特許第6706197号(P6706197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6706197熱交換システム、コントローラ、及び、ニューラルネットワークの構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706197
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】熱交換システム、コントローラ、及び、ニューラルネットワークの構築方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20200525BHJP
   G05D 23/00 20060101ALI20200525BHJP
   F24F 11/62 20180101ALI20200525BHJP
【FI】
   G05B13/02 L
   G05D23/00
   F24F11/62
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-254406(P2016-254406)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-106561(P2018-106561A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100134599
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 和之
(72)【発明者】
【氏名】森重 公康
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−327124(JP,A)
【文献】 特開平07−210207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/00−13/04
G05D 23/00−23/32
F24F 11/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体を用いた熱交換を行う熱交換システムであって、
前記熱媒体の流量を調整することで前記熱交換を制御する調整装置と、
前記流量に応じて変化する第1物理量と目標値との偏差が0になるように前記調整装置に操作量を出力するフィードバック制御を行うフィードバック制御部と、
前記熱交換に影響を与える第2物理量の変動を表す値を含む入力値が入力され、当該入力値に基づいて前記調整装置を制御する機械学習部であって、前記偏差又は前記操作量を教師信号として当該偏差又は当該操作量を小さくする学習を行う機械学習部と、
を備える熱交換システム。
【請求項2】
前記入力値は、前記第2物理量の時間変化の1階微分値及び2階微分値を含む、
請求項1に記載の熱交換システム。
【請求項3】
前記第2物理量の変動は、前記熱交換の前の流体の温度の変動である、
請求項1又は2に記載の熱交換システム。
【請求項4】
熱交換に使用される熱媒体の流量を調整することで前記熱交換を制御する調整装置を制御するコントローラであって、
前記流量に応じて変化する第1物理量と目標値との偏差が0になるように前記調整装置に操作量を出力するフィードバック制御を行うフィードバック制御部と、
前記熱交換に影響を与える第2物理量の変動を表す値を含む入力値が入力され、当該入力値に基づいて前記調整装置を制御する機械学習部であって、前記偏差又は前記操作量を教師信号として当該偏差又は当該操作量を小さくする学習を行う機械学習部と、
を備えるコントローラ。
【請求項5】
熱交換に使用される熱媒体の流量を調整することで前記熱交換を制御する調整装置を制御するニューラルネットワークの構築方法であって、
前記流量に応じて変化する第1物理量と目標値との偏差が0になるように前記調整装置に操作量を出力するフィードバック制御における前記偏差又は前記操作量を教師信号として当該偏差又は当該操作量を小さくする学習を前記ニューラルネットワークに行わせるステップを備え、
前記ニューラルネットワークは、前記熱交換に影響を与える第2物理量の変動を表す値を含む入力値が入力され、当該入力値に基づいて前記調整装置を制御する、
