特許第6706233号(P6706233)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706233
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】レオロジー改質剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20200525BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20200525BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20200525BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20200525BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20200525BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20200525BHJP
   C04B 24/18 20060101ALI20200525BHJP
   C04B 24/30 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C09K3/00 103N
   C09K3/00 103G
   C04B28/02
   C04B24/32 A
   C04B24/12 A
   C04B24/22 C
   C04B24/26 E
   C04B24/26 F
   C04B24/18 A
   C04B24/30 A
   C04B24/26 Z
   C04B24/30 Z
【請求項の数】21
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2017-197342(P2017-197342)
(22)【出願日】2017年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-62658(P2018-62658A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-199978(P2016-199978)
(32)【優先日】2016年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】長澤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲一
(72)【発明者】
【氏名】寺井 久登
(72)【発明者】
【氏名】谷本 理勇
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−214070(JP,A)
【文献】 特開昭58−089695(JP,A)
【文献】 特開平09−227820(JP,A)
【文献】 特開2005−255777(JP,A)
【文献】 特開2003−313536(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1792632(CN,A)
【文献】 四方俊幸,表面,1991年,Vol.29 No.5,pp.399-409
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00、
C09K3/20−3/32、
C04B2/00−32/02、
C04B40/00−40/06、
C08K3/00−13/08、
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキル基又はアルケニル基の炭素数が16以上20以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が以上14以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)、及び(B)脂肪酸部の炭素数が16以上20以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)を含み、
(A)成分がアルキル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、55/45以上65/35以下であり、
(A)成分がアルケニル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、83/17以上85/15以下である、レオロジー改質剤。
【請求項2】
更に水を含有し、(A)成分と(B)成分の含有量の合計が、水100質量部に対して質量部以上30質量部以下である、請求項1に記載のレオロジー改質剤。
【請求項3】
(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセル及び水を含む、請求項1又は2に記載のレオロジー改質剤。
【請求項4】
請求項1〜の何れか1項に記載のレオロジー改質剤、水及び粉体を含有するスラリー組成物。
【請求項5】
粉体が水硬性粉体である、請求項に記載のスラリー組成物。
【請求項6】
(A)アルキル基又はアルケニル基の炭素数が16以上20以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が以上14以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)と(B)脂肪酸部の炭素数が16以上20以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)を、
(A)成分がアルキル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、55/45以上65/35以下で、
(A)成分がアルケニル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、83/17以上85/15以下で、水に混合する、水のレオロジー改質方法。
【請求項7】
(A)成分と(B)成分が紐状ミセルを形成する、請求項に記載の水のレオロジー改質方法。
【請求項8】
(A)アルキル基又はアルケニル基の炭素数が16以上20以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が以上14以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)と(B)脂肪酸部の炭素数が16以上20以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)、粉体及び水を混合する、スラリー組成物の製造方法であって、
(A)成分と(B)成分とを、
(A)成分がアルキル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、55/45以上65/35以下で、
(A)成分がアルケニル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、83/17以上85/15以下で用いる、
スラリー組成物の製造方法。
【請求項9】
水と粉体とを含むスラリーを調製し、(A)成分と(B)成分を該スラリーに添加し、混合する、請求項に記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項10】
(A)成分と(B)成分とを、(A)成分と(B)成分の含有量の合計が、水100質量部に対して質量部以上30質量部以下で用いる、請求項8又は9に記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項11】
粉体が水硬性粉体である、請求項8〜10の何れか1項に記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項12】
(A)アルキル基又はアルケニル基の炭素数が16以上20以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が以上14以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)を含む水溶液と(B)脂肪酸部の炭素数が16以上20以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)を含む水溶液とを含んで構成されるキットであって、
(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液が、(A)成分と(B)成分とを、
(A)成分がアルキル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、55/45以上65/35以下、
(A)成分がアルケニル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、83/17以上85/15以下、
となるように混合されるキット。
【請求項13】
(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液が、(A)成分と(B)成分とを、(A)成分と(B)成分の含有量の合計が、水100質量部に対して質量部以上30質量部以下となるように混合される、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液が、紐状ミセルを形成するように混合される、請求項12又は13に記載のキット。
【請求項15】
粉体スラリー組成物製造用である、請求項12〜14の何れか1項に記載のキット。
【請求項16】
水硬性スラリー組成物製造用である、請求項12〜14の何れか1項に記載のキット。
【請求項17】
(A)アルキル基又はアルケニル基の炭素数が16以上20以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が以上14以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)、(B)脂肪酸部の炭素数が16以上20以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)、及び(C)分散剤(以下、(C)成分という)を含み、
(A)成分がアルキル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、55/45以上65/35以下であり、
(A)成分がアルケニル基を有するポリエーテル化合物である場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、83/17以上85/15以下である、水硬性スラリー組成物用混和剤。
【請求項18】
(A)成分と(B)成分の含有量の合計と、(C)成分の質量比[(A)+(B)]/(C)が、5/95以上95/5以下である、請求項17に記載の水硬性スラリー組成物用混和剤。
【請求項19】
(C)成分が、(C1)ナフタレン系分散剤、(C2)ポリカルボン酸系分散剤、(C3)下記重縮合生成物からなる分散剤、(C4)リグニン系分散剤、及び(C5)メラミン系分散剤から選ばれる1種以上の分散剤である、請求項17又は18に記載の水硬性スラリー組成物用混和剤。
<重縮合生成物>
下記成分C31、成分C33、及び任意に成分C32からなる重縮合生成物
〔成分C31〕
5から10の炭素原子又はヘテロ原子を有する芳香族化合物又は複素芳香族化合物であって、該芳香族化合物又は複素芳香族化合物にO原子又はN原子を介して結合される、1分子当たり平均して1から300の、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレン基を含む、芳香族化合物又は複素芳香族化合物
〔成分C32〕
(C32−1)フェノール、(C32−2)フェノールエーテル、(C32−3)ナフトール、(C32−4)ナフトールエーテル、(C32−5)アニリン、(C32−6)フルフリルアルコール、並びに(C32−7)メラミン又はその誘導体、尿素又はその誘導体、及びカルボキサミドからなる群より選択されるアミノプラスト形成剤、からなる群より選択される、任意成分としての少なくとも1つの芳香族化合物
〔成分C33〕
ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、及びベンズアルデヒド、又はその混合物からなる群より選択されるアルデヒド(ここでベンズアルデヒドはさらに、COOM、SO、及びPOの式で表される酸性基(MはH、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アミン基であり、aは1/2、1、又は2であってもよい)を有してもよい。)
【請求項20】
(C)成分が、(C2)ポリカルボン酸系分散剤である、請求項17〜19の何れか1項に記載の水硬性スラリー組成物用混和剤。
【請求項21】
請求項17〜20の何れか1項に記載の水硬性スラリー組成物用混和剤、水硬性粉体、及び水を含む水硬性スラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レオロジー改質剤、水のレオロジー改質方法、スラリー組成物、スラリー組成物の製造方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、極度に長い円筒状ミセルを形成する界面活性剤は、水の循環システム、特に加熱または冷却の分配を目的とする熱交換システムにおいて配管摩擦抵抗低減剤として注目されている。このように注目されている重要な理由としては、圧送エネルギー低減の観点から導管が層流に維持されることを所望する一方で、同時に熱交換器内を乱流にして、その場所での1単位面積当たりの熱伝導率を高くしようとすることが挙げられる。円筒状型ミセルの形態は濃度や流体速度(ミセルにかかるせん断力)に大きく依存し、導管および熱交換器内の条件を適切に選択することで導管内を層流に、かつ熱交換器内を乱流にすることができる。一方で、共有結合を有する一般的な高分子にも同様の効果が確認されているが、一般高分子は圧送ポンプによる高せん断力によって共有結合が切断され、分子量が低下し、効果が減少する問題があるが、円筒状ミセルは構造が破壊されても、せん断力が除かれればミセルが再生されるため、効果の劣化が少ない。したがって、導管および交換器の大きさをいずれも低レベルに保つことができ、またはこれに代えて、導管の大きさを同じにしたままでポンプステーションの数を低減可能といった利益が得ることができる。
【0003】
また建設工事では、建物基礎や地下構造物の施工において、土の掘削、コンクリートの打設が行われている。この掘削工事は地層の崩壊防止、地盤の安定化をはかる目的で、掘削面に安定液が使われる。この安定液には、(1)掘削面を安定にするための十分な密度があること、(2)地盤からの地下水流入と地盤への安定液の流出を防ぐ保護膜を掘削面につくれること、(3)土の空隙中でゲル化し、掘削面の土粒子を支持できること、(4)長時間にわたって掘削面を保持できること等の機能が要求される。
【0004】
この機能を満足させるものとして、石膏やセメントなどの強アルカリ性を示す泥水に対しても安定性を有し、耐塩性に優れ、耐加圧濾水性及び耐凝集沈降性にも優れた性能を有する掘削泥水用添加剤が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また従来の建築技術として、港湾・橋梁・海底トンネルなど、施工環境に水が存在する現場では、セメントスラリー(ペースト、モルタル、またはコンクリート)の水への拡散を抑制するため、添加剤として増粘剤が一般に用いられる。増粘剤はその高い粘弾性により、無機粒子をスラリー内部に保持することで、水への拡散を著しく抑制する。その結果、水中にセメントスラリーを直接打設可能となるなど高い効果を示す。
