【実施例1】
【0010】
図1及び
図2は、実施例1の電磁波計測装置であるテラヘルツ時間領域分光(TDS)計測装置に用いられ、電磁波を発生する電磁波発生器10及び電磁波を検出する電磁波検出器30のそれぞれを模式的に示す斜視図である。以下に、図面を参照して電磁波発生器10及び電磁波検出器30の構成について説明する。
[電磁波発生器の構成]
図1に示すように、電磁波発生器10は、光伝導アンテナ素子であり、光伝導材料の薄膜を積層した光伝導基板13と、光伝導基板13上に形成された一対のアンテナ電極(以下、単に一対のアンテナという)20と、を有している。
【0011】
光伝導基板13は、光伝導層を成長するための基板(以下、成長基板と称する)11と、成長基板11上に成長された光伝導層(以下、第2光伝導層という)12と、からなる。
【0012】
一対のアンテナ20は、第2光伝導層12上に設けられている。一対のアンテナ20は、一対のアンテナ電極部20Aと、一対のアンテナ本体20Bと、からなるダイポールアンテナである。一対のアンテナ電極部20Aは、配線(図示しない)を介して定電圧源などの電源等が接続されるように構成されている。一対のアンテナ本体20Bは、所定の離間間隔をおいて対向して配置されている。以下においては、当該対向する一対のアンテナ本体20Bの間の第2光伝導層12の部分をギャップ部23と称する。
【0013】
一対のアンテナ本体20Bの間に電圧を印加した状態で、ギャップ部23にフェムト秒パルスレーザ等の励起光(ポンプ光)を照射すると、光励起キャリアが発生する。そして、一対のアンテナ本体20Bの間にパルス状の電流が流れ、この電流によってテラヘルツ電磁波が発生する。
[電磁波検出器の構成]
また、
図2に示すように、電磁波検出器30は、光伝導アンテナ素子であり、光伝導材料の薄膜を積層した光伝導基板33と、光伝導基板33上に形成された一対のアンテナ電極(以下、単に一対のアンテナという。)40と、を有している。
【0014】
光伝導基板33は、成長基板31と、成長基板31上に成長された光伝導層(以下、第1光伝導層という)32と、からなる。
【0015】
一対のアンテナ40は、第1光伝導層32上に設けられている。一対のアンテナ40は、一対のアンテナ電極部40Aと、一対のアンテナ本体40Bと、からなるダイポールアンテナである。一対のアンテナ電極部40Aは、配線(図示しない)を介して電流計等が接続されるように構成されている。一対のアンテナ本体40Bは、所定の離間間隔をおいて対向して配置されている。以下においては、当該対向する一対のアンテナ本体40Bの間の第1光伝導層32の部分をギャップ部43と称する。
【0016】
また、ギャップ部43にプローブ光を照射し、測定試料からのテラヘルツ電磁波を受けたときに一対のアンテナ本体40Bの間に電流が発生する。この電流を電流増幅器等を介して電流計によって測定することによってテラヘルツ電磁波を検出することができる。
[電磁波発生器の光伝導層の構成]
図3は、電磁波発生器10の光伝導基板13の積層構造を模式的に示す断面図である。電磁波発生器10の成長基板11は、半絶縁性(SI:Semi-insulating)のInP基板(SI−InP)である。成長基板11上には、光伝導層(第2光伝導層)12が形成されている。第2光伝導層12は、InGaAsなどからなる1層の半導体層として構成されている。
【0017】
第2光伝導層12は分子線エピタキシー法(MBE: Molecular Beam Epitaxy)によって成長された結晶層である。より詳細には、通常温度での成長または、いわゆる低温(LT:low-temperature)成長により成長された半導体層である。
[電磁波検出器の光伝導層の構成]
図4は、電磁波検出器30の光伝導基板33の積層構造を模式的に示す断面図である。電磁波検出器30の成長基板31は、SI−InP基板である。成長基板31上には、第2半導体層37と、第2半導体層37上に形成された第1半導体層35と、からなる光伝導層(第1光伝導層)32が形成されている。
【0018】
