特許第6705445号(P6705445)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6705445水性ポリウレタン樹脂分散体、その製造方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705445
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】水性ポリウレタン樹脂分散体、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20200525BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20200525BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20200525BHJP
   C08G 18/12 20060101ALI20200525BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20200525BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20200525BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20200525BHJP
   C09D 11/102 20140101ALI20200525BHJP
【FI】
   C08L75/04
   C08K5/053
   C08G18/00 C
   C08G18/12
   C08G18/08 019
   C08G18/65 041
   C09D175/04
   C09D11/102
【請求項の数】11
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-511016(P2017-511016)
(86)(22)【出願日】2016年4月6日
(86)【国際出願番号】JP2016061257
(87)【国際公開番号】WO2016163394
(87)【国際公開日】20161013
【審査請求日】2019年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-78731(P2015-78731)
(32)【優先日】2015年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-78732(P2015-78732)
(32)【優先日】2015年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】山田 健史
(72)【発明者】
【氏名】上野 真司
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−53159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 75/04
C08G 18/00
C08G 18/08
C08G 18/12
C08G 18/65
C08K 5/053
C09D 11/102
C09D 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物から形成された状態にある(A)ポリウレタンプレポリマーと、
(B)鎖延長剤とから形成された状態にあるポリウレタン樹脂が、(C)有機溶剤を含む水系媒体中に分散しており、
(C)有機溶剤が、少なくとも(c1)ジアルキルグリコールである、水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤を含有する、水性ポリウレタン樹脂分散剤。
【請求項2】
(C)有機溶剤が、更に(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤を含み、(A)と(B)の質量に対する、(C)の質量が、1質量%以上100質量%以下である、請求項1に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項3】
(A)と(B)の質量に対する、(c1)の質量が、1質量%以上30質量%以下である、請求項1又は2に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項4】
(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤と(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤の質量比が、90/10〜10/90である、請求項2又は3記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項5】
少なくとも(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物から形成された状態にある(A)ポリウレタンプレポリマーと、
(B)鎖延長剤とから形成された状態にあるポリウレタン樹脂が、
(C)有機溶剤を含む水系媒体中に分散されており、
(C)有機溶剤が、(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤を含み、(c1)が、下記式(1):
【化4】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基又はベンジル基であり、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、nは1〜3の整数であり、nが2又は3である場合、−CHX−CHX−O−で表される単位は、それぞれ同じであっても異なってもよく、ただし、R及びRは、少なくともいずれか一方が、炭素数3〜8のアルキル基である)
で示される、水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項6】
(A)と(B)の質量に対する、(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤の質量が、1質量%以上30質量%以下である、請求項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項7】
(C)有機溶剤が、(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤と(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤とを含有し、
(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤と(c3)水溶解度が25g/100gの未満の疎水性溶剤との質量比が、90/10〜10/90である、請求項5又は6に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、塗料組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、コーティング剤組成物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、インク組成物。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体から得られる、ポリウレタン樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系媒体中にポリウレタン樹脂を分散させた水性ポリウレタン樹脂分散体に関する。また、本発明は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法、並びに前記水性ポリウレタン樹脂分散体を含有するコーティング用組成物、塗料用組成物、インク用組成物、及び前記ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥させて得られるポリウレタン樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
水性ポリウレタン樹脂分散体は、基材への密着性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐溶剤性等に優れていることから塗料、インク、接着剤、各種コーティング剤として紙、プラスチックス、フィルム、金属、ゴム、エラストマー、繊維製品等に幅広く使用される。
【0003】
中でも、ポリカーボネートポリオールを原料とした水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得られる塗膜は、耐光性、耐候性、耐熱性、耐加水分解性、耐油性に優れることが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
中でも、脂環族ポリカーボネートポリオールを用いた水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得られる塗膜は、耐摩耗性が優れる塗膜を与えることから、コーティング剤、塗料用組成物の原料として使用できることが知られている(特許文献2参照)。
【0005】
また、水系媒体に分散させたときの粒子径が小さく、高い強度の塗膜を与える水性ポリウレタン樹脂分散体として、NMP(N−メチルピロリドン)とDMM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)とを含有する組成物が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−120757号公報
【特許文献2】特許第5531956号公報
【特許文献3】特開2010−254877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水性ポリウレタン樹脂分散体は、一般にNMP等の高極性溶剤を含むため、塗膜作製のための時間が長くなるという課題があった。例えば自動車の内外装材、ゴム製品、エラストマー製品、携帯電話筐体、家電製品筐体、パーソナルコンピュータ筐体、加飾フィルム、光学フィルム、フローリング等の床材、インクジェット、グラビア、フレキソ等の印刷形式に対応したインク等の合成樹脂成形体の塗料分野やコーティング剤やインクの分野においては、高い増粘性、乾燥性を有することが求められ、これらの分野においては水性ポリウレタン樹脂分散体の増粘性、乾燥性が充分ではないという問題があった。
【0008】
また、特許文献3において開示されるような水系コーティング剤組成物を使用しても、塗膜作製時の乾燥性、造膜性が十分でなく、塗膜作製に時間を要するという課題があった。加えて、貯蔵安定性の面でも課題が残されていた。このような水性ポリウレタン樹脂分散体に求められる機能を保ちつつ、高い貯蔵安定性を有する水性ポリウレタン樹脂分散体は、これまで知られていなかった。
【0009】
本発明は、高い増粘性を有し、短時間の乾燥で塗膜を得ることができる水性樹脂分散体を提供することを課題とする。また、別の一側面では、本発明は、増粘性及び乾燥性を保ちつつ、高い貯蔵安定性を有する水性ポリウレタン樹脂分散体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の従来技術の問題点を克服すべく種々の検討を行った結果、少なくとも(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物から形成された状態にある(A)ポリウレタンプレポリマーと、(B)鎖延長剤とから形成された状態にあるポリウレタン樹脂が、(C)有機溶剤を含む水系媒体中に分散しており、(C)有機溶剤が、少なくとも(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤を含有するか、(c3)特定の構造を有する疎水性溶剤を含有する、水性ポリウレタン樹脂分散体を使用することで問題点が解決できるとの知見を得て、本発明に至った。
【0011】
第一の本発明は、以下(1)〜(6)の態様に関する。
(1)は、少なくとも(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物から形成された状態にある(A)ポリウレタンプレポリマーと、
(B)鎖延長剤とから形成された状態にあるポリウレタン樹脂が、(C)有機溶剤を含む水系媒体中に分散しており、
(C)有機溶剤が、少なくとも(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤を含有する、水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(2)は、(C)有機溶剤が、更に(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤を含み、(A)と(B)の質量に対する、(C)の質量が、1質量%以上100質量%以下である、前記(1)の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(3)は、(A)と(B)の質量に対する、(c1)の質量が、1質量%以上30質量%以下である、前記(1)又は(2)の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(4)は、(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤が、ジアルキルグリコール又は脂肪族エステル化合物である、前記(1)〜(3)のいずれかの水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(5)は、(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤が、ジアルキルグリコールである、前記(1)〜(4)のいずれかの水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(6)は、(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤と(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤との質量比が、90/10〜10/90である、前記(2)〜(5)のいずれかの水性ポリウレタン樹脂分散体である。
【0012】
第二の本発明は、以下(7)〜(9)の態様に関する。
(7)は、少なくとも(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物から形成された状態にある(A)ポリウレタンプレポリマーと、
(B)鎖延長剤とから形成された状態にあるポリウレタン樹脂が、
(C)有機溶剤を含む水系媒体中に分散しており、
(C)有機溶剤が、(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤を含み、(c3)が、下記式(1):
