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特許67058176−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの結晶およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705817
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの結晶およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 241/24 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   C07D241/24CSP
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-523678(P2017-523678)
(86)(22)【出願日】2016年6月8日
(86)【国際出願番号】JP2016067114
(87)【国際公開番号】WO2016199824
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2019年4月15日
(31)【優先権主張番号】62/172,958
(32)【優先日】2015年6月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000149837
【氏名又は名称】富士フイルム富山化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】上原 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】仲 崇良
(72)【発明者】
【氏名】大久保 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇太
(72)【発明者】
【氏名】古関 優
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−006404(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/041473(WO,A1)
【文献】 特開2010−241806(JP,A)
【文献】 第6版 化学便覧 応用化学編I 日本化学会編,丸善株式会社,2003年 1月30日,第178頁
【文献】 北村 光孝,多形現象のメカニズムと多形制御−医薬、アミノ酸、無機化合物から包接結晶まで−,株式会社 アイピーシー,2010年 8月10日,第4−6頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドおよび溶媒を含む懸濁液を調製する工程、および、
(2)(1)工程で得られる懸濁液に臭素を添加する工程、
を含む、6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの製造方法であって、
(1)工程で得られる懸濁液に含まれる水の含有率が、3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドに対して5%(w/w)未満であり、
6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドに含まれる3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの含有率が、300ppm未満である、製造方法。
【請求項2】
さらに、
(3)粉末X線回折において、2θで表される5.5、20.1、23.7、26.7、27.5および28.1°の回折角度を有する6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの結晶を得る工程、
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、
(3)粉末X線回折において、2θで表される5.5、20.1、23.7、26.7、27.5および28.1°の回折角度を有する6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの結晶を得る工程、
(4)(3)工程で得られる結晶に塩基を反応させ、6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの塩を得る工程、および、
(5)(4)工程で得られる塩に酸を反応させ、粉末X線回折において、2θで表される7.1、21.4、25.2、25.7、27.1および28.8°の回折角度を有する6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの結晶を得る工程、
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
(4)工程で使用される塩基が、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる一種以上の塩基であり、
(5)工程で使用される酸が、塩酸、硝酸および硫酸から選ばれる一種以上の酸である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
(1)工程で使用される3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドが、3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの無水物である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
(4)粉末X線回折において、2θで表される5.5、20.1、23.7、26.7、27.5および28.1°の回折角度を有する6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの結晶に塩基を反応させ、6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの塩を得る工程、および、
