【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、請求項1に記載の、少なくとも2つのセンサ素子を用いて測定区間に沿った発信磁石の直線的な相対運動を非接触で磁気的に検出するためのセンサにより解決される。該センサでは、前記センサ素子の各々が前記発信磁石の磁場の互いに垂直な2つの成分を検出し、該センサ素子及びセンサは前記測定区間よりも短く、第1の成分が軸方向成分であり、第2の成分が半径方向成分であり、評価ユニットが設けられ、各センサ素子の軸方向成分と各センサ素子の半径方向成分が前記評価ユニットにおいて数学的な関数によって評価可能であり、該数学的な関数は(半径方向成分/軸方向成分)の逆正接又は(軸方向成分/半径方向成分)の逆正接であり、これにより、前記測定区間に沿った前記発信磁石の位置毎に或る値域の1つの値を持つ、部分毎に単調な位置信号がそれぞれ生成され、前記評価ユニットは、前記測定区間の少なくとも1つの領域における各々の位置信号を一定の補正値で補正することで、前記測定区間全体にわたって単調な値域を有する、各時点で単調な位置信号を生成するように構成されている。
【0012】
本発明では、2つの磁場方向が位置特定用の2つのセンサ素子の各々を用いて評価される。各センサ素子は、チップ面内における2つの互いに垂直な磁場成分を測定することができる。その際、2つの成分つまり磁場成分の商の逆正接を求めることで位置を計算する。
【0013】
各センサ素子は発信磁石の磁場の互いに垂直な2つの成分を検出する。これらの成分はシリンダの全長乃至は測定範囲全体にわたって検出される。従って、センサ素子及びセンサは測定区間よりも短くてもよい。
【0014】
軸方向成分と半径方向成分は測定区間に沿って2つの異なる信号推移を示す。それらを組み合わせることで発信磁石の正確な位置に関する一義的な情報が得られる。
【0015】
評価ユニットは軸方向成分と半径方向成分を数学的な関数によって評価するようになっている。その数学的な関数は商(半径方向成分/軸方向成分)のARCTAN又は商(軸方向成分/半径方向成分)のARCTANである。
【0016】
これにより、まず、測定区間に沿った発信磁石の位置毎に或る値域の1つの値を持つ、部分毎に単調な位置信号が生成される。ただし、ピストン行程が十分に大きい場合、つまり測定範囲が十分に大きい場合、その信号にはなお不連続点がある。逆正接の計算結果におけるこの不連続性は値域がπ/2から−π/2までに限定されていることから生じる。
【0017】
逆正接のこの限定を避けるため、測定区間の少なくとも1つの領域における計算結果つまり位置信号を一定の補正値で補正することで、測定区間全体にわたって単調な値域を有する単調な位置信号を生成する。
【0018】
本発明では、発信磁石が例えば軸方向又は直径方向のいずれに磁化されていてもよい。
【0019】
本発明に係るセンサは従来技術に比べてはるかに低コストである。
【0020】
磁場パラメータを決定するための更に別の基準として2つの磁場センサの磁場変化率の比が用いられる。そのためには磁石が動く必要がある。出力信号の線形性を更に改善するため、磁場の湾曲の測定法についても説明する。
【0021】
様々なシリンダ又は磁石構成に測定範囲を適応させるため、センサ素子の間隔を変えてもよい。
【0022】
本発明の発展形態では、センサ素子がTMR技術に基づく角度センサである。
【0023】
トンネル磁気抵抗(tunnel magnetoresistance、TMR)又はTMR効果は、磁気トンネル接合(magnetic tunnel junction、MTJ)において生じる磁気抵抗効果である。これは、薄い絶縁体で分離された2層の強磁性体から成る部品に関係している。絶縁層が十分に薄い(典型的には数ナノメートル)場合、電子が2つの強磁性体の間を通り抜けることができる。角度センサの場合、半径方向及び軸方向の磁場成分を測定するために、2つの部品を互いに垂直に配置する。
【0024】
TMR角度センサは信号ノイズが非常に少ない。またTMR角度センサは磁場が非常に弱くても十分な信号を生成する。従って、とりわけ外縁領域において非常に高い解像度が得られる。TMR角度センサは特に磁場強度が低い場合に非常に感度が良く、これもまた解像度にとって有利に作用する。TMR技術に基づく角度センサはブリッジ抵抗が極めて大きいため、電流消費がマイクロアンペア領域にあるというだけでも有利である。
【0025】
加えて、この角度センサの信号の振れ幅は磁場強度に依存していない。従って、3次元ホールセンサに比べて磁場成分の総量が利用されないこともあり得る。
【0026】
TMR角度センサは測定された磁場成分をアナログ電圧として出力するため、該電圧をマイクロコントローラ内の単純なアナログデジタル変換器(ADC)で検出することができる。これは3次元ホール素子の場合のようなデジタルインターフェイスを通じた測定値の読み取りよりもはるかに高速である。このような速度上の利点からセンサの性能にとって重要な2つの利点が得られる。まず、より多くの値で平均値を計算できるため、ノイズ耐性が高まる。同時に、それでもなおスイッチング周波数を高めることができる。なぜなら、アナログ電圧を読み出す際の速度上の利点が非常に大きいからである。
【0027】
本発明の発展形態では、前記センサ素子が、それぞれ少なくとも1つのアナログ出力を備える集積部品であり、前記評価ユニットが、統合されたアナログデジタル変換器を含むマイクロコントローラであり、これにより、軸方向成分及び半径方向成分に対応する値を有する前記アナログ出力に現れる少なくとも1つのアナログ信号を前記評価ユニットにおいてデジタル的に処理することが可能である。
