特許第6706118号(P6706118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706118
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】座屈防止部材及び制震ダンパー
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   E04H9/02 311
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-64302(P2016-64302)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-179743(P2017-179743A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】川畑 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】安井 薫
(72)【発明者】
【氏名】野村 武史
(72)【発明者】
【氏名】高田 友和
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−203747(JP,A)
【文献】 特開2005−220637(JP,A)
【文献】 特開2000−352218(JP,A)
【文献】 特開2014−214511(JP,A)
【文献】 特開2009−228276(JP,A)
【文献】 特開2012−140781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00−9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物のフレーム内に当該フレーム面と平行に取り付けられ、ダンパー部とその延長上に連結される延長部材とからなる制震ダンパーに用いられる座屈防止部材であって、
前記制震ダンパーと前記フレームに取り付けられる面材との何れか一方に前記座屈防止部材を固定するための固定部と、前記フレーム内では他方に当接して前記制震ダンパーと前記面材との隙間内に嵌まり込み、前記制震ダンパーの面外方向への変形を規制する変形規制部とを含んでなることを特徴とする座屈防止部材。
【請求項2】
少なくとも前記変形規制部が、前記面外方向で弾性変形する弾性体からなることを特徴とする請求項1に記載の座屈防止部材。
【請求項3】
前記変形規制部における前記他方との当接面には、前記フレーム面と平行な平板が取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の座屈防止部材。
【請求項4】
前記変形規制部における前記他方との当接面は、前記ダンパー部の動作方向に沿って複数の山部が形成される波状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の座屈防止部材。
【請求項5】
前記制震ダンパー側に固定される前記固定部は、前記ダンパー部に係止する係止手段を備えて固定されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の座屈防止部材。
【請求項6】
木造建築物のフレーム内に当該フレーム面と平行に取り付けられ、ダンパー部とその延長上に連結される延長部材とからなる制震ダンパーであって、
前記ダンパー部と前記延長部材との少なくとも一方に、請求項1乃至5の何れかに記載の座屈防止部材が、前記固定部を介して固定されてなる制震ダンパー。
【請求項7】
前記座屈防止部材は、前記ダンパー部の動作方向に所定間隔をおいて複数固定されていることを特徴とする請求項6に記載の制震ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物のフレーム内に設けられる制震ダンパーの座屈を防止するために用いられる座屈防止部材と、当該座屈防止部材を設けた制震ダンパーとに関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物においても、特許文献1に開示されるように、鉛直材と横架材とで構成されるフレーム内にブレース状の制震ダンパーを設置して加振時の振動減衰を図る技術が普及しつつある。