(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光学センサおよび前記溶接トーチは、相互に反対の方向に突出して前記運動装置に取り付けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の溶接方法。
前記センシング点を3点以上設定し、2つの隣接する前記検出点を結んでなる前記目標線の複数の区画のそれぞれにおいて、溶接条件を設定することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の溶接方法。
空間内で指定された座標に運動できる運動装置と、前記運動装置に取り付けられた溶接トーチと、前記溶接トーチに対して位置関係を固定して前記運動装置に取り付けられ、直線状に設定された計測域において対象物との距離を計測可能な光学センサと、を有し、請求項1から6のいずれか1項に記載の溶接方法を実行することを特徴とする溶接装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、ロボットにレーザセンサと溶接トーチを取り付けておき、溶接トーチに先行して移動するレーザセンサで得られたワーク形状に関する情報を、リアルタイムで処理して、溶接トーチを移動させるべき軌道を決定する場合には、レーザセンサでの計測と計測結果に基づく溶接トーチの軌道の決定、溶接の実行を、全て同時に実行する必要があるため、演算・制御部の構成が複雑になりやすい。具体的には、センサによる形状の計測および計測結果の出力や、軌道を決定するための演算が行われる速度は、一般的には、溶接トーチにおける溶接速度と整合しない。そのため、溶接の途中で溶接速度が変更される点の前後等において、計測、演算、溶接のいずれかが一時的停止されてしまう空走領域が生じやすい。また、計測と演算をリアルタイムで行うため、演算による軌道の算出を高精度で行おうとすれば、ソフトウェアをはじめ、演算・制御部の構成が複雑になってしまう。演算部のメモリ容量も大きくなってしまう。特に、センサで先行計測する部位に仮付溶接痕等の不規則な形状がある場合に、その構造を無視して、あるいはその構造を考慮して、溶接トーチの軌道を明確に決定しようとすると、計測や演算の精度が低下しがちであり、その低下を補おうとすると、演算・制御部が複雑化する。また、溶接トーチのアーク切れ等によって溶接を中断した場合に、溶接を途中から再度開始できるようにすることは困難であり、これを可能にしようとすれば、やはり複雑な演算・制御部が必要となる。
【0005】
さらに、構造上の問題として、センサによる対象物の形状の計測を溶接に先行させる必要により、センサと溶接トーチの位置関係が限定されてしまう。つまり、センサを溶接トーチの前方に並べて取り付ける必要があり、溶接時に発生するスパッタやヒュームからセンサを保護するのが困難である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、簡素な構成の装置を用いて、実際の対象物の構造に応じた位置に自動的に突き合わせ溶接を施すことができる溶接方法、およびそのような溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる溶接方法は、対象物の線状の突き合わせ部に対して突き合わせ溶接を行う溶接方法において、空間内で指定された座標に運動できる運動装置と、前記運動装置に取り付けられた溶接トーチと、前記溶接トーチに対して位置関係を固定して前記運動装置に取り付けられ、直線状に設定された計測域において対象物との距離を計測可能な光学センサと、を用い、想定される前記突き合わせ部の上に設定した複数のセンシング点のそれぞれに対して、前記計測域が前記センシング点を含んで前記突き合わせ部の線と交差するように、運動装置を用いて前記光学センサを配置したうえで、前記計測域における前記対象物までの距離を計測し、該計測の結果をもとに、前記突き合わせ部が実際に存在する位置を検出点として認識するセンシング工程と、前記運動装置を用いて、前記センシング工程によって認識された複数の検出点を直線状に結んだ目標線に沿って前記溶接トーチを運動させ、前記目標線上に溶接を行う溶接工程と、をこの順に実行するものである。
