(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、一実施形態に係る蓄電装置の製造方法によって製造される蓄電装置の内部構成の一例を示す断面図である。
図2は、
図1のII−II線に沿った断面図である。
図1及び
図2に示される蓄電装置1は、例えばリチウムイオン二次電池といった車載用の非水電解質二次電池として構成されている。
【0019】
蓄電装置1は、例えば略直方体形状をなす中空のケース2と、ケース2内に収容された電極組立体3とを備えている。ケース2は、例えばアルミニウム等の金属によって形成されている。ケース2の内壁面上には、絶縁フィルム(図示せず)が設けられる。ケース2の内部には、例えば非水系(有機溶媒系)の電解液が注液されている。この電解液は、電解質と、溶媒と、添加剤(含有物)と、を含む。電解質は、例えばリチウム塩である。溶媒は、エチレンカーボネート(Ethylene Carbonate:EC)、エチルメチルカーボネート(Ethyl MethylCarbonate:EMC)、ジメチルカーボネート(Dimethyl Carbonate:DMC)、及びジエチルカーボネート(Diethyl Carbonate:DEC)等を所定の比率で混合した混合溶媒である。添加剤は、電解液の分解を抑えるための含有物、及びガス発生剤である。添加剤の一部は、蓄電装置1の電池反応によって分解され、後述する負極12(電極)の負極活物質層18の表面にSEI膜(被膜)を形成する。このような添加剤としては、ビニレンカーボネート(VC)が挙げられる。また、ガス発生剤は、過充電添加剤とも呼ばれ、蓄電装置1が過充電状態となった場合に、ガスを発生させる。
【0020】
電極組立体3では、後述する正極11の正極活物質層15、負極12の負極活物質層18、及びセパレータ13が多孔質をなしており、その空孔内に、電解液が含浸されている。ケース2の上面部には、正極端子5と負極端子6とが互いに離間して配置されている。正極端子5は、絶縁リング7を介してケース2に固定され、負極端子6は、絶縁リング8を介してケース2に固定されている。
【0021】
電極組立体3は、正極11と、負極12と、正極11と負極12との間に配置された袋状のセパレータ13とによって構成されている。セパレータ13内には、例えば正極11が収容される。セパレータ13内に正極11が収容された状態で、正極11と負極12とがセパレータ13を介して交互に積層され、図示省略されたテープ等により固定されている。つまり、電極組立体3は、袋状のセパレータ13に正極11を収容することにより構成されるセパレータ付き正極10を有している。
【0022】
一例として、電極組立体3は、セパレータ付き正極10及び負極12の下端(正極端子5及び負極端子6と反対側の端部)がケース2の底面に接触するように、ケース2内に収容されている。ケース2の内面上には、絶縁部材(不図示)が配置されている。したがって、この場合には、セパレータ付き正極10及び負極12の下端は、絶縁部材を介してケース2の底面に当接する。ただし、セパレータ付き正極10及び負極12の下端とケース2の底面との間には、絶縁部材が占める空間以外に微小な隙間が形成されていてもよい。
【0023】
電解液は、蓄電装置1が過充電状態となった場合に、所定のガス量Vgocのガスを発生させるガス発生剤を含む。ガス量Vgocは、ガス発生剤によって発生するガスの大気圧における体積である。このようなガス発生剤としては、ビフェニル、及びシクロへキシルベンゼン等が挙げられる。蓄電装置1は、さらに不図示のCID(電流遮断機構)を備えている。CIDは、ケース2内の気圧である圧力Pcに応じて、蓄電装置1の充電電流(電流経路)を遮断する。CIDは、例えば、ケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pwに達した場合に作動する。ケース2内部の圧力Pcは、蓄電装置1が過充電状態となった場合に、ガス発生剤によってケース2内で発生されたガスによって、CIDが作動可能となるように設定されている。蓄電装置1は、さらに不図示の安全弁を備えている。安全弁は、ケース2内の圧力Pcが所定の圧力以上になった場合に開弁し、ケース2内のガスを外部に放出するための機構である。本実施形態におけるCID及び安全弁は、公知のものと変わらない為、詳細については省略する。