第2半導体層37、及び第1半導体層35はMBE法によって成長された結晶層である。より詳細には、通常温度での成長または、いわゆる低温(LT)成長により成長された半導体層である。
[電磁波発生器の製造工程]
次に、MBE装置を用いた電磁波発生器10の製造工程について説明する。なお、本実施例では、結晶成長法としてMBE法を用いているが、MBE法に代えて、より低廉な結晶成長法であるMOCVD(有機金属化学気相蒸着)法等を用いてもよい。
【0019】
まず、光伝導基板13を作製するため、MBE装置に成長基板11をセットする。なお、本実施例では、成長基板11にはSI−InP単結晶基板を用いたが、GaAs(SI−GaAs)やSi(SI−Si)など種々の基板を用いることができる。また、半絶縁性(SI)ではない基板を用いてもよい。例えば、成長基板11上に積層する光伝導層12の材料やその格子定数など、又はTDS計測装置に用いられるレーザ光の波長などに応じて、適宜選択し得る。
【0020】
次に、成長基板11上に第2光伝導層12を、例えば1〜4μm程度の層厚でエピタキシャル成長させる。具体的には、エピタキシャル成長は、例えば、成長基板11の温度を100〜600℃、成長速度を約1μm/hに設定して第2光伝導層12を成長させる。その後、必要に応じて光伝導基板13の熱処理(アニール)を行う。
【0021】
上記の工程を経て形成された光伝導基板13上に、フォトリソグラフィ法(エッチング処理含む)等の公知の技術を用いて、アンテナ20が形成される。一対のアンテナ20が形成されて、電磁波発生器10が完成する。なお、一対のアンテナ20は、ダイポールアンテナに限らず、ボウタイ型アンテナ、ストリップライン型アンテナ又はスパイラル型アンテナ等の任意のアンテナであってもよい。
【0022】
なお、成長基板11と第2光伝導層12との間に、必要に応じて、バッファ層を成長させても良い。
[電磁波検出器の製造工程]
続いて、MBE装置を用いた電磁波検出器30の製造工程について説明する。なお、本実施例では、結晶成長法としてMBE法を用いているが、MBE法に代えて、より低廉な結晶成長法であるMOCVD(有機金属化学気相蒸着)法等を用いてもよい。
【0023】
まず、光伝導基板33を作製する。成長基板31上に第2半導体層37を例えば数nm〜数百nm程度の層厚でエピタキシャル成長させる。続いて、第2半導体層37上に第1半導体層35を例えば1〜4μm程度の層厚 でエピタキシャル成長させる。なお、成長基板31上に第1半導体層35をエピタキシャル成長させ、続いて、第1半導体層35上に、第2半導体層37を、エピタキシャル成長させてもよい。
【0024】
本実施例においては、第1光伝導層32は、1層の第2半導体層37上に、1層の第1半導体層35を成長させた場合について説明するが、必要に応じて交互に繰り返し積層されていてもよい。すなわち、第1光伝導層32は、少なくとも1の第2半導体層37と、少なくとも1の第1半導体層35とが交互に積層されて構成されている。なお、少なくとも1の第1半導体層35の層厚を合計した総厚は、1.5μm以上であることが好ましい。第1光伝導層32を成長した後、必要に応じて光伝導基板33の熱処理(アニール)を行う。
【0025】
上記の工程を経て形成された光伝導基板33の上に、フォトリソグラフィ法(エッチング処理含む)等の公知の技術を用いて、一対のアンテナ40が形成される。一対のアンテナ40が形成されて、電磁波検出器30が完成する。なお、一対のアンテナ40は、ダイポールアンテナに限らず、ボウタイ型アンテナ、ストリップライン型アンテナ又はスパイラル型アンテナ等の任意のアンテナであってもよい。
【0026】
なお、成長基板31と第1光伝導層32との間に、必要に応じて、バッファ層を成長させても良い。
[電磁波発生器の光伝導層の半導体材料]
図3及び
図4を参照し、本実施例の光伝導層に適用する半導体材料、光伝導層が有するバンドギャップエネルギー(Eg(eV)、以下、バンドギャップと称する)及び積層構造について説明する。
【0027】
