(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鋼板を有した裏金と、この裏金の一方の面に一体的に接合されていると共に鉄又は鉄基合金30〜60質量%及びニッケル−燐合金40〜70質量%を含む多孔質焼結合金層とを具備しており、鋼板は、フェライト系、オーステナイト系又はマルテンサイト系のステンレス鋼板からなり、裏金は、このステンレス鋼板の一方の面を被覆したニッケル皮膜を更に具備しており、裏金の一方の面は、このニッケル皮膜の一方の面である複層摺動部材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複層摺動部材は、多くの異なった条件下、例えば乾燥摩擦条件又は油中若しくは油潤滑条件等の条件下で使用されるが、油中又は油潤滑条件下の使用、特に摩擦面での面圧が高く、油膜の破断に起因する焼付きを生じやすい極圧条件下であって、塩素、硫黄(S)、燐(P)等、特に硫黄を含む極圧添加剤を含有する油中又は油潤滑条件下の使用では、複層摺動部材の切削加工による切削面又は摺動面に露出した多孔質焼結合金層の銅(Cu)と、極圧添加剤として含有されている潤滑油中の硫黄との反応により硫化物(Cu
2S、CuS等)の生成に伴う青銅系銅合金からなる多孔質焼結合金層に硫化腐食を生じさせ、この生成された硫化物は、多孔質焼結合金層の強度を低下させ、かつ被覆層の摩耗を促進させる。
【0005】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、硫黄等を含む極圧添加剤を含有する潤滑油を用いた油中又は油潤滑条件下においても、硫化腐食の進行を抑えることができると共に摩擦摩耗特性及び耐荷重性に優れた多孔質焼結合金層を備えた複層摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複層摺動部材は、鋼板を有した裏金と、この裏金の一方の面に一体的に接合されていると共に鉄又は鉄基合金30〜60質量%及びニッケル−燐合金40〜70質量%を含む多孔質焼結合金層とを具備している。
【0007】
本発明の複層摺動部材は、多孔質焼結合金層が30〜60質量%の鉄又は鉄基合金に対して40〜70質量%のニッケル−燐合金を含んでいるので、極圧添加剤を含有する潤滑油を用いた油中又は油潤滑条件下においても、優れた摩擦摩耗性及び耐荷重性を発揮すると共に硫化腐食等の不具合を生じることはない。
【0008】
本発明の好ましい例では、多孔質焼結合金層は、鉄又は鉄基合金の焼結合金からなるマトリックス相と、このマトリックス相の粒界に晶出したニッケル−燐合金の分散相とを含んでおり、斯かる分散相は、特に多孔質焼結合金層の耐摩耗性及び耐荷重性を向上させる。
【0009】
ニッケル−燐合金の分散相の多寡は、多孔質焼結合金層の摩擦摩耗特性及び耐荷重性の良否を左右するものであり、ニッケル−燐合金が40質量%未満では、マトリックス相の粒界へのニッケル−燐合金の分散相の晶出割合が少なく、多孔質焼結合金層の摩擦摩耗特性及び耐荷重性の向上を期待し難く、また、ニッケル−燐合金が70質量%を超えると、マトリックス相の粒界へのニッケル−燐合金の分散相の晶出割合が多くなりすぎ、却って多孔質焼結合金層の摩擦摩耗特性及び耐荷重性を低下させる虞がある。
【0010】
本発明の複層摺動部材において、ニッケル−燐合金は、好ましい例では、燐10〜12質量%と残部ニッケルとからなり、斯かる残部には、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0011】
鉄粉末又は鉄基合金粉末に配合されるニッケル−燐合金において、ニッケル−11質量%燐合金の共晶点は875℃であり、したがって、Ni−10〜12質量%燐合金粉末を配合した場合では、ニッケル−10〜12質量%燐合金粉末がこの共晶点又は共晶点近傍の温度で焼結することで多孔質焼結合金層を得ることができる。ニッケル−10〜12質量%燐合金粉末には、350メッシュ(44μm)の篩を通過する粒度のアトマイズニッケル−燐合金粉末が好適に使用される。
【0012】
本発明の複層摺動部材において、鋼板は、好ましい例では、フェライト系、オーステナイト系又はマルテンサイト系のステンレス(SUS)鋼板からなり、斯かるステンレス鋼板としては、冷間圧延ステンレス鋼板が好ましく、このうち、フェライト系ステンレス鋼板のJIS鋼種としては、例えば、SUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS434、SUS436L、SUS444、SUS447J1等を、オーステナイト系ステンレス鋼板のJIS鋼種としては、例えば、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS321、SUS347、SUS384等を、そして、マルテンサイト系ステンレス鋼板のJIS鋼種としては、例えば、SUS403、SUS410、SUS416、SUS420JI、SUS431、SUS440A等を挙げることができる。
