特許第6706036号(P6706036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706036
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】メタクリル系樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/14 20060101AFI20200525BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C08L33/14
   C08L33/10
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-152442(P2015-152442)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-31319(P2017-31319A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100140877
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100140545
【弁理士】
【氏名又は名称】早瀬 貴介
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】谷口 義輝
(72)【発明者】
【氏名】石井 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊宏
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−109435(JP,A)
【文献】 特開昭61−037836(JP,A)
【文献】 特開平05−230299(JP,A)
【文献】 特開平05−163393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00− 33/26
C08L 23/00− 23/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体以外のメタクリル系樹脂(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)と、を含み、厚さ2mmの板状の成形体とした場合の厚さ方向の全光線透過率が80%以上であり、
前記メタクリル系樹脂(A)が、メタクリル酸エステルに由来する構成単位の含有量が50質量%を超えるメタクリル酸エステル系樹脂であり、
前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)が、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体であり、前記エチレンに由来する構成単位の含有量が、50質量%〜99質量%であり、
前記メタクリル系樹脂(A)及び前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の合計量に対して、前記メタクリル系樹脂(A)の含有量が85質量%〜97質量%であり、かつ、前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の含有量が3質量%〜15質量%である(ただし、メタクリル系樹脂(A)とエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)との合計量を100質量%とする)メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)に含有される不飽和カルボン酸グリシジルエステルに由来する構成単位の含有量が、1質量%〜20質量%である請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)のメルトフローレート(190℃、21.2N荷重、JIS K7210(1999))が、0.1g/10分〜50g/10分である請求項1又は請求項2記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)のメルトフローレート(190℃、21.2N荷重、JIS K7210(1999))が、0.2g/10分〜40g/10分である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記メタクリル系樹脂(A)のメルトフローレート(230℃、37.3N荷重、JIS K7210(1999))が、0.1g/10分〜50g/10分である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物を用いて成形されている成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸メチル樹脂〔Polymethyl methacrylate;PMMA〕等のメタクリル系樹脂は、透明性に優れた樹脂として知られている。
近年、メタクリル系樹脂の耐溶剤性を向上させる検討が行われている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−327633号公報
【特許文献2】特開2013−32513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、メタクリル系樹脂の耐溶剤性を向上させるために、メタクリル系樹脂に他の成分を加えてメタクリル系樹脂組成物とする場合、単に耐溶剤性を向上させることだけではなく、メタクリル系樹脂本来の性質である透明性、機械物性が極力損なわれないようにすることも求められる。
【0005】
