特許第6705308号(P6705308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705308
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20200525BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20200525BHJP
   H02P 6/28 20160101ALI20200525BHJP
【FI】
   H02P27/06
   H02M7/48 M
   H02P6/28
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-129463(P2016-129463)
(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公開番号】特開2018-7371(P2018-7371A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(72)【発明者】
【氏名】野島 利哉
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−231266(JP,A)
【文献】 特開2009−278226(JP,A)
【文献】 特開2012−145315(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/051320(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02M 7/48
H02P 6/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧が印加され、印可された直流電圧を交流に変換してモータを駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータ駆動装置は、
前記直流電圧により前記モータを駆動するインバータと、
前記インバータの入力電流である母線電流を検出する電流検出手段と、
指示された回転数に従ってPWM制御方式で生成されたスイッチングパルス信号を前記インバータに出力すると共に、前記電流検出手段で検出した母線電流が予め定めた過電流閾値以上になった時、前記インバータ内の全てのスイッチング素子をオフにする過電流処理を実行するインバータ駆動回路と、
前記過電流処理の実行により発生した回生電流の大きさや発生回数を判定し、この判定結果を出力する回生電流判定手段と、
前記回生電流判定手段から入力された前記判定結果に従って前記インバータ駆動回路へ前記回転数を指示する制御手段とを備え、
前記回生電流判定手段は、前記回生電流が予め定めた減磁電流閾値以上になった時、前記モータ内部の永久磁石の減磁が進行することの警告を示す減磁電流発生信号を前記判定結果として出力する回生電流レベル検出手段を備えていることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
直流電圧が印加され、印可された直流電圧を交流に変換してモータを駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータ駆動装置は、
前記直流電圧により前記モータを駆動するインバータと、
前記インバータの入力電流である母線電流を検出する電流検出手段と、
指示された回転数に従ってPWM制御方式で生成されたスイッチングパルス信号を前記インバータに出力すると共に、前記電流検出手段で検出した母線電流が予め定めた過電流閾値以上になった時、前記インバータ内の全てのスイッチング素子をオフにする過電流処理を実行するインバータ駆動回路と、
前記過電流処理の実行により発生した回生電流の大きさや発生回数を判定し、この判定結果を出力する回生電流判定手段と、
前記回生電流判定手段から入力された前記判定結果に従って前記インバータ駆動回路へ前記回転数を指示する制御手段とを備え、
