特許第6705324号(P6705324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705324
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】電力変換回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   H02M3/28 V
   H02M3/28 C
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-144847(P2016-144847)
(22)【出願日】2016年7月22日
(65)【公開番号】特開2018-14868(P2018-14868A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健一
(72)【発明者】
【氏名】ゴー テックチャン
(72)【発明者】
【氏名】杉山 隆英
【審査官】 東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−211645(JP,A)
【文献】 特開2011−193713(JP,A)
【文献】 特開2016−92985(JP,A)
【文献】 特開2005−86937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00−3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次側変換回路と、
2次側変換回路と、
1次側変換回路と2次側変換回路を磁気結合するトランスと、
を備え、
1次側変換回路は、トランスの1次側コイルと、トランスの1次側コイルに接続された複数のスイッチ素子及び電源を備えるモジュールが複数個直列接続され、
少なくとも2つのモジュールの1次側コイルが互いに逆巻きであり、
モジュールは、
第1のトランスコイルと第2のトランスコイルとで構成され、第1のトランスコイルの一端と第2のトランスコイルの一端とが接続され、トランス動作とリアクトル動作をともに行うトランスである第1ハイブリッドトランスと、第2のトランスコイルの他端に一端が接続される第1フライングキャパシタと、第1フライングキャパシタの他端に負極側が接続される第1スイッチ素子と、第2のトランスコイルの一端に正極側が接続される第3スイッチ素子と、第2のトランスコイル及び第1フライングキャパシタの直列回路に並列に接続される第2スイッチ素子とを備える第1昇圧回路と、
第3のトランスコイルと第4のトランスコイルとで構成され、第3のトランスコイルの一端と第4のトランスコイルの一端とが接続され、トランス動作とリアクトル動作をともに行うトランスである第2ハイブリッドトランスと、第4のトランスコイルの他端に一端が接続される第2フライングキャパシタと、第2フライングキャパシタの他端に負極側が接続される第4スイッチ素子と、第4のトランスコイルの一端に正極側が接続される第6スイッチ素子と、第4のトランスコイル及び第2フライングキャパシタの直列回路に並列に接続される第5スイッチ素子とを備える第2昇圧回路と、
第1昇圧回路の第1スイッチ素子と第1フライングキャパシタの中点と、第2昇圧回路の第4スイッチ素子と第2フライングキャパシタの中点との間に接続されたトランスの1次側コイルと、
正極が第1昇圧回路の第1ハイブリッドトランスの第1のトランスコイルの他端及び第2昇圧回路の第2ハイブリッドトランスの第3のトランスコイルの他端に接続され、負極が第3スイッチ素子及び第6スイッチ素子の負極側に接続された電源と、
を備え、
複数個のモジュール間で、一方のモジュールの第1スイッチ素子及び第4スイッチ素子の正極側を、他方のモジュールの第3スイッチ素子及び第6スイッチ素子の負極側に接続することで、モジュールが複数個直列接続されることを特徴とする電力変換回路。
【請求項2】
モジュールは、電源を回路から切り離すフューズを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換回路。
【請求項3】
複数のモジュールのいずれかが故障した場合に、故障したモジュール、及び故障したモジュールの1次側コイルと互いに逆巻きの関係にあるモジュールの全スイッチ素子を常時オン動作させ、他のモジュールのスイッチ素子をオンオフ動作させるように制御する制御回路と、
