(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705909
(24)【登録日】2020年5月18日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ブドウの木の組織の細胞培養からステビオシドを用いてビニフェリンを大量生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/22 20060101AFI20200525BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
C12P7/22ZNA
C12N5/04
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-548426(P2018-548426)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公表番号】特表2019-508053(P2019-508053A)
(43)【公表日】2019年3月28日
(86)【国際出願番号】KR2017002187
(87)【国際公開番号】WO2017160010
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2018年9月12日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0030510
(32)【優先日】2016年3月14日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515276624
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】キム、チャヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ユジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソクウォン
(72)【発明者】
【氏名】ロ、ムンチョル
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ヨンベ
(72)【発明者】
【氏名】リー、ウソン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ジェチョル
【審査官】
小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第02256209(EP,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0147886(US,A1)
【文献】
J. Agric. Food Chem.,2011年,Vol. 59,p. 9094-9101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00 − 41/00
C12N 5/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ブドウの木の組織切片をカルス誘導培地に置床してブドウの木のカルスを誘導するステップと、
(b)前記誘導したブドウの木のカルスを増殖培地で培養して増殖するステップと、
(c)前記増殖したカルスにジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びステビオシド(stevioside)を添加して振盪培養するステップとを含む、ブドウの木由来のビニフェリン(viniferin)を大量生産する方法。
【請求項2】
前記ジャスモン酸メチル及びステビオシドは、それぞれ50〜350μM及び40〜60mMの濃度で添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ビニフェリンは、δ−ビニフェリン又はε−ビニフェリンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ジャスモン酸メチル(MeJA)及びステビオシド(stevioside)を有効成分として含有する、ブドウの木のカルスからビニフェリンを大量生産するための組成物。
【請求項5】
50〜350μMのジャスモン酸メチル及び40〜60mMのステビオシドであることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(a)ブドウの木の組織切片をカルス誘導培地に置床してブドウの木のカルスを誘導するステップと、
