(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705791
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ポリフェーズフィルタの測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
G01R27/26 Z
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-221010(P2017-221010)
(22)【出願日】2017年11月16日
(65)【公開番号】特開2019-90752(P2019-90752A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2018年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】浅見 幸司
【審査官】
島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−177463(JP,A)
【文献】
特開2017−096951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェーズフィルタの測定装置であって、
前記ポリフェーズフィルタのI入力、Q入力の一方にcos信号またはsin信号を含む試験信号を供給し、他方の電位を固定する信号発生器と、
前記ポリフェーズフィルタのI出力、Q出力それぞれの波形をデジタル化する波形測定器と、
デジタル化された前記I出力、Q出力それぞれの波形を周波数情報に変換し、それらの比を演算する演算処理部と、
を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記ポリフェーズフィルタのI入力に前記試験信号を与えた測定と、Q入力に前記試験信号を与えた測定と、を時分割で行うことを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記試験信号はマルチトーン信号であることを特徴とする請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記マルチトーン信号の複数の周波数成分の位相は、前記試験信号のクレストファクターが小さくなるように調整されることを特徴とする請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記試験信号は、掃引正弦波信号であることを特徴とする請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項6】
前記試験信号は、キャリアを変調した被変調信号であることを特徴とする請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項7】
ポリフェーズフィルタの測定方法であって、
前記ポリフェーズフィルタのI入力、Q入力の一方にcos信号またはsin信号を含む試験信号を供給し、他方の電位を固定するステップと、
前記ポリフェーズフィルタのI出力、Q出力それぞれを取得するステップと、
前記I出力、Q出力を周波数領域に変換し、それらの比を演算するステップと、
を備えることを特徴とする測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェーズフィルタの評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信などの技術分野おいて、アナログ複素フィルタであるポリフェーズフィルタが用いられる。
図1(a)、(b)は、RCポリフェーズフィルタの等価回路図である。RCポリフェーズフィルタ100は、抵抗と容量を含む受動回路である。
図1のRCポリフェーズフィルタは1次であるが、2個、3個と直列に接続することにより2次、3次のフィルタを構成できる。
【0003】
ポリフェーズフィルタはいくつかの機能を有する。
図2は、RCポリフェーズフィルタ100の第1の機能を説明する図である。ポリフェーズフィルタのQ入力を無入力とし、I入力にcos信号を与えることで、Q出力から、sin信号を取り出すことができる。この機能を利用して、ポリフェーズフィルタをπ/2(90°)移相器として用いることができる。
【0004】
図3は、RCポリフェーズフィルタ100の第2の機能を説明する図である。ポリフェーズのI入力、Q入力に、イメージ成分Bを含むcos信号、sin信号を入力すると、I出力、Q出力から、イメージ成分を除去したcos信号、sin信号を取り出すことができる。
【0005】
図4(a)、(b)は、1次ポリフェーズフィルタの周波数特性を示す図である。
図4(a)は振幅特性を、
図4(b)は位相特性を示す。ポリフェーズフィルタは、|H
im(ω)|=|H
re(ω)|が成り立つ周波数(相対角周波数1,−1)おいて、ヒルベルト変換を行うヒルベルトフィルタとして振る舞う。
図4(b)に示すように、位相特性は全地域にわたり∠H
im(ω)−∠H
re(ω)=π/2が成り立つ。
【0006】
図5(a)、(b)は、3次ポリフェーズフィルタの周波数特性を示す図である。
図5(a)は振幅特性を、
図5(b)は位相特性を示す。
図5(a)に示すように、3次のポリフェーズフィルタでは、|H
im(ω)|=|H
re(ω)|が成り立つ周波数帯域が拡大される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017−096951号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kenneth W. Martin, "Complex Signal Processing in Not Complex", IEEE TRANSACTION ON CIRCUITS AND SYSTEMS - I: REGULAR PAPERS、VOL. 51, NO.9, September 2004、pp. 1823-1836
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ポリフェーズフィルタの特性の指標として、IQインバランスがあり、これを正確に評価することが求められる。
【0010】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、ポリフェーズフィルタのインバランスを簡易かつ正確に測定可能な装置および方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様はポリフェーズフィルタの測定装置に関する。測定装置は、ポリフェーズフィルタのI入力、Q入力の一方にcos信号またはsin信号を含む試験信号を供給し、他方の電位を固定する信号発生器と、ポリフェーズフィルタのI出力、Q出力それぞれの波形をデジタル化する波形測定器と、デジタル化されたI出力、Q出力それぞれの波形を周波数情報に変換し、それらの比を演算する演算処理部と、を備える。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のある態様によれば、ポリフェーズフィルタのIQインバランスを評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)、(b)は、RCポリフェーズフィルタの等価回路図である。