【0008】
ここで、前記突き合わせ部が直線状であるとよい。
【0009】
前記光学センサは、線状のビーム形状を有するレーザ光を用いて、前記計測域の全域における計測を同時に行うものであるとよい。
【0010】
前記光学センサおよび前記溶接トーチは、相互に反対の方向に突出して前記運動装置に取り付けられているとよい。
【0011】
前記センシング点を3点以上設定し、2つの隣接する前記検出点を結んでなる前記目標線の複数の区画のそれぞれにおいて、溶接条件を設定するとよい。
【0012】
本発明にかかる溶接装置は、空間内で指定された座標に運動できる運動装置と、前記運動装置に取り付けられた溶接トーチと、前記溶接トーチに対して位置関係を固定して前記運動装置に取り付けられ、直線状に設定された計測域における対象物との距離を計測可能な光学センサと、を有し、上記のような溶接方法を実行するものである。
【発明の効果】
【0013】
上記発明にかかる溶接方法においては、想定される突き合わせ部に沿って設定したセンシング点において、光学センサを用いて、対象物までの距離の分布を、突き合わせ部に交差する方向に沿って計測する。計測された距離の分布において、凹構造が観測される位置として、実際の突き合わせ部に対応する検出点を認識することができる。複数のセンシング点に対して認識した検出点を直線状に結んで目標線を作成することで、対象物の製造誤差等の要因により、想定される突き合わせ部の位置から実際の突き合わせ部がずれていたとしても、実際の突き合わせ部の位置を認識することができる。そして、目標線に沿って溶接トーチを運動させ、目標線上に溶接を行うことで、実際の突き合わせ部が存在する位置に、的確に溶接を行うことができる。このようにして、ロボット等の運動装置を用いて溶接を自動化しても、対象物の個体ごとに突き合わせ部上に正しく溶接を行うことができる。さらに、突き合わせ部に対してずれがない状態で溶接を行えることで、溶接における溶け込み率も高めやすくなる。
【0014】
そして、光学センサと溶接トーチを相互の位置関係を固定して運動装置に取り付けておき、光学センサによって実際の突き合わせ部が存在する位置を検出するセンシング工程を完了した後に、その検出結果に基づいて、実際の溶接を行っていることで、センシングと溶接をリアルタイムで行う場合に比べて、制御プログラムを簡素なものとすることができる。大容量のメモリを使用することも必要ない。光学センサによる計測および計測結果に基づく演算の速度と、溶接トーチによる溶接の速度が異なっていても、また、溶接トーチのアーク切れ等、各工程に固有の問題が生じることがあったとしても、各工程を独立して実施するので、両工程の整合性の点において、特に問題は生じない。仮付溶接痕等の不規則な構造がある場合にも、それに対応した演算処理を高速で行う必要は生じない。さらに、光学センサと溶接トーチを相互に既知の位置関係に固定しさえすれば、両者の取り付け位置の関係が座標値により算出されるので、個々の具体的な取り付け位置は特に制約を受けず、用いる溶接装置の構造上の自由度を高めることができる。光学センサと溶接トーチの位置関係を固定しておくこと、特に、対象物において想定される突き合わせ部に沿った両者の位置を合わせておくことで、光学センサを用いたセンシングによって突き合わせ部の位置として検出される検出点の位置と、それらの検出点に対応させて溶接トーチで実際に溶接を行う位置との関係を固定し、検出点の間を結んだ直線に沿って正確に溶接を行うことができるようになる。
【0015】
ここで、突き合わせ部が直線状である場合には、想定される突き合わせ部の上にセンシング点を離散的に設定し、それぞれのセンシング点に対応して認識された検出点を直線的に結んで目標線を得るという簡素な方法でも、実際の突き合わせ部を高精度に再現することができる。
【0016】