(b)前記誘導したブドウの木のカルスを増殖培地で培養して増殖するステップと、
(c)前記増殖したカルスにジャスモン酸メチル(MeJA)及びステビオシド(stevioside)を添加して静置培養するステップとを含む、ブドウの木由来のレスベラトロール(resveratrol)を大量生産する方法。
【請求項7】
前記静置培養は、24〜26℃にて4〜7日間静置培養することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウの木の組織の細胞培養からステビオシドを用いてビニフェリンを大量生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主にレスベラトロール化合物で表されるスチルベンは、フェニルアラニンから始まる一般的なフェニルプロパノイド経路に由来する植物二次代謝産物の小さなクラスである。レスベラトロール(resveratrol;3,4',5-transtrihydroxystilbene)は、UV照射やカビ感染などの環境ストレスに対する反応により、ブドウ、ピーナッツ、ベリー類などの一部の植物から生産され、自然に発生するファイトアレキシン(phytoalexin)である。レスベラトロール及びその誘導体は、植物防御反応においてファイトアレキシン及び抗酸化物質として重要な役割を果たすだけでなく、抗癌効果、抗炎症効果、抗腫瘍活性及び抗老化効果をはじめとする多くの有意義な特性を示す。
【0003】
しかし、このように抗癌、抗酸化活性などが知られているレスベラトロールは、その可能性が確認された有望な天然機能性資源であり、今後の様々な研究により機能性食品素材及び新薬素材として活用できるにもかかわらず、いまだ韓国産ブドウ品種を対象にこの物質の含有量を増加させるための栽培生理及び生命工学面での研究はほとんど行われていない。近年、これに関して、レスベラトロールの含有量を増加させる方法として、収穫されたブドウにプラスモパラ・ビチコラ(Plasmopara viticola)菌株を人為的に接種する方法(特許文献1)、収穫後にブドウをUV−C光線で処理する方法(非特許文献1)、又はアルミニウムでブドウを処理する方法(特許文献2)などが開示されているが、これらは全てブドウ収穫後の処理方法又はブドウ栽培時の単処理方法にすぎない。
【0004】
特許文献3には、「環境因子を用いたレスベラトロール高含有ブドウの生産方法」が開示されており、特許文献1には、「ブドウ由来の天然抗癌物質のレスベラトロールの含有量を増加させたレスベラトロール強化ブドウ及びその生産方法」が開示されているが、本発明のように「ブドウの木の組織の細胞培養からステビオシドを用いてビニフェリンを大量生産する方法」については全く開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許第2003−0021976号公報
【特許文献2】米国特許第6834398号明細書
【特許文献3】韓国公開特許第2005−0089492号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Argic Food Chem. 2002 Oct 23;50(22):6322-9; W00200192
【非特許文献2】Kim CY et al. 2010, Physiologia Plantarum 139: 259-261
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような要求に応えるべくなされたものであり、本発明者らは、ブドウ植物体の葯組織由来のカルスから有用物質(スチルベン化合物)を大量に生産する方法を確立するために、ブドウの木の葯組織切片を植物生長調節物質が添加されたMS固体培地に置床、培養してカルスを誘導し、前記誘導したカルスを増殖培地で培養して増殖し、その後前記増殖したカルスを、活性誘導剤としてジャスモン酸メチル、可溶化剤としてステビオシドを含む液体培地で振盪培養した結果、フラスコレベルではレスベラトロールは生産されず、δ−ビニフェリン(δ-viniferin)のみ生産されることが確認され(
図3)、スケールアップ(scale-up)条件であるバイオリアクターレベルではδ−ビニフェリンだけでなく、高価なε−ビニフェリンの生産にも非常に効果的であることが確認された(
図5)。
【0008】
また、前記増殖したカルス培養培地を活性誘導剤及び可溶化剤(ステビオシド)で処理し、その後フラスコレベルで静置培養を行った結果、ビニフェリンは全く生産されず、レスベラトロールのみ生産されること(