【0013】
鋼板が斯かるステンレス鋼板からなる場合、裏金の一方の面は、このステンレス鋼板の一方の面であってもよく、また、裏金は、このステンレス鋼板の一方の面を被覆したニッケル皮膜を更に具備していてもよく、ニッケル皮膜を更に具備した裏金の場合には、裏金の一方の面は、このニッケル皮膜の一方の面であってもよい。
【0014】
ステンレス鋼板は、その一方の面が不働態皮膜によって覆われて安定な耐食性を有しているために、特にニッケル皮膜を必要としないが、この不働態皮膜は、極薄で壊れやすいため、当該不働態皮膜の補強を目的として、ステンレス鋼板にニッケルめっきによるニッケル皮膜を形成してもよい。
【0015】
本発明の複層摺動部材において、鋼板は、他の好ましい例では、JISG3101に規定されている一般構造用圧延鋼板(SS400等)又はJISG3141に規定されている冷間圧延鋼板(SPCC等)からなっており、鋼板が斯かる一般構造用圧延鋼板又は冷間圧延鋼板からなる場合、裏金の一方の面は、この一般構造用圧延鋼板又は冷間圧延鋼板の一方の面であってもよく、また、裏金は、この一般構造用圧延鋼板又は冷間圧延鋼板の一方の面を被覆したニッケル皮膜を更に具備していてもよく、ニッケル皮膜を更に具備した裏金の場合には、裏金の一方の面は、このニッケル皮膜の一方の面であってもよい。
【0016】
以上のニッケル皮膜の厚さは、概ね3〜50μmであることが好ましい。
【0017】
本発明の複層摺動部材において、多孔質焼結合金層の鉄成分となる鉄粉末には、200メッシュ(74μm)の篩を通過する還元鉄粉末又はアトマイズ鉄粉末が好適に使用される。アトマイズ鉄粉末では、気孔が少なく比表面積が小さいのに対し、還元鉄粉末では、気孔が比較的多く表面に凹凸が多く、アトマイズ鉄粉末と比べて比表面積が高く、特に、アトマイズ鉄粉末は、球形状をなして分散性や流動性に優れているので本発明における多孔質焼結合金層の鉄成分用として好適に使用される。
【0018】
本発明の複層摺動部材において、多孔質焼結合金層の鉄基合金成分となる鉄基合金粉末としては、例えば、SUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS434、SUS436L、SUS444及びSUS447J1等のクロム(Cr)を10〜20質量%含有すると共に残部が鉄及び不可避不純物からなるフェライト系鋼(SUS)粉末、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS309、SUS310、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS321、SUS347及びSUS384等のクロムを16〜22質量%、ニッケルを3〜16質量%含有すると共に残部が鉄および不可避不純物からなるオーステナイト系鋼粉末又はSUS403、SUS410、SUS416、SUS420、SUS431、SUS440等のクロムを13〜18質量%含有すると共に残部が鉄及び不可避不純物からなるマルテンサイト系鋼粉末が好適に使用されるが、ニッケルにより酸化クロムの不動態膜の形成能力及び修復能力を高めて、非酸化性の酸(硫酸、亜硫酸、塩酸等)に対する耐食性を改善することができるため、斯かる耐酸腐食性の観点からは、ニッケルを相当割合含むオーステナイト系鋼粉末が好適である。
【0019】
これら鋼粉末は、例えば、アトマイズ法(水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、遠心アトマイズ法等)、還元法、粉砕法等のいずれの方法で製造されてもよいが、このうち、アトマイズ法により製造された鋼粉末が好ましい。アトマイズ法は、微小な平均粒径の鋼粉末を効率よく製造することができ、アトマイズ法で製造された鋼粉末は、真球に比較的近い球形状をなしているため、分散性や流動性に優れたものとなり、斯かる鋼粉末は、鉄粉末の粒度と同様の200メッシュ(74μm)の篩を通過する粒度を有しているとよい。
【0020】
本発明の複層摺動部材は、多孔質焼結合金層に低摩擦性を付与するべく、多孔質焼結合金層の孔隙及び一方の面に充填固着されていると共に少なくとも合成樹脂を含む被覆層を更に具備していてもよい。