一般的に、光伝導層の材料としては、GaAs、Si、AlGaAs、InGaP、AlAs、InP、InAlAs、InGaAs、GaAsSb、InGaAsP、InAs、InSb等の半導体層が挙げられる。電磁波発生器の光伝導層には、一般的な光伝導層の材料から適宜選択して用いることができる。
【0028】
図3に示す第2光伝導層12には、InGaAsの代わりに、一般的な光伝導層の材料から適宜選択して、例えばGaAs、InAs、InSb等を用いてもよい。
【0029】
なお、バッファ層を成長させる場合には、GaAs、Si、AlGaAs、InGaP、AlAs、InP、InAlAs、InGaAs、GaAsSb、InGaAsP、InAs、InSb等を、成長基板11、第2光伝導層12の材料及びその格子定数に応じて任意に選択して用いることができる。
[電磁波検出器の光伝導層の材料]
図4に示す第1光伝導層32は、少なくとも1の第1半導体層35と、第1半導体層35よりもバンドギャップが大なる半導体からなる少なくとも1の第2半導体層37と、が交互に積層されることによって構成されている。
【0030】
バンドギャップの大きい半導体ほど、キャリア移動度は低い傾向がある。本実施例において、第1半導体層35としてInGaAs、第2半導体層37としてInGaAsよりもバンドギャップの大なるInAlAsを採用している。したがって、第2半導体層37は、第1半導体層35と比較して低いキャリア移動度、すなわち短いキャリア寿命を有する。
【0031】
第2半導体層37の有するバンドギャップは、第1半導体層35が有するバンドギャップよりも、例えば0.6〜0.8eV程度大きいことが好ましい。
【0032】
第1半導体層35、第2半導体層37、それぞれの半導体材料については、次の組み合わせが挙げられる。第1半導体層35、第2半導体層37の有するバンドギャップをそれぞれEg
1、Eg
2と表した場合に、例えば、Eg
1(GaAs)<Eg2(AlAs)、Eg
1(InGaAs)<Eg2(AlAs)、Eg
1(GaAs)<Eg2(InAlAs)、Eg
1(In
xGa
1-xAs)<Eg2(In
xAl
1-xAs)、Eg
1(InGaAs)<Eg2(GaAsSb)、Eg
1(InAs)<Eg2(GaAsSb)、Eg
1(InGaAs)<Eg2(InGaP)、Eg
1(AlGaAs)<Eg2(AlAs)、Eg
1(InGaP)<Eg2(AlAs)、Eg
1(GaAsSb)<Eg2(InAlAs)などの半導体の組み合わせを採用することができる。
【0033】
また、第1光伝導層32は、第2光伝導層12と異なる半導体材料から構成されていてもよい。
【0034】
なお、バッファ層の半導体としては、GaAs、Si、AlGaAs、InGaP、AlAs、InP、InAlAs、InGaAs、GaAsSb、InGaAsP、InAs、InSb等を、成長基板31、第1光伝導層32の半導体材料及びその格子定数に応じて任意に選択して用いることができる。
[電磁波発生器の動作]
上述したように、電磁波発生器10は、ギャップ部23にポンプ光が照射されることで、光励起キャリアが発生し、一対のアンテナ本体20Bの間にパルス状の電流が流れ、この電流によってテラヘルツ電磁波が発生する。
【0035】
したがって、電磁波発生器10の光伝導層(第2光伝導層12)において、光励起キャリアの発生効率が高く(発生キャリア数が多く)、高いキャリア移動度が得られる場合に、発生するテラヘルツ電磁波の発生効率が高くなる。本実施例においては、例えば第2光伝導層12の層厚を1.5μm以上とすることで、ポンプ光による光励起キャリアの高い発生効率を得ている。
【0036】
[電磁波検出器の動作]
一方で、電磁波検出器30は、ギャップ部43にプローブ光が照射され、測定試料からのテラヘルツ電磁波を受けたときに発生する電流を測定することによってテラヘルツ電磁波を検出する。検出感度を高くするためには、発生キャリア量が多いことに加え、キャリア寿命が短いことが重要となる。つまり、光伝導層における高いキャリア発生効率かつ短いキャリア寿命が得られることでテラヘルツ波検出感度が向上する。
