(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)下記式(1)で表される溶融粘度比Rの範囲が2〜4であり、メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従って、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)の範囲が100〜1000g/10分であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)繊維状充填剤を10〜100重量部、(C)オレフィン系エラストマー樹脂を4〜15重量部配合してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる温度70℃以上の液体が0.3MPa以上の圧力で接触する配管部品であって、前記(C)オレフィン系エラストマー樹脂がエポキシ基を有するα−オレフィン系共重合体である、配管部品。
溶融粘度比R=A/B ・・・(1)
ここで、Aは、温度300℃、L/D=10、せん断速度:121.6s−1における溶融粘度(Pa・s)、Bは、温度300℃、L/D=10、せん断速度:6080s−1における溶融粘度(Pa・s)である。
前記(B)繊維状充填材がガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維および石コウ繊維から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の配管部品。
前記(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂の熱酸化処理前と熱酸化処理後のメルトフローレート(ASTM D−1238−70に従って、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)の差が100〜300g/10分である請求項4に記載の配管部品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いられるPPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0017】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0019】
本発明で用いられるPPS樹脂は、真空下、320℃で2時間加熱溶融した際に揮発するガス発生量が0.3重量%以下であり、好ましくは0.28重量%以下、さらに好ましくは0.22重量%以下であることが望ましい。熱酸化処理後のガス発生量が0.3重量%を上回ると、金型や金型ベント部に付着する揮発性成分が増加し、転写不良やガスやけが起こりやすくなるため好ましくない。熱酸化処理後のガス発生量の下限については特に制限しないが、ガス発生量を低減するまで熱酸化処理する時間が長くなると、経済的に不利であり、また、熱酸化処理する時間の長期化により、ゲル化物が生じ易くなり、成形不良を引き起こす一因となり得る。
【0020】
なお、上記ガス発生量とは、PPS樹脂を真空下で加熱溶融した際に揮発するガスが、冷却されて液化または固化した付着性成分の量を意味しており、PPS樹脂を真空封入したガラスアンプルを、管状炉で加熱することにより測定されるものである。ガラスアンプルの形状としては、腹部が100mm×25mm、首部が255mm×12mm、肉厚が1mmである。具体的な測定方法としては、PPS樹脂を真空封入したガラスアンプルの胴部のみを320℃の管状炉に挿入して2時間加熱することにより、管状炉によって加熱されていないアンプルの首部で揮発性ガスが冷却されて付着する。この首部を切り出して秤量した後、付着したガスをクロロホルムに溶解して除去する。次いで、この首部を乾燥してから再び秤量する。ガスを除去した前後のアンプル首部の重量差よりガス発生量を求める。
【0021】
本発明で用いられるPPS樹脂は、550℃で灰化させたときの灰分率が0.3重量%以下であり、好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下である。灰分率が0.3重量%を上回ることは、PPS樹脂の金属含有量が多いことを意味する。金属含有量が多いと電気絶縁性が劣るだけでなく、溶融流動性の低下、耐湿熱性の低下の原因になるため好ましくない。
【0022】
本発明の製造方法により得られるPPS樹脂は、250℃で5分間、20倍重量の1−クロロナフタレンに溶解して、ポアサイズ1μmのPTFEメンブランフィルターで熱時加圧濾過した際の残さ量が4.0重量%以下である必要があり、好ましくは3.5重量%以下、さらに好ましくは3.0重量%以下であることが望ましい。残さ量が4.0重量%を上回ることは、PPS樹脂の熱酸化架橋が過度に進行し、樹脂中のゲル化物の増加を意味する。PPS樹脂の熱酸化架橋を過度に進行させても、揮発分低減効果は少なく、一方で溶融流動性の低下、ゲル化物による成形不良等の原因になるため好ましくない。残さ量の下限については特に制限しないが、1.5%以上、好ましくは1.7%以上である。残さ量が1.5%を下回ると、熱酸化架橋の程度が軽微すぎるため、溶融時の揮発成分はそれほど減少せず、揮発分低減効果が小さい可能性がある。
【0023】
なお、上記残さ量は、PPS樹脂を約80μm厚にプレスフィルム化したものを試料とし、高温濾過装置および空圧キャップと採集ロートを具備したSUS試験管を用いて測定されるものである。具体的には、まずSUS試験管にポアサイズ1μmのメンブランフィルターをセットした後、約80μm厚にプレスフィルム化したPPS樹脂および20倍重量の1−クロロナフタレンを秤量して密閉する。これを250℃の高温濾過装置にセットして5分間加熱振とうする。次いで空圧キャップに空気を含んだ注射器を接続してから注射器のピストンを押し出し、空圧による熱時濾過を行う。残さ量の具体的な定量方法としては、濾過前のメンブランフィルターと濾過後に150℃で1時間真空乾燥したメンブランフィルターの重量差より求める。
【0024】
本発明で用いられるPPS樹脂は、メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従って、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が100〜1000g/10分の範囲である必要がある。メルトフローレートが100g/10分以下であると、特にフィラーを高充填して使用する場合にPPS樹脂組成物の溶融流動性が著しく悪化し、成形が不安定となるため好ましくない。また、メルトフローレートが1000g/10分以上であると、PPS樹脂組成物からなる成形品の強度が悪化するため好ましくない。
