(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
部分充電状態で使用される鉛蓄電池であって、二酸化鉛を含有する正極活物質を有する正極板と、金属鉛を含有する負極活物質を有する負極板とが、セパレータを介して複数枚交互に積層された極板群を備え、前記極板群が電解液に浸漬され、化成後の前記正極板の平面度が4.0mm以下であり、
化成後の前記正極板は、前記正極活物質からなる正極活物質層が正極基板の両板面上にそれぞれ配されてなり、前記正極基板の一方の板面上の前記正極活物質層の厚さに対する前記正極基板の他方の板面上の前記正極活物質層の厚さの比が0.67以上1.33以下であり、
化成後の前記正極板が略椀状に湾曲しており、湾曲した前記正極板の凸面の頂点が、前記正極板の鉛直方向中央よりも下方側部分に位置する鉛蓄電池。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0011】
本発明者が鋭意検討した結果、鉛蓄電池の内部抵抗の上昇に関して新たな知見が見出されたので、以下に詳細に説明する。
鉛蓄電池においては、正極板と負極板とがセパレータを介して複数枚交互に積層された極板群が、所定の群圧が負荷された状態で電槽内に収容されている。このとき、極板群の極板間には、充放電反応に必要な電解液の拡散流路やガスの排出流路が必要であるため、ベース面にリブを設けたリブ付きセパレータを極板間に介在させて、電解液の拡散流路やガスの排出流路となる隙間を確保する手法が一般的である。
【0012】
しかしながら、このようなリブ付きセパレータを用いた場合でも、内部抵抗が上昇したまま維持され、下がりにくい場合があった。このような内部抵抗が高止まりした鉛蓄電池について本発明者が調査した結果、極板群を構成する極板が湾曲しており、湾曲した極板の縁部にガスの気泡が引っかかり、極板に付着した状態となっていることが判明した。そして、ガスの気泡が極板に付着した結果、ガスが極板群内に閉じ込められて滞留し、活物質と電解液との接触面積(すなわち、反応が生じる部分の面積)が減少するため、鉛蓄電池の内部抵抗が上昇することが判明した。
【0013】
また、隣接する極板間の距離が湾曲により小さくなるため、ガスが極板間に閉じこめられやすくなり、極板群の外部に出にくいことも分かった。
さらに、極板が湾曲していても内部抵抗が高止まりしない鉛蓄電池が存在することも分かった。この事実から、極板の湾曲の大きさや湾曲の形状によっては、極板群内にガスが滞留しにくい場合があるということが分かった。
【0014】
極板が湾曲する原因は、本発明者の検討により、以下の通りであることが判明した。基板の表面に活物質からなる活物質層を形成し極板を製造する際には、基板の両板面に同一厚さの活物質層を形成しようとするが、両板面に同一厚さの活物質層を形成することは容易ではなく、異なる厚さの活物質層が形成されてしまうこともある。例えば、
図3の例であれば、極板100の基板101の右側の板面101aに形成された活物質層102Aの厚さよりも、左側の板面101bに形成された活物質層102Bの厚さの方が大きい。
【0015】
このように基板101の両板面101a、101bに形成された活物質層102A、102Bの厚さが異なると、
図3に示すように、化成によって極板100が湾曲して、略椀状に変形する。そして、
図3に示すように、活物質層102Bの厚さが大きい方の板面101bが凸面となり、活物質層102Aの厚さが小さい方の板面101aが凹面となるように、極板100が湾曲する。
【0016】
以上の検討結果から、本発明者は、極板の湾曲を抑えれば、化成、充放電等による内部抵抗の上昇が抑制され、内部抵抗を測定する方法により充電状態や劣化状態を正確に判定することが可能な鉛蓄電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池は、二酸化鉛を含有する正極活物質を有する正極板と、金属鉛を含有する負極活物質を有する負極板とが、セパレータを介して複数枚交互に積層された極板群を備え、極板群が電解液に浸漬された鉛蓄電池であり、化成後の正極板の平面度が4.0mm以下であることを特徴とするものである。極板群内の全ての正極板の平面度が4.0mm以下であることが好ましい。
なお、正極板と負極板とでは、化成時に正極板の方が湾曲しやすい。このことから、本発明の目的を達成するためには、正極板の平面度を小さく制御することが重要となる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の構造について、
