特許第6705632号(P6705632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705632
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】回転打撃工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   B25B21/02 F
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-169406(P2015-169406)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-78230(P2016-78230A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2018年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-213970(P2014-213970)
(32)【優先日】2014年10月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石川 剛史
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 竜之助
(72)【発明者】
【氏名】草川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】市川 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】平林 徳夫
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−003366(JP,A)
【文献】 特開2014−073537(JP,A)
【文献】 特開2013−252579(JP,A)
【文献】 特開2010−234465(JP,A)
【文献】 特開2012−726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/02,23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの回転力によって回転するハンマ、そのハンマの回転力を受けて回転するアンビル、及びそのアンビルに工具要素を装着するための装着部を有し、前記アンビルに対して外部から所定値以上のトルクが加わると、前記ハンマが前記アンビルから外れて空転し、前記アンビルを回転方向に打撃する打撃機構と、
前記ハンマによる前記アンビルの打撃を検出する打撃検出部と、
前記モータが目標回転状態となるよう前記モータを駆動制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの駆動を開始してから、前記打撃検出部にて前記打撃が所定回数検出されるまでの初期駆動期間中は、前記モータが前記目標回転状態よりも低速で回転するよう前記モータの制御量を設定し、前記初期駆動期間が経過すると、前記制御量を前記目標回転状態に対応した最終制御量に切り替える、
ように構成されている、回転打撃工具。
【請求項2】
モータと、
前記モータの回転力によって回転するハンマ、そのハンマの回転力を受けて回転するアンビル、及びそのアンビルに工具要素を装着するための装着部を有し、前記アンビルに対して外部から所定値以上のトルクが加わると、前記ハンマが前記アンビルから外れて空転し、前記アンビルを回転方向に打撃する打撃機構と、
前記ハンマによる前記アンビルの打撃を検出する打撃検出部と、
を備えた回転打撃工具であって、
当該回転打撃工具の動作モードを、前記目標回転状態が異なる複数の動作モードの中から選択するための操作部と、
前記操作部を介して設定された動作モードに対応した目標回転状態となるよう、前記モータを駆動制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの駆動を開始してから、前記打撃検出部にて前記打撃が検出され、更に、所定期間が経過するまでの初期駆動期間中は、前記モータが前記目標回転状態よりも低速で回転するよう前記モータの制御量を設定し、前記初期駆動期間が経過すると、前記制御量を前記目標回転状態に対応した最終制御量に切り替えると共に、
前記操作部を介して設定された動作モードが、前記モータを他の動作モードでの回転速度よりも低速で回転させる低速モードである場合には、該低速モードでの目標回転状態に対応した制御量にて前記モータの駆動を開始し、前記モータの駆動開始後の制御量の切り換えを実施しない、
ように構成されている、回転打撃工具。
【請求項3】
前記制御部は、
前記初期駆動期間の経過後に前記モータの制御量を前記最終制御量に切り替える際には、前記モータの回転速度が漸次増加するよう、前記制御量を前記最終制御量まで徐々に変化させる、
ように構成されている、請求項2に記載の回転打撃工具。
【請求項4】
モータと、
前記モータの回転力によって回転するハンマ、そのハンマの回転力を受けて回転するアンビル、及びそのアンビルに工具要素を装着するための装着部を有し、前記アンビルに対して外部から所定値以上のトルクが加わると、前記ハンマが前記アンビルから外れて空転し、前記アンビルを回転方向に打撃する打撃機構と、
前記ハンマによる前記アンビルの打撃を検出する打撃検出部と、
を備えた回転打撃工具であって、
当該回転打撃工具の動作モードを、前記目標回転状態が異なる複数の動作モードの中から選択するための操作部と、
前記操作部を介して設定された動作モードに対応した目標回転状態となるよう、前記モータを駆動制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの駆動を開始してから、前記打撃検出部にて前記打撃が検出され、更に、所定期間が経過するまでの初期駆動期間中は、前記モータが前記目標回転状態よりも低速で回転するよう前記モータの制御量を設定し、前記初期駆動期間が経過すると、前記制御量を前記目標回転状態に対応した最終制御量に切り替えると共に、
前記初期駆動期間の経過後に前記モータの制御量を前記最終制御量に切り替える際には、前記モータの回転速度が漸次増加するよう、前記動作モード毎に異なる変化率にて前記制御量を前記最終制御量まで徐々に変化させる、
ように構成されている、回転打撃工具。
【請求項5】
前記制御部は、
前記動作モードが前記モータを低速回転させる低速モードであるときには、前記動作モードが前記モータを高速回転させる高速モードであるときに比べて、前記制御量を前記最終制御量まで徐々に変化させるときの前記制御量の変化率が大きくなるよう、前記モータの制御量を設定する、
ように構成されている、請求項4に記載の回転打撃工具。
【請求項6】
前記制御部は、
前記動作モードが前記モータを低速回転させる低速モードにあるときには、前記動作モードが前記モータを高速回転させる高速モードであるときに比べて、前記制御量を前記最終制御量まで徐々に変化させるときの前記制御量の変化率が小さくなるよう、前記モータの制御量を設定する、
ように構成されている、請求項4に記載の回転打撃工具。
【請求項7】
モータと、
前記モータの回転力によって回転するハンマ、そのハンマの回転力を受けて回転するアンビル、及びそのアンビルに工具要素を装着するための装着部を有し、前記アンビルに対して外部から所定値以上のトルクが加わると、前記ハンマが前記アンビルから外れて空転し、前記アンビルを回転方向に打撃する打撃機構と、
前記ハンマによる前記アンビルの打撃を検出する打撃検出部と、
前記モータが目標回転状態となるよう前記モータを駆動制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの駆動を開始してから、前記打撃検出部にて前記打撃が検出され、更に、所定期間が経過するまでの初期駆動期間中は、前記モータが前記目標回転状態よりも低速で回転するよう前記モータの制御量を設定し、前記初期駆動期間が経過すると、前記制御量を前記目標回転状態に対応した最終制御量に切り替えると共に、
前記初期駆動期間の経過後に前記モータの制御量を前記最終制御量に切り替える際には、前記モータの回転速度が漸次増加するよう、前記モータの駆動開始時に前記モータの回転を上昇させるときの前記制御量の変化率である初期変化率に比べて小さい一定の変化率にて、前記制御量を前記最終制御量まで徐々に変化させる、
ように構成されている、回転打撃工具。
【請求項8】
モータと、
前記モータの回転力によって回転するハンマ、そのハンマの回転力を受けて回転するアンビル、及びそのアンビルに工具要素を装着するための装着部を有し、前記アンビルに対して外部から所定値以上のトルクが加わると、前記ハンマが前記アンビルから外れて空転し、前記アンビルを回転方向に打撃する打撃機構と、
