特許第6705537号(P6705537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許6705537積層体用液晶ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂組成物、積層体および液晶ポリエステル樹脂フィルム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705537
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】積層体用液晶ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂組成物、積層体および液晶ポリエステル樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/02 20060101AFI20200525BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20200525BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C08G63/02
   B32B27/36
   C08J5/18CFD
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-141965(P2019-141965)
(22)【出願日】2019年8月1日
(65)【公開番号】特開2020-33544(P2020-33544A)
(43)【公開日】2020年3月5日
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2018-155145(P2018-155145)
(32)【優先日】2018年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小西 彬人
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−21063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/02
B32B 27/36
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する絶対分子量10000以下の部分の面積分率が12〜40%であり、かつ絶対分子量50000以上の部分の面積分率が3〜17%である積層体用液晶ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記液晶ポリエステル樹脂は、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して、炭素数2〜4の脂肪族ジオールに由来する構造単位を3〜40モル%含む、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記液晶ポリエステル樹脂は、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を15〜80モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を3〜20モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を7〜40モル%含む、請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂および溶媒を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステル樹脂100重量部に対し、前記溶媒を100〜10000重量部含有する液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂からなる液晶ポリエステル樹脂フィルム。
【請求項6】
支持体および樹脂層が積層された積層体であって、請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂からなる樹脂層の少なくとも一方の面に、支持体が積層された積層体。
【請求項7】
前記支持体が金属箔である、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
請求項4に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を、支持体上に塗布した後、溶媒を除去する、積層体の製造方法。
【請求項9】
前記支持体が金属箔である、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法によって得られた積層体から、支持体を除去することにより液晶ポリエステル樹脂フィルムを得る、液晶ポリエステル樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体用液晶ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂組成物、積層体および液晶ポリエステル樹脂フィルムに関する。より詳しくは、銅箔などの支持体と樹脂フィルムを貼り合わせた積層体の製造に適した液晶ポリエステル樹脂および液晶ポリエステル樹脂組成物、ならびに、それを用いて得られる積層体および液晶ポリエステル樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル樹脂は、液晶構造を有するため、耐熱性、流動性および寸法安定性に優れる。このため、それらの特性が要求される電気・電子部品用途を中心に需要が拡大している。特に近年の機器の高性能化に伴い、上記部品の小型化や薄肉化が進んでいる。なかでも、フレキシブルプリント配線板などに使用される、銅箔などの金属と樹脂フィルムを貼り合わせた積層体は、極めて薄く、かつ、可とう性を有することから、空間的な自由度が大きく、立体的高密度の実装が可能であるため、スマートフォンに代表される携帯端末などの電子機器の小型軽量化に欠かせない存在であり、用途が拡大している。
【0003】
液晶ポリエステル樹脂をこのような積層体に用いた例としては、例えば、芳香族アミン誘導体由来の構造単位を含む芳香族液晶ポリエステルと非プロトン性溶媒とを含有してなる溶液組成物を支持体に流延した後、溶媒を除去して得られる芳香族液晶ポリエステルフィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような用途に用いられる液晶ポリエステル樹脂の要求特性として金属密着性がある。金属密着性を向上させた液晶ポリエステル樹脂としては、エチレングリコール単位を多く含む液晶ポリエステル樹脂を配合した液晶ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)、高温雰囲気下でのガス量が一定以下である液晶性樹脂(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−238915号公報
【特許文献2】特開2002−294039号公報
【特許文献3】特開2006−89714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載された液晶ポリエステル樹脂からなるフィルムは、芳香族アミン誘導体由来の構造単位に由来する発生ガスが多いことなどから、金属密着性や引張特性が不十分であった。また、前記特許文献2に記載された液晶ポリエステル樹脂組成物や、前記特許文献3に記載された液晶性樹脂は、金属密着性が向上するもののなお十分ではなく、さらに引張特性についても十分ではなかった。
【0006】
本発明の課題は、金属密着性および引張特性に優れるフィルムを得ることのできる積層体用液晶ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂組成物、それからなる液晶ポリエステル樹脂フィルムおよび該樹脂組成物を用いた積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の分子量分布を有する積層体用液晶ポリエステル樹脂により、金属密着性および引張特性に優れるフィルムを得ることのできることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである:
(1)ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する絶対分子量10000以下の部分の面積分率が12〜40%であり、かつ絶対分子量50000以上の部分の面積分率が3〜17%である積層体用液晶ポリエステル樹脂。
(2)上記の液晶ポリエステル樹脂および溶媒を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステル樹脂100重量部に対し、前記溶媒を100〜10000重量部含有する液晶ポリエステル樹脂組成物。