図1を参照しながら、さらに詳細に説明する。本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極板10と負極板20とがセパレータ30を介して複数枚交互に積層された極板群1を備えている。この極板群1は、その積層方向が水平方向に沿うように(すなわち、正極板10及び負極板20の板面が鉛直方向に沿うように)、図示しない電解液とともに電槽41内に収容され、電槽41内で電解液に浸漬されている。
【0018】
正極板10は、例えば、鉛合金からなる板状格子体の開口部に、二酸化鉛を含有する正極活物質を充填しつつ、鉛合金からなる板状格子体の両板面に、二酸化鉛を含有する正極活物質からなる活物質層を形成したものである。負極板20は、例えば、鉛合金からなる板状格子体の開口部に、金属鉛を含有する負極活物質を充填しつつ、鉛合金からなる板状格子体の両板面に、金属鉛を含有する負極活物質からなる活物質層を形成したものである。正極板10、負極板20の基板である板状格子体は、鋳造法、打ち抜き法、エキスパンド方式で製造することができる。セパレータ30は、例えば、樹脂、ガラス等からなる多孔質の膜状体である。
【0019】
正極板10及び負極板20の上端部には、それぞれ集電耳11、21が形成されており、各正極板10の集電耳11は正極ストラップ13で連結され、各負極板20の集電耳21は負極ストラップ23で連結されている。そして、正極ストラップ13は正極端子15の一端に接続され、負極ストラップ23は負極端子25の一端に接続されており、正極端子15の他端及び負極端子25の他端が、電槽41の開口部を閉塞する蓋43を貫通して、電槽41と蓋43からなる鉛蓄電池のケース体の外部に露出している。
【0020】
このような構造を有する本実施形態に係る鉛蓄電池において、化成後の正極板10の平面度は4.0mm以下とされている。平面度の数値が小さいほど正極板10は平らであり、ガスの気泡が正極板10の表面に付着しにくい。化成後の正極板10の平面度が4.0mm以下であれば、ガスは極板群1の外部に排出されやすくなるので、鉛蓄電池の内部抵抗の上昇が抑制され、内部抵抗を測定する方法により充電状態や劣化状態を正確に判定することが可能となる。
【0021】
化成後の正極板10の平面度を4.0mm以下とする方法は特に限定されるものではなく、化成による湾曲を抑える方法により鉛蓄電池を製造してもよいし、化成により湾曲した正極板10を矯正して平面度を4.0mm以下としてもよい。
前述したように、正極板の両板面に形成した活物質層の厚さが異なると、化成時に正極板に湾曲が生じるので、両板面に略同一厚さの活物質層が形成された正極板を化成に供すれば、湾曲を抑えて平面度を4.0mm以下とすることができる。
【0022】
両板面に同一厚さの活物質層を形成する方法としては、例えば、以下の2つの方法を挙げることができる。第一の方法は、厚さの異なる活物質層が両板面に形成された正極板を、負極板及びセパレータと積層する前に、正極板の厚さの大きい方の活物質層を削って、厚さの小さい方の活物質層と厚さを一致させる方法である。
正極板の両板面に同時に活物質層を形成しようとすると、同一厚さの活物質層を形成することが難しくなるので、第二の方法は、正極活物質のペーストを板状格子体の開口部に片面ずつ充填して活物質層を形成することにより、同一厚さの活物質層を形成する方法である。
【0023】
ただし、化成後の正極板10の平面度が0.5mm未満の場合は、ガスが極板群1の外部に排出されやすくなるものの、極板群1を電槽41内に収容した際に電槽41の内壁面により極板群1に負荷される群圧が不十分となるおそれがある。その結果、正極活物質の軟化や脱落が生じやすくなり、鉛蓄電池の性能や寿命が低下する場合がある。よって、化成後の正極板10の平面度は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0024】
正極板の平面度は、JIS B0419:1991に規定された方法によって測定することができる。すなわち、
図2に示すように、基台の平面上に、正極板の板面と基台の平面とが略平行をなすように、且つ、湾曲した正極板の凸面を上方に向けて正極板を載置して、湾曲した正極板の凸面の頂点(基台の平面から最も離れた部分)と基台の平面との間の距離hを測定する。そして、この距離hから正極板の厚さを差し引いた値を平面度とする。
【0025】