ここではブレースを構成する帯板状の一対の剛性部材の対向面間に、粘弾性体を接着介在させた制震ダンパーを組み込んでおり、フレーム内の間柱と干渉する部分では、間柱の側面に切込み部を設けて剛性部材を貫通させたり、切断貫通部を形成してそこに制震ダンパーを収納配置したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−110399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように間柱に設けた切込み部や切断貫通部に制震ダンパーを貫通させると、フレームの厚み方向前後に張設される面材との間に隙間が生じ、加振時には面外方向へ座屈が生じて加振時の変位が効率よく制震ダンパーへ入力されず、減衰性能が低下するおそれがある。制震ダンパーと面材との間に隙間を埋めるための座屈防止部材を介在させることが考えられるが、建物構造によって隙間の大きさが異なると対応が難しく、フレーム内への設置も面倒となってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、面材との間の隙間の大きさにかかわらずフレーム内へ簡単に設置でき、制震ダンパーの面外変形を規制して加振時の変位を効率よく制震ダンパーへ入力させることができる座屈防止部材と、当該座屈防止部材を設けた制震ダンパーとを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、木造建築物のフレーム内に当該フレーム面と平行に取り付けられ、ダンパー部とその延長上に連結される延長部材とからなる制震ダンパーに用いられる座屈防止部材であって、
制震ダンパーとフレームに取り付けられる面材との何れか一方に座屈防止部材を固定するための固定部と、フレーム内では他方に当接して制震ダンパーと面材との隙間内に嵌まり込み、制震ダンパーの面外方向への変形を規制する変形規制部とを含んでなることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、少なくとも変形規制部が、面外方向で弾性変形する弾性体からなることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、変形規制部における他方との当接面には、フレーム面と平行な平板が取り付けられることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、変形規制部における他方との当接面は、ダンパー部の動作方向に沿って複数の山部が形成される波状であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかの構成において、制震ダンパー側に固定される固定部は、ダンパー部に係止する係止手段を備えて固定されることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、木造建築物のフレーム内に当該フレーム面と平行に取り付けられ、ダンパー部とその延長上に連結される延長部材とからなる制震ダンパーであって、ダンパー部と延長部材との少なくとも一方に、請求項1乃至5の何れかに記載の座屈防止部材が、固定部を介して固定されてなることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項6の構成において、座屈防止部材は、ダンパー部の動作方向に所定間隔をおいて複数固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び6に記載の発明によれば、固定部と変形規制部とからなる座屈防止部材の採用により、面材との間での隙間の大きさにかかわらずフレーム内へ簡単に設置でき、制震ダンパーの面外変形を規制して加振時の変位を効率よく制震ダンパーへ入力させることができる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、変形規制部をフレームの面外方向で弾性変形する弾性体としたことで、フレーム内への設置がより簡単となり、長期に亘って面外変形を防止可能となる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、弾性体にフレーム面と平行な平板を取り付けたことで、座屈防止部材を設けてもダンパー部の挙動に影響を及ぼすことがなく、安定した入力が維持できる。
請求項4に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、変形規制部の当接面を波状に形成したことで、波状部分も弾性変形して制震ダンパーの面外方向への移動規制作用を生じさせると共に、面材との接触面積が少なくなって摺動時の摩擦抵抗が低減される。
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れかの効果に加えて、固定部を係止手段としたことで、現場での座屈防止部材の固定が簡単に行え、取り外しも容易となる。
