特許第6706064号(P6706064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6706064-変速機及び変速機を備えた駆動装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706064
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】変速機及び変速機を備えた駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/029 20120101AFI20200525BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   F16H57/029
   F16J15/447
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-254526(P2015-254526)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-116055(P2017-116055A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100137604
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100198579
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 憲一
(72)【発明者】
【氏名】眞田 和俊
【審査官】 山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−189042(JP,A)
【文献】 特開2008−201356(JP,A)
【文献】 特開2000−346205(JP,A)
【文献】 特開2017−052312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/029
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源が収容される固定ハウジングと、
前記駆動源の出力回転を変速する変速機構と、
前記変速機構を収容し、変速された前記出力回転が伝達されて回転する回転ハウジングと、
前記固定ハウジングと前記回転ハウジングとの間に形成され外部からの異物の侵入を防止するラビリンスシールと、
前記ラビリンスシールの外部側の開口部を覆うカバー部材と、を備え、
前記カバー部材は、
前記開口部を覆う筒状の円筒部と、
前記円筒部の基端から径方向に延びるように形成され、前記回転ハウジングに取り付けられる円板状のフランジ部と、を有し、
前記固定ハウジングは、
外周面から突出して形成され外部部材に取り付けられる取付部と、
前記取付部に形成され前記回転ハウジングに向かって延びる環状の固定側突起部と、を有し、
前記回転ハウジングは、
前記固定側突起部の径方向内側において前記固定ハウジングに向かって延びる環状の回転側突起部を有し、
前記ラビリンスシールは、
前記固定側突起部の先端面と前記先端面と対向する前記回転ハウジングの対向面との間に形成された第1間隙と、
前記固定側突起部の内周面と前記回転側突起部の外周面との間に形成され前記第1間隙と略直交する第2間隙と、を有し、
前記カバー部材の前記円筒部は、前記固定側突起部の外周面との間に所定の間隙をもって配置され、
前記カバー部材の前記円筒部は、その先端が所定の間隙をもって前記外部部材に対向することを特徴とする変速機。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記回転ハウジングに取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
前記カバー部材は、分割可能に構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の変速機。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載の変速機と、前記駆動源と、を備えた駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機及び変速機を備えた駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどのクローラ式作業機では、クローラベルト(無限軌道帯)の車軸部に走行モータが設けられる。
【0003】
特許文献1には、クローラベルトに噛み合うスプロケットが連結され固定ハウジングに対して回転作動する円筒状の回転ハウジングを有する変速機を備え、当該変速機とスプロケットとが共に回転してクローラベルトを駆動する走行モータが開示されている。
【0004】