【0006】
一般に、増粘剤には高分子量のポリオキシエチレン、多糖、改質セルロースなどの有機系高分子が用いられる。しかし、これらの有機系高分子によって得られる粘弾性は、せん断力が加わった際の粘弾性低下(チキソトロピー性)が少ないため、例えば配管を通してセメントスラリーを輸送する際、通常よりも著しく高い圧力が必要であるといった課題がある。さらに、多糖、改質セルロースなどの有機系高分子は一般にセメント粒子に吸着する性質を有するため、セメントの水和反応を遅延させるといった課題がある。
【0007】
一方で、セメントスラリー中に特定のアニオン界面活性剤と特定のカチオン界面活性剤を一定比率で添加することで、紐状ミセルと呼ばれる擬似的な高分子が形成され、高い粘弾性を得られることが知られている(特許文献2)。この擬似的な高分子はアルキル鎖部分での疎水結合や、親水部での特異な相互作用など共有結合以外の分子間相互作用によって構築されているため、一定のせん断力を受けると擬似高分子構造が崩壊し粘弾性が低下するといった特徴を有している(高いチキソトロピー性)。そのため、せん断力のかかる輸送中は擬似高分子構造が崩壊して低粘度化し、せん断力が除かれた打設現場では擬似高分子構造が再生され粘弾性が戻るといった、これまでの有機高分子系増粘剤にはない性能(ポンプ圧送性と粘弾性の両立)を示す。
【0008】
特許文献2のアニオン界面活性剤とカチオン界面活性剤によって形成される紐状ミセルは、水中において、親水基を外側(水相側)、疎水部を内側(油相側)に向けて配列していると考えられている。紐状ミセルの示す粘弾性は疎水部の炭素数に相関があり、界面活性剤のクラフト点以上の温度では、炭素数が多い程、一定温度・添加量において高い粘弾性を示す。粘弾性は擬似高分子である紐状ミセル同士の絡み合いによって発現するが、紐状ミセル同士が絡んだ際、一定の確率でミセル同士にすり抜けが起こる。この時、疎水部の炭素数が多いほど、疎水部の体積が増加し、紐状ミセル同士のすり抜けが困難となる。その結果、すり抜けの確率が減少し、絡み合いが強化され、系全体の粘弾性が向上するものと推察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−270169号公報
【特許文献2】特開2003−313536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、水に対してチキソトロピー性と粘性を付与する、レオロジー改質剤及び水のレオロジー改質方法を提供する。また本発明は、高い粘性を有し、水中分離抵抗性に優れるスラリー組成物及びスラリー組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(A)炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)、及び(B)脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)を含むレオロジー改質剤に関する。
【0012】
また本発明は、(A)炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)と(B)脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)を水に混合する、水のレオロジー改質方法に関する。
【0013】
また本発明は、(A)炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)、(B)脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)、水及び粉体を含有するスラリー組成物に関する。
【0014】
また本発明は、(A)炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)と(B)脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)、粉体及び水を混合する、スラリー組成物の製造方法に関する。
【0015】
また本発明は、(A)炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)を含む水溶液と(B)脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)を含む水溶液とを含んで構成されるキットに関する。
【0016】
また本発明は、(A)炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物(以下、(A)成分という)、(B)脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)、及び(C)分散剤(以下、(C)成分という)を含む水硬性スラリー組成物用混和剤に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水に対してチキソトロピー性と粘性を付与する、レオロジー改質剤及び水のレオロジー改質方法が提供される。また本発明によれば、高い粘性を有し、水中分離抵抗性に優れるスラリー組成物及びスラリー組成物の製造方法が提供される。
本発明のレオロジー改質剤は、水に対してチキソトロピー性と粘弾性を付与できるため、水のレオロジー改質に効果があり、またカチオン界面活性剤を積極的に使用しないため環境に対する影響が小さい。本発明のスラリー組成物は、高い粘性を有し、水中分離抵抗性に優れるため、ポンプ圧送性と材料分離抵抗性を必要とする用途において効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例2−3の組成物の測定温度20℃における動的粘弾性特性をプロットしたグラフ。
図2】実施例1−1の組成物の電子顕微鏡写真。
図3】実施例5−3の水硬性スラリー組成物を水中に添加したときの写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、種々検討を行った結果、(A)成分の特定のポリエーテル化合物と(B)成分の特定の脂肪酸アルカノールアミドとの組み合わせが、低濃度で高い粘弾性を示す紐状ミセルを形成することを見いだした。水中での界面活性剤のミセル構造に影響する因子の一つに、その界面活性剤の充てんパラメータがある。本発明の(A)成分と(B)成分は、それぞれの充てんパラメータが相違し、これらを混合した系中では、暫定的に(A)成分と(B)成分の混合物を考えるとその混合物の平均(分子数での平均)充てんパラメータが、紐状ミセルを形成するのに適した値となっているものと推察される。
【0020】
〔レオロジー改質剤〕
本発明のレオロジー改質剤は、(A)成分、及び(B)成分を含有する。
【0021】
また本発明のレオロジー改質剤は、(A)成分、(B)成分及び水を含有する。
【0022】
また本発明のレオロジー改質剤は、(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセル及び水を含有する。紐状ミセルが形成されている場合、本発明のレオロジー改質剤は、動的粘弾性がMaxwell型に類似した挙動を示す。
【0023】
本発明のレオロジー改質剤とは、上記3つのレオロジー改質剤のことをいう。
【0024】
<(A)成分>
本発明のレオロジー改質剤は、(A)成分として、炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物を含有する。(A)成分は、非イオン性のポリエーテル化合物である。また(A)成分は、炭素数が14以上24以下の炭化水素基と、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下のポリオキシエチレン基とを有する、非イオン性のポリエーテル化合物であることが好ましい。
【0025】
炭化水素基は、好ましくはアルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくは直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基である。
炭化水素基の炭素数は、高い粘弾性を得る観点から、14以上、好ましくは16以上、より好ましくは18以上、そして、24以下、好ましくは22以下、より好ましくは20以下である。
炭化水素基は、例えばリノレン基、リノール基、オレイル基、ステアリル基、パルミチル基、及びミリスチル基から選ばれる1種以上が挙げられ、好ましくはリノール基、オレイル基、及びステアリル基から選ばれる1種以上であり、より好ましくはオレイル基、及びステアリル基から選ばれる1種以上である。
【0026】
エチレンオキサイドの平均付加モル数は、高い粘弾性を得る観点から、5以上、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上、そして、19以下、好ましくは15以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
【0027】
(A)成分としては、具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテルから選ばれる1種以上が挙げられ、高い粘弾性を得る観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレンアルケニルエーテルから選ばれる1種以上が好ましい。
【0028】
(A)成分としては、高い粘弾性を得る観点から、下記一般式(a1)で表される化合物が好適である。
1a−O−(CHCHO)−H (a1)
[式中、R1aは炭素数14以上24以下の炭化水素基であり、nは平均付加モル数であり、5以上19以下の数である。]
【0029】
一般式(a1)中、R1aは、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、更に好ましくは直鎖のアルキル基又は直鎖のアルケニル基である。
1aの炭素数は、高い粘弾性を得る観点から、14以上、好ましくは16以上、より好ましくは18以上、そして、24以下、好ましくは22以下、より好ましくは20以下である。
【0030】
一般式(a1)中、R1aは、例えばリノレン基、リノール基、オレイル基、ステアリル基、パルミチル基、及びミリスチル基から選ばれる1種以上が挙げられ、好ましくはリノール基、オレイル基、及びステアリル基から選ばれる1種以上であり、より好ましくはオレイル基、及びステアリル基から選ばれる1種以上である。
【0031】
nは、高い粘弾性を得る観点から、5以上、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上、そして、19以下、好ましくは15以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
【0032】
<(B)成分>
本発明のレオロジー改質剤は、(B)成分として、脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミドを含有する。
【0033】
脂肪酸部の炭化水素基は、脂肪酸アルカノールアミドの原料脂肪酸において、好ましくは、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、更に好ましくは直鎖のアルケニル基である。
【0034】
脂肪酸部の炭素数は、脂肪酸アルカノールアミドの原料脂肪酸においてカルボキシル基の炭素原子を含む炭素数であり、高い粘弾性を得る観点から、14以上、好ましくは16以上、より好ましくは18以上、そして、24以下、好ましくは22以下、より好ましくは20以下である。
【0035】
(B)成分は、炭素数14以上24以下の脂肪酸とアルカノールアミンを反応させることにより得られる。
脂肪酸部の原料脂肪酸は、例えばリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、及び、ミリスチン酸から選ばれる1種以上が挙げられ、好ましくはオレイン酸、ステアリン酸、及びパルミチン酸から選ばれる1種以上であり、より好ましくはオレイン酸及びステアリン酸から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはオレイン酸である。
【0036】
脂肪酸アルカノールアミドとしては、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸メチルモノエタノールアミド、脂肪酸エチルモノエタノールアミド、脂肪酸プロピルモノエタノールアミド、脂肪酸メタノールエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド等が挙げられ、高い粘弾性を得る観点から、脂肪酸ジエタノールアミドが好ましい。
【0037】
(B)成分は、例えば、リノレン酸ジエタノールアミド、リノール酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。(B)成分は、高い粘弾性を得る観点から、好ましくはオレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミドから選ばれる1種以上であり、より好ましくはオレイン酸ジエタノールアミドである。
【0038】
本発明のレオロジー改質剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で、(B)成分以外の脂肪酸アルカノールアミドを含有してもよい。
本発明のレオロジー改質剤において、(B)成分の含有量は、肪酸部の炭素数が8以上24以下である脂肪酸アルカノールアミド中、材料分離抵抗性の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であることがより好ましい。
【0039】
<(B)成分に含まれる脂肪酸アルカノールアミド以外の副産物>
(B)成分は、高級脂肪酸とアルカノールアミンを反応させることにより得られるが、脂肪酸アルカノールアミド以外の副産物が同時に生成される。生成し得る副産物としては、脂肪酸アルカノールアミドと脂肪酸が脱水縮合した脂肪酸アルカノールアミド脂肪酸モノエステル、脂肪酸アルカノールアミド脂肪酸ジエステル、並びにアルカノールアミンと脂肪酸が脱水縮合した脂肪酸アルカノールアミンモノエステル、脂肪酸アルカノールアミンジエステル等が挙げられる。本発明のレオロジー改質剤に(B)成分を配合するにあたり、(B)成分以外に上記の副産物が含まれた反応生成物を用いてもよい。その場合、(B)成分の量には副産物の量は算入しない。
【0040】
本発明の(B)成分には、本発明の効果を損なわない限り、上記の副産物を微量に含んでも良い。
上記副産物の含有量は、高い粘弾性を得る観点から、(B)成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、更に好ましくは5質量部以下、より更に好ましくは3質量部以下、より更に好ましくは2質量部以下、より更に好ましくは1質量部以下、より更に好ましくは0.5質量部以下、より更に好ましくは0.1質量部以下である。
【0041】
<組成等>
本発明のレオロジー改質剤は、水を含有する場合、(A)成分と(B)成分の合計含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上、より更に好ましくは3質量部以上であり、そして、好ましくは99質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、より更に好ましくは30質量部以下である。
