(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706048
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】車両用ハイブリッドサイド・シル及びその製造方法並びにこれを有する車体
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20200525BHJP
B62D 29/04 20060101ALI20200525BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20200525BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20200525BHJP
B29L 31/30 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B62D29/04
C09J163/00
B29K105:08
B29L31:30
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-216550(P2015-216550)
(22)【出願日】2015年11月4日
(65)【公開番号】特開2016-169000(P2016-169000A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年9月14日
(31)【優先権主張番号】10 2015 204 494.7
(32)【優先日】2015年3月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(73)【特許権者】
【識別番号】509003058
【氏名又は名称】ヒュンダイモーターヨーロッパテクニカルセンターゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン リッチェトン
(72)【発明者】
【氏名】エルマン ハンセン
(72)【発明者】
【氏名】ステファン リンゲンバッハ
【審査官】
米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/105387(WO,A1)
【文献】
特表2007−531619(JP,A)
【文献】
特開2006−321896(JP,A)
【文献】
特開2013−141850(JP,A)
【文献】
特開2013−141849(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/105717(WO,A1)
【文献】
特開2014−80182(JP,A)
【文献】
特開2002−283522(JP,A)
【文献】
特開昭57−168940(JP,A)
【文献】
特表2002−539969(JP,A)
【文献】
特開2008−45736(JP,A)
【文献】
特開2008−207791(JP,A)
【文献】
特開2002−37122(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0144504(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B62D 29/04
C09J 163/00
B29K 105/08
B29L 31/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ハイブリッドサイド・シル(102)において、
少なくとも200℃の熱変形温度を有する連続繊維強化熱可塑性ポリマー(512)を含む引抜成形されたプロファイル部(100)と、
前記引抜成形されたプロファイル部(100)の端部に付着した鋼鉄を含むターミナル部(104)と、を含み、
前記連続繊維強化熱可塑性ポリマーは、1つ又はそれ以上の合成強化繊維集合体に含浸し、
前記熱可塑性ポリマー(512)の前駆体(510)を形成するのに必要なオリゴマー(606)からなる前重合体と、少なくとも1つの芳香族環を有する鎖延長剤が混合され、重合されたポリフタルアミド(PPA)又は高性能ポリアミドであり、
前記前重合体は化学式〔P(X)n〕で表される半芳香族性(semiaromatic)及び/又は半脂環式(semicycloaliphatic)構造であり、Xは、OH、NH2又はCOOHから反応基で作動し、n個は、1から3の範囲であり、
前記鎖延長剤は、化学式〔Y−A−Y〕によって表現されることができ、少なくとも1つのX作用基と反応する2つの同一のY作用基を含むことを特徴とする車両用ハイブリッドサイド・シル。
【請求項2】
前記連続繊維強化熱可塑性ポリマー(512)は、少なくとも220℃の熱変形温度を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用ハイブリッドサイド・シル。
【請求項3】