を備えることを特徴とする請求項1,2のいずれかに記載の電力変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の入出力ポートのうちの2つの入出力ポートの間で電力変換を行うことができる電力変換回路が提案されている。
【0003】
特許文献1には、昇圧動作と絶縁電力伝送を1つの回路で同時に行うことができる電力変換回路が記載されている。具体的には、1次側変換回路の2つの入出力ポートと、 1次側変換回路と磁気結合する2次側変換回路の2つの入出力ポートとの合計4つの入出力ポートを含む電力変換回路において、1次側変換回路は、1次側変換回路と2次側変換回路を磁気結合するセンタータップ式のトランスの1次側コイルと、トランスの1次側コイルの両端に接続される2つのリアクトルが磁気結合して構成される1次側磁気結合リアクトルとを有するブリッジ部を含む1次側フルブリッジ回路と、1次側フルブリッジ回路の正極母線と負極母線との間に設けられる第1入出力ポートと、1次側フルブリッジ回路の負極母線とトランスの1次側コイルのセンタータップとの間に設けられる第2入出力ポートとを有し、2次側変換回路は、センタータップ式のトランスの2次側コイルと、トランスの2次側コイルの両端に接続される2つのリアクトルが磁気結合して構成される2次側磁気結合リアクトルと、を有するブリッジ部を含む2次側フルブリッジ回路と、2次側フルブリッジ回路の正極母線と負極母線との間に設けられる第3入出力ポートと、2次側フルブリッジ回路の負極母線とトランスの2次側コイルのセンタータップとの間に設けられる第4入出力ポートとを有する。1次側変換回路内あるいは2次側変換回路内では時比率(デューティ)変調により昇圧コンバータとして動作させ、1次側変換回路と2次側変換回路との間では位相変調により絶縁コンバータとして動作させて電力伝送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−193713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6は、従来の電力変換回路10を用いたシステムの一例を示す。電力変換回路10の1次側変換回路に主機電池12、インバータ回路14及びモータ16が接続され、2次側変換回路に補機が接続されるシステムである。主機電池12からの電力は1次側変換回路で昇圧されてインバータ回路14に供給され、インバータ回路14で三相交流電力に変換されてモータ16に供給される。また、主機電池12からの電力は1次側変換回路から2次側変換回路に電力伝送されて補機18に供給される。
【0006】
しかし、1次側変換回路が昇圧コンバータとして機能する際に指令値電圧が主機電池12の電圧に一致すると、常時、1次側変換回路の上側アームのスイッチ素子がオンとなるので1次側変換回路から2次側変換回路への絶縁電力伝送ができなくなる問題がある。絶縁電力伝送は、1次側変換回路と2次側変換回路のスイッチング位相差により行うからである。また、スイッチング周波数は主機用の昇圧回路のスイッチング周波数に合わせて遅い周波数にしなければならず、トランスコア体積が大型化してしまう問題もある。
【0007】
図7A及び図7Bは、これらの問題を解決するための1つの回路構成を示す。図7Aは全体構成であり、図7B図7Aにおけるモジュール1の構成である。他のモジュールも同一構成である。
【0008】
電力変換回路10を構成する1次側変換回路10Aと2次側変換回路10Bにおいて、高圧側である1次側変換回路10Aを複数のモジュール1、モジュール2、モジュール3、・・・モジュールNの多直列接続とし、主機側回路のスイッチ素子耐圧を下げることで、スイッチング周波数を補機用絶縁コンバータと同程度まで高くし、トランスコア体積の増大を防ぐことができる。また、主機電池12として電池セルを並列化して図6の場合よりも低い電圧とすることで、全動作範囲での常時スイッチングを可能とし、絶縁電力伝送が可能となる。なお、図7Bにおいて、主機電池の電池セル12とトランスの1次側コイルとの間に電池セル12を回路から分離するためのフューズ13が接続される。
【0009】
但し、このような回路構成では、最大昇圧時に極端に高いデューティとなり、出力キャパシタの体積が増大してしまう。また、入力電圧を低くした分、リアクトルには図6の場合よりも大きな電流が流れるため、リアクトルコア体積増大や銅損増加による効率低下を招いてしまう。さらに、複数のモジュール1、モジュール2、・・・、モジュールNを多直列接続しているため、1つのモジュールが故障しただけで主機用昇圧コンバータ機能と、補機用絶縁コンバータ機能が失われてしまい、システムロバスト性が低くなる問題もある。
