特許第6705234号(P6705234)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705234
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】インバータ装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/493 20070101AFI20200525BHJP
【FI】
   H02M7/493
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-53694(P2016-53694)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-70179(P2017-70179A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2019年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-190547(P2015-190547)
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】八ツ橋 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】川村 繁和
【審査官】 東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−74379(JP,A)
【文献】 特開2001−238456(JP,A)
【文献】 特開昭63−299779(JP,A)
【文献】 特開2012−178938(JP,A)
【文献】 特表2004−510400(JP,A)
【文献】 特開2014−27795(JP,A)
【文献】 特開平7−31163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
順変換回路に、U相,V相電圧を出力するインバータ回路3台並列接続した単相フルブリッジ構成のインバータ装置の制御方法において、
前記並列接続された3台のインバータ回路のうち、第1のインバータ回路に対してU相からV相へ電圧を出力するよう制御し、第2のインバータ回路に対してV相からU相へ電圧を出力するよう制御し、第3のインバータ回路に対してU相からV相へ電圧を出力するよう制御することで、各インバータ回路から順次異なる相の電圧を出力するよう制御し、
電圧を出力しているインバータ回路から、次の相電圧を出力するインバータ回路への転流時において、インバータ回路のスイッチング素子特性の[ターンオフ時間toff−ターンオン時間ton]のデッドタイムで転流する側のスイッチング素子にゲート信号を印加することを特徴としたインバータ装置の制御方法。
【請求項2】
前記3台の各インバータ回路は、直流側にそれぞれ平滑コンデンサを接続し、且つ各平滑コンデンサと前記順変換回路との間に各別にリアクトルを接続して短絡電流を抑制することを特徴とした請求項1記載のインバータ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置の制御方法に係わり、特に、スイッチング素子を用いて複数の単相フルブリッジ回路で構成したインバータ装置におけるデッドタイム削減の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7はスイッチング素子としてIGBT素子を用いたときのターンオン、ターンオフ時の波形図を示したものである。VGEはゲート・エミッタ間電圧、VCEはコレクタ・エミッタ間電圧、ICはコレクタ電流を示す。殆どのIGBT素子の特性として、ターンオン時間tonとターンオフ時間toffの時間関係は、ターンオン時間ton<ターンオフ時間toffの関係にある。例えば、定格電圧1200V,定格電流300AのIGBT素子の場合、toff−ton=200ns程度の時間差の関係があるIGBT素子をインバータ装置に使用する場合には、この時間差の関係をもとにインバータの上下短絡を防止するターンオン時間、ターンオフ時間、温度依存などを考慮し、さらに安全率を適宜決めてデッドタイムが設定される。
【0003】
誘導加熱装置などに使用されるインバータ装置には、直流電源に複数台の単相インバータ(セクションユニットA〜D)を接続し、その駆動順序をセクションユニットA〜Dへと1台のインバータ毎に順次駆動することで、高周波に対応することが特許文献1によって公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4761696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8は単相フルブリッジ構成のインバータ回路を示したもので、IGBT素子Tu1,Tu2を直列に接続したU相アームと、IGBT素子Tv1,Tv2を直列に接続したV相アームによる単相フルブリッジ構成となっている。なお、インバータ回路に使用されるスイッチング素子として、IGBTの他、FET、SiC等のパワー半導体が使用されるが、以下ではIGBT素子を例とする。
【0006】
図8で示す回路構成では、各相アームでの上下間のIGBT素子短絡を防止するために、IGBT素子の駆動にはアーム短絡しないだけの十分なデッドタイムを設ける必要がある。このため、上下のIGBT素子が共にオフの期間が存在し、負荷側に電力を供給しない期間が発生して出力電圧が低下するという問題が生じる。特に高周波で駆動するインバータ装置ではこの影響が大きくなる。なお、特許文献1では、デッドタイムを削減することについては言及されていない。
【0007】