(3)上記の液晶ポリエステル樹脂からなる液晶ポリエステル樹脂フィルム。
(4)支持体および樹脂層が積層された積層体であって、上記の液晶ポリエステル樹脂からなる樹脂層の少なくとも一方の面に、支持体が積層された積層体。
(5)上記の液晶ポリエステル樹脂組成物を、支持体上に塗布した後、溶媒を除去する、積層体の製造方法。
(6)上記の方法によって得られた積層体から、支持体を除去することにより液晶ポリエステル樹脂フィルムを得る、液晶ポリエステル樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層体用液晶ポリエステル樹脂によれば、金属密着性および引張特性に優れるフィルムを得ることができる。かかる樹脂は、電気・電子部品や機械部品内のフレキシブルプリント配線板や半導体パッケージなどに使用される積層体に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<積層体用液晶ポリエステル樹脂>
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、異方性溶融相を形成するポリエステルである。このようなポリエステル樹脂としては、例えば、後述するオキシカルボニル単位、ジオキシ単位、ジカルボニル単位などから異方性溶融相を形成するよう選ばれた構造単位から構成されるポリエステルなどが挙げられる。
【0012】
次に、液晶ポリエステル樹脂を構成する構造単位について説明する。
【0013】
オキシカルボニル単位の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸などに由来する構造単位が挙げられる。金属密着性および引張特性に優れるフィルムを得ることができる観点から、オキシカルボニル単位としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸から生成した構造単位が好ましく、p−ヒドロキシ安息香酸または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する構造単位がより好ましく、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位が特に好ましい。
【0014】
ジオキシ単位の具体例としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシノール、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンなどの芳香族ジオールから生成した構造単位;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオールから生成した構造単位;1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオールから生成した構造単位などが挙げられる。金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、ジオキシ単位としては、エチレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニルまたはハイドロキノンから生成した構造単位が好ましく、エチレングリコールまたは4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位が特に好ましい。
【0015】
ジカルボニル単位の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸から生成した構造単位などが挙げられる。金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、ジカルボニル単位としては、芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位が好ましく、中でもテレフタル酸またはイソフタル酸から生成した構造単位が特に好ましい。
【0016】
また、液晶ポリエステル樹脂には、上記構造単位に加えて、p−アミノ安息香酸、p−アミノフェノールなどから生成した構造単位を、液晶性や特性を損なわない程度の範囲でさらに有することができる。
【0017】
上記の各構造単位を構成する原料となるモノマーは、各構造単位を形成しうる構造であれば特に限定されない。また、そのようなモノマーの水酸基のアシル化物、カルボキシル基のエステル化物、酸ハロゲン化物、酸無水物などのカルボン酸誘導体などが使用されてもよい。
【0018】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、液晶性を発現したうえで、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を15モル%以上含むことが好ましい。より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上である。一方、不融物の生成を抑制し、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を80モル%以下含むことが好ましい。より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下である。
【0019】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、液晶性を発現したうえで、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジオールに由来する構造単位を3モル%以上含むことが好ましい。より好ましくは4モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上である。一方、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、芳香族ジオールに由来する構造単位を20モル%以下含むことが好ましい。より好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
【0020】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、液晶性を発現したうえで、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を7モル%以上含むことが好ましい。より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは12モル%以上である。一方、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を40モル%以下含むことが好ましい。より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下である。
【0021】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、後述する溶媒への溶解性に優れ、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して、炭素数2〜4の脂肪族ジオールに由来する構造単位を3モル%以上含むことが好ましい。より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上である。一方、液晶性を発現したうえで、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、炭素数2〜4の脂肪族ジオールに由来する構造単位を40モル%以下含むことが好ましい。より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下である。
【0022】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、前記液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対する、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位とテレフタル酸に由来する構造単位との合計が60モル%以上であることが好ましい。より好ましくは65モル%以上、さらに好ましくは68モル%以上である。一方、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位とテレフタル酸に由来する構造単位との合計の上限は100モル%であるが、液晶ポリエステル樹脂の結晶性を制御することで、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、90モル%以下であることが好ましい。より好ましくは85モル%以下である。また、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位とテレフタル酸に由来する構造単位は、いずれか一方の構造単位を有し、もう一方の構造単位が0モル%であってもよいが、それぞれが0モル%を超えることが好ましい。