(5)(4)工程で得られる塩に酸を反応させ、粉末X線回折において、2θで表される7.1、21.4、25.2、25.7、27.1および28.8°の回折角度を有する6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの結晶を得る工程、
を含む、6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの製造方法。
【請求項7】
(4)工程で使用される塩基が、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる一種以上の塩基であり、
(5)工程で使用される酸が、塩酸、硝酸および硫酸から選ばれる一種以上の酸である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの無水物。
【請求項9】
粉末X線回折において、2θで表される11.9、13.2、23.9および26.7°の回折角度を有する、3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの無水物の結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの結晶およびその製造方法に関する。また、本発明は、3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの無水物に関する。さらに、本発明は、3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの含有率が低減された6−フルオロ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドに関する。
【背景技術】
【0002】
6−フルオロ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミド(以下、化合物Aと称することもある。)は、インフルエンザウイルス感染症の予防および治療などの処置に有用な化合物である。化合物Aは、たとえば、6−フルオロ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボニトリル(以下、化合物Bと称することもある。)から製造される(特許文献1、2)。
一方、化合物Bは、たとえば、3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミド(以下、化合物Cと称することもある。)を臭素化して得られる6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミド(以下、化合物Dと称することもある。)から製造される(特許文献3)。
また、化合物Cは、たとえば、アミノマロンアミドから製造される(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/041473号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/60834号パンフレット
【特許文献3】特許第5559604号公報
【特許文献4】特許第5739618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化合物Aを医薬の原薬として用いる場合、高純度の化合物Aを提供することが望まれる。
本発明者らの検討の結果、化合物Aには、不純物として、化合物Cが含まれていた。
本発明の課題は、高純度の化合物Aの製造に用いられる、不純物の含有率が低減された化合物Dおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下において、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、化合物Cに無水物が存在すること、および、化合物Dに結晶多形が存在することを見出した。また、化合物Cの臭素化反応工程において、反応系内の水の含有率を低減させることによって、反応率が向上し、化合物Cの含有率が低減された化合物Dが得られることを見出した。さらに、化合物Cの臭素化反応工程において、化合物Dの結晶を一旦単離することによって、化合物Cの含有率が極めて少ない化合物Dを製造できることを見出した。そして、得られた化合物Dを用いることによって、化合物Cの含有率が極めて少ない化合物Aを製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
【化1】
【0007】
本発明は、以下を提供する。
【0008】
[1] (1)化合物Cおよび溶媒を含む懸濁液を調製する工程、および、(2)(1)工程で得られる懸濁液に臭素を添加する工程、を含む、化合物Dの製造方法であって、(1)工程で得られる懸濁液に含まれる水の含有率が、化合物Cに対して5%(w/w)未満であり、化合物Dに含まれる化合物Cの含有率が、300ppm未満である、製造方法。
[2] さらに、(3)粉末X線回折において、2θで表される5.5、20.1、23.7、26.7、27.5および28.1°の回折角度を有する化合物Dの結晶(以下、A型結晶と称することもある)を得る工程、を含む、[1]に記載の製造方法。
[3] さらに、(3)粉末X線回折において、2θで表される5.5、20.1、23.7、26.7、27.5および28.1°の回折角度を有する化合物Dの結晶を得る工程、(4)(3)工程で得られる結晶に塩基を反応させ、化合物Dの塩を得る工程、および、(5)(4)工程で得られる塩に酸を反応させ、粉末X線回折において、2θで表される7.1、21.4、25.2、25.7、27.1および28.8°の回折角度を有する化合物Dの結晶(以下、B型結晶と称することもある)を得る工程、を含む、[1]に記載の製造方法。