本発明が目的とするところは、デッドタイムを削減してスイッチングI素子の不導通期間を短縮するインバータ装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、順変換回路に、U相,V相電圧を出力するインバータ回路3台を並列接続した単相フルブリッジ構成のインバータ装置において、
前記並列接続された3台のインバータ回路のうち、第1のインバータ回路に対してU相からV相へ電圧を出力するよう制御し、第2のインバータ回路に対してV相からU相へ電圧を出力するよう制御し、第3のインバータ回路に対してU相からV相へ電圧を出力するよう制御することで、各インバータ回路は順次異なる相の電圧を出力するよう制御することを特徴としたインバータ装置の制御方法。
【0009】
本発明は、各インバータ回路の交流出力の各相にインダクタンスを持たせたことを特徴としたものである。
【0010】
また、本発明は、電圧を出力しているインバータ回路から、次の相電圧を出力するインバータ回路への転流時において、各インバータ回路のスイッチング素子特性の[ターンオフ時間toff−ターンオン時間ton]のデッドタイムで転流する側のスイッチング素子にゲート信号を印加することを特徴としたものである。
【0011】
また、本発明は、3台の各インバータ回路は、直流側にそれぞれ平滑コンデンサを接続し、且つ各平滑コンデンサと前記順変換回路との間に各別にリアクトルが接続して短絡電流を抑制することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のとおり、本発明によれば、各インバータ回路は順次異なる相の電圧を出力するよう制御することで、高周波駆動のインバータ装置が可能となる。その際、インバータ装置のデッドタイム不足に陥った場合でも、単相のインバータ回路の出力側に接続したリアクトルによって、インバータ回路間の短絡を防ぎつつデッドタイム短縮が可能となるものである。したがって、スイッチング素子の不導通期間が少なくなり、直流電圧に対して最大の出力電圧を発生させることができる。また、正常時には出力電流には影響を与えず、上下アーム短絡時の短絡電流のみを抑制することができ、デッドタイムの最短化を図りながらスイッチング素子の電流、電圧責務の過大および損失増大の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態を示す構成図。
図2】説明用電圧波系図。
図3】ゲート電圧とコレクタ・エミッタ間電圧の関係図。
図4】説明用出力電圧波形図。
図5】本発明の実施形態を示す構成図。
図6】説明用電圧波系図。
図7】IGBT素子の特性図。
図8】単相インバータ回路の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、順変換回路に、U相,V相電圧を出力するインバータ回路3台を並列接続して単相フルブリッジのインバータ装置構成とする。並列接続された3台のインバータ回路のうち、第1のインバータ回路に対してU相電圧を出力するよう制御し、第2のインバータ回路に対してV相電圧を出力するよう制御し、第3のインバータ回路に対してU相電圧を出力するよう制御することで、各インバータ回路は順次異なる相の電圧を出力するよう制御するもので、以下図に基づいて詳述する。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明に適用されるインバータ装置の構成図を示したものである。図6と同様に構成された単相フルブリッジ構成のインバータ回路IV−1〜IV−3の3台を、共通の直流電源である順変換回路Covに並列に接続されてそれぞれには直流電圧Edcが印加される。Lは各インバータ回路IV−1〜IV−3の各出力端子に接続されたリアクトル、U,VはU相及びV相の出力端子である。また、1〜6は各インバータ回路IV−1〜IV−3を構成する各IGBT素子に対するゲート信号の印加順番を示したもので、各インバータ回路IV−1〜IV−3のIGBT素子は1〜6の順序でオン制御されて図2で示すように制御順に対応した電圧が出力される。
【0016】
すなわち、オン制御の順番1では、インバータ回路IV−1のU相アームにおける第1のIGBT素子Tu1-1とV相アームの第2のIGBT素子Tv1-2を同時オンする。電流は、P→Tu1-1→U→V→Tv1-2→Nのルートで流れる。
順番2では、インバータ回路IV−2のV相アームにおける第1のIGBT素子Tv2-1とU相アームの第2のIGBT素子Tu2-2を同時オンする。電流は、P→Tv2-1→V→U→Tu2-2→Nのルートで流れる。
順番3では、インバータ回路IV−3のU相アームにおける第1のIGBT素子Tu3-1とV相アームの第2のIGBT素子Tv3-2を同時オンする。電流は、P→Tu3-1→U→V→Tv3-2→Nのルートで流れる。
【0017】
次に、順番4では、インバータ回路IV−1のV相アームにおける第1のIGBT素子Tv1-1とU相アームの第2のIGBT素子Tu1-2を同時オンする。電流は、P→Tv1-1→V→U→Tu1-2→Nのルートで流れる。
以下同様にして順番5,6とそれぞれ対応するIGBT素子を駆動し、順番1〜順番6→順番1→…の順番の繰返し制御となる。
【0018】
図3はIGBT素子のゲート電圧とコレクタ・エミッタ間電圧の関係を示したもので、(a)はインバータ回路IV−1におけるIGBT素子Tu1-1のゲート電圧、(b)はIGBT素子Tu1-1のコレクタ・エミッタ間電圧、(c)はインバータ回路IV−2におけるIGBT素子Tu2-2のゲート電圧、(c)はIGBT素子Tu2-2のコレクタ・エミッタ間電圧である。
【0019】