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基又はベンジル基であり、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、nは1〜3の整数であり、nが2又は3である場合、−CHX−CHX−O−で表される単位は、それぞれ同じであっても異なってもよく、ただし、R及びRは、少なくともいずれか一方が、炭素数3〜8のアルキル基である)
で示される、水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(8)は、(A)と(B)の質量に対する、(c3)の質量が、1質量%以上30質量%以下である、前記(7)の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(9)は、(C)有機溶剤が、(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤と(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤とを含有し、
(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤と(c3)水溶解度が25g/100gの未満の疎水性溶剤との質量比が、90/10〜10/90である、前記(7)又は(8)の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
【0013】
さらに、第一及び第二の本発明は、以下(10)〜(13)の態様にも関する。
(10)は、前記(1)〜(9)のいずれかの水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、塗料組成物である。
(11)は、前記(1)〜(9)のいずれかの水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、コーティング剤組成物である。
(12)は、前記(1)〜(9)のいずれかの水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、インク組成物である。
(13)は、前記(1)〜(9)のいずれかの水性ポリウレタン樹脂分散体から得られる、ポリウレタン樹脂フィルムである。
【発明の効果】
【0014】
第一の本発明によれば、高い増粘性を有し、短時間の乾燥で塗膜を得ることができる水性ポリウレタン樹脂分散体が提供される。第二の本発明によれば、増粘性及び乾燥性を保ちつつ、高い貯蔵安定性を有する水性ポリウレタン樹脂分散体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1〜3、比較例1及び2における、時間と固形分濃度の関係を示すグラフである。
図2】実施例4〜6、比較例1及び2における、時間と固形分濃度の関係を示すグラフである。
図3】実施例7、10、11、比較例1及び2における、時間と固形分濃度の関係を示すグラフである。
図4】実施例7〜9及び12における、時間と固形分濃度の関係を示すグラフである。
図5】実施例1〜3、比較例1及び2における、固形分濃度と粘度の関係を示すグラフである。
図6】実施例4〜6、比較例1及び2における、固形分濃度と粘度の関係を示すグラフである。
図7】実施例7、10、11、比較例1及び2における、固形分濃度と粘度の関係を示すグラフである。
図8】実施例7〜9及び12における、固形分濃度と粘度の関係を示すグラフである。
図9】実施例1〜3、比較例1及び2における、時間と粘度の関係を示すグラフである。
図10】実施例4〜6、比較例1及び2における、時間と粘度の関係を示すグラフである。
図11】実施例7、10、11、比較例1及び2における、時間と粘度の関係を示すグラフである。
図12】実施例7〜9及び12における、時間と粘度の関係を示すグラフである。
図13】実施例7、実施例11、実施例13及び実施例14における、時間と固形分濃度の関係を示すグラフである。
図14】実施例7、実施例15及び比較例2〜4における、時間と固形分濃度の関係を示すグラフである。
図15】実施例7、実施例11、実施例13及び実施例14における、固形分濃度と粘度の関係を示すグラフである。
図16】実施例7、実施例15及び比較例2〜4における、固形分濃度と粘度の関係を示すグラフである。
図17】実施例7、実施例11、実施例13及び実施例14における、時間と粘度の関係を示すグラフである。
図18】実施例7、実施例15及び比較例2〜4における、時間と粘度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第一の本発明]
以下、まずは第一の本発明について説明する。第一の本発明は、少なくとも(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物から形成された状態にある(A)ポリウレタンプレポリマーと、(B)鎖延長剤とから形成された状態にあるポリウレタン樹脂が、(C)有機溶剤を含む水系媒体中に分散しており、(C)有機溶剤が、少なくとも(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤を含有する、水性ポリウレタン樹脂分散体に関する。
ここで、「形成された状態にある」とは、各原料に由来する残基が、ウレタン結合を主たる結合基として、ポリウレタンを形成している状態を示す。なお、残基とは、結合基以外の原料に由来する基をいう。
【0017】
<<(a)ポリオール化合物>>
(a)ポリオール化合物には、高分子量ポリオール又は低分子量ポリオールを用いることができる。ポリオール化合物は、1分子中に2つ以上の水酸基を有していれば、その種類に特に制限はない。
【0018】
高分子量ポリオールは、特に制限されないが、数平均分子量が400〜8,000であることが好ましい。数平均分子量がこの範囲であれば、適切な粘度及び良好な取り扱い性が得られる。また、ソフトセグメントとしての性能の確保が容易であり、得られたポリウレタン樹脂を含む水性樹脂分散体を用いて塗膜を形成した場合に、割れの発生を抑制し易い。更に、(a)ポリオール化合物と(b)ポリイソシアネート化合物との反応性が充分なものとなり、(A)ポリウレタンプレポリマーの製造を効率的に行うこともできる。高分子量ポリオールは、数平均分子量が400〜4,000であることがより好ましい。
【0019】
本明細書において、数平均分子量は、JIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量とする。具体的には、水酸基価を測定し、末端基定量法により、(56.1×1,000×価数)/水酸基価 [mgKOH/g]で算出する。前記式中において、価数は1分子中の水酸基の数である。
【0020】
また高分子量ポリオールには、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造の容易さから、高分子量ジオールを用いることが好ましい。高分子量ジオールとしては、例えば、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール等が挙げられる。ポリウレタン樹脂を含む水性樹脂分散体、及び該水性樹脂分散体から得られる塗膜の耐光性、耐候性、耐熱性、耐加水分解性、耐油性、乾燥性の点から、ポリカーボネートジオールが好ましい。
【0021】
ポリカーボネートジオールの中でも、ジオール成分が脂肪族ジオール及び/又は脂環族ジオールであることが好ましく、得られた(A)ポリウレタンプレポリマーの粘度が低く、取り扱いが容易な点、水系媒体への分散性が良好な点、塗膜作成時の乾燥性が高い点等から、ジオール成分が脂環構造を有さない脂肪族ジオールであることがより好ましい。
【0022】
高分子量ポリオールとしては、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。ポリウレタン樹脂を含む水性樹脂分散体、及び該水性樹脂分散体から得られる塗膜の耐光性、耐候性、耐熱性、耐加水分解性、耐油性、乾燥性、貯蔵安定性の点から、ポリカーボネートポリオールが好ましい。増粘性の点からは、ポリエーテルポリオールが好ましい。
【0023】
ポリカーボネートポリオールは、1種以上のポリオールモノマーと、炭酸エステルやホスゲンとを反応させることにより得られる。製造が容易な点及び末端塩素化物の副生成がない点から、1種以上のポリオールモノマーと、炭酸エステルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが好ましい。
本発明でいうポリカーボネートポリオールは、その分子中に、1分子中の平均のカーボネート結合の数と同じ又はそれ以下の数のエーテル結合やエステル結合を含有していてもよい。
【0024】
ポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、脂肪族ポリオールモノマー、脂環構造を有するポリオールモノマー、芳香族ポリオールモノマー、ポリエステルポリオールモノマー、ポリエーテルポリオールモノマーが挙げられる。
【0025】
脂肪族ポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の直鎖状脂肪族ジオール;2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール等の分岐鎖状脂肪族ジオール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコールが挙げられる。
【0026】
脂環構造を有するポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘプタンジオール、2,7−ノルボルナンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等の主鎖に脂環式構造を有するジオールが挙げられる。
【0027】
芳香族ポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,2−ベンゼンジメタノール、4,4’−ナフタレンジメタノール、3,4’−ナフタレンジメタノールが挙げられる。
【0028】
ポリエステルポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、6−ヒドロキシカプロン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のヒドロキシカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオール、アジピン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のジカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオールが挙げられる。
【0029】
ポリエーテルポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0030】
炭酸エステルとしては、特に制限されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル、ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステルが挙げられる。その他に、ポリカーボネートポリオールを生成することができるホスゲン等も使用できる。中でも、ポリカーボネートポリオールの製造のしやすさから、脂肪族炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
【0031】
ポリオールモノマー及び炭酸エステルからポリカーボネートポリオールを製造する方法としては、例えば、反応器中に炭酸エステルと、この炭酸エステルのモル数に対して過剰のモル数のポリオールモノマーとを加え、温度160〜200℃、圧力50mmHg程度で5〜6時間反応させた後、更に数mmHg以下の圧力において200〜220℃で数時間反応させる方法が挙げられる。上記反応においては副生するアルコールを系外に抜き出しながら反応させることが好ましい。その際、炭酸エステルが副生するアルコールと共沸することにより系外へ抜け出る場合には、過剰量の炭酸エステルを加えてもよい。また、上記反応において、チタニウムテトラブトキシド等の触媒を使用してもよい。
【0032】
ポリカーボネートジオールとしては、特に制限されないが、例えば、1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオール及び1,5−ペンタンジオールの混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオール及び1,4−ブタンジオールの混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールの混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0033】
ポリエステルジオールとしては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリへキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール、1,6−へキサンジオールとダイマー酸の重縮合物等が挙げられる。
【0034】
ポリエーテルジオールとしては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブチレンオキシドとのランダム共重合体やブロック共重合体等が挙げられる。更に、エーテル結合とエステル結合とを有するポリエーテルポリエステルポリオール等を用いてもよい。
【0035】
低分子量ポリオールとしては、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造の容易さから、低分子量ジオールを用いることもできる。低分子量ジオールとしては、特に制限されないが、例えば、数平均分子量が60以上400未満のものが挙げられる。低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の炭素数2〜9の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、2,7−ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、2,5−ビス(ヒドロキシメチル)−1,4−ジオキサン等の炭素数6〜12の環式構造を有するジオールを挙げることができる。また、前記低分子量ポリオールとして、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコールを用いることもできる。
【0036】