ニューラルネットワークの構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換システム、コントローラ、及び、ニューラルネットワークの構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、冷凍サイクルの違いによる運転特性を学習するニューラルネットワークと、該ニューラルネットワークの学習結果に基づいて空調機の運転制御を行う制御手段とを有することを特徴とする空調制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−10568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記空調制御装置では、熱交換前の空気(流体)の温度変動(物理量の変動)が空調機の運転制御(熱交換)に悪影響を及ぼすことがある。
【0005】
本発明は、物理量の変動による熱交換への悪影響を軽減した熱交換システム、物理量の変動による熱交換への悪影響を軽減したコントローラ、及び、物理量の変動による熱交換への悪影響を軽減したニューラルネットワークの構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る熱交換システムは、
熱媒体(例えば、冷媒)を用いた熱交換を行う熱交換システム(例えば、熱交換システム100)であって、
前記熱媒体の流量を調整することで前記熱交換を制御する調整装置(例えば、インバータ102)と、
前記流量に応じて変化する第1物理量(例えば、吹出空気温度)と目標値(例えば、吹出空気温度設定値)との偏差が0になるように前記調整装置に操作量を出力するフィードバック制御を行うフィードバック制御部(例えば、PID制御部11)と、
前記熱交換(例えば、PID制御部11による熱交換後の流体の温度の制御)に影響を与える第2物理量(例えば、吸込空気温度)の変動を表す値(例えば、現在値、1階微分値及び2階微分値)を含む入力値が入力され、当該入力値に基づいて前記調整装置を制御する機械学習部(例えば、操作量を出力するニューラルネットワーク15)であって、前記偏差又は前記操作量を教師信号として当該偏差又は当該操作量を小さくする学習を行う機械学習部(例えば、前記偏差又は前記操作量を0にする学習を行うニューラルネットワーク15)と、
を備える熱交換システムである。
【0007】
(2)上記(1)の熱交換システムにおいて、
前記入力値は、前記第2物理量の時間変化の1階微分値及び2階微分値を含む、
ようにしてもよい。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)の熱交換システムにおいて、
前記第2物理量の変動は、前記熱交換の前の流体(例えば、熱交換で温度を変化させる対象の空気等)の温度の変動である、
ようにしてもよい。
【0009】
(4)上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係るコントローラは、
熱交換に使用される熱媒体の流量を調整することで前記熱交換を制御する調整装置(例えば、インバータ102)を制御するコントローラ(例えば、コントローラ120)であって、
前記流量に応じて変化する第1物理量(例えば、吹出空気温度)と目標値(例えば、吹出空気温度設定値)との偏差が0になるように前記調整装置に操作量を出力するフィードバック制御を行うフィードバック制御部(例えば、PID制御部11)と、
前記熱交換(例えば、PID制御部11による熱交換後の流体の温度の制御)に影響を与える第2物理量(例えば、吸込空気温度)の変動を表す値(例えば、現在値、1階微分値及び2階微分値)を含む入力値が入力され、当該入力値に基づいて前記調整装置を制御する機械学習部(例えば、操作量を出力するニューラルネットワーク15)であって、前記偏差又は前記操作量を教師信号として当該偏差又は当該操作量を小さくする学習を行う機械学習部(例えば、前記偏差又は前記操作量を0にする学習を行うニューラルネットワーク15)と、
を備えるコントローラである。
【0010】
(5)上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るニューラルネットワークの構築方法は、
熱交換に使用される熱媒体の流量を調整することで前記熱交換を制御する調整装置(例えば、インバータ102)を制御するニューラルネットワークの構築方法(例えば、ニューラルネットワーク15の生産方法)であって、
前記流量に応じて変化する第1物理量(例えば、吹出空気温度)と目標値(例えば、吹出空気温度設定値)との偏差が0になるように前記調整装置に操作量を出力するフィードバック制御における前記偏差又は前記操作量を教師信号として当該偏差又は当該操作量を小さくする学習を前記ニューラルネットワーク(例えば、前記偏差又は前記操作量を0にする学習を行うニューラルネットワーク15)に行わせるステップを備え、
