(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705380
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ボンド磁石用フェライト粒子粉末、ボンド磁石用樹脂組成物ならびにそれらを用いた成型体
(51)【国際特許分類】
H01F 1/11 20060101AFI20200525BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20200525BHJP
H01F 1/113 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
H01F1/11
C01G49/00 C
H01F1/113
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-552049(P2016-552049)
(86)(22)【出願日】2015年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2015077461
(87)【国際公開番号】WO2016052483
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2018年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-203497(P2014-203497)
(32)【優先日】2014年10月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097928
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 数彦
(72)【発明者】
【氏名】西尾 靖士
(72)【発明者】
【氏名】野村 吏志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】桜井 洋光
【審査官】
木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−145304(JP,A)
【文献】
特開平09−106904(JP,A)
【文献】
特開2000−223307(JP,A)
【文献】
特開平06−053064(JP,A)
【文献】
特開2008−277792(JP,A)
【文献】
特開平03−108302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/11
H01F 1/113
C01G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
XRD測定における結晶歪が0.14以下であってフィッシャー法における平均粒子径が1.30μm以上であり、残留磁束密度(Br)が1600〜2000Gであることを特徴とするボンド磁石用フェライト粒子粉末。
【請求項2】
マグネトプランバイト型フェライト粒子粉末である請求項1記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末を83重量%から93重量%含有し、有機バインダー成分を7重量%から17重量%含有することを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3記載のボンド磁石用樹脂組成物から成る成型体。
【請求項5】
成型体が射出成型体である請求項4に記載の成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成型で良好な磁力および磁力波形を有するボンドマグネット成型体を得ることができるボンド磁石用フェライト粒子粉末ならびにボンド磁石用樹脂組成物に関するものであり、該フェライト粒子粉末ならびに該組成物を用いたボンド磁石成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、ボンド磁石は、焼結磁石に比べ、軽量で寸法精度が良く、複雑な形状も容易に量産化できる等の利点があるため、玩具用、事務機器用、音響機器用、モータ用等の各種用途に広く使用されている。
【0003】
ボンド磁石に用いられる磁性粉末として、Nd−Fe−B系に代表される希土類磁石粉末やフェライト粒子粉末が知られている。希土類磁石粉末は高い磁気特性を有する反面、価格も高価であって、使用できる用途が制限されている。一方、フェライト粒子粉末は希土類磁石粉末に比べて磁気特性の面では劣っているが、安価であり化学的に安定であるため幅広い用途に用いられている。