【0025】
本発明で用いられるPPS樹脂としては、熱酸化処理をすることにより得られるPPS樹脂を用いることが好ましい。熱酸化処理を行うことで、後述する溶融粘度比Rを有するPPS樹脂を得ることができ、このようなPPS樹脂を配合したPPS樹脂組成物からなる成形品は、耐水圧強度が高く、耐湿熱性に優れるという特性を有するものとなり、温度70℃以上の液体が0.3MPa以上の圧力で接触する配管部品に適したものとなる。
【0026】
本発明において熱酸化処理を施す前のPPS樹脂はいかなる方法で得られたものでも良く、したがって、市販されているPPS樹脂を用いることもできるし、以下に述べるようにモノマーを重合して製造することもできる。
【0027】
以下に、本発明で用いる熱酸化処理を施す前のPPS樹脂を製造する方法を述べる。まず、使用するポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0028】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0029】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0030】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0031】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0032】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0033】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からスルフィド化剤を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0034】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からスルフィド化剤を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0035】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0036】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0037】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0038】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いることが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0039】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
【0040】
[分子量調節剤]
生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0041】
[重合助剤]
比較的高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩および/または水が好ましく用いられる。
【0042】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0043】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0044】
これら重合助剤を用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜0.7モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
【0045】
また水を重合助剤として用いることは、流動性と高靭性が高度にバランスした樹脂組成物を得る上で有効な手段の一つである。その場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.5モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
【0046】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0047】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0048】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0049】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが添加が容易である点からより好ましい。
【0050】
次に、前工程、重合反応工程、回収工程を順を追って具体的に説明する。
【0051】
[前工程]
スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
【0052】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0053】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.5〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0054】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂粉粒体を製造することが好ましい。
【0055】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜220℃、好ましくは100〜220℃の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を加える。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0056】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
【0057】
