【実施例】
【0038】
次に実施例を示して、本実施形態の防虫シートについてより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
ペルメトリン(防虫剤)と高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるマスターバッチペレットを用意した。高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットを用意した。溶融したマスターパッチペレットと高結晶性ホモポリプロピレン樹脂とを混合し、ペルメトリンを所定の含有量で含有する混合物を得た。ペレットを溶融し、溶融物を得た。これら溶融物及び混合物を共押出Tダイ成型装置から押し出すことにより、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例1の防虫シートとした。
【0040】
(実施例2)
実施例1で用いたマスターバッチペレットに代えて、エトフェンプロックス(防虫剤)と高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるマスターバッチペレットを用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、エトフェンプロックスを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するエトフェンプロックスの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例2の防虫シートとした。
【0041】
(実施例3)
実施例1で用いた高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットに代えて、低結晶性ランダムポリプロピレン樹脂からなるペレットを用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、低結晶性ランダムポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例3の防虫シートとした。
【0042】
(実施例4)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。実施例1における防虫層の厚みを190μmとし、2つの保護層の厚みを共に5μmとした。これら以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例4の防虫シートとした。
【0043】
(実施例5)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。実施例1における防虫層の厚みを60μmとし、2つの保護層の厚みを共に70μmとした。これら以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例5の防虫シートとした。
【0044】
(実施例6)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。実施例1における防虫層の厚みを40μmとし、2つの保護層の厚みを共に80μmとした。これら以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、実施例6の防虫シートとした。
【0045】
(実施例7)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、3質量%であった。この防虫シートを、実施例7の防虫シートとした。
【0046】
(実施例8)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、0.1%ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、0.1質量%であった。この防虫シートを、実施例8の防虫シートとした。
【0047】
(実施例9)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、5質量%であった。この防虫シートを、実施例9の防虫シートとした。
【0048】
(実施例10)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。これ以外の条件は、実施例1と同様の条件により、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、0.01質量%であった。この防虫シートを、実施例10の防虫シートとした。
【0049】
(比較例1)
実施例1で用いたマスターバッチペレットと高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットを溶融して混合し、ペルメトリンを所定の含有量で含有する混合物を得た。この混合物を共押出Tダイ成型装置から押し出し、ペルメトリンを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる単層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートの厚みは、200μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、比較例1の防虫シートとした。
【0050】
(比較例2)