請求項7に記載の発明によれば、請求項6の効果に加えて、座屈防止部材を複数固定したことで、面外変形の規制効果が向上すると共に、一つ一つの座屈防止部材をコンパクトに作成でき、コストアップの抑制が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】形態1の座屈防止部材を用いたフレームの説明図で、(A)は正面、(B)はA−A線断面をそれぞれ示す。
図2】(A)は形態1のダンパー部及び座屈防止部材の横断面図、(B)は座屈防止部材の取付構造の変更例を示す横断面図である。
図3】(A)は形態2のダンパー部及び座屈防止部材の横断面図、(B)は座屈防止部材の取付構造の変更例を示す横断面図である。
図4】形態2のダンパー部及び座屈防止部材の変更例を示す横断面図である。
図5】形態2の座屈防止部材の取付構造の変更例を示す横断面図である。
図6】(A)は形態3のダンパー部及び座屈防止部材の横断面図、(B)は座屈防止部材の取付構造の変更例を示す横断面図である。
図7】形態3の座屈防止部材の取付構造の変更例を示す横断面図である。
図8】形態4のダンパー部及び座屈防止部材の横断面図である。
図9】座屈防止部材の固定位置の変更例を示すフレームの説明図で、(A)は正面、(B)は図1と同じ位置での断面をそれぞれ示す。
図10】座屈防止部材の固定位置の変更例を示すフレームの説明図で、(A)は正面、(B)は図1と同じ位置での断面をそれぞれ示す。
図11】座屈防止部材の固定位置の変更例を示すフレームの説明図で、(A)は正面、(B)は図1と同じ位置での断面をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
図1は、枠組壁工法の木造建築物におけるフレームの一例を示す説明図で、上下の端根太1,1の間には、上枠3と下枠4、左右の縦枠5,5とからなるフレーム2が組み込まれている。図1では一つのフレーム2のみ示している。6は、左右の縦枠5,5の間に設けられる中枠で、フレーム2の厚み方向の前後には、面材(例えば構造用合板)7,7(図2)が張り付けられる。
フレーム2内において、上枠3と右側の縦枠5との仕口部と、左側の縦枠5と下枠4との仕口部との間には、ダンパー部11と、その両端へ同軸で差し込み接合される延長部材としての一対の延長木材12A,12Bとからなる制震ダンパー10が、ブレース状に架設されている。
【0010】
まず、ダンパー部11は、図2(A)にも示すように、横断面矩形の外管13と、その外管13より一回り小さい横断面矩形で、外管13に一端側から同軸で部分的に遊挿される内管14と、両管13,14の重合部分で両管13,14間にあって両者に接着される粘弾性体15とから形成されている。
ここでの外管13は、横断面短手方向に中央から二分割した一対の横断面コ字状の半割金具16,16の開放側を向かい合わせにして、長手方向の全長に亘って延設されたフランジ17,17同士をボルト18及びナット19で接合したもので、各半割金具16における延長木材12Aの接合側の端部には、長手辺部分のみが伸長した連結部20,20が延設されている。この連結部20,20の間に延長木材12Aの端部が差し込まれて木ねじで接合されている。
【0011】
一方、内管14側では、延長木材12Bの端部に形成した図示しない差込部を内管14の端部に差し込んで、厚み方向の前後から連結板21,21で挟んでボルト及び木ねじで固定することで延長木材12Bと接合されている。
延長木材12A,12Bは、横断面矩形の長尺材で、ここでは構造用単板積層材が使用されているが、無垢材でも差し支えない。
こうしてダンパー部11の両端へ延長上に接合された延長木材12A,12Bは、仕口部に木ねじで固定されたコ字状のブラケット22,22にそれぞれ端部を差し込んで木ねじで固定することで、中枠6と干渉しないフレーム厚み内の略半分のスペース内で架設される。
【0012】
そして、30は、ダンパー部11と面材7との間に設けられる座屈防止部材である。この座屈防止部材30は、図2(A)に示すように、ダンパー部11の幅寸法よりもやや小さい幅と、ダンパー部11の軸方向の寸法より短い長さとを有してダンパー部11に接着される変形規制部としての弾性体31と、弾性体31に接着される平板32とからなる。ここでの弾性体31は、ポリウレタンやポリスチレン、ポリオレフィン等の発泡プラスチックから形成されて、ダンパー部11側の面は、外管13の横断面凸状の外形に嵌合する横断面凹状の固定部となる接着面33となっている。平板32側の面は平面である。