また本発明のレオロジー改質剤は、(A)成分の含有量が、水100質量部に対して、粘弾性を得る観点から、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、そして、組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。
また本発明のレオロジー改質剤は、(B)成分の含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、そして、組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。
本発明のレオロジー改質剤は、(A)成分と(B)成分の合計含有量が所定の範囲内であり、かつ(A)成分と(B)成分の各含有量が所定の範囲内であることが好ましい。
【0042】
本発明のレオロジー改質剤において、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは40/60以上95/5以下である。更に、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、(A)成分と(B)成分の組み合わせにより、以下の通りとすることが高い粘弾性を得る観点から好適である。
(A)成分の炭化水素基がアルキル基の場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは50/50以上、より好ましくは55/45以上、そして、好ましくは75/25以下、より好ましくは70/30以下、更に好ましくは65/35以下である。
(A)成分の炭化水素基がアルケニル基の場合は、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは65/35以上、より好ましくは70/30以上、更に好ましくは75/25以上、より更に好ましくは78/22以上、より更に好ましくは80/20以上、より更に好ましくは82/18以上、より更に好ましくは83/17以上、より更に好ましくは83.5/16.5以上、そして、好ましくは92/8以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは89/11以下、より更に好ましくは87/13以下、より更に好ましくは86/14以下、より更に好ましくは85/15以下、より更に好ましくは84.5/15.5以下である。
本発明のレオロジー改質剤が、後述する(C)成分を含有する場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、良好な水硬性スラリーの粘弾性及び実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは80/20以下である。
【0043】
本発明のレオロジー改質剤は、本発明の効果を損なわない限り、さらに(A’)成分として、(A)成分以外のポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有してもよい。
(A’)成分のアルキル基の平均炭素数は10以上が好ましく、11以上がより好ましく、12であることが更に好ましく、そして、14以下が好ましく、13以下がより好ましい。
(A’)成分のオキシエチレンの平均付加モル数は、高い粘弾性を得る観点から、4以上が好ましく、6以上がより好ましく、8以上が更に好ましく、そして、15以下が好ましく、13以下がより好ましく、11以下がより好ましい。
本発明のレオロジー改質剤が、(A’)成分を含有する場合、(A)成分と(A’)成分の質量比(A)/(A’)は、高い粘弾性を得る観点から、50/50以上が好ましく、60/40以上がより好ましく、65/35以上が更に好ましく、そして、90/10以下が好ましく、80/20以下がより好ましく、75/25以下が更に好ましい。
【0044】
本発明のレオロジー改質剤は、水を含有する場合、(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセルを含有する。そして、この紐状ミセルは、せん断力が加わった際の粘性低下(チキソトロピー性)のため、配管と水との摩擦抵抗を低減させる組成物の圧送方法として好適である。
こうした特性から、本発明のレオロジー改質剤は、増粘剤、チキソトロピー付与剤などとして適度な粘弾性が要求される用途に好適に用いられる。例えば、増粘ゲル化剤、配管摩擦抵抗低減剤、インク用添加剤、農薬助剤、潤滑剤、ワックス、などとして有用であり、また水硬性組成物のレオロジー改質剤として、材料分離抑制、水中分離抑制用途に特に有用である。例えば、吹付用コンクリート用、トンネル補修用、水平でない壁への施工用、坑井掘削用添加剤、夏や亜熱帯や熱帯など水硬性組成物の混練温度が高い場合の、工事領域を枠で囲って枠内の水を排水することなしに、護岸工事を行う用途などに用いることが出来る。
【0045】
本発明のレオロジー改質剤において、(A)成分と(B)成分から紐状ミセルが形成していることは電子顕微鏡写真により確認できる。
【0046】
また本発明のレオロジー改質剤において、(A)成分と(B)成分から紐状ミセルが形成している場合、組成物の動的粘弾性がMaxwell型に類似した挙動を示す。この挙動は「界面活性剤水溶液の粘弾性特性」(四方俊幸、表面 vol.29、No5(1991)、p399-499)の記載から、有限の分子量を有する高分子状構造の絡み合いを示唆するものであり、無限の分子量を有する完全な紐状ミセル形状ではないが、実用上有用な粘弾性を発現するために十分な長さの紐状ミセルが形成していると推察することが出来る。
【0047】
本発明のレオロジー改質剤は、配管摩擦抵抗低減剤として用いることができる。
配管摩擦抵抗低減剤とは、密閉循環系を形成する配管中の水に添加することにより、配管と水との摩擦抵抗を低減させて冷温水ポンプの搬送動力(圧送エネルギー)を軽減させる剤をいう。
配管摩擦抵抗低減剤は、本発明のレオロジー改質剤で述べた事項を適宜適用することができる。
冷温水ポンプの密閉循環系の水に、本発明の配管摩擦低減剤を添加すると、(A)成分と(B)成分が紐状ミセルを形成し、この紐状ミセルが循環水の乱れのエネルギー(乱流渦)を吸収し、循環水の流れを乱流から層流に変化させることができる。これにより、配管内の摩擦が低減されるため、冷温水ポンプの搬送動力を低減させることができる。
また配管摩擦低減剤には、カチオン性界面活性剤と芳香族アニオン活性剤を含むものが提案されており、例えば特開昭58−185692号公報が挙げられる。
【0048】
本発明のレオロジー改質剤は、増粘ゲル化剤として用いることができる。
増粘ゲル化剤は、本発明のレオロジー改質剤で述べた事項を適宜適用することができる。
本発明の増粘ゲル化剤は、(A)成分と(B)成分が紐状ミセルを形成することで、高い粘弾性を有するため、例えば、洗浄剤組成物に添加すれば、垂直又は傾斜した硬質等の汚れた表面に対して、より長い間付着させることができ、高い洗浄効果を上げることができる。
【0049】
本発明のレオロジー改質剤は、水硬性組成物のレオロジー改質剤として使用する場合、カチオン界面活性剤を含有しない為、粘土を含む砂も使用可能であり、粘土を含む場所での施工も可能である。また、ベントナイトは建築土木用のレオロジー改質剤として広く利用されているが、ベントナイトとも併用が可能である。
【0050】
本発明のレオロジー改質剤は、(C)分散剤(以下、(C)成分ともいう)を含有することができる。(C)成分は、本発明の液状レオロジー改質剤を適用する対象物が、水硬性スラリー組成物の場合、良好なレオロジー改質効果と流動性を発現させる観点で好ましい成分である。
即ち、本発明は、(A)成分と(B)成分、及び(C)成分を含むレオロジー改質剤を提供する。
【0051】
〔水硬性スラリー組成物用混和剤〕
(C)成分を含有する本発明のレオロジー改質剤は、水硬性スラリー組成物用混和剤として有用である。
即ち、本発明は、(A)成分と(B)成分、及び(C)成分を含む水硬性スラリー組成物用混和剤を提供する。
また本発明は、(A)成分と(B)成分、(C)成分及び水を含む水硬性スラリー組成物用混和剤を提供する。
本発明の水硬性スラリー組成物用混和剤とは、上記2つのレオロジー改質剤のことをいう。
本発明の水硬性スラリー組成物用混和剤には、本発明のレオロジー改質剤で述べた事項を適宜適用することができる。
【0052】
本発明の水硬性スラリー組成物用混和剤において、(C)成分である分散剤としては、ナフタレン系重合体、ポリカルボン酸系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、リグニン系重合体が挙げられる。
【0053】
ナフタレン系重合体としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(花王株式会社製マイテイ150等)、メラミン系重合体としてはメラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物(例えば花王株式会社製マイテイ150−V2)、フェノール系重合体としては、フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(特開昭49−104919号公報に記載の化合物等)、リグニン系重合体としてはリグニンスルホン酸塩(ボレガード社製ウルトラジンNA、日本製紙ケミカル株式会社製サンエキス、バニレックス、パールレックス等)等を用いることができる。
【0054】
ポリカルボン酸系共重合体としては、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステルと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体(例えば特開平8−12397号公報に記載の化合物等)、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールとマレイン酸等のジカルボン酸との共重合体等を用いることができる。ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるカルボン酸の意味である。
【0055】
より詳細には、(C)成分は、(C1)ナフタレン系分散剤、(C2)ポリカルボン酸系分散剤、(C3)下記重縮合生成物からなる分散剤(以下、PAE系分散剤ともいう)、(C4)リグニン系分散剤、及び(C5)メラミン系分散剤から選ばれる1種以上の分散剤が挙げられる。
<重縮合生成物>
下記成分C31、成分C33、及び任意に成分C32からなる重縮合生成物
〔成分C31〕
5から10の炭素原子又はヘテロ原子を有する芳香族化合物又は複素芳香族化合物であって、該芳香族化合物又は複素芳香族化合物にO原子又はN原子を介して結合される、1分子当たり平均して1から300の、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレン基を含む、芳香族化合物又は複素芳香族化合物
〔成分C32〕
(C32−1)フェノール、(C32−2)フェノールエーテル、(C32−3)ナフトール、(C32−4)ナフトールエーテル、(C32−5)アニリン、(C32−6)フルフリルアルコール、並びに(C32−7)メラミン又はその誘導体、尿素又はその誘導体、及びカルボキサミドからなる群より選択されるアミノプラスト形成剤、からなる群より選択される、任意成分としての少なくとも1つの芳香族化合物
〔成分C33〕
ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、及びベンズアルデヒド、又はその混合物からなる群より選択されるアルデヒド(ここでベンズアルデヒドはさらに、COOM、SO、及びPOの式で表される酸性基(MはH、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アミン基であり、aは1/2、1、又は2であってもよい)を有してもよい。)
【0056】
(C)成分は、水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、(C1)ナフタレン系分散剤、(C2)ポリカルボン酸系分散剤、及び(C4)リグニン系分散剤から選ばれる1種以上が好ましく、(C1)ナフタレン系分散剤、及び(C2)ポリカルボン酸系分散剤から選ばれる1種以上がより好ましく、(C2)ポリカルボン酸系分散剤が更に好ましい。以下、分散剤について説明する。
【0057】
(C1)ナフタレン系分散剤
ナフタレン系分散剤としては、好ましくはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩が挙げられる。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物又はその塩である。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は、性能を損なわない限り、単量体として、例えばメチルナフタレン、エチルナフタレン、ブチルナフタレン、ヒドロキシナフタレン、ナフタレンカルボン酸、アントラセン、フェノール、クレゾール、クレオソート油、タール、メラミン、尿素、スルファニル酸及び/又はこれらの誘導体などのような、ナフタレンスルホン酸と共縮合可能な芳香族化合物と共縮合させても良い。
【0058】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、例えば、マイテイ150、デモール N、デモール RN、デモール MS、デモールSN−B、デモール SS−L(いずれも花王株式会社製)、セルフロー 120、ラベリン FD−40、ラベリン FM−45(いずれも第一工業株式会社製)などのような市販品を用いることができる。
【0059】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、水硬性スラリー組成物の流動性向上の観点から、重量平均分子量が、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは80,000以下、より更に好ましくは50,000以下、より更に好ましくは30,000以下である。そして、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、水硬性スラリー組成物の流動性向上の観点から、重量平均分子量が、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上、更に好ましくは4,000以上、より更に好ましくは5,000以上である。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は酸の状態あるいは中和物であってもよい。
【0060】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の分子量は下記条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
[GPC条件]
カラム:G4000SWXL+G2000SWXL(東ソー)
溶離液:30mM CHCOONa/CHCN=6/4
流量:0.7ml/min
検出:UV280nm
サンプルサイズ:0.2mg/ml
標準物質:西尾工業(株)製 ポリスチレンスルホン酸ソーダ換算(単分散ポリスチレンスルホン酸ナトリウム:分子量、206、1,800、4,000、8,000、18,000、35,000、88,000、780,000)
検出器:東ソー株式会社 UV−8020
