(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電極体は、前記圧電基材と同一に構成されており、一方の圧電基材における外周導体と他方の圧電基材における外周導体との間で前記静電容量の検出が可能に構成されている請求項1記載のセンサモジュール。
前記圧電基材の各々の前記内部導体及び前記外周導体の前記電圧検出部への接続と、前記対とされた前記圧電基材の前記外周導体の各々の前記静電容量検出部への接続とが切り替えられる切替部と、
前記切替部を制御して前記圧電基材を前記電圧検出部又は前記静電容量検出部に接続するように前記切替部を制御する制御部と、
を含む請求項18記載のセンサシステム。
前記電圧検出部により検出される前記電位差から前記圧電基材が加圧されているか否かを判定すると共に、前記静電容量検出部により検出される静電容量が所定値を超えているか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果を出力する出力部と、
を含む請求項16から請求項19の何れか1項記載のセンサシステム。
前記電圧検出部からの出力に基づいて判定された前記圧電基材の状態に関する情報と、前記静電容量検出部からの出力に基づいて判定された前記圧電基材と前記電極体との間の状態に関する情報とを出力する出力部を含む請求項16から請求項19の何れか1項記載のセンサシステム。
前記圧電基材の状態に関する情報は前記圧電基材が受ける圧力に関する情報であり、前記圧電基材と前記電極体の間に関する情報は水濡れに関する情報である請求項21記載のセンサシステム。
前記センサモジュールは、椅子、移動体、移動体の座席、衣類、電子機器、寝具、及びウェアラブル機器の何れかに設けられている請求項16から請求項23の何れか1項記載のセンサシステム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、長尺平板状の圧電体(第1の圧電体及び第2の圧電体)の「主面」とは、長尺平板状の圧電体の厚さ方向に直交する面(言い換えれば、長さ方向及び幅方向を含む面)を意味する。
本明細書中において、部材の「面」は、特に断りが無い限り、部材の「主面」を意味する。また、本明細書において、厚さ、幅、及び長さは、通常の定義どおり、厚さ<幅<長さの関係を満たす。
本明細書において、「接着」は、「粘着」を包含する概念である。また、「接着層」は、「粘着層」を包含する概念である。また、本明細書において、2つの線分のなす角度は、0°以上90°以下の範囲で表す。
本明細書において、「フィルム」は、一般的に「フィルム」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
【0014】
図1(A)〜
図1(C)には、本実施の形態に係るセンサモジュール10が斜視図にて示されている。また、
図2(A)、
図3、
図4には、センサモジュール10に用いられる圧電基材12が側面図にて示され、
図2(B)には、
図2(A)の圧電基材12が断面図にて示されている。
【0015】
本実施の形態に係るセンサモジュール10には、少なくとも1本の圧電基材12、及び電極体としての外部電極14が設けられている。
図2から
図4に示されるように、圧電基材12には、内部導体としての線状の内部導体16が設けられ、内部導体16の周囲に接着層(図示省略)及び外周導体としての圧電体18が設けられており、内部導体16と圧電体18とが同軸状に配置されている。
本実施の形態に係るセンサモジュール10では、圧電基材12の内部導体16と圧電体18との間の電気的特性(本実施の形態では電位差)又は電気的特性の変化から圧電基材12に圧力が入力されているか否か或いは入力される圧力が検出される。また、センサモジュール10では、圧電基材12の圧電体18と外部電極14との間の静電容量又は電気抵抗値などの電気的特性、又は電気的特性の変化から圧電基材12の圧電体18と外部電極14との間に液体等が入り込んでいるか否かが検出される。
図1(C)に示されるように、センサモジュール10としては、外部電極14として金属などの導電材料が用いられて略帯板状とされた電極14Aが用いられたセンサモジュール10Cを適用できる。また、
図1(B)に示されるように、センサモジュール10としては、外部電極14として金属などの導電材料が用いられて断面円形又は多角形棒状とされた電極14Bが用いられたセンサモジュール10Bを適用できる。さらに、
図1(A)に示されるように、センサモジュール10としては、外部電極14として圧電基材12の圧電体18が用いられたセンサモジュール10Aであっても良い。即ち、外部電極14としては、圧電基材12の圧電体18との間で、静電容量又は電気抵抗を検出可能な一対の電極を形成しうる任意の導電材料を適用することができる。
ここで、センサモジュール10Aは、2本の圧電基材12を用い、各圧電基材12により圧力検出が行われると共に、2本の圧電基材12の圧電体18の間の静電容量又は電気抵抗などの電気的特性が検出可能とされている。これにより、2本の圧電基材12の間に液体が付着ないし浸入しているかが検出可能にされている。以下には、主に、圧電基材及び電極体として少なくとも2本の圧電基材12が用いられたセンサモジュール10Aをセンサモジュール10として説明する。
【0016】
圧電基材12を用いたセンサモジュール10の構成を説明する。
本実施の形態において、センサモジュール10は、少なくとも圧電基材12と外部電極14とを含み、外部電極14としては、圧電基材12を適用することができる。また、本実施の形態において、センサモジュール10は、下記加圧部20及び基部22をさらに含んでも良い。
図1(A)〜
図1(C)に示されるように、センサモジュール10は、接触により加圧される加圧部20と、加圧部20に対向された基部22とを含み、圧電基材12及び外部電極14が加圧部20と基部22との間に配置される。
【0017】
加圧部20は、圧電基材12と接触する面とは反対側の面が例えば上方に向けられた加圧面20Aとされており、加圧面20Aが、測定(検出)される圧力の入力される測定面として機能する。また、基部22は、センサモジュール10を対象物に固定するための固定部材として機能すると共に、加圧部20に入力された圧力が圧電基材12に入力されるように圧電基材12或いは圧電基材12と外部電極14とを保持する。
【0018】
センサモジュール10は、加圧面20Aが受ける加圧方向(矢印P方向)に沿って加圧部20及び基部22が配置されて、加圧部20と基部22との間に少なくとも2本の圧電基材12が配置される。また、圧電基材12は、その軸方向が加圧方向と交差する方向(直線Cの方向)に設けられている。
また、センサモジュール10は、加圧部20における圧電基材12との隣接方向の厚さをda、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率E’aとし、基部22における前記隣接方向の厚さをdb、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率E’bとすると、下記関係式(a)を満たすように構成されている。
da/E’a<db/E’b・・・式(a)
【0019】
本発明者らは、加圧部20における圧電基材12との隣接方向の厚さdaと、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率E’aの比と、基部22における前記隣接方向の厚さdbと、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率E’bの比との関係が上記関係式(a)の範囲にあることで、基部22に対して加えられた衝撃や振動と加圧部20に対して加えられた圧力との差を大きくし、加圧部20に対して加えられた圧力を選択的に検出できることを見出した。
ここで、貯蔵弾性率E’については、その値が大きいほど硬く、その値が小さいほど柔らかい材料といえる。したがって、加圧部20及び基部22の材質が同じであれば、加圧部20の厚さdaに比べて基部22の厚さdbを厚くすることで、基部22側からの衝撃や振動が圧電基材12に伝わりにくく、加圧部20からの圧力は圧電基材12に伝わりやすくすることができる。本実施の形態では、加圧部20の厚さdaを0.005〜50mmの範囲とし、基部22の厚さdbを0.005〜100mmの範囲とするのが好ましい。
【0020】
一方、加圧部20と基部22との厚さが同じであれば、加圧部20の貯蔵弾性率E’aと比べて基部22の貯蔵弾性率E’bの値を小さくすることで、基部22側からの衝撃や振動は圧電基材12に伝わりにくく、加圧部20からの圧力は圧電基材12に伝わりやすくすることができる。つまり、基部22と比べて加圧部20を柔らかい材料にすることで、基部22側からの衝撃や振動は圧電基材12に伝わりにくく、加圧部20からの圧力は圧電基材12に伝わりやすくすることができる。本実施の形態では、加圧部20の貯蔵弾性率E’aを1×10
5〜1×10
12Paの範囲として、基部22の貯蔵弾性率E’bを1×10
4〜1×10
10Paの範囲とするのが好ましい。
加圧部20及び基部22の厚さdや貯蔵弾性率E’を上記関係式(a)範囲となるように調整することで、センサモジュール10では、加圧部20に加えられた圧力を選択的に検出することができる。
【0021】
ここで、加圧部20としては、以下の材料を採用することができる。
シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマー、フッ素系エラストマー、パーフルオロエラストマー、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロルヒドリンゴム等のエラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエステル、環状ポリオレフィン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、メタクリル・スチレン共重合体、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、セルロース系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂及びこれらの共重合体やアロイ、変性体、発泡体(フォーム)といった高分子材料、
アルミ、鉄、鋼、銅、ニッケル、コバルト、チタン、マグネシウム、スズ、亜鉛、鉛、金、銀、白金及びこれらの合金等の金属材料、ガラスなどを使用することができる。
また、上記材料の積層体を使用することもできる。
【0022】
一方、基部22としては、以下の材料を採用することができる。
有機ゲル、無機ゲル、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマー、フッ素系エラストマー、パーフルオロエラストマー、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロルヒドリンゴム等のエラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエステル、環状ポリオレフィン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、メタクリル・スチレン共重合体、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、セルロース系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂及びこれらの共重合体やアロイ、変性体、発泡体(フォーム)といった高分子材料などを使用することができる。
また、上記材料の積層体を使用することもできる。
【0023】
センサモジュール10は、加圧部20の厚さdaと貯蔵弾性率E’a、及び、基部22の厚さdbと貯蔵弾性率E’bが、上記関係式(a)を満たすよう形成することで、基部22側からの衝撃や振動は圧電基材12に伝わりにくく、加圧部20からの圧力は圧電基材12に伝わり易いセンサモジュール10を提供することが可能となる。また、センサモジュール10は、少なくとも基部22を備えたものであれば良く、また、加圧部20は、圧電基材12の保護用として設けられても良い。
【0024】
〔センサモジュールの製造方法〕
本実施の形態において加圧部20及び基部22を備えるセンサモジュール10を製造する場合、まず、基部22の面上に圧電基材12及び外部電極14(本実施の形態では圧電基材12)の各々を直線状に設置する。そして、基部22及び圧電基材12の上に加圧部20を載置し、加圧部20と基部22との間で圧電基材12(及び外部電極14としての圧電基材12)を固定する。これにより、センサモジュール10が形成される。なお、圧電基材12と外部電極14と(センサモジュール10B、10C)を複数対設ける場合、圧電基材12と外部電極14とを、基部22上に交互に配置する。また、外部電極14として圧電基材12を用いる場合(センサモジュール10Aの場合)は、複数の圧電基材12を所定の間隔(同様の間隔であることが好ましい)で基部22上に配列する。
【0025】
ここで、本実施の形態のセンサモジュール10においては、圧電基材12を被覆する被覆部材を設けることができ、この場合、被覆部材は、自己粘着性を有していることが好ましい。これにより、圧電基材12が、この被覆部材の自己粘着性を利用して加圧部20及び基部22に固定(粘着)される。
また、加圧部20と基部22とは、その外縁部分が接着剤により固定される(図示せず)。なお、加圧部20と基部22との固定方法については、接着剤による固定に限らず、粘着剤や粘着テープ(両面テープ)等により固定することができる。圧電基材12を固定する際、加圧部20及び基部22の少なくとも一方の表面上に、圧電基材12(及び外部電極14)に対応する溝を形成することにより、加圧部20の加圧面20Aが圧電基材12(及び外部電極14)により部分的に盛り上がることを防止することができて、見た目やさわり心地を向上できる。
【0026】
〔圧電基材〕
本実施の形態において圧力検出に用いられる圧電基材(圧電基材12)の概要について説明する。
本実施の形態の圧電基材は、長尺状の導体と、前記導体に対して一方向に螺旋状に巻回された長尺状の第1の圧電体と、を備える。
第1の圧電体としては、有機圧電材料を用いることができ、有機圧電材料としては低分子材料、高分子材料を問わず採用でき、例えば、ポリフッ化ビニリデン、あるいはポリフッ化ビニリデン系共重合体、ポリシアン化ビニリデンあるいはシアン化ビニリデン系共重合体あるはナイロン9、ナイロン11などの奇数ナイロンや、芳香族ナイロン、脂環族ナイロン、あるいはポリ乳酸などのヘリカルキラル高分子や、ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシカルボン酸、セルロース系誘導体、ポリウレアなどが挙げられる。
第1の圧電体としては、良好な圧電特性、加工性、入手容易性等の観点から、高分子の有機圧電材料、特に光学活性を有するヘリカルキラル高分子であることが好ましい。
前記本実施の形態の圧電基材は、
前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)(以下、単に「ヘリカルキラル高分子(A)」ともいう)を含み、
前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から下記式(b)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲である圧電基材。
配向度F=(180°―α)/180°・・(b)
ただし、αは配向由来のピークの半値幅を表す。αの単位は、°である。
以下、本実施の形態の圧電基材の説明において、「長尺状の導体」を、単に「導体」と称して説明することがあり、「長尺状の第1の圧電体」を、単に「第1の圧電体」と称して説明することがある。なお、「一方向」とは、本実施の形態の圧電基材を導体の軸方向の一端側から見たときに、第1の圧電体が導体の手前側から奥側に向かって巻回されている方向をいう。具体的には、右方向(右巻き、即ち時計周り)又は左方向(左巻き、即ち反時計周り)をいう。
【0027】
