(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ビニリデンフルオライド単位及びテトラフルオロエチレン単位を含むフッ素樹脂であって、ガスクロマトグラフィー質量分析法により得られる前記フッ素樹脂のトータルイオンクロマトグラムにおいて、202〜903の分子量を有する成分に由来するピークの強度が1000以下であることを特徴とするフッ素樹脂。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のフッ素樹脂は、ガスクロマトグラフィー質量分析法により得られる上記フッ素樹脂のトータルイオンクロマトグラムにおいて、202〜903の分子量を有する成分に由来するピークの強度が1000以下であることを特徴とする。下限は特に限定されず、202〜903の分子量を有する成分に由来するピークが全く観察されなくてよく、すなわち、0であってよい。
【0015】
202〜903の分子量を有する成分には、H(CF
2)
nH(式中、nは4〜18の整数)で表されるオリゴマー等が含まれるものと推測され、このようなオリゴマーは、例えば、ペレット化工程時の溶融押出時にポリマーが分解して発生する可能性がある。本発明のフッ素樹脂は、202〜903の分子量を有する成分をほとんど含まないことから、高温高圧状態から急速に減圧しても、ブリスター及びクラックが発生しにくい。
【0016】
本発明において、202〜903の分子量を有する成分に由来する複数のピークがトータルイオンクロマトグラムに観測される場合は、その全ての強度が1000以下であることを要する。また、「ピークの強度」とは、ピークの高さを意味する。トータルイオンクロマトグラムは、横軸に保持時間を、縦軸に強度(イオンの総和)をプロットして得られる。下記の条件で分析した場合、202〜903の分子量を有する成分に由来するピークは、おおよそ5.4〜18.0分に現れる。
【0017】
本明細書において、ガスクロマトグラフィー質量分析法による分析は、次の条件で行う。
1)使用機器
Agilent 5977A(アジレント・テクノロジー社製)
2)サンプル調製条件
フッ素樹脂を直径2.5mm、長さ2.5mmの大きさのペレット状に成形した後、0.50gのフッ素樹脂を6.0mLバイアル中に密閉し、温度200℃で30分間加熱後、すぐに気相部を2.0mLシリンジに採取する。
3)ガスクロマトグラフィー条件
カラム:DB−624(アジレント・テクノロジー社製)
カラム長:60m、内径:320μm、膜厚:1.8μm
注入口温度:250℃
使用ガス種:ヘリウム
流量:1.4mL/min
オーブン温度:初期50℃で5分保持。その後10℃/minで250℃まで昇温し最後5分保持。
4)質量分析条件
質量分析:m/z=10〜600までのスキャン測定
イオン化法:EI
相対強度の計算はm/z=51のMSクロマトグラムの各ピーク高さを用いて行う。
【0018】
本発明のフッ素樹脂は、ビニリデンフルオライド単位及びテトラフルオロエチレン単位を含む。上記フッ素樹脂は、ビニリデンフルオライド単位及びテトラフルオロエチレン単位を含むものであれば、その他の単量体単位を含むものであってよい。
【0019】
上記フッ素樹脂は、ビニリデンフルオライド単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の10.0〜70.0モル%であり、テトラフルオロエチレン単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の30.0〜85.0モル%であることが好ましい。より好ましくは、ビニリデンフルオライド単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の15.0〜70.0モル%であり、テトラフルオロエチレン単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の30.0〜85.0モル%である。さらに好ましくは、ビニリデンフルオライド単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の15.0〜60.0モル%であり、テトラフルオロエチレン単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の40.0〜85.0モル%である。
【0020】
上記フッ素樹脂は、更に、式(1)及び式(2)で表されるエチレン性不飽和モノマーからなる群より選択される少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー単位を含むことが好ましい。
【0021】
式(1): CX
11X
12=CX
13(CX
14X
15)
n11X
16
(式中、X
11〜X
16は同一または異なってH、F又はClを表し、n
11は0〜8の整数を表す。但し、テトラフルオロエチレン及びビニリデンフルオライドを除く。)
【0022】
式(2): CX
21X
22=CX
23−O(CX
24X
25)
n21X
26
(式中、X
21〜X
26は同一または異なってH、F又はClを表し、n
21は0〜8の整数を表す。)
【0023】
式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、CF
2=CFCl、CF
2=CFCF
3、下記式(3):
CH
2=CF−(CF
2)
n11X
16
(式中、X
16及びn
11は上記と同じ。)、及び、下記式(4):
CH
2=CH−(CF
2)
n11X
16
(式中、X
16及びn
11は上記と同じ。)
からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、CF
2=CFCl、CH
2=CFCF
3、CH
2=CH−C
4F
9、CH
2=CH−C
6F
13、CH
2=CF−C
3F
6H及びCF
2=CFCF
3からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、CF
2=CFCl、CH
2=CH−C
6F
13、CH
2=CF−C
3F
6H及びCH
2=CFCF
3からなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0024】
式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、CF
2=CF−OCF
3、CF
2=CF−OCF
2CF
3及びCF
2=CF−OCF
2CF
2CF
3からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