平板32は、弾性体31と同形状となる木製の板体で、面材7と平行に弾性体31へ接着されるが、面材7とは接着されておらず、面材7の表面上を摺動可能となっている。
【0013】
以上の如く構成された座屈防止部材30は、図1の網掛け部分に示すように、ダンパー部11の軸方向の中央部において、平板32を面材7側にして弾性体31が外管13に接着固定される(図1では固定位置を示すため平板32を省略している。)。この状態でダンパー部11は、厚み方向の前後が面材7,7で閉塞されるフレーム2内で、中枠6と座屈防止部材30との間に挟まれてフレーム2の面外方向への移動(座屈)が規制される。なお、弾性体31の厚みは、ダンパー部11と平板32との間に生じる隙間に合わせて厳密に設定する必要はなく、当該隙間より大きめに作成しておけば、フレーム2内への設置時の圧縮変形によって厚み内に納まる。
【0014】
こうして座屈防止部材30を備えた制震ダンパー10を架設したフレーム2において、地震等によって水平な外力が反復して加わり、フレーム2が水平方向に変形すると、制震ダンパー10には軸方向に圧縮力と引張力とが交互に作用して、ダンパー部11の外管13と内管14とが相反する軸方向へ動作する。この動作によって粘弾性体15をせん断変形させて減衰作用を生じさせることになる。
このとき、ダンパー部11は、中枠6と座屈防止部材30との間に挟まれてフレーム2の面外方向への移動が規制されているため、荷重入力軸の偏心が抑えられ、安定した入力で粘弾性体15をせん断変形させることができ、効果的な減衰作用が得られる。弾性体31はダンパー部11と一体に移動し、平板32を面材7に沿って摺動させるため、座屈防止部材30を設けても減衰作用には影響を与えない。
【0015】
このように、上記形態1の座屈防止部材30及び制震ダンパー10によれば、ダンパー部11に接着固定される固定部(接着面33)と、フレーム2内では面材7に当接してダンパー部11と面材7との隙間内に嵌まり込み、制震ダンパー10の面外方向への変形を規制する変形規制部(弾性体31)とを含んでなることで、面材7との間での隙間の大きさにかかわらずフレーム2内へ簡単に設置でき、制震ダンパー10の面外変形を規制して加振時の変位を効率よく制震ダンパー10へ入力させることができる。
特にここでは、変形規制部を、フレーム2の面外方向で弾性変形する弾性体31としているので、フレーム2内への設置がより簡単となり、長期に亘って面外変形を防止可能となる。
また、弾性体31における面材7との当接面には、フレーム面と平行な平板32が取り付けられているので、座屈防止部材30を設けてもダンパー部11の挙動に影響を及ぼすことがなく、安定した入力が維持できる。
【0016】
なお、形態1において、座屈防止部材の制震ダンパーへの固定は、接着に限らず、例えば図2(B)に示すように、弾性体31におけるダンパー部11側の面に、外管13の外形に合わせてフランジ17まで覆う(但しボルト18の締結部分は除く)固定板34を一体成形し、固定板34とフランジ17とに設けた透孔35に、係止手段としての係止具36を差し込み係止させて固定することもできる。この係止具36は、透孔35より大径の頭部37と、その頭部37から同軸で突出する先割れの軸部38と、その軸部38の先端に形成された返し部39とからなり、軸部38を透孔35に貫通させた状態で、返し部39がフランジ17に係止して抜け止めされ、固定板34をフランジ17に固定することができる。この透孔35は、ボルト18用の透孔と別に設けてもよいし、当該透孔の一部を転用することもできる。
このように係止具36を採用すれば、現場での座屈防止部材30の固定が簡単に行え、取り外しも容易となる。
【0017】
但し、係止具自体の形状も適宜変更可能で、一体成形が可能であれば頭部を除く軸部と返し部とを固定板へ一体に設けることもできる。
また、平板は、木製以外に樹脂製や金属製であってもよいし、薄いシート状でもよい。また、板材に代えて、弾性体の平面にシールやテープ等を貼着したり、潤滑剤を塗布したりして面材との間の摩擦抵抗を低減することもできる。弾性体の材質等によっては弾性体を直接面材に当接させることも可能である。
【0018】
以下、座屈防止部材の他の形態を説明する。但し、フレームの構造等は形態1と同じであるので、重複する説明は省略して専ら座屈防止部材の構造について説明を行う。
[形態2]
