特許第6705805号(P6705805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6705805-防虫シート 図000005
  • 特許6705805-防虫シート 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705805
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】防虫シート
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/12 20110101AFI20200525BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20200525BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20200525BHJP
   A01N 31/14 20060101ALI20200525BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A01M29/12
   A01N25/18 102B
   A01P7/04
   A01N31/14
   B32B27/18 F
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-505369(P2017-505369)
(86)(22)【出願日】2016年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2016057318
(87)【国際公開番号】WO2016143810
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2018年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-46524(P2015-46524)
(32)【優先日】2015年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 陽介
(72)【発明者】
【氏名】本島 信一
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−515766(JP,A)
【文献】 特表2011−529926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 − 99/00
A01N 25/18
A01N 31/14
A01P 7/04
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防虫剤を放出可能である防虫シートであって、
前記防虫剤を含有し、熱可塑性樹脂からなる防虫層と、
前記防虫層の外面と接触して前記防虫層を挟む、熱可塑性樹脂からなる2つの保護層と、を有し、
前記保護層を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度が、前記防虫層を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度以下であり、
前記保護層を構成する熱可塑性樹脂が、前記防虫層を構成する熱可塑性樹脂と同一種類の熱可塑性樹脂であることを特徴とする防虫シート。
【請求項2】
前記防虫剤の主成分がピレスロイド系防虫剤であることを特徴とする請求項1に記載の防虫シート。
【請求項3】
前記ピレスロイド系防虫剤がペルメトリンまたはエトフェンプロックスの少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項2に記載の防虫シート。
【請求項4】
前記各保護層の厚さが1μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の防虫シート。
【請求項5】
前記防虫シートに対する前記防虫剤の含有量が0.1質量%以上、5質量%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の防虫シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫等に対する忌避効果(防虫効果)を有する防虫シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場等の照明として蛍光灯が普及したため、虫類の建物内への侵入による品質トラブルの発生や作業への支障が無視できない問題となってきた。
【0003】
そこで、虫の侵入を抑制するため、虫等に対する忌避性を有する防虫シートが望まれている。
【0004】
これらを解決する方法として、合成樹脂に殺虫性化合物を混練したフィルム(特許文献1)や、シート状基材層の一方の面に害虫忌避層を設けた積層体(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭59−193283号公報
【特許文献2】特開2005−002002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、殺虫性化合物(防虫剤)が練りこまれただけの単層フィルム(特許文献1)や、害虫忌避層(防虫剤)が外気に曝される面に設けられた積層フィルム(特許文献2)では、単位時間あたりの防虫剤の揮発量が多くなるため、防虫効果は高くなるが、人等に対する安全性は低く、また虫に対する忌避効果が長期間持続しない。