前記連続繊維強化熱可塑性ポリマー(512)は、ポリフタルアミド(polyphthalamide)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用ハイブリッドサイド・シル。
【請求項4】
前記ターミナル部(104)は、前記引抜成形されたプロファイル部(100)に接着され、単一成分のエポキシ接着剤により接着されたことを特徴とする請求項1に記載の車両用ハイブリッドサイド・シル。
【請求項5】
前記引抜成形されたプロファイル部(100)内に付着する少なくとも1つの金属ブラケット(106)をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用ハイブリッドサイド・シル。
【請求項6】
前記引抜成形されたプロファイル部(100)に、鋼鉄及び/又は熱可塑性ポリマーを含む少なくとも1つのクラッシュカン(114)が、付着したことを特徴とする請求項1に記載の車両用ハイブリッドサイド・シル。
【請求項7】
請求項1によるハイブリッドサイド・シル(102)を含む車体において、少なくとも190℃のベーキング温度でベーキングされるペイントレイヤーにより覆われることを特徴とする車体。
【請求項8】
車両用ハイブリッドサイド・シルの製造方法において、
少なくとも200℃の熱変形温度を有する連続繊維強化熱可塑性ポリマー(512)を含む引抜成形されたプロファイル部(100)を成形する段階と、
鋼鉄を含むターミナル部(104)を前記引抜成形されたプロファイル部(100)の端部に付着する段階と、
を含み、
前記引抜成形されたプロファイル部(100)は、前記熱可塑性ポリマー(512)の前駆体(510)を形成するのに必要なオリゴマー(606)からなる前重合体と、鎖延長剤とが反応性引抜成形により成形され、
前記鎖延長剤は、少なくとも1つの芳香族環を含み、
前重合体は化学式〔P(X)n〕で表される半芳香族性(semiaromatic)及び/又は半脂環式(semicycloaliphatic)構造であり、Xは、OH、NH2又はCOOHから反応基で作動し、n個は、1から3の範囲であり、
前記鎖延長剤は、化学式〔Y−A−Y〕によって表現されることができ、少なくとも1つのX作用基と反応する2つの同一のY作用基を含むことを特徴とする車両用ハイブリッドサイド・シルの製造方法。
【請求項9】
前記反応性引抜成形を行う引抜成形ダイ(522)は、少なくとも340℃のダイ温度に加熱されることを特徴とする請求項8に記載の車両用ハイブリッドサイド・シルの製造方法。
【請求項10】
前記ターミナル部(104)は、前記引抜成形されたプロファイル部(100)に接着剤によって付着することを特徴とする請求項8に記載の車両用ハイブリッドサイド・シルの製造方法。
【請求項11】
前記繊維強化熱可塑性ポリマーを含む少なくとも1つのクラッシュカン(114)を前記引抜成形されたプロファイル部(100)に付着する段階をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の車両用ハイブリッドサイド・シルの製造方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのクラッシュカン(114)をプルワインディング又はプルブレーディングにより成形する段階をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の車両用ハイブリッドサイド・シルの製造方法。
【請求項13】
前記ハイブリッドサイド・シル(102)を車体(108)に装着する段階と、
前記車体(108)に液体ペイント(112)を塗装する段階と、
前記塗装した車体(108)を少なくとも190℃のベーキング温度で焼成する段階と、
をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の車両用ハイブリッドサイド・シルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ハイブリッドサイド・シル及びその製造方法並びにこれを有する車体に係り、より詳しくは、プラスチック部と金属部を含む車両用ハイブリッドサイド・シル及びその製作方法並びにこれを有する車体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体の2つのサイド部は、車体の上部に配置されるルーフエッジ(roof edge)、車体の下部に配置されるサイド・シル(side sill)、及びルーフエッジとサイド・シルとを連結する柱を含み、これによって運転席のための骨組みが形成される。したがって、サイド・シルは運転席の骨組みを形成し、通常の使用の場合、さらに、サイド・シルが全般的に過負荷を受ける正面衝突、オフセット衝突、又は側面衝突を含む事故が発生した場合の車体の剛性を決定する。例えば、他の車両が側面にぶつかった際の車両の運転席の骨組みの変形は最小限に抑制される必要があり、サイド・シルの剛性は重要な要素となる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
