(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御回路は、前記航空機と前記航空機の周囲における空気との関係を表すエア・データに基づいて前記圧力分布の制御値を設定するように構成される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の航空機の制御システム。
前記制御回路は、前記流れ制御デバイスとしてのプラズマ・アクチュエータが配置された部位における空気抵抗が最小となるように前記圧力分布の制御値を設定するように構成される請求項1乃至5のいずれか1項に記載の航空機の制御システム。
前記制御回路は、前記航空機の姿勢を目的とする姿勢にするために最適となるように前記圧力分布の制御値を設定するように構成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の航空機の制御システム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る航空機の制御システム、航空機の制御方法及び航空機について添付図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
(航空機の制御システムの構成及び機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係る航空機の制御システムの構成図である。
【0013】
制御システム1は、航空機2の周囲における空気の流れを制御するためのシステムである。従って、制御システム1は、航空機2に搭載される。航空機2の制御システム1は、エア・データ取得システム3、構造変形データ取得システム4、制御情報生成システム5、流れ制御システム6及びコンソール7で構成することができる。
【0014】
エア・データ取得システム3は、航空機2と周囲の空気の関係を表す情報を取得するシステムであり、航空機2に標準装備される。航空機2と周囲の空気の関係を表す情報は、エア・データと呼ばれ、航空機2の周囲における空気の状態及び空気に対する対象部位の相対的な動きを表すパラメータで表現される。エア・データを表す代表的なパラメータとしては、気圧高度、大気速度、マッハ数、大気温度、迎え角、空気密度及び気圧が挙げられる。
【0015】
エア・データ取得システム3は、迎え角センサ9、圧力センサ10及び温度センサ11等の物理量を検出する複数のセンサ8を、ADC(Air Data Computer)12に接続して構成することができる。
【0016】
迎え角センサ9は、航空機2の周囲における空気の流れの方向を示す迎え角を検出するセンサである。圧力センサ10としては、航空機2の周囲における静圧を検出する静圧センサや航空機2の先端における空気のよどみ点における圧力である全圧を検出する全圧センサが挙げられる。尚、全圧は総圧とも呼ばれる。静圧センサや全圧センサ等の圧力センサ10は、静圧管、ピトー静圧管或いは静圧孔等のセンサで構成することができる。温度センサ11は、航空機2の周囲における大気温度に空気の圧縮熱や摩擦で生じる熱が加えられた温度である大気全温度を検出するセンサである。
【0017】
ADC12は、センサ8から電気信号として出力される物理量の検出信号に基づいて、エア・データを計算する計算機である。従って、ADC12は、センサ8から出力される電気信号の信号処理を行うための電気回路で構成することができる。ADC12を構成する電気回路のうちA/D(analog−to−digital)変換器によってデジタル情報に変換された信号の情報処理を行う回路は、コンピュータプログラムをインストールしたコンピュータ等の電子回路で構成することができる。
【0018】
迎え角センサ9、圧力センサ10及び温度センサ11を含む複数のセンサ8を用いて、迎え角、静圧、全圧及び大気全温度が検出されると、これら4つの検出データに基づく公知の計算によって気圧高度、大気速度、マッハ数、大気温度、迎え角、空気密度及び気圧を含むエア・データを計算することができる。
【0019】
構造変形データ取得システム4は、周囲における空気の流れの制御対象となる航空機2の主翼や胴体等の構造体13の変形情報を構造体13の歪分布として取得するシステムである。構造変形データ取得システム4は、航空機2を構成する構造体13の対象部位における3次元の歪分布を検出するために対象部位に張巡らされた複数の歪センサ14を、歪データ処理装置15に接続して構成することができる。
【0020】