【0004】
ボンド磁石は、一般に、ゴム又はプラスチックス材料と磁性粉末とを混練した後、磁場中で成形するか、或いは機械的手段により成形することにより製造されている。
【0005】
近年、各種材料や機器の信頼性向上を含めた高機能化に伴って、使用されるボンド磁石の強度の向上、磁気特性向上を含めた高性能化が求められている。
【0006】
即ち、射出成型などにより得られたボンド磁石の成形体は、充填されたマグネットプランバイト型フェライト粒子粉末が本来有する磁力ポテンシャルを最大限に発揮されることが要求される。すなわち、外部磁界に対してフェライト粒子が高配向である特徴を持つことで、高磁力及び複雑な多極波形を実現することが可能となる。
【0007】
例えば、モータやロータ、センサー用途では、射出成型で大小複雑な形状に加工される際、多極着磁されることが多い。そのため要求される多極磁力波形および要求磁力を満たすためには、樹脂組成物の流動中におけるフェライト粒子粉末の高い配向性が強く要求されている。
【0008】
モータ及びロータでは、励磁コイルに大きな電流を通電することで、磁石に大きな反磁界が印加され、残留磁束密度Brは数%〜10数%前後減磁する。よって、モータ及びロータに使用されるボンド磁石は、反磁界による減磁を考慮する必要があり、高い保磁力が要求されており、減磁率を小さくすることが要求されている。ここで、残留磁束密度Brを0mTまで減磁させる反磁界が保磁力iHcで示されるのに対して、残留磁束密度Brを10%減磁させる反磁界はHkで示される。Hkが高いほどモータやロータに使用されたときの減磁が小さくなるため、モータ及びロータ内おけるボンド磁石の耐減磁性の指標として、Hkを向上させる必要がある。即ち角型性を向上させる必要がある。
【0009】
そこで、ボンド磁石に用いるフェライト粒子粉末ならびにフェライト粒子と有機バインダーからなるボンド磁石用樹脂組成物においても、前記要求を満たす材料が要求されている。
【0010】
これまで、ボンド磁石用フェライト粒子粉末ならびにフェライト粒子と有機バインダーからなるボンド磁石用樹脂組成物について種々の改良が行われており、例えば、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を融剤として用いてフェライト粒子粉末を製造する方法(特許文献1)、異方化されたフェライト粒子粉末と無機物質粉砕物を用いる方法(特許文献2)、アルカリ土類金属を構成成分として平均粒子径が1.50μm以上でメルトフロー値が91g/10分以上のフェライト磁性粉を用いてボンド磁石とする方法(特許文献3)、平均粒子径を2.5μm以下、比表面積を1.25m
2/g以上とした後、アニールし、さらに圧縮して、当該圧縮された焼成粉において、乾式空気分散レーザー回折法により測定される平均粒子径をRa(μm)とし、空気透過法により測定される比表面積径をDa(μm)としたとき、Ra<2.5μm、且つ、Ra−Da<0.5μmに制御する方法(特許文献4)、塩化物の飽和蒸気圧下で1050℃及至1300℃の温度で焼成したフェライトを粒径の小さな微粉フェライト粉と混合し、800及至1100℃の温度でアニールすることで、粒径が大きく、きれいな結晶で、加圧しても保磁力の下がりが低い2.0MGOe以上のエネルギー積を有するフェライトを得る方法(特許文献5)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭55−145303号公報
【特許文献2】特開平3−218606号公報
【特許文献3】特開2005−268729号公報
【特許文献4】特開2007−214510号公報
【特許文献5】特開2010−263201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記要求を満たすボンド磁石用フェライト粒子粉末および/またはボンド磁石用樹脂組成物は、現在、最も要求されているところであるが、前記要求を十分に満たすものは未だ得られていない。
【0013】
即ち、前出特許文献1乃至5に記載されたフェライト粒子粉末または、ボンド磁石用樹脂組成物を用いたボンド磁石成型品は、配向性、耐減磁性、機械的強度のすべてにおいて優れているとは言い難いものである。
【0014】
そこで、本発明は、配向性、耐減磁性及び機械的強度に優れたボンド磁石が得られるボンド磁石用フェライト粒子粉末ならびにボンド磁石用樹脂組成物を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0016】
