特許第6705872号(P6705872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6705872-カチオン伝導性ポリマー 図000039
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705872
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】カチオン伝導性ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/48 20060101AFI20200525BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
   C08G65/48
   !H01B1/06 A
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-174263(P2018-174263)
(22)【出願日】2018年9月18日
(65)【公開番号】特開2020-2335(P2020-2335A)
(43)【公開日】2020年1月9日
【審査請求日】2018年10月3日
(31)【優先権主張番号】107121969
(32)【優先日】2018年6月26日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】505171997
【氏名又は名称】國立中山大學
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 文堯
(72)【発明者】
【氏名】李 旭峰
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2017/0214075(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式1で表され、
【化1】

式中、Xは以下の化学式2〜4から選択され、
【化2】

【化3】

【化4】

Yは化学式5〜7から選択され、
【化5】

【化6】

【化7】
iは1以上の整数であり、jは1以上の整数である構造を各々有し、複数の重複する単位を含む、カチオン伝導性ポリマー。
【請求項2】
前記iは1から10の整数であり、前記jは1から10の整数であることを特徴とする、請求項1に記載のカチオン伝導性ポリマー。
【請求項3】
各前記重複する単位は2から4つのスルホン酸基(−SO3H)を有することを特徴とする、請求項1に記載のカチオン伝導性ポリマー。
【請求項4】
以下の化学式10(SP1ポリマー)で表され、
(SP1ポリマー)
【化10】

中、化学式1の式中のXの側鎖として示された4つののうち少なくとも1つはスルホン酸基(−SO3H)であり、同じく化学式1の式中のYの側鎖として示された2つのRのうち少なくとも1つはスルホン酸基(−SO3H)であり、前記4つのR及び前記2つのRのうちスルホン酸基(−SO3H)でないものは水素(H)であり、nは2以上の整数である構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のカチオン伝導性ポリマー。
【請求項5】
以下の化学式11(SP2ポリマー)で表され、
(SP2ポリマー)
【化11】

式中、化学式1の式中のXの側鎖として示された4つののうち少なくとも1つはスルホン酸基(−SO3H)であり、同じく化学式1の式中のYの側鎖として示された3つのRのうち少なくとも1つはスルホン酸基(−SO3H)であり、前記4つのR及び前記3つのRのうちスルホン酸基(−SO3H)でないものは水素(H)であり、nは2以上の整数である構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のカチオン伝導性ポリマー。
【請求項6】
以下の化学式12(SP3ポリマー)で表され、
(SP3ポリマー)
【化12】