歪センサ14としては、歪ゲージの他、光ファイバセンサを用いることができる。光ファイバセンサとしては、ファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG:Fiber Bragg Grating)センサや位相シフトFBG(PS−FBG: Phase−shifted FBG)センサが挙げられる。歪センサ14を光ファイバセンサで構成する場合には、光源や光フィルタ等の必要な光学素子が備えられる。
【0021】
歪データ処理装置15は、歪センサ14において検出された検出信号に基づいて、構造体13の歪分布を求める機能を有している。歪データ処理装置15は、各歪センサ14から出力される電気信号や光信号等の信号処理を行うための信号処理回路で構成することができる。歪データ処理装置15を構成する回路のうちA/D変換器によってデジタル情報に変換された信号の情報処理を行う回路は、コンピュータプログラムをインストールしたコンピュータ等の電子回路で構成することができる。
【0022】
制御情報生成システム5は、エア・データ取得システム3から取得した航空機2の周囲におけるエア・データと、構造変形データ取得システム4から取得した構造体13の歪分布とに基づいて、流れ制御システム6を制御するための制御情報を生成する機能と、生成した制御情報を流れ制御システム6に与える機能とを有する。制御情報生成システム5についても、エア・データ取得システム3及び構造変形データ取得システム4から取得した情報を処理するコンピュータプログラムをインストールしたコンピュータ等の電子回路で構成することができる。
【0023】
流れ制御システム6は、制御情報生成システム5から与えられる制御情報に従って、航空機2を構成する構造体13の対象部位の周囲における空気の流れを制御する機能を有する。流れ制御システム6は、流れ制御デバイス16と、流れ制御デバイス16を制御するコントローラ17とによって構成することができる。
【0024】
流れ制御デバイス16は、航空機2を構成する構造体13の対象部位の周囲における空気の流れを制御するデバイスである。流れ制御デバイス16の例としては、空気の流れの制御をアクティブに行うためのアクチュエータ18及び動翼19が挙げられる。
【0025】
空気の流れの制御をアクティブに行うアクチュエータ18の例としては、プラズマ・アクチュエータ、シンセティック・ジェット・アクチュエータ、エア・ジェット・アクチュエータ及びメンブレン・アクチュエータが挙げられる。一方、動翼19の例としては、補助翼、方向舵、昇降舵、フラップ、スポイラ及びフラッペロンが挙げられる。
【0026】
図2は、
図1に示すアクチュエータ18の一例として用いられるプラズマ・アクチュエータの原理を示す図である。
【0027】
プラズマ・アクチュエータ20は、第1の電極21、第2の電極22、誘電体23及び交流電源24で構成される。第1の電極21と第2の電極22は、放電エリアが形成されるように誘電体23を挟んで互いにシフトして配置される。第1の電極21は、空気の流れを誘起すべき空間に露出した状態で配置される。一方、第2の電極22は、空気の流れを誘起すべき空間に露出しないように誘電体23で覆われる。また、第2の電極22は、航空機2の機体に接地される。第1の電極21と第2の電極22との間には、交流電源24によって交流電圧が印加される。
【0028】
交流電源24を動作させて第1の電極21と第2の電極22との間に交流電圧を印加すると、第1の電極21が配置されている側の誘電体23の表面に形成される放電エリアには電子と正イオンから成るプラズマが生じる。その結果、プラズマによって誘電体23の表面に向かう空気の流れが誘起される。尚、第1の電極21と第2の電極22との間に誘電体23を挟んで誘電体バリア放電を起こすプラズマ・アクチュエータ20は、DBD−PAと呼ばれる。
【0029】
プラズマ・アクチュエータ20を構成する第1の電極21及び第2の電極22は、薄いフィルム状にすることができる。このため、静翼や動翼19等の翼構造体の表面はもちろん、胴体等の構造体13の表面に貼付けるか、或いは取付位置となる表面層に埋め込んで使用することができる。
【0030】
図3は
図2に示すプラズマ・アクチュエータ20を翼構造体13Aに取付けた例を示す図である。
【0031】