【0024】
続いて、
図3を参照して、蓄電装置1の製造方法の工程について説明する。
図3は、一実施形態に係る蓄電装置の製造方法の工程図である。
図3に示されるように、蓄電装置1の製造方法は、電極製造工程S01と、組み立て工程S02と、測定工程S03と、注液工程S04と、活性化・エージング工程S05(活性化工程)と、調整工程S06と、封止工程S07と、を備えている。測定工程S03、注液工程S04、活性化・エージング工程S05、調整工程S06、及び封止工程S07では、
図4に示される蓄電装置1の製造装置50が用いられる。
【0025】
ここで、
図4及び
図5を参照して、製造装置50について説明する。
図4は、一実施形態に係る蓄電装置の製造装置の概略構成図である。
図5は、
図4の調整装置の構成例を示す図である。
図4に示される製造装置50は、蓄電装置1を製造するための装置である。製造装置50は、電極製造工程S01及び組み立て工程S02によって準備された蓄電構造体20を用いて、蓄電装置1を製造する。蓄電構造体20は、ケース2と、ケース2に収容された電極組立体3と、を備える。製造装置50は、内部空間測定装置51(測定部)と、注液装置52(注液部)と、充放電装置53と、調整装置54(調整部)と、封止装置55と、制御装置56と、を備えている。
【0026】
内部空間測定装置51は、ケース2の内部空間の容量を測定するための装置である。内部空間とは、ケース2の内部に形成された空間のうち、ケース2に収容されている電極組立体3等の部品を除いた空間と、電極組立体3中の活物質層の空隙及びセパレータ13の空隙と、を含む。この内部空間のうち、活物質層の空隙及びセパレータ13の空隙が、後述の注液工程S04において注入される電解液によって充填される。本明細書において、後述の注液工程S04が実施される前のケース2の内部空間容量(空隙量)を、「注液前内部空間容量Vo」と呼び、蓄電装置1が製品として出荷される際のケース2の内部空間容量を、「製品内部空間容量Vp」と呼ぶ。これらの内部空間容量は、全ての蓄電装置1において一定ではなく、蓄電装置1ごとに異なる。これは、例えば、後述する塗工工程における目付け量のばらつきに起因する。
【0027】
内部空間測定装置51は、ケース2の内部に所定のガスを供給し、ガスの供給量及びケース2内の圧力Pcの変化に基づいて、注液前内部空間容量Voを測定する。内部空間測定装置51によって供給されるガスとしては、例えば、空気、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、及び窒素(N
2)等が用いられる。電極組立体3に水分が浸入することを低減するために、水分が除去されたガスが用いられてもよい。内部空間測定装置51は、ガス供給源、圧力計、及び吸引機等を含む。
【0028】
注液装置52は、ケース2内に規定量の電解液を注入する装置である。注液装置52は、例えば、電解液を蓄積するタンク、及び電解液を送り出すポンプ等を含む。充放電装置53は、蓄電構造体20の初期充放電を行うための装置である。
【0029】
調整装置54は、内部空間測定装置51によって測定された注液前内部空間容量Voに基づいて、ケース2内部の圧力Pcを調整する装置である。調整装置54は、ケース2にガスを供給することによって、ケース2内部の圧力Pcを加圧し、ケース2からガスを吸引することによって、ケース2内部の圧力Pcを減圧する。
【0030】
図5に示されるように、調整装置54は、チャンバ41と、ガス供給源42と、吸引機43と、切替バルブ44と、圧力計45と、演算装置46と、を備えている。チャンバ41は、密閉されており、蓄電構造体20を収容するための収容空間を形成している。調整装置54の動作前におけるチャンバ41内の気圧は例えば大気圧である。蓄電構造体20は、注液口が開放された状態でチャンバ41の収容空間に収容される。
【0031】
