【文献】
VAN CLEVE, R. et al,Derivatives of cyclohexene oxide as plasticizers and stabilizers for vinyl chloride resins,Industrial and Engineering Chemistry,1958年,Vol.50,pp.873-876
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記脂肪酸カルシウム塩及び/又は脂肪酸亜鉛塩の配合量(何れか一方を使用するときはその配合量又は両者を使用するときはその合計量)の配合量が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部である請求項9に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂組成物は、加工性が良好であり、かつ優れた耐薬品性や耐久性を有し、更に可塑剤の配合により様々な硬度に調整可能であり、例えば、数十部以上の可塑剤を配合した軟質塩化ビニル系樹脂材料はポリオレフィン等に比べて耐キンク性に優れており、カテーテル等の医療用チューブや、血液バッグ、輸液バッグ等の医療用バッグなどの医療用材料として広く使われている。また、少量の可塑剤を配合した半硬質塩化ビニル系樹脂材料は上記軟質塩化ビニル材料と接続して使われている連結部材、分岐バルブ、速度調節部品などの医療用材料として広く使われている。
【0003】
また、上記性能以外にも、例えば、医療用材料に使われる軟質塩化ビニル系樹脂材料には、良好な柔軟性と、加熱処理に耐えうる優れた耐熱性や低温保存に耐えうる優れた耐寒性などが必要であり、更に耐久性や安全性の面から添加剤等の溶出性や移行性が少ないことも必要であることから、最も多量に配合される可塑剤の選択が非常に重要となる。同様に、半硬質塩化ビニル系樹脂組成物材料の場合には、適度な追随性を示す硬度が必要であり、軟質材料と同じく耐熱性や耐寒性、更には耐久性に優れることが重要である。
【0004】
これまで、前記可塑剤としては、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(以下、「DOP」という)やフタル酸ジイソノニル(DINP)に代表されるフタル酸エステル系の可塑剤が汎用的に使用されてきた(特許文献1)。しかし、フタル酸エステル系の可塑剤では、上述の加熱処理時等における十分な耐熱性が得られ難く、また溶出性や移行性の面でも改善が求められていることから、トリメリット酸トリ−2−エチルへキシル(以下、「TOTM」という)等のトリメリット酸エステル系の可塑剤やポリエステル系の可塑剤を使用する検討も進められている(特許文献2、3)。
【0005】
しかし、トリメリット酸エステル系やポリエステル系の可塑剤を用いた医療用材料の場合、耐熱性には優れるが、加工性に劣り、更に可塑化効率や耐寒性能についても必ずしも満足する性能ではなく、特に軟質材料において十分な柔軟性や耐寒性を得るためには、可塑剤を多量に配合する必要があり、その結果、安全性等の面で問題が生じる懸念があった。
【0006】
また、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル(以下、「DINCH」という)に代表されるシクロヘキサンジカルボン酸エステル系の可塑剤なども非フタル酸エステル系の可塑剤として注目されている(特許文献4)。
【0007】
しかし、上記DINCHなどでは、耐熱性、特に加熱時の着色性に問題があり、更に加工性についても必ずしも満足されるものではなかった。従って、柔軟性が良好であり、かつ耐熱性や耐寒性に優れた医療用材料の得られる、加工性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物及びその様な材料及び樹脂組成物に適した可塑剤の開発が待ち望まれている。
【0008】
また、医療用材料の場合、多くの用途において衛生面を考慮して、使用前に滅菌や殺菌処理を行うことが必要である。その処理方法としては、乾式加熱や煮沸、加圧熱水処理などの加熱処理、紫外線や放射線を照射する方法、エチレンオキサイドガス等による化学処理などがある。化学処理の場合は、毒性のあるエチレンオキサイドガスの残留の懸念があることから、主として、加熱処理か、紫外線や放射線を照射する方法が使われている。
【0009】
近年、病院等での医療事故の増加により、医療現場における衛生管理の徹底がより厳しくなっており、上記滅菌や殺菌処理の条件もより厳しくなっている。しかし、その条件が厳しくなることに伴い、例えば、加熱処理の場合は、可塑剤の揮発等による柔軟性の低下がその材料の破壊の原因になり、前述のDOPやDINCHではその要求を満たすことができなくなってきている。また、紫外線や放射線の照射による処理でも、着色による内容物の識別性の低下が医療事故の原因になり、大きな問題となっており、その改善が望まれている。その着色を抑制する方法としては、例えば、多量の安定剤を配合することにより、改善することが可能であることが知られている(特許文献5〜8)。しかし、安定剤を多量の配合することは、安全性等の面で問題が大きく、現実的には不可能であり、未だ有効な改善方法が見いだせていないのが現状である。
【0010】
上記安定剤の一つとして、エポキシ系化合物が安全性の面で問題のない安定剤として有効であり、着色等の劣化を防止することが知られている。そのエポキシ系化合物としては、具体的にはエポキシ化大豆油(以下、「ESBO」という)、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油類がよく知られている(特許文献6、7)。しかし、エポキシ化植物油の場合、塩化ビニル系樹脂との相溶性に問題があり、混合が不十分な場合、樹脂中で不均一となり、十分な性能が得られないだけでなく、ブリード等の問題の原因になり、特に安全面での要求の厳しい医療用材料ではその使用が難しいのが現状であった。
【0011】
最近では、相溶性に優れる脂環族系の4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−2−エチルヘキシルエステル(以下、「E−DEHCH」という)が、樹脂との相溶性に優れ、ブリード、移行等の少ないエポキシ系化合物として、注目されており、医療用材料としても紫外線や放射線の照射による処理時の劣化、特に着色の抑制に優れた効果を示すことが報告されている(特許文献8)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記の問題点を解決できる、即ち、滅菌や殺菌処理後の着色等の劣化が少なく、更に加工性や柔軟性が良好であり、かつ耐熱性及び耐寒性の改善された医療用塩化ビニル系樹脂組成物及び医療用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、かかる現状に鑑み、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、本出願人が先に出願した先願特許(特願2015−141136、特願2015−156987)で開示した特定の構造のエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを配合することにより、滅菌や殺菌処理後の劣化が少なく、安定的に使用することのできる、加工性や柔軟性が良好であり、かつ耐熱性及び耐寒性の改善された医療用塩化ビニル系樹脂組成物が得られ、その樹脂組成物からなる医療用材料が、滅菌や殺菌処理後の劣化が少なく、安定的に使用することのできる、柔軟性等の機械的性能が良好であり、かつ耐熱性及び耐寒性の改善された医療用材料として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記に示す特定の構造を有する新規なエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを含有してなる医療用塩化ビニル系樹脂組成物及び医療用材料を提供するものである。
【0016】
[項1] 塩化ビニル系樹脂及びエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを含有してなる医療用塩化ビニル系樹脂組成物であって、前記エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルが、下記一般式(1)で示される4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエステルからなり、かつ該ジカルボン酸ジエステルを構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50〜99%であることを特徴とする医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、それぞれ炭素数7〜13の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。)
