(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ギヤ油量調整演算部は、ギヤボックス内に設けられたドレインタンクから前記ギヤボックス内のギヤに潤滑油を供給する油量調整バルブの制御するための指示値を演算することを特徴とする、請求項1に記載の車両の潤滑油量制御装置。
潤滑油の油温に基づいて、前記ドレインタンク内の潤滑油が全て前記ギヤボックス内のギヤに供給されている場合のギヤの最大駆動抵抗値を演算する最大駆動抵抗値演算部を備え、
前記潤滑油量推定部は、前記最大駆動抵抗値に対する前記損失負荷の比率に基づいて、前記潤滑油供給量を推定することを特徴とする、請求項2に記載の車両の潤滑油量制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両のギヤボックス、変速機等に含まれるギヤの信頼性能と潤滑性能を上げるために,動力系のギヤボックス内の潤滑油を増量することが考えられる。しかし、潤滑油を増量すると、ギヤの回転に対する抵抗になり、電力消費量(電費)および燃料消費量(燃費)が悪化する。また,低速時には潤滑のため多い油量が望まれるが、高速回転時に油が拡散してしまい、冷却性能が低下する。更に、潤滑および冷却のためにオイル量を増量すると,高速回転時にオイルの撹拌によりギヤボックス内の圧力が上昇し、外部へ圧力を開放する圧力開放弁からオイルが噴き出してしまう問題がある。よって、車速や油温によってオイルの飛散特性が変化するように、油量の調整機構が必要となる。
【0005】
上記特許文献1に記載された技術では、自動変速機への入力トルクと自動変速機の入力回転数とに基づいて自動変速機への入力エネルギを算出し、入力エネルギとエネルギ伝達効率と潤滑油の温度に基づいて潤滑油量を算出している。しかしながら、ギヤに供給する潤滑油量を正確に求めるためには、実際にギヤに供給されている油量を正確に推定することが必要不可欠である。
【0006】
実際にギヤに供給されている油量を推定するため、例えばオイルレベルゲージ等の測定値に基づいて推定することが想定される。しかしながら、実際にギヤに供給されている油量は、車両状態に応じて変化し、オイルレベルゲージ等の測定値に基づいて正確に推定することは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、車両状態に応じてギヤへの潤滑油の供給を最適に制御することが可能な、新規かつ改良された車両の潤滑油量制御装置及び車両の潤滑油量制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、ドライバーの要求駆動力に基づいて車両の理論駆動力を演算する理論駆動力演算部と、前後加速度に基づいて車両の実駆動力を演算する実駆動力演算部と、前記
実駆動力と前記理論駆動力との差分から潤滑油のギヤ潤滑による損失負荷を演算する潤滑油損失負荷演算部と、前記損失負荷に基づいてギヤに供給されている潤滑油供給量を推定する潤滑油量推定部と、ギヤの回転数とトルクから求まるギヤ負荷に基づいて、ギヤを潤滑するために必要な必要潤滑油量を演算するギヤ油量演算部と、前記潤滑油供給量と前記必要潤滑油量とに基づいて、ギヤに供給する油量を調整するための演算を行うギヤ油量調整演算部と、を備える車両の潤滑油量制御装置が提供される。
【0009】
前記ギヤ油量調整演算部は、ギヤボックス内に設けられたドレインタンクから前記ギヤボックス内のギヤに潤滑油を供給する油量調整バルブの制御するための指示値を演算するものであっても良い。
【0010】
また、潤滑油の油温に基づいて、前記ドレインタンク内の潤滑油が全て前記ギヤボックス内のギヤに供給されている場合のギヤの最大駆動抵抗値を演算する最大駆動抵抗値演算部を備え、前記潤滑油量推定部は、前記最大駆動抵抗値に対する前記損失負荷の比率に基づいて、前記潤滑油供給量を推定するものであっても良い。
【0011】
また、潤滑油の油温に基づいて潤滑油の動粘度を演算する動粘度演算部を備え、前記最大駆動抵抗値演算部は、ギヤの回転数と前記動粘度に基づいて前記最大駆動抵抗値を演算するものであっても良い。
【0012】
また、ギヤの回転数とトルクからベアリング負荷を演算するベアリング負荷演算部と、前記ギヤ負荷及び前記ベアリング負荷に基づいて、潤滑油の温度を推定する負荷温度予測演算部と、前記ギヤボックス内の潤滑油の温度を検出する温度センサの検出値を前記推定した潤滑油の温度で補正する潤滑油温度補正部を備え、前記動粘度演算部は、前記潤滑油温度補正部により補正された値に基づいて、前記動粘度を演算するものであっても良い。
