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特許6705963医療情報処理装置および医療情報処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6705963
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】医療情報処理装置および医療情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20200525BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20200525BHJP
   A61F 9/008 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A61B3/10 100
   G01N21/17 625
   A61F9/008 120D
   A61F9/008 120Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-210286(P2016-210286)
(22)【出願日】2016年10月27日
(65)【公開番号】特開2018-68545(P2018-68545A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】安野 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】巻田 修一
【審査官】 冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−114557(JP,A)
【文献】 特開2016−093510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 − 3/18
G01N 21/00 − 21/61
A61F 9/00 − 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーが加えられることで生じる生体組織の変化を計測する医療情報処理装置であって、
前記生体組織の計測部位に向けて照射された測定光の反射光によって検出される、異なる時間における複数のOCT信号を取得するOCT信号取得手段と、
前記複数のOCT信号を処理することで、前記測定光の局所光路長の時間変化率を算出する局所光路長変化率算出手段と、
前記計測部位における前記生体組織の変形量(≧0)を時間方向に累積した累積変形量を、前記局所光路長の時間変化率に基づいて算出する累積変形量算出手段と、
を備えたことを特徴とする医療情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医療情報処理装置であって、
前記局所光路長変化率算出手段は、
前記複数のOCT信号を時間微分し、得られた値を空間微分することで、前記局所光路長の時間変化率を算出することを特徴とする医療情報処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の医療情報処理装置であって、
前記局所光路長変化率算出手段は、
前記複数のOCT信号を時間微分して得られる値の平滑化処理を行った後、空間微分を行うことを特徴とする医療情報処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の医療情報処理装置であって、
前記累積変形量算出手段は、
前記局所光路長の時間変化率の絶対値を、前記測定光の光軸に沿う方向に積算することで、それぞれの時間における前記生体組織の変形量を算出することを特徴とする医療情報処理装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の医療情報処理装置であって、
前記累積変形量算出手段は、
前記エネルギーの印可が開始される時点よりも前の前記生体組織の変形量から、前記生体組織の変形量の補正値を算出し、前記補正値を用いて前記累積変形量を算出することを特徴とする医療情報処理装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の医療情報処理装置であって、
前記生体組織に変化を生じさせるエネルギーは、前記生体組織に照射される治療光であり、
算出された前記累積変形量に基づいて前記治療光の照射を制御する治療光照射制御手段をさらに備えたことを特徴とする眼科情報処理装置。
【請求項7】
エネルギーが加えられることで生じる生体組織の変化を計測する医療情報処理装置において実行される医療情報処理プログラムであって、
