【文献】
RAMASUBRAMANIAN, N., et al.,"Analysis of Passive Films on Stainless Steel by Cyclic Voltammetry and Auger Spectroscopy",J. Electrochem. Soc.,1985年 4月,Vol. 132, No. 4,pp. 793-798
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面におけるオージェ電子分光分析によるCr/O値が0.09〜0.20、かつCr/Fe値が0.55〜0.80の範囲である不動態膜が形成されたステンレス鋼材と、
前記ステンレス鋼材の前記不動態膜上に形成されることで最表層を構成し、Ni−Pd−P合金からなる合金めっき層と、を備え、
前記合金めっき層は、Pdに対するNiのモル比(Ni/Pd)が0.005〜0.5であることを特徴とする合金めっき被覆材料。
表面におけるオージェ電子分光分析によるCr/O値が0.09〜0.20、かつCr/Fe値が0.55〜0.80の範囲である不動態膜をステンレス鋼材上に形成する工程と、
前記ステンレス鋼材の前記不動態膜上に、最表層を構成するように、Ni−Pd−P合金からなる合金めっき層を、無電解めっきにより形成する工程を有し、
前記合金めっき層が、Pdに対するNiのモル比(Ni/Pd)が0.005〜0.5となるように形成されることを特徴とする合金めっき被覆材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態の合金めっき被覆材料100について説明する。
本実施形態の合金めっき被覆材料100は、
図1に示すように、基材10上に、M1−M2−M3合金(ただし、M1は、Ni、Fe、Co、Cu、Zn、およびSnから選択される少なくとも1つの元素、M2は、Pd、Re、Pt、Rh、Ag、およびRuから選択される少なくとも1つの元素、M3は、P、およびBから選択される少なくとも1つの元素である。)からなり、最表層を構成する合金めっき層20を備える。本実施形態では、合金めっき層20は、M2に対するM1のモル比(M1/M2)が0.005〜0.5であるめっき層である。
【0014】
<基材10>
基材10としては、特に限定されないが、鋼、ステンレス鋼、Al、Al合金、Ti、Ti合金、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金などが挙げられるが、ステンレス鋼板が特に好ましい。
【0015】
ステンレス鋼板としては、特に限定されないが、SUS316、SUS316L、SUS304などのステンレス鋼材が挙げられる。また、ステンレス鋼板にはマルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系などの種類があるが、特にオーステナイト系ステンレス鋼板が好適である。
【0016】
また、ステンレス鋼板には、表面に所定の不動態膜が形成されていることが好ましい。所定の不動態膜としては、その表面におけるオージェ電子分光分析によるCr/O値(Cr/Oのモル比)およびCr/Fe値(Cr/Feのモル比)が、次のような範囲となっているものが挙げられる。すなわち、Cr/O値が、好ましくは0.09〜0.20の範囲である。また、Cr/Fe値が、好ましくは0.55〜0.80の範囲である。
【0018】
なお、本実施形態において、オージェ電子分光分析によるCr/O値およびCr/Fe値は、たとえば、次の方法により測定することができる。すなわち、まず、ステンレス鋼板の不動態膜の表面について、走査型オージェ電子分光分析装置(AES)を用いて測定を行い、不動態膜の表面のCr、O、およびFeの原子%を算出する。そして、不動態膜の表面のうち、5箇所について、走査型オージェ電子分光分析装置による測定を行い、得られた結果を平均することにより、Cr/O値(Crの原子%/Oの原子%)およびCr/Fe値(Crの原子%/Feの原子%)を算出することができる。この際には、たとえば、走査型オージェ電子分光分析装置を用いた測定により得られたピークのうち、510〜535eVのピークをCrのピークとし、485〜520eVのピークをOのピークとし、570〜600eVのピークをFeのピークとし、これらCr,O,Feの合計を100原子%として、Cr、O、およびFeの原子%を測定する。
【0019】
本実施形態において、ステンレス鋼板の表面に不動態膜を形成する方法としては、特に限定されないが、たとえば、ステンレス鋼板を構成するSUS316Lなどのステンレス鋼材を、硫酸水溶液に浸漬させる方法などが挙げられる。
【0020】
不動態膜を形成するために、ステンレス鋼材を硫酸水溶液に浸漬させる場合には、硫酸水溶液の硫酸濃度は、好ましくは20〜25体積%である。また、ステンレス鋼材を浸漬させる際の温度は、好ましくは50〜70℃、より好ましくは60〜70℃である。さらに、ステンレス鋼材を硫酸水溶液に浸漬させる時間は、好ましくは5〜600秒、より好ましくは5〜300秒である。
【0021】
基材10の形状としては、特に限定されず、使用用途に応じて適宜選択することができるが、たとえば、線形状や板形状に加工された導電性の金属部品、板を凹凸形状に加工してなる導電性部材、ばね形状や筒形状に加工された電子機器の部品などの用途に応じて必要な形状に加工したもの用いることができる。また、基材10の太さ(直径)や厚み(板厚)は、特に限定されず、使用用途に応じて適宜選択することができる。
