特許第6705555号(P6705555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705555
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】車両用駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20200525BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20200525BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20200525BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20200525BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20200525BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20200525BHJP
   B60K 6/26 20071001ALI20200525BHJP
【FI】
   B60W20/50
   B60K6/48ZHV
   B60W10/02 900
   B60W10/08 900
   B60W10/10 900
   B60W20/30
   B60K6/26
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-507385(P2019-507385)
(86)(22)【出願日】2018年1月23日
(86)【国際出願番号】JP2018001925
(87)【国際公開番号】WO2018173457
(87)【国際公開日】20180927
【審査請求日】2019年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-56210(P2017-56210)
(32)【優先日】2017年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正一
(72)【発明者】
【氏名】白村 陽明
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 将司
(72)【発明者】
【氏名】柳田 将義
【審査官】 鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−205463(JP,A)
【文献】 特開2015−16830(JP,A)
【文献】 特開2008−141862(JP,A)
【文献】 特開2017−144881(JP,A)
【文献】 特開2017−190063(JP,A)
【文献】 特開2010−111190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−20/50
B60K 6/20− 6/547
B60L 1/00−58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力源となる内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、前記入力部材の側から、第1係合装置、回転電機、第2係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御する車両用駆動制御装置であって、
前記第1係合装置及び前記第2係合装置は、それぞれ、駆動力を伝達する係合状態と、駆動力を伝達しない解放状態とに変化可能であり、
直流電源及び交流の前記回転電機に接続されて直流と交流との間で電力を変換して前記回転電機を駆動するインバータ装置及び前記回転電機を含む回転電機駆動系に異常が発生した場合に、前記第1係合装置及び前記第2係合装置を解放状態にし、
前記第1係合装置及び前記第2係合装置を解放状態にした後、前記入力部材、又は前記回転電機、又は前記出力部材の回転速度が、予め規定された基準回転速度以下となった場合に、前記内燃機関が動作している状態で前記第1係合装置及び前記第2係合装置を係合状態にする車両用駆動制御装置。
【請求項2】
前記基準回転速度は、前記回転電機による逆起電圧が、前記回転電機駆動系の耐圧を超えない電圧となる回転速度に設定されている請求項1に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項3】
前記インバータ装置は、上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により交流1相分のアームが構成されていると共に、下段側から上段側に向かう方向を順方向としてそれぞれのスイッチング素子に並列接続されたフリーホイールダイオードを備えるものであり、
前記回転電機駆動系に異常が発生した場合における前記第1係合装置及び前記第2係合装置の解放状態で、複数相全ての前記アームの前記上段側スイッチング素子をオン状態とする上段側アクティブショートサーキット制御、及び、複数相全ての前記アームの前記下段側スイッチング素子をオン状態とする下段側アクティブショートサーキット制御の何れかのアクティブショートサーキット制御を実行する請求項1又は2に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項4】
前記回転電機駆動系に異常が発生した場合に前記第1係合装置及び前記第2係合装置を解放状態にした後、前記入力部材、又は前記回転電機、又は前記出力部材の回転速度が、前記基準回転速度以下となった場合に、前記内燃機関が動作している状態で前記第1係合装置及び前記第2係合装置を係合状態にし、
前記第1係合装置及び前記第2係合装置の係合状態で、前記インバータ装置の全ての前記スイッチング素子をオフ状態とするシャットダウン制御を実行する請求項3に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項5】
前記回転電機の回転速度と前記インバータ装置の直流側の電圧とについての条件を少なくとも含む移行条件を満たした場合に、前記アクティブショートサーキット制御から前記シャットダウン制御へ移行させる請求項4に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項6】
前記回転電機と前記車輪との間の動力伝達経路に、変速比を変更可能な変速装置を備え、前記車輪の回転に従動する前記回転電機の回転速度が、前記回転電機による逆起電圧が予め規定された基準電圧以下となる回転速度以下となるように、前記変速装置の変速比を設定する請求項1から5の何れか一項に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項7】
前記回転電機駆動系は、閉状態で前記直流電源と前記インバータ装置とを電気的に接続し、開状態で前記直流電源と前記インバータ装置との電気的な接続を遮断するコンタクタを含み、
前記回転電機駆動系の異常には、前記回転電機が回生動作中に前記コンタクタが開状態となることを含む、請求項1から6の何れか一項に記載の車両用駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に駆動力を与える車両用駆動装置を制御する車両用駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記に出典を示す特許文献1には、車両の駆動力源となる内燃機関(70)に駆動連結される入力部材と車輪(W)に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、入力部材の側から、第1係合装置(75)、回転電機(80)、第2係合装置を含む変速装置(90)が設けられた車両用駆動装置が開示されている(特許文献1:図1図2、請求項1等参照。尚、背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。回転電機(80)は、インバータ(10)を備えた回転電機駆動装置(1)を介して、インバータ制御装置(20)により駆動制御されている。インバータ制御装置(20)は、インバータ(10)を構成するスイッチング素子(3)をスイッチング制御すると共に、回転電機駆動装置(1)に故障が生じた場合にフェールセーフ制御を実行する。フェールセーフ制御には、例えば、インバータ(20)の全てのスイッチング素子(3)をオフ状態にするシャットダウン制御や、インバータ(20)の複数相の全ての上段側スイッチング素子(31)又は複数相の全ての下段側スイッチング素子(32)をオン状態として電流を還流させるアクティブショートサーキット制御がある。