前記医療情報処理装置の制御部によって実行されることで、
前記生体組織の計測部位に向けて照射された測定光の反射光によって検出される、異なる時間における複数のOCT信号を取得するOCT信号取得ステップと、
前記複数のOCT信号を処理することで、前記測定光の局所光路長の時間変化率を算出する局所光路長変化率算出ステップと、
前記計測部位における前記生体組織の変形量(≧0)を時間方向に累積した累積変形量を、前記局所光路長の時間変化率に基づいて算出する累積変形量算出ステップと、
を前記医療情報処理装置に実行させることを特徴とする医療情報処理プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エネルギーが加えられることで生じる生体組織の変化を計測するための医療情報処理装置および医療情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エネルギー(例えば治療光等)が加えられることで生じる生体組織の変化を計測するための種々の研究が行われている。例えば、非特許文献1で開示された研究では、眼底の光凝固治療において熱によって引き起こされる眼底組織の変位が、ドップラーOCTによって計測されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Imaging thermal expansion and retinal tissue changes during photocoagulation by high speed OCT”,1 May 2012, Vol3,No.5, BIOMEDICAL OPTICS EXPRESS
【発明の概要】
【0004】
非特許文献1で開示された方法では、最終的な生体組織の変位が計測されるのみである。従って、例えば生体組織が膨張した後、膨張前と同じ状態まで収縮する場合、特許文献1で開示された方法では、生体組織の変化の遷移を適切に計測することは困難であった。
【0005】
本開示の典型的な目的は、生体組織の変化の遷移を適切に計測することが可能な医療情報処理装置および医療情報処理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における典型的な実施形態が提供する医療情報処理装置は、エネルギーが加えられることで生じる生体組織の変化を計測する医療情報処理装置であって、前記生体組織の計測部位に向けて照射された測定光の反射光によって検出される、異なる時間における複数のOCT信号を取得するOCT信号取得手段と、前記複数のOCT信号を処理することで、前記測定光の局所光路長の時間変化率を算出する局所光路長変化率算出手段と、前記計測部位における前記生体組織の変形量(≧0)を時間方向に累積した累積変形量を、前記局所光路長の時間変化率に基づいて算出する累積変形量算出手段と、を備える。
【0007】
本開示における典型的な実施形態が提供する医療情報処理プログラムは、エネルギーが加えられることで生じる生体組織の変化を計測する医療情報処理装置において実行される医療情報処理プログラムであって、前記医療情報処理装置の制御部によって実行されることで、前記生体組織の計測部位に向けて照射された測定光の反射光によって検出される、異なる時間における複数のOCT信号を取得するOCT信号取得ステップと、前記複数のOCT信号を処理することで、前記測定光の局所光路長の時間変化率を算出する局所光路長変化率算出ステップと、前記計測部位における前記生体組織の変形量(≧0)を時間方向に累積した累積変形量を、前記局所光路長の時間変化率に基づいて算出する累積変形量算出ステップと、を前記医療情報処理装置に実行させる。
【0008】
本開示に係る医療情報処理装置および医療情報処理プログラムによると、生体組織の変化の遷移が適切に計測される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】医療装置1の概略構成を示す図である。
図2】累積変形量算出処理の一例を示すフローチャートである。
図3】複数のOCT信号の時間微分および平滑化処理によって得られる情報を図式化した例を示す図である。
図4】局所光路長変化率の絶対値をZ方向に積算した結果を図式化した例を示す図である。
図5図4で例示した情報に対して補正を行った結果を示す図である。
図6】算出された累積変形量のグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