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0058】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。
【0059】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0060】
[回収工程]
重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。
【0061】
PPS樹脂の最も好ましい回収方法は、急冷条件下に行うことであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm
2 以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉粒体状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選択される。
【0062】
フラッシュ法は、溶媒回収と同時に固形物を回収することができ、また回収時間も比較的短くできることから、経済性に優れた回収方法である。この回収方法では、固化過程でNaに代表されるイオン性化合物や有機系低重合度物(オリゴマー)がポリマー中に取り込まれやすい傾向がある。
【0063】
但し、本発明に用いられるPPS樹脂の回収法は、フラッシュ法に限定されるものではない。本発明の要件を満たす方法であれば、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法(クエンチ法)を用いることもやぶさかではない。しかし、経済性、性能を鑑みた場合、本発明の製造方法はフラッシュ法で回収されたPPS樹脂を用いることがより好ましい。
【0064】
本発明では、PPS樹脂として、たとえば上記重合反応工程、回収工程を経て得られたPPS樹脂を熱酸化処理を行ったものを用いるのが好ましい。好ましくは、熱酸化処理工程の前に熱水処理、酸処理工程を含むことが好ましい。また、酸処理する工程や熱水処理する工程の前に有機溶媒により洗浄する工程を含んでもよい。
【0065】
本発明における酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0066】
酸の水溶液を用いるときの水は、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。酸の水溶液は、pH1〜7が好ましく、pH2〜4がより好ましい。pHが7より大きいとPPS樹脂の金属含有量が増大するため好ましくなく、pHが1より小さいとPPS樹脂の揮発成分が多くなるため好ましくない。
【0067】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめことが好ましく、必要により適宜撹拌および加熱することも可能である。加熱する際の温度は80〜250℃が好ましく、120〜200℃がより好ましく、150〜200℃がさらに好ましい。80℃未満では酸処理効果が小さく、金属含有量が増大し、250℃を超えると圧力が高くなりすぎるため安全上好ましくない。また、酸の水溶液でPPS樹脂を浸漬せしめて処理した際のpHは、酸処理により8未満となることが好ましく、pH2〜8がより好ましい。pHが8より大きくなると得られるPPS樹脂の金属含有量が増大するため好ましくない。
【0068】
酸処理の時間は、PPS樹脂と酸の反応が十分に平衡となる時間が好ましく、80℃で処理する場合は2〜24時間が好ましく、200℃で処理する場合は0.01〜5時間が好ましい。
【0069】
酸処理におけるPPS樹脂と酸または酸の水溶液との割合は、PPS樹脂が酸または酸の水溶液中に十分に浸漬された状態で処理することが好ましく、PPS樹脂500gに対して、酸または酸の水溶液0.5〜500Lが好ましく、1〜100Lがより好ましく、2.5〜20Lがさらに好ましい。PPS樹脂500gに対して酸または酸の水溶液が0.5Lより少ないとPPS樹脂が水溶液に十分浸漬しないため洗浄不良となり、PPS樹脂の金属含有量が増大するため好ましくない。また、PPS樹脂500gに対して、酸または酸の水溶液が500Lを超えると、PPS樹脂に対する溶液量が大過剰となり生産効率が著しく低下するため好ましくない。
【0070】
これらの酸処理は所定量の水および酸に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱・撹拌する方法、連続的に酸処理を施す方法などにより行われる。酸処理後の処理溶液から水溶液とPPS樹脂を分離する方法はふるいやフィルターを用いた濾過が簡便であり、自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過などの方法が例示できる。処理液から分離されたPPS樹脂表面に残留している酸や不純物を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄方法は濾過装置上のPPS樹脂に水をかけながら濾過する方法や、予め用意した水に、分離したPPS樹脂を投入した後に再度濾過するなどの方法で水溶液とPPS樹脂を分離する方法が例示できる。洗浄に用いる水は、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
【0071】
本発明では酸処理する工程の前に熱水処理を行うことが好ましく、その方法は次のとおりである。本発明における熱水処理に用いる水は、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理温度は80〜250℃が好ましく、120〜200℃がより好ましく、150〜200℃がさらに好ましい。80℃未満では熱水処理効果が小さく、揮発するガス発生量が多くなり、250℃を超えると圧力が高くなりすぎるため安全上好ましくない。
【0072】
熱水処理の時間は、PPS樹脂と熱水による抽出処理が十分である時間が好ましく、80℃で処理する場合は2〜24時間が好ましく、200℃で処理する場合は0.01〜5時間が好ましい。
【0073】
熱水処理におけるPPS樹脂と水との割合は、PPS樹脂が水に十分に浸漬された状態で処理することが好ましく、PPS樹脂500gに対して、水0.5〜500Lが好ましく、1〜100Lがより好ましく、2.5〜20Lがさらに好ましい。PPS樹脂500gに対して水が0.5Lより少ないとPPS樹脂が水に十分浸漬しないため洗浄不良となり、揮発するガス発生量が増大するため好ましくない。また、PPS樹脂500gに対して、水が500Lを超えると、PPS樹脂に対する水が大過剰となり生産効率が著しく低下するため好ましくない。