(a)ポリオール化合物は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0037】
<<(b)ポリイソシアネート化合物>>
(b)ポリイソシアネート化合物としては、特に制限されないが、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートが挙げられる。
【0038】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4’’−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートが挙げられる。
【0039】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートが挙げられる。
【0040】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−ノルボルナンジイソシアネート、2,6−ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0041】
ポリイソシアネート化合物としては、1分子当たりイソシアナト基を2個有するものを使用することができるが、(A)ポリウレタンプレポリマーがゲル化をしない範囲で、トリフェニルメタントリイソシアネートのような、1分子当たりイソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネート化合物も使用することができる。
【0042】
ポリイソシアネート化合物の中でも、塗膜の耐久性が上がる点、塗膜作製の際に増粘性が高くなる傾向がある点から、脂環式ポリイソシアネートが好ましく、反応の制御が行いやすいという点から、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)が特に好ましい。
【0043】
ポリイソシアネートは、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0044】
<<(c)酸性基含有ポリオール>>
(c)酸性基含有ポリオールは、1分子中に2個以上の水酸基(フェノール性水酸基は除く)と、1個以上の酸性基を含有するものである。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基等が挙げられる。(c)酸性基含有ポリオールとして、1分子中に2個の水酸基と1個のカルボキシ基を有する化合物を含有するものが好ましい。(c)酸性基含有ポリオールは、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0045】
(c)酸性基含有ポリオールとしては、特に制限されないが、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸、N,N−ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N−ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4−ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6−ジヒドロキシ−2−トルエンスルホン酸が挙げられる。中でも入手の容易さの観点から、2個のメチロール基を含む炭素数4〜12のジメチルロールアルカン酸が好ましい。ジメチロールアルカン酸の中でも、2,2−ジメチロールプロピオン酸がより好ましい。
【0046】
本発明において、(a)ポリオール化合物と、(c)酸性基含有ポリオールとの合計の水酸基当量数は、120〜1,000であることが好ましい。水酸基当量数が、この範囲であれば、得られたポリウレタン樹脂を含む水性樹脂分散体の製造が容易であり、硬度の点で優れた塗膜が得られやすい。得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の貯蔵安定性と塗布して得られる塗膜の硬度、乾燥性、増粘性の観点から、水酸基当量数は、好ましくは150〜800、より好ましくは200〜700、特に好ましくは300〜600である。
【0047】
水酸基当量数は、以下の式(1)及び(2)で算出することができる。
各ポリオールの水酸基当量数=各ポリオールの分子量/各ポリオールの水酸基の数(フェノール性水酸基は除く)・・・(1)
ポリオールの合計の水酸基当量数=M/ポリオールの合計モル数・・・(2)
ポリウレタン樹脂(A)の場合、式(2)において、Mは、[〔(a)ポリオール化合物の水酸基当量数×(a)ポリオール化合物のモル数〕+〔(c)酸性基含有ポリオールの水酸基当量数×(c)酸性基含有ポリオールのモル数〕]を示す。
【0048】
<<(A)ポリウレタンプレポリマー>>
(A)ポリウレタンプレポリマーは、少なくとも、前記(a)ポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物とを反応させて得られる。
より具体的には、ポリウレタンプレポリマーは、少なくとも(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物から形成された状態にある(A)ポリウレタンプレポリマーである。
なお、前記(A)ポリウレタンプレポリマーは、末端停止剤を含んでもよい。
【0049】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合において、(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物、(c)酸性基含有ポリオール化合物、後述する(B)鎖延長剤及び場合により末端停止剤の全量を100質量部とした場合に、前記(a)ポリオール化合物の割合は好ましくは30〜80質量部、より好ましくは40〜75質量部、特に好ましくは50〜70質量部である。前記(c)酸性基含有ポリオール化合物の割合は好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは3〜7質量部である。前記末端停止剤の割合は、所望する(A)ポリウレタンプレポリマーの分子量等に応じて適宜決定することができる。
前記(a)ポリオール化合物の割合を30質量部以上とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性をより高くすることができる傾向があり、80質量部以下とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の貯蔵安定性がより向上する傾向がある。
前記(c)酸性基含有ポリオール化合物の割合を0.5質量部以上とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂の水系媒体中への分散性が良好になる傾向があり、10質量部以下とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性がより高くなる傾向がある。また、水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得た塗膜の耐水性を高くすることができ、得られるフィルムの柔軟性も良好になる傾向がある。
【0050】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合において、(a)ポリオール化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物の全水酸基のモル数に対する、(b)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数の比は、1.05〜2.5が好ましい。前記(a)ポリオール化合物及び前記(c)酸性基含有ポリオール化合物の全水酸基のモル数に対する、前記(b)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数の比を1.05以上とすることで、分子末端にイソシアナト基を有しない(A)ポリウレタンプレポリマーの量が少なくなり、(B)鎖延長剤と反応しない分子が少なくなるため、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体を乾燥した後に、フィルムを形成しやすくなる。また、前記(a)ポリオール化合物及び前記(c)酸性基含有ポリオール化合物の全水酸基のモル数に対する、前記(b)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数の比を2.5以下とすることで、反応系内に残る未反応の前記(b)ポリイソシアネート化合物の量が少なくなり、前記(b)ポリイソシアネート化合物と前記(B)鎖延長剤が効率的に反応し、水との反応による望まない分子伸長を起こしにくくなるため、水性ポリウレタン樹脂分散体の調製を適切に行うことができ、貯蔵安定性も向上する。また、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性が高くなり、ポリウレタンフィルムの弾性率が低くなる傾向がある。前記(a)ポリオール化合物及び前記(c)酸性基含有ポリオール化合物の全水酸基のモル数に対する、前記(b)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数の比は、好ましくは1.1〜2.0、特に好ましくは1.3〜1.8である。
【0051】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合において、(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物、(c)酸性基含有ポリオール化合物、後述する(B)鎖延長剤及び、場合により末端停止剤との全量を100質量部とした場合に、(b)ポリイソシアネート化合物の量は、上記モル比の条件を満たす範囲で、(a)及び(c)の種類又は量に合わせて適宜設定することができる。
【0052】
前記(a)ポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、(b)ポリイソシアネート化合物とから、前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合には、(a)、(c)を順不同で(b)と反応させることができる。(a)及び(c)を同時に(b)と反応させても良い。
【0053】
前記ポリウレタンプレポリマーを得る反応の際には、触媒を用いることもできる。前記触媒としては、特に制限はされないが、例えば、スズ(錫)系触媒(トリメチル錫ラウリレート、ジブチル錫ジラウリレート等)や鉛系触媒(オクチル酸鉛等)等の金属と有機又は無機酸の塩、並びに有機金属誘導体、アミン系触媒(トリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミン等)、ジアザビシクロウンデセン系触媒が挙げられる。中でも、反応性の観点から、ジブチル錫ジラウリレートが好ましい。
【0054】
前記(a)ポリオール化合物及び前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と前記(b)ポリイソシアネート化合物とを反応させる際の反応温度としては、特に制限はされないが、40〜150℃が好ましい。反応温度を40℃以上とすることで、原料が十分に溶解し又は原料が十分な流動性を得て、得られた(A)ポリウレタンプレポリマーの粘度を低くして充分な撹拌を行うことができる。反応温度を150℃以下とすることで、副反応が起こる等の不具合を起こさずに、反応を進行させることができる。反応温度として更に好ましくは60〜120℃である。
【0055】
前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物との反応は、無溶媒でも有機溶媒を加えて行ってもよい。無溶媒で反応を行う場合には、前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物の混合物が、液状であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、β−アルコキシプロピオンアミド(出光興産製エクアミド(登録商標);例えばエクアミドM−100、エクアミドB−100)、酢酸エチルが挙げられる。中でも、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルが、ポリウレタンプレポリマーを水に分散し、鎖延長反応を行った後に加熱又は減圧により除去できるので好ましい。また、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、β−アルコキシプロピオンアミドは、得られた水性ポリウレタン樹脂分散体から塗膜を作製する際に造膜助剤として働くため好ましい。有機溶媒の添加量は、前記(a)ポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物との全量に対して質量基準で、好ましくは0.1〜2.0倍であり、より好ましくは0.15〜0.8倍である。
【0056】
前記(a)ポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物と、前記(b)ポリイソシアネート化合物との反応に用いられる有機溶剤は、後述する、ポリウレタン樹脂が分散されている水系媒体中に含まれる(C)有機溶剤を兼ねる事ができる。
【0057】
本発明において、ポリウレタンプレポリマー(A)の酸価(AV)は、8〜30mgKOH/gが好ましく、より好ましくは、10〜22mgKOH/gであり、特に好ましくは14〜19mgKOH/gである。ポリウレタンプレポリマーの酸価を8mgKOH/g以上とすることで、水系媒体への分散性、貯蔵安定性を良くすることができる傾向がある。また、ポリウレタンプレポリマーの酸価を30mgKOH/g以下とすることで、乾燥性をより向上させることができたり、得られるポリウレタン樹脂の塗膜の耐水性を高め、得られるフィルムの柔軟性を高くすることができる傾向がある。
なお、本発明において、「ポリウレタンプレポリマー(A)の酸価」とは、ポリウレタンプレポリマー(A)を製造するにあたって用いられる溶媒及び前記ポリウレタンプレポリマー(A)を水系媒体中に分散させるための中和剤を除いたいわゆる固形分中の酸価である。
具体的には、ポリウレタンプレポリマー(A)の酸価は、下記式(3)によって導き出すことができる。
〔ポリウレタンプレポリマー(A)の酸価〕=〔(酸性基含有ポリオール化合物(c)のミリモル数)×(酸性基含有ポリオール化合物(c)1分子中の酸性基の数)〕×56.11/〔ポリオール化合物(a)、酸性基含有ポリオール化合物(c)及びポリイソシアネート化合物(b)の合計の質量〕・・・(3)
【0058】
<<鎖延長剤(B)>>
