(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪及びブレーキディスク等の制動用回転部材を懸架装置に対して回転自在に支持する為に、車輪支持用転がり軸受ユニットが広く使用されている。この様な車輪支持用転がり軸受ユニットは、使用される条件によって内輪回転型と外輪回転型の何れかのものが使用されている。
【0003】
図4は、外輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニットとして、特許文献1に記載された従来構造の1例を示している。車輪支持用転がり軸受ユニット1は、静止側軌道輪である内径側軌道輪2と、回転側軌道輪である外径側軌道輪3と、それぞれが転動体である玉4、4とを備えている。
【0004】
内径側軌道輪2は、外周面に複列の内輪軌道5a、5bを有すると共に、内周面の軸方向内端部に、内径側軌道輪2を懸架装置に支持固定する為の内向フランジ状の静止側フランジ6を有している。外径側軌道輪3は、内周面に複列の外輪軌道7a、7bを有すると共に、外周面に車輪を支持固定する為の外向フランジ状の回転側フランジ8を有している。玉4、4は、内輪軌道5a、5bと外輪軌道7a、7bとの間に、両列毎にそれぞれ複数個ずつ、転動自在に設けられている。
尚、本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向に関して「外」とは、車体への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図1、3、4の左側を言い、反対に、車体への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図1、3、4の右側を、軸方向に関して「内」と言う。
【0005】
又、従来構造の場合、回転側フランジ8は、全体が円輪板状に構成されており、軸方向外側面は平坦面状であるのに対し、軸方向内側面は円周方向に関する凹凸形状となっている。この様な回転側フランジ8には、複数の薄肉部9と、これら各薄肉部9よりも軸方向厚さ寸法が大きく且つ軸方向内側に突出した複数の厚肉部10とが、円周方向に関して交互に設けられている。又、円周方向に隣り合う薄肉部9同士は、これら薄肉部9の一部である薄肉連続部11によって、厚肉部10の径方向外側で円周方向に連続している。
【0006】
又、回転側フランジ8の円周方向等間隔となる複数箇所で、且つ、円周方向に関して厚肉部10とそれぞれ整合する部分に、軸方向に貫通する状態で、雌ねじ孔12が形成されている。そして、これら各雌ねじ孔12に、図示しないボルトを螺合させる事で、回転側フランジ8に、車輪を構成するホイール及びディスクロータやドラムブレーキ等の制動用回転部材を支持固定する様にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した様な従来構造の車輪支持用転がり軸受ユニット1の場合、厚肉部10に穿孔加工により形成する雌ねじ孔12の形状精度及び寸法精度を確保する事が難しくなる。
この理由は、厚肉部10の剛性が、厚肉部10の軸方向位置によって異なる為である。具体的には、回転側フランジ8の径方向に関して雌ねじ孔12の外側に存在する部分の厚さ寸法が、厚肉部10の径方向外側に存在する薄肉連続部11の分だけ軸方向外側部分で厚く、軸方向内側部分で薄くなっている為、厚肉部10の剛性の大きさも、薄肉連続部11と径方向に重畳した重畳部13aで高く、薄肉連続部11と径方向に重畳していない非重畳部13bで低くなる。この為、雌ねじ孔12が途中で折れ曲がる(非重畳部13bで径方向外側に折れ曲がる)といった問題や、雌ねじ孔12の内径寸法が途中で変化する(重畳部13aでの内径寸法が非重畳部13bでの内径寸法よりも大きくなる)といった問題を生じる可能性がある。