ガス供給源42は、チャンバ41の収容空間に所定のガスを供給するための装置である。ガス供給源42によって供給されるガスとしては、例えば、空気、ヘリウム、アルゴン、及び窒素等が用いられる。電極組立体3に水分が浸入することを低減するために、水分が除去されたガスが用いられてもよい。吸引機43は、チャンバ41の収容空間からガスを吸引するための装置である。吸引機43は、例えばポンプである。チャンバ41に収容された蓄電構造体20では、注液口が開放されているので、チャンバ41の収容空間の気圧(圧力)とケース2内部の圧力Pcとは略等しくなる。このため、チャンバ41の収容空間を介して、ケース2内部の圧力Pcを調整等する場合の説明では、チャンバ41の収容空間の説明を省略することがある。
【0032】
切替バルブ44は、ガス供給源42と吸引機43とを切り替えてチャンバ41に接続するための装置である。切替バルブ44は、例えばエアーオペレーションバルブである。圧力計45は、チャンバ41の収容空間の圧力、つまりケース2内部の圧力Pcを計測するための装置である。圧力計45は、計測した圧力を示す圧力情報を演算装置46に送信する。
【0033】
演算装置46は、圧力計45によって計測された圧力に基づいて、ガス供給源42及び吸引機43の動作を制御する。具体的には、演算装置46は、内部空間測定装置51によって測定された注液前内部空間容量Voに基づいて、圧力調整量Paを算出する。演算装置46は、圧力調整量Paに基づいて設定圧力Psを算出し、圧力Pcが設定圧力Psとなるように、ガス供給源42及び吸引機43を動作させる。圧力計45によって計測された圧力が設定圧力Psとなったことに応じて、ガス供給源42及び吸引機43を停止させる。
【0034】
封止装置55は、ケース2の注液口を封止部材で封止するための装置である。封止装置55は、例えば、リベット機である。封止部材としては、ボルト及びリベット等が用いられる。封止装置55は、調整装置54によって調整された圧力Pcを維持した状態でケース2の注液口を封止する。このため、封止装置55は、チャンバ41内に設けられている。
【0035】
制御装置56は、製造装置50の動作を制御する装置である。制御装置56は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等を有するコントローラである。制御装置56は、内部空間測定装置51、注液装置52、充放電装置53、調整装置54、及び封止装置55をそれぞれ制御することによって、蓄電装置1の製造を自動化している。
【0036】
図3に戻って、蓄電装置1の製造方法の各工程を説明する。まず、電極製造工程S01が実施される。この電極製造工程S01は、以下の混練工程、塗工工程、プレス工程、外観検査工程、減圧乾燥工程、切断工程、及びセパレータ包み工程の各工程を含む。
【0037】
電極製造工程S01では、まず、混練工程が実施される。混練工程においては、活物質層の主成分である活物質粒子と、バインダ及び導電助剤等の粒子とを混練機内の溶媒中で混練し、各粒子の分散性がよい電極合剤を製造する。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、又はアルコキシシリル基含有樹脂であってもよい。溶媒は、例えばNMP(N−メチルピロリドン)、メタノール、メチルイソブチルケトン等の有機溶媒であってもよく、水であってもよい。導電助剤は、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック及びグラファイト等の炭素系材料である。
【0038】
次いで、塗工工程が実施される。塗工工程では、ロール状に巻かれた帯状の金属箔を繰り出し、その金属箔の表面に、電極合剤を間欠的または連続的に塗布する。電極合剤が塗布された金属箔は、電極合剤の塗布の直後に乾燥炉内を通過する。これにより、電極合剤に含まれる溶媒が乾燥されて除去されると共に、樹脂からなるバインダが活物質粒子同士を結合する。これにより、活物質粒子の間に微細な間隙(空孔)を有する活物質層が形成される。
【0039】
次いで、プレス工程が実施される。プレス工程では、帯状の金属箔の表面に形成された活物質層をロールにより所定の圧力でプレスする。これにより、活物質層が圧縮され、活物質の密度が適切な値に高められる。次いで、外観検査工程が実施される。外観検査工程では、活物質層の表面状態をカメラ等で確認し、良品及び不良品の判定を行う。
【0040】