[4] (4)工程で使用される塩基が、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる一種以上の塩基であり、(5)工程で使用される酸が、塩酸、硝酸および硫酸から選ばれる一種以上の酸である、[3]に記載の製造方法。
[5] (1)工程で使用される化合物Cが、化合物Cの無水物である、[1]〜[4]のいずれか一に記載の製造方法。
【0009】
[6] (4)粉末X線回折において、2θで表される5.5、20.1、23.7、26.7、27.5および28.1°の回折角度を有する化合物Dの結晶に塩基を反応させ、化合物Dの塩を得る工程、および、(5)(4)工程で得られる塩に酸を反応させ、粉末X線回折において、2θで表される7.1、21.4、25.2、25.7、27.1および28.8°の回折角度を有する化合物Dの結晶を得る工程、を含む、化合物Dの製造方法。
[7] (4)工程で使用される塩基が、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる一種以上の塩基であり、(5)工程で使用される酸が、塩酸、硝酸および硫酸から選ばれる一種以上の酸である、[6]に記載の製造方法。
【0010】
[8] 粉末X線回折において、2θで表される5.5、20.1、23.7、26.7、27.5および28.1°の回折角度を有する、化合物Dの結晶であって、化合物Dに含まれる化合物Cの含有率が、300ppm未満である、結晶。
[9] 粉末X線回折において、2θで表される7.1、21.4、25.2、25.7、27.1および28.8°の回折角度を有する、化合物Dの結晶であって、化合物Dに含まれる化合物Cの含有率が、300ppm未満である、結晶。
【0011】
[10] 化合物Cの無水物。
[11] 粉末X線回折において、2θで表される11.9、13.2、23.9および26.7°の回折角度を有する、化合物Cの無水物の結晶。
[12] 化合物Cの含有率が、5ppm未満である、化合物A。
【0012】
本発明は、さらに、以下を提供する。
[A] 粉末X線回折において、2θで表される16.7、23.7、26.4、26.7、29.0および31.5°の回折角度を有する、化合物Dの結晶(以下、C型結晶と称することもある)であって、化合物Dに含まれる化合物Cの含有率が、300ppm未満である、結晶。
[B] 化合物Cの含有率が5ppm未満である化合物Aを含む、医薬組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法は、高純度の化合物Aの製造に用いられる、化合物Cの含有率が低減された化合物Dの製造方法として有用である。
本発明の化合物DのA型結晶は、高品質な化合物Aを製造するための中間体として有用である。
本発明の化合物DのB型結晶は、高品質な化合物Aを製造するための中間体として有用である。
本発明の化合物Cの無水物は、化合物Cの含有率が低減された化合物Dを製造するための原料として有用である。
本発明の化合物Cの含有率が低減された化合物Aは、高品質な医薬の原薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】化合物DのA型結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)の一例を示す図である。
図2】化合物DのA型結晶の粉末X線回折パターンの一例を示す図である。
図3】化合物DのB型結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)の一例を示す図である。
図4】化合物DのB型結晶の粉末X線回折パターンの一例を示す図である。
図5】化合物DのC型結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)の一例を示す図である。
図6】化合物DのC型結晶の粉末X線回折パターンの一例を示す図である。
図7】化合物Cの無水物の赤外吸収スペクトル(ATR法)の一例を示す図である。
図8】化合物Cの無水物の粉末X線回折パターンの一例を示す図である。
図9】化合物Cの水和物の赤外吸収スペクトル(ATR法)の一例を示す図である。
図10】化合物Cの水和物の粉末X線回折パターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
本明細書中に使用される%は、特に断らない限り、質量%を意味する。
【0016】
本明細書において、特にことわらない限り、各用語は、以下の意味を有する。
化合物Aとは、6−フルオロ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドである。
化合物Bとは、6−フルオロ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボニトリルである。
化合物Cとは、3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドである。
化合物Dとは、6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドである。
なお、化合物A〜Dには、互変異性体が存在する。本発明は、これらの互変異性体を包含する。
【0017】
脂肪族炭化水素類としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンまたはデカヒドロナフタレンが挙げられる。
ハロゲン化炭化水素類としては、たとえば、塩化メチレン、クロロホルムまたはジクロロエタンが挙げられる。
アルコール類としては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノールまたは2−メチル−2−プロパノールが挙げられる。
エーテル類としては、たとえば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルまたはジエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
【0018】