【0017】
[項2] 前記アルキル基の炭素数が、8〜12である[項1]に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0018】
[項3] 前記アルキル基が、主として炭素数9〜11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率が10〜25/35〜50/30〜45の範囲である[項1]又は[項2]に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0019】
[項4] 前記アルキル基が、90%以上(モル比)の炭素数9のアルキル基を含む[項1]又は[項2]に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0020】
[項5] 前記アルキル基中の直鎖状のアルキル基の比率が、55〜98%である[項1]〜[項4]の何れかに記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0021】
[項6] 前記アルキル基中の直鎖状のアルキル基の比率が、55〜95%である[項5]に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0022】
[項7] 前記アルキル基中の直鎖状のアルキル基の比率が、60〜95%である[項6]に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0023】
[項8] 前記アルキル基中の直鎖状のアルキル基の比率が、70〜95%である[項7]に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0024】
[項9] 4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエステルが、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルのエポキシ化物である[項1]〜[項8]の何れかに記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0025】
[項10] 前記4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルが、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸又はその無水物と炭素数7〜13の飽和脂肪族アルコールのエステル化物であり、該飽和脂肪族アルコールが炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールを主成分とし、かつ該飽和脂肪族アルコールの直鎖率(モル比)が、50〜99%である[項9]に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0026】
[項11] エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの配合量が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、5〜200重量部である[項1]〜[項10]の何れかに記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0027】
[項12] 医療用塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対するエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの配合量を30〜150重量部とする、医療用軟質塩化ビニル系樹脂組成物である、[項1]〜[項11]の何れかに記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0028】
[項13] エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの配合量が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、40〜100重量部である[項12]に記載の医療用軟質塩化ビニル系樹脂組成物。
【0029】
[項14] 医療用塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対するエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの配合量を5重量部以上30重量部未満とする、医療用半硬質塩化ビニル系樹脂組成物である、[項1]〜[項11]の何れかに記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0030】
[項15] エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの配合量が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、5重量部以上、20重量部未満である[項14]に記載の医療用半硬質塩化ビニル系樹脂組成物。
【0031】
[項16] 更に脂肪酸カルシウム塩及び/又は脂肪酸亜鉛塩を含有する[項1]〜[項15]の何れかに記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0032】
[項17] 前記脂肪酸カルシウム塩及び/又は脂肪酸亜鉛塩の配合量(何れか一方を使用するときはその配合量又は両者を使用するときはその合計量)の配合量が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部である[項16]に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0033】
[項18] 更にシラン化合物を含有する[項1]〜[項17]の何れかに記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0034】
[項19] 前記シラン化合物の配合量が、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1〜15重量部である[項18]に記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【0035】
[項20] [項1]〜[項19]の何れかに記載の医療用塩化ビニル系樹脂組成物からなる医療用材料。
【発明の効果】
【0036】
本発明の医療用塩化ビニル系樹脂組成物は、加工性や柔軟性に代表される機械的特性が良好であり、かつ耐熱性及び耐寒性が改善され、加熱滅菌処理後も、揮発による可塑剤の含有量の低下が顕著に小さく、良好な機械的特性を保持し、更に紫外線や放射線照射による滅菌や殺菌処理においても、ほとんど着色がない。その塩化ビニル系樹脂組成物から得られる医療用材料は、柔軟性等の機械的特性が良好であり、かつ耐熱性及び耐寒性が改善され、様々な滅菌や殺菌処理後も機械的特性の低下が少なく、更に着色もほとんどなく、安定して使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステル>
本発明の医療用塩化ビニル系樹脂用組成物は、下記一般式(1)で示されるエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを、当該樹脂組成物における可塑化成分(可塑剤)又は安定化成分(安定剤)として含有することを最大の特徴としている。
【化2】
なお、式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、それぞれ炭素数7〜13の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、かつ、式中R
1及びR
2で示されるアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50〜99%、好ましくは55〜98%、より好ましくは55〜95%、更に好ましくは60〜95%、特に好ましくは70〜95%である。
【0038】
更に、前記アルキル基は、主として炭素数9〜11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が10〜25/35〜50/30〜45の範囲であること、または、90%以上(モル比)の炭素数9のアルキル基を含むことが好ましい態様である。
【0039】
