【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年2月20日に発行された一般社団法人日本音響学会学会 騒音・振動研究会資料(N−2015−12)で発表
【文献】
日本音響学会道路交通騒音調査研究委員会,道路交通騒音の予測モデル “ASJ RTN-MODEL 2013”,日本音響学会誌,日本,一般社団法人 日本音響学会,2014年 4月 1日,70巻 4号,172−230ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
遮音壁の各段を構成する複数のパネル体の組み合わせを、互いに遮音性及び重量の異なる複数種の遮音板の何れかと、上記遮音板とは異なる特殊部材と、貫通状態との中から順次選択する組み合わせ選択ステップと、
騒音源からの音波が当該遮音板の上下端を回折することによるスリット回折減衰と上記音波が当該遮音板を透過することによる透過損失とに基づいて当該遮音板の透過減衰を、上記組み合わせ選択ステップにおいて選択されたパネル体に応じて求め、更に求めた各段の透過減衰の合計として得られる上記遮音壁の透過減衰値を求める演算ステップと、
上記演算ステップにて求められた透過減衰値に応じた受音点の騒音レベルと、パネル体の種類に応じて予め決められたスコアに基づく評価値とを上記組み合わせ選択ステップにて選択された全ての組み合わせについて求め、上記騒音レベルと上記評価値とに基づいて上記全ての組み合わせの中から決定した一のパネル体の組み合わせを解として出力する解探索ステップとをコンピュータに実行させること
を特徴とする遮音壁の各段を構成するパネル体の組み合わせ探索プログラム。
上記解探索ステップでは、パネル体が遮音板である場合にはその重量を上記スコアに反映させ、パネル体が特殊部材の場合には、重量に加えてその種別に応じて予め決められた追加要素を上記スコアに反映させること
を特徴とする請求項1記載の遮音壁の各段を構成するパネル体の組み合わせ探索プログラム。
上記解探索ステップでは、上記受音点の騒音レベルが所定値以下で、及び/又は上記評価値が所定値以下の範囲にあるパネル体の組み合わせについて上記解の探索対象とすること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項に記載の遮音壁の各段を構成するパネル体の組み合わせ探索プログラム。
上記演算ステップでは、騒音源からの音波が当該遮音板の上端を回折することによる上端回折減衰及びその音波が当該遮音板の下端を回折することによる下端回折減衰との差分値を上記スリット回折減衰とすること
を特徴とする請求項1〜6のうち何れか1項記載の遮音壁の各段を構成するパネル体の組み合わせ探索プログラム。
上記解探索ステップでは、上記受音点の騒音レベルを、実際の騒音源の音圧レベルと、上記騒音源から受音点までの距離に応じた音波の減衰量である距離減衰と、上記透過減衰値と、上記遮音壁の上下端を回折することによる減衰量とに基づいて算出すること
を特徴とする請求項1〜7のうち何れか1項記載の遮音壁の各段を構成するパネル体の組み合わせ探索プログラム。
遮音壁の各段を構成する複数のパネル体の組み合わせを、互いに遮音性及び重量の異なる複数種の遮音板の何れかと、上記遮音板とは異なる特殊部材と、貫通状態との中から順次選択する組み合わせ選択ステップと、
騒音源からの音波が当該遮音板の上下端を回折することによるスリット回折減衰と上記音波が当該遮音板を透過することによる透過損失とに基づいて当該遮音板の透過減衰を、上記組み合わせ選択ステップにおいて選択されたパネル体に応じて求め、更に求めた各段の透過減衰の合計として得られる上記遮音壁の透過減衰値を求める演算ステップと、
上記演算ステップにて求められた透過減衰値に応じた受音点の騒音レベルと、パネル体の種類に応じて予め決められたスコアに基づく評価値とを上記組み合わせ選択ステップにて選択された全て又は一部の組み合わせについて求め、これらを上記騒音レベル並びに上記評価値からなる二軸上に表示する表示ステップとをコンピュータに実行させること
を特徴とする遮音壁の各段を構成するパネル体の組み合わせ探索プログラム。
遮音壁の各段を構成する複数のパネル体の組み合わせを、互いに遮音性及び重量の異なる複数種の遮音板の何れかと、上記遮音板とは異なる特殊部材と、貫通状態との中から順次選択する組み合わせ選択ステップと、
騒音源からの音波が当該遮音板の上下端を回折することによるスリット回折減衰と上記音波が当該遮音板を透過することによる透過損失とに基づいて当該遮音板の透過減衰を、上記組み合わせ選択ステップにおいて選択されたパネル体に応じて求め、更に求めた各段の透過減衰の合計として得られる上記遮音壁の透過減衰値を求める演算ステップと、
上記演算ステップにて求められた透過減衰値に応じた受音点の騒音レベルと、パネル体の種類に応じて予め決められたスコアに基づく評価値とを上記組み合わせ選択ステップにて選択された全ての組み合わせについて求め、上記騒音レベルと上記評価値とに基づいて上記全ての組み合わせの中から決定した一のパネル体の組み合わせを解として出力する解探索ステップとをコンピュータが実行すること
を特徴とする遮音壁の各段を構成するパネル体の組み合わせ設計方法。
遮音壁の各段を構成する複数のパネル体の組み合わせを、互いに遮音性及び重量の異なる複数種の遮音板の何れかと、上記遮音板とは異なる特殊部材と、貫通状態との中から順次選択する組み合わせ選択手段と、
騒音源からの音波が当該遮音板の上下端を回折することによるスリット回折減衰と上記音波が当該遮音板を透過することによる透過損失とに基づいて当該遮音板の透過減衰を、上記組み合わせ選択手段により選択されたパネル体に応じて求め、更に求めた各段の透過減衰の合計として得られる上記遮音壁の透過減衰値を求める演算手段と、
上記演算手段により求められた透過減衰値に応じた受音点の騒音レベルと、パネル体の種類に応じて予め決められたスコアに基づく評価値とを上記組み合わせ選択ステップにて選択された全ての組み合わせについて求め、上記騒音レベルと上記評価値とに基づいて上記全ての組み合わせの中から決定した一のパネル体の組み合わせを解として出力する解探索手段とを備えること
を特徴とする遮音壁の各段を構成するパネル体の組み合わせ探索システム。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した遮音壁を構成する各段の組み合わせ探索プログラムについて、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0024】
本発明を適用した組み合わせ探索プログラムは、
図1に示すような組み合わせ探索システム1を構成する電子機器11により実行される。
【0025】
組み合わせ探索システム1は、複数の電子機器11と、各電子機器11に接続された表示装置12と、電子機器11がそれぞれ接続されるサーバ13とを備えている。
【0026】
電子機器11は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)、携帯電話機、スマートフォン、タブレット型端末、その他あらゆるウェアラブル端末等である。このような電子機器11に対して、本発明を適用した組み合わせ探索プログラムがインストール可能とされている。ユーザは、インストールされた組み合わせ探索プログラムをこの電子機器11上で動作させることが可能となる。
【0027】
表示装置12は、電子機器11による制御の下、ユーザに対して各種情報を表示するためのディスプレイである。表示装置12は、ユーザに対して組み合わせ探索プログラムを動作させる上で必要な情報を表示し、またユーザに対して各種情報の入力を促し、更には組み合わせ探索プログラムにより探索された解を表示する。この表示装置12は、電子機器11に一体化されて組み込まれるものであってもよい。
【0028】
サーバ13は、本発明を適用した遮音板の組み合わせ探索システム1を実現する上で必要な組み合わせ探索プログラムが保存される記憶装置である。電子機器11を介してこのサーバ13にアクセスすることにより、サーバ13に保存されている組み合わせ探索プログラムを各電子機器11上にて動作させることが可能となる。
【0029】
なお、サーバ13は、公衆通信網2を介して他の電子機器21に接続されていてもよい。この公衆通信網2は、例えばインターネット等を初めとした、パーソナルコンピュータ(PC)や携帯端末からアクセス可能な通信網である。他の電子機器21のユーザは、公衆通信網2を介してサーバ13にアクセスすることにより、これに保存されている組み合わせ探索プログラムを動作させることが可能となる。
【0030】
このようにして、本発明を適用した組み合わせ探索プログラムは、電子機器11、サーバ13の何れかにおいてインストールされ、それぞれ電子機器11、21を介してそれぞれ動作させることが可能となる。この組み合わせ探索プログラムは、公衆通信網2を介して外部からダウンロード可能なものとされていてもよいし、記録媒体において予め記録されているものをインストールするようにしてもよい。
【0031】
本発明を適用した組み合わせ探索プログラムは、例えば
図2、3に示すような遮音壁3を設計する際に使用される。この遮音壁3は、ベース42上において、所定間隔で立設された支柱31と、この支柱31間に取り付けられたパネル体32とを備えている。支柱31は、ウェブ部の両端に一対のフランジ部が連設されたH形鋼からなる場合を例に挙げているが、これに限定されるものではなく、他のいかなる構成が適用されるものであってもよい。
【0032】
パネル体32は、騒音源Sから直接伝わる騒音を遮音できるように遮音機能が施されたパネルである。このパネル体32は、支柱31間に配設されるが、騒音源Sの高さに応じて遮音壁をある程度高く設定する必要がある場合には、パネル体32を複数段に亘って段積みすることが通常行われる。