【0037】
したがって、電磁波検出器30の光伝導層(第1光伝導層32)は、第1半導体層35と、第1半導体層35よりもバンドギャップの大なる第2半導体層37とを交互に積層することにより構成されている。このような構成により、高いキャリア発生効率を有する層と、低いキャリア移動度を有する層を交互に設けることができる。そして、第1半導体層35において発生した光励起キャリアが第2半導体層37に到達すると、光励起キャリアは捕捉されて高速再結合(高速減衰)する特性を有する。
【0038】
すなわち、バンドギャップが異なる2種の半導体層を交互に積層することで、電磁波検出器30の第1光伝導層32中に、光励起キャリアの発生効率が良く、キャリア移動度の高い第1半導体層35と、光励起キャリアを捕捉して高速再結合(高速減衰)し、キャリア寿命の短い第2半導体層37と、の両方を備えることができる。従って、第1光伝導層32における高いキャリア発生効率かつ短いキャリア寿命が得られる。
【0039】
そして、電磁波発生器10及び電磁波検出器30をテラヘルツ時間領域分光法(TDS)による計測に適用した場合に、電磁波発生器10のテラヘルツ波発生出力が増大し、かつ、電磁波検出器30のテラヘルツ波検出感度が高まることで、テラヘルツ波時間波形の最大振幅値、及びダイナミックレンジやS/N比が向上する。
【0040】
なお、
図4において、電磁波検出器30の第1光伝導層32が、1層の第1半導体層35と1層の第2半導体層37とが積層されて構成されている場合について説明したが、これに限らない。電磁波検出器30の第1光伝導層32は、複数の第1半導体層35および/または複数の第2半導体層37を有するように構成されていてもよい。第1半導体層35と第2半導体層37との積層構造に関する変形例を
図5(a)及び
図5(b)の断面図に示す。
【0041】
図5(a)は、電磁波検出器30の第1光伝導層32が、複数の第1半導体層35と複数の第2半導体層37とからなる場合を示している。複数の第1半導体層35の各々は同一の層厚を有し、複数の第2半導体層37の各々は同一の層厚を有している。第1半導体層35及び第2半導体層37は一層ずつ交互に積層されている。
【0042】
図5(b)は、複数の第1半導体層35のうち少なくとも2つが互いに異なる層厚を有し、複数の第2半導体層37のうち少なくとも2つが互いに異なる層厚を有している場合を模式的に示している。
[電磁波計測システム]
図6は、本実施例の電磁波発生器10及び電磁波検出器30が適用されたテラヘルツ時間領域分光(TDS)計測システム60を示す図である。
図6を参照して、このTDS計測システム60について説明する。
【0043】
TDS計測システム60は、電磁波発生器10によって発生されたテラヘルツ電磁波が伝播する経路中に測定試料(測定対象物)Sを配置し、測定試料Sを透過した(又は測定試料Sで反射された)テラヘルツ電磁波の時間波形と、測定試料Sの無い状態でのテラヘルツ電磁波の時間波形と、をフーリエ変換して、テラヘルツ電磁波の振幅と位相の情報を得る。これにより、測定試料Sの複素屈折率や複素誘電率などの詳細な物性測定を行うものである。
【0044】
TDS計測システム60は、フェムト秒パルスレーザ(以下、単にフェムト秒レーザという。)を発生するレーザ照射装置61と、レーザ照射装置61からのフェムト秒レーザを分離する偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarizing Beam Splitter)などのビームスプリッタ62と、電磁波発生器10及び電磁波検出器30と、電磁波検出器30に入射するフェムト秒レーザを遅延させる遅延光学系63と、フェムト秒レーザを反射・集光する各種光学系と、電磁波発生器10に電圧を供給する電圧源64と、電磁波検出器30の検出信号を処理する信号処理装置65と、を備えている。また、その他、TDS計測システムとして一般的な構成を有している。各種光学系には、電磁波発生器10および電磁波検出器30に接して取り付けられ、テラヘルツ電磁波を効率良く取り出すSi(シリコン)半球レンズ等の第1レンズ66および第2レンズ67が含まれている。なお、電磁波発生器10及び電磁波検出器30は、TDS計測システム60に用いられる電磁波計測装置50として構成されていてもよい。