従来の車両製造において、サイド・シルは一般に鋼鉄で形成され、衝撃エネルギーを吸収するためのクラッシュボックスのような追加的な部品と共に組立てられている。鋼鉄は、要求される強度と剛性を有する反面、重いため、車両の全体重量に占める割合も大きくなる。重量を減らすために、最近発売されたいくつかの車両には、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂等を含む炭素繊維強化プラスチックで作られたサイド・シルが搭載されている。しかし、鋼鉄と比較して強度の劣るこのような物質の使用は、車体を製作するための現在の製作ラインでは強化プラスチックをそれ以上使用できないか、又は製造過程を複雑なものに修正しなければならない。
例えば、鋼鉄サイド・シルを含む従来の車体製作方法は、最初は、いわゆるホワイトボディ(body in white)が組立てられて、これにペインティング工程と、約190℃の温度のベーキング(baking)工程が施される。強化プラスチック製のサイド・シルの場合には、ベーキング工程が終わった後に、エポキシ(epoxy)又はビニルエステル(vinyl ester)樹脂を含むサイド・シルが、約120℃の温度に安定的に維持された状態で、別途の組み立て工程を通じて車体に装着され、一般に低い耐久性を有する非焼成ペイント(non−baked paint)を使用する別途のペインティング工程により塗装される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2003−081130号公報
【特許文献2】特許第2012−126188号公報
【特許文献3】特許第2014−004850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、本発明の目的とするところは、有利な強度対重量比(strength−to−weight ratio)を有し、一般的な製作工程に容易に組み入れることができる車両用ハイブリッドサイド・シル及びその製造方法並びにこれを有する車体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本願発明の車両用ハイブリッドサイド・シルは、車両用ハイブリッドサイド・シルにおいて、少なくとも200℃の熱変形温度を有する連続繊維強化熱可塑性ポリマーを含む引抜成形されたプロファイル部と、引抜成形されたプロファイル部の端部に付着した鋼鉄を含むターミナル部と、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の車両用ハイブリッドサイド・シルを製造する方法は、車両用ハイブリッドサイド・シルの製造方法において、少なくとも200℃の熱変形温度を有する連続繊維強化熱可塑性ポリマーを含む引抜成形されたプロファイル部を成形する段階と、鋼鉄を含むターミナル部を引抜成形されたプロファイル部の端部に付着する段階と、を含むことを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明の車両用ハイブリッドサイド・シルを有する車体は、少なくとも200℃の熱変形温度を有する連続繊維強化熱可塑性ポリマーを含む引抜成形されたプロファイル部と、引抜成形されたプロファイル部の端部に付着した鋼鉄を含むターミナル部と、を含むハイブリッドサイド・シルを含み、少なくとも190℃のベーキング温度でベーキングされるペイントレイヤーにより覆われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、連続繊維強化熱可塑性ポリマーは少なくとも220℃の熱変形温度を有するので、従来のプラスチック製のサイド・シルようにペイントベーキング工程を行う途中に変形せず、大きい負荷に耐えることができる。
本発明によれば、ターミナル部は引抜成形されたプロファイル部に接着されるので、ターミナル部と引抜成形されたプロファイル部は、単純で、信頼性のある連結が可能であるという効果を有する。典型的には、ターミナル部は、ペイントベーキング工程と互換され、取り扱いが容易で、高い剛性と熱抵抗を有する単一成分エポキシ接着剤を用いて引抜成形されたプロファイル部に接着することができる。
【0010】
本発明によれば、本発明のハイブリッドサイド・シルは、引抜成形されたプロファイル部に付着する少なくとも1つの金属ブラケットをさらに含むために、引抜成形されたプロファイル部が高い安定性を持ち、サイド・シルを車体に連結できる付加的な機能を提供する。典型的には、少なくとも1つの金属ブラケットは、引抜成形されたプロファイル部の凸プロファイル部内に挿入されて、安定性と簡便性が向上する効果を有する。