即ち、本発明は、XRD測定における結晶歪が0.14以下であってフィッシャー法における平均粒子径が1.30μm以上であ
り、残留磁束密度(Br)が1600〜2000Gであることを特徴とするボンド磁石用フェライト粒子粉末である(本発明1)。
【0017】
また、本発明は、マグネトプランバイト型フェライト粒子粉末である本発明1記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末である(本発明2)。
【0018】
また、本発明は、本発明1又は2に記載のボンド磁石用フェライト粒子粉末を83重量%から93重量%含有し、有機バインダー成分を7重量%から17重量%含有することを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物である(本発明3)。
【0019】
また、本発明は、本発明3に記載のボンド磁石用樹脂組成物から成る成型体である(本発明4)。
【0020】
また、本発明は、成型体が射出成型体である本発明4記載の成型体である(本発明5)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るボンド磁石用フェライト粒子粉末は、XRD測定における結晶歪が0.14以下であり、フィッシャー法における平均粒子径が1.30μm以上に制御された粉体特性を有することで、該粉体を含有する混練コンパウンドが射出成型される際、配向性及び耐減磁性に優れる磁性粉末であり、ボンド磁石用磁性粉末として好適である。
【0022】
本発明において、高配向とは、同じフェライト含有率において、飽和磁束密度(4πIs)が高く且つ残留磁束密度(Br)も高いことであり、単に配向率(Br/4πIs)だけが高いこととは異なる。配向率が同等でも、飽和磁束密度(4πIs)自体が低ければ残留磁束密度(Br)も低くなり、高配向とはならない。
【0023】
本発明において、耐減磁性に優れるとは、フェライト粒子粉末の含有率が同じ樹脂組成物において、iHcが高く、且つHkも高いことであり、単にiHcだけが高いこととは異なる。iHcは残留磁束密度Brを0mTにまで減磁させる反磁界であるのに対して、Hkは残留磁束密度Brを10%減磁させる反磁界、即ち角型性であり、iHcが同等であっても、Hkが高い方がよりモータ及びロータ内での減磁を抑制出来る。
【0024】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物は、機械的強度、磁気特性に優れた成形体が得られるので、ボンド磁石用樹脂組成物として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
先ず、本発明に係るボンド磁石用フェライト粒子粉末(以下、「フェライト粒子粉末」という。)について説明する。
本発明に係るフェライト粒子粉末の組成は、特に限定されるものではなく、マグネトプランバイト型フェライトであればよく、Sr系フェライト粒子粉末、Ba系フェライト粒子粉末のいずれでもよい。また、La、Nd、Pr、Co、Zn等の異種元素を含有してもよい。
【0027】
本発明に係るフェライト粒子粉末の粒子形状は板状であり、より好ましくは略六角板状である。
【0028】
本発明に係るフェライト粒子粉末の結晶歪(格子歪)は0.14以下である。フェライト粒子粉末の結晶歪が0.14を超える場合は結晶性も低く、樹脂組成物を射出成形した際の磁気特性、iHc及びHkも低くなり、好ましくない。より好ましくは0.13以下であり、更により好ましくは0.12以下である。結晶歪の理論的な下限値は0である。この結晶歪はフェライト粒子粉末を無配向状態で測定したものである。また、フェライト粒子粉末の結晶子サイズは130nm以上が好ましく、より好ましくは150〜300nmである
【0029】
本発明に係るフェライト粒子粉末のフィッシャー法における平均粒子径は1.30μm以上である。平均粒子径が1.30μm未満では樹脂組成物にした際、配向に適した粘度が確保できなくなる為(流動性が低下してしまうため)、高い磁気特性を有するボンド磁石を得ることが困難となる。好ましい平均粒子径は1.40μm以上であり、より好ましくは1.50μm以上である。フェライト粒子粉末の平均粒子径の上限値は4.00μm程度である。なお、上述のように、本発明に係るフェライト粒子粉末の粒子形状は球状ではなく板状であり、平均粒子径とはあくまでフィッシャー法によって得られる粒径の数値を指す。