前記回生電流判定手段は、単位時間における前記回生電流の発生回数が予め定めた回生電流発生閾値以上になった時、前記モータの過電流を示す過電流検出信号を前記判定結果として出力する回生電流パルス判定手段を備えていることを特徴とするモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置に係わり、より詳細には、インバータ制御用の集積回路を用いてモータを駆動する場合、集積回路内で自動的に電流制限される過電流処理の状態を集積回路の外部で検出する構成に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ駆動装置において発生するモータの駆動電流(母線電流)における過電流の要因の1つとしてはモータの軸受における経年変化による磨耗がある。この経年変化によりモータ全体としての負荷が増加し、経年変化以前の時と同じ回転数で駆動させる場合、経年変化以前の時よりも母線電流が増加してしまう。
例えばモータの回転軸を支える軸受の磨耗などによりモータ全体の負荷が増加したとしても磨耗による負荷の増加が小さい場合、モータ駆動装置に外部から回転数指示を与える制御装置は、回転数指示を増加させることで意図した回転数を維持できる。
【0003】
このように制御装置が磨耗などによるモータ全体の負荷の増加を無視してモータの回転数維持を優先してモータの運転を継続した場合、磨耗による負荷の増加に対応して増加した母線電流がモータで規定されている過電流の領域まで増加し、モータの巻線温度が上昇したり、モータの永久磁石に減磁が発生する。このままの状態でモータを継続運転するとモータが劣化する場合がある。なお、永久磁石の減磁の発生原因については後で詳細に説明する。
【0004】
ところで、一般的にファンモータなどの単純な回転数制御には、特許文献1で示す電力変換器のようにインバータを制御する専用の集積回路が用いられる。
この電力変換器は三相交流を出力するインバータと、インバータの入力電流の過電流を検出する過電流保護部と、インバータを駆動する信号を出力すると共に、検出された母線電流が予め定められた閾値を超えた時にインバータに流れる母線電流を制限する制御部を備えており、これらが1つの集積回路としてパッケージ化されている。
【0005】
この電力変換器は、内部にシャント抵抗を備えており、インバータの入力電流、つまり、母線電流を検出するようになっている。検出された母線電流は過電流保護部に入力されており、過電流保護部は、検出された母線電流と予め定めた過電流閾値を比較して検出された母線電流を過電流と判断した場合、制御部に過電流を通知し、制御部はこれに対応して電力変換部が駆動する負荷に流れる母線電流を一時的に制限する過電流制限機能が備えられている。なお、制御部はこの電力変換器の外部の制御装置から入力される制御信号(目標値)に従って電力変換部を制御する。
【0006】
このような集積回路をモータ駆動装置に用いる場合、このモータ駆動装置にモータの回転数を指示する制御装置は、入力されたモータの回転数と自身が意図する目標回転数との差を求め、この差に対応してモータ駆動装置内の集積回路に対してモータ回転数の増減を指示する制御を実行する。
【0007】
ところで、前述したようにこの集積回路はモータを駆動する母線電流が過電流閾値を超えた時、自動的に電流制限される過電流制限機能が内蔵されている。しかし、その状態を示す信号は外部の制御装置には出力されていないため、制御装置は前述したモータの回転数でしかモータや集積回路の状態を把握できない。
【0008】
このため、磨耗によって全体の負荷が増加したモータの状態を把握できない制御装置が過電流を超える状態でモータを回転させる制御を実行して目標となる回転数を維持しようとした場合、集積回路は、PWM制御により生成されたインバータ駆動用のスイッチングパルス信号の1周期ごとに動作している過電流制限機能により、オンデューティーの期間内で過電流と判断した場合、それ以降、次の周期までの間、インバータの全てのスイッチング素子をオフする。
【0009】
過電流で全てのスイッチング素子がオフとなったインバータ内ではモータからインバータに向かって回生電流が流れ、モータ内の巻線に流れるこの回生電流が一定以上になるとモータの永久磁石に減磁が発生する。また、制御装置がモータの過電流状態で回転数を維持した場合、過電流閾値近辺の母線電流が断続的に流れるため、この運転を継続した場合、巻線温度が上昇してモータが劣化する。
従って集積回路の過電流制限機能の状態を外部の制御装置で検出し、外部の制御装置でこれを検出したら指示する回転数を目標回転数から下げて継続運転したり運転を停止する必要がある。
【0010】
しかしながら、回転軸のロック時のようにモータの回転数が、これを指示する制御装置の目標回転数と極端に乖離する場合は、制御装置側でモータの回転数を監視していれば容易にこの異常状態を検出できるが、磨耗によりモータ全体の負荷が増加して回転数が目標回転数から低下したとしても、外部の制御装置がモータ回転数の増加を集積回路に指示することで容易に目標回転数に回復できるため、磨耗以前と以後の回転数の差異を捉えることが困難である。