【0013】
また、アクセル開度に基づいて前記要求駆動力を演算する要求駆動力演算部と、前後加速度に基づいて勾配抵抗力を演算する勾配抵抗力演算部と、車両速度に基づいて走行抵抗力を演算する走行抵抗力演算部と、を備え、前記理論駆動力演算部は、前記要求駆動力から前記勾配抵抗力及び前記走行抵抗力を減算して前記理論駆動力を演算するものであっても良い。
【0014】
また、前記実駆動力演算部は、前記前後加速度と車両の質量に基づいて前記実駆動力を演算するものであっても良い。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、ドライバーの要求駆動力に基づいて車両の理論駆動力を演算するステップと、前後加速度に基づいて車両の実駆動力を演算するステップと、前記
実駆動力と前記理論駆動力との差分から潤滑油のギヤ潤滑による損失負荷を演算するステップと、前記損失負荷に基づいてギヤに供給されている潤滑油供給量を推定するステップと、ギヤの回転数とトルクから求まるギヤ負荷に基づいて、ギヤを潤滑するために必要な必要潤滑油量を演算するステップと、前記潤滑油供給量と前記必要潤滑油量とに基づいて、ギヤに供給する油量を調整するための演算を行うステップと、を備える車両の潤滑油量制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、車両状態に応じてギヤへの潤滑油の供給を最適に制御することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両1000の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る車両1000を示す模式図である。本実施形態に係る車両1000は、一例として、前後独立駆動のシステムを有するHEV車両(ハイブリッド自動車)、EV車両(電気自動車)等の車両である。
図1に示すように、車両1000は、前輪100,102、後輪104,106、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動する駆動力発生装置(モータ)108,110、モータ108,110の駆動力を前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれに伝達するギヤボックス116,118、モータ108,110のそれぞれを制御するインバータ123,124、ギヤボックス116の駆動を前輪100,102に伝達するドライブシャフト112、ギヤボックス118の駆動を後輪104,106に伝達するドライブシャフト114、ギヤボックス116,118の温度を検出する温度センサ154,156、パーキングブレーキシステム120,122、モータ回転数センサ125,126、後輪104,106のそれぞれの車輪速(車両速度V)を検出する車輪速センサ127,128、前輪100,102を操舵するステアリングホイール130、前後加速度センサ132、横加速度センサ134、バッテリー136、舵角センサ138、パワーステアリング機構140、ヨーレートセンサ142、インヒビターポジションセンサ(IHN)144、アクセル開度センサ146、制御装置(コントローラ)200を有して構成されている。
【0020】
各モータ108,110は、制御装置200の指令に基づき各モータ108,110に対応するインバータ123,124が制御されることで、その駆動が制御される。各モータ108,110の駆動力は、各ギヤボックス116,118を介して前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれに伝達される。
【0021】
パワーステアリング機構140は、ドライバーによるステアリングホイール130の操作に応じて、トルク制御又は角度制御により前輪100,102の舵角を制御する。
【0022】
図2は、モータ108、ギヤボックス116、ドライブシャフト112及びその周辺の構成を示す模式図である。なお、モータ110、ギヤボックス118、ドライブシャフト114及びその周辺の構成も
図2と同様である。
図2において、モータ110の回転はギヤ150,152を介してディファレンシャルギヤ150に伝達され、左右のドライブシャフト112へ伝達される。ギヤボックス116の内部には、これらのギヤを潤滑するための潤滑油が貯留されている。