上記フッ素樹脂が更に上記エチレン性不飽和モノマーを有する場合、ビニリデンフルオライド単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の10.0〜49.9モル%であり、テトラフルオロエチレン単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の50.0〜85.0モル%であり、エチレン性不飽和モノマー単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の0.1〜5.0モル%であることが好ましい。より好ましくは、ビニリデンフルオライド単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の25.0〜49.9モル%であり、テトラフルオロエチレン単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の50.0〜70.0モル%であり、エチレン性不飽和モノマー単位が上記フッ素樹脂を構成する全モノマー単位の0.1〜5.0モル%である。
【0026】
本発明のフッ素樹脂は、
55.0〜90.0モル%のテトラフルオロエチレン、
5.0〜44.9モル%のビニリデンフルオライド、及び、
0.1〜10.0モル%の式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体であることが好ましい。
【0027】
より好ましくは、
55.0〜85.0モル%のテトラフルオロエチレン、
10.0〜44.9モル%のビニリデンフルオライド、及び、
0.1〜5.0モル%の式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体である。
【0028】
さらに好ましくは、
55.0〜85.0モル%のテトラフルオロエチレン、
13.0〜44.9モル%のビニリデンフルオライド、及び、
0.1〜2.0モル%の式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体である。
【0029】
フッ素樹脂の高温での機械的強度を向上させる観点に加えて、フッ素樹脂の低透過性が特に優れることから、式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体がCH
2=CH−C
4F
9、CH
2=CH−C
6F
13及びCH
2=CF−C
3F
6Hからなる群より選択される少なくとも1種の単量体であることが好ましい。より好ましくは、式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体がCH
2=CH−C
4F
9、CH
2=CH−C
6F
13及びCH
2=CF−C
3F
6Hからなる群より選択される少なくとも1種の単量体であり、かつ、フッ素樹脂が、
55.0〜80.0モル%のテトラフルオロエチレン、
19.5〜44.9モル%のビニリデンフルオライド、及び、
0.1〜0.6モル%の式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体であることである。
【0030】
本発明のフッ素樹脂は、58.0〜85.0モル%のテトラフルオロエチレン、
10.0〜41.9モル%のビニリデンフルオライド、及び、
0.1〜5.0モル%の式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体であってもよい。
【0031】
本発明のフッ素樹脂は、
55.0〜90.0モル%のテトラフルオロエチレン、
9.2〜44.2モル%のビニリデンフルオライド、及び、
0.1〜0.8モル%の式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体、の共重合単位を含む共重合体であることも好ましい。
【0032】
より好ましくは、
58.0〜85.0モル%のテトラフルオロエチレン、
14.5〜41.5モル%のビニリデンフルオライド、及び、
0.1〜0.5モル%の式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体である。
【0033】
本発明のフッ素樹脂は、
55.0〜90.0モル%のテトラフルオロエチレン、
5.0〜44.8モル%のビニリデンフルオライド、
0.1〜10.0モル%の式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体、及び、
0.1〜0.8モル%の式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体であることも好ましい。
【0034】
より好ましくは、
55.0〜85.0モル%のテトラフルオロエチレン、
9.5〜44.8モル%のビニリデンフルオライド、
0.1〜5.0モル%の式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体、及び、
0.1〜0.5モル%の式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体である。
【0035】
さらに好ましくは
55.0〜80.0モル%のテトラフルオロエチレン、
19.8〜44.8モル%のビニリデンフルオライド、
0.1〜2.0モル%の式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体、及び、
0.1〜0.3モル%の式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体である。本発明のフッ素樹脂がこの組成を有する場合、低透過性に特に優れる。
【0036】
本発明のフッ素樹脂は、
58.0〜85.0モル%のテトラフルオロエチレン、
9.5〜39.8モル%のビニリデンフルオライド、
0.1〜5.0モル%の式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体、及び、
0.1〜0.5モル%の式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体、
の共重合単位を含む共重合体であってもよい。
【0037】
本発明のフッ素樹脂は、各単量体の含有量が上述の範囲内にあると、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド及び第3成分からなる従来公知の共重合体と比べて結晶性が高くかつ170℃でも貯蔵弾性率が高いので、高温での機械的強度、耐薬品性及び低透過性に優れる。高温での低透過性とは、例えばメタン、硫化水素、CO
2、メタノール、塩酸等に対する低透過性である。
【0038】
共重合体の各単量体の含有量は、NMR、元素分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで単量体単位の含有量を算出できる。
【0039】
本発明のフッ素樹脂は、メルトフローレート(MFR)が0.1〜100g/10minであることが好ましく、0.1〜50g/10minであることがより好ましく、0.1〜10g/10minであることが更に好ましい。
【0040】
上記MFRは、ASTM D3307−01に準拠し、メルトインデクサー(東洋精機社製)を用いて、297℃、5kg荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)である。