図6A)が確認され、振盪培養を行った結果、レスベラトロールは全く生産されず、ビニフェリンのみ生産されること(
図6B)が確認された。
【0009】
本発明によりスチルベンを大量生産することができ、特に、本発明のステビオシドを可溶化剤として用いたブドウの木の組織由来のカルスの培養方法により、δ−ビニフェリンだけでなく、高価なε−ビニフェリンの生産に非常に効果的であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、(a)ブドウの木の組織切片をカルス誘導培地に置床してブドウの木のカルスを誘導するステップと、(b)前記誘導したブドウの木のカルスを増殖培地で培養して増殖するステップと、(c)前記増殖したカルスに活性誘導剤及び可溶化剤を添加して振盪培養するステップとを含む、ブドウの木由来のビニフェリン(viniferin)を大量生産する方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、ジャスモン酸メチル(MeJA)及びステビオシド(stevioside)を有効成分として含有する、ブドウの木のカルスからビニフェリンを大量生産するための組成物を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、(a)ブドウの木の組織切片をカルス誘導培地に置床してブドウの木のカルスを誘導するステップと、(b)前記誘導したブドウの木のカルスを増殖培地で培養して増殖するステップと、(c)前記増殖したカルスにジャスモン酸メチル(MeJA)及びステビオシド(stevioside)を添加して静置培養するステップとを含む、ブドウの木由来のレスベラトロール(resveratrol)を大量生産する方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスチルベンは、抗癌、抗ウイルス、抗炎症、抗老化、抗酸化などの様々な生理活性により健康機能性食品、化粧品、医薬品、染料、及び機能性家畜飼料などに活用されており、特にビニフェリンは、肝臓保護、抗癌、抗酸化及び皮膚美白に効果的であり、低密度リポタンパク質と高密度リポタンパク質の酸化を阻害し、血管平滑筋細胞の増殖と移動を阻害する効果があることが知られている。よって、本発明は、ブドウ植物体の葯組織由来のカルスから有用物質(スチルベン化合物)、とりわけビニフェリンを大量生産するのに非常に有用な方法であり、関連産業において非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のスチルベン類化合物の生成過程を示す図である。チロシン、フェニルアラニンなどのアミノ酸からp−クマル酸(p-coumaric acid)が生成され、4CL(4-coumarate:CoA ligase)によりp−クマロイル−CoAが生成される。これが再びSTS酵素によりレスベラトロールに変換され、オキシダーゼにより酸化されると、2つのレスベラトロールは1つの二量体ビニフェリンとなる。
【
図2】ブドウカルスの細胞培養及び活性誘導剤処理によるレスベラトロール生合成遺伝子(STS、ROMT)の転写発現を分析した結果である。ここで、活性誘導剤としては、MeJA(ジャスモン酸メチル)、ABA(アブシジン酸)、SA(サリチル酸)、エテホン、フラジェリン22(Flg22)、MV(メチルビオロゲン)及びキトサンを用いた。
【
図3】植物液体培養により有用代謝物を大量生産する際の可溶化剤として知られているCD−M(メチル−β−シクロデキストリン)とステビオシドの可溶化及び物質生産効率を比較するために、ブドウカルス培養液を100μMのMeJAと50mMのCD−M(MJ+CD)又は100μMのMeJAと50mMのステビオシド(MJ+Stevioside)で処理して培養し、その後レスベラトロール及びδ−ビニフェリンを抽出し、HPLC分析を行った結果である。また、可溶化剤で処理せずに100μMのMeJA(MJ)でのみ処理して対照区として用いた。
【
図4A】ブドウカルス培養液を100μMのMeJAと50mMのCD−Mで処理し、p−クマル酸(p−cou)及びレスベラトロール(res)を前駆体として用いて可溶化剤処理による生物変換の違いを確認した結果である。
【
図4B】ブドウカルス培養液を100μMのMeJAと50mMのステビオシド(E95)で処理し、p−クマル酸(p−cou)及びレスベラトロール(res)を前駆体として用いて可溶化剤処理による生物変換の違いを確認した結果である。
【
図5】大量培養(バイオリアクターレベル)を行い、その培養液を100μMのMeJA及び50mMのステビオシドで処理して培養し、その後培養液を抽出してδ−ビニフェリン及びε−ビニフェリンの生成をHPLC分析で確認した結果である。
