特許第6705587号(P6705587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6705587流動性を有した脂肪酸ナトリウム石鹸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705587
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】流動性を有した脂肪酸ナトリウム石鹸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 13/10 20060101AFI20200525BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20200525BHJP
   C11D 9/26 20060101ALI20200525BHJP
   C11D 9/60 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20200525BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C11D13/10
   C11D17/08
   C11D9/26
   C11D9/60
   A61K8/36
   A61K8/73
   A61K8/92
   A61Q19/10
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-183759(P2015-183759)
(22)【出願日】2015年9月17日
(65)【公開番号】特開2017-57287(P2017-57287A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年8月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309020127
【氏名又は名称】尾池 哲郎
(73)【特許権者】
【識別番号】714005775
【氏名又は名称】竹下 聡
(72)【発明者】
【氏名】尾池哲郎
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−148512(JP,A)
【文献】 特開2015−034136(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/091381(WO,A1)
【文献】 特表2001−527128(JP,A)
【文献】 特開昭52−076307(JP,A)
【文献】 特開2001−107100(JP,A)
【文献】 特表2013−543528(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/041591(WO,A1)
【文献】 特開2015−131972(JP,A)
【文献】 特開2013−189392(JP,A)
【文献】 特開2005−171142(JP,A)
【文献】 特開昭57−030800(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00042648(EP,A1)
【文献】 米国特許第05972858(US,A)
【文献】 特開2007−045776(JP,A)
【文献】 特開2002−309291(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104312787(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 13/10
A61K 8/36
A61K 8/73
A61K 8/92
A61Q 19/10
C11D 9/26
C11D 9/60
C11D 17/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸ナトリウム石鹸素地10〜35重量部に、純水65〜90重量部、増粘剤0.05〜0.5重量部、油脂あるいはグリセリン0.5〜5重量部を加え、回転数毎分1000回転以上の羽根つきミキサーによる気泡を巻き込みながら撹拌を施し、撹拌前後の容量変化が20%以上の増加であることを特徴とする流動性を有した石鹸の製造方法。