ここで、第1の圧電体の配向度Fは、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の配向の度合いを示す指標であり、例えば、広角X線回折装置(リガク社製 RINT2550、付属装置:回転試料台、X線源:CuKα、出力:40kV 370mA、検出器:シンチレーションカウンター)により測定されるc軸配向度である。
配向度Fは、上記広角X線解析装置を用いて、サンプル(リボン状圧電体、糸状圧電体)をホルダーに固定し、結晶面ピーク[(110)面/(200)面]の方位角分布強度を測定した。
得られた方位角分布曲線(X線干渉図)において、結晶化度、及びピークの半値幅(α)から上記式(b)よりヘリカルキラル高分子(A)の配向度F(C軸配向度)を算出して評価した。
【0028】
本実施の形態の圧電基材は、上記構成を備えることにより、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れる。
より詳細には、本実施の形態の圧電基材では、第1の圧電体がヘリカルキラル高分子(A)を含むこと、第1の圧電体の長さ方向とヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向とが略平行であること、及び、第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満であることにより圧電性が発現される。
その上で、本実施の形態の圧電基材は、上記第1の圧電体が、導体に対して一方向に螺旋状に巻回された構成をなす。
本実施の形態の圧電基材では、第1の圧電体を上記のように配置することにより、圧電基材の長さ方向に張力(応力)が印加されたときに、ヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わり、圧電基材の径方向にヘリカルキラル高分子(A)の分極が生じる。その分極方向は、螺旋状に巻回された第1の圧電体を、その長さ方向に対して平面と見做せる程度の微小領域の集合体とみなした場合、その構成する微小領域の平面に、張力(応力)に起因したずり力がヘリカルキラル高分子に印加された場合、圧電応力定数d
14に起因して発生する電界の方向と略一致する。
具体的には、例えばポリ乳酸においては、分子構造が左巻き螺旋構造からなるL−乳酸のホモポリマー(PLLA)の場合、PLLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、導体に対して、左巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の中心から外側方向への電界(分極)が発生する。また、これとは逆にPLLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、導体に対して、右巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加された場合、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の外側から中心方向への電界(分極)が発生する。
【0029】
また、例えば分子構造が右巻き螺旋構造からなるD−乳酸のホモポリマー(PDLA)の場合、PDLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、導体に対して、左巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の外側から中心方向への電界(分極)が発生する。また、これとは逆にPDLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、導体に対して、右巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の中心から外側方向への電界(分極)が発生する。
これにより、圧電基材の長さ方向に張力が印加された際、螺旋状に配置された第1の圧電体の各部位において、張力に比例した電位差が位相の揃った状態で発生するため、効果的に張力に比例した電圧信号が検出されると考えられる。
従って、本実施の形態の圧電基材によれば、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れた圧電基材が得られる。
【0030】
特に、ヘリカルキラル高分子(A)として、非焦電性のポリ乳酸系高分子を用いた圧電基材は、焦電性のPVDFを用いた圧電基材に比べ、圧電感度の安定性、及び圧電出力の安定性(経時又は温度変化に対する安定性)がより向上する。
また、前述の特許文献3(特開2008−146528号公報)に記載の圧電性繊維を備える圧電単位では、導電性繊維に対する圧電性繊維の巻回方向が限定されていない上、ずり力を構成する力の起点も力の方向も、本実施の形態の圧電基材とは異なる。このため、特許文献3に記載の圧電単位に張力を印加しても、圧電単位の径方向に分極が生じないため、即ち、圧電応力定数d
14に起因して発生する電界の方向に分極が生じないため、圧電感度が不足すると考えられる。
【0031】
ここで、第1の圧電体の長さ方向と、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であることは、第1の圧電体が長さ方向への引張に強い(即ち、長さ方向の引張強度に優れる)という利点を有する。従って、第1の圧電体を、導体に対して一方向に螺旋状に巻回しても破断しにくくなる。
更に、第1の圧電体の長さ方向と、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であることは、例えば、延伸された圧電フィルムをスリットして第1の圧電体(例えばスリットリボン)を得る際の生産性の面でも有利である。
本明細書中において、「略平行」とは、2つの線分のなす角度が、0°以上30°未満(好ましくは0°以上22.5°以下、より好ましくは0°以上10°以下、更に好ましくは0°以上5°以下、特に好ましくは0°以上3°以下)であることを指す。
また、本明細書中において、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向とは、ヘリカルキラル高分子(A)の主たる配向方向を意味する。ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、第1の圧電体の配向度Fを測定することによって確認できる。
また、原料を溶融紡糸した後にこれを延伸して、第1の圧電体を製造する場合、製造された第1の圧電体におけるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、主延伸方向を意味する。主延伸方向とは、延伸方向を指す。
同様に、フィルムの延伸及び延伸されたフィルムのスリットを形成して第1の圧電体を製造する場合、製造された第1の圧電体におけるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、主延伸方向を意味する。ここで、主延伸方向とは、一軸延伸の場合には延伸方向を指し、二軸延伸の場合には、延伸倍率が高い方の延伸方向を指す。
【0032】
〔圧電基材の作用〕
本実施の形態に係る圧電基材は、長尺状の導体が内部導体であり、長尺状の第1の圧電体が、内部導体の外周面に沿って一方向に螺旋状に巻回されていることが好ましい。
導体として、内部導体を用いることにより、内部導体の軸方向に対して、第1の圧電体が螺旋角度βを保持して一方向に螺旋状に配置されやすくなる。
ここで、「螺旋角度β」とは、導体の軸方向と、導体の軸方向に対して第1の圧電体が配置される方向(第1の圧電体の長さ方向)とがなす角度を意味する。
これにより、例えば、圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、ヘリカルキラル高分子(A)の分極が、圧電基材の径方向に発生しやすくなる。この結果、電気的特性として効果的に張力に比例した電圧信号(電荷信号)が検出される。
さらに、上記構成の圧電基材は、同軸ケーブルに備えられる内部構造(内部導体及び誘電体)と同一の構造となるため、例えば、上記圧電基材を同軸ケーブルに適用した場合、電磁シールド性が高く、ノイズに強い構造となり得る。
【0033】
本実施の形態の圧電基材は、さらに、前記一方向とは異なる方向に螺旋状に巻回された長尺状の第2の圧電体を備えることが好ましい。
さらに、第2の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
第2の圧電体の長さ方向と、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(b)によって求められる第2の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、が互いに異なることが好ましい。
これにより、例えば、圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)、及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の両方に分極が生じる。分極方向はいずれも圧電基材の径方向である。
この結果、より効果的に張力に比例した電圧信号(電荷信号)が検出される。従って、圧電感度、及び圧電出力の安定性がより向上する。
特に、圧電基材が、第1の外部導体を備え、かつ圧電体が第1の圧電体及び第2の圧電体を備える二層構造をなす場合、内部導体や第1の外部導体に対して、第1の圧電体及び第2の圧電体の空隙が少なく密着させることが可能となり、張力によって発生した電界が効率よく電極に伝達されやすい。従って、より高感度なセンサを実現するのに好適な形態である。
【0034】
本実施の形態の圧電基材は、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、さらに、内部導体の外周面に沿って螺旋状に巻回された第1の絶縁体を備え、
第1の絶縁体が、第1の圧電体から見て、内部導体とは反対側に配置されていることが好ましい。
例えば、本実施の形態の圧電基材が第1の外部導体を備える場合には、圧電基材を繰り返し屈曲されたり、小さい曲率半径で屈曲されたりすると、巻回した第1の圧電体に隙間ができやすく、内部導体と第1の外部導体とが電気的に短絡する可能性がある。その場合、第1の絶縁体を配置することにより、内部導体と第1の外部導体を電気的により確実に遮蔽することが可能となる。また、屈曲して使用される用途においても高い信頼性を確保することが可能となる。
【0035】
本実施の形態の圧電基材は、さらに、一方向とは異なる方向に巻回された長尺状の第2の圧電体を備え、
第2の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
第2の圧電体の長さ方向と、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(b)によって求められる第2の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
第1の圧電体と第2の圧電体とは交互に交差された組紐構造をなし、
第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、が互いに異なることが好ましい。
これにより、例えば、圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)、及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の両方に分極が生じる。分極方向はいずれも圧電基材の径方向である。
これにより、より効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。この結果、圧電感度、及び圧電出力の安定性がより向上する。
特に、本実施の形態の圧電基材が、第1の外部導体を備え、かつ圧電体が第1の圧電体及び第2の圧電体を備える組紐構造をなす場合、第1の圧電体及び第2の圧電体間に適度な空隙があるため、圧電基材が屈曲変形させるような力が働いた際にも、空隙が変形を吸収し、しなやかに屈曲変形し易くなる。そのため、本実施の形態の圧電基材は3次元平面に沿わすような、例えばウェアラブル製品の一構成部材として好適に使用できる。
【0036】
本実施の形態の圧電基材は、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、さらに、内部導体の外周面に沿って巻回された第1の絶縁体を備え、
第1の圧電体と第1の絶縁体とは交互に交差された組紐構造をなすことが好ましい。
これにより、圧電基材の屈曲変形時において、第1の圧電体が内部導体に対して一方向に巻回した状態が保持されやすくなる。この態様の組紐構造においては、第1の圧電体に張力がかかりやすくなる観点から、第1の圧電体と第1の絶縁体との隙間が無い方が好ましい。
【0037】
本実施の形態の圧電基材において、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、第1の圧電体は、内部導体の軸方向に対して、15°〜75°(45°±30°)の角度を保持して巻回されていることが好ましく、35°〜55°(45°±10°)の角度を保持して巻回されていることがより好ましい。
【0038】
本実施の形態の圧電基材において、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、第1の圧電体は、単数又は複数の束からなる繊維形状を有し、第1の圧電体の断面の長軸径は、0.0001mm〜10mmであることが好ましく、0.001mm〜5mmであることがより好ましく、0.002mm〜1mmであることが更に好ましい。
ここで、「断面の長軸径」は、第1の圧電体(好ましくは繊維状圧電体)の断面が円形状である場合、「直径」に相当する。
第1の圧電体の断面が異形状である場合、「断面の長軸径」とは、断面の幅の中で、最も長い幅とする。
第1の圧電体が複数の束からなる圧電体の場合、「断面の長軸径」とは、複数の束からなる圧電体の断面の長軸径とする。
【0039】
本実施の形態の圧電基材において、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、第1の圧電体は長尺平板形状を有することが好ましい。第1の圧電体の厚さは0.001mm〜0.2mmであり、第1の圧電体の幅は0.1mm〜30mmであり、第1の圧電体の厚さに対する第1の圧電体の幅の比は2以上である。
以下、長尺平板形状を有する第1の圧電体(以下、「長尺平板状圧電体」ともいう)の寸法(厚さ、幅、比(幅/厚さ、長さ/幅))に関し、より詳細に説明する。
第1の圧電体の厚さは0.001mm〜0.2mmであることが好ましい。
厚さが0.001mm以上であることにより、長尺平板状圧電体の強度が確保される。更に、長尺平板状圧電体の製造適性にも優れる。
一方、厚さが0.2mm以下であることにより、長尺平板状圧電体の厚さ方向の変形の自由度(柔軟性)が向上する。
【0040】
また、第1の圧電体の幅は0.1mm〜30mmであることが好ましい。
幅が0.1mm以上であることにより、第1の圧電体(長尺平板状圧電体)の強度が確保される。更に、長尺平板状圧電体の製造適性(例えば、後述するスリット工程における製造適性)にも優れる。
一方、幅が30mm以下であることにより、長尺平板状圧電体の変形の自由度(柔軟性)が向上する。
【0041】
また、第1の圧電体の厚さに対する第1の圧電体の幅の比(以下、「比〔幅/厚さ〕」ともいう)は2以上であることが好ましい。
比〔幅/厚さ〕が2以上であることにより、主面が明確となるので、第1の圧電体(長尺平板状圧電体)の長さ方向に渡って向きを揃えて電極層(例えば外部導体)を形成し易い。例えば、主面の少なくとも一方に外部導体を形成し易い。このため、圧電感度に優れ、また、圧電感度の安定性にも優れる。
【0042】
第1の圧電体の幅は、0.5mm〜15mmであることがより好ましい。
幅が0.5mm以上であると、第1の圧電体(長尺平板状圧電体)の強度がより向上する。更に、長尺平板状圧電体のねじれをより抑制できるので、圧電感度及びその安定性がより向上する。
幅が15mm以下であると、長尺平板状圧電体の変形の自由度(柔軟性)がより向上する。