【0007】
また、防虫剤の揮発量が多くなると、フィルムの外表面に存在する防虫剤の量が多くなるため、塵埃が防虫剤に付着し易くなり、虫に対する忌避効果が低下しやすい。一方で、塵埃を除去するために水洗いすると防虫剤が流出し、この場合も虫に対する忌避効果が持続しないという問題がある。
【0008】
さらに、防虫剤がフィルムの外表面に存在するとタック性が出て、当該フィルムを加工すると加工性に劣るという問題がある。そのため、これらの点を考慮すると、従来提案されているフィルムは実用性が十分であるものではなかった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、実用性により優れた防虫シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 防虫剤を放出可能である防虫シートであって、
前記防虫剤を含有し、熱可塑性樹脂からなる防虫層と、
前記防虫層の外面と接触して前記防虫層を挟む、熱可塑性樹脂からなる2つの保護層と、を有し、
前記保護層を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度が、前記防虫層を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度以下であることを特徴とする防虫シート。
[2] 前記防虫剤の主成分がピレスロイド系防虫剤であることを特徴とする[1]に記載の防虫シート。
[3] 前記ピレスロイド系防虫剤がペルメトリンまたはエトフェンプロックスの少なくとも1種類以上であることを特徴とする[2]に記載の防虫シート。
[4] 前記各保護層の厚さが1μm以上、100μm以下であることを特徴とする[1]から[3]のいずれか一つに記載の防虫シート。
[5] 前記防虫シートに対する前記防虫剤の含有量が0.1質量%以上、5質量%以下であることを特徴とする[1]から[4]のいずれか一つに記載の防虫シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、人などによる防虫剤の摂取量を抑制しながら防虫効果を発揮させるとともに、防虫効果を持続させやすい防虫シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】防虫シートの構造を示す概略図である。
図2】防虫層において、防虫剤が偏在した防虫シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態の1つについて、図1を用いて詳細に説明する。
【0014】
本実施形態は、防虫剤を放出可能である防虫シート1に関し、図1に示すように、防虫シート1は、防虫層2および2つの保護層3を有する。防虫層2は、熱可塑性樹脂からなる母材と、防虫剤4とを有する。防虫剤4は、防虫層2の母材内部に分散された状態において、防虫層2の母材によって保持されている。2つの保護層3は、熱可塑性樹脂からなり、防虫層2の外面と接触して防虫層2を挟んでいる。防虫剤4は、防虫層2から保護層3に移動した後、保護層3の外面(防虫シート1の外表面)から防虫シート1の外部に放出される。ここで、防虫シート1の保護層3を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度は、防虫シート1の防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度以下である。
【0015】
本実施形態の防虫シート1において、防虫層2の母材および保護層3を構成する熱可塑性樹脂は、防虫層2および保護層3の形状を維持でき、防虫剤4を防虫シート1の外部に放出させることができればよく、特に限定されず適宜選択できる。また、防虫層2の母材と保護層3を構成する熱可塑性樹脂は、同一でも異なっていてもよい。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン四フッ化エチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ケブラー(登録商標)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、レーヨン、キュプラ、テンセル(登録商標)、ポリノジック、アセテート、トリアセテートがある。これらの熱可塑性樹脂のうち、防虫層2の母材および保護層3を構成する熱可塑性樹脂としては、防虫層2や保護層3の強度を確保する面から、結晶性の熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。この中でも、防虫シート1を成形しやすい熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどがより好ましい。さらに、防虫シート1に透明性が要求される場合、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの透明性に優れた結晶性の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