実施例2で用いたマスターバッチペレットと高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットを溶融して混合し、エトフェンプロックスを所定の含有量で含有する混合物を得た。この混合物を共押出Tダイ成型装置から押し出し、エトフェンプロックスを含有する高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる単層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートの厚みは、200μmであった。また、得られた防虫シートに対するエトフェンプロックスの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、比較例2の防虫シートとした。
【0051】
(比較例3)
高結晶性ホモポリプロピレン樹脂を溶融し、溶融物を得た。溶融物を共押出Tダイ成型装置から押し出し、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる単層構造のフィルムを得た。得られたフィルムの厚みは、200μmであった。このフィルムを、比較例3の防虫シートとした。
【0052】
(比較例4)
ペルメトリンを含有する低結晶性ランダムポリプロピレン樹脂からなるマスターバッチペレットを用意した。高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなるペレットを用意した。溶融したマスターバッチペレットと低結晶性ランダムポリプロピレン樹脂を混合し、ペルメトリンを所定の含有量で含有する混合物を得た。ペレットを溶融し、溶融物を得た。これらの混合物及び溶融物を、共押出Tダイ成型装置から押し出し、ペルメトリンを含有する低結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる防虫層が、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの保護層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、防虫層の厚みは、144μmであり、2つの保護層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、比較例4の防虫シートとした。
【0053】
(比較例5)
実施例1で用いた混合物とはペルメトリンの含有量が異なる混合物を用いた。実施例1において防虫層に用いた材料と保護層に用いた材料を入れ替えた。これら以外の条件は、実施例1と同様の条件により、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂からなる中心層が、ペルメトリンを含有する高結晶ホモポリプロピレン樹脂からなる2つの外層によって挟まれた3層構造の防虫シートを得た。得られた防虫シートにおいて、中心層の厚みは、144μmであり、2つの外層の厚みは、共に28μmであった。また、得られた防虫シートに対するペルメトリンの含有量は、1質量%であった。この防虫シートを、比較例5の防虫シートとした。
【0054】
(結晶化度の測定)
実施例1〜10および比較例1〜5の防虫シートについて、保護層(外層)の母材を構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度(比較例1〜3については、防虫シートの母材を構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度)を粉末X線回析法により測定した。また、防虫層(中心層)の母材を構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度は、防虫層を形成する条件と同様の条件で単層の防虫層(シート)を形成し、この防虫層(シート)の母材を構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度を、粉末X線回折法により測定することにより求めた。結果を表1に示す。
【0055】
[表1]
【0056】
(評価1:安全性評価)
本実施形態の防虫シートの安全性を評価するために、以下に示す評価を行った。
【0057】
実施例1〜10および比較例1〜5の防虫シートの片側表面(片側の保護層の表面)を、それぞれアセトンを湿らせた脱脂綿でふき、脱脂綿からアセトンを抽出した。ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて、抽出したアセトンに含まれる防虫剤の量をそれぞれ測定した。測定された防虫剤の量から、防虫シート1cm
2当たりの表面に露出する防虫剤の量(ng/cm
2)をそれぞれ算出した。算出結果から、各防虫シートの表面(保護層の表面)に露出する防虫剤の量が、ADI基づいて算出される体重15kgの乳幼児の1日当りの許容摂取量となる時の各防虫シートの面積(m
2)(以下、「許容摂取量となる時の面積」ともいう。)を算出した。なお、ADI基づいて算出される体重15kgの乳幼児の1日当りの許容摂取量は、防虫剤がペルメトリンである場合、0.75mgであり、防虫剤がエトフェンプロックスである場合、0.45mgである。
【0058】
安全性の評価は、以下の評価基準に従って行った。なお、評価が“A”である場合、優れた安全性を有すると判断し、評価が“B”である場合、安全性を有すると判断し、評価が“C”の場合、安全性を有さないと判断した。結果を後述する表2に示す。
[評価基準]
