特許第6705744号(P6705744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705744
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】摺動用樹脂組成物及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20200525BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20200525BHJP
   C10M 171/06 20060101ALI20200525BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20200525BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20200525BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20200525BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20200525BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20200525BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/34
   C10M171/06
   B32B27/20 Z
   C09D201/00
   F16C33/20 Z
   C10N20:06 Z
   C10N30:06
   C10N40:02
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-519418(P2016-519418)
(86)(22)【出願日】2015年5月15日
(86)【国際出願番号】JP2015064118
(87)【国際公開番号】WO2015174538
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2018年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-101855(P2014-101855)
(32)【優先日】2014年5月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】小早川 大樹
(72)【発明者】
【氏名】安田 絵里奈
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−037962(JP,A)
【文献】 特開平08−059991(JP,A)
【文献】 特開平01−261514(JP,A)
【文献】 特開平07−166182(JP,A)
【文献】 特開2010−121123(JP,A)
【文献】 特開2007−092995(JP,A)
【文献】 特開2004−323789(JP,A)
【文献】 特開2002−053883(JP,A)
【文献】 特開2003−306604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C09D 201/00
C10M 101/00−177/00
F16C 33/20
C10N 40:02
C10N 50:02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂バインダ、固体潤滑剤、及び保護強化剤としての粒子を含む摺動用樹脂組成物であって、
前記粒子は酸化シリコンからなり、前記樹脂バインダよりビッカース硬度においてその硬度が大きく、かつ前記固体潤滑剤より小径であり、前記摺動用樹脂組成物全体において1vol.%以上20vol.%以下を占め、
前記粒子の平均粒径は10nm以上100nm以下であり、
前記粒子が形成する凝集体は、前記摺動用樹脂組成物をその摺動面に対して垂直方向に切断したとき得られる切断面の測定視野に現れる平均径をA及びその標準偏差をσとしたとき、A−1σが60nm以上、A+1σが400nm以下であり、
前記摺動用樹脂組成物の前記切断面の測定視野に現れる前記凝集体の長軸と摺動面とのなす角が45度以下である、摺動用樹脂組成物。
【請求項2】
基材層と、該基材層に積層され、請求項1に記載の摺動用樹脂組成物からなるコーティング層と、を備える摺動部材。
【請求項3】
基材層が半割筒形状の部分を含む、請求項2に記載の摺動部材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動用樹脂組成物及び該組成物を用いた摺動部材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンに適用される軸受の摺動面には高い耐摩耗性や耐焼付性が求められており、その対策の一つとして、軸受の摺動面を樹脂組成物でコーティングする技術が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