【
図2】RCポリフェーズフィルタの第1の機能を説明する図である。
【
図3】RCポリフェーズフィルタの第2の機能を説明する図である。
【
図4】
図4(a)、(b)は、1次ポリフェーズフィルタの周波数特性を示す図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、3次ポリフェーズフィルタの周波数特性を示す図である。
【
図6】実施の形態に係る試験装置のブロック図である。
【
図7】
図6の試験装置によるIQインバランスの測定原理を説明する図である。
【
図8】
図6の試験装置によるIQインバランスの測定原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態の概要)
本明細書には、本発明の一実施の形態として、ポリフェーズフィルタの測定装置が開示される。測定装置は、ポリフェーズフィルタのI入力、Q入力の一方にcos信号またはsin信号を含む試験信号を供給し、他方の電位を固定する信号発生器と、ポリフェーズフィルタのI出力、Q出力それぞれの波形をデジタル化する波形測定器と、デジタル化されたI出力、Q出力それぞれの波形を周波数情報に変換し、それらの比を演算する演算処理部と、を備える。
【0016】
この態様によると、I出力とQ出力の周波数情報の比をとることにより、遅延の項を除去して、IQインバランスを簡単に評価できる。
【0017】
ポリフェーズフィルタのI入力に試験信号を与えた測定と、Q入力に試験信号を与えた測定と、を時分割で行ってもよい。これにより、I,Q2つの入力を評価できる。
【0018】
試験信号はマルチトーン信号であってもよい。
【0019】
マルチトーン信号の複数の周波数成分の位相は、試験信号のクレストファクターが小さくなるように調整されてもよい。これにより波形測定器に入力される信号のクレストファクターが小さくなるため、高精度な測定が可能となる。
【0020】
試験信号は、掃引正弦波(Swept Sine)信号であってもよい。
【0021】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0022】
図6は、実施の形態に係る試験装置200のブロック図である。試験装置200は、信号発生器210、波形測定器220、演算処理部230を備える。
【0023】
試験装置200には、被試験デバイス(DUT)であるポリフェーズフィルタ100が接続される。ポリフェーズフィルタ100の次数は限定されず、またパッシブ回路であると、アクティブ回路であるとを問わない。
【0024】
信号発生器210は、ポリフェーズフィルタ100のI入力、Q入力の一方にcos信号またはsin信号を含む試験信号S
TESTを供給し、他方の電位を固定(たとえば接地)する。信号発生器210はたとえば任意波形発生器(AWG:Arbitrary Waveform Generator)212と、スイッチ214を備える。上述のようにポリフェーズフィルタ100は差動入力を有しており、したがって波形発生器210も差動で構成される。スイッチ214は、ポリフェーズフィルタ100のI入力、Q入力の選択された一方に試験信号S
TESTを供給し、他方を接地可能に構成される。
【0025】
たとえば試験信号S
TESTは複数の周波数成分を含むマルチトーン信号を用いることができる。マルチトーン信号の複数の周波数成分(トーン)の位相は、試験信号S
TESTのクレストファクター(信号のピーク値と最小値の比)が小さくなるように決定するとよい。これにより、I出力、Q出力それぞれの時間波形のクレストファクターが小さくなるため、波形測定器220におけるS/N比、測定精度を高めることができる。
【0026】
波形測定器220は、デジタイザ(A/Dコンバータ)222,224を含み、ポリフェーズフィルタ100のI出力、Q出力それぞれの波形をデジタル化する。
【0027】
演算処理部230は、デジタル化されたI出力、Q出力それぞれの波形を周波数情報に変換し、それらの比を演算する。時間波形から周波数情報への変換には、FFT(Fast Fourier Transform)を用いることができる。
【0028】
以上が試験装置200の構成である。続いて測定原理を説明する。
【0029】
図7は、
図6の試験装置200によるIQインバランスの測定原理を説明する図である。試験信号S
TESTとして、cos(ω
0t)がI入力に供給されており、Q入力は接地される。なおここでのω
0は単一周波数を意味するものではない。I出力の時間波形をIoutと表記、その周波数ドメインの情報(スペクトル)をReOut(ω)と表記する。またQ出力の時間波形をQoutと表記し、その周波数ドメインの情報(スペクトル)を、ImOut(ω)と表記する。
【0030】
出力波形のスペクトルReOut(ω)、ImOut(ω)は、式(1)、(2)で表される。それらの比であるIQインバランスは、式(3)で表される。
【数1】
【0031】
なお、e
jπ/2=jsin(π/2)=jの関係を用いている。
【0032】
図8は、
図6の試験装置200によるIQインバランスの測定原理を説明する図である。試験信号S
TESTとして、jcos(ω
0t)がQ入力に供給されており、I入力は接地される。チルダ?は、Q入力に対する伝達関数を表す。
【0033】
出力波形のスペクトルReOut(ω)、ImOut(ω)は、式(4)、(5)で表される。それらの比であるIQインバランスは、式(6)で表される。
【数2】
【0034】
以上が試験装置200の測定原理である。
式(1)、(2)には、位相遅延に相当する位相項θ(ω
0)が含まれるが、式(3)で計算されるIQインバランスには、位相項θ(ω
0)が含まれない。同様に、式(4)、(5)には、位相遅延に相当する位相項θ(ω
0)が含まれるが、式(6)で計算されるIQインバランスには、位相項θ(ω
0)が含まれない。
【0035】
このように実施の形態に係る試験装置200によれば、I入力に試験信号を与えて式(3)のIQインバランスを計算し、Q入力に試験信号を与えて式(6)のIQインバランスを計算することで、ポリフェーズフィルタ100の特性を簡易に評価できる。
【0036】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【0037】
(変形例1)
試験信号S
TESTは、マルチトーン信号には限定されず、掃引正弦波(Swept Sine)信号や、IQ変調信号、疑似ランダム信号を用いることができる。IQ変調信号は、キャリアをI,Qベースバンド信号に応じて変調した被変調信号と把握できる。
【0038】
(変形例2)
図9は、変形例に係る試験装置200Aのブロック図である。
図6の信号発生器210は、1個の任意波形発生器212とスイッチ214の組み合わせであったが、
図9の信号発生器210Aは、2個の任意波形発生器212,216を備え、
図6のスイッチ214が省略される。任意波形発生器212、216は相補的にアクティブとなる。任意波形発生器212、216の一方がアクティブとなり、試験信号S
TESTを生成する間、他方の出力は固定(たとえば接地)される。
【符号の説明】
【0039】
100 ポリフェーズフィルタ
200 試験装置
210 信号発生器
212 任意波形発生器
214 スイッチ
216 任意波形発生器
220 波形測定器
230 演算処理部