【0033】
パネル体32は、
図4に示すように、大きく分類して遮音板321と、特殊部材322と、貫通状態323の3態様に分類することができる。
【0034】
遮音板321としては、騒音源Sから直接伝わる騒音を遮音できるように遮音機能が施されてなり、例えば薄板からなる断面長方形状の鋼管を配列させたパネルで構成されていてもよいし、周知の吸音材が配設されたものであってもよい。周知の吸音材としては、例えば合板、石膏ボード、珪酸カルシウム板等のような比較的薄手のボード系の材料や、RC板、PC板、コンクリートブロック等のコンクリート系の材料が用いられる場合が多い。これらの材料は比較的均質な単板として取り扱うことができる。このため、その遮音性能は、材料の面密度と周波数の積の対数に対してほぼ一次式の関係で表す質量則と、コインシデンス効果により推定できる。
【0035】
特殊部材322は、例えばルーバーパネル322a、透明板322b、ドア322c等が挙げられる。
【0036】
ルーバーパネル322aは、複数の羽板を互いに隙間を開けて平行に組んだものであり、その羽板の取り付け角度に応じて、遮音性、換気性、調光性を調整するものである。また透明板322bは、樹脂性又はガラス製からなる透明な板状体であり、これを設けることにより視認性を向上させることができる。ドア322cは、一の側端がヒンジ固定されて開閉自在に構成され、これを設けることにより人が出入りをすることが可能となる。なお、特殊部材322は、これらルーバーパネル322a、透明板322b、ドア322cに限定されるものではなく遮音板とは異なるいかなる部材で構成されていてもよい。
【0037】
貫通状態323は、遮音板321、特殊部材322が設けられていない、いわば開放状態を意味している。この貫通状態323が
図4のQ列に示すように、遮音壁3の最上段から2段以上連続する場合か、遮音壁3の最上段とされている場合には、いわば遮音壁3の段数が低くなっていることに相当する。これに対して、
図4のR列に示すように、上段は遮音板321や特殊部材322とし、その下段を貫通状態323とした場合には、いわば壁面に貫通孔を開けた状態となる。このような貫通状態323は、特にQ列に示すように、段数を低く構成する場合には、遮音板321や特殊部材322の如き有体物が無い状態とされる。またR列に示すように壁面に貫通孔を設ける場合には、この貫通状態323は、例えば枠体のみで構成されていてもよい。
【0038】
このようにして、パネル体32は、複数種の遮音板321の何れか、特殊部材322、或いは貫通状態323の何れか1つ選択されて割り当てられる。これらパネル体32に対する選択及び割り当てを、遮音壁3を構成する全てについて実行していくこととなる。
【0039】
遮音板321や特殊部材322の実際の支柱31への取り付け方法としては、例えば支柱31がH形鋼で構成される場合には、当該H形鋼の内側に取り付けられ、遮音板321や特殊部材322が複数段に亘り積み上げられている場合が多いが、これに限定されるものではなく、他のいかなる取り付け方法が適用されていてもよい。
【0040】
このパネル体32は、下から順に、パネル体32−1、32−2、32−3、32−4、・・とされている。これらパネル体32−1、32−2、・・・は、
図3に示すように互いに異なる遮音性及び重量からなる異種の遮音板321や、特殊部材322、或いは貫通状態323が割り当てられていてもよい。また
図5(a)に示すように、これらパネル体32−1、32−2、・・・は、互いに同一の遮音性及び重量からなる同一種の遮音板321か特殊部材322が統一して割り当てられていてもよい。更に、これらパネル体32−1、32−2、・・・は、
図5(b)に示すように、互いに同一の遮音性及び重量からなる同一種の遮音板321、又は同種の特殊部材322がいずれか2以上の段に割り当てられ、またこれらと異なる異種の遮音板321又は異種の特殊部材322が他の段に割り当てられていてもよい。この
図5(b)の例では、パネル体32−2、32−3について同種のものを使用し、パネル体32−1、32−4についてはこれらとは異種のものを使用した例である。なお、この
図3、5におけるパネル体32のハッチングは、パネル体32の種類を示すものであり、互いに同一のハッチングは同一種であり、互いに異なるハッチングは互いに異種であることを示している。
【0041】
また、パネル体32−1、32−2、・・・の何れか1以上について貫通状態323としてもよい。
図6の例では、パネル体32−2、32−4について貫通状態としている。最上段のパネル体32−4について貫通状態する意味は、遮音壁3を4段ではなく3段で構成するという意味である。またパネル体32−2を貫通状態323とすることにより、中段に穴を開けた遮音壁3を構成したことを意味している。このような貫通状態323とすることにより、壁体として換気性、視認性を向上させることが可能となる。
【0042】
本発明を適用した組み合わせ探索プログラムでは、騒音源Sから発せられる騒音が遮音壁3を介して受音点Pに到達するまでの遮音性と、遮音壁3を構成するパネル体32の重量、その他特殊部材322の持つ利点、更に貫通状態とすることによる利点の観点から、遮音壁3の各段を構成する複数のパネル体32につき、最適な組み合わせを探索するものである。
【0043】
本発明においては、最適なパネル体32の組み合わせを探索する上で、以下に説明するスコアSCをパラメータとして判断を行う。このスコアSCは、下記式のように重量(W1)と、追加要素(W2)との和で構成される。
SC=W1+W2
【0044】
ここで、遮音板321については、その重量をW1に反映させる。またこの遮音板321について追加要素がある場合には、それについてW2に反映させる。このW2については、メリットがあるほど小さい値(負の値も含む)を設定するようにし、デメリットがあるほど大きい値を設定するようにする。つまりW2が小さいほど最適なパネル体32として選択される可能性が高くなり、W2が大きいほど最適なパネル体32として選択される可能性が低くなる。W1も同様に重量が軽いほど小さくなり、最適なパネル体32として選択される可能性が高くなる。
【0045】
また特殊部材322についても、その重量についてはW1に反映され、その利点については、W2として予め設定しておく。例えば通気性が特に求められる環境においては、特殊部材322がルーバーパネル322aである場合には、W2を小さくする。また視認性が求められる環境において特殊部材322が透明板322bである場合には、そのW2を小さくする。更に人の出入りが求められる環境において、特殊部材322がドア322cである場合には、そのW2を小さくする。このW2は、小さいほど最終的な評価点が高くなり、選択されやすくなることは上述と同様である。このスコアは、システム側、或いはユーザ側において自由に設定することができ、正の値、又は負の値とされていてもよく、その値の大小も自由に決められることは勿論である。
【0046】
逆に、この特殊部材322の特質のうち、その設置環境においてなるべく選択して欲しくない項目については、そのW2を大きく設定する。例えば通気性があると好ましくない箇所においては、特殊部材322がルーバーパネル322aである場合にそのW2大きく設定しておく。また外部からの視線を遮りたい箇所においては、特殊部材322が透明板322bである場合にそのW2を大きく設定しておく。更に外部から人の侵入を防止したい箇所においては、特殊部材322がドア322cである場合にそのW2を大きく設定しておく。
【0047】
これらW2は、割り当てられるパネル体32が下から何段目に位置するかに応じてその重み付けを変化させるようにしてもよい。
【0048】
例えば、通気性の観点からルーバーパネル322aをより低い段への設置を望み、高い段への設置を望まない場合には、低い段に位置するパネル体32においてルーバーパネル322aが選択される場合にはそのW2を小さくし、高い段に位置するパネル体32においてルーバーパネル322aが選択される場合にはそのW2を大きくするようにしてもよい。同様に視認性の観点から、透明板322bをより高い段への設置を望み、低い段への設置を望まない場合には、高い段に位置するパネル体32において、透明板322bが選択される場合には、他の段よりもそのW2を小さくし、低い段に位置するパネル体32において、透明板322bが選択される場合には、他の段よりもそのW2を大きくするようにしてもよい。
【0049】
同様にパネル体32が貫通状態323においても、その設置箇所において求められる環境に応じたW2を設定しておく。例えば、段数を低く設定した場合には、最上段に位置するパネル体32から貫通状態323が下段に連続するにつれて、W2をより低く設定する。これにより、段数が低いものが選択されやすくなる。また、この貫通状態323においても、下から何段目に位置するかに応じてW2の重み付けを変化させるようにしてもよい。例えば最下段において貫通状態323を望む場合には、最下段に位置するパネル体32において貫通状態323が選択される場合には、他の段よりもW2を低く設定するようにしてもよい。ちなみにこの貫通状態323においては、W1は0となる。
【0050】
なお、スコアSCは、重量(W1)と、追加要素(W2)の2項目に分けることなく、それぞれ種別に応じて任意の値が設定されているものであればいかなるものであってもよい。
【0051】
このとき、スコアの重み付けについては、騒音源Sの位置情報、受音点)の位置情報、地形情報、遮音壁の近隣の情報の何れか1以上に基づいて変化させるようにしてもよい。
【0052】
前者の遮音壁3の遮音性については、以下に説明するアプローチ方法に基づいて算出する。以下のアプローチ方法では、遮音壁3を構成するパネル体32が遮音板321である場合を例にとり説明をする。