【0030】
本発明に係るフェライト粒子粉末のBET比表面積値は1.5〜2.5m
2/gが好ましい。
【0031】
本発明に係るフェライト粒子粉末の平均厚みは、走査型電子顕微鏡の観察において、0.2〜1.0μmが好ましい。平均厚みが前記範囲以外の場合には、ボンド磁石にする際に高充填ができなくなる為、高い磁気特性を有するボンド磁石を得ることが困難となる。好ましい平均厚みは0.3〜1.0μm、より好ましくは0.4〜0.7μmである。
【0032】
本発明に係るフェライト粒子粉末の板状比(平均板径/厚み)は、走査型電子顕微鏡の観察において、2.0〜7.0が好ましい。より好ましくは2.0〜5.0である。前記板状比に制御することによって、フェライト粒子粉末を含有する樹脂組成物が流動方向に配向面が並行に流動可能となる。
【0033】
本発明に係るフェライト粒子粉末の飽和磁化値σsは65.0〜73.0Am
2/kg(65.0〜73.0emu/g)が好ましく、保磁力Hcは、206.9〜279kA/m(2600〜3500Oe)が好ましく、Brは160〜200mT(1600〜2000G)が好ましい。
【0034】
次に、本発明に係るフェライト粒子粉末の製造法について述べる。
【0035】
本発明に係るフェライト粒子粉末は、所定の配合割合で原料粉末を配合・混合して、得られた混合物をローラコンパクターで成型し、得られた成型物を大気中、900〜1250℃の温度範囲で仮焼した後、振動ミルを用いて粉砕、水洗処理し、次いで、大気中、700〜1100℃の温度範囲でアニール加熱処理を行うことで得られる。
【0036】
原料粉末としては、マグネトプランバイト型フェライトを形成する各種金属の酸化物粉末、水酸化物粉末、炭酸塩粉末、硝酸塩粉末、硫酸塩粉末、塩化物粉末等の中から適宜選択すればよい。なお、焼成時における反応性の向上を考慮すれば、粒子径は2.0μm以下が好ましい。
【0037】
また、本発明においては、原料混合粉末に融剤を添加して焼成することが好ましい。融剤としては、各種融剤を用いることができ、例えば、SrCl
2・6H
2O、CaCl
2・2H
2O、MgCl
2、KCl、NaCl、BaCl
2・2H
2O及びNa
2B
4O
7等である。添加量は、原料混合粉末100重量部に対してそれぞれ0.1〜10重量部が好ましい。より好ましくは0.1〜8.0重量部である。
【0038】
また、本発明においてはBi
2O
3を原料混合粉末又は焼成後の粉砕粉末に添加・混合してもよい。
【0039】
なお、本発明においては、粒度分布の制御の点から、大粒子と小粒子とを混合してもよい。
【0040】
仮焼前の成型は、原料混合物を圧縮造粒することが重要で、ローラコンパクターを使用することが好ましい。原料混合物をスクリュで2本のロール間へ押込み、圧縮造粒した。加圧ロールの圧縮圧力は70kg/cm
2以上が好ましく、より好ましくは80kg/cm
2以上がよい。フェライト化反応は固相反応であり、原料であるFe
2O
3とSrCO
3の距離が近い程反応性が良く、XRDにおける回折ピーク強度も高い傾向となる。また、同じ圧縮圧力条件でも融剤がバインダーとなるため、融剤の添加量が多い方が造粒物の嵩比重は高くなり、フェライト化反応に好ましい。一方、融剤の添加量が過剰であったり、融剤の組み合わせまたは比率が最適でないと結晶性は低下する傾向となる。なお、圧縮・造粒する際に、バインダー成分として微量の水を添加してもよい。
【0041】
また、本発明においては、900〜1250℃の温度範囲で仮焼した後、粉砕して、700〜1100℃の温度範囲でアニール加熱処理する際、前記粉砕には、振動ミルを用いることが好ましい。このときの粉砕に振動ミルを用いることによって本発明の所望する特性を有するフェライト粒子粉末を得ることができる。
【0042】
本発明に係るフェライト粒子粉末においては、XRD測定における結晶歪を0.14以下に制御するためには、前述したとおり、仮焼前の成形時に原料混合物を圧縮造粒する条件、融剤の種類及び添加量及び仮焼後の粉砕条件を組み合わせて最適化することが必要である。これらの要件を適宜組み合わせて、特に、フェライト粒子粉末の結晶歪を本発明の範囲内になるように調節する。
【0043】
次に、本発明に係るフェライト粒子粉末を用いたボンド磁石用樹脂組成物について述べる。