従って、本発明の目的は、透明性、機械物性、及び耐溶剤性に優れたメタクリル系樹脂組成物及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための具体的手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体以外のメタクリル系樹脂(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)と、を含み、厚さ2mmの板状の成形体とした場合の厚さ方向の全光線透過率が80%以上であるメタクリル系樹脂組成物である。
<2> 前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)に含有される不飽和カルボン酸グリシジルエステルに由来する構成単位の含有量が、1質量%〜20質量%である<1>に記載のメタクリル系樹脂組成物である。
<3> 前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)がエチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸グリシジルエステルである<1>又は<2>に記載のメタクリル系樹脂組成物である。
<4> 前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)のメルトフローレート(190℃、21.2N荷重、JIS K7210(1999))が、0.1g/10分〜50g/10分である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のメタクリル系樹脂組成物である。
<5> 前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)のメルトフローレート(190℃、21.2N荷重、JIS K7210(1999))が、0.2g/10分〜40g/10分である<1>〜<4>のいずれか1つに記載のメタクリル系樹脂組成物である。
<6> 前記メタクリル系樹脂(A)のメルトフローレート(230℃、37.3N荷重、JIS K7210(1999))が、0.1g/10分〜50g/10分である<1>〜<5>のいずれか1つに記載のメタクリル系樹脂組成物である。
<7> 前記メタクリル系樹脂(A)及び前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の合計量に対して、前記メタクリル系樹脂(A)の含有量が51質量%〜99質量%であり、かつ、前記エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の含有量が1質量%〜49質量%である(ただし、メタクリル系樹脂(A)とエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)との合計量を100質量%とする)<1>〜<6>のいずれか1つに記載のメタクリル系樹脂組成物。
<8> <1>〜<7>のいずれか1つに記載のメタクリル系樹脂組成物を用いて成形されている成形体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、透明性、機械物性、及び耐溶剤性に優れたメタクリル系樹脂組成物及び成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の耐溶剤性評価における試験片のせり上がり状態を模式的に示す斜視図である。
図2】実施例の耐溶剤性評価における試験片のせり上がり状態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
なお、本明細書において「〜」の記号により数値範囲を示す場合、当該数値範囲には、下限値及び上限値が含まれる。
【0010】
<メタクリル系樹脂組成物>
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体以外のメタクリル系樹脂(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)と、を含み、厚さ2mmの板状の成形体とした場合の厚さ方向の全光線透過率を80%以上としたものである。
以下、単に「メタクリル系樹脂(A)」というときは、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体以外のメタクリル系樹脂を指す。
本発明では、透明性に優れた樹脂であるメタクリル系樹脂(A)に、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)を加えることにより、光学特性及び機械物性の低下を抑制しながら(具体的には、上記全光線透過率を80%以上とし、かつ、曲げ弾性、並びに破断点応力及び伸びなどを維持しながら)、耐溶剤性を向上させることができる。
【0011】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、全光線透過率が80%以上であることで、透明性に優れている。透明性の観点からは全光線透過率の値は高いほど好ましく、85%以上であることがより好ましい。
本発明において、「全光線透過率」は、JIS K7361−1(1997)に準拠した方法により測定される値である。
【0012】
本発明において、「耐溶剤性に優れる」とは、溶剤と接触した場合に、ひびや割れが発生しにくいことを示す。
耐溶剤性の評価方法の一例は、後述する実施例において詳述する。
【0013】
上記の耐溶剤性の向上効果は、メタクリル系樹脂組成物が、メタクリル系樹脂(A)に加えてエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)を含むことによって奏される効果である。
この理由は明らかではないが、柔軟な樹脂であるエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)が応力を緩和させるように作用し、かつ、このエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)がメタクリル系樹脂(A)との相溶性に優れているためと推測される。
【0014】