【0003】
車両が比較的高速で走行しており、回転電機(80)の回転速度が高い場合には、回転電機(80)の逆起電力が大きいため、シャットダウン制御を行うことができない場合がある。このような場合には、アクティブショートサーキット制御が実行されるが、高速で回転する車輪(W)から回転電機(80)に対して高い運動エネルギーが供給されると、回転電機(80)並びにインバータ(10)に流れる電流が多くなる。長時間に亘って大きな電流が流れ続けると、インバータ(10)や回転電機(80)が大電流によって消耗する可能性がある。このため、例えば、第1係合装置(75)を開放すると共に変速装置(90)をニュートラル状態にして、回転電機(80)の回転速度を速やかに低下させることが考えられる。しかし、この方法では、車輪(W)に車両用駆動装置からの駆動力が伝達されないため、例えば車両を路側によせて停車させるような退避走行の妨げとなる場合がある。このため、車輪(W)に駆動力が伝達されない時間は短い方が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2016/076429号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景に鑑みて、車輪への動力伝達経路に備えられた回転電機を駆動する回転電機駆動系に異常が発生した場合に、退避走行に影響する時間が短くなるように、回転電機駆動系への電気的な負荷が増大することを抑制しつつ、迅速に回転電機の回転速度を低下させる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた車両用駆動制御装置は、1つの態様として、車両の駆動力源となる内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、前記入力部材の側から、第1係合装置、回転電機、第2係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御する車両駆動制御装置であって、前記第1係合装置及び前記第2係合装置が、それぞれ、駆動力を伝達する係合状態と、駆動力を伝達しない解放状態とに変化可能であり、直流電源及び交流の前記回転電機に接続されて直流と交流との間で電力を変換して前記回転電機を駆動するインバータ装置及び前記回転電機を含む回転電機駆動系に異常が発生した場合に、前記第1係合装置及び前記第2係合装置を解放状態にする。
【0007】
第1係合装置及び第2係合装置が解放状態となることによって、回転電機は車輪及び内燃機関からの駆動力が伝達されない状態となる。つまり、車輪及び内燃機関によって回転電機が回転させられることによって生じる逆起電力が抑制される。回転電機駆動系に異常が検出された際に回転電機が回転している場合には、回転電機は慣性によって回転を続けるが、その際の逆起電力は慣性による回転により生じるもののみである。そして、慣性による回転の回転速度は、回転電機に対する制御によって低下させることができる。このため、車輪への動力伝達経路に備えられた回転電機を駆動する回転電機駆動系に異常が発生した場合に、回転電機駆動系への電気的な負荷が増大することを抑制しつつ、迅速に回転電機の回転速度を低下させることができる。
【0008】
また、回転電機駆動系(2)に異常が生じたことにより車輪(W)への駆動力を出力できない場合であっても、第1係合装置(75)及び第2係合装置(95)を係合状態とすることによって、内燃機関(70)による駆動力を車輪(W)に提供することができる。これにより、回転電機駆動系(2)に異常が生じた場合に、車両の乗員は内燃機関(70)による駆動力を用いて車両を安全な場所まで移動させて停車させることができる。尚、第1係合装置(75)及び第2係合装置(95)を係合状態とする際には、入力部材(IN)、又は回転電機(80)、又は出力部材(OUT)の回転速度に基づく回転速度(例えば、回転電機(80)の予想される回転速度(ωmg_es))が、基準回転速度(ω2)以下であることが条件となっているため、内燃機関(70)及び車輪(W)に従動して発電する回転電機(80)の電気的な負荷は抑制されている。即ち、本構成によれば、車輪(W)への動力伝達経路に備えられた回転電機(80)を駆動する回転電機駆動系(2)に異常が発生した場合に、退避走行に影響する時間が短くなるように、回転電機駆動系(2)への電気的な負荷が増大することを抑制しつつ、迅速に回転電機(80)の回転速度(ωmg)を低下させることができる。
【0009】
車両用駆動制御装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両用駆動装置及び車両用駆動制御装置の模式的ブロック図
図2】回転電機駆動系及びその制御系の模式的ブロック図
図3】車両用駆動装置のフェールセーフ制御例を示すフローチャート
図4】フェールセーフ制御時の制御形態の移行例を示すフローチャート
図5】電流ベクトル座標系における回転電機の動作点を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両用駆動制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1の模式的ブロック図は、車両用駆動制御装置1及びその制御対象である車両用駆動装置7を示している。図1に示すように、車両用駆動装置7は、車両の駆動力源となる内燃機関(EG)70に駆動連結される入力部材INと車輪Wに駆動連結される出力部材OUTとを結ぶ動力伝達経路に、入力部材INの側から、第1係合装置(CL1)75、回転電機(MG)80、第2係合装置(CL2)95を備えている。尚、本実施形態では、当該動力伝達経路に、入力部材INの側から、第1係合装置75、回転電機80、変速装置(TM)90が備えられ、第2係合装置95が変速装置90に備えられている形態を例示している。
【0012】
尚、ここで「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指す。具体的には、「駆動連結」とは、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
【0013】
車両用駆動制御装置1は、上述した車両用駆動装置7の各部を制御する。本実施形態では、車両用駆動制御装置1は、後述するインバータ装置(INV)10を介した回転電機80の制御の中核となるインバータ制御装置(INV-CTRL)20、内燃機関70の制御の中核となる内燃機関制御装置(EG-CTRL)30、変速装置90の制御の中核となる変速装置制御装置(TM-CTRL)40、これらの制御装置(20,30,40)を統括する走行制御装置(DRV-CTRL)50とを備えている。また、車両には、車両用駆動制御装置1の上位の制御装置であり、車両全体を制御する車両制御装置(VHL-CTRL)100も備えられている。
【0014】
図1に示すように、車両用駆動装置7は、車両の駆動力源として、内燃機関70と回転電機80とを備えたいわゆるパラレル方式のハイブリッド駆動装置である。内燃機関70は、燃料の燃焼により駆動される熱機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどを用いることができる。内燃機関70と回転電機80とは、第1係合装置75を介して駆動連結されおり、第1係合装置75の状態により、内燃機関70と回転電機80との間で駆動力を伝達する状態と駆動力を伝達しない状態とに切り換えることが可能である。本実施形態では、第1係合装置75がクラッチにより構成されている形態を例示している。
【0015】