【0053】
遮音性は、騒音源Sから受音点Pに至るまでの伝播計算を各遮音板321毎に行うことにより導出する。
図7に示すように騒音源Sから受音点Pまでの音波の伝播を周波数f(Hz)毎に計算し、全周波数の騒音レベルのエネルギー和を受音点Pにおけるトータルの騒音レベルとする。周波数fは、例えば100Hz〜5000kHzの1/3オクターブバンド中心周波数、又は125Hz〜4000kHzの1/1オクターブバンド中心周波数とするようにしてもよいが、これに限定されるものではなく、他のいかなる周波数の範囲とされていてもよい。
【0054】
騒音源Sから発せられた騒音が受音点Pに到達した時の受音点Pの音圧レベルL
A,m(f)
は、騒音の周波数をfとしたとき、以下の式(1)の伝搬計算式から算出することができる。
【0056】
ここでmは、
図8に示すような伝搬経路m=1からm=4に相当するものである。m=1は、騒音源Sから受音点Pまで遮音壁3の頂点を介して直接音波を受信する伝搬経路である。また、m=2は、騒音源Sから発せられて一度地面に反射した音波が遮音壁3の頂点を介してそのまま受音点Pまで到達する伝搬経路である。m=3は、騒音源Sから発せられて、遮音壁3の頂点を介して一度地面を反射し、その後に受音点Pまで到達する伝搬経路である。m=4は、騒音源Sから発せられて一度地面に反射し、遮音壁3の頂点を介してもう一度地面を反射し、その後に受音点Pまで到達する伝搬経路である。m=2〜4について実際に計算を行うためには、騒音源S又は受音点Pにつき地面を介して虚像の関係にあるS´、P´から音波が発せられたものと仮定して計算を行う。
図8において、実際の経路を点線で示し、計算上の経路を実線で示す。
【0057】
上述した(1)式は、地面の反射を考慮するパターン、即ちm=2〜4のパターンである。下記の式(2)は、地面の反射を考慮した、周波数fにおける受音点Pの予測音圧レベルである。
【0059】
ここで、地面の反射を無視するパターンは、m=1に示す伝搬経路の場合である。このとき、式(1)は下記の式(1)´に書き換えることができる。
【0060】
【数3】
・・・・・・・・・(1)´
【0061】
式(1)、(1)´において、L
WA(f)は、実際の騒音源Sから発せられた騒音のレベルであり、-11-20log
10r(地面の反射を考慮するパターン)は、騒音源Sから受音点Pまでの距離rに応じた距離減衰を示している。また、地面の反射を無視するパターンは、-11-20log
10r の代替として、-8-20log
10rを使用する。また、ΔL
dif,m(f)は、回折補正量
であり、各遮音板321−1〜321−4の透過損失を考慮したものである。
【0062】
この回折補正量ΔL
dif,m(f)は、以下の(3)式から算出することができる。
【0064】
(3)式から示されるように、回折補正量ΔL
dif,m(f)は、遮音壁3の上端の回折減衰
ΔL
d,top(f)と、遮音壁3の透過減衰値ΔL
dif,w(f)とのエネルギー和で表すことが可能となる。ここで遮音壁3の上端の回折減衰ΔL
d,top(f)とは、騒音源Sから発せられた騒音
が遮音壁3の上端32aまで到達し、当該上端32aで音波が回り込むことにより回折した後、受音点Pに向けて伝搬する経路C1について、回折減衰量を求めたものである。
【0065】
遮音壁3の透過減衰値ΔL
dif,w(f)は、以下の(4)式から求めることができる。
【0067】
(4)式におけるiは遮音壁3における遮音板321の下から何段目かを示している。
換言すれば、このiは、遮音壁3を構成する遮音板321の段数がnであるとき、1〜n
までの整数である。
【0068】
ΔL
dif,slit,i(f)は、
図9(a)に示すように、遮音壁3における一の遮音板321−iに着目したとき、遮音板321−iの上端及び下端に仮想的にスリットが開口しているものと仮定したときにおける、そのスリット開口を通過する回折減衰(以下、スリット回折減衰という。)である。
図9(a)の例では、遮音板321−iの下端のスリット開口がO
(i)であり、その上端のスリット開口がO
(i+1)としている。また、この(4)式におけるTL
i(f)は、遮音板321−iの透過損失である。各遮音板321−iの透過減衰は、このスリット開口を通過するスリット回折減衰ΔL
dif,slit,i(f)と、遮音板321−iの透過損失TL
i(f)を負の値に変換した -TL
i(f)の和で表される。これら遮音壁3全体の透過減衰L
dif,w(f)は、各遮音板321−iにおけるiが1〜nまでの透過減衰の総和として表される。
【0069】
TL
i(f)は、音源室と受音室を用いた実験室における測定値(JIS A 1416「実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法」)や、質量則等で算出した計算値を用いる。JIS A 1416に基づく場合には、それぞれ遮音板321の各種類につき、周波数f毎に遮音性能を実験的に求めておき、遮音壁3を構成する遮音板321の種類の組み合わせや、実際の周波数fに応じて、事前に求めた実験値に基づいて、遮音壁3としての遮音性能から透過損失TL
i(f)を求める。
【0070】
また質量則等でTL
i(f)を算出する場合には、例えば以下の式に基づくものとしてもよい。
TL
i(f) = TL
ver,
i(f) - 10log
10(0.23×TL
ver,
i(f))
TL
ver,
i (f) = 20log
10(f×d)- 42.5ここで、TL
i(f): i段目のパネル体32の音響透過損失、TL
ver,
i (f): 音が垂直に入射した場合の音響透過損失
f:周波数
d: i段目のパネル体32の面密度(kg/m
2)
【0071】
それぞれのスリット回折減衰ΔL
dif,slit,i(f)は、以下の式(5)から算出される。
【0072】
【数6】
・・・・・・・・・・・・・(5)
【0073】
この(5)式では、
図9(b)に示すように、騒音源Sから発せられた音波がパネル体32−iの上端O
1から回り込んで回折して受音点Pに到達する経路(ベクトルSO
1+ベクトルO
1P)と、騒音源Sから発せられた音波がパネル体321−iの下端O
0から回り込んで回折して受音点P(ベクトルSO
0+ベクトルO
0P)に到達する経路との差分を求めている。(4)式の上段は、(ベクトルSO
1+ベクトルO
1P)の長さが、(ベクトルSO
0+ベクトルO
0P)の長さよりも長い場合の式であり、(4)式の下段は、(ベクトルSO
0+ベクトルO
0P)の長さが、(ベクトルSO
1+ベクトルO
1P)の長さよりも長い場合の式である。
【0074】
この(5)式においてΔL
d,0、ΔL
d,1は、以下の(6)式に示される前川チャートの実験式から求められる値である。
【0075】
【数7】
・・・・・・・・・・・・・(6)
【0076】
ΔL
d,0は、点S、O
1、Pにより囲まれる三角形について、フレネル数Nを代入したものである。フレネル数Nを求めるためには、先ず
図10に示すように、点Sから点O
1までの長さA、点O
1から点Pまでの長さB、点Pから点Sまでの長さdから経路差δを求める。経路差δは、δ=A+B−dで与えられる。この経路差δと音波の周波数fの波長λから、フレネル数Nは、N=2δ/λより求められる。波長λ=音速/周波数fで求められる。
【0077】
このようにして求めたフレネル数Nを(6)式に代入することにより、ΔL
d,0が算出されることとなる。ちなみに、この(6)式によれば、求められたフレネル数Nの値の条件に応じて、代入式が3通りに分かれることとなる。
【0078】
ΔL
d,1は、点S、O
0、Pにより囲まれる三角形について、フレネル数Nを代入したものである。このフレネル数Nの求め方は、上述したΔL
d,0と同様である。
【0079】
このようにして、(6)式からそれぞれ求められたΔL
d,0、ΔL
d,1を(5)式に代入することにより、スリット回折減衰ΔL
dif,slit,i(f)を求める。なお、上述したΔL
d,top(f)についても同様に、
図6で示すところの、騒音源S、遮音壁3の上端32a、受音点Pで結ばれる三角形の領域に基づいて同様にフレネル数Nを代入することにより求めることとなる。
【0080】
なお、本発明によれば、(6)式に示される前川チャートの実験式からΔL
d,0、ΔL
d,1を求める場合に限定されるものではない。以下に説明するように、エネルギー相補性を仮定した回折補正量に基づくものであってもよい。
【0081】
このエネルギー相補性を仮定した回折補正量の計算モデルは、福島昭則、山本貢平「エネルギーの相補性を仮定した回折補正量計算モデルとその応用」、(社)日本音響学会騒音振動研究会、N−2006−56、p1〜p10、2006年11月10日により提案されている。(6)式に示される前川チャートの実験式を使用するスリット法では、音源の反射面に対する鏡像からの伝搬が回折理論で計算できることに基づいており、回折現象において音響エネルギーの加減演算が成立することを仮定している。かかる仮定をおいていることを理解しているのであれば、本発明においては、上述した(6)式からΔL
d,0、ΔL
d,1を求めることで何ら問題は無い。
【0082】
しかしながら、上述した(6)式は、実際の回折現象においてエネルギーの相補性は、以下の理由により厳密に計算する必要がある。例えば
図11に示すように騒音点Sから仮想障壁51の上端に位置する回折点Oを回折して受音点Pに至るまでの経路を考える。この仮想障壁51は、遮音パネル3に相当するものだが、理論的説明を行う上で仮に定義したパネルである。
図11(a)は、伝搬経路差が大きくフレネル数が大きい例であり、