【0041】
本発明のフッ素樹脂は、融点が180℃以上であることが好ましく、上限は290℃であってよい。より好ましい下限は200℃であり、上限は270℃である。
【0042】
上記融点は、示差走査熱量計RDC220(Seiko Instruments社製)を用い、ASTM D−4591に準拠して、昇温速度10℃/分にて熱測定を行い、得られる吸熱曲線のピークにあたる温度を融点とする。
【0043】
本発明のフッ素樹脂は、熱分解開始温度(1%質量減温度)が360℃以上であるものが好ましい。より好ましい下限は370℃である。上記熱分解開始温度は、上記範囲内であれば、上限を例えば430℃とすることができる。
【0044】
上記熱分解開始温度は、加熱試験に供したフッ素樹脂の1質量%が分解する温度であり、示差熱・熱重量測定装置〔TG−DTA〕を用いて加熱試験に供したフッ素樹脂の質量が1質量%減少する時の温度を測定することにより得られる値である。
【0045】
本発明のフッ素樹脂は、動的粘弾性測定による170℃における貯蔵弾性率(E’)が60〜400MPaであることが好ましい。高温での貯蔵弾性率が低すぎると機械的強度が急激に小さくなり変形しやすくなる。高すぎると樹脂が硬すぎて成形が困難になるおそれがある。
【0046】
上記貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定により170℃で測定する値であり、より具体的には、アイティ−計測制御社製動的粘弾性装置DVA220で長さ30mm、巾5mm、厚み0.25mmのサンプルを引張モード、つかみ巾20mm、測定温度25℃から250℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hzの条件で測定する値である。170℃における好ましい貯蔵弾性率(E’)は80〜350MPaであり、より好ましい貯蔵弾性率(E’)は100〜350MPaである。
測定サンプルは、例えば、成形温度をフッ素樹脂の融点より50〜100℃高い温度に設定し、3MPaの圧力で厚さ0.25mmに成形したフィルムを、長さ30mm、巾5mmにカットすることで作成することができる。
【0047】
本発明のフッ素樹脂は、高温環境下でのCO
2のバリア性に優れることから、150℃におけるCO
2(二酸化炭素)の透過係数P(CO
2)が20×10
−9cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以下であることが好ましい。上記透過係数P(CO
2)は、15×10
−9cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以下がより好ましく、13×10
−9cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以下が更に好ましい。
【0048】
本発明のフッ素樹脂は、高温環境下でのCH
4のバリア性に優れることから、150℃におけるCH
4(メタン)の透過係数P(CH
4)が10×10
−9cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以下であることが好ましい。上記透過係数P(CH
4)は、5×10
−9cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以下がより好ましく、3×10
−9cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以下が更に好ましい。
【0049】
本発明のフッ素樹脂は、肉厚であっても、高温・高圧環境下での耐ブリスター性に優れることから、150℃におけるCO
2の拡散係数D(CO
2)と溶解係数S(CO
2)との比D(CO
2)/S(CO
2)は、3×10
−5Pa・m
2/s以上が好ましく、5×10
−5Pa・m
2/s以上がより好ましく、10×10
−5Pa・m
2/s以上が更に好ましい。
【0050】
本発明のフッ素樹脂は、肉厚であっても、高温・高圧環境下での耐ブリスター性に優れることから、150℃におけるCH
4の拡散係数D(CH
4)と溶解係数S(CH
4)との比D(CH
4)/S(CH
4)は、40×10
−5Pa・m
2/s以上が好ましく、45×10
−5Pa・m
2/s以上がより好ましく、50×10
−5Pa・m
2/s以上が更に好ましい。
【0051】
上記透過係数P(CO
2)及びP(CH
4)、上記拡散係数D(CO
2)及びD(CH
4)、上記溶解係数S(CO
2)及びS(CH
4)は、光音響検出法により測定することができる。より詳細には、WaSul−Perm system(Hilase社製)を用いて、検出側はN
2フロー、テストガス側は該当するテストガスをフローすることにより光音響検出法により測定することができる。
【0052】
本発明のフッ素樹脂は、主鎖末端に−CONH
2基を有していることが好ましい。主鎖末端に−CONH
2基が存在すると、赤外吸収スペクトル分析により得られる上記フッ素樹脂の赤外吸収スペクトルにおいて、吸収波長3400〜3460cm
−1(ν
N−H)に−CONH
2基のN−H由来のピークが現れる。このピークの存在を確認することにより、主鎖末端に−CONH
2基が存在することを確認できる。−CONH
2基は、熱的に安定な末端基である。
【0053】
上記フッ素樹脂は、主鎖末端に、主鎖炭素数10
6個あたり20個以上の−CONH
2基を有していることが好ましい。−CONH
2基の個数は、30個以上であることがより好ましい。上限は特に限定されず、500個以下であってよく、250個以下であってよい。
【0054】
−CONH
2基の個数は、厚さ200μmのフィルムについて赤外吸収スペクトル分析を行い、得られた赤外線吸収スペクトルにおける主鎖のCH
2基に起因する2900〜3100cm
−1に現れるピークの吸光度を1.0に規格化し、そのスペクトルの3400〜3470cm
−1付近に現れる末端NH
2基のNH結合に起因するピークの吸光度Aを求め、次式により算出する。
主鎖炭素数10
6個当たりの−CONH
2基の個数=4258×A
【0055】
また、上記フッ素樹脂は、0.005〜0.050のアミド基(−CONH
2基)指数を有していることが好ましい。より好ましくは0.010〜0.045のアミド基指数を有していることが好ましい。さらに好ましくは0.015〜0.040のアミド基指数を有していることが好ましい。
【0056】
上記フッ素樹脂のアミド基(−CONH
2基)指数は、以下の方法により求めることができる。フッ素樹脂の各粉末(またはペレット)の切断片を室温で圧縮成形し、厚さ200μm(±5μm)のフィルムを作成する。これらのフィルムの赤外吸収スペクトル分析を行う。Perkin−Elmer SpectrumVer3.0を用いて128回スキャンして、得られたIRスペクトルを解析し、ピークの吸光度を測定する。また、フィルムの厚さはマイクロメーターにて測定する。得られた赤外線吸収スペクトルにおける主鎖のCH