動翼19を備えた主翼、水平尾翼及び垂直尾翼等の翼構造体13Aは、静翼25に動翼19を連結して構成される。プラズマ・アクチュエータ20は、例えば、動翼19の補助装置として用いることができる。より具体的には、動翼19の翼面における空気の剥離流れの抑制や翼面と空気との間における摩擦の低減による空気抵抗の低減を目的としてプラズマ・アクチュエータ20を用いることができる。
【0032】
その場合には、補助対象となる動翼19や補助対象となる動翼19と連結される静翼25にプラズマ・アクチュエータ20を取付けることができる。また、
図3に例示されるように、異なる向きで空気の流れを誘起できるように複数のプラズマ・アクチュエータ20を配置すれば、航空機2の姿勢を制御するための流れ制御デバイス16として複数のプラズマ・アクチュエータ20を使用することもできる。
【0033】
もちろん、
図3に例示されるように、静翼25の前縁付近等の任意の位置にプラズマ・アクチュエータ20を配置することによって、所望の目的で空気の流れを制御できるようにすることもできる。
【0034】
図4は、
図1に示すアクチュエータ18の一例として用いられるシンセティック・ジェット・アクチュエータの原理を示す図である。
【0035】
シンセティック・ジェット・アクチュエータ30は、オリフィス31と、ダイヤフラム32を設けたチャンバー33で構成される。ダイヤフラム32には、圧電素子(PZT:piezoelectric transducer)パッチ34が貼付けられる。PZTパッチ34を駆動させてダイヤフラム32を振動させると、オリフィス31から周期的に空気を噴出させることができる。シンセティック・ジェット・アクチュエータ30を設ければ、例えば、空気の境界層における形状係数の低減等によって剥離流れを低減することが可能である。
【0036】
図5は、
図1に示すアクチュエータ18の一例として用いられるエア・ジェット・アクチュエータの原理を示す図である。
【0037】
エア・ジェット・アクチュエータ40は、加圧空気の出口を形成する孔41を開閉するカンチレバー(片持ち梁)型のPZTアクチュエータ42で構成される。PZTアクチュエータ42を駆動させると、孔41から周期的に空気を噴出させることができる。エア・ジェット・アクチュエータ40を設ければ、例えば、空気の境界層における形状係数の低減等によって剥離流れを低減することが可能である。
【0038】
図6は、
図1に示すアクチュエータ18の一例として用いられるメンブレン・アクチュエータの原理を示す図である。
【0039】
メンブレン・アクチュエータ50は、円板等の板状の基板51にリング状のスペーサ52を設けて内側に圧電セラミック素子53を収納し、切込みを設けたメンブレン(膜)54で隙間を空けて圧電セラミック素子53を覆うことによって構成される。圧電セラミック素子53を伸縮させると、メンブレン54の切込みから、波状の乱流を噴出させることができる。
【0040】
メンブレン・アクチュエータ50を設ければ、例えば、乱流の原因となるT−S(Tollmien−Schlichting)波を減衰させることによって、境界層が層流から乱流に変化する境界層遷移の制御が可能である。尚、境界層遷移は、層流乱流遷移とも呼ばれる。
【0041】
上述のような様々なアクチュエータ18及び動翼19を含む流れ制御デバイス16を制御する各コントローラ17は、制御情報生成システム5から与えられる制御情報に従って、制御信号として電気信号又は光信号を生成し、生成した制御信号を対応する流れ制御デバイス16に出力する回路で構成することができる。
【0042】
より具体的には、各コントローラ17には記憶装置が備えられ、対応する流れ制御デバイス16によって対象エリアに目標となる圧力分布を有する空気の流れを形成するために必要な流れ制御デバイス16の制御量が保存される。すなわち、流れ制御デバイス16によって空気の流れの制御対象となる対象エリアにおける目標となる空気の圧力分布の制御値と、流れ制御デバイス16の制御量との関係を表すテーブルや関数等の参照情報が各コントローラ17の記憶装置に保存される。
【0043】
従って、各コントローラ17に、対象エリアにおける空気の圧力分布の制御値を制御情報として与えれば、空気の圧力分布の制御値を流れ制御デバイス16の制御量に変換するデータベースとして機能する記憶装置を参照することによって、流れ制御デバイス16の制御量を求めることができる。流れ制御デバイス16の制御量は、例えば、流れ制御デバイス16がプラズマ・アクチュエータ20等のアクチュエータ18であれば、アクチュエータ18に投入される電圧の波形や振幅等となり、流れ制御デバイス16が動翼19であれば動翼19の迎角を変化させるための電動式アクチュエータや油圧式アクチュエータの制御量となる。