鎖延長剤(B)の例としては、イソシアナト基と反応性を有する化合物が挙げられる。例えば、エチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,4−ヘキサメチレンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、ピペラジン、アジポイルヒドラジド、ヒドラジン、2,5−ジメチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン化合物、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール化合物、ポリエチレングリコールに代表されるポリアルキレングリコール類、水が挙げられ、中でも貯蔵安定性の観点から、ジアミン化合物が好ましく、1級ジアミンがより好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0059】
鎖延長剤(B)の添加量は、得られるポリウレタンプレポリマー中の鎖延長起点となるイソシアナト基の当量以下であることが好ましく、より好ましくはイソシアナト基の0.7〜0.99当量である。イソシアナト基の当量以下の量で鎖延長剤(B)を添加することで、鎖延長されたウレタンポリマーの分子量を低下させず、得られた水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得た塗膜の強度を高くすることができる傾向がある。鎖延長剤(B)は、ポリウレタンプレポリマーの水への分散後に添加してもよく、分散中に添加してもよい。鎖延長は水によっても行うことができる。この場合は分散媒としての水が鎖延長剤を兼ねることになる。
【0060】
(水系媒体)
水性ポリウレタン樹脂分散体においては、ポリウレタン樹脂は水系媒体中に分散されている。前記水系媒体には、水と(C)有機溶剤とが含まれる。
前記水としては、例えば、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。中でも入手の容易さや塩の影響で粒子が不安定になること等を考慮して、イオン交換水を用いることが好ましい。
【0061】
<<(C)有機溶剤>>
前記水系媒体は、(C)有機溶剤を含み、該(C)有機溶剤は、少なくとも(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤を含有する。また、(C)有機溶剤は、(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤と(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤とを含むものであってもよい。分散安定性が上がる点から、(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤を含むことが好ましい。
なお、本明細書において有機溶剤についての「水溶解度」は、20℃での値であり、OECDテストガイドライン105に示される方法で測定することができる。
【0062】
<<(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤>>
前記(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤としては、例えば、イソヘキサン、イソオクタン、イソノナン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサノールアセテート、酢酸イソアミル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の脂肪族エステル類:ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、ジブチルジグリコール等の、分子中の炭素原子数と酸素原子数との比が、炭素原子数/酸素原子数=2.8以上であるジアルキルグリコール類;ノナノール、デカノール、2−エチルヘキサノール、ヘキシルジグリコール、2−エチルヘキシルグリコール、2−エチルヘキシルジグリコール等のアルコール類;エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート等のカーボネート類が挙げられる。
このような疎水性溶剤は、前記(a)ポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物とを反応させて(A)ポリウレタンプレポリマーを得る際の反応溶媒としても使用することができる。製造工程数を少なくすることができる点、及び(C)の量を制御しやすい点で、ジアルキルグリコール類、脂肪族炭化水素類又は脂肪族エステル類等の非プロトン性疎水性溶剤が好ましい。水性ポリウレタン樹脂分散体の貯蔵安定性の観点から、ジアルキルグリコール類、脂肪族エステル類がより好ましく、更に好ましくは、ジアルキルグリコール類である。
乾燥性と増粘性の観点から、ジアルキルグリコール類のなかでも、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、ジブチルジグリコールがより好ましく、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテルが特に好ましい。
【0063】
また、(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤は、水性ポリウレタン樹脂分散体の増粘性又は乾燥性の観点から、疎水性溶剤の沸点により選択することもできる。沸点が220℃以下である疎水性溶剤を使用する場合には、乾燥性がより良好となり、沸点が220℃を超える疎水性溶剤を使用する場合には、増粘性がより良好となる傾向がある。用途に合わせて疎水性溶剤の種類を選択することで、水性ポリウレタン樹脂分散体に所望の特性を与えることができる。
【0064】
(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤の水溶解度は、25g/100g未満0.01g/100g以上であることが好ましい。25g/100g未満とすることで、固形分濃度が低い状態での粘度を上げることができ、0.01g/100g以上とすることで、貯蔵安定性、分散安定性を確保しやすい傾向がある。(c1)としては、水溶解度が15g/100g未満0.03g/100g以上である疎水性溶剤を用いることがより好ましく、5g/100g未満0.05g/100g以上である疎水性溶剤を用いることが更に好ましく、3g/100g未満0.1g/100g以上である疎水性溶剤を用いることが特に好ましい。
【0065】
<<(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤>>
前記(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤としては、水溶解度が25g/100g以上となるものであれば特に限定されるものではなく、水性ポリウレタン樹脂分散体に通常用いられる親水性溶剤を使用することができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、メチルジグリコール、メチルトリグリコール、イソプロピルグリコール、メチルプロピレングリコール、メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール等の低級1価アルコール;及びエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等のプロトン性親水性溶剤;並びに、ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール、メチルエチルジグリコール、ジエチルジグリコール、DMM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)、DMTeG(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル等の、分子中の炭素原子数と酸素原子数との比が、炭素原子数/酸素原子数=2.8未満であるジアルキルグリコール類;及びN−メチルモルホリン、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)、N−エチルピロリドン、β−アルコキシプロピオンアミド(出光興産製エクアミド(登録商標);例えばエクアミドM−100、エクアミドB−100)等の非プロトン性の親水性有機溶剤が挙げられる。
このような親水性溶剤は、前記(a)ポリオール化合物及び前記(c)酸性基含有ポリオール化合物を、前記(b)ポリイソシアネート化合物と反応させて(A)ポリウレタンプレポリマーを得る際の反応溶媒としても使用することができる。製造工程数を少なくすることができる点、及び(C)有機溶剤の量を制御しやすいという点で、ジアルキルグリコール類又は非プロトン性の親水性有機溶剤が好ましい。
乾燥性と増粘性の観点から、水溶解度が、25g/100g以上、100g/100g以下の非プロトン性の親水性有機溶剤が好ましく、ジアルキルポリグリコール類がより好ましく、ジアルキルジグリコール類がさらに好ましく、ジプロピレングリコールジメチルエーテルが特に好ましい。
【0066】
(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤の水溶解度には特に上限はなく、25g/100g以上の範囲で任意の水溶解度をとることができる。分散安定性及び貯蔵安定性が上がる点から、(c2)としては、水溶解度が50g/100g以上である親水性溶剤を用いることが好ましく、水溶解度が100g/100g以上である親水性溶剤を用いることがより好ましい。
【0067】
(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤と(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤の質量比は、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造が容易である点、分散安定性が向上する点、増粘性と乾燥性が向上する点から、90/10〜10/90が好ましい。より好ましくは、70/30〜20/80であり、更に好ましくは、60/40〜30/70である。
【0068】
水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれる水の質量に対する(C)有機溶剤の量としては、分散安定性、貯蔵安定性が上がる点、引火の危険性が下がる点、及び増粘性、乾燥性をよりよくする観点から、1質量%以上200質量%以下が好ましく、より好ましくは、5質量%以上150質量%以下である。更に好ましくは、10質量%以上100質量%以下である。
【0069】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーと(B)鎖延長剤の総質量に対する(C)有機溶剤の量としては、分散安定性と製造の容易性、及び増粘性、乾燥性をよりよくする観点から、1質量%以上100質量%以下が好ましく、より好ましくは、5質量%以上50質量%以下である。更に好ましくは、10質量%以上35質量%以下である。
また、前記(A)ポリウレタンプレポリマーと(B)鎖延長剤の総質量に対する(c1)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤の量としては、分散安定性、貯蔵安定性と製造の容易性、及び増粘性、乾燥性をよりよくする観点から、1質量%以上60質量%以下が好ましい。より好ましくは、1質量%以上45質量%以下、1質量%以上30質量%以下である。さらに好ましくは、3質量%以上30重量%以下、5質量%以上30質量%以下、10質量%以上30質量%以下である。特に好ましくは、10質量%以上20質量%以下である。
【0070】
水性ポリウレタン樹脂分散体中の(C)有機溶剤の量としては、1質量%以上40質量%以下が好ましく、より好ましくは、3質量%以上30質量%以下である。更に好ましくは、5質量%以上20質量%以下である。溶剤量がこの範囲であれば、貯蔵安定性、増粘性、乾燥性がより良好となりやすい。
【0071】
特定の理論に束縛されるものではないが、(C)有機溶剤として(c1)疎水性溶剤を一定量用いることにより、水性ポリウレタン分散体中のポリウレタン粒子が疎水性溶剤を取り込み、ポリウレタン粒子が粒子の形状を保ちつつ見かけの粒子径が大きくなる、あるいは、同じ粒子径で単位体積あたりの粒子数が増大するものと考えられる。その結果、凝集性が向上し、増粘性、乾燥性が向上するものと考えられる。
【0072】
(水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法)
次に、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法について説明する。水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法は、
前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物を、(b)ポリイソシアネート化合物と反応させて(A)ポリウレタンプレポリマーを得る工程(α)、
前記(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和する工程(β)、
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程(γ)、
前記(C)有機溶剤を水系媒体中に分散させる工程(δ)、及び
前記(A)ポリウレタンプレポリマーと、前記(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させる工程(ε)を含む。
【0073】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る工程(α)は、不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、大気雰囲気下で行ってもよい。(A)ポリウレタンプレポリマーを調製する方法は、先に記載したとおりである。
【0074】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和する工程(β)において使用できる中和剤には、当業者に公知の塩基を、特に制限されず使用することができる。中和剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン等の有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ塩類、アンモニアが挙げられる。中でも、好ましくは有機アミン類を用いることができ、より好ましくは3級アミンを用いることができる。分散安定性が向上する点で、トリエチルアミンがより好ましい。ここで、(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基とは、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基等をいう。