光学センサが、線状のビーム形状を有するレーザ光を用いて、計測域の全域における計測を同時に行うものである場合には、センシング工程において、突き合わせ部に交差して設定された計測域における距離の計測、およびその結果に基づく実際の突き合わせ部の位置の認識を、簡便かつ高精度に行うことができる。
【0017】
光学センサおよび溶接トーチが、相互に反対の方向に突出して運動装置に取り付けられている場合には、溶接トーチによって溶接を行っている間は、使用していない光学センサが、溶接を行っている部位と反対に向いていることになるので、溶接時に発生するスパッタやヒュームが光学センサに付着して光学センサに劣化等の影響を与えることが抑制される。
【0018】
センシング点を3点以上設定し、2つの隣接する検出点を結んでなる目標線の複数の区画のそれぞれにおいて、溶接条件を設定する場合には、突き合わせ部上の各部位に応じた適切な溶接条件を適用しながら、連続的に各部位の溶接を行うことができる。上記のように、光学センサによる計測と溶接トーチによる溶接の間で速度を整合させる必要がないので、溶接途中における溶接条件の変更も、簡素な制御によって行うことができる。
【0019】
上記発明にかかる溶接装置においては、簡素な構成により、突き合わせ部の実際の位置を認識したうえで溶接を自動的に行う制御を実行することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態にかかる溶接方法および溶接装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
[溶接装置の構成]
図1に、本発明の一実施形態にかかる溶接装置1の概略を示す。
【0023】
溶接装置1は、運動装置として、ロボット10を備えている。ロボット10は、6つの駆動軸を有し、それぞれの駆動軸の運動が、サーボモータ(11等)によって駆動される。これにより、ロボット10は、先端に設けられた取り付け面12を、空間内で指定された座標に運動させることができる。ロボット10は、ティーチングによって運動(位置および姿勢の変化)に関する指令を記憶し、その指令を順次呼び出すことで、取り付け面12において、所定の運動を順次自動的に行うことができる。
【0024】
ロボット10の取り付け面12には、溶接トーチ20と、光学センサ30とが固定されている。溶接トーチ20は、溶接材料よりなる芯線21を先端に備える公知のアーク溶接用のトーチである。溶接トーチ20は、基端をロボット10の取り付け面12の一方面に固定されており、先端が取り付け面12から外側に突出している。
【0025】
光学センサ30は、公知の形状測定レーザセンサよりなる。光学センサ30には、先端部から計測対象物に線状(ライン状)のビーム形状を有するレーザビームBを照射し、反射光を検出することで、計測対象物の表面までの距離を計測するものである(
図2参照)。距離の計測は、レーザビームBが当たっている直線状の計測域Rsの各部において同時に行われる。光学センサ30は、ロボット10の取り付け面12において、溶接トーチ20が固定されているのと反対側の面に基端を固定されている。そして、先端が取り付け面12から外側に突出している。光学センサ30の突出方向は、溶接トーチ20の突出方向と約180°異なる反対方向に向いており、レーザビームBの出射方向が、溶接トーチ20の芯線21の突出方向と反対になっている。
【0026】
ロボット10の取り付け面12における溶接トーチ20と光学センサ30の間の位置関係(取り付け面12上でどの方向にどれだけ離れているか)は、固定されており、その位置関係は既知となっている。両者の位置関係の精度確認を行うための方法として、例えば、十字図形を刻印した板よりなる原点合わせ用治具を利用することができる。溶接トーチ20の芯線21の先端を十字の交点の真上に配置した時のロボット10の各駆動軸の座標値と、光学センサ30から出射されるレーザビームBの中心が十字の交点に一致する時のロボット10の各駆動軸の座標値とを比較し、両座標値の差を基準として、座標0(ゼロ)を設定する。位置関係の確認は、溶接トーチ20を交換するたびに行う必要がある。
【0027】
溶接トーチ20と光学センサ30の位置関係を固定することで、例えば、次に詳しく説明するアクスルハウジング50を対象物とした例に対して
