特許第6706102号(P6706102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706102
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】複合材製乗物用座席の脚構造成形法
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20200525BHJP
   A47C 7/00 20060101ALI20200525BHJP
   B60N 2/005 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   B60N2/90
   A47C7/00 A
   B60N2/005
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-51142(P2016-51142)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-165202(P2017-165202A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】309034504
【氏名又は名称】天龍エアロコンポーネント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236609
【氏名又は名称】フドー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084593
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】川西 徹
(72)【発明者】
【氏名】板東 舜一
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 伸樹
【審査官】 毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0094838(US,A1)
【文献】 米国特許第05522640(US,A)
【文献】 特開2013−227007(JP,A)
【文献】 特開2014−091470(JP,A)
【文献】 特開2014−004977(JP,A)
【文献】 米国特許第05657950(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00− 2/90
A47C 7/00− 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略垂直状態にあって床の前方定着部位に至る前脚が備えられる一方、下方傾き状態で後方定着部位に向かう後脚が備えられる乗物用座席の脚構造体製造法において、
脚構造体は、自席と隣席とを座面前縁直下で支持する前方横材から下方へ延びる複合材製前脚、および前記前方横材から後方下り傾斜し後方定着部位に向かう複合材製下り斜脚部と、該下り斜脚部の略中間部位から後方に向けて上り傾斜し自席と隣席とを座面後縁直下で支持する後方横材に向けて延びる上り斜脚部とで形成される複合材製後脚を有し、
前記複合材製前脚および後脚それぞれは、座席の左右をX方向と、前後をY方向と、上下をZ方向とした場合、せん断荷重を負担するウェブ部をYZ面内に配したI形構造であって、引張・圧縮軸力を負担し剛性を増強させるフランジ部における反ウェブ部側の全幅もしくは一部に、および前記ウェブ部の一部に連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体が配され、フランジ部における残余域および前記ウェブ部における残余域は注入成形のコンパウンド樹脂体とされ、
該コンパウンド樹脂体の成形は、予め成形された前記ラミネート構成プレス成形樹脂体を成形型に配置したあとの残余キャビティへのコンパウンド溶融樹脂の加圧注入によるものであって、その際、コンパウンド樹脂体とラミネート構成プレス成形樹脂体とは樹脂融着による一体化がなされるようにしたことを特徴とする複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項2】
前記下り斜脚部は前記後方定着部位まで直接延び、前記上り斜脚部は該下り斜脚部の略中間部位において下り斜脚部と一体成形されることを特徴とする請求項1に記載された複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項3】
前記複合材製前脚と複合材製後脚は、前記前方横材または後方横材を介して一体的構造脚として組み立てられることを特徴とする請求項2に記載された複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項4】
前記下り斜脚部は前記前方横材に連結される前方斜脚要素と該前方斜脚要素にピン連結されて後方定着部位へ向かう後方斜脚要素とで形成され、前記上り斜脚部は前記後方斜脚要素の前端部位において一体であることを特徴とする請求項1に記載された複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項5】
前記ラミネート構成プレス成形樹脂体は、前記前方横材または後方横材を外囲して曲がるヘアピン状成形品とされ、一列配置または二列並行配置されることを特徴とする請求項1に記載された複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項6】