【0061】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の製造方法は、例えば、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとを縮合反応により縮合物を得る方法が挙げられる。前記縮合物の中和を行ってもよい。また、中和で副生する水不溶解物を除去してもよい。具体的には、ナフタレンスルホン酸を得るために、ナフタレン1モルに対して、硫酸1.2〜1.4モルを用い、150〜165℃で2〜5時間反応させてスルホン化物を得る。次いで、該スルホン化物1モルに対して、ホルムアルデヒドとして0.93〜0.99モルとなるようにホルマリンを85〜105℃で、3〜6時間かけて滴下し、滴下後95〜105℃で縮合反応を行う。さらに、得られる縮合物の水溶液は酸性度が高いので貯槽等の金属腐食を抑制する観点から、得られた縮合物に、水と中和剤を加え、80〜95℃で中和工程を行うことができる。中和剤は、ナフタレンスルホン酸と未反応硫酸に対してそれぞれ1.0〜1.1モル倍添加することが好ましい。また、中和により生じる水不溶解物を除去することができ、その方法として好ましくは濾過による分離が挙げられる。これらの工程によって、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩の水溶液が得られる。この水溶液は、そのままナフタレン系分散剤の水溶液として使用することができる。更に必要に応じて該水溶液を乾燥、粉末化して粉末状のナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩を得ることができ、これを粉末状のナフタレン系分散剤として使用することができる。乾燥、粉末化は、噴霧乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥等により行うことができる。
【0062】
(C2)ポリカルボン酸系分散剤
ポリカルボン酸系分散剤としては、下記一般式(c21)で示される単量体(c21)を構成単量体として含む共重合体が初期流動性の観点から、好ましい。
ポリカルボン酸系分散剤としては、下記一般式(c21)で示される単量体(c21)と下記一般式(c22)で示される単量体(c22)とを構成単量体として含む共重合体がより好ましい。
【0063】
【化1】
【0064】
〔式中、
1c、R2c:同一でも異なっていても良く、水素原子又はメチル基
3c:水素原子又は−COO(AO)n11c
1c:水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基
AO:エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選ばれる基
n1:AOの平均付加モル数であり、1以上300以下の数
q:0以上2以下の数
p:0又は1の数
を示す。〕
【0065】
【化2】
【0066】
〔式中、
4c、R5c、R6c:同一でも異なっていても良く、水素原子、メチル基又は(CHCOOM2cであり、(CHCOOM2cは、COOM1c又は他の(CHCOOM2cと無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1c、M2cは存在しない。
1c、M2c:同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロアルキル基又はアルケニル基
r:0以上2以下の数
を示す。〕
【0067】
一般式(c21)中、R1cは、流動保持性の観点から、水素原子が好ましい。
一般式(c21)中、R2cは、流動保持性の観点から、メチル基が好ましい。
一般式(c21)中、R3cは、流動保持性の観点から、水素原子が好ましい。
一般式(c21)中、X1cは、流動保持性の観点から、水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
一般式(c21)中、AOは、流動保持性の観点から、エチレンオキシ基が好ましい。AOはエチレンオキシ基を含むことが好ましい。
一般式(c21)中、n1は、AOの平均付加モル数であり、水硬性スラリー組成物の流動性及び粘性、並びに材料分離抵抗性の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上、より更に好ましくは20以上、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下、より更に好ましくは130以下である。
一般式(c21)中、流動保持性の観点から、pは、1が好ましい。
【0068】
一般式(c22)中、流動保持性の観点から、R4cは、水素原子が好ましい。
一般式(c22)中、流動保持性の観点から、R5cは、メチル基が好ましい。
一般式(c22)中、流動保持性の観点から、R6cは、水素原子が好ましい。
(CHCOOM2cについては、COOM1c又は他の(CHCOOM2cと無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1c、M2cは存在しない。
1cとM2cは同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロアルキル基又はアルケニル基である。
1c、M2cのアルキル基、ヒドロアルキル基、及びアルケニル基は、それぞれ、炭素数1以上4以下が好ましい。
1cとM2cは、同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、又はアルキルアンモニウム基が好ましく、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、又はアンモニウム基がより好ましく、水素原子、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属(1/2原子)が更に好ましく、水素原子、又はアルカリ金属がより更に好ましい。
流動保持性の観点から、一般式(c22)中の(CHCOOM2cのrは、1が好ましい。
【0069】
単量体(c21)を構成単量体として含む共重合体は、流動保持性の観点から、構成単量体中の単量体(c21)の合計量が、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下である。
単量体(c21)と単量体(c22)とを構成単量体として含む共重合体は、流動保持性の観点から、構成単量体中の単量体(c21)と単量体(c22)の合計量が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下である。この合計量は、100質量%であってもよい。
【0070】
単量体(c21)と単量体(c22)とを構成単量体として含む共重合体は、単量体(c21)と単量体(c22)の合計中の単量体(c22)の割合が、水硬性スラリー組成物の流動保持性の観点から、好ましくは40モル%以上、そして、好ましくは99モル%以下、より好ましくは97モル%以下、更に好ましくは95モル%以下である。
【0071】
ポリカルボン酸系分散剤、更に単量体(c21)を構成単量体として含む共重合体、更に単量体(c21)と単量体(c22)とを構成単量体として含む共重合体の重量平均分子量は、水硬性スラリー組成物の流動保持性の観点から、好ましくは20,000以上、より好ましくは30,000以上、更に好ましくは40,000以上、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは100,000未満、更に好ましくは80,000以下である。
【0072】
ポリカルボン酸系分散剤、更に単量体(c21)を構成単量体として含む共重合体、更に単量体(c21)と単量体(c22)とを構成単量体として含む共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は、それぞれ、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定されたものである。
*GPC条件
装置:GPC(HLC−8320GPC)東ソー株式会社製
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CHCN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算(分子量既知の単分散ポリエチレングリコール、分子量87,500、250,000、145,000、46,000、24,000)
【0073】
ポリカルボン酸系分散剤は、AOの平均付加モル数や単量体(c21),単量体(c22)の割合などが異なる分散剤を2種以上用いることもできる。
【0074】
(C3)PAE系分散剤
PAE系分散剤は、下記成分C31、成分C33、及び任意に成分C32からなる重縮合生成物からなる。
〔成分C31〕
5から10の炭素原子又はヘテロ原子を有する芳香族化合物又は複素芳香族化合物であって、該芳香族化合物又は複素芳香族化合物にO原子又はN原子を介して結合される、1分子当たり平均して1から300の、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレン基を含む、芳香族化合物又は複素芳香族化合物
〔成分C32〕
(C32−1)フェノール、(C32−2)フェノールエーテル、(C32−3)ナフトール、(C32−4)ナフトールエーテル、(C32−5)アニリン、(C32−6)フルフリルアルコール、並びに(C32−7)メラミン又はその誘導体、尿素又はその誘導体、及びカルボキサミドからなる群より選択されるアミノプラスト形成剤、からなる群より選択される、任意成分としての少なくとも1つの芳香族化合物
〔成分C33〕
ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、及びベンズアルデヒド、又はその混合物からなる群より選択されるアルデヒド(ここでベンズアルデヒドはさらに、COOM、SO、及びPOの式で表される酸性基(MはH、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アミン基であり、aは1/2、1、又は2であってもよい)を有してもよい。)
【0075】
PAE系分散剤は、3種までの成分C31、C32、及びC33を構成要素とする、場合によっては成分C32を使用しないこともできる。
【0076】
成分C31は、炭素数5から10の芳香族化合物又は複素芳香族化合物であり、複素芳香族化合物において、炭素原子のいくつか、好ましくは1から5の炭素原子、より好ましくは1から3、最も好ましくは1又は2の炭素原子は、ヘテロ原子によって置換されている。好適なヘテロ原子は、例えば、O、N、S、及び/又はPである。本化合物は、平均して、1種以上の基、好ましくは1種の基を含む。それは、上記芳香族化合物又は複素芳香族化合物にO原子又はN原子を介して結合される、1分子当たり1から300の、オキシエチレン[−CH−CH−O−]及びオキシプロピレン[−CH(CH)−CH−O−及び/又は(−CH−CH(CH)−O−)]からなる群より選択される基を有している。
【0077】
このような基は均一の化合物であることができるが、2又は3の炭素原子を含むオキシアルキレン基(すなわち、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレン)の数が異なり、当該オキシアルキレン基の端部のユニットの化学構造は同一である成分の混合物であることが有利なはずであり、また場合によっては、化学的に異なる芳香族化合物の混合物も使用することができる。これらのような混合物を与える、成分中に存在する1分子当たり2又は3の炭素原子からなるオキシアルキレン基の平均数は、1から300、好ましくは2から280、特に好ましくは10から200である。少なくとも3、特に少なくとも4、好ましくは少なくとも5、最も好ましくは少なくとも20のオキシアルキレン基を有する化合物も好ましい。
【0078】
実施形態において、好ましくはフェノール、ナフトール、アニリン、又はフルフリルアルコール誘導体が、芳香族化合物又は複素芳香族化合物C31として使用される。本発明のために、成分C31はOH、OR、NH、NHR7c、N(R7c、C−C10アルキル、SOH、COOH、PO、及びOPOからなる群より選択される置換基(ここでC−C10アルキル基はまた、フェニル又は4−ヒドロキシフェニル基を有していてもよく、R7cはC−Cアルキル基である)を有することができる。
【0079】
成分C31の具体例は、1モルのフェノール、クレゾール、レソルシノール、ノニルフェノール、メトキシフェノール、ナフトール、メチルナフトール、ブチルナフトール、ビスフェノールA、アニリン、メチルアニリン、ヒドロキシアニリン、メトキシアニリン、フルフリルアルコール、又は/及びサリチル酸の、1から300モルのオキシエチレン及び/又はオキシプロピレンラジカルとの付加体である。ホルムアルデヒドとの縮合の実施が容易であるという観点から、成分C31は、C−C10アルキル基を有することができるベンゼン誘導体の付加化合物であることが好ましい(例えば、フェノール)。より好ましくはアルキレンオキシドとフェノールの付加化合物である。
【0080】
成分C31に対する芳香族の出発成分は、場合によっては2又は3の炭素原子を有する1種以上のオキシアルキレン基を既に含んでおくことができ、このような場合には、出発物質のオキシアルキレン基を含む成分と、付加反応によって付加されるオキシアルキレン基を持つ成分との両方のオキシアルキレン基の和が、1分子当たり1から300に及ぶ。
【0081】
そのポリ(オキシアルキレン)基が成分C31に対する芳香族出発成分へ導入された物質は、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドである。付加反応は、ランダムの順序又はブロック構造の形態のいずれかで行うことができる。成分C31のポリ(オキシアルキレン)基の末端のユニットは、ヒドロキシル基に限定されず、この基がホルムアルデヒド又はアルデヒド酸成分との縮合を妨げない限りにおいて、アルキルエーテル又はカルボン酸エステルからなることもできる。
【0082】
成分C32は、(C32−1)フェノール、(C32−2)フェノールエーテル、(C32−3)ナフトール、(C32−4)ナフトールエーテル、(C32−5)アニリン、(C32−6)フルフリルアルコール、並びに(C32−7)メラミン又はその誘導体、尿素又はその誘導体、及びカルボキサミドからなる群より選択されるアミノプラスト形成剤、からなる群より選択される少なくとも1つの芳香族化合物である。
【0083】
好ましい実施形態において、芳香族化合物である成分C32は、OH、NH、OR8c、NHR8c、NR8c8c、COOH、C−Cアルキル、SOH、PO、OPOからなる群より選択される置換基を有しており、ここで上記アルキル基はまた、フェニル又は4−ヒドロキシフェニル基を有してもよく、R8cはC−Cアルキル基又は(ポリ)オキシC−Cアルキレン基(1から300のエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドユニットを有する)であり、また、それはOH、COOH、SOH、PO、OPOからなる群より選択される置換基を有してもよい。その例として挙げられるのは、フェノール、フェノキシ酢酸、フェノキシエタノール、フェノキシエタノールホスフェート(モノ−、ジ−、若しくはトリエステル、又はその混合物である)、フェノキシジグリコール、又はフェノキシ(ポリ)エチレングリコールホスフェート(モノ−、ジ−、若しくはトリエステル、又はその混合物である)、フェノキシジグリコールホスフェート、メトキシフェノール、レソルシノール、クレゾール、ビスフェノールA、ノニルフェノール、アニリン、メチルアニリン、N−フェニルジエタノールアミン、N−フェニル−N,N−ジプロパン酸、N−フェニル−N,N−二酢酸、N−フェニルジエタノールアミンジホスフェート、フェノールスルホン酸、アントラニル酸、コハク酸モノアミド、フルフリルアルコール、メラミン、及び尿素である。