【0043】
第1の圧電体は、幅に対する長さの比(以下、比〔長さ/幅〕ともいう)が、10以上であることが好ましい。
比〔長さ/幅〕が10以上であると、第1の圧電体(長尺平板状圧電体)の変形の自由度(柔軟性)がより向上する。更に、長尺平板状圧電体が適用される圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)において、より広範囲に渡り、圧電性を付与できる。
【0044】
本実施の形態の圧電基材において、第1の圧電体が長尺平板形状を有する場合、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、第1の圧電体の少なくとも一方の主面の側に機能層が配置されていることが好ましい。
【0045】
前記機能層は、易接着層、ハードコート層、帯電防止層、アンチブロック層、保護層、及び電極層のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。
これにより、例えば、圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサ、アクチュエータ、生体情報取得デバイスへの適用がより容易になる。
【0046】
前記機能層は、電極層を含むことが好ましい。
これにより、圧電基材を、例えば、圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサ、アクチュエータ、生体情報取得デバイスの構成要素の一つとして用いた場合に、第1の外部導体と導体(好ましくは内部導体)との接続をより簡易に行うことができるので、本実施の形態の圧電基材に張力が印加されたときに、張力に応じた電圧信号が検出されやすくなる。
【0047】
本実施の形態の圧電基材において、第1の圧電体と、前記機能層と、を含む積層体の表面層の少なくとも一方は、電極層であることが好ましい。
これにより、圧電基材を、例えば、圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサ、アクチュエータ、生体情報取得デバイスの構成要素の一つとして用いた場合に、第1の外部導体又は導体(好ましくは内部導体)と、積層体との接続をより簡易に行うことができるので、本実施の形態の圧電基材に張力が印加されたときに、張力に応じた電圧信号が検出されやすくなる。
【0048】
本実施の形態の圧電基材は、導体が錦糸線であることが好ましい。
錦糸線の形態は、繊維に対して、圧延銅箔がらせん状に巻回された構造を有するが、電気伝導度の高い銅が用いられていることにより出力インピーダンスを低下することが可能となる。従って、本実施の形態の圧電基材に張力が印加されたときに、張力に応じた電圧信号が検出されやすくなる。この結果、圧電感度、及び圧電出力の安定性がより向上する。
【0049】
本実施の形態の圧電基材は、導体及び第1の圧電体の間に接着層を備えることが好ましい。
これにより、導体と第1の圧電体との相対位置がずれにくくなるため、第1の圧電体に張力がかかりやすくなり、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)にずり応力が印加されやすくなる。従って、効果的に張力に比例した電圧出力を導体(好ましくは信号線導体)から検出することが可能となる。また、接着層を備えることで、単位引張力当たりの発生電荷量の絶対値がより増加する。
【0050】
本実施の形態の圧電基材において、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)は、圧電性をより向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子であることが好ましい。
【化1】
【0051】
本実施の形態の圧電基材において、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)は、圧電性をより向上させる観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましい。
【0052】
本実施の形態の圧電基材において、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)は、圧電性をより向上させる観点から、D体又はL体からなることが好ましい。
【0053】
本実施の形態の圧電基材において、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の含有量は、圧電性をより向上させる観点から、第1の圧電体の全量に対し、80質量%以上であることが好ましい。
【0054】
本実施の形態の圧電基材において、さらに、外周に第1の外部導体を備えることが好ましい。
ここで、「外周」とは、圧電基材の外周部分を意味する。
これにより、静電シールドすることが可能となり、外部の静電気の影響による、導体(好ましくは内部導体)の電圧変化が抑制される。
【0055】
本実施の形態の圧電基材において、さらに、前記第1の外部導体の外周に第2の絶縁体を備えることが好ましい。
本実施の形態の圧電基材が第2の絶縁体を備えることにより、外部からの水や汗等の液体の浸入、ほこりの浸入等を抑制できる。そのため、水、汗、ほこりなどに起因する導体(好ましくは内部導体)と外部導体間の漏れ電流の発生を抑制することが可能となる。その結果、圧電基材を、例えば、圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサ、アクチュエータ、生体情報取得デバイスの構成要素の一つとして用いた場合に、様々な環境の変動に対しても頑強な、感度が変動しにくい、安定な出力を可能にする。
【0056】
次に、本実施の形態に係る圧電基材の具体的態様Aについて、図面を参照しながら説明する。
【0057】
〔具体的態様A〕
図2(A)は、本実施の形態に係る圧電基材の具体的態様Aを示す側面図である。
図2(B)は、
図2(A)のX−X’線断面図である。
具体的態様Aの圧電基材12としての圧電基材12Aは、導体16としての長尺状の内部導体16Aと、圧電体18としての長尺状の第1の圧電体18Aと、内部導体16Aと第1の圧電体18Aとの間に配置された接着層(図示省略)と、を備えている。
図2(A)に示すように、第1の圧電体18Aは、内部導体16Aの外周面に沿って、螺旋角度β1で一端から他端にかけて、隙間がないように一方向に螺旋状に巻回されている。「螺旋角度β1」とは、内部導体16Aの軸方向G1と、内部導体16Aの軸方向に対する第1の圧電体18Aの配置方向とがなす角度を意味する。
また、具体的態様Aでは、第1の圧電体18Aは、内部導体16Aに対して左巻きで巻回している。具体的には、圧電基材12Aを内部導体16Aの軸方向の一端側(
図2(A)の場合、右端側)から見たときに、第1の圧電体18Aは、内部導体16Aの手前側から奥側に向かって左巻きで巻回している。
また、
図2(A)中、第1の圧電体18Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、両矢印E1で示されている。即ち、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、第1の圧電体18Aの配置方向(第1の圧電体18Aの長さ方向)とは、略平行となっている。
さらに、内部導体16Aと第1の圧電体18Aとの間には、接着層(図示省略)が配置されている。これにより、具体的態様Aの圧電基材12Aでは、圧電基材12Aの長さ方向に張力が印加されても、第1の圧電体18Aと内部導体16Aとの相対位置がずれないように構成されている。
【0058】
以下、具体的態様Aの圧電基材12Aの作用について説明する。
例えば、圧電基材12Aの長さ方向に張力が印加されると、第1の圧電体18Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わり、ヘリカルキラル高分子(A)は分極する。このヘリカルキラル高分子(A)の分極は、
図2(B)中、矢印で示されるように、圧電基材12Aの径方向に生じ、その分極方向は位相が揃えられて生じると考えられる。これにより、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
さらに、具体的態様Aの圧電基材12Aでは、内部導体16Aと第1の圧電体18Aとの間に接着層が配置されているため、第1の圧電体18Aに張力がより印加されやすくなっている。
以上のことから、具体的態様Aの圧電基材12Aによれば、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性が優れたものとなる。
【0059】
次に、本実施の形態に係る圧電基材の具体的態様Bについて、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、具体的態様Aと同一のものには同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0060】
〔具体的態様B〕
図3は、本実施の形態に係る圧電基材の具体的態様Bを示す側面図である。
具体的態様Bの圧電基材12としての圧電基材12Bは、長尺状の第2の圧電体18Bを備えている点が第1の態様の圧電基材12Aと異なる。
なお、第1の圧電体18Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、第2の圧電体18Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティとは、互いに異なっている。
第1の圧電体18Aは、具体的態様Aと同様に、内部導体16Aの外周面に沿って、螺旋角度β1で一端から他端にかけて、隙間がないように一方向に螺旋状に巻回されている。
一方、
図3に示すように、第2の圧電体18Bは、第1の圧電体18Aの外周面に沿って、螺旋角度β1と略同一角度である螺旋角度β2で第1の圧電体18Aの巻回方向とは逆の方向で螺旋状に巻回されている。「螺旋角度β2」とは、前述の螺旋角度β1と同義である。
ここで、具体的態様Bにおける「第1の圧電体18Aの巻回方向と逆の方向」とは、右巻きのことである。即ち、圧電基材12Aを内部導体16Aの軸方向G2の一端側(
図3の場合、右端側)から見たときに、第2の圧電体18Bは、内部導体16Aの手前側から奥側に向かって右巻きで巻回している。
また、
図3中、第2の圧電体18Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、両矢印E2で示されている。即ち、第2の圧電体18Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、第2の圧電体18Bの配置方向(第2の圧電体18Bの長さ方向)とは、略平行となっている。
【0061】
以下、具体的態様Bの圧電基材12Bの作用について説明する。
例えば、圧電基材12Bの長さ方向に張力が印加されると、第1の圧電体18Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)、及び第2の圧電体18Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)両方にずり応力が印加され、分極が生じる。分極方向はいずれも圧電基材12Bの径方向である。これにより、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
以上のことから、具体的態様Bの圧電基材12Bによれば、圧電感度、及び圧電出力の安定性がより向上する。
特に、具体的態様Bの圧電基材12Bが外部導体を備える場合には、圧電体が第1の圧電体18A及び第2の圧電体18Bを備え、かつ二層構造をなすため、内部導体や外部導体に対して、第1の圧電体18A及び第2の圧電体18Bの空隙が少なく密着させることが可能となり、張力によって発生した電界が効率よく電極に伝達されやすい。従って、より高感度なセンサを実現するのに好適な形態である。
【0062】
次に、本実施の形態に係る圧電基材の具体的態様Cについて、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、具体的態様A及び具体的態様Bと同一のものには同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0063】
〔具体的態様C〕
図4は、本実施の形態に係る圧電基材の具体的態様Cを示す側面図である。
具体的態様Cの圧電基材12としての圧電基材12Cは、第1の圧電体18A及び第2の圧電体18Bが交互に交差されており組紐構造をなしている点が具体的態様Bの圧電基材12Bと異なる。なお、第1の圧電体18Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、第2の圧電体18Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティとは、互いに異なっている。
図4に示すように、具体的態様Cの圧電基材12Cでは、第1の圧電体18Aが、内部導体16Aの軸方向G3に対し、螺旋角度β1とされて左巻きで螺旋状に巻回され、第2の圧電体18Bが、螺旋角度β2とされて右巻きで螺旋状に巻回されると共に、第1の圧電体18A及び第2の圧電体18Bが交互に交差されている。
また、
図4に示す組紐構造において、第1の圧電体18Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向(両矢印E1)と、第1の圧電体18Aの配置方向とは、略平行となっている。同様に、第2の圧電体18Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向(両矢印E2)と、第2の圧電体18Bの配置方向とは、略平行となっている。
【0064】
以下、具体的態様Cの圧電基材12Cの作用について説明する。
具体的態様Bと同様に、例えば、圧電基材12Cの長さ方向に張力が印加されると、第1の圧電体18Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)、及び第2の圧電体18Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)両方に分極が生じる。分極方向はいずれも圧電基材12Cの径方向である。これにより、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
以上のことから、具体的態様Cの圧電基材12Cによれば、圧電感度、及び圧電出力の安定性がより向上する。
特に、具体的態様Cの圧電基材12Cが外部導体を備える場合には、圧電基材12Cの長さ方向に張力が印加されたときに、組紐構造を形成する左巻きの第1の圧電体18Aと右巻きの第2の圧電体18Bにずり応力が印加され、その分極の方向は一致し、内部導体16Aと外部導体の間の絶縁体(即ち、第1の圧電体18A及び第2の圧電体18B)における圧電性能に寄与する体積分率が増えるため、圧電性能がより向上する。そのため、具体的態様Cの圧電基材12Cは3次元平面に沿わすような、例えばウェアラブル端末などのウェアラブル製品の一構成部材として好適に使用できる。
【0065】
次に、本実施の形態の圧電基材に含まれる導体、第1の圧電体などについて説明する。
【0066】
〔導体〕
本実施の形態の圧電基材は、長尺状の導体を備える。
本実施の形態における導体(例えば内部導体)は、信号線導体であることが好ましい。
信号線導体とは、第1の圧電体或いは第2圧電体から効率的に電気的信号を検出するための導体をいう。具体的には、本実施の形態の圧電基材に張力が印加されたときに、印加された張力に応じた電圧信号(電荷信号)を検出するための導体である。
導体としては、電気的な良導体であることが好ましく、例えば、銅線、アルミ線、SUS線、絶縁皮膜被覆された金属線、カーボンファイバー、カーボンファイバーと一体化した樹脂繊維、錦糸線、有機導電材料等を用いることが可能である。錦糸線とは、繊維に銅箔がスパイラルに巻回されたものをいう。導体の中でも、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上し、高い屈曲性を付与する観点から、錦糸線、カーボンファイバーが好ましい。