【0044】
逆に、制御情報生成システム5には、対応するコントローラ17を通じて上述したようなアクチュエータ18及び動翼19の少なくとも一方を含む流れ制御デバイス16を制御するための制御情報を生成する機能が備えられることになる。より具体的には、制御情報生成システム5には、航空機2を構成する構造体13の対象エリア表面に負荷される圧力分布が、エア・データ取得システム3に備えられるセンサ8や構造変形データ取得システム4に備えられる歪センサ14のような航空機2に備えられるセンサで検出される空気に関連する物理量に基づいて計算される圧力分布の制御値となるように流れ制御デバイス16を制御する制御回路としての機能が備えられる。
【0045】
すなわち、航空機2を構成する構造体13の対象エリア表面に負荷される圧力分布の制御値を、エア・データ取得システム3において取得されたエア・データ及び構造変形データ取得システム4において取得された構造体13の歪分布に基づいて計算することができる。そして、構造体13の対象エリア表面に負荷されている圧力分布が制御値となるように流れ制御デバイス16の制御情報を生成し、生成した制御情報を流れ制御デバイス16のコントローラ17に出力することができる。
【0046】
エア・データ及び構造体13の歪分布に対応する構造体13の表面における圧力分布の制御値は、有限要素法(FEM:Finite Element Method)による数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)解析によって計算することができる。CFD解析は、オイラー方程式やナビエ−ストークス方程式等の流体の運動に関する方程式をコンピュータで解くことによって流れ場を解析する数値解析である。
【0047】
具体的には、構造体13の歪分布に基づいて、CFD解析用の構造体13の解析モデルを、空力による構造体13の変形を反映したモデルとして作成することができる。その結果、構造体13が変形した場合に対応する構造体13の表面における圧力分布の制御値を求めることが可能となる。このため、構造体13の空力変形を考慮せずに構造体13の解析モデルを作成してCFD解析を行う場合に比べて、より正確に解析結果を得ることができる。
【0048】
構造体13の解析モデルは、空気の流れの制御対象となるエリアに合わせて作成することができる。例えば、主翼周りの空気の流れが制御対象であれば、主翼全体を模擬した解析モデルを作成することができる。また、動翼19周りの空気の流れのみが制御対象であれば、動翼19のみを模擬した解析モデルを作成するようにしてもよい。或いは、プラズマ・アクチュエータ20等のアクチュエータ18が取付けられる翼や胴体の取付位置周辺における限定的なエリアが空気の流れの制御対象となるエリアであれば、空気の流れの制御対象となるエリアに隣接する構造体13の部分を模擬した解析モデルを作成することもできる。
【0049】
構造体13の空力変形が反映された解析モデルが作成されると、作成された構造体13の解析モデルを対象とし、エア・データを解析条件とするCFD解析を実行することができる。これにより、目的とする空気の流れを形成するために適切な翼面又は胴体の表面における圧力分布を計算することができる。
【0050】
例えば、動翼19の補助装置として動翼19又は動翼19と連結される静翼25に取付けられたプラズマ・アクチュエータ20が制御対象であれば、プラズマ・アクチュエータ20が配置された部位における空気抵抗が最小となるようにCFD解析によって翼構造体13Aの翼面における圧力分布の制御値を設定することができる。
【0051】
一方、動翼19及び複数のプラズマ・アクチュエータ20の少なくとも一方を制御することによって、航空機2の姿勢を目的とする姿勢にすることが目的であれば、航空機2の姿勢を目的とする姿勢にするために最適となるようにCFD解析によって翼構造体13Aの翼面における圧力分布の制御値を設定することができる。より具体的な例として、航空機2の巡航中であれば、揚抗比を最大とするため圧力分布の制御値を設定することができる。また、航空機2が着陸する場合であれば、着陸に適した空気の圧力分布の制御値を設定することができる。
【0052】