本発明によれば、鋼鉄及び/又は連続又は短い長さの強化繊維を含むプラスチック材料を含む少なくとも1つのクラッシュカンは、引抜成形されたプロファイル部に付着することにより、車両の側面衝突の場合、効果的にエネルギーを吸収することができる。典型的には、少なくとも1つのクラッシュカンは、引抜成形されたプロファイル部の凸プロファイル部内に挿入されて、衝突時にサイド・シルの簡便性と、特に安定性が向上する効果を有する。
上述のとおり、本発明の車体は少なくとも1つのサイド・シルを含み、少なくとも190℃のベーキング温度で焼成された塗装層により覆われている。このようにして、少なくとも1つのサイド・シルを含む全体車体を覆う高品質の塗装層を提供することができる。
【0011】
本発明の製造方法によれば、引抜成形されたプロファイル部は、鎖延長剤の重付加による反応性引抜成形によって成形され、引抜成形時に重付加反応による重合がオリゴマーのような鎖延長剤と共に前重合体が溶融した状態で行われる引抜成形ダイを利用して行われるため、完成された引抜成形されたプロファイル部は、大きい機械的剛性を提供する長い鎖を有する熱可塑性ポリマーとして成形されることができ、引抜成形の間に前重合体は低粘度の溶融した状態になって、強化繊維が適切な湿潤状態になる。このため熱可塑性ポリマーと強化繊維との間の強い結合が可能になる。典型的には、鎖延長剤は少なくとも1つの芳香族環を含ため、分子バックボーンで熱可塑性ポリマーが芳香族環を含有するようにして、大きい機械的剛性と熱抵抗を有する熱可塑性ポリマーを提供する効果を有する。
本発明によれば、反応性引抜成形を行う引抜成形ダイは、200℃と340℃の間、特に、200℃と340℃の間のダイ温度に加熱される。これは、含浸と重合条件が、低い含浸粘度を有するように制御されるのを可能にする効果を有する。
本発明によれば、繊維強化熱可塑性ポリマーを含む少なくとも1つのクラッシュカンは、引抜成形されたプロファイル部に付着することにより、少なくとも1つのクラッシュカンは引抜成形、特に、プルワインディング又はプルブレーディングによって成形されて、小さい重量でも高い衝撃エネルギー吸収能力を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る一製造方法のプロファイル引抜成形段階を遂行する引抜成形装置の工程説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両のハイブリッドサイド・シルの分解斜視図である。
【
図3】
図2を組み立てた本発明の実施形態に係る車両のハイブリッドサイド・シルの斜視図である。
【
図4】製造方法のペイント含浸段階を遂行する本発明の実施形態に係る車体のイメージ図である。
【
図5】製造方法のペイントベーキング段階を遂行する車体のイメージ図である。
【
図6】本発明の製造方法において組み立てられたサイド・シルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、請求項1によるハイブリッドサイド・シル、請求項7による車体、請求項8によるハイブリッドサイド・シルの製造方法によって解決することができる。
本発明の車両用ハイブリッドサイド・シルは、少なくとも200℃の熱変形温度を有する連続繊維強化熱可塑性ポリマーを含む引抜成形されたプロファイル部、及び引抜成形されたプロファイル部の端部に付着した鋼鉄を含むターミナル部を含む。
強化繊維は炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はそれと類似したものを含むことができる。熱変形温度(heat deflection temperature:HDT)は、特定負荷でポリマー又はプラスチックサンプルが変形する温度である。これは、DIN EN ISO 75−1〜75−3に開設されたテスト過程によって決定されることを特徴とする。
【0014】
引抜成形されたプロファイル部は、本発明の技術分野で知られている好適な引抜成形工程によって少なくとも200℃の熱変形温度を有するように製作される。好ましくは、連続繊維強化熱可塑性ポリマーは少なくとも230℃の熱変形温度を有することができる。例えば、米国特許番号第US 2014 316063 A1は、複合材料の製作のための適した工程を開示する。複合材料は、80℃以上のガラス転移温度(glass transition temperature)(Tg)を有する少なくとも1つの熱可塑性ポリマーが含まれている、1つ又はそれ以上の合成強化繊維集合体を含み、i)上記工程は、溶融状態で前駆体組成物を含む集合体の含浸段階、含浸段階は、前駆体組成物の粘度が溶融状態で100Pa・sを超えない温度で行われ、前駆体組成物は、a)熱可塑性ポリマーの少なくとも1つの前重合体(prepolymer)(P(X)n)は、その両端にn個の同一の反応基(reactive functional group)(X)を有する分子鎖(P)を含み、前重合体は半芳香族性(semiaromatic)及び/又は半指環式(semicycloaliphatic)構造であり、Xは、OH、NH