ケトン類としては、たとえば、アセトン、2−ブタノンまたは4−メチル−2−ペンタノンが挙げられる。
エステル類としては、たとえば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルまたは酢酸ブチルが挙げられる。
アミド類としては、たとえば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたは1−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。
ニトリル類としては、たとえば、アセトニトリルまたはプロピオノニトリルが挙げられる。
スルホキシド類としては、たとえば、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
芳香族炭化水素類としては、たとえば、ベンゼン、トルエンまたはキシレンが挙げられる。
【0019】
一般に、赤外吸収スペクトル(ATR法)における波数(cm−1)の値は、±2cm−1の範囲内で誤差が生じ得る。したがって、本発明で「波数Y」というときは、特に記載した場合を除き、「波数((Y−2)〜(Y+2))cm−1」を意味する。従って、赤外吸収スペクトル(ATR法)における吸収ピークの波数が完全に一致する結晶だけでなく、吸収ピークの波数が±2cm−1の誤差範囲内で一致する結晶も本発明に含まれる。
【0020】
一般に、粉末X線回折における回折角度(2θ)は、±0.2°の範囲内で誤差が生じ得る。したがって、本発明で「回折角度(2θ)X°」というときは、特に記載した場合を除き、「回折角度(2θ)((X−0.2)〜(X+0.2))°」を意味する。従って、粉末X線回折における回折角度が完全に一致する結晶だけでなく、回折角度が±0.2°の誤差範囲内で一致する結晶も本発明に含まれる。
【0021】
[化合物Cの水和物]
化合物Cは、たとえば、ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(J.Med.Chem.)、第26巻、第283〜286頁、1983年または特開2010-241806号公報に記載の方法で製造することができる。これらは、含水溶媒から化合物Cを析出させる方法である。
化合物Cは、種々の有機溶媒に対して難溶性であり、抽出などの操作によって単離することは難しい。そのため、化合物Cは、たとえば、含水溶媒中、中和晶析などの方法によって単離される。
本発明者らが検討した結果、含水溶媒から単離される化合物Cは、水和物であった。
【0022】
[化合物Cの無水物]
化合物Cの無水物は、これまで全く知られていない、新規な化合物である。
化合物Cの無水物の結晶は、粉末X線回折において、2θで表される11.9、13.2、23.9および26.7°の回折角度を有することを特徴とする。
また、化合物Cの無水物の結晶は、赤外吸収スペクトルにおいて、1710、1678および1643cm-1に特徴的なピークを有することを特徴とする。
【0023】
化合物Cの無水物は、たとえば、化合物Cの水和物の懸濁液を加熱撹拌することによって製造することができる。
この反応に使用される溶媒としては、反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、たとえば、アルコール類、エーテル類、アミド類およびスルホキシド類が挙げられ、これらは、混合して使用してもよい。好ましい溶媒としては、アミド類が挙げられ、N,N−ジメチルホルムアミドおよびN,N−ジメチルアセトアミドがより好ましく、N,N−ジメチルホルムアミドがさらに好ましい。
溶媒の使用量は、化合物Cの水和物に対して1〜10倍量(v/w)であればよく、2〜4倍量(v/w)が好ましい。
反応温度は、40〜100℃であればよく、60〜80℃が好ましい。
反応時間は、5分間〜50時間であればよく、5分間〜5時間が好ましい。
【0024】
この反応には、塩基を添加してもよい。
使用される塩基としては、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリンおよびルチジンなどの有機塩基が挙げられ、ピリジンが好ましい。
塩基の使用量は、化合物Cの水和物に対して1〜3倍モルであればよく、1.5〜2.5倍モルが好ましい。
【0025】
[化合物D]
化合物Dは、たとえば、特許文献3に記載の方法で製造することができる。
特許文献3には、化合物Cの臭素化反応における、反応時間と生成率が記載されている。
反応開始1時間後の生成率が最も大きく、その値は、82〜86%であった。
これまで知られていた化合物Cは、水和物である。そのため、化合物Cの臭素化反応には、化合物Cの水和物が用いられていた。後述するように、化合物Cの水和物を用いて臭素化反応を行う場合、得られる化合物Dに含まれる化合物Cの含有率は、300ppm以上である。
化合物Cの水和物から、化合物Cの含有率が300ppm未満である化合物Dを製造することは、難しい。
【0026】
[化合物DのA型結晶]
化合物DのA型結晶は、粉末X線回折において、2θで表される5.5、20.1、23.7、26.7、27.5および28.1°の回折角度を有することを特徴とする。
また、化合物DのA型結晶は、赤外吸収スペクトルにおいて、1673、1644、1595および1560cm-1に特徴的なピークを有することを特徴とする。
【0027】
化合物DのA型結晶は、たとえば、化合物Cの臭素化工程で得られる反応混合物に貧溶媒を添加することによって得ることができる。
貧溶媒としては、たとえば、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、芳香族炭化水素類および水などが挙げられ、これらは、混合して使用してもよい。好ましい貧溶媒としては、アルコール類、エーテル類および水が挙げられ、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノールおよび水がより好ましい。
貧溶媒を添加する温度は、10〜50℃であればよく、20〜50℃が好ましく、30〜50℃がより好ましい。
【0028】