【
図6】本発明によるレスベラトロール及びδ−ビニフェリンの選択的生産方法により生産されたレスベラトロール(A)及びδ−ビニフェリン(B)の生産結果をHPLCで確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明は、(a)ブドウの木の組織切片をカルス誘導培地に置床してブドウの木のカルスを誘導するステップと、(b)前記誘導したブドウの木のカルスを増殖培地で培養して増殖するステップと、(c)前記増殖したカルスに活性誘導剤及び可溶化剤を添加して培養するステップとを含む、ブドウの木由来のビニフェリン(viniferin)を大量生産する方法を提供する。
【0016】
本発明の一実施例による方法において、前記(c)ステップの活性誘導剤は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)、SA(サリチル酸)又はフラジェリン22(Flg22)であってもよく、ジャスモン酸メチルであることがより好ましいが、これらに限定されるものではない。また、可溶化剤は、ステビオシド(stevioside)であってもよいが、これに限定されるものではない。前記ジャスモン酸メチル及びステビオシドは、それぞれ50〜350μM及び40〜60mMの濃度で添加することが好ましく、それぞれ100μM及び50mMの濃度で添加することがより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の一実施例による方法において、前記ビニフェリンは、δ−ビニフェリン又はε−ビニフェリンであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の一実施例による方法において、前記(a)ステップのカルス誘導培地は、生長調節剤として0.05〜0.2mg/LのIAA(インドール−3−酢酸)、0.05〜0.2mg/LのNAA(1−ナフタレン酢酸)、1〜2mg/Lの2,4−D、及び0.2〜0.3mg/Lのカイネチンが添加された培地であってもよく、0.1mg/LのIAA(インドール−3−酢酸)、0.1mg/LのNAA(1−ナフタレン酢酸)、1.5mg/Lの2,4−D、及び0.25mg/Lのカイネチンが添加された培地(表1)であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の一実施例による方法において、前記(b)ステップの増殖培地は、0.5〜2.0mg/Lの2,4−Dが含まれるMS(ムラシゲ・スクーグ)培地であってもよく、1mg/Lの2,4−Dが含まれるMS(ムラシゲ・スクーグ)培地であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の一実施例による方法は、(a)滅菌したブドウの木の組織切片を生長調節剤として0.05〜0.2mg/LのIAA(インドール−3−酢酸)、0.05〜0.2mg/LのNAA(1−ナフタレン酢酸)、1〜2mg/Lの2,4−D、及び0.2〜0.3mg/Lのカイネチンが添加されたカルス誘導培地に置床してブドウの木のカルスを誘導するステップと、(b)前記誘導したブドウの木のカルスを0.5〜2.0mg/Lの2,4−Dを含むMS(ムラシゲ・スクーグ)培地で培養して増殖するステップと、(c)前記増殖したカルスに50〜350μMのジャスモン酸メチル(MeJA)及び40〜60mMのステビオシド(stevioside)を添加し、振盪培養してδ−ビニフェリン又はε−ビニフェリンを大量生産するステップとを含むことが好ましく、(a)滅菌したブドウの木の組織切片を生長調節剤として0.05〜0.2mg/LのIAA(インドール−3−酢酸)、0.05〜0.2mg/LのNAA(1−ナフタレン酢酸)、1〜2mg/Lの2,4−D、及び0.2〜0.3mg/Lのカイネチンが添加されたカルス誘導培地に置床して23〜27℃にて25〜30日間継代培養してブドウの木のカルスを誘導するステップと、(b)前記誘導したブドウの木のカルスを0.5〜2.0mg/Lの2,4−Dを含むMS(ムラシゲ・スクーグ)培地で23〜27℃にて5〜10日間培養して増殖するステップと、(c)前記増殖したカルスに100μMのジャスモン酸メチル(MeJA)及び50mMのステビオシド(stevioside)を添加し、振盪培養してδ−ビニフェリン又はε−ビニフェリンを大量生産するステップとを含むことがより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0021】