また、本発明のメタクリル系樹脂組成物では、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)を含むことにより、優れた光学特性が維持され易い。この理由は、メタクリル系樹脂(A)の屈折率とエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の屈折率とが比較的近い値であるためと推測される。
【0015】
メタクリル系樹脂(A)の屈折率及びエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の屈折率は、いずれも1.481〜1.496の範囲であることが好ましく、いずれも1.483〜1.495の範囲であることがより好ましく、いずれも1.485〜1.494の範囲であることがさらに好ましい。
ここで、屈折率は、JIS K7142(2008)「プラスチック−屈折率の求め方」の「A法」に準拠して測定される値を指す。
【0016】
また、本発明のメタクリル系樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)を含んでおり、機械物性が維持され易い。さらに、本発明のメタクリル系樹脂組成物は、耐吸湿性にも優れ、流動性向上及び耐衝撃性の向上効果も期待できる。
【0017】
次に、本発明のメタクリル系樹脂組成物における各成分について説明する。
【0018】
〔メタクリル系樹脂(A)〕
本発明におけるメタクリル系樹脂(A)としては、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体以外のメタクリル系樹脂であれば特に制限はない。
本発明におけるメタクリル系樹脂(A)としては、メタクリル酸に由来する構成単位の含有量が50質量%を超えるメタクリル酸系樹脂、及び、メタクリル酸エステルに由来する構成単位の含有量が50質量%を超えるメタクリル酸エステル系樹脂の少なくとも一方であることが好ましい。
「メタクリル酸エステル系樹脂」とは、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体以外のメタクリル酸エステル系樹脂である(以下において同様である)。
【0019】
メタクリル酸系樹脂(A)としては、メタクリル酸の単独重合体(メタクリル酸に由来する構成単位の含有量が100質量%の重合体)、メタクリル酸と他の1種又は2種以上の共重合成分との共重合体が挙げられる。
メタクリル酸と共重合し得る前記共重合成分としては、例えば、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、アクリル酸、α−オレフィン、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルモルホリン、ビニルピリドンテトラヒドロフルフリルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−ヒドロキシアクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノアクリレート、無水マレイン酸、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
【0020】
メタクリル酸エステル系樹脂としては、メタクリル酸エステルの単独重合体(メタクリル酸エステルに由来する構成単位の含有量が100質量%の重合体)、メタクリル酸エステルと他の1種又は2種以上の共重合成分との共重合体が挙げられる。
メタクリル酸エステルと共重合し得る前記共重合成分としては、例えば、アクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、エチレン以外のα−オレフィン、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルモルホリン、ビニルピリドンテトラヒドロフルフリルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−ヒドロキシアクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノアクリレート、無水マレイン酸、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
【0021】
また、メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸のアルキルエステルが好ましい。メタクリル酸のアルキルエステルにおけるアルキル部位は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。
また、上記アルキル部位の炭素数としては、1〜12が挙げられる。
上記アルキル部位としては、具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、セカンダリーブチル、2−エチルヘキシル、イソオクチル等のアルキル基等を例示することができる。
上記アルキル部位の炭素数は、1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましく、1であること(すなわち、上記メタクリル酸エステルが、メタクリル酸メチル(MMA)であること)が特に好ましい。
【0022】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂(A)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。メタクリル系樹脂組成物におけるメタクリル系樹脂(A)の含有量の範囲については後述する。
メタクリル系樹脂(A)としては、上記の中でも、メタクリル酸エステル系樹脂が好ましく、メタクリル酸メチル系樹脂がより好ましく、メタクリル酸メチルの単独重合体であるメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)が特に好ましい。
【0023】