上記の変速機は、回転ハウジングの内部に遊星歯車機構が設けられ、この遊星歯車機構が固定ハウジングの内部に設けられた油圧モータの出力回転を減速して回転ハウジングに伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−199968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の変速機では、固定ハウジングと回転ハウジングの間にラビリンスシールが形成される。このラビリンスシールは、クランク状に曲折した断面形状の隙間を有し、泥などの異物が侵入することを防止している。しかしながら、長期間使用しているうちに泥などの異物がラビリンスシールを通過して装置内部に侵入してしまうおそれがあり、さらなる異物の侵入に対する対策が求められていた。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ラビリンスシールに異物が侵入することを防止できる変速機及び変速機を備えた駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明は、駆動源が収容される固定ハウジングと、駆動源の出力回転を変速する変速機構と、変速機構を収容し、変速された出力回転が伝達されて回転する回転ハウジングと、固定ハウジングと回転ハウジングとの間に形成され外部からの異物の侵入を防止するラビリンスシールと、ラビリンスシールの外部側の開口部を覆うカバー部材と、を備え、カバー部材は、開口部を覆う筒状の円筒部と、円筒部の基端から径方向に延びるように形成され、回転ハウジングに取り付けられる円板状のフランジ部と、を有し、固定ハウジングは、外周面から突出して形成され外部部材に取り付けられる取付部と、取付部に形成され回転ハウジングに向かって延びる環状の固定側突起部と、を有し、回転ハウジングは、固定側突起部の径方向内側において固定ハウジングに向かって延びる環状の回転側突起部を有し、ラビリンスシールは、固定側突起部の先端面と先端面と対向する回転ハウジングの対向面との間に形成された第1間隙と、固定側突起部の内周面と回転側突起部の外周面との間に形成され第1間隙と略直交する第2間隙と、を有し、カバー部材の円筒部は、固定側突起部の外周面との間に所定の間隙をもって配置され、カバー部材の円筒部は、その先端が所定の間隙をもって外部部材に対向することを特徴とする。
【0009】
第1の発明では、カバー部材がラビリンスシールの外部側の開口部を覆う。また、第1の発明では、ラビリンスシールは、第1間隙と、第1間隙と略直交する第2間隙とによって曲折した間隙として形成される。これにより、泥などの異物が装置内部に侵入することを防止できる。さらに、第1の発明では、カバー部材の円筒部と固定側突起部の外周面との間の間隙、および、カバー部材の円筒部の先端と外部部材との間の間隙によってさらなるラビリンスシールが構成される。これにより、装置内部へ異物が侵入することをより一層防止できる。
【0010】
第2の発明は、カバー部材は、回転ハウジングに取り付けられることを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、カバー部材は回転ハウジングに取り付けられるので、カバー部材は回転ハウジングとともに回転する。これにより、ラビリンスシールに侵入する泥などの異物がカバー部材に堆積することが防止される。したがって、カバー部材の開口部から泥などの異物がラビリンスシールに侵入することを防止できる。
【0018】
の発明は、カバー部材は、分割可能に構成されることを特徴とする。
【0019】
の発明では、カバー部材は、分割可能に構成されるので、加工やメンテナンスなどを簡単に行うことができる。
【0020】
の発明は、第1から第のいずれかの変速機と駆動源とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ラビリンスシールに異物が侵入することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る変速機の断面図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係る変速機の主要部の部分断面図である。
図3図3は、本発明の第2実施形態に係る変速機の主要部の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
以下、図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態に係る変速機100について説明する。
【0024】
変速機100は、例えば、油圧ショベルなどのクローラ式作業機の車軸部に設けられてクローラベルトを駆動する走行モータに用いられる。駆動装置としての走行モータは、駆動源としての油圧モータ1と、油圧モータ1のシャフト31の出力回転を減速する減速機100と、を備える。
【0025】
変速機100は、固定ハウジング10に対して回転作動する円筒状の回転ハウジング20を備える。回転ハウジング20の外周面にはスプロケット(図示せず)が連結される。回転ハウジング20とスプロケットとが共に回転することで、スプロケットに噛み合うクローラベルト(図示せず)が循環して車両が走行する。