【請求項2】
請求項1の各成分の配合条件が、脂肪酸ナトリウム石鹸素地15〜25重量部に、脂肪酸ナトリウム石鹸素地に対して純水70〜80重量部、増粘剤0.1〜0.3重量部、油脂あるいはグリセリン1〜3重量部であり、羽根つきミキサーの回転数が毎分5000回転以上であり、増粘剤がカルボキシメチルセルロースであり、油脂あるいはグリセリンがホホバ油であり、撹拌前後の容量変化が30%以上の増加であることを特徴とする流動性を有した石鹸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱い易さ、清潔さ、すすぎやすさ、使用感、高級感を向上させるため流動性を持たせた脂肪酸ナトリウム系石鹸に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一般的に流通している洗浄剤は、脂肪酸系と合成界面活性剤系の大きく二つに大別される。脂肪酸系は、植物油や動物油をアルカリでケン化することによって得られる洗浄剤であり、安価な合成界面活性剤が開発された以降も、そのすすぎ易さ、自然な香り、使用後のさっぱり感、加えて環境に与える影響の小ささから、根強い人気を維持してきた。苛性ソーダによってケン化された石鹸は、香りが柔らかく、泡がきめ細かいため、主に体や顔を洗うために利用されてきた。水酸化カリウムでケン化されたものからは液体せっけんが得られ、主に洗濯用として利用され、一部シャンプーとして利用されている向きもあるが、やや刺激のある香りと、洗い上がりのきしきし感から普及率は高くない。
【0003】
合成界面活性剤は大量に生産でき、安価で、かつ化学的に機能性を付与できるため、脂肪酸系の洗浄剤に比べて広く普及している。特に、強酸性界面活性剤は、ミネラルが含まれている場合でも洗浄能力が落ちず、少量で長期間利用できるため、家庭用としては一般的な洗浄剤である。しかし後述の通り、問題もすくなくなく、その点を脂肪酸系がカバーしているのが現状である。
【0004】
つまり脂肪酸系、特に脂肪酸ナトリウム系の石鹸は、使用感に関しては、もっとも人肌に優しく、しかも環境へ与える負荷も小さいため、人気が高いが、コストと、常温固形である点の二つが大きな課題となっている。そのため、各社は、脂肪酸系をベースに、使いやすい液体タイプや、発泡タイプの商品開発に腐心してきた。たとえば、特開2004-210833 の「石鹸組成物及びその製造方法」では、脂肪酸をアルコール化合物をアルカリでケン化し、35%以上の濃度の流動性の石鹸を得ている。また、特開2003-040761の「突っ張り感を緩和された洗浄料」では、脂肪酸系石鹸のもつ洗い上がり感を追求し、過剰な皮脂を除去するために感じるツッパリ感を緩和するため、ジポリヒドロキシステアリン酸ポリオキシエチレンを配合し、クリーム状にしている。
【0005】
特開2002-356417の「液体身体洗浄料」では、流動性と低温安定性が良好で、かつ脂肪酸石鹸の長所である泡立ち、ぬるつき感のなさを実現するため、脂肪酸カリウム塩に、グリチルリチン酸塩、あるいはアニオン界面活性剤を配合して、液体せっけんを得ている。
【0006】
特許3421018 の「ホイップドO/W型乳化化粧料及びその製造方法」では、脂肪酸石鹸の流動性のないホイップド化粧料を作成するため、カチオン型高分子を加え、泡立った状態で充填するものである。しかし、流動性を持たない場合は、脂肪酸ソーダを使用すると、ポンプアップができないほどに固形化するため、使用できなくなる。使用するためには、ポンプアップできるように、広い温度範囲(1℃〜37℃)において流動性を保たなければならない。本発明では、カルボキシメチルセルロースでは37℃において泡安定性に劣るとされている。
【0007】
特許2132950 の「液体石鹸組成物」では、もともと水溶性の高いカリウムあるいはジエタノールアミン等をアルカリ剤とした液体石鹸で、脂肪酸の炭素数を12以上とするものを利用して課題を克服しようとしている。
【0008】