前記ニューラルネットワークは、前記熱交換(例えば、PID制御部11による熱交換後の流体の温度の制御)に影響を与える第2物理量(例えば、吸込空気温度)の変動を表す値(例えば、現在値、1階微分値及び2階微分値)を含む入力値が入力され、当該入力値に基づいて前記調整装置を制御する(例えば、操作量を出力する)、
ニューラルネットワークの構築方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、物理量の変動による熱交換への悪影響を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係る熱交換システムの構成図である。
図2図1のコントローラの一部を示すブロック図の一例である。
図3】ニューラルネットワークの構成例を示す図である。
図4】(A)吸込空気温度の変動推移(時間変化)を示す図である。(B)は、(A)の変動推移を熱交換システムに与えたとき、かつ、ニューラルネットワークを使用しなかったときの空気吹出温度の推移を示す図である。(C)は、(A)の変動推移を熱交換システムに与えたとき、かつ、ニューラルネットワークを使用したときの空気吹出温度の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[熱交換システム100]
本発明の一実施形態に係る熱交換システム100は、冷却対象の部屋を冷却(冷房)する直膨式冷却装置として構成されている。
【0014】
熱交換システム100は、図1に示すように、循環経路L1と、圧縮機101と、インバータ102と、凝縮器103と、冷却水路104と、冷却水流量調整弁105と、電子膨張弁106と、送風機107と、蒸発器108と、操作部112と、コントローラ120と、圧力センサSP1〜SP2と、温度センサST1〜ST3と、を備える。
【0015】
また、熱交換システム100は、概略、室外機Y及び室内機Zにより構成されている。室外機Yには、圧縮機101、インバータ102などが搭載され、室内機Zには、送風機107、蒸発器108などが搭載されている。室内機Zは、室内機Zの周囲の空気を吸い込む吸込口Z1と、室内機Zで冷却した空気を吹き出す吹出口Z2と、を備える。
【0016】
循環経路L1は、冷媒を循環させる経路である。循環経路L1の途中には、圧縮機101と、凝縮器103と、電子膨張弁106と、蒸発器108と、が配置されている。
【0017】
圧縮機101は、循環経路L1を流れる冷媒(蒸気)を高温高圧に圧縮する。圧縮機101は、冷媒を循環させる機能も備える。圧縮機101は、モータにより冷媒を圧縮する。
【0018】
インバータ102は、圧縮機101の出力(圧縮機101から吐出される冷媒の流量)を調整する。インバータ102は、圧縮機101のモータの回転数を調整することにより、圧縮機101の出力を調整する。
【0019】
凝縮器103は、圧縮機101により圧縮された冷媒を凝縮(冷却して液化)させる。凝縮器103の内部には、冷却水が流れる冷却水路104が通っており、冷却水路104を通る冷却水により冷媒を凝縮させる。
【0020】
冷却水流量調整弁105は、冷却水路104の途中に配置され、その開度により、冷却水路104を流れる冷却水の流量を調整する。
【0021】
凝縮器103の出口(凝縮された冷媒の出口)の近傍には、圧力センサSP1が設けられている。圧力センサSP1は、凝縮器103により凝縮された冷媒の圧力(凝縮圧力ともいう。)を電気信号に変換し、変換した電気信号(凝縮圧力(圧力値)を示す信号)をコントローラ120に供給する。このようにして、圧力センサSP1は、凝縮圧力を検出し、検出した凝縮圧力(圧力値)をコントローラ120に供給する。
【0022】
電子膨張弁106は、その開度に応じて、凝縮器103により凝縮された冷媒の流量を調整し当該冷媒を急激に減圧させる。この圧力低下により、冷媒の温度も下がる。
【0023】
送風機107は、冷房対象の部屋の空気を蒸発器108に送風する。
【0024】
蒸発器108は、電子膨張弁106により低温低圧化された冷媒を蒸発させる。蒸発器108による冷媒の蒸発は、送風機107により送風される空気から熱を奪う。つまり、蒸発器108は、送風される空気と、蒸発する冷媒と、で熱交換を行い、当該空気を冷却する。
【0025】
送風機107及び蒸発器108は、室内機Zに搭載されている。送風機107の動作により、冷房対象の部屋の吸込口Z1付近の空気が吸込口Z1から室内機Z内に吸い込まれ、吸い込まれた空気が蒸発器108で冷却され、冷却された空気が吹出口Z2から吹き出されて冷房対象の部屋に供給される。これにより、冷房対象の部屋が冷房される。