本実施形態では、保護層3を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度を、防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度以下にしている。熱可塑性樹脂の結晶化度は、熱可塑性樹脂の材料や、防虫シート1を成形する際に用いられるキャストロールの温度を所定の温度に調整することで、調整することが可能である。結晶化度、熱可塑性樹脂の材料及びキャストロールの温度の関係を予め求めておけば、保護層3を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度を、防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度以下にすることができる。
【0017】
保護層3を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度が、防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度以下であると、主に保護層3の非晶部において、防虫剤4を移動させやすくし、防虫シート1の外部に防虫剤4を放出させることができる。これにより、防虫効果を発揮させることができる。ここで、保護層3を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度が、防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度より大きい場合、防虫剤4が、保護層3を移動しにくくなり、防虫シート1の外部に放出されにくくなるため、防虫効果が低下しやすくなる。
【0018】
防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度は、40%以上、100%以下が好ましい。保護層3を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度は、防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度以下にすればよく、具体的には、40%以上、100%以下の範囲内において、防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度(40%以上、100%以下)以下とすることが好ましい。なお、防虫層2及び保護層3の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度は、例えば、粉末X線回折法により測定することができる。また、防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度は、防虫層2を形成する条件と同様の条件で形成した単層の防虫層2(シート)の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度と同一とみなすことができる。
【0019】
防虫層2に保持される防虫剤4は、防虫シート1を溶融混練して成形する際に防虫層2に防虫剤4が残ればよく、特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、マイクロカプセル化した防虫剤4を用いたり、多孔質物質に防虫剤4を担持したりすることができる。
【0020】
本実施形態においては、マイクロカプセル化した防虫剤4を用いることが好ましい。マイクロカプセル化した防虫剤4とは、防虫剤4が液状化合物としてマイクロカプセル内に充填されたものである。結晶性の熱可塑性樹脂を用いて、防虫シート1を溶融混練して成形する場合には、防虫剤4が熱可塑性樹脂の非晶部に移行し、非晶部に留まれない防虫剤4が防虫シート1の外表面にブリードアウトして、防虫シート1の外部に蒸発してしまう。このため、タック性(粘着性)が発生して成形し難くなったり、溶融混練のときに必要量以上の防虫剤4が必要となったりする。マイクロカプセル化した防虫剤4を用いれば、溶融混練のときに、液状化合物としての防虫剤4をマイクロカプセル内に留めて、防虫剤4が熱可塑性樹脂の非晶部に移行することを抑制できるため、防虫剤4が防虫シート1の外表面にブリードアウトしにくくできる。これにより、タック性を発生し難くできるとともに、必要量以上の防虫剤4が用いられることを抑制できる。
【0021】
本実施形態の防虫剤4は、液状化合物として防虫シート1に含まれることが好ましい。液状化合物の防虫剤4を用いることで、防虫剤4を安定した状態で防虫層2に高濃度添加することが可能となるとともに、防虫シート1の内部における防虫剤4の拡散速度を調整しやすくなる。また、防虫剤4の主成分としては、特に限定されないが、常温において液体の形態のものが好ましい。具体的には、ピレトリン、シネリン、ジャスモリン、アレスリン、レスメトリン、フェンバレラート、ペルメトリンなどのピレスロイド系防虫剤、トキサフェン、ベンゾエピンなどの環状ジエン系防虫剤、マラチオン、フェニトロチオンなどの有機リン系防虫剤、カルバリル、メソミル、プロメカルブなどのカルバメート系防虫剤などを挙げることができる。これらの防虫剤は、1種類、あるいは、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。これらの防虫剤の中でも、優れた忌避性と速効性を有し、しかも急性毒性を示しにくいピレスロイド系防虫剤を好適に用いることができる。また、ピレスロイド系の中でも、低濃度で防虫効果を発揮しやすいとともに、人や動物に対する安全性を確保しやすいペルメトリンやエトフェンプロックスが好適である。