【0045】
まず、レーザ照射装置61から発せられたフェムト秒レーザ(波長1.5μm)は、ビームスプリッタ62により、ポンプ光とプローブ光とに分けられる。そして、ポンプ光は、集光レンズCL1により集光され、電磁波発生器10に入射する。このとき一対のアンテナ本体20B間に電圧を印加しておくことで、電磁波発生器10によってテラヘルツ電磁波が発生される。この発生テラヘルツ電磁波は、第1レンズ66を通過し第3レンズ68で集光され、測定試料Sに照射される。測定試料Sを透過したテラヘルツ電磁波は、第4レンズ69および第2レンズ67を介して電磁波検出器30に入射される。
【0046】
一方、ビームスプリッタ62により分けられたプローブ光は、複数の反射鏡Mを有する遅延光学系63によって時間遅延を与えられ、集光レンズCL2により集光されて電磁波検出器30に入射する。電磁波検出器30によって検出された信号は、信号処理装置65に入力される。信号処理装置65は、測定試料Sを透過したテラヘルツ電磁波の時間波形および測定試料Sが無い状態でのテラヘルツ電磁波の時間波形を各々時系列データとして記憶し、これをフーリエ変換処理して周波数空間に変換する。こうして、測定試料Sからのテラヘルツ電磁波の強度振幅や位相の分光スペクトルを得ることで、測定試料Sの物性等を調べることができる。
【0047】
なお、電磁波発生器10には電圧が印加されるため、ギャップ部23に対向して配置された一対のアンテナ本体20Bの間の離間間隔(ギャップ長)が長くなるように適宜設計することで、絶縁破壊による破壊を防ぐことができる。
【0048】
一方で、電磁波検出器30には電圧は印加されず、微弱なテラヘルツ波の起電力による光励起キャリアの応答によって電流が流れ、その電流を検出するため、絶縁破壊などの懸念はない。むしろ、ギャップ部43の一対のアンテナ本体40Bの間の離間間隔(ギャップ長)が短くなるように適宜設計し、レーザのビーム径も絞ることで、レーザ光密度を高くし、光励起キャリア密度を高くすることができ、検出感度を向上させることができる。
【0049】
また、テラヘルツ波の発生効率、検出効率を向上させるような電極構造を採用してもよい。例えば、第2光伝導層及12及び第1光伝導層32をメサ構造とし、電極を立体的に配置することができる。ギャップ部23又はギャップ部43の近傍を残して周辺をエッチングし、露出した面(光伝導層の積層方向に平行な方向)に電極を配置することで、電流が横方向(積層方向に垂直な方向)に流れやすくなる。
【0050】
したがって、光伝導層の積層方向の深さによって電流の流れやすさに差がなくなるため、テラヘルツ波の発生効率、検出効率が高くなる。たとえば光伝導層が多数の層により構成されるような場合に、電流がより横方向に流れやすくなるため、テラヘルツ波の発生効率、検出効率の向上がより顕著になる。
【0051】
以上、詳細に説明したように、本実施例の電磁波発生器10によれば、1の半導体層からなる光伝導層において光励起キャリアの高い発生効率が得られる。一方で、本実施例の電磁波検出器30によれば、バンドギャップが異なる半導体層が交互に積層された光伝導層によって、高いキャリア発生効率かつ短いキャリア寿命が得られる。
【0052】
すなわち、電磁波発生器及び電磁波検出器のそれぞれが最適な構造の光伝導層を有するように構成された電磁波計測装置又はシステムが得られる。すなわち、上記したような電磁波発生器10及び電磁波検出器30を用いることによって、光励起キャリアの発生効率が向上し、かつ、キャリアの高速再結合を実現し、高い検出感度を得ることができる。従って、高感度で高性能な電磁波計測装置又はシステムを提供することができる。
【実施例2】
【0053】
実施例2に係る電磁波計測装置は、実施例1と同様に電磁波発生器10と電磁波検出器30を有し、電磁波発生器10が有する第2光伝導層12の構成のみが異なる。