2又はCOOHから反応基で作動し、n個は、1から3の範囲であり、b)Y−A−Yによって表現されることができ、少なくとも1つのX作用基と反応する2つの同一のY作用基を含む少なくとも1つの鎖延長剤を含み、ii)鎖延長剤を含む前重合体が溶融した状態で(重)付加によるバルク重合(bulk polymerization)段階を含み、熱可塑性ポリマーは重付加によるバルク重合の結果である。
具体的にば、熱可塑性ポリマーは半芳香族ポリアミドを含み、半芳香族ポリアミドは、骨格に高い機械的剛性と熱抵抗を提供する芳香族環を含むことができる。好ましくは、熱可塑性ポリマーは、重合体鎖で繰り返し単位のカルボン酸の60%又はそれ以上のモルが、テレフタル酸(TPA)とイソフタル酸(IPA)の組み合わせから構成されるポリフタルアミド(PPA)又は高性能ポリアミドであることができる。
【0015】
車両のサイド・シルは、一般に長く延長された形状であるので、引抜成形されたプロファイル部を含むサイド・シルの成形は、大部分が引抜成形されたプロファイル部に成形され、一般に連続繊維強化熱可塑性ポリマーの高い強度対重量比により、従来の鋼鉄サイド・シルに比べて軽量のサイド・シルを提供することができる。本発明のサイド・シルは、鋼鉄を含むターミナル部を含むので、サイド・シルを車体に装着するためのホール、ねじ山などのような装着部分は、従来のサイド・シルと実質的に同一の自由度(degree of freedom)を提供するのが可能である。このような点と引抜成形されたプロファイル部の熱変形温度が190℃より高いため、本発明のサイド・シルは車両のホワイトボディと組立てられる。つまり、車体が、ペインティング工程と、従来の190℃のベーキング温度で行われるペイントベーキング(paint−baking)工程を通過する前に、製造段階でサイド・シルが塗装されていない車体として組立てられる。
【0016】
本発明の他の実施形態によれば、連続繊維強化熱可塑性ポリマーは、少なくとも220℃の熱変形温度を有するので、従来のペイントベーキング工程を行う途中に変形せず、大きい負荷に耐えられる。好ましくは、連続繊維強化熱可塑性ポリマーは少なくとも230℃の熱変形温度を有する。
本発明の他の実施形態によれば、熱可塑性ポリマーは半芳香族ポリアミド(semi−aromatic polyamide)を含む。半芳香族ポリアミドは骨格に高い機械的剛性と熱抵抗を提供する芳香族環(aromatic rings)を含む。好ましくは、熱可塑性ポリマーは、重合体鎖(polymer chain)で繰り返し単位のカルボン酸の60%又はそれ以上のモルが、テレフタル酸(TPA)とイソフタル酸(IPA)の組み合わせから構成されるポリフタルアミド(polyphthalamide:PPA)又は高性能ポリアミド(high−performance polyamide)である。
【0017】
本発明によれば、ターミナル部は引抜成形されたプロファイル部に接着されるため、ターミナル部と引抜成形されたプロファイル部は、単純で、信頼性のある連結が可能である。本発明のターミナル部はペイントベーキング工程に代わって、取り扱いが容易で、高い剛性と熱抵抗を有する単一成分エポキシ接着剤を用いて引抜成形されたプロファイル部に接着することができる。
本発明によれば、ハイブリッドサイド・シルは、引抜成形されたプロファイル部に付着する少なくとも1つの金属ブラケットをさらに含む。これは、引抜成形されたプロファイル部が高い安定性を持つようにし、サイド・シルを車体に連結できるような付加的な機能を提供する。本発明は、少なくとも1つの金属ブラケットが、引抜成形されたプロファイル部の凸プロファイル部内に挿入されて、安定性と簡便性が向上する。
【0018】
本発明の他の実施形態によれば、鋼鉄及び/又は連続又は短い長さの強化繊維を含むプラスチック材料を含む少なくとも1つのクラッシュカンが、引抜成形されたプロファイル部に付着する。これは、車両の側面衝突の場合、効果的にエネルギーを吸収するようにする。より詳しくは、少なくとも1つのクラッシュカンが、引抜成形されたプロファイル部の凸プロファイル部内に挿入されて、衝突時にサイド・シルの剛性、特に安全性を向上させる。
上述した通り、本発明の車体は少なくとも1つのサイド・シルを含み、少なくとも190℃のベーキング温度で焼成された塗装層により覆われている。このようにして、少なくとも1つのサイド・シルを含む全体車体を覆う高品質の塗装層を提供することができる。
【0019】
本発明の製造方法によれば、引抜成形されたプロファイル部は鎖延長剤の重付加による反応性引抜成形によって成形される。即ち、引抜成形は、重付加反応による重合がオリゴマーのような鎖延長剤と共に前重合体が溶融した状態で行われる引抜成形ダイを利用して行われる。こうして完成された引抜成形されたプロファイル部は、強固な機械的剛性を提供する長い鎖を有する熱可塑性ポリマーのように成形することができ、引抜成形の間に前重合体は低粘度の溶融した液体状態になって、強化繊維に付着するため、強化繊維は前重合体に濡れた湿潤状態になる。したがって熱可塑性ポリマーと強化繊維との間の強い結合が可能になる。好ましくは、鎖延長剤は少なくとも1つの芳香族環を含む。これは、分子バックボーン(molecule backbones)で熱可塑性ポリマーが芳香族環を含有するようにして、大きい機械的剛性と熱抵抗を有する熱可塑性ポリマーを提供する。