特許4667163の「透明ゲル状洗浄剤組成物」では、クラフト点が低いオレイン酸やイソステアリン酸のカリウム塩によって低温域でもジェル状を維持する洗浄剤を提案している。しかしこれもカリウム塩によるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-210833
【特許文献2】特開2003-040761
【特許文献3】特開2002-356417
【特許文献4】特許3421018
【特許文献5】特許2132950
【特許文献6】特許4667163
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】なし
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
合成界面活性剤を使用した流動性を持った洗浄剤の場合、その合成界面活性自体による、ぬるぬる感、残膜感が洗浄後に残ってしまう。また、特に強酸性合成界面活性剤の場合、皮脂を取りすぎる傾向にあり、特に毛穴の奥の皮脂まで取り去った場合、お風呂上がりの乾燥後に、つっぱり感、ちくちく感、かさかさ感が残ることになる。
【0012】
また、合成界面活性剤は自然に存在しない物質が多いため、微生物が処理できないことが多く、排水後に、環境中に残存し、自然環境に与える影響は少なくない。
【0013】
また脂肪酸石鹸の持つ課題もある。液体状脂肪酸石鹸は、ケン化の際に水酸化カリウムを使用することで容易に得ることができるが、カリウム系石鹸は、泡が粗く、フォーミング後の高級感に劣り、洗い上がりにも違和感を覚えることがある。
【0014】
また臭いにやや刺激があることもあり、カリウム系液体石鹸、たとえばシャンプーなどは香料を配合したものが多い。香料を多量に配合する場合、香料は植物系であり、とくに人肌には刺激の強いものも多いため、配合には注意を要する。
【0015】
使用感や、環境に与える影響を考慮すると、脂肪酸ナトリウム系石鹸が最も課題の少ない界面活性剤であるが、常温固形であり、使用において、不潔な人肌に触れた石鹸表面を、常に外気にさらすことで不清潔感があり、さらにその石鹸表面が常に溶解と乾燥を繰り返すために形状が一定でなく、高級感を持たない。試用期間の後期では、石鹸は小さくなるため、表面積が減少し、泡立てるのに時間がかかる上、ある程度小さくなってしまうと、使いにくくなり、そのまま放置されるか、廃棄される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者は、これらの課題を解決するためには、脂肪酸ナトリウムに流動性を持たせることが、もっとも近道であると考え、かつ、これまで取り組まれつつも、達成できていない要因は、界面活性剤自体に流動性を持たせようとしていたからであると考えた。つまり、従来の技術は、界面活性剤自体か、あるいは配合された洗浄剤の基材となる成分自体に流動性を持たせようとしてきた。そのため、脂肪酸ナトリウムに、増粘剤や安定剤を配合して流動性を持たせようとしてきたものの、困難であり、合成界面活性剤を使用するに至っている。また脂肪酸系で流動性の洗浄剤を開発するために、もともと液体状の脂肪酸カリウムを出発材料としている。
【0017】
しかし発明者は、脂肪酸ナトリウムの優れた長所を引き継いだ流動性石鹸を得るためには、あくまで脂肪酸ナトリウムを出発材料とすべきであり、かつ、流動性を持たせるためには、添加物に頼らず、化学的、物理的に視点を広げ、大胆にあらゆる手段を講じるべきだと考えた。
【0018】
発明者は、脂肪酸ナトリウムを主剤とする流動性石鹸の開発に利用できる手段について鋭意調査研究する中で、まず基礎的な着眼点として、流動性を安定化させるには、界面活性剤粒子の持つ流動性と、配合剤の流動性を併用するべきであると考えた。つまり、従来の技術は、いずれか一方に偏りすぎており、たとえば特許2132950 の「液体石鹸組成物」では、もともと水溶性、流動性の高いカリウムあるいはジエタノールアミン等をアルカリ剤とした液体石鹸で、特許4667163の「透明ゲル状洗浄剤組成物」では、クラフト点が低いオレイン酸やイソステアリン酸のカリウム塩によって低温域でもジェル状を維持する洗浄剤を提案している。
【0019】