【0074】
これらの熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱・撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。熱水処理後の処理溶液から水溶液とPPS樹脂を分離する方法に特に制限は無いが、ふるいやフィルターを用いた濾過が簡便であり、自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過などの方法が例示できる。処理液から分離されたPPS樹脂表面に残留している不純物を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄方法に特に制限は無いが、濾過装置上のPPS樹脂に水をかけながら濾過する方法や、予め用意した水に、分離したPPS樹脂を投入した後に再度濾過するなどの方法で水溶液とPPS樹脂を分離する方法が例示できる。洗浄に用いる水は、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
【0075】
また、これら酸処理や熱水処理時のPPS末端基の分解は好ましくないので、酸処理や熱水処理を不活性雰囲気下とすることが望ましい。不活性雰囲気としては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどがあげられるが、経済性の観点から窒素雰囲気下が好ましい。
【0076】
本発明では酸処理する工程や熱水処理する工程の前に有機溶媒により洗浄する工程を含んでもよく、その方法は次のとおりである。本発明でPPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0077】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0078】
これら酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄は、これらを適宜組み合わせて行うことも可能である。
【0079】
本発明で用いられるPPS樹脂は、好ましくは上記酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄をした後に、熱酸化処理を行うことで得られたものを用いることが好ましい。熱酸化処理とは、PPS樹脂を、酸素雰囲気下においての加熱またはH
2O
2等の過酸化物もしくはS等の加硫剤を添加しての加熱による処理を施すことであるが、処理の簡便さから酸素雰囲気下においての加熱が特に好ましい。
【0080】
PPS樹脂の熱酸化処理のための加熱装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。熱酸化処理の際の雰囲気における酸素濃度は1体積%以上、更には2体積%以上とすることが望ましい。本発明の効果を発揮するためには、酸素濃度の上限は5体積%以下が好ましい。酸素濃度5体積%以下で熱酸化処理を行うことで、熱酸化処理が過剰に進行することがなく、熱酸化処理をおこなったPPS樹脂を含む成形品の靭性が損なわれることがない。一方、酸素濃度1体積%以上での熱酸化処理を行うことで、十分な熱酸化処理を行うことができ、揮発成分が少ないPPS樹脂を得ることができるので好ましい。
【0081】
PPS樹脂の熱酸化処理温度は、160〜270℃が好ましく、より好ましくは160〜230℃である。270℃以下で熱酸化処理を行うことで、熱酸化処理が急激に進行することがなく、熱酸化処理をおこなったPPS樹脂を含む成形品の靭性が損なわれることがないので好ましい。一方、160℃以上の温度で、熱酸化処理を行うことで、適切な速度で熱酸化処理を進行させることができ、揮発成分の発生量が少ないPPS樹脂を得ることができるので好ましい。
【0082】
熱酸化処理の処理時間は、0.5〜30時間が好ましく、0.5〜25時間がより好ましく、2〜20時間がさらに好ましい。処理時間を0.5時間以上とすることで十分な熱酸化処理を行うことができ揮発成分が少ないPPS樹脂を得ることができるので好ましい。処理時間を30時間以下とすることで、熱酸化処理による架橋反応を制御することができ、熱酸化処理をおこなったPPS樹脂を含む成形品の靭性を損なうことがないので好ましい。
【0083】
本発明で好ましく用いられるPPS樹脂の熱酸化処理前と熱酸化処理後のメルトフローレート(ASTM D−1238−70に従って、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)の差が100〜300g/10分であることが望ましい。120〜260g/10分の範囲がより好適であり、150〜230g/10分の範囲が更に好適であり、靭性、耐水圧強度、耐湿熱性を発現させる上で特に好ましい態様の一つである。熱酸化処理前と熱酸化処理後のメルトフローレートの差が100g/10分以上となる熱酸化処理を行うことで、得られるPPS樹脂を含む組成物の、耐湿熱性を向上させることができるので好ましい。熱酸化処理前と熱酸化処理後のメルトフローレートの差が300g/10分以下とすることで、得られるPPS樹脂を含む組成物の耐水圧強度に優れる成形品を得ることができるので好ましい。
【0084】
本発明で好ましく用いられるPPS樹脂の熱酸化処理前のメルトフローレート(ASTM D−1238−70に従って、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)は200〜1300g/10分であることが望ましい。200g/10分以上のものを用いることで、成形性に優れるPPS樹脂を得ることができ、一方、1200g/10分以下のものを用いることで、機械的物性に優れるPPS樹脂を得ることができるので好ましい。
【0085】
本発明で用いるPPS樹脂の、架橋の進行度は、下記式(1)で表される溶融粘度比Rで表すことができる。この溶融粘度比Rの数値が高い方が架橋の進行度が高いことを示している。
【0086】
本発明においては、(A)下記式(1)で表される溶融粘度比Rの範囲が2〜4であるポリフェニレンサルファイド樹脂を用いることが必須であり、2〜3.5が好ましく、より好ましくは2.2〜3である。溶融粘度比Rが4を超えると、熱酸化処理が過剰に進行するため、成形品としたときの靭性が損なわれ、耐水圧強度が低下する。一方、溶融粘度比Rが2未満であると、成形品としたときの耐湿熱性が低下する。