本開示で例示する眼科情報処理装置の制御部は、生体組織の同一の計測部位に関して、異なる時間における複数のOCT信号を取得する。OCT信号は、計測部位に向けて照射された測定光の反射光によって検出される信号である。制御部は、複数のOCT信号を処理することで、測定光の局所光路長の時間変化率(以下、単に「局所光路長変化率」という場合もある)を算出する。局所光路長とは、深さ方向(測定光の光軸に沿う方向、以下「Z方向」という場合もある)における位置が異なるそれぞれの局所部位に入射して反射された測定光(つまり、それぞれの局所部位を通過した測定光)の光路長である。制御部は、計測部位における生体組織の変形量を示す値(≧0)を時間方向に累積した累積変形量を、局所光路長の時間変化率に基づいて算出する。その結果、生体組織の変化の遷移が、生体組織の累積変形量によって適切に把握される。
【0011】
なお、種々のデバイスが医療情報処理装置として機能できる。例えば、OCT信号を取得するOCT部と、生体に治療光を照射する治療部(例えばレーザ治療部)と、制御部とを備えた医療装置が医療情報処理装置として機能してもよい。また、OCT信号を取得するOCT装置と、生体に治療光を照射する治療装置が別のデバイスであってもよい。この場合、OCT装置および治療装置の少なくともいずれかが医療情報処理装置として機能してもよいし、OCT装置および治療装置とは別のデバイス(例えばパーソナルコンピュータ等)が医療情報処理装置として機能してもよい。複数のデバイスの制御部が協同して、生体組織の変化を計測する処理を実行してもよい。
【0012】
制御部は、複数のOCT信号を時間微分し、得られた値を空間微分することで、局所光路長変化率を算出してもよい。この場合、ドップラーOCTの原理を利用して適切に局所光路長変化率が算出される。
【0013】
制御部は、複数のOCT信号を時間微分して得られる値の平滑化処理(スムージング)を行い、平滑化処理された値を空間微分してもよい。この場合、空間微分を行う際のノイズが低下する。
【0014】
なお、平滑化処理の具体的な方法は適宜選択できる。例えば、制御部は、測定光の光軸に沿う方向(以下、「Z方向」という場合もある)のそれぞれの局所において平均化を行うことで、平滑化処理を行ってもよい。また、制御部は、時間微分において複数のOCT信号に複素共役を掛け合わせる際に、スペクトルを分割して分解能を落とすことで、平滑化処理を行ってもよい。
【0015】
制御部は、局所光路長変化率の絶対値をZ方向に積算することで、それぞれの時間における生体組織の変形量を算出してもよい。この場合、生体組織に生じた変形の方向(+Z方向および−Z方向のいずれか)に関わらず、生体組織の累積変形量が適切に算出される。
【0016】
ただし、局所光路長変化率の絶対値を用いずに、それぞれの時間における生体組織の変形量を示す値を算出することも可能である。例えば、局所光路長変化率の二乗をZ方向に積算することで、それぞれの時間における生体組織の変形量を示す値を算出してもよい。
【0017】
制御部は、エネルギーの印可が開始される時点よりも前の生体組織の変形量から、変形量の補正値を算出し、算出した補正値を用いて累積変形量を算出してもよい。一例として、制御部は、補正値を用いて補正した変形量を時間方向に累積することで、累積変形量を算出してもよい。この場合、エネルギーの印可前における変形量のノイズの影響が減少した状態で累積変形量が算出される。従って、より正確な累積変形量が算出される。
【0018】
生体組織に変化を生じさせるエネルギーは、生体組織に照射される治療光であってもよい。制御部は、算出した累積変形量に基づいて治療光の照射を制御してもよい。この場合、生体組織の変化の遷移に基づいて、治療光の照射が適切に制御される。
【0019】
<実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。一例として、本実施形態の医療装置1は、患者眼Eの眼底に治療光が照射される際の眼底の変化を計測する。しかし、本実施形態で例示する技術の少なくとも一部は、眼底以外の患者眼Eの組織の変化を計測する場合にも適用できる。また、患者眼E以外の生体組織(例えば、皮膚、消化器、脳等)の変化を計測する場合にも、本実施形態で例示する技術の少なくとも一部を適用できる。つまり、本実施形態で例示する技術を適用できる分野は、眼科分野に限定されない。
【0020】
また、本実施形態では、OCT部10、レーザ治療部20、および制御部30を備えた医療装置1が、生体組織の変化を計測する医療情報処理装置として機能する。しかし、他のデバイスが医療情報処理装置として機能してもよい。例えば、OCT部を備えたOCT装置と、生体に治療光を照射する治療装置が別のデバイスであってもよい。この場合、OCT装置および治療装置の少なくともいずれかの制御部が、生体組織の変化を計測する処理を実行してもよい。OCT装置に接続されたデバイス(例えばパーソナルコンピュータ等)が、医療情報処理装置として機能してもよい。
