特許第6706247号(P6706247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大八化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6706247
(24)【登録日】2020年5月19日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】アルキルホスホン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/38 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   C07F9/38 Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-508302(P2017-508302)
(86)(22)【出願日】2016年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2016058626
(87)【国際公開番号】WO2016152747
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2019年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-62046(P2015-62046)
(32)【優先日】2015年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昌之
(72)【発明者】
【氏名】大條 正人
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04273768(US,A)
【文献】 米国特許第08323621(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0004209(US,A1)
【文献】 特開2010−024214(JP,A)
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,1945年,67,1180-1182
【文献】 WILT, Jeremy C., et al.,Chem. Commun.,2008年,(35),4177-4179
【文献】 KURTI, Laszlo, et al.,Strategic Applications of Named Reactions in Organic Synthesis,ELSEVIER,2005年,1st Edition,16-17,ISBN:0-12-429785-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】
(一般式(I)中、Rは、無置換のまたは置換基を有する炭素数1〜15のアルキル基を表す。)
で表わされるアルキルホスホン酸の製造方法であって、下記一般式(II):
【化2】
(一般式(II)中、Rの定義は、上記一般式(I)と同じである。R及びRは互いに独立して、炭素数1〜15のアルキル基または水素原子を表す。但し、R及びRの少なくとも一つは炭素数4〜15のアルキル基であり、R及びRは同時に水素原子でない。)
で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルに反応系内における液相の温度を125℃以上に保ちながらハロゲン化水素および水を添加して酸分解させることによって上記一般式(I)で表わされるアルキルホスホン酸を生成させる工程を含むアルキルホスホン酸の製造方法。
【請求項2】
上記一般式(I)および(II)におけるRが、無置換の炭素数1〜15のアルキル基である請求項1に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
【請求項3】
上記ハロゲン化水素および水の添加が、ハロゲン化水素水溶液の添加である請求項1または請求項2に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
【請求項4】
上記ハロゲン化水素の添加量が上記一般式(II)で表わされるアルキルホスホン酸アルキルエステルのアルコキシ基に対して1当量以上である請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
【請求項5】
上記ハロゲン化水素として、塩化水素を用いる請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
【請求項6】
上記添加された水により、副生したハロゲン化アルキルを系外に水蒸気蒸留しながら除去する請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
【請求項7】
上記一般式(II)で表わされるアルキルホスホン酸アルキルエステルを、下記一般式(III):
【化3】
(一般式(III)中、Rの定義は上記と同じであり、Xはハロゲン原子である)
で表されるハロゲン化アルキルと、下記一般式(IV):
【化4】
(一般式(IV)中、RおよびRの定義は上記と同じであり、Rは無置換のまたは置換基を有する炭素数1〜15のアルキル基である)
で表される亜リン酸エステルとを反応させて合成する工程を含む請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルホスホン酸の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、汎用化学反応設備で製造可能なアルキルホスホン酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルキルホスホン酸は下記一般式で表される化合物であり、難燃剤、金属抽出剤等に用いられる工業的に有用な化合物として広く知られている。
【0003】
【化1】