【0026】
固定ハウジング10及び回転ハウジング20は、クローラベルトが循環する経路の内側に配置される。回転ハウジング20は、外部部材としての車体6に連結される固定ハウジング10に対してベアリング3を介して回転自在に支持され、回転軸Oを中心として回転作動する。
【0027】
固定ハウジング10の本体部11の内部には、油圧モータ1が設けられる。油圧モータ1は、例えば、斜板式ピストンモータである。なお、駆動源は油圧モータ以外であってもよく、例えば、電動モータなどを用いてもよい。固定ハウジング10は、本体部11の外周面から突出して形成され車体6に取り付けられる固定フランジ部12を有する。固定フランジ部12には、複数のねじ穴15が形成される。固定フランジ部12は取付部に相当する。
【0028】
図1に示すように、回転ハウジング20の内部には、変速機構30が収容される。変速機構30は、遊星歯車機構である。変速機構30は、油圧モータ1のシャフト31に設けられるサンギヤ32と、回転ハウジング20の内壁に設けられるインナーギヤ33と、サンギヤ32とインナーギヤ33との双方に噛み合う複数のプラネタリギヤ34と、各プラネタリギヤ34を支持するプラネタリキャリア35と、プラネタリキャリア35と噛み合う2段目のサンギヤ36と、サンギヤ36とインナーギヤ33との双方に噛み合う複数のプラネタリギヤ37と、を備える。変速機構30は、油圧モータ1のシャフト31の出力回転を減速して回転ハウジング20に伝達する。
【0029】
回転ハウジング20の開口端20aの内周には、開口端20aを閉塞する円盤状の開口端カバー2が着脱可能に取り付けられる。
【0030】
回転ハウジング20の内面と、固定ハウジングの本体部11の外面と、開口端カバー2と、によって変速機構30を収容するギヤ室4が画成される。ギヤ室4には、変速機構30を潤滑する潤滑油が充填される。
【0031】
回転ハウジング20には、外周面22から環状に突出する回転フランジ部29が形成される。回転フランジ部29には、複数のねじ孔28が形成される。上述のスプロケットは、ねじ孔28にボルト(図示せず)を螺合することによって回転フランジ部29に締結され、回転ハウジング20と共に回転作動する。
【0032】
固定ハウジング10は、固定フランジ部12に形成され回転ハウジング20に向かって延びる環状の固定側突起部13をさらに備える。回転ハウジング20の回転フランジ部29の基端側には、固定側突起部13の径方向内側において固定ハウジング10に向かって延びる環状の回転側突起部23が形成される。
【0033】
固定ハウジング10と回転ハウジング20の間には、フローティングシール50が設けられる。フローティングシール50は、固定ハウジング10の固定フランジ部12に形成されたシール面14と回転ハウジング20の回転側突起部23の内周面21とにそれぞれ装着されるOリング51、52と、Oリング51、52を介してそれぞれ支持されるシールリング53、54と、を備える。フローティングシール50は、回転ハウジング20の回転作動時に、シールリング53、54が互いに摺接することによって変速機100内の作動油が外部に漏出しないように密封するとともに、外部から異物が変速機100内に侵入することを防止する。固定ハウジング10のシール面14、回転ハウジング20の内周面21、及びフローティングシール50によって空間Sが区画される。
【0034】
また、固定ハウジング10と回転ハウジング20の間には、フローティングシール50の外側に外部からの泥などの異物が侵入することを防止するラビリンスシール5が形成される。ラビリンスシール5は、固定ハウジング10と回転ハウジング20の互いに対向する端面同士の間隙によって形成される。
【0035】
図2は、ラビリンスシール5の近傍を拡大した断面図である。図2に示すように、ラビリンスシール5は、固定側突起部13の先端面13aと回転側突起部23が形成される回転フランジ部29の側面29aとの間に形成された第1間隙5Aと、固定側突起部13の内周面13bと回転側突起部23の外周面23aとの間に形成され第1間隙5Aと略直交する第2間隙5Bと、第2間隙5Bと略直交し、固定側突起部13が形成される固定フランジ部12の側面12bと回転側突起部23の先端面23bとの間に形成され空間Sに開口する第3間隙5Cと、を備える。なお、回転フランジ部29の側面29aは、固定側突起部13の先端面13aと対向する対向面に相当する。
【0036】
第1間隙5Aは、外部側に開口する開口部5Dを有する。ラビリンスシール5は、第1間隙5Aと、第2間隙5Bと、第3間隙5Cと、によってクランク状に曲折した間隙に形成される。これにより、泥などの異物が空間Sに侵入することを防止し、フローティングシール50が異物によって損傷することを防止できる。つまり、フローティングシール50が損傷して異物が変速機100に侵入することを防止できる。
【0037】
変速機100は、図1図2に示すように、回転ハウジング20に取り付けられラビリンスシール5の開口部5Dを覆うカバー部材60を備える。カバー部材60は、図2に示すように、開口部5Dを覆う円筒部61と、円筒部61の基端に設けられ回転ハウジング20の回転フランジ部29にボルトによって取り付けられるフランジ部62と、を有する。