前記複合材製後脚を形成するヘアピン状成形品のフランジ部における先端近傍は斜辺が一つだけの矢尻状に成形されていることを特徴とする請求項5に記載された複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項7】
前記複合材製前脚は前記二列並行配置であり、前記前方定着部位およびそれに近接する部位において密接一体化され、横剛性の強化が図られていることを特徴とする請求項5に記載された複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項8】
前記前脚の前方定着部位近傍のフランジ部は、前面・後面ともに前記後方定着部位を中心とした円弧状とされていることを特徴とする請求項5に記載された複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項9】
前記前脚の前方定着部位近傍のフランジ部は、厚みが定着部に向けて漸減され、層間剥離破壊のきっかけを与えやすくされていることを特徴とする請求項5に記載された複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項10】
厚みが定着部位に向けて漸減されている前記フランジ部には平面視矢尻状のテーパが施され、先端になるにつれて応力の増大を伴わせやすくされていることを特徴とする請求項9に記載された複合材製乗物用座席の脚構造成形法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載された脚構造成形法により製作した複合材製乗物用座席。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合材製乗物用座席の脚構造体成形法に係り、詳しくは、上下に延びる前脚および傾斜状態で後方定着部位に至る後脚を備える乗物用座席の脚構造体製造方法に関するものである。また、その方法により製作された複合材製乗物用座席を提供しようとするものでもある。
【背景技術】
【0002】
乗物用の座席は座面の位置を変えるために前後に少し変位させることができる場合もあるが、少なくとも移動中は床にしっかりと固定できるようになっている。すなわち、移動中は座席が原則として不動状態にあり、シートベルトを着用している搭乗者に少々大きな減速度が作用しても座席は乗客ととともに前方移動することはない。
【0003】
座席の安定を図るために脚構造体は金属材料が適用され、強度は十分であり剛性も高く与えられる。航空機用座席である場合には軽金属が使用されており、アルミ鍛造品をNC加工するなどした削り出し品であることが多い。この場合、前脚、後脚やそれぞれに付随する部材は原則として単一品であり、脚構造体はそれらの組み合わせとなっている。ちなみに、ペイロードの増大、航続距離の拡大、離着陸距離の短縮といった観点から、機体ならびに装備品にはますますの軽量化が求められている。
【0004】
特許文献1である特表2009−532255には、シート底部フレームやシート背部フレームを積層複合炭素繊維樹脂製とし、座席の軽量化を図る提案がなされている。特許文献2である特表2009−537383には、座席脚部も軽量構造とすべく構成品の一部を繊維強化プラスチック製とすることが開示されている。後者を少し詳しく述べれば、金属製剛体である補強棒材などとともに全体的な構造強度を高めるハニカムコア板が採用され、そのコア板の表裏の当て板兼補強板としてFRPが使用されている。
【0005】
ところで、脚構造体のほとんどの部位をFRP化しようとすると、前脚および後脚だけでは耐えきれず、少なくともトラス構造としておくことが要求される。その場合には、前脚、後脚および前脚の上端から後脚の下端へ延びるブレースを入れるか、ブレースを前脚の下端から後脚の上端に延びるかたちにすることのいずれかとなる。これらはブレースを一本だけ介在させた形態であるが、座席の左側から見たとき、前者はN形に、後者は逆N形となる(以下、N形脚、逆N形脚という。)。
【0006】
N形脚は特許文献3である特開平10−075848号公報の図1に、逆N形脚は特許文献4である特開平6−016194号公報に記載されているが、これらは金属脚であってFRP製でない。FRP製脚にしようとすればFRPの性質を利用することが重要であることは述べるまでもない。すなわち、引張力・圧縮力やせん断力の強弱、曲げ耐力の大小といったことを考慮せねばならない。また、成形に要する金型の大型化回避(製造費の低廉化)も配慮する必要がある。
【0007】
N形脚および逆N形脚のいずれを採用するにしても、座席の後部分は背後の搭乗者の足や脚を納めるスペースを確保するために、後脚を垂直にしておくことは好ましくない。したがって、後脚は前述した特許文献3のように「く」の字状とされる。図17の(a)には、ブレース41の後半部位の下り傾斜部分41aと後脚上部を形成する上り傾斜部分41bとを組み合わせた後脚42の例であって、N形脚が示されている。同図(b)はブレース43の後半部位の上り傾斜部分43aと後脚下部を形成する下り傾斜部分43bとを組み合わせた後脚44の例であって、逆N形脚が示されている。
【0008】
ところで、座席は固定されているから胴体着陸したときなどは搭乗者に大きい減速Gが作用し、座席自体の慣性力とあいまって脚構造体には大きな力が作用する。脚構造体は法令に定めるGに耐えるべく設計されるが、最も剛強さが要求されるのは言うまでもなく前脚である。この前脚の変形をダンパーなどによって許容し、衝撃を和らげる対策が施されることもある。
【0009】