上記一般式中、Rはアルキル基を表す。
【0004】
従来、このようなアルキルホスホン酸の製造方法としては、アルキルホスホン酸ジアルキルを合成後、加水分解を行い、上記式で表されるアルキルホスホン酸を得るという方法が一般的である。特許文献1では、ベンジルホスホン酸ジエチルを塩酸で分解してベンジルホスホン酸を製造する方法が開示されている。しかし、この方法では大過剰の塩酸を用いる必要があり、また、反応を十分に完結させるためには長い反応時間を要する。
【0005】
特許文献2及び特許文献3には、フェニルホスホン酸ジアルキルエステル(但し、アルキルは、C1〜C10のアルキル基)を、特許文献4には、アルキルホスホン酸ジアルキルエステルを種々の酸及びアルカリ水溶液により分解し、フェニルホスホン酸もしくはアルキルホスホン酸を製造する方法が開示され、特許文献5では上記ホスホン酸モノブチルエステルをアルカリ水溶液により分解し、ブチルホスホン酸を製造する方法が開示されている。しかしながら、アルカリ水溶液で分解した場合には対応するホスホン酸の塩が生成するため、ホスホン酸を得るためには、該塩をさらに酸で処理する必要がある。よって酸で分解する場合と比較して工程数が増える分、経済的に不利となる。また、酸で分解する場合でも、これらの先行文献で示されている方法では、アルキルエステルのアルキル基(アルコキシ基:下記一般式(II)におけるR又はR)の炭素数が4以上であると、対応するジアシッド(水酸基を2つ有する)まで分解することが困難である。
【0006】
そこで、特許文献6において、硫酸などの不揮発性の酸の存在下、高温に保ちながらアルキルホスホン酸ジアルキルエステルに水蒸気を吹き込む方法によって、アルキルエステルのアルコキシ基の炭素数が4以上であっても高収率でアルキルホスホン酸(ジアシッド)が得られる改良方法が見出された。しかしながら、この製造方法を用いると、系外に排出される水蒸気と共に原料であるアルキルホスホン酸ジアルキルエステル自体も飛散してしまう場合があり、使用できるアルキルホスホン酸ジアルキルエステルが限られてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US2007/004937
【特許文献2】特開平11−193292号公報
【特許文献3】特開平11−279185号公報
【特許文献4】CN101429214
【特許文献5】DE2229087
【特許文献6】特開2010−024214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題を解決し、且つ、上記一般式のアルキル基Rが炭素原子数4付近の低級アルキル基であっても、原料のアルキルホスホン酸アルキルエステルのロスがなく、工業的に効率よくアルキルホスホン酸を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を克服するため数多くの反応条件の試行錯誤を行い、鋭意努力検討した結果、アルキルホスホン酸アルキルエステル(一般式(II)で表されるリン化合物)を、ハロゲン化水素および水を添加しながら酸分解を行うことで、R又はRが炭素数4以上のアルキルエステルの場合においても下記一般式(I)で表されるアルキルホスホン酸(ジアシッド)を高純度、高収率で得ることが可能となることを見出した。
【0010】
本発明におけるハロゲン化水素による一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルの分解は酸分解(後述)であり、反応生成物は、一般式(I)で表されるアルキルホスホン酸とハロゲン化アルキルとなる。上記先行技術文献等で記載されているハロゲン化水素酸以外の酸による分解は加水分解であり、反応生成物がホスホン酸とアルコールとなる点で本発明の酸分解と異なる。ハロゲン化水素による酸分解は加水分解よりも反応速度は速いものの、ハロゲン化水素は揮発性の酸であるため、従来法で高温を維持するとハロゲン化水素のロスが多くなる。そのため大過剰にハロゲン化水素を使用しなければならなかった。
【0011】
本発明の方法では、一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルの分解反応に必要なハロゲン化水素及び水を連続的又は間歇的に順次添加することで、該エステルに接触せしめることから反応系内に余分な水分が存在せず、常圧においても反応温度として必要な高温を確保できることや、反応温度が125℃以上であることから反応の進行がスムーズとなり、ハロゲン化水素を大過剰に用いることなく一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルを短時間で一般式(I)で表されるアルキルホスホン酸(ジアシッド)にまで分解できることを見出した。
【0012】
さらに、このような方法では分解反応と同時に水蒸気蒸留を行うのが好ましいが、これによる原料の一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルの飛散が抑えられ、分解により生成したハロゲン化アルキル類等の低沸点の不純物を、反応を行ないながら同時に回収することができ、一般式(I)で表される目的物であるアルキルホスホン酸(ジアシッド)の精製が容易であり、且つ、工業的に有利であることを見出した。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の各項のアルキルホスホン酸の製造方法を提供する。
【0013】
項1. 下記一般式(I):
【0014】
【化2】
(一般式(I)中、Rは、無置換のまたは置換基を有する炭素数1〜15のアルキル基を表す。)
で表わされるアルキルホスホン酸の製造方法であって、下記一般式(II):
【0015】
【化3】
(一般式(II)中、Rの定義は、上記一般式(I)と同じである。R及びRは互いに独立して、炭素数1〜15のアルキル基または水素原子を表す。但し、R及びRの少なくとも一つは炭素数4〜15のアルキル基であり、R及びRは同時に水素原子でない。)