前記ハンマによる前記アンビルの打撃を検出する打撃検出部と、
前記モータが目標回転状態となるよう前記モータを駆動制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの駆動を開始してから、前記打撃検出部にて前記打撃が検出され、更に、所定期間が経過するまでの初期駆動期間中は、前記モータが前記目標回転状態よりも低速で回転するよう前記モータの制御量を設定し、前記初期駆動期間が経過すると、前記制御量を前記目標回転状態に対応した最終制御量に切り替えると共に、
前記初期駆動期間の経過後に前記モータの制御量を前記最終制御量に切り替える際には、前記モータの回転速度が漸次増加するよう、前記初期駆動期間の経過直後には、前記モータの駆動開始時に前記モータの回転を上昇させるときの前記制御量の変化率である初期変化率に比べて、前記制御量の変化率が小さくなり、その後の時間経過に伴い、前記制御量の変化率が前記初期変化率よりも大きくなるよう、前記モータの制御量を前記最終制御量まで徐々に変化させる、
ように構成されている、回転打撃工具。
【請求項9】
前記制御部は、
前記モータの駆動開始後、前記打撃検出部にて前記打撃が所定回数検出されると、前記初期駆動期間が経過したと判断して、前記モータの制御量を前記最終制御量に切り替える、
ように構成されている、請求項2〜請求項8の何れか1項に記載の回転打撃工具。
【請求項10】
前記制御部は、
前記モータの駆動開始後、前記打撃検出部にて前記打撃が検出されてから、予め設定された時間が経過すると、前記初期駆動期間が経過したと判断して、前記モータの制御量を前記最終制御量に切り替える、
ように構成されている、請求項2〜請求項8の何れか1項に記載の回転打撃工具。
【請求項11】
前記モータの回転速度を検出する速度検出部を備え、
前記制御部は、
前記速度検出部にて検出される回転速度が目標回転速度となるように前記制御量を設定する回転制御を行い、前記初期駆動期間経過後の前記モータの制御量の切り換えは、前記目標回転速度を切り替えることにより実施する、
ように構成されている、請求項1〜請求項10の何れか1項に記載の回転打撃工具。
【請求項12】
前記制御部は、
前記モータの制御量として、前記モータを駆動制御するのに用いるPWM信号のデューティ比を増加させることで、前記初期駆動期間経過後の前記モータの回転状態を前記目標回転状態に制御する、
ように構成されている、請求項1〜請求項11の何れか1項に記載の回転打撃工具。
【請求項13】
前記制御部は、
前記モータの制御量として、前記モータ駆動時の通電角を広げることにより、前記初期駆動期間経過後の前記モータの回転状態を前記目標回転状態に制御する、
ように構成されている、請求項1〜請求項11の何れか1項に記載の回転打撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転力により回転動作し、外部から所定値以上のトルクが加わると回転方向へ打撃力を加えるよう構成された回転打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の回転打撃工具には、モータの回転力を受けて回転するハンマと、ハンマの回転力を受けて回転するアンビルと、を備えた打撃機構が備えられている。打撃機構において、アンビルに対し外部から所定値以上のトルクが加わると、ハンマがアンビルから外れて空転し、アンビルを回転方向に打撃する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従って、回転打撃工具によれば、モータを正方向に回転させて、ねじやナット等の対象物を板やボルトに固定するときは、ハンマによるアンビルの打撃によって、対象物をしっかりと締め付けることができる。また、対象物の締め付けを緩めるときには、モータを締付時とは逆方向に回転させて、ハンマによりアンビルを打撃させることで、対象物の締め付けを簡単に緩めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−207951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の回転打撃工具においては、例えば、使用者がトリガスイッチ等の操作部を最大操作量で操作した際には、モータを駆動デューティ100%の最大駆動電力にて駆動することで、モータ(延いては工具ビット)を高速回転させる。
【0006】
しかしながら、このように、駆動開始直後からモータを高速駆動するようにすると、ドライバビット等の工具ビットが、ねじ等の対象物から外れ易くなり、打撃機構による締め付けを良好に実施できないことがある。
【0007】
例えば、回転打撃工具により長ねじを被削材に固定する場合、長ねじが被削材に充分入り込んでいない状態で打撃が開始されると、打撃開始時の急激な負荷変動と長ねじのたわみによって工具ビットがねじ頭から外れ、被削材、工具ビット、ねじ頭等を傷付けてしまうことがある。
【0008】
本発明の一つの目的は、回転打撃工具において、打撃開始前後でモータの制御を切り替えることにより、打撃発生後に工具ビットが対象物から外れるのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面の回転打撃工具は、モータと、打撃機構と、打撃検出部と、制御部とを備える。
打撃機構は、上述した従来の回転打撃工具と同様、ハンマ、アンビル、及び装着部を有し、アンビルに対して外部から所定値以上のトルクが加わると、ハンマがアンビルから外れて空転し、アンビル(延いては装着部に装着された対象物)を回転方向に打撃する。
【0010】
打撃検出部は、打撃機構のハンマによるアンビルの打撃を検出するためのものであり、制御部は、モータが目標回転状態となるようにモータを駆動制御するためのものである。
そして、制御部は、モータの駆動開始後、打撃検出部にて打撃が検出されて、所定期間が経過するまでの初期駆動期間中は、目標回転状態よりも低速で回転するように、モータの制御量を設定する。
【0011】
また、制御部は、モータを目標回転状態よりも低速で駆動する初期駆動期間が経過すると、モータの制御量を、目標回転状態に対応した最終制御量に切り替え、モータを目標回転状態に制御する。
【0012】
従って、当該回転打撃工具によれば、目標回転状態としてモータの最大駆動電力を要する回転状態が設定されていたとしても、モータの駆動開始後、打撃機構による打撃が開始されて所定期間が経過するまでは、モータの回転上昇は抑制されることになる。
【0013】
従って、初期駆動期間中は、打撃機構による打撃力が抑制されることになり、長ねじ等の対象物が被削材に充分入り込んでいない状態で、打撃機構による打撃が開始された際に、工具ビットが対象物から外れるのを防止できる。
【0014】
また、初期駆動期間を、その期間中に打撃機構による打撃が実施されるように設定すれば、初期駆動期間中に実施される打撃によって、長ねじ等の対象物を被削材にしっかりと固定させることができる。
【0015】
そして、初期駆動期間が経過すると、モータの制御量が最終制御量に切り替えられて、モータの回転が上昇するので、打撃機構による打撃力が強くなり、長ねじ等の対象物を被削材に締め付けるのに要する時間が長くなるのを抑制できる。
【0016】
ここで、制御部は、モータの駆動開始後、打撃検出部にて打撃が所定回数検出されると、初期駆動期間が経過したと判断するようにしてもよい。また、モータの駆動開始後、打撃検出部にて打撃が検出されてから、予め設定された時間が経過すると、初期駆動期間が経過したと判断するようにしてもよい。
【0017】
つまり、モータの駆動開始後、制御量を最終制御量に切り替えるまでの初期駆動期間は、打撃機構による打撃回数により設定してもよく、或いは、打撃機構による打撃開始後の経過時間により設定してもよい。
【0018】
一方、制御部は、単にモータ駆動時の駆動電力(例えば、モータへの通電電流やPWM制御時の駆動デューティ比等)を制御する所謂オープンループ制御にてモータを駆動するよう構成されていてもよい。
【0019】
また、制御部は、速度検出部を介してモータの回転速度を検出し、その検出された回転速度が目標回転速度となるようにモータの回転速度を制御する、回転制御(所謂フィードバック制御)にてモータを駆動するように構成されていてもよい。
【0020】
制御部がフィードバック制御にてモータを駆動するように構成されている場合、初期駆動期間の経過に伴うモータの制御量の切り替えは、フィードバック制御の目標回転速度を、初期駆動期間中よりも高速側に切り替えることにより実施するようにしてもよい。
【0021】
つまり、モータをフィードバック制御にて駆動制御する場合、モータの回転速度と目標回転速度との偏差に応じて、モータの駆動電力を制御するための制御量が設定される。