図5に示すように、光学センサ30を用いたセンシングによって突き合わせ部54の位置として検出される検出点(D1〜D3)の位置と、それらの検出点(D1〜D3)に対応させて溶接トーチ20で実際に溶接を行う位置との関係を固定し、検出点(D1〜D3)の間を結んだ直線に沿って正確に溶接を行うことができる。特に、溶接トーチ20と光学センサ30のx方向(想定される突き合わせ部54に沿う方向)の位置を同じにすることで、光学センサ30で検出された検出点(D1〜D3)を結んだ目標線Ltの傾きと、溶接トーチ20で実際に溶接を行う直線の傾きとの間にずれが発生するのを防止することができる。
【0028】
溶接装置1には、さらに、コンピュータ等よりなる制御部(不図示)が設けられている。制御部は、溶接トーチ20の電源を制御し、溶接時の電流および電圧を設定することができる。また、制御部は、光学センサ30を制御して、距離の計測を実行させるとともに、光学センサ30から計測結果を入力され、計測結果に対して、処理、演算を行うことができる。さらに、制御部は、光学センサ30における計測結果等に基いて、ロボット10の位置および姿勢の変化を指令するティーチングのプログラムを設定することや変更することができる。
【0029】
[対象物の例]
本発明の一実施形態において溶接の対象とする対象物(ワーク)は、突き合わせ溶接を行うべき突き合わせ部を有するものであれば、どのようなものであっても構わない。以下では、対象物の例として、
図1中に示したようなアクスルハウジング50を扱う。
【0030】
アクスルハウジング50は、トラック等の大型車両の後車軸部等に用いられ、車軸およびディファレンシャルギア等を収容する。
図1に示すように、アクスルハウジング50は、胴部51と筒状部52を本体部としてなっている。胴部51は、鋼板が半筒形(断面略U字形又は断面略コの字形)に曲げられ、略円環状に膨出形成されたものであり、ディファレンシャルギアを収容する。そして、胴部51の両端部に、車軸が挿通される中空の筒状部52が形成されている。筒状部52は、角筒形状を基本としてなるが、端部は、後の工程でチューブエンドを取り付けられるように、円筒状となっている。胴部51と筒状部52の間に形成されている空隙部には、略三角形の三角板53が取り付けられている。
【0031】
アクスルハウジング50の本体部は、2つの分割部材60,60から製造される。つまり、胴部51の円環形状および筒状部52の筒形状を半分に分割した形状を有する2つの分割部材60,60を製造し、それらの端縁61,61を突き合わせてなる直線状の突き合わせ部54に対して、本発明の一実施形態にかかる溶接方法を用いて突き合わせ溶接を行うことで、本体部が形成される。また、胴部51と筒状部52の間の部位に、三角板53が配置され、本体部と三角板53の間の部位が溶接される。
【0032】
突き合わせ溶接を行う直前の状態において、アクスルハウジング50は、2つの分割部材60,60を端縁61,61において突き合わせて相互に押し付け、仮付溶接した状態にある。仮付溶接により、突き合わせ部54上には、左右1箇所ずつ、点状に盛り上がった仮付溶接痕55,55が形成されている。仮付溶接により、2つの分割部材60,60は、相互に離れることがなくなり、相互に対して押し付ける外力を解放しても、端縁61,61によって突き合わせ部54が形成された状態が維持される。
【0033】
2つの分割部材60,60は、プレス成形の後、プラズマ切断により、周縁部の余肉を除去する工程を経て製造されている。よって、突き合わせ部54を構成することになる端縁61,61において、切断時のプラズマアークによるダレ(上縁の溶融)が発生している。その結果、
図3(a)に示すように、端縁61,61に、上面(外側の表面)側がわずかに短くなった傾斜が形成されている。そのため、2つの端縁61,61を突き合わせた突き合わせ部54において、谷状の凹構造が形成されている。
【0034】
[溶接方法]
次に、本発明の一実施形態にかかる溶接方法について説明する。ここでは、上記で説明した溶接装置1を用い、アクスルハウジング50を対象物として、突き合わせ部54に対して溶接を行う。