図11(b)は、伝搬経路差が0に近いためフレネル数が限りなく0に近い状態を示している。このような
図11(b)の状態においては、1/2の空間を遮蔽したときにエネルギー相補性を考慮した場合には、回折補正量が−3dBになることが、上述した福島らの文献において明示されている。一方、(6)式に示される前川チャートの実験式では、フレネル数が0に近い状態において計算した場合に、回折補正量は−5dBになるため、エネルギーの相補性は成り立っていない。
【0083】
このため、エネルギー相補性についても考慮する場合には、フレネル数が0又は限りなく0に近い場合において、回折補正量が−3dBとなるように調整した式を使用する必要がある。以下の式(6)´は、上述した福島らの文献に開示されている式であり、フレネル数が0又は限りなく0に近い場合において、回折補正量が−3dBとなるように調整した式である。
【0084】
【数8】
・・・・・・・・・・・(6)´
【0085】
この式(6)´において、Nはフレネル数であり、αは調整値であり、本実施の形態においてはα=2/3としている。しかし、このαは、必要に応じてシステム側、又はユーザ側において自由に改変するようにしてもよい。
【0086】
このようなエネルギー相補性を仮定した回折補正量を考慮しつつ、スリット回折減衰ΔL
dif,slit,i(f)を求めるためには、同様に(5)式におけるΔL
d,0、ΔL
d,1を(6)´式を用いて求めていくこととなる。
図8(b)に示すように、ΔL
d,0は、点S、O
1、Pにより囲まれる三角形について、フレネル数Nを式(6)´に代入して得られるものであり、ΔL
d,1は、点S、O
0、Pにより囲まれる三角形について、フレネル数Nを代入することで得られるものである。それぞれ求めたΔL
d,0、ΔL
d,1を式(5)に代入して、スリット回折減衰ΔL
dif,slit,i(f)を求めていくこととなる。
【0087】
また、上述した式(3)に基づく回折補正量ΔL
dif,m(f)の算出は、
図3に示すように、騒音源Sから略鉛直方向に立ち上げられた一の遮音壁3を介して受音点Pに到達するモデルを例に挙げて説明をしている。これに対して、例えば
図12に示すように同じ遮音機能を発揮する遮音壁3であっても、上端が折り曲げられた形状とされている場合もある。この
図12の例では、側面視において、遮音板32−1、32−2、32−3が垂直に立設されており、最上段の遮音板32−4が騒音源S側に向けて斜めに傾いた状態で取り付けられている。
【0088】
かかる場合において受音点Pが領域Iにある場合を受音点P
1、領域IIにある場合を受音点P
2、領域IIIにある場合を受音点P
3とする。このとき、受音点P
1については、騒音源Sから直接的に音波が伝搬していくモードであり、受音点P
2については、騒音源Sから最上段の遮音板32−4の上端O
tを介して受音点P
2へ到達していくモードである。これらの受音点P
1、P
2については、
図3に示す伝搬モデルと同一であると考えることかできるため、上述した式(3)に基づく回折補正量ΔL
dif,m(f)の算出を行っていくこととなる。これに対して、受音点P
3については、騒音源Sから遮音板32−4の上端O
t、遮音板32−4の下端O
c、受音点P
3へと伝搬していくこととなる。かかる場合において回折補正量ΔL
dif,m(f)の算出は、社団法人日本音響学会「道路交通騒音の予測モデル"ASJ RTN-Model2008"の解説と手引き」P82−P87、平成21年7月に記載されているとおりであり、以下の式(7)を使用する。
ΔL
dif,m(f)=ΔL
dif,m(f)L
S-Ot-P3+ΔL
dif,m(f)L
Ot-Oc-P3+5・・・・・(7)
【0089】
即ち、この式(7)において、ΔL
dif,m(f)L
S-Ot-P3は、
図12に示す三角形S−Ot−P
3について上述と同様にΔL
dif,m(f)を求める。次にΔL
dif,m(f)L
Ot-Oc-P3は、
図12に示す三角形Ot−Oc−P
3について上述と同様にΔL
dif,m(f)を求める。そして、式(7)に示すように、それぞれ求めた回折補正量の和に5を足したものを、この受音点P
3における回折補正量とする。なお、この
図12の例では、経路差S−Ot−P
3≧経路差S−Oc−P
3になっている。ここでいう経路差S−Ot−P
3の示す意味としては、経路S−Ot−P
3と、経路S−P
3の差分を示すものである。また、ここでいう経路差S−Oc−P
3の示す意味としては、経路S−Oc−P
3と、経路S−P
3の差分を示すものである。以下の例においても、経路差U−V−Wと記述されている場合には、経路U−V−Wと、経路U−Wの差分を示す。
【0090】
また、
図13の例では、経路差S−Ot−P
3<経路差S−Oc−P
3となっている例である。このため、騒音源Sから発せられる音波は、騒音源Sから遮音板32−4のO
t、O
c、受音点P
3へと伝搬していくこととなる。かかる場合においても回折補正量ΔL
dif,m(f)の算出は、社団法人日本音響学会「道路交通騒音の予測モデル"ASJ RTN-Model2008"の解説と手引き」P82−P87、平成21年7月に記載されているとおりであり、以下の式(8)を使用する。
【0091】
ΔL
dif,m(f)=ΔL
dif,m(f)L
S-Oc-P3+ΔL
dif,m(f) L
S-Ot-Oc+5・・・・・(8)
【0092】
即ち、この式(8)においてΔL
dif,m(f)L
S-Oc-P3は、
図13に示す三角形S−Oc−P
3について上述と同様にΔL
dif,m(f)を求めることを意味する。次にΔL
dif,m(f) L
S-Ot-Ocは、
図13に示す三角形S−Ot−Ocについて上述と同様にΔL
dif,m(f)を求める。そして式(8)に示すように、それぞれ求めた回折補正量の和に5を足したものを、この受音点P
3における回折補正量とする。
【0093】
図14は、このような略鉛直方向に立ち上げられたいわゆる直立型の遮音壁3のみならず、上端が折り曲げられた形状からなる遮音壁3を含む場合における処理フローを示している。
【0094】
先ずステップS61において遮音壁3が直立型か否かの判断を行う。この判断は、実際にユーザによって入力された遮音壁3の形状に関する情報を読み取ることにより判断するようにしてもよい。この判断の結果、遮音壁3が直立型である場合には、騒音源S、遮音壁3の最上端、受音点Pの三角形に基づいて回折補正量ΔL
dif,m(f)を求める。これに対して、遮音壁3が直立型でない場合には、ステップS62に移行する。
【0095】
ステップS62に移行した場合には、上端が折り曲げられた形状からなる遮音壁3を意味するものであるが、受音点Pが上述した領域Iか、領域IIの何れかに属すか否か判断を行う。この判断もユーザから入力された、騒音源S、受音点Pの位置情報と、遮音壁3の高さに関する情報等から判断を行う。その結果、受音点Pが上述した領域Iか領域IIの何れかに属す場合には、騒音源S、遮音壁3の最上端、受音点Pの三角形に基づいて回折補正量ΔL
dif,m(f)を求める。これに対して、受音点Pが領域IIIに位置する場合には、ステップS63に移行する。
【0096】
ステップS63においては、騒音源Sから受音点Pまでの経路差について、経路差S−Ot−Pと、経路差S−Oc−Pの長さを比較する。これらの判断についても予め入力された騒音源S、受音点Pの位置情報、並びに遮音壁3の形状、サイズの情報に基づいて判断していくこととなる。その結果、経路差S−Ot−P≧経路差S−Oc−Pである場合には、(7)式に基づいて回折補正量ΔL
dif,m(f)を求める。一方、経路差S−Ot−P<経路差S−Oc−Pである場合には、(8)式に基づいて回折補正量ΔL
dif,m(f)を求める。
【0097】
図15は、2つの遮音壁3が概ね5m以上の距離を置いて設置された場合の回折補正量ΔL
dif,m(f)を求める例を示している。この
図15(a)、(b)の例では経路差S−Ot−Pと、経路差S−Oc−Pのそれぞれの長さを比較した場合に、経路差S−Ot−P≧経路差S−Oc−Pである場合をそれぞれ示している。かかる場合には、回折補正量ΔL
dif,m(f)は、以下の(9)式で表される。
ΔL
dif,m(f)=ΔL
dif,m(f)L
S-Ot-P+ΔL
dif,m(f)L
Ot-Oc-P・・・・・・・(9)
【0098】
この式(9)において、ΔL
dif,m(f)L
S-Ot-Pは、
図15(a)に示す三角形S−Ot−Pについて上述と同様にΔL
dif,m(f)を求めることを意味する。次にΔL
dif,m(f)L
Ot-Oc-Pは、
図15(a)に示す三角形Ot−Oc−Pについて上述と同様にΔL
dif,m(f)を求める。そして式(9)に示すように、それぞれ求めた回折補正量の和を受音点Pにおける回折補正量とする。
【0099】
また
図16(a)、(b)の例では経路差S−Ot−Pと、経路差S−Oc−Pのそれぞれの長さを比較した場合に、経路差S−Ot−P<経路差S−Oc−Pである場合をそれぞれ示している。かかる場合には、回折補正量ΔL
dif,m(f)は、以下の(10)式で表される。
ΔL
dif,m(f)=ΔL
dif,m(f)L
S-Oc-P+ΔL
dif,m(f) L
S-Ot-Oc・・・・・・・(10)
【0100】
この式(10)において、ΔL
dif,m(f)L
S-Oc-Pは、
図16に示す三角形S−Oc−Pについて上述と同様にΔL
dif,m(f)を求めることを意味する。次にΔL
dif,m(f) L
S-Ot-Ocは、
図16に示す三角形S−Ot−Ocについて上述と同様にΔL
dif,m(f)を求めることを意味する。そして式(10)に示すように、それぞれ求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)L