【0038】
円筒部61は、固定側突起部13の外周面13cとの間に所定の間隙Cをもって配置される。また、円筒部61は、その先端61aが所定の間隙Dをもって車体6に対向して配置される。なお、カバー部材60を分割可能に構成してもよい。これにより、加工やメンテナンスなどを簡単に行うことができる。さらに、カバー部材60を円筒部61の径方向(回転軸Oに対して垂直な方向)に複数に分割して構成することで、回転ハウジング20を取り外さなくてもカバー部材60を着脱することができる。これにより、組立やメンテナンスの際の作業性が向上する。
【0039】
次に、カバー部材60の機能について説明する。
【0040】
上述のように、変速機100は、油圧ショベルなどの走行モータに用いられる。このため、変速機100は、泥などの異物がかかりやすい環境下で使用されることが多い。カバー部材60が無い場合は、ラビリンスシール5の開口部5Dに泥などの異物が直接かかるので、ラビリンスシール5に泥などの異物が侵入しやすい。このため、変速機100では、開口部5Dを覆うカバー部材60を設けている。これにより、開口部5Dからラビリンスシール5内に泥などの異物が侵入することを防止できる。
【0041】
泥などの異物は、図2に矢印で示すような経路を通って空間Sに侵入しようとする。上述のように、円筒部61は固定側突起部13の外周面13cとの間に所定の間隙Cをもって配置され、また、円筒部61の先端61aは所定の間隙Dをもって車体6に対向して配置される。これらの間隙C及び間隙Dを狭い所定の間隙とすることによって、泥などの異物の侵入を防止することができる。これにより、ラビリンスシール5への泥などの異物の侵入をさらに防止することができる。
【0042】
カバー部材60の円筒部61の外周面61bに泥などの異物が堆積すると、堆積した異物が固定側突起部13の外周面13cに落下し、円筒部61の内周面との間隙から侵入してしまうおそれがある。しかしながら、変速機100では、上述のように、カバー部材60は回転ハウジング20に取り付けられるので、カバー部材60は回転ハウジング20とともに回転する。これにより、カバー部材60の円筒部61の外周面61bに泥などの異物が堆積しても、カバー部材60が回転することによって堆積した泥などを吹き飛ばすことができる。したがって、円筒部61の外周面61bには泥などの異物が堆積しにくくなるので、間隙C及び間隙Dから泥などの異物が侵入するおそれを低減することができる。
【0043】
以上の第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0044】
変速機100は、開口部5Dを覆うカバー部材60を備えている。したがって、開口部5Dから泥などの異物が侵入することを防止できる。
【0045】
また、変速機100では、ラビリンスシール5は、第1間隙5A、第1間隙5Aと略直交する第2間隙5Bとによって断面形状が曲折した間隙として形成される。これにより、泥などの異物が空間Sに侵入することを防止し、フローティングシール50が異物によって損傷することを防止できる。このため、フローティングシール50が損傷して異物が変速機100の内部に侵入することを防止できる。
【0046】
さらに、変速機100では、カバー部材60の円筒部61は、固定側突起部13の外周面13cとの間に所定の間隙Cをもって配置される。変速機100では、この間隙Cを狭い所定の間隙とすることによって泥などの異物の侵入が阻止され、開口部5Dに泥などの異物が到達することを防止できる。また、間隙Cとラビリンスシール5(第1間隙5A、第2間隙5B、第3間隙5C)とによって曲折したジグザグの間隙、つまり、ラビリンスシールが構成されるので、空間Sへ異物が侵入することをより防止できる。
【0047】
カバー部材60の円筒部61は、その先端61aが所定の間隙Dをもって車体6に対向して配置される。したがって、間隙Dによっても泥などの異物の侵入が阻止され、開口部5Dに泥などの異物が到達することをより一層防止できる。また、間隙Cとラビリンスシール5によって形成される曲折したジグザグの間隙に加えて、間隙Dによってさらなる曲折したジグザグの間隙、つまり、さらなるラビリンスシールが構成される。これにより、空間Sへ異物が侵入することをより一層防止できる。
【0048】
<第2実施形態>
図3を参照して、本発明の第2実施形態に係る変速機200について説明する。以下では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、第1実施形態の変速機100と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
図3に示す変速機200は、カバー部材60が固定ハウジング10に取り付けられる点で、第1実施形態に係る変速機100と相違する。
【0050】