【0022】
本実施形態では、防虫層2および保護層3を有する防虫シート1において、防虫層2に含有された防虫剤4が保護層3を通過して防虫シート1の外部に放出されるため、保護層3において、防虫剤4の放出を調整可能である。これにより、保護層3に防虫剤4を含有させた構成と比較して、防虫剤4が防虫シート1の外部に拡散することを抑制しやすくなるため、人や動物に対して安全性を確保できるとともに、防虫効果の持続時間を延ばすことが可能となる。
【0023】
防虫剤4を含む防虫層2が外表面に配置された防虫シート、あるいは防虫剤4を含む単層の防虫シートでは、防虫シートの外表面にタック性が発生して、防虫シートを例えば、溶着加工する際などの加工性が悪く(加工し難く)なる。一方、本実施形態に係る防虫シート1では、防虫層2に防虫剤4を含有させて、防虫剤4が保護層3を通過するため、防虫シート1の外表面における防虫剤4のブリードアウトを抑制でき、タック性を発生させにくくできる。そのため、防虫シート1を加工し易い。
【0024】
また、防虫シートの外表面にタック性が発生しやすいと、防虫シートの外表面に塵埃等が付着し易くなる。防虫シートの外表面に付着した塵埃等は、防虫シートからの防虫剤の放出を阻害し、防虫効果を低減させるため、好ましくない。また、防虫シートに付着した塵埃等を除去するために防虫シートを洗浄(例えば、水洗)すると、塵埃等とともに防虫剤が除去され、防虫シートからの防虫剤の放出が促進されてしまい、防虫効果の持続時間が短縮されてしまう。
【0025】
一方、本実施形態では、上述したように、防虫シート1の外表面における防虫剤4のブリードアウトを抑制できるため、防虫シート1の外表面に塵埃等が付着することを抑制しやすくなるとともに、塵埃等によって防虫剤4の放出が阻害されることを抑制できる。また、防虫シート1を洗浄する回数も抑えられるため、洗浄と共に防虫剤4が除去されることを抑制でき、防虫効果の持続時間を延ばすことができる。
【0026】
防虫剤4としてペルメトリンが用いられる本実施形態の防虫シート1によれば、アセトン洗浄法を用いて、防虫シート1の外表面に露出する防虫剤4(ペルメトリン)の量を測定したとき、防虫剤4(ペルメトリン)の量を防虫シート1g当たり0.4μg以上、10μg以下とすることができる。アセトン洗浄法とは、アセトン等の有機溶媒で湿らせた脱脂綿で防虫シート1の外表面を洗浄処理し、洗浄処理した脱脂綿からアセトン等の有機溶媒を抽出して、有機溶媒中の防虫剤4の量を測定するものである。上述した防虫剤4の量は、アセトン洗浄法の測定結果から、防虫シート1g当たりの防虫剤4の量を算出した値である。
【0027】
防虫剤4(ペルメトリン)の量が防虫シート1g当たり0.4μg未満の場合は、防虫効果を発揮させにくくなる。一方、防虫剤4(ペルメトリン)の量が防虫シート1g当たり10μgを超えると、人や動物が防虫シート1に触れて、防虫シート1から放出された防虫剤4を摂取したときの摂取量が、健康に害を与えない許容量を超えてしまうことがある。WHOとFAO(国連食糧農業機関)では、多くの動物実験などのデータをもとに、ペルメトリンが人体に与える悪影響を調査しており、この調査結果によると、人間が一生摂取し続けても影響のない量、すなわち、許容摂取量(ADI:Acceptable Daily Intake)として、「0.05mg/day/kg」を設定している。この値は、例えば15kg(3歳児くらいの体重)の1日当たりに換算すると0.75mgとなり、ペルメトリンに関しては、これだけの量を摂取し続けても、健康に害はないとされている。本実施形態によれば、75gの防虫シート1を使用したときに、防虫剤4の量(最大値)が0.75mgとなる。防虫シート1の厚さにもよるが、人等が、1日のうちで75gに相当する防虫シート1の面積に触れることは稀であり、防虫シート1から製造された製品を使用しても、人などの健康に害を与えることを防止できる。
【0028】
また、防虫剤4の量が増えると、防虫シート1の外表面にタック性が発生することにより、加工性に劣ったり、塵埃が防虫シート1に付着しやすくなって防虫効果が低下したりする。
【0029】
本実施形態では、防虫シート1の断面形状は、防虫層2の外面を保護層3が覆う形状であれば特に限定されるものではない。本実施形態の防虫シート1では、図1に示すように、防虫層2の外縁が露出しているが、防虫層2の外縁を保護層3によって覆うこともできる。防虫層2の厚さは、防虫層2の全体において、均一であることが好ましい。また、保護層3の厚さは、保護層3の全体において、均一であることが好ましい。保護層3の厚さは1μm以上、100μm以下であることが好ましい。保護層3の厚さが100μmを超えると、保護層3の厚さが100μm以下である場合と比較して、防虫剤4が保護層3を通過し難くなり、防虫シート1の防虫効果を発揮させにくくなる。一方、保護層3の厚さが1μm未満である場合、保護層3の厚さが1μm以上である場合と比較して、防虫剤4が保護層3を通過しやすくなり、防虫効果が持続しにくくなる。なお、防虫シート1の厚さ、防虫層2の厚さ及び保護層3の厚さは、例えば、マイクロスープ(顕微鏡)を用いて測定することができる。
【0030】