特許文献3には、化合物Cの臭素化工程で得られる反応混合物に、60〜70℃で、水を添加する製造方法が記載されている。添加温度が60〜70℃である場合、得られる結晶は、B型結晶であることが、本発明者らによって見出された。また、添加温度が20〜50℃である場合、得られる結晶は、A型結晶であることが、本発明者らによって見出された。
【0029】
化合物DのA型結晶は、後述する化合物DのB型結晶を含んでいてもよい。また、化合物DのC型結晶を含んでいてもよい。
前記したとおり、化合物Cの水和物を用いて臭素化反応を行う場合、得られる化合物DのA型結晶に含まれる化合物Cの含有率は、300ppm以上である。
【0030】
[化合物Cの含有率が300ppm未満である化合物DのA型結晶]
化合物Cの含有率が300ppm未満である化合物DのA型結晶は、たとえば、化合物Cおよび溶媒を含む懸濁液に含まれる水の含有率を、化合物Cに対して5%(w/w)未満となるように調製して、化合物Cの臭素化反応を行い、得られる反応混合物に貧溶媒を添加することによって得ることができる。
貧溶媒としては、たとえば、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、芳香族炭化水素類および水などが挙げられ、これらは、混合して使用してもよい。好ましい貧溶媒としては、アルコール類、エーテル類および水が挙げられ、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノールおよび水がより好ましい。
貧溶媒を添加する温度は、10〜50℃であればよく、30〜50℃が好ましい。
化合物DのA型結晶は、化合物DのB型結晶を含んでいてもよい。また、化合物DのC型結晶を含んでいてもよい。
化合物Cの含有率は、300ppm未満であればよく、200ppm未満であることが好ましく、100ppm未満であることが、より好ましく、50ppm未満であることが、さらに好ましい。
【0031】
化合物DのA型結晶は、化合物Dに含有される化合物Cを効率的に除去することができる性質を有する。そのため、化合物Cから化合物Dを製造する工程において、化合物DのA型結晶を一旦単離することによって、化合物Cの含有率が少ない化合物Dを製造することが可能になる。
【0032】
化合物DのA型結晶は、室温で放置することにより、後述する化合物DのC型結晶へ変化した。化合物DのA型結晶を長期間保存することは、難しい。
【0033】
[化合物DのB型結晶]
化合物DのB型結晶は、粉末X線回折において、2θで表される7.1、21.4、25.2、25.7、27.1および28.8°の回折角度を有することを特徴とする。
また、化合物DのB型結晶は、赤外吸収スペクトルにおいて、1660、1644および1581cm-1に特徴的なピークを有することを特徴とする。
【0034】
化合物DのB型結晶は、たとえば、特許文献3に記載の方法で製造することができる。具体的には、化合物Cの臭素化工程で得られる反応混合物に貧溶媒を添加することによって得ることができる。
貧溶媒としては、たとえば、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、芳香族炭化水素類および水などが挙げられ、これらは、混合して使用してもよい。好ましい貧溶媒としては、アルコール類、エーテル類および水が挙げられ、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノールおよび水がより好ましい。
貧溶媒を添加する温度は、50〜90℃であればよく、50〜70℃が好ましく、60〜70℃がより好ましい。
【0035】
また、化合物DのB型結晶は、たとえば、化合物DのA型結晶またはC型結晶をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解した後、貧溶媒を添加することによって得ることができる。
貧溶媒としては、たとえば、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、芳香族炭化水素類および水などが挙げられ、これらは、混合して使用してもよい。好ましい貧溶媒としては、アルコール類、エーテル類および水が挙げられ、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノールおよび水がより好ましい。
貧溶媒を添加する温度は、50〜90℃であればよく、50〜70℃が好ましい。
【0036】
さらに、化合物DのB型結晶は、酸および塩基を用いて、後述する製造方法によっても得ることができる。
化合物DのB型結晶は、化合物DのA型結晶を含んでいてもよい。また、化合物DのC型結晶を含んでいてもよい。
【0037】
[化合物Cの含有率が300ppm未満である化合物DのB型結晶]
化合物Cの含有率が300ppm未満である化合物DのB型結晶は、たとえば、化合物Cの含有率が300ppm未満である化合物DのA型結晶を用いて、後述する製造方法によって得ることができる。
化合物Cの含有率は、300ppm未満であればよく、200ppm未満であることが好ましく、100ppm未満であることが、より好ましく、50ppm未満であることが、さらに好ましく、20ppm未満であることが、特に好ましい。
化合物DのB型結晶は、化合物Dに含有される化合物Cを効率的に除去することができる性質を有する。そのため、化合物Cから化合物Dを製造する工程において、化合物DのB型結晶を一旦単離することによって、化合物Cの含有率が少ない化合物Dを製造することが可能になる。
また、化合物DのB型結晶は、保存安定性に優れ、高品質な化合物Aを製造するための中間体として有用である。
【0038】
[化合物DのC型結晶]
化合物DのC型結晶は、粉末X線回折において、2θで表される16.7、23.7、26.4、26.7、29.0および31.5°の回折角度を有することを特徴とする。
また、化合物DのC型結晶は、赤外吸収スペクトルにおいて、1664および1568cm-1に特徴的なピークを有することを特徴とする。
化合物DのC型結晶は、たとえば、化合物DのA型結晶を室温で放置することにより、製造することができる。
