【実施例1】
【0021】
図1は交流電源2が接続されたコンバータ3と、コンバータ3の出力が接続されたモータ駆動装置1と、モータ駆動装置1の出力に接続された三相のモータ4を示すブロック図である。
【0022】
モータ駆動装置1は、交流電源2が接続されたコンバータ3の正極が接続される入力端子8aと、コンバータ3の負極が接続される入力端子8bと、モータ4と接続される出力端子8cと出力端子8dと出力端子8eと、モータ4から出力される回転位置信号が入力される入力端子8fとを備えている。
【0023】
また、モータ駆動装置1は、モータ4を駆動するインバータ9と、インバータ9の入力電流である母線電流を検出するシャント抵抗(電流検出手段)7と、入力端子8fから入力される回転位置信号から回転数を算出して出力する回転数算出部10と、インバータ9を駆動するインバータ駆動用集積回路(インバータ駆動回路)5と、インバータ駆動用集積回路5にモータ4の回転数を増減させる回転数指示信号を出力する制御部(制御手段)6と、母線電流の回生電流を検出してモータ4を劣化させる異常現象の発生を判定して出力する回生電流判定部(回生電流判定手段)20を備えている。
【0024】
インバータ9は内部にトーテムポール状に上下に接続された1組のスイッチング素子9aが3相分備えられている。また、入力端子8aとインバータ9の正極入力が接続され、また、入力端子8bとインバータ9の負極入力がシャント抵抗7を介して接続されている。そして、インバータ9の3つの出力端子は、出力端子8cと出力端子8dと出力端子8eにそれぞれ接続されている。
また、入力端子8fから入力された回転位置信号は回転数算出部10で回転数に変換されてインバータ駆動用集積回路5と制御部6にそれぞれ出力されている。
【0025】
制御部6はモータ4を目標回転数で回転させるため、0〜15ボルトの電圧で回転数を指示する回転数指示信号をインバータ駆動用集積回路5へ出力する。インバータ駆動用集積回路5は、PWM方式で生成された6種類(三相分)のスイッチングパルス信号をインバータ9の各スイッチング素子9aへ出力してモータ4の回転を制御する。また、回転数指示信号が入力されたインバータ駆動用集積回路5は、回転数指示信号の電圧が高くなれば回転数を増加させ、回転数指示信号の電圧が低くなれば回転数を減少させるようにモータ4を制御する。
【0026】
一方、インバータ駆動用集積回路5はシャント抵抗7で検出した母線電流が入力されている。そして、インバータ駆動用集積回路5は、スイッチングパルス信号の一周期においてスイッチングパルス信号が立ち上がった時、つまり、スイッチング素子をオフからオンに切り換えた時、母線電流が予め定められた過電流閾値以上ならその周期におけるオンデューティーを制限(全てのスイッチング素子9aをオフ)する。これにより、スイッチング素子9aがオンとなる時間を制限することでインバータ9に流れる過電流を低減させるようになっている。
【0027】
インバータ駆動用集積回路5はスイッチングパルス信号の1周期毎に過電流の判定を行うため、過電流がこの1周期以内で解消した場合、次の周期ではオンデューティーの制限を行なわない。このため、過電流の発生が無くなった場合は自動的に元のオンデューティーの値による制御に復帰する。
【0028】
回生電流判定部20は母線電流が入力され、この母線電流における負の電流である回生電流を検出し、その発生頻度によってインバータ駆動用集積回路5の内部での過電流発生を示す過電流検出信号や、回生電流の大きさによってモータ4に備えられている永久磁石を減磁させる可能性がある回生電流の発生を示す減磁電流発生信号をそれぞれ制御部6へ出力する。つまり、そのまま放置してモータ4の運転を続けるとモータ4を劣化させる異常現象の発生を回生電流判定部20が判定して制御部6へ報知する。
【0029】
次に
図2を用いて回生電流判定部20について説明する。
回生電流判定部20は、母線電流が入力される回生電流検出部(回生電流検出手段)21と、回生電流レベル判定部(回生電流レベル判定手段)22と、回生電流パルス回数判定部(回生電流パルス回数判定手段)23を備えている。