尚、一旦CFD解析によって求めた、構造体13の歪分布及びエア・データに対応する構造体13の表面における圧力分布の制御値は、テーブルとして制御情報生成システム5に備えられる記憶装置55に保存しておくことができる。これにより、制御情報生成システム5は、記憶装置55に保存されたテーブルを参照するのみで、エア・データ取得システム3において取得されたエア・データ及び構造変形データ取得システム4において取得された構造体13の歪分布に基づいて、構造体13の表面における圧力分布の制御値を設定することが可能となる。
【0053】
従って、航空機2の飛行中には、解析モデルに対応する構造体13の部分周囲におけるエア・データと解析モデルに対応する構造体13の部分における歪分布がエア・データ取得システム3及び構造変形データ取得システム4によりそれぞれ取得できれば、記憶装置55に保存されたテーブルの参照又は解析モデルを用いたCFD解析によって、構造体13の表面における圧力分布の制御値を設定することができる。
【0054】
コンソール7は、入力装置56と、ディスプレイ57を備えた操作用の入出力装置である。コンソール7の操作によって、パイロット等のユーザは必要な指示情報を制御情報生成システム5に与えることができる。例えば、コンソール7の操作によって、制御情報生成システム5による流れ制御デバイス16の自動制御モードをONとOFFとの間で切換えることができる。すなわち、ユーザが制御情報生成システム5を手動で起動させるようにすることもできるし、航空機2の操縦システムを起動させた場合には、制御情報生成システム5も連動して起動するようにすることもできる。
【0055】
尚、航空機2が無人機である場合には、ユーザとなる無人機の操縦者が操作できるようにコンソール7を地上に設けてもよい。
【0056】
(航空機の制御方法)
次に制御システム1による航空機2の制御方法について説明する。
【0057】
図7は、
図1に示す制御システム1を用いて航空機2の流れ制御デバイス16を制御する流れを示すフローチャートである。
【0058】
まずステップS1において、エア・データ取得システム3及び構造変形データ取得システム4により、それぞれエア・データ及び構造体13の空力変形情報が取得される。
【0059】
すなわち、迎え角センサ9、圧力センサ10及び温度センサ11等のセンサ8によって検出された迎え角、静圧、全圧及び大気全温度等の検出データに基づいて、ADC12により、気圧高度、大気速度、マッハ数、大気温度、迎え角、空気密度及び気圧等のエア・データが求められる。求められたエア・データは、制御情報生成システム5に与えられる。
【0060】
一方、空力を受けることによって変形した構造体13の形状に対応する歪分布が複数の歪センサ14及び歪データ処理装置15において検出される。得られた構造体13の歪分布は、制御情報生成システム5に与えられる。
【0061】
次に、ステップS2において、制御情報生成システム5において流れ制御デバイス16の制御情報が生成される。すなわち、制御情報生成システム5では、エア・データ及び構造体13の歪分布に基づくCFD解析又は記憶装置55に保存されたテーブルの参照によって、構造体13の表面における圧力分布の制御値が求められる。
【0062】
例えば、プラズマ・アクチュエータ20が配置された翼構造体13Aの対象部位における空気抵抗が最小となるように翼構造体13Aの翼面における圧力分布の制御値を設定することができる。或いは、航空機2の姿勢を目的とする姿勢にするために最適となるように翼構造体13Aの翼面における圧力分布の制御値を設定することができる。
【0063】
次に、ステップS3において、制御情報生成システム5において生成された制御情報に基づく流れ制御デバイス16の制御が実行される。具体的には、構造体13の表面における圧力分布の制御値が制御情報生成システム5から流れ制御デバイス16のコントローラ17に与えられる。そうすると、コントローラ17は、構造体13の表面における圧力分布を制御値とするための流れ制御デバイス16の制御信号を生成し、生成した制御信号を流れ制御デバイス16に出力する。これにより、流れ制御デバイス16が動作し、構造体13の表面における圧力分布を制御値に近づけることができる。
【0064】
例えば、流れ制御デバイス16が動翼19であれば、動翼19の翼面における圧力分布を制御値に近づけるための適切な動翼19の迎角がコントローラ17において求められる。そして、動翼19の迎角を変化させるための電動式アクチュエータを駆動させるモータの回転数や油圧式アクチュエータを駆動させるための油圧ポンプの制御量がコントローラ17において制御信号として生成され、電気信号や油圧信号として動翼19のアクチュエータに出力される。これにより、アクチュエータの駆動によって動翼19の迎角が変化し、動翼19の翼面における圧力分布を制御値に近づけることができる。