本実施形態に係る防虫シート1の製造方法は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、防虫シート1の合理的かつ安価な製造方法として、防虫シート1の防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂中に防虫剤4を充填しておき、防虫層2および保護層3をそれぞれ溶融押出機を用いて混練して、多層ダイを用いて成形する方法がある。具体的には、液状の防虫剤4を含有した熱可塑性樹脂などのペレットでマスターバッチペレットを予め製造し、マスターバッチペレットと同じ熱可塑性樹脂のペレットをマスターバッチペレットと共に一定の割合で混合して防虫層用の押出機にて溶融する。同時に熱可塑性樹脂のペレットを保護層用の押出機にて溶融する。防虫層用の押出機にて溶融された溶融物と保護層用の押出機にて溶融された溶融物を多層のTダイに通して製膜する。そして、得られた膜をキャストロールで送り出すことで、本実施形態の防虫シート1を製造することができる。なお、防虫シート1成形の際に用いられるキャストロールの温度を所定の温度に調整することで、保護層3を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度を、防虫層2の母材を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度以下にすることができる。
【0031】
ここで、防虫層2に保護層3を積層して積層体を製造した後、この積層体を加熱延伸することができる。
【0032】
熱可塑性樹脂に液状の防虫剤4を充填して防虫層2を形成する場合、防虫剤4を防虫層2にバラつきなく分散させることができるが、他の防虫層2の形態として、防虫層2の内部に防虫剤4が偏在するようにしてもよい。例えば、図2に示すように、防虫層2の断面の上半分においてのみ防虫剤4を充填させることができる。例えば、この防虫層2を備えた防虫シート1を農業用として使用する際、防虫シート1の片側の面に防虫剤4を偏在させることができる。防虫シート1を用いて作物を覆うとき、防虫剤4が偏在していない側の防虫シート1の外表面を作物の側に配置し、防虫剤4が偏在している側の防虫シート1の外表面を作物の側とは反対側に配置することができる。これにより、作物の側とは反対側に防虫剤4を放出させて、防虫シート1に虫が近づくことを抑制できる。また、作物には防虫剤4が放出されにくくなるため、作物に防虫剤4が付着することを抑制できる。
【0033】
本実施形態において、防虫シート1における防虫剤4の含有量は、防虫シート1に対し0.1質量%以上、10質量%以下であることが好ましい。防虫剤4の含有量が0.1質量%より低いと、防虫剤4の含有量が0.1質量%以上である場合と比較して、防虫効果が低くなり、防虫効果の持続時間も短縮する。防虫剤4の含有量が10質量%を超えると、防虫剤4の含有量が10質量%以下である場合と比較して、防虫シート1の骨格となる防虫層2および保護層3の母材の質量%が低下し、防虫シート1の強度が低下する。さらに、タック性が生じ加工性が悪く、シート作成が困難になる。また、保護層3の厚さにもよるが、防虫剤4の含有量が多くなるほど、防虫シート1の外表面における防虫剤4の露出量が多くなり、人や動物による防虫剤4の摂取量が増えてしまう。防虫シート1における防虫剤4の含有量は、より好ましくは、0.1質量%以上、5質量%以下である。防虫剤の含有量が0.1質量%以上、5質量%以下である場合、タック性が生じ難くなり、防虫シート1の加工不良が生じ難くなる。
【0034】
また、本実施形態の防虫シート1は、任意の機能を付与するための成分を機能性材料として含んでもよい。当該機能性材料としては、艶消剤としての二酸化チタン、滑剤としてのステアリン酸カルシウムや、シリカやアルミナなどの微粒子、抗酸化剤としてヒンダートフェノール誘導体、さらには顔料などの着色剤、安定剤、分散剤等の添加材料の他、紫外線遮蔽剤、近赤外線遮蔽剤、抗菌剤、防黴剤、帯電防止剤、難燃剤、耐候剤および各種触媒などの機能性材料がある。なお、この機能性材料は、防虫剤4とともに防虫層2の中に分散して存在したり、保護層3の中に分散して存在したり、防虫シート1の外表面に付着したりしていればよい。
【0035】
また、本実施形態の防虫シート1は、任意の機能を付与するための成分を機能性材料として防虫層2や保護層3とは別の層にして4層以上にしてもよい。別の層としては、艶消剤層、滑剤層、抗酸化剤層、着色層、紫外線遮蔽剤層、近赤外線遮蔽剤層、抗菌剤層、防黴剤層、帯電防止剤層、難燃剤層、耐候剤層、防虫シート1を貼付け対象に貼付けるための粘着層、シートの強度を向上させるための補強層を挙げることができる。
【0036】
また、本実施形態に係る防虫シート1の外表面に無機微粒子を化学結合させ、微細な凹凸を形成してもよい。微細な凹凸を形成することにより、空気中に浮遊している塵埃などが防虫シート1の外表面にさらに付着しにくくなる。また、塵埃などが防虫シート1の外表面に付着した場合でも、防虫シート1の外表面に露出した防虫剤4を除去することなく、水などで塵埃だけを簡単に除去できる。このため、防塵性に優れた防虫シート1とすることができる。
【0037】
以上のようにして得られた本実施形態に係る防虫シート1は、防虫効果を発揮させることができる必要最低限の防虫剤4を放出させることができるとともに、防虫効果の持続時間を確保しやすくなる。本実施形態の防虫シート1は、食品工場向けのシャッターシート、ビニルハウス、クリーンルーム、既存の建物の壁、窓ガラスなど、様々な用途に用いることが可能である。