図3(A)に示す座屈防止部材30Aは、鋼板を、平板状の摺接部40と、摺接部40の両端から折曲される一対の側板部41,41とからなる横断面コ字状に折曲して、側板部41の端部に折曲形成した取付片42,42を、ダンパー部11のボルト18を利用して同時に固定したものである。この状態で座屈防止部材30Aは、左右の側板部41,41が外管13の半割金具16を外側から覆い、摺接部40が面材7に当接して面材7との隙間を埋めることになる。ここでは取付片42が固定部、摺接部40及び側板部41が変形規制部となる。なお、側板部41の高さは、ダンパー部11と面材7との間の隙間に合わせて厳密に設定する必要はなく、当該隙間より大きめに作成しておけば、フレーム2内への設置時のたわみによって厚み内に納まる。
【0019】
こうして座屈防止部材30Aを備えた制震ダンパー10を架設したフレーム2において、地震等によって水平な外力が反復して加わり、フレーム2が水平方向に変形すると、制震ダンパー10には軸方向に圧縮力と引張力とが交互に作用して、ダンパー部11の外管13と内管14とが相反する軸方向へ動作する。この動作によって粘弾性体15をせん断変形させて減衰作用を生じさせることになる。
このとき、ダンパー部11は、中枠6と座屈防止部材30Aとの間に挟まれてフレーム2の面外方向への移動が規制されているため、荷重入力軸の偏心が抑えられ、安定した入力で粘弾性体15をせん断変形させることができ、効果的な減衰作用が得られる。座屈防止部材30Aは、摺接部40を面材7に摺動させながらダンパー部11と一体に移動するため、減衰作用には影響を与えない。
【0020】
このように、上記形態2の座屈防止部材30A及び制震ダンパー10においても、ダンパー部11に固定される固定部(取付片42)と、フレーム2内では面材7に当接してダンパー部11と面材7との隙間内に嵌まり込み、制震ダンパー10の面外方向への変形を規制する変形規制部(摺接部40及び側板部41)とを含んでなることで、面材7との間の隙間の大きさにかかわらずフレーム2内へ簡単に設置でき、制震ダンパー10の面外変形を規制して加振時の変位を効率よく制震ダンパー10へ入力させることができる。
特にここでは、一枚の鋼板を折曲して、面材7に摺接する摺接部40と、面材7との隙間に合わせて弾性変形する側板部41とを形成しているので、座屈防止部材30Aが低コストで簡単に形成可能となる。
【0021】
なお、上記形態2において、鋼板の形状は横断面コ字状に限らず、半円状や半長円状等に適宜変更可能で、摺接部と面材との間に、形態1のような厚み調整用の平板等を設けることもできる。但し、摺接部を平面状でなく、図4に示すようにダンパー部11側へ凹んで外管13に当接する凹部43とすることもできる。このような凹部43を設ければ、凹部43も弾性変形してダンパー部11の面外方向への移動規制作用を生じさせると共に、面材7との接触面積が少なくなって摺動時の摩擦抵抗が低減される。
【0022】
また、制震ダンパーへの固定も、図3(B)に示すように形態1と同様の係止具36を用いてフランジ17に係止固定するようにしたり、鋼板の両端へ係止片を切り起こし形成してフランジ17の透孔35へ差し込み係止させたりしてもよい。
さらに、係止による固定に限らず、図5に示すように、座屈防止部材30Aの幅方向の両端となる取付片42,42に、ゴムバンドや粘着テープ、面ファスナー付テープ等の巻回部材44を1又は軸方向へ所定間隔をおいて複数取り付けて、ダンパー部11に巻回部材44を巻き付けて固定することも可能である。
【0023】
[形態3]
図6(A)に示す座屈防止部材30Bも、形態2と同様に鋼板を折曲して形成される。但し、ここでは面材7との当接部分が平面状でなく、ダンパー部11の軸方向に沿った複数の山部46と谷部47とが交互に表れる波状部45となっている。取付構造は形態2と同じで、側板部41の端部に折曲形成した取付片42を、ダンパー部11のボルト18を利用して同時に固定したものである。この状態で座屈防止部材30Bは、左右の側板部41,41が外管13の半割金具16を外側から覆い、波状部45は、山部46が面材7に、谷部47が外管13にそれぞれ当接して面材7との隙間を埋めることになる。なお、側板部41の高さは、ダンパー部11と面材7との間の隙間に合わせて厳密に設定する必要はなく、当該隙間より大きめに作成しておけば、フレーム2内への設置時の波状部45の弾性変形によって厚み内に納まる。
【0024】
こうして座屈防止部材30Bを備えた制震ダンパー10を架設したフレーム2において、地震等によって水平な外力が反復して加わり、フレーム2が水平方向に変形すると、制震ダンパー10には軸方向に圧縮力と引張力とが交互に作用して、ダンパー部11の外管13と内管14とが相反する軸方向へ動作する。この動作によって粘弾性体15をせん断変形させて減衰作用を生じさせることになる。