【0026】
吸込口Z1近傍には温度センサST1が設けられている。温度センサST1は、吸込口Z1付近の温度(吸込空気温度ともいう。)を電気信号に変換し、変換した電気信号(吸込空気温度(温度値)を示す信号)をコントローラ120に供給する。このようにして、温度センサST1は、吸込空気温度を検出し、検出した吸込空気温度(温度値)をコントローラ120に供給する。送風機107が動作しているときの吸込空気温度は、吸込口Z1から吸い込まれた空気(冷却前の空気)の温度である。
【0027】
吹出口Z2近傍には温度センサST2が設けられている。温度センサST2は、吹出口Z2付近の温度(吹出空気温度ともいう。)を電気信号に変換し、変換した電気信号(吹出空気温度(温度値)を示す信号)をコントローラ120に供給する。このようにして、温度センサST2は、吹出空気温度を検出し、検出した吹出空気温度(温度値)をコントローラ120に供給する。送風機107が動作しているときの吹出空気温度は、蒸発器108により冷却されたあとの空気(吹出口Z2から吹き出す空気)の温度ともいえる。
【0028】
蒸発器108の冷媒出口近傍には、圧力センサSP2と温度センサST3とが設けられている。冷媒出口とは、蒸発器108により蒸発した冷媒が蒸発器から出て行く出口である。圧力センサSP2は、蒸発器108により蒸発した冷媒の圧力(蒸発圧力ともいう。)を電気信号に変換し、変換した電気信号(蒸発圧力(圧力値)を示す信号)をコントローラ120に供給する。このようにして、圧力センサSP2は、蒸発圧力を検出し、検出した蒸発圧力(圧力値)をコントローラ120に供給する。温度センサST3は、蒸発器108により蒸発した冷媒の温度(冷媒蒸気温度ともいう。)を電気信号に変換し、変換した電気信号(冷媒蒸気温度(温度値)を示す信号)をコントローラ120に供給する。温度センサST3は、冷媒蒸気温度を検出し、検出した冷媒蒸気温度(温度値)をコントローラ120に供給する。
【0029】
冷媒は、圧縮機101→凝縮器103→電子膨張弁106→蒸発器108→圧縮機101の順に、循環経路L1上を循環する。なお、循環経路L1の途中に冷媒を貯蓄するアキュムレータなどを設けてもよい。
【0030】
操作部112は、ユーザからの操作を受け付けるリモコン等を含む。ユーザは、例えば、操作部112を操作し、熱交換システム100における凝縮圧力、吹出空気温度、過熱度について所望の値を入力する。なお、過熱度とは、蒸発器108で蒸発した冷媒の過熱度であり、冷媒蒸気温度−飽和温度(その冷媒の蒸発圧力における飽和温度)により算出される。入力された前記の各値は、コントローラ120に供給される。
【0031】
コントローラ120は、PLC(programmable logic controller)等の各種のコンピュータから構成される。例えば、コントローラ120は、プログラムやデータを記憶するROM(Read Only Memory)と、ハードディスク、フラッシュメモリなどの、記憶した情報(プログラムやデータ)を変更(追加、削除を含む)可能な不揮発性の記憶装置(以下、単に不揮発性記憶装置ということがある。)と、ROMや不揮発性記憶装置に記憶されたプログラムに基づいて、かつ、ROMや不揮発性記憶装置などが記憶するデータを用いて、コントローラ120により実行される処理を実際に実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUのメインメモリとなるRAM(Random Access Memory)と、を備える。
【0032】
コントローラ120は、不揮発性記憶装置の所定の記憶領域に、操作部112から供給された前記の各値を格納する。これにより、前記の各値が設定値として設定される。なお、設定された各設定値を、それぞれ、凝縮圧力設定値、吹出空気温度設定値、過熱度設定値ともいう。当該各設定値は、後述のPID制御等において目標値として使用される。凝縮圧力、過熱度のうちの少なくとも一方は、熱交換システム100の製造者により固定値として設定されてもよい。
【0033】
コントローラ120は、インバータ102、冷却水流量調整弁105、電子膨張弁106を制御することで、凝縮圧力、吹出空気温度、過熱度を制御し、これらを前記各設定値(各目標値)に近づける(一致させる、維持させることを含む)。凝縮圧力は、冷却水流量調整弁105の開度(冷却水の流量)により制御される。冷媒の流量(吹出空気温度)は、インバータ102により制御される。過熱度は、電子膨張弁106の開度(冷媒の流量)により制御される。
【0034】