【0023】
本実施形態では、車両状態に応じて、ギヤの冷却機能、潤滑油による潤滑機能を満足させる。このため、ギヤボックス116内に予め潤滑油のドレインタンク160を設け、ドレインタンク160の下部には油量調整バルブ162を設けている。油量調整バルブ162は、例えば電磁式バルブから構成される。そして、走行条件に応じて油量調整バルブ162を開閉することで、ドレインタンク160内の潤滑油をギヤの潤滑のために供給し、ギヤボックス116内の潤滑油の適正量を確保する。また、ギヤボックス116内のギヤの動作時の掻き上げにより、ドレインタンク160に潤滑油が入る構造とし、ドレインタンク160内に潤滑油を補充する構成としている。
【0024】
ここで、ギヤボックス116,118内のギヤの信頼性能と潤滑性能を高めるために、動力系のギヤボックス116,118内の潤滑油を増量することが考えられる。しかし、潤滑油を増量すると、潤滑油がギヤの回転に対する撹拌抵抗となり、特に高速走行時に電費(電力消費)および燃費が悪化する。また、低速時には確実な潤滑のため油量を多くすることが望まれるが、油量を多くすると高速回転時に油が拡散してしまい、冷却性能が低下する。一方で、油量を少量化すると潤滑性能を満足できない。また、モータからの駆動トルクによって、ベアリングやギヤ歯の潤滑条件が異なるため、最適な油量を調整する必要がある。このため、本実施形態では、ドレインタンク160と油量調整バルブ162から構成される油量の調整機構を設け、走行状態に応じて油量を調整するようにしている。
【0025】
図3は、車両状態とギヤボックス116の内部の状態を示す模式図であって、高速走行時と中低速走行時を比較して示している。高速走行時は、潤滑油量を減少させて撹拌抵抗を減らすため、油量調整バルブ162を閉じる。これにより、ギヤの回転で掻き上げられた潤滑油がドレインタンク160に溜まる。モータ108,110を動力源とするEV車両などの車両は、高速走行時にはモータ108,110の特性から定出力状態となり、大トルクを出力しないため、ギヤ歯およびベアリング等の負荷は小さくなる。従って、潤滑油量を減少させても十分にギヤの潤滑を行うことができる。特に高速走行時は、ギヤが高速回転することにより潤滑油が拡散してしまうため、油量制御が必要となる。
【0026】
一方、中低速走行時は、潤滑油量を増加するため、油量調整バルブ162を開く。モータ108,110を動力源とするEV車両などの車両は、中低速走行時にはモータ108,110の特性から大トルクを出力することができるため、ギヤ歯およびベアリング等の負荷が大きくなり、十分な潤滑が必要となる。中低速走行時に油量調整バルブ162を開くことで、ドレインタンク160内の潤滑油が減少し、ギヤボックス116でギヤの潤滑に使用される潤滑油量が増加するため、十分な潤滑を行うことが可能となる。
【0027】
以上により、高速走行時には、油量調整バルブ162を閉じることで、ドレインタンク160内に潤滑油が溜まる。このため、ギヤボックス116内で潤滑に使用される潤滑油量が減少する。これにより、ギヤにかかる潤滑油が減少し、撹拌抵抗が減少する。また、ギヤによって掻き上げる潤滑油が減るため、ブリーザからのオイル吹きを抑制することができる。なお、掻き上げる油量は減るが、潤滑に必要な分は確保される。また、低速走行時には、油量調整バルブ162が開き、ドレインタンク160内の油が抜け、ギヤボックス116の底部に供給される。このため、ギヤボックス116内のギヤの潤滑に使用する潤滑油が増える。低速走行時には、ギヤの回転数が低いので掻き上げ油量が少なくなるが、潤滑に使用する潤滑油量を増量することで、掻き上げ油量の低下による潤滑不足を抑止できる。
【0028】
車両状態に応じてギヤに供給する潤滑油量を調整する場合、ギヤに実際に供給されている潤滑油量を精度良く求めることが不可欠である。しかしながら、例えばオイルゲージ等によりギヤボックス内に貯留されている潤滑油の油面高さを測る方法では、実際にギヤに供給されている油量を求めることは困難である。特に、本実施形態のようにギヤボックス116,118の容積が小さく、ギヤボックス116,118内の潤滑油の多くが底面に溜まることなく継続的に各ギヤに供給されている機構では、油面高さに基づいてギヤに供給されている潤滑油量を推定することも困難である。
【0029】