本発明に係るエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステル(以下、「本エポキシ化合物」という)は、本発明で求められている所定の性能を満たすものであれば、特にその製造方法により限定されるものではないが、例えば、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸又はその無水物と特定の構造の飽和脂肪族アルコールをエステル化反応し、得られた4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステル(中間原料)を所定の条件でエポキシ化することにより、容易に得られる。また、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸又はその無水物をエポキシ化後、得られた4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸又はその無水物と特定の構造の飽和脂肪族アルコールをエステル化する方法で得ることもできる。更に、上記飽和脂肪族アルコールの種類によっては、予め炭素数1〜6程度の低級アルコールとエステル化後、上記飽和脂肪族アルコールを加えて、エステル交換反応により得る方法もある。簡便性等、実用性の観点から、エステル化後にエポキシ化する方法が最も好ましい。
【0040】
[飽和脂肪族アルコール]
上記のエステル化反応又はエステル交換反応に用いられる飽和脂肪族アルコールは、炭素数7〜13の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族アルコールであり、好ましく炭素数8〜12、より好ましくは9〜11の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族アルコールであり、特に好ましくは、(i)炭素数9の飽和脂肪族アルコールを90%以上(重量比)、より好ましくは95%以上含む直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族アルコール、又は(ii)主として炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールからなり、炭素数9の飽和脂肪族アルコール/炭素数10の飽和脂肪族アルコール/炭素数11の飽和脂肪族アルコールの比率(重量比)が10〜25/35〜50/30〜45の範囲である飽和脂肪族アルコールである。なお、上記「主として」とは、飽和脂肪族アルコール全体に占める炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールの比率(重量比)が90%以上、好ましくは95%以上を意味する。当該飽和脂肪族アルコールは、前記一般式(1)で示されるエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを構成するアルキル基となる原料アルコールであり、即ち前記説明は該アルキル基の説明と同義となる。
【0041】
また、上記飽和脂肪族アルコールは、該アルコール中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(重量比)が、50〜99%、好ましくは55〜98%、より好ましくは55〜95%、更に好ましくは60〜95%、特に好ましくは70〜95%であることを特徴とする。
【0042】
本発明に係る飽和脂肪族アルコールの態様の詳細としては、炭素数7〜13の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族アルコールからなり、炭素数9の飽和脂肪族アルコールの比率(重量比)が90%以上、好ましくは95%以上で、かつ直鎖状の飽和脂肪族アルコールの占める比率(重量比)が50〜99%、好ましくは55〜98%、より好ましくは55〜95%、更に好ましくは60〜95%、特に好ましくは70〜95%である態様、または主として炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールの混合物からなり、炭素数9、10、11の各アルコールの比率(重量比)が10〜25/35〜50/30〜45となる範囲であり、かつ直鎖状の飽和脂肪族アルコール占める比率(モル比)が50〜99%、好ましくは55〜95%、より好ましくは60〜95%である態様等が推奨される。
【0043】
炭素数7未満の飽和脂肪族アルコールが含まれると、十分な耐寒性や耐揮発性が得られ難くなる傾向があり、また炭素数13を越えた飽和脂肪族アルコールが含まれると、樹脂との相溶性が悪くなる傾向があり、その結果加工性や可塑化効率等が低下する傾向があり、好ましくない。同様に、上記飽和脂肪族アルコール中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率が50%未満の場合には十分な耐寒性や耐揮発性が得られ難くなる傾向があり、直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率が99%を越えると樹脂との相溶性が悪くなる傾向があり、その結果可塑化効率等の低下の懸念が出てくるため、いずれも好ましくない。また、安定化効果の面でも炭素数7未満の成分及び炭素数13を越えた成分が多くなると、その安定化の効果が低下する傾向がある。
【0044】
90%以上の炭素数9の飽和脂肪族アルコールを含み、かつ直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率が50〜99%である飽和脂肪族アルコールは、(1)1−オクテン、一酸化炭素と水素とのヒドロホルミル化反応による炭素数9のアルデヒドを製造する工程及び(2)炭素数9のアルデヒドを水素添加してアルコールに還元する工程を具備する製造方法により製造することができ、その製造方法で得られた飽和脂肪族アルコールをそのまま用いるか又は含有させることにより、本発明に係る飽和脂肪族アルコールとすることができる。
【0045】
前記工程(1)のヒドロホルミル化反応は、例えば、コバルト触媒又はロジウム触媒の存在下、1−オクテン、一酸化炭素及び水素を反応することにより炭素数9のアルデヒドを製造することができる。
【0046】
前記工程(2)の水素添加は、例えば、ニッケル触媒又はパラジウム触媒等の貴金属触媒の存在下、炭素数9のアルデヒドを水素加圧化で、水素添加することによりアルコールに還元することがでる。市販品の具体例としては、シェルケミカルズ社製のリネボール9(商品名)やオクセア社製のn−Nonanolなどが挙げられる。
【0047】
同じく、主として炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールからなり、炭素数9の飽和脂肪族アルコール/炭素数10の飽和脂肪族アルコール/炭素数11の飽和脂肪族アルコールの比率が10〜25/35〜50/30〜45の範囲である飽和脂肪族アルコールで、直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(重量比)が50〜99%である飽和脂肪族アルコールは、(1)1−オクテン、1−ノネン、1−デセンと一酸化炭素と水素とのヒドロホルミル化反応による炭素数9〜11のアルデヒドを製造する工程及び(2)炭素数9〜11のアルデヒドを水素添加してアルコールに還元する工程を具備する製造方法により製造することができ、その製造方法で得られた脂肪族飽和アルコールをそのまま用いるか又は含有させることにより、本発明に係る飽和脂肪族アルコールとすることができる。
【0048】
前記工程(1)のヒドロホルミル化反応は、例えば、コバルト触媒又はロジウム触媒の存在下、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、一酸化炭素及び水素を反応することにより炭素数9〜11のアルデヒドを製造することができる。
【0049】
前記工程(2)の水素添加は、例えば、ニッケル触媒又はパラジウム触媒等の貴金属触媒の存在下、炭素数9〜11のアルデヒドを水素加圧下で、水素添加することによりアルコールに還元することができる。市販品の具体例としては、シェルケミカルズ社製のネオドール911(商品名)などが挙げられる。
【0050】
[エステル化反応]
本発明に係るエステル化反応とは、本エポキシ化合物を得るための中間原料である4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルを製造するための、上記アルコールと4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸又はその無水物とのエステル化反応を意味し、そのエステル化反応を行うに際し、該アルコールは、例えば、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸又はその無水物1モルに対して、好ましくは2.00モル〜5.00モル、より好ましくは2.01モル〜3.00モル、特に2.02モル〜2.50モルを使用することが推奨される。
【0051】
エステル化反応に触媒を使用する場合、その触媒としては、鉱酸、有機酸、ルイス酸類等が例示される。より具体的には、鉱酸として、硫酸、塩酸、燐酸等が例示され、有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が例示され、ルイス酸としては、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体、鉛誘導体、亜鉛誘導体等が例示され、これらの1種又は2種以上を併用することが可能である。