【0023】
また、液晶ポリエステル樹脂の分子量分布を後述する好適な範囲に制御し、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、ジオール単位に由来する構造単位の割合が、ジカルボニル単位に由来する構造単位に対し、1.01〜1.07であることが好ましい。
【0024】
本発明の液晶ポリエステル樹脂について、各構造単位の含有量の算出法を以下に示す。まず、液晶ポリエステル樹脂をNMR(核磁気共鳴)試料管に量りとり、液晶ポリエステル樹脂が可溶な溶媒(例えば、ペンタフルオロフェノール/重テトラクロロエタン−d混合溶媒)に溶解する。次に、得られた溶液について、H−NMRスペクトル測定を行い、各構造単位由来のピークの面積比から算出することができる。
【0025】
本発明の液晶ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、耐熱性の観点から200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、280℃以上がさらに好ましく、300℃以上が特に好ましい。一方、溶解性に優れ、金属密着性および引張特性に優れる観点から、液晶ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、360℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、340℃以下がさらに好ましい。
【0026】
融点(Tm)の測定は、示差走査熱量測定により行う。具体的には、まず、重合を完了したポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm)を観測する。吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、吸熱ピーク温度(Tm)+20℃の温度でポリマーを5分間保持する。その後、20℃/分の降温条件で室温までポリマーを冷却する。そして、20℃/分の昇温条件でポリマーを加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm)を観測する。本発明における融点(Tm)とは、2回目の昇温過程における該吸熱ピーク温度(Tm)を指す。
【0027】
本発明の液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、強度に優れることで、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、1Pa・s以上が好ましく、3Pa・s以上がより好ましく、5Pa・s以上がさらに好ましい。一方、後述する組成物とする際に、液晶ポリエステル樹脂の溶解性に優れる観点や、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、35Pa・s以下が好ましく、20Pa・s以下が好ましく、10Pa・s以下がさらに好ましい。
【0028】
なお、この溶融粘度は、液晶ポリエステル樹脂の融点(Tm)+10℃の温度で、かつ、せん断速度1000/秒の条件下で、高化式フローテスターによって測定した値である。
【0029】
発明者らは、液晶ポリエステル樹脂の分子量分布が、ある程度広いことによって、金属密着性および引張特性に優れるフィルムを得ることができることを見出した。
【0030】
具体的には、本発明の液晶ポリエステル樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布の全ピーク面積100%に対する絶対分子量10000以下の部分の面積分率が10〜40%である。絶対分子量10000以下の面積分率が10%未満であると、後述する組成物とする際に、液晶ポリエステル樹脂の溶解性が大幅に低下する。液晶ポリエステル樹脂の末端基が減少することで、フィルムにした場合の金属密着性が大幅に低下する。金属密着性に優れたフィルムが得られることから、絶対分子量10000以下の部分の面積分率は、12%以上がより好ましく、13%以上がさらに好ましい。一方、絶対分子量10000以下の面積分率が40%より大きいと、フィルムにした場合に脆くなり、金属密着性および引張特性が大幅に低下する。金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。
【0031】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法により測定される絶対分子量の分子量分布の全ピーク面積100%に対し、絶対分子量50000以上の部分の面積分率が3〜20%である。絶対分子量50000以上の面積分率が3%未満であると、フィルムにした場合に脆くなり、金属密着性および引張特性が大幅に低下する。金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、絶対分子量50000以上の部分の面積分率は、5%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましい。一方、絶対分子量50000以上の面積分率が20%より大きいと、後述する組成物とする際に、液晶ポリエステル樹脂の溶解性が大幅に低下する。また、液晶ポリエステル樹脂の末端基が減少することで、フィルムにした場合の金属密着性が大幅に低下するほか、特に引張伸度における引張特性が大幅に低下する。金属密着性に優れたフィルムが得られることから、絶対分子量50000以上の部分の面積分率は、17%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
【0032】
本発明の液晶ポリエステル樹脂の絶対数平均分子量は、フィルムの強度が向上するため、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、3000以上が好ましく、5000以上がより好ましく、7000以上がさらに好ましい。また、液晶ポリエステル樹脂の溶解性が向上する観点や、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、絶対数平均分子量は、17000以下が好ましく、15000以下がより好ましく、13000以下がさらに好ましい。
【0033】
本発明の液晶ポリエステル樹脂の絶対重量平均分子量は、フィルムの強度が向上するため、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、10000以上が好ましく、13000以上がより好ましく、15000以上がさらに好ましい。また、液晶ポリエステル樹脂の溶解性が向上する観点や、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、絶対重量平均分子量は、40000以下が好ましく、37000以下がより好ましく、35000以下がさらに好ましい。
【0034】
本発明の液晶ポリエステル樹脂の絶対重量平均分子量を、絶対数平均分子量で除した値である多分散度は、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、2.2以上が好ましく、2.3以上がより好ましく、2.4以上がさらに好ましい。また、金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、多分散度は、3.5以下が好ましく、3.3以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。
【0035】
なお、絶対分子量は、液晶ポリエステル樹脂が可溶な溶媒を溶離液として使用してGPC/光散乱法(ゲル浸透クロマトグラフ/光散乱法)により測定することが可能である。液晶ポリエステルが可溶な溶媒としては、例えば、ハロゲン化フェノール類、ハロゲン化フェノールと一般有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。好ましくはペンタフルオロフェノール、またはペンタフルオロフェノールとクロロホルムの混合溶媒であり、なかでもハンドリング性の観点からペンタフルオロフェノール/クロロホルム混合溶媒が特に好ましい。
【0036】
なお、本発明の液晶ポリエステル樹脂が、絶対分子量10000以下や50000以上の面積分率を上記の好適な範囲に制御するには、以下の(A)〜(C)の方法が挙げられる。
【0037】