これら先行技術文献に開示の技術では、半割筒状の基材層の内周面(摺動面)に樹脂組成物の層がコーティングにより形成されている。
かかる摺動用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ということがある)は、樹脂バインダ、固体潤滑剤及び保護強化粒子を含む。ここに、樹脂組成物に負荷がかかったとき、固体潤滑剤はそれ自体が変形(例えば劈開)して、より具体的にはその結晶面に滑りを生じて、樹脂組成物の応力を緩和する(特許文献1)。他方、保護強化粒子として例えばナノオーダ(20〜50nm径)のシリカが採用され、樹脂組成物全体の耐摩耗性を向上させている(特許文献2)。
その他、本願発明に関連する技術を開示する先行技術文献として特許文献3−5を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−72535号公報
【特許文献2】特開2007−517165号公報
【特許文献3】特開2006−116458号公報
【特許文献4】特開2007−92995号公報
【特許文献5】特開2008−95725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今の自動車用エンジンは、燃費向上のため、起動停止が頻繁に繰り返される傾向にある。また、オイルのせん断抵抗を低減するためにエンジンオイルの低粘度化も進んでいる。こういったエンジンの場合、軸−軸受間の油膜が不足ぎみとなり、境界潤滑状態での摺動が多くなる。その結果、摺動中の摩擦係数が増加し、軸受において軸と接触する樹脂組成物層にかかる負荷が高くなる。
樹脂組成物層への負荷が高くなることによって、樹脂組成物層に限界を超えた変形が生じ、樹脂組成物自体が破壊されたり、樹脂組成物が基材から剥離したりするおそれが生じる。その結果、軸受の基材(合金層)と軸との固体接触が生じ、過剰に発熱して軸受基材と軸とが溶着して、焼付損傷の原因となりかねない。
特許文献1及び2で紹介される技術は樹脂組成物層を改良して、耐焼付性を改善している。
【0005】
しかしながら、下記の理由により、軸受の樹脂組成物層には更なる耐焼付性が求められている。
近年、ガソリンエンジンだけでなく、大型トラックのようなディーゼルエンジンも、低燃費化のために、起動停止の繰り返される頻度を高くする要請が高まってきた。ディーゼルエンジンの軸受には、ガソリンエンジンに比べ、低周速・高面圧の負荷がかかるため、その軸−軸受間の油膜を維持することがより困難になる。更には、ディーゼルエンジンを搭載する車両は、ガソリンエンジン搭載車に比べ、一般的にメンティナンス間における走行距離が長いので、軸−軸受間に異物が混入する可能性が高くなる。この点においても、油膜を維持することが困難となる。更には、軸の低コスト化を狙い、軸粗さが従前よりも粗い鋳鉄軸も登場してきており、これも油膜維持を困難とする一因となっている。
勿論、ディーゼルエンジン用の軸受には大きな負荷がかかるので、軸受の摺動面を構成する樹脂組成物には高い耐摩耗性が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、例えば車両エンジン用の軸受に採用される樹脂組成物の耐摩耗性を維持しつつ、その耐焼付性を向上させることを目的とする。
かかる目的を達成するために、この発明の第1の局面では、次なる樹脂組成物を提案する。即ち、
樹脂バインダ、
固体潤滑剤、及び
前記樹脂バインダより硬くかつ前記樹脂バインダより脆い保護強化剤、を含む摺動用樹脂組成物。
【0007】
このように規定される第1の局面の摺動用樹脂組成物によれば、樹脂バインダより硬い保護強化剤が配合されているので、摺動用樹脂組成物全体に高い耐摩耗性が得られる。
さらには、固体潤滑剤の変形では吸収できないほどに強い負荷が樹脂組成物にかけられたとき、この負荷は保護強化剤にもかかる。保護強化剤は樹脂バインダより脆いので、樹脂バインダが変形する前に保護強化剤が変形ないし崩壊する。これにより、樹脂バインダの応力が緩和され、その結果、摺動用樹脂組成物の骨格とも言える樹脂バインダが一気に大きく破壊されてしまうことを避けることができる。
かかる摺動用樹脂組成物で軸受の摺動面を構成すると、前述したように樹脂組成物の耐久性が向上し、軸と軸受との直接接触が防止され、もって、耐焼付性が向上する。
【0008】
ここに各要素の硬さは耐摩耗性の指標となり、例えばビッカース硬さで表すことができる。
保護強化剤の硬さは樹脂バインダのそれに比べて、ビッカース硬さで10〜100倍の差がある。
また、各要素の脆さはその限界応力で表すことができる。限界応力とは樹脂組成物を構成する各要素に負荷がかけられたとき、各要素が塑性変形したり破壊されたりせずに耐え得る最大限度の応力をいう。限界応力の小さいものほど崩れやすく脆さが大きい。
【0009】