【0052】
それらの中でも、p−トルエンスルホン酸、炭素数3〜8のテトラアルキルチタネート、酸化チタン、水酸化チタン、炭素数3〜12の脂肪酸スズ、酸化スズ、水酸化スズ、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化鉛、水酸化鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが特に好ましい。その使用量は、例えば、エステル合成原料である酸成分及びアルコール成分の総重量に対して、好ましくは0.01重量%〜5.0重量%、より好ましくは0.02重量%〜4.0重量%、特に0.03重量%〜3.0重量%を使用することが推奨される。
【0053】
エステル化温度としては、100℃〜230℃が例示され、通常、3時間〜30時間で反応は完結する。
【0054】
本エステルの原料である、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸若しくはその無水物は、特に制限はなく、公知の方法で製造したものや、市販品、試薬等で入手できるものなどが使用できる。例えば、市販品としてリカシッドTH(商品名,新日本理化(株))などが例示される。4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物は、通常、無水マレイン酸と1,3−ブタジエンとをディールス・アルダー反応して得られる。エステル化反応の観点から、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物を使用することが推奨される。
【0055】
エステル化反応においては、反応により生成する水の留出を促進するために、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの水同伴剤を使用することが可能である。
【0056】
また、エステル化反応時に原料、生成エステル及び有機溶媒(水同伴剤)の酸化劣化により酸化物、過酸化物、カルボニル化合物などの含酸素有機化合物を生成すると耐熱性、耐候性等に悪影響を与えるため、系内を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下又は不活性ガス気流下で、常圧ないし減圧下にて反応を行うことが望ましい。エステル化反応終了後、過剰の原料を減圧下または常圧下にて留去することが推奨される。
【0057】
上記エステル化反応により得られた本エステル化合物は、引き続き、必要に応じて塩基処理(中和処理)→水洗処理、液液抽出、蒸留(減圧、脱水処理)、吸着処理等により精製してもよい。
【0058】
塩基処理に用いる塩基としては、塩基性の化合物であれば特に制約はなく、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが例示される。
【0059】
吸着処理に用いる吸着剤としては、活性炭、活性白土、活性アルミナ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、シリカアルミナ、ゼオライト、マグネシア、カルシア、珪藻土などが例示される。それらを1種で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0060】
上記処理は、常温で行なっても良いが、40〜90℃程度に加温して行なうこともできる。
【0061】
[エポキシ化反応]
本発明に係るエポキシ化反応とは、本エポキシ化合物を得るための中間原料である4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステル中の不飽和結合のエポキシ化反応を意味し、通常、「有機合成化学、第23巻第7号、612〜619頁(1985)」等に記載されているよく知られたエポキシ化反応を用いて、容易に行うことができ、例えば、(i)エポキシ化剤に過酢酸や過蟻酸の様な有機過酸を用いる方法や(ii)エポキシ化剤に過酸化水素を用いる方法などが挙げられる。
【0062】
より具体的には、(i)の方法の場合、例えば、過酸化水素と無水酢酸または酢酸を硫酸のような強酸を触媒として反応させて得られた過酢酸を、本エステルに加え、20〜30℃で数時間攪拌した後、徐々に温度を上げていき、50〜60℃に到達した後、2〜3時間その温度を保持して反応を完結させることができる。上記有機過酸としては、上記以外にも、モノ過フタル酸、過メタクロル安息香酸、過トリフルオル酢酸なども使うことができる。
【0063】
また、(ii)の方法の場合、例えば、蟻酸などの酸素キャリアーや硫酸などの強酸触媒の共存下、本エステルに反応させることによりエポキシ化することができる。より具体的には、過酸化水素1モルに対して、酢酸または蟻酸を0.5モル以下、触媒として硫酸を0.05モル以下の少量用いて、40〜70℃で2〜15時間その温度を保持して反応させることにより、容易に本エステルをエポキシ化させることができる。上記触媒としては、上記以外にも、燐酸、塩酸、硝酸、硼酸、またはその塩などがよく知られており、また、スルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂や酸化アルミニウムなども有効である。
【0064】
上記エポキシ化反応により得られた本エポキシ化合物は、引き続き、必要に応じて液液抽出、減圧蒸留、吸着処理等により精製してもよい。
【0065】
吸着処理に用いる吸着剤としては、活性炭、活性白土、活性アルミナ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、シリカアルミナ、ゼオライト、マグネシア、カルシア、珪藻土などが例示される。それらを1種で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0066】
上記処理は、常温で行なっても良いが、40〜100℃程度に加温して行なうこともできる。
【0067】
<医療用塩化ビニル系樹脂組成物>
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、上述した本エポキシ化合物を、塩化ビニル系樹脂に配合することにより得られる。
【0068】
[塩化ビニル系樹脂]
本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの単独重合体及び塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの共重合体であり、その製造方法は、従来公知の重合方法で行われ、汎用塩化ビニル樹脂の場合、油溶性重合触媒の存在下に懸濁重合する方法が挙げられ、また、塩化ビニルペースト樹脂では水性媒体中で水溶性重合触媒の存在下に乳化重合する方法が挙げられる。これらの塩化ビニル系樹脂の重合度は、通常300〜5000であり、好ましくは400〜3500、さらに好ましくは700〜3000である。この重合度が低すぎると耐熱性等が低下し、高すぎると成形加工性が低下する傾向がある。
【0069】
共重合体の場合、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン等の炭素数2〜30のα−オレフィン類、アクリル酸およびそのエステル類、メタクリル酸およびそのエステル類、マレイン酸およびそのエステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アルキルビニルエーテル等のビニル化合物、ジアリルフタレート等の多官能性モノマー及びこれらの混合物と塩化ビニルモノマーとの共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等のエチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩素化ポリエチレン、ブチルゴム、架橋アクリルゴム、ポリウレタン、ブタジエンースチレンーメチルメタクリレート共重合体(MBS)、ブタジエンーアクリロニトリルー(α−メチル)スチレン共重合体(ABS)、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート及びこれらの混合物へ塩化ビニルモノマーをグラフトしたグラフト共重合体等が例示される。
【0070】
[医療用塩化ビニル系樹脂組成物]