【0009】
そして、雌ねじ孔12が途中で折れ曲がるといった問題が生じた場合には、雌ねじ孔12に螺合するボルトが折れ曲がる可能性がある。この為、車輪を構成するホイールや制動用回転部材の取り付け作業の作業性が低下する可能性がある。更に、ボルトの締め付け状態を締め付けトルクの大きさで管理する場合に、締め付けトルクの大きさに対応する軸力のばらつきが大きくなったり、ボルトに不要な応力が作用し易くなるといった問題を生じる可能性がある。
【0010】
又、雌ねじ孔の内径寸法が途中で変化するといった問題が生じた場合には、ボルトの外周面に形成された雄ねじと雌ねじ孔12の内周面に形成された雌ねじとの螺合状態が、重畳部13aで緩く、非重畳部13bで強くなる。この為、螺合部でフレッチング摩耗が発生し易くなるといった問題を生じる可能性がある。
本発明は、この様な事情に鑑みて、車輪や制動用回転部材を固定する為に利用する回転側フランジの雌ねじ孔の精度を十分に確保できる、車輪支持用転がり軸受ユニットの構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットは、静止側軌道輪と、回転側軌道輪と、複数個の転動体とを備える。
このうちの静止側軌道輪は、周面に1乃至複数の静止側軌道を有し、使用時に例えば懸架装置に支持固定されて回転しない。
又、前記回転側軌道輪は、周面に1乃至複数の回転側軌道を有すると共に、車輪及び制動用回転部材(例えばディスクロータやドラムブレーキ)を固定する為の外向フランジ状の回転側フランジを有し、使用時にこの車輪と共に回転する。
又、前記各転動体は、前記静止側軌道と前記回転側軌道との間に転動自在に設けられている。尚、この様な転動体としては、玉や円すいころ等を使用する事ができる。
又、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、前記回転側フランジは、全体が円周方向に連続する板状(例えば外周縁が円形状の円輪板状や、外周縁が5角形等の多角形となった多角板状)に構成されており、複数の薄肉部と、これら各薄肉部よりも軸方向厚さ寸法が大きく且つ軸方向内側に突出(膨出)した複数の厚肉部とが、円周方向に関して交互に設けられている。又、前記各薄肉部は、前記各厚肉部よりも径方向外方に延出しており、円周方向に隣り合う薄肉部同士は、前記各厚肉部の径方向外側で連続している。
そして、円周方向に関して前記各厚肉部と整合する部分には、これら各厚肉部を軸方向に貫通した取付孔をそれぞれ設けている。又、これら各取付孔を、軸方向内側の雌ねじ孔と、この雌ねじ孔よりも内径寸法が大きく且つ無ねじ状である軸方向外側の大径孔とから構成し、この大径孔の軸方向長さ寸法を、前記各薄肉部の軸方向厚さ寸法よりも大きくする。
尚、本発明を実施する場合に、前記大径孔としては、内径寸法が軸方向に亙り変化しない円筒孔とする事もできるし、内径寸法が軸方向に関して変化する(例えば軸方向外側に向かう程大きくなる)テーパ孔とする事もできる。大径孔を、内径寸法が軸方向外側に向かう程大きくなるテーパ孔とした場合には、車輪を固定する為のボルトを雌ねじ孔に螺合させ易くする事ができると共に、ハブ本体を加工する際の鍛造加工により大径孔を同時に形成する事ができる為、製造工程の簡略化を図る事もできる。
又、本発明を実施する場合に、前記回転フランジを構成する前記各厚肉部及び前記各薄肉部の数は、複数であれば良く、偶数又は奇数の別は特に問わない。
【0012】
又、本発明を実施する場合には、例えば、前記回転側フランジのうち、円周方向に関して前記各薄肉部と整合する部分に、軸方向に貫通する状態で、透孔(作業用孔)を設ける事ができる。この場合に、これら各透孔は、前記回転側フランジに円周方向等間隔に設ける事ができる。