(A)液晶ポリエステル樹脂を製造する際のフェノール性水酸基のアセチル化反応において、内温140℃〜145℃でのアセチル化反応時間を40〜100分とする方法。
【0038】
(B)液晶ポリエステル樹脂を製造する際に、無水酢酸の量を、液晶ポリエステル樹脂原料のフェノール性水酸基の合計の1.00〜1.08モル当量とする方法。
【0039】
(C)液晶ポリエステル樹脂のジオール単位に由来する構造単位の割合を、ジカルボニル単位に由来する構造単位に対し、1.01〜1.07とする方法。
【0040】
上記の方法により、重合速度を制御することで分子量分布を制御することができ、絶対分子量10000以下や50000以上の面積分率を上記の好適な範囲に制御できる。なかでも、(A)の方法が好ましい。
【0041】
<積層体用液晶ポリエステル樹脂の製造方法>
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂を製造する方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、テレフタル酸に由来する構造単位、およびエチレングリコールに由来する構造単位からなる液晶ポリエステル樹脂を例にすると、以下の方法が挙げられる。
【0042】
(1)p−アセトキシ安息香酸、4,4’−ジアセトキシビフェニルとテレフタル酸、およびポリエチレンテレフタレ―トのポリマーもしくはオリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートから脱酢酸重縮合反応によって液晶ポリエステル樹脂を製造する方法。
【0043】
(2)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸、およびポリエチレンテレフタレ―トなどのポリエステルのポリマーもしくはオリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートに無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶ポリエステル樹脂を製造する方法。
【0044】
(3)(1)または(2)の製造方法において出発原料の一部に特開平3−59024号公報のように1,2−ビス(4−ヒドロキシベンゾイル)エタンを用いる方法。
【0045】
なかでも(2)の方法が、液晶ポリエステル樹脂の重合度の制御に工業的に優れる点から、好ましく用いられる。
【0046】
上記(2)の方法で製造する場合、液晶ポリエステル樹脂の分子量分布を上述の好適な範囲に制御することが容易であり、金属密着性および引張特性に優れる観点から、無水酢酸の量は、液晶ポリエステル樹脂原料のフェノール性水酸基の合計の1.00〜1.08モル当量であることが好ましく、1.02〜1.08モル当量であることがより好ましい。
【0047】
また、フェノール性水酸基のアセチル化反応において、重合速度が遅くなるように制御することで、得られる液晶ポリエステル樹脂の分子量分布を広くなるように制御することができる。重合速度を適度に遅く制御することで、得られる液晶ポリエステル樹脂における絶対分子量10000以下の部分や絶対分子量50000以上の部分の面積分率を上記の好適な範囲に制御する観点から、内温140℃〜145℃でのアセチル化反応時間を110分以下とすることが好ましい。より好ましくは100分以下、さらに好ましくは90分以下である。一方で、重合速度が過度に遅くなりすぎない程度に制御することで、得られる液晶ポリエステル樹脂における絶対分子量10000以下の部分や絶対分子量50000以上の部分の面積分率を上記の好適な範囲に制御する観点から、内温140〜145℃でのアセチル化反応時間を40分以上とすることが好ましい。より好ましくは45分以上、さらに好ましくは50分以上である。なお、アセチル化反応が効率よく進行する温度が内温140℃以上であり、副生成物である酢酸が留出しはじめる温度が内温145℃であることから、内温140〜145℃でのアセチル化反応に着目した。
【0048】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂の製造方法として、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。固相重合法による処理としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、液晶ポリエステル樹脂のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕する。粉砕したポリマーまたはオリゴマーを、窒素気流下、または、減圧下において加熱し、所望の重合度まで重縮合することで、反応を完了させる。上記加熱は、液晶ポリエステルの融点−50℃〜融点−5℃(例えば、200〜300℃)の範囲で1〜50時間行うことが好ましい。
【0049】
液晶ポリエステル樹脂の重縮合反応は、無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどを触媒として使用することもできる。
【0050】
<液晶ポリエステル樹脂組成物>
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、溶媒に対する溶解性に優れる点から、液晶ポリエステル樹脂および溶媒を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物として種々の用途に用いることができる。液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂が溶け残っている状態、液晶ポリエステル樹脂が完全に溶解して液状となっている状態、および液晶ポリエステル樹脂が溶解した後に溶液が冷却されることにより固化した状態のいずれの状態であってもよい。
【0051】
かかる組成物を製造する方法について説明する。液晶ポリエステル樹脂組成物の製造に用いる溶媒としては、液晶ポリエステル樹脂を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ハロゲン化フェノール類、ハロゲン化アルコール、および上記溶媒と一般有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。ハロゲン化フェノールとしては、2−クロロフェノール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール、2,4,6−トリクロロフェノール、2−フルオロフェノール、3−フルオロフェノール、4−フルオロフェノール、2,4,6−トリフルオロフェノール、3,4,5−トリフルオロフェノール、2,3,4−トリフルオロフェノール、2,3,5,6−テトラフルオロフェノール、2,3,4,5−テトラフルオロフェノール、ペンタフルオロフェノールなどが挙げられ、ハロゲン化アルコールとしては、ヘキサフルオロイソプロパノールが挙げられる。溶解性の点から、ベンゼン環に結合した水素原子が3つ以上フッ素原子に置換されたフェノールを最も多く含むことが好ましく、ペンタフルオロフェノールを最も多く含むことがより好ましい。
【0052】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、溶液粘度を高すぎない程度に制御し、支持体等に塗布する際に均一に塗布でき、フィルムとした場合に金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して溶媒100重量部以上を含有することが好ましい。より好ましくは150重量部以上、さらに好ましくは200重量部以上である。一方、溶液粘度を確保することで、支持体等に塗布する際に均一に塗布でき、フィルムとした場合に金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して溶媒10000重量部以下を含有することが好ましい。より好ましくは5000重量部以下、さらに好ましくは2000重量部以下である。
【0053】
前記の液晶ポリエステル樹脂組成物を必要に応じて、フィルターなどによってろ過し、組成物中に含まれる微細な異物を除去してもよい。
【0054】
<充填材>
本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の積層体用液晶ポリエステル樹脂、または液晶ポリエステル樹脂組成物に公知の充填材、添加剤等を含有させてもよい。
【0055】
充填材としては、例えば、繊維状充填材、ウィスカー状充填材、板状充填材、粉末状充填材、粒状充填材などの充填材を挙げることができる。具体的には、繊維状充填材またはウィスカー状充填材としては、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、および針状酸化チタンなどが挙げられる。板状充填材としては、マイカ、タルク、カオリン、ガラスフレーク、クレー、二硫化モリブデン、およびワラステナイトなどが挙げられる。粉状または粒状の充填材としては、シリカ、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などが挙げられる。上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、充填材は2種以上を併用してもよい。