樹脂組成物に配合される固体潤滑剤は樹脂組成物の表面の摩擦係数を低減してそのすべり特性を向上させる。一般的に、この固体潤滑剤には二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、グラファイトなどが採用される。これらの材料はいずれも樹脂バインダより柔らかく(硬度が小さく)、また脆い(限界応力が小さい。
この発明の第2の局面では、これら樹脂組成物を構成する3つの要素、即ち、樹脂バインダ、固体潤滑剤及び保護強化剤の各限界応力を次のように規定する。
固体潤滑剤≦保護強化剤<樹脂バインダ
このように規定される第2の局面の樹脂組成物によれば、強い負荷が樹脂組成物にかけられたとき、固体潤滑剤と保護強化剤は樹脂バインダより脆いので、樹脂バインダが変形する前にこれらが変形ないし崩壊する。これにより、樹脂バインダの応力が緩和され、その結果、摺動用樹脂組成物の骨格とも言える樹脂バインダを保形する。
【0010】
樹脂バインダより硬く、かつ樹脂バインダより脆い保護強化剤として次のものを挙げられる。一つには、樹脂バインダの成形材料より硬い材料で形成された粒子(この明細書で「保護強化一次粒子」ということがある)を凝集させたものがある。
ここに保護強化一次粒子の凝集には、単体(即ち、一次)の粒子同士が直接連結してなる二次粒子、更にこの二次粒子が連結してなる三次粒子というように粒子が直接結合してなる多次粒子(二次以上の粒子)の態様、一次粒子の連結が樹脂バインダを介してなされる態様、更には一次粒子の連結が樹脂バインダによりサポートされる態様が考えられる。この明細書では、保護強化一次粒子が凝集したものを「凝集体」と呼ぶことがある。
かかる凝集体に負荷がかかると、樹脂バインダが変形する前に、粒子同士のずれが生じて変形し、ひいては凝集した状態の崩壊が生じる。換言すれば、樹脂組成物にかかる負荷が凝集体の限界応力を超えると、凝集体を構成する粒子同士のずれが非可逆的に生じ、このずれが更に大きくなると凝集体自体が崩壊し、凝集体として連結されていた粒子の一部が分離される。凝集体のこの限界応力を樹脂バインダのそれより小さくしておくことで、樹脂バインダの応力が緩和される。
樹脂組成物の摺動面に表出する凝集体の中には、与えられた負荷が当該凝集体の限界応力を超えたとき、その一部が崩壊して分離し、摺動面に微小な凹部を形成する。この凹部は潤滑油溜まりとなり、当該摺動面上の油膜維持に寄与する。
【0011】
保護強化一次粒子として、樹脂バインダの成形材料より硬い材料でバルーン状に形成された粒子を採用したときは、バルーンの粒径、形状、壁厚及び成形材料の少なくとも一つを制御することでバルーン粒子自体の脆さを制御できる。従って、かかるバルーン状の保護強化一次粒子自体が樹脂バインダより硬くかつ樹脂バインダより脆いという特性を備えることができる。よって、バルーン状の保護強化一次粒子を採用するときは、これを凝集体としても、また、凝集体としなくよい。
バルーン状の保護強化一次粒子の成形材料としてはシリカや酸化チタンなどの金属酸化物や樹脂バインダの成形材料より硬い樹脂材料を採用することができる。
【0012】
保護強化剤の配合量は、樹脂組成物全体に対して1vol. %以上20vol. %以下とする。保護強化剤の配合量が樹脂組成物全体に対して1vol. %以上とすることにより、摺動面に表出する凝集体の量が十分となり、その結果、十分な潤滑油溜まりを形成できる。粒子として樹脂バインダより硬いものを採用し、樹脂組成物の耐摩耗性向上を企図したときには、十分な耐摩耗性向上を得られる。他方、粒子の配合量を樹脂組成物全体に対して20vol.%以下とすることにより、樹脂バインダの粘度が製造に適したものとなる。
【0013】
凝集させる保護強化一次粒子は固体潤滑剤より小径とする。ここに、保護強化一次粒子と固体潤滑剤の径は測定視野における径をいい、実質的に全ての保護強化一次粒子の径が全ての固体潤滑剤の径より小さいものとする。保護強化一次粒子の径が固体潤滑剤より大径であると、その凝集体は更に大径となり、固体潤滑剤の機能を阻害するおそれがある。
【0014】
以上より、この発明の第5の局面は次のように規定される。即ち、
第1の局面の摺動用樹脂組成物において、前記保護強化剤は、前記樹脂バインダより硬くかつ前記固体潤滑剤より小径な粒子の凝集体からなり、前記摺動用樹脂組成物全体において1vol.%以上20vol. %以下を占める。
なお、かかる配合量(vol.%=体積%)は、原料時点での比較により特定できることはもとより、樹脂組成物のバルクをICPにより化学分析して特定可能である。
【0015】
この発明の第6の局面は次のように規定される。即ち、
第5の局面で規定の樹脂組成物において、前記粒子の平均粒径は10nm以上100nm以下とする。
このように規定される第6の局面の樹脂組成物によれば、平均粒径が10nm以上100nm以下である保護強化一次粒子を採用することにより、樹脂組成物内において単体の(即ち、一次の)粒子同士が凝集しやすくなる。
かかる一次粒子の粒径は、例えば、その摺動面に垂直な摺動用樹脂組成物の断面に現れる一次粒子を楕円に近似し、その楕円の長軸をもって粒径とすることができる。