【0020】
本発明によれば、反応性引抜成形を行う引抜成形ダイは、200℃から340℃の間のダイ温度に加熱される。これは、含浸(impregnation)と重合(polymerization)が、低い含浸粘度(low impregnation viscosity)条件を有するための制御である。
本発明の他の実施形態によれば、繊維強化熱可塑性ポリマーを含む少なくとも1つのクラッシュカンは、引抜成形されたプロファイル部に付着され、好ましくは、少なくとも1つのクラッシュカンは引抜成形、特に、プルワインディング(pullwinding)又はプルブレーディング(pullbraiding)によって成形されて、小形でも高い衝撃エネルギー吸収能力を有する。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係る車両のハイブリッドサイド・シルの分解斜視図であり、
図3は、
図2を組み立てた本発明の実施形態に係る車両のハイブリッドサイド・シルの斜視図である。
図2、3に示したとおり、ハイブリッドサイド・シル102は細長い形状(elongate shape)であり、ハイブリッドサイド・シル102の全体長さに沿って延長される引抜成形されたプロファイル部100を含む。プロファイル部100は、断面がΩ形状又は帽子(ハット)断面形状を有し、プロファイル部100の全体長さに沿って長手方向に延長された炭素繊維及び/又はガラス繊維層(図示せず)によって強化された熱可塑性ポリマー(thermoplastic polymer)を含む。本発明の一実施形態で、熱可塑性ポリマーは、ポリフタルアミド(PPA)又は高性能ポリアミドである。引抜成形されたプロファイル部100の材料は200〜230℃の熱変形温度を有する。
ハイブリッドサイド・シル102は、単一成分のエポキシ接着剤(図示せず)を用いて引抜成形されたプロファイル部100の端部110に接着される少なくとも一部が鋼鉄製のターミナル部104をさらに含む。ターミナル部104において、ハイブリッド・シル102を車体に装着するためのホール及びスリットのような装着部分が形成されてもよい。追加的に、ハイブリッドサイド・シル102は、プロファイル部100を安定化させて、側面衝突時にエネルギーを吸収するために、引抜成形されたプロファイル部100のΩ形状のプロファイルの凸プロファイル部111に接着され、通常2〜6の金属ブラケット106を含む。
【0022】
次に、
図1〜
図5に基づいて、
図3に示したハイブリッドサイド・シル102を含む車体及びハイブリッドサイド・シル102の製造方法について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る一製造方法のプロファイル引抜成形段階を遂行する引抜成形装置の工程説明図である。図示したとおり、ハイブリッドサイド・シル102の引抜成形されたプロファイル部100を製造するためのポリアミドの高温の引抜成形装置550は、強化繊維層のための繊維素材が各スプール501に置かれた繊維素材貯蔵機器552、製造される引抜成形されたプロファイル部100の内で強化繊維を意図した相対的位置によって繊維素材を整列するための整列機器554、整列した繊維素材を予熱するための予熱機器520、熱可塑性ポリマー512の溶融した前駆体510を形成するのに必要なオリゴマー606の固体ペレットを含んでいるホッパー601の内部に整列し、連結されるスクリューシャフト602を備えた加熱押出機604、加熱機器521を具備して、製造される引抜成形プロファイル部100の外郭プロファイルに対応する内部プロファイルを備えた引抜成形ダイ522、引抜成形ダイ522から繊維材料と熱可塑性ポリマーレジンで構成される合成筋525を引っ張るプーラー機器524、及び合成筋525を製造される引抜成形されたプロファイル部100の要求される長さに相当するセグメントにカッティングするカッター機器526を含む。
【0023】
作業準備過程において、スプール501に貯蔵されていた繊維素材は、整列機器554、予熱機器520、引抜成形ダイ522、プーラー機器524、及びカッター機器526を通じて連続的にガイドされる。また、ホッパー601は、熱可塑性ポリマー512を成形するのに要求されるオリゴマー606のペレットで満たされ、熱可塑性ポリマー512はそれぞれのオリゴマー(短い重合体)606が少なくとも1つの芳香族環を含むことと同様の方法により選択されて用意される。加熱押出機604は、液体条件下でオリゴマー606を提供するための十分に高い温度、すなわち、10K又はオリゴマー606ペレットの溶融温度以上の温度に加熱される。