【0035】
本実施形態にかかる溶接方法においては、(1)センシング工程と、(2)溶接工程とを、この順に実行する。溶接工程は、センシング工程において得られた情報に基づいて、実行する。以下、各工程について詳細に説明する。以下において、アクスルハウジング50の長手方向をx方向、幅方向をy方向とする。
【0036】
(1)センシング工程
図2に、センシング工程を実行している状態の溶接装置1およびアクスルハウジング50を示している。図示は省略しているが、センシング工程に先立って、アクスルハウジング50は、固定治具によって、作業台上の所定の位置に据え付けられている。
【0037】
センシング工程においては、ロボット10に取り付けられた光学センサ30が下方に向けられ、アクスルハウジング50の表面の上方に配置されている。この状態で、ロボット10は、予め設定された直線状のセンシング線Ls(
図5(a)参照)に沿って光学センサ30を移動させるように、ティーチングによって運動を駆動される。センシング線Lsは、想定される突き合わせ部の位置として設定されたものである。ここで、「想定される」突き合わせ部54の位置とは、プラズマ切断等、前工程における製造誤差や、作業台への据え付け位置の誤差、ロボット10の原点位置のずれ等、種々の要因によるばらつきの影響がない、設計通りの理想的な状態にあるとして、突き合わせ部54が存在すると想定される位置のことを指す。
【0038】
センシング線Lsの上には、仮付溶接痕55,55が形成された位置を避けて、複数のセンシング点(
図2の例では点P1〜P3)が予め設定されている。
図2の例では、おおむね、点P1が筒状部52の端部52aの位置、点P2が円筒状の部位と角筒状の部位の境界部、点P3が直線状の突き合わせ部54の終点部に設定されている。ロボット10によって、光学センサ30が、アクスルハウジング50の一方端52aから内側に向かってセンシング線Lsに沿って移動され、その際に通過する各センシング点において(P1→P2→P3)、光学センサ30がアクスルハウジング50の表面までの距離の計測を行う。計測中、ロボット10は、必要に応じて光学センサ30の移動を停止させる。
【0039】
各センシング点P1〜P3において計測を行うに際し、レーザビームBは、直線状の計測域Rsがセンシング線Lsに略直交するように、また、センシング点P1〜P3が計測域Rsの略中央に位置するように、配置される。また、種々の要因によるばらつきのために突き合わせ部54の位置が想定される位置からy方向にずれる可能性のある最大範囲が、計測域Rsに含まれるように、光学センサ30とアクスルハウジング50の間の距離が定められる。
【0040】
図3(a)に示すような谷状の凹構造を有する突き合わせ部54に対して、光学センサ30によって距離の計測を行った結果を、
図3(b)に示す。図では、横軸をy方向の座標、縦軸を光学センサ30からアクスルハウジング50の表面までの距離としている。図のように、突き合わせ部54の凹構造に対応して、下に凸のピーク構造が観測される。このピーク構造の頂点のy座標を、突き合わせ部54の谷底に相当する検出点Dの位置として認識する。
【0041】
図5(a)に、センシング点P1〜P3における計測の結果の一例を示す。ここでは、点P1における計測によって検出された検出点D1は、センシング線Lsの上にあり、センシング点P1と一致している。一方、点P2における計測によって検出された検出点D2は、センシング線Lsから+y方向にずれている。また、点P3における計測によって検出された検出点D3は、さらに大きくセンシング線Lsから+y方向にずれている。検出点D1とD2の間、検出点D2とD3の間をそれぞれ直線で結んで目標線Ltを作成すると、目標線Ltは1本の直線状になっている。
【0042】
得られた目標線Ltは、実際のアクスルハウジング50の突き合わせ部54が存在する位置を示すものである。