で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルにハロゲン化水素および水を添加して酸分解させることによって上記一般式(I)で表わされるアルキルホスホン酸を生成させる工程を含むアルキルホスホン酸の製造方法。
【0016】
項2. 上記一般式(I)および(II)におけるRが、無置換の炭素数1〜15のアルキル基である項1に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
項3. 上記ハロゲン化水素および水の添加が、ハロゲン化水素水溶液の添加である項1または項2に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
項4. 反応系内における液相の温度を125℃以上に保ちながらハロゲン化水素および水を添加する項1乃至項3のいずれか1項に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
項5. 上記ハロゲン化水素の添加量が上記一般式(II)で表わされるアルキルホスホン酸アルキルエステルのアルコキシ基に対して1当量以上である項1乃至項4のいずれか1項に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
【0017】
項6. 上記ハロゲン化水素として、塩化水素を用いる項1乃至項5のいずれか1項に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
項7. 上記添加された水により、副生したハロゲン化アルキルを系外に水蒸気蒸留しながら除去する項1乃至項6のいずれか1項に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
項8. 上記一般式(II)で表わされるアルキルホスホン酸アルキルエステルを、下記一般式(III):
【0018】
【化4】
(一般式(III)中、Rの定義は上記と同じであり、Xはハロゲン原子である)
で表されるハロゲン化アルキルと、下記一般式(IV):
【0019】
【化5】
(一般式(IV)中、RおよびRの定義は上記と同じであり、Rは無置換のまたは置換基を有する炭素数1〜15のアルキル基である)
で表される亜リン酸エステルとを反応させて合成する工程を含む項1乃至項7のいずれか1項に記載のアルキルホスホン酸の製造方法。
項9. 上記一般式(II)で表わされるアルキルホスホン酸アルキルエステルを水の存在下にハロゲン化水素と接触させることを特徴とする一般式(I)で表わされるアルキルホスホン酸の製造方法。
項10. 項1乃至項9のいずれか1項に記載の方法で製造された一般式(I)で表わされるアルキルホスホン酸。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルの分解は、水の存在下においてハロゲン化水素との接触により行うため、例えば、塩基を用いて加水分解する従来例等と比較して、酸により中和する工程は必要なく、より少ない工程でアルキルホスホン酸を製造できる。
【0021】
また、好ましくは、反応系内の液相を高温(125℃以上)に保つ様にハロゲン化水素および水を連続的又は間歇的に順次添加することにより、分解反応に有利な高温かつ水分が存在している条件を維持でき、殆ど必要最小限度のハロゲン化水素の使用量で、短時間且つ効率的なアルキルホスホン酸アルキルエステルのアルキルホスホン酸への分解を行うことが出来る。
【0022】
さらに、副生したハロゲン化アルキル類を、連続的又は間歇的に順次添加する水またはハロゲン化水素水溶液中の水分により反応系外に水蒸気蒸留で留去しつつ、一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルを効率的に分解し得ることから目的物であるアルキルホスホン酸の精製を工業的に有利且つ容易に行うことができる。
このため本発明によれば、簡便に効率よく、しかも高収率で一般式(I)で表されるアルキルホスホン酸を工業的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明について、さらに詳しく以下に記述する。
本発明の上記一般式(I)で表されるアルキルホスホン酸の製造方法は、好ましくは、上記一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルを水の存在下、ハロゲン化水素と接触せしめ、酸分解させる工程を含む方法である。
【0024】
一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステル
本発明のアルキルホスホン酸の製造方法において分解反応を受けるリン化合物は、上記一般式(II)で表される化合物である。
上記一般式(II)中、Rはアルキル基を表す。
ここでいうアルキル基としては、分岐または直鎖状のアルキル基の制限はなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基(2,2−ジメチルプロピル基)、tert−ペンチル基(1,1−ジメチルプロピル基)、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、n−ヘプチル基、iso−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、1−プロピルブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,2−ジメチルペンチル基、1,3−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1−エチル−1−メチルブチル基、1−エチル−2−メチルブチル基、1−エチル−3−メチルブチル基、2−エチル−1−メチルブチル基、2−エチル−1−メチルブチル基、2−エチル−2−メチルブチル基、2−エチル−3−メチルブチル基、1,1−ジエチルプロピル基、n−オクチル基、iso−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、4−エチルヘキシル基、1−プロピルヘプチル基、2−プロピルヘプチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基などの炭素数1〜15のアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、1〜10がより好ましく、2〜8が更に好ましく、3〜6が特に好ましい。