【0024】
引抜成形されたプロファイル部100を製作するための引抜成形段階を始めるために、貯蔵機器552から引き抜かれた量に対応する繊維素材が、プーラー機器524によって引抜成形ダイ522から連続的又は間歇的に引き出される。整列機器554で整列された後、繊維素材は予熱機器520を通過して予熱されて、過熱温度で引抜成形ダイ522に進入する。これと同時に、オリゴマー606のペレットはホッパー601から押出機604に進入して、溶融した前駆体510を形成するために溶融し、溶融した前駆体510は、プーラー機器524の動作によって引っ張られた繊維材料が進入する引抜成形ダイ522の入口560と近接した位置に進入する。好ましくは、溶融した前駆体510は、引抜成形ダイ522に進入する前に溶融し、オリゴマー606の重合が相当多く発生するのを防止するように、十分に低い温度で引抜成形ダイ522に伝送されるが、このとき、溶融した前駆体510は低粘度を維持し、本発明の実施形態では2Pa・sに設定した。
【0025】
引抜成形ダイ522に進入するとすぐに、溶融した前駆体510は、低粘度であるため濡れた繊維の面と繊維との間の微細な空隙に進入して、繊維素材に含浸される。プーラー機器524が、引抜成形ダイ522より前駆体510が含浸された繊維を前駆体510と共に続けて引っ張る間に、加熱機器521は引抜成形ダイ522内の温度を維持する。予熱機器520では予熱された繊維素材により繊維の表面と近いところで先に前駆体510の重合が始まりオリゴマー606が生成する。溶融した前駆体510が引抜成形ダイ522を通過するとき前駆体510が含浸された繊維素材の引抜経路に沿ってオリゴマー606の重付加が起こり前駆体510は完全に重合される。本発明の実施形態では、30秒の重合時間内にオリゴマー606の重付加による重合を可能にするために、引抜成形ダイ522を通じて含浸された繊維素材の経路に沿って350℃のダイ温度を維持するよう設定した。製造された引抜成形されたプロファイル部のプロファイルを有する合成筋525は、引抜成形ダイ522の出口561から連続的に排出され、次いで、カッター機器526により切断されて反復的に引抜成形されたプロファイル部100を提供する。
融解した前駆体510が少なくとも200℃、本発明の実施形態では220℃と設定した熱変形温度を有する合成筋525を生産する引抜成形ダイ522に進入した後、元の位置で熱可塑性ポリマーレジン内にオリゴマー606の重付加によって重合を行える溶融条件下で溶融した前駆体510の形態で伝送される。この間に、もし、重合反応が発生しなければ、溶融した前駆体510を成形するためのオリゴマー606は多様な方法により重合反応が発生するようにすることができる。例えば、本発明の実施形態で、ポリフタルアミド(PPA)又は高性能ポリアミドを成形するためのオリゴマーが選択される。製造方法の他の実施形態で、前重合体と、前重合体にの重付加(polyadded)された鎖延長剤(chain extender)のような2つ以上の組成物は、溶融した前駆体を成形するために混合される。
【0026】
図2は、本発明の実施形態に係る車両のハイブリッドサイド・シルの分解斜視図であり、ハイブリッドサイド・シル102を製作するための組み立て段階を示した。組み立て段階において、鋼鉄を含むターミナル部104は、単一成分のエポキシ接着剤(図示せず)を用いて引抜成形されたプロファイル部100の端部110に接着される。また、4つの金属ブラケット106は、単一成分のエポキシ接着剤を用いて引抜成形されたプロファイル部のプロファイルの凸プロファイル部111内に接着される。
図2に示した組み立て段階のハイブリッドサイド・シル102を組み立てた本発明の実施形態に係る車両のハイブリッドサイド・シルの斜視図を
図3に示した。
【0027】
ハイブリッドサイド・シル102が完成した以降に、
図4に示したとおり、ハイブリッドサイド・シル102は、ターミナル部104及び/又は1つ又はそれ以上の金属ブラケット106内の装着部分を使用して追加部品と共に車体108内に組み立てられる。例えば、ターミナル部104及び/又は1つ又はそれ以上の金属ブラケット106は、車体108の他の部品と溶接されるか、又はボルト締結されることができる。
図4には、製造方法のペイント含浸段階を遂行する車体108を示した。ペイント含浸段階において、ハイブリッドサイド・シル102を含む車体108は、ペイントタンク700に入れていた液体ペイント112に含浸されるようにペイントタンク700内に沈められる。液体ペイント112が完全に含浸した以降に、車体108はペイントタンク700から取り出される。
【0028】
図5は、製造方法のペイントベーキング段階を遂行する車体のイメージ図である。ペイントベーキング段階において、ペイント112により覆われた車体108はベーキングオーブン702の内に位置し、設定されたベーキング時間の間、設定された190℃にベーキング温度が維持される。
【0029】