【0011】
一方、集積回路の外部で電流検出回路を設け、この電流値で過電流の状態を検出する方法も考えられる。
しかしながら、集積回路内部の過電流検出部で過電流を判定する過電流閾値前後で母線電流が変動する場合、例えばファンモータであれば外部の風による一過性の負荷変動とモータの磨耗による恒常的な負荷増加の2つの状態の発生が考えられる。外部の制御装置は、もし、一過性の負荷増加ならこれを無視し、恒常的な負荷増加の場合であれば回転数を下げて運転を継続しなければならないが、外部の制御装置では一過性か恒常的か判断できないため、的確な対応ができないという問題が有った。
【0012】
さらに、集積回路内部の過電流検出部で過電流を検出した場合、前述したように回生電流によるモータの永久磁石に減磁が発生する可能性があり、外部の制御装置は減磁が発生する可能性がある場合にモータの運転を停止しなければならないが、減磁が発生する可能性の有無について判断することができないという問題が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−289749号公報(第4−5頁、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上述べた問題点を解決し、内部に過電流検出回路を備え、過電流検出時に自動的に回転数を抑制するインバータ駆動回路を用いる場合、インバータ駆動回路内部で処理している過電流状態をこのインバータ駆動回路の外部で検出し、この過電流状態でモータの異常発生を外部の制御装置側で検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上述の課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の発明は、
直流電圧が印加され、印可された直流電圧を交流に変換してモータを駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータ駆動装置は、
前記直流電圧により前記モータを駆動するインバータと、
前記インバータの入力電流である母線電流を検出する電流検出手段と、
指示された回転数に従ってPWM制御方式で生成されたスイッチングパルス信号を前記インバータに出力すると共に、前記電流検出手段で検出した母線電流が予め定めた過電流閾値以上になった時、前記インバータ内の全てのスイッチング素子をオフにする過電流処理を実行するインバータ駆動回路と、
前記過電流処理の実行により発生した回生電流の大きさや発生回数を判定し、この判定結果を出力する回生電流判定手段と、
前記回生電流判定手段から入力された前記判定結果に従って前記インバータ駆動回路へ前記回転数を指示する制御手段とを備え、
前記回生電流判定手段は、前記回生電流が予め定めた減磁電流閾値以上になった時、前記モータ内部の永久磁石の減磁が進行することの警告を示す減磁電流発生信号を前記判定結果として出力する回生電流レベル検出手段を備えていることを特徴とする
【0016】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、
直流電圧が印加され、印可された直流電圧を交流に変換してモータを駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータ駆動装置は、
前記直流電圧により前記モータを駆動するインバータと、
前記インバータの入力電流である母線電流を検出する電流検出手段と、
指示された回転数に従ってPWM制御方式で生成されたスイッチングパルス信号を前記インバータに出力すると共に、前記電流検出手段で検出した母線電流が予め定めた過電流閾値以上になった時、前記インバータ内の全てのスイッチング素子をオフにする過電流処理を実行するインバータ駆動回路と、
前記過電流処理の実行により発生した回生電流の大きさや発生回数を判定し、この判定結果を出力する回生電流判定手段と、
前記回生電流判定手段から入力された前記判定結果に従って前記インバータ駆動回路へ前記回転数を指示する制御手段とを備え、