なお、従来の鉛蓄電池においても極板は湾曲しており、平面度が4.0mm以下の極板を有する鉛蓄電池は確認されていなかった。例えば特許文献1の図面には、湾曲していない平らな極板が描画されているが、便宜上、平らに描画されているのであって、実際には極板は平らではなく湾曲していた。また、極板の湾曲によってガスが極板群の内部に閉じ込められ内部抵抗が上昇するという知見は、当業者においても全く知られていなかった。
【0026】
以上のように、本実施形態に係る鉛蓄電池は、化成、定電圧充電等による内部抵抗の上昇が生じにくく、充電後の内部抵抗の低下も早い。また、本実施形態に係る鉛蓄電池は、優れた耐久性と高い充電受入性(充電効率が高く短時間で充電可能)も有している。よって、本実施形態に係る鉛蓄電池は、充電制御車、アイドリングストップ車のような充電制御を行う車両に搭載され且つ主に部分充電状態で用いられる鉛蓄電池として好適である。なお、部分充電状態とは、充電状態が例えば70%超過100%未満の状態である。
【0027】
また、本実施形態に係る鉛蓄電池は、車両の内燃機関を起動する電源としての用途のみならず、電動自動車、電動フォークリフト、電動バス、電動バイク、電動スクータ、小型電動モペッド、ゴルフ用カート、電気機関車等の動力電源としても使用可能である。さらに、本実施形態に係る鉛蓄電池は、照明用電源、予備電源としても使用可能である。あるいは、太陽光発電、風力発電等により発電された電気エネルギーの蓄電装置としても使用可能である。
【0028】
なお、本実施形態に係る鉛蓄電池においては、化成後の負極板の平面度は特に限定されるものではないが、化成後の正極板と同様に平面度は小さくてもよく、例えば4.0mm以下としてもよい。また、化成後の正極板の平面度と化成後の負極板の平面度は、同一であってもよいし異なっていてもよいが、異なっている方が好ましい。例えば、正極板の平面度に対する負極板の平面度の比を、極板群内において平均で50%以上80%以下とすれば、極板群内にガスが滞留しにくく、極板群からのガスの排出が生じやすい。
以下に、本実施形態に係る鉛蓄電池について、さらに詳細に説明する。
【0029】
〔正極板の湾曲の形状について〕
前述したように、正極板の湾曲の形状によっては、極板群内にガスが滞留しにくい場合があり、化成後の正極板が湾曲していても内部抵抗が高止まりしない鉛蓄電池が存在する。例えば、湾曲した正極板の凸面の頂点が、鉛蓄電池内に配されている状態の正極板の鉛直方向中央よりも下方側部分に位置するような湾曲形状であれば、ガスの気泡の出口となる鉛直方向中央よりも上方側部分の湾曲度合いは小さいと言えるので、ガスは極板群内に滞留しにくい。
【0030】
すなわち、ガスの気泡が極板群から外部に排出される際の出口となる部分である、正極板の鉛直方向中央よりも上方側部分の湾曲度合いが小さければ、ガスは極板群内に滞留しにくく排出されやすいので、鉛蓄電池の内部抵抗の上昇が抑制される。よって、化成後の正極板のうち、鉛直方向中央よりも上方側部分の平面度が4.0mm以下であれば、鉛蓄電池の内部抵抗の上昇が抑制されるという効果が奏される。
【0031】
〔正極活物質の密度について〕
正極板が有する正極活物質の密度は特に限定されるものではないが、4.2g/cm
3以上4.6g/cm
3以下であることが好ましく、4.4g/cm
3以上4.6g/cm
3以下であることがより好ましい。正極活物質の密度が上記数値範囲内であれば、正極活物質の軟化や脱落が生じにくいので、鉛蓄電池の寿命が向上するという効果が奏される。
【0032】
〔電解液について〕
電解液の組成は特に限定されるものではなく、一般的な鉛蓄電池に使用される電解液を問題なく適用することができるが、鉛蓄電池の充電受入性を優れたものとするためには、電解液にアルミニウムが含有されていることが好ましく、電解液中のアルミニウムイオンの含有量は0.01モル/L以上とすることが好ましい。ただし、電解液中のアルミニウムイオンの含有量が高いと、ガスが極板群から外部に排出されにくくなるため、電解液中のアルミニウムイオンの含有量は0.3モル/L以下とすることが好ましい。
また、電解液はナトリウムイオンを含有していてもよい。電解液中のナトリウムイオンの含有量は、0.002モル/L以上0.05モル/L以下とすることができる。
【0033】
〔極板群に負荷される群圧について〕
前述したように、極板群を電槽内に収容した際には電槽の内壁面により極板群に群圧が負荷されるが、群圧が不十分であると、正極活物質の軟化や脱落が生じやすくなり、鉛蓄電池の性能や寿命が低下する場合がある。一方、群圧が高すぎると、正極活物質中にガスが滞留して、鉛蓄電池の内部抵抗が上昇するおそれがある。よって、極板群に負荷される群圧は10kPa以下とすることが好ましい。
【0034】
〔正極活物質が含有する二酸化鉛について〕