また、本発明は、ジャスモン酸メチル(MeJA)及びステビオシド(stevioside)を有効成分として含有する、ブドウの木のカルスからビニフェリンを大量生産するための組成物を提供する。
【0022】
本発明の一実施例による組成物において、前記ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びステビオシド(stevioside)は、それぞれ50〜350μM及び40〜60mMの濃度で添加することが好ましく、それぞれ100μM及び50mMの濃度で添加することがより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の一実施例による組成物において、前記ビニフェリンは、δ−ビニフェリン又はε−ビニフェリンであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0024】
また、本発明は、(a)ブドウの木の組織切片をカルス誘導培地に置床してブドウの木のカルスを誘導するステップと、(b)前記誘導したブドウの木のカルスを増殖培地で培養して増殖するステップと、(c)前記増殖したカルスにジャスモン酸メチル(MeJA)及びステビオシド(stevioside)を添加して静置培養するステップとを含む、ブドウの木由来のレスベラトロール(resveratrol)を大量生産する方法を提供する。
【0025】
本発明の一実施例による方法は、(a)滅菌したブドウの木の組織切片を生長調節剤として0.05〜0.2mg/LのIAA(インドール−3−酢酸)、0.05〜0.2mg/LのNAA(1−ナフタレン酢酸)、1〜2mg/Lの2,4−D、及び0.2〜0.3mg/Lのカイネチンが添加されたカルス誘導培地に置床してブドウの木のカルスを誘導するステップと、(b)前記誘導したブドウの木のカルスを0.5〜2.0mg/Lの2,4−Dを含むMS(ムラシゲ・スクーグ)培地で培養して増殖するステップと、(c)前記増殖したカルスに50〜350μMのジャスモン酸メチル(MeJA)及び40〜60mMのステビオシド(stevioside)を添加して静置培養するステップとを含んでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の一実施例による方法において、前記静置培養は、24〜26℃にて4〜7日間静置培養するものであってもよく、25℃にて5日間静置培養するものであることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)ブドウカルスの誘導及び増殖
本発明においては、代表的な市販のブドウ品種であるキャンベル(Vitisvinifera L. cv Campbell Early)からカルスを誘導した。キャンベルの花を切り取って流水で洗浄し、その後70%のエタノール溶液に1分間浸漬して表面殺菌を行った。表面殺菌は、クリーンベンチ内でブドウの花組織をガラス瓶に入れて市販の漂白剤(約1%の次亜塩素酸ナトリウム)溶液で15分間行い、滅菌蒸留水で3回洗浄した。表面殺菌が完了した組織は、滅菌濾紙を用いて残存する湿気を除去して培養に用いた。表面殺菌が完了したブドウ組織をメスで切り取り、その後それぞれの組織(花弁、葯、花糸)を培養培地に置床した。ブドウカルスの誘導に用いた培地を表1に示す。生長調節剤として0.1mg/LのIAA、0.1mg/LのNAA、1.5mg/Lの2,4−D、及び0.25mg/Lのカイネチンが添加された培地を用いた。培養条件は、25℃の恒温器における暗培養とした。培養後に形成された白色のカルスは、同一組成の固体培地に約4週間間隔で継代培養した。
【0030】
(実施例2)ブドウカルスの細胞培養及び活性誘導剤処理によるレスベラトロール生合成遺伝子(STS、ROMT)の転写発現の分析
ブドウカルスからレスベラトロール生産システムを確立するために、前記実施例1で誘導されて安定化したブドウカルスの液体培養により転写発現の分析を行った。1mg/Lの2,4−Dが含まれるMS(ムラシゲ・スクーグ)培地ともいうMS1D(MS4.4g、スクロース30g、MES 0.5g、ミオイノシトール0.1g、チアミンHCl 0.4mg、2,4−D 1mg/L)液体培地で25℃、90rpmで7日間培養し、その後活性誘導剤で処理して24h経過したブドウカルスから総RNAを分離した(非特許文献2)。分離した総RNA(5μg)は、一本鎖cDNA合成キット(First-Strand cDNA Synthesis Kit;Fermantas社、カナダ)を用いて、説明書に従ってcDNAを合成した。合成したcDNA(20μl)を2.5倍に希釈し、その後2μlを鋳型とし、ブドウカルスにおいてレスベラトロール及びプテロスチルベン生合成関連遺伝子を対象にRT−PCRを行った。PCR増幅は、94℃で2分間の変性、95℃で30秒間、50℃で40秒間、72℃で1分間を1サイクルとして25サイクル、及び72℃で10分間の最終延長反応により行われた。本実験のために用いたブドウレスベラトロール、プテロスチルベン生合成遺伝子及びブドウアクチンRT−PCR用プライマーは次の通りである。