S-Oc-P、ΔL
dif,m(f) L
S-Ot-Ocの和を受音点Pにおける回折補正量とする。
【0101】
このように、本発明によれば、2つの遮音壁3が概ね5m以上の距離を置いて設置された場合の回折補正量ΔL
dif,m(f)を(9)、(10)式を用いて求めることが可能となる。
【0102】
また
図17は、3つの遮音壁3が3重に設置された場合の回折補正量ΔL
dif,m(f)を求める例を示している。このうち
図17(a)は、経路差SYP=経路差max(ここで経路差maxとは、経路差SXP、経路差SYP、経路差SZPのうちの最大値である。)である場合の例である。ちなみに経路差SYPは、経路S−Y−Pと、経路S−Pの差分を示すものである。以下の記述も全て同様の意味を示すものである。
【0103】
即ち、経路差SYPが他の経路差SXP、経路差SZPの中で最大になる例である。かかる場合において回折補正量ΔL
dif,m(f)は、以下の式(11)より求められる。
ΔL
dif,m(f)= ΔL
dif,m(f)L
SYP+(ΔL
dif,m(f)L
SXY+ΔL
dif,m(f)L
YZP) ・・・(11)
【0104】
式(11)において、ΔL
dif,m(f)L
SYPは
図17(a)に示す三角形SYPについて求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)である。ΔL
dif,m(f)L
SXYは
図17(a)に示す三角形SXYについて求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)である。ΔL
dif,m(f)L
YZPは
図17(a)に示す三角形YZPについて求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)である。
【0105】
図17(b)は、経路差SXP=経路差maxであり、かつ経路差XYP≧経路差XZPである場合の例であり、
図17(c)は、経路差SXP=経路差maxであり、かつ経路差XZP>経路差XYPである場合の例である。即ち、経路差SXPが他の経路差SYP、経路差SZPの中で最大になる例である。かかる場合において回折補正量ΔL
dif,m(f)は、以下の式(12)より求められる。
ΔL
dif,m(f)= ΔL
dif,m(f)L
SXP+(ΔL
dif,m(f)L
XYP+ΔL
dif,m(f)L
YZP) 但し経路差XYP≧経路差XZP
ΔL
dif,m(f)= ΔL
dif,m(f)L
SXP+(ΔL
dif,m(f)L
XZP+ΔL
dif,m(f)L
XYZ) 但し経路差XZP>経路差XYP
・・・・・・・(12)
【0106】
式(12)において、ΔL
dif,m(f)L
SXPは
図17(b)、(c)に示す三角形SXPについて求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)である。ΔL
dif,m(f)L
XZPは三角形XZPについて求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)である。ΔL
dif,m(f)L
XYZは三角形XYZについて求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)である。
【0107】
経路差SZP=経路差maxである場合において回折補正量ΔL
dif,m(f)は、以下の式(13)より求められる。
ΔL
dif,m(f)= ΔL
dif,m(f)L
SZP+(ΔL
dif,m(f)L
SXZ+ΔL
dif,m(f)L
XYZ) 但し経路差SXZ≧経路差SYZ
ΔL
dif,m(f)= ΔL
dif,m(f)L
SZP+(ΔL
dif,m(f)L
SYZ+ΔL
dif,m(f)L
SXY) 但し経路差SYZ>経路差SXZ
・・・・・・・(13)
【0108】
式(13)において、ΔL
dif,m(f)L
SZPは三角形SZPについて求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)である。ΔL
dif,m(f)L
SXZは三角形SXZについて求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)である。ΔL
dif,m(f)L
SYZは三角形SYZについて求めた回折補正量ΔL
dif,m(f)である。
【0109】
以上、説明したように、(1)〜(6)式に基づき騒音源Sから発せられた騒音が受音点Pに到達するまでの騒音レベルを計算により求めることが可能となる。計算に必要なパラメータとして、長さA、B、dは、騒音源S、受音点Pの位置情報と、実際のパネル体32−iの位置情報、高さ、設計寸法から求めることができる。λは、周波数fから求めることになるが、本発明では、音波の周波数fについて例えば例えば100Hz〜5000kHzの間で、125Hz間隔で、f=f
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
Nと設定しておき、各f
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
Nについてそれぞれ上述した計算式に当てはめることにより騒音レベルを求めるようにしてもよい。そして、この各f
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
Nについて求めた騒音レベルの総和を求めて、最終的な遮音性のデータとするようにしてもよい。
【0110】
なお、上述した例では、パネル体32として遮音板321を使用する場合を例にとり説明をした。パネル体32として特殊部材322を使用する場合においても、上述した遮音板321の透過減衰の求め方に準じるものとなる。このとき特殊部材322における透過損失についても、その形状に応じて上述した遮音板321の透過損失の求め方に順次するものとなる。つまり、特殊部材322の形状が例えばルーバーパネル322bのように開口が多岐に亘って設けられている場合には、音波の通過箇所が増加し、これに応じて透過損失(TLi(f))が小さくなる。このように、透過損失を特殊部材322の形状に基づいたものに設定しておくことで、かかる形状の差異に応じた透過損失を、パネル体32の組み合わせの判断に反映させることが可能となる。
【0111】
更にパネル体32が貫通状態323である場合には、その貫通状態に見合った透過損失とする。かかる場合の透過損失の例としては、例えば0に設定するようにしてもよい。
【0112】
また、パネル体32として特殊部材322が選択された場合において、スリット回折減衰の求め方は、上述した遮音板321と同様である。仮に特殊部材322がルーバーパネル322bである場合のように開口が多段に亘り設けられていても、スリット回折減衰は、かかる開口のない遮、音板31と同様のパネルが設けられている場合を仮定して計算を行う。
同様にパネル体32として貫通状態323が選択された場合においてもスリット回折減衰の求め方は、上述した遮音板321と同様である。かかる場合もスリット回折減衰は、このような貫通された開口のない、遮音板31と同様のパネルが設けられている場合を仮定して計算を行う。
【0113】
このようにして、各パネル体32が、遮音板321か、特殊部材322か、更には貫通状態323かに応じて透過損失の求め方を選択した上で、それぞれ透過減衰を求めていくこととなる。
【0114】
表1は、ある3段からなる遮音壁32について、遮音板321、ルーバーパネル322b、貫通状態323がそれぞれ選択された場合における、スリット回折減衰、透過損失の例を示している。スリット回折減衰は、上述したように遮音板321、特殊部材322、貫通状態323ともに求め方は共通しているため、何れも同一の値となる。これに対して、透過損失は、遮音板321、特殊部材322、貫通状態323のうち何れが選択されたかに応じて異なっているのが分かる。
【0116】
次に本発明を適用した組み合わせ探索プログラムの実際の処理動作フローについて説明をする。
図18は、遮音壁3の遮音性を伝搬計算により求めるフローチャートである。
【0117】
先ずステップS11において、周波数f
kを設定する。設定する周波数は、通常は、周波数の集合であるf
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
Nの中で低い方から順に選択していくがこれに限定されるものではなく、これらの周波数がいかなる順序で選択されるものであってもよい。また、これら周波数f
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
Nの集合のうち、例えば任意の周波数範囲のみ伝搬特性を解析したい場合には、その範囲の周波数のみ選択するようにしてもよい。設定する周波数の集合f
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
N自体も予めシステム側で設定されていてもよいし、ユーザ側において自由に設定してもよい。以下、このステップS11において上述した周波数の集合から選択された一の周波数をf
kとする。
【0118】
次にステップS12に移行する。以下の説明では、パネル体32の段数を
図5に示すようにパネル体32−1、32−2、32−3、32−4の4段で構成する場合を例にとり説明をする。
【0119】
次にパネル体32−iにおけるiを決定する。このiの決定は、決定したパネル体32−1、32−2、32−3、32−4のうち、1〜4の何れかを選択することを意味する。そして選択されたパネル体32を、パネル体32−iとし、これ以降のフローにおいてその遮音性を計算していくこととなる。