本発明の医療用塩化ビニル系樹脂組成物における本エポキシ化合物の含有量としては、その用途に応じて適宜選択されるが、通常、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、5〜200重量部であり、好ましくは5〜100重量部である。また前記含有量の範囲であっても本発明の医療用塩化ビニル系樹脂組成物の使用方法(用途)によって、例えば、軟質材料として使用する場合には、好ましくは30〜200重量部、より好ましくは30〜150重量部、特に好ましくは40〜100重量部の範囲であることが推奨され、半硬質材料として使用する場合には、好ましくは5重量部以上、30重量未満、より好ましくは5重量部以上、20重量部未満の範囲であることが推奨される。5重量部未満では機械的特性や滅菌や殺菌時の劣化防止効果が不十分である場合があり、200重量部を越えて配合した場合には、成形品表面へのブリードが激しく、いずれの場合も好ましくない場合がある。なお、上記の塩化ビニル系樹脂組成物に対して充填剤などを添加する場合は、充填剤自身が吸油するために上記の範囲を超えて本エポキシ化合物を配合することも可能であり、例えば、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、充填剤として炭酸カルシウムを100重量部配合した場合には、当該可塑剤を5〜500重量部程度配合することもできる。
【0071】
また、本エポキシ化合物を含有するだけでも十分であるが、更に金属石鹸化合物等の安定剤やシラン化合物系の耐放射線材料を含有することにより、滅菌や殺菌処理後の劣化をより一層抑制することが可能である。
【0072】
前記安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸化合物、ジメチルスズビス−2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズビスブチルマレエート、ジブチルスズジラウレート等の有機錫系化合物、アンチモンメルカプタイド化合物等が例示される。又、安定剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する安定剤の配合量は0.1〜20重量部程度が推奨される。なお前記金属石鹸化合物は、加工助剤や滑剤としての機能を安定剤の機能と共に発揮する場合がある。
【0073】
前記安定剤のうち、安全性等の面より、ステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛の組み合わせが、最も好ましく使用される。又、その配合量は、合計量で、0.1〜10重量部、好ましくは、0.2〜6重量部低度が推奨され、その配合比率は、安定化の効果を示す範囲であれば、特に制限はないが、通常、5:1〜1:5の範囲で使われることが多い。
【0074】
また、前記シラン化合物系の耐放射線材料としては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン化合物、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルアミノエトキシプロピルジアルコキシシラン、N−(βアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン化合物、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(フェニル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−(ポリエチレンアミノ)プロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン化合物、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン化合物、ビニルトリアセトキシシラン等のアセトキシシラン化合物、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−クロロプロピルメチルジクロロシラン等のクロロシラン化合物、トリイソプロピルシラン、トリイソプロピルシリルアクリレート、アリルトリメチルシラン、トリメチルシリル酢酸メチル等のオルガノシラン化合物が例示される。又、耐放射線材料を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する耐放射線材料の配合量は0.1〜15重量部程度が推奨される。
【0075】
本発明の医療用塩化ビニル系樹脂組成物には、本エポキシ化合物と共に他の公知の可塑剤を併用することができる。また、必要に応じて安定化助剤、酸化防止剤(老化防止剤)、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤、充填剤、希釈剤、減粘剤、増粘剤、加工助剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、接着剤、着色剤等の添加剤を配合することができる。
【0076】
上記本エポキシ化合物以外の他の可塑剤、添加剤は、1種でまたは2種以上適宜組み合わせて本エポキシ化合物と共に配合されていてもよい。
【0077】
本エポキシ化合物と併用することができる公知の可塑剤としては、例えば、ジエチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステル類、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、テレフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOTP)、イソフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOIP)等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル(DOS)、セバシン酸ジイソノニル(DINS)等の脂肪族二塩基酸エステル類、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(TOTM)、トリメリット酸トリイソノニル(TINTM)、トリメリット酸トリイソデシル(TIDTM)等のトリメリット酸エステル類、ピロメリット酸テトラ−2−エチルヘキシル(TOPM)等のピロメリット酸エステル類、リン酸トリ−2−エチルヘキシル(TOP)、リン酸トリクレジル(TCP)等のリン酸エステル類、ペンタエリスリトール等の多価アルコールのアルキルエステル、アジピン酸等の二塩基酸とグリコールとのポリエステル化によって合成された分子量800〜4000のポリエステル類、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシエステル類、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル(DINCH)、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ−2−エチルヘキシルエステル等の脂環式二塩基酸エステル類、ジカプリン酸1.4−ブタンジオール等の脂肪酸グリコールエステル類、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)類、アセチルクエン酸トリヘキシル(ATHC)、アセチルクエン酸トリエチルヘキシル(ATEHC)、ブチリルクエン酸トリヘキシル(BTHC)等のクエン酸エステル類、イソソルビドジエステル類、パラフィンワックスやn−パラフィンを塩素化した塩素化パラフィン類、塩素化ステアリン酸エステル等の塩素化脂肪酸エステル類、オレイン酸ブチル等の高級脂肪酸エステル類等が例示される。上記併用できる可塑剤を配合する場合、その配合量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、1〜100重量部程度が推奨される。
【0078】
安定化助剤としては、トリフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリデシルフォスファイト等のホスファイト系化合物、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のベータジケトン化合物、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等のポリオール化合物、過塩素酸バリウム塩、過塩素酸ナトリウム塩等の過塩素酸塩化合物、ハイドロタルサイト化合物、ゼオライトなどが例示される。又、安定化助剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する安定化助剤の配合量は0.1〜20重量部程度が推奨される。
【0079】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート]メタン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどのフェノール系化合物、アルキルジスルフィド、チオジプロピオン酸エステル、ベンゾチアゾールなどの硫黄系化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン酸系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛などの有機金属系化合物などが例示される。又、酸化防止剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する酸化防止剤の配合量は0.2〜20重量部程度が推奨される。