さらにこれらアルキル基中の水素原子の一部が後述するハロゲン化水素と反応不活性な官能基で置換されていても良い。ハロゲン化水素と反応不活性な官能基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基並びにアシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基等)などが挙げられる。置換されたアルキル基の置換基も含めた合計の炭素数は、2〜15が好ましく、2〜10がより好ましく、3〜8が更に好ましく、3〜6が特に好ましい。
【0025】
及びRは互いに独立して、炭素数1〜15の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基または水素原子を表す。好ましくは炭素数2〜10の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基または水素原子であり(R及びRは同時に水素原子でない。)、特に好ましくは炭素数3〜8の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。但し、R及びRの少なくとも一つが、好ましくは炭素数4以上の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。すなわち、R及びRの少なくとも一つが、好ましくは炭素数4〜15の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基であり、より好ましくは炭素数4〜10の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数4〜8の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。炭素数1〜15の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基(2,2−ジメチルプロピル基)、tert−ペンチル基(1,1−ジメチルプロピル基)、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、n−ヘプチル基、iso−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、1−プロピルブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,2−ジメチルペンチル基、1,3−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1−エチル−1−メチルブチル基、1−エチル−2−メチルブチル基、1−エチル−3−メチルブチル基、2−エチル−1−メチルブチル基、2−エチル−1−メチルブチル基、2−エチル−2−メチルブチル基、2−エチル−3−メチルブチル基、1,1−ジエチルプロピル基、n−オクチル基、iso−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、4−エチルヘキシル基、1−プロピルヘプチル基、2−プロピルヘプチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基などが挙げられる。
【0026】
上記一般式(II)で表される化合物のR、RおよびRは互いに独立して異なっていてもよいが、化合物の合成の容易性から、同一であることが好ましい。例えば、ジブチルブチルホスホネート、ジイソブチルイソブチルホスホネート、ジペンチルペンチルホスホネート、ジイソペンチルイソペンチルホスホネート、ビス(2−メチルブチル)2−メチルブチルホスホネート、ジネオペンチルネオペンチルホスホネート、ジヘキシルヘキシルホスホネート、ジイソヘキシルイソヘキシルホスホネート、ビス(2−メチルペンチル)2−メチルペンチルホスホネート、ビス(3−メチルペンチル)3−メチルペンチルホスホネート、ビス(2−エチルブチル)2−エチルブチルホスホネート、ビス(2,2−ジメチルブチル)2,2−ジメチルブチルホスホネート、ビス(2,3−ジメチルブチル)2,3−ジメチルブチルホスホネート、ジヘプチルヘプチルホスホネート、ジイソヘプチルイソヘプチルホスホネート、ビス(2−メチルヘキシル)2−メチルヘキシルホスホネート、ビス(3−メチルヘキシル)3−メチルヘキシルホスホネート、ビス(4−メチルヘキシル)4−メチルヘキシルホスホネート、ビス(2−エチルペンチル)2−エチルペンチルホスホネート、ビス(3−エチルペンチル)3−エチルペンチルホスホネート、ビス(2−エチル−2−メチルブチル)2−エチル−2−メチルブチルホスホネート、ビス(2−エチル−3−メチルブチル)2−エチル−3−メチルブチルホスホネート、ジオクチルオクチルホスホネート、ジイソオクチルイソオクチルホスホネート、ビス(2−メチルヘプチル)2−メチルヘプチルホスホネート、ビス(3−メチルヘプチル)3−メチルヘプチルホスホネート、ビス(4−メチルヘプチル)4−メチルヘプチルホスホネート、ビス(5−メチルヘプチル)5−メチルヘプチルホスホネート、ビス(2−エチルヘキシル)2−エチルヘキシルホスホネート、ビス(3−エチルヘキシル)3−エチルヘキシルホスホネート、ビス(4−エチルヘキシル)4−エチルヘキシルホスホネート、ビス(2−プロピルヘプチル)2−プロピルヘプチルホスホネートなどが挙げられる。