【0120】
次にステップS13へ移行し、ステップS12において選択したパネル体32−iについて、式(5)からスリット回折減衰ΔL
dif,slit,i(f)を求める。実際には、選択したパネル体32−iのサイズ、位置、高さと、騒音源S、受音点Pの各位置情報に基づいて式(6)に示される前川チャートの実験式からそれぞれΔL
d,0、ΔL
d,1を求め、(5)式に代入した上でスリット回折減衰ΔL
dif,slit,i(f)を求める
【0121】
次にステップS14へ移行し、(4)式に基づいてパネル体32−iの透過減衰を求める。このパネル体32−iの透過減衰は、ΔL
dif,slit,i(f)+(-TL
i(f))で表される。ΔL
dif,slit,i(f)については、ステップS13において求めたスリット回折減衰を代入し、TL
i(f)は、上述したJIS A 1416に基づく実験値や質量則等を介して求めたものを代入する。
【0122】
次にステップS15へ移行し、遮音壁3を構成する全てのパネル体32について、それぞれ透過減衰ΔL
dif,slit,i(f)+(-TL
i(f))を求めたか否か判定を行う。その結果、未だΔL
dif,slit,i(f)+(-TL
i(f))を求めてない他の段を構成するパネル体32が存在する場合には、ステップS12に戻る。ステップS12に戻った場合には、ΔL
dif,slit,i(f)+(-TL
i(f))を求めていない他の段を構成するパネル体32を選択して、これをパネル体32−iとし、以降は同様のフローに従って処理を行う。これに対して、遮音壁3を構成する全てのパネル体32について透過減衰ΔL
dif,slit,i(f)+(-TL
i(f))を求めている場合には、遮音壁3全体の透過減衰値ΔL
dif,w(f)を、(4)式で示すところの、各パネル体32−iにおけるiが1〜nまでの透過減衰の総和として算出することができることを意味している。かかる場合には、ステップS16へと移行する。
【0123】
ステップS16では、遮音壁3の上端の回折減衰ΔL
d,top(f)と、遮音壁3の透過減衰値ΔL
dif,w(f)とを求める。遮音壁3の上端の回折減衰ΔL
d,top(f)は、上述したように、騒音源S、遮音壁3の上端32a、受音点Pで結ばれる三角形の領域に基づいて同様にフレネル数Nを代入することにより求める。また、遮音壁3の透過減衰値ΔL
dif,w(f)は、(4)式に基づいて算出する。
【0124】
但し、このステップS16において、遮音壁3の最上段に位置するパネル体32−1が貫通状態323の場合、或いはパネル体32−1から連続してパネル体32−2以下が貫通状態の場合には、遮音壁3の上端が低くなる。かかる場合には、遮音壁3の上端の回折減衰ΔL
d,top(f)を求める際には、騒音源S及びその低くなった遮音壁3の上端32a、受音点Pで結ばれる三角形の領域について求めていくこととなる。
【0125】
次にステップS17に移行し、距離減衰-11-20log
10rを求める。この距離減衰は、騒音源Sから受音点Pまでの距離rをかかる距離減衰の式に代入することにより、求めることができる。地面の反射を考慮するか否かに基づいて、上述のように使用する式を選択することとなる。
【0126】
次にステップS18へ移行し、(1)式に基づいて遮音レベルL
WA(f)を求める。このL
WA(f)を求める上で、先ずΔL
dif,m(f)については、ステップS16において求められたΔL
d,top(f)、ΔL
dif,w(f)を(2)式に代入することにより得ることができる。また距離減衰-11-20log
10rは、ステップS17において求めたものを代入する。L
WA(f)は、実際の騒音源Sから発せられた騒音のレベルを代入する。これにより、パネル体32を積み上げることにより構成された遮音壁3についてステップS11において選択した周波数f
kについて騒音レベルを求めることが可能となる。
【0127】
次にステップS19へ移行し、周波数の集合であるf
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
N全てについて、計算が終了したか否かを判別する。その結果、全ての周波数について計算が終了したものと判別した場合には、伝搬計算が終了となる。これに対して、未だ計算が終了していない周波数が存在する場合には、ステップS11に戻る。そして、未だ計算が終了していない周波数の何れかを選択し、これを周波数f
kとして、ステップS12以降のフローを同様に実行していく。このようにして、周波数の集合であるf
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
N全てについて計算が終了するまでステップS11から18までを繰り返し実行していくこととなる。そして、全ての周波数の集合であるf
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
N全てについて計算が終了した場合には、各周波数について求めた騒音レベルの総和を求めることにより、その遮音壁3の各周波数に対する騒音レベル、ひいては遮音性を求めることが可能となる。なお、本発明では、少なくとも1の周波数fについて騒音レベルを求めるものであってもよい。
【0128】
ちなみに、この
図18に示す遮音壁3の伝搬計算フローチャートは、
図19に示す探索プログラム全体のフローチャートにおけるステップS23を構成するものである。全体のフローチャートでは先ず、ステップS21において、遮音壁3のループ条件を決定する。このループ条件では、遮音壁3を構成するパネル体32を何段で構成するかを先ずユーザ側において決定させる。このパネル体32の段数は、2段以上であればいかなる段数で構成されていてもよい。
【0129】
なお、この全体のフローチャートにおいて、パネル体32は、
図20に示す3種の遮音板321の何れか、
図4に示す特殊部材322としてのルーバーパネル322a、透明板322b、ドア322cの何れか、又は貫通状態323の何れかから選択される場合を例にとり説明をする。遮音板321のうち、タイプ1は、遮音材のみで構成し内部に鋼板が無いものであり、タイプ2は、遮音材に加え、更に内部に板厚1.6mmの鋼板を挿入したものであり、タイプ3は、遮音材に加え、更に内部に板厚3.2mmの鋼板を挿入したものである。遮音性は、タイプ3が最も高く、タイプ2がその次に高く、タイプ1が最も低くなる。重量は、タイプ3が最も重く、タイプ2がその次に重く、タイプ1が最も軽くなる。スコアは、タイプ3が最も高く、タイプ2がその次に高く、タイプ1が最も低くなる。なお遮音板321の遮音性及び重量のタイプの数、種類はいかなるものであってもよい。また、周波数f
1、f
2、f
3、・・f
k・・、f
N全ての周波数についての透過損失を入力するようにしてもよいし、いずれかの周波数のものについて入力するようにしてもよい。
【0130】
遮音壁3の各段を構成する複数のパネル体32について、これら遮音性及び重量の異なる3つのタイプの遮音板、又は特殊部材322としてのルーバーパネル322a、透明板322b、ドア322cの何れか、又は貫通状態323の何れかから割り当てる組み合わせを選択する。
【0131】
なお、このステップS21においてシステム側又はユーザ側において、パネル体32各種について、スコアを設定するためのステップを導入するようにしてもよい。
【0132】
次にステップS22に移行した場合には、遮音性及び重量の異なる3つのタイプの遮音板321、又は特殊部材322としてのルーバーパネル322a、透明板322b、ドア322cの何れか、又は貫通状態323の何れかから遮音壁3の各段を構成する複数のパネル体32の組み合わせを実際に選択する。この選択のルールはいかなるものであってもよく、ランダムな乱数に基づいて決めてもよいし、所定の規則的なルールに基づいて決めてもよい。
【0133】
次にステップS23に移行し、ステップS22において各タイプが選択されたパネル体32−1〜32−3を構成する遮音壁3について、
図18に示す伝搬計算フローチャートに基づいて伝搬計算を行う。このステップS23が終了した段階で、ステップS22において選択されたパネル体32−1〜32−3を構成する遮音壁3について、各周波数に対する騒音レベル、ひいては遮音性を求められていることとなる。
【0134】
次にステップS24へ移行し、今回選択したパネル体32−1〜32−3の各タイプの組合せについて、以下に説明する方法により評価値を求める。
【0135】
評価値は、上述したSCに基づいて計算される。通常この評価値は、今回選択したパネル体32−1〜32−3についてそれぞれ求めたSCの総和で与えられる。SCを構成するW1、W2は、上述したように各パネル体32の種別に応じて予めインプットされているため、これを読み出して総和を求めることで評価値を容易に得ることができる。
【0136】
次にステップS25へ移行し、ステップS23において求められた騒音レベルが目標の騒音レベル以下か否かを判定する。この判定の結果、求められた騒音レベルが目標の騒音レベル以下であれば、ステップS27へ移行し、求められた騒音レベルが目標の騒音を超える場合には、ステップS26へ移行する。
【0137】
ここでいう目標の騒音レベルは、実際に遮音壁3を設ける箇所における受音点Pにおいて目標とされる騒音レベルで、ユーザ側又はシステム側において自由に設定できるようにしてもよい。
【0138】
ステップS26へ移行した場合には、ステップS22において今回選択したパネル体32−1〜32−3の各タイプの組合せでは、目標の騒音レベルを超えしまう。このため、ステップS22において今回選択したパネル体32−1〜32−3の各タイプの組合せを探索解から除外する処理を行った後、ステップS33へ移行する。