前記回生電流判定手段は、単位時間における前記回生電流の発生回数が予め定めた回生電流発生閾値以上になった時、前記モータの過電流を示す過電流検出信号を前記判定結果として出力する回生電流パルス判定手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上の手段を用いることにより、モータ駆動装置によれば、インバータ駆動回路の内部で過電流を検出した場合に、過電流制限と復帰からなる過電流処理を自動的に実施しており、回生電流判定手段はこの過電流処理で発生する回生電流の発生回数や値によってモータを劣化させる異常現象の発生の有無を判定する。このため、制御部手段はこの判定結果に従ってモータを制御するためモータの劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明によるモータの実施例を示すブロック図である。
図2】本発明による回生電流判定部の実施例を示すブロック図である。
図3】本発明による回生電流判定部の動作を説明する説明図である。
図4】本発明による回生電流判定部の別の動作を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づいた実施例として詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は交流電源2が接続されたコンバータ3と、コンバータ3の出力が接続されたモータ駆動装置1と、モータ駆動装置1の出力に接続された三相のモータ4を示すブロック図である。
【0022】
モータ駆動装置1は、交流電源2が接続されたコンバータ3の正極が接続される入力端子8aと、コンバータ3の負極が接続される入力端子8bと、モータ4と接続される出力端子8cと出力端子8dと出力端子8eと、モータ4から出力される回転位置信号が入力される入力端子8fとを備えている。
【0023】
また、モータ駆動装置1は、モータ4を駆動するインバータ9と、インバータ9の入力電流である母線電流を検出するシャント抵抗(電流検出手段)7と、入力端子8fから入力される回転位置信号から回転数を算出して出力する回転数算出部10と、インバータ9を駆動するインバータ駆動用集積回路(インバータ駆動回路)5と、インバータ駆動用集積回路5にモータ4の回転数を増減させる回転数指示信号を出力する制御部(制御手段)6と、母線電流の回生電流を検出してモータ4を劣化させる異常現象の発生を判定して出力する回生電流判定部(回生電流判定手段)20を備えている。
【0024】
インバータ9は内部にトーテムポール状に上下に接続された1組のスイッチング素子9aが3相分備えられている。また、入力端子8aとインバータ9の正極入力が接続され、また、入力端子8bとインバータ9の負極入力がシャント抵抗7を介して接続されている。そして、インバータ9の3つの出力端子は、出力端子8cと出力端子8dと出力端子8eにそれぞれ接続されている。
また、入力端子8fから入力された回転位置信号は回転数算出部10で回転数に変換されてインバータ駆動用集積回路5と制御部6にそれぞれ出力されている。
【0025】
制御部6はモータ4を目標回転数で回転させるため、0〜15ボルトの電圧で回転数を指示する回転数指示信号をインバータ駆動用集積回路5へ出力する。インバータ駆動用集積回路5は、PWM方式で生成された6種類(三相分)のスイッチングパルス信号をインバータ9の各スイッチング素子9aへ出力してモータ4の回転を制御する。また、回転数指示信号が入力されたインバータ駆動用集積回路5は、回転数指示信号の電圧が高くなれば回転数を増加させ、回転数指示信号の電圧が低くなれば回転数を減少させるようにモータ4を制御する。
【0026】
一方、インバータ駆動用集積回路5はシャント抵抗7で検出した母線電流が入力されている。そして、インバータ駆動用集積回路5は、スイッチングパルス信号の一周期においてスイッチングパルス信号が立ち上がった時、つまり、スイッチング素子をオフからオンに切り換えた時、母線電流が予め定められた過電流閾値以上ならその周期におけるオンデューティーを制限(全てのスイッチング素子9aをオフ)する。これにより、スイッチング素子9aがオンとなる時間を制限することでインバータ9に流れる過電流を低減させるようになっている。
【0027】
インバータ駆動用集積回路5はスイッチングパルス信号の1周期毎に過電流の判定を行うため、過電流がこの1周期以内で解消した場合、次の周期ではオンデューティーの制限を行なわない。このため、過電流の発生が無くなった場合は自動的に元のオンデューティーの値による制御に復帰する。
【0028】