【0065】
一方、流れ制御デバイス16がプラズマ・アクチュエータ20であれば、プラズマ・アクチュエータ20が取付けられた翼構造体13Aの翼面等における圧力分布を制御値に近づけるために交流電源24から第1の電極21と第2の電極22との間に印加される電圧の適切な印加条件がコントローラ17において求められる。そして、交流電源24から出力される交流電圧波形の制御値がコントローラ17において制御信号として生成され、電気信号として交流電源24に出力される。これにより、交流電源24からプラズマ・アクチュエータ20の第1の電極21と第2の電極22との間に適切な電圧波形を有する交流電圧が印加され、誘電体バリア放電によって交流電圧の電圧波形に応じた空気の流れを誘起することができる。
【0066】
尚、プラズマ・アクチュエータ20の第1の電極21と第2の電極22との間には、間欠的に交流電圧を印加することが効果的であることが知られている。交流電圧を印加する期間と、交流電圧を印加しない期間とを、周期的に繰返す波形はバースト波形と呼ばれ、バースト波形の周期はバースト周期と呼ばれる。従って、プラズマ・アクチュエータ20のコントローラ17では、連続波又はバースト波として印加される交流電圧の条件が決定される。
【0067】
他のアクチュエータ18についても、対応するコントローラ17において制御信号を生成し、アクチュエータ18が取付けられた部位における圧力分布を制御値に近づけるための制御を行うことができる。
【0068】
(効果)
以上のような航空機2の制御システム1及び制御方法は、動翼19や動翼19以外の空気の流れの制御をアクティブに行うアクチュエータ18等の流れ制御デバイス16を、航空機2に備えられるセンサで検出される空気に関連する物理量に基づいて自動制御できるようにしたものである。特に、航空機2の制御システム1及び制御方法によれば、エア・データのみならず、航空機2を構成する構造体13の空力変形を模擬した解析モデルのCFD解析処理によって、流れ制御デバイス16の最適制御を行うことができる。加えて、動翼19はもちろん、動翼19以外のプラズマ・アクチュエータ20等のアクチュエータ18についても空気の圧力分布を含むエア・データを最適化するフィードバック制御することができる。
【0069】
このため制御システム1及び制御方法によれば、より最適な空気の流れ制御を行うことができる。すなわち、構造体13の空力変形を模擬した解析モデルを対象としてCFD解析処理を行うことによって、より正確な流れ制御デバイス16の制御値を設定することが可能となる。また、動翼19のみならず、プラズマ・アクチュエータ20等のアクチュエータ18についても空気の圧力分布を含むエア・データを最適化するフィードバック制御を行うことによって、より最適な空気の流れ制御を行うことができる。
【0070】
(第2の実施形態)
図8は本発明の第2の実施形態に係る航空機の制御システムの構成図である。
【0071】
図8に示された第2の実施形態における航空機2の制御システム1Aでは、損傷検出システム60を設けた点と、制御情報生成システム5の詳細機能が第1の実施形態における制御システム1と相違する。第2の実施形態における制御システム1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態における制御システム1と実質的に異ならないため同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0072】
損傷検出システム60は、構造体13における損傷を検出することによって構造体13の健全性を診断するSHM(Structural Health Monitoring)システムである。損傷を検出するための手法は任意であるが、損傷検出システム60を超音波探傷検査によって損傷を検出するシステムとすることが損傷の検出感度や部品を共通化する観点から実用的である。超音波探傷検査によって損傷を検出する場合には、損傷検出システム60は、超音波振動子61、振動センサ62、信号生成回路63及び損傷検出回路64で構成することができる。
【0073】