【0056】
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ハイドロキノン、ホスファイト、チオエーテル類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料または顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてのカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤から選択される通常の添加剤を配合することができる。
【0057】
<液晶ポリエステル樹脂フィルムおよび積層体>
本発明の積層体用液晶ポリエステル樹脂や液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂フィルムや積層体を製造するための原料として用いることができる。
【0058】
本発明の液晶ポリエステル樹脂フィルムは、本発明の液晶ポリエステル樹脂からなるものである。液晶ポリエステル樹脂フィルムは、例えば、下記(I)または(II)の方法で製造することができる。
【0059】
(I)本発明の液晶ポリエステル樹脂を、例えば一軸押出機、二軸押出機、ベント押出機、タンデム押出機などにより支持体上に溶融押出して積層体を得た後、得られた積層体から支持体を除去する方法。
【0060】
(II)本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を、支持体上に塗布し、溶媒を除去して積層体を得た後、得られた積層体から支持体を除去する方法。
【0061】
液晶ポリエステル樹脂特有の異方性を低減し、フィルムの金属密着性および引張特性に優れるフィルムが得られる観点や、簡便な操作で本発明の液晶ポリエステル樹脂フィルムを得ることができる観点から、(II)の方法が好ましい。
【0062】
また、本発明の積層体は、支持体および樹脂層が積層された積層体であって、本発明の液晶ポリエステル樹脂からなる樹脂層の少なくとも一方の面に、支持体が積層された積層体である。積層体は、例えば、下記(III)〜(VI)の方法で製造することができる。
【0063】
(III)本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を、支持体上に塗布した後に、溶媒を除去する方法。
【0064】
(IV)上記(I)または(II)の方法により製造されたフィルムを加熱圧着により支持体に貼付する方法。
【0065】
(V)上記(I)または(II)の方法により製造されたフィルムと支持体とを接着剤により貼付する方法。
【0066】
(VI)上記(I)または(II)の方法により製造されたフィルム上に支持体を蒸着により形成する方法。
【0067】
容易に、均一な膜厚の樹脂層を形成することができ、かつ支持体が金属箔である場合に樹脂層と金属箔との密着性が高い積層体を得ることができ、引張特性にも優れる観点から、(III)の方法が好ましい。
【0068】
上記(II)〜(VI)の方法に使用する支持体としては、特に制約は無く、金属箔、ガラス基板、高分子フィルムなどから選ばれる。(II)および(III)の方法に用いられる支持体においては、使用する溶媒に対して耐性があることが重要である。支持体は金属箔、ガラス基板、高分子フィルムなどの単体であっても、これらの複合素材であってもよい。高分子フィルムとしては、絶縁性を有するポリイミドフィルム、液晶ポリエステルフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
【0069】
上記(III)〜(V)の方法において、支持体が金属箔である場合や、上記(VI)の方法において、支持体が金属層である場合に使用される金属としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられる。フレキシブルプリント配線板用途などでは銅が好ましい。
【0070】
以下、上記(III)の方法により積層体を製造する方法を説明する。
【0071】
支持体上に液晶ポリエステル樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコーター法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法等の各種手段が挙げられる。これらの手段によって液晶ポリエステル樹脂組成物を、支持体上に平坦かつ均一に流延して塗膜を形成する。
【0072】
続いて、塗膜中の溶媒を除去することにより、支持体の表面に液晶ポリエステル樹脂層が形成される。溶媒の除去方法は、溶媒の蒸発により行うことが好ましい。溶媒を蒸発する方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられる。溶媒の急激な蒸発を抑制し、クラックがなく膜厚が均一なフィルムが得られる観点から、加熱により溶媒を除去することが好ましい。加熱温度は、溶媒が揮発する温度であれば特に限定されないが、溶媒の急激な蒸発を抑制し、クラックがなく膜厚が均一なフィルムが得られる観点から、溶媒の沸点より低い温度であることが好ましい。したがって、室温より高く、溶媒の沸点より低い温度で加熱することが好ましい。
【0073】
このようにして積層体を形成した後、引張特性を向上させる観点から、必要に応じて、さらに熱処理を行ってもよい。熱処理の方法は特に限定されるものではなく、熱風オーブン、減圧オーブン、ホットプレート等の装置を用いて行うことができる。また、熱処理は、大気圧下、あるいは支持体や液晶ポリエステル樹脂が劣化しない範囲で、加圧下や減圧下で行ってもよい。また、液晶ポリエステル樹脂の劣化を抑制する観点から、熱処理を不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。例えば、窒素気流下、液晶ポリエステル樹脂の融点−50℃〜融点−5℃の範囲から、融点+5℃〜融点+50℃の範囲まで、1〜50時間かけて昇温することで行うことができる。
【0074】
このようにして得られる積層体の構造としては、例えば、フィルムと支持体との二層構造、フィルムの両面に支持体を積層させた三層構造、支持体の両面にフィルムを積層させた三層構造、さらにはフィルムと支持体を交互に四層以上積層させた多層構造などが挙げられる。
【0075】
上記の方法により得られた積層体は、例えば、各種コンピュータ、OA機器、AV機器などに代表される電気・電子部品や電気・電子部品を実装したフレキシブルプリント配線板、リジットプリント配線板などの回路基板;車載用半導体、産業用半導体などに用いられる半導体パッケージ;透明導電性フィルムの基材、偏光フィルムの基材、各種調理食品用および電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム、抗菌性フィルム、気体分離用フィルムなどに用いることができる。均一な膜厚で金属密着性が高く、フィルムの引張特性にも優れる積層体を容易に得ることができるため、積層体を用いる、電気・電子部品や機械部品内のフレキシブルプリント配線板およびリジットプリント配線板などの回路基板や半導体パッケージに好適に使用される。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。実施例中、液晶ポリエステル樹脂の組成および特性評価は以下の方法により測定した。ただし、実施例7、8は現在は比較例であり、実施例1〜6、9〜11が本発明の実施例である。
【0077】
(1)液晶ポリエステル樹脂の組成分析
液晶ポリエステル樹脂の組成分析は、H−核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)測定により実施した。液晶ポリエステル樹脂をNMR試料管に50mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン−d=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITY INOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃でH−NMR測定を実施した。7〜9.5ppm付近に観測される各構造単位に由来するピークの面積比から組成を分析した。
【0078】
(2)液晶ポリエステル樹脂の絶対分子量測定