上述したように、車両用駆動装置7は、変速装置90を備えている。ここで、変速装置90は、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。例えば、変速装置90は、複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構及び複数の係合装置(クラッチやブレーキ等)を備えている。変速装置90の入力軸は回転電機80の出力軸(例えばロータ軸)に駆動連結されている。ここで、変速装置90の入力軸及び回転電機80の出力軸が駆動連結されている部材を中間部材Mと称する。変速装置90の入力軸には、内燃機関70及び回転電機80の回転速度及びトルクが伝達される。
【0016】
変速装置90は、変速装置90に伝達された回転速度を、各変速段の変速比で変速すると共に、変速装置90に伝達されたトルクを変換して変速装置90の出力軸に伝達する。変速装置90の出力軸は、例えばディファレンシャルギヤ(出力用差動歯車装置)等を介して2つの車軸に分配され、各車軸に駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比は、変速装置90において各変速段が形成された場合の、出力軸の回転速度に対する入力軸の回転速度の比である(=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)。また、入力軸から変速装置90に伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、出力軸に伝達されるトルクに相当する。
【0017】
尚、ここでは、変速装置90として有段の変速機構を備える形態を例示したが、変速装置90は無段変速機構を備えたものであってもよい。例えば、変速装置90は、2つのプーリー(滑車)にベルトやチェーンを通し、プーリーの径を変化させることで連続的な変速を可能にするCVT(Continuously Variable Transmission)を備えたものであってもよい。
【0018】
本実施形態では、第2係合装置95が変速装置90の内部に備えられている形態を例示している。つまり、第2係合装置95は、変速装置90の入力軸と出力軸との間で駆動力の伝達する状態と遮断する状態とを切換える。例えば、変速装置90が自動変速装置の場合、遊星歯車機構を用いて構成されていることがある。遊星歯車機構では、クラッチ及びブレーキの一方又は双方を用いて第2係合装置95を構成することができる。即ち、第2係合装置95は、クラッチに限らずブレーキを用いて構成されていてもよい。
【0019】
上記においては、第1係合装置75がクラッチにより構成されている形態を例示したが、第1係合装置75もブレーキを用いて構成されていてもよい。即ち、第1係合装置75及び第2係合装置95は、それぞれ、駆動力を伝達する係合状態と、駆動力を伝達しない解放状態とに変化可能であればよい。
【0020】
ところで、図1において、符号17は回転電機80の温度を検出する温度センサ、符号18はインバータ装置10の温度(図1を参照して後述するスイッチング素子3の温度)を検出する温度センサを例示している。これらの温度センサは、回転電機80及びインバータ装置10において各1つに限定されるものではなく、複数箇所に設けられていてもよい。温度センサは、サーミスタ、熱電対、非接触温度センサ(放射温度計)など種々の原理によるセンサを適宜利用することができる。また、符号73は、内燃機関70又は入力部材INの回転速度を検出する回転センサ、符号93は、車輪W又は出力部材OUTの回転速度を検出する回転センサである。また、詳細は後述するが、符号13は回転電機80のロータの回転(速度・方向・角速度など)を検出する回転センサであり、符号12は、回転電機80を流れる電流を検出する電流センサである。尚、図1では、内燃機関70を始動するためのスタータ装置や、各種オイルポンプ(電動式及び機械式)等は、省略している。
【0021】
上述したように、回転電機80は、インバータ装置10を介したインバータ制御装置20により駆動制御される。図2のブロック図は、回転電機駆動系2及びその制御系を模式的に示している。回転電機駆動系2には、回転電機駆動装置6(インバータ装置10、後述する直流リンクコンデンサ4)、回転電機80を含み、制御系には、インバータ制御装置20及び後述するドライブ回路(DRV-CCT)21を含む。尚、符号14は、インバータ装置10の直流側の電圧(後述する直流リンク電圧Vdc)を検出する電圧センサ、符号15は、後述する高圧バッテリ11(直流電源)に流れる電流を検出する直流電流センサである。
【0022】
インバータ装置10は、高圧バッテリ11にコンタクタ9を介して接続されると共に、交流の回転電機80に接続されて直流と複数相の交流(ここでは3相交流)との間で電力変換を行う。車両の駆動力源としての回転電機80は、複数相の交流(ここでは3相交流)により動作する回転電機であり、電動機としても発電機としても機能することができる。即ち、回転電機80は、インバータ装置10を介して高圧バッテリ11からの電力を動力に変換する(力行)。或いは、回転電機80は、内燃機関70や車輪Wから伝達される回転駆動力を電力に変換し、インバータ装置10を介して高圧バッテリ11を充電する(回生)。
【0023】
回転電機80を駆動するための電力源としての高圧バッテリ11は、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどにより構成されている。高圧バッテリ11は、回転電機80に電力を供給するために、大電圧大容量の直流電源である。高圧バッテリ11の定格の電源電圧は、例えば200〜400[V]である。
【0024】
インバータ装置10の直流側の正極電源ラインPと負極電源ラインNとの間の電圧は、以下、直流リンク電圧Vdcと称する。インバータ装置10の直流側には、直流リンク電圧Vdcを平滑化する平滑コンデンサ(直流リンクコンデンサ4)が備えられている。直流リンクコンデンサ4は、回転電機80の消費電力の変動に応じて変動する直流電圧(直流リンク電圧Vdc)を安定化させる。
【0025】
高圧バッテリ11のインバータ装置10の側には、コンタクタ9が備えられている。図2に示すように、コンタクタ9は、直流リンクコンデンサ4と高圧バッテリ11との間に配置されている。即ち、インバータ装置10は、回転電機80に接続されていると共に、高圧バッテリ11との間にコンタクタ9を介して接続されている。コンタクタ9は、回転電機駆動装置6(直流リンクコンデンサ4、インバータ装置10)と、高圧バッテリ11との電気的な接続を切り離すことが可能である。コンタクタ9が接続状態(閉状態)において高圧バッテリ11とインバータ装置10(及び回転電機80)とが電気的に接続され、コンタクタ9が開放状態(開状態)において高圧バッテリ11とインバータ装置10(及び回転電機80)との電気的接続が遮断される。
【0026】
尚、高圧バッテリ11とインバータ装置10との間に、直流電圧を変換するDC/DCコンバータ(不図示)が備えられていてもよい。DC/DCコンバータが備えられている場合には、コンタクタ9は、DC/DCコンバータと高圧バッテリ11との間に配置されていると好適である。
【0027】
本実施形態において、コンタクタ9は、車両の最も上位の制御装置の1つである車両制御装置(VHL-CTRL)100からの指令に基づいて開閉するメカニカルリレーであり、例えばシステムメインリレー(SMR:System Main Relay)と称される。コンタクタ9は、車両のイグニッションキー(IGキー)がオン状態(有効状態)の際にシステムメインリレーの接点が閉じて導通状態(接続状態)となり、イグニッションキーがオフ状態(非有効状態)の際にシステムメインリレーの接点が開いて非導通状態(開放状態)となる。
【0028】
上述したように、インバータ装置10は、直流リンク電圧Vdcを有する直流電力を複数相(nを自然数としてn相、ここでは3相)の交流電力に変換して回転電機80に供給すると共に、回転電機80が発電した交流電力を直流電力に変換して直流電源に供給する。インバータ装置10は、複数のスイッチング素子3を有して構成される。スイッチング素子3には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC−MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC−SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN−MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などの高周波での動作が可能なパワー半導体素子を適用すると好適である。図2には、スイッチング素子3としてIGBTが用いられる形態を例示している。