コントローラ120は、インバータ102、冷却水流量調整弁105、電子膨張弁106それぞれ(以下、制御対象ともいう。)に対して、例えば、所定の範囲の数値を取り得る操作量を供給することで、制御対象を制御する。操作量は、各制御対象で共通の数値範囲0〜100[%]を取るが、同じ数値の操作量に基づく動作は制御対象に応じて基本的には異なる。
【0035】
インバータ102では、出力する交流電力の周波数が操作量により制御される。操作量0〜100に応じて前記の周波数が制御される。インバータ102は、操作量が0[%]のときに最小周波数(インバータ102が出力可能な最小の周波数)の交流電力を出力し、操作量が100[%]のときに最大周波数(インバータ102が出力可能な最大の周波数)の交流電力を出力する。従って、操作量が多くなれば、前記の周波数が高くなる(操作量は、最大周波数に対する割合を示す)。なお、当該交流電力の周波数により、圧縮機101のモータの回転数が制御される。従って、操作量により、圧縮機101の出力(結果的には、圧縮機101から出力される冷媒の流量、吹出空気温度)が制御される(結果的に、蒸発器108での熱交換が制御される)。
【0036】
冷却水流量調整弁105、電子膨張弁106の各弁では、その開度が操作量により制御される。操作量は開度の割合を示す。具体的には、操作量が0[%]の場合、その開度は0である(弁が閉じた状態)。操作量が100[%]の場合、その開度は全開である。操作量が20[%]の場合、その開度は全開の20%に当たる開度である。
【0037】
例えば、コントローラ120は、凝縮圧力設定値と、圧力センサSP2により検出される凝縮圧力(フィードバック値)と、の偏差に基づいて、PID(Proportional-Integral-Differential)により操作量を算出し、算出した操作量を冷却水流量調整弁105に供給する(PID制御)。このようなPID制御により、凝縮圧力が凝縮圧力設定値(目標値)に近づくように(前記の偏差が0になるように)、冷却水流量調整弁105の開度(換言すると凝縮圧力)が制御される。
【0038】
例えば、コントローラ120は、圧力センサSP2及び温度センサST3により検出される蒸発圧力及び冷媒蒸気温度から導出される過熱度を算出する。コントローラ120は、蒸発圧力に基づいて飽和温度(その蒸発圧力における飽和温度)を導出し(計算により求めてもよいし、蒸発圧力と飽和温度との関係を規定するテーブルを参照して求めてもよい。)、冷媒蒸気温度から飽和温度を減じた値を過熱度として取得する(過熱度がフィードバックされる)。コントローラ120は、取得した過熱度と、過熱度設定値と、の偏差に基づいて、PIDにより操作量を算出し、算出した操作量を電子膨張弁106に供給する(PID制御)。このようなPID制御により、過熱度が過熱度設定値(目標値)に近づくように(前記の偏差が0になるように)、電子膨張弁106の開度(換言すると過熱度)が制御される。
【0039】
[吹出空気温度(インバータ102)の制御時のコントローラ120]
図2に示すように、インバータ102を制御するコントローラ120は、PID制御部11と、変動取得部13と、ニューラルネットワーク15と、を備える。例えば、PLC等がPID制御部11、変動取得部13、ニューラルネットワーク15それぞれとして動作することで、図2の構成が実現される。
【0040】
PID制御部11には、吹出空気温度設定値と、温度センサST2により検出される吹出空気温度の値(フィードバック値)との偏差が入力され、PID制御部11は、入力された偏差に基づいて、PIDにより、操作量を算出し、算出した操作量をインバータ102に出力する。このようにして、PID制御部11は、吹出空気温度が吹出空気温度設定値(目標値)に近づくように(偏差が0になるように)、インバータ102を制御する。
【0041】
変動取得部13には、温度センサST1からの電気信号(吸込空気温度を示す信号であり、ここではアナログ信号)が常時入力される。変動取得部13は、例えば、ローパスフィルタなどにより当該電気信号からノイズを除去し、当該電気信号をサンプリング等によりデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号に基づき、当該吸込空気温度の変動を示す値を取得(ここでは算出)する。この実施の形態では、吸込空気温度の変動を示す値として、吸込空気温度の現在値(今回入力された吸込空気温度の値)と、吸込空気温度の時間変化(過去の吸込空気温度を示す値は、所定の記憶部に保持するものとする)を微分した1階微分値(温度変化の速度)及び2階微分値(温度変化の加速度)と、が取得される。なお、1階微分値は、Δt(時間)=1(秒)とすると、前回入力された吸込空気温度と今回入力された吸込空気温度との差(変化量)となる。変動取得部13により取得された吸込空気温度の変動は、ニューラルネットワーク15に出力される。吸込空気温度の変動を示す値は、アナログ回路(例えば、微分回路等)で取得され、デジタル変換されてニューラルネットワーク15に入力されてもよい。