【0075】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程(γ)において、水系媒体中にポリウレタンプレポリマーを分散させる方法としては、特に制限されないが、例えば、ホモミキサーやホモジナイザー等によって攪拌されている水系媒体中に、(A)ポリウレタンプレポリマーを添加する方法、ホモミキサーやホモジナイザー等によって攪拌されている(A)ポリウレタンプレポリマーに水系媒体を添加する方法等がある。
【0076】
前記(C)有機溶剤を水系媒体中に分散させる工程(δ)において、水系媒体中に(C)有機溶剤を分散させる方法としては、特に制限されないが、例えば、ホモミキサーやホモジナイザー等によって攪拌されている水系媒体中に、(C)有機溶剤を添加する方法、ホモミキサーやホモジナイザー等によって攪拌されている(C)有機溶剤に水系媒体を添加する方法等がある。
【0077】
前記工程(γ)と前記工程(δ)は、いずれを先に行ってもよい。すなわち、工程(β)で得られた(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体に分散させた後に(C)有機溶剤を加えてもよく、前記(C)有機溶剤を水系媒体に分散させた分散媒を予め用意し、当該分散媒に工程(β)で得られた(A)ポリウレタンプレポリマーを分散させてもよい。また、前記工程(α)における溶剤として前記(C)有機溶剤を使用することで、工程(δ)と工程(γ)を同時に行うこともできる。製造工程数が削減され、製造が簡便になるという点で、前記工程(α)における溶剤として前記(C)有機溶剤を使用し、工程(δ)と工程(γ)を同時に行うことが好ましい。
【0078】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーと、前記(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させる工程(ε)において、前記工程(ε)は冷却下でゆっくりと行ってもよく、また場合によっては60℃以下の加熱条件下で反応を促進して行ってもよい。冷却下における反応時間は、例えば0.5〜24時間とすることができ、60℃以下の加熱条件下における反応時間は、例えば0.1〜6時間とすることができる。
【0079】
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造において、前記工程(β)と、前記工程(γ)とは、どちらを先に行ってもよいし、同時に行うこともできる。前記工程(β)と、前記工程(ε)は、同時に行ってもよい。また、前記工程(γ)と、前記工程(ε)は、同時に行ってもよい。更に、前記工程(δ)と、前記工程(ε)は、どちらを先に行ってもよいし、同時に行ってもよい。分散安定性が向上する点から、前記工程(δ)を行った後に、前記工程(ε)を行うことが好ましい。
更に、前記工程(β)と、前記工程(γ)と、前記工程(δ)と、前記工程(ε)は、同時に行ってもよい。
【0080】
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法の具体的な例としては、以下の方法が挙げられる:
前記(C)有機溶剤中で、前記(a)ポリカーボネートポリオール化合物と、前記(c)酸性基含有ポリオール化合物を、(b)ポリイソシアネート化合物と反応させて(A)ポリウレタンプレポリマーを得る(工程(α));
次いで、前記(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和する(工程(β))、
前記工程(β)で得られた溶液を水系媒体中に分散させる(工程(γ)及び(δ))、
分散媒中に分散した前記(A)ポリウレタンプレポリマーと、前記(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させること(工程(ε))により、水性ポリウレタン樹脂分散体を得る。
【0081】
水性ポリウレタン樹脂分散体中のポリウレタン樹脂の割合は、5〜60質量%が好ましく、より好ましくは15〜50質量%である。
【0082】
本発明のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、通常25,000〜10,000,000程度である。より好ましくは、50,000〜5,000,000であり、更に好ましくは、100,000〜1,000,000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものであり、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から求めた換算値を使用することができる。重量平均分子量を25,000以上とすることで、水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥により、良好なフィルムを得ることができる傾向がある。重量平均分子量を1,000,000以下とすることで、水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性をより高くすることができる傾向がある。
【0083】
また、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体には、必要に応じて、増粘剤、光増感剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤等の添加剤を添加することもできる。前記添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの添加剤の種類は当業者に公知であり、一般に用いられる範囲の量で使用することができる。
【0084】
<塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物>
本発明は、上記水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物にも関する。
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物には、上記水性ポリウレタン樹脂分散体以外にも、他の樹脂を添加することもできる。他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。他の樹脂は、1種以上の親水性基を有することが好ましい。親水性基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基等が挙げられる。
【0085】
他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0086】
ポリエステル樹脂は、通常、酸成分とアルコ−ル成分とのエステル化反応又はエステル交換反応によって製造することができる。酸成分としては、ポリエステル樹脂の製造に際して酸成分として通常使用される化合物を使用することができる。酸成分としては、例えば、脂肪族多塩基酸、脂環族多塩基酸、芳香族多塩基酸等を使用することができる。
ポリエステル樹脂の水酸基価は、10〜300mgKOH/g程度が好ましく、50〜250mgKOH/g程度がより好ましく、80〜180mgKOH/g程度が更に好ましい。前記ポリエステル樹脂の酸価は、1〜200mgKOH/g程度が好ましく、15〜100mgKOH/g程度がより好ましく、25〜60mgKOH/g程度が更に好ましい。
ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、500〜500,000が好ましく、1,000〜300,000がより好ましく、1,500〜200,000が更に好ましい。
【0087】
アクリル樹脂としては、水酸基含有アクリル樹脂が好ましい。水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基含有重合性不飽和モノマー及び該水酸基含有重合性不飽和モノマーと共重合可能な他の重合性不飽和モノマーとを、例えば、有機溶媒中での溶液重合法、水中でのエマルション重合法等の既知の方法によって共重合させることにより製造できる。
水酸基含有重合性不飽和モノマーは、1分子中に水酸基及び重合性不飽和結合をそれぞれ1個以上有する化合物である。例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物;これらのモノエステル化物のε−カプロラクトン変性体;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド;アリルアルコール;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0088】
水酸基含有アクリル樹脂は、アニオン性官能基を有することが好ましい。アニオン性官能基を有する水酸基含有アクリル樹脂については、例えば、重合性不飽和モノマーの1種として、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性官能基を有する重合性不飽和モノマーを用いることにより製造できる。
水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、組成物の貯蔵安定性や得られる塗膜の耐水性等の観点から、1〜200mgKOH/g程度が好ましく、2〜100mgKOH/g程度がより好ましく、3〜60mgKOH/g程度が更に好ましい。
また、水酸基含有アクリル樹脂がカルボキシル基等の酸基を有する場合、該水酸基含有アクリル樹脂の酸価は、得られる塗膜の耐水性等の観点から、1〜200mgKOH/g程度が好ましく、2〜150mgKOH/g程度がより好ましく、5〜100mgKOH/g程度が更に好ましい。
水酸基含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、1,000〜200,000が好ましく、2,000〜100,000がより好ましく、更に好ましくは3,000〜50,000の範囲内であることが好適である。
【0089】
ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体又は共重合体が挙げられ、例えばポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、ポリオキシブチレン系ポリエーテル、ビスフェノールA又はビスフェノールF等の芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテル等が挙げられる。
【0090】
ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノール化合物から製造された重合体が挙げられ、例えばビスフェノールA・ポリカーボネート等が挙げられる。
【0091】
ポリウレタン樹脂としては、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等の各種ポリオール成分とポリイソシアネートとの反応によって得られるウレタン結合を有する樹脂が挙げられる。
【0092】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール化合物とエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂等が挙げられる。ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFが挙げられる。
【0093】
アルキド樹脂としては、フタル酸、テレフタル酸、コハク酸等の多塩基酸と多価アルコールに、更に油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等)、天然樹脂(ロジン、コハク等)等の変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂が挙げられる。
【0094】
ポリオレフィン樹脂としては、オレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと通常の重合法に従って重合又は共重合することにより得られるポリオレフィン樹脂を、乳化剤を用いて水分散するか、あるいはオレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと共に乳化重合することにより得られる樹脂が挙げられる。また、場合により、前記のポリオレフィン樹脂が塩素化されたいわゆる塩素化ポリオレフィン変性樹脂を用いてもよい。
オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ドデセン等のα−オレフィン;ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、スチレン類等の共役ジエン又は非共役ジエンが挙げられ、これらのモノマーは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
オレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸が挙げられ、これらのモノマーは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
【0095】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物は、硬化剤を含むことができ、これにより、塗料組成物又はコーティング剤組成物を用いて得られる塗膜又は複層塗膜、コーティング膜や印刷物の耐水性等を向上させることができる。
【0096】
硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、メラミン樹脂、カルボジイミド等を用いることできる。硬化剤は、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
【0097】
アミノ樹脂としては、例えば、アミノ成分とアルデヒド成分との反応によって得られる部分もしくは完全メチロール化アミノ樹脂が挙げられる。前記アミノ成分としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等が挙げられる。アルデヒド成分としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等が挙げられる。
【0098】
ポリイソシアネートとしては、例えば、1分子中に2個以上のイソシアナト基を有する化合物が挙げられ、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0099】