溶融粘度比R=A/B ・・・(1)
【0087】
ここで、Aは、温度300℃、L/D=10、せん断速度:121.6s
−1における溶融粘度(Pa・s)、Bは、温度300℃、L/D=10、せん断速度:6080s
−1における溶融粘度(Pa・s)である。
【0088】
また熱酸化処理の前後に、熱酸化架橋を抑制し、水分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は100〜270℃が好ましく、120〜200℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は1体積%未満で行う。処理時間は、0.2〜50時間が好ましく、0.5〜10時間がより好ましく、1〜5時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0089】
本発明においては、(A)前記溶融粘度比Rの範囲が2〜4であり、MFRが100〜1000g/10分であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)繊維状充填剤を10〜100重量部配合することが必須である。20〜90重量部の範囲がより好適であり、30〜80重量部の範囲が更に好適であり、機械的強度と成形性を両立させる上で特に好ましい。
【0090】
繊維状充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維が挙げられ、これらは2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維がより好適に用いられる。
【0091】
本発明においては、(A)前記溶融粘度比Rの範囲が2〜4であり、MFRが100〜1000g/10分であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(C)オレフィン系エラストマー樹脂を4〜15重量部配合することが必須である。オレフィン系エラストマー樹脂はエポキシ基を有するα−オレフィン系共重合体を配合することが好ましく、5〜13重量部の範囲がより好適であり、6〜10重量部の範囲が更に好適であり、靭性と成形性を両立させる上で特に好ましい態様の一つである。
【0092】
エポキシ基を有するオレフィン系共重合体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、イソブチレンなどのα−オレフィン単独または2種以上を重合して得られる(共)重合体、α−オレフィンとアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、などのα,β−不飽和酸およびそのアルキルエステルとの共重合体、例えば、エチレン/プロピレン共重合体(“/”は共重合を表す、以下同じ)、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/1−ヘキセン、エチレン/1−オクテン、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸ブチル共重合体などにエポキシ基を有する単量体成分(官能基含有成分)を導入することにより得られるが、その官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体などが挙げられる。これら官能基含有成分を導入する方法は特に制限なく、オレフィン系(共)重合体を(共)重合する際に共重合させたり、オレフィン系(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入させたりするなどの方法を用いることができる。官能基含有成分の導入量は変性オレフィン系(共)重合体を構成する全単量体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。特に有用なオレフィン重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるグリシジル基を有するオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/1−ブテン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、あるいは、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルに加え、更に他の単量体を必須成分とするエポキシ基含有オレフィン系共重合体もまた好適に用いられる。
【0093】
オレフィン系エラストマー樹脂の好ましいものとしては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体などが挙げられる。とりわけ好ましいものとしては、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。
【0094】
更に、オレフィン系エラストマー樹脂として、(C−1)エポキシ基を有するオレフィン系共重合体と、(C−2)極性官能基を有しないオレフィン系共重合体を併用して用いることが優れた成形性、耐水圧強度を得る上で好ましい。これらの比率に特に制限は無いが、(C−1)/(C−2)=5/95重量比〜95/5重量比が好ましく、(C−1)/C−2)=10/90重量比〜90/10重量比の範囲が、成形性、耐水圧強度のバランスに優れるため、より好ましい。
【0095】
一方、(C−2)極性官能基を有しないオレフィン系共重合体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、イソブチレンなどのα−オレフィン単独または2種以上を重合して得られる(共)重合体、例えば、エチレン/プロピレン共重合体(“/”は共重合を表す、以下同じ)、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/1−ヘキセン共重合体、エチレン/1−オクテン共重合体が挙げられる。
【0096】
(C−2)極性官能基を有しないオレフィン系共重合体の好ましいものとしては、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/1−オクテン共重合体が挙げられる。とりわけ好ましいものとしては、エチレン/1−オクテン共重合体が挙げられる。
【0097】