特に、電気的抵抗が低く、かつ屈曲性、可とう性が要求される用途(例えば衣服に内装するようなウェアラブルセンサ等の用途)においては、錦糸線を用いることが好ましい。
また、非常に高い屈曲性、しなやかさが求められる、織物や、編物などへの加工用途(例えば圧電織物、圧電編物、圧電センサ(織物状圧電センサ、編物状圧電センサ))においては、カーボンファイバーを用いることが好ましい。
また、本実施の形態の圧電基材を繊維として用いて、圧電織物や圧電編物に加工する場合は、しなやかさ、高屈曲性が求められる。そのような用途においては、糸状、又は繊維状の信号線導体が好ましい。糸状、繊維状の信号線導体を備える圧電基材は、高い屈曲性を有するため、織機や編機での加工が好適である。
【0067】
〔第1の圧電体〕
本実施の形態の圧電基材は、長尺状の第1の圧電体を備える。
第1の圧電体は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含む圧電体である。
【0068】
(ヘリカルキラル高分子(A))
本実施の形態における第1の圧電体は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含む。
ここで、「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」とは、分子構造が螺旋構造であり分子光学活性を有する高分子を指す。
【0069】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、例えば、ポリペプチド、セルロース誘導体、ポリ乳酸系高分子、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。
上記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。
上記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0070】
ヘリカルキラル高分子(A)は、第1の圧電体の圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、96.00%ee以上であることがより好ましく、99.00%ee以上であることがさらに好ましく、99.99%ee以上であることがさらにより好ましい。望ましくは100.00%eeである。ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
【0071】
ここで、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
即ち、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、
『「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値である。
【0072】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
【0073】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する高分子が好ましい。
【0075】
上記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする高分子としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。
ここで、ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸(L−乳酸及びD−乳酸から選ばれるモノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)」、「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
ポリ乳酸系高分子の中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA、単に「L体」ともいう)又はD−乳酸のホモポリマー(PDLA、単に「D体」ともいう)が最も好ましい。
【0076】
ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子である。
ポリ乳酸は、ラクチドを経由するラクチド法;溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法;などによって製造できることが知られている。
ポリ乳酸としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0077】
上記「L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸;グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸及びこれらの無水物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール;セルロース等の多糖類;α−アミノ酸等のアミノカルボン酸;等を挙げることができる。
【0078】
上記「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーが挙げられる。
【0079】
また、ヘリカルキラル高分子(A)中におけるコポリマー成分に由来する構造の濃度は20mol%以下であることが好ましい。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)が、ポリ乳酸系高分子である場合、ポリ乳酸系高分子中における、乳酸に由来する構造と、乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造と、のモル数の合計に対して、コポリマー成分に由来する構造の濃度が20mol%以下であることが好ましい。
【0080】
ポリ乳酸系高分子は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法;米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法;などにより製造することができる。
【0081】
さらに、上記各製造方法により得られたポリ乳酸系高分子は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0082】
−重量平均分子量−
ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)は、5万〜100万であることが好ましい。
ヘリカルキラル高分子(A)のMwが5万以上であることにより、第1の圧電体の機械的強度が向上する。上記Mwは、10万以上であることが好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
一方、ヘリカルキラル高分子(A)のMwが100万以下であることにより、成形(例えば押出成形、溶融紡糸)によって第1の圧電体を得る際の成形性が向上する。上記Mwは、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
【0083】
また、ヘリカルキラル高分子(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、第1の圧電体の強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
【0084】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いて測定された値を指す。ここで、Mnは、ヘリカルキラル高分子(A)の数平均分子量である。
以下、GPCによるヘリカルキラル高分子(A)のMw及びMw/Mnの測定方法の一例を示す。
【0085】
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
第1の圧電体を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mlのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mlを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入する。
【0086】
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。
ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
【0087】
ヘリカルキラル高分子(A)の例であるポリ乳酸系高分子としては、市販のポリ乳酸を用いることができる。
市販品としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H−100、H−400)、NatureWorks LLC社製のIngeo
TM biopolymer、等が挙げられる。
ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を用いるときに、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、又は直接重合法によりポリ乳酸系高分子を製造することが好ましい。
【0088】
本実施の形態における第1の圧電体は、上述したヘリカルキラル高分子(A)を、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
本実施の形態における第1の圧電体中におけるヘリカルキラル高分子(A)の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、第1の圧電体の全量に対し、80質量%以上が好ましい。
【0089】
〔安定化剤〕
第1の圧電体は、更に、一分子中に、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を含有することが好ましい。これにより、耐湿熱性をより向上させることができる。
【0090】
安定化剤(B)としては、国際公開第2013/054918号の段落0039〜0055に記載された「安定化剤(B)」を用いることができる。
【0091】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にカルボジイミド基を含む化合物(カルボジイミド化合物)としては、モノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物、環状カルボジイミド化合物が挙げられる。
モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、等が好適である。
また、ポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621)により、製造されたものを用いることができる。具体的には特許4084953号公報に記載のカルボジイミド化合物を用いることもできる。
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド、等が挙げられる。
環状カルボジイミド化合物は、特開2011−256337号公報に記載の方法などに基づいて合成することができる。
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成社製、B2756(商品名)、日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA−1(商品名)、ラインケミー社製、Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0092】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)としては、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0093】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にエポキシ基を含む化合物(エポキシ化合物)としては、フェニルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0094】
安定化剤(B)の重量平均分子量は、上述のとおり200〜60000であるが、200〜30000がより好ましく、300〜18000がさらに好ましい。
分子量が上記範囲内ならば、安定化剤(B)がより移動しやすくなり、耐湿熱性改良効果がより効果的に奏される。
安定化剤(B)の重量平均分子量は、200〜900であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量200〜900は、数平均分子量200〜900とほぼ一致する。また、重量平均分子量200〜900の場合、分子量分布が1.0である場合があり、この場合には、「重量平均分子量200〜900」を、単に「分子量200〜900」と言い換えることもできる。
【0095】
第1の圧電体が安定化剤(B)を含有する場合、上記第1の圧電体は、安定化剤を1種のみ含有してもよいし、2種以上含有してもよい。
第1の圧電体が安定化剤(B)を含む場合、安定化剤(B)の含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、0.01質量部〜10質量部であることが好ましく、0.01質量部〜5質量部であることがより好ましく、0.1質量部〜3質量部であることがさらに好ましく、0.5質量部〜2質量部であることが特に好ましい。
上記含有量が0.01質量部以上であると、耐湿熱性がより向上する。
また、上記含有量が10質量部以下であると、透明性の低下がより抑制される。
【0096】
安定化剤(B)の好ましい態様としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、且つ、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有し、且つ、重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)とを併用するという態様が挙げられる。なお、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)の重量平均分子量は、大凡200〜900であり、安定化剤(B1)の数平均分子量と重量平均分子量とはほぼ同じ値となる。
安定化剤として安定化剤(B1)と安定化剤(B2)とを併用する場合、安定化剤(B1)を多く含むことが透明性向上の観点から好ましい。
具体的には、安定化剤(B1)100質量部に対して、安定化剤(B2)が10質量部〜150質量部の範囲であることが、透明性と耐湿熱性の両立という観点から好ましく、50質量部〜100質量部の範囲であることがより好ましい。
【0097】
以下、安定化剤(B)の具体例(安定化剤B−1〜B−3)を示す。
【0099】
以下、上記安定化剤B−1〜B−3について、化合物名、市販品等を示す。
・安定化剤B−1 … 化合物名は、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドである。重量平均分子量(この例では、単なる「分子量」に等しい)は、363である。市販品としては、ラインケミー社製「Stabaxol I」、東京化成社製「B2756」が挙げられる。
・安定化剤B−2 … 化合物名は、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約2000のものとして、日清紡ケミカル社製「カルボジライトLA−1」が挙げられる。
・安定化剤B−3 … 化合物名は、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約3000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P」が挙げられる。また、重量平均分子量20000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P400」が挙げられる。