ブロック化ポリイソシアネートとしては、前述のポリイソシアネートのイソシアナト基にブロック剤を付加することによって得られるものが挙げられ、ブロック化剤としては、フェノール、クレゾール等のフェノール系、メタノール、エタノール等の脂肪族アルコール系、マロン酸ジメチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系、アセトアニリド、酢酸アミド等の酸アミド系、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム等のラクタム系、コハク酸イミド、マレイン酸イミド等の酸イミド系、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム等のオキシム系、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミン等のアミン系等のブロック化剤が挙げられる。
【0100】
メラミン樹脂としては、例えば、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン等のメチロールメラミン;これらのメチロールメラミンのアルキルエーテル化物又は縮合物;メチロールメラミンのアルキルエーテル化物の縮合物が挙げられる。
【0101】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物には、着色顔料や体質顔料、光輝性顔料を添加することができる。
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料等が挙げられる。これらは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。特に、着色顔料として、酸化チタン及び/又はカーボンブラックを使用することが好ましい。
体質顔料としては、例えば、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイトが挙げられる。これらは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。特に、体質顔料として、硫酸バリウム及び/又はタルクを使用することが好ましく、硫酸バリウムを使用することがより好ましい。
光輝性顔料は、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタンや酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタンや酸化鉄で被覆された雲母を使用することができる。
【0102】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物には、必要に応じて、増粘剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤等の通常の添加剤を含有することができる。これらは、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0103】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物の製造方法は、特に制限されないが、公知の製造方法を用いることができる。一般的には、塗料組成物及びコーティング剤組成物は、上記水性ポリウレタン樹脂分散体と上述した各種添加剤を混合し、更に水系媒体を添加し、適用方法に応じた粘度に調整することにより製造される。
【0104】
塗料組成物の被塗装材質、コーティング剤組成物の被コーティング材質又はインク組成物の被適用材質としては、金属、プラスチック、無機物、木材等が挙げられる。
【0105】
塗料組成物の塗装方法又はコーティング剤組成物のコーティング方法としては、例えば、ベル塗装、スプレー塗装、ロール塗装、シャワー塗装、浸漬塗装が挙げられる。インク組成物の適用方法としては、例えば、インクジェット印刷方法、フレキソ印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法が挙げられる。
【0106】
硬化後の塗膜の厚さは、特に制限されないが、1〜100μmの厚さが好ましい。より好ましくは、3〜50μmの厚さの塗膜を形成することが好ましい。
【0107】
<ポリウレタン樹脂フィルム>
本発明は、更に、上記水性ポリウレタン樹脂分散体から得られるポリウレタン樹脂フィルムにも関する。
【0108】
水性ポリウレタン樹脂分散体を用いて、ポリウレタン樹脂フィルムを得ることもできる。水性ポリウレタン樹脂分散体を離形性基材に適用し、加熱等の手段により乾燥、硬化させ、続いてポリウレタン樹脂の硬化物を離形性基材から剥離させることで、ポリウレタン樹脂フィルムが得られる。
【0109】
前記加熱方法としては、自己の反応熱による加熱方法と、前記反応熱と型の積極加熱とを併用する加熱方法等が挙げられる。型の積極加熱は、型ごと熱風オーブンや電気炉、赤外線誘導加熱炉に入れて加熱する方法が挙げられる。
【0110】
前記加熱温度は、40〜200℃であることが好ましく、より好ましくは60〜160℃である。このような温度で加熱することにより、より効率的に乾燥を行うことができる。前記加熱時間は、0.0001〜20時間が好ましく、より好ましくは1〜10時間である。このような加熱時間とすることにより、より硬度の高いポリウレタン樹脂フィルムを得ることができる。ポリウレタン樹脂フィルムを得るための好ましい乾燥条件は、例えば、120℃で3〜10秒の加熱が挙げられる。
【0111】
[第二の本発明]
次に、第二の本発明について説明する。
第二の本発明は、少なくとも(a)ポリオール化合物、(b)ポリイソシアネート化合物及び(c)酸性基含有ポリオール化合物から形成された状態にある(A)ポリウレタンプレポリマーと、
(B)鎖延長剤とから形成された状態にあるポリウレタン樹脂が、
(C)有機溶剤を含む水系媒体中に分散しており、
(C)有機溶剤が、(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤を含み、(c3)が、下記式(1):
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基又はベンジル基であり、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、nは1〜3の整数であり、nが2又は3である場合、−CHX−CHX−O−で表される単位は、それぞれ同じであっても異なってもよく、ただし、R及びRは、少なくともいずれか一方が、炭素数3〜8のアルキル基である)
で示される、水性ポリウレタン樹脂分散体に関する。
【0112】
第二の本発明における(A)ポリウレタンプレポリマー及びこれを構成する各成分並びに(B)鎖延長剤の例は、第一の本発明において記載したとおりである。
【0113】
(水系媒体)
第二の本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体においても、ポリウレタン樹脂は水と(C)有機溶剤とが含まれる水系媒体中に分散されている。水の種類としては、第一の本発明と同様に、例えば、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられ、イオン交換水を用いることが好ましい。
【0114】
<<(C)有機溶剤>>
第二の本発明において前記水系媒体は、(C)有機溶剤として、少なくとも(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤を含む。ここで、(c3)は、下記式(1):
【化3】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基又はベンジル基であり、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、nは1〜3の整数であり、nが2又は3である場合、−CHX−CHX−O−で表される単位は、それぞれ同じであっても異なってもよく、ただし、R及びRは、少なくともいずれか一方が、炭素数3〜8のアルキル基である)
で示される溶剤である。また、(C)有機溶剤は、前記式(1)で示される(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤と、(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤とを含むものであってもよい。分散安定性がより上がる点から、(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤を含むことが好ましい。ここで、(c2)水溶解度が25g/100g以上の親水性溶剤の好ましい態様及び具体例、(c2)と(c3)の質量比については、先に第一の本発明について説明したものを同様に適用することができる。したがって、例えば、(c2)と(c3)の質量比は、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造が容易である点、分散安定性が向上する点、増粘性と乾燥性が向上する点から、90/10〜10/90が好ましい。より好ましくは、70/30〜20/80であり、更に好ましくは、60/40〜30/70である。
【0115】
<<(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤>>
前記(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤は、前記式(1)で示される溶剤である。
【0116】
式(1)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル又はその異性体、ヘキシル又はその異性体、ヘプチル又はその異性体、オクチル又はその異性体)、フェニル基又はベンジル基である。ただし、R及びRは、少なくともいずれか一方が、炭素数3〜8のアルキル基である。入手の容易性、溶剤に十分な疎水性を与える点、(A)ポリウレタンプレポリマーの合成の容易性を確保する観点から、R及びRの少なくともいずれか一方が、プロピル基、ブチル基又は2−エチルヘキシル基であることが好ましい。好ましいR及びRの組み合わせとしては、例えば、メチル基とプロピル基の組み合わせ、メチル基とn−ブチル基の組み合わせ、メチル基と2−エチルヘキシル基の組み合わせ、n−ブチル基とn−ブチル基の組み合わせが挙げられる。
【0117】
式(1)において、nは1〜3の整数である。すなわち、式(1)で示される溶剤は、その分子中に式−CHX−CHX−O−で表される単位を1つ、2つ又は3つ有する。溶剤に十分な疎水性を確保する点、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性が向上する観点から、nは、2又は3であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0118】
式(1)において、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。入手の容易さ、溶剤に十分な疎水性を確保する観点から、X及びXは、共に水素原子であるか、いずれか一方がメチル基であることが好ましい。また、nが2又は3である場合、−CHX−CHX−O−で表される単位は、それぞれ同じであっても異なってもよい。
【0119】
式(1)で示される疎水性溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジブチルジグリコール、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテルが挙げられる。入手容易性、溶剤の粘度の観点から、ジブチルジグリコール、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテルがより好ましい。
【0120】
また、(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤は、水性ポリウレタン樹脂分散体の増粘性又は乾燥性の観点から、疎水性溶剤の沸点により選択することもできる。沸点が220℃以下である疎水性溶剤を使用する場合には、乾燥性がより良好となり、沸点が220℃を超える疎水性溶剤を使用する場合には、増粘性がより良好となる傾向がある。用途に合わせて疎水性溶剤の種類を選択することで、水性ポリウレタン樹脂分散体に所望の特性を与えることができる。
【0121】
(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤の水溶解度には特に下限はなく、前記式(1)で示される化合物である限り、25g/100g未満の範囲で任意の水溶解度をとることができる。(c3)の水溶解度は、25g/100g未満0.01g/100g以上であることが好ましい。25g/100g未満とすることで、固形分濃度が低い状態での粘度を上げることができ、0.01g/100g以上とすることで、貯蔵安定性、分散安定性をより確保しやすい傾向がある。(c3)としては、水溶解度が15g/100g未満0.03g/100g以上である疎水性溶剤を用いることがより好ましく、5g/100g未満0.05g/100g以上である疎水性溶剤を用いることが更に好ましく、3g/100g未満0.1g/100g以上である疎水性溶剤を用いることが特に好ましい。
【0122】
(A)ポリウレタンプレポリマーと(B)鎖延長剤の総質量に対する(c3)水溶解度が25g/100g未満の疎水性溶剤の量としては、分散安定性、貯蔵安定性と製造の容易性、及び増粘性、乾燥性をよりよくする観点から、1質量%以上60質量%以下が好ましい。より好ましくは、1質量%以上45質量%以下、1質量%以上30質量%以下である。さらに好ましくは、3質量%以上30重量%以下、5質量%以上30質量%以下、10質量%以上30質量%以下である。特に好ましくは、10質量%以上20質量%以下である。
【0123】
(C)有機溶剤の量については、(A)ポリウレタンプレポリマーと(B)鎖延長剤の総質量に対する(C)有機溶剤の量、水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれる水の質量に対する(C)有機溶剤の量、水性ポリウレタン樹脂分散体中の(C)有機溶剤の量のいずれについても、第一の本発明で説明した態様を好ましく適用することができる。
【0124】
第二の本発明における水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法は、第一の本発明で説明した製造方法、添加剤の選択等を適用することができる。また、第一の本発明と同様に、第二の本発明における水性ポリウレタン樹脂分散体は、これを含有する塗料組成物、コーティング剤組成物又はインク組成物とすることができ、水性ポリウレタン樹脂分散体からポリウレタン樹脂フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0125】
次に、実施例及び比較例、また必要に応じて参考例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。まず、以下の合成例1〜19に示す方法に従って、各々の水性ポリウレタン樹脂分散体を調製した。
【0126】