この様な透孔としては、軸方向から見た形状が円形状の円孔に限らず、例えば特許文献2に記載される様な軸方向から見た形状が扇台形状の通孔や、その他の多角形状の孔としても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットによれば、車輪や制動用回転部材を固定する為に利用する回転側フランジの雌ねじ孔の精度を十分に確保できる。
即ち、本発明の場合には、回転側フランジを構成する厚肉部を軸方向に貫通する状態で設けた取付孔を、軸方向内側の雌ねじ孔と軸方向外側の大径孔とから構成し、更にこの大径孔の軸方向長さ寸法を、回転側フランジを構成する薄肉部(薄肉連続部)の軸方向厚さ寸法よりも大きくしている。この為、回転側フランジの径方向に関して雌ねじ孔の外側に存在する部分の厚さ寸法を一定にできる。この為、厚肉部のうちで、雌ねじ孔を形成する部分(範囲)の剛性を、軸方向に関して一定にできる。従って、雌ねじ孔が途中で折れ曲がったり、雌ねじ孔の内径寸法が途中で変化したりする事を防止できる。この結果、本発明によれば、雌ねじ孔の精度(形状精度及び寸法精度)を十分に確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、
図1〜2を参照しつつ説明する。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット1aは、内輪回転型で、懸架装置を構成するナックルに対し、従動輪である車輪を構成するホイール及び制動用回転部材(ディスクロータ)を回転自在に支持する為のものであり、外輪14の内径側にハブ15を、複数個の玉16、16を介して回転自在に支持している。本例の場合、外輪14が、特許請求の範囲に記載した静止側軌道輪に相当し、ハブ15が、特許請求の範囲に記載した回転側軌道輪に相当し、玉16が、特許請求の範囲に記載した転動体に相当する。
【0016】
外輪14は、例えば中炭素鋼等の鉄系合金製で、全体が略円筒状に構成されており、内周面に複列の外輪軌道17a、17bを、外周面に静止側フランジ18を、それぞれ有している。この様な外輪14は、静止側フランジ18の円周方向複数箇所に形成したねじ孔18aに螺合した複数本のボルトにより、図示しないナックルに固定される。
【0017】
ハブ15は、ハブ本体19と内輪20とを結合する事により構成されており、外周面に複列の内輪軌道21a、21bと外向フランジ状の回転側フランジ22とを有している。そして、使用時に、ハブ15は、回転側フランジ22に結合固定した、図示しないホイール及び制動用回転部材と共に回転する。
【0018】
ハブ本体19は、例えば中炭素鋼等の素材に鍛造加工を施す事により造られている。又、このハブ本体19の外周面のうち、軸方向外端寄り部分に回転側フランジ22を、軸方向中間部に外側列の内輪軌道21aを、軸方向内端寄り部分に小径段部23を、それぞれ直接形成している。又、ハブ本体19の径方向中央部には、軸方向外端面にのみ開口した凹部48が設けられている。
【0019】
内輪20は、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼製で、全体が円環状に構成されており、その外周面に、内側列の内輪軌道21bを形成している。この様な内輪20は、ハブ本体19の小径段部23に締り嵌めにより外嵌固定されている。そして、内輪20は、このハブ本体19の軸方向内端部に形成したかしめ部24により、軸方向内端面が抑え付けられている。尚、ハブ本体19の軸方向内端部にかしめ部24を形成する構造に代えて、ハブ本体の軸方向内端部にナットを螺着する構造を採用する事もできる。
【0020】