液晶ポリエステル樹脂の絶対分子量分布は、下記条件に示したゲル浸透クロマトグラフ(GPC)/LALLS法により測定し、絶対数平均分子量、絶対重量平均分子量、絶対分子量10000以下の部分の面積分率、および絶対分子量50000以上の部分の面積分率を求めた。
【0079】
(GPC)
GPC装置:Waters製
検出器:示差屈折率検出器RI2410(Waters製)
カラム:Shodex K−806M(2本)、K−802(1本)(昭和電工製)
溶離液:ペンタフルオロフェノール/クロロホルム(35/65w/w%)
測定温度:23℃
流速:0.8mL/min
試料注入量:200μL (濃度:0.1%)。
【0080】
(LALLS)
装置:低角度レーザー光散乱光度計KMX−6(Chromatix製)
検出器波長:633nm(He−Ne)
検出器温度:23℃。
【0081】
(3)液晶ポリエステル樹脂の融点(Tm)
示差走査熱量計DSC−7(パーキンエルマー製)を用いて、液晶ポリエステル樹脂を室温から20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、Tm+20℃の温度で5分間保持した。その後、20℃/分の降温条件で室温までいったん冷却し、再度20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)を観測した。本発明においては、吸熱ピーク温度(Tm)を融点(Tm)と記載する。
【0082】
(4)液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度
高化式フローテスターCFT−500D(オリフィス0.5φ×10mm)(島津製作所製)を用いて、Tm+10℃、せん断速度1000/sの条件で液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度を測定した。
【0083】
[実施例1]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で80分反応させた後、145℃から320℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は75分であった。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−1)を得た。
【0084】
この液晶ポリエステル樹脂(A−1)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は66.7モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.3モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は16.7モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は10.4モル%であった。また、Tmは313℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は10000、絶対重量平均分子量は26000であった。
【0085】
[実施例2]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸943重量部(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で80分反応させた後、145℃から320℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は75分であった。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に30分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−2)を得た。
この液晶ポリエステル樹脂(A−2)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は66.7モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.3モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は16.7モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は10.4モル%であった。また、Tmは313℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は9500、絶対重量平均分子量は26500であった。
【0086】
[実施例3]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル134重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で80分反応させた後、145℃から320℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は75分であった。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に30分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−3)を得た。
【0087】
この液晶ポリエステル樹脂(A−3)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は66.4モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.6モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は16.6モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は10.4モル%であった。また、Tmは313℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は9500、絶対重量平均分子量は26500であった。
【0088】
[実施例4]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸976重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート242重量部および無水酢酸945重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で75分反応させた後、145℃から310℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は70分であった。その後、重合温度を310℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−4)を得た。
【0089】
この液晶ポリエステル樹脂(A−4)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は64.6モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.2モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は17.7モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は11.5モル%であった。また、Tmは300℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は10000、絶対重量平均分子量は25500であった。
【0090】
[実施例5]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸901重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート346重量部および無水酢酸884重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で85分反応させた後、145℃から290℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は80分であった。その後、重合温度を290℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−5)を得た。
【0091】