原料入手の容易さから、ジブチルブチルホスホネート、ジイソブチルイソブチルホスホネート、ジペンチルペンチルホスホネート、ジヘプチルヘプチルホスホネート、ジオクチルオクチルホスホネート、ビス(2−エチルヘキシル)2−エチルヘキシルホスホネートなどが、より好ましい。
【0027】
一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルの合成方法
本発明における一般式(II)で表されるアルキルホスホン酸アルキルエステルは、公知の方法または自体公知の方法で合成できる。具体的には、下記式のような亜リン酸エステルとハロゲン化アルキルのアルブゾフ反応による合成が一般的である。
【数1】
(式中、R〜RおよびXの定義は上記と同じである。)
【0028】
例えば、上記式のR, R2, R3およびRがn−ブチル基であり、Xが臭素原子の場合、反応に用いる一般式(III)の化合物の量は、一般式(IV)の化合物1molに対して、0.1〜1.5molであることが好ましく、更に好ましくは0.2〜1.0molであり、特に好ましくは0.3〜0.8molである。使用量がこの範囲内であれば、一般式(II)の化合物を収率良く得ることができる。
反応温度は、120〜200℃であることが好ましく、更に好ましくは130〜180℃であり、特に好ましくは140〜160℃である。反応温度がこの範囲内であれば、反応を速やかに進行させることができる。
反応時間は、8〜24時間であることが好ましく、更に好ましくは9〜20時間であり、特に好ましいのは10〜15時間である。反応時間がこの範囲内であれば反応が充分に完結できる。
【0029】
一般式(IV)で表される亜リン酸エステル
本発明における上記一般式(II)のアルキルホスホン酸アルキルエステルを合成するための原料として、上記一般式(IV)の亜リン酸エステルが使用される。
上記一般式(IV)中、R及びRは互いに独立して、炭素数1〜15の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基または水素原子を表す。好ましくは炭素数2〜10の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基または水素原子であり(R及びRは同時に水素原子でない。)、特に好ましくは炭素数3〜8の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。但し、R及びRの少なくとも一つが、好ましくは炭素数4以上の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。すなわち、R及びRの少なくとも一つが、好ましくは炭素数4〜15の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基であり、より好ましくは炭素数4〜10の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数4〜8の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。Rは、炭素数1〜15の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基を表す。好ましくは炭素数2〜10の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数3〜8の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。炭素数1〜15の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基(2,2−ジメチルプロピル基)、tert−ペンチル基(1,1−ジメチルプロピル基)、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、n−ヘプチル基、iso−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、1−プロピルブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,2−ジメチルペンチル基、1,3−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1−エチル−1−メチルブチル基、1−エチル−2−メチルブチル基、1−エチル−3−メチルブチル基、2−エチル−1−メチルブチル基、2−エチル−1−メチルブチル基、2−エチル−2−メチルブチル基、2−エチル−3−メチルブチル基、1,1−ジエチルプロピル基、n−オクチル基、iso−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、4−エチルヘキシル基、1−プロピルヘプチル基、2−プロピルヘプチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基などが挙げられる。
上記一般式(IV)で表される化合物のR2、 R3およびRは互いに独立して異なっていてもよいが、化合物の合成の容易性から、同一であることが好ましい。例えば、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリイソブチル、亜リン酸トリペンチル、亜リン酸トリイソペンチル、亜リン酸トリス(2−メチルブチル)、亜リン酸トリネオペンチル、亜リン酸トリヘキシル、亜リン酸トリイソヘキシル、亜リン酸トリス(2−メチルペンチル)、亜リン酸トリス(3−メチルペンチル)、亜リン酸トリス(2−エチルブチル)、亜リン酸トリス(2,2−ジメチルブチル)、亜リン酸トリス(2,3−ジメチルブチル)、亜リン酸トリヘプチル、亜リン酸トリイソヘプチル、亜リン酸トリス(2−メチルヘキシル)、亜リン酸トリス(3−メチルヘキシル)、亜リン酸トリス(4−メチルヘキシル)、亜リン酸トリス(2−エチルペンチル)、亜リン酸トリス(3−エチルペンチル)、亜リン酸トリス(2−エチル−2−メチルブチル)、亜リン酸トリス(2−エチル−3−メチルブチル)、亜リン酸トリオクチル、亜リン酸トリイソオクチル、亜リン酸トリス(2−メチルヘプチル)、亜リン酸トリス(3−メチルヘプチル)、亜リン酸トリス(4−メチルヘプチル)、亜リン酸トリス(5−メチルヘプチル)、亜リン酸トリス(2−エチルヘキシル)、亜リン酸トリス(3−エチルヘキシル)、亜リン酸トリス(4−エチルヘキシル)、亜リン酸トリス(2−プロピルヘプチル)などが挙げられる。