二酸化鉛には、斜方晶系であるα相(α−二酸化鉛)と、正方晶系のβ相(β−二酸化鉛)がある。正極活物質が含有するα−二酸化鉛の質量αとβ−二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)は、20%以上40%以下であることが好ましい。このような構成であれば、電解液の成層化が生じにくいので、鉛蓄電池の寿命が向上するという効果が奏される。
【0035】
α−二酸化鉛は、多孔性に乏しく比表面積が小さいため放電能力が小さいが、結晶の崩壊が極めて徐々に進行するため軟化速度が小さい。一方、β−二酸化鉛は、多孔性に富み比表面積が大きいため放電能力が大きい反面、結晶の崩壊が速く進み軟化速度が大きい。よって、鉛蓄電池の長寿命化と優れた放電能力との両立のためには、正極活物質が含有するα−二酸化鉛の質量αとβ−二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)が20%以上40%以下となるように、正極活物質内にα−二酸化鉛とβ−二酸化鉛が分散していることが好ましい。
【0036】
α−二酸化鉛の質量αとβ−二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)が20%より小さいと、鉛蓄電池の寿命が不十分となるおそれがある。一方、α−二酸化鉛の質量αとβ−二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)が40%より大きいと、鉛蓄電池の容量が低下するおそれがある。
【0037】
〔正極活物質が有する細孔について〕
正極活物質が多孔質である場合は、正極活物質が有する細孔の平均直径は0.07μm以上0.20μm以下であることが好ましく、正極活物質の多孔度は30%以上50%以下であることが好ましい。
【0038】
正極活物質が有する細孔の平均直径が0.07μm未満であると、活物質の利用率が低下するおそれがある。一方、正極活物質が有する細孔の平均直径が0.20μmよりも大きいと、鉛蓄電池の内部抵抗が上昇するおそれがある。また、正極活物質の軟化が生じやすくなるおそれがある。正極活物質が有する細孔の平均直径の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば水銀圧入法によって測定することができる。
【0039】
正極活物質の多孔度が30%未満であると、活物質中に硫酸が浸透しにくくなり、活物質の利用率が低下するおそれがある。一方、正極活物質の多孔度が50%超過であると、活物質の密度が低下するため、寿命が低下するおそれがある。
正極活物質の多孔度の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば水銀圧入法によって測定することができる。
【0040】
〔正極板の表面の表面粗さRaについて〕
正極板の表面の表面粗さRaは特に限定されるものではないが、0.20mm以下であることが好ましい。正極板の表面の表面粗さRaが0.20mmよりも大きいと、正極板の表面の凹凸の凹部内にガスが滞留しやすくなるため、内部抵抗が上昇するおそれがある。ただし、正極板の表面の表面粗さRaが0.05mm未満であると、充電時に正極板の表面で生成する硫酸の沈降速度が速くなり、電解液の成層化が生じやすくなるおそれがある。
【0041】
〔隣接する正極板と負極板との間の距離について〕
極板群内において隣接する正極板と負極板との間の距離は、特に限定されるものではないが、いずれの極板間においても0.60mm以上0.90mm以下であることが好ましい。
【0042】
隣接する正極板と負極板との間の距離が0.60mm未満であると、極板間に存在する硫酸の量が少なくなるので、鉛蓄電池の容量が低下するおそれがある。一方、隣接する正極板と負極板との間の距離が0.90mmよりも大きいと、液抵抗が大きくなり、鉛蓄電池の内部抵抗が上昇するおそれがある。また、ガスの滞留により、鉛蓄電池の内部抵抗が上昇するおそれがある。
なお、隣接する正極板と負極板との間の距離は0.60mm以上0.90mm以下であることが好ましいが、本発明においては、極板の板面上のいずれの部位においても、両極板間の距離が0.60mm以上0.90mm以下であることを意味する。
【0043】
〔満充電状態における正極活物質中に含有される鉄の含有量について〕