それぞれの形態について大きい負の前方Gを作用させた状態でのFEM解析結果によると、N形脚は逆N形脚に比べて作用するせん断力(黒矢印)とモーメント(影つき円弧矢印)は全般的に小さく、その反面、軸力(ハッチング矢印)は大きい。したがって、FRP成形品とする場合、その得失を考慮すればN形脚が好ましい。前方定着部位1Fに至る前脚2は概ね垂直とされるが、後脚は大きく傾斜して後方定着部位1Rに向かうブレースの後半部分と、ブレース中間部位から座面後縁の支持桁に向かう上り傾斜部分とからなる構造としておくことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2009−532255
【特許文献2】特表2009−537383
【特許文献3】特開平10−075848号公報
【特許文献4】特開平6−016194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、高強度なFRP成形品を得るためには、プリプレグの積層工程やオートクレーブによる加熱・加圧・養生工程が必要となり、金属品からの削り出しに比べれば多大の製作時間を要する。それと同時に、成形金型も欠かせない。前脚・後脚・ブレースからなるトラス構造の脚体を一体成形するとなると、製作の時間短縮は図られるとしても、金型の大型化が余儀なくされる結果、製作においては高騰化が避けられない。
【0012】
以上の説明から分かるように、航空機の座席における脚構造体は現在のところオールFRP製もしくは大部分FRP製とするところまでには至っていない。座席の一つひとつの軽量化は、例えば500席を装備する大型旅客機においてその重量軽減効果が著しい。ましてや、総複合材製やそれに近い形態の座席を搭載することになれば、航続距離の拡大、離着陸距離の短縮、ペイロードの増大といった航空機では極めて重要な性能向上がもたらされる。これは自動車や船舶などの乗物においても同じことが言える。
【0013】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、前脚、後脚おける主部材の完全なFRP化により座席の可及的な軽量化を図ること、引張や圧縮・せん断・曲げモーメントの負担の大小を考慮し部位ごとの適宜な強度付与によったFRP成形品でありながらも剛強さを発揮できる構造体とすること、適宜な強度・耐力を保持させつつも材料使用量の無駄などを可及的に排除したFRP製品にすることができること、製作に多くの時間を
要しがちなFRP品成形の短時間化を図ること、成形品の小形化ならびに製作点数の抑制により成形金型の多種多様化や大型化を回避して製造や設備の低廉化を実現できる複合材製乗物用座席の脚構造成形法、ならびにその方法によって製作された複合材製乗物用座席を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、略垂直状態にあって床の前方定着部位に至る前脚が備えられ、下方傾き状態で後方定着部位に向かう後脚が備えられる乗物用座席の脚構造体製造法に適用される。その特徴とするところは、主として図1を参照して、脚構造体5は、自席4M(図2(b)を参照)と隣席4Nとを座面前縁直下で支持する前方横材6から下方へ延びる複合材製前脚2、および前方横材6から後方下り傾斜し後方定着部位1Rに向かう複合材製下り斜脚部3Aと、その下り斜脚部3Aの略中間部位から後方に向けて上り傾斜し自席4Mと隣席4Nとを座面後縁直下で支持する後方横材7に向けて延びる上り斜脚部3Bとで形成される複合材製後脚3を有する。その前脚2および後脚3のそれぞれは、座席4(図2(a)を参照)の左右をX方向と、前後をY方向と、上下をZ方向とした場合(図2(b)を参照)、せん断荷重を負担するウェブ部16をYZ面(座席の前後方向に伸びる垂直面)内に配したI形構造(図4を参照)であって、引張・圧縮の軸力を負担し剛性を増強させるフランジ部17における反ウェブ部側の全幅もしくは一部に、および前記ウェブ部の一部に連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体18が配され(図4を参照)、フランジ部17における残余域およびウェブ部16における残余域は注入成形のコンパウンド樹脂体19とされる。そして、そのコンパウンド樹脂体の成形は、予め成形された連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体18を成形型内に図6に示すごとく配置したあとの残余キャビティへのコンパウンド溶融樹脂の加圧注入によるものであって、その際、注入コンパウンド樹脂体とラミネート構成プレス成形樹脂体は、それぞれの樹脂融着による一体化がなされるようにしたことである。
【0015】
下り斜脚部3Aは後方定着部位1Rまで直接延び、上り斜脚部3Bは下り斜脚部3Aの略中間部位において下り斜脚部3Aと一体成形されている。
【0016】
複合材製前脚2と複合材製後脚3は、前方横材6または後方横材7を介して一体的構造脚として組み立てられている。
【0017】
図11に示すように、下り斜脚部3Aは前方横材6に連結される前方斜脚要素3Fとその前方斜脚要素にピン29で連結されて後方定着部位1Rへ向かう後方斜脚要素3Rとで形成される一方、上り斜脚部3Bは後方斜脚要素3Rの前端部位において一体となる構成としておくこともできる。
【0018】
図5に示すように、連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体18は、前方横材6または後方横材7を外囲して曲がるヘアピン状成形品とされ、一列配置または二列並行配置される。
【0019】
複合材製後脚3を形成するヘアピン状成形品のフランジ部17における先端近傍は斜辺が一つだけの矢尻状に成形されている。
【0020】
図9に示すように、複合材製前脚2は二列並行配置であり、前方定着部位1Fおよびそれに近接する部位において密接一体化され、横剛性の強化が図られている。