STS−F:5'−ATGGCTTCAGTTGAGGAAATCAGA−3'(配列番号1)
STS−R:5'−TTAATTTGTCACCATAGGAATGCTA−3'(配列番号2)
ROMT−F:5'−ATGGATTTGGCAAACGGTGTGA−3'(配列番号3)
ROMT−R:5'−TCAAGGATAAACCTCAATGAGGGA−3'(配列番号4)
ACTIN−F:5'−TGCTGACAGAATGAGCAAGG−3'(配列番号5)
ACTIN−R:5'−TACTAAGAAGCTTTCAACCCAGTATA−3'(配列番号6)
【0031】
様々な活性誘導剤で処理してスチルベン化合物の生産増大を図った。ここで、活性誘導剤としては、MeJA(ジャスモン酸メチル)、ABA(アブシジン酸)、SA(サリチル酸)、エテホン、フラジェリン22(Flg22)、MV(メチルビオロゲン)、キトサンを用いた。その結果、MeJA、SA、Flg22で処理した場合に2つの遺伝子の発現の増加が確認され、とりわけMeJAで処理した場合に遺伝子の発現が最も高いことが確認された(
図2)。
【0032】
(実施例3)ブドウカルスにおける活性誘導剤及び可溶化剤処理
前記実施例2で選択した活性誘導剤(100μMのMeJA)を用いてスチルベン化合物生産を誘導した。20mlのMSに2gのブドウカルスを接種してから125mlフラスコで7日間培養し、その後100μMのMeJAで処理して5日後にブドウカルスを確保した。抽出してHPLC分析を行った結果、ブドウカルス内で微量のピセイド(piceid)が確認されており(データ未提示)、ステビオシド処理により生産されたスチルベン化合物を可溶化して生産率を高める実験を行った。前述したように、ブドウカルスを7日間培養した培養液を5mM、10mM、25mM、50mMのステビオシドで濃度別に処理するか、100μMのMeJAと共に濃度別に処理し、培養5日後に試料をフィルターで濾過してカルスとカルス培養液に分離した。分離したカルスは、フィルターで濾過して脱水作業を行い、液体窒素で凍らせ、その後抽出するまで−80℃で保管して用いた。カルス培養液試料は、保管期間をおかずにすぐに抽出して用いた。
【0033】
その結果、ステビオシド50mMの濃度で最も安定してスチルベン化合物を生産することが確認された。また、植物組織又は細胞培養時の可溶化剤として知られているCD−M(メチル−β−シクロデキストリン)及びステビオシドの可溶化及びスチルベン化合物の生産効率を分析するために、100μMのMeJAと共に各可溶化剤で50mMずつ処理し、その後培養液を抽出してスチルベン化合物の生産傾向を確認した。その結果、100μMのMeJAと50mMのCD−Mで処理した場合は、トランス−レスベラトロールが最も多く生産され、100μMのMeJAと50mMのステビオシドで処理した場合は、δ−ビニフェリンが生産されたスチルベン化合物の大部分を占めた。100μMのMeJAと50mMのCD−Mで処理した処理区では、最大40mg/Lのレスベラトロールが生産され、100μMのMeJAと50mMのステビオシドで処理した処理区では、最大700mg/Lのδ−ビニフェリンが生産された(
図3)。
【0034】
(実施例4)ブドウカルスにおける生物変換
前記実施例3の結果に基づいて、ブドウカルス懸濁培養時のp−クマル酸及びレスベラトロールを基質として用いて生物変換を試みた。まず、100μMのMeJAと50mMのCD−Mに基質を入れていないものを対照区とし、2mMのp−クマル酸及びレスベラトロールを基質として処理したものを実験区としてそのパターンを確認した(
図4A)。その結果、基質を入れた場合、レスベラトロール以外にパリドール(Pallidol)、パルテノシッシンA(Parthenocissin A)、クアドラングラリンA(Quadrangularin A)及びδ−ビニフェリンが生産された(
図4A)。次に、100μMのMeJAと50mMのステビオシド(E95)に基質を入れていないものを対照区とし、2mMのp−クマル酸及びレスベラトロールを基質として処理したものを実験区としてそのパターンを確認した(