このため、初期駆動期間中の目標回転速度を低速にし、初期駆動期間経過後の目標回転速度を高速側に切り替えるようにすれば、制御部がフィードバック制御にてモータを駆動するように構成されていても、上述した効果を発揮することができる。
【0022】
次に、回転打撃工具には、その動作モードを、例えば、高速と低速、或いは、高速と中速と低速、…というように、目標回転状態が異なる複数の動作モードの中から選択するための操作部を設けてもよい。
【0023】
そして、この場合、制御部は、操作部を介して設定された動作モードに応じて、モータの回転速度が、高速・低速、或いは、高速・中速・低速、となるように、制御量を設定するようにすればよい。
【0024】
また、制御部は、動作モード毎に、初期駆動期間中には、目標回転状態よりも低速で回転するようにモータの制御量を設定し、初期駆動期間が経過すると、モータの制御量を目標回転状態に対応した最終制御量に切り替える、ように構成してもよい。
【0025】
一方、このように複数の動作モードを選択できるようにした場合、モータの回転速度が低く設定される動作モードでは、モータの駆動開始直後から制御量を最終制御量に設定しても、打撃発生時に工具ビットが対象物から外れる確率が低くなる。
【0026】
このため、制御部は、操作部を介して設定された動作モードが、モータを他の動作モードでの回転速度よりも低速で回転させる低速モードである場合には、低速モードでの目標回転状態に対応した最終制御量にてモータの駆動を開始するようにしてもよい。
【0027】
つまり、低速モードでは、モータの駆動開始後の制御量の切り替えを実施せず、目標回転状態(この場合、低速)に対応した最終制御量にてモータの駆動を開始するようにしてもよい。
【0028】
このようにすれば、低速モードで、初期駆動期間中の制御量が、目標回転状態よりも低速でモータを駆動させる制御量に設定されることにより、打撃発生前のモータの回転速度が低くなりすぎ、対象物の締め付けに要する時間が長くなるのを抑制できる。
【0029】
ところで、上記のように、モータの駆動中に制御量を切り替えるようにすると、その切り替えによってモータの回転速度が急変し、これによって、工具ビットが対象物から外れることも考えられる。
【0030】
そこで、初期駆動期間経過後にモータの制御量を最終制御量に切り替える際には、モータの回転速度が漸次増加するように、制御量を最終制御量まで徐々に変化させるようにしてもよい。
【0031】
このようにすれば、モータの回転速度が徐々に上昇することになるので、制御量の切り替えによって、工具ビットが対象物から外れるのを防止できる。
また、動作モード設定用の操作部が備えられている場合には、モータの制御量を最終制御量に切り替える際に、モータの回転速度が漸次増加するよう、動作モード毎に異なる変化率にて、制御量を最終制御量まで徐々に変化させるようにしてもよい。
【0032】
この場合、制御部は、動作モードがモータを低速回転させる低速モードであるときには、動作モードがモータを高速回転させる高速モードであるときに比べて、制御量を最終制御量まで徐々に変化させるときの制御量の変化率が大きくなるように構成してもよい。
【0033】
このようにすれば、動作モードが低速モードであるとき、初期駆動期間経過後のモータの回転状態を目標回転状態までより早く移行させることができ、延いては、低速モードで対象物の締め付けに要する時間が長くなるのを抑制できる。
【0034】
また逆に、制御部は、動作モードが低速モードであるときには、動作モードが高速モードであるときに比べて、制御量を最終制御量まで徐々に変化させるときの制御量の変化率が小さくなるように構成してもよい。
【0035】
このようにすれば、動作モードが低速モードであるとき、初期駆動期間経過後のモータの回転状態を目標回転状態までゆっくりと移行させることができるようになり、低速モードでの制御量の切り替えによって工具ビットが対象物から外れるのを抑制できる。
【0036】
次に、初期駆動期間経過後にモータの制御量を最終制御量まで徐々に変化させる場合、制御部は、制御量を一定の変化率で(換言すれば、所定時間に所定量の割合で段階的に)変化させるようにしてもよい。
【0037】
この場合、制御部は、初期駆動期間経過後の制御量の変化率が、モータの駆動開始時にモータの回転を上昇させるときの制御量の変化率である初期変化率に比べて小さくなるように構成されていてもよい。
【0038】
このようにすれば、初期駆動期間経過後の制御量の変化率をモータの駆動開始時の制御量の変化率よりも小さくして、制御量の最終制御量への切り換えをゆっくりと実施させることができる。よって、このようにしても、初期駆動期間経過後の制御量の切り替えによって工具ビットが対象物から外れるのを抑制できる。
【0039】
また、初期駆動期間経過後にモータの制御量を最終制御量まで徐々に変化させる場合、制御部は、制御量の変化率が経過時間に応じて徐々に大きくなるよう、制御量を変化させるようにしてもよい。
【0040】
このようにすれば、初期駆動期間経過後には、モータの回転速度は弓なりに上昇することになり、初期駆動期間経過直後には、モータの回転上昇を抑えて工具ビットが対象物から外れるのを抑制することができる。
【0041】
また、初期駆動期間からの時間経過と共にモータの回転速度が弓なりに上昇するため、対象物の締め付けに要する時間が長くなるのを抑制することもできる。
またこのように、初期駆動期間経過後、制御量を変化率が徐々に大きくなるように変化させる場合、制御部は、初期駆動期間経過直後には、制御量の変化率が、初期変化率に比べて小さくするように構成されていてもよい。
【0042】
そして、この場合、初期駆動期間経過後の時間経過に伴い、制御量の変化率が、初期変化率よりも大きくなるようにすれば、初期駆動期間経過後に工具ビットが対象物から外れるのを抑制しつつ、対象物の締め付けに要する時間が長くなるのを抑制することができる。
【0043】
次に、制御部は、モータの制御量として、モータを駆動制御するのに用いるPWM信号のデューティ比を増加させることで、初期駆動期間経過後のモータの回転状態を目標回転状態に制御するように構成されていてもよい。
【0044】
また、制御部は、モータの制御量として、モータ駆動時の通電角を広げることにより、初期駆動期間経過後のモータの回転状態を目標回転状態に制御するように構成されていてもよい。
【0045】
そして、通電角を広げることで、初期駆動期間経過後のモータの回転状態を目標回転状
態に制御する際には、例えば、モータ駆動に用いるPWM信号のデューティ比を100%に固定して、モータコイルへの通電開始及び終了タイミングを制御すればよい。
【0046】
この場合、PWM信号のデューティ比を制御するようにした場合に比べて、通電制御用のスイッチング素子を高速に切り替える必要がないので、そのスイッチング素子の発熱を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】実施形態の充電式インパクトドライバの縦断面図である。
図2】充電式インパクトドライバに搭載されたモータ駆動装置の電気的構成を表すブロック図である。
図3】制御回路にて実行される制御処理を表すフローチャートである。
図4図3のS140にて実行される打撃回数処理を表すフローチャートである。
図5図3のS150にて実行されるモータ制御処理を表すフローチャートである。
図6図5のS350にて実行されるモータ駆動処理を表すフローチャートである。
図7】実施形態のモータ制御により設定される制御目標とモータの回転速度及び電流の変化を表すタイムチャートである。
図8】変形例1のモータ駆動処理を表すフローチャートである。
図9】変形例1の制御目標とモータの回転速度及び電流の変化を表すタイムチャートである。
図10】変形例2の制御目標とモータの回転速度及び電流の変化を表すタイムチャートである。
図11】変形例2のモータ駆動処理を表すフローチャートである。
図12】変形例4のモータ制御による制御目標の設定手順の一例を説明するタイムチャートである。
図13】変形例4のモータ制御による制御目標の設定手順の他の例を説明するタイムチャートである。
図14】変形例6の制御目標とモータの回転速度及び電流の変化を表すタイムチャートである。
図15】変形例6のモータ駆動処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、回転打撃工具の一例である充電式インパクトドライバ1に本発明を適用した場合について説明する。
【0049】
図1に示すように、本実施形態の充電式インパクトドライバ1は、工具本体10と、工具本体10に電力を供給するバッテリパック30とにより構成されている。
工具本体10は、後述するモータ4や打撃機構6等が収容されたハウジング2と、ハウジング2の下部(図1の下側)から突出するように形成されたグリップ部3とにより構成されている。
【0050】