【0010】
本発明の目的は、昇圧コンバータ機能と絶縁コンバータ機能を担保しつつトランスコア体積の増大を抑制し、かつ、システムロバスト性も確保し得る電力変換回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、1次側変換回路と、2次側変換回路と、1次側変換回路と2次側変換回路を磁気結合するトランスとを備え、1次側変換回路は、トランスの1次側コイルと、トランスの1次側コイルに接続された複数のスイッチ素子及び電源を備えるモジュールが複数個直列接続され、少なくとも2つのモジュールの1次側コイルが互いに逆巻きであり、モジュールは、第1のトランスコイルと第2のトランスコイルとで構成され、第1のトランスコイルの一端と第2のトランスコイルの一端とが接続され、トランス動作とリアクトル動作をともに行うトランスである第1ハイブリッドトランスと、第2のトランスコイルの他端に一端が接続される第1フライングキャパシタと、第1フライングキャパシタの他端に負極側が接続される第1スイッチ素子と、第2のトランスコイルの一端に正極側が接続される第3スイッチ素子と、第2のトランスコイル及び第1フライングキャパシタの直列回路に並列に接続される第2スイッチ素子とを備える第1昇圧回路と、第3のトランスコイルと第4のトランスコイルとで構成され、第3のトランスコイルの一端と第4のトランスコイルの一端とが接続され、トランス動作とリアクトル動作をともに行うトランスである第2ハイブリッドトランスと、第4のトランスコイルの他端に一端が接続される第2フライングキャパシタと、第2フライングキャパシタの他端に負極側が接続される第4スイッチ素子と、第4のトランスコイルの一端に正極側が接続される第6スイッチ素子と、第4のトランスコイル及び第2フライングキャパシタの直列回路に並列に接続される第5スイッチ素子とを備える第2昇圧回路と、第1昇圧回路の第1スイッチ素子と第1フライングキャパシタの中点と、第2昇圧回路の第4スイッチ素子と第2フライングキャパシタの中点との間に接続されたトランスの1次側コイルと、正極が第1昇圧回路の第1ハイブリッドトランスの第1のトランスコイルの他端及び第2昇圧回路の第2ハイブリッドトランスの第3のトランスコイルの他端に接続され、負極が第3スイッチ素子及び第6スイッチ素子の負極側に接続された電源とを備え、複数個のモジュール間で、一方のモジュールの第1スイッチ素子及び第4スイッチ素子の正極側を、他方のモジュールの第3スイッチ素子及び第6スイッチ素子の負極側に接続することで、モジュールが複数個直列接続されることを特徴とする
【0012】
本発明の1つの実施形態では、モジュールは、電源を回路から切り離すフューズを備える
【0013】
本発明の他の実施形態では、複数のモジュールのいずれかが故障した場合に、故障したモジュール、及び故障したモジュールの1次側コイルと互いに逆巻きの関係にあるモジュールの全スイッチ素子を常時オン動作させ、他のモジュールのスイッチ素子をオンオフ動作させるように制御する制御回路とを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、昇圧コンバータ機能と絶縁コンバータ機能を担保しつつトランスコア体積の増大を抑制し、かつ、システムロバスト性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】第1実施形態の回路構成図である。
図1B】第1実施形態のモジュールの回路構成図である。
図2】第1実施形態のモジュール故障時の説明図である。
図3】第2実施形態のモジュールの回路構成図である。
図4】第2実施形態のモジュールの動作タイミングチャートである。
図5A】第2実施形態の回路構成図である。
図5B】第2実施形態のモジュールの回路構成図である。
図6】従来の回路構成図である。
図7A】複数モジュールの多直列接続構成図である。
図7B図7Aのモジュールの回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0019】
<第1実施形態>
図1A及び図1Bは、第1実施形態における電力変換回路10の回路構成を示す。図1Aは、電力変換回路10の全体構成であり、図1B図1Aにおけるモジュール1の回路構成である。
【0020】