しかし、もともと課題を抱えているカリウム塩や合成界面活性剤に使用では対策となりにくい。そこで、脂肪酸ナトリウムを主剤とする場合、流動性を持たせるためには、固体状の脂肪酸ナトリウムの粒子径をできるだけ小さくし、なおかつ親水性の高い脂肪酸ナトリウム粒子と、こまかな気泡とオイルを巻き込むことで、安定的な流動性石鹸を作り出せるのではないかと考えた。
【0020】
すなわち、構想としては、固形脂肪酸ナトリウム石鹸素地、水、油、空気を混合した場合に形成される、気液ミセルと液液ミセルの粒径をできるだけ小さくし、それぞれのミセル表面に水和水が均一に結合した状態を作り出せれば、気泡は極めて安定化すると考えた。そのために必要な知見は、撹拌に必要な剪断力、各成分の配合量、特に空気の混合比率については重要であり、撹拌前後の容量変化によって調整を試みた。
【0021】
以上の知見を得ることができれば、高い安定性を持った脂肪酸ナトリウム石鹸素地の気液ミセル、液液ミセルが形成され、その流動性は、各配合剤由来のものだけではなく、むしろ、各ミセルの間の水和水によるものであって、温度変化においても大きな粘度変化を生じないと考える。いわゆる、球体の集合体が流動性を有することと同じである。なおかつ、脂肪酸ナトリウムは、十分に水と結合した状態であるので、生じる金属石鹸(石鹸カス)の粒子も小さく、洗い流しやすいことが期待される。その結果、十分な安定性と洗浄力、流動性を有した、新たな脂肪酸ナトリウム石鹸が得られ、なおかつその脂肪酸ナトリウム石鹸は、石鹸カスが生じにくく、洗い流しやすく、かつ、常に清潔な石鹸をポンプ吐出できる、優れた石鹸を得ることができる。
【0022】
つぎに、界面活性剤粒子を粉砕し、大きな剪断力をかける具体的技術として、いわゆるメカノケミカルに着目した。メカノケミカルとは、固体物質の粉砕過程での、剪断、摩擦、圧縮等の機械エネルギーにより構成粒子が局部的に生じる高いエネルギーを持つことを利用した技術であり、新たな特性が得られる技術として注目されてる。近年、製造機械のコストが下がることで、従来高価だったプロシェアミキサー、ハイシェアミキサー、カッターミキサーなどの高い剪断力をかける産業用ミキサーも安価になっている。そのため従来はこうした高い剪断力をかけた石鹸製造はあまり試みられていないとみられ、実際に特許文献調査でも、強い剪断力を利用した流動性石鹸の事例は見られず、新たな発明が生まれると考え、試作を開始した。
【0023】
原料として検討した脂肪酸ナトリウム系石鹸は3種類であり、固形石鹸、石けん素地、および熟成直後のスラリーである。熟成直後のスラリーは、石鹸素地とほぼ同じ組成であることから、基本的には、固形石鹸と粉体上の石鹸素地を用いて試作を進めた。これらの石鹸を、まず水に溶解させることが必要であり、ここで従来の技術では60℃から80℃程度の湯煎によって溶解させたのがほとんどの試みであった。発明者は、この溶解の段階から、強い剪断力を利用できるのではないかと考えた。
【0024】
まず固形石鹸は、薄くスライスした後、湯煎にかける方法と、回転数毎分5000回転以上のチョッパーミキサーによって剪断力をかけながら混錬方法について比較検証した。その結果、剪断力をかける方法でも、湯煎と同様に溶解し、なおかつ気泡をまきこむことで、発泡させることが可能で、流動性と粘性を持ったジェル状の石鹸が得られた。しかし、それを実際にシャンプーとして使用した場合は、固形状の石鹸がやや残存していることが分かった。また時間の経過と共に水が分離した。
【0025】
次に、粉末状の石鹸素地を利用して、同様に湯煎と剪断力をかける手法を比較検証した。粉末状の石鹸素地の場合は、水へ投入した直後は粘性の小さい、さらさらしたスラリー状であり、チョッパーミキサーによって強い剪断力をかけながら混錬したが、しばらくの間スラリー状から変化することはなかった。固形石鹸の場合は、大きなスライス石鹸同士が十分な重量をもっていることで、動的に衝突することでより大きな剪断力を生じ、速やかに粘性を持ったジェル状石鹸が得られたものの、粉末状石鹸素地の場合は、一つ一つの石鹸粒子が軽く、容易にジェル状石鹸を生じなかった。
【0026】