【0044】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物は、ボンド磁石用樹脂組成物中におけるフェライト粒子粉末の割合が83〜93重量部と、有機バインダー成分およびシランカップリング剤成分を総量で17〜7重量部となるように混合混練したものである。フェライト粒子粉末の割合が上記範囲より少ないと、所望の磁気特性を有するボンド磁石が得られない。フェライト粒子粉末の割合が上記範囲を超えると、樹脂組成物の流動性が低下し、成形が困難になるとともに、成形性が低下することにより良好な分散状態が得られず、結果的に磁気特性の悪いものとなる。
【0045】
有機バインダーとしては従来のボンド磁石に使用されているものであれば特に制限はなく、ゴム、塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレンーエチルアクリレート共重合樹脂、PPS樹脂、ポリアミド(ナイロン)樹脂、ポリアミドエラストマー、重合脂肪酸系ポリアミド等から用途に応じて選択・使用できるが、成型体の強度と剛性を優先する場合は、ポリアミド樹脂が適切である。また、必要に応じて金属脂肪酸や脂肪酸アマイド等の公知の離型剤を添加することができる。
【0046】
本発明のシランカップリング剤は、官能基としてビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基の中のいずれか一つと、メトキシ基、エトキシ基のいずれかを有するものが使用でき、好ましくは、アミノ基とメトキシ基またはアミノ基とエトキシ基を有するものである。
【0047】
次に、本発明に係るフェライト粒子粉末、樹脂バインダー、シランカップリング剤を用いたボンド磁石用樹脂組成物の製造法について述べる。
【0048】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物は、周知のボンド磁石用樹脂組成物の製造法によって得ることができ、例えば、本発明に係るフェライト粒子粉末にシランカップリング剤などを添加、均一混合し、有機バインダー成分と均一混合した後、混練押出機などを用いて溶融混練し、混練物を粒状、ペレット状に粉砕または切断することによって得られる。
【0049】
シランカップリング剤の添加量は、本発明に係るフェライト粒子粉末100重量部に対して、0.15重量部から3.5重量部、好ましくは0.2重量部から3.0重量部である。
【0050】
本発明に係るフェライト粒子粉末において、樹脂と混練し、配向状態とした際の結晶歪は0.14以下が好ましく、より好ましくは0.13以下である。また、配向状態とした際のフェライト粒子粉末の結晶子サイズは500nm以上が好ましく、より好ましくは700〜2000nmである。なお、フェライト粒子粉末の結晶歪および結晶子サイズは、フェライト粒子粉末のみの無配向状態と、樹脂と混練した後の配向状態とでは異なる。フェライト粒子粉末は配向性粉末であるため、無配向時のXRD測定は再現性に欠ける。よって、本発明では、EVA中にフェライト粒子を完全に配向させた状態にして測定することで、配向面のXRDピークのみを再現性良く検出できるようにした。
【0051】
次に、本発明に係るXRDでの結晶歪・結晶子サイズの測定について述べる。
【0052】
フェライト粒子粉末162.5g(100重量部)、EVA(エチレンー酢酸ビニル共重合体樹脂)17.7g(10.9重量部)、ステアリン酸亜鉛(シグマアルドリッチ株式会社)0.35g(0.22重量部)を混合した後、混合物をプラストミル(東洋精機製 ME−5HP型)で80℃、20分間混練した。混練後プラストミルより取り出した混練物を60〜63℃に加熱した2軸ロール(西村工機 No.88−43)で厚さ1.5〜2.0mmのシート状に成型した。得られたシート状混合物を円柱状に打ち抜いた後、2枚を金型に入れ、155℃で溶融し9kOeの磁界を正逆7回かけ、磁場をかけたままで室温になるまで放置した。得られた試験コアを脱磁機で消磁させた後、配向面にX線が入射するように設置して、XRDで結晶歪・結晶子サイズを測定した。
【0053】
次に、本発明に係るEVA混練評価による磁場配向磁気特性の測定について述べる。
【0054】
フェライト粒子粉末162.5g(100重量部)、EVA(エチレンー酢酸ビニル共重合体樹脂)17.7g(10.9重量部)、ステアリン酸亜鉛(シグマアルドリッチ株式会社)0.35g(0.22重量部)を混合した後、混合物をプラストミル(東洋精機製 ME−5HP型)で80℃、20分間混練した。混練後プラストミルより取り出した混練物を60〜63℃に加熱した2軸ロール(西村工機 No.88−43)で厚さ1.5〜2.0mmのシート状に成型した。得られたシート状混合物を円柱状に打ち抜いた後、6枚を金型に入れ、155℃で溶融し9kOeの磁界を正逆7回かけ、磁場をかけたままで室温になるまで放置した。得られた試験コアをBHトレーサーにて磁気特性を測定した。