[合成例1]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.3mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、221g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、16.1g)と、水素添加MDI(H12MDI、105g)とを、CHXA(ダイセル製、シクロヘキサノールアセテート、55.0g)とエクアミドM−100(出光興産製、55.6g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.68質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(12.4g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、404gを抜き出し、強攪拌しながら水(591g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(37.3g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0127】
[合成例2]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、227g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、16.0g)と、水素添加MDI(H12MDI、105g)とを、酢酸イソアミル(KHネオケム製、57.1g)とエクアミドM−100(出光興産製、58.1g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.81質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.8g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、421gを抜き出し、強攪拌しながら水(619g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(43.3g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0128】
[合成例3]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、225g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、15.9g)と、水素添加MDI(H12MDI、104g)とを、PMA(KHネオケム製、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、57.7g)とエクアミドM−100(出光興産製、58.3g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.70質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(12.0g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、426gを抜き出し、強攪拌しながら水(616g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(42.0g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0129】
[合成例4]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、227g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、16.0g)と、水素添加MDI(H12MDI、105g)とを、ソルフィット−AC(クラレ製、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、57.0g)とエクアミドM−100(出光興産製、58.8g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.66質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.9g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、430gを抜き出し、強攪拌しながら水(624g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(41.9g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0130】
[合成例5]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、222g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、15.7g)と、水素添加MDI(H12MDI、102g)とを、PE−AC(クラレ製、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、55.8g)とエクアミドM−100(出光興産製、56.3g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.72質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.9g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、410gを抜き出し、強攪拌しながら水(597g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(41.5g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0131】
[合成例6]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、222g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、15.7g)と、水素添加MDI(H12MDI、102g)とを、DBDG(日本乳化剤製、ジブチルジグリコール、56.0g)とエクアミドM−100(出光興産製、57.1g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.69質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.8g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、411gを抜き出し、強攪拌しながら水(597g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(40.5g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0132】
[合成例7]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、225g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、15.8g)と、水素添加MDI(H12MDI、103g)とを、DPMNP(ダイセル製、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、58.2g)とエクアミドM−100(出光興産製、58.7g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.69質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.8g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、424gを抜き出し、強攪拌しながら水(606g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(41.7g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0133】
[合成例8]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、229g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、16.2g)と、水素添加MDI(H12MDI、105g)とを、DPMNP(ダイセル製、ジプロピレングリコールメチル‐n‐プロピルエーテル、87.7g)とエクアミドM−100(出光興産製、29.7g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.75質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(12.1g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、429gを抜き出し、強攪拌しながら水(625g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(43.3g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0134】
[合成例9]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、224g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、15.8g)と、水素添加MDI(H12MDI、103g)とを、DPMNP(ダイセル製、ジプロピレングリコールメチル‐n‐プロピルエーテル、28.0g)とエクアミドM−100(出光興産製、85.7g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.70質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.8g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、422gを抜き出し、強攪拌しながら水(616g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(41.7g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0135】
[合成例10]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、227g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、16.2g)と、水素添加MDI(H12MDI、105g)とを、マルカゾールR(丸善石油製、2,2,4,6,6‐ペンタメチルヘプタン、56.6g)とエクアミドM−100(出光興産製、57.6g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.82質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(12.3g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、419gを抜き出し、強攪拌しながら水(612g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(43.2g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0136】
[合成例11]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、224g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、15.7g)と、水素添加MDI(H12MDI、102g)とを、DPMNP(ダイセル製、ジプロピレングリコールメチル‐n‐プロピルエーテル、56.8g)とDMM(ダイセル製、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、57.2g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.64質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.8g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、419gを抜き出し、強攪拌しながら水(615g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(41.7g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0137】
[合成例12]
合成例7で製造した水性ポリウレタン樹脂分散体(200g)に、DPMNP(ダイセル製、ジプロピレングリコールメチル‐n‐プロピルエーテル)とエクアミドM−100(出光興産製)の1:1混合溶媒(29.1g)を攪拌しながら加え、合成例7で製造した水性ポリウレタン樹脂分散体とは配合比の異なる水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0138】
[合成例13]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2011;水酸基価55.8mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、225g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、16.0g)と、水素添加MDI(H12MDI、103g)とを、DPMNP(ダイセル製、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、58.0g)とDMTG(日本乳化剤製、トリエチレングリコールジメチルエーテル、57.6g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.62質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.8g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、430gを抜き出し、強攪拌しながら水(624g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(41.4g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0139】