【0022】
本実施形態においては、合金めっき被覆材料100を、たとえば、燃料電池用セパレータとして用いることができる。なお、燃料電池用セパレータは、燃料電池スタックを構成する燃料電池セルの部材として用いられ、ガス流路を通じて電極に燃料ガスや空気を供給する機能、および電極で発生した電子を集電する機能を有するものである。合金めっき被覆材料100を、燃料電池用セパレータとして用いる際には、基材10については、予めその表面に燃料ガスや空気の流路として機能する凹凸(ガス流路)が形成されたものを用いる。ガス流路を形成する方法としては、特に限定されないが、たとえば、プレス加工により形成する方法が挙げられる。
【0023】
<合金めっき層20>
合金めっき層20は、合金めっき被覆材料100の耐食性および耐摩耗性を向上させ、さらに導電性を付与するために、最表層として形成されるめっき層であり、M1−M2−M3合金(ただし、M1は、Ni、Fe、Co、Cu、Zn、およびSnから選択される少なくとも1つの元素、M2は、Pd、Re、Pt、Rh、Ag、およびRuから選択される少なくとも1つの元素、M3は、P、およびBから選択される少なくとも1つの元素である。)により構成され、M2に対するM1のモル比(M1/M2)が0.005〜0.5である。
【0024】
なお、合金めっき層20を形成する方法は、特に限定されず、電解めっき、無電解めっき、スパッタリングなどにより形成することができるが、後述するように無電解めっきにより形成することが好ましい。
【0025】
M1−M2−M3合金におけるM1は、Ni、Fe、Co、Cu、Zn、およびSnから選択される少なくとも1つの元素であり、これらを単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて、たとえば、Ni−Fe、Ni−Co、Ni−Cuなどを用いてもよい。M1を構成する各元素は、単独で、基材10上にめっき層を形成することができるという特性を有する元素である。なお、M1としては、めっき液の自己分解を防止し、めっき液の安定性を高めることができるという点より、Ni、およびCoから選択される少なくとも1つの元素を用いるのが好ましく、Niを用いるのが特に好ましい。
【0026】
また、M1−M2−M3合金におけるM2は、Pd、Re、Pt、Rh、Ag、およびRuから選択される少なくとも1つの元素であり、これらを単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。M2を構成する各元素は、基材10上に析出した際に、めっき浴中の還元剤の反応に対する触媒として作用し、金属析出反応を連続的に進行させる作用を有するものである。なお、M2としては、コストを抑えることができるという点より、Pd、およびAgから選択される少なくとも1つの元素を用いるのが好ましく、Pdを用いるのが特に好ましい。
【0027】
さらに、M1−M2−M3合金におけるM3は、P、およびBのいずれかから選択される少なくとも1つの元素であり、これらの元素を単独で用いてもよいし、これらを組み合わせたP−Bを用いてもよい。M3を構成する各元素は、合金めっき層20を形成するためのめっき浴中の還元剤を構成するメタロイドであり、通常、合金めっき層20を形成する際に不可避的に合金めっき層20に取り込まれることとなる。なお、M3としては、めっき液の自己分解を防止し、めっき液の安定性を高めることができるという点より、Pを用いるのが好ましい。
【0028】
また、M1−M2−M3合金における各元素の比率は、好ましくはM1が15〜65原子%、M2が20〜60原子%、M3が15〜40原子%であり、より好ましくはM1が20〜50原子%、M2が30〜50原子%、M3が20〜30原子%である。さらに、得られる合金めっき被覆材料100について、耐食性および耐摩耗性を大きく低下させない範囲であれば、M1−M2−M3合金には不可避的に混入してしまう不純物がわずかに含まれていてもよい。不可避的に混入してしまう不純物としては、たとえば、めっき液の自己分解を防止し、めっき液を安定させる安定剤として添加されるPb、Tl、Biなどの重金属が挙げられる。なお、このような安定剤としては、環境負荷軽減の観点から、Biが好ましく用いられる。M1−M2−M3合金の組成比を上記範囲とすることにより、基材10上に良好に合金めっき層20が形成することができ、得られる合金めっき被覆材料100について、耐食性および耐摩耗性に優れたものとすることができる。
【0029】
なお、M1−M2−M3合金としては、各元素を任意に組み合わせたものを用いることができるが、めっき液の自己分解を防止し、めっき液の安定性を高めることができるという点より、Ni−Pd−P合金、Ni−Pt−P合金、Co−Pd−P合金、Co−Ag−P合金が好ましく、Ni−Pd−P合金が特に好ましい。
【0030】
M1−M2−M3合金からなる合金めっき層20を形成する方法は、上述したように特に限定されないが、無電解めっきにより形成する方法を用いる場合には、M1、M2、およびM3に示す元素を含み、還元剤、錯化剤が添加されためっき浴(無電解合金めっき浴)を用いる。
【0031】