【0100】
〔その他の成分〕
第1の圧電体は、必要に応じ、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の公知の樹脂;シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の公知の無機フィラー;フタロシアニン等の公知の結晶核剤;安定化剤(B)以外の安定化剤;等が挙げられる。
無機フィラー及び結晶核剤としては、国際公開第2013/054918号の段落0057〜0058に記載された成分を挙げることもできる。
【0101】
〔配向度F〕
本実施の形態における第1の圧電体の配向度Fは、上述したとおり、0.5以上1.0未満であるが、0.7以上1.0未満であることが好ましく、0.8以上1.0未満であることがより好ましい。
第1の圧電体の配向度Fが0.5以上であれば、延伸方向に配列するヘリカルキラル高分子(A)の分子鎖(例えばポリ乳酸分子鎖)が多く、その結果、配向結晶の生成する率が高くなり、より高い圧電性を発現することが可能となる。
第1の圧電体の配向度Fが1.0未満であれば、縦裂強度が更に向上する。
【0102】
〔結晶化度〕
本実施の形態における第1の圧電体の結晶化度は、上述のX線回折測定(広角X線回折測定)によって測定される値である。
本実施の形態における第1の圧電体の結晶化度は、好ましくは20%〜80%であり、より好ましくは25%〜70%であり、更に好ましくは30%〜60%である。
結晶化度が20%以上であることにより、圧電性が高く維持される。結晶化度が80%以下であることにより、第1の圧電体の透明性が高く維持される。
結晶化度が80%以下であることにより、例えば、第1の圧電体の原料となる圧電フィルムを延伸によって製造する際に白化や破断がおきにくいので、第1の圧電体を製造しやすい。また、結晶化度が80%以下であることにより、例えば、第1の圧電体の原料(例えばポリ乳酸)を溶融紡糸後に延伸によって製造する際に屈曲性が高く、しなやかな性質を有する繊維となり、第1の圧電体を製造しやすい。
【0103】
〔透明性(内部ヘイズ)〕
本実施の形態における第1の圧電体において、透明性は特に要求されないが、透明性を有していてももちろん構わない。
第1の圧電体の透明性は、内部ヘイズを測定することにより評価することができる。ここで、第1の圧電体の内部ヘイズとは、第1の圧電体の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズを指す。
第1の圧電体は、透明性が要求される場合には、可視光線に対する内部ヘイズが5%以下であることが好ましく、透明性及び縦裂強度をより向上させる観点からは、2.0%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。第1の圧電体の前記内部ヘイズの下限値は特に限定はないが、下限値としては、例えば0.01%が挙げられる。
第1の圧電体の内部ヘイズは、厚さ0.03mm〜0.05mmの第1の圧電体に対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色社製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値である。
以下、第1の圧電体の内部ヘイズの測定方法の例を示す。
まず、ガラス板2枚の間に、シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んだサンプル1を準備し、このサンプル1の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H2)とする)を測定する。
次に、上記のガラス板2枚の間に、シリコーンオイルで表面を均一に塗らした複数の第1の圧電体を隙間なく並べて挟んだサンプル2を準備し、このサンプル2の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H3)とする)を測定する。
次に、下記式のようにこれらの差をとることにより、第1の圧電体の内部ヘイズ(H1)を得る。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
ここで、ヘイズ(H2)及びヘイズ(H3)の測定は、それぞれ、下記測定条件下で下記装置を用いて行う。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0104】
〔第1の圧電体の形状、寸法〕
本実施の形態の圧電基材は、長尺状の第1の圧電体を備える。
長尺状の第1の圧電体としては、単数若しくは複数の束からなる繊維形状(糸形状)を有する圧電体、又は長尺平板形状を有する圧電体であることが好ましい。
以下、繊維形状を有する圧電体(以下、繊維状圧電体ともいう)、長尺平板形状を有する圧電体(以下、長尺平板状圧電体ともいう)について順に説明する。
【0105】
−繊維状圧電体−
繊維状圧電体としては、例えば、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸が挙げられる。
【0106】
・モノフィラメント糸
モノフィラメント糸の単糸繊度は、好ましくは3dtex〜30dtexであり、より好ましくは5dtex〜20dtexである。
単糸繊度が3dtex未満になると、織物準備工程や製織工程において糸を取り扱うことが困難となる。一方、単糸繊度が30dtexを超えると、糸間で融着が発生し易くなる。
モノフィラメント糸は、コストの点を考慮すれば直接的に紡糸、延伸して得ることが好ましい。なお、モノフィラメント糸は入手したものであってもよい。
【0107】
・マルチフィラメント糸
マルチフィラメント糸の総繊度は、好ましくは30dtex〜600dtexであり、より好ましくは100dtex〜400dtexである。
マルチフィラメント糸は、例えば、スピンドロー糸などの一工程糸の他、UDY(未延伸糸)やPOY(高配向未延伸糸)などを延伸して得る二工程糸のいずれもが採用可能である。なお、マルチフィラメント糸は入手したものであってもよい。
ポリ乳酸系モノフィラメント糸、ポリ乳酸系マルチフィラメント糸の市販品としては、東レ製のエコディア
(R)PLA、ユニチカ製のテラマック
(R)、クラレ製プラスターチ
(R)が使用可能である。
【0108】
繊維状圧電体の製造方法には特に限定はなく、公知の方法により製造することができる。
例えば、第1の圧電体としてのフィラメント糸(モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸)は、原料(例えばポリ乳酸)を溶融紡糸した後、これを延伸することにより得ることができる(溶融紡糸延伸法)。なお、紡出後において、冷却固化するまでの糸条近傍の雰囲気温度を一定温度範囲に保つことが好ましい。
また、第1の圧電体としてのフィラメント糸は、例えば、上記溶融紡糸延伸法で得られたフィラメント糸をさらに分繊することにより得てもよい。
【0109】
・断面形状
繊維状圧電体の断面形状としては、繊維状圧電体の長手方向に垂直な方向の断面において、円形状、楕円形状、矩形状、繭形状、リボン形状、4つ葉形状、星形状、異形状など様々な断面形状を適用することが可能である。
【0110】
−長尺平板状圧電体−
長尺平板状圧電体としては、例えば、公知の方法で作製した圧電フィルム、又は入手した圧電フィルムをスリットすることにより得た長尺平板状圧電体(例えばスリットリボン)などが挙げられる。
第1の圧電体として、長尺平板状圧電体を用いることにより、導体に対して、面で密着することが可能となるため、効率的に圧電効果により発生した電荷を電圧信号として検出することが可能となる。
【0111】
本実施の形態における長尺平板状圧電体(第1の圧電体)は、第1の圧電体の少なくとも一方の主面の側に配置された機能層を備えることが好ましい。
機能層は、単層構造であっても二層以上からなる構造であってもよい。
例えば、長尺平板状圧電体の両方の主面の側に機能層が配置される場合、一方の主面(以下、便宜上、「オモテ面」ともいう)の側に配置される機能層、及び、他方の面(以下、便宜上、「ウラ面」ともいう)の側に配置される機能層は、それぞれ独立に、単層構造であっても二層以上からなる構造であってもよい。
【0112】
機能層としては、様々な機能層が挙げられる。
機能層として、例えば、易接着層、ハードコート層、屈折率調整層、アンチリフレクション層、アンチグレア層、易滑層、アンチブロック層、保護層、接着層、帯電防止層、放熱層、紫外線吸収層、アンチニュートンリング層、光散乱層、偏光層、ガスバリア層、色相調整層、電極層などが挙げられる。
機能層は、これらの層のうちの二層以上からなる層であってもよい。
また、機能層としては、これらの機能のうちの2つ以上を兼ね備えた層であってもよい。
長尺平板状圧電体の両方の主面に機能層が設けられている場合は、オモテ面側に配置される機能層及びウラ面側に配置される機能層は、同じ機能層であっても、異なる機能層であってもよい。
【0113】
また、機能層の効果には、長尺平板状圧電体表面のダイラインや打痕などの欠陥が埋められ、外観が向上するという効果もある。この場合は長尺平板状圧電体と機能層との屈折率差が小さいほど長尺平板状圧電体と機能層と界面の反射が低減し、より外観が向上する。
【0114】
前記機能層は、易接着層、ハードコート層、帯電防止層、アンチブロック層、保護層、及び電極層のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。これにより、例えば圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサ、アクチュエータ、生体情報取得デバイスへの適用がより容易となる。
【0115】
前記機能層は、電極層を含むことがより好ましい。
電極層は、長尺平板状圧電体に接して設けられていてもよいし、電極層以外の機能層を介して設けられていてもよい。
【0116】
本実施の形態における長尺平板状圧電体(第1の圧電体)の特に好ましい態様は、長尺平板状圧電体の両方の主面の側に機能層を備え、かつ、両面の機能層がいずれも電極層を含む態様である。
【0117】
本実施の形態における長尺平板状圧電体(第1の圧電体)において、第1の圧電体と、機能層と、を含む積層体の表面層の少なくとも一方が、電極層であることが好ましい。即ち、本実施の形態における長尺平板状圧電体(第1の圧電体)において、オモテ面側の表面層及びウラ面側の表面層の少なくとも一方が、電極層であること(言い換えれば、電極層が露出していること)が好ましい。
これにより、長尺平板状圧電体を、例えば圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサ、アクチュエータ、生体情報取得デバイスの構成要素の一つとして用いた場合に、導体(好ましくは内部導体)又は第1の外部導体と、積層体との接続をより簡易に行うことができるので、圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサ、アクチュエータ、生体情報取得デバイスの生産性が向上する。
【0118】
機能層の材料としては、特に限定されるものではないが、例えば金属や金属酸化物等の無機物;樹脂等の有機物;樹脂と微粒子とを含む複合組成物;などが挙げられる。樹脂としては、例えば、温度や活性エネルギー線で硬化させることで得られる硬化物を利用することもできる。つまり、樹脂としては、硬化性樹脂を利用することもできる。
【0119】
硬化性樹脂としては、例えばアクリル系化合物、メタクリル系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、エポキシド系化合物、グリシジル系化合物、オキセタン系化合物、メラミン系化合物、セルロース系化合物、エステル系化合物、シラン系化合物、シリコーン系化合物、シロキサン系化合物、シリカ−アクリルハイブリット化合物、及びシリカ−エポキシハイブリット化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料(硬化性樹脂)が挙げられる。
これらの中でも、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、シラン系化合物がより好ましい。
金属としては、例えば、Al、Si、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、In、Sn、W、Ag、Au、Pd、Pt、Sb、Ta及びZrから選ばれる少なくとも一つ、又は、これらの合金が挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、及び酸化タンタル、またこれらの複合酸化物の少なくとも1つが挙げられる。
微粒子としては上述したような金属酸化物の微粒子や、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂などの樹脂微粒子などが挙げられる。さらにこれらの微粒子の内部に空孔を有する中空微粒子も挙げられる。
微粒子の平均一次粒径としては、透明性の観点から1nm以上500nm以下が好ましく、5nm以上300nm以下がより好ましく、10nm以上200nm以下が更に好ましい。500nm以下であることで可視光の散乱が抑制され、1nm以上であることで微粒子の二次凝集が抑制され、透明性の維持の観点から望ましい。
【0120】
機能層の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.01μm〜10μmの範囲が好ましい。
【0121】
上記厚さの上限値は、より好ましくは6μm以下であり、更に好ましくは3μm以下である。また、下限値はより好ましくは0.01μm以上であり、更に好ましくは0.02μm以上である。
【0122】
機能層が複数の機能層からなる多層膜の場合には、上記厚さは多層膜全体における厚さを表す。また、機能層は長尺平板状圧電体の両面にあってもよい。また、機能層の屈折率は、それぞれが異なる値であってもよい。
【0123】
長尺平板状圧電体の製造方法には特に限定はなく、公知の方法により製造することができる。
また、例えば、圧電フィルムから第1の圧電体を製造方法としては、原料(例えばポリ乳酸)をフィルム状に成形して未延伸フィルムを得、得られた未延伸フィルムに対し、延伸及び結晶化を施し、得られた圧電フィルムをスリットすることにより得ることができる。
ここで、「スリットする」とは、上記圧電フィルムを長尺状にカットすることを意味する。なお、上記延伸及び結晶化は、いずれが先であってもよい。また、未延伸フィルムに対し、予備結晶化、延伸、及び結晶化(アニール)を順次施す方法であってもよい。延伸は、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよい。二軸延伸の場合には、好ましくは一方(主延伸方向)の延伸倍率を高くする。
圧電フィルムの製造方法については、特許第4934235号公報、国際公開第2010/104196号、国際公開第2013/054918号、国際公開第2013/089148号、等の公知文献を適宜参照できる。
【0124】
〔第2の圧電体〕
本実施の形態の圧電基材は、長尺状の第2の圧電体を備えることがある。
第2の圧電体は、第1の圧電体と同様の特性を有していることが好ましい。
即ち、第2の圧電体は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
第2の圧電体の長さ方向と、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(b)によって求められる第2の圧電体の配向度Fは0.5以上1.0未満の範囲であることが好ましい。
第2の圧電体は、上記以外の特性においても、第1の圧電体と同様の特性を有していることが好ましい。
但し、第1の圧電体及び第2の圧電体の巻回方向、並びに、第1の圧電体及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティについては、本発明の効果がより奏される観点から、圧電基材の態様に応じて適宜選択すればよい。