【0055】
次に、本発明に係る射出磁力評価用の試験片成形体について述べる。
【0056】
試験片成形体は、ボンド磁石用フェライト磁性粉と有機バインダー成分等を予め均一混合、および/または、それらを混合後に溶融混練、ペレット状に粉砕または切断までしてボンド磁石用樹脂組成物として、後述する方法で直径25mmΦ、厚み10.5mmの試験コアを得た。
【0057】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物およびその成型体の残留磁束密度Brは、上記および実施例に記載する磁性測定方法において230mT(2300G)以上が好ましく、より好ましくは235mT(2350G)以上である。保磁力iHcは206.9〜278.5kA/m(2600〜3500Oe)が好ましく、より好ましくは214.9〜258.6kA/m(2700〜3250Oe)である。最大エネルギー積BHmaxは10.3kJ/m
3(1.30MGOe)以上が好ましく、より好ましくは10.7kJ/m
3(1.35MGOe)以上である。飽和磁束密度4πIsは230mT(2300G)以上が好ましく、より好ましくは240mT(2400G)以上である。Br/4πIsは0.95以上が好ましく、より好ましくは0.96以上である。Hkは198.9kA/m(2500Oe)以上が好ましく、より好ましくは202.9kA/m(2550Oe)以上である。bHcは198.9kA/m(2500Oe)以上が好ましく、より好ましくは202.9kA/m(2550Oe)以上である。
【0058】
また、後述する実施例に記載された方法で測定された本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物から成る成型体の引張強度は、好ましくは60(MPa)以上、曲げ強度は、好ましくは110(MPa)以上、アイゾット衝撃強度は、好ましくは16(KJ/m
2)〜破壊されず(NB)である。
【0059】
<作用>
本発明においては、フェライト粒子粉末をXRD測定における結晶歪が0.14以下であってフィッシャー法における平均粒子径が1.30μm以上に制御することによって、当該フェライト粒子粉末の保磁力が向上し、また当該フェライト粒子粉末を含有する樹脂組成物においてフェライト粒子粉末の配向に適した粘度が確保されるとともに、本発明のフェライト粒子粉末および/またはボンド磁石用樹脂組成物からなる成型体の配向性及びHkが優れることについては未だ明らかではないが、本発明者は次のように推定している。
【0060】
即ち、本発明に係るフェライト粒子粉末は、XRD評価において結晶歪が0.14以下であってフィッシャー法における平均粒子径が1.30μm以上に制御されることで、結晶性が向上し、高保磁力となる。また、磁場中のキャビティーに射出される際、流動方向に配向面が並行に流動可能な粒子形状となり、また結晶性が良いことから外部磁界に対するフェライト粒子の向き易さも良好になるものと推定している。
【0061】
本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物は、上述のボンド磁石用フェライト粒子粉末を83重量%から93重量%含有し、有機バインダー成分を7重量%から17重量%含有することで、フェライト粒子粉末と有機バインダーが均一で理想的な分散状態となっていると推定している。
【実施例】
【0062】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0063】
本発明に係るフェライト粒子粉末の平均粒子径は、「Sub−Sieve Sizer Model95」(Fisher Scientific製)を用いて測定した。
【0064】
本発明に係るフェライト粒子粉末のXRD測定における結晶歪・結晶子サイズの測定(無配向状態)は、XRD測定の試料ホルダにフェライト粒子粉末を導入しXRD測定を行い、「Bruker AXS K.K」(ブルカー・エイエックスエス(株)製)のTOPASソフトウェアによって計算した。
【0065】
本発明に係るフェライト粒子粉末のBET比表面積は、「全自動比表面積計Macsorb model−1201」((株)マウンテック製)を用いて測定した。
【0066】
本発明に係るフェライト粒子粉末の圧縮密度には、粒子粉末を1t/cm