図7(a)乃至
図9(b)は、実施例2に係る第2光伝導層12及び第1光伝導層32の積層構造を示す断面図である。
図7(a)乃至
図9(b)を参照して、実施例2に係る第2光伝導層12及び第1光伝導層32の積層構造について説明する。
【0054】
実施例2は、第2光伝導層12が、複数の第3半導体層15と、第3半導体層15よりもバンドギャップの大なる複数の第4半導体層17とを有している例を示している。
すなわち、成長基板11上に第3半導体層15及び第4半導体層17が交互に積層されている。本実施例において、複数の第3半導体層15はInGaAs層であり、複数の第4半導体層17はInAlAs層である。また、成長基板11上に第4半導体層17であるInAlAs層が成長されている場合を示している。
【0055】
図7(a)は、電磁波発生器10の第2光伝導層12、
図7(b)は、電磁波検出器30の第1光伝導層32の積層構造を示す断面図である。
図7(a)において、当該複数の第4半導体層17の総厚(T4とする。)に対する当該複数の第3半導体層15の総厚(T3とする。)の比は、
図7(b)における複数の第2半導体層37の総厚(T2とする。)に対する複数の第1半導体層35の総厚(T1とする。)の比よりも大きい(すなわち、(T3/T4)>(T1/T2))。
【0056】
換言すれば、電磁波発生器10の光伝導層(第2光伝導層12)に比べて、電磁波検出器30の光伝導層(第1光伝導層32)の方が、バンドギャップの小なる半導体層の総厚に対するバンドギャップの大なる半導体層の総厚の比が大きい。従って、電磁波検出器30の光伝導層(第1光伝導層32)の方が、バンドギャップの大なる半導体層の効果によって、キャリア移動度が低く、かつ顕著にキャリア寿命の短い特性が発現する。
【0057】
なお、第1半導体層35及び第3半導体層15は同一の半導体からなる必要はなく、また第2半導体層37及び第4半導体層17は同一の半導体からなる必要はない。第2半導体層37の方が第1半導体層35よりもバンドギャップが大きく、第4半導体層17の方が第3半導体層15よりもバンドギャップが大きければよい。
【0058】
図8(b)は、
図7(b)に示した電磁波検出器30の第1光伝導層32の変形例であり、
図8(a)は
図7(a)と同様の第2光伝導層12の構造を示す。
図8(a)における第4半導体層17の総厚に対する第3半導体層15の総厚の比は、
図8(b)における第2半導体層37の総厚に対する第1半導体層35の総厚の比よりも大きい(すなわち、(T3/T4)>(T1/T2))点は上記した変形例と同じである。本変形例では、電磁波発生器10の第4半導体層17の総厚よりも電磁波検出器30の第2半導体層37の総厚の方が大きい(T4<T2)。
【0059】
したがって、
図8(a)の構造を採用した電磁波発生器10と、
図8(b)の構造を採用した電磁波検出器30とを、TDS計測システムに適用した場合、電磁波発生器10の光伝導層(第2光伝導層12)と比較して、電磁波検出器30の光伝導層(第1光伝導層32)におけるキャリア移動度が低く、かつ顕著にキャリア寿命の短い特性が発現する。
【0060】
図9(b)は、
図7(b)に示した第1光伝導層32の変形例であり、
図9(a)は
図7(a)と同様の第2光伝導層12の構造を示す。
図9(a)における第4半導体層17の総厚に対する第3半導体層15の総厚の比は、
図9(b)における第2半導体層37の総厚に対する第1半導体層35の総厚の比よりも大きい点は上記した変形例と同じである((T3/T4)>(T1/T2))。
【0061】
また、第4半導体層17の総厚よりも第2半導体層37の総厚の方が大きい点についても上記した変形例と同じである(T4<T2)。さらに、第4半導体層17の層数(N4とする)よりも第2半導体層37の層数(N2とする)の方が多い(N4<N2)。したがって、
図9(b)の第1半導体層35で発生した光励起キャリアは、
図9(a)の第3半導体層15で発生した光励起キャリアよりも、バンドギャップの大なる層へ到達しやすくなる。すなわち、