A:摂取許容量となる時の面積が0.5m
2超である。
B:摂取許容量となる時の面積が0.1m
2以上0.5m
2以下である。
C:摂取許容量となる時の面積が0.1m
2未満である。
【0059】
(評価2:忌避性評価)
本実施形態の防虫シートの忌避性能を評価するために、以下に示す評価を行った。
【0060】
屋外に設置された蛍光灯ダウンライトのカバー(丸型、直径17cm)表面を、実施例1〜10および比較例1〜5の防虫シートでそれぞれ覆った。ライトを10分間点灯し、10分後、各防虫シートで覆われたカバー上に停留していた飛翔性昆虫の頭数を計測した。なお、カバーに停留していた飛翔性昆虫は、全てユスリカであった。
【0061】
防虫剤を含有しない比較例3の防虫シートで覆われたカバー上に停留していた飛翔性昆虫の頭数を基準として、計測された飛翔性昆虫の頭数から、下記式(a)に基づき、各防虫シートの忌避率を算出した。
式(a)において、Xは、比較例3の防虫シートで覆われたカバー上に停留していた飛翔性昆虫の頭数を示し、Yは、各防虫シートで覆われたカバー上に停留していた飛翔性昆虫の頭数を示す。
【0062】
忌避性の評価は、以下の評価基準に従って行った。なお、評価が“A”である場合、優れた忌避性を有すると判断し、評価が“B”である場合、忌避性を有すると判断し、評価が“C”の場合、忌避性を有さないと判断した。結果を後述する表2に示す。
[評価基準]
A:忌避率が60%を超える
B:忌避率が30〜60%
C:忌避率が30%未満
【0063】
(評価3:塵埃付着抑制効果の評価)
本実施形態の防虫シートの塵埃付着抑制効果を評価するために、以下に示す評価を実施した。
【0064】
実施例1〜10および比較例1〜5の防虫シートを10cm×10cmに切断し、切断した各防虫シートの上面(保護層)に混合ダストを均等に乗せた。混合ダストが乗った各防虫シートを持ち上げて裏返し、所定回数の振動を与えることにより、防虫シートに付着していない未付着の混合ダストを落下させた。混合ダストを乗せる前の各防虫シートの重量と未付着の混合ダストを落下させた後の各防虫シートの重量を測定し、各防虫シートに付着した混合ダストの重量を算出した。なお、混合ダストは、JIS Z 8901に規定される試験用粉体1の15種を用いた。
【0065】
塵埃付着抑制効果の評価は、以下の評価基準に従って行った。なお、評価が“Good”である場合、塵埃付着抑制効果を有すると判断した。結果を後述する表2に示す。
[評価基準]
Good:防虫シートに付着した混合ダストの平均重量が60mg以下である。
Poor: 防虫シートに付着した混合ダストの平均重量が60mgを超える。
【0066】
[表2]
【0067】
表2に示すように、実施例1〜10の防虫シートは、評価1(安全性評価)及び評価2(忌避性評価)の評価結果が“A”又は“B”であり、評価3(塵埃付着抑制効果の評価)の評価結果が“Good”であった。この結果から、本実施形態の防虫シートが、安全性、忌避性及び塵埃付着抑制効果を有していることが理解できる。より具体的には、本実施形態の防虫シートは、上述した構成とすることにより、防虫シート表面に露出する防虫剤の量を防虫効果を発揮させることができる必要最低限の量に制御することができ、安全性を確保できるとともに、塵埃の付着も抑制できることがわかる。また、実施例1〜10の防虫シートが塵埃付着抑制効果を有していたことから、本実施形態の防虫シートは、防虫効果を持続できるとともに、タック性(粘着性)が生じ難く、成形し易いことも理解できる。
【0068】
一方、比較例1〜5の防虫シートは、評価1〜3の少なくともいずれかの評価において、評価結果が“Poor”又は“C”となった。この結果から、比較例1〜5の防虫シートは、安全性、忌避性、塵埃付着抑制効果の少なくともいずれかを有さないことが理解できる。
【0069】
特に、比較例1〜2及び5の防虫シートは、評価1の評価結果が“C”となった。この結果から、単層構造の防虫シートや、外層に防虫剤が含有される3層構造の防虫シートでは、防虫シートの表面に防虫剤が露出しやすいことが理解できる。また、比較例1〜2及び5の防虫シートは、評価3の評価結果が“Poor”となった。このような結果となった原因の一つとしては、単層構造の防虫シートや、外層に防虫剤が含有される3層構造の防虫シートでは、防虫剤が防虫シートの表面に露出しやすく、塵埃が付着しやすいことが考えられる。
【0070】
また、比較例4の防虫シートは、評価2の評価結果が“C”であり、評価1の結果に示されるように、許容摂取量となる時の面積が実施例1〜10の防虫シートよりも広かった。この結果から、保護層を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度が防虫層を構成する熱可塑性樹脂の結晶化度よりも大きい防虫シートでは、防虫剤が保護層を移動しにくく、防虫シートの外部に防虫剤を放出しにくいことが理解できる。
【0071】
なお、比較例3の防虫シートは、評価3において、付着する混合ダストの量が最も少ないが、これは、防虫シートに防虫剤が含まれていないことが原因であると考えられる。
【0072】
また、防虫シートに対する防虫剤の含有量が0.1質量%以上である実施例1〜9の防虫シートは、防虫剤の含有量が0.1質量%未満(0.01質量%)である実施例10の防虫シートと比較し、忌避率が11%以上も向上した。この結果から、防虫剤の含有量が0.1質量%以上である防虫シートは、防虫剤の含有量が0.1質量%未満である防虫シートと比較し、防虫効果をさらに発揮しやすいことが理解できる。