鉛蓄電池の満充電状態(例えば化成後)における正極活物質中に含有される鉄の含有量は、特に限定されるものではないが、3.5ppm以上20.0ppm以下であることが好ましい。正極活物質中に鉄が含有されていると、正極板上でガスが発生しやすくなる。そして、発生したガスが電解液中を上昇することにより、電解液が撹拌され、成層化が抑制される。鉛蓄電池の満充電状態における正極活物質中に含有される鉄の含有量が上記の範囲内であれば、正極板上で発生するガスの量が電解液の撹拌に対して好適な量となるので、電解液の成層化がより抑制されることとなる。
【0044】
鉛蓄電池の満充電状態における正極活物質中に含有される鉄の含有量が3.5ppm未満であると、正極板上で発生するガスの量が少なくなるため、電解液が十分に撹拌されず、電解液の成層化が生じやすくなるおそれがある。また、鉛蓄電池の製造工程において鉄やステンレス製の製造装置が多く使用されており、これら装置に由来する鉄が混入するため、鉛蓄電池の満充電状態における正極活物質中に含有される鉄の含有量を3.5ppm未満とすることは困難である。
【0045】
例えば、正極活物質のペーストの材料である鉛粉を水や硫酸と混合するミキサーや、ミキサーに材料を供給するためのホッパーなどは、耐酸性のステンレスで形成されることが多い。したがって、鉛蓄電池の満充電状態における正極活物質中に含有される鉄の含有量を3.5ppm未満とするには、鉛蓄電池の製造工程において使用される製造装置を非鉄金属やセラミックス等で形成するか、鉄を除去する工程を追加する必要が生じるため、鉛蓄電池の製造コストの増大につながる。
【0046】
一方、鉛蓄電池の満充電状態における正極活物質中に含有される鉄の含有量が20.0ppm超過であると、電解液の電気分解が促進され、正極板上で発生する酸素ガス等のガスの量が多くなるため、電解液の減液が多くなって鉛蓄電池が短寿命化するとともに、鉛蓄電池の内部抵抗が上昇するおそれがある。さらに、自己放電が促進されるため、電圧の降下量が大きくなるおそれがある。
【0047】
なお、鉛蓄電池内に存在する鉄は、充電時には正極へ、放電時には負極へと、電解液を介して移動を繰り返す(シャトル効果)ので、鉄によるガス発生効果は正極に限定されるものではなく、負極においても生じる。そのため、セパレータが袋状である場合は、正極板及び負極板のいずれを袋状のセパレータ内に収容する構成であっても、同様の電解液撹拌効果が期待できるので、鉛蓄電池の設計の自由度が高まる。
【0048】
〔厚塗り度比について〕
前述したように、極板が湾曲する原因は、極板の両板面に形成された活物質層の厚さの違いである。よって、化成後の正極板の平面度を4.0mm以下とするためには、化成後の正極板の一方の板面に形成された正極活物質の活物質層の厚さに対する化成後の正極板の他方の板面に形成された正極活物質の活物質層の厚さの比(以下「厚塗り度比」と記すこともある)を0.67以上1.33以下とすることが好ましい。
【0049】
図4を用いて説明すると、化成後の正極板100は、板状格子体である正極基板101の開口部101c内に、二酸化鉛を含有する正極活物質を充填しつつ、正極基板101の両板面101a、101b上に、二酸化鉛を含有する正極活物質からなる正極活物質層102A、102Bをそれぞれ形成したものである。そして、正極基板101の一方の板面101a上の正極活物質層102Aの厚さAに対する正極基板101の他方の板面101b上の正極活物質層102Bの厚さBの比B/Aは、0.67以上1.33以下であることが好ましい。
【0050】
なお、化成後の正極活物質の活物質層の厚塗り度比を0.67以上1.33以下とするには、化成前の正極活物質の活物質層の厚塗り度比を0.67以上1.33以下として化成を行えばよい。正極板の化成の過程で正極活物質に体積変化が生じたとしても、正極板の両板面の化成条件が同一条件である限りは、厚塗り度比が化成前後で変化することはない。
【0051】
化成後の正極板の厚塗り度比を上記の数値範囲内とすれば、化成後の正極板の平面度を4.0mm以下とすることが容易である。その結果、ガスは極板群の外部に排出されやすくなるので、鉛蓄電池の内部抵抗の上昇が抑制され、内部抵抗を測定する方法により充電状態や劣化状態を正確に判定することが可能となる。
【0052】
なお、正極活物質の活物質層の厚さとは、正極板の表面と、これに対向する正極基板の板面との間の距離であり、すなわち、正極板の表面に直交する仮想直線のうち、正極板の表面から正極基板の板面までの部分の長さである。正極板の表面は、段差、屈曲、湾曲等がマクロスケール(数十μm〜数mm程度)においては実質的に存在しない一つの平坦な平面である。正極活物質の活物質層の厚さは、正極板の表面と正極基板の板面との間の距離を1箇所測定して得た値でもよいし、正極板の表面と正極基板の板面との間の距離を複数箇所測定して得た値の平均値でもよい。