図9(b)の構造によって、キャリア移動度が低く、かつ顕著にキャリア寿命の短い特性が得られ易くなる。
【0062】
図9(a)の構造を採用した電磁波発生器10と、
図9(b)の構造を採用した電磁波検出器30とを、TDS計測システムに適用した場合、電磁波発生器10の光伝導層(第2光伝導層12)と比較して、電磁波検出器30の第1光伝導層32におけるキャリア移動度が低く、かつ顕著にキャリア寿命の短い特性が発現する。
【0063】
以上、説明したように、本実施例の電磁波検出器30によれば、電磁波発生器10の光伝導層に比べて、バンドギャップの大なる層の総厚又は光伝導層全体の厚さに占める割合が大きな光伝導層を採用することによって、高いキャリア発生効率かつ短いキャリア寿命が得られる。
【0064】
一方で、電磁波発生器10の光伝導層は、電磁波検出器30の光伝導層に比べて、バンドギャップの大なる層の総厚又は光伝導層全体の厚さに占める割合が小さな光伝導層を採用することによって、高いキャリア発生効率かつ高いキャリア移動度が得られる。
【0065】
すなわち、電磁波発生器及び電磁波検出器のそれぞれに適した積層構造によって光伝導層が構成される。すなわち、電磁波発生器及び電磁波検出器のそれぞれが最適な積層構造の光伝導層を有するように構成された電磁波計測装置又はシステムが得られる。すなわち、電磁波発生器10及び電磁波検出器30を用いることによって、光励起キャリアの発生効率が向上し、かつ、キャリアの高速再結合を実現し、高い検出感度を得ることができる。よって、高感度で高性能な電磁波計測装置又はシステムを提供することができる。
[電磁波計測システムの測定結果の例]
実施例1及び実施例2に係る電磁波発生器10及び電磁波検出器30を、
図6に示した電磁波計測システム(TDS計測システム)に適用した場合の測定結果の一例を
図10,11に示す。具体的には、実施例1、実施例2、及び比較例のTDS計測システムにより測定したテラヘルツ波時間波形の最大振幅値、及びテラヘルツ波時間波形をフーリエ変換したスペクトル(テラヘルツ波スペクトル)のダイナミックレンジを示している。
【0066】
図10は、電磁波発生器の光伝導層の構造と、テラヘルツ波時間波形の最大振幅値及びダイナミックレンジとの関係を示している。上記したように、実施例1の電磁波発生器10の光伝導層(第2光伝導層)12は1層の第3半導体層15(層厚1,500nm)からなる。
【0067】
また、実施例2の電磁波発生器10の光伝導層は、5層の第3半導体層15(各層厚300nm、総厚1,500nm)と5層の第4半導体層17(各層厚8nm、総厚40nm)とからなり、総厚1,540nmを有している。第3半導体層15および第4半導体層17が交互に5周期(以下、積層周期又は単に周期と称する。)で積層されている。
【0068】
また、比較例として用いた電磁波発生器10は、60層の第3半導体層15(各層厚25nm、総厚1,500nm)と60層の第4半導体層17(各層厚8nm、総厚480nm)とからなる(すなわち、積層周期が60)光伝導層を有している。
【0069】
なお、TDS計測システムの電磁波検出器としては、100周期のInGaAs/InAlAsからなる光伝導層(総厚2,000nm)を有する市販の検出器を用いた。
【0070】
表中に、第3半導体層15の総厚をT3(nm)、第4半導体層17の総厚をT4(nm)として示し、また併せて積層周期及びT4に対するT3の比(T3/T4)を示している。なお、用いた電磁波発生器には一定の電圧を印加して測定を実施した。
【0071】
図10に示す表から、電磁波発生器10における、第4半導体層17の総厚に対する第3半導体層15の総厚の比(T3/T4)が大きいほど、換言すれば、光伝導層におけるバンドギャップのより大なる第4半導体層17の比率が小さいほど、テラヘルツ波時間波形の最大振幅値、及びテラヘルツ波スペクトルのダイナミックレンジ(S/N比)が向上することが分かる。
【0072】