【0029】
インバータ装置10は、よく知られているように複数相のそれぞれに対応する数のアーム3Aを有するブリッジ回路により構成される。図2に示すように、インバータ装置10の直流正極側(正極電源ラインP)と直流負極側(負極電源ラインN)との間に2つのスイッチング素子3が直列に接続されて1つのアーム3Aが構成される。3相交流の場合には、この直列回路(1つのアーム)が3回線(3相)並列接続される。つまり、回転電機80のU相、V相、W相に対応するステータコイル8のそれぞれに一組の直列回路(アーム)が対応したブリッジ回路が構成される。また、それぞれのスイッチング素子3には、下段側から上段側へ向かう方向を順方向として、並列にダイオード5(フリーホイールダイオード)が接続されている。
【0030】
対となる各相のスイッチング素子3による直列回路(アーム3A)の中間点、つまり、正極電源ラインPの側のスイッチング素子3(上段側スイッチング素子31)と負極電源ラインN側のスイッチング素子3(下段側スイッチング素子32)との接続点は、回転電機80の3相のステータコイル8にそれぞれ接続される。
【0031】
図1及び図2に示すように、インバータ装置10は、インバータ制御装置20により制御される。インバータ制御装置20は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、インバータ制御装置20は、車両制御装置100等の他の制御装置等からCAN(Controller Area Network)などを介して要求信号として提供される回転電機80の目標トルクに基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ装置10を介して回転電機80を制御する。
【0032】
回転電機80の各相のステータコイル8を流れる実電流は電流センサ12により検出され、インバータ制御装置20はその検出結果を取得する。また、回転電機80のロータの各時点での磁極位置は、例えばレゾルバなどの回転センサ13により検出され、インバータ制御装置20はその検出結果を取得する。インバータ制御装置20は、電流センサ12及び回転センサ13の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。インバータ制御装置20は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。電流フィードバック制御については、公知であるのでここでは詳細な説明は省略する。
【0033】
インバータ装置10を構成する各スイッチング素子3の制御端子(例えばIGBTのゲート端子)は、ドライブ回路21を介してインバータ制御装置20に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。車両制御装置100や、スイッチング制御信号を生成するインバータ制御装置20は、マイクロコンピュータなどを中核として構成され、回転電機80を駆動するための高圧系回路とは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。多くの場合、車両には、高圧バッテリ11の他に、高圧バッテリ11よりも低電圧(例えば12〜24[V])の電源である低圧バッテリ(不図示)も搭載されている。車両制御装置100やインバータ制御装置20の動作電圧は、例えば5[V]や3.3[V]であり、低圧バッテリから電力を供給されて動作する。
【0034】
低圧バッテリと高圧バッテリ11とは、互いに絶縁されており、互いにフローティングの関係にある。このため、回転電機駆動装置6には、各スイッチング素子3に対するスイッチング制御信号(例えばゲート駆動信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する(増幅する)ドライブ回路21が備えられている。低圧系回路のインバータ制御装置20により生成されたスイッチング制御信号は、ドライブ回路21を介して高圧回路系のスイッチング制御信号としてインバータ装置10に供給される。低圧系回路と高圧系回路とは互いに絶縁されているため、ドライブ回路21は、例えばフォトカプラやトランスなどの絶縁素子やドライバICを利用して構成される。
【0035】
ところで、車両用駆動制御装置1は、回転電機80及び回転電機80を駆動するインバータ装置10を含む回転電機駆動系2に異常が発生した場合に、フェールセーフ制御を実行する。ここで、回転電機駆動系2の異常とは、インバータ装置10のスイッチング素子3がオフ状態となる故障、インバータ装置10のスイッチング素子3がオン状態となる故障、インバータ装置10又は回転電機80の発熱異常、コンタクタ9が開状態となる故障、高圧バッテリ11から回転電機80までの導線の通電異常、断線、インバータ装置10及び回転電機80に関連するセンサの故障、インバータ制御装置20の異常の少なくとも1つを含む。
【0036】
回転電機駆動系2の異常は、例えば、電流センサ12、回転センサ13、電圧センサ14、温度センサ17,18等の検出結果に基づいて、車両用駆動制御装置1によって判定される。つまり、車両用駆動制御装置1は、回転電機80及び回転電機80を駆動するインバータ装置10を含む回転電機駆動系2の異常が検出された場合に、フェールセーフ制御を実行することができる。例えば、電流センサ12によりインバータ装置10や回転電機80の過電流状態が検出可能であり、回転センサ13により回転電機80の回転ムラなどの回転異常が検出可能であり、電圧センサ14により直流リンクコンデンサ4やインバータ装置10の過電圧状態が検出可能であり、温度センサ17により回転電機80の過熱状態が検出可能であり、温度センサ18によりインバータ装置10(スイッチング素子3)の過熱状態が検出可能である。
【0037】
上述した各種センサに限らず、車両制御装置100など、他の制御装置が回転電機駆動系2の異常を検出して、車両用駆動制御装置1に伝達してもよい。例えば、車両制御装置100が、コンタクタ9が閉状態から開状態となったことを検出して、車両用駆動制御装置1に伝達してもよい。また、車両制御装置100が能動的にコンタクタ9を閉状態から開状態に制御した場合にも、コンタクタ9の状態が変わったことを車両用駆動制御装置1に伝達すると好適である。
【0038】
例えば、回転電機駆動系2の異常には、回転電機80が回生動作中にコンタクタ9が開状態となることを含むと好適である。インバータ制御装置20は、直流リンク電圧Vdcを計測する電圧センサ14の検出結果に基づいて直流リンクコンデンサ4が過電圧状態になったことを異常として判定してもよいし、直流リンクコンデンサ4が過電圧状態になる前、すなわち回転電機80が回生動作中にコンタクタ9がオープンしたことによって異常と判定してもよい。回転電機駆動系2に異常が発生した場合、車両用駆動制御装置1は、フェールセーフ制御として、第1係合装置75及び第2係合装置95による駆動力の伝達状態を変更したり、インバータ装置10のスイッチング素子3の制御方式を変更したりする。
【0039】
直流リンクコンデンサ4のように比較的容量の大きいコンデンサは一旦過電圧になると、電荷が抜けるのに時間を要する。このため、過電圧により車両を停止させた場合に、再度車両を動かそうとしても、直流リンクコンデンサ4の電荷が抜けずに過電圧状態が解消されず、車両を再起動できない可能性がある。つまり、車両の再起動には、直流リンクコンデンサ4の電荷が放電されて過電圧状態が解消されることを待たなければならない可能性がある。回転電機80が回生動作中にコンタクタ9が開状態となったことが異常と判定あれ、車両用駆動制御装置1が後述するようなフェールセーフ制御を実行することで、直流リンクコンデンサ4が過電圧状態となる可能性を低減させると共に、過電圧を原因として車両が停止した場合にも早期に復帰させることができる。