図5(a)の例では、目標線Ltによって表現される実際の突き合わせ部54のy方向における位置は、センシング点P1の位置においては、想定される位置からずれていないが、それよりも+x側の領域で、直線性を保ったまま、想定される突き合わせ部の位置よりも+y方向に斜行していることになる。想定される突き合わせ部からのこのような直線性を保ったずれは、分割部材60,60の端縁61,61のプラズマ切断工程や、作業台への据え付け工程において発生しやすい。
【0043】
本実施形態においては、線状のビーム形状を有する光学センサ30を用いて、計測域Rsの全域の計測を同時に行っているため、各センシング点P1〜P3における計測域Rs内の計測を短時間で正確に行うことが可能となっている。ただし、使用する光学センサ30は、直線状の計測域Rsの全域で距離の計測を行えるものであれば、このようなもの限られず、例えば、スポット状のビーム形状を有する光学センサ30を使用し、ビームスポットを走査することで計測域Rsの全域における距離の計測を順次行うように構成することもできる。
【0044】
(2)溶接工程
図4に、溶接工程を実行している状態の溶接装置1およびアクスルハウジング50を示している。アクスルハウジング50は、センシング工程の前に作業台上の所定の位置に据え付けられたままの状態にあり、センシング工程の実行中と、同じ座標を維持している。
【0045】
溶接工程においては、ロボット10の取り付け面12がセンシング工程の時とは逆向きにされており、溶接トーチ20が下方に向けられ、アクスルハウジング50の表面の上方に配置されている。この状態で、ロボット10は、センシング工程で得られた目標線Ltに沿って溶接トーチ20を移動させるように、運動を駆動される。運動に際して、ロボット10の座標は、既知のパラメータである取り付け面12における光学センサ30と溶接トーチ20の位置関係を目標線Ltの座標に加味して設定される。
【0046】
ロボット10による運動中、溶接トーチ20は、
図5(b)に示したように、目標線Ltの上、つまりセンシング工程で検出した実際の突き合わせ部54の上に、連続的に溶接を行う。この際の溶接条件は、検出点D1とD2を結んでなる区画における条件Aと、検出点D2とD3を結んでなる区画における条件Bとして、それぞれ設定されており、検出点D1からD3に向かう連続的な溶接の途中で、検出点D2を境に溶接条件が変更される。ここで、溶接条件には、電流、電圧、速度(溶接トーチ20の移動速度)、溶接トーチ20から表面までの距離の各パラメータが含まれる。なお、溶接に際しては、仮付溶接痕55,55の存在は特に考慮せず、前後の部位と同じ溶接条件で、仮付溶接痕55,55の上にも直線的に溶接を施す。
【0047】
なお、本実施形態においては、センシング線Lsおよび目標線Ltを筒状部52における端縁61,61の突き合わせ部54にのみ設定しているが、三角板53の面にまでセンシング線Lsを直線的に延長してセンシング点を設定してもよい。この場合には、突き合わせ部54から三角板53の上の領域にまで目標線Ltが設定され、溶接が施される。
【0048】
(3)他の工程
本溶接方法においては、アクスルハウジング50を同じ位置に固定したままセンシング工程と溶接工程をこの順に行うのであれば、適宜他の工程を前後あるいは途中に実行してもかまわない。
【0049】
例えば、溶接工程の後に、センシング線Lsを更新する工程を実行することができる。これは、多数の同種のアクスルハウジング50に対して順次自動的に溶接を実施する場合に、
図5(c)に示すように、ある個体に対して設定された目標線Ltを、次以降の個体のセンシング工程に利用するセンシング線Ls’として再設定するものである。これにより、次以降の個体のセンシング工程においては、従前のセンシング線Lsではなく、新しいセンシング線Ls’に沿って設定される、新しいセンシング点P1’〜P3’において、距離の検出が行われることになる。計測域Rsの方向も、新しいセンシング線Ls’に略直交するように設定される。多数のアクスルハウジング50をロットで製造する際に、目標線Ltで表される実際の突き合わせ部54の位置の設計値からのずれは、系統的なものである場合があり、その場合には、同じロットの個体間でずれが共通したものとなりやすい。すると、ある個体に対してセンシング工程で計測に基づいて設定された目標線Ltは、次以降の個体においても、実際の突き合わせ部54の位置に合致している可能性が高くなる。そこで、そのような目標線Ltを新しいセンシング線Ls’として採用することで、次以降の個体においては、センシング線Ls’から目標線までの位置のずれ、つまり想定される突き合わせ部の位置から実際に溶接を行う突き合わせ部54の位置までのずれを小さくすることができる。