【0021】
斯かる合成樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等のフッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選択される少なくとも一つの主成分と、耐摩耗性向上剤としてのポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂から選択される少なくとも一つの追加成分とを含んでいてもよく、被覆層は、斯かる追加成分に加えて、燐酸塩、硫酸バリウム及び固体潤滑剤から選択される少なくとも一つの無機材料を含んでいてもよい。
【0022】
被覆層は、有機材料であるポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂から選択される1種又は2種以上の追加成分1〜10質量%並びにポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる合成樹脂の主成分と、無機材料である燐酸塩1〜30質量%及び硫酸バリウム5〜40質量%の追加成分とを含んでいてもよく、また、有機材料であるオキシベンゾイルポリエステル樹脂1〜25体積%並びにポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる合成樹脂の主成分と無機材料である燐酸塩1〜15体積%及び硫酸バリウム1〜20体積%の追加成分とを含んでいてもよく、更には、主成分としての残部ポリアセタール樹脂と追加成分としての飽和脂肪酸と多価アルコールとから誘導される多価アルコール脂肪酸エステル0.5〜5重量%及びホホバ油0.5〜3重量%とを含んでいてもよい。
【0023】
本発明において、好ましくは、多孔質焼結合金層は、0.1〜0.5mm、就中0.3〜0.4mmの厚さを有しており、合成樹脂を含む被覆層は、0.02〜0.1mmの厚さを有している。
【0024】
本発明による複層摺動部材は、適宜の寸法に切断されて平板の滑り板として又は多孔質焼結合金層を、多孔質焼結合金層に加えて被覆層を備えている場合には、被覆層を内側にして丸曲げした円筒状の巻きブッシュとして使用される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、潤滑油中、特に硫黄等を含む極圧添加剤を含有する潤滑油を用いた油中又は油潤滑条件下においても、硫化腐食の進行を抑えることができると共に摩擦摩耗特性及び耐荷重性に優れた複層摺動部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明及びその実施の形態を、図面を参照して更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何等限定されないのである。
【0028】
まず、
図1に示すような本発明に係る複層摺動部材1の製造方法の一例について説明する。
【0029】
裏金2として、コイル状に巻いてフープ材として提供される厚さ0.3〜1.0mmの連続条片からなるステンレス鋼板を準備する。準備するステンレス鋼板は、必ずしも連続条片に限らず、適当な長さに切断した条片でもよい。
【0030】
200メッシュ(74μm)の篩を通過する粒度のアトマイズ鉄粉末又は鉄基合金粉末30〜60質量%と、350メッシュ(44μm)の篩を通過する粒度のアトマイズニッケル−10〜12質量%燐合金粉末40〜70質量%とをV型ミキサーに投入し30〜60分間混合して混合粉末を作製する。この混合粉末を裏金2の一方の面に一様な厚さに散布し、真空中又は水素ガス、窒素・水素混合ガス(25vol%H
2−75vol%N
2)若しくはアンモニア分解ガス(AXガス:75vol%H
2、25vol%N
2の混合ガス)等の還元性雰囲気に調整された加熱炉内で875〜900℃の温度で5〜10分間焼結し、裏金2の一方の面に鉄又は鉄基合金とニッケル−燐合金との焼結体を含む多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製する。
【0031】