図4B)。その結果、基質で処理していない対照区と同様に、基質で処理した実験区においてδ−ビニフェリンが多く生産されることが確認された。これらの結果から、ステビオシドをブドウカルス懸濁培養時の可溶化剤として用いるとδ−ビニフェリンを生産するのに非常に効果的であることが確認された(
図4)。
【0035】
(実施例5)バイオリアクターを用いたブドウカルスの大量培養における活性誘導剤及び可溶化剤処理
前記実施例1で安定化したブドウカルスを100mlのMS1D液体培地に10gずつ3つのフラスコにそれぞれ接種し、その後25℃、90rpmで14日間培養した。14日間培養して増殖したカルスを予め滅菌して乾燥させた3Lバイオリアクターに全て継代し、その後1.2LのMS1D液体培地を追加した。前記実施例3と同様に、100μMのMeJAと共に50mMのステビオシドで処理し、培養5日後に試料をフィルターで濾過してカルスとカルス培養液に分離した。分離したカルスは、フィルターで濾過して脱水作業を行い、液体窒素で凍らせ、その後抽出するまで−80℃で保管して用いた。カルス培養液試料は、保管期間をおかずにすぐに抽出して用いた。カルス培養液抽出物をHPLC分析した結果、ε−ビニフェリン及びδ−ビニフェリンが生産されることが確認された(
図5)。
【0036】
(実施例6)ブドウカルス培養液抽出及びHPLC分析
前記実施例3、4及び5で分離したブドウカルスは、液体窒素を用いて粉末化した。前記カルス粉末1gを3mlの80%メタノールで抽出し、その後遠心分離することにより上層部のカルス抽出物を得た。抽出した濾液に空気(air)を注入して乾燥させ、乾燥物を600μlの80%メタノールに溶解し、0.2μmのPTFEフィルター(親水性、アドバンテック社、日本)で濾過してHPLC分析に用いた。10mlのカルス培養液は、同量の酢酸エチルにより水と酢酸エチルで分配抽出して得られた酢酸エチル層に空気を注入して乾燥させた。乾燥物を1mlの80%メタノールに溶解し、0.2μmのPTFEフィルターで濾過してHPLC分析に用いた。HPLCは、アジレント・テクノロジー社の1200シリーズを用いて分析した。ポンプシステムには、クォータナリポンプ(quaternary pump)を用い、カラムには、アジレント社のZORBAX SB−18(5mm、4.6×150mm)を用い、移動相には、水(A、0.05%トリフルオロ酢酸)とアセトニトリル(B、0.05%トリフルオロ酢酸)を用いて傾斜溶離で分析を行った。前記ブドウカルスを7日間培養した培養液を100μMのMeJAと5mM、10mM、25mM、50mMのステビオシドで濃度別に処理した結果、低い濃度から高い濃度にステビオシドで処理した場合、濃度が高くなるにつれてスチルベン含有量が増加する様相を示し、50mMで最も高いスチルベン化合物含有量が確認され(データ未提示)、ステビオシドで処理していない処理区に比べて、はるかにスチルベン化合物含有量が増加することが観察された(
図3)。ステビオシドで処理していない処理区及びカルス抽出物においては、スチルベン化合物が確認されなかった。
【0037】
(実施例7)ブドウカルス生産ビニフェリンの分離及びNMR分析
前記実施例3で準備した可溶化剤処理ブドウ葯由来のカルス培養液を水と酢酸エチルで分配抽出して得られた酢酸エチル層を減圧濃縮した。得られた濃縮物(15g)をMPLC機器で逆相カラム(10×30cm)にて1段階分離した。ここで、溶離溶媒としては水−アセトニトリルを用い、水−アセトニトリル混合溶液を100:1から100%アセトニトリルまで極性を低くしながら溶離させることにより、7つの分画物(A〜G)を得た。目標化合物であるδ−ビニフェリン(trans-δ-viniferin、下記化学式1)が多量に含まれる分画Cを濃縮して濃縮物1.3gを得た。得られた濃縮物1.3gにRecylcing LC機器で逆相カラムクロマトグラフィーを水−アセトニトリル(2:2)混合溶媒条件で行い、80%以上の純度のδ−ビニフェリン160mgを得た。得られた分画物を95%メタノールで溶離させるゲルクロマトグラフィー(Sephadex LH-20)を行い、98%の純度のδ−ビニフェリン12mgを得た。得られた化合物の構造は、
1H−NMR、
13C−NMR、2D−NMR、DEPT及び質量分析器を用いて解明した。
trans−δ−ビニフェリン:
1HNMR(500MHz、アセトン−d
6)d 7.45(dd、J=8.5、2.0Hz、H−6)、7.27(s、H−4)、7.25(d、J=8.5Hz、H−2,6A)、7.07(d、J=16.5Hz、H−2´)、6.92(d、J=16.5Hz、H−1´)、6.88(d、J=8.1Hz、H−7)、6.86(d、J=8.5Hz、H−3,5A)、6.55(d、J=2.0Hz、H−2,6C)、6.29(t、J=2.0Hz、H−2B)、6.27(t、J=2.0Hz、H−4C)、6.21(d、J=2.0、H−4,6B)、5.47(d、J=8.0Hz、H−2)、4.48(d、J=8.0Hz、H−3);