電力変換回路10は、1次側変換回路10Aと2次側変換回路10Bから構成され、1次側変換回路10Aは、複数のモジュール1、モジュール2、・・・、モジュールNが多直列接続されて構成される。1次側変換回路10Aにはインバータ回路14さらにはモータ16が負荷として接続される(図6参照)。図では、インバータ回路14を負荷抵抗として示している。2次側変換回路10Bには補機18が負荷として接続される(図6参照)。図では、補機18を負荷抵抗として示している。
【0021】
1次側変換回路10Aのモジュール1は、図1Bに示すように、トランスの1次側コイルTr1と、トランスの1次側コイルTr1の両端に接続される2つのリアクトルが磁気結合して構成される1次側磁気結合リアクトルを有するフルブリッジ回路と、主機電池(電池セル)12と、フューズ13を備える。モジュール1には、出力キャパシタC1が接続される。
【0022】
フルブリッジ回路は、左上アーム、左下アーム、右上アーム、及び右下アームを含んで構成され、それぞれスイッチ素子(MOSトランジスタ)S1〜S4と、当該スイッチ素子に並列に接続される帰還ダイオードで構成される。正極母線と負極母線との間に、左上アームと左下アームとを直列接続した左側アームが取り付けられて、また、右上アームと、右下アームとを直列接続した右側アームが左側アームと並列に取り付けられる。スイッチ素子S1,S2の中点には、磁気結合リアクトル及びトランスの1次側コイルTr1の一端が接続される。トランスの1次側コイルTr1の他端は、磁気結合リアクトルを介してスイッチ素子S3,S4の中点に接続される。トランスの1次側コイルTr1の中点にはフューズ13を介して主機電池(電池セル)12の正極が接続され、主機電池(電池セル12)の負極は負極母線に接続される。他のモジュールも同様の構成であり、モジュール2はトランスの1次側コイルTr2を備え、モジュールNはトランスの1次側コイルTrNを備える。
【0023】
モジュール1、モジュール2、・・・、モジュールNは、それぞれの出力キャパシタC1、C2、・・・Cnにおいて互いに直列接続される。
【0024】
2次側変換回路10Bは、スイッチ素子S7,S8、トランスの2次側コイル、及び電流平滑用リアクトルを備える。1次側変換回路10Aの複数のモジュール1、モジュール2、・・・、モジュールNの1次側コイルTr1,Tr2,・・・TrNと、2次側変換回路10Bの2次側コイルは、いずれもトランスコアを介して磁気結合する。
【0025】
制御回路50は、1次側変換回路10A及び2次側変換回路10Bのスイッチ素子のオンオフを制御する。制御回路50は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インタフェースを備えるマイコンで構成される。制御回路50は、スイッチ素子のスイッチング制御を行うべく、デューティ指令値及び位相差指令値を算出する。
【0026】
図1A及び図1Bの構成でも、高圧側である1次側変換回路10Aを複数のモジュール1、モジュール2、モジュール3、・・・モジュールNの多直列接続とし、主機側回路のスイッチ素子耐圧を下げることで、スイッチング周波数を補機用絶縁コンバータと同程度まで高くし、トランスコア体積の増大を防ぐことができる。また、主機電池12として電池セルを並列化して図6の場合よりも低い電圧とすることで、全動作範囲での常時スイッチングが可能で、絶縁電力伝送が可能となる。
【0027】
他方、図1A及び図1Bの構成が、図7A及び図7Bの構成と異なる点は、トランスの1次側コイルTr1,Tr2,・・・TrNのうち、隣接する2つの1次側コイルが互いに逆巻きとなっている点である。具体的には、Tr1とTr2は互いに逆巻きであり、Tr2とTr3は互いに逆巻きであり、Tr3とTr4は互いに逆巻きである。一般的に、第iモジュールの1次側コイルTriとこれに隣接する第(i+1)モジュールの1次側コイルTri+1は、互いに逆巻きである(i=1,2,3・・・,N)。
【0028】
このような回路構成において、図2に示すように、いずれかのモジュール、例えばモジュール1の回路が故障した場合を想定する。図において、モジュール1に×印が付されており、故障したことを示す。制御回路50は、故障したモジュール1の全スイッチ素子を常時オン動作させるとともに、モジュール1の1次側コイルTr1と互いに逆巻きの関係にあるモジュール、例えばモジュール2の全スイッチ素子も常時オン動作させる。また、制御回路50は、残りのモジュールについては、通常時と同様にスイッチ素子をオンオフ動作させ、1次側変換回路10Aと2次側変換回路10Bとの間の位相差を制御する。
