【実施例】
【0027】
本発明の生体音聴診装置に係る実施例を図面に基づいて説明する。本実施例では、生体音聴診装置の一例として電子聴診器を挙げる。
【0028】
(電子聴診器の構成)
実施例に係る電子聴診器の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、実施例に係る電子聴診器の構成を示すブロック図である。
【0029】
図1において、電子聴診器100は、振動センサ11、バンドバスフィルタ12、遮断周波数調整部13、パワーアンプ14、音量調整部15及びイヤフォン16を備えて構成されている。遮断周波数調整部13は、バンドパスフィルタ12に係る遮断周波数を調整する。音量調整部15は、パワーアンプ14のゲインを調整する。
【0030】
振動センサ11において振動を検出するための振動板は、振動センサ11の周囲に存在する空気層の疎密波の影響をなくすために、振動センサ11のケース内に密閉されている。尚、マイクロフォンは、該マイクロフォンの周囲に存在する空気層の疎密波を振動板で受けるように構成されている点で、振動センサ11と異なる。
【0031】
ここで、電子聴診器100のチェストピース(聴診のために被聴診者に押し当てる部分)の構成について、
図2を参照して説明する。
図2には、実施例に係る電子聴診器のチェストピースの要部を示す断面図である。
【0032】
図2において、振動センサ11は、ダイヤフラム21上に保持されている。該ダイヤフラム21は、振動センサ11を収容するケース22に接続されている。振動センサ11、ダイヤフラム21及びケース22により、振動モジュールが形成される。尚、ケース22の上部には孔22aが形成されている。振動センサ11から出力される電気信号を伝達するための信号線(図示せず)は、孔22aを通って振動モジュールの外部へ延びる。 振動モジュールは、防振ダンパー23により、本体部24に固定されている。例えば本体部24に聴診者が触れたり、本体部24が被聴診者に触れたりすることにより無用な振動(つまり、ノイズ)が生じるが、防振ダンパー23により無用な振動が振動モジュールへ伝播することを抑制することができる。
【0033】
ところで、本願発明者の研究によれば、例えば呼吸音等の体内で発生する生体音には、500Hz以上の高周波数成分が含まれており、該高周波数成分を観測、分析することにより、例えば被聴診者の病気の種類、重篤度、健康の度合い等を知ることができると期待されている。しかしながら、例えばマイクロフォンを用いた電子聴診器や、電子化されていない聴診器では、
図3に破線で示すように、500Hz以上の周波数を聴診することが困難である。
【0034】
本実施例に係る電子聴診器100では、振動センサ11を用いているため、
図3に実線で示すように、150Hz程度から2500Hz程度までの観測が可能であり、特に、500Hz〜2000Hzの範囲でも良好な聴診音を取得することができる。
【0035】
図1に戻り、振動センサ11から出力された、被聴診者の生体音に起因する信号は、バンドバスフィルタ12及びパワーアンプ14を介して、イヤフォン16から音として出力される。
【0036】
(ダイヤフラムの材料)
次に、ダイヤフラム21の材料について、
図4及び
図5を参照して説明する。
図4は、シリコーンゴムのダイヤフラムとABS樹脂のダイヤフラムとの聴診器特性を呼吸音シミュレータで計測した結果の一例である。
図5は、シリコーンゴムのダイヤフラムの聴診器特性を加振機を用いて測定した結果をシリコーンゴムの硬度毎に示す図である。
【0037】
ダイヤフラム21は、
図2に示したように、振動センサ11を保持する部材であるので、ある程度の硬さが要求される。他方で、振動センサ11に生体音に起因する振動を良好に伝播させるために、ダイヤフラム21は可能な限り薄く設計されることが望ましい。
【0038】
本願発明者は、例えば、ダイヤフラム21の外径を20mm程度、ダイヤフラム21の厚さを0.3mm〜1mm程度、振動センサ11の外径を10mm程度と仮定した。そして、ダイヤフラム21をシリコーンゴムで形成した場合と、ABS樹脂で形成した場合とで電子聴診器100の特性を呼吸音シミュレータで計測した。