ここに、保護強化剤の量を前述のようにしてかつその一次粒子の平均粒径を10nm以上とすると、樹脂組成物内に配合された保護強化一次粒子間の凝集が過剰に進行することを抑えることができる。平均粒子径が10nm未満となると保護強化一次粒子の凝集が過剰に進行し、樹脂組成物において保護強化剤の存在しない部分が大きくなり、保護強化剤による樹脂組成物改良が不十分になるおそれがある。
【0016】
また、保護強化剤の配合量を前述のようにしてかつその保護強化一次粒子の平均粒径を100nm以下とすると、保護強化一次粒子が分散し過ぎることなく適切な凝集体を確実に形成することができる。平均粒子径が100nmをこえると樹脂組成物中に保護強化一次粒子が単体で分散し過ぎてしまうおそれがあり、そうすると、保護強化一次粒子の凝集体の変形若しくは崩壊によって樹脂組成物の破壊を防止するという保護強化剤に求められる作用が十分に奏されないおそれがある。
保護強化一次粒子の凝集体の変形ないし崩壊を適切に起こさせることができると、樹脂バインダに応力が蓄積されことを効率的に抑えることができるので、樹脂バインダが一気に大きく破壊されてしまうことがない。その結果、樹脂組成物の耐焼付性は向上する。
別の観点から、凝集体を形成すべき保護強化一次粒子の平均粒径を15nm以上50nm以下とすることもできる。
【0017】
この発明の第7の局面は次のように規定される。
第6の局面に規定の摺動用樹脂組成物において、保護強化一次粒子の凝集体は、その均径をA及びその標準偏差をσとしたとき、A−1σが60nm以上、A+1σが400nm以下とする。
ここに、凝集体の形状は球とは限らないので、この明細書では、摺動用樹脂組成物をその摺動面に対して垂直方向に切断したとき得られる切断面の測定視野に現れる凝集体の径を採用する。更に詳しくは、観察された凝集体を楕円近似してその楕円の長軸を凝集体の径とする。摺動用樹脂組成物にはその摺動面に対して垂直方向により強い負荷がかかるので、摺動面に対して垂直方向の切断面を測定視野とした。また、該垂直方向の負荷を受ける凝集体の幅(=凝集体を摺動面に投影したときの長さ)がその限界応力に大きく関与するので、凝集体を規定する径にはその近似楕円の長軸を径とした。
【0018】
このように規定される第7の局面に規定の摺動用樹脂組成物によれば、凝集体の大きさが適当であるため、負荷に対して樹脂組成物より先に変形若しくは崩壊するというそれ自体の保護機能が確保され、かつ樹脂組成物中に均等に分散する分散性も確保される。
他方、上記A−1σの値が60nm以上であると、樹脂組成物中において粒子の凝集度合が十分となる。もって、粒子間のずれに起因する限界応力が、樹脂バインダのそれに比べて小さくなる。る。また、上記A+1σの値が400nm以下であると、粒子の凝集体の分散度合いが十分であり樹脂組成物において保護強化剤の偏在領域が無くなる。
【0019】
この発明の第8の局面は次のように規定される。即ち、
第3〜第7のいずれかに規定の摺動用樹脂組成物において、前記凝集体の長軸と摺動面とのなす角度が45度以下である。
ここに、凝集体の長軸とは、第7の局面で説明した凝集体の径と同様に規定される。即ち、摺動用樹脂組成物をその摺動面に対して垂直方向に切断したとき得られる切断面の測定視野に現れる凝集体の長軸を差し、例えば観察された凝集体を楕円近似してその楕円の長軸を凝集体の長軸とする。
なお、全ての凝集体の長軸の角度がそろっているわけではないので、切断面で観察された凝集体の長軸の角度の平均値が45度以下とする。
別の観点から、凝集体の長軸と摺動面とのなす角度は45度以下5度以上とする。当該なす角度が5度未満になると、凝集体のアスペクト比が比較的大きい場合、摺動面と平行な方向の負荷に対して凝集体の応力緩和機能が十分に働かないおそれがある。また、当該角度が5未満のような、いわゆるねた状態の凝集体は摺動用樹脂組成物の表面近くに集まっているおそれがあり、樹脂組成物の特性が不均一になるおそれがある。
【0020】
この凝集体の長軸と摺動面とのなす角度が45度以下であると、換言すれば、凝集体の長軸が摺動面と平行に近いほど、摺動面から垂直方向に加わる負荷を確実に受け止められ、また、その負荷は短軸方向へのせん断力として働くので、凝集体の変形若しくは崩壊がより確実に実行される。
また、凝集体の長軸が摺動面と平行に近いほど、摺動体は摺動面においてより広く表出する。これにより、表出した摺動体の一部が分離してそこに潤滑油溜まりとなる微小な凹部が形成されやすくなる。
他方、凝集体の長軸と摺動面となす角度が45度を超えると、凝集体において、摺動面から垂直方向に加わる負荷を受け止める部位が狭くなり、凝集体が変形し又は崩壊し難くなるおそれがある。また、同じく45度を超えると、摺動面における摺動体の表出面積が狭くなり、そこは潤滑油溜まりとなる凹部も形成され難くなるおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1はこの発明の実施例の摺動部材の構造を示す模式図である。
図2図2は樹脂コーティング層の構造を示す部分拡大図である。
図3図3図2における矢視線IIIで示される部分の拡大図である。