ハウジング2内には、その後部(図1の左側)にモータ4が収容されていると共に、そのモータ4の前方(図1の右側)に釣鐘状のハンマケース5が組み付けられており、このハンマケース5内に打撃機構6が収容されている。
【0051】
すなわち、ハンマケース5内には、後端側に中空部が形成されたスピンドル7が同軸で収容されており、ハンマケース5内の後端側に設けられたボールベアリング8が、このス
ピンドル7の後端外周を軸支している。
【0052】
スピンドル7におけるボールベアリング8の前方部位には、回転軸に対して点対称で軸支された2つの遊星歯車からなる遊星歯車機構9が、ハンマケース5の後端側内周面に形成されたインターナルギヤ11に噛合している。
【0053】
この遊星歯車機構9は、モータ4の出力軸12の先端部に形成されたピニオン13と噛合するものである。
そして、打撃機構6は、スピンドル7と、スピンドル7に外装されたハンマ14と、このハンマ14の前方側で軸支されるアンビル15と、ハンマ14を前方へ付勢するコイルバネ16とから構成される。
【0054】
つまり、ハンマ14は、スピンドル7に対して一体回転可能且つ軸方向へ移動可能に連結されており、コイルバネ16により前方(アンビル15側)に付勢されている。
また、スピンドル7の先端部は、アンビル15の後端に同軸で遊挿されることで回転可能に軸支されている。
【0055】
アンビル15は、ハンマ14による回転力及び打撃力を受けて軸回りに回転するものであり、ハウジング2の先端に設けられた軸受20によって、軸回りに回転自在かつ軸方向に変位不能に支持されている。
【0056】
また、アンビル15の先端部には、ドライバビットやソケットビット等の各種工具ビット(図示略)を装着するためのチャックスリーブ19が設けられている。
なお、モータ4の出力軸12、スピンドル7、ハンマ14、アンビル15、及びチャックスリーブ19は、いずれも同軸状となるように配置されている。
【0057】
また、ハンマ14の前端面には、アンビル15に打撃力を与えるための2つの打撃突部17,17が周方向に180°の間隔を隔てて突設されている。
一方、アンビル15には、その後端側に、ハンマ14の各打撃突部17,17が当接可能に構成された2つの打撃アーム18,18が周方向に180°の間隔を隔てて形成されている。
【0058】
そして、ハンマ14がコイルバネ16の付勢力でスピンドル7の前端側に付勢・保持されることで、そのハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18に当接するようになる。
【0059】
この状態で、モータ4の回転力により遊星歯車機構9を介してスピンドル7が回転すると、ハンマ14がスピンドル7と共に回転し、そのハンマ14の回転力が打撃突部17,17と打撃アーム18,18とを介してアンビル15に伝達される。
【0060】
これにより、アンビル15の先端に装着されたドライバビット等が回転し、ねじ締めが可能となる。
そして、ねじが所定位置まで締め付けられることにより、アンビル15に対して外部から所定値以上のトルクが加わると、そのアンビル15に対するハンマ14の回転力(トルク)も所定値以上になる。
【0061】
これにより、ハンマ14がコイルバネ16の付勢力に抗して後方に変位し、ハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18を乗り越えるようになる。つまり、ハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18から一旦外れ、空転する。
【0062】
このようにハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18を乗り越えると、ハンマ14は、スピンドル7と共に回転しつつコイルバネ16の付勢力で再び前方へ変位し、ハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18を回転方向に打撃する。
【0063】
従って、本実施形態の充電式インパクトドライバ1においては、アンビル15に対して所定値以上のトルクが加わる毎に、そのアンビル15に対してハンマ14による打撃が繰り返し行われる。そして、このようにハンマ14の打撃力がアンビル15に間欠的に加えられることにより、ねじを高トルクで増し締めすることができる。
【0064】
次に、グリップ部3は、作業者が当該充電式インパクトドライバ1を使用する際に把持する部分であり、その上方にトリガスイッチ21が設けられている。
このトリガスイッチ21は、作業者により引き操作されるトリガ21aと、このトリガ21aの引き操作によりオン・オフされるとともにこのトリガ21aの操作量(引き量)に応じて抵抗値が変化するように構成されたスイッチ本体部21bとを備えている。
【0065】
また、トリガスイッチ21の上側(ハウジング2の下端側)には、モータ4の回転方向を正転方向(本実施形態では、工具の後端側から前方を見た状態で右回り方向)又は逆転方向(正転方向とは逆の回転方向)の何れか一方に切り替えるための正逆切替スイッチ22が設けられている。
【0066】
また、ハウジング2の下部前方には、トリガ21aが引き操作されたときに当該充電式インパクトドライバ1の前方を光で照射するための照明LED23が設けられている。
また、グリップ部3における前方下部には、当該充電式インパクトドライバ1の動作モード(高速・低速)やバッテリ29の残容量等を表示するための表示パネル24が設けられている。
【0067】
なお、表示パネル24近傍には、当該充電式インパクトドライバ1の動作モードを高速モードにするか低速モードにするかを設定するための速度切替スイッチ26が設けられている(図2参照)。
【0068】
次に、グリップ部3の下端には、バッテリ29を収容したバッテリパック30が、着脱自在に装着されている。このバッテリパック30は、装着時にはグリップ部3の下端に対してその前方側から後方側へとスライドさせることにより装着される。
【0069】
バッテリパック30に収容されたバッテリ29は、本実施形態では、例えばリチウムイオン電池など、繰り返し充電可能な2次電池である。
また、モータ4は、本実施形態では、U,V,W各相の電機子巻線を備えた3相ブラシレスモータにて構成されている。そして、モータ4には、モータ4の回転位置(角度)を検出するための回転センサ50(図2参照)が設けられている。
【0070】
なお、回転センサ50は、例えば、モータ4の各相に対応して配置される3つのホール素子を備え、モータ4の所定回転角度毎に回転検出信号を発生するよう構成されたホールIC等にて構成される。
【0071】
また、グリップ部3の内部には、バッテリパック30から電力供給を受けて、モータ4を駆動制御するモータ駆動装置40(図2参照)が設けられている。
このモータ駆動装置40には、図2に示すように、駆動回路42、ゲート回路44、制御回路46、及び、レギュレータ48が設けられている。
【0072】
駆動回路42は、バッテリ29から電源供給を受けて、モータ4の各相巻線に電流を流すためのものであり、本実施形態では、6つのスイッチング素子Q1〜Q6からなる3相フルブリッジ回路として構成されている。なお、各スイッチング素子Q1〜Q6は、本実施形態ではMOSFETである。
【0073】
駆動回路42において、3つのスイッチング素子Q1〜Q3は、モータ4の各端子U,V,Wと、バッテリ29の正極側に接続された電源ラインとの間に、いわゆるハイサイドスイッチとして設けられている。
【0074】
また、他の3つのスイッチング素子Q4〜Q6は、モータ4の各端子U,V,Wと、バッテリ29の負極側に接続されたグランドラインとの間に、いわゆるローサイドスイッチとして設けられている。
【0075】
また、ゲート回路44は、制御回路46から出力された制御信号に従い、駆動回路42内の各スイッチング素子Q1〜Q6をオン/オフさせることで、モータ4の各相巻線に電流を流し、モータ4を回転させるものである。
【0076】
次に、制御回路46は、CPU、ROM、RAM等を中心とするマイクロコンピュータ(マイコン)にて構成されている。そして、制御回路46には、上述したトリガスイッチ21(詳しくはスイッチ本体部21b)、正逆切替スイッチ22、照明LED23、表示パネル24、及び、速度切替スイッチ26が接続されている。
【0077】
また、モータ駆動装置40において、駆動回路42からバッテリ29の負極側に至る通電経路には、モータ4に流れた電流を検出するための電流検出回路54が設けられている。なお、電流検出回路54は、例えば、電流検出用の抵抗とその両端電圧を電流検出信号として制御回路46に入力する入力回路とにより構成される。
【0078】
そして、制御回路46には、電流検出回路54からの電流検出信号、及び、モータ4に設けられた回転センサ50からの回転検出信号も入力される。