【0080】
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレートなどのサリシレート系化合物、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、1−ジオクチルアミノメチルベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系化合物の他、シアノアクリレート系化合物などが例示される。又、紫外線吸収剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する紫外線吸収剤の配合量は0.1〜10重量部程度が推奨される。
【0081】
ヒンダードアミン系の光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート(混合物)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジル)エステル及び1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールと高級脂肪酸のエステル混合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重縮合物、ポリ[{(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル){(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}}、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N' −ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、N,N' ,N'' ,N''' −テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン等が例示される。又、光安定剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する光安定剤の配合量は0.1〜10重量部程度が推奨される。
【0082】
充填剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、珪藻土、フェライトなどの金属酸化物、ガラス、炭素、金属などの繊維及び粉末、ガラス球、グラファイト、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウムなどが例示される。又、充填剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する充填剤の配合量は1〜100重量部程度が推奨される。
【0083】
希釈剤としては、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレートや低沸点の脂肪族系、芳香族系の炭化水素などが例示される。又、希釈剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する希釈剤の配合量は1〜50重量部程度が推奨される。
【0084】
減粘剤としては、各種非イオン系界面活性剤、スルフォサクシネート系アニオン界面活性剤、界面活性をもったシリコーン系化合物、大豆油レシチン、一価アルコール類、グリコールエーテル類、ポリエチレングリコール類などが例示される。又、減粘剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する減粘剤の配合量は0.1〜20重量部程度が推奨される。
【0085】
増粘剤としては、合成微粉シリカ系、ベントナイト系、極微細沈降炭酸カルシウム、金属石鹸系、水素添加ひまし油、ポリアミドワックス、酸化ポリエチレン系、植物油系、粒酸エステル系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などが例示される。又、増粘剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する増粘剤の配合量は1〜50重量部程度が推奨される。
【0086】
加工助剤としては、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、ブチルステアレートなどが例示される。又、加工助剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する加工助剤の配合量は0.1〜20重量部程度が推奨される。
【0087】
滑剤としては、シリコーン、流動パラフィン、バラフィンワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸ワックス、高級脂肪酸ワックス等が例示される。又、滑剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する滑剤の配合量は0.1〜10重量部程度が推奨される。
【0088】
帯電防止剤としては、アルキルスルホネート型、アルキルエーテルカルボン酸型又はジアルキルスルホサクシネート型のアニオン性帯電防止剤、ポリエチレングリコール誘導体、ソルビタン誘導体、ジエタノールアミン誘導体などのノニオン性帯電防止剤、アルキルアミドアミン型、アルキルジメチルベンジル型などの第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム型の有機酸塩又は塩酸塩などのカチオン性帯電防止剤、アルキルベタイン型、アルキルイミダゾリン型などの両性帯電防止剤などが例示される。又、帯電防止剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する帯電防止剤の配合量は0.1〜10重量部程度が推奨される。
【0089】
難燃剤としては、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等の無機系化合物、クレジルジフェニルホスフェート、トリスクロロエチルフォスフェート、トリスクロロプロピルフォスフェート、トリスジクロロプロピルフォスフェート等のリン系化合物、塩素化パラフィン等のハロゲン系化合物等が例示される。又、難燃剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する難燃剤の配合量は0.1〜20重量部程度が推奨される。
【0090】
発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等の有機発泡剤、重曹等の無機発泡剤などが例示される。又、発泡剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する発泡剤の配合量は0.1〜30重量部程度が推奨される。
【0091】
着色剤としては、カーボンブラック、硫化鉛、ホワイトカーボン、チタン白、リトポン、べにがら、硫化アンチモン、クロム黄、クロム緑、フタロシアニン緑、コバルト青、フタロシアニン青、モリブデン橙などが例示される。又、着色剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する着色剤の配合量は1〜20重量部程度が推奨される。
【0092】
本発明の医療用塩化ビニル系樹脂組成物は、本エポキシ化合物、塩化ビニル系樹脂及び使用目的・使用用途に応じて上記安定剤やシラン化合物、並びに必要に応じて各種添加剤を例えばハンドリング混合や、ポニーミキサ、バタフライミキサ、プラネタリミキサ、ディゾルバ、二軸ミキサ−、三本ロールミル、モルタルミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、リボンブレンダー等の攪拌・混合機やコニカル二軸押出機、パラレル二軸押出機、単軸押出機、コニーダー型混練機、ロール混練機等の混練機により攪拌混合・溶融混合を行い、粉状、ペレット状またはペースト状の塩化ビニル系樹脂組成物とすることができる。
【0093】
[医療用材料]
本発明に係る医療用塩化ビニル系樹脂組成物は、真空成形、圧縮成形、押出成形、射出成形、カレンダー成形、プレス成形、ブロー成形、粉体成形、スプレッドコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、紙キャスティング、押出コーティング、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、スラッシュ成形、回転成形、注型、ディップ成形、溶着等の従来公知の方法を用いて成形加工することにより、所望の形状の成形体である医療用材料に成形することができる。
【0094】