【0084】
成分C33は、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、及びベンズアルデヒド、並びにその混合物からなる群より選択されるアルデヒド化合物であり、ここでベンズアルデヒドはさらに、COOM、SO、及びPOの式で表される酸性基(MはH、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Csなど、特にNa、K)若しくはアルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Baなど)、アンモニウム、又は有機アミン基であり、aは1/2、1、又は2であってもよい)を有してもよい。通常、ホルムアルデヒドは、酸性基又はそれらの適切な塩を含むさらなるアルデヒドと組み合わせて使用される。ホルムアルデヒドを存在させずに重縮合を行うことも可能である。アルデヒド成分の少なくとも1つに酸性基が存在することが、得られるポリマーを可塑剤として使用するのに好ましく、これは可塑化効果に必要とされる、セメント粒子表面上へのポリマーの吸着させることができるためである。しかしながら、酸性基が、好適な成分C32を介して導入されるのであれば、酸性基を含むアルデヒドの使用を省くこともできる。好ましいアルデヒドの酸誘導体としてアルデヒドカルボン酸、アルデヒドスルホン酸、及びアルデヒドホスホン酸が挙げられる。特に好ましいのが、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、ベンズアルデヒドスルホン酸、又はベンズアルデヒドジスルホン酸の使用である。
【0085】
これらのアルデヒドの酸誘導体の一価塩又は二価塩として、好ましいのがアルカリ金属塩、例えば、ナトリウム若しくはカリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えば、カルシウム塩、及びアンモニウム塩、又は有機アミンの塩の使用である。好ましい実施形態において、ホルムアルデヒドのアルデヒド酸成分に対する比は、1:0.1から1:100、より好ましくは1:0.5から1:50、最も好ましくは1:0.5から1:20である。
【0086】
アルデヒド成分は、好ましくはそれらの水溶液の形態で使用される。水溶液の形態で使用した場合は、工業的に実施される合成において成分の計量又は混合をかなり簡素化させるが、純粋な結晶若しくは紛状物質、又はそれらの水和物の使用も可能である。
【0087】
成分C31、C32、及びC33のモル比は、広い数値範囲内で変動可能であるが、成分C33:成分C31(適用可能であれば成分C31+成分C32)のモル比は1:0.01から1:10が好ましい。より好ましくは1:0.1から1:8に設定することである。また、成分C31:成分C32のモル比は10:1から1:10に設定するのが特に有利である。
【0088】
初期流動性と流動保持性の観点から、成分C31としては、ポリオキシエチレンモノフェニルエーテルが好ましい。初期流動性と流動保持性の観点から、オキシエチレンの平均付加モル数は5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上が更に好ましく、25以上がより更に好ましく、30以上がより更に好ましい、そして、300以下が好ましく、200以下がより好ましく、100以下が更に好ましく、50以下がより更に好ましい。
【0089】
初期流動性及び流動保持性の観点から、成分C32としては、フェノキシエタノールホスフェート、フェノール、フェノキシエタノール、アントラニル酸、フェノキシ酢酸が好ましく、フェノキシエタノールホスフェートがより好ましい。
【0090】
初期流動性及び流動保持性の観点から、成分C33としては、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸が好ましく、ホルムアルデヒドがより好ましい。
【0091】
初期流動性及び流動保持性の観点から、C31成分とC32成分とC33成分の仕込モル比は、例えば、1モル:2モル:3モルとすることができる。
【0092】
PAE系分散剤の重量平均分子量は、初期流動性及び流動保持性の観点から、10,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましく、18,000以上が更に好ましく、そして、50,000以下が好ましく、40,000以下がより好ましく、35,000以下が更に好ましく、30,000以下がより更に好ましく、25,000以下がより更に好ましい。
【0093】
PAE系分散剤である重縮合生成物は、特表2008−517080に記載の方法で製造できる。
【0094】
好ましいPAE系分散剤として、下記成分C31、成分C32、及び成分C33からなり、前記成分C33:(成分C31+成分C32)のモル比が1:0.01から1:10であり、前記成分C31:成分C32のモル比が10:1から1:10である重縮合生成物からなる分散剤が挙げられる。
〔成分C31〕
フェノール、クレゾール、レソルシノール、ノニルフェノール、メトキシフェノール、ナフトール、メチルナフトール、ブチルナフトール、及びビスフェノールAからなる群より選択される芳香族化合物に対して、O原子又はN原子を介して、1分子当たり平均して1から300の、オキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基が結合した化合物
〔成分C32〕
フェノキシ酢酸、フェノキシエタノール、フェノキシエタノールホスフェート、フェノキシジグリコール、及びフェノキシ(ポリ)エチレングリコールホスフェートからなる群
より選択される、少なくとも1つの芳香族化合物
〔成分C33〕
ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、及びベンズアルデヒド、又はその混合物からなる群より選択されるアルデヒド(ここでベンズアルデヒドはさらに、COOM、SO、又はPOの式で表される酸性基(MはH、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アミン基であり、aは1/2、1、又は2であってもよい)を有してもよい)
【0095】
上記重縮合生成物では、前記アルデヒド成分C33が、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、ベンズアルデヒド、ベンズアルデヒドスルホン酸、及びベンズアルデヒドジスルホン酸からなる群より選択される化合物であることが好ましい。
また、上記重縮合生成物では、前記成分C33:(C31+C32)のモル比が1:0.1から1:8であることが好ましい。
【0096】
(C4)リグニンスルホン酸系分散剤
リグニンスルホン酸系分散剤はリグニンスルホン酸塩又はその誘導体である。リグニンスルホン酸塩又はその誘導体は、水硬性スラリー組成物において、分散剤、減水剤、AE剤としての機能を有するものであってよい。
【0097】
リグニンスルホン酸塩又はその誘導体は、市販品を用いることが出来る。例えば、減水剤およびAE減水剤として、BASFジャパン社のマスターポゾリスNo.70、マスターポリヒード15Sシリーズ、フローリック社のフローリックSシリーズ、フローリックRシリーズ、グレースケミカル社のダーレックスWRDA、日本シーカ社のプラスクリートNC、プラスクリートR、山宗化学社のヤマソー80P、ヤマソー90シリーズ、ヤマソー98シリーズ、ヤマソー02NL−P、ヤマソー02NLR−P、ヤマソー09NL−P、ヤマソーNLR−P、竹本油脂社のチューポールEX60シリーズ、チューポールLS−Aシリーズ、リグエース社のリグエースUAシリーズ、リグエースURシリーズ、リグエースVFシリーズなどが挙げられる。
【0098】
リグニンスルホン酸塩、若しくはその誘導体の具体例を以下に挙げる。
(I)リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又はアミン塩
(II)リグニンスルホン酸塩にアミン化合物又はアミノ基が導入されたリグニン誘導体(例えば、特開2016-108183号)
(III)リグニンスルホン酸塩とホルムアルデヒドと反応させたリグニン誘導体(例えば、特開2015-229764号)
(IV)酸化リグニン、スルホン化リグニンなどの変性リグニン(例えば、特開2003-2714号)
(V)リグニンスルホン酸化合物ポリオール複合体(例えば、特開2007-105899号)
(VI)下記1)〜3)のリグニンスルホン酸塩変性物(例えば、特開2007-261119号)
1)リグニンスルホン酸又はその塩と、官能基を有するアクリル系モノマーとをグラフト共重合したリグニンスルホン酸塩変性物
2)リグニンスルホン酸又はその塩と、官能基を有するビニル系モノマーとをグラフト共重合したリグニンスルホン酸塩変性物
3)リグニンスルホン酸又はその塩にナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物を付加したリグニンスルホン酸塩変性物
(VII)リグニンスルホン酸塩にポリアルキレングリコール化合物を導入したリグニン誘導体(例えば、特開2015-193804号)
(VIII)リグニンスルホン酸系化合物と水溶性単量体との反応物(例えば、特開2011-240224号)
ここで、リグニンスルホン酸系化合物としては、リグニンのヒドロキシフェニルプロパン構造の側鎖α位の炭素が開裂してスルホン基が導入された骨格を有する化合物が挙げられる。
また、水溶性単量体としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン基、ニトロキシル基、カルボニル基、リン酸基、アミノ基、エポキシ基などのイオン性官能基、その他極性基を少なくとも1種類以上有する化合物が挙げられる。
(IX)下記4)〜5)のリグニンスルホン酸誘導体(例えば、特開2015-212216号)
4)リグニンスルホン酸系化合物に含まれるフェノール性ヒドロキシル基、アルコール性ヒドロキシル基、チオール基などの官能基に、少なくとも1種の水溶性単量体を反応させて得られるリグニン誘導体
5)リグニンスルホン酸系化合物に(通常は該化合物の官能基に)、少なくとも1種の水溶性単量体を、ラジカル開始剤を用いてラジカル共重合することによって得られるリグニン誘導体
ここで、リグニンスルホン酸系化合物は、特に限定されないが、木材を亜硫酸法によって蒸解して得られるものが例示される。
また、水溶性単量体のうち、リグニンスルホン酸系化合物に含まれるフェノール性ヒドロキシル基および/またはアルコール性ヒドロキシル基と反応し得る水溶性単量体として、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドなどが挙げられる。
また、水溶性単量体のうち、リグニンスルホン酸系化合物に含まれるチオール基と反応し得る水溶性単量体として、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシド、エチレンイミンやプロピレンイミンなどのアルキレンイミンなどが挙げられる。
また、ラジカル共重合に用いる水溶性単量体として、特開2015-212216号の[0071]〜[0074]に記載の単量体、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸への炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドの1〜500モル付加物類、アリルアルコールにアルキレンオキシドを2〜300モル付加して得られるアルキレンオキシド付加化合物類等が挙げられる。
【0099】
(C5)メラミン系分散剤
メラミン系分散剤は、以下のものが挙げられる。
メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、メラミンにホルムアルデヒドを反応させて得られたN−メチロール化メラミンに重亜硫酸塩を反応させてメチロール基の一部をスルホメチル化し、次いで酸を加えてメチロール基を脱水縮合させてホルムアルデヒド縮合物とし、アルカリで中和して得られる公知の化合物である(例えば特公昭63−37058号公報参照)。アルカリとしては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、モノ、ジ、トリアルキル(炭素数2〜8)アミン、モノ、ジ、トリアルカノール(炭素数2〜8)アミン等を挙げることができる。
【0100】
市販品として、マイテイ150V−2(花王(株)製)、SMF−PG(日産化学工業(株))、メルフロー(三井化学(株))、メルメントF−10(昭和電工(株)製)、スーパーメラミン(日産化学社製)、フローリックMS(フローリック社製)、メルメントF4000、メルメントF10M、メルメントF245(いずれもBASFジャパン社製)等がある。
【0101】
メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の分子量は、好ましくは1,000以上、より好ましくは5,000以上、そして、好ましくは10万以下、より好ましくは5万以下、更に好ましくは2万以下である(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法、ポリスチレンスルホン酸換算)。
【0102】
本発明の水硬性スラリー組成物用混和剤は、水と(C)成分を含有する場合、(C)成分の含有量が、水100質量部に対して、実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性及び良好な水硬性スラリー組成物用混和剤の長期保存安定性を得る観点から、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、そして、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。
【0103】
本発明の水硬性スラリー組成物用混和剤は、(C)成分を含有する場合、(A)成分と(B)成分の含有量の合計と、(C)成分の質量比[(A)+(B)]/(C)が、良好な水硬性スラリーの粘弾性及び実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上、更に好ましくは20/80以上、より更に好ましくは30/70以上、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは80/20以下、より更に好ましくは70/30以下である。
【0104】
〔水のレオロジー改質方法〕
本発明の水のレオロジー改質方法は、(A)成分及び(B)成分を水に混合する、水のレオロジー改質方法である。
【0105】
また本発明の水のレオロジー改質方法は、(A)成分及び(B)成分を水に混合し、(A)成分と(B)成分が紐状ミセルを形成する、水のレオロジー改質方法である。
【0106】
本発明の水のレオロジー改質方法は、上記2つのレオロジー改質方法をいう。
また本発明の水のレオロジー改質方法は、本発明のレオロジー改質剤で述べた事項を適宜適用することができる。
ここで、本発明の水のレオロジー改質方法における、水としては、水そのものの他、水溶液中の水、スラリー中の水を含む。従って、本発明の水のレオロジー改質方法は、水又は水を含む液体組成物のレオロジー改質方法でもある。
【0107】
本発明の水のレオロジー改質方法は、(A)成分の泡立ちを低減する観点から、(B)成分を水に混合した後、(A)成分を添加し混合することが好ましい。
すなわち、本発明の水のレオロジー改質方法は、(B)脂肪酸部の炭素数が14以上22以下である脂肪酸アルカノールアミドを水に混合した後、(A)炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物を添加し、混合する、水のレオロジー改質方法が好ましい。