裏金2の一方の面に一様な厚さに散布された混合粉末における鉄粉末又は鉄基合金粉末は、多孔質焼結合金層3のマトリックス相を構成し、ニッケル−10〜12質量%燐合金粉末は、マトリックス相の鉄粉末又は鉄基合金粉末の粒子の隙間に侵入して鉄粉末又は鉄基合金粉末と接触する。ついで、焼結工程において、加熱炉内で加熱していくと、ニッケル−燐合金粉末に含有されるニッケル成分が裏金2の一方の面に拡散してその界面を合金化し、裏金2の一方の面に多孔質焼結合金層3を接合させと共に、ニッケル成分が上記接触部位を介して鉄粉末又は鉄基合金粉末の粒子中に拡散し、この接触部位近傍に局所的にニッケル成分が高濃度に含有された拡散領域を形成する。さらに加熱温度を上げていくと、ニッケル−燐合金の共晶温度(875℃)を超えた時点で拡散領域が溶融して液相を形成し、この液相はマトリックス相の各粒子の隙間に侵入してブリッジを形成し、このブリッジの形成によりマトリックス相はその各隙間を埋めるようにして適宜再配列され、また、液相を介して焼結が行われるため焼結反応が促進され、部分的に液相焼結が進行することにより、マトリックス相の鉄粉末又は鉄基合金粉末同士が密に結合して焼結される。複層摺動部材1における多孔質焼結合金層3は、鉄又は鉄基合金のマトリックス相と、該マトリックス相の粒界に晶出したニッケル−燐合金の分散相とを含むことになる。
【0032】
次に、
図2に示すような多孔質焼結合金層3に加えて被覆層4を備えた複層摺動部材5の製造方法の一例について説明する。
【0033】
主成分のポリテトラフルオロエチレン樹脂に加えて、硫酸バリウム5〜40質量%、燐酸塩1〜30質量%並びにポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂及びポリフェニレンスルホン樹脂から選択される1種又は2種以上の有機材料の追加成分1〜10質量%を配合し、ヘンシェルミキサーに供給して撹拌混合し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂と硫酸バリウムと燐酸塩と有機材料の追加成分とを含む混合物を作製する。この混合物100重量部に対し石油系溶剤を15〜30重量部配合し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の室温転移点以下の温度(15℃)で混合して合成樹脂組成物を作製する。この合成樹脂組成物を裏金2の一方の面に一体的に接合された多孔質焼結合金層3の一方の面上に散布供給し、合成樹脂組成物の厚さが所定の厚さになるようにローラで圧延して多孔質焼結合金層3の孔隙及び一方の面に合成樹脂組成物を充填固着する。ついで、これを200〜250℃の温度に加熱した熱風乾燥炉中に数分間保持して溶剤を除去した合成樹脂組成物を所定の厚さになるように300〜600kgf/cm
2の加圧下で加圧ローラ処理する。そして、これを加熱炉に導入して360〜380℃の温度で数分から10数分間加熱して焼成した後、炉から取り出し、再度ローラ処理によって寸法のばらつきを調整し、裏金2の一方の面に一体的に接合された多孔質焼結合金層3の孔隙及び一方の面に充填固着された合成樹脂を含む被覆層4を備えた複層摺動部材5とする。
【0034】
以下、実施例1から13並びに比較例1及び2について説明する。
【0035】
実施例1
裏金2として、厚さ0.65mmの冷間圧延鋼板(SPCC)を幅170mm、長さ600mmの寸法に切断した条片を準備したのち、この条片の一方の面を含む全面に電解ニッケルめっきによる厚さ20μmのニッケル皮膜を施した。
【0036】
200メッシュ(74μm)の篩を通過する粒度のアトマイズ鉄粉末60質量%と、350メッシュ(44μm)の篩を通過する粒度のアトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末40質量%(ニッケル35.6質量%、燐4.4質量%)とを30分間V型ミキサーで混合して作製した混合粉末を、予めトリクレンにて脱脂清浄したニッケル皮膜の一方の面に一様な厚さに散布し、これを水素・窒素混合ガス(25vol%H
2−75vol%N
2)の還元性雰囲気に調整した加熱炉内で890℃の温度で10分間焼結し、ニッケル皮膜の一方の面に、鉄粉末60質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末40質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる厚さ0.3mmの多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0037】
実施例2
混合粉末において、アトマイズ鉄粉末を50質量%と、アトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末を50質量%(ニッケル44.5質量%、燐5.5質量%)とした以外は実施例1と同様の方法で、ニッケル皮膜の一方の面に、厚さ0.3mmの鉄粉末50質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末50質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0038】