次に、制御回路46は、トリガスイッチ21が操作されると、回転センサ50からの回転検出信号に基づきモータ4の回転位置及び回転速度を求め、正逆切替スイッチ22からの回転方向設定信号に従い、モータ4を所定の回転方向に駆動する。
【0079】
また、制御回路46は、モータ4の駆動時には、トリガスイッチ21の操作量(引き量)及び速度切替スイッチ26を介して設定される動作モード(高速又は低速)に応じて、モータ4の速度指令値を設定する。
【0080】
そして、制御回路46は、その速度指令値に従い駆動回路42を構成する各スイッチング素子Q1〜Q6の駆動デューティ比を設定し、その駆動デューティ比に応じた制御信号(PWM信号)をゲート回路44に出力することで、モータ4の回転速度を制御する。
【0081】
なお、制御回路46は、こうしたモータ4駆動のための駆動制御とは別に、モータ駆動時に照明LED23を点灯させる制御等も実行する。
また、レギュレータ48は、バッテリ29から電源供給を受けて、制御回路46を動作させるのに必要な一定の電源電圧Vcc(例えば、直流5V)を生成するものであり、制御回路46は、レギュレータ48から電源電圧Vccが供給されることにより動作する。
【0082】
次に、制御回路46にて実行される制御処理について説明する。
図3に示すように、制御回路46は、所定の制御周期(タイムベース)でS120〜S
160(Sはステップを表す)の一連の処理を繰り返し実行する。
【0083】
すなわち、制御回路46は、S110にて、タイムベースが経過したか否かを判断することにより、所定の制御周期が経過するのを待ち、S110にてタイムベースが経過したと判断すると、S120に移行する。
【0084】
そして、S120では、トリガスイッチ21、正逆切替スイッチ22、速度切替スイッチ26からの信号入力を確認することで、これら各スイッチの操作を検出するスイッチ操作検出処理を実行する。
【0085】
また、続くS130では、トリガスイッチ21の操作量(引き量)、電流検出回路54や回転センサ50からの検出信号、バッテリパック30から供給されるバッテリ電圧等をA/D変換して取り込むA/D変換処理を実行する。
【0086】
そして、続くS140では、回転センサ50からの検出信号により得られるモータ4の回転速度の変化等から、打撃機構6による打撃やその発生回数(打撃回数)を検出する、打撃回数処理を実行する。
【0087】
また、続くS150では、トリガスイッチ21の操作量、速度切替スイッチ26を介して設定される動作モード、及び、打撃回数処理による打撃検出結果に基づき、モータ4を駆動制御する、モータ制御処理を実行する。
【0088】
そして、最後に、S160にて、使用者からの指令(動作設定)に従い、表示パネル24へのバッテリ29の残容量表示、照明LED23の点灯、等を行う表示処理を実行し、S110に移行する。
【0089】
次に、S140にて実行される打撃回数処理について説明する。
図4に示すように、打撃回数処理が開始されると、まずS210にて、トリガスイッチ21が使用者により操作されて、オン状態になっているか否かを判断する。そして、トリガスイッチがオン状態になっていれば、S220に移行し、トリガスイッチ21の操作量等からモータ4を駆動するか否かを判断する。
【0090】
S220にてモータ4を駆動しないと判断された場合、若しくは、S210にてトリガスイッチ21はオフ状態であると判断された場合には、S295に移行する。そして、S295では、後述の時間カウンタ、打撃回数フラグ、及び、打撃回数判定フラグ、をそれぞれクリアし、当該打撃回数処理を終了する。
【0091】
一方、S220にて、モータ4を駆動すると判断された場合には、S230に移行し、打撃回数フラグがセットされているか否かを判断する。そして、S230にて、打撃回数フラグはセットされていない(つまり、クリアされている)と判断されると、S240に移行し、打撃判定処理を実行する。
【0092】
打撃判定処理では、モータ4の回転速度の変化から打撃機構6による打撃を検出し、その検出回数(つまり打撃回数)をカウントする。
なお、打撃判定処理での打撃検出は、電流検出回路54にて検出される電流の変化を検出することによっても実施できる。また、打撃により発生する振動を加速度センサ等で検出することによっても実施できる。
【0093】
S240の打撃判定処理が完了すると、S250に移行し、打撃判定処理にてカウントされた打撃回数が、規定回数以上であるか否かを判断する。そして、打撃回数が規定回数
以上であれば、S260にて、打撃回数フラグをセットした後、当該打撃回数処理を終了し、打撃回数が規定回数以上でなければ、そのまま当該打撃回数処理を終了する。
【0094】
次に、S230にて、打撃回数フラグはセットされていると判断された場合には、S270に移行して、S260にて打撃回数フラグがセットされてからのモータ4の駆動時間を計時するための時間カウンタをインクリメント(+1)し、S280に移行する。
【0095】
S280では、その時間カウンタのカウント値に基づき、打撃回数が規定回数に達してからの経過時間が、予め設定された規定時間以上になったか否かを判定し、経過時間が規定時間以上であれば、S290に移行し、打撃回数判定フラグをセットする。
【0096】
そして、S290にて、打撃回数判定フラグをセットするか、或いは、S280にて経過時間は規定時間に達していないと判断した場合には、当該打撃回数処理を終了する。
次に、図3のS150にて実行されるモータ制御処理について説明する。
【0097】
図5に示すように、モータ制御処理が開始されると、まずS310にて、トリガスイッチ21が使用者により操作されて、オン状態になっているか否かを判断する。そして、トリガスイッチがオン状態になっていれば、S320に移行し、トリガスイッチ21の操作量等からモータ4を駆動するか否かを判断する。
【0098】
S320にてモータ4を駆動しないと判断された場合、若しくは、S310にてトリガスイッチ21はオフ状態であると判断された場合には、S400に移行し、モータ4を停止させるモータ停止処理を実行する。
【0099】
なお、このモータ停止処理では、駆動回路42を介してモータ4に制動力を発生させるか、或いは、単に通電を遮断してモータ4をフリーラン状態にすることで、モータ4を停止させる。
【0100】
そして、続くS410では、後述の高速切替フラグ、及び、駆動回路42を介してモータ4を駆動するための出力値(換言すればモータ4の制御量)である駆動デューティ比、をそれぞれクリアし、当該モータ制御処理を終了する。
【0101】
次に、S320にて、モータ4を駆動すると判断された場合には、S330に移行し、速度切替スイッチ26を介して設定される動作モードは、高速モードになっているか否かを判断する。
【0102】
そして、S330にて、当該充電式インパクトドライバ1の動作モードは、高速モードではない(つまり、低速モードである)と判断されると、S340に移行して、モータ4を低速モードで駆動するための低速目標値を設定する低速設定処理を実行し、S350に移行する。
【0103】
なお、低速目標値は、モータ4の無負荷時の回転速度をトリガスイッチ21の操作量に応じた設定回転数N1(図7参照)に制御するのに必要な出力値(駆動デューティ比)である。
【0104】
そして、S340では、トリガスイッチ21の操作量をパラメータとする低速モード用のマップ若しくは演算式を用いて、低速目標値(図7に示す低速目標Duty)を設定する。
【0105】
次に、S330にて、当該充電式インパクトドライバ1の動作モードは、高速モードで
あると判断された場合には、S360に移行し、高速切替フラグはセットされているか否かを判断する。
【0106】
また、S360にて、高速切替フラグはセットされていないと判断された場合には、S370に移行し、打撃回数判定フラグはセットされているか否かを判断する。
そして、S370にて、打撃回数判定フラグはセットされていないと判断されると、S340にて低速設定処理を実行した後、S350に移行する。
【0107】
一方、S360にて、高速切替フラグはセットされていると判断されるか、或いは、S370にて、打撃回数判定フラグはセットされていると判断されると、S380に移行し、モータ4を高速モードで駆動するための高速目標値を設定する、高速設定処理を実行する。
【0108】
そして、続くS390では、高速切替フラグをセットし、S350に移行する。
なお、S380にて設定される高速目標値は、モータ4の無負荷時の回転速度をトリガスイッチ21の操作量に応じた設定回転数N2(図7参照)に制御するのに必要な出力値(駆動デューティ比)である。
【0109】
そして、S380では、トリガスイッチ21の操作量をパラメータとする高速モード用のマップ若しくは演算式を用いて、高速目標値(図7に示す高速目標Duty)を設定する。