なお、第1の圧電体及び第2の圧電体の巻回方向、並びに、第1の圧電体及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティの好ましい組み合わせの一例については、前述の具体的態様で説明した通りである。
また、第2の圧電体は、第1の圧電体と異なる特性を有していてもよい。
【0125】
〔第1の絶縁体〕
本実施の形態の圧電基材は、さらに、第1の絶縁体を備えていてもよい。
第1の絶縁体は、内部導体の外周面に沿って螺旋状に巻回されることが好ましい。
この場合、第1の絶縁体は、第1の圧電体から見て、内部導体とは反対側に配置されていてもよく、内部導体と第1の圧電体との間に配置されていてもよい。
また、第1の絶縁体の巻回方向は、第1の圧電体の巻回方向と同じ方向であってもよく、異なる方向であってもよい。
特に、本実施の形態の圧電基材が第1の外部導体を備える場合においては、本実施の形態に係る圧電基材が、さらに、第1の絶縁体を備えることにより、圧電基材が屈曲変形する時に、内部導体と外部導体の電気的短絡の発生を抑制しやすくなるという利点がある。
【0126】
第1の絶縁体としては、特に限定はないが、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロプロピルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ素ゴム、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ゴム(エラストマーを含む)等が挙げられる。
第1の絶縁体の形状は、導体に対する巻回の観点から、長尺形状であることが好ましい。
【0127】
〔第2の絶縁体〕
本実施の形態の圧電基材において、外周に第1の外部導体を備える場合、さらに、第1の外部導体の外周に第2の絶縁体を備えていてもよい。
これにより、圧電センサとして機能させる場合、信号線となる内部導体を静電シールドすることが可能となり、外部の静電気の影響による、導体(好ましくは内部導体)の電圧変化が抑制される。
【0128】
第2の絶縁体には特に限定はないが、例えば、第1の絶縁体として例示した材料が挙げられる。
また、第2の絶縁体の形状は特に限定はなく、第1の外部導体の少なくとも一部を被覆できる形状であればよい。
【0129】
〔第1の外部導体〕
本実施の形態の圧電基材は、さらに、外周に第1の外部導体を備えることが好ましい。
本実施の形態における第1の外部導体は、圧電センサとして機能させる場合、グラウンド導体であることが好ましい。
グラウンド導体とは、信号を検出する際、例えば、導体(好ましくは信号線導体)の対となる導体を指す。
【0130】
グラウンド導体の材料には特に限定はないが、断面形状によって、主に以下のものが挙げられる。
例えば、矩形断面を有するグラウンド導体の材料としては、円形断面の銅線を圧延して平板状に加工した銅箔リボンや、Al箔リボンなどを用いることが可能である。
例えば、円形断面を有するグラウンド導体の材料としては、銅線、アルミ線、SUS線、絶縁皮膜被覆された金属線、カーボンファイバー、カーボンファイバーと一体化した樹脂繊維、繊維に銅箔がスパイラルに巻回された錦糸線を用いることが可能である。
また、グラウンド導体の材料として、有機導電材料を絶縁材料でコーティングしたものを用いてもよい。
【0131】
グラウンド導体は、信号線導体と短絡しないように、導体(好ましくは信号線導体)及び第1の圧電体を包むように配置されていることが好ましい。
このような信号線導体の包み方としては、銅箔などを螺旋状に巻回して包む方法や、銅線などを筒状の組紐にして、その中に包みこむ方法などを選択することが可能である。
なお、信号線導体の包み方は、これら方法に限定されない。信号線導体を包み込むことにより、静電シールドすることが可能となり、外部の静電気の影響による、信号線導体の電圧変化を防ぐことが可能となる。
また、グラウンド導体の配置は、本実施の形態の圧電基材の最小基本構成単位(即ち、導体及び第1の圧電体)を円筒状に包接するように配置することも好ましい形態の一つである。
【0132】
グラウンド導体の断面形状は、円形状、楕円形状、矩形状、異形状など様々な断面形状を適用することが可能である。特に、矩形断面は、導体(好ましくは信号線導体)、第1の圧電体、必要に応じて第1の絶縁体、第2の圧電体などに対して、平面で密着することが可能となるため、効率的に圧電効果により発生した電荷を電圧信号として検出することが可能となる。
【0133】
〔接着層を形成する接着剤〕
本実施の形態の圧電基材は、導体及び第1の圧電体の間に接着層を備えることが好ましい。
接着層を形成する接着剤は、前記導体と前記第1の圧電体との間を機械的に一体化するため、又は、圧電基材が外部導体を備える場合は電極間(導体及び外部導体間)の距離を保持するために用いる。
導体及び第1の圧電体の間に接着層を備えることにより、本実施の形態の圧電基材に張力が印加されたときに、導体と第1の圧電体との相対位置がずれにくくなるため、第1の圧電体に張力がかかりやすくなる。従って、効果的に張力に比例した電圧出力を導体(好ましくは信号線導体)から検出することが可能となる。この結果、圧電感度、及び圧電出力の安定性がより向上する。また、接着層を備えることで、単位引張力当たりの発生電荷量の絶対値がより増加する。
一方、導体及び第1の圧電体の間に接着層を備えない圧電基材では、圧電繊維などに加工した後もしなやかな性質が保たれるため、ウェアラブルセンサ等にしたときに装着感が良好となる。
【0134】
接着層を形成する接着剤の材料としては、以下の材料を用いることが可能である。
エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、酢酸ビニル樹脂系エマルション形接着剤、(EVA)系エマルション形接着剤、アクリル樹脂系エマルション形接着剤、スチレン・ブタジエンゴム系ラテックス形接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、α−オレフィン(イソブテン−無水マレイン酸樹脂)系接着剤、塩化ビニル樹脂系溶剤形接着剤、ゴム系接着剤、弾性接着剤、クロロプレンゴム系溶剤形接着剤、ニトリルゴム系溶剤形接着剤等、シアノアクリレート系接着剤等を用いることが可能となる。
【0135】
−弾性率−
本実施の形態における接着剤は、接合後の弾性率が第1の圧電体と同程度以上であることが好ましい。第1の圧電体の弾性率に対して、弾性率が低い材料を用いると、本実施の形態の圧電基材に印加された張力による歪(圧電歪)が接着剤部分で緩和され、第1の圧電体への歪の伝達効率が小さくなるため、本実施の形態の圧電基材を、例えばセンサに適用した場合、センサの感度が低くなりやすい。
【0136】
−厚さ−
本実施の形態における接着剤の接合部位の厚さは、接合する対象間に空隙ができず、接合強度が低下しない範囲であれば薄ければ薄い程良い。接合部位の厚さを小さくすることで、圧電基材に印加された張力による歪が接着剤部分で緩和されにくくなり、第1の圧電体への歪が効率的に小さくなるため、本実施の形態の圧電基材を、例えばセンサに適用した場合、センサの感度が向上する。
【0137】
−接着剤の塗布方法−
接着剤の塗布方法は特に限定されないが、主に以下の2つの方法を用いることが可能である。
【0138】
・加工後に接着剤を配置し接合する方法
例えば、導体(好ましくは信号線導体)及び第1の圧電体の配置;信号線導体及びグラウンド導体の加工、配置;が完了した後に、ディップコートや、含浸等の方法で、導体及び第1の圧電体の界面に接着剤を配置し接着する方法が挙げられる。
また、上記方法により、導体及び第1の圧電体を接合する他、必要に応じて、本実施の形態の圧電基材に備えられる各部材間を接合してもよい。
【0139】
・加工前に未硬化の接着剤を配置し、加工後に接合する方法
例えば、予め第1の圧電体の表面に光硬化性の接着剤、熱硬化性の接着剤、熱可塑性の接着剤などを、グラビアコーターやディップコーター等でコーティングし乾燥させ、導体及び第1の圧電体の配置が完了した後に、紫外線照射や加熱により接着剤を硬化させ、導体及び第1の圧電体の界面を接合する方法が挙げられる。
また、上記方法により、導体及び第1の圧電体を接合する他、必要に応じて、本実施の形態の圧電基材に備えられる各部材間を接合してもよい。
上記方法を用いれば、接着剤をコーティング乾燥後はドライプロセスでの加工が可能となり加工が容易となる、また均一な塗膜厚が形成しやすいためセンサ感度等のバラツキが少ないといった特徴がある。
【0140】
〔圧電基材の製造方法〕
本実施の形態の圧電基材の製造方法には特に限定はないが、例えば、第1の圧電体を準備して、別途準備した導体(好ましくは信号線導体)に対して、第1の圧電体を一方向に螺旋状に巻回することにより製造することができる。
第1の圧電体は、公知の方法で製造したものであっても、入手したものであってもよい。
また、本実施の形態の圧電基材が、必要に応じて第2の圧電体、第1の絶縁体を備える場合、かかる圧電基材は、第1の圧電体を螺旋状に巻回する方法に準じて、製造することができる。
但し、第1の圧電体及び第2の圧電体の巻回方向、並びに、第1の圧電体及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティについては、前述の通り、圧電基材の態様に応じて適宜選択することが好ましい。
また、本実施の形態の圧電基材が、第1の外部導体(例えばグラウンド導体)を備える場合、かかる圧電基材は、前述の方法又は公知の方法により、第1の外部導体を配置することにより製造することができる。
なお、導体及び第1の圧電体の間、必要に応じて、本実施の形態の圧電基材に備えられる各部材間を、例えば前述の方法により接着剤を介して貼り合わせてもよい。
【0141】
本実施の形態の圧電基材は、引張力を印加することで、引張力に比例したずり歪が、ヘリカルキラル(A)に印加され、電圧信号(電荷信号)として導体から検出される。
【0142】
次に本実施の形態に係るセンサシステムの基本的構成を説明する。
〔センサシステムの基本的構成〕
図5(A)及び
図5(B)には、一対の圧電基材12(センサモジュール10)を用いたセンサシステム30が示されている。センサシステム30では、センサモジュール10として2本の圧電基材12を用いたセンサモジュール10Aが適用されている。センサシステム30では、圧電基材12に関する状態に応じた圧電基材12の内部導体16と圧電体18との間の電位差を検出すると共に、2本の圧電基材12の間に関する状態に応じた2本の圧電基材12の圧電体18の間の電気的特性としての静電容量を検出する。
センサシステム30に設ける圧電基材12は、圧電体18の外周が絶縁性の樹脂により樹脂被覆されていることが好ましい。これにより、圧電基材12に水分及び水分を含む液体が付着しても圧電体18の腐食が抑えられて、長期にわたって使用できる。
センサモジュール10は、少なくとも基部22を含み、基部22は、センサモジュール10が配置される検出対象の機器において、検出位置に設けられる部材を用いることができる。また、センサモジュール10は、加圧部20を含んでも良く、加圧部20は、圧電基材12の保護用として設けられたものであっても良い。
【0143】
センサシステム30には、切替部32、電圧測定部34、静電容量測定部36、切替制御部38、及び判定部及び出力部としての測定処理部40が設けられている。本実施の形態において、センサシステム30は、少なくともセンサモジュール10、電圧検出部としての電圧測定部34、及び静電容量検出部としての静電容量測定部36を含むものであれば良く、判定部として機能する測定処理部40を含んでも良く、測定処理部40がさらに出力部として機能を含んでも良い。また、センサシステム30は、圧電基材12が外部電極14として用いられる場合には、上記に加え切替部32及び切替制御部38を含むことが好ましい。
【0144】
切替制御部38及び測定処理部40としては、CPU、ROM、RAM、不揮発性の記憶手段(例えば、HDD,PEROMなど)、及び入出力ポートがバスによって接続された一般的構成のマイクロコンピュータを用いることができる。マイクロコンピュータは、記憶手段又はROMに予め記憶されている切替制御プログラム及び測定処理プログラムをCPUが実行することで、切替制御部38及び測定処理部40として機能する。
【0145】
2本の圧電基材12は、加圧部20と基部22との間に配置されて所定間隔に保持されている。切替部32には、2本の圧電基材12の各々の内部導体16、及び圧電体18が接続されると共に、電圧測定部34及び静電容量測定部36が接続されている。また、切替部32には、マルチプレクサやデマルチプレクサ等のアナログスイッチ又はリレースイッチなどを用いて切り替えスイッチとして機能する切替回路32Aが形成されており、切替回路32Aの作動が切替制御部38により制御される。
【0146】
図5(A)に示すように、切替制御部38は、圧電基材12を用いて圧力検知を行う場合に、圧電基材12の内部導体16及び圧電体18を電圧測定部34に接続するように切替回路32Aを制御する。これにより、切替回路32Aは、2本の圧電基材12を並列に電圧測定部34に接続する。
電圧測定部34としては、一対の電極間の電位差を検出する任意の回路を適用できる。また、電圧測定部34には、A/D変換器(図示省略)が設けられており、電圧測定部34は、検出された電位差(電圧)に応じたデジタル信号(電圧信号)を出力する。
【0147】
一方、
図5(B)に示すように、切替制御部38は、2本の圧電基材12を用いて静電容量測定を行う場合に、圧電基材12の圧電体18の各々を静電容量測定部36に接続するように切替回路32Aを切り替える。
図6(A)には、静電容量測定部36の一例が示されており、
図6(B)には、2本の圧電基材12の圧電体18間の電位差(以下、電圧Vcという)の変化の概略が示されている。なお、
図6(B)では、破線によりブロックパルスの電圧Vpulesが示され、実線により電圧Vcの変化(過渡応答波形)が示されている。
【0148】
図6(A)に示されるように、静電容量測定部36は、2本の圧電基材12の圧電体18を、コンデンサの一対の電極みなして、充放電を行い、放電時間(充電時間でも良い)に応じた時間信号tfallを出力する。静電容量測定部36には、電圧Vpulseのブロックパルスを発生するパルス発生器42A、放電時間のカウント用の所定周期のパルス信号を発生する発振器42B、カウンタ42C、フリップフロップ(F/F回路)42D、コンパレータ42E、基準電圧Vrefを発生する基準電圧発生部42F、及び所定の抵抗値Rの抵抗素子44が設けられている。
【0149】
静電容量測定部36では、2本の圧電基材12の一方の圧電基材12の圧電体18が接地されると共に、他方の圧電基材12の圧電体18にパルス発生器42Aにより発生されたパルスが抵抗素子44を介して供給される。これにより、2つの圧電体18の間の電圧Vcが電圧Vpulseに充電され。また、静電容量測定部36では、パルス発生器42Aにより発生されたパルスがリセット信号としてカウンタ42Cに入力される。このため、パルスの立下りにより圧電体18間からの放電が開始されると共に、発振器42Bにより発生されたパルスが、F/F回路42Dを介して時間信号tfallとして出力される。また、この放電により、圧電体18の間の電圧Vcがコンパレータ42Eに入力される。コンパレータ42Eは、圧電体18の間の電圧Vcが基準電圧Vrefまで低下すると、F/F回路42Dから時間信号tfall(時間信号tfallとしてパルス)が出力される。
【0150】
図6(B)に示すように、圧電体18の間の電圧Vcは、ブロックパルスが入力されて充填される際に、静電容量Cに応じて電荷が蓄積されて、電圧Vcが電圧Vpulseまで上昇し、放電される際に、電圧Vcが減少する。そのときの時定数τは、静電容量C及び抵抗値Rにより定まる。ここから、静電容量Cは、下記式(c)により得られる。
【数1】
ここで、抵抗値Rが一定にされているので、静電容量測定部36から出力される時間信号tfallから2本の圧電基材12の圧電体18間の静電容量Cを求めることができる。
【0151】
図5(A)及び