【0108】
〔スラリー組成物〕
本発明のスラリー組成物は、(A)成分、(B)成分、粉体及び水を含有する。
【0109】
また本発明のスラリー組成物は、(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセル、粉体及び水を含有する。紐状ミセルが形成されている場合、本発明のスラリー組成物は、該スラリー組成物の(A)成分、(B)成分及び水の組成で調製した水溶液の動的粘弾性がMaxwell型に類似した挙動を示す。
【0110】
本発明のスラリー組成物は、上記2つのスラリー組成物のことをいう。
また本発明のスラリー組成物は、本発明のレオロジー改質剤及び水のレオロジー改質方法で述べた事項を適宜適用することができる。
【0111】
本発明の粉体としては、本発明の効果に影響のない範囲内で無機粉体を用いることができる。無機粉体としては、特に限定されないが、以下のものが挙げられる。無機粉体のうち、水硬性粉体を用いるものが、水硬性スラリー組成物である。
(1)セメント、石膏などの水硬性粉体
(2)フライアッシュ、シリカフューム、火山灰、けい酸白土などのポソラン作用を持つ粉体
(3)石炭灰、高炉スラグ、けい藻土などの潜在水硬性粉体
(4)ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、などのケイ酸塩
(5)カオリン、クレー、タルク、マイカ、セリサイト、ベントナイトなどの無機鉱物又は粘土鉱物
(6)炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、塩基性炭酸鉛などの炭酸塩
(7)硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩
(8)ストロンチウムクロメート、ピグメントイエローなどのクロム酸塩
(9)モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム亜鉛、モリブデン酸マグネシウムなどのモリブデン酸塩
(10)アルミナ、酸化アンチモン、酸化チタニウム、酸化コバルト、四酸化三鉄、三酸化ニ鉄、四酸化三鉛、一酸化鉛、酸化クロムグリーン、三酸化タングステン、酸化イットリウムなどの金属酸化物
(11)水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄、メタチタン酸などの金属水酸化物
(12)炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化ホウ素、炭化チタンなどの金属炭化物
(13)窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ジルコニア、チタン酸バリウム、サチンホワイト、カーボンブラック、グラファイト、クロムイエロー、硫化水銀、ウルトラマリン、パリスブルー、チタニウムイエロー、クロムバーミリオン、リトポン、アセト亜ヒ酸銅、ニッケル、銀、パラジウム、チタン酸ジルコン酸鉛などの、上記(1)〜(12)に分類されない他の無機粉体
【0112】
本発明のスラリー組成物は、水を含有する場合、(A)成分と(B)成分の合計含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上、より更に好ましくは3質量部以上であり、そして、好ましくは99質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、より更に好ましくは30質量部以下である。
また本発明のスラリー組成物は、(A)成分の含有量が、水100質量部に対して、巻き返し現象を起こす粘弾性を得る観点から、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、そして、組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。
また本発明のスラリー組成物は、(B)成分の含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、そして、組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。
本発明のスラリー組成物は、(A)成分と(B)成分の合計含有量が所定の範囲内であり、かつ(A)成分と(B)成分の各含有量が所定の範囲内であることが好ましい。
【0113】
本発明のスラリー組成物は、水/粉体比(W/P)が、スラリー組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは12質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、そして、スラリー組成物の乾燥による収縮を抑える観点から、好ましくは1000質量%以下、より好ましくは500質量%以下、更に好ましくは300質量%以下である。
ここで、水/粉体比(W/P)は、スラリー組成物中の水と粉体の質量百分率(質量%)であり、水/粉体×100で算出される。
【0114】
〔スラリー組成物の製造方法〕
本発明のスラリー組成物の製造方法は、(A)成分、(B)成分、粉体及び水を混合する、スラリー組成物の製造方法である。
【0115】
また本発明のスラリー組成物の製造方法は、(A)成分、(B)成分、粉体及び水を混合して、(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセルを含有するスラリー組成物を調製する、スラリー組成物の製造方法である。
【0116】
本発明のスラリー組成物の製造方法は、上記2つのスラリー組成物の製造方法をいう。
また本発明のスラリー組成物の製造方法は、本発明のレオロジー改質剤、水のレオロジー改質方法及びスラリー組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
【0117】
本発明のスラリー組成物の製造方法は、(A)成分の起泡性による過剰な泡立ちを抑制する観点から、水と粉体とを含むスラリーを調製し、(A)成分と(B)成分を該スラリーに添加し、混合してスラリー組成物を製造することが好ましい。
すなわち、本発明のスラリー組成物の製造方法は、水と粉体とを含むスラリーを調製し、(A)炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物と(B)脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミドを該スラリーに添加し、混合する、スラリー組成物の製造方法である。
【0118】
本発明のスラリー組成物及びスラリー組成物の製造方法は、分離安定性に優れ、下記の水硬性スラリー組成物及び水硬性スラリー組成物の製造方法として有用である。
本発明のスラリー組成物は粘性だけでなく、高い粘弾性も併せ持つため、材料分離抵抗性に優れていると考えられる。つまり、高い粘性だけではスラリーの粒子がゆっくりと沈降してしまうため、粘弾性も必要だと考えられる。
【0119】
〔水硬性スラリー組成物〕
本発明の水硬性スラリー組成物は、(A)成分、(B)成分、水硬性粉体及び水を含有する。
【0120】
また本発明の水硬性スラリー組成物は、(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセル、水硬性粉体及び水を含有する。紐状ミセルが形成されている場合、本発明の水硬性スラリー組成物は、該スラリー組成物の(A)成分、(B)成分及び水の組成で調製した水溶液の動的粘弾性がMaxwell型に類似した挙動を示す。
【0121】
本発明の水硬性スラリー組成物は、上記2つの水硬性スラリー組成物のことをいう。
本発明の水硬性スラリー組成物は、本発明のレオロジー改質剤、水のレオロジー改質方法、スラリー組成物及びスラリー組成物の製造方法で述べた事項を適宜適用することができる。
【0122】
本発明の水硬性スラリー組成物に使用される水硬性粉体とは、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、水硬性スラリー組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮する観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメントがより好ましい。
【0123】
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。
【0124】
本発明の水硬性スラリー組成物は、骨材を含有することが好ましい。骨材は、細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0125】
本発明の水硬性スラリー組成物には、水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、(C)成分である分散剤を用いることが出来る。(C)成分は、水硬性スラリー組成物用混和剤で述べたものを用いることができ、好ましい態様も同様である。
水硬性スラリー組成物に(C)成分を含有する場合、水硬性粉体に水を添加する際に、水と一緒に(C)成分、(A)成分及び(B)成分を加えることが好ましい。
【0126】
水硬性スラリー組成物は、本発明の効果に影響ない範囲で、更に(A)〜(C)成分以外のその他の成分を含有することもできる。例えば、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、消泡剤等が挙げられる。
【0127】
本発明の水硬性スラリー組成物は、(A)成分と(B)成分の合計含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上、より更に好ましくは3質量部以上であり、そして、好ましくは99質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、より更に好ましくは30質量部以下である。
本発明の水硬性スラリー組成物は、(C)成分を含有する場合、(A)成分と(B)成分の合計含有量が、水100質量部に対して、材料分離抵抗性の観点から、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.75質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上、そして、実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、好ましくは6.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下、より更に好ましくは1.0質量部以下、より更に好ましくは0.8質量部以下である。
また本発明の水硬性スラリー組成物は、(A)成分の含有量が、水100質量部に対して、巻き返し現象を起こす粘弾性を得る観点から、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、そして、組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。
また本発明の水硬性スラリー組成物は、(C)成分を含有する場合、(A)成分の含有量が、水100質量部に対して、材料分離抵抗性の観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上、そして、実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、好ましくは4.2質量部以下、より好ましくは2.1質量部以下、更に好ましくは1.1質量部以下、より更に好ましくは0.7質量部以下、より更に好ましくは0.5質量部以下である。
また本発明の水硬性スラリー組成物は、(B)成分の含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、そして、組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。
また本発明の水硬性スラリー組成物は、(C)成分を含有する場合、(B)成分の含有量が、水100質量部に対して、材料分離抵抗性と実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、好ましくは0.02質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上、そして、実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性と気泡混入の観点から、好ましくは4.2質量部以下、より好ましくは2.1質量部以下、更に好ましくは1.0質量部以下、より更に好ましくは0.7質量部以下、より更に好ましくは0.5質量部以下である。
本発明の水硬性スラリー組成物は、(A)成分と(B)成分の合計含有量が所定の範囲内であり、かつ(A)成分と(B)成分の各含有量が所定の範囲内であることが好ましい。
【0128】
本発明の水硬性スラリー組成物において、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは40/60以上95/5以下である。更に、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、(A)成分と(B)成分の組み合わせにより、以下の通りとすることが高い粘弾性を得る観点から好適である。
(A)成分の炭化水素基がアルキル基の場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは50/50以上、より好ましくは55/45以上、そして、好ましくは75/25以下、より好ましくは70/30以下、更に好ましくは65/35以下である。
(A)成分の炭化水素基がアルケニル基の場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは65/35以上、より好ましくは70/30以上、更に好ましくは75/25以上、より更に好ましくは78/22以上、より更に好ましくは80/20以上、より更に好ましくは82/18以上、より更に好ましくは83/17以上、より更に好ましくは83.5/16.5以上、そして、好ましくは92/8以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは89/11以下、より更に好ましくは87/13以下、より更に好ましくは86/14以下、より更に好ましくは85/15以下、より更に好ましくは84.5/15.5以下である。
本発明の水硬性スラリー組成物が、(C)成分を含有する場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、良好な水硬性スラリーの粘弾性及び実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは80/20以下である。
【0129】
本発明の水硬性スラリー組成物は、(C)成分を含有する場合、(C)成分の含有量が、粉体(水硬性粉体及び非水硬性粉体の合計)100質量部に対して、実用上十分な流動性を得る観点から、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.15質量部以上、そして、水硬性組成物の水和反応を阻害しない観点から、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下、更に好ましくは1.0質量部以下である。
【0130】
