、比較例4〜6では、イオン伝導度の向上は期待できないことが予想された。
【0049】
上述した特許文献1(特開2013−105646号公報)では、ランタン源の粒子を300nm以下とし、チタン源の粒子を50nm以下とするなど、ナノ粒子を出発原料とすることでチタン酸リチウムランタンの固体電解質を、700℃〜900℃の比較的低温で焼成して形成するものとしている。しかしながら、この固体電解質では、イオン伝導度が低いものも存在しており、十分とはいえなかった。あるいは、特開2008−59843号公報においては、1150℃で12hで焼成したのち1350℃で6h成形焼結するなど、高温で処理するものとしている。非特許文献1(NIST Phase Equilibria Diagrams Online Vol.06,Fig.06355-System Li2O-TiO2. Mater.Res.Bull.,15[11]1655-1660(1980))に示されたチタン酸リチウムの組成と温度との関係を表す相図によれば、チタン酸リチウムは、1015℃付近で分解することが明らかである。ここで、特許文献1の表2に示されているように、固体電解質は900℃など比較的低温で合成できているが、イオン伝導度は、900℃では不足する場合がある(条件1より)。しかし、第2条件(1150℃×12hの仮焼後、1350℃×6hの本焼成)であれば、比較的良好なイオン伝導度を示す。この低いイオン伝導度は、イオン伝導度を測る供試体(バルク体)の焼結体の密度不足によるものと本発明者は考えた。しかしながら、特許文献1の第2条件で電解質が合成できたとしても、上記相図により、1015℃以上でチタン酸リチウムは分解する可能性が高い。したがって、負極活物質(チタン酸リチウム)と固体電解質(チタン酸リチウムランタン)とを共焼成し、良好な界面を形成する条件に第2条件は適さない。固体電解質の単体が合成できてもその後の正極又は負極活物質との組み合わせ時に障害があり得る。
【0050】
固体電解質の緻密体を必要な部位(例えば活物質全面)に必要な厚み(できるだけ薄肉で)で形成する際に、負極活物質である第1層上でその場で緻密な固体電解質層である第2層を合成することを考えた。この際に必要な要件は、上述のように、第2層(LLTO)の電解質が合成できていること、及び第2層の固体電解質が緻密体であることである。この点において、上述した比較例1〜3では、固体電解質LLTOと負極活物質LiTOとは部分的に接合しているものの、全体が密着した緻密な界面は得られなかった。また、1000℃を超えた比較例2、3は、固体電解質LLTOと接していない面のX線回折測定結果より、負極活物質LiTOの分解を示唆するTiO2やLi2Ti37が検出された。これは、非特許文献1の相図により支持される結果であった。また、比較例4〜6は、焼成温度ごとにバルク体(LLTO)の焼結密度を比較したものであるが、固体電解質LLTO単体のバルク体焼結密度は、比較例6(1350℃焼成)以外では不足していることが確認された。よって、所望のイオン伝導度を示すバルク体単相電解質は、高温焼成した比較例6しか合成できないと推察される。しかし、比較例6の温度条件は比較例3と同様に、目的である固体電解質LLTOと負極活物質LiTOとの接合体を作成する温度条件には高すぎる。これに対して、本願発明では、原料のナノ粒子化や焼成温度の高温化を行わずに結晶成長の促進及び緻密化を図ることを検討した。そして、本願発明では、活物質である第1層に起因するリチウムをも原料として利用して固体電解質である第2層を形成するものとし、例えば、1100℃未満の焼成温度において、負極であるチタン酸リチウムと固体電解質であるチタン酸リチウムランタンとが緻密且つ良好な界面で共存したものとすることができたのである。
【符号の説明】
【0051】
10 固体電解質層、12 正極、12a 正極活物質層、12b 集電体、14 負極、14a 負極活物質層、14b 集電体、20 リチウムイオン二次電池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14