たとえば、Ni−Pd−P合金からなる合金めっき層20を形成する場合には、無電解合金めっき浴としては、通常用いられるニッケルめっき浴と、パラジウムめっき浴とを混合して得られるものなどを用いることができる。ニッケルめっき浴としては、たとえば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケルなどのニッケル塩と、次亜リン酸塩などのリンを含む還元剤と、クエン酸などの錯化剤とからなるめっき浴などが挙げられる。パラジウムめっき浴としては、たとえば、塩化パラジウムなどのパラジウム塩と、次亜リン酸塩、亜リン酸塩などのリンを含む還元剤や、ギ酸などの還元剤と、チオジグリコール酸などの錯化剤とからなるめっき浴などが挙げられる。
【0032】
なお、ニッケルめっき浴と、パラジウムめっき浴とを混合して無電解合金めっき浴を作製する際においては、ニッケル塩としては塩化ニッケルや硫酸ニッケルなど、パラジウム塩としては塩化パラジウムなどを用いるのが好ましい。ニッケルめっき浴と、パラジウムめっき浴との混合比率は、無電解合金めっき浴中におけるNi原子とPd原子とのモル比は、Ni:Pd(モル比)が0.62:1.0〜3.32:1.0、好ましくは0.88:1.0〜2.68:1.0、より好ましくは0.88:1.0〜2.14:1.0である。これにより、本実施形態においては、得られるNi−Pd−P合金からなる合金めっき層20について、アモルファスライクな構成とし、耐食性および導電性をいずれも向上させることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、合金めっき層20におけるアモルファスライクな構造とは、実質的にM1−M2−M3合金のアモルファス(非晶質)から構成されている構造を示し、わずかにM1−M2−M3合金の結晶が含まれていてもよい構造をいう。このような結晶は、合金めっき層20が基材10上に形成される過程において、合金めっき層20に取り込まれる不純物などの影響により、合金めっき層20中に不可避的に形成される結晶構造などが挙げられる。
【0034】
具体的には、本願実施形態におけるアモルファスライクな構造としては、合金めっき層20についてX線回折装置を用いて微小角入射X線回折法により測定した際の回折プロファイルが、M1、M2及びM3のうち少なくとも一つの元素を含む結晶に由来する鋭いピークがない形状である例が挙げられる。すなわち、合金めっき層20がNi−Pd−P合金から構成され、その合金めっき層20中にNi,Pd及びPを少なくとも一つ含む結晶が存在する場合には、得られる回折プロファイルには、結晶に由来する鋭いピークが検出される。なお、Pd結晶構造を測定した
図2Aのグラフでは、Pd結晶に由来するピークは、回折角(2θ)で、例えば「40°」、「46°」、「68°」付近に検出される。本実施形態では、合金めっき層20において、このような結晶に由来する鋭いピークが検出されない場合には、合金めっき層20がアモルファスライクな構造であると判断できる。
【0035】
あるいは、アモルファスライクな構造としては、X線回折装置を用いて微小角入射X線回折法により測定した際の回折プロファイルが、アモルファス構造に由来するハローを有する形状である例が挙げられる。すなわち、合金めっき層20が実質的にアモルファスからなる場合には、得られる回折プロファイルは、
図2B,2Cに示すように、アモルファス構造に由来するハロー(回折角(2θ)20〜60°付近のなめらかな曲線)が検出される。なお、
図2Bは後述する実施例3で、
図2Cは後述する実施例4で得た回折プロファイルであり、合金めっき層20が、アモルファス構造のNi−Pd−P合金から構成されている場合に得られる回折プロファイルの例を示すものである。本実施形態では、合金めっき層20において、このようなアモルファス構造に由来するハローがみられる場合には、合金めっき層20がアモルファスライクな構造であると判断できる。
【0036】
上記においては、合金めっき層20を、Ni−Pd−P合金とする場合を例示したが、合金めっき層20を、Ni−Pd−P合金以外で構成する場合においても、同様に、M1、M2、およびM3の各元素を含み、還元剤、錯化剤が添加されためっき浴を適宜調整してなる無電解合金めっき浴を用いればよい。この際においては、M1、M2、およびM3の各元素を含む無電解合金めっき浴中におけるM1原子とM2原子とのモル比は、M1:M2(モル比)が、上述したNi:Pd(モル比)と同様の値であればよい。
【0037】
なお、合金めっき層20は、上述した無電解合金めっき浴を用いて、pH4.0〜7.0、浴温30〜50℃、浸漬時間5〜20分の条件で形成することが好ましい。
【0038】
また、形成する合金めっき層20の厚みは、好ましくは5〜100nmであり、より好ましくは30〜50nmである。合金めっき層20の厚みを上記範囲とすることにより、得られる合金めっき被覆材料100について、耐食性および耐摩耗性に優れたものとすることができる。
【0039】