【0039】
ABS樹脂のダイヤフラムの場合、
図4に破線で示すように、シリコーンゴムのダイヤフラム(
図4の実線参照)に比べて、300Hz〜800Hzの範囲でレベルが著しく低下していることがわかる。このため、ダイヤフラム21の材料としては、ABS樹脂よりもシリコーンゴムの方が適していると言える。
【0040】
次に、シリコーンゴムの硬度を変えながら、電子聴診器100の特性を加振機を用いて測定した。
図5に示すように、シリコーンゴムの硬度が60度以上では、300Hz〜400Hzの範囲で、レベルが比較的大きく低下していることがわかる。このため、ダイヤフラム21の材料としては、硬度40度〜50度のシリコーンゴムが適していると言える。
【0041】
以上の結果、ダイヤフラム21の材料としては、硬度40度〜50度のシリコーンゴムが適していると言える。特に、シリコーンゴムは、工業的に他の物質との親和性が低く、耐薬品性等にも優れ、生体適合性も高いので、医療機器としての電子聴診器100の材料として最適である。
【0042】
尚、硬度30度以下のシリコーンゴムでは、振動センサ11を適切に保持することが困難であり、ダイヤフラム21として不適切であることが、本願発明者の研究により判明している。
【0043】
(ダイヤフラムの構造)
次に、ダイヤフラム21の構造について説明する。
【0044】
聴診時に生じ得る問題点について、
図6を参照して説明する。
図6は、電子聴診器のダイヤフラムと被聴診者の体表との聴診時の接触の様子の一例を示す概念図である。
【0045】
ダイヤフラムの被聴診者の体表側の面が平坦である場合、例えば凹面に電子聴診器を押し当てた場合、ダイヤフラムの中央部と体表との間に隙間が生じてしまう(
図6(a)参照)。或いは、被聴診者に下方から電子聴診器を押し当てた場合、振動センサの重量に起因して(つまり、重力の影響により)、ダイヤフラムの中央部が撓み、ダイヤフラムの中央部と体表との間に隙間が生じてしまう(
図6(b)参照)。或いは、被聴診者に電子聴診器を押し当てた場合、被聴診者の体表の凹凸に起因してダイヤフラムの外周部に比較的大きな圧力がかかり、その影響によりダイヤフラムの中央部が撓み、ダイヤフラムの中央部と体表との間に隙間が生じてしまう(
図6(c)参照)。
【0046】
ダイヤフラムと被聴診者の体表との間に隙間が存在する場合、言い換えれば、ダイヤフラムと被聴診者の体表とが十分に密着していない場合、振動センサに生体音に起因する振動が十分に伝わらず、適切な聴診ができないという問題点がある。
【0047】
本実施例では、ダイヤフラム21と被聴診者の体表との間に隙間が生じないように、ダイヤフラム21の被聴診者の体表と対向する面に凸部21aが形成されている(
図2参照)。本実施例では特に、凸部21aは、撓みの影響の大きいダイヤフラム21の中央部に形成されている。
【0048】
このように構成すれば、例えば
図6(a)〜(c)に示した場合であっても、ダイヤフラム21と被聴診者の体表との間に隙間が生じることを防止することができ、ダイヤフラム21の被聴診者の体表への密着性を向上させることができる。
【0049】
凸部21aの厚さをどの程度とするかは、例えば、ダイヤフラム21を形成する材料の性質、ダイヤフラム21の外径に対する被聴診者の体表の凹凸量、ダイヤフラム21が振動センサ11の重量による撓む量、ダイヤフラム21の外周部に圧力を受けた場合に該ダイヤフラム21が撓む量、等に基づいて適宜設定すればよい。
【0050】
例えば、硬度50のシリコーンゴムにより形成され、外径20mm、厚さ0.75mmのダイヤフラムの場合、凸部21aの厚さは0.5mm〜1mmが適切であることが、本願発明者の研究により判明している。
【0051】
ここで、凸部21aの形状については、例えば、凸部21aの先端が平面となるような形状(例えば、円錐台等)(
図7(a)参照)、凸部21aが球面を有するような形状(
図7(b)参照)、凸部21aの先端が鋭くなっている形状(例えば、円錐等)(
図7(c)参照)、等が挙げられる。
【0052】
凸部21aの形状による電子聴診器100の特性について、
図8を参照して説明する。
図8は、円錐台の凸部を有するダイヤフラムと、部分球面の凸部を有するダイヤフラムとの聴診器特性の一例を示す図である。