式中、化学式1の式中のXの側鎖として示された4つののうち少なくとも1つはスルホン酸基(−SO3H)であり、同じく化学式1の式中のYの側鎖として示された4つのRのうち少なくとも1つはスルホン酸基(−SO3H)であり、各前記4つのRのうちスルホン酸基(−SO3H)でないものは水素(H)であり、nは2以上の整数である構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のカチオン伝導性ポリマー。
【請求項7】
各前記重複する単位は2から4つのスルホン酸基(−SO3H)を有することを特徴とする、請求項4から6の何れか1項に記載のカチオン伝導性ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーに関する。更に詳しくは、良好な物理化学的安定性、親水性、及び導電性を有するカチオン伝導性ポリマー(cation-conducting polymer)に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気化学反応を利用して、燃料中の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換させる。イオン交換膜燃料電池(proton exchange member fuel cell、PEMFC)はよくある燃料電池システムの1つである。
イオン交換膜燃料電池は水素を燃料とし、反応後には水及び熱エネルギーのみが生成されるため、いかなる環境汚染も招かない。
【0003】
イオン交換膜燃料電池システムにおいて、陽極に供給される水素は、ガス拡散層を経て触媒層に拡散され、且つ触媒層の白金(Pt)の触媒作用により陽子(H+)及び電子(e-)が生成される。
電子は外部回路を経由して陰極に伝送され、陽子はイオン交換膜を経て陰極端の触媒層に伝送される。
また、陰極に供給される酸素及び陰極に伝送される電子が還元反応を発生させることにより水が生成される。
陽極反応式は「H2→2H++2e-」と表され、陰極反応式は「4H++4e-+O2→2H2O」と表され、総反応式は「2H2+O2→2H2O」と表される。
公知の先行技術文献としては、例えば特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】台湾特許第527842号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオン交換膜は、イオン交換膜燃料電池システムにおける最重要部材であり、燃料電池の性能及び寿命に直接影響を及ぼす。
市場でよくあるイオン交換膜はデュポン社製のナフィオン(Nafion、登録商標)を主とする。これは、パーフルオロスルホン酸アイオノマー(perfluorosulfonic acid ionomer、PFSA)に属する。
Nafion(登録商標)は高いプロトン伝導性及び60000時間以上の耐用年数等の長所を有するが、但し、以下の欠点も存在する。
(1)高温低湿度の環境では水分子を保留できず、プロトン伝導性が低下する。
(2)ガラス転移温度(Tg)が低すぎるため、高温環境では使用できない。
(3)価格が高い。
(4)環境汚染に繋がる。
ゆえに、現在イオン交換膜の研究開発の多くはNafion(登録商標)を代替する方向へと発展している。
【0006】
また、特許文献1に記載されているフッ素含有スルホン化ポリ芳香族エーテルポリマーは、1から6個のフルオロ基(−F)またはトリフルオロメチル基(−CF3)を有するフッ素含有モノマー及び多重フェニルモノマーが求核性重縮合反応を経ることで形成される。
然しながら、フッ素含有モノマーは親水性及び導電性に影響を及ぼすため、上述のフッ素含有スルホン化ポリ芳香族エーテルポリマーは燃料電池のイオン交換膜への応用に不利であった。
【0007】
そこで、本発明者は、上記の欠点が改善可能と考え、鋭意検討を重ねた結果、合理的設計で上記の課題を効果的に改善する、本発明の提案に到った。
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものである。上記課題解決のため、本発明は、カチオン伝導性ポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、上記目的を達成するための本発明の諸態様は、以下のとおりである。
本発明に係るカチオン伝導性ポリマーは、以下の化学式1で表され、化学式2〜で表される構造を各々有する複数の重複する単位を含む。
【化1】
【0010】
式中、Xは
【化2】
【化3】
【化4】
から選択される。
【0011】
Yは
【化5】
【化6】
【化7】
から選択される。
式中、iは1以上の整数であり、jは1以上の整数である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカチオン伝導性ポリマーは良好な物理化学的安定性、親水性、及び導電性を有し、塗布形成される薄膜をイオン交換膜として燃料電池システムに応用される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るカチオン伝導性ポリマーの実施形態を例示する合成スキームである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【0015】
本発明のカチオン伝導性ポリマーは、以下の化学式10で表され、化学式11〜16で表される構造を各々有する複数の重複する単位を含む。
【化10】
【0016】
式中、Xは
【化11】
【化12】
【化13】
から選択される。
【0017】
Yは
【化14】
【化15】