実施例3
裏金2として、厚さ0.65mmのフェライト系ステンレス鋼板(SUS430)を幅170mm、長さ600mmの寸法に切断した条片を準備した。
【0039】
200メッシュ(74μm)の篩を通過する粒度のアトマイズフェライト系ステンレス粉末(SUS410L:炭素0.017質量%、珪素0.47質量%、マンガン0.18質量%、燐0.01質量%、硫黄0.005質量%、クロム12.4質量%、残部鉄)40質量%と、アトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%(ニッケル53.4質量%、燐6.6質量%)とを実施例1と同様の方法で混合粉末を作製し、裏金2としてのフェライト系ステンレス鋼板からなる条片の一方の面に、以下、実施例1と同様の方法で、厚さ0.3mmのフェライト系ステンレス粉末40質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0040】
実施例4
裏金2として、実施例3と同様の条片を準備した。
【0041】
実施例3と同様のアトマイズフェライト系ステンレス粉末を50質量%とし、アトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末を50質量%とした以外は実施例3と同様の方法で、裏金2としてのフェライト系ステンレス鋼板からなる条片の一方の面に、厚さ0.3mmのフェライト系ステンレス粉末50質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末50質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0042】
実施例5
実施例3と同様の裏金2としての条片の一方の面を含む全面に実施例1と同様のニッケル皮膜を施した。
【0043】
実施例3と同様のフェライト系ステンレス粉末60質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末40質量%を含む混合粉末を実施例1と同様の方法で作製し、この混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を実施例1と同様の方法でニッケル皮膜の一方の面に一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0044】
実施例6
フェライト系ステンレス鋼板(SUS434)を使用した以外は、実施例3と同様の裏金2としての条片を準備した。
【0045】
200メッシュ(74μm)の篩を通過する粒度のアトマイズフェライト系ステンレス粉末(SUS434:炭素0.01質量%、珪素0.14質量%、マンガン0.10質量%、燐0.01質量%、硫黄0.005質量%、クロム17.6質量%、残部鉄)40質量%と、実施例1と同様のアトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%とから実施例1と同様の方法で作製した混合粉末でもって、裏金2としてのフェライト系ステンレス鋼板からなる条片の一方の面に、実施例3と同様の方法で、厚さ0.3mmのフェライト系ステンレス粉末40質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0046】
実施例7
オーステナイト系ステンレス鋼板(SUS304)を使用した以外は、実施例3と同様にして裏金2としての条片を準備した。
【0047】
200メッシュ(74μm)の篩を通過する粒度のアトマイズオーステナイト系ステンレス粉末(SUS304L:炭素0.020質量%、珪素0.87質量%、マンガン0.20質量%、燐0.03質量%、硫黄0.02質量%、ニッケル10.24質量%、クロム18.60質量%、残部鉄)30質量%と、実施例1と同様のアトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末70質量%(ニッケル62.3質量%、燐7.7質量%)とから実施例1と同様の方法で作製した混合粉末でもって、実施例3と同様の方法で、裏金2としてのオーステナイト系ステンレス鋼板の条片の一方の面に、厚さ0.3mmのオーステナイト系ステンレス粉末30質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末70質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0048】