ここで、本実施形態に係る合金めっき被覆材料100を、たとえば、燃料電池用セパレータとして用いる場合には、このような合金めっき層20を形成するための基材10としては、上述したように、予めプレス加工などによりガス流路が形成されたものを用いる。本実施形態においては、このような予めガス流路が形成された基材10上に合金めっき層20を形成することにより、得られる燃料電池用セパレータにおける合金めっき層20のクラックを有効に防止することができる。すなわち、ガス流路が形成されていない基材10上に合金めっき層20を形成し、その後、プレス加工などによりガス流路を形成する場合には、ガス流路を形成する際に加わる応力により合金めっき層20にクラックが生じるという問題があるが、上述したように予め基材10にガス流路を形成した後、合金めっき層20を形成することで、このような問題を解決することができる。特に、本実施形態においては、合金めっき層20を無電解めっきにより形成する場合には、凹凸のあるガス流路部分に対して、合金めっき層20を均一に、かつ不形成部分の発生を抑制するようにして形成することができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、合金めっき層20を、直接基材10上に形成してもよいが、合金めっき層20の密着性を向上させるために、基材10と合金めっき層20との間に改質層を設けてもよい。改質層としては、基材10や合金めっき層20の特性に応じて適宜形成することができるが、合金めっき層20との密着性を向上させるという観点より、合金めっき層20を構成するM1−M2−M3合金のM1と同じ元素を含有する層とすることが好ましい。たとえば、合金めっき層20としてNi−Pd−P合金を採用する場合には、改質層としては、M1に相当する元素であるNiを含有するNi系の層とすることが好ましく、このようなNi系の層を、無電解還元めっきにより形成する場合には、Ni−Pめっき層などが挙げられる。なお、改質層は、1層のみでもよいし、2層以上としてもよく、また、2層以上とする場合には、各層を構成する成分は異なるものであってもよいし、あるいは、同じものであってもよい。また、改質層を形成する方法は特に限定されないが、電解めっき、無電解めっき、スパッタリングなどにより形成することができる。
【0041】
また、本実施形態の合金めっき層20は、上述したように、M2に対するM1のモル比(M1/M2)が0.005〜0.5であるめっき層である。
【0042】
本実施形態では、合金めっき層20は、上述したように、アモルファスライクな構造を有する合金により構成されることが好ましい。
【0043】
また、合金めっき層20を構成するM1−M2−M3合金における、M2に対するM1のモル比(M1/M2)は、0.005〜0.5、好ましくは0.008〜0.44、より好ましくは0.008〜0.33である。合金めっき層20における上記モル比(M1/M2)を上述した範囲とすることにより、得られる合金めっき被覆材料100が、耐食性及び導電性に優れたものとなる。
【0044】
本実施形態では、合金めっき層20を、M2に対するM1のモル比(M1/M2)が上記範囲である構成とすることによれば、得られる合金めっき被覆材料100は、非晶質であるため、高強度、高靱性、高耐食性、優れた磁気特性(高透磁率、低保磁力)、および優れた成形加工性といった特性を有し、さらに、上記モル比(M1/M2)を適切な値に調整することで、耐食性が向上し、さらに、導電性も向上すると考えられる。これにより、得られる合金めっき被覆材料100について、耐食性に加えて、導電性に優れたものとすることができる。
【0045】
本実施形態において、形成する合金めっき層20について、M2に対するM1のモル比(M1/M2)が上記範囲である構成とする方法としては、特に限定されないが、合金めっき層20を無電解めっきにより形成する際において、めっき条件を制御する方法が挙げられる。この際においては、無電解めっきのめっき条件としては、たとえば、上述した無電解合金めっき浴を用いて、pH4.0〜7.0、浴温30〜50℃、浸漬時間5〜20分とする条件を用いることができる。
【0046】
また、合金めっき層20は、ガラス転移点を有するものであることが好ましい。本実施形態では、合金めっき層20がガラス転移点を有することにより、得られる合金めっき被覆材料100について、耐食性および導電性をより向上させることができる。
【0047】
ここで、合金めっき層20がガラス転移点を有しているか否かを確認する方法としては、たとえば、熱機械分析装置(TMA)を用いて、合金めっき層20の温度を徐々に上昇または下降させながら熱膨張率が急激に変化する際の温度を検出する方法や、示差走査熱量計(DSC)を用いて、合金めっき層20の温度を徐々に上昇または下降させながら吸熱や発熱を測定し、得られるDSC曲線においてベースラインのシフトが観測される温度を検出する方法など、公知の方法が挙げられる。
【0048】
また、合金めっき層20のガラス転移点は、特に限定されないが、好ましくは250〜400℃、より好ましくは300〜350℃である。
【0049】
本実施形態に係る合金めっき被覆材料100によれば、最表層として形成する合金めっき層20が、M1−M2−M3合金により構成され、M2に対するM1のモル比(M1/M2)が0.005〜0.5であり、耐食性および導電性をいずれも向上させることができる。そのため、本実施形態の合金めっき被覆材料100は、コネクタ、スイッチ、もしくはプリント配線基板などに用いられる電気接点材料として好適に用いられるものである。
【0050】
なお、表面に合金めっき層が形成された合金めっき被覆材料を製造する方法としては、従来、基材上に、ニッケル基合金などのアモルファス合金からなるアモルファス合金めっき層を形成する方法が用いられている。しかしながら、基材上に、単にアモルファス合金からなるアモルファス合金めっき層を形成したのみでは、耐食性が向上する一方で、導電性が不十分なものとなってしまい、電気接点材料として十分な特性が得られないという問題がある。
【0051】