【0139】
次にステップS27へ移行し、仮に今回の組み合わせにおいて初めてS25をクリアした場合には、その組み合わせを暫定的に最優秀解に設定してステップS28へ移行する。それ以外のケースでは、このステップS27をスルーしてステップS28へ移行する。
【0140】
ステップS28に移行した場合には、今回の組み合わせの評価値が最優秀解の評価値よりも高いか否か判別する。その結果、今回の組み合わせの評価値が、最優秀解の評価値よりも高いものであればステップS31へ移行し、それ以外のケースは、ステップS29へ移行する。
【0141】
ステップS29へ移行した場合には、更に今回の組み合わせの評価値が最優秀解の評価値と同等か否か判別を行う。その結果、今回の組み合わせの評価値が最優秀解の評価値と同等であればステップS30へ移行する。一方、今回の組み合わせの評価値が最優秀解の評価値と同等でない場合には、ステップS33へ移行する。
【0142】
ステップS30に移行した場合には、今回の組み合わせの騒音レベルが、最優秀解の騒音レベルよりも小さいか否か判別を行う。その結果、今回の組み合わせの騒音レベルが、最優秀解の騒音レベルよりも小さい場合には、ステップS31へ移行し、それ以外の場合には、ステップS33へ移行する。
【0143】
ステップS31に移行した場合には、今回の組み合わせを最優秀解に設定する処理を行う。その結果、次回以降のステップS22のフローにおいて、この今回の組み合わせが最優秀解として比較の対象となる。
【0144】
これに対してステップS33へ移行した場合には、特に最優秀解の変更は行わない。その結果、今までの最優秀解の組み合わせが次回以降のステップS22のフローにおいて比較の対象となる。
【0145】
ステップS31、33の何れの処理を終了させた後、ステップS32へ移行する。ステップS32に移行した場合には全ての探索対象について探索が終了していない場合には、ステップS22に戻り、パネル体32−1、32−2、32−3の3段にそれぞれ割り当てる処理を行う。この割り当て処理において、それ以前において探索された組み合わせを除外するように制御することは勿論である。
【0146】
これらステップS21〜S33までの処理を想定される全てのパネル体32の組み合わせについて実行していくこととなる。その過程で最優秀解が順次更新されていくこととなり、目標の騒音レベル以下であって、なおかつ評価値が最も高いパネル体32の組み合わせが最優秀解として残ることとなる。これが本システムにおいて探索された最適な組み合わせとして出力されることとなる。
【0147】
パネル体32の選択候補とした板種A〜板種Dの4種を以下の表2に示す。
【0149】
この表2では、板種Aについて、貫通状態323とし、板種B〜板種Dを何れも遮音板321としている。この遮音板321としての板種B〜板種Dは、
図20に示すタイプ1〜タイプ3に対応するものである。板種Bはタイプ1に対応するもので、遮音性が小さいものの重量が軽く、スコアが低くなる。板種Cは、タイプ2に対応するもので、遮音性が中程度であり、重量も中程度であることからスコアも中程度である。板種Dはタイプ3に対応するもので、遮音性は大きく、重量が重いため、スコアが大きくなる。
【0150】
なお板種Aとした貫通状態323については、この例ではスコアを0に設定している。即ち、この表2において設定したスコアは、何れも板種A〜板種Dの重量に対応したものであり、所定の騒音レベル以下の組み合わせの中で、単に重量の軽い組み合わせを優先して選択することとなる。
【0151】
かかる条件の下で、ステップS21において、遮音壁3を5段からなるパネル体32で構成する場合が選択された場合に、各段について板種A〜Dの4種の何れかを割り当てることにより、4
5通りのパネル体32の組み合わせについて、それぞれ評価値と騒音レベルとを求めていくことになる。
【0152】
図21は、遮音壁3を5段からなるパネル体32において、パネル体32の選択候補を表2の板種A〜板種Dとした場合における、各組み合わせの評価値と騒音レベルのプロットを示している。ここでステップS25における目標の騒音レベルを50dBとした場合には、最も評価値の低いものは、下段から順番に板種をBBBAAの順で積み重ねた場合の組み合わせが最優秀解として残ることとなる。この組み合わせBBBAAが所定の騒音レベル以下の組み合わせの中で、最も重量の軽い組み合わせとして探索解として出力されることとなる。
【0153】
上述した表2の例では、パネル体32の軽さのみを重視した組み合わせ選択であったが、いかなる項目を重視するかは、システム側又はユーザ側において自由に設定することができる。表3のスコアの設定例では、パネル体の重量よりもむしろ遮音壁3の低層化に優先度を置いたスコア設定を行っている。この表3の例において、板種Aについて、貫通状態323とし、板種B〜板種Dを何れも遮音板321としている点は、表2の例と同様である。但し、板種Aの貫通状態323については、スコアを−192に設定している。これにより、板種Aが選択された場合に評価値が著しく低下することとなり、貫通状態323が多く含まれる組み合わせが優先的に選択されることとなる。
【0155】
なお実際には、最上位段が貫通状態323、又は最上位段から下位に向けて貫通状態3
23が連続する場合のみスコアとして−192を設定することで、上位段が遮音板321、下位段が貫通状態323になっている形態を選択対象から排除することが可能となる。かかる場合には、最上位段が貫通状態323、又は最上位段から下位に向けて貫通状態323が連続する場合のスコアを、上位段が遮音板321が位置する貫通状態323のスコアよりも低く設定されているものであればよい。或いは上位段が遮音板321、下位段が貫通状態323になっている形態については、上述したスコアについて正のペナルティ増分を加えることで選ばれにくくなるようにしてもよいし、特にこのようなペナルティ増分を課すことなく、同じ優先順位としてもよい。
【0156】
図22は、遮音壁3を5段からなるパネル体32において、パネル体32の選択候補を表3の板種A〜板種Dとした場合における、各組み合わせの評価値と騒音レベルのプロットを示している。板種Aが選択される枚数が高くなるにつれて評価値が著しく低下することとなる。その結果、左から0段グループ、1段グループ、2段グループ、・・、5段グループと、段毎にグループが形成されることとなる。ここでステップS25における目標の騒音レベルを52dBとした場合には、これ以下に位置する2段グループの中から最も評価値の低い組み合わせが選択されることとなる。またステップS25における目標の騒音レベルを48dBとした場合には、これ以下に位置する3段グループの中から最も評価値の低い組み合わせが選択されることとなる。
【0157】
このように、板種Aの貫通状態323のスコアを著しく低めに設定することで、段毎にグループが形成されることとなり、目標の騒音レベルに応じて段数の低いグループが優先的に選択されていくこととなる。かかる点において
図21に示す例では、段数に応じてプロットが明確に区別されてなくて混合状態となっているため、段数に支配されることなく、最適な組み合わせの探索が行われることが明確に示されている。
【0158】
表4のスコアの設定例では、選択の優先度について、パネル体32の重量と遮音壁3の低層化の両方をバランスよく設定した例を示している。この表4の例において、板種Aについて、貫通状態323とし、板種B〜板種Dを何れも遮音板321としている点は、表2の例と同様である。但し、板種Aの貫通状態323については、スコアを−48に設定している。これにより、板種Aが選択された場合に評価値が著しく低下することは無いものの、ある程度低層化が優先されることとなる。
【0160】
図23は、遮音壁3を5段からなるパネル体32において、パネル体32の選択候補を表4の板種A〜板種Dとした場合における、各組み合わせの評価値と騒音レベルのプロットを示している。
図23に示すプロットの分布は、
図21に示すプロットの分布と比較して、評価値の幅が広く展開されているのが分かるが、これは板種Aの貫通状態323のスコアを0よりも低く設定しているためである。一方、この
図23に示すプロットの分布は、
図22に示すプロットのように、段数に応じてプロットが明確に区別されていない、いわば混合状態となっている。このため、低層化に加え、軽量化の観点からバランスの良い探索が行われることが分かる。
【0161】
表5のスコアの設定例では、板種Aについて、貫通状態323とし、板種B〜板種Cは、遮音板321とし、板種Dは特殊部材322としている。この板種Dの特殊部材は、排気性を付加価値とした、ルーバーパネル322aで構成した場合を例に挙げている。板種Aの貫通状態323については、スコアを−192に設定することで、貫通状態323、ひいては低層化の組み合わせが優先的に選択されるようにしている。また板種Dの特殊部材322については、スコアを−2000とすることで、特にこれが優先的に選択されるように設定している。即ち、優先順位を排気性>低層化>軽さに置いたものとなっている。
【0163】
図24は、遮音壁3を5段からなるパネル体32において、パネル体32の選択候補を表5の板種A〜板種Dとした場合における、各組み合わせの評価値と騒音レベルのプロットを示している。
図24に示すプロットの分布は、評価値の幅が格段に広く展開されているのが分かるが、これは板種Dの特殊部材322のスコアが格段に小さく設定されているためである。即ち、この
図24では、板種Dが何段に亘って選択されたかに応じて明確にグループ分けがなされているといえる。板種Dが選択されている段数が多いほど評価値が著しく下がることとなる。このため、目標とする騒音レベル以下においては、この板種Dの選択されている段数の多いグループが優先的に選択されることとなる。