【0040】
インバータ装置10を制御対象としたフェールセーフ制御としては、例えばシャットダウン制御(SD)が知られている。シャットダウン制御とは、インバータ装置10を構成する全てのスイッチング素子3へのスイッチング制御信号を非アクティブ状態に変化させてインバータ装置10をオフ状態にする制御である。この時、回転電機80のロータが慣性によって比較的高速で回転を続けていると、大きな逆起電力を生じる。ロータの回転によって生成された電力は、ダイオード5を介して整流され、閉状態のコンタクタ9を通って高圧バッテリ11を充電する。高圧バッテリ11を充電する電流(バッテリ電流)の絶対値が大きく増加し、バッテリ電流が高圧バッテリ11の定格電流を超えると、高圧バッテリ11の消耗や破損の原因となる。大きなバッテリ電流に耐えられるように高圧バッテリ11の定格値を高くすると、規模の増大やコストの増大を招く可能性がある。
【0041】
一方、コンタクタ9が開放状態の場合、高圧バッテリ11への電流の流入は遮断される。高圧バッテリ11への流入を遮断された電流は、直流リンクコンデンサ4を充電し、直流リンク電圧Vdcを上昇させる。直流リンク電圧Vdcがインバータ装置10(スイッチング素子3)や直流リンクコンデンサ4の定格電圧(絶対最大定格)を超えると、これらを損傷させる可能性がある。高い電圧を許容するようにこれらの定格値を高くすると、規模の増大やコストの上昇を招く可能性がある。尚、後述する基準電圧(上限値Vulmt)は、インバータ装置10(スイッチング素子3)や直流リンクコンデンサ4の絶対最大定格に基づいて設定されると好適である。
【0042】
インバータ装置10を制御対象としたフェールセーフ制御としては、シャットダウン制御の他に、アクティブショートサーキット制御(ASC)も知られている。アクティブショートサーキット制御とは、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子31或いは複数相全てのアームの下段側スイッチング素子32の何れか一方側をオン状態とし、他方側をオフ状態として、回転電機80とインバータ装置10との間で電流を還流させる制御である。尚、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子31をオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子32をオフ状態とする場合を上段側アクティブショートサーキット制御と称する。また、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子32をオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子31をオフ状態とする場合を下段側アクティブショートサーキット制御と称する。
【0043】
直流リンク電圧Vdcの上昇を伴わないフェールセーフ制御としてアクティブショートサーキット制御を実行することもできるが、車両が比較的高速で走行している際に、アクティブショートサーキット制御を実行した場合には、車輪Wから回転電機80に対して高い運動エネルギーが供給されることになる。このため、アクティブショートサーキット制御において回転電機80並びにインバータ装置10に流れる電流が多くなる。長時間に亘って大きな電流が流れ続けると、インバータ装置10や回転電機80が大電流によって消耗する可能性がある。
【0044】
このように、回転電機80に比較的高い運動エネルギーが供給され続ける状態で、シャットダウン制御やアクティブショートサーキット制御が実行されることは、回転電機駆動系2に掛かる電気的な負荷が大きくなるため好ましくない。回転電機駆動系2に故障が生じていることは、車両の乗員にも警告灯や音声によって報知されており、通常、乗員はブレーキを操作して車両の走行速度を低下させると考えられる。車両の走行速度が低下すれば、車両用駆動装置7として車輪W及び内燃機関70に駆動連結される回転電機80に与えられる運動エネルギーも低下する。従って、少なくとも車両の走行速度が高い間は、車両用駆動制御装置1は、回転電機80に供給される運動エネルギーを遮断した状態で、迅速に回転電機80の回転速度を低下させるように、フェールセーフ制御を実行することが好ましい。
【0045】
図3のフローチャートは、車両用駆動制御装置1によるフェールセーフ制御の一例を示している。車両用駆動制御装置1は、回転電機駆動系2に異常が生じていること(FAIL)が検出されると(#1)、回転電機80の回転速度ωmgが第1回転速度ω1以上か否かを判定する(#2)。この第1回転速度ω1は、上述したようにアクティブショートサーキット制御やシャットダウン制御を実行した場合に課題を有する回転速度未満に設定されている。回転電機80の回転速度ωmgが第1回転速度ω1未満の場合には、回転電機80に供給される運動エネルギーを遮断する必要はない。従って、インバータ装置10の制御方式(MODE_INV)は、直流リンク電圧Vdc、回転電機80の回転速度ωmgやトルク等に基づいて、アクティブショートサーキット制御やシャットダウン制御が選択的に実行されるフェールセーフ制御(FS)となる。
【0046】
回転電機80の回転速度ωmgが第1回転速度ω1以上の場合には、車両用駆動制御装置1は、第1係合装置(CL1)75及び第2係合装置(CL2)95を解放状態にすると共にアクティブショートサーキット制御(ASC)を実行する(#3)。第1係合装置75が解放状態となることによって、回転電機80と内燃機関70(入力部材IN)との駆動連結が解除され、第2係合装置95が解放状態となることによって、回転電機80と車輪W(出力部材OUT)との駆動連結が解除される。つまり、回転電機80は、他の駆動力源から回転駆動力を受けず、慣性によって回転を続ける状態となる。ここで、アクティブショートサーキット制御を実行すると、負トルクが発生するため、回転電機80の回転速度ωmgは低下していく。それに伴い、インバータ装置10及び回転電機80に流れる電流も低下していく。
【0047】
上述したように、回転電機駆動系2に故障が生じていることは、車両の乗員にも報知されており、通常、乗員はブレーキを操作して車両の走行速度を低下させる。このため、車輪Wの回転速度(車輪回転速度ωwh)も低下していく。車両用駆動制御装置1は、第2係合装置95が係合状態であると仮定した場合の回転電機80の回転速度(予想回転速度ωmg_es)を取得する(#4)。図4を参照して後述するように、車両用駆動制御装置1は、車輪回転速度ωwh(或いは出力部材OUTの回転速度)に基づいて、予想回転速度ωmg_esを演算すると好適である。
【0048】
車両用駆動制御装置1は、予想回転速度ωmg_esが第2回転速度ω2(基準回転速度)以下であると判定するとインバータ装置10の制御方式(INV_MODE)をアクティブショートサーキット制御からシャットダウン制御(SD)に移行させる(#5,#6)。第2回転速度ω2(基準回転速度)は、回転電機80による逆起電圧Vcevが、回転電機駆動系2の耐圧(上限値Vulmt)を超えない電圧となる回転速度に設定されている。ステップ#5の条件を満足する場合、車輪Wからの回転駆動力を受けても回転電機80の逆起電圧Vcevは直流リンク電圧Vdcを超えない。このため、回転電機80から高圧バッテリ11及び直流リンクコンデンサ4の側への充電は生じないと予想できる。従って、上記の課題は生じず、車両用駆動制御装置1は、車両用駆動装置7の駆動力(この場合は内燃機関70の駆動力)を車輪Wに伝達することができるように、第1係合装置75及び第2係合装置95係合状態とする(#6)。車両の乗員は、内燃機関70による駆動力を用いて車両を安全な場所まで移動させて停車させることができる。
【0049】
本実施形態のように、第2係合装置95が変速装置90に備えられている場合、ステップ#6において変速比も調整されると好適である。即ち、車輪Wの回転に従動する回転電機80の回転がより少なくなり、逆起電圧Vcevが小さくなるように、変速比が設定されると好適である。具体的には、変速装置90の制御方式(MODE_TM)を通常時よりも変速比が高くなる制御方式(ハイギヤード制御(HG))に設定すると好適である。
【0050】