回生電流判定部20は母線電流が入力され、この母線電流における負の電流である回生電流を検出し、その発生頻度によってインバータ駆動用集積回路5の内部での過電流発生を示す過電流検出信号や、回生電流の大きさによってモータ4に備えられている永久磁石を減磁させる可能性がある回生電流の発生を示す減磁電流発生信号をそれぞれ制御部6へ出力する。つまり、そのまま放置してモータ4の運転を続けるとモータ4を劣化させる異常現象の発生を回生電流判定部20が判定して制御部6へ報知する。
【0029】
次に図2を用いて回生電流判定部20について説明する。
回生電流判定部20は、母線電流が入力される回生電流検出部(回生電流検出手段)21と、回生電流レベル判定部(回生電流レベル判定手段)22と、回生電流パルス回数判定部(回生電流パルス回数判定手段)23を備えている。
【0030】
回生電流検出部21は、インバータ9からシャント抵抗7を通って入力端子8bに流れることでシャント抵抗7の両端電圧が正の電圧として検出される正の電流と、逆方向に流れることでシャント抵抗7の両端電圧が負の電圧として検出される回生電流とを分離して、回生電流(負の電圧)の信号のみを回生電流レベル判定部22と回生電流パルス回数判定部23へ出力する。なお、正の電流はモータ4が正常に駆動された時にコンバータ3からインバータ9へ流れる電流であり、負の電流はインバータ9からコンバータ3に流れる回生電流である。
【0031】
前述したように、インバータ駆動用集積回路5は、スイッチングパルス信号の1周期内で自身が過電流を検出した時にオンデューティーのパルス幅を制限する、つまり、それ以降、スイッチングパルス信号の次の周期の開始まで、インバータ9のスイッチング素子9aを全てオフにする。このため、モータ4の空転が一時的に発生し、この空転によりモータ4内部の巻線に回生電力が発生し、これが回生電流となる。
そして、過電流発生時、インバータ駆動用集積回路5はスイッチングパルス信号の1周期毎にスイッチング素子9aをオン、過電流検出、スイッチング素子9aの全てオフを実行し、これをスイッチングパルス信号の周期で順次繰り返すため、回生電流はパルス形状の波形となる。
【0032】
この空転を引き起こす過電流はモータ4の過負荷や、モータ4の経年変化による軸受の磨耗などによる負荷トルクが増加が原因で発生する。このような負荷トルクの増加はモータ4の回転軸が機械的にロックされた場合の負荷トルクの大幅な増加に比較して非常に小さく、また、機械的な振動、つまり、周期的な負荷の変動を伴っている。このため、制御部6がモータ4を最大回転数付近で回転させている、つまり、モータ4が定格の最大電流付近で駆動されている場合、母線電流が過電流の閾値を断続的に超える場合がある。このような場合、インバータ駆動用集積回路5は過電流処理と通常のモータ駆動処理を交互に繰り返す。このように過電流が断続的に発生する場合、背景技術で説明したように制御部6はこの過電流が一過性の負荷変動で発生するのか、モータ4の軸受の磨耗による恒常的な負荷増加で発生するのか区別できない。
【0033】
このため回生電流パルス回数判定部23は、入力されたパルス状の回生電流の発生回数をカウントし、予め定められた単位時間(回生電流判定期間)内で発生する回生電流の発生回数が予め定めた所定回数(回生電流発生閾値)、例えば3回以上となった時に経年変化による恒常的な負荷トルクの上昇と判断して過電流検出信号を出力する。この信号が入力された制御部6はモータ4の保護のため回転数を減少させて運転を継続する。
【0034】
一般的に単位時間当たりの回生電流発生回数が少ない場合はモータ4の負荷、例えばファンモータであればファンに強風が吹きつけられて一時的に負荷トルクが重くなった場合などが考えられる。このような場合は一過性の負荷トルクの増加であるため問題ない。一方、一般的なモータ駆動装置では回転数の上昇に対応して負荷トルクが大きくなり、これに対応して母線電流が大きくなる。このため、回転数が上昇して母線電流が過電流閾値以上になったらインバータ駆動用集積回路5が過電流処理を実行する。この時、軸受の磨耗が過電流の原因の場合、軸受の機械的な振動により負荷トルクが均一でないため過電流の発生もバラツキが生じる。
【0035】
このように経年変化による磨耗が発生している場合は過電流の発生もバラツキが生じ、このバラツキがモータ4が回転している限り連続的に発生する。このため、単位時間当たりの回生電流の回数も前述した一時的に負荷トルクが重くなった場合に比較して増加する。回生電流パルス回数判定部23は、この単位時間当たりの回生電流の発生回数で一過性の負荷の増加か、恒常的な負荷の増加かを判断し、恒常的な負荷の増加の時のみ過電流検出信号を出力する。