【実施例】
【0038】
次に実施例を示して、本実施形態の防虫シートについてより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
ペルメトリン(防虫剤)と高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるマスターバッチペレットを用意した。高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットを用意した。溶融したマスターパッチペレットと高結晶性ホモポリプロピレン樹脂とを混合し、ペルメトリンを所定の含有量で含有する混合物を得た。ペレットを溶融し、溶融物を得た。これら溶融物及び混合物を共押出Tダイ成型装置から押し出すことにより、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例1の防虫シートとした。
【0040】
(実施例2)
実施例1で用いたマスターバッチペレットに代えて、エトフェンプロックス(防虫剤)と高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるマスターバッチペレットを用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、エトフェンプロックスを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するエトフェンプロックスの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例2の防虫シートとした。
【0041】
(実施例3)
実施例1で用いた高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットに代えて、低結晶性ランダムポリプロピレン樹脂からなるペレットを用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、低結晶性ランダムポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例3の防虫シートとした。
【0042】
(実施例4)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。実施例1における防虫層の厚みを190μmとし、2つの保護層の厚みを共に5μmとした。これら以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例4の防虫シートとした。
【0043】
(実施例5)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。実施例1における防虫層の厚みを60μmとし、2つの保護層の厚みを共に70μmとした。これら以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例5の防虫シートとした。
【0044】
(実施例6)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。実施例1における防虫層の厚みを40μmとし、2つの保護層の厚みを共に80μmとした。これら以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例6の防虫シートとした。
【0045】
(実施例7)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、3質量%であった。この防虫シートを、実施例7の防虫シートとした。
【0046】
(実施例8)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、0.1%ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、0.1質量%であった。この防虫シートを、実施例8の防虫シートとした。
【0047】
(実施例9)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、5質量%であった。この防虫シートを、実施例9の防虫シートとした。
【0048】
(実施例10)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、0.01質量%であった。この防虫シートを、実施例10の防虫シートとした。
【0049】
(比較例1)
実施例1で用いたマスターバッチペレットと高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットを溶融して混合し、ペルメトリンを所定の含有量で含有する混合物を得た。この混合物を共押出Tダイ成型装置から押し出し、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる単層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートの厚みは、200μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、比較例1の防虫シートとした。
【0050】
(比較例2)