しかし発明者は、チョッパーミキサーの傾きや、混錬タンクの形状を工夫することで、さらに根気よく混錬したところ、急に粘性が上がりはじめ、ジェル状の石鹸を得ることができた。溶解性と発泡性いずれにおいても固形石鹸を用いた試作品と大きな違いはなく、また固形石鹸の時に見られた固形状の粒子も見られなかった。しかしこのジェル状石鹸も、時間と共に水と分離し、特に37℃以上の環境では分離速度も速いことが分かった。低温域では水と分離する前に、固形化してしまうことも分かった。
【0027】
発明者はさらに検討を続け、増粘剤としてキサンタンガムを配合し、粉末状石鹸素地によるジェル状石鹸の試作を行い、評価した。その結果、水との分離安定性は向上したものの、やはり37℃以上では、1週間程度で分離が始まることが分かった。
【0028】
発明者は、ジェル状石鹸の主要成分である脂肪酸ナトリウムの水の保持力を向上させるには、脂肪酸と水の両方に親和性の高い増粘剤が良いのではないかと考え、化粧品材料としてポピュラーなキサンタンガムではなく、水酸基とカルボキシル基で構成されるセルロース系のカルボキシメチルセルロース(CMC)が最も良好に働くのではないかと化学的な見地から判断し、CMCに重点を置いて、多くの諸条件において実験を繰り返し実施した。その結果、実施例に示した配合条件と混錬条件によって得られた脂肪酸ナトリウム系粉末石鹸素地を用いたCMC配合によるチョッパーミキサー混錬のジェル状石鹸は、37℃において1か月以上の長期にわたり、水の分離が起きないことが分かり、1℃においても固形化が起きず、ポンプ吐出が可能であることが分かった。
【0029】
以上の知見と発見は、脂肪酸ナトリウムだけに立脚し、物理化学的見地(メカノケミカルと親和性)における大胆な試作条件のもとでなければ辿り着かないものである。
【0030】
発見者は、さらに使用感や高級感を追求するため、1年間にわたり、モニターユーザーへ試作品を配布し、評価を実施した。その結果、使用後のべたつきや、ポンプボトルの吐出口での乾燥、そして気泡の安定性(見た目の高級感)など、複数の課題が指摘され、特にこれらの課題について、使用感と流動性、高級感を補完するため、ホホバ油を配合したり、混錬条件を変化させたところ、実施例に示した特定の配合条件において課題を克服することに成功した。
【0031】
ホホバ油の混合においては、グリセリンの配合と比較して、流動安定性が向上し、洗い上がりのつっぱり感が緩和され、しっとり感が長続きする結果となった。また、混錬条件の改善においては、ミキサーの角度と、気泡の巻き込み程度、そして混錬時間を長くすることで、気泡がよりきめ細かく、そして気泡と流動性がより安定した。
【0032】
以上の検討によって得られる脂肪酸ナトリウムのみを界面活性剤としたジェル状石鹸は、合成界面活性由来の洗浄剤に見られるような、ぬるぬる感、残膜感がなく、なおかつ、皮脂を取りすぎることがないため、お風呂上がりの乾燥後に、つっぱり感、ちくちく感、かさかさ感が残らず、自らの皮脂の働きで、しっとりとした洗い上がりになる。
【0033】
また、脂肪酸ナトリウム界面活性剤はもともと自然に存在する脂肪酸塩であるため、微生物が好んで分解するため、排水後に、環境中に残存することがなく、自然環境に与える影響も少ない。
【0034】
また脂肪酸ナトリウム石鹸は、カリウム系石鹸と異なり、泡がきめ細かく、フォーミング後にふわっとした泡が形成され、高級感があり、洗い上がりもしっとりとする。
【0035】
脂肪酸ナトリウム石鹸は、いわゆるソープの自然な香りであり、洗剤の中ではもっとも受け入れられている香りである。そのため、追加で香料を配合せずとも、十分に洗顔ソープ、お風呂用ソープとして、従来の石鹸と同様に使用できる。また、香料を配合する場合でも、ごく少量で済むため、肌への負担も最小限に抑制できる。
【0036】
発明品であるジェル状石鹸は、ポンプボトルに充填して使用できる程度の流動性、安定性、耐乾燥性を持っているため、従来の固形石鹸のような、不清潔感がなく、ボトルの形状を選ぶことで高級感を持たせることができ、取扱い易く、かつ最後まで使い切ることができるため、経済的である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によって、これまで固形状でしか取り扱えなかった脂肪酸ナトリウム石鹸が流動性を持ったジェル状で利用できるようになり、ポンプボトルやチューブに充填して使用できるようになる。これによってユーザーは、合成界面活性剤由来のぬるぬる感、残膜感が伴わない、すすぎが楽で、洗い上りがさっぱりとした洗浄剤を手軽に利用できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