特に、合金めっき被覆材料を燃料電池用セパレータとして用いる場合には、高い耐食性に加えて、高い導電性が求められる。すなわち、燃料電池用セパレータは、燃料電池内における高温かつ酸性雰囲気の環境にさらされるため、高い耐食性が求められ、加えて、電極で発生した電子を集電するために、高い導電性が求められる。
【0052】
これに対し、本実施形態に係る合金めっき被覆材料100によれば、最表層として形成されるM1−M2−M3合金の合金めっき層20を、M2に対するM1のモル比(M1/M2)が0.005〜0.5であるめっき層とすることにより、すなわち、非晶質(アモルファス)で構成されていたとしても、M1−M2−M3合金を構成する元素のモル比が所定値に制御されためっき層とすることにより、耐食性および導電性をいずれも向上させることができ、燃料電池用セパレータとして好適に用いることができる。
さらに、本実施形態に係る合金めっき被覆材料100によれば、最表層として形成されるM1−M2−M3合金の合金めっき層20を、上述したアモルファスライクな構造を有する合金めっき層とすることにより、耐食性および導電性をいずれも向上させることができ、燃料電池用セパレータとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0054】
《実施例1》
まず、基材10としてステンレス鋼材(SUS316L)を準備した。次いで、準備した基材10に対し、下記に示すパラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを、パラジウムめっき浴:ニッケルめっき浴=5.7:1(体積比)の割合で混合しためっき浴を用いて、38℃、4分間の条件で、無電解めっき処理を施すことにより、基材10上に、合金めっき層20として厚さ40nmのNi−Pd−P合金層を形成し、合金めっき被覆材料100を得た。なお、めっき浴中におけるパラジウム塩、還元剤、および錯化剤については、従来公知の化合物を用いた。また、パラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを混合しためっき浴中におけるNi:Pd(モル比)は、1.14:1.0であった。
<パラジウムめっき浴>
パラジウム塩:パラジウムめっき浴中におけるPd量が0.15重量%となる量
還元剤:1.8重量%
錯化剤:0.63重量%
水:97.2重量%
pH:5.5
<ニッケルめっき浴>
ニッケル塩(塩化ニッケル):1.8重量%
還元剤(次亜燐酸ソーダ):2.4重量%
錯化剤:2.4重量%
水:93.2重量%
pH:5.2
【0055】
《実施例2》
合金めっき層20を形成する際の、無電解めっき処理の条件を、38℃、8分間、pH:6.0に変更し、基材10上に、合金めっき層20として厚さ80nmのNi−Pd−P合金層を形成した以外は、実施例1と同様にして合金めっき被覆材料100を得た。
【0056】
《比較例1》
合金めっき層20を形成する際の、無電解めっき処理に用いるめっき浴として、パラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを、パラジウムめっき浴:ニッケルめっき浴=1:2(体積比)の割合で混合しためっき浴を用いた以外は、実施例1と同様にして合金めっき被覆材料100を得た。なお、パラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを混合しためっき浴中におけるNi:Pd(モル比)は、0.1:1.0であった。
【0057】
《実施例3》
まず、基材10としてステンレス鋼材(SUS316L)を準備した。そして、準備した基材10について、市販の脱脂剤(日本クエーカーケミカル社製、フォーミュラー 618−TK2)を溶解させたアルカリ水溶液中で電解脱脂した。続いて、脱脂した基材10を水洗し、その後、70℃の硫酸水溶液(濃度25重量%)に15秒間浸漬して酸洗した後、下記に示すパラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを、パラジウムめっき浴:ニッケルめっき浴=5.67:1.0(体積比)の割合で混合しためっき浴を用いて、37℃、pH5.95、2分間の条件で、無電解めっき処理を施すことにより、基材10上に、合金めっき層20として厚さ40nmのNi−Pd−P合金層を形成し、合金めっき被覆材料100を得た。また、パラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを混合しためっき浴中におけるNi:Pd(モル比)は、0.88:1.0であった。めっき浴中における還元剤、および錯化剤については、従来公知の化合物を用いた。また、形成された合金めっき層20におけるM2(Pd)に対するM1(Ni)のモル比(Ni/Pd)は、0.008であった。
<パラジウムめっき浴>
パラジウム塩(塩化パラジウム):0.28重量%
還元剤:1.80重量%
錯化剤:0.63重量%
水:97.3重量%
pH:6.0
<ニッケルめっき浴>
ニッケル塩(硫酸ニッケル):2.0重量%
還元剤:2.6重量%
錯化剤:2.6重量%
水:92.8重量%
pH:4.3
【0058】
《実施例4》