メタクリル系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)としては、特に制限はないが、耐溶剤性をより向上させる観点から、0.1g/10分〜50g/10分であることが好ましく、0.2g/10分〜40g/10分であることがより好ましく、0.3g/10分〜30g/10分であることが更に好ましく、0.4g/10分〜27g/10分であることが更に好ましく、0.5g/10分〜5g/10分であることが特に好ましい。
メタクリル系樹脂(A)のMFRは、JIS K7210(1999)に準拠して230℃、37.3N荷重の条件で測定される値である。
【0024】
メタクリル系樹脂(A)は、常法によって合成することができる。
例えばメタクリル酸エステル系樹脂は、アセトシアンヒドリン(ACH)を用いたACH法、ナフサのC4留分からブタジエンを分離したスペントBBに含まれるイソブチレンを用いたイソブチレン直接酸化法等によって合成されたメタクリル酸エステルモノマーをラジカル重合すればよい。
【0025】
〔エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)〕
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)を含む。
エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)は、不飽和カルボン酸グリシジルエステル以外の他の成分に由来の構成単位を1種以上含んでいてもよい。すなわち、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)は、2元共重合体であってもよいし、上記他の成分が共重合した3元以上の共重合体であってもよい。具体的には、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)は、エチレンに由来する構成単位及び不飽和カルボン酸グリシジルエステルに由来する構成単位を含む2元共重合体であるほか、エチレンに由来する構成単位、不飽和カルボン酸グリシジルエステルに由来する構成単位、及び必要に応じて例えば上記他の不飽和カルボン酸アルキルエステル、カルボン酸ビニル、一酸化炭素、及び二酸化硫黄等から選ばれる一種又は二種以上に由来する構成単位を含む3元以上の共重合体であってもよい。
【0026】
不飽和カルボン酸グリシジルエステルとしては、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル、クロトン酸グリシジルエステル、フマル酸グリシジルエステル、マレイン酸グリシジルエステル、マレイン酸モノグリシジルエステル、無水マレイン酸グリシジルエステル、イタコン酸グリシジルエステル、無水イタコン酸グリシジルエステルなどが挙げられ、アクリル酸グリシジルエステル及びメタクリル酸グリシジルエステルが特に好ましい。
【0027】
また、上記他の不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、エタクリル酸アルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステル、マレイン酸モノアルキルエステル、無水マレイン酸アルキルエステル、イタコン酸アルキルエステル、無水イタコン酸アルキルエステルなどが挙げられ、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルが特に好ましい。
【0028】
不飽和カルボン酸アルキルエステルのアルキル部位の炭素数としては、1〜12が好ましい。炭素数1〜12のアルキル部位の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ノルマルブチル(n−ブチル)、イソブチル、セカンダリーブチル、2−エチルヘキシル、イソオクチル等のアルキル基が挙げられる。上記不飽和カルボン酸アルキルエステルのアルキル部位としては、透明性をより高く維持する観点から、メチル、エチル、ノルマルブチル、及びイソブチルから選択される少なくとも1種が好ましく、メチル及びエチルが特に好ましい。
【0029】
上記カルボン酸ビニルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニルなどが挙げられるが、酢酸ビニルが特に好ましい。
【0030】
上記した不飽和カルボン酸グリシジルエステル、不飽和カルボン酸アルキルエステル、及びカルボン酸ビニルは、それぞれ2種以上を併用してもよい。
【0031】
エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)は、エチレンに由来する構成単位の含有量が、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジル系共重合体の全質量に対して、40質量%〜99質量%が好ましく、50質量%〜99質量%がより好まし、60質量%〜99質量%が特に好ましい。
【0032】
また、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)は、不飽和カルボン酸グリシジルエステルに由来する構成単位の含有量が、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジル系共重合体の全質量に対して、1質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは1.1質量%〜15質量%であり、最も好ましくは1.2質量%〜13質量%である。不飽和カルボン酸グリシジルエステルに由来する構成単位の含有量が上記範囲内であることで、メタクリル系樹脂組成物を調製した際の耐溶剤性がより向上する。
【0033】