原料入手の容易さから、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリイソブチル、亜リン酸トリペンチル、亜リン酸トリヘプチル、亜リン酸トリオクチル、亜リン酸トリス(2−エチルヘキシル)などが、より好ましい。
【0030】
一般式(IV)で表される亜リン酸エステルは、公知の方法または自体公知の方法で合成できる。
【0031】
酸分解
本発明は、一般式(II)の化合物を酸分解することで一般式(I)の化合物を得る製法である。本発明における酸分解とは、酸を触媒にした加水分解反応ではなく、酸とアルコキシ基とが反応して分解することをいう。用いられる酸としては、例えば塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素が好ましい。ハロゲン化水素であれば他の酸より、本発明の酸分解が進行し易く、反応としては下記反応式のように進行する。

P−OR + HX → P−OH + RX
(式中、Rはアルキル基であり、Xはハロゲン基である。)

本発明の酸分解は、水の存在下において効率よく分解できる。理由は定かではないが、水の存在が反応の促進に何らかの寄与をしていると思われる。
【0032】
分解反応温度
本発明における酸分解反応は、125℃以上の反応温度で行うことができる。
上記温度条件を満たし、水の存在下において、アルキルホスホン酸アルキルエステルとハロゲン化水素とを接触させる方法としては、反応系内における液相を125℃以上に保持しながら、ハロゲン化水素および水を連続的又は間歇的に順次添加することが好ましい。すなわち、上記一般式(II)で表されるリン化合物(アルキルホスホン酸アルキルエステル)の温度を125℃以上とし、温度を保持しながら、該化合物にハロゲン化水素および水を連続的又は間歇的に順次添加することで分解反応を行うことが好ましい。ハロゲン化水素および水の添加中における反応系内の液相温度は、好ましくは125〜170℃であり、さらに好ましくは130〜160℃である。上記の温度範囲であれば分解反応が速やかに進行するため、合理的な時間内に反応を完結できる(例えば、実施例参照。)。
【0033】
ハロゲン化水素および水の添加
反応系中へのハロゲン化水素および水の添加は、ハロゲン化水素と水を別々に添加しても、ハロゲン化水素の水溶液として添加しても良い。但し、水の存在下において、アルキルホスホン酸アルキルエステルとハロゲン化水素を接触させることで効率よく分解できることから、ハロゲン化水素と水を別々に添加する場合は、各々を追加するタイミングが必ずしも同時である必要はないが、少なくとも両方が同時に添加している時間が存在していることが好ましい。その時間は長ければ長いほど良い。作業の効率などを考慮すると、添加時間の全てにおいて両方を同時に添加する方法が好ましく、特に好ましいのはハロゲン化水素水溶液として添加することである。
【0034】
ハロゲン化水素の添加量の合計は、分解されるアルキルホスホン酸アルキルエステルのアルコキシ基に対してハロゲン化水素が1当量以上となる量を添加すればよい。更に好ましくは1.1当量以上であり、特に好ましくは1.2当量以上である。
ハロゲン化水素の添加量の上限は特に限定されるものではないが、生産効率およびコストなどを考慮すると2当量以下が好ましく、1.8当量以下が更に好ましく、1.6当量以下が特に好ましい。ここでいう1当量とは、たとえば、アルコキシ基1molに対してハロゲン化水素が1molとなる量を表す。
【0035】
水の添加量の合計は特に限定はされない。反応系内における液相の温度が低下しないように水を添加した場合に、ハロゲン化水素の添加時間とほぼ同等の時間を要する量を添加すればよい。
【0036】
本発明に使用可能なハロゲン化水素の具体例としては、例えば、弗化水素、塩化水素、臭化水素等が挙げられる。中でも、コストや入手の容易さなどの面から塩化水素が好ましい。
【0037】
ハロゲン化水素水溶液
本発明においてハロゲン化水素水溶液を添加する場合は、その濃度は特に限定はされない。添加する水溶液中のハロゲン化水素の合計量が、分解するアルキルホスホン酸エステルのアルコキシ基に対して1当量以上となればよいのであって、濃度が高ければ水溶液の使用量が少なくなり、濃度が低ければ水溶液の使用量が多くなる。たとえば塩化水素の場合、生産における効率およびコストなどを考慮すると、塩化水素の濃度は20〜36重量%が好ましく、25〜35.5重量%が更に好ましく、30〜35重量%が特に好ましい。
【0038】
ハロゲン化水素の添加時間
本発明の製造方法におけるハロゲン化水素の添加時間は、反応基質の種類や量および上記した分解反応温度などにより、上述の条件を満たすように適宜設定すればよいが、通常約1〜100時間、好ましくは約3〜50時間、特に好ましくは約4〜30時間とすればよい。
【0039】
反応圧力
本発明における反応は、常圧、減圧又は加圧下で行うことができるが、汎用設備で反応を行なうことができることから、常圧で行うことが好ましい。
【0040】
精製
本発明においては、分解反応で副生したハロゲン化アルキル類を、順次添加する水またはハロゲン化水素水溶液中の水分を利用する水蒸気蒸留で、該水蒸気蒸留は常套手段により行われ、好ましくは、絶えず反応系外に排出しつつ、回収設備で回収しながら、効率的にアルキルホスホン酸アルキルエステルの分解反応を行なうことができる。よって、分解工程と生成したハロゲン化アルキル類の回収工程とを分けて行う必要はなく、工程数が少なくなるので工業的に有利である。