図5(B)に示されるように、測定処理部40には、電圧測定部34により検出される電圧Vに応じた電圧信号及び、静電容量測定部36から出力される時間信号tfallが入力される。測定処理部40は、電圧測定部34から入力される電圧Vを予め設定されている閾値(基準値)Vsと比較し、測定された電圧Vが閾値Vsを超えている(V>Vs)ことで、圧電基材12(圧電体18)が加圧されていると判定して、判定結果を外部機器に出力する。
測定処理部40は、静電容量測定部36から入力される時間信号tfallから静電容量Cを求める。また、測定処理部40は、求めた静電容量Cと初期値として予め設定されている静電容量C0との差が閾値Csを超えている場合((C−C0)>Cs)に、加圧部20に水分を含む付着物が付着していると判定し、判定結果を外部機器に出力する。
【0152】
このように構成されているセンサシステム30では、圧電基材12の接続先が所定の時間間隔で交互に切り替えられ、圧電基材12が電圧測定部34と静電容量測定部36とに交互に接続される。圧電基材12が電圧測定部34に接続されている間は、圧力検出が行われる。これにより、加圧部20に人が着座するなどして、圧電基材12に圧力が入力されると、内部導体16と圧電体18との電圧(電位差)Vが上昇して閾値Vsを越えて、加圧部20(圧電基材12)が加圧されたことが外部機器に出力される。
【0153】
一方、圧電基材12が静電容量測定部36に接続されている間は、静電容量検出が行われる。2本の圧電基材12の間では、2つの圧電体18が所定の間隔を隔てて電気的に対向され、2つの圧電体18の間に電圧を印加することで、2つの圧電体18がコンデンサの電極として機能する。
ここで、加圧部20及び基部22に水分等の付着などの変化がなければ、圧電体18の間の静電容量Cに変化がないが、加圧部20に水や水分を含む液体などの付着物が付着したり、付着物が加圧部20に浸み込んだりすると、静電容量Cが増加する。測定処理部40は、静電容量測定部36から出力される時間信号tfallから得られる静電容量Cと初期値C0との差が閾値Cs超える((C−C0)>Cs)ことで、加圧部20に水や水分を含む液体などの付着物が付着したと判定して、判定結果を外部機器に出力する。
【0154】
これにより、センサシステム30が接続された外部機器は、加圧部20が加圧されたか否かを検知できると共に、加圧部20に付着物が付着したり、加圧部20に付着物が浸透したりしていることを検知できる。また、センサシステム30では、加圧部20への加圧を検出する際に、2本の圧電基材12が並列接続されるので、圧電基材12から出力される導体16と圧電体18との電位差(電圧)が安定化されて、加圧状態の検知精度を向上できる。このため、電圧Vと加圧部20に入力された圧力値との関係を計測して予めマップ等において設定しておくことで、電圧Vから圧力値を得ることができる。
【0155】
また、2本の圧電基材12の圧電体18の間の静電容量Cは、例えば、加圧部20の誘電率よりも高い誘電率の物質(液体)が加圧部20に載せられた場合にも上昇するので、センサシステム30は、水を含む液体が加圧部20に付着(浸透を含む)した場合に限らず、水などの液体が収容された物体が加圧部20に載せられた場合にも検知できる。
なお、センサシステム30には、LCDなどの表示手段を設け、測定処理部40が測定結果を表示手段に表示して報知するようにしても良い。
また、時間信号tfallから静電容量Cを求めたが、時間信号tfallから時間tを求め、時間tを予め設定されている閾値tsと比較して、時間tが閾値tsを越えている場合に、加圧部20に水分を含む付着物が付着していると判定しても良い。
【0156】
〔センサシステム〕
次に、本実施の形態に係るセンサシステムを説明する。
図7には、本実施の形態に係るセンサシステム50の概略構成がブロック図にて示されている。
【0157】
センサシステム50には、検知部52、及び測定装置54が設けられている。測定装置54には、切替部56、測定制御部58、及び表示手段としてのLCD等が用いられたモニタ60が設けられている。測定装置54には、CPU、ROM、RAM、不揮発性の記憶手段(例えば、HDD,PEROMなど)、及び入出力ポートがバスによって接続された一般的構成のマイクロコンピュータ、及びインターフェイス回路等が設けられている。これにより、測定装置54には、電圧検出部62、静電容量検出部64、判定部66、出力部68、及び制御部70が形成されており、出力部68にモニタ60が接続されている。測定装置54のマイクロコンピュータは、CPUがROM、記憶手段等に記憶されている電圧検出プログラム、静電容量検出プログラム、判定プログラム、出力プログラム、及び制御プログラムを読み出して実行することで、電圧検出部62、静電容量検出部64、判定部66、出力部68、及び制御部70として機能する。
【0158】
図8には、検知部52が示されている。
図8に示されるように、検知部52には、複数の圧電基材12が設けられており、複数の圧電基材12によりセンサモジュール72が形成されている。圧電基材12は、計測対象とされるシート体74に配置されている。なお、圧電基材12は、圧電体18がウレタンやフッ素樹脂等のポリマーを溶融押出成形するなどして被覆したり、溶融可溶型のワニスにより外周表面をコーティングして樹脂塗膜を形成したりされていることがより好ましい。これにより、圧電基材12(特に圧電体18)を保護できると共に腐食を抑制できて、耐久性を向上できる。
シート体74は、加圧部20としてのシート状の上部シート76と、基部22としてのシート状の下部シート78とが重ねられて形成されている。
シート体74としては、自動車、列車等の各種の車両、航空機、船舶などの移動体に設けられる。また、シート体74は、移動体における乗員が着座するシートクッション、劇場などの非移動体において観客が着座するシートクッションなどの人が座る各種のシート体(椅子に設けられるシート体)が適用される。例えば、シート体74が車両等のシート(シートクッション)である場合、上部シート76及び下部シート78は、軟質発泡ウレタン等の車両のシートクッションに用いられる一般的材質が適用される。また、上部シート76及び下部シート78は、上部シート76の厚さをda、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率E’aとし、下部シート78の厚さをdb、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率E’bとしたとき、下記関係式(a)を満たすように構成されている。
da/E’a<db/E’b・・・式(a)
関係式(a)が満たされる構成であれば、センサモジュール72は、少なくとも下部シート78を含み、上部シート76が、圧電基材12の保護用として設けられたものであっても良い。
【0159】
圧電基材12は、複数(一例として6本)が略一様の間隔で軸線が略平行にされて下部シート78上に配列されて、上部シート76と下部シート78との間に挟まれている。また、圧電基材12の各々は、上部シート76及び下部シート78の弾性変形に応じて湾曲可能にされ、かつ互いの接離方向に移動するのが抑制された状態とされて、上部シート76と下部シート78との間に保持されている。
【0160】
シート体74における圧電基材12の保持は、特に限定されないが、接着剤や粘着剤等を圧電基材12の周面と上部シート76の下面或いは下部シート78の上面との境界部分に塗布して圧電基材12を上部シート76の下面或いは下部シート78の上面に接着しても良い。また、粘着テープ等を用いて、圧電基材12を上部シート76の下面又は下部シート78の上面に固定しても良い。これらの場合、上部シート76の下面或いは下部シート78の上面に圧電基材12を嵌めこむ溝を形成しても良い。
さらに、圧電基材12は、線状とされているので、上部シート76下面又は下部シート78の上面に縫い込むようにして配置しても良く、シート体74に着座した人に違和感を生じるのを抑制できれば、任意の手法を適用できる。
また、着座用のシートに用いられるシート体74は、上部シート76の表面がメッシュ状の表皮材(ファブリック、図示省略)により覆われるが、上部シート76に変えて表皮材(ファブリック、織物、樹脂シートなど)を用いても良い。また、ファブリックや織物などにより下部シート78を覆う際、ファブリックや織物において横糸(緯糸)又は縦糸(経糸)の一部として圧電基材12を用いて、圧電基材12がシート体74に保持されるようにしても良い。この場合、上部シート76を残して、上部シート76が下部シート78と共に基部として機能するようにしても良く、下部シート78を省略して、測定対象物に設けられた絶縁性を有する部材にセンサモジュール72(複数の圧電基材12)を設けても良い。
【0161】
圧電基材12の各々は、内部導体16及び圧電体18が切替部56に接続されている。また、切替部56は、出力側が電圧検出部62及び静電容量検出部64に接続されている。切替部56には、複数のアナログスイッチICから構成されるスイッチ(図示省略)が設けられており、切替部56は、圧電基材12を電圧検出部62及び静電容量検出部64の各々に接続可能とされている。制御部70は、圧電基材12が電圧検出部62と静電容量検出部64とに交互に接続されるように切替部56を制御する。
【0162】
切替部56は、圧電基材12を電圧検出部62に接続する場合には、複数の圧電基材12を並列接続して電圧検出部62に接続し、圧電基材12を静電容量検出部64に接続する場合には、複数の圧電基材12から選択した2本の圧電基材12の圧電体18の各々を静電容量検出部64に接続する。また、切替部56は、圧電基材12の圧電体18を静電容量検出部64に接続する際に、2本ずつの圧電基材12の組み合わせを順に選択して、選択した順序で圧電体18を静電容量検出部64に接続する。2本の圧電基材12の選択は、隣接する2本の圧電基材12の組み合わせを順に選択する。なお、2本の圧電基材12の選択は、2本の圧電基材12の間に他の圧電基材12が存在する組み合わせを含めても良い。
【0163】
電圧検出部62は、内部導体16と圧電体18との間の電圧(電位差)Vを検出する。また、静電容量検出部64は、2本の圧電基材12の圧電体18の間の静電容量を検出する。静電容量検出部64は、2つの圧電体18の間に電圧を印加して充電した後、放電時間を計測して、計測した放電時間から静電容量Cを検出する。なお、放電時間は、電圧Vが電圧Vrefに達するまでの時間が適用される。また、本実施の形態では、放電時間から静電容量Cを求めるようにしているが、これに限らず、静電容量検出部64は、2つの圧電体18の間に生じる漏れ電流(抵抗値)から2つの圧電体18の間の静電容量Cを検出しても良い。また、静電容量測定部64は、圧電体18間に交流電圧(交流正弦波)を印加して、電圧波形と電流波形の位相差情報を取得する構成などの各種の構成を適用できる。
【0164】
判定部66は、電圧検出部62により検出された電圧(電圧値)Vからシート体74が加圧されているか否か、即ち、シート体に人(乗員)が着座しているか否かを判定する。また、判定部66は、静電容量検出部64により検出された静電容量Cからシート体74に静電容量を変化させる付着物が付着したか否かを判定する。出力部68は、判定部66の判定結果をモニタ60に表示して報知する。また、出力部68は、センサシステム50が接続された外部機器に判定結果を出力する。なお、出力部68は、LANなどのネットワークに接続される通信手段を備え、通信手段を介して外部機器やサーバ等の予め定めている各種の機器にデータ伝送を行ってもよい。
【0165】
次に、本実施の形態に係るセンサシステム50の動作を説明する。
図9には、センサシステム50の測定装置54において実行される計測処理の流れが示されている。また、
図10には、測定装置54において検出される電圧V、及び静電容量Cを例示している。
ここで、
図10に示すように、測定装置54は、連続する時間(時刻)を所定時間で区切り、区切った時間帯で、圧力検出と静電容量検出とを交互に行う。即ち、連続する時間帯80A、80B、80C、80D、・・・において、時間帯80A、80C、・・・において圧力検出を行い、時間帯80A、80C、・・・の間の時間80B、80D、・・・において静電容量検出を行うように計測サイクルが設定されている。
【0166】
図9のフローチャートは、測定装置54の電源がオンされて、計測の開始が指示(例えば、図示しない計測スイッチがオン)されることで実行され、測定装置54の電源がオフされるなどして計測処理の終了が指示されることで終了する。測定装置54には、シート体74が加圧されていると判断される圧電基材12の電圧に基づいた電圧が閾値Vsとして設定されて記憶されていると共に、シート体74に水分等が付着していない状態における2本の圧電基材12の圧電体18の間の静電容量Cから設定した静電容量の初期値C0、及び検出した静電容量Cと初期値C0からシート体74に付着物が付着していると判定する際の閾値Csが設定されて記憶されている。
ここで、圧電基材12の圧電体18間の静電容量Cは、人が着座することで増加する。ここから、閾値Csとしては、人の着座が検出されていない場合に適用される閾値Cs1と、人が着座している場合に適用される閾値Cs2が設定されていても良い。この場合、閾値Cs2は、閾値Cs1以上に設定され(Cs1≦Cs2)、本実施の形態では、閾値Cs1より閾値cs2を大きくしている(Cs1<Cs2)。
【0167】
計測処理が指示されると、最初のステップ100では、初期設定を行う。この初期設定においては、電圧Vに対する閾値Vs、及び静電容量Cに対する初期値C0と閾値Cs(Cs1、Cs2)とが読み出される。この後、測定装置54は、圧電基材12の内部導体16と圧電体18との間の電圧検出(着座検出)、及び2本の圧電基材12の圧電体18の間の静電容量検出(付着検出)の計測サイクルが、所定の時間間隔で交互に繰り返して実行される。なお、計測サイクルの実行中は、ステップ100における初期設定が省略される。
【0168】
具体的には、ステップ102において、圧電基材12を電圧検出部62に接続するように切替部56を作動させて、複数の圧電基材12の各々の内部導体16及び圧電体18を電圧検出部62に接続し、内部導体16と圧電体18との間の電圧(電位差)Vを検出する。この際、電圧検出部62は、圧電基材12が接続されている間において電圧Vの変化を検出する。
ステップ104では、検出された電圧Vを閾値Vsと比較することで、シート体74に人が着座して加圧されているか否かを判定する。
【0169】
ここで、シート体74に人が着座していない場合には、電圧Vが閾値Vs以下(V≦Vs)であり、また、電圧Vの変化も比較的少ない。この場合は、
図10に示す時間帯80A、80Bに対応している。このため、
図9のステップ104において否定判定される。
ステップ104において否定判定されると、ステップ106へ移行して、乗員がシート体74に着座していないことをモニタ60に表示する。また、外部機器が接続されている場合には、乗員が着座していないことを示す信号を外部機器に出力する。
【0170】
次のステップ108で、圧電基材12を2本ずつ順に選択して、選択した2本の圧電基材12の圧電体18を静電容量検出部64に接続するように切り替えて、静電容量Cの検出を行う。静電容量Cの検出においては、時間に対する静電容量Cの変化を検出する。
【0171】
次のステップ110では、検出された静電容量Cと初期値C0とを比較して、静電容量Cと初期値C0との差が閾値Csを越えているかを判定する。この際、人の着座が検出されていないので閾値Csとして閾値Cs1を適用する。これにより、静電容量Cと初期値C0との差が閾値Cs1を越えていない場合((C−C0)≦Cs1、
図10の時間帯80Bが対応)、ステップ110において否定判定して、ステップ112へ移行する。なお、ステップ110の判定においては、例えば、初期値C0との比較に適用する静電容量Cは、2本ずつの圧電基材12の組み合わせの各々において検出される静電容量の平均値が適用される。
【0172】
ステップ112では、シート体74に水分を含む液体などの付着物がない(水濡れがない)ことをモニタ60に表示する。また、外部機器が接続されている場合には、シート体74に水分を含む液体などの付着物がないことを示す信号を外部機器に出力する。
次の114では、静電容量Cに対する初期値C0を更新するか否かを確認し、否定判定された場合は、一端終了して、次の計測サイクルに移行する。
【0173】