超音波振動子61は、構造体13の検査対象エリアに向けて超音波を発振し、構造体13に超音波を伝播させるアクチュエータ等の素子である。振動センサ62は、構造体13の検査対象エリアで反射した超音波の反射波又は検査対象エリアを透過した超音波の透過波を検出するためのセンサである。信号生成回路63は、電気信号として送信信号を生成して超音波振動子61に印加する電気回路である。損傷検出回路64は、振動センサ62で検出された超音波の波形信号に基づいて損傷を検出する信号処理回路である。
【0074】
尚、振動センサ62は、音響センサとしての超音波振動子の他、超音波振動等を高周波の歪量の変化として検出するFBGセンサやPS−FBGセンサ等の光ファイバセンサ65で構成することができる。従って、構造変形データ取得システム4を構成する歪センサ14として光ファイバセンサ65を用いれば、歪センサ14として用いられる光ファイバセンサ65を振動センサ62としても用いることができる。すなわち、
図8に例示されるように、損傷検出システム60を構成する振動センサ62と、構造変形データ取得システム4を構成する歪センサ14の全部又は一部を共通の光ファイバセンサ65とすることができる。
【0075】
振動センサ62及び歪センサ14の少なくとも一方を光ファイバセンサ65とする場合には、光ファイバセンサ65にレーザ光を出射する光源66が各光ファイバセンサ65と接続される。振動センサ62は、歪センサ14と同様に、構造体13の検査対象エリアに適切な数だけ網羅することによって、位置の分解能を向上させることができる。すなわち、損傷の発生位置の検出精度を向上させることができる。
【0076】
振動センサ62の出力側には、損傷検出回路64が接続される。光ファイバセンサ65が振動センサ62及び歪センサ14を兼ねる場合には、損傷検出回路64と歪データ処理装置15についても共通の回路で構成し、同様な信号処理についても共通化することができる。尚、
図8に示す例では、光ファイバセンサ65の透過光が光信号として損傷検出回路64及び歪データ処理装置15に出力されるように光学系が構成されているが、光ファイバセンサ65の反射光が光信号として損傷検出回路64及び歪データ処理装置15に出力されるように光サーキュレータ等の光学素子を設けて光学系を構成してもよい。
【0077】
損傷検出回路64及び歪データ処理装置15に光ファイバセンサ65から光信号が出力される場合には、光信号を処理するための光学素子、光電変換回路及び電気回路等によって損傷検出回路64及び歪データ処理装置15を構成することができる。
【0078】
損傷検出回路64には、損傷が無い検査対象エリアを透過した超音波の透過波の波形又は損傷が無い検査対象エリアで反射した超音波の反射波の波形が基準波形として保存される。このため、検査対象エリアを透過した超音波の透過波の波形又は検査対象エリアで反射した超音波の反射波の波形を基準波形と比較することによって損傷の有無を判定することができる。すなわち、検査対象エリアを透過した超音波の透過波の波形又は検査対象エリアで反射した超音波の反射波の波形が損傷の影響を受けて変化したどうかを判定することによって、超音波の伝搬経路上における損傷の有無を検出することができる。
【0079】
より具体的には、損傷検出回路64において検出された超音波信号の波形と、基準波形との間における乖離量を表す最小2乗誤差、相互相関係数、ピーク時刻の差、最大値の差等の指標が閾値以上又は閾値を超えた場合に損傷が検査対象エリアに存在すると判定することができる。
【0080】
損傷が検出された場合には、損傷が存在する検査対象エリアの位置情報を制御情報生成システム5に通知することができる。そうすると、制御情報生成システム5では、構造体13において損傷が検出された場合には、損傷を構造体13を模擬した解析モデルの制約条件とするCFD解析処理によって構造体13の表面における圧力分布の制御値を設定することが可能となる。つまり、損傷を反映させた構造体13のCFD解析によって、構造体13の表面における圧力分布の制御値を設定することができる。このため、損傷を考慮した流れ制御デバイス16の制御が可能となる。
【0081】
特に、損傷検出回路64において、超音波振動子61から検査対象エリアに向けて超音波を発振したタイミングと、検査対象エリア内における損傷で反射した超音波の反射波が振動センサ62で検出されたタイミングとの間における時間を測定すれば、超音波の伝搬距離と音速に基づいて損傷の位置及びサイズを検出することができる。また、異なる複数の方向から検査対象エリアを伝搬する超音波の透過波を検出することによっても、どの方向から伝搬する超音波の透過波の波形が損傷の影響を受けて変化したのかを判定することによって、損傷のおおよその位置及びサイズを検出することができる。