【0021】
<概略構成>
図1を参照して、本実施形態の医療装置1の概略構成について説明する。前述したように、本実施形態の医療装置1は、OCT部10、レーザ治療部20、および制御部30を備える。
【0022】
OCT部10について説明する。OCT部10は、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)の原理を用いてOCT信号を取得する。OCT部10は、OCT光源11、カップラー(光分割器)12、測定光学系13、参照光学系17、検出器18、および正面観察光学系19を備える。
【0023】
OCT光源11は、OCT信号を取得するための光(OCT光)を出射する。カップラー12は、OCT光源11から出射された光を、測定光と参照光に分割する。また、本実施形態のカップラー12は、生体組織(本実施形態では患者眼Eの眼底)によって反射された測定光と、参照光学系17によって生成された参照光とを合成し、合成された干渉光を検出器18に受光させる。
【0024】
測定光学系13は、カップラー12によって分割された測定光を生体組織に導くと共に、生体組織によって反射された測定光をカップラー12に戻す。測定光学系13は光スキャナ14を備える。光スキャナ14は、駆動部15によって駆動されることで、測定光を偏向させることができる。本実施形態では、互いに異なる方向に測定光を偏向させることが可能な2つのガルバノミラーが光スキャナ14として用いられている。しかし、光を偏向させる別のデバイス(例えば、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、音響光学素子等の少なくともいずれか)が光スキャナ13として用いられてもよい。
【0025】
本実施形態では、生体組織のうち、治療光が照射される部位の少なくとも一部が計測部位とされる。制御部30は、駆動部15を制御し、同一の計測部位に対して測定光を連続して照射させる(所謂「モーション(M)スキャン」を実行する)。その結果、一定の時間間隔毎に、複数のOCT信号が同一の計測部位から断続的に取得される。
【0026】
参照光学系17は、参照光を生成してカップラー12に戻す。本実施形態の参照光学系17は、カップラー12によって分割された参照光を反射光学系(例えば、参照ミラー)によって反射させることで、参照光を生成する。しかし、参照光学系17の構成も変更できる。例えば、参照光学系17は、カップラー12から入射した光を反射させずに透過させて、カップラー12に戻してもよい。参照光学系17は、光路中の光学部材を移動させることで、測定光と参照光の光路長差を変更することができる。本実施形態では、参照ミラーが光軸方向に移動されることで、光路長差が変更される。なお、光路長差を変更するための構成は、測定光学系13の光路中に設けられていてもよい。
【0027】
検出器(受光素子)18は、測定光と参照光の干渉信号を検出する。本実施形態では、フーリエドメインOCTの原理が採用されている。フーリエドメインOCTでは、干渉光のスペクトル強度(スペクトル干渉信号)が検出器18によって検出され、スペクトル強度データに対するフーリエ変換によって複素OCT信号が取得される。フーリエドメインOCTの一例として、Spectral−domain−OCT(SD−OCT)、Swept−source−OCT(SS−OCT)等を採用できる。また、例えば、Time−domain−OCT(TD−OCT)等を採用することも可能である。本実施形態では、SD−OCTが採用されている。SD−OCTの場合、例えば、OCT光源11として低コヒーレント光源(広帯域光源)が用いられると共に、干渉光の光路における検出器18の近傍には、干渉光を各周波数成分(各波長成分)に分光する分光光学系(スペクトロメータ)が設けられる。SS−OCTの場合、例えば、OCT光源11として、出射波長を時間的に高速で変化させる波長走査型光源(波長可変光源)が用いられる。この場合、OCT光源11は、光源、ファイバーリング共振器、および波長選択フィルタを備えていてもよい。波長選択フィルタには、例えば、回折格子とポリゴンミラーを組み合わせたフィルタ、および、ファブリー・ペローエタロンを用いたフィルタ等がある。
【0028】
正面観察光学系19は、生体組織(本実施形態では患者眼Eの眼底)の正面画像を得るために設けられている。正面観察光学系19の構成には、例えば、走査型レーザ検眼鏡(SLO)、眼底カメラ等の少なくともいずれかの構成を採用できる。
【0029】