【0036】
一方、回生電流レベル判定部22は、回生電流のパルス毎にそのレベルを予め定めた減磁電流閾値と比較し、回生電流のパルスの大きさがこの閾値と同じかこれを超えた時、このままの状態でモータ4の運転を継続した場合、この回生電流によってモータ4の永久磁石の減磁が進行する可能性があるとして、これを警告する減磁電流発生信号を出力する。この信号が入力された制御部6はモータ4の保護のため運転を停止する。
なお、過電流検出信号や減磁電流発生信号が入力された制御部6の対応処理はモータ駆動装置1の仕様により決定すればよい。この時の対応処理として、モータ4の回転数を低下させて運転を継続するか、運転を停止するか、過電流の発生をユーザーに報知して判断をユーザーに委ねるかは任意である。
【0037】
図3はモータ駆動装置1においてインバータ駆動用集積回路5の外部からインバータ駆動用集積回路5の過電流処理で発生する回生電流に基づいて、経年変化による恒常的な負荷トルクの上昇を検出する原理を説明する説明図である。
図3の横軸は時間を示しており縦軸に関して、図3(1)は制御部6が指示する回転数指示信号を、図3(2)は母線電流を、図3(3)はモータ4の回転数を、図3(4)は過電流検出信号をそれぞれ示している。なお、t20〜t29は時刻である。
【0038】
制御部6は目標回転数を1500rpmとして制御するため、図3(1)のt20〜t23において回転数指示信号を5ボルトにして出力している。このため、モータ4の回転数はt20の1400rpmから上昇を続け、t21で回転数が1500rpmに達している。この期間で母線電流は2.5アンペアの正の電流が流れている。しかし、経年変化によるモータ4の負荷トルク増加のため、母線電流が増加してt21で過電流閾値以上になっている。
【0039】
このため、インバータ駆動用集積回路5はt21で全てのスイッチング素子9aをオフにしたのでt21から回生電流が発生するが、スイッチングパルス信号の次の周期で過電流が発生しなかったため、インバータ駆動用集積回路5は通常の動作を実行する。そして、t22でt21と同様に過電流を検出したので過電流処理を実行する。このように、t21とt22で回生電流が発生してモータ4が空転したため、t23において回転数が1300rpmまで低下している。
【0040】
回生電流判定部20の回生電流パルス回数判定部23は、母線電流が過電流閾値以上となった時に発生する回生電流のパルス発生回数を回生電流判定期間毎に常時カウントしている。t20〜t23の回生電流判定期間において、回生電流のパルス発生回数は2回であり、回生電流パルス回数判定部23は、判断基準である回生電流発生閾値(3回)未満であるため、過電流検出信号をローレベルのままとする。
【0041】
一方、制御部6は回転数が目標回転数の1500rpmよりも低下したので、t23において回転数を増加させるため、t23〜t28において回転数指示信号を7ボルトに上昇させている。この結果、この期間で母線電流はピークで2.7アンペアの正の電流が流れている。しかし、経年変化によってモータ4の負荷トルクが増加しているため、t24とt25とt26で一時的に母線電流が過電流閾値以上となって、インバータ駆動用集積回路5の中で過電流処理が実行されたため回生電流が発生している。
【0042】
回生電流パルス回数判定部23は、t23〜t27の回生電流判定期間において、回生電流のパルス発生回数は3回であり、回生電流パルス回数判定部23は、判断基準である回生電流発生閾値(3回)以上であるため、この期間の終了時刻であるt27でハイレベルのパルス信号である過電流検出信号を出力する。
【0043】
この過電流検出信号が入力された制御部6は、過電流が発生している状態での継続運転による発熱でモータ4を劣化させないように回転数を減少させるため、t28以降において目標回転数を1200rpmとするため回転数指示信号を4.5ボルトで出力している。この結果、母線電流はピークで2アンペアの正の電流が流れることになり、過電流の発生が防止される。このため、モータ4の発熱による劣化を防止することができる。
【0044】
なお、回生電流判定期間と回生電流発生閾値については次のようにして決定する。