【0082】
損傷検出システム60による超音波探傷検査によって損傷の位置及びサイズが検出される場合には、検出された損傷の位置及びサイズについても制御情報生成システム5に通知することができる。そうすると、制御情報生成システム5では、構造体13において損傷が検出された場合には損傷の位置及びサイズを構造体13の解析モデルの制約条件とするCFD解析処理によって構造体13の表面における圧力分布の制御値を設定することが可能となる。
【0083】
尚、超音波振動子61からの超音波の発振は、コンソール7の操作によって手動で行うことができるが、自動化することもできる。超音波の発振を手動で行う場合には、航空機2が雷撃を受けた場合や航空機2へのバードストライクが起きた場合のように、CFD解析の解析モデルとして模擬される構造体13に損傷が発生する可能性がある事象が発生した場合に、航空機2のパイロットや搭乗者或いは航空機2の遠隔操縦者等の制御システム1Aのユーザがコンソール7の操作によって構造体13の超音波探傷エリアに向けて超音波を発振させることができる。
【0084】
一方、超音波の発振を自動的に行う場合には、具体例として、予め設定されたスケジュールで断続的に超音波を発振することができる。或いは、雷撃を検出するシステムを航空機2に搭載し、雷撃が検出された場合には自動的に超音波が発振されるように雷撃検出システムと損傷検出システム60とを連動させるようにしてもよい。
【0085】
別の例として、歪データ処理装置15において取得された構造体13の歪分布を損傷検出回路64が取得し、構造体13の歪分布に対する特異点検出等のデータ処理によって損傷の疑いを自動検出できるようにすることもできる。そして、損傷の疑いが検出された場合には、損傷が生じた疑いがある検査対象エリアを対象として自動的に超音波探傷検査を実行することができる。すなわち、損傷検出回路64が信号生成回路63を制御することによって、損傷が生じた疑いがある検査対象エリアを対象として超音波を発振することが可能な超音波振動子61を自動的に駆動させることができる。
【0086】
また、超音波探傷検査のための超音波の発振は一時的であるにも関わらず、高周波信号を生成するために高電圧電源が必要となる。一方、プラズマ・アクチュエータ20を代表とする流れ制御デバイス16にも電源67として高電圧電源が備えられる場合がある。そこで、流れ制御デバイス16を動作させるための電源67から信号生成回路63に電力が供給されるように構成することができる。すなわち、共通の電源67から流れ制御デバイス16及び超音波を発振するための信号生成回路63の双方に電力を供給することができる。
【0087】
そうすると、超音波探傷検査を行う損傷検出システム60を航空機2に搭載する場合において、超音波の発振用の専用の高電圧電源を設ける場合に比べて航空機2の重量の増加を低減することができる。
【0088】
尚、流れ制御デバイス16を動作させるための電源67の最大出力は、通常、電源67に冗長性を付与する観点から必要な出力よりも大きくなるように決定される。このため、流れ制御デバイス16を動作させるための電源67を電力供給源として流れ制御デバイス16を動作させつつ一時的に超音波探傷検査も行えるようにすることができる。
【0089】
或いは、航空機2の構造体13が損傷を受けた場合又は損傷を受けた可能性がある場合には、流れ制御デバイス16の制御条件が変化した可能性がある。このため、航空機2の構造体13が損傷を受けた場合又は損傷を受けた可能性がある場合には、流れ制御デバイス16の動作を一旦停止させ、電源67から信号生成回路63への電力供給によって超音波を発振させるようにしてもよい。すなわち、電源67からの電力供給先を流れ制御デバイス16から損傷検出システム60の信号生成回路63に切換えることもできる。
【0090】
以上のような第2の実施形態における航空機2の制御システム1A及び制御方法は、航空機2を構成する構造体13の損傷を検出できるようにし、構造体13に損傷が検出された場合には、構造体13を模擬したCFD解析用の解析モデルにおいて損傷についても模擬するようにしたものである。
【0091】
このため、第2の実施形態における航空機2の制御システム1A及び制御方法によれば、構造体13が損傷した場合であっても、より適切な空気の流れが形成されるように、流れ制御デバイス16の最適制御を行うことができる。
【0092】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。