図4図4は樹脂組成物に保護強化粒子の凝集体が存在しないときの、樹脂バインダの剥離及び破壊の態様を説明する模式図である。
図5図5は保護強化粒子の凝集体にその限界応力がかけられたときに凝集体の一部が脱離する態様を説明する模式図である。
図6図6は保護強化粒子の凝集体の長軸と樹脂組成物の摺動面とのなす角を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には、この発明の実施形態の摺動部材1の層構成を示す。
この摺動部材1は基材層2へ摺動用樹脂組成物からなる樹脂コーティング層7を積層した構成である。
筒状又は半円筒状の軸受からなる摺動部材1では、その基材層2は筒状又は半円筒状に附形された鋼板層3を備え、必要に応じて鋼板層3の表面(内周面)にAl、Cu、Sn等の合金からなる合金層5が設けられる。基材層2は、図示しないが、合金層5の表面にSn基やBi基やPb基のめっき層を設けたものでも良いし、樹脂を有する層を設けたものでも良い。その樹脂を有する層は、樹脂コーティング層7とは異なる。
基材層2と樹脂コーティング層7との接着性を向上させるため、基材層2の内周面を粗面化することができる。粗面化の方法として、アルカリエッチングと酸洗との組み合わせのような化学的表面処理方法やショットブラスト等の機械的表面処理方法を採用できる。
鋼板層3の形成材料は鋼鉄に限定されず、アルミニウム、銅及びタングステンの合金等を採用できる。
【0023】
樹脂コーティング層7を構成する摺動用樹脂組成物は、樹脂バインダ10、固体潤滑剤11及び保護強化一次粒子13の凝集体20を含んでいる。
樹脂組成物において樹脂バインダ10は、樹脂コーティング層7を基材層2に結合するとともに、固体潤滑剤11を固定する。この樹脂バインダ10に採用する樹脂材料は、摺動部材1の用途等に応じて適宜選択可能であるが、車両エンジンに適用する場合は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、およびエラストマーの一種以上を採用でき、ポリマーアロイであっても良い。
樹脂コーティング層7の厚さも任意に設計できるが、例えば1μm以上20μm以下とすることができる。
樹脂コーティング層7の積層方法も任意に選択でき、例えば、パッド印刷法、スクリーン印刷法、エアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法、タンブリング法、スクイズ法、ロール法、ロールコート法等を採用できる。
【0024】
固体潤滑剤11の材質も摺動部材の用途に応じて適宜選択できる。例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、h−窒化ホウ素、ポリテトラフルオロエチレン、メラミンシアヌレート、フッ化カーボン、フタロシアニン、グラフェンナノプレートレット、フラーレン、超高分子量ポリエチレン(三井化学製、商標名「ミペロン」)、Nε−ラウロイル−L−リジン(味の素製、商標名「アミホープ」)等の1種以上を選択できる。
固体潤滑剤11の配合量も摺動部材の用途に応じて任意に選択できるが、例えば、樹脂コーティング層7を構成する樹脂組成物全体を100vol.%としたとき、この固体潤滑剤11を20vol.%以上70vol.%以下とすることができる。
樹脂コーティング層7のすべり特性を向上するため、この固体潤滑剤11はその(0,0,L)面の配向強度比を75%以上とすることが好ましい。
【0025】
保護強化一次粒子13は、図3に示されるように、樹脂コーティング層7を構成する摺動用樹脂組成物内に配置されかつ、保護強化一次粒子13どうしが凝集して保護強化剤としての凝集体20を形成している。
この保護強化一次粒子13として樹脂バインダ10の材料よりも硬く、固体潤滑剤11よりも小径な、好ましくはナノオーダの超微粒子を採用することにより、樹脂コーティング層7自体の耐摩耗性が向上する(特許文献2参照)。
かかる目的を直接的に達成するためには、保護強化一次粒子13は樹脂コーティング層内においてより均等に分散されることが好ましい。即ち、保護強化一次粒子13はできる限り相互に連結せずに、即ち一次粒子の状態で分散されることが好ましい。
【0026】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、強い負荷が樹脂コーティング層7へかかると、図4に示す通り、樹脂バインダ10がその限界を超えて変形し、これが一気に大きく破壊されるおそれがある。図4の(a)及び(b)は、樹脂バインダ10の破壊により樹脂コーティング層7が基材層2から剥離する状況を模式的に示している。
【0027】
一方、この発明では、図3に示すとおり、保護強化一次粒子13どうしを意図的に凝集させて凝集体20を構成する。凝集体20を構成する保護強化一次粒子13どうしの連結状態は、樹脂コーティング層7にかかる応力の観点からみたとき、固体潤滑剤の変形が開始する応力では何ら影響を受けず(即ち、凝集体20は変形しない)、他方、樹脂バインダ10がその限界応力を超えて変形を開始する前に、変形ないし崩壊する。