2基に起因する2900〜3100cm
−1に現れるピークの吸光度を1.0に規格化する。規格化後のスペクトルの3400〜3470cm
−1付近に現れるアミド基(−CONH
2)のNH結合に起因するピークの高さをアミド基の指数とする。
【0057】
上記フッ素樹脂は、0.000〜0.050のカーボネート基指数(ROCOO基指数)を有していることが好ましい。より好ましくは0.000〜0.030のカーボネート基指数を有していることが好ましい。さらに好ましくは0.000〜0.020のカーボネート基指数を有していることが好ましい。
【0058】
フッ素樹脂のカーボネート基(ROCOO基指数)は、以下の方法により求めることができる。フッ素樹脂の各粉末(またはペレット)の切断片を室温で圧縮成形し、厚さ200μm(±5μm)のフィルムを作成する。これらのフィルムの赤外吸収スペクトル分析を行う。Perkin−Elmer SpectrumVer3.0を用いて128回スキャンして、得られたIRスペクトルを解析し、ピークの吸光度を測定する。また、フィルムの厚さはマイクロメーターにて測定する。得られた赤外線吸収スペクトルにおける主鎖のCH
2基に起因する2900〜3100cm
−1に現れるピークの吸光度を1.0に規格化する。規格化後のスペクトルの1780〜1830cm
−1付近に現れるカーボネート基(ROCOO基)のCO結合に起因するピークの高さをカーボネート基の指数とする。
【0059】
上記フッ素樹脂は、主鎖末端に、主鎖炭素数10
6個あたり0〜40個の不安定末端基を有していることが好ましい。上記不安定末端基の個数は、0〜20個であることがより好ましく、0個であることが更に好ましい。
【0060】
上記不安定末端基は、−COF基、−COOH基、−COOCH
3基、−CF=CF
2基、−OH基及びROCOO−基からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。ROCOO−基のRは、直鎖又は分岐のアルキル基であることが好ましく、上記アルキル基は炭素数が1〜15であってよい。
【0061】
上記不安定末端基の個数は、厚さ200μmのフィルムについて赤外スペクトル分析を行い、得られた赤外線吸収スペクトルにおける主鎖のCH
2基に起因する2900〜3100cm
−1に現れるピークの吸光度を1.0に規格化し、そのスペクトルに現れる不安定末端基に起因するピークの吸光度Aを求め、次式により算出する。係数Kは表1に示すとおりである。
主鎖炭素数10
6個当たりの不安定末端基の個数=K×A
【0063】
本発明のフッ素樹脂は、例えば、重合開始剤の存在下にビニリデンフルオライド及びテトラフルオロエチレンを重合することによりポリマーを得る工程、上記ポリマーをアミド化処理する工程、及び、上記ポリマーを超臨界流体と接触させる工程を含む製造方法により製造できる。この方法によれば、アミド化処理をしたり、加熱脱気したりするだけの方法よりも、202〜903の分子量を有する成分を高度に除去できる。
【0064】
上記アミド化処理は、重合により得られたポリマーを、アンモニア水、アンモニアガス又はアンモニアを生成しうる窒素化合物と接触させることにより行うことができる。上記アミド化処理により、ポリマー主鎖末端に−CONH
2基が生成する。
【0065】
重合により得られたポリマーにアンモニア水を添加することにより、ポリマーをアンモニア水と接触させることができる。上記アンモニア水としては、アンモニアの濃度が0.01〜28質量%であるものを使用することができ、接触時間は1分〜24時間であってよい。アンモニア水の濃度及び接触時間を調整することにより、−CONH
2基の個数を調整することができる。
【0066】
ポリマーをアンモニアガスと接触させる方法としては、反応容器内にポリマーを設置し、アンモニアガスを反応容器内に供給する方法が挙げられる。反応容器内へのアンモニアガスの供給は、アミド化に不活性な気体と混合して混合ガスとしてから行ってもよい。
【0067】
上記アミド化に不活性な気体としては特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。上記アンモニアガスは、混合ガスの1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、上記範囲内であれば、80質量%以下であってもよい。
【0068】
上記アミド化処理は、0℃以上、100℃以下で行うことが好ましく、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上であり、また、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。温度が高すぎるとポリマー等が分解したり、融着したりするおそれがあり、低すぎると処理に長時間を要する場合があり、生産性の点で好ましくない。
【0069】
上記アミド化処理の時間は、ポリマーの量にもよるが、通常、1分〜24時間程度である。
【0070】
上記ビニリデンフルオライド及びテトラフルオロエチレンの重合は、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等であってよいが、工業的に実施が容易である点で、乳化重合又は懸濁重合が好ましく、懸濁重合がより好ましい。
【0071】
上記重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤、または水溶性ラジカル開始剤を使用できる。
【0072】
油溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性の過酸化物であってよく、たとえばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジsec−ブチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシカーボネート類、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレートなどのパーオキシエステル類、ジt−ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類などが、また、ジ(ω−ハイドロ−ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω−ハイドロ−テトラデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω−ハイドロ−ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルバレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω−クロロ−ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω−クロロ−デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω−クロロ−テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω−ハイドロ−ドデカフルオロヘプタノイル−ω−ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル−パーオキサイド、ω−クロロ−ヘキサフルオロブチリル−ω−クロ−デカフルオロヘキサノイル−パーオキサイド、ω−ハイドロドデカフルオロヘプタノイル−パーフルオロブチリル−パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロドトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドのジ[パーフロロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類などが代表的なものとして挙げられる。