【0050】
(4)溶接方法の特性
本溶接方法においては、センシング工程において実際の突き合わせ部54の位置を検出してから、溶接工程を実施することで、実際の突き合わせ部54の上に的確に溶接を行うことができる。これにより、突き合わせ部54に対して溶接ビードの位置がy方向にずれてしまう事態が防止される。また、突き合わせ部54の位置と溶接トーチの位置がずれた状態で溶接を行うと、局所的な溶接条件が変化してしまい、所望される一定の条件で溶接を行えなくなる。特に、アクスルハウジング50の突き合わせ溶接においては、強度を確保する観点から、100%以上の溶け込み率を達成することが好ましいが、突き合わせ部54の凹構造の底の位置と溶接トーチ20の芯線21の位置がy方向にずれていると、そのような高い溶け込み率は達成しにくい。本溶接方法においては、センシング工程を経ることで、突き合わせ部54の凹構造の底と溶接トーチ20の芯線21の位置をずれのない状態に合わせて溶接を行えるので、高い溶け込み率を達成することができる。
【0051】
アクスルハウジング50を多数製造する際に、溶接を行うまでの工程を各個体に対して同様に実行したとしても、種々の要因により、溶接を行うために作業台に固定された状態のアクスルハウジング50における突き合わせ部54の位置および方向には、不可避的に誤差が生じる。そのような誤差を与える要因としては、分割部材60,60のプレス成形時や端縁61,61における余肉切断時の位置ずれや、ロット変更による製造条件の変化、作業台への据え付け時の位置ずれや傾き等を挙げることができる。しかし、アクスルハウジング50の各個体に対して、溶接工程の前にセンシング工程を実施し、その個体における実際の突き合わせ部54の位置を確認することで、個体ごとの突き合わせ部54の位置のばらつきによらず、各個体の突き合わせ部54に対して、的確に溶接を行うことができる。また、従来は、所定の条件で溶接が行えているかを確認するために、アクスルハウジング50の筒状部52の中空形状の内側から突き合わせ部54を目視し、溶け込み率が100%を超えることで溶接ビードが突き合わせ部54の裏側にまで達しているかを検査したり、筒状部52を切断して断面の溶接ビードを確認したりという抜き取り検査を頻繁に行っていたが、本溶接方法において、1個体ごとに突き合わせ部54の位置を検出したうえで確実に溶接を行うことで、抜き取り検査の頻度を減らすことができる。なお、溶接トーチ20における芯線21の取り付け位置や角度の変化も溶接位置のずれの原因となるが、本実施形態においては、上記のように、芯線21を交換するたびに、光学センサ30との位置関係を確認することで、センシング工程において設定した目標線Ltと実際に溶接トーチ20で溶接を行う位置にずれが生じないようにすることができる。
【0052】
さらに、本溶接方法においては、光学センサ30による計測と溶接トーチ20による溶接をリアルタイムで同時に進めるのではなく、それぞれ独立した工程として、センシング工程を完了してから、その結果に基づいて溶接工程を実施していることにより、リアルタイムでの両工程の実行を可能にするために必要とされる複雑なプログラムや大容量のメモリ等を排し、溶接装置1の構成、特に制御部の構成を簡素なものとすることができる。また、光学センサ30による計測と溶接トーチ20による溶接の間で、実行速度等の整合を図る必要がないため、それぞれの工程を、それぞれに適した簡素な方法で実行することができる。例えば、速度を含む溶接条件の変更や、仮付溶接痕55,55の存在を考慮しない溶接、アーク切れ等による溶接の中断と再開等を行っても、光学センサ30による計測には何の影響も与えない。