これにより、強い負荷が樹脂コーティング層7にかけられたとき、樹脂コーティング層7に生じた応力の一部は凝集体20の変形若しくは崩壊により緩和され、樹脂コーティング層7が一気に大きく破壊されることがくい止められる。
【0028】
このとき、図5に示すように、凝集体20が摺動面に表出していると、凝集体20を構成する一部の保護強化一次粒子13が脱離する。これにより、図5(b)に示すように、凝集体20に凹部(微小ポッド)30が形成される。この凹部30は摺動部材1の摺動面に供給される潤滑油を保持可能である。この点からも、凝集体20は、摺動部材1の摺動面の油膜維持に寄与する。
【0029】
保護強化一次粒子13を構成する材料は、樹脂コーティング層7自体の耐摩耗性を向上させる見地から、樹脂バインダ10より硬く、かつ固体潤滑剤より小径なものとする。より具体的には、摺動部材の用途に応じて任意に選択可能であるが、例えば、金、銀、酸化シリコン(シリカ)、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム等の微小粒子を挙げられる。
【0030】
保護強化一次粒子13の平均粒径は10nm以上100nm以下とすることができる。
保護強化一次粒子13の平均粒径は、勿論原料時のスペックから特定することも可能であるが、樹脂コーティング層7の中では次のようにして特定できる。即ち、例えば樹脂コーティング層をその摺動面に対して垂直にかつ軸に沿った方向に切断し、その切断面(以下、「軸方向切断面」ということがある)の任意の部分を所定の範囲で撮影する。得られた画像を画像解析ソフトにかけて、撮影された一次粒子を楕円(粒子相当楕円)に近似する。この解析ソフトでは対象オブジェクト(一次粒子)と等しい面積、一次モーメント及び二次モーメントを有する楕円を当該粒子相当楕円としている。
このような保護強化一次粒子は例えば、ボールミルやジェットミル等での粉砕法、還元剤を使用しまたは電気化学的に還元し凝集させて作製する凝集法(還元法)、加熱分解する熱分解法、プラズマガス中蒸発法などの物理的気相成長法、レーザで急速に蒸発させるレーザ蒸発法、気相中で化学反応を起こす化学気相成長法などで形成できる。保護強化一次粒子の作製にあたっての反応場は、気相でも液相でも良い。
【0031】
保護強化一次粒子13の配合量、即ち凝集体20の配合量は樹脂コーティング層7を構成する樹脂組成物全体を100vol.%としたとき、1vol.%以上20vol.%以下とすることができる。
これにより、樹脂組成物に充分な耐摩耗性が確保されるとともに、樹脂組成物の粘度が製造に好適なものに制御される。
【0032】
得られた凝集体のサイズはその平均径をA及びその標準偏差をσとしたとき、A−1σが60nm以上、A+1σが400nm以下とする。
凝集体の平均径は保護強化一次粒子と同様の手法で得ることができる。
凝集体のサイズの調整は、保護強化一次粒子の表面処理方法及びその程度、保護強化一次粒子を分散させる分散媒の種類及び粘度、分散媒中における一次粒子の濃度などを適宜調節し、更には、この分散系をホモジナイズすることにより行える。
【0033】
凝集体20の長軸と樹脂コーティング層7の表面(摺動面)とのなす角度を45度以下とする。ここに、凝集体20の長軸は保護強化一次粒子と同様の手法で得ることができる。
凝集体20と樹脂コーティング層7の表面とのなす角度の調整は樹脂コーティング層7の原料(流動性を高めるため溶媒が付加されている)の粘度と当該原料から樹脂コーティング層7を硬化するまでの時間を制御することにより行う。
流動性の高い樹脂組成物に含まれる凝集体は、当初のその長軸の方向は無秩序であるが、時間が経つにつれて重力の影響を受けてその長軸が摺動面に平行となるように回転する(以下、「レベリング」ということがある)。この回転は時間とともに進行し、かつ原料の粘度が小さいほどその進行が促進される。
図6に凝集体20の長軸と樹脂コーティング層7の摺動面7aとのなす角度の関係を模式的に示す。図6において、一点鎖線は、凝集体20の仮想楕円Dであり、その長軸を矢印でしめす。長軸と摺動面7aとのなす角βを45度以下とする。
【0034】
樹脂コーティング層7を構成する樹脂組成物には、その耐摩耗性を向上させる見地から、実質的に凝集体を形成しない硬質粒子を添加することができる。
かかる硬質粒子として、100nmよりも大きいものが好ましく、材質は、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化シリコン、及び酸化マグネシウムのような酸化物、窒化ケイ素、及び立方窒化ホウ素のような窒化物、及び炭化ケイ素のような炭化物、並びにダイヤモンド等が挙げられる。かかる硬質粒子の配合量は樹脂コーティング層7を構成する樹脂組成物全体を100vol.%としたとき、この硬質粒子を1vol.%以上5vol.%以下とすることができる。保護強化一次粒子の材質と異ならせると、樹脂コーティング層7の特性を制御し易い。保護強化一次粒子の材質と同じにすると、摺動部材を安価に製造することができる。
樹脂組成物全体の100vol.%としたとき、Sn、Bi、Pb、In等の金属粒子を1vol.%以上5vol.%以下配合することもできる。