図3は、変速機200の主要部における断面図である。変速機200では、固定ハウジング10は、本体部11の外周面から突出して形成され車体6に取り付けられる固定フランジ部112と、固定フランジ部112に形成され回転ハウジング20に向かって延びる環状の固定側突起部113と、を有する。また、回転ハウジング20の回転フランジ部29の基端側には、固定側突起部113の径方向外側であって固定ハウジング10に向かって延びる環状の回転側突起部123が形成される。
【0051】
固定ハウジング10と回転ハウジング20の間には、フローティングシール50に泥などの異物が侵入することを防止するためにラビリンスシール105が形成される。ラビリンスシール105は、回転側突起部123の先端面123aと固定側突起部113が形成される固定フランジ部 112の側面112aとの間に形成された第1間隙105Aと、回転側突起部123の内周面123bと固定側突起部113の外周面113aとの間に形成され第1間隙105Aと略直交する第2間隙105Bと、第2間隙105Bと略直交し、固定側突起部113の先端面113bと回転側突起部123が形成される回転ハウジング20の内径側側面29bとの間に形成され空間Sに開口する第3間隙105Cと、を備える。なお、固定フランジ部 112の側面112aは、回転側突起部123の先端面123aに対向する対向面に相当する。
【0052】
第1間隙105Aは、外部側に開口する開口部105Dを有する。ラビリンスシール105は、第1間隙105A、第2間隙105B、及び第3間隙105Cによってクランク状に曲折した間隙に形成される。これにより、泥などの異物が空間Sに侵入することを防止し、フローティングシール50が異物によって損傷することを防止できる。つまり、フローティングシール50が損傷して異物が変速機200の内部に侵入することを防止できる。
【0053】
カバー部材60は、ラビリンスシール105の開口部105Dを覆うように固定ハウジング10に取り付けられる。これにより、開口部105Dから泥などの異物が侵入することを防止できる。
【0054】
カバー部材60の円筒部61は、回転ハウジング20の回転側突起部123の外周面123cとの間に所定の間隙Eをもって配置される。また、円筒部61は、その先端61aが所定の間隙Fをもって回転ハウジング20の回転フランジ部29に対向して配置される。
【0055】
以上の第2実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0056】
変速機200は、開口部105Dを覆うカバー部材60を備えている。図1及び図2に示す変速機100においてカバー部材60を単に固定ハウジング10に固定しても、円筒部61の先端61aが開口部5Dの近傍に位置するため開口部5Dを覆うことはできない。このため、変速機200では、回転側突起部123を固定側突起部113の径方向外側に位置するように形成することで、ラビリンスシール105の開口部105Dは固定ハウジング10側、つまり、円筒部61の基端側に形成される。これにより、カバー部材60の円筒部61によって開口部105Dを覆うことができ、開口部105Dから泥などの異物が侵入することを防止できる。
【0057】
また、変速機200では、ラビリンスシール105は、第1間隙105A、第1間隙105Aと略直交する第2間隙105Bとによって曲折した間隙として形成される。これにより、泥などの異物が空間Sに侵入することを防止し、フローティングシール50が異物によって損傷することを防止できる。つまり、フローティングシール50が損傷して異物が変速機200の内部に侵入することを防止できる。
【0058】
さらに、変速機200では、カバー部材60の円筒部61は、回転側突起部123の外周面123cとの間に所定の間隙Eをもって配置される。変速機200では、この間隙Eを狭い所定の間隙とすることによって泥などの異物の侵入が阻止され、開口部105Dに泥などの異物が到達することを防止できる。また、間隙Eとラビリンスシール105(第1間隙105A、第2間隙105B、第3間隙105C)とによって曲折したジグザグの間隙、つまり、さらなるラビリンスシールが構成されるので、空間Sへ異物が侵入することをより防止できる。
【0059】
カバー部材60の円筒部61は、その先端61aが所定の間隙Fをもって回転フランジ部29に対向して配置される。したがって、間隙Fによっても泥などの異物の侵入が阻止され、開口部105Dに泥などの異物が到達することをより一層防止できる。また、間隙Eとラビリンスシール105によって形成される曲折したジグザグの間隙に加えて、間隙Fによってさらなる曲折したジグザグの間隙、つまり、さらなるラビリンスシールが構成される。これにより、空間Sへ異物が侵入することをより一層防止できる。
【0060】
なお、円筒部61は、開口部105Dの周方向の一部のみを覆うように構成されていてもよい。例えば、円筒部61を開口部105Dの上部側を覆う構成とすることにより、固定フランジ部112の上部に堆積した泥などの異物が落下して、開口部105Dから侵入することを防止できる。円筒部61を開口部105Dの周方向の一部のみを覆うような構成とすることにより、カバー部材60を軽量化することができると共に、コストの低減を図ることができる。さらに、カバー部材60の取付けも容易になる。