このため、本実施形態では、車両1000の理論駆動力を要求駆動力と勾配抵抗及び走行抵抗から車両モデル値より演算し、実駆動力と比較することで、潤滑油による抵抗値を演算して、実際に供給されている潤滑油量を推定する。この際、潤滑油による最大の駆動抵抗値を算出するため、低速時に油量調整バルブ162が開いて潤滑油の全量がギヤに接している時の駆動抵抗値を、油温に応じた潤滑油の動粘度から求める。そして、理論駆動力と実駆動力の差分であるギヤ駆動抵抗値の最大駆動抵抗値に対する割合から、ギアを実際に潤滑している油量を推定する。
【0030】
また、車両状態から得られるギヤのエネルギー状態からギヤ及びベアリング負荷を演算する。そして、車両速度Vとギヤ及びベアリング負荷の演算結果に基づいて適正なギヤ潤滑油量を決定し、潤滑油量の推定演算結果に応じて、油量調整のため油量調整バルブ162の開閉度をデューティー制御する。これにより、ギヤボックス116内でギヤの潤滑に使用される油量を最適に制御することができる。以下詳細に説明する。
【0031】
図4は、本実施形態に係る制御装置200とその周辺の構成を詳細に示す模式図である。制御装置200は、車載センサ202、制御演算部204、要求駆動力演算部206、勾配抵抗力演算部208、走行抵抗力演算部210、減算部212、加算部214、駆動力演算部216、駆動力比較演算部(潤滑油損失負荷演算部)218、ギヤ回転数演算部220、ベアリング負荷演算部222、ギヤ負荷演算部224、加算部226、負荷温度予測演算部228、ギヤ油温補正演算部(潤滑油温度補正部)230、ギヤ油粘性特性マップ処理部(動粘度演算部)232、最大ギヤ油量駆動抵抗マップ処理部(最大駆動抵抗値演算部)234、ギヤ油量割合推定演算部(潤滑油量推定部)236、ギヤ油量演算部238、ギヤ油量調整演算部240、を有して構成されている。なお、
図4に示す各構成要素は、回路(ハードウェア)、またはCPUなどの中央演算処理装置とこれを機能させるためのプロフラム(ソフトウェア)から構成することができる。
【0032】
図4において、車載センサ202は、上述したモータ回転数センサ125,126、車輪速センサ127,128、前後加速度センサ132、横加速度センサ134、舵角センサ138、ヨーレートセンサ142、アクセル開度センサ146を含む。モータ回転数センサ125,126は、モータ108,110の回転数を検出する。車輪速センサ127,128は、後輪104,106のそれぞれの車輪速(車両速度V)を検出する。舵角センサ138はステアリングホイール130の操舵角θhを検出する。また、ヨーレートセンサ142は車両1000の実ヨーレートγを検出する。また、前後加速度センサ132は車両1000の前後加速度を検出し、横加速度センサ134は車両1000の横加速度を検出する。制御演算部204は、インバータ123,124への制御値から、モータ108,110のモータトルク指示値を演算する。
【0033】
図5は、本実施形態の全体的な処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS100では、イグニッションキー(イグニッションSW)がオンであるか否かを判定する。イグニッションキーがオンされた場合はステップS102へ進み、イグニッションキーがオンされていない場合はステップS100で待機する。
【0034】
ステップS102では、インヒビターポジションセンサ(IHN)144がP(パーキング)又はN(ニュートラル)の位置を示しているか否かを判定し、P(パーキング)又はN(ニュートラル)の位置である場合はステップS104へ進む。また、ステップS102でP(パーキング)又はN(ニュートラル)の位置でない場合はステップS106へ進み、イグニッションキーがオンされているか否かを判定し、イグニッションキーがオンされている場合はステップS102へ戻る。ステップS106でイグニッションキーがオフの場合はステップS108へ進み、車両の起動処理を終了してステップS100へ戻る。
【0035】
ステップS104では車両1000の起動処理を行い、次のステップS110では、インヒビターポジションセンサ(IHN)144がD(ドライブ)又はR(後進)の位置を示しているか否かを判定する。そして、インヒビターポジションセンサ(IHN)144がD(ドライブ)又はR(後進)の位置を示している場合は、ステップS112へ進み、走行制御の処理を開始する。一方、ステップS110でインヒビターポジションセンサ(IHN)144がD(ドライブ)又はR(後進)の位置を示していない場合は、ステップS113へ進み、イグニッションキーがオンされているか否かを判定し、イグニッションキーがオンされている場合はステップS110へ戻る。ステップS113でイグニッションキーがオフの場合はステップS108へ進み、車両の起動処理を終了する。