【0030】
回生電流検出部21は、インバータ9からシャント抵抗7を通って入力端子8bに流れることでシャント抵抗7の両端電圧が正の電圧として検出される正の電流と、逆方向に流れることでシャント抵抗7の両端電圧が負の電圧として検出される回生電流とを分離して、回生電流(負の電圧)の信号のみを回生電流レベル判定部22と回生電流パルス回数判定部23へ出力する。なお、正の電流はモータ4が正常に駆動された時にコンバータ3からインバータ9へ流れる電流であり、負の電流はインバータ9からコンバータ3に流れる回生電流である。
【0031】
前述したように、インバータ駆動用集積回路5は、スイッチングパルス信号の1周期内で自身が過電流を検出した時にオンデューティーのパルス幅を制限する、つまり、それ以降、スイッチングパルス信号の次の周期の開始まで、インバータ9のスイッチング素子9aを全てオフにする。このため、モータ4の空転が一時的に発生し、この空転によりモータ4内部の巻線に回生電力が発生し、これが回生電流となる。
そして、過電流発生時、インバータ駆動用集積回路5はスイッチングパルス信号の1周期毎にスイッチング素子9aをオン、過電流検出、スイッチング素子9aの全てオフを実行し、これをスイッチングパルス信号の周期で順次繰り返すため、回生電流はパルス形状の波形となる。
【0032】
この空転を引き起こす過電流はモータ4の過負荷や、モータ4の経年変化による軸受の磨耗などによる負荷トルクが増加が原因で発生する。このような負荷トルクの増加はモータ4の回転軸が機械的にロックされた場合の負荷トルクの大幅な増加に比較して非常に小さく、また、機械的な振動、つまり、周期的な負荷の変動を伴っている。このため、制御部6がモータ4を最大回転数付近で回転させている、つまり、モータ4が定格の最大電流付近で駆動されている場合、母線電流が過電流の閾値を断続的に超える場合がある。このような場合、インバータ駆動用集積回路5は過電流処理と通常のモータ駆動処理を交互に繰り返す。このように過電流が断続的に発生する場合、背景技術で説明したように制御部6はこの過電流が一過性の負荷変動で発生するのか、モータ4の軸受の磨耗による恒常的な負荷増加で発生するのか区別できない。
【0033】
このため回生電流パルス回数判定部23は、入力されたパルス状の回生電流の発生回数をカウントし、予め定められた単位時間(回生電流判定期間)内で発生する回生電流の発生回数が予め定めた所定回数(回生電流発生閾値)、例えば3回以上となった時に経年変化による恒常的な負荷トルクの上昇と判断して過電流検出信号を出力する。この信号が入力された制御部6はモータ4の保護のため回転数を減少させて運転を継続する。
【0034】
一般的に単位時間当たりの回生電流発生回数が少ない場合はモータ4の負荷、例えばファンモータであればファンに強風が吹きつけられて一時的に負荷トルクが重くなった場合などが考えられる。このような場合は一過性の負荷トルクの増加であるため問題ない。一方、一般的なモータ駆動装置では回転数の上昇に対応して負荷トルクが大きくなり、これに対応して母線電流が大きくなる。このため、回転数が上昇して母線電流が過電流閾値以上になったらインバータ駆動用集積回路5が過電流処理を実行する。この時、軸受の磨耗が過電流の原因の場合、軸受の機械的な振動により負荷トルクが均一でないため過電流の発生もバラツキが生じる。
【0035】
このように経年変化による磨耗が発生している場合は過電流の発生もバラツキが生じ、このバラツキがモータ4が回転している限り連続的に発生する。このため、単位時間当たりの回生電流の回数も前述した一時的に負荷トルクが重くなった場合に比較して増加する。回生電流パルス回数判定部23は、この単位時間当たりの回生電流の発生回数で一過性の負荷の増加か、恒常的な負荷の増加かを判断し、恒常的な負荷の増加の時のみ過電流検出信号を出力する。
【0036】