【0021】
図1に示すごとく、前脚2の前方定着部位近傍のフランジ部17は、前面・後面ともに後方定着部位1Rを中心とした円弧状とされる。
【0022】
図9(c)のように、前脚の前方定着部位近傍のフランジ部17は、厚みが定着部に向けて漸減され、層間剥離破壊のきっかけが与えられやすくなっている。
【0023】
図9(b)のように、厚みが定着部位1Fに向けて漸減されているフランジ部17には平面視矢尻状のテーパ28が施され、先端になるにつれて応力の増大化が図られる。
【0024】
上記いずれでも規定した脚構造成形法によっても複合材製乗物用座席を製作することができる。
【発明の効果】
【0025】
脚構造体が複合材製前脚と複合材製後脚からなるようにしていることから座席の軽量化が図られ、したがって機体の軽量化が果たされ、これがペイロードの増大、航続距離の拡大、離着陸距離の短縮におおいに寄与する。前脚は自席と隣席とを座面前縁直下で支持する前方横材から下方へ延びており、後脚は前方横材から後方定着部位に向かう下り斜脚部と、この下り斜脚部の略中間部位から後方横材に向けて延びる上り斜脚部とで形成されるので、脚構造体の各部位に作用するせん断やモーメントが例えば逆N型よりは軽減され、トラス構造による軽量かつ剛強な脚構造体を実現する。
【0026】
前脚および後脚はいずれもせん断荷重を負担するウェブ部をYZ面内に配したI形構造であり、引張・圧縮軸力を負担し剛性を増強させるフランジ部における反ウェブ部側の全幅もしくは一部に、およびウェブ部の一部に補強筋として機能する連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体が配され、フランジ部における残余域およびウェブ部における残余域は注入成形によるコンパウンド樹脂体としておくから、ラミネート構成プレス成形樹脂体とコンパウンド樹脂体の融着による剛強なウェブ部とフランジ部が形成された脚構造体となる。これにより脚構造体の複合材製化が一層実現される。
【0027】
前脚と後脚とはそれぞれ独立した部品として成形されるから、各部品の形に則した金型仕様となり、前脚後脚の一体型補強筋とした成形品をつくる金型に比べればサイズが小さくなり、積層成形のための金型ならびにウェブ部を事後形成させる注入金型がそれぞれ小型化される。これにより金型製作費の低廉化が促される。また、オートクレーブ処理するにおいても、炉体の大型化も避けられ、設備費の増大化も抑えられる。さらに、成形に要する時間も大幅に短縮される。
【0028】
前脚および後脚の造形は、予め成形された連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体を成形型に配置したあとの残余キャビティへのコンパウンド溶融樹脂の加圧注入によるものであって、その際、コンパウンド樹脂体とラミネート構成プレス成形樹脂体とは樹脂融着による一体化がなされるようにしたから、積層成形のみによる製作や注入のみによる製作を採用した場合に比べれば、複合材における強化材の適材適所な配置がなされ、過大強度や過剰品質をきたす箇所が可及的に少なくなる。
【0029】
下り斜脚部は後方定着部位まで直接延び、上り斜脚部が下り斜脚部の略中間部位において下り斜脚部と一体成形されていれば、後脚は一部品化されることになり、脚構造体は二つの部品から構成される結果、注入金型は二つで済む。しかも、前脚は金型キャビティが直線的であり、後脚は金型キャビティが逆T字状にとどまるため、注入成形型は小さいものに止めておくことができる。
【0030】
複合材製前脚と複合材製後脚は、前方横材または後方横材を介して座席脚として組み立てられるようにしているので、一体的構造脚を簡単かつ容易に形成することができる。接着やボルト締結作業によればよく、金属部材を対象とする場合のような後処理を伴うこと
も極めて少なくなる。
【0031】
下り斜脚部が前方横材に連結される前方斜脚要素とその前方斜脚要素にピン連結されて後方定着部位へ向かう後方斜脚要素とで形成され、上り斜脚部は後方斜脚要素の前端部位において一体となるよう構成した場合には、後脚が二部品となる反面、成形金型のより一層の小型化が図られる。
【0032】
連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体を、前方横材または後方横材を外囲して曲がるヘアピン状成形品とし、一列配置としておけば、I形構造におけるフランジ部の反ウェブ部側の全幅に補強筋を配設できる。二列並行配置にしておけば、フランジ部の反ウェブ部側の左縁および右縁寄りにそれぞれ補強筋を配設することができる。負荷を考慮した適宜な補強形態を施すことができるようになる。
【0033】
複合材製後脚を形成するヘアピン状成形品のフランジ部における先端近傍を斜辺一つの矢尻状に成形しておくと、先端に向けてフランジ部断面積が漸次減少し、隣接する他のヘアピン状成形品のフランジ部とで生じる剛性の急変を防止して、応力集中の発生を抑制することができる。
【0034】
複合材製前脚は二列並行配置であり、前方定着部位およびそれに近接する部位において密接一体化され松葉状になっていれば、横剛性の強化が図られ都合がよい。また、衝撃吸収具を脚端に取りつけるにしても、近接状態にある補強筋を一体的に除去対象とすることができ、衝撃吸収具の複雑化を避けることができる。
【0035】
前脚の前方定着部位近傍のフランジ部は、前面・後面ともに後方定着部位を中心とした円弧状とされているなら、前脚を縮めることにより衝撃吸収する際に、前脚の下端が常に同一姿勢を保ち、衝撃吸収具の破壊作用部への臨み角が一定する。すなわち、衝撃吸収具の機能の安定化に寄与する。