【0036】
図6は、
図5のステップS112の処理を詳細に示すフローチャートである。先ず、ステップS114では、入力値としてアクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量を取得する。次のステップS116では、要求駆動力reqFを算出する。なお、要求駆動力reqFの算出は、例えばアクセル開度と要求駆動力reqFとの関係を規定したマップに基づいて行うことができる。次のステップS118では、油量調整バルブ162の開閉による潤滑油量調整制御のための処理を行う。次のステップS120では、ステップS118の処理で求まったバルブ制御指示値に基づいて、油量調整バルブ162の駆動制御を行う。ステップS122では、油量調整バルブ162の実際の開閉量を取得する。ステップS122の後はステップS114へ戻る。
【0037】
図7は、
図6のステップS118で行われる処理を示すフローチャートである。以下では、
図7及び
図4に基づいて、制御装置200で行われる処理について詳細に説明する。先ず、
図7のステップS10では、要求駆動力演算部206が、アクセル開度センサ146が検出したアクセルペダル操作量(アクセル開度)から要求駆動力reqFを演算する。具体的に、要求駆動力reqFは以下の式から算出される。以下の式において、Fmaxは、
図8に示すように、車両速度Vに応じて変化する。
reqF=Fmax×アクセル開度(accelpedal[%])/100
【0038】
次のステップS12では、勾配抵抗力演算部208が、前後加速度センサ132が検出した前後加速度から勾配走行による勾配抵抗力Fgradを演算する。勾配抵抗力Fgradを演算する際には、前後加速度センサ132の検出値、後輪の車輪速センサ127,128の検出値を用いる。前後加速度センサ132は、車両1000に対して水平をとる特性上、地面の勾配に対して前後加速度を取得することができる。例えば、勾配がある路面に停車した場合、前後加速度が前後加速度センサ132から出力される。車輪速センサ127,128の実際の検出値を加減速度演算して得られる前後加速度値Ay_clcと、前後加速度センサ132の検出値Ay_sensの差分を取得すると、勾配における前後加速度が取得される。この勾配における前後加速度と車両質量mの積から、以下の式により勾配抵抗力Fgrad[N]を得ることができる。
Fgrad[N]=(Ay_sens−Ay_clc)[m/s
2]×m[kg]
なお、前後加速度から勾配抵抗力Fgradを算出する際は、両者の関係を規定したマップを用いて行っても良い。
次のステップS14では、走行抵抗力演算部210が、車両速度Vから、基本走行抵抗係数に基づいて走行抵抗力Freを演算する。走行抵抗力演算部210は、車両速度Vと、車両1000の前面からの投影面積等に基づいて、主に走行時の空気抵抗による走行抵抗力Freを演算する。具体的には、走行抵抗力Freは、転がり抵抗力A[N]、空気抵抗係数C[N/(km/h)
2]、車両速度V[km/h]に基づいて、以下の式から算出できる。
Fre=A+CV
2
車両速度Vから走行抵抗力Freを算出する際にも、両者の関係を規定したマップを用いて行っても良い。
【0039】
次のステップS16では、ギヤ回転数演算部220が、モータ回転数センサ125,126が検出したモータ回転数から、ギヤ比を考慮してギヤボックス116内の各ギヤの回転数を演算する。次のステップS18では、ギヤ負荷演算部224が、制御演算部204が演算したモータトルク指示値をギヤトルク値へ換算し、ギヤトルク値とステップS16で演算したギヤ回転数からギヤのエネルギを演算することで、ギヤ負荷を予測演算する。
【0040】
次のステップS20では、ベアリング負荷演算部222が、制御演算部204が演算したモータトルク指示値をギヤトルク値へ換算し、ギヤトルク値とステップS16で演算したギヤ回転数からギヤを支持するベアリングのエネルギを演算することで、ベアリング負荷を予測演算する。次のステップS22では、負荷温度予測演算部228が、ステップS18で演算したギヤ負荷とステップS20で演算したベアリング負荷を加算部226が加算した結果に基づいて、ギヤ負荷とベアリング負荷を積算することで、温度伝達係数から潤滑油の温度上昇の傾きを予測し、潤滑油の温度を予測する。以上のように、ギヤ負荷とベアリング負荷の合算値(エネルギー)を積算することで、ジュール熱に換算して潤滑油の温度を求めることができる。