【0073】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の水溶性過酸化物であってよく、たとえば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸などのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、t−ブチルパーマレート、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどがあげられる。サルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤を過酸化物に組み合わせて使用してもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1〜20倍であってよい。
【0074】
上記重合開始剤としては、なかでも、ジアルキルパーオキシカーボネートが好ましく、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート及びジsec−ブチルパーオキシジカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0075】
上記の重合においては、界面活性剤、連鎖移動剤、及び、溶媒を使用することができ、それぞれ従来公知のものを使用することができる。
【0076】
上記界面活性剤としては、公知の界面活性剤が使用でき、例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが使用できる。なかでも、含フッ素アニオン性界面活性剤が好ましく、エーテル結合性酸素を含んでもよい(すなわち、炭素原子間に酸素原子が挿入されていてもよい)、炭素数4〜20の直鎖又は分岐した含フッ素アニオン性界面活性剤がより好ましい。添加量(対重合水)は、好ましくは50〜5000ppmである。
【0077】
上記連鎖移動剤としては、例えば、エタン、イソペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;メチルメルカプタンなどのメルカプタン類;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素などがあげられる。添加量は用いる化合物の連鎖移動定数の大きさにより変わりうるが、通常重合溶媒に対して0.01〜20質量%の範囲で使用される。
【0078】
上記溶媒としては、水、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0079】
上記懸濁重合では、水に加えて、フッ素系溶媒を使用してもよい。フッ素系溶媒としては、CH
3CClF
2、CH
3CCl
2F、CF
3CF
2CCl
2H、CF
2ClCF
2CFHCl等のハイドロクロロフルオロアルカン類;CF
2ClCFClCF
2CF
3、CF
3CFClCFClCF
3等のクロロフルオロアルカン類;パーフルオロシクロブタン、CF
3CF
2CF
2CF
3、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
3、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CF
3等のパーフルオロアルカン類等が挙げられ、なかでも、パーフルオロアルカン類が好ましい。フッ素系溶媒の使用量は、懸濁性及び経済性の面から、水性媒体に対して10〜100質量%が好ましい。
【0080】
また、重合溶媒に使用される水はイオン交換水を使用することが好ましく、その電気伝導度は10μS/cm以下で低いものほど好ましい。イオン分が多いと反応速度が安定しない場合がある。フッ素系溶媒においても製造工程において含まれる酸や塩素基を含有する化合物などの成分が極力少ない高純度の方が好ましい。酸分や塩素などを含有する化合物は連鎖移動性を有する場合があるので、重合速度や分子量を安定させるうえで好ましい。更に、重合で使用するその他原料(ビニリデンフルオライドやテトラフルオロエチレンなどのモノマー、開始剤、連鎖移動剤など)においても同様に連鎖移動性の成分がない純度100%の物を使用することが好ましい。反応の準備段階では、水を仕込んだ状態後、槽内を撹拌しながら気密試験を行った後、槽内を減圧、窒素微加圧、減圧を繰り返し、槽内の酸素濃度を1000ppm以下のできるだけ小さい酸素濃度まで下がったことを確認した後に、再び減圧しフッ素系溶媒、モノマー、などの原料を仕込んで反応を開始する方が、反応速度の安定化、分子量の調節には好ましい。
【0081】
反応終了後の残存モノマーの回収段階で残存モノマーが重合し低分子量体の発生が起こることがある。低分子量体の発生は成形時のスモークの発生や目ヤニの発生及び成形品の耐熱性を悪化させる要因となる。抑制方法として、残存する開始剤の活性を下げる目的で、回収温度をできるだけ下げることが望ましい。あるいは残存モノマーの反応を停止させるためにハイドロキノンやシクロヘキサンなどを投入することが有効である。
【0082】
重合温度としては特に限定されず、0〜100℃であってよい。重合圧力は、用いる溶媒の種類、量及び蒸気圧、重合温度等の他の重合条件に応じて適宜定められるが、通常、0〜9.8MPaGであってよい。
【0083】
上記製造方法では、上記ポリマーを超臨界流体と接触させる。上記ポリマーとしては、アミド化処理したポリマーであってよい。この工程において、上記ポリマーに含まれる分子量が202〜903である成分が抽出される。
【0084】
「超臨界流体」とは、温度Tおよび圧力Pが臨界点(臨界温度(Tc)及び臨界圧力(Pc)の双方)を超える条件下(P−T線図では、T>TcかつP>Pcである領域)にある流体を意味する。
【0085】
上記超臨界流体としては、特定の分子量を有する成分の抽出が円滑に進行することから、不活性ガスの超臨界流体が好ましく、窒素、アルゴン又は二酸化炭素の超臨界流体がより好ましく、二酸化炭素の超臨界流体が更に好ましい。