【0036】
前脚の前方定着部位近傍のフランジ部厚みを定着部に向けて漸減させおけば、衝撃吸収開始時に相対的に大きな応力が作用し、層間剥離破壊のきっかけを与えやすくなる。
【0037】
厚みが定着部位に向けて漸減されているフランジ部に平面視矢尻状のテーパが施されているなら、先端になるにつれて断面積が小さくなり、応力のなだらかな増大化を図っておくことができる。大きな衝撃を受けると前脚に損傷を与えやすく、しかもフランジ先端部から開始させることができるようになる。
【0038】
上記いずれの構成によるも、脚構造成形法により得られる複合材製乗物用座席は、所要の強度を有しながらも軽量化が図られ、製作容易かつ迅速、部品点数の最小化、製作治具の簡素化や低廉化、大量生産の容易化といった多くの利点をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明に係る複合材製乗物用座席の脚構造成形法で採用された脚構造体の左側面外観図。
図2】航空機用座席の一例であって、(a)は左側面図、(b)は連座席とされている場合の斜視図。
図3】脚構造体と座席底部フレームであって、(a)は正常装着状態図、(b)は大きな減速力が作用して前脚の下端部で衝撃を吸収した格好となっている状態図。
図4】前脚・後脚用のI形構造であって、(a)はラミネート構成プレス成形品のフランジ部への一部幅配置を示す斜視図、(b)はフランジ部への全幅配置を示す斜視図。
図5】ラミネート構成プレス成形品の部位ごとの組み合わせの前段階における配置図。
図6】ラミネート構成プレス成形品の部位ごとの組み合わせ配置であって、(a)は前脚用の斜視図、(b)は後脚用の斜視図。
図7】前脚の注入成形品および後脚の注入成形品の左側面外観図。
図8】(a)は注入成形品に内蔵されたラミネート構成プレス成形品の組み合わせ斜視図、(b)は前脚成形品の端部に破損容易処理を施したラミネート構成プレス成形品の斜視図。
図9】前脚におけるラミネート構成プレス成形品の組み合わせであって、(a)は基本形の正面図、(b)は衝撃吸収容易化処理をした改良品の正面図、(c)は(b)の側面図。
図10】衝撃吸収の進行とフランジ部のはぎ取り曲折変遷図。
図11】異なる後脚を備えた脚構造体の左側面外観図。
図12】異なる後脚の場合のラミネート構成プレス成形品の部位ごとの組み合わせの前段階における配置で、(a)は前脚用の斜視図、(b)は後脚用の斜視図。
図13】注入成形品に内蔵された異なるラミネート構成プレス成形品の組み合わせ斜視図。
図14】衝撃吸収具の左側面外観図。
図15】衝撃吸収具に前脚下端部を臨ませるときの分解斜視図。
図16】衝撃吸収具とフランジ部曲折機構であって、(a)はウェブ部の破損機構を示す断面図、(b)はフランジ部の曲折機構を示す断面図。
図17】(a)はN形脚の場合の負荷作用図、(b)は逆N形脚の場合の負荷作用図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明に係る複合材製乗物用座席の脚構造体成形法およびその方法によって製作された複合材製乗物用座席を、図面に基づいて詳細に説明する。図2(a)は、略垂直状態にあって床における前方定着部位1F(前方接床部とも称し、図示しないアンカー等によって固定される箇所)に至る前脚2が備えられる一方、下方傾き状態で後方定着部位1R(後方接床部において図示しないアンカー等によって固定される箇所)に向かう後脚3が備えられる乗物用座席4の脚構造体5の一例である。
【0041】
この脚構造体5は、図2(b)に示すように、自席4Mと隣席4Nとをそれぞれの座面4S(同図(a)を参照)の前縁直下で支持する前方横材6(前ビームともいう。)から下方へ延びる複合材製の前脚2、および前方横材6から後方に向けて下り傾斜し後方定着部位1Rに至る複合材製下り斜脚部3Aと、この下り斜脚部の略中間部位から後方に向けて上り傾斜し自席4Mと隣席4Nとを座面4Sの後縁直下で支持する後方横材7(後ビームともいう。)に向けて延びる上り斜脚部3Bとで形成される複合材製の後脚3を有している(同図(a)も参照)。前脚および後脚の複合材はいずれも炭素繊維強化熱可塑性樹脂とされるが、例えばPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)をマトリックスとする複合材である。これは耐衝撃性、疲労特性、長期耐熱性が高く、耐薬品性、自己消火性も持ちあわせており、その融点は280℃程度であって、本発明でいう後述するハイブリッド成形にとって好適なものである。
【0042】
後脚3は図2(a)に示したように斜脚形態であるから、座面4Sの前後寸法に拘束されることが少なく、定着部位1F,1Rの前後間隔を長くとりやすくなっている。なお、前ビーム6および後ビーム7はパイプ状であり、軽合金製でも差し支えないが、複合材を円筒構造にしておけば軽量化はますます助長される。ちなみに、8はバックレスト、9はアームレスト、10はバゲッジバーである。
【0043】
この例においては、下り斜脚部3Aは後方定着部位1Rまで直接延び、上り斜脚部3Bは下り斜脚部3Aの略中間部位において下り斜脚部3Aと一体成形されている。したがって、後脚3は一部品化されることになり、脚構造体5は前脚と後脚の二つの部品から構成
され、後述する注入用金型は二種類で済ませることになる。しかも、前脚用金型のキャビティ(図示せず)は略直線的であり、後脚用金型のキャビティ(図示せず)は逆T字状にとどまるため注入時の流動性はよく、また、注入成形型は大きく嵩張らずハンドリング性のよいものとなる。なお、図3(a)に示すように、定着部位1F,1Rは床に敷設されたシートトラック11やスプレッダ12の上に設けられたり、直接床面に配置されたりする所定の座席脚固定位置である。ここで述べる脚構造体5は、上記した前方横材6と後方横材7を架橋する前後方向ビームと一体化しないから、結局は成形型の大型化が回避される。この点については、次に少し触れる。