【0042】
なお、この実施の形態では、温度センサST2等の各種センサは、検出した物理量(温度又は圧力)を、アナログ信号の形でコントローラ120に供給するが(アナログ・デジタル変換はコントローラ120で行う)、デジタル信号の形でコントローラ120に供給してもよい。
【0043】
ニューラルネットワーク15は、図3に示すように、入力層、中間層、出力層、を有する。ニューラルネットワーク15の入力層への入力値をx、入力層と中間層間との結合荷重をwij、中間層間と出力層の結合荷重をwjk、中間層の素子への入力をsとすると、中間層の素子への入力sは、下記の数式(1)で表せられ、中間層から出力層への出力qは、下記の数式(2)及び(3)で表せ、ニューラルネットワーク15の出力yは、下記の数式(4)で表せる。ここで添え字i、j、kは、それぞれ、入力層、中間層、出力層の素子番号であり、n、mは、それぞれ、入力数、中間素子数である。下記の式中、x=1、s=1、q=1である。また、k=1である。
【0044】
【数1】
【0045】
【数2】
【0046】
【数3】
【0047】
【数4】
【0048】
入力層には、入力値xとして、変動取得部13から出力された吸込空気温度の変動を示す値(吸込空気温度の現在値(x)、1階微分値(x)、及び、2階微分値(x))が入力される。これら値は、熱交換システム100による熱交換に影響を与える状態量(例えば、熱交換システム100の冷却特性に影響を与える各種の状態量)の一種であるが、これら値の少なくとも一部に加えて又は代えて、入力層に、他の状態量(熱交換システム100による熱交換に影響を与える状態量)が入力されてもよい。当該状態量は、物理量、操作量、設定値等を含み、これらの現在値、時間等による微分値等であってもよい。例えば、前記の状態量として、圧力センサSP1により検出される凝縮圧力、温度センサST1に検出される吸込空気温度、上記で算出される過熱度などの冷媒の各種の物理量が入力されてもよい。さらに、前記の状態量として、吹出空気温度設定値、過熱度設定値、凝縮圧力設定値等の各種の設定値が入力されてもよい。さらに、前記の状態量として、電子膨張弁106に入力された過去3回の操作量、インバータ102に入力された過去3回の操作量などの各種の操作量(具体的には、操作量の履歴を示す値であり、操作量の変化量(現在の操作量−前回の操作量)、過去複数回の操作量の時間変化の1階微分値(時間微分)、2階微分値(時間微分)などであってもよい。)が入力されてもよい。インバータ102に入力される操作量は、PID制御部11からの操作量とニューラルネットワーク15からの操作量との和であるが(詳しくは後述)、ニューラルネットワーク15に入力される当該操作量(インバータ102への操作量)は、当該和の他、いずれか一方の操作量であってもよい。また、入力層には、吸込空気温度の現在値(x)、1階微分値(x)、及び、2階微分値(x)のうちの少なくとも1階微分値(x)、又は、2階微分値(x)が入力されてもよい。
【0049】
ニューラルネットワーク15は、入力値に基づいて出力yを導出する。例えば、上記各式により、出力yを算出する。ニューラルネットワーク15は、出力yとして、操作量をインバータ102に出力する。
【0050】
このようなニューラルネットワーク15は、PID制御部11に入力される偏差(図2の点線矢印G1参照)と、PID制御部11から出力される操作量(図2の点線矢印G2参照)と、のうちのいずれかを教師信号とし、当該偏差又は当該操作量を0にするように機械学習する。例えば、ニューラルネットワーク15は、前記偏差又は前記操作量を0にするような操作量を出力できるように機械学習を行う。当該機械学習は、例えば、誤差逆伝搬法で行われ、当該誤差逆伝搬法での重みの修正は勾配法により行われる。このようにして、ニューラルネットワーク15には、機械学習の結果が反映される。ニューラルネットワーク15は、機械学習の結果に基づいて、操作量を導出することになる。ニューラルネットワーク15は、例えば、熱交換システム100をユーザに納入してから、ある程度学習させた後に、学習を止めてもよいし、常に学習してもよい。
【0051】
学習後のニューラルネットワーク15は、吸込空気温度の変動による影響(詳しくは後述)を打ち消す操作量をインバータ102に出力する。