これに対して、所定時間が経過する間、連続してステップ114で否定判定されている場合であって、それ間に検出された静電容量Cの変化がなく、かつ、初期値C0との差が生じている場合には、ステップ114において肯定判定して、ステップ116へ移行する。このステップ116では、検出された静電容量Cに基づいて初期値C0を設定して、初期値C0を更新する。この際、初期値C0の更新に適用する静電容量Cは、連続して付着物が付着していないと判定されている間の静電容量Cの平均値等が適用される。
【0174】
シート体74は、空気中の水分が含有されることがあり、この水分量は、シート体74の周囲の環境によって変化する。シート体74が車両に設けられた乗員着座用のシート(シートクッション)であれば、車両の周囲の天候、湿度、温度などの環境によって静電容量Cが変化する場合がある。この際、シート体74の設置環境に合わせて初期値C0を更新することで、静電容量Cに基づく付着物の有無の判定精度を向上できる。なお、ここでは、初期値C0を更新するようにしたが、閾値Cs(閾値Cs1、Cs2)を更新するようにしても良く、この場合、静電容量Cに対する初期値C0の差分を閾値Cs1、Cs2に加算して更新するようにすれば良い。これにより、例えば環境湿度が高く静電容量Cが初期値C0に対して高く変化している場合には、差分が閾値Cs1、Cs2に加算されるので、誤判定が生じるのを抑制できる。
【0175】
一方、シート体74に人が着座していない状態において、シート体74(上部シート76)に水や液体などの水分を含んだ付着物が付着すると、付着物を挟んだ両側の圧電基材12の圧電体18の間の誘電率が変化する。この場合、
図10の時間帯80D、80Fに示すように、静電容量検出部64において検出された静電容量Cと初期値C0との差が閾値Csを超える((C−C0)>Cs1)。
これにより、ステップ110において肯定判定されてステップ118へ移行する。このステップ118では、シート体74に付着物が付着していることをモニタ60に表示する。また、外部機器が接続されている場合には、シート体74に付着物が付着している(例えば水濡れしている)ことを示す信号を外部機器へ出力する。
【0176】
シート体74に乗員が着座した場合、シート体74の上部シート76が加圧されて圧電基材12が加圧される(
図10の時間帯80E、80F参照)。この場合には、ステップ102において検出される電圧Vが上昇する。これにより、検出された電圧Vが閾値Vsを超えると(V>Vs)、ステップ104で肯定判定されて、ステップ120に移行する。このステップ120では、乗員がシート体74に着座していることをモニタ60に表示する。また、外部機器が接続されている場合には、乗員がシート体74に着座していることを示す信号を外部機器に出力する。これにより、外部機器では、シート体74に着座していることを的確に認識できる。
【0177】
次のステップ122では、前記ステップ108と同様に、2本ずつの圧電基材12の圧電体18を静電容量検出部64に接続して、静電容量Cの検出を行う。この後に、検出された静電容量Cと初期値C0とを比較して、ステップ124において、静電容量Cと初期値C0との差が閾値Cs(閾値Cs2)を超えているか否かを判定する。
ここで、静電容量Cと初期値C0との差が閾値Cs2以下の場合((C−C0)≦Cs2)は、ステップ122において否定判定される。この場合、シート体74に付着物がないと判定して、付着物がないことを表示するようにしてもよいが、静電容量Cがシート体74に着座している乗員の影響を受けていることを考慮して、モニタ60への表示は行わないようにすることが好ましい。
これに対して、静電容量Cと初期値C0との差が閾値Cs2を超えている((C−C0)>Cs2)と、ステップ124において肯定判定されて、ステップ126へ移行する。
【0178】
シート体74に乗員が着座している状態では、乗員の体液によって静電容量Cが増加する。また、シート体74に着座した乗員の体が動く(以下、体動という)ことで静電容量Cも変化する。また、シート体74に着座した乗員が体動することで、電圧検出部62において検出される電圧Vも不規則に変化する。
ここから、ステップ126では、シート体74に着座している乗員の体動が検出されているか否かを確認し、乗員の体動が検出されている場合に肯定判定して、静電容量Cを用いた付着物の判定が省略されて、次の検出サイクルに移行する。
【0179】
これに対して、シート体74に着座した乗員が体動していない場合、電圧検出部62において検出される電圧Vの変化が少なくなる。また、シート体74に着座した乗員が体動していない場合、シート体74に着座した乗員(乗員の体液)に起因する静電容量Cの変化が抑制される。さらに、シート体74の上部シート76に付着物が浸み込むことで静電容量Cは、大きくなる方向に変化する。この場合、静電容量Cの中間値(平均値)が高くなるか又は増加する方向へ変化する。
【0180】
ここから、電圧検出部62において検出された電圧Vの変化が予め設定している変化幅を超えている場合(
図10の時間帯80E、80G参照)、ステップ126において肯定判定して、付着物の判定結果を省略する。
また、電圧検出部62において検出された電圧Vの変化が予め設定している変化幅の範囲内である場合(
図10の時間帯80I参照)、ステップ126において否定判定してステップ128へ移行する。この際、静電容量Cが増加する方向へ変化しているとみなせる場合(
図10の時間帯80J参照)、ステップ128において肯定判定してステップ130へ移行する。
ステップ130では、シート体74に付着物が付着していることをモニタ60に表示する。また、外部機器が接続されている場合には、シート体74に付着物が付着している(例えば、水濡れしている)ことを示す信号を外部機器へ出力する。なお、ステップ128において否定判定された場合に、ステップ126において肯定判定された場合と同様に、付着物の判定結果を省略する。
【0181】
このようにセンサシステム50は、複数の圧電基材12の各々が圧電基材12として機能すると共に、外部電極14として機能するようにしたセンサモジュール72をシート体74に設けることで、乗員のシート体74への着座を検出できると共に、シート体74に液体などの付着物が付着している(水濡れしている)か否かを検出することができる。しかも、センサシステム50では、シート体74への加圧の検出と、付着物の検出とを交互に行うので、シート体74への加圧の検出と付着物の検出を並行して行うことができる。
【0182】
また、圧力の検出と静電容量の検出とを行う場合、圧力検出用のセンサと静電容量検出用のセンサとを設けることで可能になるが、センサシステム50では、圧力検出用の圧電基材12を静電容量の検出用にも用いるので、圧力及び静電容量を検出するための素子を削減できる。しかも、センサシステム50では、圧電基材12を用いて、圧力及び静電容量を検出するので、センサモジュールの構成を簡略にできる。
【0183】
さらに、シート体74に着座した乗員が体動していないと判定される場合でも、心拍(脈)や呼吸によって乗員が瞬間的に体動する。例えば、
図10の時間帯80Kに示すように、心拍による脈が上部シート76の上面に部分的な圧力変化を生じさせ、呼吸により僅かに体が動くことで、上部シート76の上面が受ける圧力が変化する。このために、電圧検出部62により検出される電圧Vの変化(振幅)が一時的に大きくなる。
ここから、圧電基材12を用いたセンサシステム50では、圧電基材12の内部導体16と圧電体18との間の電位差から、シート体74に着座した乗員の心拍や呼吸等に起因する体動を検出することができる。
【0184】
センサシステム50では、検知部52として、圧電基材12を車両などのシート(シートクッション)に設けたシート体74を例に説明したが、圧電基材12は、各種のシート体に設けることができる。
圧電基材12を設けるシート体としては、マットレス、乳幼児に用いる寝具などがある。乳幼児が用いる寝具は、乳幼児が横臥した状態でもくぼみが生じにくくなっており、また、乳幼児が使用する場合に濡れが生じ易い。このような寝具を検知部52のシート体として圧電基材12を設けることで、乳幼児が寝ているか否か、濡れが生じて不快に感じることがないかを判定することができる。また、センサシステム50では、圧電基材12に生じる電位差(電圧V)から乳幼児の体動のみならず、心拍や呼吸等を検出できる。
【0185】
〔センサシステムに設ける検知部の変形例等〕
センサシステム50の切替部56は、圧電基材12を電圧検出部62に接続する際、内部導体16を一括して電圧検出部62に接続すると共に、圧電体18を一括して電圧検出部62に接続したが、複数の圧電基材12と電圧検出部62との接続は、これに限るものではない。
図11には、圧電基材12と電圧検出部62の接続の他の一例を示している。
【0186】
図11では、複数の圧電基材12を1本ずつ順に選択して、選択した圧電基材12について内部導体16と圧電体18とを電圧検出部62に接続する切替部56Aを用いている。これにより、圧電基材12ごとに圧力を検出できるので、シート体74における複数の圧電基材12の配列方向における圧力の分布を検出することができる。
なお、複数の圧電基材12を縦横に格子状に配列して、圧電基材12ごとに電圧を検出するように構成することで、シート体74における一方向及び一方向と直交する方向(縦方向及び横方向)の各々について圧力分布を検出することができる。
【0187】
また、センサシステム50の切替部56は、隣接する2本の圧電基材12を選択するようにしたが、複数の圧電基材12と静電容量検出部64との接続は、これに限るものではない。
図12には、圧電基材12と静電容量検出部64との接続の他の一例を示している。
図12に示す切替部56Bでは、複数の圧電基材12を配列方向の一端側から奇数番目の圧電基材12と偶数番目の圧電基材12とに分け、静電容量検出部64の一対の入力端子の一方に奇数番目の圧電基材12の圧電体18を一括して接続すると共に、静電容量検出部64の一対の入力端子の他方に偶数番目の圧電基材12の圧電体18を一括して接続する。シート体74の全体について、一括して静電容量を検出できるので、静電容量を検出するための制御を簡略にできる。
【0188】
一方、センサモジュール10(10A)では、圧電基材12の圧電体18を静電容量測定用の電極としてが、圧電体18に静電容量測定用の電極を電気的に接続しても良い。
図13には、圧電体18に静電容量測定用の電極を接続したセンサモジュールの一例が示されている。
図13に示すセンサモジュール82では、加圧部20と基部22との間に、絶縁性を有すると共に、保水性(吸水性)を有する材質により形成された中間部84が設けられている。中間部84の基部22側の面には、シート状の電極86が配置されており、中間部84の加圧部20側の面には、メッシュ状にされた電極88が配置されている。電極88としては、金属シートであっても良く、導電性を有する糸が用いられた織物であっても良いが、電極面積を広くするために目開きが小さいことが好ましい。
【0189】
圧電基材12は、電極88と加圧部20との間に配置されて、圧電体18が電極88に接着されている。圧電体18と電極88との接着は、導電性の接着剤、導電性の粘着剤等電気的に緊密に接続可能とする接着方法が適用されている。
中間部84は、加圧部20の厚さをda、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率E’aとし、中間部84(又は中間部84と基部22でも良い)の厚さをdb、動的粘弾性測定による貯蔵弾性率E’bとしたとき、下記関係式(a)を満たすものであれば良い。
da/E’a<db/E’b・・・式(a)
【0190】
センサモジュール82は、圧電基材12の圧電体18と電極86との間で静電容量が測定される。この際、電極86と電極88とがコンデンサとして機能する。
このため、センサモジュール82は、加圧部20に付着した水分等がメッシュ状の電極88の開口を通って、電極86、88の間の中間部84に保持される。これにより、電極として圧電基材12の圧電体18を用いる場合に加えて、静電容量及び静電容量の変化が大きくなるので、加圧部20への水分の付着を高精度で検出できる。
また、中間部84の基部22側の電極86としては、電極88と同様にメッシュ状に形成することができるが、メッシュ状に限らず、孔(開口)のないシート状又はフィルム状とすることで、中間部84の保水性を向上できて、少量の水分であってもその付着を検出することができる。
【0191】
一方、本実施の形態では、シート体74を車両のシートクッションに設けたセンサシステム50を例に説明した。しかしながら、センサシステム50は、車両のシート(シートクッションに限らず、上記した各種の移動体に設けられるシート(椅子)や、非移動体に配置されたシート(椅子)にセンサモジュール72を配置しても良い。また、センサモジュール72(センサモジュール10を含む)は、各種の移動体のシート以外の部位、非移動体のシート以外の部位、寝具、衣服、電子機器、人が身につけるなどして持ち歩く各種のウェアラブル端末などの各種の物品に設けられても良い。これにより、センサシステムは、センサモジュールが設けられた物品や物品の特定部位に衝撃などにより圧力が加わったか否かと共に、水分を含む液体等が付着したか否かを検出できて、センサモジュールが設けられた部品に損傷や汚れが生じているかなどの各種の状態を判定できる。
【実施例】
【0192】
以下に実施例を説明する。本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0193】
図14(A)には、実施例1の構成が示されている。実施例1では、シートのファブリックとして多用されているニット織物を用いた幅200mmのシート90上に、各々の軸線をシート90の幅方向にして、4本の圧電基材12を配列した。圧電基材12は、平均外径が0.4mmであり、軸心の間隔を30mmとして平行に配列した。圧電基材12の圧電体18の間の静電容量Cは、LCRメータ92によって計測した。
【0194】
静電容量Cの計測は、配列方向の一端側の圧電基材12の圧電体18をLCRメータ92のGND端子に接続し、残りの3本の圧電基材12の圧電体18を順に検知端子(High端子)に接続し、3本の圧電端子12の圧電体18の各々とGND端子に接続した圧電基材12の圧電体18との間の静電容量Cを測定した。
また、計測は、シート90を濡らしていない状態と、シート90を圧電基材12の軸線方向の長さより短い200mmの幅で、かつ、4本の圧電基材12が含まれる範囲を、30mlの水で濡らした状態の各々について計測した。
図14(B)には、実施例2の構成が示されている。実施例2は、実施例1と同様の構成を適用し、さらに、シート90の下側に電気的導体となるアルミホイル94を敷いている。また、実施例2では、実施例1と同様の構成として、シート90を濡らしていない水濡れなしの状態、及びシート90を濡らした水濡れありの状態について計測を行った。
【0195】
図15(A)には、実施例1の計測結果を示し、
図15(B)には、実施例2の計測結果を示している。なお、計測経過においては、LCRメータ92のGUD端子に接続した圧電基材12と他の圧電基材12との間隔を横軸にして、縦軸に静電容量C(pF)を適用し、水濡れなしの状態を黒丸印で示し、水濡れありの状態を×印で示した。
【0196】
図15(A)及び
図15(B)に示すように、2本の圧電基材12の圧電体18の間の静電容量Cは、水濡れありの場合と水濡れなしの場合とで異なり、水濡れありの場合が、水濡れありの場合によりも大きくなる。
従って、複数の圧電基材12を用いて、圧電基材12の圧電体18の間の静電容量Cから、織物に水分が付着しているか否かを明確に識別できる。
【0197】
また、水濡れがある場合においては、実施例1における静電容量Cに比較して、実施例2における静電容量Cが大きく増加している。したがって、圧電基材12の間に水が溜まるようにすることで、シート90の水濡れの検出精度を上げることができる。ここから、センサモジュール10等において、水に対する基部22の浸透性を、加圧部20の浸透性より低くすることで、静電容量の検出精度を向上できる。
【0198】
また、水濡れがない場合において、アルミホイル94を敷いていない実施例1では、圧電基材12の間隔が広くなるにしたがって静電容量Cが減少している。これに対して、アルミホイル94を敷いた実施例2では、圧電基材12の間隔が広がっても、静電容量Cが低下するのを抑制できる。