【0044】
複合材製前脚2と複合材製後脚3は、上でも述べたが、図3(a)に示したように、前方横材6または後方横材7を介して一体的構造脚として組み立てられる。これは図1にも示すとおりであり、脚構造体5を簡単かつ容易に組み立てることができる。各横材とは接着により、定着部位ではシートトラックフィッティング13のボルト締結作業によればよく、金属部材による脚を対象とした場合の溶接構造などで必要となる後処理工程は極めて少なくなる利点がある。ちなみに、前方横材6と後方横材7を架橋する前後方向ビーム(次に述へる符号14に相当する部材)と一体になった複合材成形品とはしていなく、成形型の大寸法化を回避する配慮が払われている。すなわち、前方横材6と後方横材7を架橋しての前後方向の一体化は、座席底部フレーム14等の別材によっている(図3(a)参照)。
【0045】
前脚2および後脚3のそれぞれは、座席4の左右をX方向と、前後をY方向と、上下をZ方向とした場合(図2(b)を参照)、せん断荷重を負担するウェブ部16をYZ面内に配した図4に示すようなI形構造とされる。引張・圧縮軸力を負担し剛性を増強させるフランジ部17(座席の左右方向に伸びる垂直面内に位置する)における反ウェブ部側の全幅もしくは一部に、連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体18が配される。なお、成形樹脂体の断面は濃く表示され、図4(a)は左右に並列に存在させた部分的なものであり、同図(b)ではフランジ部17の全幅に及んでいる。フランジ部17における残余域およびウェブ部16(いずれも断面は薄く表示)はコンパウンド樹脂の注入・固化により造形される。すなわち、図5に示すように、連続繊維の積層により補強されたプレス成形のプリフォーム品2P1 ,2P2 ,3P1 ,3P2 ,3P3 を予め製作しておく。前脚2の場合にはプリフォーム品2P1 ,2P2図6(a)のように組み合わせて図示しない金型内に配置し、後脚3の場合は、プリフォーム品3P1 ,3P2 ,3P3図6(b)のように組み合わせて図示しない金型内に配置する。プリフォーム品の裏部位等を埋めつつウェブ部を形成するようにコンパウンド樹脂を注入し、その固化成形により図7に示したごとくラミネート構成プレス成形樹脂体18とコンパウンド樹脂体19との一体化を図り、リブ20を伴って前脚2や後脚3の造形がなされる。
【0046】
よって、各脚は、補強部材としての連続繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた強化プラスチック成形材料の積層成形法と、コンパウド樹脂の注入成形法とからなるハイブリッド成形法を経た造形物となる。このハイブリッド成形法によれば大型のオートグレーブや長時間のキュアリングも必要でなくなるから、量産の迅速化も果たされる。もう少し詳しく述べれば、フランジ部17の強度の主体をなすのはすでに触れた例えば炭素繊維強化PPS樹脂とし、その繊維は一方向強化材(UD材 uni direction)や織物材( cloth)とすることによりフランジ部の耐力が高く発揮されるものになる。なお、コンパウンド溶融樹脂の加圧注入時には、コンパウンド樹脂体19とラミネート構成プレス成形樹脂体18とはそれぞれの樹脂の相互融着により両者の絡みが高度に進み、境界のない一体化がなされる。
【0047】
ラミネート構成プレス成形を左右に分離させた部分的なものは、図5に示すように前脚2と、後脚3の下り斜脚部3Aの後方定着部位側および上り斜脚部3Bであり、全幅は後
脚3の下り斜脚部3Aの前方横材側とされている。すなわち、プレス成形のプリフォーム品3P1 は全幅構造用であり、プレス成形のプリフォーム品2P1 ,2P2 ,3P2 ,3P3 は部分幅構造用とされる。ちなみに、プリフォーム品2P1 ,2P2 は後述する図9からも分かるように左右対称的な曲がりを呈しており、プリフォーム品3P2 の2つは先端のテーパ部(後述する矢尻状部23)を除き同一形状品、プリフォーム品3P3 の2つは同一形状品である。
【0048】
ラミネート構成プレス成形樹脂体18によるプレス成形のプリフォーム品は、前方横材6または後方横材7さらには後方定着金具締結用ピン穴箇所22を外囲して曲がるヘアピン状の成形品となっている。なお、一列配置であっても、フランジ部17の反ウェブ部側の左縁および右縁寄りに分散させた二列配置であっても、荷重負荷を考慮して積層数を変えるなどしてメリハリの効いた補強筋とすることができる。これらによる脚構造体5の前脚2、後脚3を造形する注入成形の直前ではすでに示した図6のような配置形態であり、注入成形後の前脚・後脚は図7のような外観となる。なお、図8(a)に示すように、前脚2にあっては上半部がプリフォーム品2P1 ,2P2 の二列分離配置とされ、下半部は二列合体配置とされている。この図は脚構造体として組上げたときの補強筋全景を示している。
【0049】
複合材製後脚3を形成するヘアピン状成形品のフランジ部17における各プレス成形のプリフォーム品先端近傍は、図5に示すように斜辺が一つだけの矢尻状に成形される。この矢尻部23は、先端に向けてフランジ部17の断面積を漸次減少させ、隣接する他のヘアピン状成形品との間で生じる剛性の急変を抑止して、応力集中の発生を回避させることを企図している。
【0050】