次いで、減圧乾燥工程が実施される。ここでは、活物質層が形成された帯状の金属箔を、真空乾燥炉内に収容して減圧高温化にて乾燥する。これにより、活物質層に残留するわずかな溶媒を除去する。次いで、切断工程が実施される。切断工程では、打ち抜き機を用いて、活物質層が形成された金属箔を所定の形状に打ち抜くことで、上記の正極11及び負極12を形成する。次いで、セパレータ包み工程が実施される。セパレータ包み工程では、正極11を袋状のセパレータ13に収容し、セパレータ付き正極10を得る。
【0041】
続いて、組み立て工程S02が実施される。組み立て工程S02は、以下の積層工程、厚さ計測工程、厚さ調整工程、タブ溶接工程、収容工程、及び封缶工程の各工程を含む。
【0042】
組み立て工程S02では、まず、積層工程が実施される。積層工程では、セパレータ包み工程及び切断工程で得られたセパレータ付き正極10と負極12とを交互に順次積層し、積層電極を得る。次いで、厚さ計測工程が実施される。厚さ計測工程では、積層電極を検査装置に搬送し、所定の荷重を加えた状態で、その厚さを計測する。次いで、厚さ調整工程が実施される。厚さ調整工程では、厚さ計測工程の計測結果に応じて、樹脂製の調整シートを積層体に加えて、積層電極の厚さを調整する。
【0043】
次いで、タブ溶接工程が実施される。タブ溶接工程では、正極11と負極12とがセパレータ13を介して積層された積層電極を、テープ等で固定し、一体化する。これにより、電極組立体3を得る。そして、正極11のタブ14bに導電部材16を溶接すると共に、負極12のタブ17bに導電部材19を溶接する。次いで、収容工程が実施される。収容工程では、例えば一面側が開口する有底の電槽缶に、電極組立体3を収容する。次いで、封缶工程が実施される。封缶工程では、電槽缶の開口に蓋を溶接等で接合し、電槽缶の開口を塞ぐ。これにより、蓄電構造体20が作製(準備)される。電槽缶及び蓋によって、ケース2が構成される。
【0044】
続いて、測定工程S03が実施される。測定工程S03では、内部空間測定装置51を用いて、蓄電構造体20のケース2の内部空間容量を測定する。本実施形態では、注液前内部空間容量Voが測定される。内部空間測定装置51は、ケース2の内部に所定のガスを供給し、ガスの供給量及びケース2内の圧力Pcの変化に基づいて、注液前内部空間容量Voを測定する。
【0045】
続いて、注液工程S04が実施される。注液工程S04では、注液装置52を用いて、蓄電構造体20のケース2の内部に注液口から規定量の電解液を注入する。ケース2に注入される電解液には、上述のように、電解液の分解を抑えるための添加剤、及び過充電状態でガスを発生させる過充電添加剤(ガス発生剤)が含まれる。そして、注液口が仮封止される。
【0046】
続いて、活性化・エージング工程S05が実施される。活性化・エージング工程S05では、蓄電構造体20に充放電装置53を用いて初期充電を行い、電池として活性な状態にするとともに、負極12では負極活物質層18の表面にSEI膜を形成する。その後、蓄電構造体20を所定時間及び所定温度で保持するエージングを行い、SEI膜を安定させる。
【0047】
続いて、調整工程S06が実施される。調整工程S06では、調整装置54を用いて、CID及び安全弁を正常に作動させるために、ケース2内部の圧力Pcを調整する。調整装置54は、チャンバ41の収容空間の圧力を調整することによって、圧力Pcを調整する。CIDは、ケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pwになった場合に作動する。安全弁も同様に、ケース2内部の圧力Pcが所定の圧力になった場合に作動する。なお、一般的に、安全弁が作動を開始する圧力は、CIDが作動を開始する作動圧力Pwよりも高いので、ここでは、作動圧力Pwに対して、ケース2内部の圧力Pcを調整する構成を説明する。以下、第1調整方法及び第2調整方法を説明する。
【0048】
(第1調整方法)
蓄電装置1が過充電状態となった場合に、ガス発生剤によって発生するガス量Vgocは予め定められている。また、圧力Pcの調整が行われなかった場合には、蓄電装置1が出荷される際の未使用の状態(初期状態)である蓄電装置1において、ケース2内部の圧力Pcは初期圧力P0に設定されるとする。
【0049】