【0053】
例えば、正極基板として板状格子体を用いた場合には、正極板の表面と、板状格子体の格子網目を形成する縦横の格子骨の表面とが対向するので、正極板の表面と格子骨の表面との間の距離を測定して、その測定値を正極活物質の活物質層の厚さとすればよい。また、板状格子体において格子骨は複数並んでいるので、複数の格子骨において、正極板の表面と格子骨の表面との間の距離を測定し、それら測定値の平均値を正極活物質の活物質層の厚さとしてもよい。
【0054】
また、板状格子体の格子骨の断面形状(格子骨の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)は、基本的には矩形であるので、正極板の表面とこれに対向する格子骨の表面とは平行をなす(
図4を参照)。ただし、エキスパンド方式で製造した板状格子体では、製造過程で板状格子体に捩れや歪みが生じる場合がある。板状格子体に捩れや歪みが生じた場合には、格子骨の表面が正極板の表面に対して傾斜するか又は曲面状となるため、正極板の表面とこれに対向する格子骨の表面とは非平行となる。このような場合には、正極板の表面と格子骨の表面との間の距離は測定箇所によって大きく異なるので、各格子骨において、格子骨の表面と正極板の表面との最短距離を測定し、それらの測定値の平均値を正極活物質の活物質層の厚さとするとよい。
【0055】
本発明における厚塗り度比は、化成後の正極板の一方の板面に形成された正極活物質の活物質層の厚さに対する化成後の正極板の他方の板面に形成された正極活物質の活物質層の厚さの比であり、正極板の両板面のうちいずれの面の正極活物質の活物質層の厚さを分母として算出しても差し支えない。例えば、化成後の正極板を、その両板面が鉛直方向に直交するような姿勢で且つ集電耳が右上側に位置するようにして、平面上に載置した状態において、正極板の両板面のうち上面側の正極活物質の活物質層の厚さを分母とし、下面側の正極活物質の活物質層の厚さを分子として比を算出し、厚塗り度比としてもよい。
【0056】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
まず、Pb−Ca系又はPb−Ca−Sn系の鉛合金からなる板状格子体を、鋳造法又は連続製法で作製し、該板状格子体の所定の位置に集電耳を形成した。連続製法としては、プレス加工機等を用いて鉛合金製の圧延シートを打ち抜く打ち抜き法(パンチング法)を採用した。
【0057】
連続製法で作製された基板(板状格子体)は、鋳造法で作製された基板(板状格子体)と比較して厚さのバラツキが小さい。詳述すると、連続製法で作製された基板の厚さは、予め用意されたシートの厚さに依存するため、鋳造法に比べると製造者の技術レベルや使用する金型の精度の影響が小さく、バラツキが生じにくい。そのため、連続製法で作製された基板を用いて正極板を製造すると、鋳造法で作製された基板を用いた場合よりも、正極板の厚さのバラツキが小さくなり、化成時の正極板の湾曲が抑制される。正極板の厚さのバラツキは小さい方が好ましいが、正極板の厚さのバラツキの度合いを表すパラメータR(詳細は後述する)を10μm以上30μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0058】
次に、一酸化鉛を主成分とする鉛粉を水と希硫酸で混練し、さらに必要に応じて添加剤を混合し練り合わせて、正極活物質のペーストを製造した。同様に、一酸化鉛を主成分とする鉛粉を水と希硫酸で混練し、さらに必要に応じて添加剤を混合し練り合わせて、負極活物質のペーストを製造した。
【0059】
そして、正極活物質のペーストを板状格子体に充填した後に、熟成及び乾燥を行った。同様に、負極活物質のペーストを板状格子体に充填した後に、熟成及び乾燥を行った。上記のようにして作製した正極板と負極板とを、多孔質の合成樹脂からなるセパレータを介在させつつ交互に複数枚積層して、極板群を作製した。この極板群を電槽内に収納し、各正極板の集電耳を正極ストラップで連結し、各負極板の集電耳を負極ストラップで連結した。正極ストラップは正極端子の一端に接続し、負極ストラップは負極端子の一端に接続した。電池サイズはD31とした。群圧はセパレータの厚さによって調整した。
【0060】
さらに、蓋で電槽の開口部を閉塞した。正極端子と負極端子は、蓋を貫通させ、正極端子の他端と負極端子の他端を鉛蓄電池の外部に露出させた。蓋に形成された注液口から電解液を注入し、注液口を栓体により封口して、電槽化成を行った。電解液としては、所定量のアルミニウムイオンを含有する硫酸を用いた。この電解液は、工業硫酸に硫酸アルミニウムを添加することによって調製した。