【0164】
図25は、
図24において点線で囲まれているグループについて、評価値と騒音レベルを拡大して示したものである。
図22と同様に左から0段グループ、1段グループ、2段グループ、・・、5段グループと、段毎にグループが形成されることとなる。この傾向からも段数が小さいグループが優先的に選択されることがわかる。
【0165】
このように、目標とする騒音レベル以下において、板種Dが選択されている段数が多いグループが優先的に選択され、更にそのグループ内において、より低層な組み合わせが選択されていくこととなる。更にその次の優先順位として重量の軽いものが選ばれる。
【0166】
これら選択の優先順位は、板種A〜Dのスコア設定により、任意に変更することができる。このため、システム側又はユーザ側において、遮音壁3の設置を行う環境や求められるニーズに応じて、その優先順位を板種A〜Dのスコアに反映させることで、自動的に最適解を探索させることが可能となる。
【0167】
なお上述したように、設定したスコアに応じてプロットにつきグループが形成される場合には、
図26に示すようにグループ毎に解探索を行うようにしてもよい。この
図26に示すフローチャートにおいて、上述した
図19のフローチャートと同一の処理動作を行うステップについては、同一のステップ記号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0168】
ステップS24の評価値の算出を行った後、ステップS41へ移行する。ステップS41では、ステップS24において算出された評価値から、実際にどのグループに入るのか判定する。例えば
図22に示すグループが形成される場合において、評価値が−400であれば、2段グループに相当する旨を判定することとなる。
【0169】
次に、ステップS25に移行し、目標とする騒音レベル以下であればステップS27に移行することとなる。このステップS27〜S30の処理動作は同一であるが、これらにおいて行われる各判断は、ステップS41において相当するグループと判断された中で行う。その結果、ステップS31、S33における最優秀解の設定についても、そのグループ内において行っていく。
【0170】
最終的に各グループについてそれぞれ最優秀解の組み合わせが選ばれることとなる。この各グループについての最優秀解をユーザに表示して任意のグループを選択させるようにしてもよいし、各グループの中から最も評価値の低いものをシステム側が選択した上で、これをユーザ側に表示するようにしてもよい。
【0171】
このように、本発明を適用した組み合わせ探索プログラムでは、互いに遮音性と、重量及び追加要素が異なる異種のパネル体32を複数段に亘り積み上げて一枚の遮音壁3を構築するという新しいコンセプトの下で、遮音性並びに重量、追加要素の観点から最適な組み合わせを探索することが可能となる。
【0172】
特に遮音壁3の各段を構成する遮音板321の代わりに、視認性を向上させて景色を見ることができるようにするため透明板322bの設置を望む場合もある。また、遮音板321の代わりに、風通しを良くする観点からルーバーパネル322aの設置を望む場合もある。更に遮音壁3中において、外部との出入をするためのドア322cの設置を望む場合もある。このように、遮音板321に加え、各種の特殊部材322を組み合わせることで様々なバリエーションの遮音壁3を作り出したい場合もある。一方、これら特殊部材322は、その種別に応じた利点があるもの遮音性そのものは遮音板321と比較すると数段劣る場合が多い。かかる場合においても、本発明によれば、様々なバリエーションの遮音壁3を設計していく上で特殊部材322の持つ利点を最大限引き出しつつ、遮音性や重量の観点からもバランス調整がされた最適な組み合わせが探索解として得られることから、設計作業を複雑化することなく容易に進めることが可能となる。
【0173】
また遮音壁3にこのような貫通状態323を設けることにより、視認性は向上するものの遮音性は当然のように低下することとなる。このため、このような貫通状態323を含む遮音壁を設計していく上で、本発明によればその貫通状態323の持つ利点を最大限引き出しつつ、遮音性や重量の観点からも最適な組み合わせを自動的に探索することができ、設計作業を容易なものにすることが可能となる。
【0174】
なお、上述した実施の形態においては、あくまで目標とする騒音レベルについて閾値以下の組み合わせのみ許容範囲として、その中から評価値の最も小さい組み合わせを選択するコンセプトであるが、これに限定されるものではない。例えば、あくまで目標とする評価値について閾値以下の組み合わせのみ許容範囲として、その中から騒音レベルの最も小さい組み合わせを選択するコンセプトであってもよい。かかる場合には、例えば
図21の例において、例えば評価値の閾値が48であれば、この閾値48以下であって、最も騒音レベルの小さい組み合わせとして、下段から順に板種をBBBBAの順で積み上げたものが選択されることとなる。
【0175】
また、騒音レベルと総重量それぞれについて偏差値で表示し、これらの合計値が最も優れているものを最適解として選択するようにしてもよい。合計値を算出する際に、騒音レベルの偏差値と評価値の偏差値を重み付け割合を1:1にする場合以外に、他のいかなる重み付け割合を設定するようしてもよい。また騒音レベルと評価値については、偏差値以外のいかなる評価指標に置き換えて最適解を抽出するようにしてもよい。
【0176】
更に本発明によれば、受音点の騒音レベル、評価値がそれぞれ所定値以下のものから任意の組み合わせを特定し、これを解として出力するようにしてもよい。任意の組み合わせを特定する方法は、例えばランダムに決める等、いかなる方法に基づくものであってもよい。
【0177】
また本発明では、ステップS32に至るまでの全工程を実施する場合に限定されるものではない。例えば、ステップS21〜S24までを繰り返し実行するのみであってもよい。これにより
図21〜
図25に示すような、評価値と騒音レベルの二軸のグラフを生成することができるが、単にこれをディスプレイ等を介して表示し、或いはプリントアウトされるものであってもよい。即ち、
図21〜
図25に示すような評価値と騒音レベルの二軸のプロットをユーザに対して表示し、ユーザにこれらプロットの中から好みの組み合わせの選択を促すものである。表示するプロットは、ステップS21において設定した全ての組み合わせのプロットを表示してもよいし、その一部のみであってもよい。これにより、評価値と騒音レベルの二軸に加えてユーザ自らの主観も盛り込んだ、組み合わせの探索が実現できる。
【0178】
なお、ステップS25では、式(1)に基づいて算出した正確な騒音レベルと、これに応じた目標値とを比較することを行っているが、これに限定されるものではない。受音点の騒音レベルは、透過減衰値に応じたものであればいかなるものであってもよい。
【0179】
また、本発明によれば、パネル体32の各組み合わせに対する透過減衰値に応じた受音点の騒音レベルと、その組み合わせを構成するパネル体32の評価値とに対してそれぞれ重み付けした総和が最小となる遮音板の組み合わせを探索するようにしてもよい。
【0180】
表6は、ある段数からなる遮音壁3の組み合わせの例P001〜P027における総重量、騒音レベルについて、それぞれの重み付けの総和を求めた例である。
【0182】
この例では、先ず騒音レベル(dB)並びに遮音壁3の評価値について規格化するため、各データをそれぞれ偏差値により表示している。ここで、騒音レベルの偏差値をDs、遮音壁3の評価値の偏差値をDwとする。
【0183】
判定値Aは、Ds、Dwを下記の式に代入することにより算出した例である。この判定値Aは、DsとDwの重み付けを同等したものである。
A=Ds+Dw
【0184】
判定値Bは、Ds、Dwを下記の式に代入することにより算出した例である。この判定値Bは、Dsの重み付けをDwよりも重くした例である。
B=1.8×Ds+0.2×Dw
【0185】
判定値Cは、Ds、Dwを下記の式に代入することにより算出した例である。この判定値Cは、Dwの重み付けをDsよりも重くした例である。
C=0.7×Ds+1.3×Dw
【0186】
Ds、Dwの何れの重み付けを重くするのか、またその重み付けの程度については、評価する側が自由に設定することができる。これら判定値A、B、Cの値が最小のものが探索される最適解となる。評価値Aは、P022が解であり、判定値Bは、P026が解であり、判定値Cは、P010が解である。このように探索目標に応じて求められる解が異なってくることとなる。
【0187】
なお、規格化の方法や、重み付けの設定方法については、上述以外のいかなる手法に基づくものであってもよい。また偏差値等による規格化を行うことなく、騒音レベル(dB)並びに遮音壁3の評価値に対して直接重み付け変数を乗じてもよい。
【0188】
また、上述の判定値A〜Cを求める上で、受音点Pの騒音レベルが所定値以下で、かつパネル体32の重量の合計値が所定値以下のものを予め解析対象母集団として限定し、その中から最適解の探索を行うようにしてもよい。このとき、このとき、受音点Pの騒音レベルが所定値以下のものについてのみに限定してもよいし、パネル体32の評価値が所定値以下のもののみについて限定してもよい。
【0189】
なお、本発明は、上述した組み合わせ探索プログラムとして具現化される場合に限定されるものではない。このような組み合わせ探索プログラムがサーバ13又は電子機器11、21にインストールされた遮音壁の各段を構成するパネル体の組み合わせ探索システム1として具現化されるものであってもよい。また、このような組み合わせ探索プログラムのアルゴリズムがそのまま反映された遮音板の組み合わせ設計方法として具現化されるものであってもよいことは勿論である。