実施例3に示すパラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを、パラジウムめっき浴:ニッケルめっき浴=3:1(体積比)の割合で混合しためっき浴を用いて、37℃、pH6.34、12分間の条件で、無電解めっき処理を施すことにより、基材10上に、合金めっき層20として厚さ40nmのNi−Pd−P合金層を形成した以外は、実施例3と同様に合金めっき被覆材料100を得た。また、パラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを混合しためっき浴中におけるNi:Pd(モル比)は、1.88:1.0であった。
【0059】
《実施例5》
実施例3に示すパラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを、パラジウムめっき浴:ニッケルめっき浴=1.86:1.0(体積比)の割合で混合しためっき浴を用いて、55℃、pH6.7、5分間の条件で、無電解めっき処理を施すことにより、基材10上に、合金めっき層20として厚さ40nmのNi−Pd−P合金層を形成した以外は、実施例3と同様に合金めっき被覆材料100を得た。また、パラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを混合しためっき浴中におけるNi:Pd(モル比)は、2.68:1.0であった。なお、めっき浴中における還元剤、および錯化剤については、従来公知の化合物を用いた。また、形成された合金めっき層20におけるM2(Pd)に対するM1(Ni)のモル比(Ni/Pd)は、0.44であった。
【0060】
合金めっき層20の金属量測定
実施例3,5において得られた合金めっき被覆材料100を用いて、皮膜中の金属量を測定した。具体的には、合金めっき被覆材料100を合金めっき皮膜20の縦40mm、横40mmのサイズに切り出し、60℃の60%硝酸水溶液(体積10ml)に5分間浸漬させて合金めっき皮膜20を溶解し、合金めっき被覆材料100を取り出し、合金めっき皮膜20を溶解した水溶液に水を加えて100mlに調整した後、前記水溶液中に溶出したイオン(Ni、Pd、P)の質量濃度(g/L)を誘導結合プラズマ発光分析装置(島津製作所社製、ICPE−9000)により測定し、測定結果を得たICPの測定結果から得られた金属量と、溶解しためっき層表面積から皮膜中のモル比を算出した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
《比較例2》
上述した実施例3で用いたステンレス鋼材(SUS316L)を準備し、このステンレス鋼材上に合金めっき層20を形成することなく、後述する評価を行った。
【0063】
《比較例3》
実施例3に示すパラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを、パラジウムめっき浴:ニッケルめっき浴=1:1(体積比)の割合で混合しためっき浴を用いて、55℃、pH7.3、5分間の条件で、無電解めっき処理を施すことにより、基材10上に、合金めっき層20として厚さ40nmのNi−Pd−P合金層を形成した以外は、実施例3と同様に合金めっき被覆材料100を得た。なお、めっき浴中におけるパラジウム塩、還元剤、および錯化剤については、従来公知の化合物を用いた。また、パラジウムめっき浴と、ニッケルめっき浴とを混合しためっき浴中におけるNi:Pd(モル比)は、4.99:1.0であった。
【0064】
X線回折装置による合金めっき層20の測定
実施例3,4および比較例2,3において得られた合金めっき被覆材料100について、X線回折装置(リガク社製、型番:RINT-2500)を用いて微小角入射X線回折法によりX線回折測定を行った。なお、実施例3の測定結果は
図2Bに、実施例4の測定結果は
図2Cにそれぞれ示す。結果は、実施例3,4はM1〜M3金属のピークが見られる位置に結晶に由来するピークが見られず、一方、比較例2は、基材中の結晶に由来する考えられるピークが見られた。
【0065】
耐食性の評価(その1)
次いで、実施例1および比較例1において得られた合金めっき被覆材料100に対し、耐食性の評価を行った。具体的には、合金めっき被覆材料100を縦35mm、横20mmの面積が露出するようにポリイミドテープで端面をマスキングし、90℃の硫酸水溶液(体積80ml、pH:1.0)に100時間浸漬させた後、合金めっき被覆材料100を取り出し、合金めっき被覆材料100から硫酸水溶液中に溶出したイオン(Ni、Pd、P、Fe、Cr、Mo)の質量濃度(g/L)を誘導結合プラズマ発光分析装置(島津製作所社製、ICPE−9000)により測定することにより行った。また、比較として、併せて、燃料電池用セパレータの材料として通常用いられているステンレス鋼材(SUS316L)である比較例2についても、同様に、硫酸水溶液に浸漬させ、硫酸水溶液中に溶出したイオン(Ni、Pd、P、Fe、Cr、Mo)の質量濃度(g/L)を測定することで、耐食性の評価を行った。結果を
図3Aに示す。なお、
図3Aのグラフにおいては、イオン溶出濃度(ppm)の値を示す。
【0066】
図3Aの結果より、実施例1においては、10ppmの金属が溶出した。一方、従来の燃料電池用セパレータの材料などとして用いられているSUS316L(比較例2)は、39ppmの金属が溶出した。実施例1は、比較例2と比較して、基材からのイオンの溶出を有効に抑制することができ、耐食性に優れることが確認された。また、
図3Aにおいては図示していないが、実施例2においても、実施例1と同程度に、基材からのイオンの溶出を有効に抑制することができ、耐食性に優れることが確認された。一方、