【0061】
化成により、二酸化鉛を含有する正極活物質の活物質層が極板の両板面に形成された化成済みの正極板と、金属鉛を含有する負極活物質の活物質層が極板の両板面に形成された化成済みの負極板と、を備える鉛蓄電池を得た。
得られた実施例1〜60、比較例1〜39、及び従来例の鉛蓄電池について、種々の測定及び評価を行った。測定及び評価の内容、方法について、以下に説明する。
【0062】
なお、正極板が有する正極活物質の密度は、表1〜4に示す通りである。正極活物質が含有するα−二酸化鉛の質量αとβ−二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)は、30%である。正極活物質が有する細孔の平均直径は0.10μmであり、正極活物質の多孔度は30%である。正極板の表面の表面粗さRaは0.10mmである。隣接する正極板と負極板との間の距離は0.60mmである。電解液は、硫酸アルミニウムを0.1モル/Lの濃度で含有するものを使用した。
【0063】
(正極板の平面度)
化成後の正極板の平面度を測定した。正極板の平面度は、化成前の正極板の両板面に形成された正極活物質の活物質層の厚塗り度比を変更することで調整した。厚塗り度比と平面度は、表1〜4に示す通りである。化成後の正極板の平面度は、以下のようにして測定した。
【0064】
まず、マイクロメータを用いて、正極板の複数箇所において厚さを測定し、その平均値を正極板の厚さとする。次に、
図2に示すように、基台の平面上に、正極板の板面と基台の平面とが略平行をなすように、且つ、湾曲した正極板の凸面を上方に向けて正極板を載置し、ハイトゲージを用いて、湾曲した正極板の凸面の頂点と基台の平面との間の距離hを測定する。そして、この距離hから正極板の厚さを差し引いた値を平面度とする。
【0065】
(正極板の厚さのバラツキの度合い)
化成後の正極板の厚さのバラツキの度合いを、以下のようにして評価した。株式会社ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて、正極板の厚さを測定した。測定箇所は、矩形をなす正極板の角部の近傍部分と中央部分との合計5箇所とした。測定値を下記の数式に代入し、正極板の厚さのバラツキの度合いを表すパラメータR(単位はμm)を算出した。
【0067】
上記の数式中のT
iは正極板の厚さの各測定値、T
aveは正極板の厚さの各測定値から算出した平均値、nは正極板の厚さの測定点数(本例の場合は5)を表す。
厚さのバラツキの評価結果を表1〜4に示す。なお、パラメータRが30μm、50μmである正極板は、鋳造法で製造された基板が用いられたものである。また、パラメータRが10μm、15μmである正極板は、連続製法で製造された基板が用いられたものである。
【0068】
(充電受入性)
雰囲気温度25℃にて、5時間率電流で30分間定電流放電を行い、充電状態(SOC)を90%に調整した後に、電流100A、電圧14.0Vで定電流定電圧充電を60秒間実施した。このとき、定電流定電圧充電の開始5秒後の充電電流を測定し、この充電電流で充電受入性を評価した。
結果を表1〜4に示す。なお、表1〜4に示した充電電流の数値は、従来例の鉛蓄電池の充電電流を100とした場合の相対値である。そして、充電電流が100よりも大きい場合は、充電受入性が優れていると判定した。
【0069】
(電解液の成層化及び電池寿命の評価)
電解液の成層化と電池寿命については、欧州規格(EN規格)のEN 50342−6:2015に記載の17.5%DOD寿命試験によって評価した。すなわち、下記の(1)、(2)、及び(3)に示すような操作を繰り返し行って、電解液の成層化と電池寿命を評価した。
【0070】
(1)満充電状態の鉛蓄電池に対して、雰囲気温度25℃にて、電流4×I
20(I
20は20時間率電流であり、単位はAである)で定電流放電を2.5時間行い、充電状態(SOC)を50%に調整する。
(2)上記充電状態の調整が終了したら、電流7×I
20A、電圧14.4Vで定電流定電圧充電を2400秒間実施し、さらに電流7×I
20Aで定電流放電を1800秒間行うという操作を1サイクルとし、85サイクル繰り返す。
(3)上記85サイクルの操作が終了したら、電流2×I
20A、電圧16Vで定電流定電圧充電を18時間実施し、さらに鉛蓄電池の電圧が10.5Vとなるまで電流I
20Aで定電流放電を行い、さらに電流5×I
20A、電圧16Vで定電流定電圧充電を24時間実施する。
【0071】