このとき、ダンパー部11は、中枠6と座屈防止部材30Bとの間に挟まれてフレーム2の面外方向への移動が規制されているため、荷重入力軸の偏心が抑えられ、安定した入力で粘弾性体15をせん断変形させることができ、効果的な減衰作用が得られる。座屈防止部材30Bは、波状部45を面材7に摺動させながらダンパー部11と一体に移動するため、減衰作用には影響を与えない。
【0025】
このように、上記形態3の座屈防止部材30B及び制震ダンパー10においても、ダンパー部11に固定される固定部(取付片42)と、フレーム2内では面材7に当接してダンパー部11と面材7との隙間内に嵌まり込み、制震ダンパー10の面外方向への変形を規制する変形規制部(波状部45及び側板部41)とを含んでなることで、面材7との間の隙間の大きさにかかわらずフレーム2内へ簡単に設置でき、制震ダンパー10の面外変形を規制して加振時の変位を効率よく制震ダンパー10へ入力させることができる。
特にここでは、変形規制部(波状部45及び側板部41)における面材7との当接面を、ダンパー部11の動作方向に沿って複数の山部46が形成される波状部45としているので、波状部45も弾性変形してダンパー部11の面外方向への移動規制作用を生じさせると共に、面材7との接触面積が少なくなって摺動時の摩擦抵抗が低減される。
【0026】
なお、上記形態3において、波状部の山部と谷部との数や形状は上記構造に限らず、山部を鋭角の三角形状としたり、逆に円形状にして山部の数を減らしたりしてもよい。制震ダンパーへの固定も、図6(B)に示すように形態1と同様の係止具36を用いてフランジ17に係止するようにしたり、鋼板の両端へ係止片を切り起こし形成してフランジ17の透孔35へ差し込み係止させたりしてもよい。
また、ここでも図7に示すように、座屈防止部材30Bの幅方向の両端となる取付片42,42に、ゴムバンドや粘着テープ、面ファスナー付テープ等の巻回部材44を1又は軸方向へ所定間隔をおいて複数取り付けて、ダンパー部11に巻回部材44を巻き付けて固定することも可能である。
【0027】
[形態4]
図8に示す座屈防止部材30Cは、金属製の固定部となるベース板48に、三角形状の針50,50・・を複数切り起こし形成した変形規制部としての突刺部49を設けたものである。突刺部49は、ダンパー部11の幅方向へ複数(ここでは5つ)並ぶ針50の列を、ダンパー部11の軸方向へ所定間隔をおいて複数並べてなる。この座屈防止部材30Cは、ベース板48を外管13に接着或いは溶接等によって固定することで、突刺部49の各針50が面材7に刺さった状態となって面材7との隙間を埋めることになる。なお、針50の高さは、ベース板48と面材7との間の隙間に合わせて厳密に設定する必要はなく、当該隙間より大きめに作成しておけば、フレーム2内への設置時の針50の刺さり深さの変動或いは針50のたわみによって厚み内に納まる。
【0028】
こうして座屈防止部材30Cを備えた制震ダンパー10を架設したフレーム2において、地震等によって水平な外力が反復して加わり、フレーム2が水平方向に変形すると、制震ダンパー10には軸方向に圧縮力と引張力とが交互に作用して、ダンパー部11の外管13と内管14とが相反する軸方向へ動作する。この動作によって粘弾性体15をせん断変形させて減衰作用を生じさせることになる。
このとき、ダンパー部11は、中枠6と座屈防止部材30Cとの間に挟まれてフレーム2の面外方向への移動が規制されているため、荷重入力軸の偏心が抑えられ、安定した入力で粘弾性体15をせん断変形させることができ、効果的な減衰作用が得られる。座屈防止部材30Cは、突刺部49の針50を傾動させながらダンパー部11と一体に移動するため、減衰作用には影響を与えない。
【0029】
このように、上記形態4の座屈防止部材30C及び制震ダンパー10においても、ダンパー部11に固定される固定部(ベース板48)と、フレーム2内では面材7に当接してダンパー部11と面材7との隙間内に嵌まり込み、制震ダンパー10の面外方向への変形を規制する変形規制部(突刺部49)とを含んでなることで、面材7との間の隙間の大きさにかかわらずフレーム2内へ簡単に設置でき、制震ダンパー10の面外変形を規制して加振時の変位を効率よく制震ダンパー10へ入力させることができる。
特にここでは、変形規制部を、複数の針50からなる突刺部49としているので、面材7に対する変形時の抵抗を効果的に生じさせることができる。
【0030】
なお、上記形態4において、突刺部の針の数や形状は上記構造に限らず、針を三角形状でなく台形状や半長円形状としたり等、適宜変更可能である。勿論切り起こし形成に限らず、別体の針をベース部の裏側から貫通させて取り付けたりすることも考えられる。また、制震ダンパーへの固定も、ベース板にフランジまで届く延設部を形成して形態1と同様の係止具を用いて行うようにしたり、ベース板を別体のバンドやベルトでダンパー部に巻回して固定したりしてもよい。磁石を利用してベース板を固定することも可能である。