【0052】
インバータ102には、PID制御部11からの操作量と、ニューラルネットワーク15からの操作量yと、の和が入力される。このようにして、インバータ102(換言すると、圧縮機101の出力(冷媒の流量)であり、吹出空気温度)は、ニューラルネットワーク15及びPID制御部11により制御される。
【0053】
ニューラルネットワーク15は、インバータ102に対する制御に応じて、送風機107(送風する空気の量)を制御してもよい。例えば、インバータ102等を制御して冷媒の流量を増加させる場合(送風される空気をより冷却する場合)、冷房能力を高めるため、送風機107を制御して送風される空気を増加させてもよい。
【0054】
[この実施の形態の効果]
(1)吸込空気温度の変動は、冷媒と空気との熱交換(PID制御部11による吹出空気温度の制御)に悪影響を与える。これは、吹出空気温度が、吸込空気温度にも依存するからである。なお、前記の悪影響は、例えば、吹出空気温度が目標温度に近づかない、吹出空気温度が安定しないなどである。この実施の形態では、ニューラルネットワーク15が、PID制御部11に入力される偏差、又は、PID制御部11から出力される操作量を教師信号として学習(当該偏差又は操作量を0にする学習)を行い、吸込空気温度の変動による熱交換への影響を打ち消す操作量を導出して出力する。従って、吸込空気温度の変動による熱交換への悪影響を軽減できる(理想的には無くすことができる)。なお、ニューラルネットワーク15は、例えば、前記偏差又は前記操作量を少なくする機械学習を行えばよく、これにより、吸込空気温度の変動による熱交換への影響を少なくするように操作量を順次導出して出力でき、前記の悪影響を軽減できる。
【0055】
コントローラ120による制御において、ニューラルネットワーク15が有る場合の制御(PID制御部11とニューラルネットワーク15とによる制御)と、無い場合の制御(PID制御部11のみによる制御)とによる、吹出空気温度の推移の違いを、図4(B)、(C)に示す。ここでは、図4(A)に示す吸込空気温度の変動を与えている。また、吹出空気温度設定値は、20℃である。ここでのニューラルネットワーク15は、ある程度学習済みである。図4に示すように、吸込空気温度に変動があると、PID制御のみでは、当該変動の影響を受けて、吹出空気温度が不安定に推移している(図4(B))。一方、ニューラルネットワーク15の制御有りでは、吹出空気温度が安定的に推移している(図4(C))。このように、ニューラルネットワーク15による制御により、吸込空気温度の変動による、吹出空気温度の制御への悪影響が打ち消され、熱交換への悪影響を軽減できる。
【0056】
なお、吸込空気温度の変動による熱交換への悪影響は、例えば、フィードフォワード制御によって軽減することも考えられるが、フィードフォワード制御のパラメータの設定は困難である(誤差が許されないなど)。ニューラルネットワーク15によれば、機械学習で吸込空気温度の変動による熱交換への悪影響を自動的に学習でき、パラメータの設定に必要なノウハウなどが不要となり、前記不都合を解消できる。さらに、フィードフォワード制御は、熱交換システム100の冷却特性の経年変化に対応できないが、ニューラルネットワーク15が逐次学習すること(熱交換システム100を設置して運転したあとにおいても学習を行うこと)で、当該経年変化にも対応できる。さらに、ニューラルネットワーク15によれば、熱交換への悪影響をフィードフォワード制御よりも軽減できる。
【0057】
(2)ニューラルネットワーク15には、吸込空気温度の変動を表す値として、当該変動の時間変化の1階微分値及び2階微分値が入力されるので、ニューラルネットワーク15は、吸込空気温度の変動を効果的に捉えることができ、効果的な学習を行える。なお、1階微分値及び2階微分値のいずれかのみをニューラルネットワーク15に入力してもよい。
【0058】
[変形例等]
本発明は、上記の実施形態に限られず、上記の実施形態を適宜変形できる。以下にその例を変形例として示すが、下記の変形例は、その少なくとも一部を組み合わせることもできる。また、本明細書が開示する構成は、技術的に問題が無い限り、どの構成であっても、省略できる。
【0059】
(変形例1)
操作部112から入力され、設定される吹出空気温度(設定値)は、室温、吸込空気温度などであってもよい。室温を設定する場合には、室温を検出する温度センサを設け、当該温度センサにより検出された室温の値をPID制御等のフィードバック値とすればよい。吸込空気温度(当該温度も室温に近いものである)を設定する場合には、温度センサST1により検出された吸込空気温度の値をPID制御等のフィードバック値とすればよい。