この液晶ポリエステル樹脂(A−5)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は56.9モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は5.9モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は21.6モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は15.7モル%であった。また、Tmは263℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は10500、絶対重量平均分子量は25000であった。
【0092】
[実施例6]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸528重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート865重量部および無水酢酸581重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で90分反応させた後、145℃から290℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は85分であった。その後、重合温度を290℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に30分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−6)を得た。
【0093】
この液晶ポリエステル樹脂(A−6)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は27.0モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は4.8モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は36.5モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は31.7モル%であった。また、Tmは210℃、溶融粘度は50Pa・s、絶対数平均分子量は12800、絶対重量平均分子量は36000であった。
【0094】
[実施例7]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で110分反応させた後、145℃から320℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は105分であった。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に10分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−7)を得た。
【0095】
この液晶ポリエステル樹脂(A−7)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は66.7モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.3モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は16.7モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は10.4モル%であった。また、Tmは313℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は11000、絶対重量平均分子量は25200であった。
【0096】
[実施例8]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で50分反応させた後、145℃から320℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は43分であった。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に60分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−8)を得た。
【0097】
この液晶ポリエステル樹脂(A−8)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は66.7モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.3モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は16.7モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は10.4モル%であった。また、Tmは313℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は8200、絶対重量平均分子量は25500であった。
【0098】
[実施例9]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で80分反応させた後、145℃から320℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は43分であった。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に10分反応を続け、撹拌に要するトルクが10kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−9)を得た。
【0099】
この液晶ポリエステル樹脂(A−9)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は66.7モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.3モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は16.7モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は10.4モル%であった。また、Tmは310℃、溶融粘度は3Pa・s、絶対数平均分子量は5500、絶対重量平均分子量は16000であった。
【0100】
[実施例10]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、イソフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で80分反応させた後、145℃から320℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は75分であった。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−10)を得た。
【0101】
この液晶ポリエステル樹脂(A−10)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は66.7モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.3モル%、イソフタル酸に由来する構造単位は16.7モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は10.4モル%であった。また、Tmは305℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は9500、絶対重量平均分子量は26000であった。
【0102】
[実施例11]
攪拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル352重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1314重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で90分反応させた後、145℃から330℃までを4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は85分であった。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に10分反応を続け、トルクが10kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−11)を得た。
【0103】
この液晶ポリエステル樹脂(A−11)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は53.8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は16.2モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位は6.9%、テレフタル酸に由来する構造単位は15.0モル%、イソフタル酸に由来する構造単位は8.1モル%であった。また、Tmは310℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は9500、絶対重量平均分子量は21000であった。