【0053】
さらに、光学センサ30による計測と溶接トーチ20による溶接をリアルタイムで実施する場合には、光学センサ30を溶接トーチ20の前方に並べて取り付けることが要求されるが、両工程を独立に実施する場合には、光学センサ30と溶接トーチ20の位置に特に制約は設けられない。本実施形態のように、取り付け面12を挟んで光学センサ30と溶接トーチ20を反対側に取り付けることで、溶接時のヒュームやスパッタが光学センサ30に影響を与えるのを抑制することができる。
【0054】
本実施形態のように、センシング工程と溶接工程を独立して実行する場合に、センシングおよび溶接を行う位置に関して、両工程の間の整合性を担保することが必要である。本実施形態においては、光学センサ30と溶接トーチ20の位置関係を固定し、その位置関係を把握したうえで、共通の座標系を基準として設定したセンシング線Ls、センシング点P1〜P3、目標線Ltに従って、センシング工程と溶接工程の両方を実施することで、両工程における位置の整合性を担保している。本実施形態では、座標系として、ロボット10の座標を基準としているが、センシング点の1つ(例えば点P1)を基準とした座標、アクスルハウジング50の特定の部位(例えば胴部51の中心)を基準とした座標、光学センサ30または溶接トーチ20を基準とした座標等、任意の座標系を採用しうる。
【0055】
本実施形態においては、センシング工程において、離散的に設定したセンシング点P1〜P3にて距離の計測を行い、突き合わせ部54の位置に対応する検出点D1〜D3を認識している。そして、離散的な検出点D1〜D3を直線で結んで目標線Ltとすることで、実際の突き合わせ部54が存在する位置とみなしている。このように、離散的に突き合わせ部54の検出を行うことで、センシング工程を高速で完了することができる。また、仮付溶接痕55,55のような不規則な構造を避けてセンシング点P1〜P3を設定することで、そのような構造の影響を排除して、突き合わせ部54の位置を検出することができる。上記のように、アクスルハウジング50の製造工程において、プラズマ切断や作業台への据え付けの誤差に起因して、突き合わせ部54の位置にずれが生じやすいが、突き合わせ部54の直線性が損なわれるようなずれは、ほとんど生じない。よって、
図5に示したように、想定される突き合わせ部(センシング線Ls)を基準とした実際の突き合わせ部54(目標線Lt)のずれは、直線性を保ったままで検出される。突き合わせ部54の直線性により、センシング点P1〜P3を離散的に設定し、離散的に得られる検出点D1〜D3の間を直線で補間して目標線Ltを作成するという簡素な方法でも、高精度に実際の突き合わせ部54を再現することができる。
【0056】
しかし、突き合わせ部54が直線状ではなく、中途部で折れ曲がっていたとしても、光学センサ30の計測域Rsが突き合わせ部54に交差することを担保したうえで、突き合わせ部54を構成する直線的な部位の長さに対して十分細かくセンシング点の間隔を設定することで、そのような折れ曲がりを有する突き合わせ部54も、同様の方法で検出することができる。図示した例では、センシング点P2を、筒状部52の円筒形の部位と角筒状の部位の境界部分に設定している。突き合わせ部54の形状に直線からのずれが生じるとすれば、点P2のように分割部材60,60の形状に変化がある領域に生じることが多いので、そのような領域にセンシング点を設定することで、突き合わせ部54の直線からのずれにも対応しやすくなる。また、そのように形状に変化がある領域において、最適な溶接条件が変化する場合も多く、目標線Ltの区画ごとに溶接条件を適切に切り換える観点からも、
図5(c)の条件A,Bのように、そのような領域にセンシング点を設定することが好ましい。実際のセンシング点の数および間隔は、対象物の形状に応じて適宜定めればよい。当然ながら、センシング点を等間隔に配置する必要はなく、また、目標線Ltの区画1つ1つに対して溶接条件を変更する必要もない。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。