また、この際、変速装置90の変速比GRを、回転電機80の逆起電圧Vcevが直流リンク電圧Vdcを超えない範囲内で最も大きい変速比となるように制御すると更に好適である。このようにすることにより、回転電機80から高圧バッテリ11及び直流リンクコンデンサ4側への電流を生じさせることなく、且つ、内燃機関70からのトルクを減衰させ過ぎない状態で車輪Wの側へ伝達することができる。従って、内燃機関70による駆動力を用いて車両を安全な場所まで移動させる場合に、車輪Wに伝達されるトルクを確保し易くすることができる。
【0051】
即ち、車両用駆動制御装置1は、回転電機駆動系2に異常が発生した場合に第1係合装置75及び第2係合装置95を解放状態にした後、第2係合装置95が係合状態であると仮定した場合の車輪回転速度ωwhに基づく回転電機80の予想回転速度ωmg_esが、基準回転速度(第2回転速度ω2)以下となった場合に、内燃機関70が動作している状態で第1係合装置75及び第2係合装置95を係合状態にする。さらに、車両用駆動制御装置1は、第1係合装置75及び第2係合装置95の係合状態で、インバータ装置10の全てのスイッチング素子3をオフ状態とするシャットダウン制御を実行する。つまり、車両用駆動制御装置1は、アクティブショートサーキット制御からシャットダウン制御へとインバータ装置10の制御方式を移行させる。
【0052】
車両用駆動制御装置1は、回転電機80の回転速度ωmgとインバータ装置10の直流側の電圧(直流リンク電圧Vdc)とについての条件を少なくとも含む移行条件を満たした場合に、アクティブショートサーキット制御からシャットダウン制御へ制御方式を移行させる。図4のフローチャートは、図3におけるステップ#4及びステップ#5において、フェールセーフ制御の制御方式を変更する際の移行条件の一例を示している。ステップ#4において、車両用駆動制御装置1は、まず車輪回転速度ωwh(出力部材OUTの回転速度でもよい)を取得する(#41)。本実施形態のように、車輪Wと回転電機80との間の動力伝達経路に変速装置90を備える場合には、さらに、変速装置90の変速比GRも取得する(#42)。車両用駆動制御装置1は、車輪回転速度ωwh及び変速比GRにより、中間部材Mの回転速度(変速装置90の入力軸及び回転電機80の出力軸の回転速度)に相当する回転電機80の予想回転速度ωmg_esを演算することができる(#43)。尚、変速装置90がない場合には、変速比GRを“1”とすれば等価である。
【0053】
さらに、車両用駆動制御装置1は、回転電機80が予想回転速度ωmg_esで回転する際の逆起電圧Vcevを演算する(#51)。次に、車両用駆動制御装置1は、逆起電圧Vcevが直流リンク電圧Vdcの上限値Vulmt以下であるか否かを判定する(#52)。逆起電圧Vcevは、回転電機80の回転速度ωmgにほぼ比例するため、当該上限値Vulmtに対応する逆起電圧Vcevを生じる回転速度ωmgの値が、予想回転速度ωmg_es以下であることを移行条件として判定してもよい。尚、この値が、ステップ#5における第2回転速度ω2に相当する。
【0054】
このように、移行条件は、予想回転速度ωmg_esに依存する。また、変速装置90を備えている場合には、変速比GRによって車輪回転速度ωwhに対して回転電機80の回転速度ωmgを小さくすることができる。従って、回転電機80と車輪Wとの間の動力伝達経路に、変速比GRを変更可能な変速装置90を備える場合、車輪Wの回転に従動する回転電機80の回転速度ωmgが、回転電機80による逆起電圧Vcevが予め規定された基準電圧(上限値Vulmt)以下となる回転速度(ω2)以下となるように、変速装置90の変速比GRが設定されていると好適である。
【0055】
上記においては、車両用駆動制御装置1が、回転電機駆動系2に異常が発生した場合に第1係合装置75及び第2係合装置95を解放状態にした後、第2係合装置95が係合状態であると仮定した場合の車輪Wの回転速度(車輪回転速度ωwh)に基づく回転電機80の回転速度(予想回転速度ωmg_es)が、予め規定された基準回転速度としての第2回転速度ω2以下となった場合に、内燃機関70が動作している状態で第1係合装置75及び前記第2係合装置(95)を係合状態にする形態を例時した。しかし、基準回転速度による判定対象となる回転速度は、この予想回転速度ωmg_esに限定されるものではない。車両用駆動制御装置1が、回転電機駆動系2に異常が発生した場合に第1係合装置75及び第2係合装置95を解放状態にした後、入力部材IN、又は回転電機80、又は出力部材OUTの回転速度に基づく回転速度が、予め規定された基準回転速度以下となった場合に、内燃機関70が動作している状態で第1係合装置75及び第2係合装置95を係合状態にすることができる。
【0056】
上記においては、フェールセーフ制御としてシャットダウン制御と、アクティブショートサーキット制御を例示した。これらの他、回転電機80のトルクを低下させるトルク減少制御もフェールセーフ制御の1つである。トルク減少制御は、回転電機80を目標トルクに基づいて制御するトルク制御又は目標速度に基づいて制御する回転速度制御を継続した状態で、回転電機80のトルクを減少させる制御である。上記においては、車両用駆動制御装置1が、回転電機駆動系2に異常が発生した場合における第1係合装置75及び第2係合装置95の解放状態で、アクティブショートサーキット制御を実行する形態を例示したが、アクティブショートサーキット制御に代えてトルク減少制御を実行してもよい。
【0057】
ここではそのような制御の一例としてのゼロトルク制御について説明する。本実施形態では、回転電機80の回転に同期して回転する2軸の直交ベクトル空間(直交ベクトル座標系)における電流ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を実行して回転電機80を制御する。電流ベクトル制御法では、例えば、永久磁石による界磁磁束の方向に沿ったd軸(界磁電流軸、界磁軸)と、このd軸に対して電気的にπ/2進んだq軸(駆動電流軸、駆動軸)との2軸の直交ベクトル座標系(d−q軸ベクトル座標系)において電流フィードバック制御を行う。インバータ制御装置20は、制御対象となる回転電機80の目標トルクに基づいてトルク指令Tを決定し、d軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを決定する。
【0058】
図5には、電流ベクトル空間(電流ベクトル座標系)における回転電機80の動作点(P1等)を模式的に示している。図5において、符号“200”(201〜203)は、それぞれ回転電機80が、あるトルクを出力する電機子電流のベクトル軌跡を示す等トルク線である。第1等トルク線201よりも第2等トルク線202の方が低トルクであり、さらに第2等トルク線202よりも第3等トルク線203の方が低トルクである。
【0059】
曲線“300”は電圧速度楕円(電圧制限楕円)を示している。回転電機80の逆起電圧が直流リンク電圧Vdcを超えると、回転電機80を制御することができなくなるため、設定可能な電流指令の範囲は電機子電流(d軸電流Idとq軸電流Iqとのベクトル和)のベクトル軌跡である電圧速度楕円300によって制限される。換言すれば、電圧速度楕円は、インバータ10の直流電圧(直流リンク電圧Vdc)の値、及び、逆起電圧の大きさに影響する回転電機80の回転速度ωに応じて設定可能な電流指令の範囲を示すベクトル軌跡である。つまり、電圧速度楕円300の大きさは、直流リンク電圧Vdcと回転電機80の回転速度ωとに基づいて定まる。具体的には、電圧速度楕円300の径は直流リンク電圧Vdcに比例し、回転電機80の回転速度ωに反比例する。電流指令(Id,Iq)は、このような電流ベクトル座標系において電圧速度楕円300内に存在する等トルク線200の線上の動作点における値として設定される。
【0060】
インバータ制御装置20がフェールセーフ制御(ゼロトルク制御)の実行が必要と判定した時点で、インバータ制御装置20は、例えば通常動作として回転電機80をトルクモード(目標トルクに応じた例えばパルス幅変調制御)で制御しているとする。図5に示す第1動作点P1は、この時点での電流ベクトル座標系における回転電機80の動作点を示している。換言すれば、回転電機80は、第3等トルク線203上の第1動作点P1において、通常動作としてのトルクモードで回生動作している。ここでは、便宜的に、回転電機80が回生動作している形態を例示しているが、例えば、中抜きの白丸で示す第2動作点P2で力行動作していた回転電機80が、回生動作に移行したと考えても良い。