これら一連の操作(1)〜(3)を1周期として、鉛蓄電池の電圧を10秒間隔で測定しながら、操作(1)〜(3)を何周期も繰り返し行い、上記周期中の放電時において鉛蓄電池の電圧が10V未満となったら、鉛蓄電池が寿命に至ったと判定した。結果を表1〜4に示す。なお、表1〜4に示した寿命の数値は、従来例の鉛蓄電池の寿命を100とした場合の相対値である。そして、寿命が100よりも大きい場合は、PSOC寿命性能(部分充電状態における寿命)が優れていると判定した。
【0072】
また、上記の電池寿命の評価において鉛蓄電池が寿命に至ったと判定されたら、電解液の上部と下部での比重の差を測定し、その測定値で成層化の状況を評価した。比重の測定は、株式会社MonotaRO製の光学比重計(バッテリークーラントテスター)を用いて行った。結果を表1〜4に示す。なお、表1〜4に示した比重の差の数値は、従来例の鉛蓄電池の比重の差を100とした場合の相対値である。そして、比重の差が小さいほど成層化が抑制されていると判定した。
【0073】
(内部抵抗の上昇の評価)
作製した鉛蓄電池に対して初充電を行った後に、エージングを48時間施した。そして、鉛蓄電池の内部抵抗を測定した。この内部抵抗測定値を、「初期値」とした。
続いて、エージング後の満充電状態の鉛蓄電池に対して定電圧充電を行い、定電圧充電終了直後の内部抵抗を測定した。この内部抵抗測定値を、「充電直後の値」とした。定電圧充電の条件は、最大電流100A、制御電圧14.0V、充電時間10分間である(この鉛蓄電池は、5時間率容量(定格容量)を32Ahとする)。
定電圧充電が終了したら1時間静置し、静置後の内部抵抗を測定した。この内部抵抗測定値を、「静置後の値」とした。
【0074】
これらの結果を表1〜4に示す。内部抵抗の初期値、充電直後の値、静置後の値を用いて、内部抵抗の上昇率を算出した。初期値に対する充電直後の値の上昇率は、([充電直後の値]−[初期値])/[初期値]により算出し、初期値に対する静置後の値の上昇率は、([静置後の値]−[初期値])/[初期値]により算出した。
【0075】
そして、初期値に対する充電直後の値の上昇率が10%以下であるという条件Aと、初期値に対する静置後の値の上昇率が5%以下であるか又は充電直後の値の上昇率に対して静置後の値の上昇率が4%以上低い値であるという条件Bとを両方満たす場合は、内部抵抗の上昇が顕著に抑制されていると判定し、表1〜4においては○印で示した。
【0076】
条件Aと条件Bのいずれか一方の条件のみを満たす場合は、内部抵抗の上昇が十分に抑制されているものの、顕著に抑制されているとまでは言えないと判定し、表1〜4においては△印で示した。条件Aと条件Bのいずれも満たさない場合は、内部抵抗の上昇の抑制が若干不十分又は全く不十分であると判定し、表1〜4においては×印で示してある。
【0077】
さらに、上記した電解液の比重の差の数値(相対値)と、内部抵抗の上昇率の判定結果とを総合して、総合判定を行った。表1〜4においては、電解液の比重の差が90以下であり、且つ、内部抵抗の上昇率の判定結果が○又は△であった場合は○印で示し、それ以外の場合は×印で示した。
【0082】
表1〜4から分かるように、正極板の厚塗り度比B/Aが0.67以上1.33以下である場合は、0.50及び1.50である場合と比べて、正極板の平面度の数値が小さい(湾曲が小さい)ために、成層化が抑制されやすい傾向と内部抵抗の上昇率が低い傾向とがあった。特に、正極板の厚塗り度比B/Aが1.00である場合は、正極板の平面度の数値がより小さくなり、成層化がより生じにくく且つ内部抵抗の上昇率が低かった。正極板上で発生したガスが電解液中を上昇することにより、電解液が撹拌されたため、成層化が抑制されたものと考えられる。
【0083】
また、正極板の厚さのバラツキの度合いを表すパラメータRが小さいと、充電受入性が優れる傾向が見られた。正極板の厚さのバラツキの度合いを表すパラメータRが50μmであると、10μm、15μm、30μmである場合と比べて、充電受入性及びPSOC寿命性能が低い傾向があった。これは、正極板の表面に凹凸が存在することにより、正極板にクラックが発生しやすくなるため、その影響で充電受入性及びPSOC寿命性能が低下すると推測される。また、充電受入性の低下に伴って、成層化も生じやすくなっていると考えられる。
【0084】
さらに、正極活物質の密度が4.4g/cm
3以上4.6g/cm
3以下である場合は、PSOC寿命性能が優れていた。正極活物質の密度が4.3g/cm
3及び4.7g/cm
3である場合は、4.4g/cm
3以上4.6g/cm
3以下である場合と比べて、PSOC寿命性能が低くなる傾向があった。