更に、本発明で用いるPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、機械的強度、靱性などの向上を目的に、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するシラン化合物を添加してもよい。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。なかでもエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基を有するアルコキシシランが優れたウエルド強度を得る上で特に好適である。かかるシラン化合物の好適な添加量は、PPS樹脂100重量部に対し、0.05〜3重量部の範囲が選択される。
【0098】
本発明で用いるPPS樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、更に他の樹脂をブレンドして用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、芳香族系ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、エポキシ基含有ポリオレフィン共重合体などが挙げられる。
【0099】
なお、本発明で用いるPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば前記以外の酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒドロキノン系)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、熱安定剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムなどの滑剤、ビスフェノールA型などのビスフェノールエポキシ樹脂、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの強度向上材、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤および発泡剤などの通常の添加剤を添加することができる。
【0100】
PPS樹脂組成物の調製方法には特に制限はないが、各原料を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して、280〜380℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。
【0101】
このようにして得られるPPS樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に射出成形用途に適している。
【0102】
本発明で用いるPPS樹脂組成物は、耐水圧強度と耐湿熱性に優れていることから、高温の液体が流れ且つ、水道の直圧並みの大きな水圧もしくはウォーターハンマーによる大きな水圧がかかる箇所に使用される配管部品に適用できる。配管部品は継手、弁、サーボ、センサー、パイプ、ポンプのいずれかであり、特に給湯器部品に好ましく用いられる。従来の減圧式タイプの給湯器では、高温の水が接する配管部品に大きな水圧がかかることがなく、従来のPPS樹脂組成物からなる配管部品を利用することができたが、減圧式タイプの給湯器では複数の蛇口から一斉に出湯をすると水圧が下がるなどの問題があった。一方、出湯時のお湯の水圧や湯温ムラが改善された水道直圧式タイプの給湯器の場合は、高温の液体が高い水圧で配管部品に接触するため従来のPPS樹脂組成物からなる配管部品を用いることができなかった。本発明のPPS樹脂組成物からなる配管部品は70℃以上の液体が0.3MPa以上の圧力で接触する水道直圧式タイプの給湯器の配管部品などに適用することができる。
【0103】
配管部品に流れる液体は、水の他に、アルコール類、グリコール類、グリセリンなどを含む不凍液でもよく、その種類、および濃度は特に限定されない。
【0104】
また、水圧の負荷が低い水道蛇口部品、混合水栓といった配管部品、水圧の負荷が高いが、高温の水が流れない水道メーター部品などの水廻り部品にも適用することができる。
【0105】
以上のように、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる配管部品は、耐水圧強度と耐湿熱性に優れていることから、高温の液体が流れ且つ、水道の直圧並みの大きな水圧もしくはウォーターハンマーによる大きな水圧がかかる箇所に使用することができる。
【0106】
その他本発明で用いられるPPS樹脂組成物からなる成形品の適用可能な用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、民生用コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品への適用も可能である。その他、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナーなどの自動車・車両関連部品など各種用途が例示できる。
【実施例】
【0107】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0108】
[参考例1]PPS−1の調製
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.10モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0109】
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.45kg(71.07モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0110】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0111】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0112】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0113】
得られたPPSは、MFRが600g/10分であった。
【0114】
[参考例2]PPS−2の調製