13CNMR(125MHz、アセトン−d
6)d 159.7(C−7a)、158.8(C−1,3B)、158.6(C−3,5C)、157.5(C−4A)、144.3(C−5B)、139.8(C−1C)、131.6(C−3a)、131.2(C−1A)、130.8(C−5)、128.2(C−2´)、127.7(C−6)、127.6(C−2,6A)、126.3(C−1´)、123.0(C−4)、115.2(C−3,5A)、109.2(C−7)、106.4(C−4,6B)、104.7(C−2,6C)、101.8(C−4C)、101.4(C−2B)、93.1(C−2)、56.9(C−3)。
【0039】
(実施例8)ブドウカルス生産ε−ビニフェリンの分離及びNMR分析
前記実施例5で準備した可溶化剤処理ブドウ葯由来のカルス培養液を水と酢酸エチルで分配抽出して得られた酢酸エチル層を減圧濃縮した。得られた濃縮物(10g)をMPLC機器で逆相カラム(10×30cm)にて1段階分離した。ここで、溶離溶媒としては水−アセトニトリルを用い、水−アセトニトリル混合溶液を70:1から100%アセトニトリルまで極性を低くしながら溶離させることにより、5つの分画物(A〜E)を得た。目標化合物であるε−ビニフェリン(trans-ε-viniferin、下記化学式2)が多量に含まれる分画Bを濃縮して濃縮物1.5gを得た。得られた濃縮物1.5gにRecylcing LC機器で逆相カラムクロマトグラフィーを水−アセトニトリル(2:1)混合溶媒条件で行い、85%以上の純度のε−ビニフェリン100mgを得た。得られた分画物を95%メタノールで溶離させるゲルクロマトグラフィー(Sephadex LH-20)を行い、98%の純度のε−ビニフェリン30mgを得た。得られた化合物の構造は、
1H−NMR、
13C−NMR、2D−NMR、DEPT及び質量分析器を用いて解明した。
trans−ε−ビニフェリン:
1H−NMR(400MHz、MeOD)d 7.14(2H、d、J=8.0Hz、H−2(6)a)、7.03(2H、d、J=8.0Hz、H−2(6)b)、6.80(1H、d、J=13.6Hz、H−7b)、6.78(2H、d、J=8.0Hz、H−3(5)a)、6.65(2H、d、J=8.0Hz、H−3(5)b)、6.56(1H、d、J=13.6Hz)、6.28(1H、brs、H−12b)、6.21(1H、brs、H−12a)、6.18(2H、brs、H−10a,14a)、5.37(1H、d、J=8.0Hz、H−7a)、4.35(1H、d、J=4.0Hz、H−8a);
13C−NMR(100MHz、MeOD)d 161.3(C−11b)、158.6(C−11a,13a)、158.3(C−13b)、157.1(C−4a)、156.9(C−4b)、146.0(C−9a)、135.6(C−9b)、132.5(C−1a)、129.1(C−1b,7b)、127.5(C−2(6)b)、127.0(C−2(6)a)、122.4(C−8b)、118.8(C−10b)、115.1(C−3(5)b)、115.1(C−3(5)a)、106.3(C−14a,10a)、103.1(C−14b)、101.0(C−12a)、95.6(C−12b)、93.5(C−7a)、56.9(C−8a)。
【0041】
(実施例9)レスベラトロール及びδ−ビニフェリン(δ-viniferin)の選択的生産技術の開発
前記実施例1で誘導されたブドウカルスからレスベラトロール及びδ−ビニフェリンをそれぞれ主に生産するために、異なる条件で物質生産を誘導した。1mg/Lの2,4−Dを含むMS(ムラシゲ・スクーグ)培地100mlに10gのブドウカルスを接種し、その後25℃にて90rpmで6日間培養した。これを25mlずつ分注して24時間同一条件で培養し、その後100μMのMeJA及び50mMのステビオシドでそれぞれ処理し、25℃での静置培養又は90rpmの2つのグループに分けて5日間培養した。その後、前記実施例6の方法で物質を抽出してHPLC分析に用いた。培養速度条件を異なる条件にした結果、静置培養した試料においては、レスベラトロールがδ−ビニフェリンに比べてはるかに多く生成されることが確認され、振盪培養した試料においては、δ−ビニフェリンがレスベラトロールに比べてはるかに多く生成されることが確認された(
図6)。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]