【0061】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0062】
変速機100、200は、駆動源(油圧モータ1)が収容される固定ハウジング10と、駆動源(油圧モータ1)の出力回転を変速する変速機構30と、変速機構30を収容し、変速された出力回転が伝達されて回転する回転ハウジング20と、固定ハウジング10と回転ハウジング20との間に形成され外部からの異物の侵入を防止するラビリンスシール5、105と、ラビリンスシール5、105の外部側の開口部5D、105Aを覆うカバー部材60と、を備えることを特徴とする。
【0063】
この構成では、カバー部材60がラビリンスシール5、105の外部側の開口部5D、105Aを覆う。これにより、ラビリンスシール5、105に異物が侵入することを防止できる。
【0064】
また、変速機100では、カバー部材60は、回転ハウジング20に取り付けられることを特徴とする。
【0065】
この構成では、カバー部材60は回転ハウジング20に取り付けられるので、カバー部材60は回転ハウジング20とともに回転する。これにより、ラビリンスシール5に侵入する泥などの異物がカバー部材60に堆積することが防止される。したがって、カバー部材60の開口部から泥などの異物がラビリンスシールに侵入することを防止できる。
【0066】
また、変速機100では、固定ハウジング10は、外周面から突出して形成され外部部材(車体6)に取り付けられる取付部(固定フランジ部12)と、取付部(固定フランジ部12)に形成され回転ハウジング20に向かって延びる環状の固定側突起部13と、を有し、回転ハウジング20は、固定側突起部13の径方向内側において固定ハウジング10に向かって延びる環状の回転側突起部23を有し、ラビリンスシール5は、固定側突起部13の先端面13aと先端面13aと対向する回転ハウジング20の対向面(側面29a)との間に形成された第1間隙5Aと、固定側突起部13の内周面13bと回転側突起部23の外周面23aとの間に形成され第1間隙5Aと略直交する第2間隙5Bと、を有することを特徴とする。
【0067】
この構成では、ラビリンスシール5は、第1間隙5Aと、第1間隙5Aと略直交する第2間隙5Bとによって曲折した間隙として形成される。これにより、泥などの異物が装置(変速機100)内部に侵入することを防止できる。
【0068】
また、変速機100では、カバー部材60は、開口部5Dを覆う円筒部61と、円筒部61の基端に設けられ回転ハウジング20に取り付けられるフランジ部62と、を有し、カバー部材60の円筒部61は、固定側突起部13の外周面13cとの間に所定の間隙Cをもって配置されることを特徴とする。
【0069】
この構成によれば、カバー部材60の円筒部61と固定側突起部13の外周面13cとの間の間隙Cによってさらなるラビリンスシールが構成される。これにより、装置(変速機100)内部へ異物が侵入することをより防止できる。
【0070】
また、変速機100では、カバー部材60の円筒部61は、その先端61aが所定の間隙Dをもって外部部材(車体6)に対向することを特徴とする。
【0071】
この構成によれば、カバー部材60の円筒部61の先端61aと外部部材(車体6)との間の間隙Dによってさらなるラビリンスシールが構成される。これにより、装置(変速機100)内部へ異物が侵入することをより一層防止できる。
【0072】
また、変速機100、200では、カバー部材60は、分割可能に構成されることを特徴とする。
【0073】
この構成によれば、カバー部材60は分割可能に構成されるので、加工やメンテナンスなどを簡単に行うことができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0075】
例えば、第2実施形態におけるカバー部材を開口部105Dの上面側のみを覆う構成としてもよい。また、間隙C、間隙Eによって異物の侵入を防止できるものであれば、間隙D、間隙Fを設けなくてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、駆動装置として、走行モータを例に説明したが、駆動装置は、旋回モータやウィンチなどを駆動するモータなどであってもよい。
【符号の説明】
【0077】
100、200・・・変速機、1・・・油圧モータ(駆動源)、5、105・・・ラビリンスシール、5A、105A・・・第1間隙、 5B、105B・・・第2間隙、5C、105C・・・第3間隙、5D、105D・・・開口部、6・・・車体(外部部材)、10・・・固定ハウジング、12、112・・・固定フランジ部(取付部)、13、113・・・固定側突起部、13a・・・先端面、13b・・・内周面、13c・・・外周面、20・・・回転ハウジング、23・・・回転側突起部、23a・・・外周面、29・・・回転フランジ部、29a・・・側面(対向面)、30・・・変速機構、60・・・カバー部材、61・・・円筒部、61a・・・先端、61b・・・外周面、62・・・フランジ部、C、D、E,F…間隙
図1
図2
図3