【0053】
部分球面の凸部を有するダイヤフラムの場合、
図8に破線で示すように、円錐台の凸部を有するダイヤフラムの場合に比べて(
図8の実線参照)、1000Hz以上の範囲でレベルが著しく低下する。このため、
図7(a)に示すような先端が平面となるような形状が、凸部21の形状として適していることがわかる。
【0054】
凸部21のダイヤフラムの面方向の大きさについて、
図9を参照して説明を加える。
図9は、ダイヤフラムの凸部と振動センサとの関係を示す図である。
【0055】
振動センサ11は、典型的には、金属製の外殻を有するデバイスである。このため、ダイヤフラム21のうち振動センサ11が配置されている範囲(本実施例では、ダイヤフラム21の中央部)は、ダイヤフラム21がシリコーンゴムで形成されていたとしてもバネ性を発揮しない。他方で、ダイヤフラム21のうち振動センサ11が配置されていない部分(本実施例では、ダイヤフラム21の外周部)は、バネ性を発揮する。
【0056】
図9(a)に示すように、振動センサ11の外径に対して、凸部21aの外径が小さい場合、ダイヤフラム21が被聴診者の体表に押し当てられた際に凸部21aにかかる圧力が比較的高くなり該凸部21aが変形しやすくなると考えられる。すると、凸部21aの変形により、生体音に起因する振動が振動センサ11に伝わりにくくなる(即ち、損失が生じる)。
【0057】
他方で、
図9(b)に示すように、振動センサ11の外径に対して、凸部21の外径が大きい場合、ダイヤフラム21のバネ性が十分には発揮されない。この場合も、生体音に起因する振動が振動センサ11に伝わりにくくなる。
【0058】
従って、凸部21の外径は、
図9(b)に示すように、振動センサ11の外径と同程度であることが望ましい。
【0059】
ところで、ダイヤフラム21をシリコーンゴムで形成した場合、振動センサ11を、粘着剤や接着剤を用いてダイヤフラム21に安定的に固定することが困難であることが、本願発明者の研究により判明している。
【0060】
このため、ダイヤフラム21の振動センサ11が配置される側の面に、例えば
図10(a)に示すような振動センサ11を配置するための窪みを形成することが望ましい。このように構成すれば、粘着剤や接着剤への依存度を下げつつ、振動センサ11をダイヤフラム21へ安定的に固定することができる。
【0061】
或いは、ダイヤフラム21の振動センサ11が配置される側の面に、例えば
図10(b)に示すようなリブ部を形成することが望ましい。このように構成すれば、粘着剤や接着剤への依存度を下げつつ、又は粘着剤や接着剤を用いずに、振動センサ11をダイヤフラム21へ安定的に固定することができる。
【0062】
或いは、ダイヤフラム21の振動センサ11が配置される側の面に、例えば
図10(c)に示すような、脱落を防止するオーバーハングを有するリブ部を形成することが望ましい。このように構成すれば、粘着剤や接着剤への依存度を下げつつ、又は粘着剤や接着剤を用いずに、振動センサ11をダイヤフラム21へ安定的に固定することができる。
【0063】
本実施例に係る「振動センサ11」は、本発明に係る「取得部」の一例である。本実施例に係る「ダイヤフラム21の凸部21aが設けられている面(例えば、
図2の下側の面)」及び「ダイヤフラム21の振動センサ11が配置されている面」は、夫々、本発明に係る「第1面」及び「第2面」の一例である。
【0064】
尚、ダイヤフラム21の凸部21aを形成する材料は、ダイヤフラム本体とは異なる材料であってよい。或いは、ダイヤフラム21に凸部21aを設けることに代えて、振動センサ11の一部が、ダイヤフラム21から突出するように露出させてもよい。
【0065】
また、ダイヤフラム21は、シリコーンゴムに限らず、例えばウレタンゴム等、これらと同等の性能・特性が得られるような材料により形成されていてもよい。
【0066】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う生体音聴診装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。