実施例2で用いたマスターバッチペレットと高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットを溶融して混合し、エトフェンプロックスを所定の含有量で含有する混合物を得た。この混合物を共押出Tダイ成型装置から押し出し、エトフェンプロックスを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる単層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートの厚みは、200μmであった。また、得られた防虫シートに対するエトフェンプロックスの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、比較例2の防虫シートとした。
【0051】
(比較例3)
高結晶性ホモポリプロピレン樹脂を溶融し、溶融物を得た。溶融物を共押出Tダイ成型装置から押し出し、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる単層構造のフィルムを得た。得られたフィルムの厚みは、200μmであった。このフィルムを、比較例3の防虫シートとした。
【0052】
(比較例4)
ペルメトリンを含有する低結晶性ランダムポリプロピレン樹脂からなるマスターバッチペレットを用意した。高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットを用意した。溶融したマスターバッチペレットと低結晶性ランダムポリプロピレン樹脂を混合し、ペルメトリンを所定の含有量で含有する混合物を得た。ペレットを溶融し、溶融物を得た。これらの混合物及び溶融物を、共押出Tダイ成型装置から押し出し、ペルメトリンを含有する低結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、比較例4の防虫シートとした。
【0053】
(比較例5)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。実施例1において防虫層に用いた材料と保護層に用いた材料を入れ替えた。これら以外の条件は、実施例1と同様の条件により、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる中心層が、ペルメトリンを含有する高結晶ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの外層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、中心層の厚みは、144μmであり、2つの外層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、比較例5の防虫シートとした。
【0054】
(結晶化度の測定)
実施例1〜10および比較例1〜5の防虫シートについて、保護層(外層)の母材を構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度(比較例1〜3については、防虫シートの母材を構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度)を粉末X線回析法により測定した。また、防虫層(中心層)の母材を構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度は、防虫層を形成する条件と同様の条件で単層の防虫層(シート)を形成し、この防虫層(シート)の母材を構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度を、粉末X線回折法により測定することにより求めた。結果を表1に示す。
【0055】
[表1]
【0056】
(評価1:安全性評価)
本実施形態の防虫シートの安全性を評価するために、以下に示す評価を行った。
【0057】
実施例1〜10および比較例1〜5の防虫シートの片側表面(片側の保護層の表面)を、それぞれアセトンを湿らせた脱脂綿でふき、脱脂綿からアセトンを抽出した。ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて、抽出したアセトンに含まれる防虫剤の量をそれぞれ測定した。測定された防虫剤の量から、防虫シート1cm当たりの表面に露出する防虫剤の量(ng/cm)をそれぞれ算出した。算出結果から、各防虫シートの表面(保護層の表面)に露出する防虫剤の量が、ADI基づいて算出される体重15kgの乳幼児の1日当りの許容摂取量となる時の各防虫シートの面積(m)(以下、「許容摂取量となる時の面積」ともいう。)を算出した。なお、ADI基づいて算出される体重15kgの乳幼児の1日当りの許容摂取量は、防虫剤がペルメトリンである場合、0.75mgであり、防虫剤がエトフェンプロックスである場合、0.45mgである。
【0058】
安全性の評価は、以下の評価基準に従って行った。なお、評価が“A”である場合、優れた安全性を有すると判断し、評価が“B”である場合、安全性を有すると判断し、評価が“C”の場合、安全性を有さないと判断した。結果を後述する表2に示す。
[評価基準]
A:摂取許容量となる時の面積が0.5m超である。
B:摂取許容量となる時の面積が0.1m以上0.5m以下である。
C:摂取許容量となる時の面積が0.1m未満である。
【0059】
(評価2:忌避性評価)
本実施形態の防虫シートの忌避性能を評価するために、以下に示す評価を行った。