放置時間は、1週間〜1年であればよい。
化合物Cの含有率が低減された化合物DのA型結晶を用いて、化合物Cの含有率が低減された化合物DのC型結晶を製造することができる。
【0039】
[化合物Cの含有率が低減された化合物A]
本発明の製造方法で製造された化合物Dを用いて、化合物Cの含有率が低減された化合物Aを製造することができる。具体的には、化合物Cの含有率が300ppm未満である化合物DのB型結晶を用いて、化合物Cの含有率が5ppm未満である化合物Aを製造することができる。
【0040】
次に本発明の製造方法について説明する。
【0041】
[製造方法1]
【化2】
【0042】
(1)
(1)工程は、化合物Cおよび溶媒を含む懸濁液を調製する工程である。
溶媒としては、たとえば、アミド類およびスルホキシド類が挙げられ、これらは、混合して使用してもよい。好ましい溶媒としては、アミド類が挙げられ、N,N−ジメチルホルムアミドおよびN,N−ジメチルアセトアミドがより好ましく、N,N−ジメチルホルムアミドがさらに好ましい。
溶媒の使用量は、化合物Cに対して1〜10倍量(v/w)であればよく、2〜4倍量(v/w)が好ましい。
【0043】
これまで知られていた化合物Cは、水和物であった。
化合物Cの臭素化工程においては、懸濁液に含まれる水の含有率が、化合物Cに対して5%(w/w)未満であればよく、3%(w/w)未満であることが好ましく、2%(w/w)未満であることがさらに好ましく、1%(w/w)未満であることが特に好ましい。
水の含有率が5%(w/w)未満である懸濁液を調製する方法としては、たとえば、
(1−a)化合物Cの無水物を用いる方法、および/または、
(1−b)反応系内で水の含有率を低減させる方法、
が挙げられる。
【0044】
(1−a)
化合物Cの無水物は、たとえば、前記の製造方法または実施例に記載の方法で製造することができる。
化合物Cの無水物は、反応系内で製造してもよい。
化合物Cの無水物は、単離してもよいが、単離しなくてもよい。
【0045】
(1−b)
反応系内で水の含有率を低減させる方法としては、たとえば、化合物Cの水和物および溶媒を含む懸濁液を調製した後、脱水剤を反応させる方法、加熱撹拌する方法および/または共沸脱水を行う方法などが挙げられる。
脱水剤としては、たとえば、シリカゲル、活性アルミナおよびモレキュラシーブなどが挙げられる。
共沸脱水に用いる溶媒としては、たとえば、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、2−ブタノールおよびtert−ブタノールなどのアルコール類;1,2−ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキサンなどのエーテル類;シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの炭化水素類;アセトニトリル;ピリジンならびにニトロメタンなどが挙げられる。
【0046】
(2)
(2)工程は、(1)工程で得られる懸濁液に臭素を添加する工程である。
臭素の使用量は、化合物Cに対して1〜10倍モルであればよく、1.0〜5.0倍モルが好ましく、1.0〜1.5倍モルがより好ましい。
反応温度は、0〜150℃であればよく、50〜100℃が好ましい。
反応時間は、5分間〜50時間であればよく、5分間〜5時間が好ましい。
懸濁液に含まれる水の含有率を5%(w/w)未満にすることにより、反応率が向上し、化合物Cの含有率が低減された化合物Dを製造することができる。
【0047】
本発明の製造方法は、さらに以下の工程を含むことが好ましい。
【0048】
(3)
(3)工程は、化合物DのA型結晶を得る工程である。
化合物DのA型結晶は、化合物Dに含有される化合物Cを効率的に除去することができる性質を有する。そのため、化合物Cから化合物Dを製造する工程において、化合物DのA型結晶を一旦単離することによって、化合物Cの含有率が少ない化合物Dを製造することが可能になる。
化合物DのA型結晶は、たとえば、(2)工程で得られる反応混合物に貧溶媒を添加することによって得ることができる。
貧溶媒としては、たとえば、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、芳香族炭化水素類および水などが挙げられ、これらは、混合して使用してもよい。好ましい貧溶媒としては、アルコール類、エーテル類、芳香族炭化水素類および水が挙げられ、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、トルエンおよび水がより好ましい。
貧溶媒を添加する温度は、10〜50℃であればよく、30〜50℃が好ましい。
化合物DのA型結晶は、化合物DのB型結晶を含んでいてもよい。また、化合物DのC型結晶を含んでいてもよい。
【0049】
(4)
(4)工程は、(3)工程で得られる結晶に塩基を反応させ、化合物Dの塩を得る工程である。
この反応に使用される溶媒としては、たとえば、水が挙げられる。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、化合物Dの結晶に対して1〜10倍量(v/w)であればよく、1〜5倍量(v/w)が好ましい。
この反応に使用される塩基としては、たとえば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび水酸化カリウムなどが挙げられ、水酸化ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
塩基の使用量は、化合物Dの結晶に対して1〜10倍モルであればよく、1.0〜5.0倍モルが好ましく、1.0〜1.5倍モルがより好ましい。
反応温度は、0〜100℃であればよく、5〜50℃が好ましい。
反応時間は、5分間〜50時間であればよく、5分間〜5時間が好ましい。
化合物Dの塩は、単離してもよいが、単離せずに次の工程に使用することが好ましい。
【0050】
(5)