レーザ治療部20について説明する。レーザ治療部20は、治療光(本実施形態では治療レーザ光)を出射する。一例として、本実施形態では、レーザ治療部20から出射される治療光は、患者眼Eの眼底の光凝固治療、および、眼底組織が凝固しない程度のエネルギーで治療光を照射する閾値下凝固治療の少なくともいずれかを行うために用いられる。本実施形態では、OCT部10における測定光の光路上にダイクロイックミラー21が設けられている。レーザ治療部20によって出射された治療光は、ダイクロイックミラー21によって反射されて、生体組織に照射される。医療装置1は、レーザ治療部20によって生体組織に治療光を照射しつつ、OCT部10によってOCT信号を取得することができる。なお、治療光の照射とOCT信号の取得を並行して実行するために必要な構成は、適宜選択できる。例えば、OCT測定光を生体組織に照射するための光学系と、治療光を生体組織に照射するための光学系が、各々独立して設けられていてもよい。また、生体組織を変化させるためのエネルギーは、治療光に限定されない。例えば、圧電素子等によって外部から機械的なエネルギーが加えられてもよい。超音波、電磁波、風圧等によってエネルギーが加えられてもよい。
【0030】
制御部30について説明する。制御部30は、医療装置1の各種制御を司る。制御部30は、CPU31、RAM32、ROM33、および不揮発性メモリ(NVM)34を備える。CPU31は各種制御を行うコントローラである。RAM32は各種情報を一時的に記憶する。ROM33には、CPU31が実行するプログラム、および各種初期値等が記憶されている。NVM34は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。後述する累積変形量算出処理(図2参照)を実行するための医療情報処理プログラムは、NVM34に記憶されていてもよい。前述したように、累積変形量算出処理を実行する制御部は、医療装置1に設けられている必要は無い。例えば、PC、OCT装置、レーザ治療装置等の制御部の少なくともいずれかが、累積変形量算出処理を実行してもよい。
【0031】
<累積変形量算出処理>
図2図6を参照して、累積変形量算出処理について説明する。累積変形量算出処理では、計測部位における生体組織の変形量(≧0)を時間方向に累積した累積変形量が算出される。さらに、本実施形態の累積変形量算出処理では、算出された累積変形量に基づいて、治療光の照射が制御される。制御部30のCPU31は、NVM34に記憶された医療情報処理プログラムに従って、図2に示す累積変形量算出処理を実行する。
【0032】
まず、CPU31は、生体組織(本実施形態では患者眼Eの眼底)に対するOCT信号の検出を開始する(S1)。詳細には、CPU31は、治療光が照射される生体組織の一部を測定部位と定め、OCT測定光を測定部位に照射する。CPU31は、測定部位から反射された測定光の反射光と、参照光学系17によって生成された参照光との干渉信号を、検出器18によって検出する。CPU31は、干渉信号をフーリエ変換することで、複素OCT信号を検出する。以上の処理が、同一の測定部位に対して断続的に行われる(Mスキャン)。なお、OCT部10によるOCT信号の検出を制御する制御部と、累積変形量を算出する制御部が異なっていてもよいことは言うまでもない。
【0033】
次いで、CPU31は、生体組織に対する治療光の照射を開始する(S2)。本実施形態では、CPU31は、レーザ治療部20の動作を制御することで、測定部位を含む生体組織の領域への治療光の照射を実行する。
【0034】
CPU31は、断続的に検出された複数のOCT信号を取得する(S3)。CPU31は、複数のOCT信号の時間微分、および平滑化処理を実行する(S4)。詳細には、本実施形態のCPU31は、(数1)に示すように、OCT信号Γに、それをΔnラインずらして複素共役をとった値を掛け合わせる。また、CPU31は、測定光の光軸に沿う方向(以下、「Z方向」という)のそれぞれの局所において平均化を行うために、局所平均フィルタ(幅:2s+1ピクセル)をかける。これにより、平滑化処理が行われる。ここで、δtは、1つのOCT信号を検出する際に測定光が照射される時間の長さ(1つのAライン当たりの走査時間)である。(数1)で示される式では、位相の情報と強度の情報が共に含まれている。図3は、(数1)で得られる情報を図式化した例である。図3の縦軸はZ方向、横軸は時間を示す。
【数1】
【0035】
次いで、CPU31は、時間微分によって得られた値を空間微分する(S5)。詳細には、本実施形態のCPU31は、(数2)に示すように、(数1)を深さ方向にΔmピクセルずらして複素共役を掛け、その位相を取り出す。ここで、δzは1画素当たりの深さ(Z方向の長さ)である。
【数2】
【0036】