【0086】
上記不活性ガスは、標準環境温度および圧力下にて気体であり、温度および圧力条件によって超臨界流体となる。例えば二酸化炭素の超臨界流体とは、Tc=約31.1℃より高い温度およびPc=約7.38MPaより高い圧力条件下にある二酸化炭素をいう。また、窒素の超臨界流体とは、Tc=約−147℃より高い温度およびPc=約3.4MPaより高い圧力条件下にある窒素をいう。またアルゴンの超臨界流体とは、Tc=約−122℃より高い温度およびPc=約4.9MPaより高い圧力条件下にあるアルゴンをいう。
【0087】
上記超臨界流体の温度としては、臨界温度(Tc)を超えていれば特に限定されないが、特定の分子量を有する成分の抽出が極めて円滑に進行することから、60〜200℃が好ましく、100〜200℃がより好ましく、120℃〜180℃が更に好ましく、130℃〜160℃が最も好ましい。
【0088】
上記超臨界流体の圧力としては、臨界圧力(Pc)を超えていれば特に限定されないが、特定の分子量を有する成分の抽出が極めて円滑に進行することから、40〜200MPaが好ましく、60〜200MPaがより好ましく、90〜170MPaが更に好ましく、100〜150MPaが最も好ましい。
【0089】
上記超臨界流体の保持時間としては、特に限定されないが、0.1〜1000時間が好ましく、1〜500時間がより好ましく、3〜200時間が更に好ましく、24〜120時間が最も好ましい。
【0090】
上記超臨界流体の使用量としては、上記ポリマーの質量に対して10倍以上であることが好ましく、15〜200倍であることがより好ましい。
【0091】
上記接触の際に、炭化水素系溶媒、含フッ素系溶媒等のエントレーナーを使用してもよい。上記炭化水素系溶媒としては、エタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、ジメチルエーテル等のエーテル、ヘキサン等が挙げられる。上記エントレーナーの使用量としては、上記超臨界流体の1〜20質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
【0092】
上記ポリマーと上記超臨界流体との接触は、例えば、上記ポリマーを容器内に収容し、収容したポリマーをヒータ等の加熱手段により所望の温度にまで加熱し、上記容器内に上記不活性ガスを供給して容器内を所望の圧力まで昇圧し、所望の温度及び所望の圧力を適当な時間維持することにより実施できる。上記加熱と上記昇圧との順序は限定されない。
【0093】
上記超臨界流体との接触に供する上記ポリマーの形状は特に限定されず、粉末、ビーズ、ペレット等であってよいが、ペレットが好ましい。
【0094】
上記製造方法は、上記ポリマーと上記超臨界流体とを分離する工程を含むこともできる。上記接触を上記容器内で実施する場合は、上記超臨界流体を上記容器から排出することにより、上記ポリマーと上記超臨界流体とを分離して、本発明のフッ素樹脂を回収できる。
【0095】
上記製造方法は、アミド化処理したポリマーを洗浄及び乾燥する工程を含むこともできる。この工程は、例えば、上記ポリマーをアミド化処理した後に実施でき、上記ポリマーを上記超臨界流体と接触させる前に実施できる。上記洗浄及び乾燥は、公知の方法により実施できる。
【0096】
上記製造方法は、上記ポリマーを溶融押出してペレットを得る工程を含むことができる。この工程は、例えば、上記ポリマーを洗浄及び乾燥した後に実施でき、上記ポリマーを上記超臨界流体と接触させる前に実施できる。溶融押出によるペレット化工程時の温度は200℃〜370℃の範囲で適宜行うことが可能である。
【0097】
上記製造方法は、得られたペレットを加熱脱気する工程を含むこともできる。この工程は、例えば、上記ポリマーを上記超臨界流体と接触させる前に実施できる。
【0098】
加熱脱気温度の好ましい範囲は150℃以上から250℃以下である。より好ましい範囲は160℃以上から220℃以下である。更に好ましい範囲は170℃以上から200℃以下である。好ましい加熱脱気時間は3時間以上から50時間以下である。より好ましい加熱脱気時間は5時間以上から20時間以下である。さらに好ましい範囲は6時間以上から15時間以下である。
【0099】
加熱脱気させる設備は特に限定されるものではないが、一例を以下にあげる。ペレットをSUS製バットに入れたものを、熱風式電気炉に入れて行う方式、バットの底にペレットがすり抜けてこぼれないサイズの孔のあいたメッシュを使用する方式、バットの上にSUSメッシュの蓋する方式、SUS製などの円筒型の耐熱容器の中にペレットを入れておき、上下に温度管理した熱風を通過させることで内部の温度を保持する方式などがあげられる。なお一度加熱したものを更に温度を変えて除去効率を上げることもできる。一度ペレット化と加熱したものを、再度溶融してペレット化工程と加熱工程を繰り返すような方法もある。
【0100】
本発明のフッ素樹脂を製造するための特に好適な方法を例示すれば、重合開始剤の存在下にビニリデンフルオライド及びテトラフルオロエチレンを重合することによりポリマーを得る工程、重合により得られたポリマーをアミド化処理する工程、アミド化処理したポリマーを洗浄及び乾燥する工程、乾燥したポリマーを溶融押出してペレットを得る工程、得られたペレットを超臨界流体と接触させる工程、及び、上記ペレットと上記超臨界流体とを分離する工程を含む製造方法である。
【0101】
上述のフッ素樹脂及び202〜903の分子量を有する成分を含む組成物であって、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて、上記組成物のマススペクトルを測定して得られるクロマトグラムにおいて、202〜903の分子量を有する成分に由来するピークの強度が1000以下であることを特徴とする組成物も、高温高圧状態から急速に減圧してもブリスター及びクラックが発生しにくいという効果を奏する。
【0102】
上記組成物は、202〜903の分子量を有する成分に由来するピークの強度が1000以下であることを特徴とするものであるから、上記組成物には、上記ピークが全く観察されない組成物が含まれる。すなわち、上記組成物は、202〜903の分子量を有する成分を含まないものであってもよく、上記ピークの強度が0〜1000であるものであってよい。
【0103】
上述のフッ素樹脂及び上述の組成物は、いかなる形態であってもよく、水性分散液、粉末、ビーズ、ペレット等であってよいが、ペレットであることが好ましい。
【0104】
本発明のフッ素樹脂は、様々な成形体に成形することができ、得られる成形体は、高温下での機械的強度および耐薬品性、高温下での低透過性等に優れる。上記成形体は、高温高圧状態から急速に減圧してもブリスター及びクラックが発生しにくい。
【0105】
上記成形体の形状としては特に限定されず、例えば、ホース、パイプ、チューブ、シート、シール、ガスケット、パッキン、フィルム、タンク、ローラー、ボトル、容器等であってもよい。本発明のフッ素樹脂からなる成形体は、特にパイプであることが好適である。上記パイプは、高温高圧状態から急速に減圧してもブリスター及びクラックが発生しにくい。