【0041】
次のステップS24では、ギヤ油温補正演算部230が、ギヤボックス116,118に取り付けた温度センサ154,156による潤滑油温の検出値と、ステップS22で予測した潤滑油の温度を比較し、ステップS22で予測した潤滑油の温度の方が高ければ、検出値を補正し、ステップS22で予測した潤滑油の温度を最終的な潤滑油の温度とする。一方、温度センサ154,156による潤滑油温の検出値と、ステップS22で予測した潤滑油の温度が同程度であれば、いずれかを採用して最終的な潤滑油の温度とする。
【0042】
通常、温度センサ154,156による潤滑油温の検出値の変化は時定数を有しており、特に高負荷状態では、実際にギヤを潤滑する潤滑油の温度に対して、温度センサ154,156による検出値が遅れて上昇する。一方、低負荷状態では、実際にギヤを潤滑する潤滑油の温度は、温度センサ154,156による検出値と同レベルである。本実施形態では、温度センサ154,156による潤滑油温の検出値と、ステップS22で予測した潤滑油の温度を比較し、ステップS22で予測した潤滑油の温度の方が高ければ、ステップS22で予測した潤滑油の温度を最終的な潤滑油の温度とするため、特に高負荷状態において、温度センサ154,156による検出値の時定数に影響を受けることなく、実際にギヤを潤滑する潤滑油の温度を高精度に推定できる。
【0043】
次のステップS26では、ギヤ油粘性特性マップ処理部232が、ステップS24で求めたギヤ油温に基づいて、ギヤ油粘性特性マップのギヤ粘度をマップ照合し、ギヤ油温に応じた動粘度を演算する。
図9は、ギヤ油粘性特性マップ処理部232が照合するマップ(ギヤ油粘性マップ)を示す模式図である。
図9に示すように、このマップでは、油温に対する動粘度が対応付けされている。ギヤ油粘性特性マップ処理部232は、
図9のマップからギヤ油温に応じた動粘度を求める。なお、ギヤ油温に応じた動粘度は、潤滑油の特性によって異なるため、ギヤボックス116,118内に入れられた潤滑油の特性に応じてギヤ油粘性特性マップ処理部232が照合するマップを切り換えることで、動粘度を高精度に求めることができる。
【0044】
次のステップS28では、最大ギヤ油量駆動抵抗マップ処理部234が、ギヤ回転数とギヤ油粘性特性マップ処理部232が求めた動粘度を入力情報として、最大ギヤ駆動抵抗値(Foil_resMax)を演算する。
図10は、最大ギヤ油量駆動抵抗マップ処理部234が最大ギヤ駆動抵抗値(Foil_resMax)を演算する際に用いるマップ(最大ギヤ油量駆動抵抗マップ)を示す模式図である。
図10に示すマップは、ギヤ回転数に応じて複数が用意される。最大ギヤ油量駆動抵抗マップは、潤滑油の動粘度に対する駆動抵抗値の関係を規定したもので、ギヤボックス116,118内の潤滑油量が全てギヤおよびベアリングに浸かっている時(ドレインタンク160が空の状態)のギヤ駆動抵抗値をギヤ回転数に応じてマップ化したものである。従って、ステップS28では、ギヤ回転数に応じて、想定される最大のギヤ駆動抵抗値が求まることになる。ここで算出された最大ギヤ駆動抵抗値は、ギヤ油温に基づいて算出されるため、車両1000の運転状態に応じて、最大ギヤ駆動抵抗値を高精度に求めることができる。なお、ギヤボックス116,118に供給する潤滑油の特性が常に一定の場合は、ギヤ油温から最大ギヤ駆動抵抗値を直接求めるマップに基づいて、最大ギヤ駆動抵抗値を算出しても良い。
【0045】
次のステップS30では、駆動力比較演算部218が、車両モデルから算出した理論駆動力(減算部212から入力される値)と前後加速度センサ132の検出値から駆動力演算部216が算出した実駆動力の差(Foil_res)を計算する。ここで、減算部212は、要求駆動力reqFから勾配抵抗力Fgradと走行抵抗力Freとの和を減算することにより、理論駆動力を算出する理論駆動力演算部として機能する。一方、駆動力演算部216は、前後加速度と車両1000の質量とから、運動方程式に基づいて実際に車両1000が発生している駆動力(実駆動力)を算出する実駆動力演算部として機能する。駆動力比較演算部218は、理論駆動力と実駆動力を比較し、理論駆動力と実駆動力との差分をギヤボックス116,118内の潤滑油による出力損失分として算出する。