一方、回生電流レベル判定部22は、回生電流のパルス毎にそのレベルを予め定めた減磁電流閾値と比較し、回生電流のパルスの大きさがこの閾値と同じかこれを超えた時、このままの状態でモータ4の運転を継続した場合、この回生電流によってモータ4の永久磁石の減磁が進行する可能性があるとして、これを警告する減磁電流発生信号を出力する。この信号が入力された制御部6はモータ4の保護のため運転を停止する。
なお、過電流検出信号や減磁電流発生信号が入力された制御部6の対応処理はモータ駆動装置1の仕様により決定すればよい。この時の対応処理として、モータ4の回転数を低下させて運転を継続するか、運転を停止するか、過電流の発生をユーザーに報知して判断をユーザーに委ねるかは任意である。
【0037】
図3はモータ駆動装置1においてインバータ駆動用集積回路5の外部からインバータ駆動用集積回路5の過電流処理で発生する回生電流に基づいて、経年変化による恒常的な負荷トルクの上昇を検出する原理を説明する説明図である。
図3の横軸は時間を示しており縦軸に関して、
図3(1)は制御部6が指示する回転数指示信号を、
図3(2)は母線電流を、
図3(3)はモータ4の回転数を、
図3(4)は過電流検出信号をそれぞれ示している。なお、t20〜t29は時刻である。
【0038】
制御部6は目標回転数を1500rpmとして制御するため、
図3(1)のt20〜t23において回転数指示信号を5ボルトにして出力している。このため、モータ4の回転数はt20の1400rpmから上昇を続け、t21で回転数が1500rpmに達している。この期間で母線電流は2.5アンペアの正の電流が流れている。しかし、経年変化によるモータ4の負荷トルク増加のため、母線電流が増加してt21で過電流閾値以上になっている。
【0039】
このため、インバータ駆動用集積回路5はt21で全てのスイッチング素子9aをオフにしたのでt21から回生電流が発生するが、スイッチングパルス信号の次の周期で過電流が発生しなかったため、インバータ駆動用集積回路5は通常の動作を実行する。そして、t22でt21と同様に過電流を検出したので過電流処理を実行する。このように、t21とt22で回生電流が発生してモータ4が空転したため、t23において回転数が1300rpmまで低下している。
【0040】
回生電流判定部20の回生電流パルス回数判定部23は、母線電流が過電流閾値以上となった時に発生する回生電流のパルス発生回数を回生電流判定期間毎に常時カウントしている。t20〜t23の回生電流判定期間において、回生電流のパルス発生回数は2回であり、回生電流パルス回数判定部23は、判断基準である回生電流発生閾値(3回)未満であるため、過電流検出信号をローレベルのままとする。
【0041】
一方、制御部6は回転数が目標回転数の1500rpmよりも低下したので、t23において回転数を増加させるため、t23〜t28において回転数指示信号を7ボルトに上昇させている。この結果、この期間で母線電流はピークで2.7アンペアの正の電流が流れている。しかし、経年変化によってモータ4の負荷トルクが増加しているため、t24とt25とt26で一時的に母線電流が過電流閾値以上となって、インバータ駆動用集積回路5の中で過電流処理が実行されたため回生電流が発生している。
【0042】
回生電流パルス回数判定部23は、t23〜t27の回生電流判定期間において、回生電流のパルス発生回数は3回であり、回生電流パルス回数判定部23は、判断基準である回生電流発生閾値(3回)以上であるため、この期間の終了時刻であるt27でハイレベルのパルス信号である過電流検出信号を出力する。
【0043】
この過電流検出信号が入力された制御部6は、過電流が発生している状態での継続運転による発熱でモータ4を劣化させないように回転数を減少させるため、t28以降において目標回転数を1200rpmとするため回転数指示信号を4.5ボルトで出力している。この結果、母線電流はピークで2アンペアの正の電流が流れることになり、過電流の発生が防止される。このため、モータ4の発熱による劣化を防止することができる。
【0044】