使用する原材料は、脂肪酸ナトリウム石鹸素地、水、増粘剤油脂あるいはグリセリンであり、場合によって香料、防腐剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、顔料、染料、増量剤であり、使用する器具は混錬ミキサーである。
【0039】
脂肪酸ナトリウム石鹸素地の原料となる脂肪酸は、植物油脂、動物油脂から得られる直鎖状炭化水素カルボン酸であり、ホホバ油、ヤシ油、牛脂などの天然油脂だけではなく、単一成分のオレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸なども含まれる。
【0040】
水は、望ましくは純水であるが、水道水から、ミネラルのみを除去した軟水を除菌した程度の水でも利用は可能である。
【0041】
増粘剤は、CMCが最も望ましいが、これに限定されるものではない。油脂あるいはグリセリンもホホバ油が最も望ましいが、これに限定されるものではない。
【0042】
ミキサーは強い剪断力を発生させる金属製の羽根を有し、回転力毎分1000回転以上のもので、特に5000回転以上のものが望ましい。
【0043】
配合する材料は、脂肪酸ナトリウム石鹸素地10〜35重量部に、脂肪酸ナトリウム石鹸素地に対して純水65〜90重量部、増粘剤0.05〜0.5重量部、油脂あるいはグリセリン0.5〜5重量部を使用する。望ましい配合条件としては、脂肪酸ナトリウム石鹸素地15〜25重量部に、純水70〜80重量部、増粘剤0.1〜0.3重量部、油脂あるいはグリセリン1〜3重量部である。
【0044】
これらを混合した後、所定のミキサーで撹拌すると、一定時間後に、混合物の粘度が上がり、スラリー状からジェル状へと変化する。ジェル状の石鹸となった後、ミキサーによって気泡を巻き込みつつ、一定時間以上混錬すると、次第に全体の容積が増加し、かさ容積(石鹸と巻き込まれた気泡を含めた見た目の容積)が元の容積と比較して20%から40%増加する。結果として、気泡がきめ細かく、流動性が安定したジェル状石鹸が得られる。
【実施例】
【0045】
脂肪酸ナトリウム石鹸素地としてマルハ油脂の粉末石鹸21.8重量部に、脂肪酸ナトリウム石鹸素地に対して純水76.6重量部、増粘剤としてCMC0.1重量部、油脂あるいはグリセリンとしてホホバ油1.6重量部を加え、回転数毎分5000回転以上のチョッパーミキサーにより、3分間撹拌を施すと、次第に粘度が上がり始める。
【0046】
ある程度粘性を持つ流動体になったところで、気泡を巻き込みながらさらに3分間撹拌すると、全体の容積が増加しはじめ、かさ容積が元の容積と比較して30%増加し、ジェル状の石鹸Aが得られた。
【0047】
比較例として、増粘剤としてキサンタンガム、油脂あるいはグリセリンとしてグリセリン、ミキサーとして回転数1300回転のテーブルミキサーによって混錬し、ジェル状の石鹸Bを得た。さらに比較例として、配合条件と使用するミキサーはジェル状の石鹸Aと同じであるが、気泡の巻き込みのみを行わずに攪拌したところ、流動性を持たない半固形の石鹸Cが得られた。
【0048】
その結果、気泡の大きさにおいて、AはBよりもきめ細かく、使用感において、BはAに比べてべたつき感があり、安定性においては、Aは37℃において1か月間変化がなく、1℃においてやや粘度が上がったものの、ポンプ吐出と使用上は問題が生じなかった。一方Bは37℃において水が分離し、1℃において粘度が上がり、吐出がやや難しくなった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は民生品や化粧品だけにとどまらず、工業品、医薬部外品など、流動性を有した脂肪酸ナトリウム系洗浄剤を利用する商品には広く利用することができる。