【0106】
フッ素樹脂の成形方法は、特に限定されず、例えば、圧縮成形、押出し成形、トランスファー成形、射出成形、ロト成形、ロトライニング成形、静電塗装等が挙げられる。本発明のフッ素樹脂をパイプに成形する場合は、押出し成形が好ましい。好ましい成形温度は200〜350℃である。
【0107】
本発明のフッ素樹脂に、充填剤、可塑剤、加工助剤、離型剤、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤、脱フッ化水素剤などを混合した後、成形してもよい。充填剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、マイカ、シリカ、タルク、セライト、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム等があげられる。導電剤としてはカーボンブラック等があげられる。可塑剤としては、ジオクチルフタル酸、ペンタエリスリトール等があげられる。加工助剤としては、カルナバワックス、スルホン化合物、低分子量ポリエチレン、フッ素系助剤等があげられる。脱フッ化水素剤としては有機オニウム、アミジン類等があげられる。
【0108】
本発明のフッ素樹脂は、海底油田又はガス田において海底から海面上に物資を輸送するパイプに好適に使用できる。海底油田で使用されるパイプには、ライザー(原油汲み上げ)、ウンビリカル(汲み上げのコントロール用で原油粘度低下用の薬液の仕込み用の配管やパワーケーブル等を一つのパイプにまとめたもの)、フローライン(汲み上げた原油を海底に這わせて移送する配管)等があり、また、それらの構造も金属のみの配管、金属/樹脂ハイブリッドの配管等が知られているが、そのいずれにも好適に使用できる。パイプ内側を流れる物資としては、原油、石油ガス、天然ガス等の流体が挙げられる。
また、地中、地上、海底を問わず、原油や天然ガスの流体移送金属配管の最内面および最外面のコーティング材料、ライニング材料としても好適に使用できる。最内面にコーティング、ライニングする目的は原油や天然ガス中には金属配管の腐食の原因となる二酸化炭素や硫化水素が含まれており、これをバリアーし、金属配管の腐食を抑制したり、高粘度の原油の流体摩擦を低減したりするためである。最外面も同じく海水や酸性水等による腐食を抑制するためである。最内面、最外面にライニング、コーティングする際には本発明のフッ素樹脂の剛性や強度をさらに向上させるために、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド樹脂、マイカ、シリカ、タルク、セライト、クレー、酸化チタン等を充填してもよい。また、金属と接着させるため接着剤を使用したり金属表面を荒らしたりする処理を施してもよい。
更に、以下の成形体の成形材料としても好適に利用できる。
【0109】
上記成形体としては、例えば、
食品包装用フィルム、食品製造工程で使用する流体移送ラインのライニング材、パッキン、シール材、シート等の食品製造装置用流体移送部材;
薬品用の薬栓、包装フィルム、薬品製造工程で使用される流体移送ラインのライニング材、パッキン、シール材、シート等の薬液移送部材;
化学プラントや半導体工場の薬液タンクや配管の内面ライニング部材;
自動車の燃料系統並びに周辺装置に用いられるO(角)リング・チューブ・パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材等、自動車のAT装置に用いられるホース、シール材等の燃料移送部材;
自動車のエンジン並びに周辺装置に用いられるキャブレターのフランジガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、シール材、ホース等、自動車のブレーキホース、エアコンホース、ラジエーターホース、電線被覆材等のその他の自動車部材;
半導体製造装置のO(角)リング、チューブ、パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材、ロール、ガスケット、ダイヤフラム、継手等の半導体装置用薬液移送部材;
塗装設備用の塗装ロール、ホース、チューブ、インク用容器等の塗装・インク用部材;
飲食物用のチューブ又は飲食物用ホース等のチューブ、ホース、ベルト、パッキン、継手等の飲食物移送部材、食品包装材、ガラス調理機器;
廃液輸送用のチューブ、ホース等の廃液輸送用部材;
高温液体輸送用のチューブ、ホース等の高温液体輸送用部材;
スチーム配管用のチューブ、ホース等のスチーム配管用部材;
船舶のデッキ等の配管に巻き付けるテープ等の配管用防食テープ;
電線被覆材、光ファイバー被覆材、太陽電池の光起電素子の光入射側表面に設ける透明な表面被覆材および裏面剤等の各種被覆材;
ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン類等の摺動部材;
農業用フィルム、各種屋根材・側壁等の耐侯性カバー;
建築分野で使用される内装材、不燃性防火安全ガラス等のガラス類の被覆材;
家電分野等で使用されるラミネート鋼板等のライニング材;
等が挙げられる。
【0110】
上記自動車の燃料系統に用いられる燃料移送部材としては、更に、燃料ホース、フィラーホース、エバポホース等が挙げられる。上記燃料移送部材は、耐サワーガソリン用、耐アルコール燃料用、耐メチルターシャルブチルエーテル・耐アミン等ガソリン添加剤入燃料用の燃料移送部材として使用することもできる。
【0111】
上記薬品用の薬栓・包装フィルムは、酸等に対し優れた耐薬品性を有する。また、上記薬液移送部材として、化学プラント配管に巻き付ける防食テープも挙げることができる。
【0112】
上記成形体としては、また、自動車のラジエータタンク、薬液タンク、ベロース、スペーサー、ローラー、ガソリンタンク、廃液輸送用容器、高温液体輸送用容器、漁業・養魚タンク等が挙げられる。
【0113】
上記成形体としては、更に、自動車のバンパー、ドアトリム、計器板、食品加工装置、調理機器、撥水撥油性ガラス、照明関連機器、OA機器の表示盤・ハウジング、電照式看板、ディスプレイ、液晶ディスプレイ、携帯電話、プリント基盤、電気電子部品、雑貨、ごみ箱、浴槽、ユニットバス、換気扇、照明枠等に用いられる部材も挙げられる。
【0114】
上記フッ素樹脂からなる粉体塗料も有益な態様の一つである。上記粉体塗料は、平均粒子径が10〜500μmであってよい。平均粒子径はレーザー回析式粒度分布測定機を用いて測定できる。上記粉体塗料を静電塗装により基材の上に吹きつけた後、焼成することにより、高温高圧状態から急速に減圧してもブリスター及びクラックが発生しにくい塗膜を得ることができる。
【実施例】
【0115】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0116】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0117】
フッ素樹脂の単量体組成