本発明の水硬性スラリー組成物は、(C)成分を含有する場合、(A)成分と(B)成分の含有量の合計と、(C)成分の質量比[(A)+(B)]/(C)が、良好な水硬性スラリーの粘弾性及び実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上、更に好ましくは20/80以上、より更に好ましくは30/70以上、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは80/20以下、より更に好ましくは70/30以下である。
【0131】
本発明の水硬性スラリー組成物は、水/水硬性粉体比(W/P)が、水硬性スラリー組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは12質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上、そして、水硬性スラリー組成物の水硬性を確保する観点から、好ましくは500質量%以下、より好ましくは400質量%以下、更に好ましくは300質量%以下である。
ここで、水/水硬性粉体比(W/P)は、水硬性スラリー組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、水/水硬性粉体×100で算出される。水/水硬性粉体比は、水和反応により硬化する物性を有する粉体の量に基づいて算出される。
【0132】
〔水硬性スラリー組成物の製造方法、圧送方法〕
本発明の水硬性スラリー組成物の製造方法は、(A)成分、(B)成分、水硬性粉体及び水を混合する、水硬性スラリー組成物の製造方法である。
【0133】
また本発明の水硬性スラリー組成物の製造方法は、(A)成分、(B)成分、水硬性粉体及び水を混合して、(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセルを含有する水硬性スラリー組成物を調製する、水硬性スラリー組成物の製造方法である。
【0134】
本発明の水硬性スラリー組成物の製造方法は、上記2つの水硬性スラリー組成物の製造方法のことをいう。
本発明の水硬性スラリー組成物の製造方法は、本発明のレオロジー改質剤、水のレオロジー改質方法、スラリー組成物、スラリー組成物の製造方法及び水硬性スラリー組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
【0135】
本発明の水硬性スラリー組成物の製造方法は、(A)成分の起泡性による過剰な泡立ちを抑制する観点から、水と水硬性粉体とを含むスラリーを調製し、(A)成分と(B)成分を該スラリーに添加し、混合して水硬性スラリー組成物を製造することが好ましい。
すなわち、本発明の水硬性スラリー組成物の製造方法は、水と水硬性粉体とを含むスラリーを調製し、(A)炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物と(B)脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミドを該スラリーに添加し、混合する、水硬性スラリー組成物の製造方法である。
【0136】
本発明の水硬性スラリー組成物の製造方法において、各成分の混合は、既存の装置を全て使用可能であり、例えば、傾胴ミキサー、パン型ミキサー、二軸強制ミキサー、オムニミキサー、ヘンシェルミキサー、V型ミキサー、及びナウターミキサーなどが挙げられる。
【0137】
本発明に係る水硬性スラリー組成物の打設の方法は、水硬性スラリー組成物をポンプで圧送する工程と、ポンプで圧送された水硬性スラリー組成物を打設する工程、を有する方法が挙げられる。
【0138】
本発明により、前記本発明の水硬性スラリー組成物は、打設場所まで運搬しその後型枠に流し込み打設を行う。運搬方法は、一般的に用いる方法が挙げられ、特に限定されるものでは無いが、ポンプで圧送する方法、ミキサー車で運搬する方法、混合機からホッパーに流し込み移動させる方法等が挙げられる。せん断力により粘弾性が低減できる観点から、ミキサー車やホッパーで運搬できない場所に打設する場合などは、低い能力のポンプでも圧送出来る利点があり、特にポンプで圧送する運搬方法が好適である。
【0139】
本発明の水硬性スラリー組成物をポンプ圧送する場合は、所望の物性に調整され、練りあがった水硬性スラリー組成物を、適切に配設された配管にポンプで圧送することで実施できる。ミキサー車などで搬送後に、水硬性組成物をポンプ車などのポンプを用いて圧送することもできる。
【0140】
ポンプの種類は、一般的に用いるスクイーズ式とピストン式などが挙げられ、特に限定されるものではない。
【0141】
〔キット〕
本発明のキットは、(A)成分を含む第1の剤と、(B)成分を含む第2の剤を含んで構成されるキットである。
【0142】
本発明のキットは、具体的には、(A)成分を含む水溶液と、(B)成分を含む水溶液を含んで構成されるキットである。
【0143】
また本発明のキットは、(A)成分を含む水溶液と、(B)成分を含む水溶液を含んで構成されるキットであって、
(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液が、紐状ミセルを形成するように混合される、キットである。紐状ミセルを形成するように混合した場合、混合された組成物は、動的粘弾性がMaxwell型に類似した挙動を示す。
【0144】
本発明のキットは、上記3つのキットのことをいう。
また本発明のキットは、本発明のレオロジー改質剤、水のレオロジー改質方法、スラリー組成物、スラリー組成物の製造方法、水硬性スラリー組成物及び水硬性スラリー組成物の製造方法で述べた事項を適宜適用することができる。
【0145】
本発明のキットは、成分を分けて保存できる容器に収容し、使用時に混合して用いる。特に、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液とを、それぞれ分離して保持する容器に充填してなるキットが好ましい。
【0146】
本発明のキットは、水硬性スラリー組成物の流動性調整の観点から、(C)成分を、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液の少なくともいずれかに含むことが好ましく、または、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液とは別に(C)成分を含む水溶液を用意して、(A)成分を含む水溶液と、(B)成分を含む水溶液と、(C)成分を含む水溶液を含んで構成されるキットとすることが好ましい。
【0147】
本発明のキットにおいて、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液は、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは40/60以上95/5以下となるように混合される。更に、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、(A)成分と(B)成分の組み合わせにより、以下の通りとすることが高い粘弾性を得る観点から好適である。
(A)成分の炭化水素基がアルキル基の場合、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液は、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは50/50以上、より好ましくは55/45以上、そして、好ましくは75/25以下、より好ましくは70/30以下、更に好ましくは65/35以下となるように混合される。
(A)成分の炭化水素基がアルケニル基の場合、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液は、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは65/35以上、より好ましくは70/30以上、更に好ましくは75/25以上、より更に好ましくは78/22以上、より更に好ましくは80/20以上、より更に好ましくは82/18以上、より更に好ましくは83/17以上、より更に好ましくは83.5/16.5以上、そして、好ましくは92/8以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは89/11以下、より更に好ましくは87/13以下、より更に好ましくは86/14以下、より更に好ましくは85/15以下、より更に好ましくは84.5/15.5以下となるように混合される。
(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液の少なくともいずれかに(C)成分を含む場合、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、良好な水硬性スラリーの粘弾性及び実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは80/20以下となるように混合される。
【0148】
本発明のキットは、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液が、(A)成分と(B)成分とを、(A)成分と(B)成分の合計含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上、より更に好ましくは3質量部以上であり、そして、好ましくは99質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、より更に好ましくは30質量部以下となるように混合される。
【0149】
本発明のキットは、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液の少なくともいずれかに(C)成分を含む場合、(C)成分の含有量が、水100質量部に対して、実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性及び良好な水硬性スラリー組成物用混和剤の長期保存安定性を得る観点から、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、そして、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下となるように混合される。
【0150】
本発明のキットは、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液の少なくともいずれかに(C)成分を含む場合、(A)成分を含む水溶液と(B)成分を含む水溶液を、(A)成分と(B)成分の含有量の合計と、(C)成分の質量比[(A)+(B)]/(C)が、良好な水硬性スラリーの粘弾性及び実用上十分な水硬性スラリー組成物の流動性の観点から、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上、更に好ましくは20/80以上、より更に好ましくは30/70以上、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは80/20以下、より更に好ましくは70/30以下となるように混合される。
【0151】
本発明のキットを用いることで、本発明のスラリー組成物又は水硬性スラリー組成物を得ることができる。すなわち、本発明のキットは、スラリー組成物製造用又は水硬性スラリー組成物製造用として好適である。また本発明のキットは、配管摩擦抵抗低減剤用又は増粘ゲル化剤用としても好適である。
【実施例】
【0152】
表2〜6に示した(A)成分、(A)成分の比較化合物となる(A’)成分、(B)成分、及び(B)成分の比較化合物となる(B’)成分は、以下のものを用いた。
【0153】
(A)成分
(a−1):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルケニル基、n:9、花王株式会社製)
(a−2):ポリオキシエチレンアルキルエーテル〔C18/C12=70/30(質量比)〕(炭素数18のアルケニル基である化合物と炭素数12のアルキル基の化合物を質量比70対30の割合で混合、一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルケニル基及び炭素数12のアルキル基、n:9、いずれも花王株式会社製)
(a−3):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルケニル基、n:7、青木油脂工業株式会社製)
(a−4):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルケニル基、n:8、花王株式会社製)
(a−5):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルケニル基、n:11、青木油脂工業株式会社製)
(a−6):ポリオキシエチレンステアリルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルキル基、n:12、花王株式会社製)
(a−7):ポリオキシエチレンステアリルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルキル基、n:13、花王株式会社製)
(a−8):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルキル基、n:13、花王株式会社製)
なお(a−2)には、(A’)成分として、下記の(a’−1)が混合されている。
【0154】
(A’)成分
(a’−1):ポリオキシエチレンラウリルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数12のアルキル基、n:9、花王株式会社製)
(a’−2):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルケニル基、n:4、青木油脂工業株式会社製)
(a’−3):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルケニル基、n:20、青木油脂工業株式会社製)
(a’−4):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルケニル基、n:40、青木油脂工業株式会社製)
【0155】
(A)成分又は(A’)成分の炭化水素基の炭素数は、(A)成分又は(A’)成分をヨウ化水素により開裂させ、ガスクロマトグラフィー(GC)で測定することにより算出した。
【0156】
(GCサンプル調製条件)
50mgの(A)成分又は(A’)成分をヨウ化水素10mLと混合し、還流下150℃で90分反応させた。その後、反応物全量とイオン交換水70mL、石油エーテル70mLを分液ロート内で混合し、分液操作を行った。石油エーテル層に抽出された炭素鎖成分を、無極性カラムを用いたGCによって測定し、炭素数分布を算出した。
【0157】
(GC測定条件)
・装置名:Agilent 6850シリーズII(アジレント・テクノロジー株式会社)
・カラム名:HP-1(アジレント・テクノロジー株式会社)
・カラム寸法:長さ30m、内径320mm、膜厚0.25μm
・昇温プログラム:80℃→300℃(8℃/min)
【0158】
さらに、(A)成分又は(A’)成分のエチレンオキサイドの平均付加モル数は、(A)成分又は(A’)成分を、高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)で測定をすることにより算出した。
【0159】
(LC/MS測定条件)
・装置:Agilent 1260シリーズ(アジレント・テクノロジー株式会社)
・HPLC条件
カラム :L-colmun ODS 2.1φx150mm(財団法人化学物質評価研究機構)