図3Aの結果より、比較例1においては、18ppmの金属が溶出し、実施例1と比較して、基材からのイオンの溶出量が多くなっており、耐食性に劣ることが確認された。
【0067】
耐食性の評価(その2)
次いで、実施例3,4および比較例3において得られた合金めっき被覆材料100に対し、耐食性の評価を行った。実施例3は、具体的には、合金めっき被覆材料100を縦40mm、横37mmの面積が露出するようにポリイミドテープで端面をマスキングし、90℃の硫酸水溶液(体積90ml、pH:3.0)に100時間浸漬させた後、合金めっき被覆材料100を取り出し、合金めっき被覆材料100から硫酸水溶液中に溶出したイオン(Ni、Pd、P、Fe、Cr、Mo)の質量濃度(g/L)を誘導結合プラズマ発光分析装置(島津製作所社製、ICPE−9000)により測定することにより行った。また、比較として、燃料電池用セパレータの材料として通常用いられているステンレス鋼材(SUS316L)である比較例2についても、同様に、硫酸水溶液に浸漬させ、硫酸水溶液中に溶出したイオン(Ni、Pd、P、Fe、Cr、Mo)の質量濃度(g/L)を測定することで、耐食性の評価を行った。結果を
図3Bに示す。なお、
図3Bのグラフにおいては、イオン溶出濃度(ppm)の値を示す。耐食性の評価(その2)及び後述する耐食性の評価(その3)では、上述した耐食性の評価(その1)と比較して、試験に用いた硫酸のpHを高くした(1.0から3.0に変更した)ため、イオン溶出濃度(ppm)の値は相対的に低い値となった。
【0068】
図3Bの結果より、比較例2は、0.062ppmの金属が溶出し、比較例3は2.219ppmの金属が溶出した。実施例3は、0.042ppmの金属が溶出し、実施例4は、0.023ppmの金属が溶出した。
表1および
図3Bの結果より、基材10上に、M2(Pd)に対するM1(Ni)のモル比(Ni/Pd)が0.005〜0.5である合金めっき層20を形成した実施例3においては、従来の燃料電池用セパレータの材料などとして用いられているSUS316L(比較例2)と比較して、基材からのイオンの溶出を有効に抑制することができ、耐食性に優れることが確認された。一方、
図3Bの結果より、比較例3は、実施例3,実施例4と比較して、基材からのイオンの溶出量が多くなっており、耐食性に劣ることが確認された。
【0069】
耐食性の評価(その3)
次いで、実施例5および比較例2において得られた合金めっき被覆材料100に対し、耐食性の評価を行った。具体的には、合金めっき被覆材料100を縦40mm、横37mmの面積が露出するようにポリイミドテープで端面をマスキングし、90℃の硫酸水溶液(体積90ml、pH:3.0)に100時間浸漬させた後、合金めっき被覆材料100を取り出し、合金めっき被覆材料100から硫酸水溶液中に溶出したイオン(Ni、Pd、P、Fe、Cr、Mo)の質量濃度(g/L)を誘導結合プラズマ発光分析装置(島津製作所社製、ICPE−9000)により測定することにより行った。また、比較として、燃料電池用セパレータの材料として通常用いられているステンレス鋼材(SUS316L)である比較例2についても、同様に、硫酸水溶液に浸漬させ、硫酸水溶液中に溶出したイオン(Ni、Pd、P、Fe、Cr、Mo)の質量濃度(g/L)を測定することで、耐食性の評価を行った。結果を
図3Cに示す。なお、
図3Cのグラフにおいては、イオン溶出濃度(ppm)の値を示す。
【0070】
図3Cの結果より、比較例2は、0.88ppmの金属が溶出し、実施例5は、0.85ppmの金属が溶出した。
表1および
図3Cの結果より、基材10上に、M2(Pd)に対するM1(Ni)のモル比(Ni/Pd)が0.005〜0.5である合金めっき層20を形成した実施例5においては、従来の燃料電池用セパレータの材料などとして用いられているSUS316L(比較例2)と比較して、基材からのイオンの溶出を有効に抑制することができ、耐食性に優れることが確認された。
【0071】
接触抵抗値の測定(その1)
次いで、実施例1において得られた合金めっき被覆材料100を用いて、
図4に示すような測定系を形成し、形成した測定系を用いて、接触抵抗値の測定を行った。なお、
図4に示す測定系は、合金めっき被覆材料100、燃料電池用セパレータにおいてガス拡散層基材として用いられるカーボンクロス200、金めっき被覆された銅電極300、デジタルマルチメータ400、および電流計500によって構成される。接触抵抗値の測定は、具体的には、まず、合金めっき被覆材料100を幅20mm、長さ20mm、厚さ1.27mmの大きさに加工し、
図4に示すように、カーボンクロス200(東レ社製、品番:TGP−H−090)を介して、金めっき被覆された銅電極300によって両側から挟んで固定することで、
図4に示す測定系を形成した。次いで、銅電極300に一定の荷重を加えながら、荷重5〜20(kg/cm
2)の範囲において、抵抗計(日置電機社製、ミリオームハイテスタ3540)を用いて、試験片を挟んだ上下のカーボンクロス200間の接触抵抗値を測定した。測定結果を
図5に示す。
【0072】
また、
図5においては、比較データとして、SUS316L(比較例2)について測定した接触抵抗値の値も併せて示した。SUS316L(比較例2)の接触抵抗値は、SUS316Lを幅20mm、長さ20mm、厚さ1.0mmの大きさに加工した後、上述した
図4に示す測定系により測定することで得た。
【0073】