本発明におけるエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)が、上記他の不飽和カルボン酸アルキルエステル、カルボン酸ビニル、一酸化炭素、及び二酸化硫黄等から選ばれる一種又は二種以上に由来する構成単位を含む場合、これら構成単位の合計の含有量は、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジル系共重合体の全質量に対して、40質量%以下であることが好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)に含有される不飽和カルボン酸グリシジルエステルに由来の構成単位の含有量、並びに他の不飽和カルボン酸アルキルエステル、カルボン酸ビニル、一酸化炭素、及び二酸化硫黄等の共重合成分に由来の構成単位の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)がメタクリル系樹脂(A)との相溶性に優れることから、界面での散乱が起きにくくなる。これにより、メタクリル系樹脂組成物の透明性、機械物性を維持し易く、また、メタクリル系樹脂組成物の耐溶剤性をより向上させることができる。
【0034】
本発明において、好ましいエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)は、エチレン・アクリル酸ノルマルブチル・メタクリル酸グリシジルエステル共重合体、エチレン・メタクリル酸グリシジルエステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・メタクリル酸グリシジルエステル共重合体、エチレン・アクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジルエステル共重合体であり、特に好ましいエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)は、エチレン・アクリル酸ノルマルブチル・メタクリル酸グリシジルエステル共重合体である。
【0035】
エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)のメルトフローレート(MFR)としては、特に制限はないが、耐溶剤性をより向上させる観点から、0.1g/10分〜50g/10分であることが好ましく、0.2g/10分〜40g/10分であることがより好ましく、0.3g/10分〜30g/10分であることが更に好ましく、1g/10分〜20g/10分であることが特に好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)のMFRは、JIS K7210(1999)に準拠して190℃、21.2N荷重の条件で測定される値である。
【0036】
メタクリル系樹脂組成物において、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)のMFRとメタクリル系樹脂(A)のMFRが上記好ましい範囲にある場合、メタクリル系樹脂組成物の耐溶剤性をより顕著に向上させることができる。
【0037】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。メタクリル系樹脂組成物におけるエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の含有量の範囲については後述する。
【0038】
エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)は、例えば公知の高圧ラジカル共重合により合成することができる。
【0039】
本発明のメタクリル系樹脂組成物における、メタクリル系樹脂(A)の含有量及びエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の含有量には特に制限はないが、優れた耐溶剤性と優れた光学特性及び機械物性とをより効果的に両立させる観点から、以下の範囲が好ましい。ただし、以下において、メタクリル系樹脂(A)とエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)との合計量を100質量%とする。すなわち、メタクリル系樹脂(A)及びエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の合計量に対して、
メタクリル系樹脂(A)の含有量が50質量%を超え100質量%未満であり、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の含有量が0質量%を超え50質量%未満である場合が好ましく、
メタクリル系樹脂(A)の含有量が51質量%〜99質量%であり、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の含有量が1質量%〜49質量%である場合がより好ましく、
メタクリル系樹脂(A)の含有量が75質量%〜97質量%であり、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の含有量が3質量%〜25質量%である場合が更に好ましく、
メタクリル系樹脂(A)の含有量が85質量%〜97質量%であり、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)の含有量が3質量%〜15質量%である場合が特に好ましい。
【0040】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、粘着剤、無機充填剤、ガラス繊維、カーボン繊維などの強化繊維、顔料、染料、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、発泡助剤、ダイマー酸(又はその金属塩)、などを挙げることができる。
【0041】
メタクリル系樹脂組成物を得る方法としては、メタクリル系樹脂(A)とエチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)と必要に応じてその他の成分とを、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサ、ニーダー等で溶融加熱混合する方法等を例示できる。
【0042】