次いで、CPU31は、局所光路長(local optical path length:lOPL)の時間変化率(以下、「局所光路長変化率」という)を算出する(S6)。局所光路長とは、深さ方向(Z方向)における位置がそれぞれ異なるそれぞれの局所部位に入射して反射されたOCT測定光の光路長である。局所光路長変化率は、位相φから、以下の(数3)によって求められる。ここで、λはOCT光源11の中心波長(本実施形態では1020nm)、nは組織の屈折率である。ただし、δz=nδzは1画素当たりの空気中の距離(本実施形態では3.2um/pix)である。
【数3】
【0037】
次いで、CPU31は、(数4)に示すように、局所光路長変化率の絶対値をZ方向に積算する(S7)。(数4)で示される値は、各時点における生体組織の変形量(≧0)を示す。図4は、(数4)で得られる情報を図式化した例である。図4の縦軸はS−1、横軸は時間を示す。
【数4】
【0038】
次いで、CPU31は、エネルギーの印可が開始される時点(つまり、本実施形態では治療光の照射が開始される時点)を基準とした補正を行う(S8)。詳細には、CPU31は、(数5)に示すように治療光の照射が開始される時点tよりも前の生体組織の変形量から、生体組織の変形量の補正値を算出し、算出した補正値によって、各時点における生体組織の変形量を補正する。その結果、治療光の照射前における変形量のノイズの影響が減少する。図5は、図4で例示した情報に対して補正を行った結果を図式化したものである。
【数5】
【0039】
次いで、CPU31は、(数6)に示すように、S8で補正した値を時間方向に累積することで、累積変形量M(t)を算出する(S9)。図6は、算出された累積変形量のグラフであり、縦軸が累積変形量、横軸が時間を示す。算出された累積変形量には、生体組織の変化の遷移が反映されている。また、本実施形態では、治療光の照射が開始される時点を基準とした補正(S8)が行われている。その結果、累積変形量は、治療光の照射開始時点をゼロとして、照射開始後に順次増加する。
【数6】
【0040】
次いで、CPU31は、算出された累積変形量に基づいて治療光の照射を制御する(S10,S11)。一例として、本実施形態では、CPU31は、累積変形量が閾値以上となったか否かを判断する(S10)。閾値は、治療目的(例えば、光凝固治療および閾値下凝固治療のいずれを実行するか)等に応じて適宜設定すればよい。累積変形量が閾値未満であれば(S10:NO)、処理はS3へ戻り、治療光の照射を継続したまま、累積変形量を算出する処理(S3〜S9)を繰り返す。累積変形量が閾値以上となると(S10:YES)、CPU31は、治療光の照射を停止させて(S11)、処理を終了する。なお、累積変形量に基づいて治療光の照射を制御する具体的な方法は、適宜変更できる。例えば、CPU31は、累積変形量に基づいて、照射する治療光の強度を適宜調整してもよい。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の医療装置1(医療情報処理装置)は、OCT測定光を生体組織の計測部位に断続的に走査させるのではなく、同一の計測部位に測定光を照射させ続ける(本実施形態ではMスキャンを行う)ことで、複数のOCT信号を断続的に取得する。従って、治療光が照射されている間の生体組織の変化の遷移が、リアルタイムにモニタリングされる。よって、例えば、計測された変化の遷移に基づいて治療光の照射を制御すること等が容易となる。
【0042】
例えば、治療光による生体組織の治療では、一定のエネルギーで治療光を照射している場合でも、生体組織の膨張と収縮が入れ替わる場合があることが知られている。従って、生体組織の最終的な変位を計測するだけでは、治療効果を適切に把握することが困難な場合がある。これに対し、本実施形態の医療装置1が算出する累積変形量は、生体組織に変位を生じさせるエネルギー量に対応する値である。従って、本実施形態によると、生体組織の変化の遷移が適切に把握される。
【0043】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、各種数値処理(S4の時間微分、S5の空間微分等)の具体的な方法が適宜変更できることは言うまでもない。
【0044】
上記実施形態では、局所光路長変化率の絶対値をZ方向に積算することで、それぞれの時間における生体組織の変形量(≧0)が算出される(S7)。しかし、S7の処理を変更することも可能である。例えば、CPU31は、局所光路長変化率の二乗をZ方向に積算してもよい。この場合でも、生体組織に変位を生じさせるエネルギー量に対応する値が適切に算出される。
【符号の説明】
【0045】
1 医療装置
10 OCT部
20 レーザ治療部
30 制御部
31 CPU

図1
図2
図3
図4
図5
図6