図5の結果より、実施例1においては、いずれの荷重値においても、従来の燃料電池用セパレータの材料などとして用いられているSUS316L(比較例2)より接触抵抗値が低い値となり、導電性に優れる結果となった。
【0074】
接触抵抗値の測定(その2)
次いで、実施例3〜5および比較例2,3において得られた合金めっき被覆材料100を用いて、
図4に示すような測定系からカーボンクロス200を取り除いた測定系を用いて、幅20mm、長さ20mm、厚さ1.27mmの大きさに加工した合金めっき被覆材料100を、荷重1MPa(10.2(kg/cm
2))にて、抵抗計(日置電機社製、ミリオームハイテスタ3540)を用いて、試験片を挟んだ上下の銅電極300間の接触抵抗値を測定した。測定結果を表1に示す。
【0075】
表1の結果より、基材10上に、M2(Pd)に対するM1(Ni)のモル比(Ni/Pd)が0.005〜0.5である合金めっき層20を形成した実施例3,5においては、従来の燃料電池用セパレータの材料などとして用いられているSUS316L(比較例2)より接触抵抗値が低い値となり、導電性に優れる結果となった。一方、表1の結果より、合金めっき層20におけるM2(Pd)に対するM1(Ni)のモル比(Ni/Pd)が0.005〜0.5の範囲外であった比較例3は、実施例3,5と比較して接触抵抗値がやや高い値となり、わずかに導電性に劣る結果となった。
【0076】
次いで、ステンレス鋼材の表面状態を測定し、めっき性及び密着性を評価した実施例を下記に示す。
【0077】
《実施例6》
まず、基材10としてステンレス鋼材(SUS316L)を準備した。次いで、準備した基材10を、硫酸濃度25体積%の硫酸水溶液に、温度70℃、浸漬時間5秒の条件で浸漬させることにより、表面に不動態膜が形成されたステンレス鋼板を得た。
【0078】
《実施例7》
準備した基材10を、硫酸濃度25体積%の硫酸水溶液に、温度70℃、浸漬時間10秒の条件で浸漬させること以外は、実施例6と同様にして表面に不動態膜が形成されたステンレス鋼板を得た。
【0079】
《実施例8》
準備した基材10を、硫酸濃度25体積%の硫酸水溶液に、温度70℃、浸漬時間15秒の条件で浸漬させること以外は、実施例6と同様にして表面に不動態膜が形成されたステンレス鋼板を得た。
【0080】
《実施例9》
準備した基材10を、硫酸濃度25体積%の硫酸水溶液に、温度70℃、浸漬時間20秒の条件で浸漬させること以外は、実施例6と同様にして表面に不動態膜が形成されたステンレス鋼板を得た。
【0081】
そして、このような不動態膜を形成したステンレス鋼板の実施例6〜9について、走査型オージェ電子分光分析装置(AES)(日本電子社製、型番:JAMP−9500F)を用いて、5箇所のCr、OおよびFeの原子%を測定し、得られた結果を平均することにより、Cr/O値(Crの原子%/Oの原子%)およびCr/Fe値(Crの原子%/Feの原子%)を求めた。結果を表2に示す。
【0082】
次いで、不動態膜を形成したステンレス鋼板の実施例6〜9について、不動態膜上に、上述した実施例3と同様にしてNi−Pd−P合金層を形成し、合金めっき被覆材料100を得た。
【0083】
そして、このように得られた合金めっき被覆材料100について、Ni−Pd−P合金層のめっき性の評価を行った。具体的には、合金めっき被覆材料100の表面を蛍光X線分析装置(リガク社製、型番:ZSX100e)により測定してNi−Pd−P合金の有無を判定し、Ni−Pd−P合金が検知された場合には、Ni−Pd−P合金層が良好に形成されていると判断することで、めっき性の評価を行った。結果を表2に示す。結果としては、実施例6〜9の合金めっき被覆材料100は、表面からNi−Pd−P合金が検知され、良好にNi−Pd−P合金層が形成されていることが確認された。
【0084】
さらに、実施例6〜9の合金めっき被覆材料100について、Ni−Pd−P合金層の密着性の評価を行った。具体的には、合金めっき被覆材料100のNi−Pd−P合金層に粘着テープ(ニチバン社製、ナイスタック強力タイプ)を貼付した後、剥がすことにより剥離試験を実施し、その後、Ni−Pd−P合金層の剥離状態を観察して、剥離が確認されなかった場合には、Ni−Pd−P合金層の密着性が良好であると判断することで、密着性の評価を行った。結果を表2に示す。結果としては、実施例6〜9の合金めっき被覆材料100においては、Ni−Pd−P合金層の剥離は確認されず、Ni−Pd−P合金層の密着性が良好であることが確認された。
【0085】
【表2】
【0086】
表2の結果より、基材10としてのステンレス鋼板上に、表面におけるオージェ電子分光分析によるCr/O値が0.09〜0.20、かつCr/Fe値が0.55〜0.80の範囲である不動態膜を形成した実施例6〜9においては、不動態膜上に形成されたNi−Pd−P合金層は、めっき性および密着性に優れていることが確認された。なお、表2では、ステンレス鋼板の不動態膜におけるCr/O値が0.092〜0.1987、Cr/Fe値が0.5577〜0.7918である結果を示したが、オージェ電子分光分析による測定結果の誤差を考慮して、ステンレス鋼板上に、表面におけるオージェ電子分光分析によるCr/O値が0.09〜0.20、かつCr/Fe値が0.55〜0.80の範囲である不動態膜が形成されていれば、不動態膜上に形成されるNi−Pd−P合金層は、めっき性および密着性に優れたものとなると考えられる。