[合成例14]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2025;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、225g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、16.0g)と、水素添加MDI(H12MDI、103g)とを、DPMNP(ダイセル製、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、56.6g)とDMTeG(日本乳化剤製、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、57.0g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.57質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.8g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、431gを抜き出し、強攪拌しながら水(628g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(40.3g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0140】
[合成例15]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、三菱化学製;数平均分子量1958;水酸基価57.3mgKOH/g、223g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、15.7g)と、水素添加MDI(H12MDI、104g)とを、DPMNP(ダイセル製、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、56.5g)とエクアミドM−100(出光興産製、56.3g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.74質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.6g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、429gを抜き出し、強攪拌しながら水(630g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(42.7g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0141】
[合成例16]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2010;水酸基価55.7mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、350g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、23.7g)と、水素添加MDI(H12MDI、158g)とを、エクアミドM−100(出光興産製、166g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.4g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.76質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(17.9g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、568gを抜き出し、強攪拌しながら水(850g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(54.5g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0142】
[合成例17]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2030;水酸基価55.4mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、225g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、15.9g)と、水素添加MDI(H12MDI、103g)とを、DMM(ダイセル製、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、57.7g)とエクアミドM−100(出光興産製、57.9g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.71質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.8g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、424gを抜き出し、強攪拌しながら水(608g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(42.1g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0143】
[合成例18]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ETERNACOLL(登録商標)UH200(宇部興産製;数平均分子量2011;水酸基価55.8mgKOH/g;ポリオール成分が1,6−ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、226g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、16.0g)と、水素添加MDI(H12MDI、102g)とを、DMM(ダイセル製、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、57.2g)とNMP(三菱化学製、N−メチル−2−ピロリドン、57.8g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.78質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.9g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、437gを抜き出し、強攪拌しながら水(640g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(44.0g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0144】
[合成例19]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学製;数平均分子量1962;水酸基価57.2mgKOH/g、224g)と、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA、15.6g)と、水素添加MDI(H12MDI、104g)とを、DMM(ダイセル製、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、56.7g)とエクアミドM−100(出光興産製、57.7g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80〜90℃で7時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、2.86質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.6g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、429gを抜き出し、強攪拌しながら水(634g)に入れた後、35%2−メチル−1,5−ペンタンジアミン水溶液(44.6g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
【0145】
<実施例1〜15:第一の本発明>
上記合成例1〜19で得られた水性ポリウレタン樹脂分散体の各種物性を、以下のようにして測定、評価した。ここで、実施例1〜15の水性ポリウレタン樹脂分散体は合成例1〜15に、比較例1〜4の水性ポリウレタン樹脂分散体は合成例16〜19に、各々対応する。
【0146】
(分散性)
実施例1〜15及び比較例1〜4に基づき、水性ポリウレタン樹脂分散体を得ることを試みた。
○:分散性が良好で、水性ポリウレタン樹脂分散体が得られた。
×:分散性が不良で、水性ポリウレタン樹脂分散体が得られなかった。
【0147】
(貯蔵安定性の評価)
実施例1〜15及び比較例1〜4の各水性ポリウレタン樹脂分散体の製造直後の粘度と、50℃で3日間保管した後の20℃での粘度をB型粘度計により測定した。それぞれの粘度より、下記式により、変化率を算出した。
(変化率、%)={(50℃、3日間保管後の粘度、cP)−(製造直後の粘度、cP)}/(製造直後の粘度、cP)×100
変化率の絶対値が小さいほど、貯蔵安定性が高いことを示す。
【0148】
(乾燥性)
実施例1〜15及び比較例1〜4の各水性ポリウレタン樹脂分散体をガラス板上に、厚さが120ミクロンになるように塗布した後、30℃に予熱した熱天秤により質量を測定した。その後、熱天秤の温度を30℃に保ったまま、10分おきに質量を測定し、各時間における塗膜中の固形分濃度を算出した。固形分濃度の増加が速いほど、水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性が高いことを示す。
結果を図1〜4、13、14に示す。表1には、30分後の固形分濃度(%)を乾燥性(%)として示す。
【0149】
(増粘性)
実施例1〜15及び比較例1〜4の各水性ポリウレタン樹脂分散体を40℃で攪拌しながら濃縮した。得られた濃縮液の固形分濃度及び粘度の測定を行った。固形分濃度の測定は、濃縮液を140℃で4時間加熱することにより、加熱残分を求め、下記式により算出した。
(固形分濃度、%)=(加熱残分の重さ)/(加熱する前の濃縮液の重さ)×100
増粘性の測定における粘度の測定は、25℃において、レオメーター(TAInstruments製、ARES-RFS)により行った。用いた測定条件は、ギャップ:0.5mm、ジオメトリー:コーンプレート型、Diameter20mm、Cone angle0.04radians、回転数:0.1S-1であった。
上記測定により得られた固形分濃度と粘度の関係を図5〜8、15、16に示す。
また、「時間−固形分濃度」のグラフと「固形分濃度−粘度」のグラフから、「時間−粘度」のグラフを作成した。「時間−粘度」のグラフにおいて、粘度が上昇し始める時間が短いほど、増粘性が高いことを示す。時間と粘度の関係を表すグラフは、図9〜12、17、18に示す。25℃での粘度が200Pa・sを超えるまでの時間を測定し、増粘性の基準とした。増粘性測定の結果は、表1に示す。
【0150】
【表1】
【0151】
実施例1〜7、10と、比較例1〜3とから、水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれる有機溶剤が、少なくとも疎水性溶剤を含有することで、増粘性が向上することが確認できた。種々の疎水性溶剤について、同様の効果が確認できた。また、実施例1〜7と、2種類の親水性溶剤を用いている比較例2、3とを比較すると、DMMのような水溶解度が25g/100g以上である親水性溶剤に変えて水溶解度が25g/100g未満である疎水性溶剤を加えることで、乾燥工程での増粘性の向上が確認された。
【0152】
また、実施例8及び9から、疎水性溶剤の量が変動しても、疎水性溶剤を含まない水性ポリウレタン樹脂分散体(比較例1)より良好な乾燥性及び増粘性を達成できることがわかった。また、溶剤量そのものが増加しても、乾燥性を保ちつつ増粘性の向上が見られた(実施例12)。さらに、DMM、DMTG、DMTeGのような他の親水性溶剤を用いても、疎水性溶剤を添加することで乾燥性及び増粘性の向上が見られた(実施例11、13〜15)。実施例15と比較例4の比較は、PTMGのようなポリエーテルジオール由来のポリウレタン樹脂の場合でも、疎水性溶剤を添加することで、乾燥性を保ちつつ増粘性を大きく向上させることができたことが示されている。
【0153】
<実施例16〜24:第二の本発明>
上記合成例1〜19で得られた水性ポリウレタン樹脂分散体の貯蔵安定性を、以下のようにして測定、評価した。ここで、実施例16〜24は合成例6〜9、11〜15の水性ポリウレタン樹脂分散体に、比較例5〜7は合成例17〜19の水性ポリウレタン樹脂分散体に、参考例1〜6は合成例1〜5、10の水性ポリウレタン樹脂分散体に、各々対応する。
【0154】
(貯蔵安定性の評価)
実施例16〜24、比較例5〜7、参考例1〜6の各水性ポリウレタン樹脂分散体の製造直後の粘度と、50℃で3日間保管した後の20℃での粘度をB型粘度計により測定した。それぞれの粘度より、下記式により、変化率を算出した。
(変化率、%)={(50℃、3日間保管後の粘度、cP)−(製造直後の粘度、cP)}/(製造直後の粘度、cP)×100
変化率の絶対値が小さいほど、貯蔵安定性が高いことを示す。結果は下記表2に示す。
【0155】
【表2】
【0156】
2種類の溶剤を同じ質量比で用いた例である、実施例16、17及び20と比較例5〜7とを比較すると、水性ポリウレタン樹脂分散体に疎水性溶剤として前記式(1)で示される疎水性溶剤に該当するDPMNP又はDBDGを加えることで、有機溶剤として親水性溶剤のみ又は親水性溶剤及び水溶解度が比較的低い親水性溶剤を含む水性ポリウレタン樹脂分散体より増粘性、乾燥性を向上させつつ、より高い貯蔵安定性が得られることが明らかとなった。また、各実施例と参考例1〜6とを比較すると、前記式(1)で示される疎水性溶剤を用いることで、その他の疎水性溶剤を用いた水性ポリウレタン樹脂組成物と比べて、高い増粘性及び乾燥性を保ちつつ、より高い貯蔵安定性が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体は、塗料、コーティング剤、プライマー、接着剤、インク、フィルム等の原料として広く利用できる。
図1
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