【0029】
すると、故障したモジュール1、及びこれと互いに逆巻きのモジュール2を除く他のモジュールによるトランス励磁電圧は、互いに逆巻きのモジュール1とモジュール2で相殺されるため、たとえモジュール1が故障していても1次側変換回路10Aから2次側変換回路10Bへの絶縁コンバータ機能は維持される。すなわち、たとえモジュール1が故障したとしても、モジュール1,2を除く他のモジュールから補機への絶縁電力伝送が可能である。
【0030】
また、図1Bに示すように、トランスの1次側コイルTr1と主機電池(電池セル)12との間にはフューズ13が設けられており、故障したモジュール1及びこれと逆巻きのモジュール2の全スイッチ素子を常時オン動作することで、モジュール1及びモジュール2では主機電池(電池セル)12と回路が分離され、主機電池(電池セル)12を保護することができる。
【0031】
さらに、モジュール1及びモジュール2に接続された出力キャパシタC1,C2の電荷はこれらのモジュール内の全スイッチ素子のオン動作によりゼロとなり、全オン動作したスイッチ素子を介して主機モータ電流が流れるため、モジュール1,2を除く他のモジュールによる主機昇圧コンバータ機能も維持される。
【0032】
なお、モジュール1が故障した場合に、モジュール2に代えてモジュール4(あるいはモジュール6等)の全スイッチ素子をオン動作させてもよい。
【0033】
以上のように、たとえいずれかのモジュールが故障しても昇圧コンバータ機能及び絶縁コンバータ機能を維持でき、図7A及び図7Bの構成と比べてシステムのロバスト性を向上させることができる。
【0034】
<第2実施形態>
図3は、本実施形態の電力変換回路10の基本回路構成を示す。本実施形態においても、1次側変換回路10Aは、複数のモジュールを多直列接続して構成されるが、モジュールの回路構成が第1実施形態の構成と異なる。図3では、1つのモジュール内の回路構成を示す。
【0035】
本実施形態のモジュールは、ハイブリッドトランスとフライングキャパシタを用いた高昇圧回路を2並列化(これらをU相昇圧回路及びV相昇圧回路とする)して構成される。ハイブリッドトランスは、トランス動作とリアクトル動作をともに行うトランスであり、ハイブリッドトランスを用いることで、スイッチングデューティを極端に高い値にしなくても高昇圧比を得ることが可能である
【0036】
U相昇圧回路は、第1昇圧回路として機能し、第1ハイブリッドトランス、スイッチ素子S1、スイッチ素子S2、スイッチ素子S3、及び第1フライングキャパシタCfuを備える。第1ハイブリッドトランスは、トランスコイルLpとトランスコイルLsから構成され、トランス動作とリアクトル動作を行う。トランスコイルLpは主機電池(電池セル)12に接続される。トランスコイルLsと第1フライングキャパシタCfuは直列接続され、スイッチ素子S1及びS3は、直列接続されたトランスコイルLs及び第1フライングキャパシタCfuに直列接続される。スイッチ素子S3は、直列接続されたトランスコイルLs及び第1フライングキャパシタCfuに並列接続される。スイッチ素子S1,S2,S3のそれぞれには、並列に還流ダイオードが接続される。
【0037】
また、V相昇圧回路は、第2昇圧回路として機能し、第2ハイブリッドトランス、スイッチ素子S4、スイッチ素子S5、スイッチ素子S6、及び第2フライングキャパシタCfvを備える。第2ハイブリッドトランスは、トランスコイルLpとトランスコイルLsから構成され、トランス動作とリアクトル動作を行う。トランスコイルLpは主機電池(電池セル)12に接続される。トランスコイルLsと第2フライングキャパシタCfvは直列接続され、スイッチ素子S4及びS6は、直列接続されたトランスコイルLs及び第2フライングキャパシタCfvに直列接続される。スイッチ素子S5は、直列接続されたトランスコイルLs及び第2フライングキャパシタCfvに並列接続される。スイッチ素子S4,S5,S6のそれぞれには、並列に還流ダイオードが接続される。
【0038】
トランスの1次側コイルTr1の一端は、U相昇圧回路のスイッチ素子S1と第1フライングキャパシタCfuの中点に接続され、他端は、V相昇圧回路のスイッチ素子S4と第2フライングキャパシタCfvの中点に接続される。
【0039】
U相昇圧回路及びV相昇圧回路のスイッチ素子S1〜S6は、制御回路50によりオンオフ制御される。U相昇圧回路及びV相昇圧回路のスイッチングデューティで主機昇圧コンバータ動作を行い、U相とV相の位相差で絶縁コンバータ動作を行う。