【0110】
次に、S350では、S340にて設定された低速目標値、若しくは、S380にて設定された高速目標値に基づき、モータ4を実際に制御するための制御量である出力値を設定する。そして、その設定した出力値に基づき制御信号を生成してゲート回路44に出力するモータ駆動処理を実行する。なお、S350のモータ駆動処理実行後は、当該モータ制御処理を終了する。
【0111】
次に、モータ駆動処理について、図6に示すフローチャートに沿って説明する。
図6に示すように、モータ制御処理では、まずS510にて、高速切替フラグがセットされているか否かを判断する。
【0112】
そして、高速切替フラグがセットされていなければ、S520にて、後述の段階時間カウンタをクリアした後、S530にて、モータ4の駆動制御に用いる出力値(駆動デューティ比)を、現在の出力値に所定の加算値Aを加えることで更新し、S540に移行する。
【0113】
S540では、出力値が低速目標値を超えたか否かを判定し、出力値が低速目標値を超えていれば、S550にて、出力値を低速目標値に設定した後、当該モータ駆動処理を終了する。また、出力値が低速目標値を超えていなければ、そのまま当該モータ駆動処理を終了する。
【0114】
なお、この出力値は、制御回路46にて別途実施される制御信号出力処理にて、モータ4への供給電力を、ゲート回路44を介してPWM制御するための制御信号(PWM信号)を生成するのに利用される。
【0115】
そして、この出力値は、駆動デューティ比であり、モータ停止時には「零」であることから、モータ4の駆動開始後、S530の処理が繰り返し実行されることにより、初期値「零」から加算値Aにて徐々に増加し、低速目標値(図7に示す低速目標Duty)に達することになる。
【0116】
次に、S510にて、高速切替フラグはセットされていると判断された場合、つまり、動作モードが高速モードであり、打撃機構6による打撃回数が規定回数に達し、その後、規定時間が経過して、S380にて高速目標値が設定された場合には、S560に移行する。
【0117】
そして、S560では、出力値が高速目標値になっているか否かを判断し、出力値が高速目標値になっていれば、当該モータ駆動処理を終了し、出力値が高速目標値になっていなければ、S570に移行する。
【0118】
S570では、段階時間カウンタをインクリメント(+1)し、S580に移行する。そして、S580では、段階時間カウンタにて計時される段階時間が、予め設定された設定時間になったか否かを判断し、段階時間が設定時間になっていなければ、当該モータ駆動処理を終了し、段階時間が設定時間になっていれば、S590に移行する。
【0119】
S590では、段階時間カウンタをクリアし、出力値(駆動デューティ比)を、現在の出力値に所定の加算値Bを加えることで更新する。なお、加算値Bは、加算値Aに比べて小さい値が設定されている。
【0120】
また続くS600では、出力値が高速目標値を超えたか否かを判定し、出力値が高速目標値を超えていれば、S610にて、出力値を高速目標値に設定した後、当該モータ駆動処理を終了する。また、出力値が高速目標値を超えていなければ、そのまま当該モータ駆動処理を終了する。
【0121】
以上説明したように、本実施形態の充電式インパクトドライバ1においては、トリガスイッチ21が操作されて、モータ4を駆動する際には、モータ4への出力値(駆動デューティ比)を、低速目標値(低速目標Duty)まで徐々に増加させる(S530〜S550)。
【0122】
このため、図7に示すように、モータ4の駆動開始後(時点t1)、モータ4の回転速度は設定回転数N1まで徐々に上昇し、設定回転数N1に保持される。
従って、本実施形態の充電式インパクトドライバ1を利用してねじを締め付ける場合、締め付け開始直後のモータ4の回転上昇を抑制し、ドライバビットがねじから外れ、ねじ頭や被削剤を傷つけてしまうのを防止できる。
【0123】
また、ねじ締めによりモータ4に負荷が加わり始めると(時点t2)、モータ4の回転速度は低下し、その後、打撃機構6による打撃が開始される。
そして、動作モードが低速モードであれば、モータ4への出力値(駆動デューティ比)は低速目標Dutyに保持され、打撃機構6による打撃が継続される。
【0124】
これに対し、動作モードが高速モードであれば、打撃機構6による打撃回数が規定回数に達し、その後、規定時間が経過すると(時点t3)、制御目標が、低速目標値(低速目標Duty)から高速目標値(高速目標Duty)に切り替えられる。
【0125】
そして、制御目標が切り替えられると、段階時間カウンタにて計時される段階時間が設定時間に達する度に出力値(駆動デューティ比)に加算値Bが加算され、出力値(駆動デューティ比)が、高速目標値(高速目標Duty)まで段階的に増加する(S560〜S610)。
【0126】
つまり、動作モードが高速モードである場合、モータ4の駆動を開始してから、打撃機
構6による打撃回数が規定回数に達して規定時間が経過する迄の初期駆動期間と、初期駆動期間が経過した後とで、モータ4の駆動電力が低電力から高電力へと切り替えられる。
【0127】
従って、高速モードでは、モータ4の初期駆動期間中、打撃機構6による打撃力が通常よりも抑制されることになり、ねじが被削材に充分入り込んでいないときに、打撃機構6による打撃が開始されて、ドライバビットがねじから外れるのを防止できる。
【0128】
また、高速モードで、初期駆動期間が経過すると、モータ4の制御目標が最終制御量である高速目標値(高速目標Duty)に切り替えられて、打撃機構6による打撃力が強くなるので、ねじを被削材に締め付けるのに要する時間を短くすることができる。
【0129】
また、高速モードで、出力値である駆動デューティ比を低速目標Dutyから高速目標Dutyに切り替える際には、駆動デューティ比を段階的に増加させることから、出力値の切り替えによってモータ4の回転が急上昇するのを防止することもできる。
【0130】
特に、本実施形態では、駆動デューティ比を低速目標Dutyから高速目標Dutyへ増加させるのに用いられる加算値Bは、駆動デューティ比を駆動停止時の初期値「0」から低速目標Dutyへ増加させるのに用いられる加算値Aよりも小さい。
【0131】
このため、本実施形態によれば、駆動デューティ比を低速目標Dutyから高速目標Dutyへ増加させる際の目標Dutyの増加率を、モータ4の駆動開始直後の増加率(換言すれば、初期変化率)よりも小さくして、モータ4の回転上昇を、モータ4の駆動開始時よりも抑制できる。
【0132】
よって本実施形態によれば、この構成によっても、打撃機構6による打撃開始後にドライバビットがねじから外れるのを抑制できる。
なお、本実施形態においては、速度切替スイッチ26が、本発明の操作部に相当する。また、制御回路46は、本発明の打撃検出部及び制御部に相当し、特に、制御回路46にて実行される打撃回数処理は、本発明の打撃検出部として機能し、制御回路46にて実行されるモータ制御処理は、本発明の制御部として機能する。
【0133】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
(変形例1)
例えば、上記実施形態では、高速モードで、モータ4の制御量である出力値を切り替える際には、モータ4の駆動デューティ比を、低速目標Dutyから高速目標Dutyに切り替えるものとして説明した。
【0134】
これに対し、モータ4の制御量として、PWM信号の駆動デューティ比ではなく、モータ4の駆動時の通電角を変更するようにしても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。そして、このためには、モータ駆動処理を、図8に示す手順で実行するようにすればよい。
【0135】
なお、このモータ駆動処理では、モータ4の駆動デューティ比には、トリガスイッチ21の操作量が最大操作量であるとき100%となるよう、トリガスイッチ21の操作量に応じて設定される目標Dutyが利用される。
【0136】
このため、図8のモータ駆動処理では、出力値として、モータ4駆動時の各相巻線への通電開始タイミングである進角値、及び、その通電期間である通電角を設定するものとして説明する。
【0137】
図8に示すように、このモータ制御処理では、まずS710にて、高速切替フラグがセットされているか否かを判断し、高速切替フラグがセットされていなければ、S720にて、段階時間カウンタ及び通電角切替フラグをクリアする。
【0138】
そして、続くS730では、モータ4の駆動制御に用いる進角値を、現在の進角値に所定の加算値Xを加えることで更新し、S740に移行する。
S740では、進角値が低速目標値(例えば、22.5°)を超えたか否かを判定し、進角値が低速目標値を超えていれば、S750にて、進角値を低速目標値に設定した後、当該モータ駆動処理を終了する。また、進角値が低速目標値を超えていなければ、そのまま当該モータ駆動処理を終了する。