ここで、式(1)に示されるように、過充電状態において、CIDを正常に作動させるためには、ガス量Vgocによるケース2内部の圧力Pcの増加分ΔPpを初期圧力P0に加算した値が、作動圧力Pw以上である必要がある。なお、増加分ΔPpは、式(1)の左辺第2項に示されるように、製品内部空間容量Vpでガス量Vgocを除算し、その除算結果に大気圧P
atm(0.1MPa)を乗算することによって得られる。
【数1】
【0050】
製品内部空間容量Vpは、注液前内部空間容量Voに基づいて算出され得る。具体的には、式(2)に示されるように、製品内部空間容量Vpは、注液前内部空間容量Voから、注液工程S04において注入される電解液の注液量Viと活性化・エージング工程S05における電極組立体3の体積増加量Veとを減算することによって算出される。
【数2】
【0051】
例えば、初期状態の蓄電装置1において、ケース2の製品内部空間容量Vpが目標容量Vtである場合に、蓄電装置1が過充電状態となった際にケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pwに達するとする。つまり、式(3)が成立するとする。この式(3)の左辺第2項は、ケース2の内部空間容量が目標容量Vtである場合のガス量Vgocによるケース2内部の圧力Pcの増加分ΔPtを示している。
【数3】
【0052】
上記の関係から、調整工程S06では、演算装置46は、注液前内部空間容量Voに基づいて、圧力調整量Paを算出する。具体的には、演算装置46は、式(4)に示されるように、増加分ΔPpと増加分ΔPtとの差分を圧力調整量Paとして算出する。なお、ガス量Vgoc、目標容量Vt、注液量Vi及び体積増加量Veは、調整装置54に予め設定されている。
【数4】
【0053】
この圧力調整量Paが正の値であれば、演算装置46は、設定圧力Psを初期圧力P0に圧力調整量Paを加えた圧力とし、圧力Pcが設定圧力Psとなるように、ガス供給源42を制御して、チャンバ41内にガスを供給する。一方、圧力調整量Paが0以下であれば、式(1)が満たされるので、演算装置46は、圧力調整量Paを0として設定圧力Psを初期圧力P0とする。これにより、圧力Pcは初期圧力P0とされる。
【0054】
例えば、ガス量Vgocが300cc、目標容量Vtが30cc、注液量Viが130cc、体積増加量Veが5cc、及び注液前内部空間容量Voが170ccであるとすると、圧力調整量Paは0.14MPa(=300÷30×0.1−300÷(170−130−5)×0.1)となる。このため、圧力Pcが初期圧力P0に0.14MPa加えた圧力となるようにガスをケース2内に供給する。
【0055】
このように、第1調整方法では、製品内部空間容量Vpが目標容量Vtよりも大きい場合に、その分を圧力Pcを大きくすることで相殺している。
【0056】
(第2調整方法)
蓄電装置1が通常使用状態で使用される場合に、蓄電装置1の使用期間全体に亘ってケース2内で発生するガスの大気圧における体積であるガス量Vgnは予め定められている。蓄電装置1の使用期間とは、蓄電装置1を通常使用状態で使用した場合に、蓄電装置1の使用開始から蓄電装置1が寿命に達するまでの期間を意味する。また、圧力Pcの調整が行われなかった場合には、初期状態の蓄電装置1において、ケース2内部の圧力Pcは初期圧力P0に設定されるとする。
【0057】
ここで、式(5)に示されるように、通常使用状態において、CIDを作動させないためには、ガス量Vgnによるケース2内部の圧力Pcの増加分ΔPpnを初期圧力P0に加算した値が、作動圧力Pwを超えない必要がある。なお、増加分ΔPpnは、式(5)の左辺第2項に示されるように、製品内部空間容量Vpでガス量Vgnを除算し、その除算結果に大気圧P
atmを乗算することによって得られる。
【数5】
【0058】
例えば、初期状態の蓄電装置1におけるケース2の製品内部空間容量Vpが目標容量Vtnである場合に、蓄電装置1を通常使用状態で使用して蓄電装置1が寿命に達した際に、ケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pwに達するとする。つまり、式(6)が成立するとする。この式(6)の左辺第2項は、ケース2の製品内部空間容量Vpが目標容量Vtnである場合のガス量Vgnによるケース2内部の圧力Pcの増加分ΔPtnを示している。