実施例8
裏金2として、実施例7と同様の条片を準備した。
【0049】
実施例7と同様のアトマイズオーステナイト系ステンレス粉末を40質量%と、アトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末を60質量%とした以外は実施例7と同様の方法で、裏金2としてのオーステナイト系ステンレス鋼板の条片の一方の面に、厚さ0.3mmのオーステナイト系ステンレス粉末40質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0050】
実施例9
裏金2として、実施例8と同様の条片を準備した。
【0051】
実施例7と同様のアトマイズオーステナイト系ステンレス粉末を50質量%と、アトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末を50質量%とした以外は実施例7と同様の方法で、裏金2としてのオーステナイト系ステンレス鋼板の条片の一方の面に、厚さ0.3mmのオーステナイト系ステンレス粉末50質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末50質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0052】
実施例10
裏金2として、実施例8と同様の条片を準備した。
【0053】
実施例7と同様のアトマイズオーステナイト系ステンレス粉末を60質量%と、アトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末を40質量%とした以外は実施例7と同様の方法で、裏金2としてのオーステナイト系ステンレス鋼板の条片の一方の面に、厚さ0.3mmのオーステナイト系ステンレス粉末60質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末40質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0054】
実施例11
オーステナイト系ステンレス鋼板(SUS316L)を使用した以外は、実施例3と同様の裏金2としての条片を準備した。
【0055】
200メッシュ(74μm)の篩を通過する粒度のアトマイズオーステナイト系ステンレス粉末(SUS316L:炭素0.025質量%、 珪素0.78質量%、マンガン0.24質量%、燐0.023質量%、硫黄0.004質量%、ニッケル12.60質量%、クロム16.10質量%、モリブデン2.47質量%、残部鉄)40質量%と、実施例1と同様のアトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%とを実施例1と同様にして作製した混合粉末をもって、実施例3と同様の方法で、裏金2としてのオーステナイト系ステンレス鋼板の条片の一方の面に、厚さ0.3mmのオーステナイト系ステンレス粉末40質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0056】
実施例12
マルテンサイト系ステンレス鋼板(SUS410)を使用した以外は、実施例3と同様の裏金2としての条片を準備した。
【0057】
200メッシュ(74μm)の篩を通過する粒度のアトマイズマルテンサイト系ステンレス粉末(SUS410:炭素0.007質量%、 珪素0.76質量%、マンガン0.15質量%、ニッケル0.15質量%、クロム11.50質量%、残部鉄)40質量%と、アトマイズニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%とを実施例1と同様の方法で作製した混合粉末をもって、実施例3と同様の方法で、裏金2としてのマルテンサイト系ステンレス鋼板の条片の一方の面に、厚さ0.3mmのマルテンサイト系ステンレス粉末40質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3を一体的に接合した複層摺動部材1を作製した。
【0058】
実施例13
実施例8と同様の多孔質焼結合金層3とを備えた複層摺動部材1を使用した。
【0059】