【0104】
[比較例1]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で120分反応させた後、145℃から320℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は115分であった。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に2分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−12)を得た。
【0105】
この液晶ポリエステル樹脂(A−12)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は66.7モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.3モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は16.7モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は10.4モル%であった。また、Tmは313℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は12500、絶対重量平均分子量は25500であった。
【0106】
[比較例2]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で120分反応させた後、145℃から320℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は115分であった。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に15分反応を続け、撹拌に要するトルクが40kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−13)を得た。
【0107】
この液晶ポリエステル樹脂(A−13)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は66.7モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は6.3モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は16.7モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は10.4モル%であった。また、Tmは313℃、溶融粘度は40Pa・s、絶対数平均分子量は19200、絶対重量平均分子量は38500であった。
【0108】
[比較例3]
攪拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル352重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1314重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で120分反応させた後、145℃から330℃までを4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は115分であった。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧することを試みたが、1.0mmHgに到達する前にトルクが10kg・cmに到達し、重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A−14)を得た。
【0109】
この液晶ポリエステル樹脂(A−14)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は53.8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は16.2モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位は6.9%、テレフタル酸に由来する構造単位は15.0モル%、イソフタル酸に由来する構造単位は8.1モル%であった。また、Tmは310℃、溶融粘度は13Pa・s、絶対数平均分子量は11500、絶対重量平均分子量は21500であった。
【0110】
[比較例4]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸218重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート1297重量部および無水酢酸328重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で80分反応させた後、145℃から290℃まで4時間かけて昇温した。このとき、内温140〜145℃での反応時間は75分であった。その後、重合温度を290℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に60分反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズしてポリエステル樹脂(A−15)を得たが、液晶性は観察されなかった。
【0111】
このポリエステル樹脂(A−15)について組成分析を行ったところ、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位は9.6モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位は4.1モル%、テレフタル酸に由来する構造単位は45.2モル%、エチレングリコールに由来する構造単位は41.1モル%であった。また、Tmは205℃、溶融粘度は50Pa・s、絶対数平均分子量は12500、絶対重量平均分子量は38500であった。
【0112】
続いて、以下の方法により金属密着性および引張特性評価を行った。
【0113】
(5)金属密着性
得られた液晶ポリエステル樹脂(A−1)〜(A−14)、およびポリエステル樹脂(A−15)について、粗粉砕機で粉砕して粉末とし、得られた粉末100重量部に対し、(A−11)、(A−13)、(A−14)にはペンタフルオロフェノール2000重量部、それ以外の樹脂にはペンタフルオロフェノール1300重量部を加えた。130℃に加熱することで各液晶ポリエステル樹脂またはポリエステル樹脂を完全に溶解させた後、攪拌させて脱泡し、褐色透明な溶液を得た。得られた溶液を圧延銅箔(JX金属株式会社製、12μm厚)上にフィルムアプリケーターを用いてキャストし、ホットプレート上で80℃に加熱して溶媒を除去した後、各液晶ポリエステル樹脂またはポリエステル樹脂の融点−10℃で1時間熱処理を行い、銅張積層板を得た。続いて、得られた銅張積層板を幅10mmの帯状に切出し、各液晶ポリエステル樹脂またはポリエステル樹脂層を両面テープで固定し、JISC6481(1996)に準拠して、銅箔を各樹脂層に対して垂直となるように、50mm/分の速度で引き剥がす際のピール強度(kgf/cm)を測定した。ピール強度が大きいほど金属密着性に優れる。
【0114】
(6)引張特性
上記(5)で得た銅張積層板について、塩化第二鉄溶液を用いて銅箔を除去し、20μm厚の液晶ポリエステル樹脂またはポリエステル樹脂フィルムを得た。フィルムをJISK6251(2010)に基づき平行部幅5mm、長さ20mmの引張試験3号ダンベルに切出し、JISK7161(2014)に準拠して、5mm/分の引張速度にて引張試験を行い、引張伸度(%)を求めた。引張伸度が高いほど、引張特性に優れる。
実施例1〜11および比較例1〜5で得られたペレットについて、上記の方法で各特性を測定した評価結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表1の結果から、本発明の液晶ポリエステル樹脂からなるフィルムは、金属密着性および引張特性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の積層体用液晶ポリエステル樹脂は、フィルムとした場合の金属密着性や引張特性に優れる。本発明の積層体は、電気・電子部品や機械部品内のフレキシブルプリント配線板やリジットプリント配線板などの回路基板、および半導体パッケージなどに使用される積層体への使用に好適である。