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム0.86kg(10.5モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0115】
次に、p-ジクロロベンゼン10.24kg(69.63モル)、NMP9.01kg(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1.26kg(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0116】
内容物を取り出し、2.63kgのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、5.60kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液7.00kgで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。
【0117】
得られたPPSは、MFRが1000g/10分であった。
【0118】
[参考例3]PPS−3の調製
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム0.513kg(6.25モル)、及びイオン交換水3.82kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水8.09kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0119】
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.34kg(70.32モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.67kg(148.4モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0120】
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0121】
得られたPPSは、MFRが500g/10分であった。
【0122】
[参考例4]PPS−4の調製
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.43kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム2.58kg(31.50モル)、及びイオン交換水10.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0123】
次に、p-ジクロロベンゼン10.24kg(69.63モル)、NMP9.01kg(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0124】
内容物を取り出し、2.63kgのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31.90kgのNMPで洗浄、濾別した。これを、56.00kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70.00kgのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。
【0125】
得られたPPSは、MFRが300g/10分であった。
【0126】
[参考例5]PPS−5の調製
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.92kg(70.20モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13.86kg(140.00モル)、酢酸ナトリウム2.19kg(26.67モル)、及びイオン交換水10.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.74kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.023モルであった。
【0127】
次に、p−ジクロロベンゼン10.25kg(69.76モル)、NMP6.45kg(65.17モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.8℃/分の速度で200℃から250℃まで昇温し、250℃で70分保持した。次いで、250℃から278℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、278℃で78分保持した。オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0128】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0129】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0130】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0131】
得られたPPSは、MFRが200g/10分であった。
【0132】
[参考例6]PPS−6の調製
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0133】
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.48kg(71.27モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0134】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0135】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0136】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。得られたPPSは、ERが90g/10分であり、MFRに換算すると、6257g/10分であった。
【0137】
(A)PPS樹脂
PPS−7:参考例1に記載の方法で重合したPPS−1を、酸素濃度1%、220℃、12時間で熱酸化処理を行った。
PPS−8:参考例1に記載の方法で重合したPPS−1を、酸素濃度2%、220℃、12時間で熱酸化処理を行った。