硫酸バリウム15質量%、ピロリン酸カルシウム10質量%、ポリイミド樹脂2質量%、黒鉛0.5質量%及び残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂をヘンシェルミキサー内に供給して攪拌混合し、得られた混合物100重量部に対し石油系溶剤20重量部を配合し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の室温転移点以下の温度(15℃)で混合し、合成樹脂組成物を得た。この合成樹脂組成物を多孔質焼結合金層3の一方の面に散布供給し、ローラで圧延して多孔質焼結合金層3の孔隙および一方の面に合成樹脂組成物を充填固着した。ついで、200℃の温度に加熱した熱風乾燥炉中に5分間保持して溶剤を除去した後、乾燥した合成樹脂組成物をローラによって加圧力400kgf/cm
2にて圧延し、多孔質焼結合金層3の孔隙及び一方の面に厚さ0.05mmの合成樹脂を含んだ被覆層4を形成した後、これを加熱炉で370℃、10分間加熱焼成した後、再度、ローラで加圧処理し、寸法調整およびうねり等の矯正を行なって、裏金2としてのオーステナイト系ステンレス鋼板の条片の一方の面に、厚さ0.3mmのオーステナイト系ステンレス粉末40質量%及びニッケル−11質量%燐合金粉末60質量%を含む混合粉末の焼結合金からなる多孔質焼結合金層3が一体的に接合されていると共に多孔質焼結合金層3の孔隙及び一方の面に硫酸バリウム15質量%及びピロリン酸カルシウム10質量%並びにポリイミド樹脂2質量%、黒鉛0.5質量%及び残部ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる合成樹脂を含む被覆層4を、実施例8と同様の多孔質焼結合金層3に加えて更に備えた複層摺動部材5を作製した。
【0060】
実施例1から13において、実施例1及び2の多孔質焼結合金層3では、鉄粉末の焼結体が、実施例3から6の多孔質焼結合金層3では、フェライト系ステンレス粉末の焼結体が、実施例7から11及び実施例13の多孔質焼結合金層3では、オーステナイト系ステンレス粉末の焼結体が、実施例12の多孔質焼結合金層3では、マルテンサイト系ステンレス粉末の焼結体が夫々マトリックス相を構成し、ニッケル−11質量%燐合金粉末の液相がマトリックス相の粒界に晶出した分散相を構成していることを顕微鏡写真にて確認した。
【0061】
比較例1
実施例1と同様の一方の面にニッケル皮膜を施した条片を裏金2とした。
【0062】
350メッシュ(44μm)の篩を通過する粒度のアトマイズ錫(Sn)粉末10重量%と、150メッシュ(97μm)の篩を通過する粒度の電解銅(Cu)粉末90質量%とを20分間V型ミキサーで混合して作製した混合粉末を裏金2としての条片のニッケル皮膜の一方の面に一様な厚さに散布し、これを水素・窒素混合ガス(25vol%H
2−75vol%N
2)の還元性雰囲気に調整した加熱炉内で860℃の温度で10分間焼結し、裏金2の一方の面に、厚さ0.3mmの錫10質量%及び残部銅からなる多孔質焼結合金層3が一体的に接合された複層摺動部材1を作製した。
【0063】
比較例2
比較例1と同様の複層摺動部材1に、当該複層摺動部材1の多孔質焼結合金層3の孔隙及び一方の面に実施例13と同様の被覆層4を更に備えた複層摺動部材5を作製した。
【0064】
次に、実施例1から13並びに比較例1及び2からなる複層摺動部材1及び5について、摩擦摩耗特性を試験した。
【0065】
<摩擦摩耗特性についての試験条件及び試験方法>
<試験条件>
速度 1.3m/min
荷重(面圧) 200〜500kgf/cm
2
試験時間 20時間
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C)
潤滑 油(出光興産社製の商品名「ダフニースーパーマルチオイル#32」)中条件
<試験方法>
図3に示すように、実施例1から13並びに比較例1及び2の複層摺動部材1及び5から作製された一辺が30mmの方形状の板状軸受試験片11を試験台に固定し、相手材となる円筒体12から板状軸受試験片11の一方の面13に、当該面13に直交する方向Aの所定の荷重をかけながら、円筒体12を当該円筒体12の軸心14の周りで方向Bに回転させ、板状軸受試験片11と円筒体12との間の摩擦係数及び20時間試験後の面13の摩耗量を測定した。
【0071】
表1から4に示す摩擦係数は、試験開始後の安定した摺動時における値である。スラスト試験において、比較例1の複層摺動部材は、面圧200kgf/cm
2の条件で摩擦係数が0.30と高い値を示したため、また、比較例2の複層摺動部材は、面圧200kgf/cm
2の条件で摩耗量が260μmと非常に大きな値を示したため、夫々それ以上の試験を中止した。
【0072】
表1から4に示す試験結果から、本発明に係る複層摺動部材1及び5は、潤滑油中において、面圧が200〜500kgf/cm
2の高面圧条件下においても、優れた摺動特性と大幅に向上した耐荷重性とを有することが分かる。