【0060】
屋外に設置された蛍光灯ダウンライトのカバー(丸型、直径17cm)表面を、実施例1〜10および比較例1〜5の防虫シートでそれぞれ覆った。ライトを10分間点灯し、10分後、各防虫シートで覆われたカバー上に停留していた飛翔性昆虫の頭数を計測した。なお、カバーに停留していた飛翔性昆虫は、全てユスリカであった。
【0061】
防虫剤を含有しない比較例3の防虫シートで覆われたカバー上に停留していた飛翔性昆虫の頭数を基準として、計測された飛翔性昆虫の頭数から、下記式(a)に基づき、各防虫シートの忌避率を算出した。
式(a)において、Xは、比較例3の防虫シートで覆われたカバー上に停留していた飛翔性昆虫の頭数を示し、Yは、各防虫シートで覆われたカバー上に停留していた飛翔性昆虫の頭数を示す。
【0062】
忌避性の評価は、以下の評価基準に従って行った。なお、評価が“A”である場合、優れた忌避性を有すると判断し、評価が“B”である場合、忌避性を有すると判断し、評価が“C”の場合、忌避性を有さないと判断した。結果を後述する表2に示す。
[評価基準]
A:忌避率が60%を超える
B:忌避率が30〜60%
C:忌避率が30%未満
【0063】
(評価3:塵埃付着抑制効果の評価)
本実施形態の防虫シートの塵埃付着抑制効果を評価するために、以下に示す評価を実施した。
【0064】
実施例1〜10および比較例1〜5の防虫シートを10cm×10cmに切断し、切断した各防虫シートの上面(保護層)に混合ダストを均等に乗せた。混合ダストが乗った各防虫シートを持ち上げて裏返し、所定回数の振動を与えることにより、防虫シートに付着していない未付着の混合ダストを落下させた。混合ダストを乗せる前の各防虫シートの重量と未付着の混合ダストを落下させた後の各防虫シートの重量を測定し、各防虫シートに付着した混合ダストの重量を算出した。なお、混合ダストは、JIS Z 8901に規定される試験用粉体1の15種を用いた。
【0065】
塵埃付着抑制効果の評価は、以下の評価基準に従って行った。なお、評価が“Good”である場合、塵埃付着抑制効果を有すると判断した。結果を後述する表2に示す。
[評価基準]
Good:防虫シートに付着した混合ダストの平均重量が60mg以下である。
Poor: 防虫シートに付着した混合ダストの平均重量が60mgを超える。
【0066】
[表2]
【0067】
表2に示すように、実施例1〜10の防虫シートは、評価1(安全性評価)及び評価2(忌避性評価)の評価結果が“A”又は“B”であり、評価3(塵埃付着抑制効果の評価)の評価結果が“Good”であった。この結果から、本実施形態の防虫シートが、安全性、忌避性及び塵埃付着抑制効果を有していることが理解できる。より具体的には、本実施形態の防虫シートは、上述した構成とすることにより、防虫シート表面に露出する防虫剤の量を防虫効果を発揮させることができる必要最低限の量に制御することができ、安全性を確保できるとともに、塵埃の付着も抑制できることがわかる。また、実施例1〜10の防虫シートが塵埃付着抑制効果を有していたことから、本実施形態の防虫シートは、防虫効果を持続できるとともに、タック性(粘着性)が生じ難く、成形し易いことも理解できる。
【0068】
一方、比較例1〜5の防虫シートは、評価1〜3の少なくともいずれかの評価において、評価結果が“Poor”又は“C”となった。この結果から、比較例1〜5の防虫シートは、安全性、忌避性、塵埃付着抑制効果の少なくともいずれかを有さないことが理解できる。
【0069】
特に、比較例1〜2及び5の防虫シートは、評価1の評価結果が“C”となった。この結果から、単層構造の防虫シートや、外層に防虫剤が含有される3層構造の防虫シートでは、防虫シートの表面に防虫剤が露出しやすいことが理解できる。また、比較例1〜2及び5の防虫シートは、評価3の評価結果が“Poor”となった。このような結果となった原因の一つとしては、単層構造の防虫シートや、外層に防虫剤が含有される3層構造の防虫シートでは、防虫剤が防虫シートの表面に露出しやすく、塵埃が付着しやすいことが考えられる。
【0070】
また、比較例4の防虫シートは、評価2の評価結果が“C”であり、評価1の結果に示されるように、許容摂取量となる時の面積が実施例1〜10の防虫シートよりも広かった。この結果から、保護層を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度が防虫層を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度よりも大きい防虫シートでは、防虫剤が保護層を移動しにくく、防虫シートの外部に防虫剤を放出しにくいことが理解できる。
【0071】
なお、比較例3の防虫シートは、評価3において、付着する混合ダストの量が最も少ないが、これは、防虫シートに防虫剤が含まれていないことが原因であると考えられる。
【0072】
また、防虫シートに対する防虫剤の含有量が0.1質量%以上である実施例1〜9の防虫シートは、防虫剤の含有量が0.1質量%未満(0.01質量%)である実施例10の防虫シートと比較し、忌避率が11%以上も向上した。この結果から、防虫剤の含有量が0.1質量%以上である防虫シートは、防虫剤の含有量が0.1質量%未満である防虫シートと比較し、防虫効果をさらに発揮しやすいことが理解できる。
【符号の説明】
【0073】
1:防虫シート
2:防虫層
3:保護層
4:防虫剤
図1
図2