医療用材料である成形体の形状としては、特に限定されないが、例えば、ロッド状、シート状、フィルム状、板状、円筒状、円形、楕円形等あるいは特殊な形状のもの、例えば星形、多角形形状が例示される。
【0095】
かくして得られた医療用材料である成形体は、胸腔チューブ,透析チューブ、人工呼吸チューブ、気管内チューブ、呼吸器チューブ、栄養チューブ、延長チューブ等のチューブ類、導尿カテーテル、吸引カテーテル、静脈注射カテーテル、消化管カテーテル等のカテーテル類、血液バッグ、輸液バッグ、薬液バッグ、ドレインバッグ等のバッグ類、血液成分分離機、血液透析回路、腹膜透析回路、人工心肺回路等の回路機器部材、連結部材、分岐バルブ、速度調節部材等のコネクタ部材、輸液セット、輸血セット、静脈注射セット、心肺バイパス、手術用手袋、医薬品包装材料、医療用フィルム、衛生材料、呼吸マスク等の医療用材料として非常に有用である。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、実施例や比較例中の化合物の略号、及び各特性の測定は以下の通りである。
【0097】
(1)アルキル基の炭素数と直鎖状アルキル基の比率
本発明の実施例及び比較例で用いる可塑剤中のアルキル基の炭素数と直鎖状アルキル基の比率は、その製造に用いた原料アルコール中の組成をガスクロマトグラフィー(以下GCと略記)によって測定し、その結果を可塑剤中のアルキル基の炭素数と直鎖状アルキル基の比率とした。前記GCによる原料アルコールの測定方法は次のとおりである。
《GCの測定条件》
機種:ガスクロマトグラフ GC−17A(島津製作所製)
検出器:FID
カラム:キャピラリーカラム ZB−1 30m
カラム温度:60℃から290℃まで昇温。昇温速度=13℃/分
キャリアガス:ヘリウム
試料:50%アセトン溶液
注入量:1μl
定量:安息香酸n−プロピルを内部標準物質として用い定量した。
前記内部標準物質の選定に当たっては、原料アルコールに安息香酸n−プロピルがGCで検出限界以下であったことを予め確認した。
なお、上述のエステル化反応において、本発明の範囲内では原料アルコールの構造による反応性に差異はなく、用いた原料アルコール中の組成比と本エステル並びに本エポキシ化合物中のアルキル基の組成比に差異がないことは、予め確認している。
【0098】
(2)本エステル及び本エポキシ化合物の物性評価
下記の製造例で得られたエステル及びエポキシ化合物は次の方法で分析を行った。
エステル価:JIS K−0070(1992)に準拠して測定した。
酸価:JIS K−0070(1992)に準拠して測定した。
ヨウ素価:JIS K−0070(1992)に準拠して測定した。
オキシラン酸素:基準油脂分析試験法 2.3.7.1-2013「オキシラン酸素定量方法(その1)」に準拠して測定した。
色相:JIS K−0071(1998)に準拠して測定して、ハーゼン単位色数を求めた。
【0099】
(3)成形加工性
塩化ビニル樹脂(ストレート、重合度1050、商品名「Zest1000Z」、新第一塩ビ(株)製)2gに可塑剤10gを入れ混合したサンプル約0.01gをスライドガラス上に滴下し、カバーガラスをかけ、光学顕微鏡にセットした。5℃/minの速度で昇温し、加熱昇温による塩化ビニル樹脂の粒子の状態変化を観察し、塩化ビニル樹脂の粒子が溶け始める温度と該粒子が透明になった温度をそれぞれゲル化開始温度およびゲル化終了温度とし、その平均値をゲル化温度とした。ゲル化温度が低いほど可塑剤の吸収速度が速く加工性に優れる。
【0100】
(4)塩化ビニルシートの作製
塩化ビニル樹脂(ストレート、重合度1050、商品名「Zest1000Z」、新第一塩ビ(株)製)100重量部に、安定剤として、カルシウムステアレート(ナカライテスク(株)製)及びジンクステアレート(ナカライテスク(株)製)を各々0.3及び0.2重量部を配合し、モルタルミキサーで攪拌混合して、塩化ビニル系樹脂組成物とした。また、モルタルミキサーでの攪拌混合後、本発明に係るエポキシ化合物を50重量部加え、均一になるまでハンドリング混合し、本発明の医療用塩化ビニル系樹脂組成物とした。この樹脂組成物を5×12インチの二本ロールを用いて160〜166℃で4分間溶融混練しロールシートを作製した。続いて162〜168℃×10分間プレス成形を行い、厚さ約1mmのプレスシートを作製した。
【0101】
[樹脂の物性評価]
(5)引張特性:JIS K−6723(1995)に準拠し、プレスシートの100%モジュラス、破断強度、破断伸びを測定した。100%モジュラスの値が小さいほど柔軟性が良好であることを示し、破断強度、破断伸びはその材料の実用的な強度の目安であり、一般的にはその値が大きいほど実用的な強度に優れると言うことができる。
【0102】
(6)耐寒性:クラッシュベルグ試験機を用いて、JIS K−6773(1999)に準拠して、プレスシートの柔軟温度(℃)を測定した。柔軟温度(℃)が低いほど耐寒性に優れる。ここで言う柔軟温度とは、前記測定において所定のねじり剛性率(3.17×10
3kg/cm
2)を示す低温限界の温度を指す。
【0103】
(7)耐熱性(揮発性、着色性):加熱後の揮発減量及びシート着色の評価による。
a)揮発減量:ギヤーオーブン中、ロールシートを170℃で60分、120分加熱した後のシートの重量変化を測定し、下記の式に従って揮発減量(%)を算出した。
揮発減量の数値が小さいほど、耐熱性が高い。
揮発減量(%)=((試験前の重量―試験後の重量)/試験前の重量)×100
b)シート着色 :ギヤーオーブン中、ロールシートを170℃で30分、60分間加熱した後の着色度の強弱を目視により5段階で評価した。
◎:着色なし、 ○:僅かに着色、 △:着色、 ×:強い着色、 ××:著しい着色
【0104】
(8)紫外線照射試験
スガ試験機社製キセノンウェザーメーターを用いて、測定条件(放射照度120W/m
2、温度63℃、湿度50%)を200時間実施した後のプレスシートのイエローインデックス(YI)を測定した。
【0105】
[製造例1]
エステル化反応
温度計、デカンター、攪拌羽、還流冷却管を備えた2L四ツ口フラスコに、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物182.6g(1.2モル,新日本理化(株)製:リカシッドTH)、炭素数9の直鎖状の飽和脂肪族アルコール重量85.1%と炭素数9の分岐鎖状の飽和族飽和アルコール重量11.7%を含む飽和脂肪族アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)416g(2.9モル)、及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.24gを加え、反応温度を200℃としてエステル化反応を実施した。減圧下アルコールを還流させて生成水を系外へ除去しながら、反応溶液の酸価が0.5mgKOH/gになるまで反応を行った。反応終了後、未反応アルコールを減圧下で系外へ留去した後、常法に従って中和、水洗、脱水して目的とする4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステル(以下、「エステル1」という。)449gを得た。
得られたエステル1は、エステル価:262mgKOH/g、酸価:0.04mgKOH/g、色数:20であった。
【0106】
エポキシ化反応
次に、上温度計、攪拌羽、冷却管を備えた1L四ツ口フラスコに、上記エステル化反応で得られたエステル1を423g(1.0モル)仕込み、60〜70℃に昇温した。昇温後、60%過酸化水素水76.6g(1.35モル)、76%蟻酸18.3g(0.30モル)、及び75%燐酸1.47g(0.01モル)を2時間15分かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、更に4時間上記温度を保持し、熟成して反応を完了した。反応終了後、水相を系外へ除去した後、常法に従って、水洗、脱水して目的とする4,5−エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステル(以下、「エポキシ1」という。)397gを得た。
得られたエポキシ1は、エステル価:256mgKOH/g、酸価:0.06mgKOH/g、ヨウ素価:1.7gI
2/100g、オキシラン酸素:3.5%、色数:10であった。
【0107】
[製造例2]
飽和脂肪族アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)416gの代わりに、炭素数9/10/11の比率が19/43/38であり、全体の直鎖率が84%である炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコール(シェルケミカルズ社製:ネオドール911、)464g(2.9モル)を加えた以外は製造例1と同様に実施して、4,5−エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステル(以下、「エポキシ2」という。)404gを得た。