玉16、16は、例えば軸受鋼製やセラミック製で、複列の外輪軌道17a、17bと複列の内輪軌道21a、21bとの間に、保持器25a、25bに保持された状態で、各列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられている。又、玉16、16には、予圧と共に背面組み合わせ型の接触角が付与されている。これにより、ハブ15を外輪14の内径側に、がたつきなく、且つ、ラジアル荷重及びアキシアル荷重を支承しつつ回転可能に支持している。尚、図示の例では、転動体として玉16、16を使用した場合を示したが、重量が嵩む自動車用の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する事もできる。
【0021】
外輪14の内周面とハブ15の外周面との間に存在する、内部空間(転動体設置空間)26の軸方向両端開口を、シールリング27及びカバー28により塞いでいる。このうちのシールリング27は、金属板製の芯金29と弾性材製のシール材30とを備えている。そして、このうちの芯金29を外輪14の軸方向外端部内周面に内嵌固定した状態で、シール材30に設けられた複数本(図示の例では4本)のシールリップ31a〜31dの先端縁をハブ15の表面に、全周に亙り摺接(又は近接対向)させている。これにより、内部空間26の軸方向外端開口部を塞いでいる。
【0022】
これに対し、カバー28は、外輪14の軸方向内端開口部を塞ぐ事により、内部空間26の軸方向内端開口を塞ぐものであり、非磁性材性で、全体が有底円筒状に構成されている。この様なカバー28は、略円筒状の支持筒部32と、この支持筒部32の軸方向内端部から径方向内方に折れ曲がった底板部33とを備えている。そして、このうちの支持筒部32を、外輪14の軸方向内端部に内嵌固定する事で、径方向内側が軸方向に貫通していないハブ本体19の軸方向内側面と共に、内部空間26の軸方向内端開口を塞いでいる。又、支持筒部32の軸方向内端部外周面を覆ったシール材34により、支持筒部32の軸方向内端部外周面と外輪14の軸方向内端部内周面との間をシールしている。
【0023】
又、ハブ15に結合固定した車輪の回転速度を測定可能とすべく、エンコーダ35を、磁性金属製の支持環36を介して内輪20の肩部に支持固定している。エンコーダ35は、ゴム磁石、プラスチック磁石等の永久磁石製で、全体が円輪状に構成されており、軸方向に着磁されている。着磁方向は、円周方向に関して、交互に、且つ、等間隔で変化させている。従って、被検出面である、エンコーダ35の軸方向内側面には、S極とN極とが、円周方向に関して、交互に、且つ、等間隔で配置されている。そして、この様なエンコーダ35の被検出面には、カバー28を構成する底板部33の外径側部分を介して、図示しないセンサの検出部を対向させる。これにより、ハブ15と共に回転する車輪の回転速度を測定する。そして、測定した車輪の回転速度を表す信号を、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)等、車両の走行安定化装置の制御に利用する。
【0024】
又、ハブ本体19の軸方向外端寄り部分に設けられた回転側フランジ22は、全体が円輪板状に構成されており、制動用回転部材の取付面となる軸方向外側面は、ハブ本体19の中心軸に対し直交する仮想平面上に存在する平坦面となっている。又、本例の回転側フランジ22は、径方向内端部に、軸方向厚さ寸法が全周に亙り変化しない根元部37が設けられているのに対し、径方向中間部に、軸方向厚さ寸法が円周方向に関して変化する肉厚変化部38が設けられている。この為、回転側フランジ22の軸方向内側面は、径方向内端部の根元部37では、ハブ15の中心軸に対し直交する仮想平面上に存在する平坦面となっているのに対し、径方向中間部に位置する肉厚変化部38では、円周方向に関する凹凸形状となっている。
【0025】