【化16】
から選択される。
式中、SO3Hは親水性スルホン酸基であり、iは1以上の整数であり、jは1以上の整数である。
好ましくは、iは1から10の整数であり、jは1から10の整数である。
より好ましくは、i及びjの合計は2から4の整数であり、即ち、各前記重複する単位は2から4つのスルホン酸基を有する。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例として以下の化学式19(P1ポリマー)、化学式20(P2ポリマー)、化学式21(P3ポリマー)を参照する。
(P1ポリマー)
【化19】
(P2ポリマー)
【化20】
(P3ポリマー)
【化21】
【0019】
P1ポリマー、P2ポリマー、及びP3ポリマーは未スルホン化カチオン伝導性ポリマーであり、式中、nは2以上の整数である。
本実施例においては、化学式22で表されるジフルオロモノマー
【化22】
と、化学式23、24、25で表される異なるジオールモノマー
【化23】
【化24】
【化25】
とが求核性重縮合反応を経た後に、P1ポリマー、P2ポリマー、及びP3ポリマーがそれぞれ獲得される。
【0020】
P2ポリマーを例とする以下の表1を参照する。P2ポリマーは分子量に基づいて高分子量ポリマーP2−H、中分子量ポリマーP2−M、及び低分子量ポリマーP2−Lに分けられる。以下の表1は、分子量がそれぞれ異なるP2ポリマーの量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分散度(polymer dispersity index、PDI、Mw/Mn)を表示する。
【0021】
【表1】
【0022】
P1、P2、及びP3ポリマー(化学式19、20、21)がスルホン化された後に、以下の化学式26、27、28に示すSP1、SP2、及びSP3ポリマーがそれぞれ獲得される。
【0023】
(SP1ポリマー)
【化26】
(SP2ポリマー)
【化27】
(SP3ポリマー)
【化28】
【0024】
nは2以上の整数であり、Rは水素(H)またはスルホン酸基(−SO3H)である。好ましくは、SP1、SP2、及びSP3ポリマー中の各重複する単位は2から4つのスルホン酸基を有する。
【0025】
図1はSP2ポリマーを例とする。
ジフルオロモノマーa及びジオールモノマーbが求核性重縮合反応を経るとP2ポリマーが生成される。
P2ポリマーがジクロロメタン(dichloromethane)に溶解され、且つ窒素環境下でクロロスルホン酸(chlorosulfonic acid)が滴下されてスルホン化され、反応が完成した後に生成物が水中に入れられて、濾過されると共に中性になるように洗浄される。
最後に、生成物が真空乾燥されるとSP2ポリマーが獲得される。表2はSP1、SP2、及びSP3ポリマーの試験データを表示する。
【0026】
【表2】
【0027】
酸化安定性は、薄膜サンプルが80℃のフェントン試薬(Fenton' reagent, 2ppm FeSO4 in 3% H22 solution)中に1時間浸され、処理前後のサンプルの重量の差異に基づいてサンプルの残余重量が計算される。
寸法安定性は、サンプル薄膜が80・Cの水中に24時間浸された後、処理前後の薄膜の寸法の差異(長さ、幅、及び厚さ)に基づいて計算された。
プロトン伝導性は、高温高湿度の環境(80℃、95%の相対湿度)で伝導性試験を行い、試験結果からは、SP1、SP2、及びSP3ポリマーが良好な酸化安定性、寸法安定性、及びプロトン伝導性を有することが分かった。
表3は分子量が異なるSP2−H、SP2−M、及びSP2−Lポリマーとデュポン社のナフィオンNafion 211(DuPont(登録商標)、Nafion(登録商標)、PFSA NR-211)との性質を比較した表である。
【0028】
【表3】
【0029】
熱分解温度(Td5%)はサンプルの重量が5%失われた際の温度である。SP2ポリマーのTd5%は252℃から266℃の間の範囲であり、良好な熱安定性を有する。
酸化安定性試験は、薄膜サンプルが80℃のフェントン試薬(Fenton' reagent, 2ppm FeSO4 in 3% H22 solution)中に1時間浸され、処理前後のサンプルの重量の差異に基づいてサンプルの残余重量が計算される。SP2ポリマーは酸化処理を経た後にも90%以上の残余重量を保留しており、良好な酸化安定性を有する。
寸法安定性及び吸水率試験は、薄膜サンプルが80℃の水中に24時間浸され、浸漬前後の薄膜の長さ及び厚さの差異に基づいてその変化率が計算され、且つ浸漬前後の薄膜の重量の差異に基づいてその吸水率が計算される。SP2ポリマーの吸水率は84%から146%の間の範囲であり、Nafion(登録商標)より明らかに高いが、但し、寸法変化率は吸水率に連れて明確に高まることはなかった。よって、Nafion(登録商標) 211と比較すると、SP2ポリマーは高温の水中では膨潤現象が減少する。
イオン交換容量は、酸塩基滴定法による試験を行い、サンプルのスルホン化程度を判断させる。
プロトン伝導性はスルホン化程度の進行に連れて向上し、試験結果に基づくと、SP2ポリマーのイオン交換容量及びプロトン伝導性は共にNafion(登録商標) 211より高く、予期した通りの結果となる。
【0030】
上述の試験結果によると、本発明に係る前記カチオン伝導性ポリマーは良好な熱安定性、酸化安定性、寸法安定性、イオン交換容量、及びプロトン伝導性を有する。よって、塗布形成される薄膜をイオン交換膜として燃料電池システムに応用可能である。
【0031】
本発明に係る前記カチオン伝導性ポリマー構造のトリフルオロメチル基(CF3)が芳香環を活性化させるため、トリフルオロメチル基を有する芳香環はスルホン化されずに疎水性末端となり、スルホン化される他の芳香環は親水性末端となり、構造の親疎水性末端により、前記カチオン伝導性ポリマーが好ましいミクロ相分離形態を形成する。
また、多重フェニル構造及びトリフルオロメチル基によりポリマーの溶解度が向上し、長鎖構造を有する高分子量ポリマーの形成に有利になり、前記カチオン伝導性ポリマーが高い分子鎖凝集により良好な物理的架橋結合を形成するため、塗布形成される薄膜が膨潤しにくくなり、且つ高い自由体積を有する。
よって、本発明に係る前記カチオン伝導性ポリマーは良好な機械的性質及び寸法安定性を有する。
【0032】
上述の実施形態は本発明の技術思想及び特徴を説明するためのものにすぎず、当該技術分野を熟知する者に本発明の内容を理解させると共にこれをもって実施させることを目的とし、本発明の特許請求の範囲を限定するものではない。従って、本発明の精神を逸脱せずに行う各種の同様の効果をもつ改良又は変更は、請求項に含まれるものとする。
図1