<成形体>
本発明の成形体は、本発明のメタクリル系樹脂組成物を用いて成形されたものである。
このため、本発明の成形体によれば、メタクリル系樹脂(A)の光学特性、機械物性の低下を抑制しながら、メタクリル系樹脂(A)の耐溶剤性が向上されている。
メタクリル系樹脂組成物の成形方法としては、溶融押出、射出成形、ブロー成形、延伸成形等、種々の方法が挙げられる。
【0043】
以上で説明したとおり、本発明のメタクリル系樹脂組成物及び成形体では、優れた光学特性及び機械物性と優れた耐溶剤性とが両立される。
【0044】
以上から、本発明のメタクリル系樹脂組成物及び成形体は、透明性、機械物性、及び耐溶剤性が要求されるあらゆる用途に適用することができるが、特に、光学部品、水回り製品、遊具、照明、自動車部品、化粧品容器、搬送容器、等の用途に特に好適である。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
以下の実施例において、「エチレン含量」、「BA含量」、「GMA含量」は、それぞれ、エチレンに由来する構成単位の含有量、アクリル酸ノルマルブチルに由来する構成単位の含有量、メタクリル酸グリシジルエステルに由来する構成単位の含有量を指す。
【0046】
以下の実施例及び比較例に用いた樹脂A及び樹脂Bは以下の通りである。
下記の樹脂A及び樹脂Bにおいて、屈折率は、JIS K7142(2008)のA法に準拠して測定された値である。
【0047】
−樹脂A(メタクリル系樹脂(A))−
・PMMA(メタクリル酸メチル樹脂):MFR(230℃、荷重37.3N、JIS K7210(1999))=2g/10分、屈折率1.49
【0048】
−樹脂B(エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B))−
・EnBAGMA1(エチレン・アクリル酸ノルマルブチル・メタクリル酸グリシジルエステル共重合体;エチレン含量:66.7質量%、BA含量:28質量%、GMA含量:5.3質量%):MFR(190℃、荷重21.2N、JIS K7210(1999))=12g/10分、屈折率1.49
・EnBAGMA2(エチレン・アクリル酸ノルマルブチル・メタクリル酸グリシジルエステル共重合体;エチレン含量:70質量%、BA含量:21質量%、GMA含量:9質量%):MFR(190℃、荷重21.2N、JIS K7210(1999))=8g/10分、屈折率1.49
【0049】
〔実施例1〜4、比較例1〕
−メタクリル系樹脂組成物の製造−
上記樹脂Aと上記樹脂Bとを、二軸押出機を用いて下記表1に示す配合にて溶融混合し、樹脂組成物(メタクリル系樹脂組成物)とした。
<溶融混合の条件>
・二軸押出機:株式会社池貝製のPCM30
・樹脂温度:240℃
・押出し速度:8kg/hr
【0050】
−成形体Aの作製と測定及び評価−
(成形体Aの作製)
上記で得られた各樹脂組成物を下記の射出成形機に投与し、下記条件にて射出成形し、長さ150mm×幅80mm×厚さ2mmの角板シート(成形体A)を得た。
<射出成形機及び射出成形条件>
・射出成形機:東芝機械社製、IS−220F
・成形温度:250℃
・金型:フィルムゲート
・金型温度(チラー温度):60℃
【0051】
得られた成形体Aに対して下記の測定及び評価を行った。測定結果を下記表1に示す。
(1.全光線透過率)
上記で得られた角板シートの厚さ方向の全光線透過率(%)を、JIS K7361−1(1997)に準拠して測定した。
【0052】
(2.イエローインデックス(YI))
JIS K7373(2006)に準拠して、カラーコンピューター(SM−7−1S−2B、スガ試験機社製)を用い、透過光のYI値を測定した。試験片厚みは、2mmとした。
【0053】
(3.GLOSS)
JIS K7105(1981)に準拠して、光沢計(GM−26PRO、村上色彩社製)を用い、GLOSS(%)を測定した。測定は、試験片の厚みを2mmとし、測定角度を60°として行った。
【0054】
(4.曲げ弾性率)
JIS K7171に準拠して、ストログラフ(V10−C、東洋精機製作所社製)を用い、曲げ弾性率を測定した。測定は、試験片厚みを4mmとし、支点間距離を64mmとし、曲げ速度を2mm/minとして行った。
【0055】
(5.引張り試験(破断点応力、伸び))
JIS K7161に準拠して、ストログラフ(V10−C、東洋精機製作所社製)を用い、破断点応力(MPa)及び伸び(%)を測定した。測定は、試験片厚みを3mmとし、引張速度を5mm/分として行った。
【0056】
−成形体Bの作製と耐溶剤性の評価−
(成形体Bの作製)
上記で得られた各樹脂組成物を、成形体Aの作製に用いたものと同じ射出成形機に投与し、金型をピンゲートに変更したこと以外は上記成形体Aの作製と同じ射出成形条件にて射出成形し、長さ175mm×幅20mm(平行部10mm)×厚み3mmのダンベル状試験片(成形体B)を得た。
【0057】
得られた175mm長のダンベル状試験片を、長さ方向の一端と他端との距離が近づく方向に、かつ、中心部のせり上がりが10mmとなるようにアーチ状に曲げて撓みを加えた状態(図1及び図2参照)で、注射器にて、下記表1に示す溶剤を2ml〜3ml滴下し、ダンベル状試験片(成形体B)の外観を目視観察した。
観察結果に基づき、下記評価基準に従って、耐溶剤性を評価した。評価結果を下記表1に示す。
<耐溶剤性の評価基準>
A:溶剤を滴下してから5分経過しても、試験片中にひびも割れも発生しなかった。
B:溶剤を滴下してから1分以上5分未満の間に、試験片に割れが発生した。
C:溶剤を滴下してから10秒以上1分未満の間に、試験片に割れが発生した。
D:溶剤を滴下してから10秒未満で試験片に割れが発生した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、実施例1〜4では、機械強度及び光学特性を維持し、高い耐溶剤性が確認された。
これに対し、エチレン・不飽和カルボン酸グリシジルエステル系共重合体(B)を用いなかった比較例1(PMMA単体)では、耐溶剤性に劣っていた。
図1
図2