また、突刺部の各針を面材に刺して固定する一方、座屈防止部材のベース板を外管に対して非接着としてもよい。この場合、座屈防止部材は、振動入力時にベース板を外管に摺動させるため、減衰作用には影響を与えない。この変更例ではベース板及び突刺部が固定部と変形規制部とを兼用する構成となる。
【0031】
そして、各形態に共通して、座屈防止部材の固定位置はダンパー部の軸方向中央部のみに限らず、例えば図9に示すように、ダンパー部11と延長木材12A,12Bとの接合部にそれぞれ座屈防止部材30(又は30A〜30C)を固定することも可能であるし、図10に示すように、ダンパー部11の中央部と延長木材12A,12Bとの接合部とのそれぞれ固定することも可能である。
また、図11に示すように、ダンパー部11でもその軸方向へ所定間隔をおいて複数(ここでは3つ)の座屈防止部材30(又は30A〜30C)を断続的に配置することも可能である。なお、図9〜11では、座屈防止部材30の固定位置を網掛け部分で示し、具体的な形状は省略している。
このように座屈防止部材をダンパー部11の動作方向に所定間隔をおいて複数固定すれば、面外変形の規制効果が向上すると共に、一つ一つの座屈防止部材をコンパクトに(軸方向に短く)作成でき、コストアップの抑制が期待できる。
【0032】
さらに、図10,11のように座屈防止部材を複数設ける場合は、全て同じ形態の座屈防止部材とする必要はなく、例えば図10ではダンパー部11の中央部の座屈防止部材を形態1の弾性体とし、接合部の座屈防止部材を形態2の鋼板とする等、適宜組み合わせて差し支えない。また、例えば形態1の座屈防止部材では、平板をなくして弾性体の表面を図4のような凹部に形成したり、図7のような波状に形成したりする等、一つの座屈防止部材で各形態の構造を組み合わせることもできる。
そして、各形態では、中枠と反対側に生じる隙間に座屈防止部材を設けているが、中枠がないフレーム内では、制震ダンパーの両側に生じる隙間にそれぞれ座屈防止部材を設けてもよい。
また、各形態では制震ダンパー側に座屈防止部材を固定して面材に対して摺動させているが、これに限らず、面材側に座屈防止部材を固定して制震ダンパーに対して摺動させることも可能である。
【0033】
その他、座屈防止部材としては、平行な一対の板材をターンバックル機構を有する軸体を介して連結し、一方の板材をダンパー部に固定し、他方の板材を面材に当接させてなる構造が考えられる。この場合、軸体の長さ調整によって異なる隙間に対応可能となる。板材同士をコイルバネ等の弾性体で連結することも可能である。
また、ダンパー部と面材との間に紙粘土等の塑性変形材料を充填することも考えられる。この場合、中枠側の隙間にも充填してダンパー部全体を面材の間で覆うように充填してもよい。
さらに、ダンパー部と面材とに同極同士が対向する磁石を取り付けて、磁石の反発力によってダンパー部の面外変形を規制することも考えられる。
加えて、ボールやローラ、バルーン、クッション等の変形規制部をバンド等の固定部で保持してなる座屈防止部材として、ダンパー部に固定部を巻き付ける等して変形規制部をダンパー部と面材との間に位置させることも可能である。
【0034】
一方、制震ダンパー自体の形態も、外管と内管とを横断面矩形でなく多角形や長円形としたり、延長部材を木製でなく形鋼等で形成したり、延長部材を両端でなく一端側にのみ設けたりするものであっても本発明の座屈防止部材の採用は可能である。
また、フレームの構造も上記形態に限らず、中枠がないものや、柱と横架材(梁や土台)とで形成される在来工法のフレームであっても本発明の座屈防止材を用いた制震ダンパーの採用は可能である。
【符号の説明】
【0035】
1・・端根太、2・・フレーム、3・・上枠、4・・下枠、5・・縦枠、6・・中枠、7・・面材、10・・制震ダンパー、11・・ダンパー部、12A,12B・・延長木材、13・・外管、14・・内管、15・・粘弾性体、16・・半割金具、17・・フランジ、18・・ボルト、30,30A〜30C・・座屈防止部材、31・・弾性体、32・・平板、33・・接着面、34・・固定板、36・・係止具、40・・摺接部、41・・側板部、42・・取付片、43・・凹部、44・・巻回部材、45・・波状部、46・・山部、47・・谷部、48・・ベース板、49・・突刺部、50・・針。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11