IGBT素子のターンオン・ターンオフ時の波形は図5で示すように直線的には動作しないが、図3では直線的動作として表示している。図3(a)でTu1-1に対するゲート電圧が立ち上がり、Tu1-1のターンオン(ton)後にはTu1-1のコレクタ・エミッタ間電圧は略定常の順方向電圧にまで低下する。Tu1-1に対するゲート電圧がなくなる時刻t1からターンオフ(toff)する時刻t3で、コレクタ・エミッタ間電圧は略定常のオフ電圧まで回復する。
【0020】
図1で示すインバータ装置の駆動時において、順番1のIGBT素子の駆動時から順番2でのIGBT素子への転流時にはTu1-1とTu2-2が直列接続された状態となる。この転流時には、図3で示されるようにTu1-1のゲート電圧がなくなった時刻t1からターンオフする時刻t3までは導通し、この直後にオフする。本発明では、Tu1-1からTu2-2への転流時には、時刻t3前の時刻t2でTu2-2に対してゲート信号を印加してデッドタイム期間を短縮している。すなわち、デッドタイムは、toff−tonとなっている。
以下、Tv2-1とTv3-2、Tu3-1とTu1-2…の関係についても同様である。
【0021】
図3の例において、制御順番が先になる正極側のIGBT素子Tu1-1から、このTu1-1と同相の、次番で制御される負極側IGBT素子Tu2-2へ転流する時刻t1〜t3間において、「Tu1-1のコレクタ・エミッタ間電圧CE+Tu2-2のコレクタ・エミッタ間電圧CE=直流電圧Edc」が成立していればTu1-1からTu2-2への短絡電流は流れない。しかし、実際の波形によっては、図4で示すように「Tu1-1のコレクタ・エミッタ間電圧CE+Tu2-2のコレクタ・エミッタ間電圧CE<直流電圧Edc」となる可能性がある。
【0022】
「Tu1-1のコレクタ・エミッタ間電圧CE+Tu2-2のコレクタ・エミッタ間電圧CE<直流電圧Edc」の式が成立する期間が生じると、直流電圧Edc−(Tu1-1のコレクタ・エミッタ間電圧CE+Tu2-2のコレクタ・エミッタ間電圧CE)(=vとする)の電圧が電源となり、P側からリアクトルLを通してN側に短絡電流が流れる。この電流を所定の値△Iに抑制するためにリアクトルLを挿入している。所定の値△Iはおおよそ(1)式で求める。
【0023】
【数1】
【0024】
以上第1の実施例によれば、デッドタイムの短縮が可能となる。また、例えIGBT素子のオン・オフのスイッチ速度によるインバータ装置のデッドタイム不足に陥った場合でも、単相のインバータ回路の出力側に接続したリアクトルによって、インバータ回路間の短絡を防ぎつつデッドタイム短縮が可能となるものである。したがって、IGBT素子の不導通期間が少なくなり、直流電圧に対して最大の出力電圧を発生させることができる。
【実施例2】
【0025】
図5は、第2の実施例によるインバータ装置の構成図を示したもので、図1で示す第1の実施例と同一部分に同一符号を付してその説明を省略する。すなわち、この実施例は、各インバータ回路IV−1〜IV−3に設けられた平滑コンデンサC1〜C3と順変換回路Covとの間に、それぞれリアクトルL1〜L6を接続したものである。なお、リアクトルL1´〜L6´は配線インダクタンスである。
【0026】
各インバータ回路IV−1〜IV−3のIGBT素子は、1〜6の順序でオン制御されて図6で示すように制御順に対応した電圧が出力される。図1と同様に、オン制御の順番1では、インバータ回路IV−1のU相アームにおける第1のIGBT素子Tu1-1とV相アームの第2のIGBT素子Tv1-2を同時オンする。また、順番2では、インバータ回路IV−2のV相アームにおける第1のIGBT素子Tv2-1とU相アームの第2のIGBT素子Tu2-2を同時オンする。
【0027】
順番1から2への動作時でU相からV相へ流れる負荷電流は、主に平滑コンデンサC1から供給され、順番2から3への動作時でV相からU相へ流れる負荷電流は、主に平滑コンデンサC2から供給される。通常動作でのU相からV相への電流経路は、C1(P)→Tu1-1→U→負荷→V→Tv1-2→C1(N)のルートで流れる。また、V相からU相への電流経路は、C2(P)→Tv2-1→V→負荷→U→Tu2-2→C2(N)のルートで流れる。
【0028】
次に、順番1から2への転流動作時に短絡が起きた場合、Tu1-1,Tu2-2に通電される短絡電流経路と電流は、
(C1(P)→Tu1-1→Tu2-2→L4´→L4→L2→L2´→C1(N))+
(C2(P)→L3´→L3→L1→L1´→Tu1-1→Tu2-2→C2(N))
のルートで流れる。
【0029】
同様に、Tv2-1,Tv1-2に通電される短絡電流経路と電流は、
(C2(P)→Tv2-1→Tv1-2→L2´→L2→L4→L4´→C2(N))+
(C1(P)→L1´→L1→L3→L3´→Tv2-1→Tv1-2→C1(N))
のルートで流れる。
【0030】
上記のように、インバータを時分割運転するものにおいて、平滑コンデンサC1〜C3と順変換回路Covとの間に、それぞれリアクトルL1〜L6を接続したことにより、平滑コンデンサC1〜C3の接続関係から正常時の負荷電流と上下アーム短絡時の短絡電流に通電経路に違いが成立し、正常時には出力電流に影響を与えず、各リアクトルL1〜L6は上下アーム短絡時の短絡電流のみを抑制することができる。
【0031】
したがって、この実施例によれば、IGBT素子の電流、電圧責務の過大および損失増大防止のために設けられるデッドタイムの最短化が可能となる。
【符号の説明】
【0032】
IV(IV−1〜IV−3)… インバータ回路
Cov… 順変換回路Cov
Tu,Tv… IGBT素子
L1〜L6… リアクトル
C1〜C3… 平滑コンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8