2の圧力で圧縮したときの密度を採用した。
【0067】
フェライト粒子粉末の飽和磁束密度Brと保磁力iHcは、粒子粉末を1t/cm
2の圧力で圧縮して得られる圧粉コアを「直流磁化特性自動記録装置3257」(横川北辰電気(株)製)を用いて14kOeの磁界中で測定して求めた。
【0068】
ボンド磁石用樹脂組成物のメルトマスフローレイト(MFR)は、JIS K7210に準拠して、270℃で溶融し10kg荷重で測定して求めた。
【0069】
ボンド磁石用樹脂組成物の成型密度は、ボンド磁石用組成物を25mmφ、10.5mmの高さの金型内で溶融状態にして成型したコアを「電子比重計EW−120SG」((株)安田精機製作所製)で測定して求めた。
【0070】
磁気測定に用いた試験コアは、(株)日本製鋼所製の射出成形機J20MII型を用いて、シリンダー温度を260℃に設定してボンド磁石用樹脂組成物のペレットを溶融させて、金型温度を80℃に設定し4.0kOeの磁場をかけながら射出して、径25.0mm、厚み10.5mmの試験コアを得た。この試験コア射出成形時の射出圧を記録に留め、射出性の判断とした。得られた試験コアについて「直流磁化特性アナライザBH−5501」(電子磁気工業(株))を用いて各種磁気特性(Hk、残留磁束密度Br、保磁力iHc、保磁力bHc、最大エネルギー積BHmax、飽和磁束密度4πIs)を測定した。
【0071】
強度測定に用いた試験片は、(株)日本製鋼所製の射出成形機J20MII型を用いて、全長175mm、全幅12.5mm、厚み3.2mmの試験片成形体を得た。この試験片射出成形時の射出圧を記録に留め、射出性の判断とした。
【0072】
引張強度はASTM D638規格に準じて測定した。(株)日本製鋼所の射出成形機J20MII型を用いて試験片を得た後、島津製作所(株)製のコンピュータ計測制御式精密万能試験機AG−1型を用いて測定した。
【0073】
曲げ強度はASTM D790規格に準じて測定した。(株)日本製鋼所の射出成形機J20MII型を用いて試験片を得た後、島津製作所(株)製のコンピュータ計測制御式精密万能試験機AG−1型を用いて測定した。
【0074】
アイゾット衝撃強度はASTM D256規格に準じて測定した。(株)日本製鋼所の射出成形機J20MII型を用いて試験片を得た後、安田精機製作所(株)製のアイゾット衝撃試験機No.158を用いて測定した。
【0075】
実施例1:
<フェライト粒子粉末の製造>
粉末状のα−Fe
2O
3を100000gと、SrCO
3を15900g(FeとSrのモル比は2Fe:Sr=5.95:1)秤量して、湿式アトライターで30分混合した後、濾過、乾燥した。得られた原料混合粉末にSrCl
2及びNa
2B
4O
7の水溶液をそれぞれ添加してよく混合した後、混合物をローラコンパクターで90Kg/cm
2の条件下で圧縮造粒した。この時、SrCl
2及びNa
2B
4O
7の添加量は、上記原料混合粉末に対してそれぞれ2.5重量%、0.25重量%とした。得られた造粒物を大気中1150℃で2時間焼成した。得られた焼成物を粗粉砕した後に、湿式アトライターで30分粉砕し、水洗、濾過、乾燥した。その後、イソプロピルアルコール及びトリエタノールアミンの混合溶液を添加して、更に乾式振動ミルで30分間粉砕した。この時、イソプロピルアルコール及びトリエタノールアミンの添加量は、上記湿式粉砕乾燥品に対してそれぞれ0.2重量%、0.1重量%の混合溶液を添加して、次いで、得られた粉砕物を大気中970℃で1.5時間熱処理した。
【0076】
このときの製造条件を表1に、得られたフェライト粒子粉末の諸特性を表2に示す。
【0077】
実施例2:
組成、添加量及び焼成・熱処理温度などを種々変化させた以外は、前記実施例1と同様にしてフェライト粒子粉末を作成した。
このときの製造条件を表1に、得られたフェライト粒子粉末の諸特性を表2に示す。
【0078】
比較例1、2:
組成、添加剤の種類及び添加量、造粒の際の圧縮圧力などを種々変化させ、乾式振動ミルの代わりに乾式アトライターを使用してフェライト粒子粉末を作成したものを比較例1、2とした。製造条件を表1に、得られたボンド磁石用フェライト粒子粉末の諸特性を表2に示す。
【0079】
なお、表2には、比較しやすいように、結晶歪および結晶子サイズについて配向状態(後述する実施例3〜5及び比較例3〜6におけるボンド磁石用樹脂組成物について測定したもの)も示した。
【0080】
実施例3:
<ボンド磁石用樹脂組成物の製造>