【0139】
なお、進角値の初期値は、低速目標値よりも小さい値(例えば零)である。このため、S730の処理によって、モータ4駆動時の進角値が徐々に増加して、モータ4への通電開始タイミングが進角側に移動し、モータ4の駆動電力(延いては駆動トルク)が増加する。
【0140】
次に、S710にて、高速切替フラグはセットされていると判断された場合には、S760に移行し、進角値が高速目標値(例えば、37.5°)になっているか否かを判断し、進角値が高速目標値になっていなければ、S770に移行する。また、進角値が高速目標値になっていれば、S820に移行する。
【0141】
S770では、段階時間カウンタをインクリメント(+1)し、S780に移行する。そして、S780では、段階時間カウンタにて計時される段階時間が予め設定された設定時間になったか否かを判断し、段階時間が設定時間になっていなければ、当該モータ駆動処理を終了し、段階時間が設定時間になっていれば、S790に移行する。
【0142】
S790では、段階時間カウンタをクリアし、進角値を、現在の進角値に所定の加算値Yを加えることで更新し、S800に移行する。
そして、S800では、進角値が高速目標値を超えたか否かを判定し、進角値が高速目標値を超えていれば、S810にて、進角値を高速目標値に設定した後、当該モータ駆動処理を終了する。また、進角値が高速目標値を超えていなければ、そのまま当該モータ駆動処理を終了する。
【0143】
次に、S820では、通電角切替フラグがセットされているか否かを判断する。そして、通電角切替フラグがセットされていれば、そのまま当該モータ駆動処理を終了し、通電角切替フラグがセットされていなければ(つまり、クリアされていれば)、S830に移行する。
【0144】
S830では、段階時間カウンタをインクリメント(+1)し、続くS840にて、段階時間カウンタにて計時される段階時間が予め設定された設定時間になったか否かを判断する。なお、この設定時間は、S780の判定に用いられる設定時間と同じであってもよく、異なる時間であってもよい。
【0145】
そして、S840にて、段階時間は設定時間になっていないと判断されると、当該モータ駆動処理を終了し、段階時間が設定時間になったと判断されると、S850に移行し、モータ4駆動時の通電角を拡大する。
【0146】
つまり、S850では、モータ駆動時の通電角が、低速目標値(例えば120°)よりも広い高速目標値(例えば150°)となるよう、各相巻線への通電終了タイミングを所
定角度(例えば15°)だけ遅延させる。
【0147】
そして、続くS860では、段階時間カウンタをクリアすると共に、通電角切替フラグをセットし、当該モータ駆動処理を終了する。
このように、図8に示すモータ駆動処理では、図9に示すように、モータ4の駆動開始後(時点t1)、モータ4駆動時の進角値を低速目標値(低速目標進角値)まで徐々に増加させることで、モータ4の回転速度を設定回転数N1まで上昇させる(S720〜S750)。
【0148】
そして、ねじ締めによりモータ4に負荷が加わり始めると(時点t2)、モータ4の回転速度は低下し、その後、打撃機構6による打撃が開始されるが、動作モードが低速モードであれば、進角値は低速目標進角値に保持され、モータ4への通電角も、所定の低速目標値に固定される。
【0149】
これに対し、動作モードが高速モードであれば、打撃機構6による打撃回数が規定回数に達し、その後、規定時間が経過すると(時点t3)、進角値の制御目標が、低速目標進角値から高速目標進角値に切り替えられる。
【0150】
そして、進角値の制御目標が切り替えられると、段階時間カウンタにて計時される段階時間が設定時間に達する度に、進角値に加算値Yが加算され、進角値が、高速目標進角値まで段階的に増加する(S770〜S810)。
【0151】
つまり、動作モードが高速モードである場合、モータ4の駆動を開始してから、打撃機構6による打撃回数が規定回数に達して規定時間が経過すると、モータ4駆動時の進角値が、低速モードでの進角値よりも進角側に補正され、モータ4への通電角が徐々に増加する。
【0152】
従って、高速モードでは、モータ4の初期駆動期間中、打撃機構6による打撃力が低速モードと同程度に抑制されることになり、変形例1でも、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0153】
また、高速モードでは、図9に示すように、進角値が、高速目標進角値に達すると(時点t4)、所定の設定時間経過後に、通電角が高速目標値(例えば150°)となるよう、各相巻線への通電終了タイミングを所定角度だけ遅延させる(S830〜S860)。
【0154】
この結果、変形例1によれば、高速モードでは、この通電角の切り替えにより、モータ4の回転数が更に増加し、ねじを被削材に締め付けるのに要する時間をより短くすることができる。
【0155】
また、変形例1では、トリガスイッチ21の操作量が最大操作量であれば、モータ4の駆動デューティ比を100%にすることができるので、モータ4の駆動デューティ比を制御するようにした場合に比べて、駆動回路42内のスイッチング素子の発熱を抑えることができる。
(変形例2)
次に、上記実施形態及び変形例では、高速モードで制御量(駆動デューティ比若しくは進角値)を最終制御量(高速目標Duty若しくは高速目標進角値)に切り替える際には、制御量を加算値B又はYにて決まる一定の変化率にて徐々に変化させるものとした。
【0156】
しかし、このように制御量を最終制御量に切り替える際には、図10に例示するように、制御量の変化率(増加率)を、経過時間に応じて徐々に大きくなるよう変化させてもよ
い。
【0157】
つまり、図10においては、実施形態の充電式インパクトドライバ1において、動作モードが高速モードで、初期駆動期間が経過し、モータ4の制御目標を高速目標Dutyに切り替える際に、駆動デューティ比を弓なりに変化(増加)させるようにしている。
【0158】
具体的には、初期駆動期間経過後(時点t3以降)の駆動デューティ比の増加率が、初期駆動期間経過直後にはモータ4の駆動開始直後の増加率よりも小さく、その後、徐々に増加率が増加し、最終的には、モータ4の駆動開始直後の増加率よりも大きくなっている。
【0159】
このように、初期駆動期間経過後に駆動デューティ比を高速目標Dutyまで弓なりに増加させるようにすれば、初期駆動期間経過直後には、モータ4の回転上昇を抑えることができる。
【0160】
特に、図10に示すタイムチャートでは、初期駆動期間経過直後の駆動デューティ比の増加率が、モータ4の駆動開始直後の増加率よりも小さくなっているので、モータ4の回転が急上昇するのをより良好に抑制することができる。
【0161】
従って、変形例2によれば、打撃開始後にドライバビットがねじから外れるのを、より確実に抑制することができる。
また、初期駆動期間からの時間経過と共にモータの回転速度が弓なりに上昇することから、ねじの締め付けに要する時間が長くなるのを抑制することもできる。
【0162】
そして、このように初期駆動期間経過後に駆動デューティ比を弓なりに変化させるためには、図6に示したモータ駆動処理を、図11に示すように変更すればよい。以下、この変更点について説明する。
【0163】
図11に示すモータ駆動処理においては、S510にて、高速切替フラグはセットされていると判断されてから、S560にて出力値が高速目標値になったと判断されるか、S570にて段階時間が設定時間になったと判断されるまで、S582、S584の処理を実行する。
【0164】
S582では、S520にて段階時間カウンタと共にクリアされる切替時間カウンタを更新(+1)することで、高速切替フラグがセットされてから、出力値が高速目標値に達するまでの経過時間を計時する。
【0165】
また、続くS584では、切替時間カウンタのカウント値(つまり、初期駆動期間終了後の経過時間)に基づき、加算値Bを設定する。このS584の処理は、初期駆動期間終了後の経過時間に応じて加算値Bが大きい値となるようにすることで、出力値を弓なりに変化させるための処理であり、加算値Bの設定には、切替時間カウンタのカウント値をパラメータとする演算式、若しくは、マップが用いられる。
【0166】
そして、S580にて、加算値Bが設定されると、S590に移行し、その設定された加算値Bを出力値に加えることで、出力値を更新し、S600以降の処理を実行する。
従って、初期駆動期間経過後、出力値であるモータ4の駆動デューティ比は、図10に示したように弓なりに増加することになり、上記効果を発揮することができる。
(変形例3)
次に、上記実施形態及び変形例では、モータ4の駆動開始後、駆動デューティ比の制御目標を低速目標Dutyから高速目標Dutyに切り替えるまでの初期駆動期間は、打撃