【0060】
(変形例2)
蒸発圧力が、圧縮機101に入力可能な冷媒の上限の圧力を上回ってしまうことを想定して、冷媒のバイパス経路(圧縮機101から吐出される冷媒の一部を、再度圧縮機101に入力する経路)を設けてもよい。この場合、循環経路L1上の蒸発器108と圧縮機101との間に蒸発圧力調整弁(蒸発器108で蒸発した冷媒の流量を調整する弁)を設け、バイパス時には、当該蒸発圧力調整弁の開度により、吹出空気温度を制御してもよい。このとき、ニューラルネットワーク15と当該蒸発圧力調整弁用のPID制御部とで、蒸発圧力調整弁を制御してもよい。このとき、ニューラルネットワーク15は、吹出空気温度の制御への悪影響を軽減するように、上記実施の形態と同様に学習等を行う。なお、蒸発圧力調整弁用のニューラルネットワーク(ニューラルネットワーク15と同様に前記悪影響を軽減するように学習したもの)と、インバータ102用のニューラルネットワーク15とを個別に用意してもよい。
【0061】
(変形例3)
ニューラルネットワーク15は、インバータ102と電子膨張弁106とのうちの少なくとも1つに代えて、又は、これらに加えて、冷却水流量調整弁105と送風機107とのうちの少なくとも1つを制御してもよい。例えば、ニューラルネットワーク15は、冷却水流量調整弁105をPID制御するPID制御部から冷却水流量調整弁105に供給する操作量又は当該PID制御部に入力される偏差を教師信号として機械学習を行い、上記吸込空気温度を表す数値(1階微分値など)が入力され、冷却水流量調整弁105に操作量を出力する。
【0062】
(変形例4)
上記ニューラルネットワーク15の代わりに、機械学習を行う他の制御部を設けてもよい。
【0063】
(変形例5)
熱交換システム100は、暖房を行うものであってもよい(この場合、冷媒の循環方向が逆になる)。熱交換システム100は、熱交換可能な熱媒体を用いるものであればよい。また、熱交換システム100により冷却又は加温する対象は、流体であればよく、空気に限らず、他の気体、液体などであってもよい。例えば、熱交換システム100は、冷凍庫に用いられるものであってもよい。熱交換システムは、直膨式の冷却システムに限らず、他の熱交換システムであってもよい。この場合、ニューラルネットワーク15及びPID制御部11による制御対象も適宜変更される。ただし、制御対象は、熱交換システムで使用される冷媒の流量を調整する調整装置(例えば、圧縮機を制御するインバータ、熱媒体の流路に設けられた各種弁)であることが望ましい。また、制御対象は、熱交換(例えば、PID制御部11による熱交換後の流体の温度の制御、熱交換後の流体の温度やその変動、又は、熱交換によって変化させる流体の温度の変化度)に影響を与える(熱交換を制御する)調整装置(例えば、インバータ、電子膨張弁)であることが望ましい。また、ニューラルネットワーク15に入力される値は、熱交換に影響を与える物理量の変動(例えば、蒸発器108へ流入する冷媒の温度変動や、過熱度の温度変動、冷媒の所定位置での圧力等)を表す値(現在値、微分値等)であればよい。
【0064】
(変形例6)
コントローラ120で使用される各種の値(例えば、PID制御部11、ニューラルネットワーク15などに入力される各種の値)は、適宜正規化されてもよい(ただし、正規化されても、その値に変わりは無い)。
【0065】
(変形例7)
上記PID制御は、所定の物理量(特に、当該PID制御が制御する装置により調整される冷媒の流量に応じて変動する物理量)がフィードバックされ、当該物理量を目標値に近づけるフィードバック制御であるが、上記PID制御を他のフィードバック制御に変更してもよい。他のフィードバック制御としては、PI(Proportional-Integral)制御等がある。
【0066】
(変形例8)
上記各センサで検出される物理量(温度又は圧力)は計算により算出してもよい。例えば、冷媒蒸気温度は、蒸発圧力等に基づいて算出されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0067】
L1・・・循環経路、11・・・PID制御部、13・・・変動取得部、15・・・ニューラルネットワーク、100・・・熱交換システム、101・・・圧縮機、102・・・インバータ、103・・・凝縮器、104・・・冷却水路、105・・・冷却水流量調整弁、106・・・電子膨張弁、107・・・送風機、108・・・蒸発器、112・・・操作部、120・・・コントローラ、SP1〜SP2・・・圧力センサ、ST1〜ST3・・・温度センサ
図1
図2
図3
図4