核磁気共鳴装置AC300(Bruker−Biospin社製)を用い、測定温度を(ポリマーの融点+20)℃として
19F−NMR測定を行い、各ピークの積分値およびモノマーの種類によっては元素分析を適宜組み合わせて求めた。
【0118】
融点
示差走査熱量計RDC220(Seiko Instruments社製)を用い、ASTM D−4591に準拠して、昇温速度10℃/分にて熱測定を行い、得られた吸熱曲線のピークから融点を求めた。
【0119】
メルトフローレート〔MFR〕
MFRは、ASTM D3307−01に準拠し、メルトインデクサー(東洋精機社製)を用いて、297℃、5kg荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)をMFRとした。
【0120】
熱分解開始温度(1%質量減温度)
熱分解開始温度は、示差熱・熱重量測定装置TG−DTA 6200(日立ハイテクサイエンス社製)を用いてフッ素樹脂10mgを測定に用いた。空気雰囲気化で10℃/minで昇温し、加熱試験に供したフッ素樹脂の質量が1質量%減少する時の温度を熱分解開始温度とした。
【0121】
フッ素樹脂の−CONH
2基(アミド基)の個数の求め方
フッ素樹脂の各粉末(またはペレット)の切断片を室温で圧縮成形し、厚さ200μm(±5μm)のフィルムを作成した。これらのフィルムの赤外吸収スペクトル分析を行った。Perkin−Elmer SpectrumVer3.0を用いて128回スキャンして、得られたIRスペクトルを解析し、ピークの吸光度を測定した。
また、フィルムの厚さはマイクロメーターにて測定した。
得られた赤外線吸収スペクトルにおける主鎖のCH
2基に起因する2900〜3100cm
−1に現れるピークの吸光度を1.0に規格化した。
そのスペクトルの3400〜3470cm
−1付近に現れるアミド基(−CONH
2)のNH結合に起因するピークの吸光度を求める。自動でベースラインを判定させ、ピーク高さAをピーク吸光度として求める。アミド基(−CONH
2)由来のピークの吸光度Aを用いて、次式により、炭素数10
6個あたりのアミド基の個数(個)を求める。
炭素数10
6個あたりのアミド基の個数=K×A
A:アミド基(−CONH
2)由来のピークの吸光度
K:係数 4258
【0122】
(RGD試験用サンプル調製方法)
得られたペレットを原料に用いて押出成形を行い、外径90mm、厚み6mmのパイプサンプルを作製し、2.5cm×5cmに切削を行いRGD試験用サンプルを得た。
【0123】
(RGD試験)
RGD試験用サンプルを耐圧容器に入れ、CO
2/CH
4=10%/90%の混合ガスで15kpsi、170℃まで昇圧昇温を行い、1週間平衡状態になるまで保持し、その後70bar/minで脱圧を行った。試験後のサンプルについてブリスター及びクラックが発生していなければ合格である。
【0124】
(ガスクロマトグラフィー質量分析法による分析)
ヘッドスペースサンプリングGC/MS測定を行った。すなわち、ペレット0.50gを6.0mLバイアル中に密閉し、温度200℃で30分間加熱後、すぐに気相部を2.0mLシリンジに採取し、GC/MS(Agilent 5977A(アジレント・テクノロジー社製))を測定した。
GC/MS測定条件は以下に示す測定条件で行った。
カラム:DB−624(アジレント・テクノロジー社製)
カラム長:60m、内径:320μm、膜厚:1.8μm
注入口温度:250℃
使用ガス種:ヘリウム
流量:1.4mL/min
オーブン温度:初期50℃で5分保持。その後10℃/minで250℃まで昇温し最後5分保持。
質量分析:m/z=10〜600までのスキャン測定
イオン化法:EI
相対強度の計算はm/z=51のMSクロマトグラムの各ピーク高さを用いて行った。
【0125】
実施例1
3000L容積のオートクレーブに蒸留水900Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン674kgを仕込み、系内の温度を35℃、攪拌速度200rpmに保った。次いで、CH
2=CHCF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
3207g、テトラフルオロエチレン(TFE)62.0kgおよびビニリデンフルオライド(VDF)18.1kgを順次仕込んだ後、重合開始剤ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート〔NPP〕の50質量%メタノール溶液を2.24kg添加して重合を開始した。重合開始と同時に酢酸エチルを2.24kg仕込んだ。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、TFE/VDF混合ガスモノマー(TFE/VDF:60.2/39.8(モル%))を仕込み、また追加する混合ガス100部に対してCH
2=CHCF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
3を1.21部になるように同時に仕込み、系内圧力を0.8MPaに保った。最終的に混合ガスモノマーの追加仕込み量が110kgになった時点で重合を停止し、放圧して大気圧に戻した後、得られたTFE/VDF/CH
2=CHCF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
3共重合体を0.8質量%アンモニア水に80℃で1時間接触した後、水洗、乾燥して102kgの粉末を得た。
【0126】
次いでφ50mm単軸押出し機を用いてシリンダー温度290℃で溶融押出を行い、ペレットを得た。
【0127】
得られたペレットは以下の組成及び物性を有していた。
TFE/VDF/CH
2=CHCF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CF
3=60.1/39.6/0.3(モル%)
融点:218℃
MFR:1.7g/10min(297℃−5kg)
熱分解開始温度(1%質量減温度):388℃
炭素数10
6個あたりのアミド基の個数:97個
【0128】
得られたペレット100gを容器に充填し、液体二酸化炭素を供給した後に容器内の圧力を100MPa、温度を130℃に設定した。容器内で二酸化炭素は超臨界状態であった。その状態で120時間放置してペレット内の低分子量成分を十分抽出した。ガスクロマトグラフィー質量分析法による分析を行い、トータルイオンクロマトグラムを得た。202〜903の分子量を有する成分に由来するピークの強度を表2に示す。
【0129】
実施例2
容器内の放置時間を24時間に変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0130】
実施例3
容器内の圧力を140MPa、温度を150℃に設定した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0131】
実施例4
容器内の放置時間を24時間に変更した以外は実施例3と同様の操作を行った。
【0132】
【表2】