実施例1で得られたフェライト粒子粉末をヘンシェルミキサーに25000g入れ、アミノアルキル系シランカップリング剤を前記フェライト100重量部に対して0.5重量部添加して20分間均一になるまで混合し、さらに、相対粘度1.60の12−ナイロン樹脂を11.98重量部、脂肪酸アマイドを0.2重量部を投入した後、さらに30分間混合してボンド磁石用樹脂組成物の混合物を用意した。
【0081】
得られたボンド磁石用組成物の混合物を2軸の混練機に定量フィードして12−ナイロンが溶融する温度において混練して、混練物をストランド状にして取り出し2mmφ×3mmの大きさのペレット状に切断してボンド磁石用樹脂組成物を得た。
ボンド磁石用樹脂組成物の製造条件と諸特性を表3に示す。
【0082】
実施例4:
実施例2で得られたフェライト粒子粉末と12−ナイロン樹脂、シランカップリング剤からなるボンド磁石用樹脂組成物を前記実施例3と同様にして作成した。
ボンド磁石用樹脂組成物の諸特性を表3に示す。
【0083】
実施例5:
実施例1で得られたフェライト粒子粉末と12−ナイロン樹脂、シランカップリング剤からなるボンド磁石用樹脂組成物を12−ナイロン樹脂、シランカップリング剤、離型剤の添加量を種々変化させて前記実施例3と同様にして作成した。
ボンド磁石用樹脂組成物の諸特性を表3に示す。
【0084】
比較例3、4:(実施例3と比較対象)
種々得られたフェライト粒子粉末と12−ナイロン樹脂、シランカップリング剤からなるボンド磁石用樹脂組成物を前記実施例3と同様にして作成した。
ボンド磁石用樹脂組成物の諸特性を表3に示す。
【0085】
比較例5、6:(実施例5と比較対象)
種々得られたフェライト粒子粉末と12−ナイロン樹脂、シランカップリング剤からなるボンド磁石用樹脂組成物を前記実施例5と同様にして作成した。
ボンド磁石用樹脂組成物の諸特性を表3に示す。
【0086】
実施例6:
<試験片成形体の成形>
実施例3で得られたボンド磁石用樹脂組成物を100℃で3時間乾燥した後、射出成型機においてボンド磁石用樹脂組成物を280℃で溶融し、射出時間0.3秒で80℃に設定された金型に射出成形して、全長175mm、全幅12.5mm、厚み3.2mmの試験片成形体を用意した。試験片成形体の射出性及び諸特性を表4に示す。
【0087】
実施例7:
実施例4で得られたボンド磁石用樹脂組成物を、実施例6と同様にして試験片成形体を作成した。試験片成形体の射出性及び諸特性を表4に示す。
【0088】
実施例8:
実施例5で作成したボンド磁石用樹脂組成物を、実施例6と同様にして試験片成形体を作成した。試験片成形体の射出性及び諸特性を表4に示す。
【0089】
比較例7、8:
種々のボンド磁石用樹脂組成物を用いて、前記実施例6と同様にして試験片成形体を作成した。試験片成形体の射出性及び諸特性を表4に示す。
【0090】
比較例9、10:
種々のボンド磁石用樹脂組成物を用いて、前記実施例8と同様にして試験片成形体を作成した。試験片成形体の射出性及び諸特性を表4に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
表3に示すとおり、本発明に係るボンド磁石用樹脂組成物を射出成型した成型体は、残留磁束密度Brは230mT(2300G)以上であり、4πIsは230mT(2300G)以上であり、Br/4πIsは0.96以上であり、保磁力iHcは206.9〜278.5kA/m(2600〜3500Oe)であり、最大エネルギー積BHmaxは10.3kJ/m
3(1.30MGOe)以上である。
また、成形密度が同程度の樹脂組成物同士の成型体を対比した場合、即ち、実施例3及び4に対して比較例3及び4、実施例5に対して比較例5及び6、実施例は比較例に対してHk、bHc、iHc、BH(max)、Br、4πIs及びBr/4πIsのいずれの磁気特性においても優れることが明らかになった。
【0096】
また、表4に示すとおり、実施例6、7は比較例7、8に対して、実施例8は比較例9、10と比較して、磁気特性及び機械的強度に優れることが明らかとなった。
【0097】
本発明に係る射出コアの配向性は、比較例に比べて優れた特性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係るフェライト粒子粉末および/またはボンド磁石用樹脂組成物を用いて製造したボンド磁石は高配向、高磁力且つ高保磁力、高Hkで曲げ強度、磁気特性とも優れるので、ボンド磁石、特にモータ及びロータ用のフェライト粒子粉末および/またはボンド磁石用樹脂組成物として好適である。