【0061】
ゼロトルク制御の実行に際して、インバータ制御装置20は、回転電機80のトルクがゼロとなるようにトルク指令Tを設定してq軸電流Iq(駆動電流)をゼロ状態まで減少させる。この際、q軸電流Iqを減少させると共に、当該トルク指令Tに基づくトルク(=ゼロ)を維持した状態で電機子電流が増加するようにd軸電流Id(界磁電流)を増加させてもよい。インバータ制御装置20は、第1電圧速度楕円301のように、電圧速度楕円300の範囲内に原点を含む場合は、動作点が原点(P0)へ移動するように制御する。また、インバータ制御装置20は、第2電圧速度楕円302、第3電圧速度楕円303、第4電圧速度楕円304のように、電圧速度楕円300の範囲内に原点を含まない場合は、電圧速度楕円300とd軸との交点(P300)へ動作点が移動するように制御する。
【0062】
例えば、コンタクタ9が開放されている場合、回生電流よりも多くの電機子電流を流すことで、直流リンクコンデンサ4から電荷を放出させることができる。この際、特に、トルクに寄与しないd軸電流Idについては、電流量を減らすことなく、より多く流し続けて損失を増大させることも好適である。例えば、第1動作点P1からq軸電流Iqを減少させてトルクをゼロに近づけていきながら、d軸電流Idを増加させてもよい。動作点の軌跡は、q軸電流Iqの減少を優先して、動作点の座標とq軸電流Iqの減少速度とd軸電流Idの増加速度とに基づいて設定されると好適である。
【0063】
上記においては、ゼロトルク制御(トルク減少制御)を行う形態を例示したが、回転電機80の回転方向とは逆方向のトルクを出力させる減速制御を行ってもよい。例えば、第2動作点P2からd軸電流Idは変えずにq軸電流Iqを電圧速度楕円300を超えない範囲内で変更して第1動作点P1へ移動させてもよい。
【0064】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動制御装置(1)の概要について簡単に説明する。
【0065】
1つの態様として、車両の駆動力源となる内燃機関(70)に駆動連結される入力部材(IN)と車輪(W)に駆動連結される出力部材(OUT)とを結ぶ動力伝達経路に、前記入力部材(IN)の側から、第1係合装置(75)、回転電機(80)、第2係合装置(95)が設けられた車両用駆動装置(7)を制御する車両駆動制御装置(1)は、前記第1係合装置(75)及び前記第2係合装置(95)が、それぞれ、駆動力を伝達する係合状態と、駆動力を伝達しない解放状態とに変化可能であり、直流電源(11)及び交流の前記回転電機(80)に接続されて直流と交流との間で電力を変換して前記回転電機(80)を駆動するインバータ装置(10)及び前記回転電機(80)を含む回転電機駆動系(2)に異常が発生した場合に、前記第1係合装置(75)及び前記第2係合装置(95)を解放状態にし、
前記第1係合装置(75)及び前記第2係合装置(95)を解放状態にした後、前記入力部材(IN)、又は前記回転電機(80)、又は前記出力部材(OUT)の回転速度に基づく回転速度が、予め規定された基準回転速度(ω2)以下となった場合に、前記内燃機関(70)が動作している状態で前記第1係合装置(75)及び前記第2係合装置(95)を係合状態にする。
【0066】
第1係合装置(75)及び第2係合装置(95)が解放状態となることによって、回転電機(80)は車輪(W)及び内燃機関(70)からの駆動力が伝達されない状態となる。つまり、車輪(W)及び内燃機関(70)によって回転電機(80)が回転させられることによって生じる逆起電力(Vcev)が抑制される。回転電機駆動系(2)に異常が検出された際に回転電機(80)が回転している場合には、回転電機(80)は慣性によって回転を続けるが、その際の逆起電力(Vcev)は慣性による回転により生じるもののみである。そして、慣性による回転の回転速度(ωmg)は、回転電機(80)に対する制御によって低下させることができる。このため、車輪(W)への動力伝達経路に備えられた回転電機(80)を駆動する回転電機駆動系(2)に異常が発生した場合に、回転電機駆動系(2)への電気的な負荷が増大することを抑制しつつ、迅速に回転電機(80)の回転速度(ωmg)を低下させることができる。
【0067】
また、回転電機駆動系(2)に異常が生じたことにより車輪(W)への駆動力を出力できない場合であっても、第1係合装置(75)及び第2係合装置(95)を係合状態とすることによって、内燃機関(70)による駆動力を車輪(W)に提供することができる。これにより、回転電機駆動系(2)に異常が生じた場合に、車両の乗員は内燃機関(70)による駆動力を用いて車両を安全な場所まで移動させて停車させることができる。尚、第1係合装置(75)及び第2係合装置(95)を係合状態とする際には、入力部材(IN)、又は回転電機(80)、又は出力部材(OUT)の回転速度に基づく回転速度(例えば、回転電機(80)の予想される回転速度(ωmg_es))が、基準回転速度(ω2)以下であることが条件となっているため、内燃機関(70)及び車輪(W)に従動して発電する回転電機(80)の電気的な負荷は抑制されている。即ち、本構成によれば、車輪(W)への動力伝達経路に備えられた回転電機(80)を駆動する回転電機駆動系(2)に異常が発生した場合に、退避走行に影響する時間が短くなるように、回転電機駆動系(2)への電気的な負荷が増大することを抑制しつつ、迅速に回転電機(80)の回転速度(ωmg)を低下させることができる。
【0068】
ここで、前記基準回転速度(ω2)が、前記回転電機(80)による逆起電圧(Vcev)が、前記回転電機駆動系(2)の耐圧(Vulmt)を超えない電圧となる回転速度(ω)に設定されていると好適である。
【0069】
第2係合装置(95)を解放状態から係合状態に切り換えると、回転電機(80)は車輪(W)に従動回転することになり、逆起電圧(Vcev)を生じる。しかし、第2係合装置(95)が係合状態であると仮定した場合の回転電機(80)の回転速度(ωmg_es)が基準回転速度(ω2)以下であると、従動回転による逆起電圧(Vcev)は、回転電機駆動系(2)の耐圧(Vulmt)を超えない。従って、回転電機駆動系(2)に対する過電圧等を招く可能性を抑制して、車両用駆動装置(2)から車輪(W)へ駆動力を提供することができる。
【0070】
また、前記インバータ装置(10)が、直流電源(11)及び前記回転電機(80)に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換するものであって、上段側スイッチング素子(31)と下段側スイッチング素子(32)との直列回路により交流1相分のアーム(3A)が構成されていると共に、下段側から上段側に向かう方向を順方向としてそれぞれのスイッチング素子(3)に並列接続されたフリーホイールダイオード(5)を備えるものである場合、車両用駆動制御装置(1)は、前記回転電機駆動系(2)に異常が発生した場合における前記第1係合装置(75)及び前記第2係合装置(95)の解放状態で、複数相全ての前記アーム(3A)の前記上段側スイッチング素子(31)をオン状態とする上段側アクティブショートサーキット制御、及び、複数相全ての前記アーム(3A)の前記下段側スイッチング素子(32)をオン状態とする下段側アクティブショートサーキット制御の何れかのアクティブショートサーキット制御(ASC)を実行すると好適である。
【0071】
例えば回転電機(80)が高速で回転している場合に、全てのスイッチング素子(3)がオフ状態となると、回転電機(80)が発電した電力がインバータ装置(10)の直流側の電圧(Vdc)を急激に上昇させる可能性がある。アクティブショートサーキット制御(ASC)によって、回転電機(80)の発電により生じた電流を、インバータ装置(10)と回転電機(80)との間で還流させ、還流時に生じる熱によってエネルギーを消費させることによって、直流側の電圧上昇を抑制することができる。また、アクティブショートサーキット制御(ASC)によって回転電機(80)には負トルクが生じ、回転電機(80)の回転速度(ωmg)も低下するため、回転電機(80)による発電量も抑制することができる。