【0040】
2次側変換回路10Bは、第1実施形態と同様であり、2つのスイッチ素子S7,S8、トランスの2次側コイル、及び電流平滑用リアクトルを備える。
【0041】
図4は、主機電池(電池セル)12から主機負荷14と補機負荷18へ同時に電力伝送する場合の動作波形タイミングチャートを示す。
【0042】
図において、スイッチ素子S1〜S8のオンオフ動作タイミング、トランスの1次側コイルTr1の電圧VTr1及び電流iTr1、U相昇圧回路の第1ハイブリッドトランスのトランスコイルLp,Lsを流れる電流iLpu,iLsu、V相昇圧回路の第2ハイブリッドトランスのトランスコイルLp,Lsを流れる電流iLpv,iLsv、2次側変換回路10Bを流れる電流ioの時間変化を示す。また、Dはスイッチ素子S2,S3のオンデューティ、Tはスイッチング周期を示す。φはU相とV相の位相差を示す。
【0043】
スイッチ素子S1と、S2及びS3とは反転の関係にあり、スイッチ素子S1がオンするとスイッチ素子S2及びS3はオフする。これらのスイッチ素子は、昇圧比で決まるデューティでオンオフ動作する。スイッチ素子S4と、S5及びS6も同様の反転関係にある。
【0044】
スイッチ素子S1をオフ、スイッチ素子S2,S3をオンとすると、主機電池(電池セル)12と第1ハイブリッドトランス及び第1フライングキャパシタCfuが接続され、主機電池(電池セル)12から第1ハイブリッドトランスを介して第1フライングキャパシタCfuに充電する。つまり、第1ハイブリッドトランスのトランス動作によって第1フライングキャパシタCfuへ電力を供給する。また、これと同時に第1ハイブリッドトランスのリアクトル動作により磁気素子にエネルギが蓄積される。第1ハイブリッドトランスのトランスコイルLp及びLsに電流iLp、iLsが流れる。
【0045】
次に、スイッチ素子S1をオン、スイッチ素子S2,S3をオフとすると、主機電池(電池セル)12とトランスコイルLp,Ls、第1フライングキャパシタCfu、スイッチ素子S1が互いに直列に接続され、トランスコイルLp,Lsに流れる電流が等しくなるまで、半導体スイッチ素子S2に並列に接続された還流ダイオードに還流する。
【0046】
その後、主機電池(電池セル)12と第1フライングキャパシタCfuが直列状態において、出力キャパシタC1側へ電力を供給する。V相についても同様である。
【0047】
他方、U相とV相の位相差φによりトランスの1次側コイルTr1に印加される電圧VTr1が制御される。
【0048】
2次側変換回路10Bのスイッチ素子S7,S8は、論理式
S7=S2+S5
S8=S1+S6
となるようにオンオフ動作する。すなわち、スイッチ素子S7は、スイッチ素子S2とS5の論理和でオンオフ動作し、スイッチ素子S8は、スイッチ素子S1とS6の論理和でオンオフ動作する。これにより、スイッチ素子S7,S8は、1次側変換回路10Aから2次側変換回路10Bへの電力伝送時は同期整流機能を実行し、2次側変換回路10Bから1次側変換回路10Aへの電力伝送時はトランス励磁機能を実行する。
【0049】
図3に示す回路では、高昇圧比動作でもデューティを極端に大きくする必要がないので、出力電流リプルを低減でき、出力キャパシタのサイズを低減することができる。
【0050】
図5A及び図5Bに、本実施形態の電力変換回路の回路構成を示す。図5Aは、電力変換回路10の全体構成であり、図5B図5Aにおけるモジュール1の回路構成である。本実施形態においても、トランスの1次側コイルTr1,Tr2,・・・TrNのうち、隣接する2つの1次側コイルが互いに逆巻きとなる。具体的には、Tr1とTr2は互いに逆巻きであり、Tr21とTr3は互いに逆巻きであり、Tr3とTr4は互いに逆巻きである。一般的に、第iモジュールの1次側コイルTriとこれに隣接する第(i+1)モジュールの1次側コイルTri+1は、互いに逆巻きである。
【0051】
このような回路構成において、いずれかのモジュール、例えばモジュール1の回路が故障した場合を想定する。制御回路50は、故障したモジュール1の全スイッチ素子をオン動作させるとともに、モジュール1の1次側コイルTr1と互いに逆巻きの関係にあるモジュール、例えばモジュール2の全スイッチ素子もオン動作させる。また、制御回路50は、残りのモジュールについては、通常と同様にスイッチ素子をオンオフ動作させ、位相差を制御する。
【0052】