得られたエポキシ2は、エステル価:242mgKOH/g、酸価:0.04mgKOH/g、ヨウ素価:1.7gI
2/100g、オキシラン酸素:3.1%、色数:10であった。
【0108】
[製造例3]
飽和脂肪族アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)416gの代わりに、n−ノニルアルコール251g(1.7モル)とイソノニルアルコール167g(1.2モル)を加えた以外は製造例1と同様に実施して、4,5−エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステル(以下、「エポキシ3」という。)390gを得た。
得られたエポキシ3は、エステル価:250mgKOH/g、酸価:0.02mgKOH/g、ヨウ素価:1.9gI
2/100g、オキシラン酸素:3.3%、色数:10であった。
【0109】
[製造例4]
飽和脂肪族アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)416gの代わりに、2−エチルヘキサノール378g(2.9モル)を加えた以外は製造例1と同様に実施して、4,5−エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステル(以下、「エポキシ4」という。)390gを得た。
得られたエポキシ4は、エステル価:273mgKOH/g、酸価:0.04mgKOH/g、ヨウ素価:2.6gI
2/100g、オキシラン酸素:3.7%、色数:10であった。
【0110】
[製造例5]
飽和脂肪族アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)416gの代わりに、n−ノニルアルコール167g(1.2モル)とイソノニルアルコール251g(1.7モル)を加えた以外は製造例1と同様に実施して、4,5−エポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステル(以下、「エポキシ5」という。)340gを得た。
得られたエポキシ5は、エステル価:257mgKOH/g、酸価:0.06mgKOH/g、ヨウ素価:2.5gI
2/100g、オキシラン酸素:3.3%、色数:10であった。
【0111】
[実施例1]
上記「(3)成形加工性」に記載した方法に従って、製造例1で得られたエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステル(エポキシ1)を用いて成形加工性(ゲル化温度)を測定した。得られた結果を表1に示した。
続いて、上記「(4)塩化ビニルシートの作製」に記載した通り、エポキシ1を可塑剤として用いて医療用軟質塩化ビニル系樹脂組成物(即ち、軟質材料に使用する為の医療用塩化ビニル系樹脂組成物)を調製し、得られた軟質塩化ビニル系樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験、耐熱性試験及び紫外線照射試験を行なった。得られた結果を表1に示した。
【0112】
[実施例2]
エポキシ1の代わりにエポキシ2を用いた以外は実施例1と同様に実施して、成形加工性を測定し、続いて医療用軟質塩化ビニル系樹脂組成物を調製し、得られた軟質塩化ビニル系樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験、耐熱性試験及び紫外線照射試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0113】
[実施例3]
エポキシ1の代わりにエポキシ3を用いた以外は実施例1と同様に実施して、成形加工性を測定し、続いて医療用軟質塩化ビニル系樹脂組成物を調製し、得られた軟質塩化ビニル系樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験、耐熱性試験及び紫外線照射試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0114】
[比較例1]
エポキシ1の代わりにエポキシ4を用いた以外は実施例1と同様に実施して、成形加工性を測定し、続いて軟質塩化ビニル系樹脂組成物を調製し、得られた軟質塩化ビニル系樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験、耐熱性試験及び紫外線照射試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0115】
[比較例2]
エポキシ1の代わりにエポキシ5を用いた以外は実施例1と同様に実施して、成形加工性を測定し、続いて軟質塩化ビニル系樹脂組成物を調製し、得られた軟質塩化ビニル系樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験、耐熱性試験及び紫外線照射試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0116】
[比較例3]
エポキシ1の代わりに1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル(BASF社製、hexamoll DINCH)を用いた以外は実施例1と同様に実施して、成形加工性を測定し、続いて軟質塩化ビニル系樹脂組成物を調製し、得られた軟質塩化ビニル系樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験、耐熱性試験及び紫外線照射試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0117】
[比較例4]
エポキシ1の代わりにフタル酸ジ2-エチルヘキシル(新日本理化(株)製、サンソサイザーDOP)を用いた以外は実施例1と同様に実施して、成形加工性を測定し、続いて軟質材料用の塩化ビニル系樹脂組成物を調製し、得られた軟質材料用の塩化ビニル系樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験、耐熱性試験及び紫外線照射試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0118】
[比較例5]
エポキシ1の代わりに市販のトリメリット酸トリ2?エチルヘキシルを用いた以外は実施例1と同様に実施して、成形加工性を測定し、続いて軟質材料用の塩化ビニル系樹脂組成物を調製し、得られた軟質材料用の塩化ビニル系樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験、耐熱性試験及び紫外線照射試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0119】
【表1】
【0120】
表1の結果より、明らかに本発明のエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを配合した医療用塩化ビニル系樹脂組成物(実施例1〜3)は、現在最も汎用に使われているフタル酸エステル系の可塑剤であるDOPを配合した樹脂組成物(比較例4)と比べて、紫外線照射試験後の着色が非常に少ないことがわかる。一般に塩化ビニル樹脂組成物から得られた成形体の着色の原因は、塩化ビニル樹脂の脱塩酸反応による共役ポリエンの生成により着色するもので、紫外線や放射線の照射がそれを促進するために滅菌や殺菌処理時に着色することが知られており、上記結果より紫外線照射だけでなく、同じメカニズムで着色すると考えられる様々な放射線照射による滅菌や殺菌処理においても、同様の効果を示すものと言える。
【0121】
また、同じく本発明のエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを配合した医療用塩化ビニル系樹脂組成物(実施例1〜3)は、現在最も汎用に使われているフタル酸エステル系の可塑剤を配合した樹脂組成物(比較例4)と比べて、揮発減量が少なく、更に熱着色もなく、煮沸やオートクレーブ等の加熱を伴う殺菌や滅菌処理において、可塑剤の揮発による柔軟性の低下や着色等の劣化の懸念がより低減され、非常に有用であることがわかる。
【0122】
次に、最近耐熱性に優れるとして使われ始めているトリメリット酸エステル系の可塑剤であるTOTMを配合した樹脂組成物(比較例5)と比べても、紫外線照射試験後の着色が非常に少ないことがわかる。
【0123】
更に、本発明外のエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを配合した樹脂組成物(比較例1、2)と比較しても、本発明に係るエポキシシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを使うことにより、使用時の柔軟性や耐寒性が同等か、それ以上であり、かつ揮発減量が少なく、煮沸やオートクレーブ等の加熱を伴う殺菌や滅菌処理における可塑剤の揮発による柔軟性の低下等、劣化の懸念がより低減され、非常に有用であることが明らかである。