カラム温度:40℃
流速 :0.25mL/min
注入量 : 5myu-L
移動相(グラジェント)
A液:10mmol/L酢酸アンモニウム水溶液
B液:10mmol/L酢酸アンモニウムメタノール
グラジェント勾配:表1に示す条件
【0160】
【表1】
【0161】
(MS条件)
乾燥ガス温度 :350℃
乾燥ガス流量 :7.0mL/min
スキャン範囲 :60-1500
ステップサイズ :0.10amu
サイクルタイム :1.06sec
フラグメンター電圧 :130V(POSI:4000V、NEG:3500V)
スレッショルド :150
【0162】
(B)成分
(b−1):N,N−ジエタノールオレイン酸アミド(川研ファインケミカル社製)
(b−2):パーム核油脂肪酸ジエタノールアミド(花王株式会社製)
なお(b−2)は、脂肪酸部の原料脂肪酸であるパーム核油脂肪酸の炭素数分布が、下記の通りであり、従って、(b−2)中、(B)成分は43質量%含まれる。(b−2)を用いる場合、表中の(B)成分の添加量、質量比(A)/(B)、質量比[(A)+(B)]/(C)は、(b−2)中の(B)成分の含有量から算出した値を表記した。
炭素数8の脂肪酸 : 5質量%
炭素数10の脂肪酸: 4質量%
炭素数12の脂肪酸: 48質量%
炭素数14の脂肪酸: 16質量%
炭素数16の脂肪酸: 8質量%
炭素数18の脂肪酸: 19質量%
合計 :100質量%
【0163】
(B’)成分
(b’−1):ラウリン酸ジエタノールアミド(花王株式会社製)
【0164】
(B)成分又は(B’)成分の脂肪酸部分の炭素数は、(B)成分又は(B’)成分のエタノール基の末端OH基をTMS化剤試薬(TMSI-H)(ジーエルサイエンス製)
により誘導体化し、無極性カラムを用いたGC測定をすることにより炭素数分布を算出した。
【0165】
(GC測定サンプル調製)
試料2mgをTMS化剤試薬(TMSI-H)(ジーエルサイエンス製)1mLと反応させ、1分間静置する。その後、上澄み液を採取しGC測定を行った。
(GC測定条件)
・装置名:Agilent 6850シリーズII(アジレント・テクノロジー株式会社)
・カラム名:HP-1(アジレント・テクノロジー株式会社)
・カラム寸法:長さ30m、内径320mm、膜厚0.25μm
・昇温プログラム:60℃→300℃(8℃/min)
なお、副産物等の定性はLC/MSを用いて行った。LC/MS測定条件は(A)成分に記載した条件と同一である。
【0166】
(C)成分
(c−1):単量体(c22)/単量体(c21)=メタクリル酸/メトキシポリエチレングリコール(120)モノメタクリレート=80モル/20モル、重量平均分子量=56,000(カッコ内は平均付加モル数)
(c−2):単量体(c22)/単量体(c21)=メタクリル酸/メトキシポリエチレングリコール(23)モノメタクリレート=73モル/27モル、重量平均分子量=52,000(カッコ内は平均付加モル数)
なお(c−1)及び(c−2)の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値である。
【0167】
比較添加剤
・メチルセルロース:信越化学製、ハイメトローズ90SH−30000
・アクリルアミド:ポリアクリルアミド、住友化学製、スミフロックFA−50、重量平均分子量1700万
【0168】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
<レオロジー改質剤の調製方法>
20℃の水に、(B)成分又は(B’)成分を添加し、市販のハンドミキサーを用いて、均一に溶解するまで、約1分間、撹拌した。次に(A)成分又は(A’)成分を添加し、市販のハンドミキサーを用いて、粘弾性が発現するまで、約2分間、撹拌し、表2〜5記載の各レオロジー改質剤を得た。なお、レオロジー改質剤が十分に混合可能であれば、撹拌方法は特に問わない。本発明のレオロジー改質剤の調製方法は、上記の調製方法に限定されるものではない。
【0169】
<レオロジー改質剤の粘弾性評価>
得られたレオロジー改質剤200mlを300mlのビーカーに入れ、以下の方法により曳糸性、巻き返し現象が認められるかを確認し、曳糸性、巻き返し現象の両方が認められるものを「粘弾性有り」とし、曳糸性、巻き返し現象の一方又は両方とも認められないものを「粘弾性無」とした。結果を表2、及び表3に示す。
【0170】
(曳糸性)
各レオロジー改質剤について、直径6mmの表面平滑なガラス棒をビーカー底中央に垂直に立て、その状態からガラス棒を約1秒間で引き抜き、その際のガラス棒先端における曳糸状態を目視で観察した。
(巻き返し現象)
巻き返し現象とは、レオロジー改質剤内の会合体が絡み合いを生じ、弾性的性質を有することを意味しており、レオロジー改質剤に巻き込まれた気泡が撹拌停止時に回転方向と逆向きに移動する状態のことを言う。
各レオロジー改質剤について、直径6mmの表面平滑なガラス棒で1回転/秒で10秒間撹拌し、巻き返し現象が認められるかを目視で観察した。
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
表2,及び表3中、水100質量部に対する(A)と(B)の含有量の合計、及び質量比(A)/(B)は、(A)成分と(B)成分の各有効分量より算出した。
また比較例の一部は、(A’)成分を(A)成分、(B’)成分を(B)成分として、水100質量部に対する(A)と(B)の含有量の合計、及び(A)/(B)質量比を示した。
なお、実施例1−2において、水100質量部に対する(A)と(B)の含有量の合計、及び(A)/(B)質量比は、(A)成分を、(a―2)中に含まれる炭素数18のアルケニル基、オキシエチレン基の付加モル数が9であるポリオキシエチレンアルケニルエーテルのもののみとして、算出した値である。
【0174】
<レオロジー改質剤の粘度測定>
得られたレオロジー改質剤の粘度をB型粘度計(東機産業製、VISCOMETER TVB−10、M2ローター、60rpm、20℃)により測定した。この粘度が50mPa・s以上であれば、レオロジー改質剤に粘弾性が確認されるため好ましい。結果を表4、表5に示す。なお、レオロジー改質剤の温度は20℃であった。
【0175】
【表4】
【0176】
【表5】
【0177】
表4、及び表5中、水100質量部に対する(A)と(B)の含有量の合計、及び質量比(A)/(B)は、(A)成分と(B)成分の各有効分量より算出した。
また比較例の一部は、(A’)成分を(A)成分、(B’)成分を(B)成分として、水100質量部に対する(A)と(B)の含有量の合計、及び(A)/(B)質量比を示した。
【0178】
<紐状ミセル(Maxwell型に類似した挙動)の確認>
実施例2−3の組成物について、下記条件にて、動的粘弾性測定を行った。貯蔵弾性率G’、及び損失弾性率G”を下記角周波数範囲でプロットしたグラフを図1に示す。
・測定装置名:(株)アントンパール・ジャパン製 MCR301
・アプリケーション:RHEOPLUS
・測定治具:コーンプレートCP-50(d=0.097mm)
・ひずみ:10%
・角周波数測定範囲:0.00624〜62.4(1/s)
図1の曲線はMaxwell型に類似した挙動となっており、これは、「界面活性剤水溶液の粘弾性特性」(四方俊幸、表面 vol.29、No5(1991)、p399-499)の記載から、有限の高分子量を有する紐状ミセルが形成していることが分かる。その他の実施例の組成物についても、同様に動的粘弾性特性を測定し、Maxwell型に類似した挙動を示すかどうかにより紐状ミセルを形成していることを確認できる。
【0179】
また実施例1−1の組成物について、以下の方法により、電界放射型操作電子顕微鏡(FE-SEM)にて紐状ミセルに由来する構造が形成されていることを確認した。紐状ミセルの写真を図2に示した。
測定方法:実施例1−1の組成物をクライオミクロトーム用スペシメンキャリア(溝付き)に採取した後、メタルコンタクト法で試料を急速凍結させた。試料をクライオミクロトーム中でトリミング後、ダイヤモンドナイフで表層付近(数μm程度)の断面を作製し、Cryo-SEM用試料とし、電界放射型操作電子顕微鏡(FE-SEM)S-4000(日立製作所)にて観察を行った。
【0180】
[実施例5、比較例5]
<水硬性スラリー組成物の調製>
水400gとセメント(普通ポルトランドセメント、太平洋セメント製と住友大阪セメント製を質量比50/50で混合した物)400gを混合し、市販のハンドミキサーを用いて20℃で1分間撹拌し、その後、表6に記載の各成分を(B)成分、(A)成分の順に添加し、それぞれの添加後に2分間撹拌を続けることで、粘弾性を有する水硬性スラリー組成物を調製した。調製した各水硬性組成物の水/水硬性粉体比(W/P)は100質量%であった。
【0181】
<スラリー粘度の測定>
得られた水硬性スラリー組成物の粘度をB型粘度計(RION株式会社製、VISCOTESTER VT-04E、ローターNo.1、回転数:62.5rpm)により測定し
た。この粘度が3000mPa・s以上であれば、スラリーに粘弾性が確認されるため好ましい。結果を表6に示す。なお、スラリー温度は20℃であった。
【0182】
<水中不分離性の評価>
水中不分離性は、コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(JSCE−D 104−2007)付属書2における、水中不分離性コンクリートの水中分離度試験方法と類似する以下の方法で評価した。
水中分離度試験として、調製した各水硬性スラリー組成物の約100gを約200mLの水中へ添加し、水硬性スラリー組成物の水中での飛散具合を目視で確認し、以下の基準で判定した。結果を表6に示す。
○:水中に投入した後も分離せず、ビーカー中の水相越しから、背景の縞模様が確認できる。
×:ビーカー中の水相越しから、背景の縞模様が確認できず、水相の濁りが有り、水硬性スラリー組成物が水中で飛散している。
【0183】
実施例5−3の水硬性スラリー組成物の水中不分離性評価における水相の濁り状態を示す写真を図3に示す。
【0184】
【表6】
【0185】
表6中、水100質量部に対する(A)と(B)の含有量の合計、及び質量比(A)/(B)は、(A)成分と(B)成分の各有効分量より算出した。
【0186】
〔実施例6、及び比較例6〕
<モルタルの調製>
ホバート型ミキサー((株)関西機器製作所製、KC−8)に,表7に記載の各配合のセメント,砂を加えて10秒間空練りを行った。次に、表8に記載の各成分を含む水を加えて、2分間撹拌(撹拌速度:公転62rpm,自転141rpm)を行うことでモルタルを調製した。
水の添加量は、表7に記載の各モルタル配合の水量となるように調製した。なお水の配合量には、(A)〜(C)成分の添加量を含む。
【0187】
【表7】
【0188】
表7中、モルタル配合で用いた、各材料は以下の通りである。
水:水道水(配合量は、(A)〜(C)成分を含む)
セメント:普通ポルトランドセメント、太平洋セメント製と住友大阪セメント製を質量比50/50で混合した物、比重3.16
砂:京都府城陽産、表乾比重2.54g/cm
【0189】
<モルタルの流動性評価>
混練直後のモルタルを、JIS R 5201に記載のフローコーン(上径70mm×下径100mm×高さ60mm)に充填し、モルタルフローを測定した。結果を表8に示す。
【0190】
<モルタルの材料分離抵抗性評価>
モルタルの流動性評価でモルタルフローを測定した各モルタル(300mm±10mm)の状態を目視で確認し、下記の評価基準で判定した。結果を表8に示す。
4:モルタルの端部でも砂とセメントの分離が見られず、ブリージングも見られない。
3:モルタルの端部でも砂とセメントの分離が見られず、ブリージングも少ない。
2:モルタル端部にて砂とセメントの分離が見られ、ブリージングも若干発生している。
1:モルタル全体で砂とセメントの分離が見られ、ブリージングも多く発生している。
【0191】
【表8】
【0192】
表8中、水100質量部に対する(A)と(B)の含有量の合計、質量比(A)/(B)、及び質量比[(A)+(B)]/(C)は、(A)成分と(B)成分、及び(C)成分の各有効分量より算出した。
【0193】
(考察)
(A)成分、(B)成分を含む、本発明のレオロジー改質剤が練り水に粘性を付与した結果,実施例6は、比較例6と対比して、ブリージングが抑制され,材料分離抵抗性の向上が見られることが分かる。また実施例6は、比較例6と対比して、(C)成分添加による流動性付与効果が損なわれていないことが分かる。これは、本発明のレオロジー改質剤が、セメントには作用しないことから,(C)成分によるセメント粒子の分散挙動に影響を与えないためであると考えられる。
【0194】
〔実施例7、及び比較例7〕
<コンクリートの調製>
表9に記載のコンクリートの各配合でコンクリートを調製した。強制2軸型ミキサー((株)IHI製)に、砂利、約半量の砂、セメント、炭酸カルシウム,残部の砂の順に投入し、空練りを15秒間行った。次いで、すばやく下記練り混ぜ水を添加し、120秒間練り混ぜてコンクリートを得た。その際、コンクリート配合における水に、表10に記載の各(A)〜(C)成分、比較添加剤を加え、撹拌して均一にして用いた。
【0195】
【表9】
【0196】
表9中、P(粉体)は、セメント(C)と炭酸カルシウムの合計量である。また細骨材比は、S/(S+G)の容積比から算出される。
【0197】
表9中、コンクリート配合で用いた、各材料は以下の通りである。
水:水道水(配合量は、(A)〜(C)成分及び、下記消泡剤を含む)
セメント:普通ポルトランドセメント、太平洋セメント製と住友大阪セメント製を質量比50/50で混合した物、比重3.16
炭酸カルシウム:清水工業(株)製、ネオフロー150、比重2.71g/cm
砂:京都府城陽産、京都府城陽産 表乾比重2.54g/cm
砂利:兵庫県家島産砕石、密度2.63g/cm
消泡剤:DOW CORNING TORAY DK Q1−1183、東レ・ダウコーニング製、水に対して0.01質量%添加
【0198】
<コンクリートの流動性評価>
混練直後のコンクリートを、JIS A 1150に基づいてスランプフローを測定した。結果を表10に示す。
【0199】
<コンクリートの材料分離抵抗性評価>
コンクリートの流動性評価でスランプフローを測定した各コンクリートの状態を目視で確認し、下記の評価基準で判定した。結果を表10に示す。
4:骨材が分離せず、ブリージングがない。
3:骨材が分離せず、ブリージングも少ない。
2:コンクリートの端部で粗骨材の分離が見られ、ブリージングも若干発生している。
1:コンクリート全体で骨材の分離が見られ、ブリージングも多く発生している。
【0200】
【表10】
【0201】
表10中、水100質量部に対する(A)と(B)の含有量の合計、質量比(A)/(B)、及び質量比[(A)+(B)]/(C)は、(A)成分と(B)成分、及び(C)成分の各有効分量より算出した。
【0202】
(考察)
比較例7の比較添加剤として用いたメチルセルロースやポリアクリルアミド系増粘剤は、セメント粒子に作用することで粘性を付与することが可能であるが、(C)成分である分散剤と併用した場合、比較例7−1〜7−5の結果から、比較添加剤の添加量を増やして材料分離抵抗性を担保しようとすれば流動性の低下が見られ,比較添加剤の添加量を減らして流動性を担保しようとすれば材料分離抵抗性を損なうこととなり、流動性と材料分離抵抗性の両立は困難であることが分かる。一方、実施例7−1〜7−2の結果から、本発明のレオロジー改質剤は高い分離抵抗性と流動性の両立が可能であることが分かる。これは、本発明のレオロジー改質剤が水に対して粘性を付与するため,(C)成分である分散剤と併用した場合、(C)成分によるセメント粒子の分散挙動に影響を与えないためであると考えられる。

図1
図2
図3