【0035】
次に、この摺動部材1の製造方法について説明する。
本実施の形態では、樹脂バインダを溶剤に溶かした溶液、凝集体を当該溶剤に分散させた溶液を混合し、この混合液に固体潤滑剤、及びその他用途に応じて添加物を混合させて、塗液を作製する。必要に応じて溶剤の量を調整して塗液の粘度を好ましい範囲に調整する。その後、その塗液を基材層2へ塗布する。その後、凝集体の長軸と摺動面とのなす角度が45度以下に収まるように所定時間放置し(レベリング工程)、加熱して塗液から溶剤を除去する乾燥工程を経て、塗液を硬化させて摺動用樹脂組成物からなる樹脂コーティング層7を形成する。
【実施例】
【0036】
以下、この発明を半割筒状の形態の摺動部材に適したこの実施例について説明する。
半割筒状の鋼材からなる裏金層の表面にアルミニウム軸受合金層を圧接した。この合金層の内周面に軸受としての内面仕上げを実施した後、脱脂及び不純物除去を行った。
その後、ショットブラストによる粗面化処理を行った。
ここでは、この中間体の内周面に、予め作製した塗液をスプレー法にて約5μmの厚さに塗布し、所定時間のレベリング工程と、乾燥工程を経た後、200℃〜300℃で30分〜120分間の硬化工程を行って、表1に示す各実施例及び比較例の樹脂組成物からなる樹脂コーティング層7を備えた摺動部材(軸受)を作製した。
【0037】
このようにして得られた摺動部材(軸受)に対し、下記の条件で焼付試験を行った。
回転数:1500rpm
潤滑油:VG22
給油量:150ml/分
軸材質:S55C
面圧を段階的に上昇させて焼付面圧を特定した。
【0038】
結果を表1に示す。
【表1】
表1において、各要素の配合割合(vol.%)、保護強化一次粒子の径、凝集体のサイズ、凝集体のvol.%は、それぞれ樹脂コーティング層7の軸方向切断面を観察して得た。より具体的には、当該切断面における任意の部位(一定面積)を撮影し、得られた画像を画像解析ソフト((Image-pro plus ver.4.5))で解析して、それぞれの値を算出した。
【0039】
表1の結果から次のことがわかる。
実施例1〜15の樹脂コーティング層7には、樹脂バインダ10の中に保護強化一次粒子の凝集体20が分散され、その一部は樹脂コーティング層7の摺動面に表出していた。比較例1では、凝集体20が形成されていなかった。
グループIの実施例14及び実施例15では、「(1)保護強化一次粒子の配合量が、樹脂組成物全体に対して1vol.%以上20vol. %以下」なる要件を満足していないので、比較例1よりも焼付面圧が高いが、他のグループの実施例に比べて焼付面圧が比較的低い。
グループIIの実施例12及び実施例13では、『(1)保護強化一次粒子の配合量が、樹脂組成物全体に対して1vol.%以上20vol. %以下なる要件』を満足しているので、グループIの実施例に比べて焼付面圧が高い。
グループIIIの実施例6〜実施例11では、『(1)保護強化一次粒子の配合量が樹脂組成物全体に対して1vol.%以上20vol. %以下なる要件』、及び『(2)保護強化一次粒子の平均粒子径が10nm以上100nm以下なる要件』を満足しているので、グループIIの実施例12及び実施例13に比べて焼付面圧が高い。
グループIVの実施例5は上記(1)(2)の要件と共に『(3)凝集体サイズのA−1σが60nm以上でA+1σが400nm以下なる要件』を満足しているので、グループIII実施例6〜実施例11に比べて焼付面圧が高い。
グループVの実施例1〜実施例4は上記(1)〜(3)の要件と共に『(4)凝集体アスペクト比が10以下なる要件』を満足しているので、グループIV実施例5に比べて焼付面圧が高い。
【0040】
本発明者らの検討によれば、この樹脂組成物の有する下記の特性の一つ又は複数はその耐焼付性能に影響をあたえる。
(1)凝集体のアスペクト比
保護強化粒子として凝集体を用いた場合、凝集体のアスペクト比は10以下とする。ここに、凝集体のアスペクト比は次のように規定される。即ち、摺動用樹脂組成物をその摺動面に対して垂直方向に切断したとき得られる切断面の測定視野に現れる凝集体を楕円近似してその楕円の長軸と短軸との比をアスペクト比(長軸/短軸)とする。
この凝集体のアスペクト比が10以下であると、換言すれば、凝集体が球に近いほど樹脂組成物の摺動面に表出する凝集体の面積が安定する。一般的な凝集体は楕円体に近似される。従って、10以下のアスペクト比の凝集体であると、その長軸の方向に拘わらず、樹脂組成物の摺動面に現れる面積が安定する。
【0041】
(2)凝集体と固体潤滑剤との関係I
凝集体のうちの10%以上が固体潤滑剤に密着若しくは近傍に存在する。
ここに、固体潤滑剤に凝集体が密着していると、負荷を受けて最初に変形又は劈開若しくは崩壊する固体潤滑剤の影響がこれに密着した凝集体に伝搬する。