又、回転側フランジ22の径方向中間部(肉厚変化部38)には、複数(図示の例では5つ)の薄肉部39、39と、これら各薄肉部39、39よりも軸方向厚さ寸法が大きく且つ軸方向内側に突出(膨出)すると共に放射方向に伸長した複数(図示の例では5つ)の厚肉部40、40とが、円周方向に関して交互に設けられている。図示の例の場合、薄肉部39、39(厚肉部40、40)の円周方向に関する位相は72度ずつ等間隔にずれている。又、薄肉部39、39は、厚肉部40、40よりも径方向外方に僅かに延出する状態で設けられており、円周方向に隣り合う薄肉部39、39同士は、これら薄肉部39、39の一部である薄肉連続部41によって、厚肉部40、40の径方向外側で円周方向に連続している。従って、回転側フランジ22の径方向外端部には、薄肉部39(及び薄肉連続部41)が全周に亙り連続する状態で設けられている。
【0026】
又、厚肉部40の軸方向厚さ寸法Xは、根元部37の軸方向厚さ寸法とほぼ同じであり、薄肉部39の軸方向厚さ寸法Yのおよそ2〜6倍程度(図示の例では4倍)に設定されている。尚、薄肉部39の軸方向厚さ寸法Yは、回転側フランジ22の円周方向に関して厚肉部40に隣接する部分と、径方向に関して厚肉部40の外側に位置する部分(薄肉連続部41)とで、互いに同じである。
【0027】
回転側フランジ22の円周方向等間隔複数箇所(図示の例では5箇所)で、且つ、円周方向に関して厚肉部40、40とそれぞれ整合する部分のうち、これら厚肉部40、40の円周方向中央に位置する部分に、軸方向に貫通する状態で、取付孔42、42を設けている。本例の場合には、取付孔42を、軸方向外側の大径孔43と、軸方向内側の雌ねじ孔44との2種類の孔から構成している。別な言い方をすれば、厚肉部40の軸方向外側面から軸方向中間部に亙る範囲に大径孔43を形成し、厚肉部40の軸方向内側面から軸方向中間部に亙る範囲に雌ねじ孔44を形成している。又、軸方向外側の大径孔43と軸方向内側の雌ねじ孔44とは同軸上に配置されている。
【0028】
大径孔43は、内周面が単一円筒面である円筒孔で、無ねじ状に構成されているのに対し、雌ねじ孔44は、内周面に雌ねじが形成されている。又、大径孔43の内径寸法は、雌ねじ孔44の内径寸法(雌ねじの歯底円の直径寸法)よりも大きく設定されており、軸方向に亙り変化しない。特に本例の場合には、この様な大径孔43の軸方向長さ寸法Aを、薄肉部39(薄肉連続部41)の軸方向厚さ寸法Yよりも大きく設定している(A>Y)。これにより、大径孔43と雌ねじ孔44との境界位置を、厚肉部40のうちで薄肉連続部41と径方向に重畳した重畳部45aではなく、厚肉部40のうちで薄肉連続部41と径方向に重畳していない非重畳部45bに位置させている。この為、雌ねじ孔44は、厚肉部40のうちの非重畳部45bにのみ形成されており、重畳部45aには形成されていない。
【0029】
又、非重畳部45bの外周側面(外径面)は、取付孔42(雌ねじ孔44)と同心の部分円筒形状であり、非重畳部45bの外周側面と雌ねじ孔44の内周面との間の肉厚は、回転側フランジ22の径方向に関して雌ねじ孔44の外側に位置する部分で、円周方向及び軸方向に関してほぼ一定である。これに対し、回転側フランジ22の径方向に関して雌ねじ孔44の内側に位置する部分のうち、凹部48の内周面と雌ねじ孔44の内周面との間部分の肉厚は、円周方向に関して変化するが、軸方向に関してほぼ一定である。但し、凹部48の内周面と雌ねじ孔44の内周面との間の肉厚は、非重畳部45bの外周側面と雌ねじ孔44の内周面との間の肉厚よりも十分に大きいので、回転側フランジ22の径方向に関して雌ねじ孔44の内側に位置する部分の肉厚変化は、雌ねじ孔44を形成する部分(範囲)の剛性変化に殆ど影響を与える事はない。
【0030】