PPS−9:参考例2に記載の方法で重合したPPS−2を、酸素濃度1.5%、220℃、12時間で熱酸化処理を行った。
PPS−10:参考例3に記載の方法で重合したPPS−3を、酸素濃度5%、220℃、12時間で熱酸化処理を行った。
PPS−11:参考例5に記載の方法で重合したPPS−5を、酸素濃度0.8%、220℃、12時間で熱酸化処理を行った。
PPS−12:参考例1に記載の方法で重合したPPS−1を、酸素濃度11%、220℃、12時間で熱酸化処理を行った。
PPS−13:参考例6に記載の方法で重合したPPS−6を、酸素濃度11%、220℃、15時間で熱酸化処理を行った。
PPS−14:参考例3に記載の方法で重合したPPS−3を、酸素濃度6%、220℃、12時間で熱酸化処理を行った。
【0138】
(B)繊維状充填材
B−1:チョップドストランド(日本電気硝子(株)社製 T−760H 3mm長 平均繊維径10.5μm)。
【0139】
(C)オレフィン共重合体
C−1:エチレン・グリシジルメタクリレート・アクリル酸メチル共重合体(住友化学社製ボンドファーストE)
C−2:エチレン・1−オクテン共重合体(ダウケミカル社製 エンゲージ8842)。
【0140】
〔測定評価方法〕
本実施例および比較例における測定評価方法は以下の通りである。
【0141】
(ポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度比Rの測定)
東洋精機社製キャピログラフ1Cを用い、孔長10.00mm、孔直径1mmのダイスを用い、300℃のせん断速度:121.6s
−1の溶融粘度(Pa・s)をAとし、300℃のせん断速度:6070s
−1の溶融粘度(Pa・s)をBとし、下記式(1)により溶融粘度比Rを求めた。
溶融粘度比R=A/B ・・・(1)
【0142】
(ポリフェニレンサルファイド樹脂のMFRの測定)
ポリフェニレンサルファイド樹脂を315.5℃、5000gの荷重の条件で、ASTM−D1238−70に従い、東洋精機製F−B01を用いて、測定をした。
【0143】
(ポリフェニレンサルファイド樹脂のERの測定)
粘度が低いポリフェニレンサルファイド樹脂に関しては、次の方法でMFRを算出した。ポリフェニレンサルファイド樹脂を315.5℃、345gの荷重の条件で、ASTM−D1238−70に従い、東洋精機製F−B01を用いて、測定をした。また、MFRとERの関係式は下記式(2)で表すことができる。
式(2)MFR=15.8×4.4×ER
【0144】
(耐水圧強度の測定)
樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度305℃、金型温度130℃に設定した住友重機械工業社製射出成形機(SE100DU)に供給し、充填時間1sで充填、充填圧力の50%の保圧にて射出成形を行い、外径21.7mm、肉厚2.8mmのT字型継手の試験片を得た。この試験片を用い、キヨーワ社製のポンプ(T−300N)で耐水圧強度を測定した。耐水圧強度は、このポンプを使って水圧をかけ、試験片が破壊した時の水圧とした。
【0145】
(曲げ弾性率の測定)
ISO178に準じて測定を行った。具体的には次のように測定を行った。樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度310℃、金型温度145℃に設定した住友重機械工業社製射出成形機(SE50DUZ−C160)に供給し、充填時間0.8sで充填、充填圧力の75%の保圧にて射出成形を行い、ISO 20753に規定されるタイプB2試験片形状を得た。この試験片を、23℃、相対湿度50%の条件で16時間状態調節を行った後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下、スパン64mm、歪み速度2mm/minの条件で測定を行った。
【0146】
(引張強度の測定)
ISO527−1,−2に準じて測定を行った。具体的には次のように測定を行った。樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度310℃、金型温度145℃に設定した住友重機械工業社製射出成形機(SE50DUZ−C160)に供給し、充填時間0.8sで充填、充填圧力の75%の保圧にて射出成形を行い、ISO 20753に規定されるタイプA1試験片を得た。この試験片を用い、23℃、相対湿度50%の雰囲気下、この試験片を、23℃、相対湿度50%の条件で16時間状態調節を行った後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下、つかみ具間距離:114mm、試験速度:5mm/sの条件で測定を行った。
【0147】
(PCT処理)
ISO 20753に規定されるタイプA1試験片を121℃、100%RH、2atm、100時間の条件下で、ダバイエスペック社製高度加速寿命試験装置(EHS-221M)を用いて、プレッシャークッカー処理(PCT)を行い、処理後の試験片の引張強度を測定した。また、処理前の引張強度から強度の保持率を算出し、これを耐湿熱性の指標とした。
【0148】
(PPS樹脂組成物の製造)
シリンダー温度を300℃、スクリュー回転数を300rpmに設定した、26mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(東芝機械(株)製TEM−26SS)を用いて、PPS樹脂(A)100重量部および(C)エラストマーを表1に示す重量比で原料供給口から添加して溶融状態とし、(B)繊維状充填材を表1に示す重量比で中間添加口から供給し、吐出量40kg/時間で溶融混練してペレットを得た。このペレットを用いて上記の各特性を評価した。その結果を表1示す。
【0149】
【表1】
【0150】
〔実施例1〜4〕
表1に示す実施例1〜4は溶融粘度比Rを2〜4、MFRが100〜1000g/10分のPPS樹脂を用いることで、成形品の耐水圧強度と耐湿熱性が優れていることがわかる。この結果より、実施例1〜4の樹脂組成物からなる配管部品は熱水が流れ、高い水圧がかかる配管部品に適している。
【0151】
〔比較例5、6〕
表1に示す比較例5、6は、溶融粘度比Rが2よりも低いPPS樹脂を用いているため、耐水圧強度に優れているが、耐湿熱性に劣ることがわかる。
【0152】
〔比較例7〜9〕
表1に示す比較例7〜9は、溶融粘度比Rが4よりも高いPPS樹脂を用いているため、耐湿熱性に優れているが、耐水圧強度に劣ることがわかる。