すると、故障したモジュール1、及びこれと互いに逆巻きのモジュール2を除く他のモジュールによるトランス励磁電圧は、互いに逆巻きのモジュール1とモジュール2で相殺されるため、たとえモジュール1が故障していても1次側変換回路10Aから2次側変換回路10Bへの絶縁コンバータ機能が維持される。
【0053】
また、図5Bに示すように、U相昇圧回路のハイブリッドトランス及びV相昇圧回路のハイブリッドトランスと主機電池(電池セル)12との間にフューズ13を設けることで、故障したモジュール1及びこれと逆巻きのモジュール2の全スイッチ素子をオン動作すると、モジュール1及びモジュール2では主機電池(電池セル)12と回路が分離され、主機電池(電池セル)12を保護することができる。
【0054】
また、モジュール1及びモジュール2に接続された出力キャパシタの電荷は全スイッチ素子のオン動作によりゼロとなり、全オン動作したスイッチ素子を介して主機モータ電流が流れるため、これ以外のモジュールによる主機昇圧コンバータ機能も維持される。
【0055】
また、発明者等は、本実施形態の回路構成では、第1実施形態の回路構成と比べて、磁気素子コアに流れる直流磁束と出力キャパシタに流れる実効電流値が減少するため、体積を46%低減できることを確認している。
【0056】
さらに、発明者等は、2並列化された6Vのセルを入力とした回路を28直列し、出力電圧の合計が650V、出力電力の合計が27kWとなるように回路を動作させたときの損失を算出した。本実施形態では第1実施形態に比べてスイッチ素子S1,S4に流れる電流は入力電圧とフライングキャパシタの合計電圧から出力電圧へのシリーズ昇圧と見なすことができるため、電流値を低くすることができる。このため、スイッチ素子損失を小さくすることができる。また、第1実施形態のリアクトルには大電流が流れているのに対し、本実施形態ではハイブリッドトランスの低圧側コイルにのみ大電流が流れるため、リアクトル巻線の導通損失も低減できる。これらの相乗効果により、回路損失を17%低減できることを確認している。
【0057】
以上のように、第2実施形態では、第1実施形態と同様にシステムのロバスト性を向上できるだけでなく、フライングキャパシタにハイブリッドトランスのトランス動作による給電を行いながら主機電池(電池セル)12とフライングキャパシタによるシリーズ昇圧を行うため、コアに生じる磁束を低減できる。また、高昇圧動作でもスイッチングデューティを極端に高くする必要がないため出力電流リプルを低減でき、結果として出力キャパシタサイズを低減できる。また、上アームの導通損失が低減されるとともにリアクトル巻線の導通損失が低減されるので回路効率を向上させることができる。
【0058】
なお、第1実施形態及び第2実施形態では、多直列接続された複数のモジュールのうち、隣接するモジュールのトランスの1次側コイルを互いに逆巻きとしているが、トランスコアが共通で1次側コイルの巻線方向が互いに逆であるモジュールが少なくとも2つあればよい。
【0059】
また、第1実施形態及び第2実施形態におけるモジュールの個数は任意であり、かつ、必要に応じて後からモジュールを追加することもできる。
【0060】
また、第1実施形態及び第2実施形態では、主機昇圧コンバータ機能及び補機絶縁コンバータ機能について説明したが、複数のモジュールを多直列接続しているので、各モジュールの主機電池(電池セル)12のSOC(充電状態)に応じてスイッチ素子をON動作させてセルを均等化することもできる。
【0061】
また、第1実施形態及び第2実施形態では、各モジュールにおいて主機電池(電池セル)12を回路に接続しているので、例えば低温時に回路からの発熱により主機電池(電池セル)12を加熱して主機電池(電池セル)12の温度を調整することもできる。
【0062】
さらに、第1実施形態及び第2実施形態では、2次側変換回路10Bに補機18のみを接続しているが、複数の2次側変換回路10Bを1次側変換回路10Aに磁気結合させ、
ある2次側変換回路の出力電圧を48V、別の2次側変換回路の出力電圧を12Vとし、さらに別の2次側変換回路には太陽光発電装置を接続する等してもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 電力変換回路、10A 1次側変換回路、10B 2次側変換回路、12 主機電池(電池セル)、13 フューズ、14 インバータ回路(主機抵抗)、16 モータ、18 補機(補機抵抗)。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B