【0041】
分解反応後の処理方法は、目的化合物の性状に適した方法を選択して行えばよい。例えば、目的化合物が固体の場合は反応終了液を冷却して固体を析出させる。析出した固体を集めて、乾燥させることにより目的とするアルキルホスホン酸が得られる。
【0042】
さらに、必要に応じて、アルキルホスホン酸を精製する工程を加えることができる。精製方法は特に限定されず、例えば、水や有機溶媒を用いて、再結晶法により生成したアルキルホスホン酸の純度を向上させることが出来る。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0044】
測定機器および測定条件
実施例等で用いた測定機器および測定条件は下記の通りである。
(リン31核磁気共鳴スペクトル;31P―NMR)
機器:JNM−ECS−400(日本電子株式会社製)
測定条件:
積算回数 32回
測定温度 室温
測定範囲 −10〜40ppm
サンプル量 0.5g/700μL(DMSO−6D)
内部標準:85%リン酸
【0045】
(ガスクロマトグラフィー;GC)
機器:GC−2010(株式会社島津製作所製)
カラム:DB−1(アジレント・テクノロジー株式会社製)
内径 0.32mm
長さ 30m
膜厚 0.25μm
測定条件:
カラム温度 40℃で3分間保持した後、20℃/分にて280℃まで昇温し、280℃で5分間保持
インジェクション 280℃
ディテクション 280℃
全流量 95.4mL/min
スプリット比 58.0
検出器 FID
サンプル量 0.2g/25ml(アセトニトリル)
打ち込み量 0.5μL
【0046】
ブチルホスホン酸ジブチルエステルの分解反応における分解率の求め方
反応混合物を31P―NMRで上記条件により測定すると、ブチルホスホン酸、ブチルホスホン酸モノブチルエステルおよびブチルホスホン酸ジブチルエステル各々由来のピークが下記範囲に検出される。
ブチルホスホン酸由来のピーク 28.8〜29.3ppm
ブチルホスホン酸モノブチルエステル由来のピーク 30.0〜30.4ppm
ブチルホスホン酸ジブチルエステル由来のピーク 31.8〜32.4ppm
【0047】
各々由来のピーク積分値を下記のように定義する。
ブチルホスホン酸由来のピーク積分値 A
ブチルホスホン酸モノブチルエステル由来のピーク積分値 B
ブチルホスホン酸ジブチルエステル由来のピーク積分値 C
【0048】
各化合物のモル分率は下記計算式により求められる。
ブチルホスホン酸のモル分率(a)=A/(A+B+C)
ブチルホスホン酸モノブチルエステルのモル分率(b)=B/(A+B+C)
ブチルホスホン酸ジブチルエステルのモル分率(c)=C/(A+B+C)
更にブチルホスホン酸ジブチルエステルの分解率は下記式により求められる。
分解率(%)=a+b×0.5+c×0
【0049】
ブチルホスホン酸の純度の求め方
本発明で得られたブチルホスホン酸を31P―NMRによって、内部標準の85%リン酸を用いない以外は上記条件により測定すると、ブチルホスホン酸、ブチルホスホン酸モノブチルエステル、ブチルホスホン酸ジブチルエステル、亜リン酸およびリン酸の各々由来のピークが下記範囲に検出される。
ブチルホスホン酸由来のピーク 28.8〜29.3ppm
ブチルホスホン酸モノブチルエステル由来のピーク 30.0〜30.4ppm
ブチルホスホン酸ジブチルエステル由来のピーク 31.8〜32.4ppm
亜リン酸由来のピーク −0.20〜−0.18ppm
リン酸由来のピーク −0.02〜0.02ppm
【0050】
各々由来のピーク積分値を下記のように定義する。
ブチルホスホン酸由来のピーク積分値 A
ブチルホスホン酸モノブチルエステル由来のピーク積分値 B
ブチルホスホン酸ジブチルエステル由来のピーク積分値 C
亜リン酸由来のピーク積分値 D
リン酸由来のピーク積分値 E
【0051】
ブチルホスホン酸の純度は下記式により求められる。
ブチルホスホン酸純度(%)=A×100/(A+B+C+D+E)
【0052】
製造例1(亜リン酸トリブチルの合成)
2mの反応容器に、n−ブタノール182.3kg(2.46kmol)、トリブチルアミン452.9kg、トルエン319.4kgを仕込んだ。そして、容器内の混合物の温度を75℃以下に保ちつつ、三塩化燐109.8kg(0.80kmol)を4.5時間かけて添加した。三塩化燐の添加終了後、温度を65℃〜75℃に保ちつつ1時間撹拌した。その後、30℃まで冷却し、容器内に蓚酸2.0kg及び水400.0kgを添加して10分間撹拌を行った。撹拌停止後、静置分離を行い、得られた有機相を水洗いした後、減圧蒸留にてトルエンを除去した。その結果、亜リン酸トリブチル188.2kgが得られた。
【0053】
実施例1(ブチルホスホン酸ジブチルエステルの合成)
0.2mの反応容器に、製造例1で得られた亜リン酸トリブチル87.5kg(0.35kmol)及び1−臭化ブタン23.3kg(0.17kmol)を仕込み、容器内の混合物の温度を150℃まで加熱した後、温度を145〜150℃に保ちつつ12時間撹拌した。その後、減圧蒸留により1−臭化ブタンを回収した。その後、容器内の混合物の温度を30℃まで冷却し、35重量%塩酸(塩化水素水溶液)2.4kg、水44.2kgを添加して、常圧下にて10分間撹拌を行った。撹拌停止後、静置分離し、得られた有機相を水洗いした後、30重量%水酸化ナトリウム水溶液3.6kg、水44.2kgを追加して5分間撹拌を行い静置分離した。更に、得られた有機相を水洗いした後、減圧蒸留で脱水を行った結果、ブチルホスホン酸ジブチルエステル76.5kgを得た。
【0054】
(ホスホン酸の合成)
実施例2