なお、回生電流判定期間と回生電流発生閾値については次のようにして決定する。
まず、モータ駆動装置1で想定される一過性負荷の発生期間の最大の長さ以上、例えば倍の長さの期間を予め回生電流判定期間として決定し、この時に発生する回生電流パルス回数を実験的に求める。一方、決定された回生電流判定期間において軸受の磨耗により発生する回生電流パルス回数を実験的に求める。そして、それぞれ求めた一過性の負荷増加の場合の回生電流パルス回数が磨耗による負荷増加の場合の回生電流パルス回数よりも十分に小さい値であり、確実に区別可能な値であることを確認する。その差が十分でなければ確実に区別可能な値になるまで回生電流判定期間をさらに長くする。
そしてこの時の一過性の負荷増加の場合の回生電流パルス回数と磨耗による負荷増加の場合の回生電流パルス回数の中央の値を回生電流発生閾値として決定する。
【0045】
図4はモータ駆動装置1においてインバータ駆動用集積回路5の外部からインバータ駆動用集積回路5の過電流処理による回生電流に基づいて、この回生電流によるモータ4の減磁電流の発生を検出する原理を説明する説明図である。
図4の横軸は時間を示しており縦軸に関して、
図4(1)は制御部6が指示する回転数指示を、
図4(2)は母線電流を、
図4(3)はモータ4の回転数を、
図4(4)は減磁電流発生信号をそれぞれ示している。なお、t30〜t35は時刻である。
【0046】
制御部6は目標回転数を1500rpmとして制御するため、
図4(1)のt30〜t31において回転数指示信号を5ボルトにして出力している。この期間で母線電流はピークで2.3アンペアの正の電流が流れている。しかし、モータ4の回転軸が接続されている図示しない機器の負荷の増加によりt31において回転数が1300rpmまでしか上昇していない。
【0047】
一方、制御部6は現在の回転数が目標回転数の1500rpmよりも低いため、回転数を増加させるため、t31において回転数指示信号を7ボルトにして出力している。しかしながら、機械的な負荷が増加しているモータ4の回転数を制御部6が短時間で大きく引き上げようとしたため、モータ4の図示しない固定子の磁界の変化に回転子の回転が追従できずにt31直後からモータ4が脱調状態となり、インバータ駆動用集積回路5はモータ4を正常に運転できない状態になっている。このため、
図4(2)のt31〜t33において母線電流は徐々に増大し、t32とt33の直前にインバータ駆動用集積回路5の過電流閾値を超え、t32とt33に回生電流が発生している。
【0048】
回生電流判定部20の回生電流レベル判定部22は、回生電流のレベルと減磁電流閾値を常に比較しており、t32では回生電流のレベルが減磁電流閾値よりも大きく、t33で回生電流のレベルが減磁電流閾値以下となったため、t33でハイレベルのパルス信号である減磁電流発生信号を出力する。
【0049】
このハイレベルの減磁電流発生信号が入力された制御部6は、t33で回転数指示信号を0ボルトにしてモータ4の回転停止を指示する。このため、t33以降においてモータ4は空転となり、その後徐々に回転数が低下してt35で回転が停止する。
【0050】
このように回生電流判定部20は、回生電流が減磁電流閾値以上となった時を制御部6に知らせることにより、減磁電流閾値以上の回生電流が継続して流れる事によるモータ4の永久磁石の減磁を防止することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施例のモータ駆動装置1によれば、インバータ駆動用集積回路5の内部で過電流を検出した場合に、過電流制限と復帰からなる過電流処理を自動的に実施しており、回生電流判定部20はこの過電流処理で発生する回生電流の発生回数や値によってモータを劣化させる異常現象の発生の有無を判定する。このため、制御部6はこの判定結果に従ってモータ4を制御するためモータ4の劣化を防止することができる。
【0052】
なお、本実施例では回生電流判定部20をハードウェアとして説明しているが、これに限るものでなく、ソフトウェアを用いて実現してもよい。