【数6】
【0059】
上記の関係から、調整工程S06では、演算装置46は、注液前内部空間容量Voに基づいて、圧力調整量Paを算出する。具体的には、演算装置46は、式(7)に示されるように、増加分ΔPtnと増加分ΔPpnとの差分を圧力調整量Paとして算出する。なお、ガス量Vgn、目標容量Vtn、注液量Vi及び体積増加量Veは、調整装置54に予め設定されている。
【数7】
【0060】
この圧力調整量Paが正の値であれば、演算装置46は、設定圧力Psを初期圧力P0から圧力調整量Paを差し引いた圧力とし、圧力Pcが設定圧力Psとなるように、吸引機43を制御して、チャンバ41内からガスを吸引する。一方、圧力調整量Paが負の値であれば、式(5)が満たされるので、演算装置46は、圧力調整量Paを0として設定圧力Psを初期圧力P0とする。これにより、圧力Pcは初期圧力P0とされる。
【0061】
例えば、ガス量Vgnが90cc、目標容量Vtnが30cc、注液量Viが130cc、体積増加量Veが5cc、及び注液前内部空間容量Voが160ccであるとすると、圧力調整量Paは0.06MPa(=90÷(160−130−5)×0.1−90÷30×0.1)となる。このため、圧力Pcが初期圧力P0から0.06MPa減じた圧力となるようにガスをケース2内から吸引する。
【0062】
このように、第2調整方法では、製品内部空間容量Vpが目標容量Vtnよりも小さい場合に、その分を圧力Pcを小さくすることで補っている。
【0063】
なお、調整工程S06では、上記第1調整方法及び第2調整方法のいずれかが行われてもよく、両方が行われてもよい。第1調整方法及び第2調整方法によって算出された圧力調整量Paが同時に正の値とならないように、目標容量Vt、目標容量Vtn及び作動圧力Pw等が適宜設定される。
【0064】
続いて、封止工程S07が実施される。封止工程S07では、封止装置55を用いて、仮封止を解除し、注液口を封止部材で本封止する。このとき、調整工程S06において調整された圧力Pcを維持した状態で、ケース2を封止する。この後、電池としての検査工程等を経て出荷されるが、ここでは省略する。以上のようにして、蓄電装置1が製造される。
【0065】
以上説明したように、蓄電装置1の製造方法、製造装置50、及び蓄電装置1では、ケース2の注液前内部空間容量Voが測定され、測定された注液前内部空間容量Voに基づいて、ケース2内部の圧力Pcが調整された状態でケース2が封止される。これにより、CID及び安全弁等の安全機構を正常に作動させるように、ケース2内部の圧力Pcを調整することができる。つまり、蓄電装置1の初期状態から蓄電装置1が寿命に達するまでに亘って、蓄電装置1の通常使用状態におけるケース2内部の圧力Pcが、CIDの作動圧力Pwよりも小さく、かつ、蓄電装置1の過充電状態におけるケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pw以上とすることができる。また、蓄電装置1の通常使用状態において、安全弁が作動すること、及び、ケース2が膨張し、他の部品に干渉することを抑制することができる。また、電解液には、電解液の分解を抑えるSEI膜を、負極12の表面に形成するための添加剤が含まれており、電極組立体3の負極12の表面にSEI膜が形成される。蓄電装置1の製造方法、製造装置50、及び蓄電装置1では、ケース2内部の圧力Pcが調整されるだけで、電解液の注入量は規定量であるので、負極12の表面に形成されるSEI膜の厚さに影響を及ぼさない。したがって、安全機構の作動精度を向上するとともに、負極12に形成されるSEI膜の厚さを安定化することが可能となる。
【0066】
また、厚さ調整工程において、調整シートによって積層電極の厚さを調整している。調整シートは樹脂フィルムであるので、正極11の正極活物質層15、負極12の負極活物質層18、及びセパレータ13と比較して、空孔率が小さい。このように、厚さ調整工程が実施されることによって、ケース2の内部空間容量にばらつきが生じやすい。このような場合でも、ケース2内部の圧力Pcを適宜調整することによって、安全機構の作動精度を向上することが可能となる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、蓄電装置1は、CID及び安全弁のいずれかを備えていればよい。