図6に示すように、複合材製前脚2は二列並行配置であり、前方定着部位1Fおよびそれに近接する部位において密接一体化されており、とりわけ横剛性の強化が図られる。すなわち、図8(a)および図9(a)に示すように、V字形もしくは松葉状にすることにより左右方向の剛性が向上したものとなる。また、後述するが、衝撃吸収具25(図1を参照)を脚端に取りつけるにしても、近接状態にあるラミネート構成プレス成形樹脂体18で形成される補強筋を一体的に除去対象とすることができ、衝撃吸収具25の構造の複雑化を軽減することもできるようにもなっている。
【0051】
図1に戻って、前脚2の前方定着部位1Fの近傍におけるフランジ部17aは、前面・後面ともに後方定着部位1Rを中心とした半径r1 ,r2 の円弧状とされる。急減速時には座席が前倒れしようとすると、前脚2の長さを縮めるようにして衝撃が吸収される。そ際に、この円弧部位26によって前脚2の下端が衝撃吸収具25の破壊作用部に対して常時直角などの一定姿勢に保たれ、衝撃吸収作用の確実性を上げることができるようにしている。コンパウド樹脂は硬化すると比較的脆く、ウェブ部16は衝撃力によって瞬時に飛散するが、衝撃の吸収は、CFRPフランジの繊維破壊および層間剥離で始まる曲がり変形で達成される。このように衝撃吸収作用も勘案するなら、脚構造体の複合材化は極めて利便性の高いことが分かる。
【0052】
ところで、図8(b)に示すように、前脚2のフランジ部17の下端部の厚みは定着部1Fに向けて漸減され、繊維破壊および層間剥離のきっかけを与えやすくしておくとよい。この厚み漸減部27によって、衝撃吸収開始時には大きな応力を作用させることができて都合がよい。さらには、厚みが定着部位1Fに向けて漸減されているフランジ部17には平面視矢尻状のテーパ28も施され、先端になるにつれて作用する応力のさらなる増大化をきたしやすくすることができる。先端になるにつれて断面積が小さくなるから応力のなだらかな増大化は前脚2によるフェールセーフ効果やその挙動を助長し、しかもフランジ先端部から始めさせるためにも極めて都合がよい。
【0053】
このように先端部を平面方向と板厚さ方向の両方で尖らせることで、フランジ先端部からの破壊をより一層スムーズにする。図3(a)は平常時の座席の状態、同図(b)は前脚2が縮まった様子を示す。見た目には座面の傾斜が大きくないようでも、その衝撃吸収作用は大きい。図10(a)ないし(c)から分かるように、フランジ部17が前脚から剥がれて前側フランジ部17Fと後側フランジ部17Rとが、後で触れるがフランジ曲折帯状物17bとして突き出されるかのように挙動する。その現出は座席のY方向であるから自己の足や脚に向かうことも可及的に少なくしておくことができる。
【0054】
ところで、図11に示すように、下り斜脚部3Aを前方横材6に連結される前方斜脚要素3Fとこの前方斜脚要素にピン29で連結されて後方定着部位1Rへ向かう後方斜脚要素3Rとで形成し、上り斜脚部3Bは後方斜脚要素3Rの前端部位において一体という格好で後脚3を形成することもできる。この場合には、後脚3は前方斜脚要素3Fの直線状リンクと、後方斜脚要素3Rと上り斜脚部3Bからなる「く」字状リンク3Mの二部品化されることになるが、その反面、成形金型のより一層のサイズダウンが図られる。ピン連結部においては言うまでもなくモーメントの発生はなく、前方斜脚要素3Fに要求されるビーム剛性は低いもので済ませておくことができる。
【0055】
図12は、図11の構成とした場合の連続繊維積層によるプレス成形プリフォーム品3Q1 ,3Q2 ,3Q3 ,3Q4 ,3Q5 の配置状態、ならびに図6(a)の場合と同様の前脚用プリフォーム品2P1 ,2P2 の一体品を示す。注入成形品に内蔵されたラミネート構成プレス成形品を斜視的に示すと、図8(a)と同様な図13のようになる。以上述べたいずれの構成によるも、本発明に係る脚構造成形法によって製作された複合材製乗物用座席は、所要の強度を有しながらも軽量化が図られ、製作容易かつ迅速、部品点数の最小化、製作治具の簡素化や低廉化、大量生産の容易化といったごとくの多くの利点がもたらされる。
【0056】
上記した各形態の説明から分かるように、本発明の前脚装着衝撃吸収装置が適用される複合材製乗物用座席においては、その脚構造体が複合材製(炭素繊維強化熱可塑性複合材)前脚と複合材製後脚からなるようにしていることから座席の軽量化が図られ、したがって機体の軽量化はペイロードの増大、航続距離の拡大、離着陸距離の短縮を可能にする。前脚は自席と隣席とを座面前縁直下で支持する前方横材から下方へ延びており、後脚は前方横材から後方定着部位に向かう下り斜脚部と、この下り斜脚部の略中間部位から後方横材に向けて延びる上り斜脚部とで形成されるので、脚構造体の各部位に作用するせん断やモーメントが例えば逆N型よりは軽減される。ちなみに、フランジ部には連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体が含まれているから引張・圧縮などの軸力に対抗する力は十分に確保される。なお、後脚は斜め形態であるから、座面の前後寸法に拘束されることが少なく、定着部位間の間隔を長くとりやすくもなる。
【0057】
前脚および後脚はいずれもせん断荷重を負担するウェブ部をYZ面内に配したI形構造であり、引張・圧縮軸力を負担し剛性を増強させるフランジ部における反ウェブ部側の全幅もしくは一部に補強筋として機能する連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体が配され、フランジ部における残余域およびウェブ部は注入成形のコンパウンド樹脂体としておくから、ラミネート構成プレス成形樹脂体とコンパウンド樹脂体との融着による剛強なウェブ部とフランジ部が形成された脚構造体となる。これにより脚構造体の複合材製化が一層進み、強度バランスがよく力学的に無駄の少ない構造が達成され、成形用材料の消費量の抑制も図られる。