【0046】
次のステップS32では、ギヤ油量割合推定演算部236が、駆動力比較演算部218での演算結果により求まった潤滑油による損失分(Foil_res)と、最大ギヤ油量駆動抵抗マップ処理部234が求めた最大ギヤ駆動抵抗値とから、最大ギヤ駆動抵抗値に対する潤滑油による損失分(Foil_res)の比率[%]を求める。この比率は、ギヤボックス116,118内の全油量に対する、ギヤの潤滑に実際に使われている油量の割合として算出される。すなわち、油量割合は以下の式より求まる。最大ギヤ駆動抵抗値は、ギヤボックス116,118内の潤滑油量が全てギヤおよびベアリングに浸かっている時(ドレインタンク160が空の状態)のギヤ駆動抵抗値であるため、ギヤ油量割合推定演算部236は、ドレインタンク160が空の状態のギヤボックス116,118内の潤滑油量と油量割合から、ギヤの潤滑に実際に使われている油量を求めることができる。
油量割合=Foil_res/Foil_resMax×100[%]
【0047】
次のステップS34では、ギヤ油量演算部238が、車両速度Vとギヤ負荷演算部224が演算したギヤ負荷とに基づいて、ギヤ負荷に応じた最適油量を演算する。ここで演算される最適油量は、ギヤ負荷に応じて定まるものであり、ギヤ負荷に応じた必要油量である。なお、ギヤボックス116,118の変速比が1段のみの場合は、ギヤ負荷演算部224が演算したギヤ負荷に基づいて、最適油量は一義的に求まる。一方、ギヤボックス116,118の変速比が多段の場合は、ギヤ負荷が同じであっても、ギヤ比の相違による車速(走行風)の違いに応じて、ギヤボックス116,118の冷却状態に相違が生じる。このため、ギヤ負荷のみならず車両速度Vを考慮することで、最適油量をより高精度に求めることができる。
【0048】
次のステップS36では、ギヤ油量調整演算部240が、ギヤ油量演算部238が演算したギヤボックス116,118内の最適油量と、ギヤ油量割合推定演算部236が演算した油量割合(ギヤの潤滑に実際に使われている油量)とに基づいて、ギヤボックス116,118内のギヤ潤滑油量を最適化するために油量調整バルブ162の開閉量(バルブ制御指示値)を演算する。
【0049】
上述したように、ギヤ油量割合推定演算部236が演算した油量割合は、ギヤボックス116,118内でギヤの潤滑に実際に使われている油量に相当する。ギヤ油量調整演算部240は、現時点でギヤの潤滑に実際に使われている油量と、ギヤ油量演算部238が演算した、ギヤ負荷から求まる最適油量とを比較し、ギヤの潤滑に実際に使われている油量が最適油量となるように、油量調整バルブ162の開閉量を演算する。
【0050】
以上説明したように本実施形態によれば、ギヤボックス116,118内に潤滑油を保持するドレインタンク160と、ドレインタンク160からギヤへの潤滑油の供給を制御する油量調整バルブ162を設け、油量調整バルブ162の開閉を制御することで,ギヤボックス116,118内の潤滑油量を最適化する。この際、理論駆動力と実駆動力の差を潤滑油による損失分とし、最大駆動負荷に対する損失分の比率から、ギヤに実際に供給されている潤滑油量を推定することができる。従って、ギヤに実際に供給されている潤滑油量が、ギヤ負荷から求まる必要潤滑油量となるように油糧調整バルブ162を制御することで、ギヤ負荷に応じた必要潤滑油量を高い精度でギヤに供給することが可能となる。油量調整バルブ162の制御においては、低中速走行時は車両駆動トルクが比較的大きくなるため、ギヤ負荷に応じて油量調整バルブ162が開かれ、潤滑油量が増加する。一方、高速走行時は車両駆動トルクが比較的低トルクであるため、潤滑油の飛散防止と駆動抵抗抑制のためギヤ負荷に応じて、油量調整バルブ162開閉度合いを制御することで、油量を最適に調整することができる。
【0051】
これにより、ギヤボックス潤滑性能の向上と走行時の燃費および電費性能向上を両立することが可能となる。また、ギヤボックス116,118内の潤滑油量を増量したとしても、ギヤには最適な量の潤滑油が供給されることになる。従って、潤滑油量を増量することにより、油の経年劣化や高負荷の油温上昇による特性劣化を確実に抑止することも可能となる。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。