【0068】
また、第1調整方法では、圧力調整量Paは、上記式(4)によって正確に算出されなくてもよい。圧力調整量Paは、式(8)を満たし、かつ、式(4)によって算出された値以上であればよい。このような場合でも、CID及び安全弁を正常に作動させるように、ケース2内の圧力Pcを調整することができる。その結果、安全機構の作動精度を向上するとともに、負極12に形成されるSEI膜の厚さを安定化することが可能となる。
【数8】
【0069】
また、第2調整方法では、圧力調整量Paは、上記式(7)によって正確に算出されなくてもよい。圧力調整量Paは、式(9)を満たし、かつ、式(7)によって算出された値以上であればよい。このような場合でも、CID及び安全弁を正常に作動させるように、ケース2内の圧力Pcを調整することができる。その結果、安全機構の作動精度を向上するとともに、負極12に形成されるSEI膜の厚さを安定化することが可能となる。
【数9】
【0070】
また、上記実施形態では、電極製造工程S01及び組み立て工程S02によって、蓄電構造体20が準備されるが、これに限られない。他の工程によって、蓄電構造体20が準備されてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、測定工程S03は、注液工程S04の前に実施されるが、組み立て工程S02の後で、かつ、調整工程S06の前に実施されればよい。いずれの場合でも、調整工程S06では、測定工程S03において測定されたケース2の内部空間容量に基づいて、圧力調整量Paが算出される。例えば、測定工程S03は、注液工程S04の後に実施されてもよい。この場合、内部空間測定装置51は、注液前内部空間容量Voから注液量Viを減算した内部空間容量を測定することができる。さらに、測定工程S03が注液工程S04の後に実施される場合、測定工程S03では、内部空間測定装置51は、ケース2内における電解液の液面の高さを測定し、測定した液面の高さに基づいて、ケース2の内部空間容量を算出してもよい。この場合、電解液の液面の高さを測定するだけで、ケース2の内部空間容量を測定できる。これにより、測定工程S03を容易化することができる。
【0072】
また、測定工程S03は、活性化・エージング工程S05の後に実施されてもよい。この場合、内部空間測定装置51は、注液前内部空間容量Voから注液量Vi及び体積増加量Veを減算した内部空間容量を測定することができる。活性化・エージング工程S05において、電極組立体3の体積は増加するが、この電極組立体3の体積増加量Veにはばらつきが生じる。このため、測定工程S03が活性化・エージング工程S05の後に実施されることによって、体積増加量Veのばらつきの影響を受けることなく、ケース2の内部空間容量を測定することができる。これにより、圧力調整量Paの算出精度を向上することができるので、ケース2内部の圧力Pcの調整精度が向上し、安全機構の作動精度をさらに向上することが可能となる。
【0073】
また、初期圧力P0を予め大きく設定しておくことによって、調整工程S06において算出される設定圧力Psが大気圧P
atmよりも大きくなるようにしてもよい。この場合、調整工程S06では、ケース2の内部を加圧することによって、ケース2内部の圧力Pcを調整する。これにより、吸引機43及び切替バルブ44が不要となり、調整装置54の構成を簡単化することが可能となる。また、ガス検出器によってケース2の気密検査を行う場合には、ケース2内にガスを供給する工程を省略することができ、気密検査に要する時間を短縮することが可能となる。
【0074】
また、初期圧力P0を予め小さく設定しておくことによって、調整工程S06において算出される設定圧力Psが大気圧P
atmよりも小さくなるようにしてもよい。この場合、調整工程S06では、ケース2の内部を減圧することによって、ケース2内部の圧力Pcを調整する。これにより、ガス供給源42及び切替バルブ44が不要となり、調整装置54の構成を簡単化することが可能となる。