上述した様な取付孔42を形成するには、例えば、先ず、回転側フランジ22のうち、円周方向に関して厚肉部40と整合する部分に、大径孔43を、軸方向外側から軸方向内側に向けて、その奥端部が非重畳部45bにまで達する様に形成する。次いで、この大径孔43と同軸上に軸方向に貫通する状態で下孔を形成する。その後、下孔にタップで雌ねじを形成する事により、雌ねじ孔44を形成する。尚、タッピングドリルを用いて下孔の形成と雌ねじ孔44の形成を同時に行う事もできる。本例の場合には、この様にして、軸方向外側に大径孔43が設けられると共に、軸方向内側に雌ねじ孔44が設けられた、本例の取付孔42を形成する。
【0031】
そして、本例の場合にも、ホイール及び制動用回転部材にそれぞれ形成された通孔内に、ボルトを挿通した後、ボルトの先端部に形成された雄ねじを、取付孔42を構成する雌ねじ孔44に螺合させる。これにより、回転側フランジ22の軸方向外側面に、制動用回転部材及びホイールを固定する。
【0032】
又、車輪支持用転がり軸受ユニット1aの軽量化、又は、図示しない足回り部品の取り付け若しくは取り外しに使用する工具を挿入する為に、回転側フランジ22の円周方向等間隔複数箇所(5箇所)で、且つ、円周方向に関して薄肉部39、39とそれぞれ整合する部分に、軸方向に貫通する状態で、円形状の透孔46、46を設けている。これら各透孔46、46は、厚肉部40、40に設けられた取付孔42、42(大径孔43)よりも大きな内径寸法を有している。又、回転側フランジ22のうち、円周方向に関して薄肉部39、39と整合する部分で、且つ、円周方向に関して透孔46、46から外れた部分には、回転側フランジ22から制動用回転部材を取り外すのに利用する押しボルトを螺合させる為のねじ孔47、47を設けている。
【0033】
以上の様な構成を有する本例の場合には、車輪を構成するホイールや制動用回転部材を固定する為に利用する回転側フランジ22の雌ねじ孔44の精度を十分に確保できる。
即ち、本例の場合には、厚肉部40を軸方向に貫通する状態で設けた取付孔42を、軸方向外側の大径孔43と軸方向内側の雌ねじ孔44とから構成し、更にこの大径孔43の軸方向長さ寸法Aを、薄肉部39(薄肉連続部41)の軸方向厚さ寸法Yよりも大きくしている。この為、本例の場合には、回転側フランジ22の径方向に関して雌ねじ孔44の外側に存在する部分の厚さ寸法を一定にできる。この為、厚肉部40のうちで、雌ねじ孔44を形成する部分(範囲)の剛性を、軸方向に関して一定にできる。従って、雌ねじ孔44を穿孔加工により形成する際に、この雌ねじ孔44が途中で折れ曲がったり、雌ねじ孔44の内径寸法が途中で変化したりする事を防止できる。この結果、本例の場合には、雌ねじ孔44の精度(形状精度及び寸法精度)を十分に確保できる。これにより、雌ねじ孔の精度が不十分である事に起因して生じる、ボルトの折れ曲がりや螺合部でのフレッチング摩耗等の前述した各種の問題の発生を有効に防止できる。
【0034】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例に就いて、
図3を参照しつつ説明する。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット1bは、前述した従来構造の場合と同様に、外輪回転型で、静止側軌道輪である内径側軌道輪2aと、回転側軌道輪である外径側軌道輪3aと、それぞれが転動体である玉4a、4aとを備えている。
【0035】
内径側軌道輪2aは、外周面に複列の内輪軌道5c、5dを有すると共に、内周面の軸方向内端部に、内径側軌道輪2aを懸架装置に支持固定する為の図示しない静止側フランジを有している。この様な内径側軌道輪2aは、主部49と、主部49の軸方向外端部に外嵌固定した内輪素子50とを、主部49の軸方向外端部に形成したかしめ部51により結合する事により構成されている。これら主部49及び内輪素子50は、それぞれ焼き入れ硬化可能な鉄系合金製であり、このうちの内輪素子50の外周面に、外側列の内輪軌道5cを形成しており、主部49の軸方向中間部外周面に内側列の内輪軌道5dを形成している。又、これら両内輪軌道5c、5dのうち、内側列の内輪軌道5dの外径寸法は、外側列の内輪軌道5cの外径寸法よりも大きくなっている。