図11は、電磁波検出器の光伝導層の構造と、テラヘルツ波時間波形の最大振幅値及びダイナミックレンジとの関係を示している。上記したように、実施例1の電磁波検出器30の光伝導層(第1光伝導層)32は1層の第1半導体層35(層厚1,500nm)と1層の第2半導体層37(層厚800nm)とからなり、総厚2,300nmを有している。
【0073】
また、実施例2の電磁波検出器30の光伝導層(総厚2,300nm)は、100層の第1半導体層35(各層厚15nm、総厚1,500nm)と100層の第2半導体層37(各層厚8nm、総厚800nm)とからなる。すなわち、第1半導体層35および第2半導体層37が交互に100周期で積層されている。
【0074】
また、比較例の電磁波検出器としては、
図10に示した、光伝導層(第2光伝導層)12が1層の第3半導体層15(層厚1,500nm)からなる実施例1の電磁波発生器10を用いた。
【0075】
なお、TDS計測システムの電磁波発生器については、
図10に示した計測で用いた検出器と同等のものを発生器として用いた。なお、用いた電磁波発生器には
図10の測定時に印加した電圧とは異なる一定の電圧を印加して測定を実施した。
【0076】
図11に示す表から、電磁波検出器30における、第2半導体層37の総厚に対する第1半導体層35の総厚の比(T1/T2)が小さいほど、換言すれば、光伝導層におけるバンドギャップのより大なる第2半導体層37の比率が大きいほど、テラヘルツ波時間波形の最大振幅値、及びテラヘルツ波スペクトルのダイナミックレンジ(S/N比)が向上することが分かる。
【0077】
以上、説明したように、本願発明は、検出性能(計測性能)を向上させるための、電磁波発生器の光伝導層と電磁波検出器の光伝導層とではその設計(最適構造)が異なるという知見に基づいている。すなわち、互いに異なる積層構造の光伝導層を有するように構成された電磁波発生器及び電磁波検出器を用いることによって、従来に無い高い検出性能(計測性能)が得られることが分かった。
【0078】
より具体的には、電磁波発生器の第4半導体層(バンドギャップのより大きな層)の総厚に対する第3半導体層の総厚の比が、電磁波検出器の第2半導体層(バンドギャップのより大きな層)の総厚に対する第1半導体層の総厚の比より大きくなるように構成された電磁波発生器及び電磁波検出器を用いることにより、極めて良好な検出性能(計測性能)が得られることが分かった。
[電磁波発生検出モジュール]
なお、本実施例の電磁波発生器10及び電磁波検出器30を、電磁波発生検出モジュール(電磁波計測装置)のような部品又は装置として構成してもよい。
図12は、実施例1及び実施例2の改変例として、電磁波発生器10及び電磁波検出器30を有する電磁波発生検出モジュール80の一例を模式的に示す図である。
【0079】
電磁波発生検出モジュール80は、ボード又は筐体などのハウジング81内に上記実施例の電磁波発生器10及び電磁波検出器30、電磁波発生器10からの発生テラヘルツ電磁波をハウジング81の外部に配された測定試料Sに導き、また測定試料Sからのテラヘルツ電磁波を電磁波検出器30に導く光学系、が設けられている。当該光学系は、集光レンズL、ビームスプリッタBSなどの任意の光学素子を含んで構成されていればよい。
【0080】
また、電磁波発生検出モジュール80には、光ファイバF1,F2及び電線C1,C2を有するケーブルFCが接続される。光ファイバF1,F2および光学系(
図12には省略)によって、それぞれ電磁波発生器10に入射されるポンプ光及び電磁波検出器30に入射されるプローブ光が導かれる。また、電線C1,C2によって、それぞれ電磁波発生器10及び電磁波検出器30の一対のアンテナ20,40との配線がなされる。
【0081】
以上、説明したように、上記の構成によれば、テラヘルツ波時間波形の振幅値、及びテラヘルツ波スペクトルのダイナミックレンジやS/N比が大きく、高感度で高性能な電磁波計測装置を実現できる。
【0082】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の改変を行って実施し得る。