機構6による打撃回数が規定回数に達し、その後、所定の設定時間が経過する迄の期間とした。
【0167】
しかし、この初期駆動期間は、打撃機構6による打撃回数だけで規定するようにしてもよく、或いは、モータ4の駆動開始後の経過時間だけで規定するようにしてもよい。
(変形例4)
次に、上記実施形態及び変形例においては、低速モードでは制御量(駆動デューティ比若しくは進角値)の切り替えを実施しないものとして説明した。
【0168】
これは、低速モードでは、最終目標となる駆動デューティ比若しくは進角値が低く、この制御量でモータ4を駆動制御しても、打撃発生時にドライバビットがねじから外れることがないと考えられるためである。
【0169】
しかし、低速モードでも、打撃発生時にドライバビットがねじから外れることもあるので、このような場合には、高速モードと同様、駆動デューティ比を切り替えるようにすればよい。
【0170】
また、上記実施形態及び変形例では、速度切替スイッチ26を介して、動作モードを低速と高速の2段階に切替可能な充電式インパクトドライバ1について説明した。しかし、本発明は、例えば、動作モードを低速と中速と高速の3段階、若しくはそれ以上に切替可能な充電式インパクトドライバであっても、上記実施形態と同様に適用することができる。
【0171】
そして、動作モードを3段階に切替可能にする場合には、図12又は図13に例示するように、低速モード、中速モードでも、高速モードと同様、駆動デューティ比を切り替えるようにすればよい。
【0172】
なお、このように複数の動作モードで駆動デューティ比を切り替える際には、動作モード毎に、各動作モード用のモータ制御処理(図5参照)を実行し、初期駆動期間と初期駆動期間経過後の最終駆動期間とで制御量(駆動デューティ比若しくは通電角)を切り替えるようにすればよい。
【0173】
またこの場合、図12に示す拡大図から明らかなように、初期駆動期間経過後、制御量を最終制御量まで変化させる際には、例えば、動作モード毎に異なる加算値B、Yを設定することにより、制御量の変化率を動作モード毎に設定するようにしてもよい。
【0174】
なお、図12の拡大図において、駆動デューティ比を最終目標Dutyまで変化させる際の駆動デューティ比の変化率(増加方向への傾き)は、高速モードよりも低速モードの
方が大きくなっているが、高速モードの方が大きくなっていてもよい。つまり、この変化率の違いについては、制御対象となるモータ(換言すれば工具)の特性に応じて適宜設定すればよい。
【0175】
また、図13は、変形例2で説明したように、制御量の変化率を時間経過と共に増加させて制御量を弓なりに変化させること表しているが、この場合、経過時間に応じて加算値B、加算値Yを設定するのに用いるマップを、動作モード毎に用意するようにすればよい。
(変形例5)
また次に、上記実施形態及び変形例では、動作モードが高速モードである場合には、モータ4の制御量(駆動デューティ比若しくは通電角)を必ず切り替えるものとして説明した。
【0176】
しかし、この切り替えは常時実行させる必要はなく、例えば、上記実施形態と同様の切り替え制御を実行するか、或いは、切り替え制御を実行することなく高速モードでの最終制御量にて制御を実行するか、を使用者が選択できるようにしてもよい。
【0177】
そして、このようにすれば、充電式インパクトドライバ1の使い勝手をより向上することが可能となる。
(変形例6)
次に、上記実施形態及び変形例では、制御回路46は、動作モード(高速又は低速)に応じて設定される速度指令値に基づきモータ4の制御量(駆動デューティ比若しくは通電角)を設定するものとして説明した。
【0178】
しかし、制御回路46は、動作モード(高速又は低速)に応じてモータ4の目標回転速度を設定し、モータ4の駆動時には、モータ4の回転速度が目標回転速度となるよう、モータ4を駆動制御するように構成されていてもよい。
【0179】
例えば、図14に示すように、動作モード(低速モード、高速モード)に応じて、目標回転速度NT1、NT2を設定し、モータ4の回転速度がその設定された目標回転速度NT1、NT2となるように、モータ4をフィードバック制御するのである。
【0180】
そして、この変形例6においても、上述した実施形態と同様、高速モードでは、時点t1〜t3の初期駆動期間中、低速モードの目標回転速度NT1にてモータ4を駆動制御し、初期駆動期間経過後、目標回転速度を目標回転速度NT2に切り替えるようにするとよい。
【0181】
なお、図14においては、初期駆動期間の経過に伴い目標回転速度を切り替えると、その後、モータ4の回転速度が目標回転速度NT2に達するまで、制御量である駆動デューティ比を徐々に(詳しくは変形例2と同様、弓なりに)変化させることを表している。
【0182】
そして、このようにモータ4の回転速度を制御する際には、図5に示したモータ制御処理のS340にて、モータ4の目標回転状態として目標回転速度NT1を設定し、S380にて、モータ4の目標回転状態として目標回転速度NT2を設定するようにすればよい。
【0183】
また、この場合、S350のモータ駆動処理は、図15に示す手順で実施するようにすればよい。以下、図15のモータ駆動処理について説明する。
図15のモータ駆動処理においては、図11に示したモータ駆動処理と同様、S510にて、高速切替フラグはセットされていないと判断されると、S520にて、段階時間カウンタと切替時間カウンタとをクリアする。
【0184】
続くS522では、モータ4に対する回転速度指令が、目標回転速度NT1よりも小さいか否かを判断し、回転速度指令が目標回転速度NT1よりも小さい場合には、S532に移行して、回転速度指令に加算値Aを加えることで、回転速度指令を更新する。
【0185】
そして、S532で回転速度指令が更新されるか、S522で回転速度指令が目標回転速度NT1に達していると判断されると、S620に移行する。
一方、高速切替フラグがセットされていれば、S562にて、回転速度指令は、目標回転速度NT2よりも小さいか否かを判断する。
【0186】
そして、回転速度指令が目標回転速度NT2よりも小さい場合には、S570にて段階
時間カウンタをインクリメント(+1)し、S580にて段階時間カウンタにて計時される段階時間が設定時間になったか否かを判断する。
【0187】
S562にて、回転速度指令は目標回転速度NT2に達していると判断されるか、或いは、S580にて、段階時間は設定時間になっていないと判断されると、S620に移行する。
【0188】
また、S580にて、段階時間は設定時間になったと判断されると、図11に示したモータ駆動処理と同様、S582にて、切替時間カウンタを更新(+1)し、S584にて、切替時間カウンタのカウント値に基づき、加算値Bを設定する。
【0189】
そして、S592では、段階時間カウンタをクリアし、続くS594では、回転速度指令に加算値Bを加えることで、回転速度指令を更新し、S620に移行する。
S620では、モータ4の回転速度と回転速度指令との速度差に基づき、出力値(駆動デューティ比)を更新(増減)し、モータ駆動処理を終了する。
【0190】
この結果、モータ4の回転速度は、目標回転速度NT1又はNT2に制御されることになる。
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、本発明は、充電式インパクトドライバ1に限定されるものではなく、例えば、インパクトレンチ等、モータにより駆動される打撃機構を備えた回転打撃工具であれば適用することができる。
【0191】
また、上記実施形態では、モータ4は、3相ブラシレスモータにて構成されるものとして説明したが、打撃機構6を回転駆動可能なモータであればよい。つまり、例えば、本発明の回転打撃工具は、バッテリ式ものに限らず、コードを介して電力の供給を受けるものに適用されてもよいし、交流モータによって工具要素を回転駆動させるように構成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0192】
1…充電式インパクトドライバ、2…ハウジング、3…グリップ部、4…モータ、5…ハンマケース、6…打撃機構、7…スピンドル、8…ボールベアリング、9…遊星歯車機構、10…工具本体、11…インターナルギヤ、12…出力軸、13…ピニオン、14…ハンマ、15…アンビル、16…コイルバネ、17…打撃突部、18…打撃アーム、19…チャックスリーブ、20…軸受、21…トリガスイッチ、22…正逆切替スイッチ、23…照明LED、24…表示パネル、26…速度切替スイッチ、29…バッテリ、30…バッテリパック、40…モータ駆動装置、42…駆動回路、44…ゲート回路、46…制御回路、48…レギュレータ、50…回転センサ、54…電流検出回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15