【0058】
前脚と後脚とはそれぞれ独立した部品として成形されるから、各部品の形に則した金型仕様となり、前脚後脚一体の補強筋組とした成形品をつくる金型に比べればサイズが小さ
くなり、補強筋成形のための金型は不可欠となるが、ウェブ部を形成させる注入金型は小型化され、金型製作費の低廉化が促される。また、オートクレーブ処理するにおいても、オートクレーブの大型化が避けられ、設備費の増大化も抑えられる。成形に要する時間も大幅に短縮される(例えば15分といったように)。金属製脚構造体に比べれば部品点数も大幅に少なく、組み立てを含めて製作工数を著しく低減させることができる。
【0059】
コンパウンド樹脂による前脚および後脚の造形は、予め成形された連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体を金型に配置したあとの残余キャビティへのコンパウンド溶融樹脂の加圧注入によるものであって、その際、コンパウンド樹脂体と連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体とは樹脂融着による一体化がなされるようにしたから、積層成形のみによる製作や注入のみによる製作を採用した場合に比べ、複合材における強化材の適正配置がなされ、過大強度や過剰品質をきたす箇所が可及的に少なくなる。
【0060】
前脚が樹脂成形品化されているから、大きな衝撃が作用した場合フェールセーフ思想に則った破損や破壊現象を利用する衝撃吸収方法やそのための装置の導入が図られやすくなる。すなわち、複合材品をI形構造としておくから、剛強でない箇所では破壊させ、剛強な箇所では変形させるといったように異なる二つの衝撃吸収形態を発現させることによって安全性のレベルを上げやすくしておくことができる。なお、ウェブ部の一部にラミネート構成プレス成形樹脂板を混成させておくことも可能である。その一部とは、ラミネート構成プレス成形樹脂板を含んでいるウェブ部があれば含んでいないウェブ部もあるとの意味の場合と、ウェブ部のある断面においてラミネート構成プレス成形樹脂板が芯材として配置され、それがコンパウンド樹脂で覆われているという意味の場合の両方もしくは一方の状態にあることを指す。芯材となるラミネート構成プレス成形樹脂板は、図示しないが例えば短冊状としておけばよい。ウェブ部を破壊して衝撃吸収させる部位ではコンパウンド樹脂のみとしておいてもよいし、芯材となるラミネート構成プレス成形樹脂板を介装するにあたり積層数を少なくして、ウェブ部とフランジ部とに意図的な強弱を生じさせておくなどすることができる。
【0061】
ちなみに、上で触れた衝撃吸収具25の一例を簡単に説明する。図14は金属製であって、座席の左側面における該当部の拡大写真である。これは、ウェブ部16をYZ面内に配してI形断面した複合材製前脚2の下端部位を保持する図15に示した左半体31および右半体32からなる。左半体および右半体のいずれにもZX面内に位置する2つのフランジ部17のそれぞれの下端部を嵌着させる保持ガイド33A,33Bが設けられるとともに、ウェブ部16の下端を乗載するウェブ部破砕面34が形成される。左半体および右半体にはウェブ部16の左面または右面に接触させるべくフランジ部間に嵌着される保持舌片35,36がウェブ部16に対応して設けられるとともに、ウェブ部破砕面34からのウェブ屑16aをX方向へ放出させる排屑口37が形成される。保持ガイド33A,33Bの下部にはウェブ部16との一体性を失った後のフランジ部17を折曲させる変向面38ならびに変向されたフランジ曲折帯状物17bを二手に別れてY方向へ排出させる導出口39が設けられている。これらの構成を異なる断面で表したものが図16(a)および(b)であり、それぞれの機能部位が把握される。
【0062】
その衝撃吸収挙動の詳しい説明は省くが、先でも少し触れた図10(a)ないし(c)のごとく変形させることができる。この挙動においてウェブ部の破砕もしくは粉砕が先行する。それはコンパウド樹脂からなるウェブ部はいささか脆く、所定以上の衝撃を受けると壊れやすいからである。フランジ部には連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体が存在するゆえ強靱であり、フランジ部の一部をなすコンパウド樹脂が崩れても繊維強化樹脂の積層体は酷くは破壊されない。したがって、図10に示したごとく積層物のまま何らかの変形をきたそうする。ただ積層物であるゆえ、層間剥離が生じて変形は継続的に進行し、搭乗者が受ける衝撃はある程度和らげられることになる。
【0063】
以上述べた本発明に係る脚構造体やその脚構造成形法は航空機用座席を例にして説明した。昨今は如何なる乗物においても軽量化が要求されるところであり、本発明はその構成を生かして種々の乗物などの座席に適用し、また応用することができることは言うを待たない。
【符号の説明】
【0064】
1F…前方定着部位、1R…後方定着部位、2…前脚、3…後脚、3A…下り斜脚部、3B…上り斜脚部、3F…前方斜脚要素、3R…後方斜脚要素、4…座席、4M…自席、4N…隣席、5…脚構造体、6…前方横材(前ビーム)、7…後方横材(後ビーム)、16…ウェブ部、17…フランジ部、18…連続炭素繊維補強のラミネート構成プレス成形樹脂体、19…コンパウンド樹脂体、23…矢尻部、27…漸減部、28…テーパ、29…ピン、r1 ,r2 …前方定着部位の近傍におけるフランジ部の円弧の半径。
図1
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