【0072】
ここで、前記回転電機駆動系(2)に異常が発生した場合に前記第1係合装置(75)及び前記第2係合装置(95)を解放状態にした後、前記入力部材(IN)、又は前記回転電機(80)、又は前記出力部材(OUT)の回転速度に基づく回転速度が、前記基準回転速度(ω2)以下となった場合に、前記内燃機関(70)が動作している状態で前記第1係合装置(75)及び前記第2係合装置(95)を係合状態にし、前記第1係合装置(75)及び前記第2係合装置(95)の係合状態で、前記インバータ装置(10)の全ての前記スイッチング素子(3)をオフ状態とするシャットダウン制御(SD)を実行すると好適である。
【0073】
シャットダウン制御(SD)では、回転電機駆動系(2)が車輪(W)への駆動力を出力できないが、第1係合装置(75)及び第2係合装置(95)を係合状態とすることによって、内燃機関(70)による駆動力を車輪(W)に提供することができる。これにより、回転電機駆動系(2)に異常が生じた場合に、車両の乗員は内燃機関(70)による駆動力を用いて車両を安全な場所まで移動させて停車させることができる。尚、上述したように、回転電機(80)が高速で回転している場合に、全てのスイッチング素子(3)をオフ状態とするシャットダウン制御(SD)が実行されると、回転電機(80)が発電した電力により、インバータ装置(10)の直流側の電圧が急激に上昇する可能性がある。本構成では、回転電機(80)が内燃機関(70)及び車輪(90)に従動回転しない状態で、アクティブショートサーキット制御(ASC)により回転電機(80)の回転速度(ωmg)を低下させ、入力部材(IN)、又は回転電機(80)、又は出力部材(OUT)の回転速度に基づく回転速度(例えば、回転電機(80)の予想される回転速度(ωmg_es))が、基準回転速度(ω2)以下であることを条件として、シャットダウン制御(SD)が実行される。このため、インバータ装置(10)の直流側の電圧が大きく上昇することは抑制される。
【0074】
ここで、車両用駆動制御装置(1)は、前記回転電機(80)の回転速度(ωmg)と前記インバータ装置(10)の直流側の電圧(Vdc)とについての条件を少なくとも含む移行条件を満たした場合に、前記アクティブショートサーキット制御(ASC)から前記シャットダウン制御(SD)へ制御方式を移行させると好適である。
【0075】
回転電機(80)が、内燃機関(70)及び車輪(90)に従動回転し、インバータ装置(10)の全てのスイッチング素子(3)がオフ状態であると、回転電機(80)の逆起電圧(Vcev)により、インバータ装置(10)の直流側の電圧(Vdc)が上昇する可能性がある。インバータ装置(10)の直流側の電圧(Vdc)が上昇しても、回転電機駆動系(2)への電気的負荷が抑制されることが好ましい。逆起電圧(Vcev)は、回転電機(80)の回転速度(ωmg)にほぼ比例するため、回転電機(80)の回転速度(ωmg)とインバータ装置(10)の直流側の電圧(Vdc)とについての条件を少なくとも含んで移行条件が設定されていると好適である。
【0076】
また、前記回転電機(80)と前記車輪(W)との間の動力伝達経路に、変速比を変更可能な変速装置(90)を備える場合、車両用駆動制御装置(1)は、前記車輪(W)の回転に従動する前記回転電機(80)の回転速度(ωmg)が、前記回転電機(80)による逆起電圧(Vcev)が予め規定された基準電圧(Vulmt)以下となる回転速度以下となるように、前記変速装置(90)の変速比を設定すると好適である。
【0077】
第2係合装置(95)が係合状態であると、回転電機(80)は、車輪(W)に従動して回転する。回転電機(80)と車輪(W)との間の動力伝達経路に、変速装置(TM)を備える場合には、変速比(GR)によって車輪(W)の回転速度(ωwh)に対して回転電機(80)の回転速度(ωmg)を小さくすることができる。逆起電圧(Vcev)が直流リンク電圧(Vdc)を超えなければ、インバータ装置(10)の直流側に接続される回路(例えば、直流電源(11)や平滑コンデンサ(4)など)の側へ、回転電機(80)から電流が流れ込まない。逆起電圧(Vcev)の大きさは、回転電機(80)の回転速度(ωmg)にほぼ比例するため、車輪(W)の回転速度(ωwh)に応じて変速装置(TM)の変速比(GR)を制御することによって、逆起電圧(Vcev)が直流リンク電圧(Vdc)を超えないように制御することが可能である。従って、車輪(W)に従動回転する回転電機(80)の回転速度(ωmg)が、回転電機(80)による逆起電圧(Vcev)が基準電圧(Vulmt)以下となる回転速度(ω2)以下となるように、変速装置(90)の変速比(GR)が設定されていると好適である。これにより、回転電機(80)からインバータ装置(10)の直流側へ流れ込む電流を生じさせることなく、且つ、内燃機関(70)からのトルクを減衰させ過ぎない状態で車輪(W)側へ伝達することができる。従って、内燃機関(70)による駆動力を用いて車両を安全な場所まで移動させる場合に、車輪(W)に伝達されるトルクを確保し易くなる。
【0078】
また、1つの態様として、前記インバータ装置(10)は、前記直流電源(11)及び交流の前記回転電機(80)に接続されて直流と交流との間で電力を変換するものであり、前記回転電機駆動系(2)が、閉状態で前記直流電源(11)と前記インバータ装置(10)とを電気的に接続し、開状態で前記直流電源(11)と前記インバータ装置(10)との電気的な接続を遮断するコンタクタ(9)を含む場合、前記回転電機駆動系(2)の異常には、前記回転電機(80)が回生動作中に前記コンタクタ(9)が開状態となることを含むと好適である。
【0079】
回転電機(80)が回生動作をしている場合、回転電機(80)が生成した電気エネルギーは回転電機(80)からインバータ装置(10)を介して直流電源(11)に供給されている。ここで、インバータ装置(10)と直流電源(11)との間のコンタクタ(9)が開状態となると、回転電機(80)が生成した電気エネルギーが直流電源(11)に供給されなくなる。多くの場合、インバータ装置(10)の直流側には、直流電圧(Vdc)を平滑するための平滑コンデンサ(4)が備えられている。直流電源(11)に供給されなくなった電気エネルギーは、この平滑コンデンサ(4)を充電し、平滑コンデンサ(4)の端子間電圧が上昇する。インバータ装置(10)の平滑コンデンサ(4)の容量は一般的に比較的大きいため、過電圧状態となった場合にその電荷を放電させるには時間を要する。例えば、平滑コンデンサ(4)の過電圧を異常と判定して車両を停止させた後、再起動させようとしても平滑コンデンサ(4)の電荷が抜けていないと過電圧状態が解消されず、異常状態も解消しないため、再起動が制限される。しかし、回転電機(80)が回生動作中にコンタクタ(9)が開状態となることを回転電機駆動系(2)の異常に含むことで、上述したように迅速に回転電機(80)により生成される電気エネルギーを減少させることができ、平滑コンデンサ(4)の端子間電圧の上昇も低減することができる。
また、例えば、平滑コンデンサ(4)の過電圧を異常と判定して車両を停止させた場合も、より早く車両を再起動することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 :車両用駆動制御装置
2 :回転電機駆動系
3 :スイッチング素子
3A :アーム
5 :ダイオード(フリーホイールダイオード)
9 :コンタクタ
10 :インバータ装置
11 :直流電源
31 :上段側スイッチング素子
32 :下段側スイッチング素子
70 :内燃機関
75 :第1係合装置
80 :回転電機
90 :変速装置
95 :第2係合装置
GR :変速比
IN :入力部材
OUT :出力部材
Vcev :逆起電圧
Vdc :直流リンク電圧(インバータ装置の直流側の電圧)
Vulmt :上限値(基準電圧)
W :車輪
ω2 :第2回転速度(基準回転速度)
ωmg :回転電機の回転速度
ωmg_es :予想回転速度(車輪の回転速度に基づく回転電機の回転速度)
ωwh :車輪回転速度(車輪の回転速度)
図1
図2
図3
図4
図5