【0028】
これにより、軸方向成分及び半径方向成分に対応する値の非常に高速な信号処理が保証される。この速度上の利点から、センサの性能にとって重要な別の2つの利点が得られる。例えば、より多くの値で平均値を計算できるため、ノイズ耐性が高まる。同時に、それでもなおスイッチング周波数を高めることができる。なぜなら、アナログ信号乃至アナログ電圧を読み出す際の速度上の利点が非常に大きいからである。
【0029】
本発明の発展形態では、前記評価ユニットが、前記測定区間を少なくとも4つの領域に分割するように構成され、該領域の境界がそれぞれ、ARCTANの値域の不連続点、及び、位置信号が最大の勾配を示す位置に少なくともある。
【0030】
特に好ましくは、前記評価ユニットが前記測定区間を6つの領域に分割するように構成され、該領域の2つの追加された境界が、ARCTANの値域の不連続点と前記位置信号が最大の勾配を示す位置との間に設けられる。
【0031】
また特に好ましくは、7つの領域が形成され、その7番目の領域が、中央において、両方のセンサ素子のARCTAN関数の値域の中央の不連続点が並んでいる位置に形成されている。
【0032】
領域を形成することで、位置信号を個々の領域においてそれぞれ個別に分析し、位置信号の領域をそれぞれ個別に補正することができる。補正係数は例えば−π、+π及び/又はゼロである。
【0033】
本発明の発展形態では、軸方向成分の値と半径方向成分の値がそれぞれ異なる重み付け係数で重み付けされ、該重み付け係数が特に2の累乗に相当する。
【0034】
これにより磁場成分がより良好に区別され、より良好に認識される。
【0035】
本発明の発展形態では、前記評価ユニットが、前記軸方向成分の値と前記半径方向成分の値の重み付け係数を領域毎に加算することで重み付け係数和を算出するように構成されている。
【0036】
重み付け係数和を算出することで、殆どの場合、磁化方向と極性の割り当てをより良好に行うことが可能となる。ただし、その割り当てはまだいかなる場合でも一義的であるわけではない。
【0037】
好ましい実施形態では、前記評価ユニットが、|Bxn−Bxn-1|+|Byn−Byn-1|という式により、つまり各磁場成分の2つの相前後する値の絶対差の和により、磁場勾配の比を算出するように構成されている。
【0038】
磁場勾配の比を算出することで、磁化方向と極性の割り当てがいかなる場合でも一義的になる。
【0039】
好ましくは、前記評価ユニットが、第1のセンサの第1の磁場勾配と第2のセンサの第2の磁場勾配の商を算出するように構成され、該商が勾配の等級を作るために等級分け可能である。
【0040】
この磁場勾配の特定は、立体的な割り当てがないため、磁石の移動速度と磁場の向きに依存する。これら2つの影響因子を除去するため、第1のセンサ素子及び第2のセンサ素子の両方の勾配値の比を算出する。その際、大きい方の値が分子として、小さい方の値が分母として常に用いられる。従って商は最小値として1をとることができる。ただし、その商は、2つの勾配値の少なくとも一方がノイズの上限よりはるかに高い所定の最小値を超えている場合にのみ算出される。この商は更に分類され、解釈される。
【0041】
本発明の発展形態では、前記評価ユニットが、少なくとも前記重み付け係数和と前記勾配の等級から極性を特定するように構成されている。
【0042】
これは2つのケースに分けられる。第1のケースでは磁化が軸方向に向いているものと仮定される。シリンダの90%超で軸方向に磁化された磁石が使用されているため、単純化した場合には磁化が軸方向であると仮定することができる。この場合、磁石の極性は、静止状態であっても、領域1、3、4、5及び7における重みの和から直接特定することができる。領域2及び6における極性を特定するには更に勾配の等級も考慮する必要がある。つまり、磁石が動く必要がある。
【0043】
磁化が既知であると仮定しない場合、磁石が動けば、領域2、4及び6における磁石の構成を特定することができる。
【0044】
本発明の発展形態では、前記評価ユニットが、特定された極性、ARCTAN、及び半径方向成分の符号に基づいて、前記測定区間の少なくとも1つの領域において前記位置信号を一定の補正値で補正することで、前記測定区間全体にわたって単調な値域を有する単調な位置信号を生成するように構成されている。補正係数は例えば−π、+π及び/又はゼロである。
【0045】
好ましい実施形態では、前記評価ユニットが、補正された位置信号を3次の多項式で近似するように構成されている。
【0046】
直径方向に磁化された磁石の場合は、各々の評価の前に予め軸方向成分と半径方向成分を入れ替えなければならない。ただし、得られる出力信号はより良好に線形化することができる。その出力曲線は3次の多項式フィッティングにより良好に近似できる。その係数は曲線の湾曲を表す。係数は以下のように決められる。まず、第1のセンサ素子1に対して3つの重要な点が定められる。
【0047】
基準係数点は2つのセンサ素子が逆符号で同じ大きさの結果を出力しているときの到達点である。制御点は一方のセンサ素子がゼロ交差の状態にあるときの到達点である。
【0048】
そして、線形性の最適化のために、例えば曲線ができるだけ良好に近似されるような3次の補整多項式の係数a及びbを求める。
【0049】
以下、本発明について、更なる利点及び特徴をも考慮しつつ、模範的な実施形態に基づき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。