【0036】
外径側軌道輪3aは、内周面に複列の外輪軌道7c、7dを有すると共に、外周面に車輪を支持固定する為の外向フランジ状の回転側フランジ8aを有している。この様な外径側軌道輪3aは、中炭素鋼等の焼き入れ硬化可能な鉄系合金製であり、内径側軌道輪2aの周囲に、この内径側軌道輪2aと同心に配置されている。外径側軌道輪3aの内周面に形成された外輪軌道7c、7dは、内側列の外輪軌道7dの内径寸法が、外側列の外輪軌道7cの内径寸法よりも大きくなっている。
【0037】
玉4a、4aは、内輪軌道5c、5dと外輪軌道7c、7dとの間に、両列毎にそれぞれ複数個ずつ、それぞれ保持器52a、52bに保持された状態で、転動自在に設けられている。又、内側列の玉4aのピッチ円直径は、外側列の玉4aのピッチ円直径よりも大きくなっている。
【0038】
又、外径側軌道輪3aの内周面と内径側軌道輪2aの外周面との間に存在する、内部空間(転動体設置空間)26aの軸方向両端開口を、シールリング27a及びカバー28aにより塞いでいる。即ち、内部空間26aの軸方向内端開口部を、組み合わせ型等のシールリング27aにより塞いでいる。これに対し、内部空間26aの軸方向外端開口部は、径方向内側が軸方向に貫通していない内径側軌道輪2aの軸方向外側面と共に、外径側軌道輪3aの軸方向外端部に固定したカバー28aにより塞いでいる。
【0039】
そして、本例の場合にも、外径側軌道輪
3aに設けられた回転側フランジ8aを、複数の薄肉部9aと、これら各薄肉部9aよりも軸方向厚さ寸法が大きく且つ軸方向内側に突出(膨出)すると共に放射方向に伸長した複数の厚肉部10aとを、円周方向に関して交互に配置する事により構成している。又、薄肉部9aは、厚肉部10aよりも径方向外方に延出する状態で設けられており、円周方向に隣り合う薄肉部9a同士は、これら薄肉部9aの一部である薄肉連続部11aによって、厚肉部10aの径方向外側で円周方向に連続している。又、厚肉部10aの軸方向厚さ寸法Xは、薄肉部9a(薄肉連続部11a)の軸方向厚さ寸法Yのおよそ2〜6倍程度(図示の例では2.5倍)に設定されている。
【0040】
又、回転側フランジ8aの円周方向等間隔複数箇所で、且つ、円周方向に関して厚肉部10aとそれぞれ整合する部分に、軸方向に貫通する状態で、取付孔42aを設けている。そして本例の場合にも、この取付孔42aを、軸方向外側の大径孔43aと、軸方向内側の雌ねじ孔44aとから構成している。
【0041】
特に本例の場合には、大径孔43aの軸方向長さ寸法Aを、薄肉部9aの軸方向厚さ寸法Yよりも大きく設定している。これにより、大径孔43aと雌ねじ孔44aとの境界位置を、厚肉部10aのうちで薄肉連続部11aと径方向に重畳した重畳部13cではなく、厚肉部10aのうちで薄肉連続部11aと径方向に重畳していない非重畳部13dに位置させている。この為、雌ねじ孔44aは、厚肉部10aのうちの非重畳部13dにのみ形成されており、重畳部13cには形成されていない。
【0042】
以上の様な構成を有する本例の場合にも、前述した実施の形態の第1例の場合と同様に、雌ねじ孔44aを穿孔加工により形成する際に、この雌ねじ孔44aが途中で折れ曲がったり、雌ねじ孔44aの内径寸法が途中で変化したりする事を防止できる。従って、雌ねじ孔44aの精度(形状精度及び寸法精度)を十分に確保できる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前記実施の形態の第1例の場合と同様である。