(5)工程は、(4)工程で得られる塩に酸を反応させ、化合物DのB型結晶を得る工程である。
化合物DのB型結晶は、化合物Dに含有される化合物Cを効率的に除去することができる性質を有する。そのため、化合物Cから化合物Dを製造する工程において、化合物DのB型結晶を単離することによって、化合物Cの含有率が少ない化合物Dを製造することが可能になる。
化合物DのB型結晶は、(4)工程で得られる塩に酸を反応させることによって得ることができる。
この反応に使用される溶媒としては、たとえば、水が挙げられる。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、化合物Dの塩に対して1〜10倍量(v/w)であればよく、1〜5倍量(v/w)が好ましい。
この反応に使用される酸としては、たとえば、塩酸、硝酸および硫酸などが挙げられ、塩酸が好ましい。
酸の使用量は、化合物Dの塩に対して1〜10倍モルであればよく、1.0〜5.0倍モルが好ましく、1.0〜1.5倍モルがより好ましい。
【0051】
反応温度は、50〜90℃であればよく、50〜70℃が好ましい。
反応時間は、5分間〜50時間であればよく、5分間〜5時間が好ましい。
化合物DのB型結晶は、化合物DのA型結晶を含んでいてもよい。また、化合物DのC型結晶を含んでいてもよい。
【0052】
上記の製造方法によって得られる化合物DのB型結晶は、化合物Cの含有率が300ppm未満である、結晶である。この結晶を用いることにより、化合物Cの含有率が5ppm未満である化合物Aを製造することができる。
【0053】
次に、本発明を試験例、参考例および実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
水分は、水分測定装置CA-100(三菱化学アナリテック社)で測定した。
赤外吸収スペクトルは、Spectrum One(パーキンエルマー社)で測定した。
【0055】
高速液体クロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:254nm
カラム:Develosil ODS-HG-5、内径4.6×長さ150mm
カラム温度:室温
移動相:21%アセトニトリル緩衝溶液(0.05mol/L酢酸、0.025mol/Lトリエチルアミン)
流量:1mL/分
【0056】
粉末X線回折の測定条件を以下に示す。
使用X線:CuKα
加電圧:40kV
加電流:40mA
走査範囲:2θ=2〜40°
測定時間:20分
【0057】
試験例1
化合物Cの臭素化工程において、反応系内の水分値と化合物Cの残存率との関係を調べた。
化合物Cの無水物(10.0g)のN,N−ジメチルホルムアミド(25mL)懸濁液に、水(0、0.1、0.31、0.50または1.0mL)およびピリジン(9.3mL)を加え、70〜80℃で臭素(13.8g)を加えた。同温度で2時間撹拌し、60〜70℃でトルエン(5mL)を加えた。反応混合物を47℃まで冷却し、水(30mL)を加えた後、10℃まで冷却した。固形物を濾取し、化合物Dを得た。
化合物Dの結晶形を赤外吸収スペクトルから判定した。
化合物Dに含まれる化合物Cの含有率をHPLCを用いて測定した。
結果を以下に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
水の添加量が10%(No.5)であるとき、反応混合物中の未反応の化合物Cは15.8%であり、収率は65%であり、得られた化合物Dに含まれる化合物Cの含有率は500ppmであった。
一方、水の添加量が低減するにしたがって、未反応の化合物Cおよび化合物Cの含有率は低減した。
水の添加量と化合物Dに含まれる化合物Cの含有率は、相関した。原料として、化合物Cの水和物を用いる場合、化合物Dに含まれる化合物Cの含有率が多いことは、明らかである。
反応系内の水の含有率を低減させることによって、反応率が向上し、化合物Cの含有率が低減された化合物Dが得られることが明らかになった。
【0060】
試験例2
化合物DのA型結晶、B型結晶またはC型結晶をポリ袋2重で包装し、60℃、相対湿度75%の条件下で保存した。経時的にサンプリングし、赤外吸収スペクトルを測定して結晶形を判定した。結果を以下に示す。
【表2】
【0061】
A型結晶は、C型結晶に変化した。B型結晶およびC型結晶は、変化しなかった。
B型結晶およびC型結晶は、安定であった。
【0062】
試験例3
化合物Cの含有率が多い化合物Dを用いて、化合物Dの結晶形と化合物Cの残存率との関係を調べた。
試験化合物として、参考例2の化合物Dを用いた。試験化合物に含まれる化合物Cの含有率は、5039ppmである。
試験化合物をN,N−ジメチルホルムアミドに加熱溶解させた後、水を加えて化合物Dの結晶を製造した(実施例2および3)。
化合物Dに含まれる化合物Cの含有率をHPLCを用いて測定した。
結果を以下に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
A型結晶の化合物Cの除去率は、99%であり、B型結晶の除去率は、77%であった。A型結晶およびB型結晶は、化合物Dに含有される化合物Cを効率的に除去した。特に、A型結晶は、化合物Cを効率的に除去した。
【0065】
参考例1

特開2010-241806号公報の実施例1に記載の方法に準じて行った。
水酸化ナトリウム13.7g、85%リン酸19.7gおよび水600mLを混合し、リン酸緩衝液を得た。このリン酸緩衝液にアミノマロンアミド100gを加え、20〜30℃で水酸化ナトリウム34.2gの水105mL溶液および40%グリオキサール水溶液130gを1時間かけて同時に加え、同温度で30分間撹拌した。反応混合物に濃塩酸25mLを加え、85℃に加熱し、濃塩酸60mLを加え、15℃に冷却した。固形物を濾取し、褐色固体の3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミド(化合物C)118gを得た。
得られた化合物Cは、水和物であった。
水分:8.5%
1H-NMR(DMSO-d6)δ値:7.88-8.10(3H,m),8.69(1H,s).