例えば、劈開する固体潤滑剤の端部へこれを覆うように凝集体が密着しているとき、固体潤滑剤の劈開がこの凝集体をせん断する力となり、この凝集体の変形を誘発する。即ち、樹脂バインダの応力を緩和する固体潤滑剤と凝集体とが連動し、負荷の増加にともない限界応力の小さな固体潤滑剤に最初に変形生じ、それに続いて比較的限界応力の大きい凝集体が変形する。このように、負荷の増加に対して応力緩和のギャップが生じることを防止できる。
また、固体潤滑剤の側部に凝集体が密着しているときも、負荷を受けて最初に固体潤滑剤が変形すると、その影響は固体潤滑剤を取り囲む樹脂バインダにおよびこれを微小に変形させる。即ち、樹脂バインダにおいて固体潤滑剤の近傍に局所的に大きな応力が発生する。このとき、固体潤滑剤に凝集体が密着していると、樹脂バインダに発生したこの局所的な応力を確実に緩和できる。
以上の説明から、固体潤滑剤の近傍に凝集体が存在し、樹脂組成物に発生した局所的な応力を緩和できればよいことがわかる。この場合、固体潤滑剤と凝集体との距離は、保護強化一次粒子の平均粒子径(10nm以上100nm以下)以下とする。固体潤滑剤に対して凝集体がこの距離内に存在すると、固体潤滑剤の変形により固体潤滑剤近傍の樹脂組成物に局所的に発生した応力を確実に緩和できる。
固体潤滑剤に密着し又はその近傍に存在する凝集体を10%以上とすると、10%以上の凝集体に対して固体潤滑剤の変形の影響が直接的に及ぶので、負荷の増大に対して連続的に即ち何らギャップなく、固体潤滑剤と凝集体とが連動して応力を緩和する。
ここに、凝集体の%は次のようにして求める。
摺動用樹脂組成物をその摺動面に対して垂直方向に切断したとき得られる切断面の所定の測定視野に現れる凝集体全カウント数に対する固体潤滑剤に密着する若しくは近傍に存在する凝集体のカウント数を対比する。
【0042】
(3)凝集体と固体潤滑剤との関係II
凝集体のうちの5.0%以上により、二以上の前記固体潤滑剤の端部が連結されている。
ここに、固体潤滑剤の先端に凝集体が密着していると、負荷を受けて最初に変形又は劈開若しくは崩壊する固体潤滑剤の影響がその先端に密着した凝集体に伝搬する。
例えば、劈開する固体潤滑剤の端部へこれを覆うように凝集体が密着しているとき、固体潤滑剤の劈開がこの凝集体をせん断する力となり、この凝集体の変形を誘発する。即ち、樹脂バインダの応力を緩和する固体潤滑剤と凝集体とが連動し、負荷の増加にともない限界応力の小さな固体潤滑剤に最初に変形生じ、それに続いて比較的限界応力の大きい凝集体が変形する。このように、負荷の増加に対して応力緩和のギャップが生じることを防止できる。
更に、1つの凝集体が二以上の固体潤滑剤の先端に密着し、これらを連結していると、各固体潤滑剤の変形が一つの凝集体に集中するので、固体潤滑剤の変形に伴う凝集体に付加される力が大きくなり、凝集体がより確実に変形ないし崩壊する。
更には、凝集体でつながれた固体潤滑剤の集合体は、既述のように凝集体が変形ないし崩壊しやすくなったので、当該集合体自体が一つの固体潤滑剤として作用する。換言すれば、当該集合体がより広い範囲の樹脂バインダをカバーしてその応力を緩和する。これにより、樹脂バインダの崩壊や脱離をより確実に防止できる。
固体潤滑剤の端部どうしを連結する凝集体は、凝集体全体の5.0%以上とする。5.0%以上の凝集体が二以上の固体潤滑剤の端部どうしを連結していると、凝集体に対して二以上の固体潤滑剤の変形の影響が直接的に及ぶので、凝集体はより確実に変形ないし崩壊して応力緩和機能を奏する。よって、負荷の増大に対して連続的に即ち何らギャップなく、固体潤滑剤と凝集体とが連動して応力を緩和する。
【0043】
(4)凝集体と固体潤滑剤との関係III
凝集体の平均径を固体潤滑剤の平均粒径の40%以下とする。
凝集体の平均径が固体潤滑剤の平均粒径の40%以下とすることにより、固体潤滑剤に比べて凝集体が十分に小さくなる。これにより、樹脂組成物中において凝集体の分散が促進され、凝集体による樹脂バインダの応力緩和硬化を樹脂組成物の全域において確保できる。
(5)凝集体を構成する粒子の関係
凝集体を構成する保護強化一次粒子の粒子経の累積高さ10%時の粒径D10、累積高さ90%時の粒径をD90とするとD90/D10の値が5以下とする。
ここに、粒子径の累積高さは粒子径の分布曲線の積算量をさし、D10は分布曲線において粒子径が下位側から積算して10%の粒子の粒子径を差し、D90は粒子径が下位側から90%の粒子の粒子径を指す。従って、D90/D10の値が小さいほど、粒子の分布はシャープになる。
このようにD90/D10の値を5以下とすることにより、粒子の粒度分布はシャープとなり、もって粒子径が均一になる。
【0044】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
実施の形態では、摺動部材として軸受を例にとり説明をしてきたが、その他の摺動部材にも適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 摺動部材、2 基材層、3 裏金層、5 合金層、7 樹脂コーティング層、10 樹脂バインダ、11 固体潤滑剤、13 保護強化一次粒子、20 凝集体、30 凹部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6