図6は、本発明の製造方法において組み立てられたサイド・シルの断面図である。
図6には、ハイブリッドサイド・シル102と近接した車体の一部分だけを示した。ハイブリッドサイド・シル102は車両ドア116の一部分と共に、車体108の部品で組み立てられる。
図3に示した実施形態で、ハイブリッドサイド・シル102の引抜成形されたプロファイル部100は、基本的にΩ形状の断面で構成され、追加的に内部の四角空間704を取り囲んで外壁103から凸プロファイル部111に突出した中空プロファイル部706が断面に形成される。本発明の実施形態で、中空プロファイル部706の密集形態(closed formation)は、大きいイナーシャとねじれ抵抗を有するハイブリッドサイド・シル102を提供し、ハイブリッドサイド・シル102の全体的な性能を増加させる。
【0030】
ハイブリッドサイド・シル102は、ハイブリッドサイド・シル102の引抜成形されたプロファイル部100の足部分708をΩ形状断面のプロファイル鋼鉄ブラケット710の足部分709に単一成分のエポキシ接着剤などを用いて接着して、車体108のΩ形状のプロファイル鋼鉄ブラケット710に装着され、このような方法により引抜成形されたプロファイル部100の凸プロファイル部111は、反対側のΩ形状のプロファイル鋼鉄ブラケット710の凸プロファイル部711と結合して内部空間111、711を形成する。Ω形状のプロファイル鋼鉄ブラケット710は、溶接によって追加的に車体108の鋼鉄部712に付着する。引抜成形されたプロファイル部102の上部側壁716は、閉鎖された条件下の完成された車両において車両ドア116の底面と対向するハイブリッドサイド・シル102の上部面を形成する。
【0031】
さらに、少なくとも200℃の熱変形温度を有する連続繊維強化熱可塑性ポリマーからプルワインディング又はプルブレーディングによって分離製作される円筒形状のクラッシュカン114は、ハイブリッドサイド・シル102の引抜成形されたプロファイル部100の外壁103からほぼΩ形状のプロファイル鋼鉄ブラケット710の反対側内壁713に、その間に単に小さいギャップ714だけを残したまま延長されるように中空プロファイル部706とハイブリッドサイド・シル102の引抜成形されたプロファイル部100の凸プロファイル部111の外壁103に接着される。車両の側面衝突が発生した場合、クラッシュカン114は、ハイブリッドサイド・シル102の引抜成形されたプロファイル部100の外壁103が、Ω形状のプロファイル鋼鉄ブラケット710の内壁713側に押し出されることにより次第に変形して衝突エネルギーを吸収する。
【0032】
円筒形状のクラッシュカン114は、円形の断面、四角形の断面、楕円形の断面、又はそれと類似した形状を有することができる。さらに、クラッシュカンは円筒形状に限定されず、内部空間111、711を横切って複数の孔が並列的に延長されるように形成されることができる。また、クラッシュカン114の他の例は、鋼鉄のような金属で製作されることができ、短い長さのガラス繊維を含むか、又はガラス繊維を含まない熱可塑性ポリマーから射出成形(injection molding)されることも可能である。射出成形は、引抜成形されたプロファイル部100と分離されて行われるか、又はクラッシュカン114が引抜成形されたプロファイル部100上のオーバーモールディングされた要素(overmolded element)の正位置に付着して成形されるオーバーモールディング段階(overmolding step)によって行われることも可能である。
【0033】
さらに、
図6に示したハイブリッドサイド・シル102の構成要素は、上記で言及した実施形態と異なる要素と結合されることができる。例えば、クラッシュカン114は、一般的なΩ形状の断面を有する引抜成形されたプロファイル部100に装着されることができ、又は金属ブラケット106は、
図6に示したとおり、引抜成形されたプロファイル部100に装着されることができる。
【符号の説明】
【0034】
100:プロファイル部
102:ハイブリッドサイド・シル
103:外壁
104:ターミナル部
106:金属ブラケット
108:車体
110:プロファイル部の端部
111,711:凸プロファイル部、内部空間
112:液体ペイント
114:クラッシュカン
116: 車両ドア
501:スプール
510:前駆体
512:熱可塑性ポリマー
520:予熱機器
521:加熱機器
522:引抜成形ダイ
524:プーラー機器
525:合成筋
526:カッター機器
550:引抜成形
552:繊維素材貯蔵機器
554:整列機器
560:入口
561:出口
601:ホッパー
602:スクリューシャフト
604:加熱押出機
606:オリゴマー
700:ペイントタンク
702:ベーキングオーブン
704:四角空間
706:中空プロファイル部
708,709:足部分
710:プロファイル鋼鉄ブラケット
712:鋼鉄部
713:反対側内壁
714:ギャップ
716:上部側壁