まず、モータ駆動装置1で想定される一過性負荷の発生期間の最大の長さ以上、例えば倍の長さの期間を予め回生電流判定期間として決定し、この時に発生する回生電流パルス回数を実験的に求める。一方、決定された回生電流判定期間において軸受の磨耗により発生する回生電流パルス回数を実験的に求める。そして、それぞれ求めた一過性の負荷増加の場合の回生電流パルス回数が磨耗による負荷増加の場合の回生電流パルス回数よりも十分に小さい値であり、確実に区別可能な値であることを確認する。その差が十分でなければ確実に区別可能な値になるまで回生電流判定期間をさらに長くする。
そしてこの時の一過性の負荷増加の場合の回生電流パルス回数と磨耗による負荷増加の場合の回生電流パルス回数の中央の値を回生電流発生閾値として決定する。
【0045】
図4はモータ駆動装置1においてインバータ駆動用集積回路5の外部からインバータ駆動用集積回路5の過電流処理による回生電流に基づいて、この回生電流によるモータ4の減磁電流の発生を検出する原理を説明する説明図である。
図4の横軸は時間を示しており縦軸に関して、図4(1)は制御部6が指示する回転数指示を、図4(2)は母線電流を、図4(3)はモータ4の回転数を、図4(4)は減磁電流発生信号をそれぞれ示している。なお、t30〜t35は時刻である。
【0046】
制御部6は目標回転数を1500rpmとして制御するため、図4(1)のt30〜t31において回転数指示信号を5ボルトにして出力している。この期間で母線電流はピークで2.3アンペアの正の電流が流れている。しかし、モータ4の回転軸が接続されている図示しない機器の負荷の増加によりt31において回転数が1300rpmまでしか上昇していない。
【0047】
一方、制御部6は現在の回転数が目標回転数の1500rpmよりも低いため、回転数を増加させるため、t31において回転数指示信号を7ボルトにして出力している。しかしながら、機械的な負荷が増加しているモータ4の回転数を制御部6が短時間で大きく引き上げようとしたため、モータ4の図示しない固定子の磁界の変化に回転子の回転が追従できずにt31直後からモータ4が脱調状態となり、インバータ駆動用集積回路5はモータ4を正常に運転できない状態になっている。このため、図4(2)のt31〜t33において母線電流は徐々に増大し、t32とt33の直前にインバータ駆動用集積回路5の過電流閾値を超え、t32とt33に回生電流が発生している。
【0048】
回生電流判定部20の回生電流レベル判定部22は、回生電流のレベルと減磁電流閾値を常に比較しており、t32では回生電流のレベルが減磁電流閾値よりも大きく、t33で回生電流のレベルが減磁電流閾値以下となったため、t33でハイレベルのパルス信号である減磁電流発生信号を出力する。
【0049】
このハイレベルの減磁電流発生信号が入力された制御部6は、t33で回転数指示信号を0ボルトにしてモータ4の回転停止を指示する。このため、t33以降においてモータ4は空転となり、その後徐々に回転数が低下してt35で回転が停止する。
【0050】
このように回生電流判定部20は、回生電流が減磁電流閾値以上となった時を制御部6に知らせることにより、減磁電流閾値以上の回生電流が継続して流れる事によるモータ4の永久磁石の減磁を防止することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施例のモータ駆動装置1によれば、インバータ駆動用集積回路5の内部で過電流を検出した場合に、過電流制限と復帰からなる過電流処理を自動的に実施しており、回生電流判定部20はこの過電流処理で発生する回生電流の発生回数や値によってモータを劣化させる異常現象の発生の有無を判定する。このため、制御部6はこの判定結果に従ってモータ4を制御するためモータ4の劣化を防止することができる。
【0052】
なお、本実施例では回生電流判定部20をハードウェアとして説明しているが、これに限るものでなく、ソフトウェアを用いて実現してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 モータ駆動装置
2 交流電源
3 コンバータ
4 モータ
5 インバータ駆動用集積回路(インバータ駆動回路)
6 制御部(制御手段)
7 シャント抵抗
8a 入力端子
8b 入力端子
8c 出力端子
8d 出力端子
8e 出力端子
8f 入力端子
9 インバータ
9a スイッチング素子
10 回転数算出部
20 回生電流判定部(回生電流判定手段)
21 回生電流検出部(回生電流検出手段)
22 回生電流レベル判定部(回生電流レベル判定手段)
23 回生電流パルス回数判定部(回生電流パルス回数判定手段)
図1
図2
図3
図4