赤外吸収スペクトルを図9に示す。
粉末X線回折のパターンを図10および表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
参考例2

特許文献3の実施例1に記載の方法に準じて行った。
参考例1で得られた化合物C30.0gのN,N−ジメチルホルムアミド75mL懸濁液にピリジン28.3gを加えた後、80〜100℃で臭素41.4gを加え、同温度で3時間撹拌した。60〜70℃で反応混合物にトルエン15mLおよび水120mLを加え、10℃に冷却した。固形物を濾取し、褐色固体の化合物DのB型結晶30.5g(純度:99.4%)を得た。
1H-NMR(CDCl3)δ値:7.88-8.10(3H,m),8.69(1H,s).
赤外吸収スペクトルおよび粉末X線回折のパターンは、実施例3と同様であった。
化合物DのB型結晶に含まれる化合物Cの含有率をHPLCを用いて測定した。化合物Cの含有率は、5039ppmであった。
【0068】
実施例1

参考例1に記載の方法で得られた化合物Cの水和物10.0g、ピリジン9.2mLおよびN,N−ジメチルホルムアミド24mLの混合物を70℃で1時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、固形物を濾取し、化合物Cの無水物8.5gを得た。
水分:0.12%
赤外吸収スペクトルを図7に示す。
粉末X線回折のパターンを図8および表5に示す。
【0069】
【表5】
【0070】
実施例2

参考例2に記載の方法で得られた化合物DのB型結晶20.0gのN,N−ジメチルホルムアミド50mL懸濁液に50℃で活性炭素0.2gを加え、同温度で30分間撹拌した。同温度で不溶物を濾去し、濾滓をN,N−ジメチルホルムアミド10mLで洗浄した。濾液と洗液を併せ、50℃で水60mLを加えた後、1時間30分間を要して10℃まで冷却した。固形物を濾取し、化合物DのA型結晶17.3gを得た。
化合物DのA型結晶に含まれる化合物Cの含有率をHPLCを用いて測定した。化合物Cの含有率は、54ppmであった。
赤外吸収スペクトルを図1に示す。
粉末X線回折のパターンを図2および表6に示す。
【0071】
【表6】
【0072】
実施例3

参考例2に記載の方法で得られた化合物DのB型結晶20.0gのN,N−ジメチルホルムアミド50mL懸濁液に50℃で活性炭素1.0gを加え、同温度で40分間撹拌した。同温度で不溶物を濾去し、濾滓をN,N−ジメチルホルムアミド10mLで洗浄した。濾液と洗液を併せ、50℃で水60mLを加えた後、1時間30分間を要して10℃まで冷却した。固形物を濾取し、化合物DのB型結晶18.4gを得た。
化合物DのB型結晶に含まれる化合物Cの含有率をHPLCを用いて測定した。化合物Cの含有率は、1164ppmであった。
赤外吸収スペクトルを図3に示す。
粉末X線回折のパターンを図4および表7に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
実施例4

化合物Cの無水物101gのN,N−ジメチルホルムアミド253mL懸濁液にピリジン91.9gを加えた後、65〜88℃で臭素142gを加え、同温度で1時間30分間撹拌した。反応混合物を5分割した。そのうちの一つに、70〜75℃でトルエン100mLを加えた後、38〜45℃で水80mLを加え、10℃に冷却した。固形物を濾取し、褐色固体の化合物DのA型結晶26.1gを得た。
赤外吸収スペクトルおよび粉末X線回折のパターンは、実施例2と同様であった。
化合物DのA型結晶に含まれる化合物Cの含有率をHPLCを用いて測定した。化合物Cの含有率は、100ppm未満であった。
【0075】
実施例5

実施例4に記載の方法で得られた化合物DのA型結晶26.1gの水120mL懸濁液に、室温で25%水酸化ナトリウム水溶液12mLを加えた。反応混合物に活性炭素1.00gを加え、60〜65℃で45分間撹拌した。不溶物を濾去した後、60〜63℃で塩酸8.2mLを加えた。反応混合物を室温まで冷却し、2〜10℃で1時間撹拌した。固形物を濾取し、化合物DのB型結晶19.2gを得た。
赤外吸収スペクトルおよび粉末X線回折のパターンは、実施例3と同様であった。
化合物DのB型結晶に含まれる化合物Cの含有率をHPLCを用いて測定した。化合物Cの含有率は、50ppm未満であった。
【0076】
実施例6

実施例2に記載の方法で得られた化合物DのA型結晶を用いて、特許第5550347号公報および特許第5559604号公報に記載の方法に従って、6−フルオロ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミド(化合物A)を得た。
得られた化合物Aに含まれる化合物Cの含有率は、5ppm未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の6−ブロモ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの製造方法は、不純物の含有率が極めて少ない6−フルオロ−3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの製造のための原料の製造方法として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10