500mLの反応容器に実施例1で得られたブチルホスホン酸ジブチルエステル250.0gを入れ、150℃まで加熱し、容器内の混合物の温度を145〜155℃に保ちつつ、35重量%塩酸286.8g(1.38当量)を5.5時間かけて添加した。塩酸の添加終了後に、ブチルホスホン酸ジブチルエステルのブトキシ基の分解率を前記方法で求めたところ、99.4%〔ブチルホスホン酸:ブチルホスホン酸モノブチルエステル:ブチルホスホン酸ジブチルエステル=98.8:1.2:0(モル分率)〕となっていた。更に、温度を145℃〜155℃に保ちつつ1時間撹拌した。上記反応の際、反応系外に出てくる水及び分解反応で生成したブチルクロライドなどは、冷却器付ガラス製フラスコで回収しながら反応を行った。その後、減圧蒸留にて脱水を行った。脱水後、得られた粗ブチルホスホン酸と同量のトルエンを用い晶析した結果,ブチルホスホン酸130.8g(得率94.8%:純度99.0%)を得た。
【0055】
実施例3
500mLの反応容器に実施例1で得られたブチルホスホン酸ジブチルエステル250.0gを入れ、150℃まで加熱し、容器内の混合物の温度を145〜155℃に保ちつつ、35重量%塩酸208.4g(1.00当量)を5.5時間かけて添加した。塩酸の添加終了後に、ブチルホスホン酸ジブチルエステルのブトキシ基の分解率を前記方法で求めたところ、91.3%〔ブチルホスホン酸:ブチルホスホン酸モノブチルエステル:ブチルホスホン酸ジブチルエステル=82.6:17.4:0(モル分率)〕になっていた。
【0056】
実施例4
35重量%塩酸の添加量を208.4gから260.5g(1.25当量)に変更する以外は実施例3と同様の操作を行い、ブチルホスホン酸ジブチルエステルのブトキシ基の分解率を前記方法で求めたところ、97.0%〔ブチルホスホン酸:ブチルホスホン酸モノブチルエステル:ブチルホスホン酸ジブチルエステル=94:6:0(モル分率)〕になっていた。
【0057】
実施例5
35重量%塩酸の添加量を208.4gから312.5g(1.50当量)に変更する以外は実施例3と同様の操作を行い、ブチルホスホン酸ジブチルエステルのブトキシ基の分解率を前記方法で求めたところ、99.5%〔ブチルホスホン酸:ブチルホスホン酸モノブチルエステル:ブチルホスホン酸ジブチルエステル=99:1:0(モル分率)〕になっていた。
【0058】
実施例6
塩酸の添加前の昇温温度を150℃から140℃へ、添加時の温度を145〜155℃から135〜145℃に変更する以外は実施例5と同様の操作を行い、ブチルホスホン酸ジブチルエステルのブトキシ基の分解率を前記方法で求めたところ、96.2%〔ブチルホスホン酸:ブチルホスホン酸モノブチルエステル:ブチルホスホン酸ジブチルエステル=92.4:7.6:0(モル分率)〕になっていた。
【0059】
比較例1
塩酸の添加前の昇温温度を150℃から120℃へ、添加時の温度を145℃
〜155℃から115〜125℃に変更する以外は実施例3と同様の操作を行い、ブチルホスホン酸ジブチルエステルのブトキシ基の分解率を前記方法で求めたところ、80.4%〔ブチルホスホン酸:ブチルホスホン酸モノブチルエステル:ブチルホスホン酸ジブチルエステル=60.7:39.3:0(モル分率)〕であって、まだ充分に分解されていなかった。
【0060】
比較例2
500mLの反応容器に実施例1で得られたブチルホスホン酸ジブチルエステル100.0g及び20重量%塩酸300.0g(2.06当量)を入れ、容器内の混合物を加熱し、105〜108℃で還流させた。その際、反応系外に出てくる水及び分解反応で生成したブチルクロライドなどは、デカンターを用い、水相のみを還流させた。還流15時間後、デカンター内のブチルクロライドの増加が無くなったため反応を終了した。容器内の混合物を31P―NMRにて分析を行い、ブチルホスホン酸ジブチルエステルのブトキシ基の分解率を前記方法で求めたところ、80.4%〔ブチルホスホン酸:ブチルホスホン酸モノブチルエステル:ブチルホスホン酸ジブチルエステル=60.7:39.3:0(モル分率)〕であって、まだ充分に分解されていなかった。
【0061】
比較例3
500mLの反応容器に実施例1で得られたブチルホスホン酸ジブチルエステル250.0g及び98%硫酸1.25gを入れ、容器内の混合物の温度を160℃まで昇温した後、水蒸気を吹き込みながら150℃〜160℃の温度を9時間保持した。この際、反応系外に出てくる水及び分解反応で生成したブタノールなどは、冷却器付ガラス製フラスコで回収しながら反応を行った。その後、150℃、15mmHgの条件にて脱水を行った後、得られた粗ブチルホスホン酸と同量のトルエンを用い晶析した結果,得られたブチルホスホン酸は20.0g(得率14.5%)だけであった。
【0062】
前記冷却器付ガラス製フラスコ内の回収物の有機相をガスクロマトグラフィーで前記条件により分析したところ、多量のブチルホスホン酸ジブチルエステルが検出され、本製法では原料であるブチルホスホン酸ジブチルエステル自体も反応系外に飛散してしまうことが確認された。
【0063】
実施例2〜6および比較例1、2における分解反応の条件およびブチルホスホン酸ジブチルエステルの分解率を表1に表す。
【0064】
【表1】
※塩化水素順次添加法:反応系内に塩化水素水溶液を順次添加していく方法
塩化水素還流法:反応前に、仕込量の塩化水素水溶液を予め全量加えてから還流させ、反応する方法
【0065】
上記実施例2〜6の条件であれば、ブチルホスホン酸ジブチルエステルの分解率が90%以上となっており、比較例1および2の分解率80%(ブチルホスホン酸の比率約60mol%)よりも充分に分解されていることが分かる。なお、実施例1〜6が比較例1及び比較例2よりも、より好ましい実施態様である。
【0066】
また、比較例3すなわち特許文献6に記載の条件においては、分解反応中に原料であるブチルホスホン酸ジブチルエステル自体が反応系外に飛散してしまい、効率が悪く、工業的製法としては不充分であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のアルキルホスホン酸の製造方法を用いることにより、アルキルホスホン酸の効率的な製造が可能となる。このため、本発明の製造方法は、アルキルホスホン酸を工業的に製造する際に有用である。